説明

一方向に配向した繊維構造体の形成方法

高強度繊維で形成された一方向に配向した繊維構造体の形成方法。高強度繊維からなる一方向に配向した複数の糸を用意する。その糸に約5から約600センチポイズの粘度を有する液体を被覆し、張力をかける。その糸を繊維拡幅装置に通し、乾燥する。繊維拡幅装置の通過後、その糸の厚さが減少して幅が増加すると共に糸を形成する繊維がバラバラに拡げられ、その結果、比較的薄型の一方向に配向した繊維構造体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向に配向した繊維を含む繊維構造体の形成方法ならびにそのような繊維構造体に基づく複合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な一方向に配向した繊維構造体が知られている。これらの構造体は、全体として同一平面関係で延在する複数の共通に整列した繊維を含む。高強度繊維で形成されたそのような構造体は、防弾(ballistic)、構造及び他の用途で非常に多く利用されている。1つの典型的な構造体では、複数の配向した繊維構造体は、隣接するプライ(ply)が互いに角度をなして配向した多層複合体に形成される。2つ以上の隣接するプライを貼り合わせて、複数のそのような貼り合わせられたプライを複合構造体に形成してもよい。
【0003】
配向した繊維構造体には、典型的にはマトリックス樹脂を被覆又は含浸する。そのマトリックス樹脂は、熱可塑性、熱硬化性又はエラストマー材料であってもよい。そのような複合構造体は、防弾ベスト(body vest)や構造用パネル等の防弾製品で使用され成功を収めている。
【0004】
均一性が向上し、その結果、防弾特性又は構造特性を向上させることができる一方向に配向した繊維構造体を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0005】
本発明によれば、高強度繊維を含む一方向に配向した繊維構造体の形成方法であって、
(a)複数の高強度繊維を含み、互いに一方向に配置された複数の糸を用意する工程と;
(b)該糸に約5から約600センチポイズの粘度を有する液体を被覆する工程と;
(c)該糸に張力をかける工程と;
(d)該糸を繊維拡幅装置(fiber spreading device)に通す工程と;
(e)該糸を乾燥する工程と、を含み、
これにより、該繊維拡幅装置の通過後、該糸の厚さが減少して幅が増加し、該糸を形成する該繊維がバラバラに拡げられることにより比較的薄型の一方向に配向した繊維構造体を得る、方法が提供される。
【0006】
また、本発明によれば、一方向に配向した高強度繊維からなる少なくとも1つの層を含む複合繊維構造体の形成方法であって、
(a)複数の高強度繊維を含み、互いに一方向に配置された複数の糸を用意する工程と;
(b)該糸に約5から約600センチポイズの粘度を有する液体を被覆する工程と;
(c)該糸に張力をかける工程と;
(d)該糸を繊維拡幅装置に通す工程と;
(e)該糸を乾燥する工程と、を含み、
これにより、該繊維拡幅装置の通過後、該糸の厚さが減少して幅が増加し、該糸を形成する該繊維がバラバラに拡げられることにより比較的薄型の一方向に配向した繊維構造体を得る工程と;
(f)該比較的薄型の繊維構造体を別の繊維構造体に貼り付ける工程と、
を含む方法が提供される。
【0007】
さらに、本発明によれば、高強度繊維を含む一方向に配向した糸の形成方法であって、
(a)複数の高強度繊維を含む糸を用意する工程と;
(b)該糸に約5から約600センチポイズの粘度を有する液体を被覆する工程と;
(c)該糸に張力をかける工程と;
(d)該糸を繊維拡幅装置に通す工程と;
(e)該糸を乾燥する工程と、を含み、
これにより、該繊維拡幅装置の通過後、該糸の厚さが減少して幅が増加し、該糸を形成する該繊維がバラバラに拡げられる、方法が提供される。
【0008】
本発明は、任意の所望の用途のためにより均一な複合製品を提供するためのより均一な繊維テープ材料の形成方法を提供する。該糸中の該繊維の拡がりを向上させるためには該液体の粘度が大きな要因であることを見出した。該繊維を拡げることによって、該一方向に配向した繊維構造体がより薄型となる、というのは、糸中の繊維同士の重なりが少ないからである。その結果、同一平面上にない繊維の数が減少した繊維テープ製品が得られ、より薄型の製品が提供される。
【0009】
一方向プリプレグから作製された多くの製品は、様々な角度で交差して貼り合わせられた多層のプリプレグから作製されているため、最終製品の均一性は一方向の被覆又は含浸されたテープの均一性と関連している。さらに、いくつかの最終製品は、最終複合製品中の層をさらに重ねることによって強化されている。繊維の拡がりが大きくなる程、該層は薄型となり、それにより所定の重量の最終複合製品中の層の数が増加する。この要素は、防弾等の用途では多層複合構造体の防弾性能を向上させるために重要である。
【0010】
本発明の好適な態様の以下の詳細な説明及び添付の図面を参照することにより、本発明はより完全に理解され、さらなる利点が明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、一方向に配向した繊維構造体の製造方法の概略図である。
【図2】図2は、粘度に対するアラミド糸の繊維の拡がりを示すグラフである。
【図3】図3は、粘度に対する高分子量ポリエチレン糸の繊維の拡がりを示すグラフである。
【図4】図4は、粘度に対するPBO糸の繊維の拡がりを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の目的のためには、繊維は、長さ寸法が幅及び厚さという横方向寸法よりもはるかに大きい長尺体である繊維である。従って、「繊維」という用語は、規則的または不規則な断面を有するモノフィラメント、マルチフィラメント、リボン、ストリップ、ステープル及び他の形態の短繊維(チョップト又はカット繊維)あるいは不連続繊維等を含む。「繊維」という用語は上記のいずれかの複数又はその組み合わせを含む。糸は、多くの繊維又はフィラメントからなる連続ストランドである。本発明で使用される糸は、好ましくは少しも捩れても絡み合ってもいない。
【0013】
