説明

一次中枢神経系腫瘍特異性BEHABアイソフォーム

本発明は、グリコシル化バリアントBEHABポリペプチド、ポリシアリル化BEHABポリペプチド、およびそれらの使用方法に関係する組成物および方法を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援研究開発に関する言明
本発明は、米国政府から得た資金援助により一部支援され(国立衛生研究所補助金番号ROI NS35228およびEY06511)、従って米国政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
グリオームは、星状膠細胞、稀突起神経膠細胞および上衣細胞から誘導される膠細胞腫瘍である。グリオームは、周囲の正常な脳組織内へのそれらの瀰漫性浸潤を特徴とする悪名高い致死性脳腫瘍である。さらにグリオームは一次CNS腫瘍の最も一般的な形態に相当しそして大部分が悪性でそして高度に浸潤性の数種の組織学的に異なるサブタイプを含む(非特許文献1)。悪性グリオームの最も危険な性質は、それらの高度に浸潤性の表現型にあり、それはそれらの一次脳腫瘍の制御を困難にそして外科手術による完全な摘出を不可能にし、それがグリオームの高い致死性の理由である(非特許文献2、3)。グリオームの最も最も一般的で最も攻撃的な種類である膠芽腫は、典型的には、診断後一年間以内で患者の死に至るが、それは広範な切除の後でも不可避的に再発が起きるからである(非特許文献4)。それら腫瘍の理解のかなりの進歩にもかかわらず、グリオームを有する患者の生存率は、この25年間、本質的には変化していない(非特許文献5)。新しい治療戦略は、グリオーム浸潤にかかわる機構および分子の理解から得られるであろう。
【0003】
中枢神経系(CNS)中のグリオーム細胞の浸潤挙動は、脳に転移する非グリオーム細胞の細胞移動に対しても成人CNSが著しく制限的である点で、著しく異例である(非特許文献6、7)。周囲の正常な神経組織に浸透および浸潤するグリオームの独特の能力は、CNS中の細胞移動に対する正常のバリヤーをそれらの細胞が越えることができることを示す(非特許文献3)。
【0004】
CNSを含むすべての組織内で細胞移動に対する主要なバリヤーの一つは、細胞外マトリックス(ECM)である。CNSのECMは、糖タンパク質およびプロテオグリカンに会合するヒアルロン酸(HA)骨組から成る(非特許文献8)。ラミニン、タイプIVコラーゲン、フィブロネクチンおよびビトロネクチンのような古典的な繊維状ECMタンパク質は、成人CNS中の血管基底膜および膠細境界膜(glia limitans)に限定され、そして実質組織(parenquima)を本質的に欠く(非特許文献9)。神経膠細胞とこのHAに基づくECMとの相互作用は、数種の細胞表面受容体、例えばCD44、RHAMMおよびレクチンファミリーのプロテオグリカン類により媒介され(非特許文献10、11、12)、これにはBEHAB/ブレビカン(brevican)(BEHAB)も含まれる(非特許文献13)。
【0005】
BEHABは、哺乳動物脳内で空間的および時間的に制御された様式で発現されるCNS特異性細胞外コンドロイチン硫酸塩プロテオグリカンである(非特許文献14)。BEHAB発現は、膠細胞発生(gliogenesis)と一致し(非特許文献15)、そして穿刺傷の後の反応性神経膠症の間に(非特許文献16)脳室ゾーン内で増加制御(upregupate)され、このプロテオグリカンが膠細胞増殖および/または運動性に関与することを示す。それらの知見と一致して、BEHAB mRNA発現もヒトグリオームおよびげっ歯類グリオームモデルの外科試料中で劇的に増加制御される(非特許文献17)。さらに、BEHAB増加制御およびその後のタンパク質分解プロセシングは、グリオームの浸潤性表現型に寄与する(非特許文献18、19)。しかし、それらを介してBEHABの機能が媒介される分子相互作用および機構のそれ以上の理解がまだ要求される。
【0006】
BEHABの機能を特徴付けるための一つの難点は、このタンパク質の分子の複雑性である。交互スプライシング(非特許文献20)、タンパク質分解切断(非特許文献21、22)、および/またはコアタンパク質の差別的(differential)グリコシル化(非特許文献23、24)からもたらされるBEHABの異なるアイソフォームが記載されている。これらのアイソフォームは、細胞表面およびECM成分と差別的に相互作用し、従ってグリオーム進行において独特の役割を演じるのであろう。
【0007】
低グリコシル化でありそして発生の初期に多量に発現される、ラットグリコシル化バリアントBEHAB(B/b130)と称されるBEHAB/ブレビカンの新規の糖構造(glycoform)がラット脳中で発見された(同上文献)。重要なことは、このアイソフォームが、浸潤性グリオームのラット実験モデル中で増加制御される主要なBEHABアイソフォームであることである。
【0008】
ほとんどすべてのガンが細胞表面タンパク質の異常なグリコシル化により特徴付けられる(非特許文献25)。グリコシル化の変化が正常なタンパク質−タンパク質相互作用を破壊し、従って腫瘍浸潤および転移と関連する可能性がある(非特許文献26、27)。
【0009】
異常なグリコシル化は、正常なオリゴ糖類の短縮切断型または末端オリゴ糖配列の異常なタイプのいずれかの出現により同定される(例えばLewis x/a)。それらの変化は、N−およびO−連結オリゴ糖に同様に影響するであろう(非特許文献28、29)。特には、アルファ2,6−およびアルファ2,3−連結シアル酸の出現の全般的な増加は、グリオーム(非特許文献31、32)を含む腫瘍(非特許文献30)の共通の特徴であり、そしてある種のガンの転移能力の増加と関連していた。
【0010】
一般の記載は少ないが、腫瘍内の特定のオリゴ糖の欠損も記載されている(非特許文献33、34、35)。興味のある例は、それらの正常のリガンドには結合できないCNS腫瘍中の異常に低グリコシル化された新生糖構造を有する細胞表面受容体により代表される(例えば、神経芽腫瘍中のCD44H、非特許文献36)。
【0011】
特異性細胞表面抗原を介する選択的な腫瘍細胞の標的化は、ガン治療として人気を取り戻している方法である。過去10年間のかなりの研究が、多数の腫瘍形式の処置における抗体免疫治療の利用を示して大きく進歩しており(非特許文献37)、それにはグリオームも含まれる(非特許文献38、39、40)。伝統的な化学および放射能治療に対するグリオームの治療抵抗性を参考にすると、免疫治療は一次CNS腫瘍の処置ための有望な処置である。しかし、グリオームの治療用としてこの方法を使用する際の障壁は、腫瘍細胞に限定されそして標的として細胞表面で利用可能の双方である適当な細胞標的がないことである(非特許文献41)。提案(非特許文献42)され、そして臨床的に開発されたものののかでは、すべての膠芽腫の約50%中で表現される(非特許文献39)変異EGF受容体(EGFRvIII、非特許文献38中に総説)の欠失、および正常の脳と比較してすべてのグリオームの90%以上の中で高度に増加制御される細胞外マトリックスルタンパク質テネイシン(tenascin)−C(非特許文献42)である。
【非特許文献1】Kleihues et al.,2002,J.Neuropathol Exp Neurol,61:215−229
【非特許文献2】Pilkington,1996,Braz J Med Biol Res,29:1159−1172
【非特許文献3】Giese and Westphal,1996,Neurosurgery 39:235−252
【非特許文献4】Bernstein and Woodard,1995,Neurosurgery,36:124−132,1995
【非特許文献5】Berens and Giese,1999,Neoplasia,1:208−19
【非特許文献6】Pilkington,1997,Anticancer Res.17:4103−4105
【非特許文献7】Subramanian et al.,2002,Lancet Oncol.3:498−507
【非特許文献8】Celio and Blumcke,1994,Brain Res Brain Res Rev.19:128−45
【非特許文献9】Gladson,1999,J.Neuropathol Exp Neurol.58:1029−40
【非特許文献10】Goldbrunner et al.,1999,ActaNeurochir(Wien)141:295−305
【非特許文献11】Novak and Kaye,2000,J.Clin Neurosci,7:280−90
【非特許文献12】Akiyama et al.,2001,J.Neurooncol.53:115−27
【非特許文献13】Yamaguchi,2000,Cell Mol LifeSci.57:276−89
【非特許文献14】Jaworski et al.,1994,J.Cell Biol.125:495−509
【非特許文献15】Jaworski et al.,1995,J.Neurosci.15:1352−1362
【非特許文献16】Jaworski et al.,1999,Exp Neurol.157:327−37
【非特許文献17】Jaworski et al.,1996,Cancer Rec.56:2293−2298
【非特許文献18】Zhang et al.,1998,J.Neurosci.18:2370−2376
【非特許文献19】Nutt et al.,2001,Neuroscientist,7:113−122
【非特許文献20】Seidenbecher et al.,1995,J.Biol Chem.270:27206−27212
【非特許文献21】Nakamura et al.,2000,J.Biol.Chem.,275:38885−38890
【非特許文献22】Matthews et al.,2000,J.Biol Chem.275:22695−22703
【非特許文献23】Yamada et al.,1994,J.Biol Chem.269:10119−10126
【非特許文献24】Viapiano et al.,2003,J.Biol Chem.278:33239−33247
【非特許文献25】Hakomori,2002,Proc.Natl AcadSci USA 99:10231−10233
【非特許文献26】Kim and Varki,1997,Glucoconj,.J.14:569−576
【非特許文献27】Gorelik et al.,2001,Cancer Metastasis Rev,20:205−277
【非特許文献28】Burchell et al.,2001,J.Mammary Gland Biol Neoplasia 6:355−364,2001
【非特許文献29】Dwek et al.,2001,Proteomics 1:756−62
【非特許文献30】Narayanan,1994,Ann Clin Lab Sci.24:376−384
【非特許文献31】Reboul et al.,1996,Glycoconj.J.13:69−79
【非特許文献32】Yamamoto et al.,1997,Brain Res,755:175−179
【非特許文献33】Dennis,1986,Cancer Res.46:4594−4600
【非特許文献34】Dabelsteen et al.,1991,J.Oral Pathol.Med.20:361−368
【非特許文献35】Ciborowski and Finn,2002,Clin.Exp Metastasis 19:339−45
【非特許文献36】Gross et al.,2001,Med.Pediatr Oncol.36:139−41
【非特許文献37】Carter,2001,Nat.Rev.Cancer,1:118−129
【非特許文献38】Kurpad et al.,1995,Glia 15:244−256
【非特許文献39】Kuan et al.,2001,Endocr.Relat Cancer,8:83−96
【非特許文献40】Goetz et al.,2003,J.Neurooncol.62:321−328
【非特許文献41】Yang et al.,2003,Cancer Control.10:138−147
【非特許文献42】McLendon et al.,2000,J.Histochem Cytochem.48:1103−1110
【発明の開示】
【0012】
一次CNS腫瘍、例えばグリオームと関連する高い致死率、および効果的な治療法の欠如を考えると、それらの腫瘍形成の診断および処置を支援する一次CNA腫瘍に対する分子標識への以前からの要求が存在する。本発明はその要求で応じるものである。
発明の要旨
本発明は新規のポリシアリル化ヒトBEHABアイソフォームおよび哺乳動物内のグリオームを検出する方法、良性グリオームから悪性グリオームを鑑別診断する方法、腫瘍進行を評価する方法、およびグリオームを検出および診断するためのキットを包含する。
発明の詳細な説明
本発明は、グリコシル化バリアントBEHABと称されるヒト脳内の新規の低グリコシル化または非グリコシル化BEHABアイソフォームの発見に基づくものであり、それは本明細書中に開示のデータにより示されるように、正常な成人脳および神経病理学的対照体には存在せずそしてヒト膠芽腫からの手術試料中に多量に過剰発現される。さらに、グリコシル化バリアントBEHABは、悪性腫瘍に特異性でありそして低度および良性グリオーム、例えば稀突起グリオームの下位群では発現されない。従って、本発明は種々のグリオームの鑑別診断の方法を提供する。
【0013】
本明細書中の別の場所で開示されるデータから明らかにされるように、ヒトグリコシル化バリアントBEHABは、典型的には付与されている炭水化物の全部でなくとも大部分を欠失する低または非グリコシル化アイソフォームである。グリコシル化の欠失にもかかわらず、ヒトヒトグリコシル化バリアントBEHABは、細胞の細胞外表面上に見出されそして他の既知のBEHABアイソフォームとは異なる機構を介して結合する。本明細書中の別の場所で開示されるように、グリコシル化バリアントBEHABはグリオーム進行に独特の役割を演じそして免疫治療のための適切な細胞表面標的となることができる。
【0014】
本発明は、新規のポリシアリル化BEHAB分子をさらに包含し、それは一部の高度グリオーム試料中に存在するが、しかしその他の神経病理学的、および特異性低度グリオームには存在しない。従って、本発明は、ポリシアリル化BEHAB分子を含んでなる組成物およびポリシアリル化BEHABを用いる高度グリオームを検出および鑑別する方法を含む。
定義
本明細書中で使用される場合に、下記の各用語は本節内と関連する意味を有する。
【0015】
冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法上の目的語の一つまたはそれより多数(すなわち少なくとも1つ)を指すとして本明細書中で使用される。例えば、「an element」は、1個の要素または1個を越える要素を意味する。
【0016】
「増幅」は、ポリヌクレオチド配列が、例えば、逆転写、ポリメラーゼ連鎖反応、およびリガーゼ連鎖反応によりコピーされ従って多数のポリヌクレオチド分子に拡大されるあらゆる手段を指す。
【0017】
「抗体」の用語は、本明細書中で使用される場合に、抗原上の特定のエピトープに特異的に結合できる免疫グロブリン分子を指す。抗体は、天然起源からまたは組換え起源から誘導された変化していない免疫グロブリンであることができ、そして変化していない免疫グロブリンの免疫反応性部分であることもできる。抗体は、典型的には、免疫グロブリン分子の四量体である。本発明における抗体は、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、Fab、およびF(ab)、ならびに一本鎖抗体およびヒト化抗体を含む種々の形態で存在してもよい(Harlow et al.,1999,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY;Harlow et al.,1989,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor NY;Houston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883;Bind et al.,1988,Science 242:423−426)。
【0018】
本明細書中で使用される場合に、「合成抗体」の用語は、組換えDNA技術を用いて産生される抗体、例えば、本明細書中に記載するバクテリオファージにより発現される抗体を意味する。該用語は、抗体をコードするDNA分子の合成により産生されそしてDNA分子が抗体タンパク質を発現する抗体、または抗体を特定するアミノ酸配列を意味すると解釈されるべきであり、ここで、DNAまたはアミノ酸配列は、当該技術分野で入手可能でありそして周知である合成DNAもしくはアミノ酸配列技術を用いて得られる。
【0019】
「アンチセンス」は、タンパク質をコードする二本鎖DNA分子の非コード鎖の核酸配列、または非コード鎖に本質的に相同な配列を特に指す。本明細書中で定義されるように、アンチセンス配列はタンパク質をコードする二本鎖DNA分子の配列と相補的である。アンチセンス配列はDNA分子のコード鎖のコード部分にのみ相補性である必要はない。アンチセンス配列は、調節配列がコード配列の発現を制御するタンパク質をコードするDNA分子のコード鎖上に指定された調節配列に相補性であってもよい。
【0020】
用語が本明細書中で使用される場合に、「アプリケーター」の用語は、本発明のバリアントBEHAB核酸、タンパク質、および/または抗BEHAB抗体およびアンチセンスBEHAB核酸を哺乳動物に投与するための、皮下用シリンジ、ピペットなどを含み、これらには限定されないあらゆる器具を意味する。
【0021】
用語としての「BEHAB」「全長BEHAB」または「内因性BEHAB」は、本明細書中では同義語的に使用され、ブレビカンとしても知られる脳濃縮ヒアルロナン結合(Brain Enriched Hyaluronan Binding)分子を指す。全長BEHABは、ラットおよびマウスでは約150kDa以上、そしてヒトでは約160kDaより大きいがしかし約160kDaよりは小さい分子量を有し、そしてラット全長BEHABに対しては配列番号5および配列番号6、そしてヒト全長BEHABに対しては配列番号7および配列番号8にそれぞれ記載されるヌクレオチドおよびアミノ酸配列により例示される。
【0022】
本明細書中で使用される場合に、「生物学的試料」の用語は、BEHABの発現のレベル、存在するBEHABタンパク質のレベル、またはその双方を評価するために使用できる哺乳動物からまたはその中で入手される試料を意味する。かかる試料は、これらに限定はされないが、血液試料、神経組織試料、脳試料、および脳脊髄液試料を含む。
【0023】
「切断」は、ポリペプチド中の2個のアミノ酸の間のペプチド結合の分離を指し、それにより2個のアミノ酸を含んでなるポリペプチドを少なくとも2個のフラグメントに分離するとして本明細書中では用いられる。
【0024】
「切断阻害剤」は、切断に責任があるプロテアーゼを滴定(titrate)することにより、切断部位を遮断することにより、または切断部位にプロテアーゼを認識できないようにするのいずれかでポリペプチドの切断を防止する分子、化合物または組成物を指すとして本明細書中では用いられる。
【0025】
「切断阻害量」は、切断阻害剤の有効量を指すとして本明細書中では用いられる。
【0026】
「切断生成物」は、当初のポリペプチドを2個またはそれ以上のフラグメントへ切断からもたらされた当初のポリペプチドのフラグメントを指すとして本明細書中では用いられる。例えば145kDaのBEHABタンパク質の切断生成物は、90kDaおよび51kDaのフラグメントを含む。。
【0027】
「BEHABをコードする核酸の一部分または全体に相補性」は、BEHABタンパク質をコードしない核酸の配列を意味する。さらに適切には、細胞内で発現されている配列は、BEHABタンパク質をコードする核酸の非コード鎖に一致し、従ってBEHABタンパク質をコードしない。
【0028】
本明細書中で使用される場合に、「相補性」および「アンチセンス」の用語は、完全には同義でない。「アンチセンス」は、タンパク質をコードする二本鎖DNA分子の非コード鎖の核酸配列、または非コード鎖に本質的に相同の配列を特定して指す。
【0029】
本明細書中で使用される場合に、「相補性」は、2個の核酸、例えば2個のDNA分子の間のサブユニット配列相補性の広い概念を指す。双方の分子内のヌクレオチド位置が、通常は互いに塩基対形成が可能なヌクレオチドにより占められている場合に、核酸はその位置で相互に相補性であると考えられる。従って、分子の相互の相当する本質的な数(少なくとも50%)が通常は相互に塩基対となるヌクレオチド(例えばA:TおよびG:Cヌクレオチド対)により占められる場合に、2個の核酸は互いに相補性である。本明細書中で定義されるところの、アンチセンス配列は、タンパク質をコードする二本鎖DNA分子の配列に相補性である。アンチセンス配列は、DNA分子のコード鎖のコード部分にのみ相補性である必要はない。アンチセンス配列は、タンパク質をコードするDNA分子のコード鎖上に特定された調節配列に相補性であってもよく、その調節配列はコード配列の発現を制御する。
