一方向透視性遮蔽材
【課題】透孔の周期的配列に起因するモアレの防止と共に、モアレ防止の為に透孔の配置を非周期的にしたときの明暗ムラの発生も防止し、これらモアレ防止と明暗ムラ防止とを両立させた、一方向透視性遮蔽材とする。
【解決手段】多数の透孔2が設けられた遮光性基材1の平面視形状が網目パターン1Pを呈し、この網目パターンが、透孔に対応する多数の開口部Aを画成し、二つの分岐点Bの間を延びて前記開口部を画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、開口部が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンの、一方向透視性遮蔽材10とする。
【解決手段】多数の透孔2が設けられた遮光性基材1の平面視形状が網目パターン1Pを呈し、この網目パターンが、透孔に対応する多数の開口部Aを画成し、二つの分岐点Bの間を延びて前記開口部を画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、開口部が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンの、一方向透視性遮蔽材10とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透孔を多数有し、一方から他方への透視性が表裏で異なる一方向透視性遮蔽材に関する。
【背景技術】
【0002】
店舗や車の窓ガラス等に貼り付け外側からは絵柄は見えるが内部は見えず、内側からは外側が見える一方向透視性遮蔽材が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
図17は、従来の典型的な一方向透視性遮蔽材20を示す。同図の一方向透視性遮蔽材20は、図17(A)の断面図で示す様に、遮光性基材シート21に、この遮光性基材シート21を貫通する透孔22が多数形成されてなる。多数の透孔22の配置は、図17(B)の平面図で示す様に、例えば正方格子状、三角格子状などと規則的配列をしている。図17(B)に示した透孔22の配置は、縦方向(図面Y軸方向)及び横方向(図面X軸方向)で同じ配列周期で配置した正方格子状の例である。
一方、図17(C)に示した透孔22の配置は、横方向(図面X軸)に規則的に配列したストライプ状の例である。
なお、図示はしないが、遮光性基材1の一方の面には、絵柄が必要に応じて設けられる。
【0004】
こうした一方向透視性遮蔽材20は、具体的には、例えば、樹脂、紙等からなる遮光性基材シート21の全面に、直径1mm前後の透孔22を貫通孔として多数穿孔して形成される。
【0005】
図18の断面図は、この一方向透視性遮蔽材20による一方向透視性の光線制御原理を示す説明図である。
一方向透視性遮蔽材20を、建物或いは車両の窓に貼ると、相対的に明るい屋外(車外)からの光Lout(景色)は、相対的に暗い屋内(車内)の観察者Oinには、透視可能である。
一方、暗い屋内(車内)の光Lin(景色)は、明るい屋外(車外)の観察者Ooutには、日光Snの反射光に紛れて透視不能となる。このため、屋内(車内)から屋外(車外)は透視可能であっても、屋外(車外)から屋内(車内)は透視不可能となる。
なお、この原理は、以下に述べる本発明による一方向透視性遮蔽材10の場合も同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平6−16731号公報
【特許文献2】特許第4580523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の一方向透視性遮蔽材20は、透孔22が縦横に一定周期で配列しているため、この一方向透視性遮蔽材20を適用する窓に、スダレ(簾)、網戸、鎧戸乃至はブラインド、カーテン(それも特にレース編みのもの)等の周期パターンを持つ周期パターン部材と重なった場合、周期パターンの周期と、一方向透視性遮蔽材20の透孔22の配列周期とが干渉して、モアレ(縞模様)を生じ、目障りとなる。
【0008】
そこで、本発明者らは、一方向透視性遮蔽材20について、モアレが生じない様にする為に、透孔22の配列を、非周期性のランダムパターンとすることを試みた。
【0009】
例えば、画像表示装置分野でプラズマディスプレイパネルの画面に設置する電磁波遮蔽フィルタ用の導電体メッシュに対して、国際公開第2007/114076号のパンフレット、特開平11−121974号公報で提案された、各種ランダムメッシュパターンを試みた。
【0010】
前者の公報で開示されたメッシュパターンは、よりランダム性が高いランダムパターンであり、モアレは完全に解消するが、透孔22による開口面積の面分布のバラツキが大きく、透視風景に明暗ムラが目立つという新たな問題が判明した。
【0011】
後者の公報で開示されたメッシュパターンは、前者より周期性が高いランダムパターンであり、明暗ムラは目立たないが、モアレが残留するという問題が判明した。
【0012】
このように、従来の一方向透視性遮蔽材20は、その透孔22の周期的配列によって、網戸等の周期パターン部材とのモアレが発生し、また、従来の非周期的なランダムパターンであっても、モアレ防止と透視風景の明暗ムラ防止とを、両立させることができなかった。
【0013】
すなわち、本発明の課題は、一方向透視性遮蔽材について、その透孔の周期的配列に起因するモアレの防止と共に、モアレ防止の為に透孔の配置を非周期的にしたときの明暗ムラの発生も防止し、これらモアレ防止と明暗ムラ防止とを両立させることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明では、次の様な構成の一方向透視性遮蔽材とした。
(1)遮光性基材と、この遮光性基材を貫通する多数の透孔を有する一方向透視性遮蔽材において、
前記透孔が設けられた遮光性基材を、一方向透視性遮蔽材のシート面の法線方向からみたときの平面視形状が網目パターンを呈し、
この網目パターンが、透孔に対応する多数の開口部を画成し、二つの分岐点の間を延びて前記開口部を画成する多数の境界線分から形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口部が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンである、一方向透視性遮蔽材。
(2)上記開口部の形状が、五角形、六角形及び七角形から選ばれた2種以上の多角形を含んでなる、上記(1)の一方向透視性遮蔽材。
(3)一方の面が他方の面に比べて高明度である、上記(1)または(2)の一方向透視性遮蔽材。
(4)多数の透孔が設けられた遮光性基材に、透孔が設けられていない透明基材が積層されている、上記(1)〜(3)のいずれかの一方向透視性遮蔽材。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一方向透視性遮蔽材によれば、遮光性基材の網目パターン(メッシュパターン)によって画成される透孔の配置が非周期的配列となるため、モアレ発生を効果的に防止できると共に、透孔群の開口面積の粗密による透視風景の明暗ムラも防止でき、モアレ防止と明暗ムラ防止を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による一方向透視性遮蔽材の一実施形態を説明する断面図(A)と平面図(B)。
【図2】透孔乃至は開口部の形状例を説明する平面図。
【図3】網目パターンの一例を示す平面図。
【図4】網目パターンに繰返周期が存在しないことを説明する平面図。
【図5】網目パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図6】網目パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図7】網目パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図8】決定された母点群の分散の程度を絶対座標系と相対座標系で説明する図。
【図9】決定された母点からボロノイ図を作成して網目パターンを決定する方法を示す図。
【図10A】本発明による網目パターンを示す平面図。
【図10B】網戸の網目を示す平面図。
【図10C】図10Aと図10Bとを重ねた状態を示す平面図。
【図11A】従来の一方向透視性遮蔽材が有する透孔の周期的配列(ストライブ状)を示す平面図。
【図11B】網戸の網目を示す平面図。
【図11C】図11Aと図11Bとを重ねた状態を示す平面図。
【図12】網目パターンが一方向透視性遮蔽材の寸法の1/3以上の大きさの単位パターン領域として繰り返された一例を示す平面図。
【図13】本発明による一方向透視性遮蔽材の別の実施形態(表裏明度差)を例示する断面図。
【図14】本発明による一方向透視性遮蔽材の別の実施形態(透明基材付き)を示す断面図。
【図15】本発明による一方向透視性遮蔽材の別の実施形態(絵柄層付き)を示す平面図(A)と断面図(B)。
【図16】本発明による一方向透視性遮蔽材の別の実施形態(絵柄層付き)を示す断面図。
【図17】従来の一方向透視性遮蔽材を例示する断面図(A)と平面図(B)及び(C)。
【図18】一方向透視性遮蔽材における一方向透視性の光線制御原理を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面は概念図であり、説明上の都合に応じて適宜、構成要素の縮尺関係、縦横比等は誇張されていることがある。
【0018】
先ず、本発明による一方向透視性遮蔽材を、図1に示す一実施形態例を参照して説明する。
【0019】
本発明の一方向透視性遮蔽材は、図1(A)の断面図、及び図1(B)の平面図で示す実施形態の一方向透視性遮蔽材10の様に、遮光性基材1と、この遮光性基材1の表裏を貫通する様に形成された多数の透孔2とを、少なくとも有する。
しかも、前記透孔2が設けられた遮光性基材1を、一方向透視性遮蔽材10のシート面の法線方向(図面ではZ軸方向)からみたときの平面視形状である網目パターン1Pが、本発明固有の非周期的パターンをしている。
【0020】
ここで、本発明で用いる主要な用語の定義を説明しておく。
「シート面」とは、シート状の一方向透視性遮蔽材10を全体的かつ大局的に見た場合において、この一方向透視性遮蔽材10の平面方向と一致する面のことを意味する。「シート面」は、通常、遮光性基材1の一方の面又は他方の面(表面又は裏面)と平行な面でもあり、図1に於いては、XY平面又はこれと平行な面となる。
「平面視形状」とは、「シート面」に平行な面に於ける形状のことを意味する。言い換えると、「平面視形状」とは、「シート面」に立てた法線の方向から見た形状のことを意味する。図1ではZ軸方向が法線方向である。
「シート」、「フィルム」、「板」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。したがって、例えば、「シート」はフィルムや板とも呼ばれ得るような部材も含む概念である。
【0021】
図1(B)で示す様に、前記網目パターン1Pは、透孔2に対応する多数の開口部Aを画成し、二つの分岐点Bの間を延びて前記開口部Aを画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口部Aが一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンからなる。
