一酸化窒素を使って傷を治療する装置及び方法
一酸化窒素ガスを使って、微生物感染を低減し、滲出液の分泌を管理し、内生コラゲナーゼの発現を誘導して創傷を局所的に創面清拭し、コラーゲンの形成を調整する。更に、高濃度の一酸化窒素ガスに第1の治療期間に亘って局所的に曝露することで、微生物量と創傷部位の炎症を低減するとともにコラゲナーゼ発現を増大させ、創傷部位における壊死組織を創面清拭する。高濃度の一酸化窒素を使った第1の治療期間の後で、それよりも低濃度の一酸化窒素を第2の治療期間に亘って供給してコラーゲン発現を誘導し、創傷が塞がるのを助ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は傷や感染症の治療をする装置及びその方法に関するものであり、より詳細に述べると、一酸化窒素を使った傷及び感染症の治療に関連している。
【背景技術】
【0002】
患者の感染症に罹った体表病変部または体表下病変部の治療には、通例、患者に抗感染薬の局所投与または全身投与を行う。抗生物質は、感染した膿瘍、病変部、瘡傷などを治療するのに広く使用される抗感染薬の1種である。残念ながら、従来の抗生物質治療に対して薬剤耐性を持つようになったバクテリアのような感染原である病原体の数が増えつつある。実際、医療界が抗生物質を多用するのに比例して、従来の抗バクテリア剤に対しても、また、新たに開発された抗バクテリア剤に対してすら効き目がない、薬剤耐性を有するバクテリア菌株が増大してきている。
【0003】
例えば、ブドウ球菌は心内膜炎、肺炎、敗血症、中毒性ショック症などの酷い感染症を人間に引き起こす重要な病原体であることが分かっている。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、目下、世界中で院内感染の極めてよくある原因の1つであり、ブドウ球菌感染全体の89.5%までがこの菌株によるものである。MRSAが街中で大発生することもいよいよ頻繁になってきている。このような感染症の主要な治療はグリコペプチド(バンコマイシンやテイコプラニン)の投与である。MRSAは、ここ20年の間、報告があったのだが、グリコペプチド系薬剤耐性黄色ブドウ球菌、すなわち、グリコペプチド系抗菌薬中度耐性黄色ブドウ球菌(GISA)の出現が報告されたのは1997年が初めてである。グリコペプチドは注射でしか投与できず、多数の中毒性副作用を有している。近年、米国内の患者から最初の臨床バンコマイシン耐性ブドウ球菌株(VRSA)を分離培養したことで、増大する新しい病原体が深刻かつ危急の問題であるとの意識が高まっている。新しい抗感染薬が開発されたとしても、このような薬は極めて高価であり、限られた数の患者しか利用することができない。
【0004】
緑膿菌はもう1つの厄介な病原体であり、この菌が治療困難であるのは抗生剤耐性があるからである。この菌は院内で感染して酷い気道感染症の原因となることが多い。緑膿菌は、嚢胞性繊維症に罹っている患者、酷い火傷を負った患者、更に、免疫反応が抑制されているエイズ患者については高い致死率につながる。この病原体に付随する臨床的問題は多数あり、菌外膜のリポポリサッカリド(LPS)によって設けられた透過性障壁のおかげで抗生剤に対する耐性があるとの悪評どおりである。緑膿菌がバイオフィルムという顕型で体表に群生する傾向のせいで、細胞は治療濃度の抗生剤を受け付けなくなる。
【0005】
従来の感染防止薬に関する別な問題は、患者のなかには、当人の感染症を治療するのに必要な薬剤組成に対するアレルギー症の人がいる点である。このような患者については、感染症を治療するのに利用できる薬剤はほんの数種類に限られる。患者が代替治療をうまく受け付けない或るバクテリア菌株に感染している場合、患者の命が危機に瀕する可能性がある。
【0006】
体表感染または体表下感染の従来の治療法に関連するまた別な問題は、病原体が感染領域内の血液の循環を阻害する点である。病原体は感染領域の毛細血管やそれ以外の小血管の狭窄の原因となる場合があるが、そのような狭窄により血流が減少する。血流が減少すると、感染領域に配給される抗感染薬の量が減る。更に、感染領域への血流が制限されると、感染症は治癒するのに遥かに長い時間を要する恐れがある。これにより、患者に投与されるべき薬剤の総量が増え、そのため、そのような薬剤を使用する経費が増大する。局所薬剤が感染領域に投与されることもある。しかし、局所抗感染薬は、バクテリアの相当な部分が群生していることが多い皮膚の内側の深部まで浸透しない。抗感染薬の全身投与(すなわち、経口投与)と比較して、抗感染薬の局所治療すなわち非経口治療は感染症を排撃する効果が小さいことが多い。
【0007】