【0030】
遺伝子の「コード領域」は、遺伝子の転写により産生されるmRNA分子のコード領域に対してそれぞれ相同性または相補性である、遺伝子のコード鎖のヌクレオチド残基および遺伝子の非コード鎖のヌクレオチドから成る。
【0031】
mRNA分子の「コード領域」も、mRNA分子の翻訳の間のトランスファーRNA分子のアンチコドン領域と一致するかまたは停止コドンをコードするmRNA分子のヌクレオチド残基から成る。従って、コード領域は、mRNA分子によりコードされる成熟タンパク質内に存在しないアミノ酸残基に相当するヌクレオチド残基(例えばタンパク質輸出シグナル配列内のアミノ酸残基)を含んでもよい。
【0032】
「コードする」は、指定されたヌクレオチドの配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)または指定されたアミノ酸の配列およびそれからもたらされる生物学的性質のいずれかを有する生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび巨大分子の合成のための鋳型として役立つポリヌクレオチド、例えば遺伝子、cDNA、もしくはmRNA内のヌクレオチドの特定の配列の固有の性質を指す。従って、遺伝子は、その遺伝子に相当するmRNAの転写および翻訳が細胞またはその他の生物学的システム内のタンパク質を産生する場合にタンパク質をコードする。コード鎖、すなわちmRNA配列と一致しそして通常配列表中に示されるヌクレオチド配列、および遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖の双方は、該遺伝子またはcDNAのタンパク質またはその他の産物をコードするとして指すことができる。
【0033】
2個の領域が相互に隣接しているかまたは2個の領域が1000ヌクレオチド残基以上、好ましくは100ヌクレオチド残基以上は離れていない場合に、オリゴヌクレオチドの第一領域は、該オリゴヌクレオチドの第二領域に「近接(flanking)」する。
【0034】
本明細書中に使用される場合に、核酸に対して適用される「フラグメント」の用語は、通常は長さが少なくとも約20ヌクレオチド、典型的には、約50ヌクレオチド、さらに典型的には、約50〜約100ヌクレオチド、好ましくは、少なくとも約100〜約500ヌクレオチド、さらに好ましくは、少なくとも約500〜約1000ヌクレオチド、よりさらに好ましくは、少なくとも約1000〜約1500ヌクレオチド、その上さらに好ましくは、少なくとも約1500〜約2000ヌクレオチド、さらに好ましくは、少なくとも約2000〜約2500ヌクレオチド、さらに好ましくは、少なくとも約2500〜約2600ヌクレオチド、さらに好ましくは、少なくとも約2600〜約2650ヌクレオチド、そして最も好ましくは、核酸フラグメントは長さが約2652ヌクレオチドより大きい。
【0035】
タンパク質に適用される場合に、BEHABの「フラグメント」は、長さ約20アミノ酸である。さらに好ましくは、BEHABのフラグメントは約100アミノ酸、さらに好ましくは少なくとも約200、よりさらに好ましくは、少なくとも約300、その上さらに好ましくは、少なくとも約400、さらに好ましくは、少なくとも約500、さらに好ましくは、少なくとも約600、さらに好ましくは、少なくとも約700、さらに好ましくは、少なくとも約800、さらに好ましくは、少なくとも約850、さらに好ましくは、長さが少なくとも約884アミノ酸である。
【0036】
本明細書中に使用される場合に、「グリコシル化バリアントBEHABアイソフォーム」および「グリコシル化バリアントBEHAB」は、全長BEHABのグリコシル化パターンと比較して改変されたグリコシル化パターンを有し、そしてラットで約150kDa以下、そしてヒトで約160kDa以下の分子量を有するBEHABタンパク質を意味する。グリコシル化バリアントBEHABアイソフォームまたはグリコシル化バリアントBEHABの用語は、低グリコシル化BEHAB、異常(differently)グリコシル化BEHABおよび非グリコシル化BEHABを含む。
【0037】
本明細書中に使用される場合に、「ポリシアリル化全長BEHAB」および「ポリシアリル化全長BEHABアイソフォーム」は、全長BEHABのグリコシル化パターンと比較して改変されたグリコシル化パターンおよびシアリダーゼを用いて処理されなかった場合にヒトにおいて約160kDaより大きい分子量を有するBEHABタンパク質を意味する。
【0038】
本明細書中に使用される場合に、「異常グリコシル化BEHAB」および「異常グリコシル化BEHABアイソフォーム」は、炭水化物および糖含有量は全長BEHABと類似しているが、しかしアミノ酸骨格と関連する糖の組成が改変されている、改変グリコシル化を有するBEHABタンパク質を指す。
【0039】
「低グリコシル化BEHABアイソフォーム」および「低グリコシル化BEHAB」は、本明細書中では、全長BEHABタンパク質の一次アミノ酸配列、またはそのフラグメントを有するが、全長BEHABタンパク質のグリコシル化含有量よりは少なく、しかしタンパク質と会合する少なくとも1種の糖または炭水化物をまだ有するBEHABタンパク質を指すとして使用される。
【0040】
「非グリコシル化BEHABアイソフォーム」および「非グリコシル化BEHAB」は、本明細書中では、全長BEHABタンパク質の一次アミノ酸配列、またはそのフラグメントを有するが、しかしタンパク質に会合する糖または炭水化物を有していないBEHABタンパク質を指すとして使用される。
【0041】
本明細書中に使用される場合に、「指示資料」は、指定の用途のために本発明の組成物の有効性を知らせるために使用できる出版物、記録、図表、または表現のその他の媒体を含む。本発明のキットの指示資料は、例えば、組成物を含む容器に添付されるか、または組成物を含む容器と一緒に発送されてもよい。あるいは、指示資料は、受領者により指示資料と組成物が共同して使用されるように意図して本発明の容器とは別途に発送されてもよい。
【0042】
「単離された核酸」は、天然に存在する状態でそれに近接する配列から分離されている核酸セグメントまたはフラグメントを指し、例えばフラグメントに通常は隣接する配列、例えばフラグメントが天然に存在するゲノム内でフラグメントに隣接する配列から取り出されたDNAフラグメントである。該用語は、細胞内で天然には同伴する核酸、例えばRNAもしくはDNAまたはタンパク質を天然に伴うその他の成分から本質的に精製された核酸にも適用される。従って、該用語は、例えば、他の配列とは独立して、ベクター内、自律的複製プラスミドもしくはウイルス内、または原核もしくは真核のゲノムDNA内に組み込まれているか、または分離された分子として存在する組換えDNA(例えばcDNAまたはPCRまたは制限酵素消化により産生されたゲノムフラグメントもしくはcDNAフラグメント)を含む。それは、追加のポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の部分である組換えDNAも含む。
【0043】
「悪性高度グリオーム」は、グリオームおよびグリオーム細胞と組織内の分化のレベルを分類するために使用される組織学的分類システムを用いてグレードIIIまたはグレードIVグリオームを指すとして本明細書中に使用される。「良性低度グリオーム」は、グリオームおよびグリオーム細胞と組織内の分化のレベルを分類するために使用される組織学的分類システムを用いてグレードIまたはグレードIIを指すとして本明細書中に使用される。グレードIグリオームは、良く分化され(低度)。グレードIIグリオームは、中程度に分化され(中間度)、グレードIIIグリオームは、分化不良(高度)そしてグレードIVグリオームは非分化(高度)である。グリオーム分類の基準は、ガンに関する米国共同委員会、AJCCガン段階付マニュアル(American Joint Committee on Cancer,AJCC Cancer Staging Manual,第六版、New York,NY:Springer,2002)に従うものである。
【0044】
「変異BEHAB」は、アミノ酸配列がプロテアーゼによる切断を阻害するように変性されている脳濃縮ヒアルロナン結合分子を指すとして本明細書中に使用される。
【0045】
ある対象物に適用される「天然に存在する」は、対象物が天然に見いだせる事実を指す。例えば、天然内の起源から単離できそして人間により意図的に変成されていない生物体(ウイルスを含む)内に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0046】
本発明の範囲内で、一般的に存在する核酸塩基の下記の略字が使用される。「A」はアデノシンを指し、「C」はシチジンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、そして「U」はウリジンを指す。
【0047】
別途に指定しない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、相互の縮重した形でありそして同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列はイントロンを含んでもよい。
【0048】
「機能するように連結」として2個のポリヌクレオチドを記述することにより、一本鎖または二本鎖核酸部分が、2個のポリヌクレオチドの少なくとも1個が、それが特徴づけられた生理学的効果を相互に行使できる様式で核酸部分内で配置されている、2個のポリヌクレオチドを含んでなることを意味する。例えば、遺伝子のコード領域に機能するように連結したプロモーターは、コード領域の転写を促進できる。
【0049】
「ポリヌクレオチド」は、核酸の一本鎖または平行または反平行の鎖を意味する。従って、ポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖核酸のいずれであってもよい。
【0050】
「核酸」の用語は、典型的には、大きいポリヌクレオチドを指す。
【0051】
「オリゴヌクレオチド」の用語は、典型的には、短いポリヌクレオチド、一般には約50ヌクレオチドより大きくないものを指す。ヌクレオチド配列はDNA配列(すなわちA、T、G、C)により表され、これは「U」が「T」を置換したRNA配列(すなわちA、U、G、C)も含むと理解される。
【0052】
ポリヌクレオチド配列を記述するために慣用の表記を本明細書中では使用する。一本鎖ポリヌクレオチド配列の左端は5’末端、二本鎖ポリヌクレオチド配列の左端方向は5’方向と呼ぶ。
【0053】
新生のRNA転写物へのヌクレオチドの5’から3’付加の方向は、転写方向と呼ばれる。mRNAと同様の配列を有するDNA鎖は、「コード鎖」と呼ばれ、DNA上の参照点から5’方向に位置するDNA鎖上の配列は「上流配列」と呼ばれ、DNA上の参照点から3’方向にあるDNA鎖上の配列が「下流配列」と呼ばれる。
【0054】
ポリヌクレオチドの「部分」は、ポリヌクレオチドの少なくとも約20個の連続ヌクレオチド残基を意味する。ポリヌクレオチドの一部分は、ポリヌクレオチドのあらゆるヌクレオチド残基を含んでもよいと理解される。
【0055】
「一次CNS腫瘍」は、本明細書中では、ガン細胞が身体の他の部分を起源として脳に転移しない、脳内に起源を有する腫瘍形成を指すとして使用される。一次CNS腫瘍の例は、これらに限定はされないが、グリオーム、良く分化した星状膠細胞腫、未分化星状膠細胞腫、多型膠芽腫、上衣腫、稀突起グリオーム、神経節グリオーム、混合型グリオーム、脳幹グリオーム、視神経グリオーム、髄膜腫、松果体腫瘍、下垂体腫瘍、下垂体腺腫、反応性神経膠症、初期神経外胚葉腫瘍、神経線維腫、リンパ腫、血管腫瘍、およびリンパ腫を含む。
【0056】
「一次CNS腫瘍を処置」は、腫瘍の体積を含む一次CNS腫瘍の症状の重症度またはいずれかの腫瘍の症状もしくは徴候を患者が経験する頻度、またはそれら双方が低下した状況、または腫瘍進行までの時間または生存時間が増加した状況を指すとして本明細書中で使用される。
【0057】
「プライマー」は、指定されたポリヌクレオチド鋳型に特異的にハイブリダイズしそして相補性ポリヌクレオチドの合成の開始点を提供できるポリヌクレオチドを指す。かかる合成は、ポリヌクレオチドプライマーが、合成が誘発される条件、すなわちヌクレオチド、相補性ポリヌクレオチド鋳型および重合のための作用物質、例えばDNAポリメラーゼの存在下におかれた場合に起きる。プライマーは、典型的には一本鎖であるが、しかし二本鎖であってもよい。プライマーは、典型的にはデオキシリボ核酸であるが、しかし広範囲の各種の合成および天然に存在するプライマーが多くの用途に有用である。プライマーは、合成の開始の部位として役立つようにハイブリダイズするように指定された鋳型に相補性であるが、鋳型の正確な配列を反映する必要はない。かかる場合に、鋳型へのプライマーの特異性ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに依存する。プライマーは、例えば、色素原性、放射性、または蛍光性部分で標識され、そして検出可能な部分として使用できる。
【0058】
「プローブ」は、他のポリヌクレオチドの指定された配列に特異的にハイブリダイズできるポリヌクレオチドを指す。プローブは、標的の相補性ポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするが、しかし鋳型の正確な相補性配列を反映する必要はない。かかる場合に、標的へのプローブの特異性ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに依存する。プローブは、例えば、色素原性、放射性、または蛍光性部分で標識され、そして検出可能な部分として使用できる。
【0059】
「組換えポリヌクレオチド」は、天然に相互に結合しない配列を有するポリヌクレオチドを指す。増幅または構築された組換えポリヌクレオチドは、適切なベクター中に含まれてもよく、そしてベクターは、適切な宿主細胞を形質転換するために使用できる。
【0060】
組換えポリヌクレオチドは、非コーディング機能(例えばプロモーター、複製の起点、リボソーム結合部位など)としても役立つであろう。
【0061】
組換えポリヌクレオチドを含んでなる宿主細胞は、「組換え宿主細胞」と称される。遺伝子が組換えポリヌクレオチドを含んでなる場合に組換え宿主細胞内で発現される遺伝子は、「組換えポリペプチド」を産生する。
【0062】
「組換えポリペプチド」は、組換えポリヌクレオチドの発現の際に産生されるものである。
【0063】
「ポリペプチド」は、アミノ酸残基から成るポリマー、関連する天然に存在する構造バリアント、および合成された天然には存在しないペプチド結合を介して連結されたそれらの類似体、関連する天然に存在する構造バリアント、および合成された天然に存在しないそれらの類似体を指す。合成ポリペプチドは、例えば自動化ポリペプチド合成装置を用いて合成できる。
【0064】
「タンパク質」の用語は、典型的には大きいポリペプチドを指す。
【0065】
「ペプチド」の用語は、典型的には短いポリペプチドを指す。
【0066】
ポリペプチド配列を記述するために慣用の表記法を本明細書中では使用する。ポリペプチド配列の左端はアミノ末端である。ポリペプチド配列の右端はカルボキシル末端である。
【0067】
本明細書中に使用される場合に、「プロモーター/調節配列」は、プロモーター/調節配列に機能するように連結された遺伝子産物の発現のために必要な核酸配列を意味する。ある場合には、該配列は、コアプロモーター配列でありそして別の場合には、該配列はエンハンサー配列および遺伝子産物の発現に必要な他の調節要素も含んでもよい。プロモーター/調節配列は、例えば組織特異性の様式で遺伝子産物を発現するものであってもよい。
【0068】
本明細書中に使用される場合に、「特異的に連結」の用語は、BEHABタンパク質のエピトープを認識および結合するが、しかし試料中の他の分子を本質的に認識もしくは結合しない抗体を意味する。
【0069】
「治療的」処置とは、病的な徴候を示す患者に、その徴候を軽減または排除する目的で与えられる処置である。
【0070】
化合物の「治療有効量」とは、化合物が投与される対象者に有益な作用をもたらすために十分な化合物の量である。
【0071】
本明細書中に使用される場合に、「導入遺伝子」は、アミノ酸配列をコードする核酸に機能するように連結されたプロモーター/調節配列をコードする核酸を含んでなる外因性核酸配列を意味し、その外因性核酸は動物または細胞によりコードされる。
【0072】
「ベクター」は、単離された核酸を含んでなり、そして細胞の内部に単離された核酸を送達するために使用できる物質の組成物である。多数のベクターが当該技術分野では公知であり、それには、これらに限定はされないが、線状ポリヌクレオチド、イオン性または両性化合物と関連するポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスが含まれる。従って、「ベクター」の用語は、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスを含む。この用語は、細胞内への核酸の移動を促進する非プラスミドおよび非ウイルス性化合物、例えばポリリシン化合物、リポソームなども含むとも解釈するべきである。ウイルスベクターの例には、これらに限定はされないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが含まれる。
【0073】
「発現ベクター」は、発現されるべきヌクレオチド配列に機能するように連結された発現制御配列を含んでなる組換えポリヌクレオチドを含んでなるベクターを指す。発現ベクターは、発現のために十分なシス作用因子を含んでなる。発現のための他の因子は宿主細胞によりまたはイン・ビトロ発現システム内で供給される。発現ベクターは、当該技術分野で公知のすべてのものを含み、例えばコスミド、プラスミド(例えば裸またはリポソーム内に含まれるもの)および組換えポリヌクレオチドを組み込んだウイルスを含む。
詳細な記述
I.単離されたポリペプチド
本発明は、ポリシアリル化BEHAB分子を含んでなる単離されたポリペプチドを含む。好ましくは、該ポリペプチドは、約1%相同性、さらに好ましくは、約5%相同性、その上さらに好ましくは約10%相同性、さらに好ましくは約20%相同性、さらに好ましくは、核酸は、約30%相同性、さらに好ましくは約40%相同性、その上さらに好ましくは約50%相同性、さらに好ましくは、核酸は、約60%相同性、さらに好ましくは約70%相同性、その上さらに好ましくは約80%相同性である。好ましくは、核酸は、本明細書で開示する配列番号8に対して約90%相同性、さらに好ましくは約95%相同性、その上さらに好ましくは約99%相同性、もっとさらに好ましくは約,99.9%相同性である。もっとさらに好ましくは、ポリペプチドは配列番号8である。
【0074】
本発明のポリシアリル化BEHABポリペプチドは、全長BEHABより約2〜約7kDa大きく、さらに好ましくは全長BEHABより約3〜約6kDa大きく、さらに好ましくは全長BEHABより約4〜約5大きい。さらに好ましくは、ポリシアリル化BEHABポリペプチドの全重量は、約163〜約166kDaである。
【0075】
本発明のポリシアリル化BEHABポリペプチドは、全長BEHABと比較して約9〜約21個の追加のシアル酸残基、さらに好ましくは全長BEHABと比較して約10〜約20個の追加のシアル酸残基、さらに好ましくは全長BEHABと比較して約11〜約19個の追加のシアル酸残基、さらに好ましくは全長BEHABと比較して約12〜約18個の追加のシアル酸残基、さらに好ましくは全長BEHABと比較して約13〜約17個の追加のシアル酸残基、さらに好ましくは全長BEHABと比較して約14〜約16個の追加のシアル酸残基、さらに好ましくは全長BEHABと比較して約15個の追加のシアル酸残基を含んでなる。
【0076】
本明細書中で開示するデータに示されるように、本発明のポリシアリル化BEHABポリペプチドは、N−連結ではなくO−連結を介して付加された追加のシアル酸残基を含んでなる。
【0077】
本発明は、本明細書中で開示するポリシアリル化BEHAB分子を含んでなるタンパク質またはペプチドの類似体も提供する。類似体は、天然に存在するタンパク質またはペプチドとは、保存性アミノ酸配列差異によりまたは配列に影響しない修飾によりまたはそれら双方により異なる。例えば、保存性アミノ酸変化は、タンパク質またはペプチドの一次配列を改変するけれども、その機能は改変しないように行われてもよい。保存性アミノ酸置換は、典型的には、下記の群内での交換を含む。
【0078】
グリシン、アラニン;
バリン、イソロイシン、ロイシン;
アスパラギン酸、グルタミン酸;
アスパラギン、グルタミン;
セレン、トレオニン;
リシン、アルギニン;
フェニルアラニン、チロシン.
