説明

一次救命トレーニングモデルキット

【課題】専門の教育を受けていない一般の人が、大きな経済的負担を負うことなく簡単に自動除細動器(AED)も含めた、一次救命をトレーニングするために、最適なトレーニングモデルを提供する。
【解決手段】一般の人が救急車の到着を待つまでの間に実施すべき一次救命のうち、AED、心臓マッサージ、人工呼吸のトレーニングを可能にするもので、少なくとも表面が人体の上半身に類似の形状を有し、且つ裏面に空間部6を有する構造体と、自動除細動装置の外観をした模擬AED装置からなる一次救命トレーニングモデルキットであって、前記構造体の裏面空間部に心臓マッサージトレーニングユニットと人工呼吸を施すトレーニングユニットを設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大きな経済的負担を負うことなく簡単に一次救命の自動除細動器(AED)、心臓マッサージ及び人工呼吸を練習、習得するための一次救命トレーニングモデルキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ようやく日本でもAED(自動除細動器)の使用が一般にも認められ、今後広く普及することが期待される。実際、日本においては毎日、100人近くの人が心室細動が原因の心臓疾患で亡くなっている。しかし、AED(自動除細動器)の認知度は低いものの、駅、空港、学校、企業や店舗など人の集まる場所に設置が始まっており、その使用はAEDの音声ガイドによって誰でも使用が可能なようになっているが、実際にはAEDの使用講習を受けなければ緊急の際、使用できる人は少ないと思われる。
またAEDは心肺蘇生法(CPR)具体的には心臓マッサージと人工呼吸と組み合わせることで、よりその効果を発揮することができるので、AEDとCPRとを一体としたトレーニングモデルが望まれるところである。
しかし、一般の講習会などで使用されているトレーニングモデルは、専門家の講習に用いられるトレーニングモデルで行われることが多く、学校、駅、企業あるいは家庭で購入するには高価であることが大きな問題であった。また、それらのトレーニングモデルには、特許文献1または2に記載されているような複雑な機構、電気回路等を含むために、故障の心配あるいは常にメンテナンスが必要であるという、一般の人が使用することには問題があった。
【0003】
一方、簡易型のAEDを含むトレーニングシステムの製品として、非特許文献1に示されているようなレールダル社製のAEDリトルアントレーニングシステムが知られている。AEDリトルアントレーニングシステムでは、1)AEDのパッドを装着する位置が間違っていると次のステップに進めない構造となっており、また2)パッドを装着すると、LEDが点灯して迅速なフィードバックが可能と言うように、トレーニングには便利な機構が盛り込まれているが、より多くの人がトレーニングを経験するという事からは、まだ過剰な機能が含まれていると言わざるを得ない。
実際の救急の現場ではAED、人工呼吸、心臓マッサージを施すことによって、自発呼吸が回復することがあるが、この製品では自発呼吸が回復した状態を再現することはできない上に、胸部の構造、触感において人とは大きく異なるために、臨場感のあるトレーニングを行う面で問題があった。
【特許文献1】特開2007-244879号公報
【特許文献2】特表2006-526172号公報
【非特許文献1】Laerdal社発行カタログ AEDリトルアントレーニングシステム
【0004】
そこで、臨場感があり、より低コスト化により講習受講者数に対するトレーニングシステムの比率を高め、さらにはより救急現場の状況が再現できるモデルが求められている。
さらには一般の人が使うにあたって、故障が無く長期間の使用に耐え、機能維持のためのメンテナンスも必要無く、持ち運びが簡単なように軽量化を図ることが求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では一次救命に関する専門の教育を受けていない一般の人を対象に、低コスト化によって講習受講者数に対するトレーニングシステムの比率を高め、かつ同時に心臓マッサージ、人工呼吸を練習し、よりAEDの効果を発揮させるべく練習が可能なトレーニングモデルを提供することにある。