説明

一液性エポキシ樹脂組成物及び硬化物

【課題】貯蔵安定性と硬化性とを高度に両立することができる一液性エポキシ樹脂組成物、及びその硬化物を提供すること。
【解決手段】25℃で液状のエポキシ樹脂、酸無水物系の硬化剤、硬化触媒を含む一液性エポキシ樹脂組成物であって、当該樹脂組成物を40℃、60%RHで14日間保管した際における、保管前後でE型粘度計を用いて測定した25℃、50rpmでの粘度の増粘倍率が2.9以下であることを特徴とする一液性エポキシ樹脂組成物、及びその一液性エポキシ樹脂組成物を加熱により硬化して得られることを特徴とする硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液性エポキシ樹脂組成物及び硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その硬化物が、電気的特性、機械的特性、耐熱性、接着性等の点において優れた性能を有することから、電子・電気部品用の絶縁材料、塗料、接着剤などの幅広い用途に使用されている。
【0003】
また、一般的に使用されている液状エポキシ樹脂組成物において、硬化剤として酸無水物化合物を用いた場合、とくに絶縁性、耐湿性に優れ、電気部品等に使用される。それら酸無水物を硬化剤とする液状エポキシ樹脂組成物は、使用直前に、エポキシ樹脂成分と硬化剤成分とを均一混合する、いわゆる二液型エポキシ樹脂組成物と呼ばれるタイプが多い。二液性エポキシ樹脂組成物は、室温又はそれよりも低い温度条件下でも硬化可能であるが、エポキシ樹脂成分と硬化剤成分とを、別個に保管し、使用直前に、これら二つの成分を正確に計量し、十分に均一混合する必要がある為に、保管やその取扱いが煩雑である難点がある。また、二液性液状エポキシ樹脂組成物においては、可使時間が限られており、予め大量に混合しておくことができないため、使用の都度の配合頻度が多くなり、作業効率低下は避けられない。
【0004】
この様な二液性エポキシ樹脂組成物の問題点を解決する為、これまでに、幾つかの一液性エポキシ樹脂組成物が提案されてきた。そのため、潜在性硬化剤として例えば、アミンアダクト型、マイクロカプセル型の硬化触媒が挙げられ、各種潜在性硬化剤が設計されてきた(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−296525号公報
【特許文献1】特開2010−053353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来より、潜在性硬化剤を用いた場合、貯蔵安定性に優れているものは硬化性が低く、硬化性に優れているものは貯蔵安定性が悪い、つまり両者はトレードオフの関係にある。特に、近年のグローバル化社会においては、輸送コストの面から貯蔵安定性を、生産性の面からは硬化性を強く要望され、一液性エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性と硬化性の更なる向上が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、貯蔵安定性と硬化性とを高度に両立することができる一液性エポキシ樹脂組成物、及びその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(9)により達成される。
(1) 25℃で液状のエポキシ樹脂、酸無水物系の硬化剤、硬化触媒を含む一液性エポキシ樹脂組成物であって、当該樹脂組成物を40℃、60%RHで14日間保管した際における、保管前後でE型粘度計を用いて測定した25℃、50rpmでの粘度の増粘倍率が2.9以下であることを特徴とする一液性エポキシ樹脂組成物。
(2) 前記エポキシ樹脂組成物の150℃でのゲル化時間が300秒以下である(1
)に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
(3) 前記硬化触媒が、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒と酸無水物を含む混合物を加熱処理して得られる処理硬化触媒である(1)又は(2)に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
(4) 前記処理硬化触媒を得る際の前記加熱処理の温度が、前記マイクロカプセル型潜在性硬化触媒の表膜成分の融点よりも低い温度である(3)に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
(5) 前記処理硬化触媒を得る際の前記マイクロカプセル型潜在性硬化触媒と前記酸無水物との混合割合が、前記マイクロカプセル型潜在性硬化触媒100質量部に対して前記酸無水物1質量部以上、1000質量部以下である(3)又は(4)に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
(6) 前記処理硬化触媒の表膜成分の融点が70℃以上である(3)ないし(5)のいずれか1項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
(7) 前記マイクロカプセル型潜在性硬化触媒がイミダゾール系マイクロカプセル型潜在性硬化触媒である(3)ないし(6)のいずれかに記載の処一液性エポキシ樹脂組成物。
(8) 前記処理硬化触媒を、前記エポキシ樹脂100質量部に対する、前記マイクロカプセル型潜在性硬化触媒の正味の量として1質量部以上、20質量部以下となる割合で含む(3)ないし(7)のいずれか1項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