本発明で有用な繊維の断面は大幅に異なっていてもよい。これらの断面は円形、平坦又は長方形であってもよい。また、これらの断面は、繊維の直線軸又は縦軸から突出する1つ又は複数の規則的又は不規則な葉部(lobe)を有する不規則又は規則的な多葉(multi-lobal)断面であってもよい。繊維の断面は、実質的に円形、平坦又は長方形であることが好ましく、繊維の断面が実質的に円形であることが最も好ましい。
【0014】
本発明で使用する「高強度繊維」という用語は、引張強度(tenacity)が約7g/d以上の繊維を意味する。好ましくは、これらの繊維のASTM D2256に準拠して測定した初期引張弾性率(initial tensile modulus)は少なくとも約150g/dであり、破壊エネルギー(energies-to-break)は少なくとも約8J/gである。本発明で使用する「初期引張弾性率」、「引張弾性率」及び「弾性率(modulus)」という用語は、糸についてはASTM 2256に準拠して、エラストマー又はマトリックス材料についてはASTM D638に準拠して測定した弾性率を意味する。
【0015】
好ましくは、高強度繊維の引張強度は、約10g/d以上、より好ましくは約16g/d以上、さらにより好ましくは約22g/d以上、最も好ましくは約28g/d以上である。
【0016】
繊維層に有用な糸は、任意の適当なデニール、例えば、約50デニールから約3000デニール、より好ましくは約75から約2000デニールであってもよい。さらにより好ましくは、糸は、約200から約2000デニール、より好ましくは約650から約1500デニールである。最も好ましくは、糸は、約650から約1500デニールである。この選択は、防弾効率及び費用を考慮して決定される。より細い糸は製造費用がより高くなるが、単位重量当たりの防弾効果をより高めることができる。
【0017】
糸を構成する繊維の数は大幅に異なっていてもよく、糸の所望のデニールによって決定してもよい。糸は、約30から約2000本の繊維、より好ましくは約90から約2000本の繊維、最も好ましくは約120から約2000本の繊維で形成してもよい。最も好ましくは、繊維はモノフィラメントの形態である。
【0018】
本発明の糸及び布に有用な高強度繊維としては、高配向高分子量ポリオレフィン繊維、特に高弾性ポリエチレン繊維及びポリプロピレン繊維、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール(PBO)及びポリベンゾチアゾール(PBT)等のポリベンザゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、液晶コポリエステル繊維、ガラス繊維、炭素繊維あるいは玄武岩繊維又は他の鉱物繊維、及び剛直棒状高分子繊維、及びそれらの混合物及びブレンドが挙げられる。本発明で有用な好ましい高強度繊維としては、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維ならびにその混合物及びブレンドが挙げられる。高分子量ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維ならびにそれらのブレンド及び混合物が最も好ましい。糸は1種類の繊維又は2種類以上の繊維のブレンドを含んでいてもよい。さらに、繊維構造体を形成する糸は同一又は異なる種類であってもよい。
【0019】
米国特許第4,457,985号には、全体としてそのような高分子量ポリエチレン及びポリプロピレン繊維について開示されており、その開示内容は本発明と矛盾しない範囲で参照によって本明細書に組み込まれる。ポリエチレンの場合、適当な繊維は、重量平均分子量が少なくとも約150,000、好ましくは少なくとも約100万、より好ましくは約200万から約500万である。そのような高分子量ポリエチレン繊維は溶液紡糸してもよいし(米国特許第4,137,394号及び第4,356,138号を参照)、溶液からフィラメントを紡糸してゲル構造体を形成してもよいし(米国特許第4,413,110号、ドイツ特許第3,004,699号及び英国特許第2051667号を参照)、ポリエチレン繊維を圧延延伸法によって作製してもよい(米国特許第5,702,657号を参照)。本発明で使用するポリエチレンという用語は主に直鎖ポリエチレン材料を意味し、直鎖ポリエチレン材料は、主鎖の炭素原子100当たりの修飾単位が約5以下である少量の鎖の枝分かれ又はコモノマーを含んでいてもよく、また、約50重量%以下の1種又は複数のポリマー添加剤、例えば、アルケン−1−ポリマー、特に低密度ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリブチレン、主モノマーとしてモノオレフィンを含有する共重合体、酸化ポリオレフィン、グラフトポリオレフィン共重合体及びポリオキシメチレン、又は低分子量添加剤、例えば一般に配合される酸化防止剤、潤滑剤、紫外線遮断剤及び着色剤をそれらと混合して含んでいてもよい。
【0020】
高強度ポリエチレン繊維(伸びきり鎖(extended chain)又は高分子量ポリエチレン繊維ともいう)は好ましいポリオレフィン繊維であり、米国ニュージャージー州モリスタウンに所在するハネウェル・インターナショナル社からSPECTRA(登録商標)という商品名で市販されている。
【0021】
形成方法、延伸倍率及び延伸温度ならびに他の条件に応じて、これらの繊維に様々な特性を付与することができる。ポリエチレン繊維の引張強度は、少なくとも約7g/d、好ましくは少なくとも約15g/d、より好ましくは少なくとも約20g/d、さらにより好ましくは少なくとも約25g/d、最も好ましくは少なくとも約30g/dである。同様に、インストロン引張試験機によって測定した繊維の初期引張弾性率は、好ましくは少なくとも約300g/d、より好ましくは少なくとも約500g/d、さらにより好ましくは少なくとも約1,000g/d、最も好ましくは少なくとも約1,200g/dである。
【0022】
初期引張弾性率及び引張強度の最大値は、一般に溶液成長法又はゲル紡糸法を用いることによってのみ得られる。フィラメントの多くは、その材料となるポリマーよりも高い融点を有する。そのため、例えば、約150,000、約100万及び約200万の分子量を有する高分子量ポリエチレンの大部分は、一般に138℃の融点を有する。これらの材料で作製された高配向ポリエチレンフィラメントは約7℃から約13℃高い融点を有する。そのため、融点の僅かな上昇は、バルクポリマーと比較して結晶の完全性とより結晶配向性の高いフィラメントであることを反映している。
【0023】