修飾(通常は一次配列を改変しない)は、ポリペプチドのイン・ビボ、またはイン・ビトロの化学的誘導体化、例えばアセチル化、またはカルボキシル化を含む。さらに含まれるのは、グリコシル化、例えば合成およびプロセシング工程の間またはその後のプロセシング工程内でのポリペプチドのグリコシル化パターンを修飾してなされるもの;例えばグリコシル化に影響する酵素、例えば哺乳動物グリコシル化の作用をする酵素または脱グリコシル化酵素にポリペプチドを暴露することによるものである。さらに包含されるのは、リン酸化されたアミノ酸残基、例えばホスホチロシン、ホスホセリン、またはホスホトレオニンを有する配列である。
【0079】
さらに、タンパク質分解性劣化に対する抵抗性を改善するためまたは溶解特性を改善するためまたはそれらを治療薬剤としてさらに適するようにするために通常の分子生物学的技術を使用して修飾されたポリペプチドが含まれる。かかるポリペプチドの類似体は、天然に存在するL−アミノ酸以外の残基、例えばD−アミノ酸または天然には存在しない合成アミノ酸を含むものを含む。本発明のペプチドは、本明細書中に表示したいずれの特定の例示的プロセスの産物にも限定されない。
【0080】
本発明は、得られたペプチド(またはDNA)が本明細書中に記載の配列に一致はしないが、ペプチドが本発明のポリシアリル化BEHABポリペプチドの生物学的/生化学的性質を有する本明細書中に開示されたペプチドと同様の生物学的性質を有するように、1個もしくはそれ以上のアミノ酸で改変された(または、それをコードする核酸配列に言及する場合には、1個もしくはそれ以上の塩基対中で改変された)ポリシアリル化BEHABポリペプチドが誘導体およびバリアントである本発明のペプチド(またはそれらをコードするDNA)の「誘導体」および「バリアント」を包含すると解釈されるべきである。
【0081】
ポリシアリル化BEHAB分子の生物学的/生化学的性質は、本明細書の別の場所に開示される。
【0082】
熟練者は、本明細書中に提供された開示に基づいて、ポリシアリル化BEHAB生物学的活性が、これらに限定はされないが、グリオーム内で発現され、グリオーム内で検出され、細胞表面で発現されるなどの分子の能力を包含することを理解するであろう。
III.ベクター
別の関連する局面において、本発明は、核酸が好ましくは核酸によりコードされるタンパク質の発現を指令できるようにプロモーター/調節配列を含んでなる核酸に機能するように連結されたポリシアリル化BEHABをコードする単離された核酸を含む。従って、本発明は、細胞内での外因性DNAの同時発現を伴う、細胞内への外因性DNAの導入のための発現ベクターおよび方法を包含し、それは例えば、サムブルックら(Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)およびオースベルら(Ausubel et al.,1997,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,New York)に記載されている。
【0083】
通常は全長BEHABを発現するかまたはBEHABを発現しないかのいずれかの、単独もしくは検出可能な標識ポリペプチドに融合されているポリシアリル化BEHABの細胞内の発現は、ベクターが導入される細胞内で標識を有するかまたは有していないタンパク質の発現を推進する役を行うプロモーター/調節配列に機能するように連結された所望の核酸を含んでなる、プラスミド、ウイルス、またはその他の形式のベクターを生成して達成されてもよい。遺伝子の構成性発現を推進するために有用な多数のプロモーター/調節配列が当該技術分野で利用できそして、これらに限定はされないが、例えば、サイトメガロウイルス最初期プロモーターエンハンサー配列、SV40初期プロモーター、ならびにラウス肉腫ウイルスプロモーターなどを含む。さらに、ポリシアリル化BEHABをコードする核酸の誘導可能で組織特異性の発現は、誘導可能もしくは組織特異性プロモーター/調節配列の制御下で、標識を有するかまたは有していないポリシアリル化BEHABをコードする核酸を配置して達成されてもよい。この目的に有用な組織特異性もしくは誘導可能なプロモーター/調節配列の例は、これらに限定はされないが、MMTV LTR誘導プロモーター、およびSV40後期エンハンサー/プロモーターを含む。さらに、誘導性作用物質、例えば金属、糖質コルチコイドなどに反応して誘導される当該技術分野で周知のプロモーターも、本発明内と考えられる。従って、本発明は、公知あるいは未知のいずれかであり、そしてそれに機能するように連結された所望のタンパク質の発現を推進できるあらゆるプロモーター/調節配列の使用も含む。
【0084】
ベクターを用いるポリシアリル化BEHABの発現は、大量の組換え産生タンパク質の単離を可能とする。
【0085】
本発明は、ポリシアリル化BEHABの生成方法を含むだけでなく、ポリシアリル化BEHAB発現、タンパク質レベル、および/または活性を含みグリコシル化バリアントBEHAB発現を検出することに関連する方法も含み、それはグリコシル化バリアントBEHAB発現、および/もしくは活性の検出またはグリコシル化バリアントBEHAB発現および/または活性の低下が効果的な治療を提供するために有用であり得るからである。
【0086】
いずれかの特定のプラスミドベクターまたはその他のDNAベクターの選定は本発明の制限要因ではなくそして多数のベクターが当該技術分野で周知である。さらに、特定のプロモーター/調節配列を選定しそして所望のポリペプチドをコードするDNA配列にそれらのプロモーター調節配列を機能するように連結することは、熟練者の技術の範囲内である。かかる技術は当該技術分野では周知であり、例えばサムブルックら(Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)およびオースベルら(Ausubel et al.,1997,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,New York)に記載されている。
【0087】
従って、本発明はヒトポリシアリル化BEHABをコードする単離された核酸を含んでなるベクターを含む。所望の核酸のベクター内への組込みおよびベクターの選択は当該技術分野では周知であり、例えばサムブルックら(Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)およびオースベルら(Ausubel et al.,1997,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,New York)に記載されている。
【0088】
本発明は、かかるベクターを含む細胞、ウイルス、プロウイルスなども含む。ベクターおよび/または外因性核酸を含んでなる細胞を産生する方法は、当該技術分野では周知である。例えばサムブルックら(Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)およびオースベルら(Ausubel et al.,1997,Current Protocols
in Molecular Biology,John Wiley and Sons,New York)を参照されたい。
【0089】
ポリシアリル化BEHABをコードする核酸は、種々のプラスミドベクター内にクローニングされてもよい。しかし、本発明はプラスミドにまたはいずれかの特定のベクターに限定されると解釈してはならない。反対に、本発明は、容易に入手できるかおよび/または当該技術分野では周知である多数のベクターを包含すると解釈すべきである。
IV.組換え細胞
本発明は、なかでも、ポリシアリル化BEHABタンパク質をコードする単離された核酸を含んでなる組換え細胞内でポリシアリル化BEHABアイソフォームを作製する方法をさらに含む。すなわち、ポリシアリル化BEHABアイソフォームは、ポリシアリル化BEHABをコードする単離された核酸、またはそのフラグメントを用いて細胞をトランスフェクションし、そしてそれからポリシアリル化BEHABアイソフォームを単離して組換え細胞内に産生できる。さらに、細胞をトランスフェクションしそしてそれからタンパク質を産生する方法は、当該技術分野では周知でありそして本明細書内の別の場所に詳細に記載されている。従って、組換え細胞は全長BEHABを発現するもの、およびグリコシル化バリアントBEHAB、例えばポリシアリル化BEHABを発現するものを含む。
【0090】
本発明は、ポリシアリル化BEHABをコードする単離された核酸を含んでなる原核細胞および真核細胞を含み、それには限定されないポリシアリル化BEHABをコードする核酸が導入されたあらゆる細胞タイプも含むと解釈されるべきである。
【0091】
本発明は、タンパク質が以前に細胞内に存在もしくは発現されていなかったかまたは導入遺伝子が導入される前とは異なるレベルもしくは環境下で今回は発現された場合に、本発明の組換え遺伝子がその中に導入されそして所望の遺伝子によりコードされるタンパク質がそれから発現される場合に、利益が得られるような真核細胞を含む。かかる利益は、所望の遺伝子の発現が細胞が存在する研究室内もしくは哺乳動物内でイン・ビトロで研究できるシステム、導入された遺伝子を含んでなる細胞が研究、診断および治療の道具として使用できるシステム、および哺乳動物内の選定された疾患状態のための新規の診断および治療道具の開発のために有用である哺乳動物モデルが生成されるシステムが提供されるという事実を含んでもよい。
【0092】
通常の技術者は、本明細書中で提供される開示に基づいて、本発明の「ノックイン」または「ノックアウト」ベクターが、それぞれ置換もしくは欠損されるべき核酸の2個の部分に相同な少なくとも2個の配列を含んでなることを認めるであろう。この2個の配列は、遺伝子に近接する配列と相同である。すなわち、一つの配列は、全長BEHABをコードする核酸のコード配列の5’部分においてまたはその近くの領域と相同であり、他の配列は第一よりもさらに下流側にある。当該技術分野の熟練者は、本明細書中に提供される開示に基づいて、本発明がいずれの特定の近接核酸配列にも限定されないことを認めるであろう。その代わりに、標的ベクターは、例えば、哺乳動物ゲノムからまたはその中に、それぞれ例えばポリシアリル化BEHABの一部またはすべてを除去する(すなわち「ノックアウト」ベクター)か、またはポリシアリル化BEHABをコードする核酸を挿入(「ノックイン」ベクター)する2個の配列、またはそれらのフラグメントを含んでなる。標的ベクターの重要な特徴は、反対位置、すなわち「ノックアウト」ベクターの場合にはBEHABオープンリーディングフレーム(ORF)の5’および3’末端に向かって位置する2個の配列において、BEHABをコードする核酸のすべてまたは一部分が哺乳動物染色体上のある位置から欠損されることが起きるような相同組換えにより欠損/挿入を可能にするために十分な部分を含んでなることである。
【0093】
導入遺伝子およびノック−インおよびノック−アウトベクターの設計は、当該技術分野では周知であり、標準的論文、例えばサムブルックら(Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)およびオースベルら(Ausubel et al.,1997,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,New York)などの標準的論文に記載されている。標的ベクター内に使用されるBEHABコード領域に近接またはその中の上流および下流部分は、公知の方法によりそしてポリシアリル化BEHABの核酸およびアミノ酸配列を含む本明細書中で提供される開示に基づく本明細書中で開示される教示に従って容易に選定されるであろう。それらの配列の知見を得て、当該技術分野の通常の熟練者は本発明の導入遺伝子およびノック−アウトベクターを構築できるであろう。
【0094】
培地内で哺乳動物細胞を維持するために有用な方法および組成は、当該技術分野では周知であり、ここで哺乳動物細胞は、これらに限定はされないが、マウス、ラット、ヒトなどから入手した細胞を含み、哺乳動物から得られる。
【0095】
本発明の組換え細胞は、腫瘍の進行および浸潤に対する、ポリシアリル化BEHABおよび/またはグリコシル化バリアントBEHABレベルの質的および量的改変の効果を研究するために使用できる。これは、BEHABが分泌されそしてヒアルロナン結合ドメインを有するという事実が、BEHABがECMの機能、組成、または活性に関与することを示すからである。さらに、組換え細胞は、治療および/または診断目的への使用のためにポリシアリル化BEHABおよび/またはグリコシル化バリアントBEHABを産生するために使用できる。すなわち、ポリシアリル化BEHABおよび/またはグリコシル化バリアントBEHABを発現する組換え細胞は、大量の精製および単離されたポリシアリル化BEHABおよび/またはグリコシル化バリアントBEHABを産生するために使用でき、それらは、グリオームの診断、および良性および悪性腫瘍間の識別、良性および悪性の稀突起グリオームおよび星状膠細胞腫のサブグループの間の識別などを含み、これらに限定はされないグリオームの鑑別診断に使用できる。
【0096】
当該技術分野の熟練者は、本開示に基づいて、ポリシアリル化BEHABタンパク質の低いレベル、BEHABおよび/もしくはBEHAB切断産物活性の低いレベルまたは双方を含んでなる細胞が、これらに限定はされないが、BEHAB発現の阻害物(例えばアンチセンスまたはリボザイム分子、合成抗体または細胞内発現体(intrabody))を発現する細胞を含むことを認めるであろう。
【0097】
さらに、本発明はBEHAB、グリコシル化バリアントBEHAB、ポリシアリル化BEHAB、またはそれらのフラグメントを発現する遺伝子の阻害を含んでなる。本発明は、干渉RNAの使用を介して達成できる。RNA干渉(ENAi)は、種々の範囲の生物体および細胞タイプ内への二本鎖RNA(dsRNA)の導入が相補性mRNAの分解を起こす現象である。細胞内で、長いdsRNAは、ダイサー(Dicer)として知られるリボヌクレアーゼにより、短い21〜25ヌクレオチドの小さい干渉RNA(small interfering RNA)、すなわちsiRNAに切断される。siRNAは、引き続いてタンパク質成分と集合してRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)となり、プロセス中で巻き戻す。次いで活性化RISCはsiRNAアンチセンス鎖とmRNAとの間の塩基対形成相互作用により相補的転写体となって結合する。結合mRNAが切断されそしてmRNAの配列特異性分解は遺伝子サイレンシングをもたらす。例えば、米国特許第6,506,559号明細書;Fire et al.,Nature(1998)391(19):306−311;Timmons et al.,Nature(1998)395:854;Montgomery et al.,TIG(1998)14(7):255−258;David R.Engelke,編集,RNA Interference(RANi) Nuts & Bolts of RNAi Technology,DNA Press(2003):およびGregory J Hannon,編集.RNAi A Guide to Gene Silencing,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2003)参照のこと。従って、本発明は、RNAi技術を用いて、BEHAB、グリコシル化バリアントBEHAB、ポリシアリル化BEHAB、またはそれらのフラグメントをコードする遺伝子をサイレンシングする方法も含む。
V.抗体
BEHAB、グリコシル化バリアントBEHAB、ポリシアリル化BEHAB、またはそれらのフラグメントを特異的に結合する抗体も含まれる。
【0098】
本開示の知見を得た熟練者は、本発明が、低グリコシル化BEHABアイソフォームおよび非グリコシル化BEHABアイソフォームおよびポリシアリル化BEHABアイソフォームを含むグリコシル化バリアントBEHABアイソフォームを結合する抗体をさらに含んでなることも理解するであろう。抗体の生成は本明細書の他の場所に記載されており、そしてそれらの作製は当該技術分野では周知の技術と熟練を用いて達成される。低グリコシル化BEHAB、非グリコシル化BEHABおよびポリシアリル化BEHABを含むグリコシル化バリアントBEHABを結合する抗体は、これらに限定はされないが、B5、B6およびBCRP抗体を含み、それらの実験の詳細は本明細書中および当該技術分野の別の所に記載されている(Mattews et al.,2000.J.Biol.Chem.275:22695−22703)。さらに、本明細書中に記載の抗体は、ラットおよびヒトを含む哺乳動物BEHABの種々の形態を結合でき、そしてBEHABと関連する一次CNS腫瘍の検出、診断、および処置のために本発明に有用である。
【0099】
本発明は、本明細書中に列挙した抗体に限定はされず、さらには将来発見および作製される抗グリコシル化バリアントBEHAB抗体および将来発見および/または作製される抗ポリシアリル化BEHAB抗体も含む。異常グリコシル化、低グリコシル化および非グリコシル化BEHAB、ならびにポリシアリル化BEHABを含むグリコシル化バリアントBEHABに対する抗体は、当該技術分野では周知の各種の方法により生成できる。限定ではない例として、BEHAB、またはそのフラグメントをコードする核酸は、それが産生したタンパク質をグリコシル化しない生物体、例えば大腸菌(E.coli)に形質転換できる。大腸菌およびその他の原核種内でタンパク質を産生する方法は、当該技術分野では周知でありそして本明細書通の別の場所に記載されている。非グリコシル化性原核種から単離されたタンパク質は、次いで、本明細書中に記載されているようにして、哺乳動物に投与できて抗体を産生する。抗体は、非グリコシル化BEHABを含むグリコシル化バリアントBEHABアイソフォームを特異的に結合する。
【0100】