(9) (1)ないし(8)のいずれか1項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物を加熱により硬化して得られることを特徴とする硬化物。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従うと、貯蔵安定性と硬化性とを高度に両立させることが可能となる一液性エポキシ樹脂組成物、及びその硬化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一液性エポキシ樹脂組成物は、25℃で液状のエポキシ樹脂、酸無水物系の硬化剤、硬化触媒を含む一液性エポキシ樹脂組成物であり、一液性エポキシ樹脂の問題点である貯蔵安定性に優れた一液性エポキシ樹脂組成物である。
【0011】
ここで、貯蔵安定性とは、樹脂組成物を40℃、60%RH%で14日間保管した際における、保管前後でE型粘度計を用いて測定した25℃、50rpmでの粘度の増粘倍率を示しており、本発明の一液性エポキシ樹脂組成物においては、この増粘倍率が2.9以下であることが好ましい。この範囲以上を超えると、保管後の材料の増粘幅が大きく、使用できない恐れがあるため好ましくない。増粘後の材料が確実に使用できるためには、増粘倍率は2.0以下であることがより好ましい。また、増粘倍率の下限値については特に限定するものではないが、1.0以上であることが好ましい。この範囲を下回ると、吸湿による粘度低下が考えられ、樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物の物性が低下する可能性がある。
【0012】
また、本発明の一液性エポキシ樹脂組成物は、その150℃でのゲル化時間が300秒以下であることが好ましい。貯蔵安定性と硬化性とはトレードオフの関係にあり、例えば触媒量を少なくすると、貯蔵安定性を向上させることはできるが、硬化性は低下してしまうこととなる。150℃でのゲル化時間が上記上限値を超えると、硬化性の低下することで硬化時の加熱時間が延びるため、作業効率の低下を招く。ゲル化時間は短くすることが作業効率の点から好ましく、ゲル化時間が210秒以下であることがさらに好ましい。また、ゲル化時間の下限値については特に限定するものではないが、30秒以上であることが好ましい。ゲル化時間が上記下限値を下回ると、樹脂組成物の硬化が不均一に進行し、得られた硬化物の物性が低下する可能性がある。尚、ゲル化時間の測定は、「JIS C
2105 電気絶縁用無溶剤液状レジン試験方法」に準じて測定することができる。
【0013】
本発明の一液性エポキシ樹脂組成物では、25℃で液状のエポキシ樹脂の種類と配合割合、酸無水物系の硬化剤の種類と配合割合、ならびに、硬化触媒の種類と配合割合を調整することにより、貯蔵安定性及びゲル化時間が上述した好ましい範囲とすることができる。中でも、硬化触媒の種類と配合割合の調整が特に重要である。
【0014】
本発明の一液性エポキシ樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂としては、特に限定されないが、25℃で液状のエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂の中でも多価エポキシ化合物がさらに好ましく、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールA等のビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェノール、ジヒドキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等のその他の2価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂;1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4−(1−(4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビスフェノール等のトリスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂;1,1,2,2,−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のテトラキスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂;フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化フェノールノボラック、臭素化ビスフェノールAノボラック等のノボラック類をグリシジル化したノボラック型エポキシ樹脂等;多価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂;グリセリンやポリエチレングリコール等の多価アルコールをグリシジル化した脂肪族エーテル型エポキシ樹脂;p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸をグリシジル化したエーテルエステル型エポキシ樹脂;フタル酸、テレフタル酸等のポリカルボン酸をグリシジル化したエステル型エポキシ樹脂;4,4−ジアミノジフェニルメタン、m−アミノフェノール等のアミン化合物のグリシジル化物やトリグリシジルイソシアヌレート等のアミン型エポキシ樹脂等のグリシジル型エポキシ樹脂;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環族エポキサイドが例示される。これらの中でも、貯蔵安定性の観点から、特にビスフェノールAをグリシジル化したエポキシ樹脂、ビスフェノールFをグリシジル化したエポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールAをグリシジル化したエポキシ樹脂がより好ましい。
【0015】