前記開口部Aは、透孔2の平面視形状に相当する。
【0022】
このため、上記透孔2は従来のような周期的配列ではなく、上記透孔2を画成する網目パターン1Pが特定の非周期的パターンであるために、網戸やレース編みカーテン等の周期パターン部材と重なった時に、その周期パターンの周期との干渉によるモアレも、配置された透孔2による局所的面積率の粗密による明暗ムラも生じず、モアレと明暗ムラとを極めて効果的に抑制しながら、一方向透視性を発揮させることが可能となる。
【0023】
〔遮光性基材〕
遮光性基材1の材料としては、遮光性を有する基材であれば良く、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の樹脂シート(フィルム、板も含む)中に、チタン白、カーボンブラック等の着色顔料を添加した物、或いは、前記樹脂シートの片面又は両面にチタン白、カーボンブラック等の着色顔料を含む塗膜を形成した物、或いは、上質紙、硫酸紙、パーチメント紙等の紙、アルミニウム、銅などの金属箔等の片面又は両面に、チタン白、カーボンブラック等の着色顔料を含む塗膜を形成した物、などを用いることができる。
遮光性基材1の厚みは、例えば20〜3000μm程度である。
【0024】
[網目パターンの作製方法]
上記網目パターン1Pは、所定の網目パターン1Pの刃型を有する打抜型を用いて、遮光性基材1を打ち抜いて、遮光性基材1に所定の透孔2を穿孔することにより形成することができる。透孔2以外の部分の遮光性基材1が、網目パターン1Pに於いて境界線分Lを構成する。
【0025】
[透孔]
透孔2(乃至はその平面視形状である開口部A、以下同様)の開口率(多数の透孔2の総面積割合)は、モアレ防止及び明暗ムラ防止の両立の為には、20〜60%程度とするのが好ましい。
【0026】
透孔2の形状は、図2の平面図で示すように、図2(A)の五角形、図2(B)の六角形及び図2(C)の七角形から選ばれた2種以上の多角形からなることが、好ましい。図2が不等辺多角形を例示するように、透孔2を構成する多角形は正多角形である必要はないが、正多角形を含んでいても良い。
このように構成することによって、モアレを目立たなくさせることが出来ると共に、明暗ムラもより確実に目立たなくさせることができる。
更に好ましくは、開口部Aの形状が五角形、六角形、及び七角形を含む様にする。
例えば、図10Aの形態で使用した網目パターン1Pについて、合計4631個の開口部A(多角形)について計測したところ、
3角形 0個
4角形 79個
5角形 1141個
6角形 2382個
7角形 927個
8角形 94個
9角形 8個
10角形以上 0個
であった。
なお、この網目パターン1Pについて、分岐点Bから出る境界線分Lの平均本数を計測したところ3.07であった。
【0027】
透孔2の寸法は、相対的に暗い屋内(車内)から相対的に明るい屋外(車外)の風景が十分に視認されると同時に、相対的に明るい屋外(車外)から相対的に暗い屋内(車内)の風景が十分に視認不能となる為には、透孔2の大きさD(開口部Aの大きさ)の平均値DAVGを、500〜3000μmとするのが好ましい。
【0028】
[網目パターンとこれにより画成される開口部]
網目パターン1Pは、遮光性基材1を、層面乃至はシート面の法線方向(図1でZ軸方向)から観察した場合における、透孔2の部分が欠落した遮光性基材1の平面視形状である。以下、この網目パターン1Pについて、図3および図9を主として参照しながら説明する。
【0029】
網目パターン1Pは、図3に示す如く、二つの分岐点Bの間を延びて開口部Aを画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが、3.0≦N<4.0、つまり、3.0以上で4.0未満であり、且つ、前記境界線分Lで画成された前記開口部Aに繰返周期を持つ方向が存在しない領域を含んでなるパターンとなっている。
【0030】
図3および図9に示すように、網目パターン1Pのライン部Ltは、多数の分岐点Bを含んでいる。網目パターン1Pのライン部Ltは、両端において分岐点Bを形成する多数の境界線分Lから構成されている。すなわち、網目パターン1Pのライン部Ltは、二つの分岐点Bの間を延びる多数の境界線分Lから構成されている。そして、分岐点Bにおいて、境界線分Lが接続されていくことにより、開口部Aが画成されている。言葉を換えて言うと、境界線分Lで囲繞され、区画されて1つの閉領域としての開口部Aが画成されている。
なお、網目パターン1Pは、開口部Aが繰返周期を持つ方向が存在しない配列となって、モアレを防ぐ効果が十分に発現される為には、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口部Aの面積及び形状は一定でないようなパターンとすると良い。好ましくは、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口部Aの50%以上が互いにその面積及び形状が異なるようにする。より好ましくは、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口部Aを網目パターン1Pの全域に亙って、全て互いにその面積及び形状が異なるようにする。これは、言い換えると、網目パターン1Pに含まれる開口部Aのうち、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一となる開口部Aの形状及び面積がすべて同一ではなく、少なくとも一部は他と異なるものになると言うことを意味する。なお、ここで周囲を囲繞する境界線分Lの数とは、開口部Aが多角形である場合は、その多角形の角数と一致する。また、以上に於いて、2つの開口部A同士が互いに合同な図形であって且つその向きが異なる場合も、これらの2つの開口部Aの形状は互いに異なると見做す。
【0031】
なお、図3および図9に示すように、ライン部Ltが境界線分Lのみから構成されているため、開口部Aの内部に延び入って行き止まりとなるライン部Ltは存在しない。
【0032】
一方、モアレの発生を防止するため、本実施形態による一方向透視性遮蔽材10の遮光性基材1が呈する網目パターン1Pでは、その全領域が、開口部Aが繰返周期を有する方向が存在しないようになっている。モアレを確実に解消する為には、網目パターン1Pの全領域がこのような領域のみから構成されていることが好ましい。本実施形態はこの様な構成からなる。本件発明者らは、鋭意研究を重ねた結果として、単に網目パターン1Pのパターンを不規則化するのではなく、網目パターン1Pの開口部Aが一定の規則性を持った繰返周期で並べられた方向が存在しないように網目パターン1Pのパターンを画成することにより、透孔2が周期的配列された構成の従来の一方向透視性遮蔽材20と、周期パターンを有する網戸やレース編みカーテン等の周期パターン部材とを重ねた際に生じ得るモアレを、極めて効果的に目立たなくさせることが出来ると判明した。
【0033】
[繰返周期の不存在]
図4は、網目パターン1Pで画成される多数の開口部Aが、一定の周期で配置されている領域が存在せず、繰返周期が存在しないことを説明するXY平面に平行なシート面に於ける平面図である。このシート面の面内において、同図では、任意の位置で任意の方向を向く一本の仮想的な直線diが選ばれている。
この一本の直線diが、ライン部Ltの境界線分Lと交差し交差点が形成される。この交差点を、図面では図面左下から順に、交差点c1,c2,c3,・・・・・,c9として図示してある。隣接する交差点、例えば、交差点c1と交差点c2との距離が、前記或る一つの開口部Aの直線di上での寸法t1である。次に、寸法t1の開口部Aに対して直線di上で隣接する別の開口部Aについても、同様に、直線di上での寸法t2が定まる。そして、任意位置で任意方向の直線diについて、直線diと交差する境界線分Lとから、任意位置で任意方向の直線diと遭遇する多数の開口部Aについて、該直線di上における寸法として、t1,t2,t3,・・・・・・,t8が定まる。そして、t1,t2,t3,・・・・・・,t8の数値の並びには、周期性が存在しない。
図4では、このt1,t2,t3,・・・・・・,t8は、判り易い様に図面下方に、直線diと共に網目パターン1Pとは分離して描いてある。
【0034】
この直線diを図4で図示のものから任意の位置で任意の角度回転させて別の方向について各開口部Aの寸法t1,t2,・・を求めると、やはり図4の場合と同様、直線di方向に対して繰返し周期性は見られない。
すなわち、このt1,t2,t3,・・・・・・,t8の数値の並びの様に、境界線分Lで画成された開口部Aには繰返周期を持つ方向が存在しない。
言い換えると、開口部Aの配置において、任意位置を通る任意方向の仮想的線分di上での開口部Aの寸法tiの並びの数列が非周期関数となる。すなわち、t(i)=t(i+M)となるMが存在しない(i,Mはそれぞれ独立な正の整数)。
このように、開口部Aが繰返周期を持つ方向が存在しないことを、開口部Aが一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない、と表現する。
【0035】
さらに、本実施形態による一方向透視性遮蔽材10の遮光性基材1が呈する網目パターン1Pでは、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっている。このように一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっている場合、網目パターン1Pの配列パターンを、正方格子パターン(N=4.0)から大きく異なるパターンとすることができる。なお、正方格子パターンの例示としては図10Bに示す網戸6の網目6Pを挙げることができる。また、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0<N<4.0となっている場合には、ハニカム配列(N=3.0)からも大きく異なるパターンとすることができる。そして、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nを3.0≦N<4.0とした上で、開口部Aの配列を不規則化して、開口部Aが繰返周期を持って並べられた方向が安定して存在しないようにすることが可能となり、その結果、モアレを極めて効果的に目立たなくさせることが可能となることが、確認された。
【0036】
なお、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nは、厳密には、網目パターン1P内に含まれる全ての分岐点Bについて、延び出す境界線分Lの数を調べてその平均値を算出することになる。ただし、実際的には、ライン部Ltによって画成された一つ当たりの開口部Aの大きさ等を考慮した上で、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の全体的な傾向を反映し得ると期待される面積を持つ一区画(例えば、後述の寸法例で開口部Aが形成されている網目パターン1Pにおいては、10mm×10mmの部分)に含まれる分岐点Bについて延び出す境界線分Lの数を調べてその平均値を算出し、算出された値を当該網目パターン1Pについての一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nとして取り扱うようにしてもよい。