同様に、重量平均分子量が少なくとも約200,000、好ましくは少なくとも約100万、より好ましくは少なくとも約200万の高配向高分子量ポリプロピレン繊維を使用してもよい。そのような伸びきり鎖ポリプロピレンを、上で参照した様々な参考文献に規定されている技術及び特に米国特許第4,413,110号の技術によって、適度に配向したフィラメントに形成してもよい。ポリプロピレンはポリエチレンよりもはるかに結晶性が低い材料でありかつ側鎖メチル基を含むため、ポリプロピレンで到達可能な引張強度値は、一般にポリエチレンの対応する値よりも実質的に低い。従って、適当な引張強度は、好ましくは少なくとも約8g/d、より好ましくは少なくとも約11g/dである。ポリプロピレンの初期引張弾性率は、好ましくは少なくとも約160g/d、より好ましくは少なくとも約200g/dである。ポリプロピレンの融点は、一般に配向工程によって数度上昇するため、ポリプロピレンフィラメントは、好ましくは少なくとも168℃、より好ましくは少なくとも170℃の主融点を有する。上記パラメータの特に好ましい範囲は、有利なことに最終物品の性能を向上させることができる。上記パラメータ(弾性率及び引張強度)の好ましい範囲と関連する少なくとも約200,000の重量平均分子量を有する繊維を用いることによって有利なことに最終物品の性能を向上させることができる。
【0024】
アラミド繊維の場合、芳香族ポリアミドで形成された適当な繊維が米国特許第3,671,542号に開示されており、その開示内容は本発明と矛盾しない範囲で参照によって本明細書に組み込まれる。好ましいアラミド繊維は、引張強度が少なくとも約20g/d、初期引張弾性率が少なくとも約400g/d、破壊エネルギーが少なくとも約8J/gであり、特に好ましいアラミド繊維は、引張強度が少なくとも約20g/d、破壊エネルギーが少なくとも約20J/gである。最も好ましいアラミド繊維は、引張強度が少なくとも約23g/d、弾性率が少なくとも約500g/d、破壊エネルギーが少なくとも約30J/gである。例えば、中程度に高い弾性率及び引張強度値を有するポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントは、防弾複合体を形成するのに特に有用である。その例としては1000デニールの帝人社製Twaron(登録商標)T2000が挙げられる。その他の例としては、初期引張弾性率及び引張強度の値がそれぞれ500g/d及び22g/dであるケブラー(登録商標)29ならびにデュポン社製の400、640及び840デニールで市販されているケブラー(登録商標)129及びKM2が挙げられる。他のメーカー製のアラミド繊維も本発明で使用することができる。コポリ(p−フェニレンテレフタルアミド/3,4’オキシジフェニレンテレフタルアミド)等のポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の共重合体も使用してもよい。また、本発明の実施において、Nomex(登録商標)という商品名でデュポン社から市販されているポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)繊維も有用である。
【0025】
高い引張弾性率を有する高分子量ポリビニルアルコール(PV−OH)繊維がKwonらに付与された米国特許第4,440,711号に開示されており、その開示内容は本発明と矛盾しない範囲で参照によって本明細書に組み込まれる。高分子量PV−OH繊維は、重量平均分子量が少なくとも約200,000でなければならない。特に有用なPV−OH繊維は、弾性率が少なくとも約300g/d、引張強度が好ましくは少なくとも約10g/d、より好ましくは少なくとも約14g/d、最も好ましくは少なくとも約17g/d、破壊エネルギーが少なくとも約8J/gでなければならない。そのような特性を有するPV−OH繊維は、例えば、米国特許第4,599,267号に開示されている方法によって作製することができる。
【0026】
ポリアクリロニトリル(PAN)の場合、PAN繊維は、重量平均分子量が少なくとも約400,000でなければならない。特に有用なPAN繊維は、引張強度が好ましくは少なくとも約10g/d、破壊エネルギーが少なくとも約8J/gでなければならない。分子量が少なくとも約400,000、引張強度が少なくとも約15から20g/d、破壊エネルギーが少なくとも約8J/gのPAN繊維が最も有用であり、そのような繊維が、例えば米国特許第4,535,027号に開示されている。
【0027】
本発明を実施するのに適した液晶コポリエステル繊維は、例えば、米国特許第3,975,487号、第4,118,372号及び第4,161,470号に開示されている。
本発明を実施するのに適したポリベンザゾール繊維は、例えば、米国特許第5,286,833号、第5,296,185号、第5,356,584号、第5,534,205号及び第6,040,050号に開示されている。ポリベンザゾール繊維は、東洋紡績株式会社からザイロン(登録商標)繊維として市販されている。
【0028】
剛直棒状繊維は、例えば、米国特許第5,674,969号、第5,939,553号、第5,945,537号及び第6,040,478号に開示されている。そのような繊維はMagellan Systems InternationalからM5(登録商標)繊維として市販されている。
【0029】
一方向に配向した繊維構造体を形成するための方法全体を図1(a)に示す。同様の方法が、例えば米国特許第6,642,159号及び第5,552,208号に開示されており、その開示内容は本発明と矛盾しない範囲で参照によって本明細書に組み込まれる。
【0030】
図1に示すように、糸102をクリールから供給し、コーマー装置(combing station)104内に通して一方向繊維網を形成する。好ましくは張力装置103を使用して複数の糸102に逆張力をかける。張力装置103はクリール102の一部として示しているが、コーマー装置104の一部としてもよく、あるいは塗布槽108の上流に配置してもよい。繊維網を塗布槽108に移動させ、以下により具体的に説明するように、そこで繊維網に液体を被覆又は含浸する。落水式(waterfall)塗布機、スプレー塗布機及びローラー塗布機等の他の塗布装置を使用してもよい。
【0031】