本発明の一液性エポキシ樹脂組成物に用いられる酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、水素化メチルナジック酸無水物、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ドデセニル無水コハク酸等が挙げられる。これらの酸を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせても良い。マイクロカプセル型潜在性触媒との反応性の観点から、酸無水物は25℃で液状であるものが好ましく、その中でも、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸がさらに好ましい。

【0016】
本発明の一液性エポキシ樹脂組成物に用いられる硬化触媒としては、特に限定されないが、従来のエポキシ樹脂組成物にて使用されているものを適用することができる。この中でも、常温ではエポキシ樹脂と反応せず、加熱により溶解して硬化促進剤して機能する潜在性硬化触媒が好ましい。潜在性硬化触媒としては、固形のイミダゾール化合物、ジシアンジアミド、アミン−エポキシアダクト系化合物、イミダゾール−エポキシアダクト系化
合物、などが挙げられるが、貯蔵安定性の観点から、イミダゾール化合物やジシアンジアミドなどの表面をカプセル化した、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒がさらに好ましい。具体的な化合物しては市販品である、旭化成イーマテリアルズ社製のノバキュアHX−3742、HX−3721、HX−3722、HX−3088、HX−3741、HX−3921HP,HX−3941HPが挙げられ、単独または組み合わせて使用することができる。これらの中でも、硬化性と貯蔵安定性の観点から、イミダゾール系マイクロカプセル型潜在性硬化触媒が特に好ましい。具体的な化合物しては市販品である、旭化成イーマテリアルズ社製のノバキュアHX−3742、HX−3722、HX−3088が挙げられる。
【0017】
マイクロカプセル型潜在性硬化触媒は、長期貯蔵時にその表膜が融解して、エポキシ樹脂との反応が進行する可能性があるため、表膜の融点を高くすれば、貯蔵安定性の改善が期待できる。このような観点から、本発明の一液性エポキシ樹脂組成物に用いられる硬化触媒としては、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒と酸無水物を含む混合物とを加熱処理することで、表膜の融点を高めた処理硬化触媒を用いることがさらに好ましい。このような処理硬化触媒を用いることにより、貯蔵安定性と硬化性とを高度に両立させることが可能となる一液性エポキシ樹脂組成物を得ることができる。尚、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒とともに加熱処理を行う酸無水物としては、上述した、一液性エポキシ樹脂組成物に用いられる酸無水物と同様の化合物を用いることができる。
【0018】
また、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒の表膜成分としては、特に限定しないが、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒と酸無水物を含む混合物とを加熱処理することで表膜の融点を高めた処理硬化触媒を樹脂組成物に用いる場合は、酸無水物と反応できる官能基を有する化合物が好ましい。例えば、エポキシ基、水酸基、アミノ基、イソシアネート基などの官能基、ならびに、ウレタン結合の少なくとも一つを有する化合物が挙げられる。表膜と酸無水物との反応性を考慮すると、ウレタン化合物であることが特に好ましい。
エポキシ基を有する化合物としては、例えば、モノエポキシ化合物、多価エポキシ化合物等が挙げられる。水酸基を有する化合物としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール等の水酸基を有する芳香族化合物、及びそれら水酸基を有する芳香族化合物とアルデヒド類とを反応させたフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。アミノ基を有する化合物としては、例えば、芳香族アミン化合物、一級アミノ基及び/又は二級アミノ基を有し三級アミノ基を有さない化合物と、三級アミノ基及び活性水素基を有する化合物等が挙げられる。イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。ウレタン結合を有する化合物としては、例えば、上述のイソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物が反応して得られるウレタン化合物等が挙げられる。ここで、イソシアネート基を有する化合物と反応する水酸基を有する化合物としては、コア部のアミンアダクト中に含まれるエポキシ基が開環した化合物であってもよい。これらの表膜成分の中でも、表膜と酸無水物との反応性を考慮すると、ウレタン化合物であることがより好ましい。
【0019】
マイクロカプセル型潜在性硬化触媒と酸無水物を含む混合物の加熱処理温度としては特に限定しないが、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒の表膜成分の融点よりも低い温度で加熱処理することが好ましい。表膜成分の融点以上で熱処理すると表膜が融解してしまい
、硬化触媒の潜在性が失われてしまう可能性がある。表膜成分と酸無水物が反応することで表膜の融点が上昇するが、処理温度が低い場合、表膜成分と酸無水物が反応できず、処理効果が得られない可能性がある。このことから加熱処理温度は、30℃以上、60℃以下であることが好ましく、35℃以上、50℃以下であることがさらに好ましい。
【0020】