【0037】
実際に、図3に示された一方向透視性遮蔽材10の遮光性基材1が呈する網目パターン1Pでは、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0<N<4.0となっている。一例を挙げると、図3の網目パターン1Pの場合、合計387個の分岐点Bについて計測したところ、境界線分Lが3本の分岐点Bが373個、境界線分Lが4本の分岐点Bが14個であり(分岐する境界線分Lの数が5個以上の分岐点は0個)、分岐点Bから出る境界線分Lの平均本数(平均分岐数)は3.04個であった。
【0038】
[網戸の網との干渉によるモアレ発生状況]
図10Cには、図3及び図10Aに示された、本発明による一方向透視性遮蔽材10の網目パターン1Pを、図10Bに示された網戸の網6と重ねた状態が示されている。図10Bで示された網戸の網6が有する網目6Pは、縦横の周期が等しい正方格子状パターンをしている。
【0039】
図10Cからも理解され得るように、図3及び図10A示された網目パターン1Pを実際に作製して網戸の網6に重ね合わせた場合、視認され得る程度の縞状の模様、すなわちモアレ(干渉縞)は発生しなかった。
【0040】
一方、従来の一方向透視性遮蔽材20の様に、周期パターンである周期的網目パターン21Pで画成される開口部Aに一定の繰返周期が存在する場合のモアレ発生を例示するのが図11A〜図11Cである。図11Aに図示したものは、遮光性基材21が呈するストライプ状の周期的網目パターン21Pである。
【0041】
図11Cには、図11Aに示された周期的網目パターン21Pを、図11Bに示された網戸の網6の網目6P(図10Bで示したものと同じである)に重ねた状態が示されている。図11A、図11B及び図11Cからも理解され得るように、周期的網目パターン21Pを有する一方向透視性遮蔽材20が網戸の網6上に配置されると、周期的網目パターン21Pと網目6Pの規則的パターンとの干渉によって、明暗の筋(図11Cに示された例では、右上から左下に延びている明暗の筋)が視認されるようになる。
【0042】
なお、図11Aおよび図11Cに示された例では、周期的網目パターン21Pのストライプを構成する多数の直線の配列方向が、網目6の配列方向に対して、数度傾斜している。この傾斜角は画像表示装置或いは印刷の分野ではバイアス角(度)と呼称する。このような傾斜は、上記分野では、モアレを目立たなくさせるものとして広く用いられている手法である。但し、図11Cにモアレが視認されることからも理解され得るように、モアレ発生の程度は単にバイアス角のみで決まる訳では無く、この他、網目6P及び周期的網目パターン21Pの繰返周期比、周期的網目パターン21Pの線幅等の要因にも依存する。周期的網目パターン21Pのバイアス角のみでモアレを解消しようとすると、網戸の網目6Pの大小、レース編みカーテンの等、様々な周期パターン部材との重なりを想定すると、それ毎にバイアス角の異なるものを用意する必要が有り現実的ではない。
【0043】
[網目パターンのパターン形状の作成方法]
ここで、本発明固有の上記網目パターン1Pのパターンを作成する方法の一例を以下に説明する。
【0044】
ここで説明する方法は、母点を決定する工程と、決定された母点からボロノイ図を作成する工程と、ボロノイ図における一つのボロノイ境界によって結ばれる二つのボロノイ点の間を延びる境界線分Lの経路を決定する工程と、決定された経路の太さを決定して各境界線分Lを画定して網目パターン1P(ライン部Lt)のパターンを決定する工程と、を有している。以下、各工程について順に説明していく。なお、上述した図3に示されたパターンは、実際に以下に説明する方法で決定されたパターンである。
【0045】
まず、母点を決定する工程について説明する。最初に、図5に示すように、絶対座標系O−X−Y(この座標系O−X−Yは普通の2次元平面であるが、後述の相対座標と区別する為、頭に「絶対」を付記する)の任意の位置に一つ目の母点(以下、「第1の母点」と呼ぶ)BP1を配置する。次に、図6に示すように、第1の母点BP1から距離rだけ離れた任意の位置に第2の母点BP2を配置する。言い換えると、第1の母点BP1を中心として絶対座標系XY上に位置する半径rの円の円周(以下、「第1の円周」と呼ぶ)上の任意の位置に、第2の母点BP2を配置する。次に、図7に示すように、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つ第2の母点BP2から距離r以上離れた任意の位置に、第3の母点BP3を配置する。その後、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つその他の母点BP2,BP3から距離r以上離れた任意の位置に、第4の母点を配置する。
【0046】
このようにして、次の母点を配置することができなくなるまで、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に母点を配置していく。その後、第2の母点BP2を基準にしてこの作業を続けていく。すなわち、第2の母点BP2から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に、次の母点を配置する。第2の母点BP2を基準にして、次の母点を配置することができなくなるまで、第2の母点BP2から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に母点を配置していく。その後、基準となる母点を順に変更して、同様の手順で母点を形成していく。
【0047】
以上の手順で、網目パターン1Pが形成されるべき領域内に母点を配置することができなくなるまで、母点を配置していく。網目パターン1Pが形成されるべき領域内に母点を配置することができなくなった際に、母点を作製する工程が終了する。ここまでの処理により、2次元平面(XY平面)に於いて不規則的に配置された母点群が、網目パターン1Pが形成されるべき領域内に一様に分散した状態となる。
【0048】
このような工程で2次元平面(XY平面)内に分布された母点群BP1、BP2、・・、BP6(図8(A)参照)について、個々の母点間の距離は一定では無く分布を有する。但し、任意の隣接する2母点間の距離Rの分布は完全なランダム分布(一様分布)でも無く、平均値RAVGを挾んで上限値RMAXと下限値RMINとの間の範囲ΔR=RMAX−RMINの中で分布している。なお、ここで、隣接する2母点であるが、母点群BP1、BP2、・・からボロノイ図を作成した後、2つのボロノイ領域XAが隣接していた場合に(図9参照)、その2つのボロノイ領域XAの母点同士が隣接していると定義する。
【0049】
即ち、ここで説明した母点群について、各母点を原点とする座標系(相対座標系o−x−yと呼称し、一方、現実の2次元平面を規定する座標系を絶対座標系O−X−Yと呼称する)上に、原点に置いた母点と隣接する全母点をプロットした図8(B)、図8(C)、・・等のグラフを全母点について求める。そして、これら全部の相対座標系上の隣接母点群のグラフを、各相対座標系の原点oを重ね合わせて表示すると、図8(D)の如きグラフが得られる。この相対座標形上での隣接母点群の分布パターンは、母点群を構成する任意の隣接する2母点間の距離が0から無限大迄の一様分布では無く、原点oからの距離がRAVG−ΔRからRAVG+ΔR迄の有限の範囲(半径RMINからRMAX迄のドーナツ形領域)内に分布していることを意味する。
【0050】
以上の様にして、各母点間の距離を設定することによって、該母点群から以下に説明する方法で得られるボロノイ領域XA、更には、これから得られる開口部Aの大きさ(乃至は開口部Aの面積)の分布についても、一様分布(完全ランダム)では無く、有限の範囲内に分布したものとなる。
なお、図8(D)からわかる様に、任意の1母点から見た他の母点の方位(角度)分布は等方的(乃至は略等方的)である。このことが、これらの母点(群)から生成される網目パターン1Pに於ける開口部Aの方位(角度)分布が等方的(乃至は略等方的)となることに対応する。
この様に構成することにより、一方向透視性遮蔽材10を通して見る透視風景の明暗ムラが、より一層、効果的に解消する。
【0051】
また、透視する風景に明暗ムラが生じることへの防止効果と、網戸、ブラインド等の周期パターン部材とモアレが生じることへの防止効果との両立性の為には、透孔2の大きさD(開口部Aの大きさ)の分布を、
DAVG−3σ≦D≦DAVG+3σ
としたときに(但し、DAVGは大きさDの平均値、σは大きさDの分布の標準偏差)、
3σ=0.1DAVG〜0.5DAVG
とするのが好ましい。
ここで、透孔2の大きさDは、全ての透孔2について、以下の定義とする。
(1)或る一つの透孔2に属する全ての分岐点B(多角形の場合は全頂点)を通る円が描ける場合は、この透孔2の外接円直径を以って、大きさDとする。
(2)或る一つの透孔2に属する全ての分岐点B(多角形の場合は全頂点)を通る円が描け無い場合は、この透孔2に属する2分岐点B間の距離の最大値(多角形の場合は、最大の対角線長)を以って、大きさDとする。
【0052】
次に、図9に示すように、配置された母点を基準にして、ボロノイ図を作成する。図9に示すように、ボロノイ図とは、隣接する2つの母点BP、BP間に垂直二等分線を引き、その各二等分線同士の交点で結ばれた線分で構成される図である。ここで、二等分線の線分をボロノイ境界XBと呼び、ボロノイ境界XBの端部をなすボロノイ境界XB同士の交点をボロノイ点XPと呼び、ボロノイ境界XBに囲まれた領域をボロノイ領域XAと呼ぶ。
【0053】
図9のように作成されたボロノイ図において、各ボロノイ点XPが、網目パターン1Pの分岐点Bをなすようにする。そして、一つのボロノイ境界XBの端部をなす二つのボロノイ点XPの間に、一つの境界線分Lを設ける。この際、境界線分Lは、図3に示された例のように二つのボロノイ点XPの間を直線状に延びるように決定してもよいし、あるいは、他の境界線分Lと接触しない範囲で二つのボロノイ点XPの間を種々の経路(例えば、円(弧)、楕円(弧)、抛物線、双曲線、正弦曲線、双曲線正弦曲線、楕円函数曲線、ベッセル関数曲線等の曲線状、折れ線状等の経路)で延びるようにしてもよい。なお、境界線分Lは、図3に示された例のように二つのボロノイ点XPの間を直線状に延びるように決定した場合、各ボロノイ境界XBが、境界線分Lを画成するようになる。
【0054】
各境界線分Lの経路を決定した後、各境界線分Lの線幅(太さ)を決定する。境界線分Lの線幅は、作成された網目パターン1Pで画成される多数の開口部Aの集合体としての開口率を勘案して、決定される。以上のようにして、網目パターン1Pのパターンを決定することができる。
【0055】
以上のような本実施形態によれば、一方向透視性遮蔽材10の遮光性基材1が呈する網目パターン1Pが、二つの分岐点Bの間を延びて多数の開口部Aを画成する多数の境界線分Lから形成されており、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっており、且つ、開口部Aが繰返周期を持つ方向が存在しないようになっている。この結果、規則的パターンを有する、網戸の網、鎧戸、ブラインド、レース編みのカーテン等の周期パターン部材と、この一方向透視性遮蔽材10とが重なったときに、モアレが視認され得る程度に発生することを効果的に防止することができる。