好ましくは、被覆繊維網を一対のローラー110内に通して、ローラー110によって過剰な液体を絞り出し、フィラメント中及びフィラメント間に液体組成物を実質的に均一に分散させる。被覆糸を繊維拡幅装置105内に通す。拡幅装置105を一対の拡幅棒107、109として示す。当然ながら、さらなる拡幅棒を使用してもよくかつ他の拡幅装置を使用してもよい。また、拡幅装置105を塗布槽108の上流等の他の位置に配置してもよい。図示のように、糸102は第1の拡幅棒107の下を通過させた後に第2の拡幅棒109の上を通過させてもよい。次に、拡げた繊維網を好ましくは支持ウェブ(carrier web)106上に配置する。支持ウェブ106は、繊維網を支持しかつ好ましくはそこから取り外し可能な紙又はフィルム基材又は任意の他の適当な材料であってもよい。層厚を制御するためにニップローラー114を使用してもよい。被覆繊維網層を好ましくは第1の加熱炉112を通過させて乾燥する。あるいは、被覆繊維網は空気乾燥してもよい。炉112では、被覆繊維網層(ユニテープ(unitape))を十分に加熱して被覆用組成物中の固体から液体を揮発させる。
【0032】
拡幅棒107、109は好ましくは固定棒であるが、回転可能であってもよい。糸と逆方向に回転するロール又は糸と同じ方向に回転するが糸とは異なる速度で回転するロール等の他の拡幅装置を使用することができる。
【0033】
所望であれば、例えばスプレー装置116で適当な材料を噴霧することによって、繊維網の上面に表面被覆を施してもよい。表面被覆層は連続している必要はない。その層は、好ましくは均一に繊維網の表面に分散されるスプレーの不連続な液滴から形成してもよい。スプレーで塗布する代わりに、表面被覆層を所望の被覆材料を含む貯蔵容器と接触するローラー(図示せず)の下に繊維網を移動させることによって塗布してもよく、あるいは、他の塗布装置を使用してもよい。2回目の被覆を行う場合には、繊維網を第2の加熱炉118内を通過させて被覆用組成物中の液体を揮発させる。ニップローラー120を使用してそのシステムから支持ウェブとユニテープを引き離してもよい。次に、基材及び統合されたユニテープは、一方向に配向した繊維構造体上に張力をかけながらニップローラー120又は巻き取りローラー122のどちらか一方を用いてローラー122の連続ロールに巻き取ることができる。
【0034】
張力装置103はクリールの巻戻しスピンドル上のブレーキの形態又はディスク型張力装置、ピン型張力装置、スピンドルブレーキ機構への電子フィードバック、ダンサーアーム式(dancer arm)張力装置等の任意の他の適当な張力装置であってもよい。当然ながら、その他の張力装置を使用してもよい。
【0035】
上述のように、本発明の方法では、糸を被覆しながら好ましくは全工程を通して糸に張力をかける。付加する張力量は糸の繊維の種類、糸のデニール、引張強度、弾性率、伸び率、弾性、糸当たりのフィラメント、フィラメント当たりのデニール、糸の拡がりの傾向及び糸の仕上がりに応じて異なる。典型的には、各糸に対する全張力(最後の拡幅棒(spreader bar)で測定)を約100から約1000グラムの範囲、より好ましくは約200から約800グラムの範囲とすることが望ましい。逆張力として機能する張力装置を工程の前端に設けることによって、投入される繊維の張力を変化させ、それにより所望の張力範囲内で最後の棒に張力をかけるように拡幅装置内の張力を変化させることができる。繊維の損傷を低減し、設備費を抑えると共に稼働効率を上昇させるためには、全張力がより少ないことが望ましい。本発明は、システム全体に対してより少ない張力で繊維をおおきく拡幅することができる。
【0036】
本発明で使用する「被覆」という用語は、個々の繊維が、繊維を囲むマトリックス組成物の連続層又は繊維表面のマトリックス組成物の不連続層のどちらか一方を有する繊維網を表すために広い意味で使用する。前者の場合、繊維はマトリックス組成物内に完全に埋め込まれていると言うことができる。「被覆」と「含浸」という用語は本明細書では同じ意味で使用する。
【0037】
糸に被覆するために使用する液体の種類は大幅に異なっていてもよいことがわかった。液体は、熱可塑性、熱硬化性、エラストマー又はそのような材料のハイブリッド又は混合樹脂であってもよい。液体の粘度は、液体自体の性質よりも重要である。
【0038】
被覆用液体は一方向繊維構造体のためのマトリックス樹脂としても機能することが好ましいが、樹脂マトリックスを第2の工程(例えば塗布装置116による)中に塗布してもよい。被覆用液体は溶液、懸濁液、分散液、乳濁液又は他の物理的形態であってもよく、被覆用組成物の固形分も大幅に異なっていてもよい。
【0039】
被覆用材料は、所望の特性を有する多種多様な材料で生成してもよい。一態様では、マトリックス樹脂としての材料のASTM D638に準拠して測定した初期引張弾性率(弾性率)は約6,000psi(41.4MPa)以下である。より好ましくは、被覆用材料は、初期引張弾性率が約2,400psi(16.5MPa)以下である。最も好ましくは、被覆用材料は、初期引張弾性率が約1,200psi(8.23MPa)以下である。これらの樹脂材料は典型的には本質的に熱可塑性である。なお、引張弾性率はすべて被覆用組成物の乾燥試料に基づいて決定する。
【0040】
あるいは、樹脂マトリックスは、硬化した際に少なくとも約1×10psi(6895MPa)等の高い引張弾性率を有するように選択してもよい。そのような材料の例は、例えば、上述の米国特許第6,642,159号に開示されている。
【0041】
上述のように、被覆用液体は、約5から約600cps、より好ましくは約10から約300cps、最も好ましくは約10から約250cpsの範囲の粘度を有する。被覆用材料として使用される液体の粘度は、当該技術分野で知られている方法で変化させてもよい。例えば、粘度調整剤又は増粘剤を被覆用組成物に添加することができる。あるいは、被覆用組成物の固形分を変化させて所望の粘度範囲を得ることができる。また、被覆用組成物の温度を調整して(加熱又は冷却する)所望の粘度を得てもよい。
【0042】