更に、慢性創傷の治療の近年の進歩にも関わらず、下肢潰瘍の大半が治癒しない。下肢の慢性潰瘍は深刻な公衆衛生上の問題である。下肢潰瘍治療を目的したヘルスケアシステムに投じられている多額の財政負担にも関わらず、下肢潰瘍は多大な被害を生じて人間の疫禍となっている。住民が高齢化するにつれて、また、北米地域においては現在の肥満化の危機に付随して、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫性潰瘍がこれまで以上に起りやすくなる恐れがある。合衆国内で約400万人(人口の1%)が慢性下肢潰瘍を発症しており、その大半は糖尿病性脚部潰瘍または静脈性脚部潰瘍であると分類されているが、この数は高齢(80歳未満)の患者層では4%〜5%上昇する。
【0008】
感染症とは別に、多様な要因が慢性潰瘍の創傷治癒に潜在的に影響する場合がある。このような要因としては、高齢化、糖尿病、ステロイド投与などの慢性的諸症状に加えて、過剰滲出液、壊死組織、お粗末な組織の処置、損傷組織の灌流培養などが挙げられる。
【0009】
滲出液は澄んだ麦藁色の液体であり、組織損傷に反応して肉体によって生成される。滲出液は主成分が水であるが、細胞成分、抗体、栄養分、酸素なども含有している。傷を受けると直ちに反応して、肉体によって滲出液が生成されて、その部位から体外由来の物質を洗い流す。その場合、滲出液は多形核球と単核細胞の担体でもあるため、バクテリアや各種の屑を受け入れる。滲出液はこのような食細胞が創傷内で運動できるようにすることで、創傷表面を横断して上皮細胞が移動できるようにするのに加えて、創傷を洗浄するのを助けることができる。
【0010】
滲出液は創傷治癒の重要な要素であるが、慢性的炎症に反応して滲出量が過剰になると創傷を悪化させることがあるが、これは液中酵素が健康な組織まで攻撃してしまうからである。これにより、塞ぐべき創傷の障害を悪化させる恐れがあるばかりか、患者に余分な心理的圧迫を与えてしまうことがある。慢性的な創傷は、通常は慢性感染症に付随して滲出液が過剰に出ることがよくあり、かつ/または、肉体の炎症細胞の数が増える方に調整してしまっているバイオフィルムを生じることがよくある。これは局所的反応であることもあれば、炎症指標や循環サイトカインを全身で増大させる反応を含んでいることもある。
【0011】
慢性創傷はまた、壊死組織の形成をもたらし、それが延いては細菌を成長させてしまう。壊死組織の切除清拭は、創傷床を整えて創傷治癒を成功させるための重要な準備であると考えられる。油断ない外科手術による創面清拭で壊死組織を迅速に除去し、バクテリアによる負荷を緩和するが、存命できる組織に損傷を与える危険が極めて高いうえに、高度な技術的熟練を要する。化学切除、機械切除、自己分解による清拭はより安全な選択肢であると見なされることも頻繁にあるが、創傷の合併症を発症するという、患者のリスクも高くなる。
【0012】
これに加えて、メタロプロテイナーゼ(MMP)のコラゲナーゼ群は本人由来のコラーゲンを破片に分裂させることができる酵素の一分類である。このような破片が自発的にゼラチンに変性することがある。ゼラチンペプチドはMMP−2のようなゼラチナーゼによって更に分裂させられる。皮膚の乾燥重量の組成の70%〜80%はコラーゲンであるので、また、壊死組織はコラーゲン繊維によって創傷床に固着しているので、コラーゲンを分裂させる酵素は有用であり、この組織の創面清拭を助けることがある。しかし、慢性的に治癒しない創傷では、コラゲナーゼのレベルと活性度は壊死組織を除去するには不十分である。ノール株式会社(Knoll AG)のユング・カー(Jung, K)著の「臨床手術におけるクロストリジウムコラゲナーゼの使用についての考察(Considerations for the Use of Clastridial Collagenase in Clinical Practice)」クリン・ドラッグ・インベスト社1998年刊の15頁245〜252行を参照のこと。また、例えば、糖尿病由来の創傷体液がMMP−2活性度を低減してしまっている場合がある。更に、外性のコラゲナーゼ供与が提案されているが、外生コラゲナーゼの供与は選択的ではないという欠点に遭遇し、壊死組織に加えて健康な細胞固着するコラーゲンを分裂させてしまうという危険を冒すことになる。
【0013】
1980年代には、研究者らによって発見されたのは、人体の内皮組織は一酸化窒素(NO)を生成しており、一酸化窒素は内生血管拡張物質である、すなわち、血管の内径を広げる媒体であるということであった。一酸化窒素は有機体酸化の副産物として生成される環境汚染物質として極めて広く知られている。例えば100ppmに満たない低濃度でも、吸入された一酸化窒素を使って患者の多用な肺疾患を治療することができることを研究者たちは看破している。例えば、一酸化窒素は、肺気腫、慢性気管支炎、喘息、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの結果として気道抵抗が上昇した患者の治療を目的として調査されてきた。
【0014】