なお、上記の生成過程において、母点BPの配置は周期性がないので、この母点BPの位置に透孔2を設けることも考えられる。しかし、透孔2の大きさと形状が定まらないので、仮に同じ円形で大きさを変化させた透孔2を配置した場合、透孔2同士の間の遮光性基材1の幅が様々となり、明暗ムラが生じやすい。
【0056】
〔変形形態〕
本発明の一方向透視性遮蔽材10は、上記した形態以外に様々な形態をとり得る。以下、そのうちの一部を説明する。
【0057】
(単位パターン領域としての繰返し)
上述した実施形態では、一方向透視性遮蔽材10中の多数配置された透孔2を有する全領域において、該透孔2に対応する、網目パターン1Pによって画成される開口部Aが、繰返周期を持つ方向が存在しないようになっている例を説明した。しかしながら、図12の様に、その内部に於いて網目パターン1Pの全領域が、単位パターン領域Sを複数集合して網目パターン1Pの全領域が構成されるようにして、且つ各単位パターン領域S内に於いては、複数の開口部Aが、所定の繰返周期のないパターンで配列されている領域からなるようにしてもよい。
すなわち、この形態に於いては、網目パターン1Pの全領域中に、局所的に見たときに、同一パターンで開口部群が配列されてなる単位パターン領域Sを2箇所以上含むようになる。この場合、特定方向について、一定周期で4箇所以上の繰返しが無ければ、単位パターン領域S同士の繋ぎ目は実質上目立ち難く、無視し得る。もちろん、単位パターン領域S中でモアレも明暗ムラも生じていない。この例において、一つの単位パターン領域S内における網目パターン1Pのパターンは、例えば、図5〜図9を参照しながら説明したパターン作成方法と同様にして作成することができる。
【0058】
特に、適用する窓や扉に合わせて大面積となる一方向透視性遮蔽材10に対しては、網目パターン1Pが、複数の単位パターン領域Sの配列から構成されていて、且つ各々の単位パターン領域S内に於いては互いに同一のパターンで開口部Aが配列されている構成とした複数の単位パターン領域Sを含む形態とした方が、網目パターン1Pのパターン作成を格段に容易化することが可能となる点において好ましい。
【0059】
なお、特に一種類の単位パターン領域Sを図12に示す様に縦横に複数配置する例においては、特定方向(図面縦方向と横方向の2方向)で単位パターン領域Sとしての繰返しが存在する。図12の実施形態に於いては、横方向に繰返周期SP2、縦方向に繰返周期SP1を以って単位パターン領域Sが繰り返される。この条件下では、特定方向に於ける単位パターン領域Sの寸法をLsとし、該特定方向に延びる任意の直線dj上において単位パターン領域Sが寸法Ls内に開口部AをM個有するとき、直線dj上の或る開口部Aに注目すると、直線dj上では開口部Aの個数がM個分だけ離れた位置には、全く同じ寸法tj及び形状の開口部Aが常に存在するという規則性を有する。すなわち、開口部Aの直線dj上での寸法tjについて、直線dj上で順番に数えてk番目の寸法tj(k)と、そこから更にM番目の(k+M)番目の寸法tj(k+M)とが同じとなる、tj(k)=tj(k+M)の関係が成立する(k,Mはそれぞれ独立な正の整数)。
【0060】
しかし、この規則性は、単位パターン領域Sとしての繰返周期(前記で言えば寸法Lsがその繰返周期に該当する)に基づくものであり、開口部Aとしての繰返周期ではなく、各単位パターン領域S内に於いて開口部Aが繰返周期を上記特定方向に持つことではない。また、単位パターン領域Sとしての繰返周期は、網戸、ブラインド、レース編みカーテンなどの周期パターン部材の周期に対して寸法が例えば10倍以上異なるように出来る為に、モアレが発生する様な近い寸法関係にない。
【0061】
図12に示された例では、一方向透視性遮蔽材10が、同一の形状を有した六つの単位パターン領域Sに分割され、各単位パターン領域S内で、網目パターン1Pが同一に構成されている。そして、六つの単位パターン領域Sは、図12の縦方向(図の上下方向)に繰返周期SP1で三つの領域が並ぶとともに、図12の横方向に繰返周期SP2で二つの領域が並ぶように配列されている。
【0062】
(遮光性基材への電磁波遮蔽性の付与)
遮光性基材1は、アルミニウム箔、銅箔の如き導電体から構成することにより、網目パターン1P及びこれより成る一方向透視性遮蔽材10に電磁波遮蔽性を付与することができる。また、このようにして電磁波遮蔽性が付与された一方向透視性遮蔽材10は、屋内(車内)から屋外(車外)に向かって輻射される不要な電磁波、或いは、屋外(車外)から屋内(車内)に向かって輻射される不要な電磁波による電気電子機器への悪影響を解消することができる。
【0063】
(表裏への明度差の設定)
図1に示す本実施形態は、遮光性基材1とこれを貫通する多数の透孔2とからなり、透孔2を除いた部分の遮光性基材1の平面視形状が上記特定の非周期的な網目パターン1Pを呈した
一方、図13に示す、本発明の一方向透視性遮蔽材10の変形例は、図1の構成に於いて、遮光性基材1の表裏両面の外観色が互いに異なり、その一方の面1sが他方の面1rに対して、高い明度、つまり明度を明るした構成である。具体的には、例えば、一方の面1sを白色とし、他方の面1rを黒色とする。この構成は、一方の面1sを屋外(車外)に向けて、他方の面1rを屋内(車内)に向けて用いることで、より効果的に一方向透視性を発揮できる。
【0064】
(透明基材の積層)
図14で示す様に、本発明の一方向透視性遮蔽材10は、多数の透孔2が形成され所定の網目パターン1Pを有する遮光性基材1のみでも良いが、更に、この遮光性基材1に、透孔2が設けられていない透明基材3が積層された構成としても良い。透明基材3には、透孔2は貫通しておらず、且つ透孔2に位置対応した凹部も形成されていない。
透明基材3としては、遮光性基材1で列記した様な樹脂シート(フィルム、板も含む)の他、ソーダガラスなどのガラス板なども用いることができる。透明基材3の厚みは、例えば1〜10mm程度である。
なお、透孔2が透明基材3を貫通する形態もあり得る。また、透孔2の内部が透明物質で充填されている形態もあり得る。
透明基材3と遮光性基材1との積層は透明な接着剤又は粘着剤を用いることができる。例えば、2液硬化型ウレタン樹脂からなる透明接着剤を用いる。なお、図14では、透明基材3と遮光性基材1との間の透明接着剤層乃至は透明粘着剤層の図示は省略してある。
【0065】
透明基材3が積層された構成の一方向透視性遮蔽材10は、次の様にして作製したものでも良い。
厚さ10〜100μmのアルミニウム箔の一方の面に黒化ニッケルめっきを行って黒色とした物を、2液硬化型ウレタン樹脂からなる透明接着剤層を介して、透明基材3上に接着積層する。このとき、アルミニウム箔の黒色面は透明接着剤層側、又は透明接着剤層側とは反対側の何れも可能である。次いで、積層されたアルミニウム箔の表面に、感光性レジストを塗工しレジスト膜を形成する。次いで、所定の網目パターン1Pを有するフォトマスクを介して、その網目パターン1Pを前記レジスト膜に露光する。次いで、このレジスト膜を現像して、網目パターン1Pの開口部Aの部分が露出したレジストパターンを形成した上で、塩化第2鉄水溶液にて、露出した部分のアルミニウム箔を腐食し除去する。次いで、レジスト膜を溶解除去する。
こうすることでも、図14で示す構成の一方向透視性遮蔽材10を作製することができる。
【0066】
以上のように、単に遮光性基材1の1層のみでなく、透明基材3を積層した構成とすることで、遮光性基材1のみでは機械的強度が不足する場合に、透明基材3で補強することができる。また、透明基材3自体を、ガラス窓のガラス等とすることもできる。
【0067】
(絵柄層の付与)
図15で示す様に、本発明の一方向透視性遮蔽材10は、遮光性基材1の一方の面をなす表面に絵柄層4を形成してもよい。本変形形態は、図15(B)の断面図の如く、遮光性基材1の片面に絵柄層4を形成した例である。絵柄層4の形成面(図15(A))は、例えば、屋外(車外)側の表面とする。
遮光性基材1の表面に形成される絵柄層4は、遮光性基材1に形成されている透孔2と同じ平面位置に透孔2を有する。言い換えれば、透孔2は遮光性基材1とこれに積層された絵柄層4を貫通して形成されている。
絵柄層4の形成は、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷等の公知の印刷法により、遮光性基材1の全面又は一部に形成する。絵柄層4の形成は、透孔2の形成前、形成後、いずれも可能である。
絵柄層4の絵柄としては、例えば、文字、数字、幾何学模様(図形)、木目模様、石目模様、風景など任意である。
絵柄層4の絵柄は、単なる美的意匠の他、広告宣伝、標語、案内表示、店舗名や会社名、商品名等の情報でも良い。
尚、図15(B)に於いては、遮光性基材1の一方の面1sにのみ絵柄層4を形成した形態を例示したが、この他、遮光性基材1の両面(一方の面1s及び他方の面1r)に絵柄層を設けることも出来る。こうした形態の場合は、一方の面1sと他方の面1rとで設ける絵柄4を別のものとし、室内(車内)から見た場合と室外(車外)から見た場合とで別々の絵柄を表示することが出来る。
【0068】
図16で示す様に、絵柄層4は、遮光性(屋外乃至は車外からの)及び絵柄の色彩再現性を高める為、最表面側を、有彩色を呈する有彩色パターン層4a、遮光性基材1側を、白色ベタ層4bとした構成も好ましい。
【0069】
〔用途〕
本発明による一方向透視性遮蔽材10は、各種透光性物品に適用することができる。例えば、住宅、店舗、事務所、病院乃至は医院、等の建築物の窓又は扉の表面に貼着する用途である。或いは、自動車、鉄道車両等の車両の窓又は扉の表面に貼着する用途である。これらの窓や扉を構成するガラス、樹脂等の透明板などからなる透光性物品の表面に貼着する。
透明基材3が積層されそれが板状体の形態の場合は、一方向透視性遮蔽材10それ自体を、窓や扉の透明板として用いても良い。
なお、貼着は、公知の透明な接着剤乃至は粘着剤を介して貼着することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 遮光性基材
1P 網目パターン
1r 他方の面
1s 一方の面
2 透孔
3 透明基材
4 絵柄層
4a 有彩色パターン層
4b 白色ベタ層
6 網戸
6P (網戸の)網目
10 一方向透視性遮蔽材
A 開口部
B 分岐点
BP 母点
L 境界線分
Lt ライン部(境界線分の集合)
Oin 屋内の観察者
Oout 屋外の観察者
S 単位パターン領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、透孔を多数有し、一方から他方への透視性が表裏で異なる一方向透視性遮蔽材に関する。
【背景技術】
【0002】
店舗や車の窓ガラス等に貼り付け外側からは絵柄は見えるが内部は見えず、内側からは外側が見える一方向透視性遮蔽材が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
図17は、従来の典型的な一方向透視性遮蔽材20を示す。同図の一方向透視性遮蔽材20は、図17(A)の断面図で示す様に、遮光性基材シート21に、この遮光性基材シート21を貫通する透孔22が多数形成されてなる。多数の透孔22の配置は、図17(B)の平面図で示す様に、例えば正方格子状、三角格子状などと規則的配列をしている。図17(B)に示した透孔22の配置は、縦方向(図面Y軸方向)及び横方向(図面X軸方向)で同じ配列周期で配置した正方格子状の例である。