処理硬化触媒に用いる酸無水物は、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒100質量部に対して、1質量部以上、1000質量部以下の範囲とすることが好ましい。この範囲より酸無水物の量が少ないと、処理効果が得られず貯蔵安定性の向上が見られない可能性がある。一方、この範囲を超えると、貯蔵安定性は向上するものの、硬化性が低下してしまう可能性がある。貯蔵安定性と硬化性とを高度に両立させるためには、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒100質量部に対する酸無水物の量を、5質量部以上、500質量部以下とすることが好ましく、10質量部以上、300質量部以下とすることがさらに好ましい。
【0021】
処理硬化触媒の表膜成分の融点は高いほど貯蔵安定性が向上するが、その融点は70℃以上であることが好ましい。この範囲より融点が低いと、貯蔵安定性が向上しない可能性がある。貯蔵安定性を向上させるには、72℃以上であることがさらに好ましい。
【0022】
処理硬化触媒の表膜成分の融点は、用いられるマイクロカプセル型潜在性硬化触媒の表膜成分の融点に比べて高くなっていれば貯蔵安定性が向上する。融点の上昇幅が小さいと、貯蔵安定性の向上効果が得られない可能性があるため、融点が3℃以上高くなっていることが好ましい。この融点の上昇幅は、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒の表層成分の種類と量、酸無水物の種類と量、ならびに、加熱処理温度と加熱処理時間等によって、調整することができる。
【0023】
本発明の一液性エポキシ樹脂組成物において、硬化触媒として処理硬化触媒を用いる場合における処理硬化触媒の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対する、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒の正味の配合量が1質量部以上、20質量部以下となる割合で含むことが好ましい。この範囲より触媒量が少ないと、硬化性が著しく低下する可能性がある。一方、この範囲を超えると、十分な硬化性を得ることはできるが、貯蔵安定性が低下する可能性がある。貯蔵安定性と硬化性とを高度に両立させるためには、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒の正味の配合量を2質量部以上、10質量部以下となる割合で含むことが特に好ましい。
【0024】
なお、本発明の一液性エポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、充填剤、レベリング剤、潤滑剤、沈降防止剤、分散剤、難燃剤、密着付与剤、顔料など、他の添加剤を加えても良い。
【0025】
本発明の一液性エポキシ樹脂組成物は、各原料成分を、ミキサー等を用いて充分に均一に混合したもの、その後、さらにニーダ、ロール等の混練機により混練したものなどを用いることができる。
【0026】
次に、本発明の硬化物について説明する。本発明の硬化物は、本発明の一液性エポキシ樹脂組成物を加熱により硬化して得ることができる。より具体的には、本発明の一液性エポキシ樹脂組成物を80〜200℃で10分間〜10時間加熱することにより硬化物を得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
参考例、比較参考例、実施例および比較例において用いた各原材料は以下のとおりである。
(1)マイクロカプセル型潜在性硬化触媒1:旭化成イーマテリアルズ社製「ノバキュア HX−3742」(イミダゾール系マイクロカプセル、表膜成分はウレタン化合物)
(2)液状エポキシ樹脂1:ダウケミカル日本社製 「DER−331J」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
(3)酸無水物系硬化剤:日立化成工業社製「HN−5500」(3−又は4−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸)
【0029】
(硬化触媒の作製)
(参考例1)
20mLの広口ポリビンに、酸無水物1を3g、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒1を3gを入れ、40℃にて3日間加熱処理させ、処理硬化触媒1を6g得た。
【0030】
(参考例2)
20mLの広口ポリビンに、酸無水物1を3g、液状エポキシ樹脂1を3g、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒1を3gを入れ、40℃にて3日間加熱処理させ、処理硬化触媒2を9g得た。
【0031】
(参考例3)
加熱処理条件を、60℃にて1日間とした以外は、参考例1と同様にして、処理硬化触媒3を6g得た。
【0032】
(参考例4)
酸無水物1の量を30gとした以外は、参考例1と同様にして、処理硬化触媒4を33g得た。
【0033】
(比較参考例1)
マイクロカプセル型潜在性硬化触媒1を加熱処理せずにそのまま用いた。
【0034】
(比較参考例2)
20mLの広口ポリビンに、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒1を3gを入れ、40℃にて3日間加熱処理させ、処理硬化触媒5を3g得た。
【0035】
(硬化触媒としての特性評価)
参考例1〜4、比較参考例1、2において作製した硬化触媒の融点を以下に示す方法で評価した。評価結果を表1に示した。
【0036】
(融点)
硬化触媒について、セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6100の示差走査熱量計を用い、昇温速度10℃/min、測定温度30℃〜250℃、窒素雰囲気下で融点を測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