また、より実際の救急現場を再現することができるトレーニングモデルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために鋭意検討の結果、発明者は本発明を完成したもので、本発明の要旨は、少なくとも表面が人体の上半身に類似の形状を有し、且つ裏面に空間部を有する構造体と、自動除細動装置の外観をした模擬AED装置からなる一次救命トレーニングモデルキットであって、前記構造体の裏面空間部に心臓マッサージトレーニングユニットと人工呼吸を施すトレーニングユニットを設置したことを特徴とする一次救命トレーニングモデルキットである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって一次救命に関する専門の教育を受けていない一般の人に対して、より講習受講者数に対するトレーニングシステムの比率を高め、一般の人が簡単に、かつ実際の現場に類似した状況でAEDのトレーニングを経験することが可能となる。またAEDと同時に心臓マッサージ、人工呼吸を練習できるため、実際の救急時によりAEDの効果を発揮させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明におけるトレーニングモデルキットは基本構成として、少なくとも表面が人体の上半身に類似の形状を有し且つ裏面に空間部を有する構造体と、自動除細動装置の外観をした模擬AED装置とからなる。
前記構造体の表面はトレーニングの対象部位が胸部、顔部であるために少なくとも上半身以上の形状は必要であるが、必要に応じて下半身の一部、腕等を含める、あるいは全身像でも良い。なお、トレーニングを行う人には一般の人達も考えられるので、構造体の形状としては人の形状に類似していることが望ましい。
構造体には軽量であって、心臓マッサージのトレーニングに耐えられるような強度を有する材質ならば何れでも良く、例えばポリ塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂或いはポリウレタン樹脂等が考えられる。しかし、心臓マッサージのトレーニングの際には施術者が全体重を掛けることが前提となるため、その負荷に耐えることが必要である。一方、心臓マッサージを施した時にモデルの胸部が変形することが求められ、その両方の要求を達成するためには弾性率がある範囲に含まれる合成高分子材料によって、一体として成型されることが望ましい。
具体的には高弾性ウレタンフォームで、硬さ、反発弾性をJIS-K6400によって測定した場合、硬さが100〜300N、反発弾性が40〜80%の物性を持つウレタンフォームであることが望ましい。この物性のウレタンフォームであれば、十分な物理的強度をもち、トレーニングとして優れた感触を得ることができる。
またウレタンフォームでは軽量化を図ることができ、さらに型を用いた成形が可能であるために、多量製造が可能である。なお、ウレタンフォームは皮膚の感触にも類似しており、その面からも特に望ましい。
【0009】
当該構造体の表面は上半身の形状を持たせるが、この形状には顔等の詳細形状を持たせても良いし、持たなくても良い。また安価に製造するために、例えばウレタンフォームで大凡の形状とした後に、顔部分にマスクを被せることで顔の表情等、詳細な外観を持たせても良い。具体的にはシリコーン樹脂あるいはポリ塩化ビニル等による表皮を付けることができる。
また、上半身の内、頭部以外を上記ウレタンフォームによって成形し、頭部については他の材料を用い安価に製造することを行っても良い。これは頭部については、特に大きな負荷を掛けることがないためである。
【0010】
当該構造体の裏面に空間部を有するようにして平らにして置いた際の安定化を図る。そして、この空間部は心臓マッサージと人工呼吸の動作を確認するためのトレーニングユニットを設置するために2つの空間部に区分してもよい。心臓マッサージのトレーニングユニットについては、心臓マッサージを胸部前面から施した際に胸部が沈み込むが、その動きによって音を発するあるいは光を発する等の確認手段を付与することで、心臓マッサージのリズムを習得することができる。この付与する確認手段を、先の構造体裏面の空間部の1つに設置する。例えば振動で音を発し空間に収まる部材を該空間部に入れることで、心臓マッサージの際、押し込むことで音を発することができる。また空間部内に電気的な接点を設け、心臓マッサージで押さえ込むことによって接点が接触し、ランプ等を点灯させることもできる。
【0011】
他の空間部には人工呼吸を確認する手段を設ける。具体的には先の構造体の口と当該空間部まで連続した空気孔を設け、その空間部の出口にフィルムからなる袋(肺バッグとも言う)を接続する。この様にすることで、口から空気を吹き込んだ際にこのフィルムからなる袋(肺バッグ)に空気が入り膨れることで、この構造体全体が持ち上げられることになり、人工呼吸による空気の導入を確認することができる。これは実際の人工呼吸であっても、胸が上下することを確認しており実際の人工呼吸に類似した動きを再現している。