多種多様な材料を被覆用組成物(好ましくは複合体用樹脂マトリックスである)として使用してもよい。例えば、以下のエラストマー材料のいずれかを使用してもよい:ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、ポリスルフィドポリマー、ポリウレタンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリクロロプレン、フタル酸ジオクチル又は当該技術分野で良く知られている可塑剤を使用する可塑化ポリ塩化ビニル、ブタジエンアクリロニトリルエラストマー、イソブチレン−イソプレン共重合体、ポリアクリラート、ポリエステル、ポリエーテル、フルオロエラストマー、シリコーンエラストマー、熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリウレタン、及びエチレン共重合体。熱硬化性樹脂の例としては、メチルエチルケトン、アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサン、エチルアセトン及びそれらの組み合わせ等の炭素−炭素結合が飽和した溶媒に溶解可能な熱硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂の中には、上述の米国特許第6,642,159号に開示されているようなビニルエステル、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、フタル酸ジアリル、フェノールホルムアルデヒド、ポリビニルブチラール及びそれらの混合物が含まれる。好ましい熱硬化性樹脂は、少なくとも1つのビニルエステル、フタル酸ジアリル及び場合によりビニルエステル樹脂を硬化させるための触媒を含む。
【0043】
材料の好ましい群の1つは、共役ジエンのブロック共重合体及びビニル芳香族共重合体である。ブタジエン及びイソプレンは好ましい共役ジエンエラストマーである。スチレン、ビニルトルエン及びt-ブチルスチレンも好ましい共役芳香族モノマーである。ポリイソプレンを含有するブロック共重合体を水素化して飽和炭化水素エラストマーセグメントを有する熱可塑性エラストマーを形成してもよい。ポリマーはR−(BA)(x=3−150)(式中、Aはポリビニル芳香族モノマーのブロックであり、Bは共役ジエンエラストマーのブロックである)型の単純な三元ブロック共重合体であってもよい。好ましい樹脂マトリックスの1つはクレイトンポリマーズ社(Kraton polymer LLC)から市販されているクラトン(Kraton)(登録商標)Dl 107イソプレン−スチレン−イソプレンブロック共重合体等のイソプレン−スチレン−イソプレンブロック共重合体である。
【0044】
樹脂マトリックスは、「硬質性」又は「軟質性」の防弾材料又は他の材料の何れを所望するかによって、熱可塑性又は熱硬化性材料であってもよい。
好ましくは、被覆用組成物は水系樹脂又は溶媒系樹脂である。あるいは、被覆用組成物は加熱して熱溶融物を得た後に糸に被覆されるワックス又は他の材料であってもよい。さらに、粉末材料を加熱して溶融物にした後、それを糸に被覆することもできる。
【0045】
被覆用組成物を糸に塗布すると、高強度繊維網が一体化されてマトリックス組成物と繊維の組み合わせが形成される。「一体化する」とは、マトリックス材料と繊維網層を1つの単層に結合することを意味する。一体化は、乾燥、冷却、加熱、圧力又はそれらの組み合わせによって行うことができる。
【0046】
複合体層における繊維に対する被覆用材料の割合は、最終用途及び被覆用材料をマトリックス樹脂として機能させる意図であるかどうかに応じて大幅に異なってもよい。樹脂マトリックス材料は、繊維及び樹脂マトリックスの全体重量の好ましくは約1から約98重量%、より好ましくは約5から約95重量%、最も好ましくは約5から約40重量%を占める。
【0047】
被覆用液体が樹脂マトリックスを形成しないが、繊維を拡げたい場合には、その他の材料を使用してもよい。そのような被覆用液体の例は、デンプン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール及びセルロース樹脂等の適切な粘度調整剤又は増粘剤を含む水である。使用可能なその他の材料は、石油、グリセリン等の粘性溶媒、低濃度の高分子量材料の粘性溶液又はセルロース材料等の増粘剤を含む溶媒等である。これらは単に例示であり、所望の粘度範囲内で使用可能な材料はこれらに限定されるわけではない。
【0048】
上述のように、本発明の方法は、比較的薄型の一方向に配向した繊維構造体を提供する。「比較的薄型」とは、繊維構造体が、拡げられていない繊維で形成された同様の構造体よりも薄型であることを意味する。好ましくは、各繊維構造体の厚さは1本の糸の直径から1本の糸の直径の約5倍である。一方向に配向した繊維構造体の各プライの厚さは、所望の最終用途ならびに最終製品中のプライの数に応じて選択することができる。例えば、一方向に配向した繊維構造体の各プライは、厚さが約0.35から約3ミル(9から76μm)、より好ましくは約0.35から約1.5ミル(9から38μm)であってもよい。
【0049】
所望の最終用途に応じて、得られた一方向不織布を多プライ構造中の1つのプライとして使用してもよい。好ましくは、1つ又は複数のさらなる一方向布をその1つのプライと統合して多プライ構造を形成する。例えば、2つの1プライ構造体を交差して貼り合わせることによって2プライ複合体を形成してもよく、あるいは、さらに3つの1プライ構造体を交差して貼り合わせることによって4プライ複合体を形成してもよい。本発明の繊維構造体で形成された複合体は、好ましくは高強度繊維の少なくとも2つの繊維層を有する。
【0050】
好ましくは、連続するプライを、例えば、0°/90°、0°/90°/0°/90°又は0°/45°/90°/45°/0°又は他の所望の角度で互いに対して回転させる。これらのプライを統合して多プライ繊維構造体を形成する。そのように回転させた一方向配置は、例えば、米国特許第4,457,985号、第4,748,064号、第4,916,000号、第4,403,012号、第4,623,574号、及び第4,737,402号に開示されている。
【0051】
各隣接する層内の繊維は同一であっても異なっていてもよいが、複合体の隣接する層内の繊維は同一であることが好ましい。
所望であれば、1つのプライを異なる種類の1つ又は複数のプライと組み合わせて所望の多プライ構造を形成してもよい。そのような他のプライは、織物、編物、又はフェルト布等の他の種類の不織構造体の形態の高強度繊維で形成することができる。繊維層の布が織物の形態である場合、その織物は、平織、綾織、繻子織、三次元織及びそれらのいくつかの変形のいずれかを含む任意の織目を有していてもよい。平織物が好ましく、縦糸と横糸の太さが等しい平織物がさらに好ましい。織物は縦糸と横糸方向又は他の方向に異なる繊維を有する糸で作製してもよい。