一酸化窒素は或る医学的応用例に関しては見込みがあると分かっているが、配給方法と配給装置は気体一酸化窒素の配給について内在する或る問題に対処しなければならない。まず、高濃度の一酸化窒素に晒されるのは有害となることがあり、特に、1000ppmを越える濃度の一酸化窒素に晒されるのは有害である。しかし、それより低いレベルの一酸化窒素でさえ、曝露時間が比較的長い場合には有害となることがある。例えば、労働安全衛生庁(OSHA: Occupational Safety and Health Administration)は作業現場における一酸化窒素についての曝露制限を8時間の時間加重平均にして25ppmに設定している。一酸化窒素を配給する装置またはシステムが一酸化窒素が周囲環境に漏出するのを防止する機能を備えている。かかる装置が病室や自宅などの閉鎖空間内で使用される場合、危険なまでに高濃度の一酸化窒素が短期間に蓄積される。一酸化窒素中毒についての1つの興味ある事柄は、吸気などによって循環器系に吸収されると、一酸化窒素がヘモグロビンと結合し、これがメトヘモグロビンを生じることである。
【0015】
一酸化窒素の配給についてのまた別な問題は、一酸化窒素は酸素が存在していると迅速に酸化されて、低レベルでも中毒性が高い二酸化窒素を形成する点である。配給装置が漏出する場合、容認し難い高レベルの二酸化窒素が発生する可能性がある。これに加えて、一酸化窒素が酸化により二酸化窒素を形成する限り、所望の治療効果を達成するのに利用できる一酸化窒素の量が少なくなる。一酸化窒素が酸化により二酸化窒素になる速度は多数の要因で決まるが、例えば、一酸化窒素の濃度、酸素の濃度、反応に要する時間などがその例である。一酸化窒素は空気中の酸素と反応して二酸化窒素に変換されるので、一酸化窒素ガスと外部環境との接触は最小限に抑えるのが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、一酸化窒素を局所供給することにより体表感染、体表創傷、体表下感染、体表下創傷を治療する装置及び方法の要望がある。かかる装置は、一酸化窒素濃度と二酸化窒素濃度を危険なまで蓄積するのを回避することができるように、最大まで漏出防止性があるのが好ましい。更に、かかる装置は、患者の感染領域に一酸化窒素を配給しながら、尚且つ、一酸化窒素と反応して二酸化窒素を生成する空気を導入しないようにすることができるものでなければならない。一酸化窒素を感染領域に供与することで、病原体レベルを低下させることにより感染領域を治癒するのに要する時間を短縮するのが好ましい。かかる装置は一酸化窒素または二酸化窒素の吸収装置または浄化装置を備えており、この装置が配給装置から空気を排出する前に一酸化窒素と二酸化窒素を除去し、或いは、化学的に変化させるのが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一酸化窒素(NO)は生体内で発生するバクテリアの成長を阻害し、または、そのようなバクテリアを殺傷することが看破されており、殺菌剤として一酸化窒素を使用する研究が行われてきた。本願の名指しされた発明者のうちの1人によって発明された、2000年6月2日公開の国際特許出願PCT/CA99/01123号は、一酸化窒素吸入によって呼吸器感染症を治療する方法及び装置を開示している。
【0018】
治癒しない慢性化した傷などの創傷を一酸化窒素ガスに局所的に曝露することが、創傷の治癒を促進し、創傷床を更に治療して回復させる準備をするのに有効である。一酸化窒素ガスを使って、例えば、微生物感染や創傷に加わる負荷を緩和し、炎症を緩和することにより滲出液の分泌を管理し、創傷を局所的に創面清拭するのに内生コラゲナーゼ発現を誘導し、コラーゲンの形成を調整することができる。
【0019】
本発明の第1の側面では、皮膚の感染領域に一酸化窒素ガスを局所配給する装置は、一酸化窒素ガス源、浸漬装置、流量制御弁、真空装置などを備えている。浸漬装置は一酸化窒素ガス源と流体連絡状態にあって、感染した皮膚の領域を包囲するようになっているとともに、皮膚表層で実質的に気密シールを形成するようになっている。流量制御弁は一酸化窒素源の下流側と浸漬装置の上流側に設置されて、浸漬装置に配給される一酸化窒素ガスの量を制御するように図っている。真空装置は浸漬装置の下流側に設置されて、浸漬装置からガスを引出すように図っている。
【0020】
本発明の第2の側面では、本発明の第1の側面による装置は、流量制御弁と真空装置の動作を制御する制御装置を備えている。
【0021】
本発明の第3の側面では、本発明の第1の側面による装置は希釈剤ガス源とガス混合装置を備えている。希釈剤ガスと一酸化窒素ガスはガス混合装置によって混合される。この装置はまた、真空装置の上流側に設置される酸化ガス吸収装置を備えている。この装置はまた、流量制御弁と真空装置の動作を制御する制御装置を備えている。
【0022】