さらに、ポリシアリル化BEHABを含むグリコシル化バリアントBEHABに対する抗体は、BEHABタンパク質骨格に関連する糖と炭水化物の一部またはすべてを除去するために、全長BEHABタンパク質をグリコシダーゼと接触させて生成できる。さらに、全長BEHABは、タンパク質にシアル酸を付加するために、当該技術分野では公知のグリコシルトランスフェラーゼを含むグリコシルトランスフェラーゼと接触できる。かかるグリコシダーゼおよびグリコシルトランスフェラーゼは、当該技術分野では公知であり、そして多数の関連するグリコシダーゼが本明細書中の別の場所に記載されている。当該技術分野では公知のグリコシルトランスフェラーゼは、例えばEssentials of Glycobiology(1999,編集Ajit Varki,et al.Cold Spring Harbor,N.Y.:Cold Spring Harbor Laboratory Press)(その全体を引用することにより本明細書に編入される)に記載されている。さらに、熟練者は、本開示および本明細書中に開示のデータの知見を得ると、糖または炭水化物の一定のファミリーを除去し、一方場合によりBEHAB分子上の糖および炭水化物上に他の物を保持する特異性グリコシダーゼを選定することが容易に可能であろう。BEHAB分子は、グリコシダーゼを用いて処理した後に、次いでグリコシル化バリアントBEHABに対する抗体を生成するために動物に投与できる。哺乳動物へのタンパク質の投与の方法および抗体の生成は、当該技術分野では周知であり、そして本明細書中に記載されている。同様に、ポリシアリル化BEHABに対して特異性の抗体の生成のために、グリコシルトランスフェラーゼ、例えばタンパク質にシアル酸を付加するものは、全長BEHABにシアル酸を付加するために使用できる。次いで、この分子は、当該技術分野では周知でありそして本明細書の別の場所に記載の技術を用いて動物に投与できそしてポリシアリル化BEHABに対するモノクローナルおよびポリクローナル抗体を含む抗体が生成する。
【0101】
あるいは、ポリシアリル化およびグリコシル化バリアントBEHABは、抗体を作製するために、グリオーム細胞を含み分子がその中に天然に存在する細胞から単離できる。細胞または組織からポリシアリル化BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABを単離する方法は、本明細書の別の場所に記載されている。
【0102】
本発明は、さらにグリコシル化バリアントBEHABに特異性の抗体の生成を含んでなる。かかる抗体は、本明細書の別の場所に開示の組成物、方法およびキットに有用である。限定ではない例として、グリコシル化バリアントBEHABに特異性の抗体は、BEHABの一次アミノ酸配列のフラグメントを含んでなるペプチドまたはタンパク質を与えて生成できる。かかるフラグメントは、BEHABの一次アミノ酸配列内に存在するコンセンサスグリコシル化部位を含んでなることができる。熟練者は、かかるコンセンサスグリコシル化部位をそれらの配列およびアミノ酸含有量により容易に認めるであろう。例として、O−連結サッカライドは、通常はトレオニンまたはセリン残基上のグリコシド結合を介して付加し、そして一部の場合には、ヒドロキシリシンまたはヒドロキシプロリン上に付加する。さらに、N−連結サッカライドは、しばしばトレオニンに結合したいずれかのアミノ酸に結合したアスパラギンに結合したいずれかのアミノ酸の配列を有する部位でしばしばアスパラギン残基に付加する。従って、熟練者は、本開示および本明細書中に開示された方法の知見を得ると、BEHAB一次アミノ酸配列内のコンセンサスグリコシル化部位を同定し、それらのコンセンサスグリコシル化部位を含んでなる動物を免疫化するペプチドを生成し、そしてグリコシル化バリアントBEHABを特異的に結合する抗体を容易に生成できる。かかる抗体は、これらに限定はされないが、哺乳動物内の一次CNS腫瘍の形成に対して哺乳動物を免疫化、一次CNS腫瘍を処置、一次CNS腫瘍を検出するためのイン・ビボおよびイン・ビトロのいずれかを含む治療処置、および本明細書の他の場所で開示した他の方法および使用に有用である。
【0103】
本発明の抗体は、ヒトを含む哺乳動物内のグリオームの診断および鑑別診断に特に有用である。それは、本明細書中に開示されるデータにより示されるように、グリコシル化バリアントBEHABおよびポリシアリル化BEHABに対する抗体が、例えば稀突起グリオームとその他のグリオームとの間を鑑別するアッセイに使用できるからである。本発明の抗体は、CNS中の良性腫瘍と悪性腫瘍との間の鑑別にもさらに使用できる。従って、本発明の抗体は、ヒトを含む哺乳動物内のCNS腫瘍、例えばグリオームの診断に使用できる。
【0104】
ポリクローナル抗体の生成は、所望の動物に抗原を用いて接種しそして例えばハーロウら(Harlow et al.,1988;Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY中)に記載のもののような標準的抗体作製方法を用いてそれらからの抗原を特異的に結合する抗体を単離して達成される。かかる技術には、マルトース結合タンパク質もしくはグルタチオン(GSH)標識ポリペプチド部分のような他のタンパク質の一部分を含んでなるキメラタンパク質、および/またはBEHAB部分が免疫原性を与えられる(すなわちキーホールリンペットヘモシアニン、KLHと結合したBEHAB)ような部分およびげっ歯類および/もしくはヒトのそれぞれのBEHABアミノ酸残基を含んでなる部分を用いて動物を免疫化することが含まれる。キメラタンパク質は、BEHABをコードする適当な核酸(例えば配列番号7)を、この目的に適するプラスミドベクター、例えば、これらに限定はされないが、pMAL−2またはpCMX内にクローニングして産生される。BEHABおよびその部分に特異的に結合する抗体を生成する別の方法は、マシューズら(Matthews et al.,2000,J.Biol.Chem.275:22695−22703)に詳細に記載されている。
【0105】
しかし、本発明は、全長BEHABに結合するポリクローナル抗体のみに限定されると解釈してはならない。さらに適切には、本発明は、用語は本明細書内の別の場所で定義されているが、哺乳動物BEHAB、またはその部分に対する他の抗体を含むと解釈されるべきである。さらに、本発明は、なかでもBEHABに結合しそしてウレスタンブロット上、ポ組織の免疫組織化学染色中(これによりリシアル酸付加BEHABおよび/もしくはグリコシル化バリアントBEHABを含むBEHABを位置決定する)、組織中、およびBEHABの少なくとも一部分をコードする核酸を用いて一時的または安定してトランスフェクションされた細胞の免疫蛍光顕微鏡像中に存在するBEHABを結合できる抗体を包含すると解釈するべきである。
【0106】
当該技術分野の熟練者は、本明細書中に提供される開示に基づいて、抗体が、タンパク質のいずれの部分でも特異的に結合できそして全長タンパク質はそれに特異性の抗体を生成するために使用できることを認めるであろう。しかし、本発明は、免疫原として全長タンパク質を使用することのみに限定はされない。さらに適切には、本発明は、ポリシアリル化BEHABおよび/またはグリコシル化バリアントBEHABを含む哺乳動物BEHABと特異的に結合する抗体を産生するためのタンパク質の免疫原性部分の使用を含む。すなわち、本発明は、BEHABタンパク質、例えばグリコシル化部位を含むエピトープの免疫原性部分、または免疫原決定因子を使用する動物の免疫化を含む。
【0107】
抗体は、動物、例えばこれらに限定はされないが、ラビットまたはマウスをBEHABタンパク質、もしくはその一部分を用いて免疫化することにより、またはBEHABの少なくとも一部分、もしくは例えば適当なBEHABアミノ酸残基を含んでなる一部分と共有結合した、マルトース結合タンパク質標識ポリペプチド部分を含んでなる標識ポリペプチド部分を含む融合タンパク質を含んでなるタンパク質を用いて動物を免疫化することにより作製できる。当該技術分野の熟練者は、本明細書中に提供される開示に基づいて、BEHABを特異的に結合する抗体を作製するために、それらのタンパク質のより小さいフラグメントも使用できることを認めるであろう。
【0108】
当該技術分野の熟練者は、本明細書中に提供される開示に基づいて、単離されたBEHABポリペプチドの種々の部分が、BEHABの切断部位を含んでなるエピトープまたはBEHABの切断産物上に存在するエピトープのいずれかに対する抗体を生成するために使用できることを認めるであろう。BEHABの配列およびタンパク質の種々のエピトープおよび切断産物を位置決定する詳細な分析の知見を得ると、当該技術分野の熟練者は、本明細書中に提供される開示に基づいて、当該技術分野では公知または開発される方法を用いて哺乳動物BEHABポリペプチドの種々の部分に特異性の抗体を如何にして得るかを理解するであろう。
【0109】
従って、熟練者は、本明細書中に提供される開示に基づいて、本発明が、BEHAB活性を中和および/または阻害する抗体、ならびに生物学的試料中のポリシアリル化BEHABおよび/またはグリコシル化バリアントBEHABを検出する抗体を包含することを認めるであろう。
【0110】
本発明は、本明細書中に開示された抗体、または本発明のタンパク質のいずれかの特定の免疫原性部分にのみ限定されると解釈されてはならない。さらに適切には、本発明は、用語は本明細書の他の場所に定義されているが、BEHABまたはその部分に対する、または配列番号8のアミノ酸配列を有するポリペプチドと少なくとも一部の相同性を共有するタンパク質に対する他の抗体を含むと解釈されるべきである。好ましくは、該ポリペプチドは、ヒトBEHAB(配列番号8)に対して約1%相同性、さらに好ましくは約5%相同性、さらに好ましくは約10%相同性、その上さらに好ましくは約20%相同性、さらに好ましくは約30%相同性、さらに好ましくは約40%相同性、さらに好ましくは約50%相同性、さらに好ましくは約60%相同性、さらに好ましくは約70%相同性、さらに好ましくは約80%相同性、さらに好ましくは約90%相同性、さらに好ましくは約95%相同性、さらに好ましくは約99%相同性、そして最も好ましくは99.9%相同性である。
【0111】
当該技術分野の熟練者は、本明細書中に提供される開示に基づいて、該抗体が、細胞内の関連タンパク質を位置決定するためおよび細胞プロセス内でそれにより認識される抗原の役割を研究するために使用できることを認めるであろう。さらに、該抗体は、周知の方法、例えば、これらに限定はされないが、ウエスタンブロッティングおよび酵素結合免疫吸着検定法(ELIZA)を用いて生物学的試料中に存在するタンパク質を検出またはその量を測定するために使用できる。さらに、該抗体は、当該技術分野では周知または本明細書の他の場所に記載の方法を用いてそれらの同族体抗原を免疫沈降および/または免疫アフィニティー精製するために使用できる。
【0112】
本発明は、ポリクローナル、モノクローナル、合成抗体などを包含する。当該技術分野の熟練者は、本明細書中に提供される開示に基づいて、本発明の抗体の重要な特徴が、抗体がポリシアリル化BEHABおよび/またはグリコシル化バリアントBEHABを含むBEHABと特異的に結合することであることを認めるであろう。すなわち、本発明の抗体は、ウエスタンブロット上、細胞の免疫染色においてBEHAB、またはそのフラグメント(例えば免疫原性部分、グリコシル化バリアントまたはそれらの抗原決定因子)を認識し、そして当該技術分野では周知の標準的方法を用いて、ポリシアリル化BEHABおよび/またはグリコシル化バリアントBEHABを含むBEHABを免疫沈降する。
【0113】
タンパク質またはペプチドの全長またはその一部分に対するモノクローナル抗体は、いずれかの公知のモノクローナル抗体調製方法、例えばハーロウら(Harlow et
al.,1988;Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY中)およびツシンスキら(Tuszynski et al.,1988,Blood,72:109−115)に記載のような方法を用いて作製してもよい。大量の所望ペプチドは、化学合成技術を用いて合成してもよい。あるいは、所望のペプチドをコードするDNAは、大量のペプチドの生成に適する細胞内の適切なプロモーター配列からクローニングおよび発現されてもよい。ペプチドに対するモノクローナル抗体は、本明細書中に引用されたような標準的方法を用いてペプチドを用いて免疫化されたマウスから生成される。
【0114】
本明細書中に記載の方法を用いて得られたモノクローナル抗体をコードする核酸は、当該技術分野で利用可能でありそして例えばライトら(Wright et al.,1992,Critical Rev.Immunol.12:125−168)およびその中に引用された引用文献に記載の技術を用いてクローニングおよび配列決定してもよい。
【0115】
さらに、本発明の抗体は、例えばライトら(Wright et al.,1992,Critical Rev.Immunol.12:125−168)およびその中に引用された引用文献、およびグら(Gu et al.,1997,Thrombosis and Hematocyst 77:755−759)中に記載の技術を用いて「ヒト化」されてもよい。本発明は、ポリシアリル化BEHABおよび/またはグリコシル化バリアントBEHABを含むBEHABのエピトープと特異的に反応性のヒト化抗体の使用も含む。かかる抗体は、BEHAB、またはそのフラグメントを特異的に結合できる。本発明のヒト化抗体は、ヒト枠組みを有しそしてBEHAB、またはそのフラグメントを特異的に反応性の抗体、典型的には、これらに限定はされないが、マウス抗体からの1個もしくはそれ以上の相補性決定領域(CDR)を有する、従って、例えば、BEHABのヒト化抗体は、一次CNS腫瘍、例えばグリオーム、良く分化した星状膠細胞腫、未分化星状膠細胞腫、多型膠芽腫、上衣腫、稀突起グリオーム、神経節膠神経腫、混合型グリオーム、脳幹グリオーム、視神経グリオーム、松果体腫瘍、稀突起腫瘍、下垂体腺腫、初期神経外胚腫瘍、血管腫瘍などの検出および/または鑑別診断に有用である。
【0116】
本発明中に使用される抗体がヒト化されると、抗体は、クイーンら(Queen et al.、米国特許第6,180,370号明細書)、ライトら(Wright et
al.,1992,Critical Rev.Immunol.12:125−168)およびその中に引用された引用文献、またはグら(Gu et al.,1997,Thrombosis and Hematocyst 77(4):755−759)中に記載のように生成されてもよい。クイーンら中に開示された方法は、アクセプターヒト枠組領域をコードするDNAセグメントに付加した所望の抗原、例えばBEHABに結合できるドナー免疫グロブリンから重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)をコードする組換えDNAセグメントを発現することにより産生されるヒト化免疫グロブリンの設計を一部は指向する。一般的には、クイーン特許明細書中の発明は、本質的にいかなるヒト化免疫グロブリンの設計に対してでも適用できる。クイーンは、DNAセグメントは、典型的には、天然に関連または異種のプロモーター領域を含むヒト化免疫グロブリンをコードする配列に機能するように連結した発現制御DNA配列を含むことを説明する。発現制御配列は、真核宿主細胞を形質転換またはトランスフェクションできるベクター内の真核プロモーターシステムであり得るかまたは発現制御配列は、原核宿主細胞を形質転換またはトランスフェクションできるベクター内の原核プロモーターシステムであり得る。一旦ベクターが適当な宿主内に組み込まれると、宿主は、導入されたヌクレオチド配列の高レベル発現に適した条件下に維持され、そして所望の場合には、ヒト化軽鎖、重鎖、軽/重鎖ダイマーまたは不変の抗体、結合フラグメントまたはその他の免疫グロブリン形態の集積および精製が続くであろう(Beychok,Cells of Immunogloblin Synthesis,Academic Press,New York,(1979)、これは引用することにより本明細書に編入される)。
【0117】
種々のヒト細胞からのヒト定常領域(CDR)DNA配列は、周知の方法に従って単離できる。好ましくは、ヒト定常領域DNA配列は、国際公開(WO)87/02671号明細書(これは引用することにより本明細書に編入される)中に記載のような不死化B細胞から単離される。本発明の抗体の産生に有用なCDRは、ポリシアリル化BEHABおよび/またはグリコシル化バリアントBEHABを含むBEHABに結合できるモノクローナル抗体をコードするDNAから同様にして誘導されてもよい。かかるヒト化抗体は、マウス、ラット、ラビット、またはその他の脊椎動物を含み、これらに限定はされない抗体を産生できるいずれかの好都合な哺乳動物供給源内で、周知の方法を用いて産生されてもよい。定常領域および枠組みDNA配列に適する細胞および抗体がその中で発現および分泌される宿主細胞は、多数の入手先、例えばAmerican Type Culture Collection,Manassas,VAから入手できる。
【0118】
上記に考察したヒト化抗体に加えて、本来の抗体配列に対する他の変性は、当該技術分野の熟練者には周知の種々の組換えDNA技術を用いて容易に設計および作製できる。さらに、種々の異なるヒト枠組領域は、グリコシル化バリアントBEHABおよびポリシアリル化BEHABを含むBEHABを指向するヒト化抗体のための基礎として単独または組み合わせて使用されてもよい。一般に、遺伝子の変性は、種々の周知の技術、例えば部位指定変異誘発(Gillman and Smith,Gene,8:81−97(1979);Roberts et al.,1987,Nature,328:731−734)を用いて容易に達成されるであろう。
【0119】
あるいは、ファージ抗体ライブラリーを作製してもよい。ファージ抗体ライブラリーを作製するために、ファージ表面上に発現される所望のタンパク質、例えば所望の抗体を発現する細胞、例えばハイブリドーマから単離されたmRNAから、cDNAライブラリーが最初に得られる。mRNAのcDNAコピーは、逆転写酵素を用いて産生される。免疫グロブリンフラグメントを指定するcDNAはPCRにより得られそして得られたDNAを適切なバクテリオファージベクター内にクローニングして、免疫グロブリン遺伝子を指定するDNAを含んでなるバクテリオファージDNAライブラリーを作製する。異種DNAを含んでなるバクテリオファージライブラリーを作製する手順は、当該技術分野では周知でありそして例えば、サムブルックら(Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)に記載されている。
【0120】
所望の抗体をコードするバクテリオファージは、タンパク質が、その相当する結合タンパク質、例えば抗体が指向する抗原に結合するために利用できるような様式でその表面上に現れるように処理されてもよい。従って、特定の抗体を発現するバクテリオファージが相当する抗原を発現する細胞の存在下でインキュベーションされる場合に、バクテリオファージは細胞に結合する。抗体を発現しないバクテリオファージは、細胞に結合しない。かかる選別方法は、当該技術分野では周知であり、例えばライトら(Wright et al.,1992,Critical Rev.Immunol.12:125−168)中に記載されている。