一方、図17(C)に示した透孔22の配置は、横方向(図面X軸)に規則的に配列したストライプ状の例である。
なお、図示はしないが、遮光性基材1の一方の面には、絵柄が必要に応じて設けられる。
【0004】
こうした一方向透視性遮蔽材20は、具体的には、例えば、樹脂、紙等からなる遮光性基材シート21の全面に、直径1mm前後の透孔22を貫通孔として多数穿孔して形成される。
【0005】
図18の断面図は、この一方向透視性遮蔽材20による一方向透視性の光線制御原理を示す説明図である。
一方向透視性遮蔽材20を、建物或いは車両の窓に貼ると、相対的に明るい屋外(車外)からの光Lout(景色)は、相対的に暗い屋内(車内)の観察者Oinには、透視可能である。
一方、暗い屋内(車内)の光Lin(景色)は、明るい屋外(車外)の観察者Ooutには、日光Snの反射光に紛れて透視不能となる。このため、屋内(車内)から屋外(車外)は透視可能であっても、屋外(車外)から屋内(車内)は透視不可能となる。
なお、この原理は、以下に述べる本発明による一方向透視性遮蔽材10の場合も同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平6−16731号公報
【特許文献2】特許第4580523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の一方向透視性遮蔽材20は、透孔22が縦横に一定周期で配列しているため、この一方向透視性遮蔽材20を適用する窓に、スダレ(簾)、網戸、鎧戸乃至はブラインド、カーテン(それも特にレース編みのもの)等の周期パターンを持つ周期パターン部材と重なった場合、周期パターンの周期と、一方向透視性遮蔽材20の透孔22の配列周期とが干渉して、モアレ(縞模様)を生じ、目障りとなる。
【0008】
そこで、本発明者らは、一方向透視性遮蔽材20について、モアレが生じない様にする為に、透孔22の配列を、非周期性のランダムパターンとすることを試みた。
【0009】
例えば、画像表示装置分野でプラズマディスプレイパネルの画面に設置する電磁波遮蔽フィルタ用の導電体メッシュに対して、国際公開第2007/114076号のパンフレット、特開平11−121974号公報で提案された、各種ランダムメッシュパターンを試みた。
【0010】
前者の公報で開示されたメッシュパターンは、よりランダム性が高いランダムパターンであり、モアレは完全に解消するが、透孔22による開口面積の面分布のバラツキが大きく、透視風景に明暗ムラが目立つという新たな問題が判明した。
【0011】
後者の公報で開示されたメッシュパターンは、前者より周期性が高いランダムパターンであり、明暗ムラは目立たないが、モアレが残留するという問題が判明した。
【0012】
このように、従来の一方向透視性遮蔽材20は、その透孔22の周期的配列によって、網戸等の周期パターン部材とのモアレが発生し、また、従来の非周期的なランダムパターンであっても、モアレ防止と透視風景の明暗ムラ防止とを、両立させることができなかった。
【0013】
すなわち、本発明の課題は、一方向透視性遮蔽材について、その透孔の周期的配列に起因するモアレの防止と共に、モアレ防止の為に透孔の配置を非周期的にしたときの明暗ムラの発生も防止し、これらモアレ防止と明暗ムラ防止とを両立させることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明では、次の様な構成の一方向透視性遮蔽材とした。
(1)遮光性基材と、この遮光性基材を貫通する多数の透孔を有する一方向透視性遮蔽材において、
前記透孔が設けられた遮光性基材を、一方向透視性遮蔽材のシート面の法線方向からみたときの平面視形状が網目パターンを呈し、
この網目パターンが、透孔に対応する多数の開口部を画成し、二つの分岐点の間を延びて前記開口部を画成する多数の境界線分から形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口部が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンである、一方向透視性遮蔽材。
(2)上記開口部の形状が、五角形、六角形及び七角形から選ばれた2種以上の多角形を含んでなる、上記(1)の一方向透視性遮蔽材。
(3)一方の面が他方の面に比べて高明度である、上記(1)または(2)の一方向透視性遮蔽材。
(4)多数の透孔が設けられた遮光性基材に、透孔が設けられていない透明基材が積層されている、上記(1)〜(3)のいずれかの一方向透視性遮蔽材。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一方向透視性遮蔽材によれば、遮光性基材の網目パターン(メッシュパターン)によって画成される透孔の配置が非周期的配列となるため、モアレ発生を効果的に防止できると共に、透孔群の開口面積の粗密による透視風景の明暗ムラも防止でき、モアレ防止と明暗ムラ防止を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による一方向透視性遮蔽材の一実施形態を説明する断面図(A)と平面図(B)。
【図2】透孔乃至は開口部の形状例を説明する平面図。
【図3】網目パターンの一例を示す平面図。
【図4】網目パターンに繰返周期が存在しないことを説明する平面図。
【図5】網目パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図6】網目パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図7】網目パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図8】決定された母点群の分散の程度を絶対座標系と相対座標系で説明する図。
【図9】決定された母点からボロノイ図を作成して網目パターンを決定する方法を示す図。
【図10A】本発明による網目パターンを示す平面図。
【図10B】網戸の網目を示す平面図。
【図10C】図10Aと図10Bとを重ねた状態を示す平面図。
【図11A】従来の一方向透視性遮蔽材が有する透孔の周期的配列(ストライブ状)を示す平面図。
【図11B】網戸の網目を示す平面図。
【図11C】図11Aと図11Bとを重ねた状態を示す平面図。
【図12】網目パターンが一方向透視性遮蔽材の寸法の1/3以上の大きさの単位パターン領域として繰り返された一例を示す平面図。
【図13】本発明による一方向透視性遮蔽材の別の実施形態(表裏明度差)を例示する断面図。
【図14】本発明による一方向透視性遮蔽材の別の実施形態(透明基材付き)を示す断面図。
【図15】本発明による一方向透視性遮蔽材の別の実施形態(絵柄層付き)を示す平面図(A)と断面図(B)。
【図16】本発明による一方向透視性遮蔽材の別の実施形態(絵柄層付き)を示す断面図。
【図17】従来の一方向透視性遮蔽材を例示する断面図(A)と平面図(B)及び(C)。
【図18】一方向透視性遮蔽材における一方向透視性の光線制御原理を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面は概念図であり、説明上の都合に応じて適宜、構成要素の縮尺関係、縦横比等は誇張されていることがある。
【0018】
先ず、本発明による一方向透視性遮蔽材を、図1に示す一実施形態例を参照して説明する。
【0019】
本発明の一方向透視性遮蔽材は、図1(A)の断面図、及び図1(B)の平面図で示す実施形態の一方向透視性遮蔽材10の様に、遮光性基材1と、この遮光性基材1の表裏を貫通する様に形成された多数の透孔2とを、少なくとも有する。
しかも、前記透孔2が設けられた遮光性基材1を、一方向透視性遮蔽材10のシート面の法線方向(図面ではZ軸方向)からみたときの平面視形状である網目パターン1Pが、本発明固有の非周期的パターンをしている。
【0020】
ここで、本発明で用いる主要な用語の定義を説明しておく。
「シート面」とは、シート状の一方向透視性遮蔽材10を全体的かつ大局的に見た場合において、この一方向透視性遮蔽材10の平面方向と一致する面のことを意味する。「シート面」は、通常、遮光性基材1の一方の面又は他方の面(表面又は裏面)と平行な面でもあり、図1に於いては、XY平面又はこれと平行な面となる。
「平面視形状」とは、「シート面」に平行な面に於ける形状のことを意味する。言い換えると、「平面視形状」とは、「シート面」に立てた法線の方向から見た形状のことを意味する。図1ではZ軸方向が法線方向である。
「シート」、「フィルム」、「板」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。したがって、例えば、「シート」はフィルムや板とも呼ばれ得るような部材も含む概念である。
【0021】
図1(B)で示す様に、前記網目パターン1Pは、透孔2に対応する多数の開口部Aを画成し、二つの分岐点Bの間を延びて前記開口部Aを画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口部Aが一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンからなる。
前記開口部Aは、透孔2の平面視形状に相当する。
【0022】
このため、上記透孔2は従来のような周期的配列ではなく、上記透孔2を画成する網目パターン1Pが特定の非周期的パターンであるために、網戸やレース編みカーテン等の周期パターン部材と重なった時に、その周期パターンの周期との干渉によるモアレも、配置された透孔2による局所的面積率の粗密による明暗ムラも生じず、モアレと明暗ムラとを極めて効果的に抑制しながら、一方向透視性を発揮させることが可能となる。
【0023】
〔遮光性基材〕
遮光性基材1の材料としては、遮光性を有する基材であれば良く、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の樹脂シート(フィルム、板も含む)中に、チタン白、カーボンブラック等の着色顔料を添加した物、或いは、前記樹脂シートの片面又は両面にチタン白、カーボンブラック等の着色顔料を含む塗膜を形成した物、或いは、上質紙、硫酸紙、パーチメント紙等の紙、アルミニウム、銅などの金属箔等の片面又は両面に、チタン白、カーボンブラック等の着色顔料を含む塗膜を形成した物、などを用いることができる。
遮光性基材1の厚みは、例えば20〜3000μm程度である。
【0024】
[網目パターンの作製方法]
上記網目パターン1Pは、所定の網目パターン1Pの刃型を有する打抜型を用いて、遮光性基材1を打ち抜いて、遮光性基材1に所定の透孔2を穿孔することにより形成することができる。透孔2以外の部分の遮光性基材1が、網目パターン1Pに於いて境界線分Lを構成する。
【0025】
[透孔]
透孔2(乃至はその平面視形状である開口部A、以下同様)の開口率(多数の透孔2の総面積割合)は、モアレ防止及び明暗ムラ防止の両立の為には、20〜60%程度とするのが好ましい。
【0026】
透孔2の形状は、図2の平面図で示すように、図2(A)の五角形、図2(B)の六角形及び図2(C)の七角形から選ばれた2種以上の多角形からなることが、好ましい。図2が不等辺多角形を例示するように、透孔2を構成する多角形は正多角形である必要はないが、正多角形を含んでいても良い。