本発明の第4の側面では、皮膚の感染領域に有効量の一酸化窒素を配給する方法は、皮膚の感染領域の周囲に浸漬装置を設ける工程を含んでおり、浸漬装置は皮膚と一緒に実質的に気密なシールを形成する。その後、一酸化窒素を含有するガスが浸漬装置に輸送し、皮膚の感染領域を一酸化窒素ガスで浸漬する。最後に、一酸化窒素ガスの少なくとも一部が浸漬装置から排出される。
【0023】
本発明の第5の側面では、感染した組織を局所的に一酸化窒素に曝露することで治療する方法は、一酸化窒素含有ガス源を設ける工程と、一酸化窒素含有ガスを感染組織含有皮膚表層に配給し、感染組織を一酸化窒素で浸漬する工程とを含んでいる。
【0024】
本発明の第6の側面では、局所的に一酸化窒素に創傷を曝露することで治療する方法は、一酸化窒素含有ガス源を設ける工程と、一酸化窒素含有ガスを創傷に配給して、創傷を一酸化窒素で浸漬する工程とを含んでいる。この治療方法は、創傷を十分に高濃度の一酸化窒素ガスに或る期間に亘り継続的に晒し、この期間が創傷部位の微生物を殺傷する、すなわち、微生物の数を2log10〜3log10低減するのに十分な長さであるようにし、尚且つ、治療を受けている被検体または被検体の宿主細胞に酷い中毒を起こさないようにする工程を含んでいるのが好ましい。例えば、高濃度の一酸化窒素ガスの範囲は約120ppm〜約400ppmであればよく、約200ppm〜250ppmの範囲であればより好ましい。一酸化窒素ガスに曝露する期間は約5時間〜96時間の範囲であればよいが、最適曝露期間と最適濃度は、医者によって処方されるような被検体の個別的症状に基づいて判断される。また別な実施形態では、この治療方法には、高濃度の一酸化窒素ガスを使った第1の期間に続く第2の期間があり、この第2の期間中は、創傷は前より低濃度の一酸化窒素ガスを使って治療される。より低濃度の一酸化窒素ガスの範囲は1ppm〜80ppmであるのが好ましいが、約5ppm〜20ppmの範囲であるのがより好ましい。第2の治療期間の曝露時間の範囲も約5時間〜96時間であり、これは、治療を受けている被検体の個別的な症状で決まる。また別な実施形態では、創傷は200ppmの一酸化窒素ガスに約7時間〜8時間に亘って晒されるが、患者が夜眠っている最中であるのが好ましく、また、一酸化窒素に曝露する治療は日中は控えるか、或いは、低濃度(例えば、約5ppm〜20ppm)で約5時間〜16時間曝露するとよい。
【0025】
本発明の第7の側面では、一酸化窒素に曝露することで創傷の滲出液分泌を管理する方法は、過剰滲出液を除去する工程と、創傷を気体透過性の外傷用医薬材で包帯する工程と、一酸化窒素含有ガス源を設ける工程と、一酸化窒素含有ガスを創傷に配給し、創傷部位を一酸化窒素で浸漬する工程とを含んでいる。
【0026】
本発明の第8の側面では、一酸化窒素で局所的に創傷を曝露することで創面清拭する方法は、一酸化窒素含有ガス源を設ける工程と、一酸化窒素含有ガスを創傷に配給して、治療を受けている被験者の創傷部位に局所的に存在する宿主細胞によってコラゲナーゼやゼラチナーゼなどの内生酵素の発現を誘導する工程とを含んでいる。この治療方法は、高濃度の一酸化窒素ガスに或る期間に亘って創傷を晒し、この濃度と期間は内生コラゲナーゼの発現を誘導するのに十分なレベルであるようにし、尚且つ、治療を受けている被検体の宿主細胞に深刻な中毒性を示さないようにする工程を含んでいるのが好ましい。例えば、高濃度の一酸化窒素ガスの範囲は120ppm〜400ppmであればよいが、約200ppm〜250ppmの範囲であるのがより好ましい。一酸化窒素に曝露する期間の範囲も約5時間〜72時間の範囲であればよいが、最適曝露時間と最適濃度は、医者が処方するような被検体の個別的症状に基づいて判断される。宿主細胞におけるコラゲナーゼの発現は、生検材料を採取してコラゲナーゼmRNAまたは蛋白質の発現を解析することにより監視するのが好ましいが、このような解析は、ノーザンブロット法、RT−PCR法、定量RT−PCR法、免疫系細胞染色法、免疫系細胞沈殿法、エライサ(ELISA)などのような当該技術で利用できる多様な技術によって実施される。これに加えて、高濃度の一酸化窒素ガスを使った治療期間の後で、創傷は第2の治療期間に亘って前より低い濃度の一酸化窒素ガスに晒されて、コラゲナーゼ発現を低下させるとともに、コラーゲン発現を増大させるようにしてもよい。
【0027】
本発明の第9の側面では、一酸化窒素に局所的に曝露することで創傷床を整える方法は、一酸化窒素ガス源を設ける工程と、一酸化窒素含有ガスを創傷に配給する工程とを含んでいる。
【0028】