【0052】
各繊維構造体の物理的形態に関わらず、各層の好ましくは少なくとも50重量%の繊維が高強度繊維であり、より好ましくは少なくとも約75重量%の繊維が高強度繊維であり、最も好ましくは実質的に全ての繊維が高強度繊維である。
【0053】
最終用途に応じて、複数の複合体を互いの上に配置する場合の複合体間の摩擦を低減させるために、1つ又は複数のプラスチックフィルムを繊維構造体と組み合わせて使用してもよい。これは、より着心地の良い防護服(body armor)を提供するための防護服等の用途では望ましい。ポリオレフィンフィルム等の任意の適当なプラスチックフィルムを使用することができる。そのようなフィルムの例としては、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリカーボネートフィルム等が挙げられる。これらのフィルムは任意の所望の厚さを有していてもよい。典型的な厚さは、約0.1から約1.2ミル(2.5から30μm)、より好ましくは約0.2から約1ミル(5から25μm)、最も好ましくは約0.3から約0.5ミル(7.5から12.5μm)である。
【0054】
ヘルメット、パネル及びベスト等の耐衝撃物品及び防弾物品で使用される繊維強化複合体のための様々な構造が知られている。これらの複合体は、銃弾、榴散弾及び破片等の発射体からの高速衝撃による貫通に対して様々な程度の耐性を示す。例えば、米国特許第6,268,301号、第6,248,676号、第6,219,842号、第5,677,029号、第5,587,230号、第5,552,208号、第5,471,906号、第5,330,820号、第5,196,252号、第5,190,802号、第5,187,023号、第5,185,195号、第5,175,040号、第5,167,876号、第5,165,989号、第5,124,195号、第5,112,667号、第5,061,545号、第5,006,390号、第4,953,234号、第4,916,000号、第4,883,700号、第4,820,568号、第4,748,064号、第4,737,402号、第4,737,401号、第4,681,792号、第4,650,710号、第4,623,574号、第4,613,535号、第4,584,347号、第4,563,392号、第4,543,286号、第4,501,856号、第4,457,985号、及び第4,403,012号はすべて、高分子量ポリエチレン、アラミド及びポリベンザゾール等の材料で作製された高強度繊維を含む防弾複合体を開示している。そのような複合体は、それらの構造の性質及び使用される材料に応じて軟質又は硬質のいずれかであると言われている。
【0055】
統合されたユニテープを分離シートに切断し、最終用途複合体に形成するためにスタックに積み重ねてもよく、あるいは、それらをサブアセンブリー前駆体に形成した後にそれを使用して最終用途複合体を形成することもできる。「最終用途複合体」は、ヘルメット又は車両の装甲板等の本発明の物品である一体化多層複合体を意味する。上述したように、最も好ましい複合体は、各層の繊維網が一方向に配列しかつ連続する層内の繊維方向が0/90°で配置されるように配向した複合体である。
【0056】
一態様では、2つの繊維網層を0°/90°の配置で交差して貼り合わせた後に成形してサブアセンブリー前駆体を形成する。2つの繊維網層は、好ましくは繊維網の一方を他方の繊維網の幅にわたって0°/90°に配向させて連続的に配置することができる長さに切断することによって連続的に交差して貼り合わせることができる。米国特許第5,173,138号及び第5,766,725号には、連続的に交差して貼り合わせるための装置が開示されている。次に、得られた連続する2プライサブアセンブリーを各プライ間に分離材料層を設けてロールに巻き付けることができる。最終用途複合体を形成する準備が整ったときに、ロールを巻き戻して分離材料を剥ぎ取る。次に、2プライサブアセンブリーを分離したシートに薄切りにし、多プライに貼り合わせた後、最終形状に形成しかつマトリックス樹脂を硬化させるために加熱及び加圧する。
【0057】
成形のために繊維網に与える温度及び/又は圧力は、使用される高強度繊維の種類によって異なる。装甲パネルに使用する最終用途複合体は、約150から400psi(1,030から2,760kPa)、好ましくは約180から250psi(1,240から1,720kPa)の圧力及び約104℃から約127℃の温度で2層サブアセンブリーのスタックを成形することによって作製することができる。ヘルメットに使用する最終用途複合体は、約1500から3000psi(10.3から20.6MPa)の圧力及び約104℃から約127℃の温度で2層サブアセンブリーのスタックを成形することによって作製することができる。
【0058】
本発明の方法によって形成された一方向に配向した繊維構造体は、平坦化された糸及び所望の距離だけ拡げられた繊維によって特徴付けられる。繊維をバラバラに拡げることによって、繊維をより平面構造にし、その結果、より薄型の繊維構造体が得られる余地がある。これは、防弾等の用途では、互いに積み重ねられる繊維を減少させるためには重要である。これにより、弾道発射体の貫通を防止するためにより多くの繊維を利用することができる。薄型構造によっても、繊維構造体の層をより多く使用することができ、保護服等の全体の厚さを増加させることなく防弾性を向上させることができる。
【0059】
以下の非限定的な実施例は、本発明をより完全に理解するために示すものである。本発明の原理を説明するために記載されている特定の技術、条件、材料、割合及び報告データは例示であって、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0060】
実施例1〜9
高強度アラミド繊維で形成した糸を使用した。この糸は1000デニールであり、1000本のアラミドフィラメント(帝人社製トワロン1100dtex fl000 2000型)で形成されていた。この糸をスプールから被覆用組成物を保持する容器に送った。6オンス(170グラム)の重量の糸が供給スプールのスピンドルに取り付けられていた。この糸を被覆用組成物に浸漬した後、直径が1インチ(25.4mm)で0.29インチ(7.37mm)だけ離間した2本の平行するステンレス鋼製金属棒で形成された拡幅装置に送った。この糸を第1の拡幅棒の下と、次いで第2の拡幅棒の上に送った。この糸を、剥離フィルムと直面するドラム巻取機に巻き取った。この糸の幅を第2の拡幅棒で測定し、拡幅棒の前で張力を測定した。糸に対する張力は、糸が塗布容器内に移動して巻き取り装置に到達するまで維持した。