このように構成することによって、モアレを目立たなくさせることが出来ると共に、明暗ムラもより確実に目立たなくさせることができる。
更に好ましくは、開口部Aの形状が五角形、六角形、及び七角形を含む様にする。
例えば、図10Aの形態で使用した網目パターン1Pについて、合計4631個の開口部A(多角形)について計測したところ、
3角形 0個
4角形 79個
5角形 1141個
6角形 2382個
7角形 927個
8角形 94個
9角形 8個
10角形以上 0個
であった。
なお、この網目パターン1Pについて、分岐点Bから出る境界線分Lの平均本数を計測したところ3.07であった。
【0027】
透孔2の寸法は、相対的に暗い屋内(車内)から相対的に明るい屋外(車外)の風景が十分に視認されると同時に、相対的に明るい屋外(車外)から相対的に暗い屋内(車内)の風景が十分に視認不能となる為には、透孔2の大きさD(開口部Aの大きさ)の平均値DAVGを、500〜3000μmとするのが好ましい。
【0028】
[網目パターンとこれにより画成される開口部]
網目パターン1Pは、遮光性基材1を、層面乃至はシート面の法線方向(図1でZ軸方向)から観察した場合における、透孔2の部分が欠落した遮光性基材1の平面視形状である。以下、この網目パターン1Pについて、図3および図9を主として参照しながら説明する。
【0029】
網目パターン1Pは、図3に示す如く、二つの分岐点Bの間を延びて開口部Aを画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが、3.0≦N<4.0、つまり、3.0以上で4.0未満であり、且つ、前記境界線分Lで画成された前記開口部Aに繰返周期を持つ方向が存在しない領域を含んでなるパターンとなっている。
【0030】
図3および図9に示すように、網目パターン1Pのライン部Ltは、多数の分岐点Bを含んでいる。網目パターン1Pのライン部Ltは、両端において分岐点Bを形成する多数の境界線分Lから構成されている。すなわち、網目パターン1Pのライン部Ltは、二つの分岐点Bの間を延びる多数の境界線分Lから構成されている。そして、分岐点Bにおいて、境界線分Lが接続されていくことにより、開口部Aが画成されている。言葉を換えて言うと、境界線分Lで囲繞され、区画されて1つの閉領域としての開口部Aが画成されている。
なお、網目パターン1Pは、開口部Aが繰返周期を持つ方向が存在しない配列となって、モアレを防ぐ効果が十分に発現される為には、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口部Aの面積及び形状は一定でないようなパターンとすると良い。好ましくは、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口部Aの50%以上が互いにその面積及び形状が異なるようにする。より好ましくは、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口部Aを網目パターン1Pの全域に亙って、全て互いにその面積及び形状が異なるようにする。これは、言い換えると、網目パターン1Pに含まれる開口部Aのうち、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一となる開口部Aの形状及び面積がすべて同一ではなく、少なくとも一部は他と異なるものになると言うことを意味する。なお、ここで周囲を囲繞する境界線分Lの数とは、開口部Aが多角形である場合は、その多角形の角数と一致する。また、以上に於いて、2つの開口部A同士が互いに合同な図形であって且つその向きが異なる場合も、これらの2つの開口部Aの形状は互いに異なると見做す。
【0031】
なお、図3および図9に示すように、ライン部Ltが境界線分Lのみから構成されているため、開口部Aの内部に延び入って行き止まりとなるライン部Ltは存在しない。
【0032】
一方、モアレの発生を防止するため、本実施形態による一方向透視性遮蔽材10の遮光性基材1が呈する網目パターン1Pでは、その全領域が、開口部Aが繰返周期を有する方向が存在しないようになっている。モアレを確実に解消する為には、網目パターン1Pの全領域がこのような領域のみから構成されていることが好ましい。本実施形態はこの様な構成からなる。本件発明者らは、鋭意研究を重ねた結果として、単に網目パターン1Pのパターンを不規則化するのではなく、網目パターン1Pの開口部Aが一定の規則性を持った繰返周期で並べられた方向が存在しないように網目パターン1Pのパターンを画成することにより、透孔2が周期的配列された構成の従来の一方向透視性遮蔽材20と、周期パターンを有する網戸やレース編みカーテン等の周期パターン部材とを重ねた際に生じ得るモアレを、極めて効果的に目立たなくさせることが出来ると判明した。
【0033】
[繰返周期の不存在]
図4は、網目パターン1Pで画成される多数の開口部Aが、一定の周期で配置されている領域が存在せず、繰返周期が存在しないことを説明するXY平面に平行なシート面に於ける平面図である。このシート面の面内において、同図では、任意の位置で任意の方向を向く一本の仮想的な直線diが選ばれている。
この一本の直線diが、ライン部Ltの境界線分Lと交差し交差点が形成される。この交差点を、図面では図面左下から順に、交差点c1,c2,c3,・・・・・,c9として図示してある。隣接する交差点、例えば、交差点c1と交差点c2との距離が、前記或る一つの開口部Aの直線di上での寸法t1である。次に、寸法t1の開口部Aに対して直線di上で隣接する別の開口部Aについても、同様に、直線di上での寸法t2が定まる。そして、任意位置で任意方向の直線diについて、直線diと交差する境界線分Lとから、任意位置で任意方向の直線diと遭遇する多数の開口部Aについて、該直線di上における寸法として、t1,t2,t3,・・・・・・,t8が定まる。そして、t1,t2,t3,・・・・・・,t8の数値の並びには、周期性が存在しない。
図4では、このt1,t2,t3,・・・・・・,t8は、判り易い様に図面下方に、直線diと共に網目パターン1Pとは分離して描いてある。
【0034】
この直線diを図4で図示のものから任意の位置で任意の角度回転させて別の方向について各開口部Aの寸法t1,t2,・・を求めると、やはり図4の場合と同様、直線di方向に対して繰返し周期性は見られない。
すなわち、このt1,t2,t3,・・・・・・,t8の数値の並びの様に、境界線分Lで画成された開口部Aには繰返周期を持つ方向が存在しない。
言い換えると、開口部Aの配置において、任意位置を通る任意方向の仮想的線分di上での開口部Aの寸法tiの並びの数列が非周期関数となる。すなわち、t(i)=t(i+M)となるMが存在しない(i,Mはそれぞれ独立な正の整数)。
このように、開口部Aが繰返周期を持つ方向が存在しないことを、開口部Aが一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない、と表現する。
【0035】
さらに、本実施形態による一方向透視性遮蔽材10の遮光性基材1が呈する網目パターン1Pでは、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっている。このように一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっている場合、網目パターン1Pの配列パターンを、正方格子パターン(N=4.0)から大きく異なるパターンとすることができる。なお、正方格子パターンの例示としては図10Bに示す網戸6の網目6Pを挙げることができる。また、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0<N<4.0となっている場合には、ハニカム配列(N=3.0)からも大きく異なるパターンとすることができる。そして、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nを3.0≦N<4.0とした上で、開口部Aの配列を不規則化して、開口部Aが繰返周期を持って並べられた方向が安定して存在しないようにすることが可能となり、その結果、モアレを極めて効果的に目立たなくさせることが可能となることが、確認された。
【0036】
なお、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nは、厳密には、網目パターン1P内に含まれる全ての分岐点Bについて、延び出す境界線分Lの数を調べてその平均値を算出することになる。ただし、実際的には、ライン部Ltによって画成された一つ当たりの開口部Aの大きさ等を考慮した上で、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の全体的な傾向を反映し得ると期待される面積を持つ一区画(例えば、後述の寸法例で開口部Aが形成されている網目パターン1Pにおいては、10mm×10mmの部分)に含まれる分岐点Bについて延び出す境界線分Lの数を調べてその平均値を算出し、算出された値を当該網目パターン1Pについての一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nとして取り扱うようにしてもよい。
【0037】
実際に、図3に示された一方向透視性遮蔽材10の遮光性基材1が呈する網目パターン1Pでは、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0<N<4.0となっている。一例を挙げると、図3の網目パターン1Pの場合、合計387個の分岐点Bについて計測したところ、境界線分Lが3本の分岐点Bが373個、境界線分Lが4本の分岐点Bが14個であり(分岐する境界線分Lの数が5個以上の分岐点は0個)、分岐点Bから出る境界線分Lの平均本数(平均分岐数)は3.04個であった。
【0038】
[網戸の網との干渉によるモアレ発生状況]
図10Cには、図3及び図10Aに示された、本発明による一方向透視性遮蔽材10の網目パターン1Pを、図10Bに示された網戸の網6と重ねた状態が示されている。図10Bで示された網戸の網6が有する網目6Pは、縦横の周期が等しい正方格子状パターンをしている。
【0039】
図10Cからも理解され得るように、図3及び図10A示された網目パターン1Pを実際に作製して網戸の網6に重ね合わせた場合、視認され得る程度の縞状の模様、すなわちモアレ(干渉縞)は発生しなかった。
【0040】
一方、従来の一方向透視性遮蔽材20の様に、周期パターンである周期的網目パターン21Pで画成される開口部Aに一定の繰返周期が存在する場合のモアレ発生を例示するのが図11A〜図11Cである。図11Aに図示したものは、遮光性基材21が呈するストライプ状の周期的網目パターン21Pである。
【0041】
図11Cには、図11Aに示された周期的網目パターン21Pを、図11Bに示された網戸の網6の網目6P(図10Bで示したものと同じである)に重ねた状態が示されている。図11A、図11B及び図11Cからも理解され得るように、周期的網目パターン21Pを有する一方向透視性遮蔽材20が網戸の網6上に配置されると、周期的網目パターン21Pと網目6Pの規則的パターンとの干渉によって、明暗の筋(図11Cに示された例では、右上から左下に延びている明暗の筋)が視認されるようになる。