本発明の第10の側面では、一酸化窒素に局所的に創傷を曝露する治癒過程で傷跡を低減する方法は、一酸化窒素ガス源を設ける工程と、創傷を高濃度の外生一酸化窒素ガスに或る治療期間に亘って晒し、尚かつ、被験者や創傷の周囲の健康な細胞に対して中毒を誘発することがないようにする工程と、先の工程よりも低い濃度の外生一酸化窒素ガスに第2の期間に亘って創傷を晒し、この第2の期間がコラーゲンmRNAの発現を増大させるのに十分な期間であるようにする工程と、第3の濃度の外生一酸化窒素ガスに第3の期間に亘って創傷を晒し、第3の濃度が前述の高濃度のレベルとそれよりも低い濃度のレベルとの間のレベルになるようにする工程とを含んでいる。高濃度の範囲は約200ppm〜400ppmであるのが好ましく、これよりも低い濃度の範囲が約5ppm〜20ppmであるのが好ましく、第3の濃度の範囲は約20ppm〜200ppmである。また、第1の治療期間は1日あたり少なくとも7時間であるのが好ましく、第2の治療期間及び第3の治療期間は各々が1日あたりの範囲が約5時間〜12時間であるのが好ましい。上記3工程段階の治療には数日間が充当されてもよく、少なくとも3日〜14日に亘るのが好ましい。
【0029】
本発明の目的は、皮膚表層または皮膚表層下の露出した創傷や、目などの露出した体表面の創傷や、体内の露出器官の創傷に一酸化窒素含有ガスを局所的に配給する配給装置を提供することである。本発明の装置のまた別な目的は、一酸化窒素含有ガスが配給装置から漏出するのを阻止することである。有効量の一酸化窒素ガスを感染領域または創傷領域に配給する方法は、バクテリアやその他の病原体を殺傷し、治癒過程を促進する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
ここで図1を参照すると、一酸化窒素配給装置2が患者4に接続されているのが例示されている。極めて一般的に、一酸化窒素配給装置2は、一酸化窒素ガス源8に流体接続されている浸漬装置6と、流量制御弁22と、真空装置10とを備えている。図1は本発明の好ましい実施形態を例示している。
【0031】
図1では、一酸化窒素ガス源8は加圧円筒容器に入った一酸化窒素ガスである。加圧円筒容器を使用するのが一酸化窒素含有ガス源8を貯蔵する好ましい方法であるが、これ以外の貯蔵配給手段で、例えば、専用供給ライン(ウオールサプライ)を利用してもよい。通例、一酸化窒素ガス源8はN2とNOの混合物である。N2は加圧円筒容器内のNOの濃度を希釈するために利用されるのが典型例であるが、不活性ガスを利用してもよい。一酸化窒素ガス源8が加圧容器内に貯蔵されている場合には、加圧円筒容器内のNOの濃度は約800ppm〜約2500ppmの範囲に入るのが好ましい。通例、商業用の窒素酸化物製造業者が医療用途に製造する窒素酸化物混合物の濃度範囲は1000ppm近辺である。極度に高濃度の一酸化窒素は望ましくないが、これは一酸化窒素ガスが偶発的に漏出した場合の危険度を増すうえに、一酸化窒素の高い分圧により一酸化窒素が自発的に分解して窒素になる傾向があるせいである。本件に開示されている装置と方法によれば、加圧円筒容器に入った低濃度の一酸化窒素(例えば、100ppm未満の一酸化窒素)も使用することができる。勿論、使用される一酸化窒素の濃度が低いほど、加圧円筒容器の取替え頻度を増やす必要が生じる。
【0032】
図1はまた、一酸化窒素濃度を希釈するために使用される一酸化窒素配給装置2の一部として機能する希釈剤ガス源14を例示している。希釈剤ガス源14はN2、O2、空気、不活性ガス、これら気体の混合物などを保管する。N2または不活性ガスなどの気体を利用して一酸化窒素濃度を希釈するのが好ましく、それは、これらの気体がO2や空気とは異なり、NOを酸化してNO2に変性することがないせいである。希釈剤ガス源14は加圧円筒容器内に貯蔵されているものとして例示されている。加圧円筒容器の使用は図1では希釈剤ガス源14を貯蔵する手段として例示されているが、これ以外の貯蔵配給手段で、例えば、専用の供給ライン(ウオールサプライ)が利用されてもよい。
【0033】
一酸化窒素ガス源8からの一酸化窒素ガスと希釈剤ガス源14からの希釈剤ガスは、一酸化窒素配給装置2に入ることを許された気体の圧力を低下させるために、圧力調節装置16を通過するのが好ましい。それぞれのガス流は管18を通して任意のガス混合装置20に送られる。ガス混合装置20は一酸化窒素ガスと希釈剤ガスを混合して、前より低い濃度の一酸化窒素を含む、一酸化窒素含有ガスを生成する。ガス混合装置20から排出される一酸化窒素含有ガスの濃度は、約400ppmより低いのが好ましいが、約200ppmであるのがより好ましい。特殊な応用例に必要となる濃度次第では、ガス混合装置20から排出される一酸化窒素含有ガスの濃度を必要に応じて調節して、約100ppm未満や約40ppm未満にしてもよい。
【0034】
ガス混合装置20から排出される一酸化窒素含有ガスは管18を通って流量制御弁22まで移動する。流量制御弁22は、例えば、比例制御弁を備えており、これが開くと徐々に流量が増大する(閉じると、徐々に流量が減少する)態様を取るようにしてもよい。また別な具体例として、流量制御弁22は質量流量制御装置を備えていてもよい。流量制御弁22は、浸漬装置6に給送される一酸化窒素含有ガスの流量を制御する。一酸化窒素含有ガスは可撓性の管24を通って流量制御弁22を出る。可撓性の管24は浸漬装置6の入口26に取付けられている。入口26は任意で逆止弁64(図3を参照のこと)を備えており、この逆止弁64は気体が管24の中に逆流するのを防止する。