【0121】
上記のようなプロセスは、M13バクテリオファージディスプレイを用いるヒト抗体の産生のために開発されている(Burton et al.,1994,Adv.Immunol.57:191−280)。本質的には、cDNAライブラリーが抗体産生細胞の集団から得られたmRNAから作製される。mRNAは再配列された免疫グロブリン遺伝子をコードし従ってcDNAは同じものをコードする。増幅されたcDNAをM13発現ベクター内にクローニングして、その表面上にヒトFabフラグメントを発現するファージのライブラリーを創成する。関係する抗体をディスプレイするファージは抗原結合により選択されそして細菌内で増殖して可溶性ヒトFab免疫グロブリンを産生する。従って、慣用のモノクローナル抗体合成とは対照的に、該手順は、ヒト免疫グロブリンを発現する細胞というよりはヒト免疫グロブリンをコードする不死化DNAを産生する。
【0122】
上記の手順は、抗体分子のFab部分をコードするファージの作製を記載している。しかし、本発明は、Fab抗体をコードするファージの作製のみに限定されると解釈してはならない。さらに適切には、一本鎖抗体をコードするファージ(scFファージ抗体ライブラリー)も本発明に含まれる。Fab分子は全Ig軽鎖を含んでなり、すなわち、それらは軽鎖の可変および定常領域の双方を含んでなるが、しかし重鎖の可変領域および第一定常領域ドメイン(CH1)のみを含む。一本鎖抗体分子は、IgFvフラグメントを含んでなるタンパク質の一本鎖を含んでなる。IgFvフラグメントは、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域のみを含み、その中に含まれる定常領域は有してない。scFv DNAを含んでなるファージライブラリーは、マークスら(Marks et al.,1991,J.Mol.Biol.222:581−597)に記載の手順に従って作製されてもよい。所望の抗体の単離のためにこのようにして作製されたファージの選別は、Fab DNAを含んでなるファージライブラリーに記載したものと同様の様式で実行される。
【0123】
本発明は、その中で重鎖および軽鎖可変領域がほとんどすべての可能な特異性を含むように合成されてもよい合成ファージディスプレイライブラリーも含むと解釈されるべきである(Barbas,1995,Nature Medicine 1:837−839;de Kruif et al.,1995,J.Mol.Biol.248:97−105)。
VI.組成物
本発明は、異常グリコシル化、低グリコシル化BEHAB、ポリシアリル化グリコシル化バリアントBEHABおよび非グリコシル化BEHABを含みこれらに限定はされないグリコシル化バリアントBEHABアイソフォームを包含する。本発明のグリコシル化バリアントBEHABは、全長BEHAB上に見出される糖および炭水化物の完全相補体から改変されまたはそれより少ないBEHAB分子を含んでなる。本明細書中のデータにより開示されるように、グリコシル化バリアントBEHABは、グリオームを含みそれには限定されない一次CNS腫瘍内のBEHABの主要な増加制御形態である。従って、本発明は、なかでも一次CNS腫瘍の診断道具、神経細胞外マトリッックスとガン発生変異、機能不全などの相互作用を解明するための研究道具として有用なグリコシル化バリアントBEHABを含む。さらに本発明のグリコシル化バリアントBEHABは、これらに限定はされないが、一次CNS腫瘍、例えばグリオームの免疫治療を含む一次CNS腫瘍の検出、処置、および診断のための組成物、方法およびキット内の試薬として有用である。
【0124】
従って、本発明は、なかでも、グリオームを含む一次CNS腫瘍の診断道具、神経細胞外マトリックスとガン発生変異との相互作用、機能不全などを解明するための研究道具として有用なポリシアリル化BEHABを含む。さらに、本発明のポリシアリル化BEHABは、これらに限定はされないが、一次CNS腫瘍、例えばグリオームの免疫治療を含む一次CNS腫瘍の検出、処置、および診断のための組成物、方法およびキット内の試薬として有用である。
【0125】
グリコシル化バリアントBEHABは、本明細書中に開示する方法に従って作製できる。すなわち、本発明は、脳ホモジネートの顆粒画分からグリコシル化バリアントBEHABを単離する方法を含んでなり、そしてさらに全長BEHABおよびGPI連結BEHABを含むその他のBEHAB分子からのグリコシル化バリアントBEHABの分化の方法を含んでなる。
【0126】
本発明は、さらに、組換え細胞内でグリコシル化バリアントBEHABを生成する方法を含んでなる。すなわち、熟練者は、本明細書中の本開示およびデータの知見を得ると、BEHABまたはそのフラグメントをコードする単離された核酸を用いて細胞をトランスフェクションし、そして細胞からグリコシル化バリアントBEHABを単離することにより、グリコシル化バリアントBEHABを産生できる。この目的のための単離された核酸は、細胞内のタンパク質のトランスフェクションおよび発現の方法として、本明細書中の別の場所に開示されている。好ましくは、該細胞は、グリコシル化バリアントBEHAB、例えばこれらに限定はされないが、Oli−neuおよびU87−MG細胞を発現する細胞である。
【0127】
本明細書中に開示されるデータにより記述されるように、グリコシル化バリアントBEHABおよびポリシアリル化BEHABは、種々の方法により全長BEHABまたはGPIアンカーBEHABから分化できる。かかる方法は、SDS−PAGE電気泳動、免疫蛍光および位置決定、免疫沈降、などを含む。さらに熟練者は、当該技術分野では公知でありそして本明細書中に記載される技術を用いて、グリコシル化に基づいてタンパク質の異なるアイソフォームの間を容易に区別できる。
VII.方法
A.一次CNS腫瘍を処置する方法
本発明は、一部分は、BEHABが、脳腫瘍を有する哺乳動物の一次CNS腫瘍進行、浸潤および生存期間に顕著な役割を演ずるという新しい発見に基づいている。本発明は、哺乳動物、好ましくはヒト内の一次CNS腫瘍を処置する方法を含む。
【0128】
本発明は、グリコシル化バリアントBEHABアイソフォーム阻害剤の有効量を哺乳動物に投与することによる、ヒトを含む哺乳動物内の一次CNS腫瘍または反応性グリオームを処置する方法を含んでなる。すなわち、本発明は、グリオーム、良く分化した星状膠細胞腫、未分化星状膠細胞腫、多型膠芽腫、上衣腫、稀突起グリオーム、神経節膠神経腫、混合型グリオーム、脳幹グリオーム、視神経グリオーム、髄膜腫、松果体腫瘍、下垂体腫瘍、下垂体腺腫、初期神経外胚腫瘍、神経繊維腫、血管腫瘍、リンパ腫などを含む、哺乳動物内の一次CNS腫瘍を処置する方法を包含する。該方法は、哺乳動物に抗体を投与することを含んでなり、ここで抗体またはその他のリガンドは、グリコシル化バリアントBEHABアイソフォームに結合し、それにより一次CNS腫瘍を処置する。これは、本明細書中で開示するデータにより示されるように、グリコシル化バリアントBEHABが、グリオームなどを含む一次CNS腫瘍内に存在するBEHABの主要なアイソフォームであることによる。従って、本発明は、CNS中のグリコシル化バリアントBEHABの活性を阻害し、従って一次CNS腫瘍を処置するために有用である。
【0129】
グリコシル化バリアントBEHABアイソフォームを特異的に結合する抗体の生成および投与の方法は、当該技術分野では周知でありそして本明細書中の別の場所に記載されている。本発明は、細胞内発現体、タンパク質として投与される抗体、およびポリシアリル化BEHAB、低グリコシル化BEHABアイソフォームおよび非グリコシル化BEHABアイソフォームを含むグリコシル化バリアントBEHABアイソフォームを結合する抗体をコードする核酸構築物として投与される抗体をさらに含んでなる。
【0130】
B.一次CNS腫瘍の診断方法
本発明は、グリオーム、良く分化した星状膠細胞腫、未分化星状膠細胞腫、多型膠芽腫、上衣腫、稀突起グリオーム、神経節膠神経腫、混合型グリオーム、脳幹グリオーム、視神経グリオーム、髄膜腫、松果体腫瘍、下垂体腫瘍、下垂体腺腫、初期神経外胚腫瘍、神経繊維腫、血管腫瘍、リンパ腫などを含み、これらに限定はされない、一次CNS腫瘍、その他の中枢神経系腫瘍、およびBEHABに関連するその他のBEHABに関係する神経病理学的障害の診断の方法をさらに包含する。それは、本明細書中の別の場所に開示されているデータにより示されるように、グリコシル化バリアントBEHABおよびポリシアリル化BEHABの発現が悪性グリオームに特異的であり、そして他の神経学的病理では現れずあるいは良性腫瘍でも現れないからである。従って、本発明は、哺乳動物内のグリコシル化バリアントBEHABまたはポリシアリル化BEHABの発現を検出する方法、従って、一次CNS腫瘍を診断する方法および良性グリオームを悪性グリオームから鑑別診断する方法を含む。一次CNS腫瘍の処置または診断のいずれであっても、本明細書中に記述するすべての場合に、最も好ましい哺乳動物はヒトである。
【0131】
本発明は、哺乳動物内の悪性グリオームを診断する方法を含む。該方法は、哺乳動物から生物学的試料を入手しそして該試料内のグリコシル化バリアントBEHABの存在を検出することを含んでなる。本明細書中に開示されているデータにより示されるように、グリコシル化バリアントBEHABの検出可能レベルは、悪性グリオーム、例えばグレードIIIまたはグレードIVグリオームの特異性診断マーカーである。
【0132】
本発明は、ヒトを含む哺乳動物内の悪性グリオームのイン・ビボおよびイン・ビトロでの鑑別診断の方法も包含する。すなわち、本発明は、哺乳動物内または哺乳動物からの生物学的試料内のいずれかのグリオームを鑑別診断する方法を含む。本方法は、悪性すなわち高度グリオームと良性すなわち低度グリオームとの間の鑑別診断もさらに可能とする。該方法は、グリオームの存在が疑われる哺乳動物内のグリコシル化バリアントBEHABの発現を検出することを含んでなる。検出可能なグリコシル化バリアントの存在は、哺乳動物が悪性または高度グリオームを有することの指標である。
【0133】
悪性または高度グリオームは、これらに限定はされないが、グリオーム、多型膠芽腫、未分化星状膠細胞腫、浸潤性膠細胞腫、稀突起グリオーム、およびグレードII〜IVのグリオームサブタイプを含むことができる。低度または良性グリオームは、これらに限定はされないが、慢性テンカン、慢性テンカンに随伴する星状膠細胞腫、上衣腫、毛髪細胞性(pilocytic)星状膠細胞腫、および多形性キサント星状膠細胞腫(xantoastrocytoma)を含むことができる。
【0134】
生物学的試料内のグリコシル化バリアントBEHABのレベルの比較は、本明細書中に開示されるかまたは当該技術分野で公知のいずれかの方法を使用して達成でき、その方法には、抗体を用いる検出、例えばELISA、免疫ブロッティング技術、タンパク質検出技術、例えばSDS−PAGE電気泳動、および当該技術分野では周知のその他の方法が含まれる。例えば、生物学的試料は哺乳動物から入手できそして該試料中のグリコシル化バリアントBEHABの存在を評価できる。生物学的試料は、これらに限定はされないが、血液、尿、糞便、神経組織、脊椎液、唾液、脳組織などを含むことができる。生物学的試料は、得ようとする生物学的試料に応じて種々の方法により入手することができる。例えば、血液は静脈穿刺により得ることができる。尿、糞便、および唾液は、試料容器などの内に採集できる。脳組織および神経組織を含みこれらに限定はされない組織試料は、生検また当該技術分野で周知の類似の方法で入手できる。脊椎液は、当該技術分野で周知の方法を用いて脊椎穿刺により採集できる。
【0135】
グリコシル化バリアントBEHABの生体内検出またはグリコシル化バリアントBEHABに関連するグリオームの診断のために、熟練者は、哺乳動物内のグリコシル化バリアントBEHABの検出のための標識付与抗体を使用できる。かかる抗体は、本明細書の他の場所に記載の技術を用いて生成でき、次いで多数の方法を介して標識または検出ができる他の分子に結合される。標識またはその他の分子を抗体に結合する方法は、当該技術分野では周知でありそして本明細書の他の場所に記載のタンパク質化学の技術を用いて達成できる。例として、グリコシル化バリアントBEHABを結合する抗体は、放射性同位元素に結合できそして同位元素標識抗体の結合は、放射能に感受性のフィルム、例えばX線フィルム上で検出できる。抗体は磁気共鳴造影技術で目視できる標識に結合させることもできる。さらに。本発明は、抗体が蛍光分子、例えばルシフェラーゼまたは緑色蛍光タンパク質のような蛍光分子、またはその他の標識、例えばホースラディシペルオキシダーゼ、蛍光分子、酵素、金、ビオチン、放射性同位元素、またはガドリニウムと結合させ、そしてグリコシル化バリアントBEHABアイソフォームへの抗体の結合は、標識を可視化できる造影システムを介して検出される方法を含む。蛍光標識の生体内検出のための生体光学(biophotonic)造影システムの使用は当該技術分野では周知であり、そしてかかるシステムは市場で入手できる(Xenogen,Alameda,CA)。
【0136】
本発明は、哺乳動物内の一次CNS腫瘍進行を診断する方法をさらに含む。本明細書中の本開示およびデータの知見を得て、熟練者に認められるように、検出可能なグリコシル化バリアントBEHABは悪性グリオームに特異的である。従って、本発明は、哺乳動物内の脳腫瘍進行を診断する方法を含む。該方法は、哺乳動物から生物学的試料を入手しそして試料内のグリコシル化バリアントBEHABの存在を検出することを含んでなる。次いで、試料内のグリコシル化バリアントBEHABの存在は、事前または事後試料内のグリコシル化バリアントBEHABの発現を決定するために、ヒト1含む同一哺乳動物から事前または事後に入手した試料と比較できる。試料中のグリコシル化バリアントBEHABの検出困難または検出不能なレベルは、哺乳動物が症状の寛解であるかまたは動物に与えられた抗腫瘍処置が有効であることを示す。グリコシル化バリアントBEHABのより高い検出可能なレベルは、腫瘍が進行しておりそして別の治療コースを採用すべきであることを示す。これは、本明細書の他の場所に開示のように、哺乳動物内のグリコシル化バリアントBEHABの検出可能レベルが悪性または高度グリオームに特異的であるからである。
【0137】
当該技術分野の熟練者は、本開示および本明細書中のデータの知見を得て、グリコシル化バリアントBEHAB切断のレベルを決定する方法が、これらに限定はされないが、ウエスタンブロッティング、ELISA、およびその他の当該技術分野では周知の免疫−検出アッセイを含む方法を含むことを認めるであろう。
【0138】
一つの局面では、生物学的試料は、血液試料、神経学的組織生検、脊椎液試料、尿、唾液などからなる群から選択される。
【0139】
本発明は、哺乳動物内の一次CNS腫瘍のための処置の有効性を評価する方法を含む。該方法は、増加したBEHAB発現により媒介またはそれと関連する疾患、障害または状態(例えば悪性グリオーム)に対する処置の指定されたコースの前、その間およびその後における、グリコシル化バリアントBEHAB発現、量、および/または活性のレベルの評価を含んでなる。それは、これまで本明細書の別の場所で記載したように、グリコシル化バリアントBEHAB発現、量、および/または活性の増加がグリオームの悪性と関連またはそれを媒介するからである。従って、グリコシル化バリアントBEHAB発現/量/活性に対する処置のコースの効果の評価は、グリコシル化バリアントBEHAB発現、量、または活性のより低いレベルが処置方法が成功していることを示す処置の効力を示す。
【0140】
評価される治療のコースは、これらに限定はされないが、本明細書中に開示されたグリオームの治療のための手術、化学療法、放射線治療、および/または治療の多重モードを含むことができる。
【0141】
C.有用な化合物を同定する方法
本発明は、細胞内でグリコシル化バリアントBEHABアイソフォームおよび/またはポリシアリル化BEHABアイソフォームの発現に影響する化合物を同定する方法をさらに含む。該方法は、細胞を供試化合物と接触させそしてそのように接触された細胞内のグリコシル化バリアントBEHABおよび/またはポリシアリル化BEHABの発現のレベルを、化合物と接触はされなかったがそれ以外は同様の細胞内のグリコシル化バリアントBEHABおよび/またはポリシアリル化BEHABの発現のレベルとの比較を含んでなる。グリコシル化バリアントBEHABおよび/またはポリシアリル化BEHABの発現のレベルが、供試化合物と接触はされなかったがそれ以外は同様の細胞内のグリコシル化バリアントBEHABおよび/またはポリシアリル化BEHABの発現のレベルと比較して、供試化合物と接触された細胞内の方が高いかまたは低い場合に、これは、供試化合物が細胞内のグリコシル化バリアントBEHABおよび/またはポリシアリル化BEHABの発現に影響する指標である。
【0142】
本発明は、グリコシル化バリアントBEHABおよび/またはポリシアリル化BEHABの発現に影響する化合物を同定する方法を包含する。当該技術分野の熟練者は、本明細書中に提供された開示に基づいて、グリコシル化バリアントBEHABおよび/またはポリシアリル化BEHABのレベルの評価が、プローブ(例えばグリコシル化バリアントBEHABおよび/またはポリシアリル化BEHABと特異的に結合する抗体)が、該方法がBEHABアイソフォームの発現に選択的に影響する化合物を同定できるように実行できることを認めるであろう。かかる化合物は、グリコシル化バリアントBEHABおよび/またはポリシアリル化BEHABの発現を阻害するために有用である。当該技術分野の熟練者は、かかる化合物が、増加したBEHABアイソフォームの発現により媒介および/またはそれと関連する疾患、障害、または状態を阻害するために有用であり得ること、例えばグリコシル化バリアントBEHABおよび/またはポリシアリル化BEHABの存在が悪性グリオームと関連することを理解するであろう。
【0143】
同様に、本発明は、細胞内のグリコシル化バリアントBEHABの発現を低下させる化合物を同定する方法を含む。該方法は、細胞を供試化合物と接触させそして化合物と接触された細胞内のグリコシル化バリアントBEHABの発現のレベルと、化合物と接触されず、その他は同様の細胞内のグリコシル化バリアントBEHABの発現のレベルとの比較を含んでなる。化合物と接触されなかった細胞内の発現のレベルと比較して、化合物と接触された細胞内のレベルの方が低い場合には、グリコシル化バリアントBEHABの発現のレベルは、供試化合物が細胞内のグリコシル化バリアントBEHABの発現を低下させることの指標である。