【0061】
一連の実験を異なる被覆用組成物及び異なる粘度で行った。粘度(クラトン/シクロヘキサン等の溶媒系樹脂の粘度)を変化させるために固形分を変える場合もあれば、添加剤を使用して粘度を増加させるか、あるいは水を使用して水系樹脂の粘度を減少させる場合もあった。液体の各組成及び粘度に対して、棒の上での繊維の拡がりを測定した。
【0062】
実施例1(比較例)では、液体を全く使用せずに繊維を空気中で拡げた。実施例2及び3(比較例)では、液体はそれぞれ水及びシクロヘキサンであった。実施例4(比較例)では、液体は0.1から1.0重量%のレオロジー調整剤(アクリゾル(Acrysol)(登録商標))を含む水であった。
【0063】
実施例5では、シクロヘキサン中の様々な濃度のクラトン(登録商標)Dl 107(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)を使用して様々な粘度を得た。実施例6では、液体はポリウレタン樹脂(Sancure(登録商標)12929)であり、そのままの状態と0.1から0.4重量%のアクリゾル(登録商標)を含んだ状態で使用した。実施例7では、液体は様々な量のアクリゾル(登録商標)調整剤を含む水系スチレン−イソプレン−スチレン樹脂(Prinlin(登録商標)B7137AL)であった。実施例8では、液体は様々な量のアクリゾル(登録商標)調整剤を含むポリウレタン樹脂(ディスパコール(Dispercoll)(登録商標)U53)であった。実施例9では、様々なSAE規格の石油を使用した。
【0064】
その結果を、固形分比率及び液体樹脂の各粘度をまとめた以下の表1に示す。また、その結果を図2にグラフで示す。
【0065】
【表1−1】

【0066】
【表1−2】

【0067】
注記:
a=調整剤はRohm and Haas社製のアクリゾル(登録商標)RM−8W酸化エチレンウレタンレオロジー調整剤である。
b=クレイトンポリマーズ社製クラトン(登録商標)Dl 107スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(シクロヘキサン中の重量%)。
c=Noveon社製Sancure(登録商標)12929水系ポリウレタン+アクリゾル(登録商標)RM−8W。
d=クラトン(登録商標)Dl 107スチレン−イソプレン−スチレン樹脂のPrinlin(登録商標)B7137AL水系分散液(固形分21%)+アクリゾル(登録商標)RM−8W。
e=クラトン(登録商標)Dl 107スチレン−イソプレン−スチレン樹脂のPrinlin(登録商標)B7137AL水系分散液(固形分35%)+アクリゾル(登録商標)RM−8W。
f=バイエル(Bayer)社製ディスパコール(登録商標)U53水系ポリウレタン(固形分28%)+アクリゾル(登録商標)RM−8W。
g=バイエル社製ディスパコール(登録商標)U53水系ポリウレタン(固形分45%)+アクリゾル(登録商標)RM−8W。
液体中の樹脂固形分に基づく添加剤の割合。
SAE=自動車技術協会。
【0068】
図2の凡例は以下の通りである:A=空気、B=水、C=シクロヘキサン、D=アクリゾルを含む水、E=クラトン、F=アクリゾルを含むSancure、G=アクリゾルを含むPrinlin、H=アクリゾルを含むディスパコールU53、I=石油。
【0069】
アラミド繊維を本発明の範囲の粘度を有する液体で処理した結果、有意な繊維の拡がりが達成されることが分かる。アラミド繊維を本発明に係る特性を有する液体で処理することによって、空気、水及び本発明の粘度を有しない他の液体と比べて繊維の拡がりが向上する。
【0070】
実施例10〜15
ハネウェル・インターナショナル社製(Spectra(登録商標)1000繊維のフィラメント240本で形成された1300デニールの)高強度ポリエチレン糸を使用して実施例1〜9を繰り返した。その結果を以下の表2に示し、図3にグラフで示す。
【0071】
【表2】

【0072】
注記:
a=バイエル社製ディスパコール(登録商標)U53水系ポリウレタン(固形分28%)+アクリゾル(登録商標)RM−8W。
b=クレイトンポリマーズ社製クラトン(登録商標)Dl 107スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(シクロヘキサン中の重量%)。
c=クラトン(登録商標)Dl 107スチレン−イソプレン−スチレン樹脂のPrinlin(登録商標)B7137AL水系分散液(固形分21%)+アクリゾル(登録商標)RM−8W。
d=クラトン(登録商標)Dl 107スチレン−イソプレン−スチレン樹脂のPrinlin(登録商標)B7137AL水系分散液(固形分35%)+アクリゾル(登録商標)RM−8W。
液体中の樹脂固形分に基づく添加剤の割合。
【0073】
図3の凡例は以下の通りである:A=空気、B=水、C=シクロヘキサン、D=アクリゾルを含むU53、E=クラトン、F=アクリゾルを含むPrinlin。
上記実施例から、高強度ポリエチレン糸は空気中で最も拡がるが、液体媒体を使用する場合には約5から約600センチポイズの範囲の粘度を使用すると有利であることが分かる。
【0074】
特に液体を媒体として使用して高強度ポリエチレン糸に対するマトリックス樹脂を得る場合には、液体中で糸を処理することが望ましい。
実施例16〜18
東洋紡績株式会社製のザイロン(登録商標)AS A1110Tとして市販されているPBO糸(1000デニール糸1110dtex)を使用して実施例1〜9を繰り返した。その結果を下の表3に示し、図4にグラフで示す。
【0075】
【表3】

【0076】
図4の凡例は以下の通りである:A=空気、B=水、C=石油。
本発明の範囲の粘度を有する液体でPBO繊維を処理した結果、有意な繊維の拡がりが達成されることが分かる。空気及び水と比較して、PBO繊維を本発明に係る液体で処理することによって繊維の拡がりが向上する。
【0077】