【0035】
更に図1を参照すると、浸漬装置6が患者4の皮膚表面に押圧されてシール状態になっているのが例示されている。膿瘍、病変、創傷などの感染領域30が浸漬装置6の中に封入される。浸漬装置6にはシール部32が設けられて、患者4の皮膚と一緒に実質的に気密シールを形成するのが好ましいが、皮膚以外の肉体の露出表面(例えば、目など)や治療を受けるのが望ましい露出した体内器官などと気密シールを形成するようにしてもよい。「気密」という表現で実質的に伝えようとしていることは、おびただしい量の一酸化窒素含有ガスが浸漬装置6から漏出することが無い(すなわち、漏出しても浸漬装置6に配給される一酸化窒素含有ガスのせいぜい約5%程度だけ)という意味である。シール部32は膨張可能なシール部61を備えており、これは例えば図2及び図3に例示されているようなシール部であればよく、或いはこれに代わる例として、シール部32は可撓性の垂れ部材などを備えており、かかる部材で患者4の体表との付着を堅固にしてもよい。シール部32には、患者4の皮膚表面に付着する粘着部が設けられていてもよい。これ以外に想起される実施形態では、シール部32は、浸漬装置6と患者4の皮膚表面との界面を設けるだけであってもよい。
【0036】
浸漬装置6は、意図した用途次第で、多様な無限の形状及び素材から作成することができる。浸漬装置6は剛性構造体として形成され、例えば、図1に例示されているもののように、感染領域30を覆って設置されるようにしてもよい。これに代わる例として、浸漬装置6は可撓性の嚢状部材であって、感染領域30を覆ったまま膨張することができるように形成されていてもよい。図2は、患者4の足を覆って設置される長靴状の構造を例示している。図3は、また別な膨張可能な浸漬装置6が患者4の手を覆って装着されるミトンすなわち手袋の形状に形成されているのを例示している。
【0037】
本発明の好ましい実施形態では、浸漬装置6はその内部の一酸化窒素ガスの濃度を測定する一酸化窒素センサー34を備えている。一酸化窒素センサー34は、信号ライン38により制御装置36に測定濃度情報を報知するのが好ましい。任意で、二酸化窒素センサー40が浸漬装置6の内部に設けられていてもよい。二酸化窒素センサー40は、信号ライン42により制御装置36に二酸化窒素濃度を報知するのが好ましい。センサー40、42は化学ルミネセンス型センサー、電気化学セル型センサー、分光測光型センサー等であればよい。
【0038】
浸漬装置6には出口44が設けられて、浸漬装置6からガスを排除するのに使用されるようにしてもよい。出口44はガス入口26から離れた位置に設置されて、一酸化窒素ガスが浸漬装置6に急速に出入りすることがないようにするのが好ましい。入口26と出口44は浸漬装置6の領域に配置されて、一酸化窒素ガスに比較的長い滞在時間を与えるようにするのが好ましい。可撓性の管46は出口44に接続されるとともに、浸漬装置6からガスを除去するための導管の機能を有する。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、可撓性の管46は吸収装置48と流体連絡状態にある。吸収装置48は、浸漬装置6から排出されたガス流から一酸化窒素を吸収するか、または、一酸化窒素を奪取するのが好ましい。浸漬装置6から排出されたガス流から吸収装置48が二酸化窒素を吸収または奪取するのも好ましい。このようなガスは濃度レベルが高いと毒性があり、これらの成分が配給装置2から除去された後で、ガスが大気中に排出されるようにするのが好ましい。更に、これらのガスは真空装置10の内部成分と反応して、配給装置2の動作を阻害する可能性がある。
【0040】
この時点で清浄になったガスは管50により吸収装置48から真空装置10へ移動する。真空装置10は管50の内側に負圧を与え、ガスを浸漬装置6から引出す。真空装置10は、管50及び浸漬装置6に供与される真空レベルまたは吸引レベルに関して制御を行うことができるのが好ましい。この点で、流量制御弁22に関連して、浸漬装置6の内部の一酸化窒素ガスの量を調節することができる。真空装置10は信号ライン52により制御装置36と連結されるのが好ましい。制御装置36は、後で説明するように、真空装置10の出力レベルを制御するのが好ましい。この後、ガスは真空装置10を出て、大気に向けて開かれている換気装置54に送られる。
【0041】
吸収装置48は配給装置2の選択構成要素であるものと理解するべきである。一酸化窒素と二酸化窒素の局所レベルが重要になるのでなければ、一酸化窒素と二酸化窒素の負荷で重くなったガスはガス流から除去されなくてもよい。例えば、ガスは外部環境に排出させることができるが、この場合、高濃度の一酸化窒素と二酸化窒素が発生することはない。これに代わる例として、再循環システム(図示せず)を浸漬装置6と一緒に使って、一酸化窒素を再利用することもできる。