【0144】
熟練者は、本発明が細胞または動物内の有用な化合物を同定する方法に限定されないことをさらに認めるであろう。すなわち、本発明は、細胞を含まないシステム内で有用な化合物を同定する方法も含む。本明細書中で使用される場合に、細胞を含まないシステムとは、反応が起きるために必要な成分は存在するが、しかし細胞とは関連しないイン・ビトロアッセイを指す。かかる成分は、本質的に細胞を含まないという条件での細胞酵素、転写因子、タンパク質、抗体、核酸などを含むことができる。グリコシル化バリアントBEHABアッセイの検出は、免疫沈降アッセイなどの使用を含み、細胞または動物を含まないで実施できる。それにより、本発明は、細胞を含まないシステム内でグリオームを処置するために有用な化合物を同定する方法を含む。
VIII.キット
本発明は、グリコシル化バリアントBEHABに特異的に結合する抗体、ポリシアリル化BEHABに特異的に結合する抗体を含む化合物、アプリケーター、および本発明の方法を実施するための化合物の使用を記載した指示資料を含んでなる種々のキットを包含する。モデルキットを以下に記載するが、その他の有用なキットの内容は本開示を参照して熟練者には明白であろう。それらのキットそれぞれは、本発明の範囲内にあると考える。
【0145】
本発明は、グリコシル化バリアントBEHABアイソフォームを検出するキットを含んでなる。該キットは、グリコシル化バリアントBEHABアイソフォームに対する抗体を含んでなる。かかる抗体は開示され、本明細書の他の場所に記載されている。該キットは、本明細書の他の場所に記載されている方法を実施する指示を含み、グリコシル化バリアントBEHABアイソフォームの検出のための抗体をいかにして使用するかの情報を含んでなる指示資料をさらに含んでなる。
【0146】
本発明は、哺乳動物内の悪性グリオームを診断するキットをさらに含んでなる。該キットは、グリコシル化バリアントBEHABアイソフォームを特異的に結合する抗体、アプリケーター、およびキットの使用のための指示資料を含んでなる。アプリケーターの使用法および悪性グリオームの診断の方法は、本明細書の別の場所に開示される。
【0147】
本発明は、哺乳動物内の悪性グリオームを診断するキットをさらに含んでなる。該キットは、ポリシアリル化BEHABアイソフォームを特異的に結合する抗体を含む組成物、アプリケーターおよびキットを使用するための指示資料を含む。アプリケーターの使用法および悪性グリオームの診断の方法は、本明細書の他の場所に開示される。
【0148】
本発明は、悪性グリオームを処置するキットも含む。該キットは、グリコシル化バリアントBEHABアイソフォームまたはそのフラグメントに特異的に結合する抗体、製薬学的に許容できるキャリヤおよびアプリケーターを含んでなる。抗体およびアプリケーターの使用方法は、本明細書の他の場所に記載される。指示資料は、悪性グリオームの処置のために本明細書中に開示される方法を含んでなる。
実験実施例
本発明をここで以下の実施例を参照して説明する。それらの実施例は、説明の目的のみに提供され、そして本発明はそれらの実施例に限定されると決して解釈されてはならないが、しかし、さらに適切には、本明細書中で提供される教示の結果として明白となるあらゆる変更も包含すると解釈されるべきである。
【0149】
本実施例中に提示される実験中で使用される物質および方法を以下に記載する。
ヒト組織
ヒト組織の試料に関するすべての研究は、イェール大学医学部人類研究委員会(Human Investigation Committee)のガイドラインに適合して行われた。グリオーム、髄膜腫、類表皮腫瘍、神経線維腫、および髄芽腫を含む頭蓋内腫瘍(男性20人、女性12人、年齢13〜64歳)の病理学的に類別された新鮮冷凍手術試料をYale−New Haven Medical Hospital(New Haven,CT)から入手した。ヒトグリオーム試料(女性8人、男性13人)を以前に記載したように独立して類別した(Jaworski et al.,1996,Cancer Res.56:2293−2298)。神経学的病因または併発症がなく死亡した個体からの死後解剖の脳試料(女性10人、男性10人、死後解剖までの間隔は2〜31時間)が、正常のヒト皮質内のBEHABタンパク質の正常レベルのための対照として役立った。正常な側頭および頭頂部ヒト皮質の試料(男性10人、女性10人、妊娠16週目〜76歳)は、発育障害脳、組織バンク(Brain and Tissue Banks for Developmental Disorders,University of Maryland,Baltimore,MD)から入手した。テンカン病巣の新鮮冷凍手術試料(男性2人、女性1人、年齢9〜50歳)は、D.スペンサー博士(Dr.D.Spencer,Department of Neurosurgery,Yale University Medical School)の好意により提供された。アルツハイマー病と診断された個体からの死後解剖脳皮質試料(男性3人、女性1人、年齢78〜87歳)は、G.W.レベック博士(Dr.G.W.Rebeck,Department of Neuroscience,Georgetown University, Washington DC)の好意により提供された。すべての試料は、さらに処理するまで−70℃で保管された。
細胞レベル下の分別
脳および腫瘍試料を氷上で迅速に解凍しそしてプロテアーゼ阻害剤カクテル(完全、EDTA非含有、Roche,Nutley,NJ)を含む0.32Mスクロース(TS緩衝液)を含む25mM TrisHCl、pH7.4の10容積中でホモジナイズした。ホモジネートを950gで10分間遠心分離し、そして核ペレット(P1)をTS緩衝液中の迅速再ホモジネーションにより1回洗浄しそして上記と同様に遠心分離した。核後(post nuclear)上清を一緒にしそして100,000gで60分間遠心分離して全顆粒状物(膜富化)および可溶性フラクションを得た。細胞レベル下(subcellular)画分の試料アリコートを、5mM EDTAを含むCH緩衝液(40mM Tris HCl、40mM酢酸ナトリウム、pH8.0)中で最終全タンパク質濃度1〜2mgmlに平衡化しそしてプロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)(EC4.2.2.4,Seikagaku,East Fallmouth,MA)からのプロテアーゼを含まないコンドロイチナーゼABC(EC4.2.2.4,Seikagaku,East Fallmouth,MA)0.25U/mlを用いて、8時間、37℃で処理した。コンドロイチナーゼ活性は、1Xゲル添加緩衝液の存在下で試料を沸騰させて停止した。試料(全タンパク質10〜15μg)を還元性6%SDS−ポリアミド ゲル上で電気泳動し、そしてウエスタンブロティングおよび半定量濃度測定により分析した。
脳膜からBEHAB/ブレビカンアイソフォームの解放
種々のBEHABアイソフォームと細胞膜との会合を特性化するために、対照およびグリオーム試料から入手した全膜(約1mg(全タンパク質)/ml)を10mM EDTAの存在または不在で、50mM TrisHCl緩衝液、pH7.4中に1時間、4℃で再懸濁した。あるいは、100mM炭酸ナトリウム、pH11.3中に30分間、4℃で再懸濁した。インキュベーションの後、20,800gで20分間膜を遠心分離した。解放されたBEHABを上清中に回収し、そして残留BEHABを含む膜を50mM TrisHCl緩衝液を用いて2回洗浄し、そして当初体積と同一体積に再懸濁した。すべての試料を最終的にCH緩衝液と平衡化しそしてコンドロイチナーゼABCを用いて処理し次いでタンパク質電気泳動した。免疫沈降研究のために、300mMNaClおよび0.6%w/vCHAPS(3−〔(3−クロアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホン酸)を含む50mM TrisHCl、pH7.4中で、1時間、4℃で膜を抽出した。当該技術分野では公知の標準プロトコールに従って、タンパク質A−セファロース(Amersham−Pharmacia Biotech,Piscataway,NJ)に前浸漬した、本明細書の別の場所に記載したラビット・ポリクローナル抗BEHAB抗体B6(本明細書の別の場所に記載)を用いて、可溶化したタンパク質を免疫沈降させた。
細胞培地およびトランスフェクション
ヒトグリオーム細胞系統U87−MG(American Type Culture Collection,Manassas,VA)を10%ウシ胎児血清(FCS)(Hyclone,Logan UT)、50μg/mlペニシリンおよび50μg/mlストレプトマイシン(Gibco,Gaithersburg,MD)を補足したDMEM培地(Gibco,Gaithersburg,MD)中、5%COで培養した。ヒトBEHAB(GeneBank登録番号BC010571、ヌクレオチド1−3245)の完全コード配列を含んでなるクローンをInvitrogen(La Jolla,CA)から購入しそして当初のpSPORT6.1プラスミドから、pCDNA3.1(+)プラスミドおよびpcDNA3.1−V5(6vHis)プラスミド(Invitrogen,La Jolla,CA)のEcoR1−Not1制限部位中にサブクローンした。製造者のプロトコールに従って、リポフェクタミン(Lipofectamine)(μl):DNA(μg)の比率2;1でリポフェクタミン2000(Invitrogen,La Jolla,CA)を用いて細胞をトランスフェクションした。対照トランスフェクションは、親のpCDNA3.1(+)ベクターを用いて行った。
細胞膜および免疫細胞化学の調製
トランスフェクションした細胞をトランスフェクションの24時間後に血清を含まない媒体オプチメン(Optimen,Gibco,Gaithersburg,MD)に加えそして24時間後、媒体交換後に採集した。プロテアーゼ阻害剤カクテル(完全、EDTA非含有、Roche,Nutley,NJ)および2U/ml RNAse不含有DNAse(Roche,Nutley,NJ)を含む25mMリン酸塩緩衝液、pH7.4中に採集した細胞を溶解した。全膜は20,800xで30分間遠心分離して得られそしてタンパク質電気泳動のために準備した。培地を超遠心分離により濃縮しそして同様にSDS−PAGEのために処理した。
【0150】
トランスフェクションしたU87−MG細胞の免疫細胞化学染色のために、12ウエルプレート内のポリL−リシン(100μg/ml、Sigma,St.Louis,MO)を被覆した18mmガラスカバーグラス上で培養物を24時間培養し次いでヒトBEHABcDNAを用いてトランスフェクションした。非固定、非浸透性処理培養物をDMEM中で反復してリンスしそしてラビットポリクローナル抗BEHAB抗体B6または抗V5抗体と共に4℃で30分間培養し、次いで固定した。次いで細胞をリンスし、次いで100mMリン酸塩緩衝液、pH7.4中の4%パラホルムアルデヒド中で20分間固定し、アレクサ(Alexa)結合抗ラビットIgG二次抗体(Molecular Probes,Eugene,OR)と共に60分間インキュベーションし、短時間、DAPI(0.25μg/ml、Sigma,St.Louis,MO)を用いて対比染色しそして蛍光顕微鏡測定のために準備した。
【0151】
BEHABのアイソフォームのどれが生細胞染色法により細胞表面で検出されたかを決定するために、トランスフェクションしたU87−MG細胞をDMEM中でリンスし、対照培地を用いて4℃で30分間インキュベーションしそして固定段階の直前にウエルからかき集めた。それらの細胞を25mMリン酸塩緩衝液、pH7.4中でホモジナイズし、そして全ホモジネートをタンパク質電気泳動のために準備した
タンパク質脱グリコシル化
対照の脳およびグリオーム試料からの可溶性および顆粒状フラグメントを、タンパク質濃度約1mg/mlで脱グリコシル化緩衝液(20mM TrisHCl、20mM酢酸ナトリウム、25mM NaCl、pH7.0)中で平衡化し、そして下記のグリコシダーゼ単独または組み合わせて用いて処理した:0.25U/mlコンドロイチナーゼABC、肺炎双球菌(Diplococcus pneumoniae)からの20mU/mlO−グリコシダーゼ(EC3.2.1.97,Roche,Tutlay,NJ)、アルトロバクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens)からの100mU/mlシアリダーゼ(EC3.2.1.18,Roche,Tutlay,NJ)、クリセオバクテリウム・メニンゴセプチクム(Chrysoebacterium meningosepticum)からの100mU/mlグリコペプチダーゼF(PNGase F)(EC3.5.1.52,Calbiochem,La Jolla,CA)。すべての場合に、試料はプロテアーゼ阻害剤の存在下,酵素と一緒に8時間、37℃でインキュベーションした。酵素消化は、1Xゲル添加緩衝液中で試料を煮沸して停止した。
【0152】
非暴露N−連結炭水化物のために必要な変性脱グリコシル化のために、0.1%w/vSDSおよび0.1M2−メルカプトエタノール中で試料を最初に平衡化し、そして95℃で10分間加熱した。次いで、0.8%v/vNonidet−P40を含む脱グリコシル化緩衝液中で試料を平衡化すると脱グリコシル化は上記と同じ条件下で進行した。
ウエスタンブロット分析
試料(10〜15μg全タンパク質)を還元性6%SDS−ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動しそしてタンパク質をニトロセルロースに電気泳動により移動させた。ラットBEHABのコンドロイチン硫酸塩付着領域(アミノ酸506−529)に相当する合成ペプチドに対して産生されたアフィニティー精製ラビットポリクローナル抗体(B6)と共にブロットをインキュベーションした。あるいは、ラットBEHABのアミノ酸60−73(抗体B5)およびヒトBEHABのアミノ酸859−879(抗体BCRP)に相当する合成ペプチドに対して産生されたアフィニティー精製ラビットポリクローナル抗体を用いてBEHABを検出した。抗体B6、B5および BCRPは、ラット脳試料中の特異性検出またはBEHABに関して以前に記載されている(Matthews et al.,2000,J.Biol.Chem.275:22695−22703;Viapiano et al.,2003,J.Biol.Chem.278:33239−3347)。BEHABのN−末端切断産物は、切断ネオエピトープQEAVESE(配列番号9);ラットBEHABのアミノ酸389−395に対するラビットポリクローナル抗体を用いて検出された。V5標識ヒトBEHABもマウスモノクローナル抗V5抗体(Invitrogen,La Jolla,CA)を用いて検出された。アルカリホスファターゼ結合二次抗体が使用されそして免疫反応性バンドは、ニトロ−ブルーテトラゾリウムおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドイル ホスファートを用いて可視化された。全ホモジネート内のBEHABの濃度測定定量のために、免疫反応性バンドが化学蛍光により可視化され(Amersham,Piscataway,NJ)そしてGel−Pro v3.1ソフトウエア(Media Cybernetics,Silver Spring,MD)を用いて定量された。統計的比較は、非ホモセダシー(non−homocedacy)に対するウェルチ(Welch)の補正を用いるスチューデント検定により行った。
【0153】
本実施例中に示す実験の結果を以下に記載する。
【0154】
グリオームは、周囲の正常な神経組織内に浸潤でき、それはそれらの腫瘍の著しく独特で差別的な特徴である。グリオームが正常神経組織内に拡散するためには、それらはCNS中に見出される独特の細胞外環境を通って進まなければならない。従って、神経環境とのそれらの相互作用を変性するグリオーム細胞内に独特に発現される分子は特に重要である。ヒトグリオーム内のCNS特異性ECM成分BEHABの腫瘍特異性アイソフォームが本明細書中に開示される。それらの腫瘍内のBEHABの独特な発現プロフィールがグリオーム内のこの糖タンパク質に対して重要な役割を示す。
【0155】
BEHAB mRNAは、正常な脳内でかなりの量で発現されそして悪性グリオーム内で著しく増加制御される(Gary et al.,2000,Gene 256:139−147;Boon et al.2002,Proc,Nat’l Acad.Sci.USA 99:11287−11292)。正常な脳内のBEHABタンパク質の存在およびグリオーム内のその増加制御は、本明細書内で示される。しかし、それらの結果は、グリオーム内の増加制御が、BEHABの発現の全般的な増加に導くのみならず、差別的グリコシル化アイソフォーム、ポリシアリル化BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABのグリオーム特異性発現にも導くことを示す。多数のタンパク質の過剰発現がグリオームに関して記載されているが、腫瘍特異性タンパク質またはタンパク質アイソフォームの発現は、比較的稀であり、ここに記載するBEHABアイソフォームの治療および診断的価値を証明する。
BEHABは正常ヒト脳および初期脳腫瘍内で差別的に発現される
正常な脳およびグリオーム組織内でのBEHABタンパク質の発現は、細胞レベル以下の分別およびコンドロイチン硫酸塩鎖の酵素切断の後にウエスタンブロットにより分析された。正常の脳組織内で、分泌されたBEHABは全長形で約160kDa、ならびにトロンボスポンジン モチーフ(ADAMTS)−4/アグレカナーゼ(Aggrecanase)−1を用いるディスインテグリン(disintegrin)およびメタロプロテアーゼによる特異性タンパク質分解により産生された約60および約100kDaの切断生成物として検出された(図9)(Matthews et al.,2000,J.Biol.Chem.275:22695−22703;Nakamura et al.,2000,J.Biol.Chem.275:38885−38890)。ヒトグリオームからの手術試料において、同様のタンパク質バンドの強度での期待された増加が存在し、それは従来の研究がBEHAB mRNA発現がグリオーム内で劇的に増加制御されると示した通りである(Gary,et al.,2000,Gene 256:139−147;Jaworski et al.,1996;Cancer Res.56:2293−2298)。しかし、タンパク質分析はより複雑な描写を開示しており、BEHABの全長および切断形の発現増加のみならず、グリオームに特異性の別で独特なアイソフォームの存在も明らかにしている。最も明らかなアイソフォームであるグリコシル化バリアントBEHABは、見かけ分子量約150kDaで移動しそして膜含有画分に限定して分布する。第二でそれほど目立たないアイソフォームであるポリシアリル化BEHABは、約160kDa形態より僅かに高い見かけ分子量で移動しそしてグリオームの試料の可溶性および顆粒形画分の双方の中に分布していた。