袋(肺バッグ)の大きさは、一回の呼気量が入る大きさで、その袋が膨れた状態において、袋の一部分が空間部より僅かに出る大きさを持っていれば良い。具体的には、成人の肺活量から2000mL程度の大きさを持つが、子供のトレーニングの場合にはそれより小さくすることが必要となり、その際には空間部の天井側に容積を減らすために厚みを持った板を装着することで容積を減らすことができる。当然使用される袋の容積も、小さい物を使用する。
【0012】
また、この袋(肺バッグ)には1つの弁と1つのコック、それに手動のポンプを設けることで自発呼吸の状態を再現することができる。具体的に弁については吹き込まれた呼気が逆流し漏れることを防ぐ弁であって、弁の種類に特に制限はないが安価な弁を用いることが望ましい。
コックについてはトレーニングの指導者が、手元で操作できる必要がある。このコックを指導者が開け閉めすることによって、トレーニングを受けている人の呼気を袋から放出させることで、次の呼気吹き込みに対応し、人工呼吸による胸の上下動を起こすことができる。また、人工呼吸の効果が出るだけ人工呼吸が行われたと指導者が判断した場合には、指導者はこのコックを解放し、一方で手元の手動ポンプ、具体的にはゴム球のポンプにより空気を吹き込むことで、自発呼吸の状態を作ることができる。これはポンプよりフィルムからなる袋(肺バッグ)に空気を送り込まれるが、この空気が入る速度よりも、放出する空気の量を少なくすることによって、ゆっくりとモデルの胸が上下する状態を作ることができる。指導者はトレーニングの進捗状況を見ていて自発呼吸の状態にし、自発呼吸の復活した状態を学習させることができる。
【0013】
本発明にかかるトレーニングキットの他の構成体である模擬AED装置は、外観上、市販されているAED製品に類似していることが望ましい。外観的には基本的に電源スイッチ、通電スイッチを持ち、他に心電図を解析するスイッチ、プログラムを選択するためのスイッチ、表示窓等を備えていても良い。この模擬AEDには製品の機能の一つである音声ガイド機能を持たせることが望ましい。これは実際、AEDを使用する現場においてもAEDの音声ガイドに従い作業を行うことから、トレーニングにおいても不可欠である。
本機構についても安価に製造するために、音声合成IC、音声合成回路、音声合成基板、音声合成機能等を用いることが望ましい。またこの模擬AEDにはAEDを行う回数をセットするためのダイヤルが設けられている。これによって、トレーニングを始める前に、トレーニングを受ける者の進捗状況に応じたトレーニングをセットすることが可能となる。
【0014】
本発明にかかるトレーニングキットの使用方法としては、基本的にトレーニング指導者と、トレーニングを受ける者によって使われる。具体的にはトレーニングを受ける者の近くに、本発明にかかるトレーニングモデルキットが置かれ、当該モデルに対して心臓マッサージ、人工呼吸、AEDの操作が行われる。一方指導者は当該トレーニングモデルキットから離れた位置に立ち、手元に上半身モデルから出ているチューブに付けられたコックと手動ポンプを持ち、それらが操作できるようにする。指導者はトレーニングを受ける者が人工呼吸で空気を送り込んだのを見て、手元のコックを開き次の空気の吹き込みに対応する。また、人工呼吸が十分に行われ自発呼吸に移る段階と判断した際には、手元のコックを開き、手動ポンプから空気を送り込み自発呼吸の状態を設定する。
【実施例】
【0015】
次に本発明を実施例として図をもって具体的に説明する。
図1は一次救命トレーニングモデルキットの上面からの模式図を示す。図1において上半身部分(1)はポリウレタン原料(KC-73:日清紡ポスタルケミカル社製)を用い、発泡成型により製造される。顔面部(2)には塩化ビニルを原料にスラッシュ成型によって製造された顔マスクを被せた。また口唇(3)は僅かに開いた形に成形されており、その口の奥にはチューブ(4)が接続されている。本チューブは後頭部に向かい少し延びた後に、L字形に曲がり本モデルを置く床面と水平となり胸部に向かう。
胸部にまで達したチューブは当該上半身部の裏面に設けられた肺バック用空間(5)の上面に、L字に曲がり開放部まで達する。本開放部には肺バックとのコネクター(6)を有しており、このコネクターによって肺バックと接続される。