【0042】
更に図1を参照すると、配給装置2は、流量制御弁22と真空装置10を制御することができる制御装置36を備えているのが好ましい。制御装置36は、入力装置56に接続されているマイクロプロセッサを基礎利用した制御装置36であるのが好ましい。入力装置56はオペレータが使用することで、配給装置の多様なパラメータを調節することができるが、かかるパラメータの具体例として、一酸化窒素濃度、一酸化窒素の滞在時間すなわち一酸化窒素への曝露期間、浸漬装置6の内部の圧力などがある。任意の表示装置58が制御装置36に接続されて、測定されたパラメータや設定を表示することもできるが、かかるパラメータや設定の具体例として、一酸化窒素濃度の目標設定値、浸漬装置6の内部の一酸化窒素濃度、浸漬装置6の内部の二酸化窒素濃度、浸漬装置6に流入するガスの流量、浸漬装置6から流出するガスの流量、合計ガス配給時間などが挙げられる。
【0043】
上述のようなセンサー34、40が配給装置2に設けられているのであれば、制御装置36はガス濃度に関してセンサー34、40から信号を受信するのが好ましい。信号ライン60、52がそれぞれに制御弁22と真空装置10に接続されて、制御信号を送受信するように図っている。
【0044】
本発明のまた別な実施形態では、制御装置36は完全に撤去される。この点について、浸漬装置6に流入するガスの流量と浸漬装置6に流出するガスの流量は予備設定され、或いは、手動で調節される。例えば、オペレータは、流量制御弁22を介して浸漬装置6に配給されるガスの流量に実質的に等しい真空出力値に設定することができる。このような態様で、配給装置2に一酸化窒素ガスや二酸化窒素ガスを蓄積させることも、これらガスを配給装置2から漏出させてしまうことも無く、一酸化窒素ガスに感染領域30を浸漬させることができる。
【0045】
図2は、患者4の脚部に位置する感染領域30を治療するために使用される、長靴型の浸漬装置6を例示している。浸漬装置6は、脚部領域を封入する、膨張可能なシール部61を備えており、患者4の皮膚と一緒に実質的に気密なシール部を設けるようにしている。この実施形態は、浸漬装置6の入口26の付近に取付けられたノズル62を例示している。ノズル62は一酸化窒素ガスの噴射を感染領域30に向けて当てる。一酸化窒素ガスの噴射は感染領域30に一酸化窒素が透過して病原体を殺傷するのを助け、或いは、病原体の成長を阻害するのを助ける。図3は、ミトンすなわち手袋の形状の浸漬装置6のまた別な実施形態を例示している。浸漬装置6はまた膨張可能であり、患者4の皮膚の周囲に実質的に気密なシールを形成する膨張可能なシール部61が設けられている。図3は更に、任意の逆止弁64が入口26に配置されているのを例示している。図3及び図4で分かるように、入口26と出口44は互いから離れた位置に置かれており、治療領域の両側に設置されて、新たに配給されてきた一酸化窒素ガスが浸漬装置6から時期尚早に導出されてしまうことが無いようにするのが好ましい。
【0046】
感染領域30の治療を目的として、浸漬装置6は感染領域30を覆うように設置される。次いで、気密シール部が患者4の皮膚と浸漬装置6の間に形成される。浸漬装置6が膨張可能に構成されている場合、浸漬装置6をガスで膨張させなければならない。浸漬装置6は最初は希釈剤ガスのみで膨張させるのが好ましいが、これは、装置2から一酸化窒素と二酸化窒素が漏出しないようにするためである。気密シールが適切に確立されてから、装置のオペレータは一酸化窒素ガス源8から浸漬装置6に一酸化窒素を流入させ始める。上述のように、これは手動でまたは制御装置36を介在させて達成することができる。
【0047】
浸漬装置6に一酸化窒素ガスを充填し始めたら、真空装置10を始動させて適切な出力レベルに調節する。膨張可能な浸漬装置6については、真空装置10の出力レベル(すなわち、流量)は浸漬装置6に流入する一酸化窒素ガスの流量よりも少ないか、同量にして、浸漬装置6が収縮しないようにするべきである。浸漬装置6が剛性である装置の実施形態では、真空装置10は浸漬装置6の内部の一部を真空にするように設定することができる。この点について、部分真空は、患者4の皮膚と浸漬装置6の間に気密シール部を形成するのに役立つ。勿論、真空装置10は、浸漬装置6にガスが流入するのと実質的に等しい割合でガスを導出するように設定されてもよい。有効量の一酸化窒素が浸漬装置6に搬入されて、感染領域30の病原体を殺傷し、かつ/または、感染領域における病原体の成長率を低減する。病原体には、バクテリア、ウイルス、菌類などが含まれる。
【0048】
図4は本発明の別な実施形態を例示しており、ここでは、浸漬装置6には攪拌装置66が設けられており、浸漬装置6の内部に気体擾乱を起こすために使用される。攪拌装置66はファン型機構であるのが好ましいが、浸漬装置6の内部に気体擾乱を起こす手段としてまた別なものを設けることもできる。攪拌装置66は一酸化窒素ガスを新たに補給することで繰り返し感染領域30を浸すのを助ける。