本発明は、最初に高強度繊維に特定の粘度範囲の被覆用組成物を被覆することによってその拡がりを向上させる方法を提供することが分かる。繊維の拡がりを向上させるのがこの粘度範囲の液体で糸を被覆した場合であることは、予期せず見出した。これにより、拡幅糸から薄型の一方向に配向した繊維構造体を作製することができる。その結果、防弾用途では、例えば、発射体と繊維との相互作用が強化され、それにより複数の一方向層からなる最終物品の防弾能力が増強する。より薄型の層を得ることによって、同じ重量でより多くの層を設けることができ、その結果、最終物品の防弾特性が向上する。
【0078】
また、糸に本明細書に開示する液体を被覆することによって、より少ない全張力で繊維を拡げることができ、それにより繊維の破損を低減すると共に、稼働効率を向上させる。
本発明をより詳細に説明したが、そのような詳細は厳密に従わなければならないものではなく、当業者にはさらなる変更及び修正が可能であり、それらも添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲に含まれることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度繊維を含む一方向に配向した繊維構造体の形成方法であって、
(a)複数の高強度繊維を含み、互いに一方向に配置された複数の糸を用意する工程と;
(b)該糸に約5から約600センチポイズの粘度を有する液体を被覆する工程と;
(c)該糸に張力をかける工程と;
(d)該糸を繊維拡幅装置に通す工程と;
(e)該糸を乾燥する工程、とを含み、
これにより、該繊維拡幅装置の通過後、該糸の厚さが減少して幅が増加し、該糸を形成する該繊維がバラバラに拡げられることにより比較的薄型の一方向に配向した繊維構造体を得る、方法。
【請求項2】
前記糸の乾燥後に前記糸を巻き取る工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高強度繊維が高分子量ポリオレフィン、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリベンザゾール、ポリアミド、ポリエステル、液晶ポリエステル、ガラス、炭素、玄武岩、鉱物繊維及び剛直棒状繊維、並びにそれらのブレンドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記高強度繊維がアラミド繊維を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記高強度繊維が高分子量ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維及びそれらのブレンドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記高強度繊維の引張強度がデニール当たり少なくとも約28グラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(b)から(e)の間に前記糸に逆張力をかける工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記粘度が約10から約300センチポイズである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記液体が水系樹脂、溶媒系樹脂又は熱溶融材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記液体がポリウレタン樹脂を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記液体が粘度調整剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記張力が約100から約1000グラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記液体が、前記一方向に配向した繊維構造体中の前記繊維のためのマトリックス樹脂を形成する固体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記一方向に配向した繊維構造体の少なくとも2つのプライを交差して貼り合わせる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記繊維拡幅装置が複数の繊維拡幅棒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法によって形成される一方向に配向した繊維構造体。
【請求項17】
請求項1に記載の方法によって形成される複数の一方向に配向した繊維構造体を含む防護具。
【請求項18】
一方向に配向した高強度繊維の少なくとも1つの層を含む複合繊維構造体の形成方法であって、
(a)複数の高強度繊維を含み、互いに一方向に配置された複数の糸を用意する工程と;
(b)該糸に約5から約600センチポイズの粘度を有する液体を被覆する工程と;
(c)該糸に張力をかける工程と;
(d)該糸を繊維拡幅装置に通す工程と;
(e)該糸を乾燥する工程と、を含み、
これにより、該繊維拡幅装置の通過後、該糸の厚さが減少して幅が増加し、該糸を形成する該繊維がバラバラに拡げられることにより比較的薄型の一方向に配向した繊維構造体を得る工程と;
(f)該比較的薄型の繊維構造体を別の繊維構造体に貼り付ける工程、とを含む方法。
【請求項19】
高強度繊維を含む一方向に配向した糸の形成方法であって、
(a)複数の高強度繊維を含む糸を用意する工程と;
(b)該糸に約5から約600センチポイズの粘度を有する液体を被覆する工程と;
(c)該糸に張力をかける工程と;
(d)該糸を繊維拡幅装置に通す工程と;
(e)該糸を乾燥する工程と、を含み、
これにより、該繊維拡幅装置の通過後、該糸の厚さが減少して幅が増加し、該糸を形成する該繊維がバラバラに拡げられる、方法。
【請求項20】
前記繊維が高分子量ポリエチレン繊維、アラミド繊維及びポリベンザゾール繊維、並びにそれらのブレンドからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−510398(P2010−510398A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537347(P2009−537347)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/084755
【国際公開番号】WO2008/061170
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】