また肺バック用空間の脚側上面にもコネクターが設けられており、このコネクターより胴体内部に向かい約2mのチューブが接続され、そのチューブはL字に曲がり胴体脚側断面に向かって延び、そのまま体外にまで指導者操作用としてチューブ(7)が延びている。このチューブの体外側端部には、約100mLの容量を持つゴム球(8)が接続され、このゴム球を圧縮する事によって、肺バックに空気を送ることができる。またこのゴム球の近くには、肺バック内の空気をリークするためのコック(9)を設け、ゴム球、本コックをトレーンイングの指導者が、上半身部から離れた位置で操作することができる。
【0016】
上半身部裏面に設けられた肺バック用空間の奥には、更に心臓マッサージを行った際に、圧縮により音を発するようにカスタネット様装置が附属している。肺バック用空間の奥に、更にカスタネット様装置が設置できる円筒状の空間(10)が開けられている。この中にカスタネット様装置が組み込まれる。また上半身部の心臓マッサージ施行部位にはハート状にマーク(11)されている。
図2は一次救命トレーニングモデルキットの背面からの模式図を示す。上半身部背面は、トレーニングを行う際に本モデルキットを安定して置くことができるように、平らな面を持っている。首の部分には口の奥から延びているチューブを通すための溝が掘られている。また肺バック用空間が四角く開けられており、そこに更にカスタネット様装置を組み込む為の空間が円形に開けられている。
一次救命トレーニングモデルキットには上半身部分のほかに模擬AED装置が附属する。模擬AED装置は実際のAED装置の外観を模倣すれば良く、本体からは電極版用として2本のコードが延び模擬の電極板2枚を持っている。また本体前面には実際のAEDと同様に電源スイッチ、通電スイッチを備え、電源スイッチを入れことで手順が音声によって指示され、通電スイッチを入れることで通電を体験できる。当該模擬AED内部には、音声指示を発する構造を有する。
本発明は図1あるいは図2の上半身部と模擬AED装置のセットにより構成されている。
【産業上の利用可能性】
【0017】
以上述べたような極めて簡単で、且つ安価なトレーニングモデルキットであるため、広く一般人にも自動除細動器(AED)、心臓マッサージ及び人工呼吸のトレーニングの機会をもつことが出来、これらの技術を習得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一次救命トレーニングモデルキット上半身部分表面図
【図2】一次救命トレーニングモデルキット上半身部分裏面図
【符号の説明】
【0019】
1 上半身部分 2 顔面部 3 人工呼吸口腔部
4 肺バック用チューブ 5 コネクター 6 肺バック用空間
7 指導者操作用チューブ 8 ゴム球 9 コック
10 カスタネット様装置空間
11 心臓マッサージ施行部位マーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が人体の上半身に類似の形状を有し、且つ裏面に空間部を有する構造体と、自動除細動装置の外観をした模擬AED装置からなる一次救命トレーニングモデルキットであって、前記構造体の裏面空間部に心臓マッサージトレーニングユニットと人工呼吸を施すトレーニングユニットを設置したことを特徴とする一次救命トレーニングモデルキット。
【請求項2】
前記心臓マッサージトレーニングユニットは心臓マッサージを施す動作を加えた場合、押す動作に併せて施術者にその動きを知らせる機構を有することを特徴とする請求項1記載の一次救命トレーニングモデルキット。
【請求項3】
前記人工呼吸を施すトレーニングユニットは人工呼吸を施す動作によって空気を吹き込むことにより当該構造体を持ち上げる袋を有することを特徴とする請求項1または2記載の一次救命トレーニングモデルキット。
【請求項4】
前記模擬AED装置は、自動除細動装置が有する音声ガイド機能を持つことを特徴とする請求項1〜3の何れかの項に記載の一次救命トレーニングモデルキット。
【請求項5】
前記構造体が、JIS-K6400に準じた測定によって硬さが100〜300N、反発弾性が40〜80%である合成高分子材料を骨格に持つことを特徴とする請求項1〜4の何れかの項に記載の一次救命トレーニングモデルキット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−115993(P2009−115993A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288115(P2007−288115)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(591071104)株式会社高研 (38)
【Fターム(参考)】