(一液型エポキシ樹脂組成物の作製)
(実施例1〜6、比較例1、2)
液状エポキシ樹脂1、酸無水物1、ならびに、参考例1〜4、比較参考例1、2で作製又は準備した各硬化触媒を、表2に示す配合割合で、スリーワン モーター(新東科学社製、BL1200Ft)を用いて、5分間均一に混合し、一液型エポキシ樹脂組成物を得た。
【0039】
(一液型エポキシ樹脂組成物としての特性評価)
実施例1〜6、比較例1、2において作製したエポキシ樹脂組成物としての硬化性、貯蔵安定性を以下に示す方法で評価した。評価結果を表2に示した。
【0040】
(硬化性)
一液性エポキシ樹脂組成物の硬化性を示すパラメーターとして、「JIS C 2105 電気絶縁用無溶剤液状レジン試験方法」に記載された「ゲル化時間」を用い、150℃の熱板上でのゲル化時間を測定した。
【0041】
(貯蔵安定性)
一液型エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性を示すパラメーターとして、この組成物の製造直後の粘度(V)と、40℃/60%RHの雰囲気に14日間放置した後の粘度(V14)との比率を用いた。
貯蔵安定性(粘度変化率)=V14/V (1)
但し、粘度の測定は、E型粘度計(東機産業製)を用い、ロータの型式は3度コーンを用い、粘度測定温度は25℃、コーンの回転数は50rpmとした。
【0042】
【表2】

【0043】
参考例1〜4で作製した処理硬化触媒1〜4は、処理硬化触媒であり、その表膜の融点は、いずれも、加熱処理前のマイクロカプセル型潜在性硬化触媒1の表膜の融点よりも7℃以上高く、かつ70℃を超える値となった。また、これらの処理硬化触媒を用いて作製した一液性エポキシ樹脂組成物である実施例1〜6は、比較参考例1の加熱処理前のマイクロカプセル型潜在性硬化触媒1をそのまま用いた一液性エポキシ樹脂組成物である比較例1、比較参考例2のマイクロカプセル型潜在性硬化触媒1のみを加熱処理した処理硬化触媒5を用いた一液性エポキシ樹脂組成物である比較例2と比較して、ゲル化時間が同程
度であるにもかかわらず、貯蔵安定性が良好な結果であった。したがって、本発明の処理硬化触媒を用いることで、貯蔵安定性と硬化性とに高度に優れた一液性エポキシ樹脂組成物が得られることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に従うと、貯蔵安定性と硬化性とを高度に両立させることが可能となる一液性エポキシ樹脂組成物及びその硬化物を得ることができるため、特に長期の貯蔵安定性が求められる輸出用の電子・電気部品用の導電材料、異方導電材料、絶縁材料、熱伝導性材料、封止材料、コーティング材料、塗料、接着剤、接合用ペースト、接合用フィルム、回路基板用のプリプレグなどに好適に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃で液状のエポキシ樹脂、酸無水物系の硬化剤、硬化触媒を含む一液性エポキシ樹脂組成物であって、当該樹脂組成物を40℃、60%RHで14日間保管した際における、保管前後でE型粘度計を用いて測定した25℃、50rpmでの粘度の増粘倍率が2.9以下であることを特徴とする一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物の150℃でのゲル化時間が300秒以下である請求項1に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化触媒が、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒と酸無水物を含む混合物を加熱処理して得られる処理硬化触媒である請求項1又は2に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記処理硬化触媒を得る際の前記加熱処理の温度が、前記マイクロカプセル型潜在性硬化触媒の表膜成分の融点よりも低い温度である請求項3に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記処理硬化触媒を得る際の前記マイクロカプセル型潜在性硬化触媒と前記酸無水物との混合割合が、前記マイクロカプセル型潜在性硬化触媒100質量部に対して前記酸無水物1質量部以上、1000質量部以下である請求項3又は4に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記処理硬化触媒の表膜成分の融点が70℃以上である請求項3ないし5のいずれか1項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記マイクロカプセル型潜在性硬化触媒がイミダゾール系マイクロカプセル型潜在性硬化触媒である請求項3ないし6のいずれか1項に記載の処一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記処理硬化触媒を、前記エポキシ樹脂100質量部に対する、前記マイクロカプセル型潜在性硬化触媒の正味の量として1質量部以上、20質量部以下となる割合で含む請求項3ないし7のいずれか1項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の一液性エポキシ樹脂組成物を加熱により硬化して得られることを特徴とする硬化物。


【公開番号】特開2013−72012(P2013−72012A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212274(P2011−212274)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】