【0042】
なお、図11Aおよび図11Cに示された例では、周期的網目パターン21Pのストライプを構成する多数の直線の配列方向が、網目6の配列方向に対して、数度傾斜している。この傾斜角は画像表示装置或いは印刷の分野ではバイアス角(度)と呼称する。このような傾斜は、上記分野では、モアレを目立たなくさせるものとして広く用いられている手法である。但し、図11Cにモアレが視認されることからも理解され得るように、モアレ発生の程度は単にバイアス角のみで決まる訳では無く、この他、網目6P及び周期的網目パターン21Pの繰返周期比、周期的網目パターン21Pの線幅等の要因にも依存する。周期的網目パターン21Pのバイアス角のみでモアレを解消しようとすると、網戸の網目6Pの大小、レース編みカーテンの等、様々な周期パターン部材との重なりを想定すると、それ毎にバイアス角の異なるものを用意する必要が有り現実的ではない。
【0043】
[網目パターンのパターン形状の作成方法]
ここで、本発明固有の上記網目パターン1Pのパターンを作成する方法の一例を以下に説明する。
【0044】
ここで説明する方法は、母点を決定する工程と、決定された母点からボロノイ図を作成する工程と、ボロノイ図における一つのボロノイ境界によって結ばれる二つのボロノイ点の間を延びる境界線分Lの経路を決定する工程と、決定された経路の太さを決定して各境界線分Lを画定して網目パターン1P(ライン部Lt)のパターンを決定する工程と、を有している。以下、各工程について順に説明していく。なお、上述した図3に示されたパターンは、実際に以下に説明する方法で決定されたパターンである。
【0045】
まず、母点を決定する工程について説明する。最初に、図5に示すように、絶対座標系O−X−Y(この座標系O−X−Yは普通の2次元平面であるが、後述の相対座標と区別する為、頭に「絶対」を付記する)の任意の位置に一つ目の母点(以下、「第1の母点」と呼ぶ)BP1を配置する。次に、図6に示すように、第1の母点BP1から距離rだけ離れた任意の位置に第2の母点BP2を配置する。言い換えると、第1の母点BP1を中心として絶対座標系XY上に位置する半径rの円の円周(以下、「第1の円周」と呼ぶ)上の任意の位置に、第2の母点BP2を配置する。次に、図7に示すように、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つ第2の母点BP2から距離r以上離れた任意の位置に、第3の母点BP3を配置する。その後、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つその他の母点BP2,BP3から距離r以上離れた任意の位置に、第4の母点を配置する。
【0046】
このようにして、次の母点を配置することができなくなるまで、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に母点を配置していく。その後、第2の母点BP2を基準にしてこの作業を続けていく。すなわち、第2の母点BP2から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に、次の母点を配置する。第2の母点BP2を基準にして、次の母点を配置することができなくなるまで、第2の母点BP2から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に母点を配置していく。その後、基準となる母点を順に変更して、同様の手順で母点を形成していく。
【0047】
以上の手順で、網目パターン1Pが形成されるべき領域内に母点を配置することができなくなるまで、母点を配置していく。網目パターン1Pが形成されるべき領域内に母点を配置することができなくなった際に、母点を作製する工程が終了する。ここまでの処理により、2次元平面(XY平面)に於いて不規則的に配置された母点群が、網目パターン1Pが形成されるべき領域内に一様に分散した状態となる。
【0048】
このような工程で2次元平面(XY平面)内に分布された母点群BP1、BP2、・・、BP6(図8(A)参照)について、個々の母点間の距離は一定では無く分布を有する。但し、任意の隣接する2母点間の距離Rの分布は完全なランダム分布(一様分布)でも無く、平均値RAVGを挾んで上限値RMAXと下限値RMINとの間の範囲ΔR=RMAX−RMINの中で分布している。なお、ここで、隣接する2母点であるが、母点群BP1、BP2、・・からボロノイ図を作成した後、2つのボロノイ領域XAが隣接していた場合に(図9参照)、その2つのボロノイ領域XAの母点同士が隣接していると定義する。
【0049】
即ち、ここで説明した母点群について、各母点を原点とする座標系(相対座標系o−x−yと呼称し、一方、現実の2次元平面を規定する座標系を絶対座標系O−X−Yと呼称する)上に、原点に置いた母点と隣接する全母点をプロットした図8(B)、図8(C)、・・等のグラフを全母点について求める。そして、これら全部の相対座標系上の隣接母点群のグラフを、各相対座標系の原点oを重ね合わせて表示すると、図8(D)の如きグラフが得られる。この相対座標形上での隣接母点群の分布パターンは、母点群を構成する任意の隣接する2母点間の距離が0から無限大迄の一様分布では無く、原点oからの距離がRAVG−ΔRからRAVG+ΔR迄の有限の範囲(半径RMINからRMAX迄のドーナツ形領域)内に分布していることを意味する。
【0050】
以上の様にして、各母点間の距離を設定することによって、該母点群から以下に説明する方法で得られるボロノイ領域XA、更には、これから得られる開口部Aの大きさ(乃至は開口部Aの面積)の分布についても、一様分布(完全ランダム)では無く、有限の範囲内に分布したものとなる。
なお、図8(D)からわかる様に、任意の1母点から見た他の母点の方位(角度)分布は等方的(乃至は略等方的)である。このことが、これらの母点(群)から生成される網目パターン1Pに於ける開口部Aの方位(角度)分布が等方的(乃至は略等方的)となることに対応する。
この様に構成することにより、一方向透視性遮蔽材10を通して見る透視風景の明暗ムラが、より一層、効果的に解消する。
【0051】
また、透視する風景に明暗ムラが生じることへの防止効果と、網戸、ブラインド等の周期パターン部材とモアレが生じることへの防止効果との両立性の為には、透孔2の大きさD(開口部Aの大きさ)の分布を、
DAVG−3σ≦D≦DAVG+3σ
としたときに(但し、DAVGは大きさDの平均値、σは大きさDの分布の標準偏差)、
3σ=0.1DAVG〜0.5DAVG
とするのが好ましい。
ここで、透孔2の大きさDは、全ての透孔2について、以下の定義とする。
(1)或る一つの透孔2に属する全ての分岐点B(多角形の場合は全頂点)を通る円が描ける場合は、この透孔2の外接円直径を以って、大きさDとする。
(2)或る一つの透孔2に属する全ての分岐点B(多角形の場合は全頂点)を通る円が描け無い場合は、この透孔2に属する2分岐点B間の距離の最大値(多角形の場合は、最大の対角線長)を以って、大きさDとする。
【0052】
次に、図9に示すように、配置された母点を基準にして、ボロノイ図を作成する。図9に示すように、ボロノイ図とは、隣接する2つの母点BP、BP間に垂直二等分線を引き、その各二等分線同士の交点で結ばれた線分で構成される図である。ここで、二等分線の線分をボロノイ境界XBと呼び、ボロノイ境界XBの端部をなすボロノイ境界XB同士の交点をボロノイ点XPと呼び、ボロノイ境界XBに囲まれた領域をボロノイ領域XAと呼ぶ。
【0053】
図9のように作成されたボロノイ図において、各ボロノイ点XPが、網目パターン1Pの分岐点Bをなすようにする。そして、一つのボロノイ境界XBの端部をなす二つのボロノイ点XPの間に、一つの境界線分Lを設ける。この際、境界線分Lは、図3に示された例のように二つのボロノイ点XPの間を直線状に延びるように決定してもよいし、あるいは、他の境界線分Lと接触しない範囲で二つのボロノイ点XPの間を種々の経路(例えば、円(弧)、楕円(弧)、抛物線、双曲線、正弦曲線、双曲線正弦曲線、楕円函数曲線、ベッセル関数曲線等の曲線状、折れ線状等の経路)で延びるようにしてもよい。なお、境界線分Lは、図3に示された例のように二つのボロノイ点XPの間を直線状に延びるように決定した場合、各ボロノイ境界XBが、境界線分Lを画成するようになる。
【0054】
各境界線分Lの経路を決定した後、各境界線分Lの線幅(太さ)を決定する。境界線分Lの線幅は、作成された網目パターン1Pで画成される多数の開口部Aの集合体としての開口率を勘案して、決定される。以上のようにして、網目パターン1Pのパターンを決定することができる。
【0055】
以上のような本実施形態によれば、一方向透視性遮蔽材10の遮光性基材1が呈する網目パターン1Pが、二つの分岐点Bの間を延びて多数の開口部Aを画成する多数の境界線分Lから形成されており、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっており、且つ、開口部Aが繰返周期を持つ方向が存在しないようになっている。この結果、規則的パターンを有する、網戸の網、鎧戸、ブラインド、レース編みのカーテン等の周期パターン部材と、この一方向透視性遮蔽材10とが重なったときに、モアレが視認され得る程度に発生することを効果的に防止することができる。
なお、上記の生成過程において、母点BPの配置は周期性がないので、この母点BPの位置に透孔2を設けることも考えられる。しかし、透孔2の大きさと形状が定まらないので、仮に同じ円形で大きさを変化させた透孔2を配置した場合、透孔2同士の間の遮光性基材1の幅が様々となり、明暗ムラが生じやすい。
【0056】
〔変形形態〕
本発明の一方向透視性遮蔽材10は、上記した形態以外に様々な形態をとり得る。以下、そのうちの一部を説明する。
【0057】
(単位パターン領域としての繰返し)
上述した実施形態では、一方向透視性遮蔽材10中の多数配置された透孔2を有する全領域において、該透孔2に対応する、網目パターン1Pによって画成される開口部Aが、繰返周期を持つ方向が存在しないようになっている例を説明した。しかしながら、図12の様に、その内部に於いて網目パターン1Pの全領域が、単位パターン領域Sを複数集合して網目パターン1Pの全領域が構成されるようにして、且つ各単位パターン領域S内に於いては、複数の開口部Aが、所定の繰返周期のないパターンで配列されている領域からなるようにしてもよい。
すなわち、この形態に於いては、網目パターン1Pの全領域中に、局所的に見たときに、同一パターンで開口部群が配列されてなる単位パターン領域Sを2箇所以上含むようになる。この場合、特定方向について、一定周期で4箇所以上の繰返しが無ければ、単位パターン領域S同士の繋ぎ目は実質上目立ち難く、無視し得る。もちろん、単位パターン領域S中でモアレも明暗ムラも生じていない。この例において、一つの単位パターン領域S内における網目パターン1Pのパターンは、例えば、図5〜図9を参照しながら説明したパターン作成方法と同様にして作成することができる。
【0058】
特に、適用する窓や扉に合わせて大面積となる一方向透視性遮蔽材10に対しては、網目パターン1Pが、複数の単位パターン領域Sの配列から構成されていて、且つ各々の単位パターン領域S内に於いては互いに同一のパターンで開口部Aが配列されている構成とした複数の単位パターン領域Sを含む形態とした方が、網目パターン1Pのパターン作成を格段に容易化することが可能となる点において好ましい。