【0156】
グリコシル化バリアントBEHABは、現在までアッセイした高度グリオームのグレードでIII(n=3)およびIV(n=19)の各試料中に存在し(図10A)、一方ポリシアリル化BEHABは分析した高度グリオームの約半分の中に現れていた。それらのアイソフォームの発現の濃度測定分析は、正常の脳組織と比較してグリオーム内ですべての全長BEHABアイソフォームが3倍高いことを示した。このBEHAB発現の増加は、正常組織と比較してグリオーム内で60kDa切断生成物の約4倍増加に同様に反映していた。切断された全長BEHABは、N末端切断生成物のウエスタンブロットから独立して定量された。全長および切断BEHABの発現は、対照と比較してグリオーム内で有意に増加していた(スチューデントのt−検定)(図10B)。注目されるのは、グリコシル化バリアントBEHAB単独の発現が、非切断BEHABの対照レベルを越える全過剰発現の約半分を占めることであり、グリオーム内で合成されたBEHABのかなりの部分がこのアイソフォームを作成する経路に分岐されていることを示唆する。
【0157】
ポリシアリル化BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABがグリオームに独特であるかまたは他の神経病理的状態でも発現されるかを決定するために、頭蓋内腫瘍の他のタイプ(n=4)ならびにテンカン(n=3)およびアルツハイマー(n=4)からの脳皮質からの試料を分析した。これらのどの試料にもグリオーム特異性アイソフォームの検出可能なレベルは存在しなかった(図10C)。
【0158】
低度グリオームは、星状膠細胞および/または稀突起神経細胞由来の比較的成長が遅い一次脳腫瘍を特徴とする疾病の異種群である。多数の患者が、容易に制御できる発病を示しそして何年間も安定しているが、他の群ではより高度の腫瘍に急速に進行する。低度グリオームの腫瘍を有する患者の臨床結果が広範に変動するという事実にもかかわらず、低度グリオームの良い分子または組織化学的マーカーは少ない。良性と悪性腫瘍を判別できるアッセイに対する緊急の要求がある。稀突起グリオームの組織学は、臨床挙動を予測できないことが多い。例えば、一部の稀突起グリオームは10年以上も緩慢な進行を示し、他は悪性の様式で挙動し、数年間にわたって進行する。本明細書中に開示するデータは、良性として知られる一組の稀突起グリオームがグリコシル化バリアントBEHABを発現せず、他方では悪性の様式で挙動するものはグリコシル化バリアントBEHABを発現することを示す(図11)。高度稀突起グリオームのための徴候マーカーが現在では見出されているが、現在、それらの低度腫瘍を相互に判別する分子マーカーはない。従って、グリコシル化バリアントBEHABの発現は、良性低度を悪性腫瘍から判別するための重要な診断方法である。
【0159】
高度グリオームにおけるポリシアリル化BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABの独特の発現のために、BEHABアイソフォームの発現と腫瘍グレードとの間の関係が研究された。グレードII稀突起グリオーム(n=6)の分析は、試料の2個の下位群を明らかにし、1個はポリシアリル化BEHABアイソフォームとグリコシル化バリアントBEHABの両者を発現し、そして他の1個はそれらのアイソフォームのいずれも発現しなかった(図11)。ポリシアリル化BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABの双方に陰性の試料の下位群は、慢性テンカンと関連する低度腫瘍、著しく緩慢で良性のグリオームの下位群と診断された患者に相当する(Bartolomei et al.,1997,J.Neurooncol.34:79−84;Luyken et al.,2003,Epilepsia 44:822−830)。本明細書の別の場所で開示するように、それらの腫瘍中のBEHABアイソフォームの発現プロフィールは、その他の低度グリオームからそれらの良性腫瘍を判別する最初の公知分子マーカーを表す。
【0160】
ラットBEHABは、発育調節の様式で発現される(Viapiano et al.,2003,J.Biol.Chem.278:33239−33247)。ここで記載するグリオーム特異性アイソフォームの個体発生性発現は、それらが正常な脳発育の間に検出できるかどうかを決定するために分析された。年齢1歳を越える個体からのどの試料(n=14、図12A)も、ポリシアリル化BEHABまたはグリコシル化バリアントBEHABのいずれの検出可能な量も含んでいなかった。BEHABの約160kDaアイソフォームだけが検出されたが、それは年齢8歳前でその最高レベルで発現されそしてその後はより低いレベルに低下しそして成人期を通じて一定レベルであった。しかし、妊娠16週間から19日齢の幼児までの初期発育段階(n=6)では、グリコシル化バリアントBEHABの位置で移動する微かなバンドが観察された(図12B)。このバンドは、皮質組織からの全ホモジネート中ではほとんど検出されなかったが、しかし膜富化画分中では明瞭に観察された。
【0161】
ポリシアリル化BEHABは、分析した高度および低度グリオーム全体のほぼ半数に存在し、これは高度グリオームの最も典型的な細胞表面マーカーであるEGF受容体、EGFR vIIIの腫瘍特異性バリアントのものと同様の事例である(Kleihues et al.,2000,Int’l.Agency for Research on Cancer,IRAC Press,London)。O−連結炭水化物上に追加のシアル酸を含むポリシアリル化BEHABの差別的グリコシル化とは別に、細胞レベルより下の分布および膜付加を含みこのアイソフォームのすべてのその他の生化学的性質は、BEHABの正常に分泌された160kDa全長アイソフォームと一致するように思われる。異常にシアル酸化された細胞表面糖タンパク質の存在は、悪性挙動と関連するグリオームを含む数種の腫瘍内の典型的な変性である(Hakamori,2001,Adv.Exp.Med.Biol.491:369−402;Kim and Varki,1997,Glycoconj.J.14:569−576;Yamamoto et al.,1997,Brain Res.755:175−179)。BEHABは、過剰シアル酸化の新規の基質を表し、グリオーム内のBEHAB機能の重要性ならびに臨床結果との関連を示す。
【0162】
BEHABの最も顕著なグリオーム特異性アイソフォームであるグリコシル化バリアントBEHABは、コアタンパク質の不完全または低下したグリコシル化に由来するBEHAB mRNAの全長生成物である。グリコシル化バリアントBEHABは、正常な成人脳からのものには存在しないが、しかし今日まで分析した高度グリオームのいずれの試料中にも発見され、従って、成人ヒト脳内の新規のグリオーム特異性マーカーである。グリコシル化バリアントBEHABは、一次脳腫瘍の中で独自の病理学的実体として特徴付けられた低度稀突起グリオームの限定された下位群内にのみ存在しない(Bartolomei et al.,1997,J.Neurooncol.491:79−84;Luyken et al.,2003,Epilepsia 822−830)。それらの低度、テンカン原性稀突起グリオームは、顕著な皮質局在性および独特の良性病理学的特徴を有する。腫瘍のこの特定の下位タイプの適切な同定は、展望がよい生存および指導的治療を確立するために重要である。現在、それらの腫瘍は組織学的または染色体的(すなわち1p/16q)特徴によっては具体的な低度稀突起グリオームから区別できず、それらはさらに攻撃的なプロフィールを有しそして異なる臨床アプローチを必要とするものである。グリコシル化バリアントBEHABは、それらの緩慢な腫瘍の間でさらに攻撃的な低度グリオームから区分する第一の分子マーカーであり従って診断的有用性を示す。
【0163】
グリオーム特異性ポリシアリル化BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABアイソフォームは、正常な成人脳内のみならず他の神経病理、例えばアルツハイマー病、テンカンおよび数種の非グリオーム頭蓋内腫瘍内にも存在しない。従って、それらの存在は、一般的に病理的または神経膠症的過程を反映せず、反対に、グリオームに特異性の変性の結果と考えられる。グリコシル化バリアントBEHABのみが、高い神経膠細胞形成の期間である、妊娠後半期の間および生誕後の初期数日の間に非常に低いレベルで発現され(Kadhim et al.,1988,J.Neuropathol.Exp.Neurol.47:166−188:Marin−Padilla,1995,J.Comp.Neurol.357:554−572)、そして最初の一年間で消失する。グリオーム内のグリコシル化バリアントBEHABの発現は、初期発育プログラムの再活性化を示し、それはこれまでグリオーム進行に関連されていた機構である(Seyfried,2001,Perspect.Biol.Med.44:263−282)。
グリオーム特異性グリコシル化バリアントBEHABはBEHABの全長アイソフォームである
げっ歯類脳内で、全長分泌タンパク質より小さいBEHABの数種のアイソフォームが、交互スプライシング、特異的タンパク質分解プロセシングおよび差別的グリコシル化により生成され、一方、全長BEHABアイソフォームより大きいものはコンドロイチン硫酸塩鎖を用いる付加グリコシル化によってのみ生成する。BEHABのグリオーム特異性アイソフォームの産生に関与する機構を研究した。
【0164】
BEHABのアミノ酸配列は、タンパク質分解生成物中およびC末端球状ドメインを欠失するスプライスバリアント中で不完全である。全長タンパク質のN末端およびC末端から5kDa以下に位置するエピトープそれぞれに指向する抗体B5およびBCRP(図9A参照)が、グリコシル化バリアントBEHABアイソフォームが全長BEHABの全アミノ酸配列を含むかどうかを決定するために使用された。BEHABは、正常な脳の界面活性剤抽出物および抗体B6を用いたグリオーム膜から免疫沈降されそしてそして免疫沈降された物質を抗体B5およびBCRPを用いてプローブした。すべての3種の抗体が、グリオームからの全長BEHABならびにグリコシル化バリアントBEHABを認識し(図13A)、グリコシル化バリアントBEHABが全長BEHABの末端切断生成物でも、グリコシルホスファチジルイノシトール−連結スプライスバリアントでもないことを示した。グリコシル化バリアントBEHABは、全長BEHABが高い濃度に富化されている対照試料からの免疫沈降物内には決して検出されず、グリコシル化バリアントBEHABが正常な成人脳では産生されないことの追加の証明をもたらした。
【0165】
グリコシル化バリアントBEHABがBEHABの全長アイソフォームをコードする同じmRNA転写物から生成されることを検証するための別の相補性対照として、U87MG細胞が全長ヒトBEHABcDNAを用いてトランスフェクションされ、そして得られた発現タンパク質をウエスタンブロッティングにより分析した。トランスフェクションされたU87MG細胞は、培地に分泌された約160kDa BEHAB(全長BEHAB)およびヒトグリオーム試料として顆粒状の細胞レベルより下画分に独占的に局在化されるグリコシル化バリアントBEHABの双方を産生した。ポリシアリル化BEHABは、U78MGまたはアッセイしたその他のラットおよびヒトグリオーム細胞系統内には決して観察されなかった。
【0166】
総合すると、これらの結果は、グリコシル化バリアントBEHABアイソフォームがBEHABの全長ペプチド配列を含み、そして切断または交互スプライシングにより産生されないことを示す。
ポリシアリル化BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABはBEHABの差別化グリコシル化により産生される
BEHABは、N−連結およびO−連結オリゴ糖ならびにコンドロイチン硫酸塩鎖を含んでなる。コンドロイチナーゼABCを用いる処理は、ウエスタンブロットで全長BEHABの免疫反応性の上昇をもたらし、これはコンドロイチン硫酸塩を単一バンド内にもたらすアイソフォームの電気泳動的一致によると考えられる。しかしコンドロイチナーゼ処理は、グリコシル化バリアントBEHAB運動性または免疫反応性に影響を及ぼさず、これが全長BEHABとは異なるようにグリコシル化されたことを示す。さらに、コンドロイチナーゼおよびN−連結およびO−連結糖を除去する酵素の組み合わせを用いる処理は、全長BEHABバンドをグリコシル化バリアントBEHABの位置に向かって移動させるが、しかしグリコシル化バリアントBEHABの電気泳動運動性には影響しないことを示し、これはそれがグリコシル化された全長アイソフォーム中に存在する一部または全部の糖を欠失することを示す。タンパク質変性に引き続くPNGaseFを用いる脱グリコシル化のみが、検出されたグリコシル化バリアントBEHABの電気泳動運動性を僅かな変化させた(図14B)。これらの結果は、グリコシル化バリアントBEHABが、タンパク質分子あたりにわずかな非暴露のN−連結炭水化物のみを有し、従ってBEHABの低グリコシル化形態であることを示す。
【0167】
脱グリコシル化アッセイからの結果も、ポリシアリル化BEHABアイソフォームのより高い分子量が、O−連結炭水化物上のシアル酸増加により産生されることを示し、それはポリシアリル化BEHABと全長BEHABの双方が、シアリダーゼを用いる処理の後にSDS−PAGEゲル上で単一位置に折り畳まれるからであり、これはPNGaseFでは起こらない(図14C)。総合すると、これらの結果は、全長BEHABとグリオーム特異性ポリシアリル化BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABアイソフォームの間の分子量の差が、差別的グリコシル化によるものであることを示す。
グリコシル化バリアントBEHABは、細胞表面で発現される
グリコシル化バリアントBEHABは、BEHABの低グリコシル化形態なので、膜画分を用いる分別に対する可能な解釈は、それがBEHAB過剰発現により起きた過誤折り返し型を示し、従ってそれは分泌経路内に保持されそして細胞表面に到達しないというものである。グリコシル化バリアントBEHABがグリオーム細胞の細胞外表面上に位置できるかどうかを決定するために、V5−標識または非標識全長ヒトBEHABのcDNAを用いてトランスフェクションされたU87MG細胞を、固定の前にB6および抗−V5を用いてプローブした。抗体が細胞外に暴露されたエピトープのみを認識できる生きている細胞染色からの結果は、トランスフェクションされた細胞の細胞外表面上でのBEHAB免疫反応性を明らかにした(図15A−F)。固定および浸透化の前および後においてBEHABに対して染色された細胞のさらなる分析は、細胞表面へのBEHABの分泌に加えて、タンパク質が細胞内にも発見されることを示した(図15G−J)。BEHABのこの画分は、分泌経路を介するBEHAB進行または過剰発現の人為産物であることを示した。
【0168】
U87MG細胞は、グリコシル化バリアントBEHABならびに全長BEHABの双方を産生する能力があり(図13B)従って細胞表面上の免疫反応性がグリコシル化バリアントBEHABの発現を独占的に表すかどうかが決定された。トランスフェクションされた細胞は、生細胞染色の際に記載したと正確に同様に処理されたがしかし細胞は固定の前に捕集された。それらの細胞の全ホモジネートのウエスタンブロッティグは、グリコシル化バリアントBEHABのみを検出し(図15H)、これが免疫細胞化学により細胞表面に以前に検出された唯一のアイソフォームであったことを確認した。
【0169】
細胞表面タンパク質の異常なグリコシル化は、ほとんどすべてのガン内で起こり(Hakomori,2002,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 99:10231−10233)そして正常なタンパク質−タンパク質相互作用を破壊でき、腫瘍浸潤および転移を促進すると思われる(Gorelik et al,2001,Cancer Metastasis Rev.20:245−277;Kim and Varki,1997,Glycoconj,J.14:569−576)。完全にグリコシル化されたBEHABは、N−連結糖、ムシン型O−連結糖およびコンドロイチン硫酸塩鎖を含む炭水化物の各種の群で包まれる。グリオーム内の特異性グリコシルトランスフェラーゼの発現の変化または代謝経路の変更は特定の炭水化物上の変性を起こしそして糖バリアント、例えばポリシアリル化BEHABを産生すると期待できる。しかし、グリコシル化バリアントBEHABの起源は、それが特異的に炭水化物のタンパク質コアへの付加を防止し、一方では他のタンパク質がまだグリコシル化する機構で生成し、さらに理解が困難である。
【0170】
低グリコシル化ではあるが、グリコシル化バリアントBEHABは小胞体内に蓄積する前駆体ではなく、反対に細胞外表面に局在する。グリコシル化バリアントBEHABは膜にカルシウム非依存性機構で結合し、それはBEHAB/ブレビカンおよびその他のレクチカン(lectican)のグリコシル化形態とは異なり(Yamaguchi,2000,Cell Mol.Life Sci.57:276−289)、タンパク質の低グリコシル化がその生化学的結合性に直接影響することを示す。
グリコシル化バリアントBEHABは他のBEHABアイソフォームとは異なる機構によりグリオーム膜と会合する。
【0171】
グリコシル化バリアントBEHABはグリオームの顆粒状画分に分配されそして細胞表面に達し、膜会合の機構が全長BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABのもので同様かどうかの研究の開始に導いた。最初に、正常な脳およびグリオームからの膜を炭酸ナトリウムを用いて処理し、これは周辺に付着していたタンパク質を解放するが、共有結合または一体化膜タンパク質は解放しない。グリコシル化全長BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABの双方が可溶性画分内に同じ比率で解放され(図16)、グリコシル化バリアントBEHABが細胞表面と周辺で会合していたことが確認された。
【0172】
BEHABの全ての既知の細胞表面リガンドがカルシウム依存性機構によりそのレクチン様ドメインと会合しているので(Asperg et al.,1997,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 94:10116−10121;Miura
et al.,1999,J.Biol.Chem.274:11431−11438)、正常な脳およびグリオームからの膜をEDTAを用いて処理して結合を破壊した。EDTA処理は、正常組織内およびグリオーム内の約160kDa全長BEHABアイソフォームを部分的に解放し(図16)、一方グリコシル化バリアントBEHABは影響されず、独特でカルシウム非依存性の機構によりこれが細胞膜と会合していることを示した。
【0173】
ヒトグリコシル化バリアントBEHABと同様の特性を有するがしかし正常な脳内では異なる発現パターンを有するラット脳内のBEHAB/ブレビカンアイソフォームは記載されている(Viapiano et al.,2003,J.Biol.Chem.278:33239−33247)。ラットグリコシル化バリアントBEHABもラット実験グリオーム内でBEHABの主要な増加制御された形態である。ラットおよびヒトグリオーム内の双方でのBEHABの低グリコシル化アイソフォームの増加制御は、制御されたBEHABのグリコシル化がグリオームの進行に重要な役割を演じることができることを示唆する。実際に、レクチカンのグリコシル化は、CNS中で正確に制御されている(Matthews et al.,2002,J.Neurosci.22:7536−7547)。さらに、CNS中のレクチカンの多数の機能的性質が実際にそれらの付着された炭水化物により媒介される(Bandtlow and Zimmerman,2000,Physiol.Rev.80:1267−1290;Propezi and Fawcett,2004,News Physiol.Sci.19:33−38)。従って、グリコシル化バリアントBEHAB内のグリコシル化の欠落は、非常に独特な機能性を有する分子を産生できる。神経ECMの別の鍵であるオーガナイザーであるCD44Hは、神経芽腫内で異常に低グリコシル化されそして細胞外HA骨組に不完全に結合する(Gross et al.,2001.Med.Pediatr.Oncol.36:139−141)。従って、グリオーム細胞表面上のグリコシル化バリアントBEHABの過剰発現は、正常BEHABの相互作用を同様に攪乱して腫瘍進行を促進でき、そして浸潤に有利な新規の細胞−細胞相互作用を可能とする。
【0174】
特異性細胞表面抗原を介するガン細胞の選択的標的化は、現在グリオームについて開発されている魅力的な治療方法である(Kuan et al.,2001,Endocr.Relat.Cancer 8:83−96;McLedon et al.,2000,J.Histochem.Cytochem.48:1103−1110;Leins et al.,2003,Cancer 98:2430−2439)。この方法における主要な障害は、腫瘍細胞への発現が制限されそして細胞表面で利用できることの双方を有する理想的な分子標的が少ないことである。グリオーム内のグリコシル化バリアントBEHABの選択的発現、その制限された膜局在化、および試験するすべての高度グリオーム内のその発現は、それを重要な新しい治療標的とさせる。さらに、低度で緩慢な稀突起グリオームの特定の下位群内でグリコシル化バリアントBEHABが存在しないことは、同様な組織ではあるが異なる病理過程にある一次脳腫瘍を区別するための診断マーカーとしてのその使用を証明する。グリコシル化バリアントBEHABの明確な臨床的価値は、グリオーム進行促進におけるBEHABの役割と共に、このタンパク質がグリオーム内の新規の抗腫瘍の方法のための有効な候補であることを示す。
【0175】
本明細書中に引用したすべての特許、特許出願、および出版物は、ここに引用することによりその全体が本明細書中に編入される。
【0176】
本発明は特定の態様を参照して開示されたが、本発明の真正の精神および範囲から外れることなく、本発明のその他の態様および変化が当該技術分野の熟練者により考案されるとは明らかである。添付の特許請求範囲は、すべてのかかる態様および等価の変更を含むと解釈されると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0177】
本発明の説明のために、本発明の一部の態様を図面に描いてある。しかし、本発明は図面に描かれた態様の正確な配置および手段に限定はされない。
【図1】配列番号1:ペプチドを描いた図である。
【図2】配列番号2:ペプチドを描いた図である。
【図3】配列番号3:哺乳動物変異BEHABポリペプチドを描いた図である。
【図4】配列番号4:哺乳動物変異BEHAB核酸を描いた図である。
【図5】配列番号5:ラットBEHAB核酸を描いた図である。
【図6】配列番号6:ラットBEHABポリペプチドを描いた図である。
【図7】配列番号7:ヒトBEHAB核酸を描いた図である。
【図8】配列番号8:ヒトBEHABポリペプチドを描いた図である。
【図9】図9Aおよび9Bから成り、ヒトグリオーム内のBEHABアイソフォームを描いた一連の図である。図9Aは、全長BEHABの構造、ADAMANTS−4によるその切断産物および抗体B6、B5、BCRPおよびB50により認識されるエピトープの位置を示す概要図である。HABD:HA結合ドメイン;GAG:コンドロイチン硫酸塩付着領域;RGF:表皮増殖因子反復;Lect:C型レクチン様ドメイン;CRP:相補調節タンパク質様ドメイン。図9Bは、グリオーム内でのグリコシル化バリアントBEHAB(B/BΔ)およびポリシアリル化BEHAB(B/Bsia)の存在および正常な脳組織内で存在しないことを示すウエスタンブロットからの図である。代表的な多形膠芽腫(グリオーム)および正常な年齢相当の脳皮質(対照)からの全ホモジネート(H)、膜富化(M)および可溶性(S)画分をウエスタンブロティングにより分析した。上図中の矢印は、全長BEHAB(B/b)および2種のグリオーム特異性アイソフォーム:ポリシアリル化BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABの位置を示す。中および下図中の矢印は、BEHABのC末端(約100kDa;B/b100)およびN末端(約60kDa;B/b60)切断産物を示す。
【図10】図10A〜10Cを含んでなり、悪性グリオームに対するポリシアリル化BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHAB制限を描いた一連の図である。図10Aは、高度グリオーム(グレードIII〜IV)および年齢相当の対照の代表的な下位群内のBEHABアイソフォームの発現を描いた図である。星印は、ポリシアリル化BEHABの位置を示す。図10Bは、図10Aに描いた試料からのBEHAB発現の濃度測定定量を描いた図である。全非切断BEHABは、全長BEHAB+ポリシアリル化BEHAB+グリコシル化バリアントBEHABに等しい。図10Cは、他の神経病からの全ホモジネート内のBEHAB発現を描いたウエスタンブロットの図である。テンカン(テンカン)およびアルツハイマー病(AD)を有する個体にのみ全長BEHABが検出された。BEHABは、類表皮腫(epi)、髄膜腫(meng)、聴神経腫(neur)および髄芽腫(medul)組織内には観察されなかった。
【図11】図11Aおよび11Bを含んでなり、慢性テンカンと関連した低度グリオームの下位群中でグリコシル化バリアントBEHABの発現を欠失するこをと描いた一連の図である。図11AはB6抗体を用いたウエスタンブロッティングにより分析したグレードII稀突起グリオーム(n=6)からの全ホモジネートを描いた図である。試料は、腫瘍関連慢性テンカン(c.e.)を有するかまたは有していないと診断された患者に相当する。年齢相応の対照は、同様の年齢での全長BEHABの正常な発現と比較するために描いた。図11Bは、良性または悪性(すなわち浸潤性および再発性)臨床コースを有する稀突起グリオームからの手術試料中の全長BEHAB発現およびグリコシル化バリアントBEHABの非発現を描いた図である。
【図12】図12A〜12Cを含んでなり、初期のヒト脳発育におけるグリコシル化バリアントBEHABの発現を描いた一連の図である。図12Aおよび12Bは、(1〜76歳)におけるヒト脳皮質からの全ホモジネートを描いた一連の図である。全長BEHABが発育の間を通じて検出された唯一のBEHABの形である。図12Cは、出産前および出産後の成長(妊娠16週〜年齢1歳)の間のヒト皮質からの全ホモジネートおよび膠芽腫(グリオーム)の代表的な手術試料を描いた図である。グリコシル化バリアントBEHABは初期の生育の間の正常な脳の膜含有画分内に検出されたが、グリオームよりは著しく低かった。
【図13】図13Aおよび13Bを含んでなり、グリコシル化バリアントBEHABがBEHABの全長アイソフォームであることを描いた一連の図である。図13Aは、B6抗体が存在しない(mock)または存在する(B6)場合の免疫沈降した対照およびグリオーム試料からの可溶化脳膜(M)を描いた図である。図13Bは、全長ヒトBEHAB cDNAを用いてトランスフェクションしたU87MG細胞からの培地(m)および細胞膜(c)を描いた図である。
【図14】図14A〜14Cを含んでなり、ポリシアリル化BEHABおよびグリコシル化バリアントBEHABがBEHABが差別的グリコシル化により産生されることを描いた一連の図である。図14Aは、コンドロイチナーゼABC単独(CH’ase)またはPLGaseF(PNG−F)、O−グリコシダーゼ(O−glycos)およびシアリダーゼを添加して処理した対照およびグリオーム試料からの可溶性および顆粒状画分を描いた図である。図14Bは、グリオーム試料からおよび変性(Denat)およびコンドロイチナーゼとPNGaseF(PNG−F)を用いて処理したBEHABトランスフェクションしたU87MG細胞からの膜を描いた図である。図14Cは、コンドロイチナーゼ処理(ctrl)およびPLGaseF(PNG−F)、シアリダーゼ(sialid)またはシアリダーゼとO−グリコシダーゼ(sia/O−gly)を用いて本来の状態で追加の脱グリコシル化をした、ポリシアリル化BEHABを発現するグリオーム試料からの可溶性画分を描いた図である。
【図15】図15A〜15Kを含んでなり、グリコシル化バリアントBEHABが細胞表面に位置することを描いた一連の図である。非標識(図15Aおよび15B)またはV5エピトープを用いて標識付与(図15Cおよび15D)のいずれかの全長ヒトBEHABのcDNAを用いてU87MG細胞をトランスフェクションした。生きている細胞を抗体B6(図15Aおよび15B)および抗−V5(図15Cおよび15D)を用いて染色した。陰性対照は制御ベクターを用いてトランスフェクションしたB6染色細胞(図15E)および非免疫ラビット血清を用いた染色BEHABトランスフェクション細胞(図15F)を含む。図15G〜15Jは、V5標識BEHABを用いてトランスフェクションおよびB6抗体およびV5抗体を用いて生体染色したU87MG細胞を描いた一連の図である。細胞核は4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)を用いて可視化した。図中の棒=25μm。図15Kは、培地内で全長BEHABを発現(m)および細胞膜内でグリコシル化バリアントBEHABを発現(c)するBEHABトランスフェクションされたU87MG細胞(B/b)を描いた図である。一つのアイソフォーム、グリコシル化バリアントBEHAB、のみが、それらのトランスフェクションされた細胞のホモジネート(homog)内で検出された。Ctrl:対照トランスフェクションされた細胞からのホモジネート。
【図16】グリコシル化バリアントBEHABがカルシウム非依存性の様式で細胞膜と周辺に会合することを描いた図である。対照およびグリオーム試料からの全膜(M)は、EDTAと共に(EDTA)またはそれを用いないで(Tris)再懸濁された。平行試料が、NaCO3中に再懸濁された(NaCO3)。Sは上清であり、Pはペレットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約160kDaより大きい分子量を有し、そして配列番号8に記載のアミノ酸配列を含んでなる、単離されたヒトポリシアリル化BEHABポリペプチド。
【請求項2】
分子量が、約163kDa〜約166kDaである、請求項1の単離されたポリペプチド。
【請求項3】
請求項1の単離されたポリペプチドであって、全長BEHABよりシアル酸残基を約10〜約20個多く含んでなる、上記ポリペプチド。
【請求項4】
シアル酸残基がO−連結を介して該ポリペプチドに付加している、請求項3の単離されたポリペプチド。
【請求項5】
哺乳動物内の悪性グリオームを検出する方法であって、該哺乳動物の生物学的試料をグリコシル化バリアントBEHABポリペプチドと特異的に結合する抗体と接触させ、そして該生物学的試料への該抗体の結合を検出することを含んでなり、ここで該抗体と該生物学的試料との結合が哺乳動物内の悪性グリオームを検出するものである、上記方法。
【請求項6】
哺乳動物がヒトである、請求項5の方法。
【請求項7】
生物学的試料がCNS組織試料である、請求項5の方法。
【請求項8】
CNS組織試料が脳組織である、請求項7の方法。
【請求項9】
抗体がB5、B6、およびBCRPからなる群から選択される、請求項5の方法。
【請求項10】
抗体がそれに共有結合した標識を含んでなる、請求項9の方法。
【請求項11】
グリオームが高度悪性グリオームである、請求項5の方法。
【請求項12】
哺乳動物内の良性グリオームから悪性グリオームを鑑別診断する方法であって、該哺乳動物の生物学的試料をグリコシル化バリアントBEHABポリペプチドと特異的に結合する抗体と接触させそして該生物学的試料への該抗体の結合を検出することを含んでなり、ここで該抗体と該生物学的試料との結合が哺乳動物内の悪性グリオームを検出するものである、上記方法。
【請求項13】
哺乳動物がヒトである、請求項12の方法。
【請求項14】
生物学的試料がCNS組織試料である、請求項12の方法。
【請求項15】
CNS組織試料が脳組織である、請求項14の方法。
【請求項16】
抗体がB5、B6、およびBCRPからなる群から選択される、請求項12の方法。
【請求項17】
抗体がそれに共有結合した標識を含んでなる、請求項16の方法。
【請求項18】
悪性グリオームが悪性高度グリオームである、請求項12の方法。
【請求項19】
良性グリオームが良性低度グリオームである、請求項12の方法。
【請求項20】
良性低度グリオームがグレードIIグリオームである、請求項19の方法。
【請求項21】
良性低度グリオームが、慢性テンカンと関連する稀突起グリオームである、請求項19の方法。
【請求項22】
哺乳動物内の腫瘍進行における変化の評価方法であって、該哺乳動物の第一の生物学的試料をグリコシル化バリアントBEHABポリペプチドと特異的に結合する抗体と接触させ、そして該抗体の該生物学的試料への結合を検出することを含んでなり、該方法が該生物学的試料中のグリコシル化バリアントBEHABのレベルを該哺乳動物からの第二の生物学的試料内のグリコシル化バリアントBEHABのレベルと比較することをさらに含んでなり、ここで、第二の該生物学的試料中のグリコシル化バリアントBEHABのレベルと比較した第一の該生物学的試料中のグリコシル化バリアントBEHABのレベルの差異が、該哺乳動物内の腫瘍進行における変化を示すものである、上記方法。
【請求項23】
哺乳動物がヒトである、請求項22の方法。
【請求項24】
生物学的試料がCNS組織試料である、請求項22の方法。
【請求項25】
CNS組織試料が脳組織である、請求項24の方法。
【請求項26】
抗体がB5、B6、およびBCRPからなる群から選択される、請求項22の方法。
【請求項27】
抗体がそれに共有結合した標識を含んでなる、請求項22の方法。
【請求項28】
グリオームが高度悪性グリオームである、請求項22の方法。
【請求項29】
悪性グリオームの検出用キットであって、グリコシル化バリアントBEHABを特異的に結合する抗体を含んでなり、アプリケーター、およびその使用のための指示資料をさらに含んでなる、上記キット。
【請求項30】
良性腫瘍から悪性腫瘍を鑑別診断するためのキットであって、グリコシル化バリアントBEHABと特異的に結合する抗体を含んでなり、アプリケーター、およびその使用のための指示資料をさらに含んでなる、上記キット。
【請求項31】
哺乳動物内の腫瘍進行における変化の評価用キットであって、グリコシル化バリアントBEHABと特異的に結合する抗体を含んでなり、アプリケーター、およびその使用のための指示資料をさらに含んでなる、上記キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9A−9B】
image rotate

【図10A−10C】
image rotate

【図11A−11B】
image rotate

【図12A−12C】
image rotate

【図13A−13B】
image rotate

【図14A−14C】
image rotate

【図15A−15F】
image rotate

【図15G−15K】
image rotate

【図16】
image rotate


【公表番号】特表2007−523060(P2007−523060A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549616(P2006−549616)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/001184
【国際公開番号】WO2005/069852
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(504026203)イエール・ユニバーシテイ (7)
【Fターム(参考)】