【0059】
なお、特に一種類の単位パターン領域Sを図12に示す様に縦横に複数配置する例においては、特定方向(図面縦方向と横方向の2方向)で単位パターン領域Sとしての繰返しが存在する。図12の実施形態に於いては、横方向に繰返周期SP2、縦方向に繰返周期SP1を以って単位パターン領域Sが繰り返される。この条件下では、特定方向に於ける単位パターン領域Sの寸法をLsとし、該特定方向に延びる任意の直線dj上において単位パターン領域Sが寸法Ls内に開口部AをM個有するとき、直線dj上の或る開口部Aに注目すると、直線dj上では開口部Aの個数がM個分だけ離れた位置には、全く同じ寸法tj及び形状の開口部Aが常に存在するという規則性を有する。すなわち、開口部Aの直線dj上での寸法tjについて、直線dj上で順番に数えてk番目の寸法tj(k)と、そこから更にM番目の(k+M)番目の寸法tj(k+M)とが同じとなる、tj(k)=tj(k+M)の関係が成立する(k,Mはそれぞれ独立な正の整数)。
【0060】
しかし、この規則性は、単位パターン領域Sとしての繰返周期(前記で言えば寸法Lsがその繰返周期に該当する)に基づくものであり、開口部Aとしての繰返周期ではなく、各単位パターン領域S内に於いて開口部Aが繰返周期を上記特定方向に持つことではない。また、単位パターン領域Sとしての繰返周期は、網戸、ブラインド、レース編みカーテンなどの周期パターン部材の周期に対して寸法が例えば10倍以上異なるように出来る為に、モアレが発生する様な近い寸法関係にない。
【0061】
図12に示された例では、一方向透視性遮蔽材10が、同一の形状を有した六つの単位パターン領域Sに分割され、各単位パターン領域S内で、網目パターン1Pが同一に構成されている。そして、六つの単位パターン領域Sは、図12の縦方向(図の上下方向)に繰返周期SP1で三つの領域が並ぶとともに、図12の横方向に繰返周期SP2で二つの領域が並ぶように配列されている。
【0062】
(遮光性基材への電磁波遮蔽性の付与)
遮光性基材1は、アルミニウム箔、銅箔の如き導電体から構成することにより、網目パターン1P及びこれより成る一方向透視性遮蔽材10に電磁波遮蔽性を付与することができる。また、このようにして電磁波遮蔽性が付与された一方向透視性遮蔽材10は、屋内(車内)から屋外(車外)に向かって輻射される不要な電磁波、或いは、屋外(車外)から屋内(車内)に向かって輻射される不要な電磁波による電気電子機器への悪影響を解消することができる。
【0063】
(表裏への明度差の設定)
図1に示す本実施形態は、遮光性基材1とこれを貫通する多数の透孔2とからなり、透孔2を除いた部分の遮光性基材1の平面視形状が上記特定の非周期的な網目パターン1Pを呈した
一方、図13に示す、本発明の一方向透視性遮蔽材10の変形例は、図1の構成に於いて、遮光性基材1の表裏両面の外観色が互いに異なり、その一方の面1sが他方の面1rに対して、高い明度、つまり明度を明るした構成である。具体的には、例えば、一方の面1sを白色とし、他方の面1rを黒色とする。この構成は、一方の面1sを屋外(車外)に向けて、他方の面1rを屋内(車内)に向けて用いることで、より効果的に一方向透視性を発揮できる。
【0064】
(透明基材の積層)
図14で示す様に、本発明の一方向透視性遮蔽材10は、多数の透孔2が形成され所定の網目パターン1Pを有する遮光性基材1のみでも良いが、更に、この遮光性基材1に、透孔2が設けられていない透明基材3が積層された構成としても良い。透明基材3には、透孔2は貫通しておらず、且つ透孔2に位置対応した凹部も形成されていない。
透明基材3としては、遮光性基材1で列記した様な樹脂シート(フィルム、板も含む)の他、ソーダガラスなどのガラス板なども用いることができる。透明基材3の厚みは、例えば1〜10mm程度である。
なお、透孔2が透明基材3を貫通する形態もあり得る。また、透孔2の内部が透明物質で充填されている形態もあり得る。
透明基材3と遮光性基材1との積層は透明な接着剤又は粘着剤を用いることができる。例えば、2液硬化型ウレタン樹脂からなる透明接着剤を用いる。なお、図14では、透明基材3と遮光性基材1との間の透明接着剤層乃至は透明粘着剤層の図示は省略してある。
【0065】
透明基材3が積層された構成の一方向透視性遮蔽材10は、次の様にして作製したものでも良い。
厚さ10〜100μmのアルミニウム箔の一方の面に黒化ニッケルめっきを行って黒色とした物を、2液硬化型ウレタン樹脂からなる透明接着剤層を介して、透明基材3上に接着積層する。このとき、アルミニウム箔の黒色面は透明接着剤層側、又は透明接着剤層側とは反対側の何れも可能である。次いで、積層されたアルミニウム箔の表面に、感光性レジストを塗工しレジスト膜を形成する。次いで、所定の網目パターン1Pを有するフォトマスクを介して、その網目パターン1Pを前記レジスト膜に露光する。次いで、このレジスト膜を現像して、網目パターン1Pの開口部Aの部分が露出したレジストパターンを形成した上で、塩化第2鉄水溶液にて、露出した部分のアルミニウム箔を腐食し除去する。次いで、レジスト膜を溶解除去する。
こうすることでも、図14で示す構成の一方向透視性遮蔽材10を作製することができる。
【0066】
以上のように、単に遮光性基材1の1層のみでなく、透明基材3を積層した構成とすることで、遮光性基材1のみでは機械的強度が不足する場合に、透明基材3で補強することができる。また、透明基材3自体を、ガラス窓のガラス等とすることもできる。
【0067】
(絵柄層の付与)
図15で示す様に、本発明の一方向透視性遮蔽材10は、遮光性基材1の一方の面をなす表面に絵柄層4を形成してもよい。本変形形態は、図15(B)の断面図の如く、遮光性基材1の片面に絵柄層4を形成した例である。絵柄層4の形成面(図15(A))は、例えば、屋外(車外)側の表面とする。
遮光性基材1の表面に形成される絵柄層4は、遮光性基材1に形成されている透孔2と同じ平面位置に透孔2を有する。言い換えれば、透孔2は遮光性基材1とこれに積層された絵柄層4を貫通して形成されている。
絵柄層4の形成は、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷等の公知の印刷法により、遮光性基材1の全面又は一部に形成する。絵柄層4の形成は、透孔2の形成前、形成後、いずれも可能である。
絵柄層4の絵柄としては、例えば、文字、数字、幾何学模様(図形)、木目模様、石目模様、風景など任意である。
絵柄層4の絵柄は、単なる美的意匠の他、広告宣伝、標語、案内表示、店舗名や会社名、商品名等の情報でも良い。
尚、図15(B)に於いては、遮光性基材1の一方の面1sにのみ絵柄層4を形成した形態を例示したが、この他、遮光性基材1の両面(一方の面1s及び他方の面1r)に絵柄層を設けることも出来る。こうした形態の場合は、一方の面1sと他方の面1rとで設ける絵柄4を別のものとし、室内(車内)から見た場合と室外(車外)から見た場合とで別々の絵柄を表示することが出来る。
【0068】
図16で示す様に、絵柄層4は、遮光性(屋外乃至は車外からの)及び絵柄の色彩再現性を高める為、最表面側を、有彩色を呈する有彩色パターン層4a、遮光性基材1側を、白色ベタ層4bとした構成も好ましい。
【0069】
〔用途〕
本発明による一方向透視性遮蔽材10は、各種透光性物品に適用することができる。例えば、住宅、店舗、事務所、病院乃至は医院、等の建築物の窓又は扉の表面に貼着する用途である。或いは、自動車、鉄道車両等の車両の窓又は扉の表面に貼着する用途である。これらの窓や扉を構成するガラス、樹脂等の透明板などからなる透光性物品の表面に貼着する。
透明基材3が積層されそれが板状体の形態の場合は、一方向透視性遮蔽材10それ自体を、窓や扉の透明板として用いても良い。
なお、貼着は、公知の透明な接着剤乃至は粘着剤を介して貼着することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 遮光性基材
1P 網目パターン
1r 他方の面
1s 一方の面
2 透孔
3 透明基材
4 絵柄層
4a 有彩色パターン層
4b 白色ベタ層
6 網戸
6P (網戸の)網目
10 一方向透視性遮蔽材
A 開口部
B 分岐点
BP 母点
L 境界線分
Lt ライン部(境界線分の集合)
Oin 屋内の観察者
Oout 屋外の観察者
S 単位パターン領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮光性基材と、この遮光性基材を貫通する多数の透孔を有する一方向透視性遮蔽材において、
前記透孔が設けられた遮光性基材を、一方向透視性遮蔽材のシート面の法線方向からみたときの平面視形状が網目パターンを呈し、
この網目パターンが、透孔に対応する多数の開口部を画成し、二つの分岐点の間を延びて前記開口部を画成する多数の境界線分から形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口部が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンである、一方向透視性遮蔽材。
【請求項2】
上記開口部の形状が、五角形、六角形及び七角形から選ばれた2種以上の多角形を含んでなる、請求項1記載の一方向透視性遮蔽材。
【請求項3】
一方の面が他方の面に比べて高明度である、請求項1または2記載の一方向透視性遮蔽材。
【請求項4】
多数の透孔が設けられた遮光性基材に、透孔が設けられていない透明基材が積層されている、請求項1〜3のいずれか1項記載の一方向透視性遮蔽材。
【請求項1】
遮光性基材と、この遮光性基材を貫通する多数の透孔を有する一方向透視性遮蔽材において、
前記透孔が設けられた遮光性基材を、一方向透視性遮蔽材のシート面の法線方向からみたときの平面視形状が網目パターンを呈し、
この網目パターンが、透孔に対応する多数の開口部を画成し、二つの分岐点の間を延びて前記開口部を画成する多数の境界線分から形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口部が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンである、一方向透視性遮蔽材。
【請求項2】
上記開口部の形状が、五角形、六角形及び七角形から選ばれた2種以上の多角形を含んでなる、請求項1記載の一方向透視性遮蔽材。
【請求項3】
一方の面が他方の面に比べて高明度である、請求項1または2記載の一方向透視性遮蔽材。
【請求項4】
多数の透孔が設けられた遮光性基材に、透孔が設けられていない透明基材が積層されている、請求項1〜3のいずれか1項記載の一方向透視性遮蔽材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2013−67988(P2013−67988A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206963(P2011−206963)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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