【0049】
〔一酸化窒素適用例の実施形態〕
糖尿病による病変を患う患者などの治癒しない慢性的創傷では、多様な要因が潜在的に創傷の治癒に影響するが、例えば、感染、過剰な滲出液、壊死組織、お粗末な組織の処置、損傷組織の灌流培養などが挙げられる。一酸化窒素ガスを使って創傷の感染症や微生物負荷を緩和することができる。後で説明する具体例は皮膚に一酸化窒素を投与する例であるが、一酸化窒素は肉体のまた別な表層に局所的に投与することもでき、その具体例として、例えば、目や、或いは、それ以外に、切傷、裂傷、創傷などせいで露出した体表であって、筋肉、靭帯、腱、各種体内器官などがある。
【0050】
一酸化窒素ガスが潜在的病原体に及ぼす効果を研究するために、特に誂えたガス曝露培養器を設計し、温度、湿度、及び、ガス濃度を検証を行いながら、微生物培養装置の環境に匹敵する環境を提供すると同時に、厳密なガス濃度を管理しながら検体に曝露させることができるようにした。図5は、特殊な一酸化窒素ガス(gNO)培養器チャンバーが最適成長条件下で哺乳類の細胞培養物はもとより微生物細胞を一酸化窒素ガスに曝露した効果の生体内研究を遂行する目的で設計されたものを例示している。一酸化窒素チャンバーは次のような因子を生体内研究で管理して調節することができた。すなわち、一酸化窒素ガス投与量、総空気流量、二酸化窒素濃度レベル、酸素濃度レベル、二酸化炭素濃度レベル、温度、及び、湿度である。
【0051】
最初の予備研究については2種類の菌株のバクテリア病原体が選択されたが、その選択基準は、呼吸器感染症と局所投与のために提案された2件の臨床的な一酸化窒素ガス適用例であった。緑膿菌は主として肺疾患に関与しているが、酷い火傷などにおける皮膚感染症にも関与していることがある。黄色ブドウ球菌は体表創傷感染症に関与している。このようなマクロ生物が両方とも、予備研究のために選択された。
【0052】
バクテリアに一酸化窒素ガスが及ぼす直接効果を評価するプロセスにおける第1段階は、微生物に適切な致死濃度レベルがあるとすれば、その1回分投与量がどのくらいかを判定する簡単な研究のデザインをすることであった。最適投与量が推定されてしまってからは、時宜を得た研究が遂行された。このような初期研究について、緑膿菌懸濁液と黄色ブドウ球菌懸濁液の高密度の接種原(108cfu/ml)がそれぞれ寒天プレートの上に設置された。このようなプレートは曝露装置内で多様な濃度の一酸化窒素ガスに曝露されて、コロニー成長に及ぼす効果の評価が試みられた。
【0053】
図6及び図7は、120ppmよりも高い一酸化窒素ガス濃度レベルがバクテリアのコロニー形成を低下させた割合が90%を超えていたことを示している。これ以外の研究でも、このような効果を達成するのに要する時間が8時間〜12時間の間であったことが示された。このような結果で確証されたのは、一酸化窒素ガスが緑膿菌成長と黄色ブドウ球菌成長に抑止効果を有していたということである。これに加えて、上記のようなデータは、時間と投与量の関係に特定の傾向が存在し、一酸化窒素ガスの曝露時間と濃度の増加に伴って殺菌の活量が増大するという予備的証拠を提示している。すなわち、一酸化窒素ガスの濃度が上昇するにつれて、プレート上で成長するコロニーの数は減少する。
【0054】
一酸化窒素ガスが120ppmまで上昇するのに伴って、殺菌傾向は、5%〜10%の存命率に向かう下降線を辿るが、初期データはどれも100%の殺菌効果を示していない。バクテリアのうちの或るものは生き延びるが、その原因として、寒天内の素材と化学物質が一酸化窒素ガスと反応して、殺傷効果の妨げとなった可能性がある。重要なことに、バクテリアコロニーは、従来の培養器に移されてから24時間経過した後でも、寸法と数は同じままであったが、対照実験のコロニーの数と寸法は、数えることができないほどまで増大したことが観察された。これにより強く暗示されるのは、一酸化窒素ガスに曝露することでバクテリアの成長が阻害され、一酸化窒素に曝露している期間中に或る地点ではバクテリアを殺傷してしまった可能性があるという点である。従って、これに続く研究は、一酸化窒素ガスの殺菌効果を更に研究するようにデザインされた。
【0055】
投与量と時間が変動する研究の後で、一連の実験を実施して、投与量が変動する研究で使われた投与量を少しだけ上回る濃度の100万分の200の割合のレベルの一酸化窒素を利用して、臨床的感染症に関与している薬剤耐性のあるグラム陽性菌株とグラム陰性菌株のバクテリアの代表的な集団に殺菌効果を効果的に誘発するのに要する時間を判定した。殺菌効果があったという成功例の定義は、バクテリアが3log10cfu/mlを越える割合で減少した、とした。更に、酵母菌、多剤耐性バクテリア菌株、及び、放線菌が似たような反応を示すかどうか見るために、カンジダ・アルビカンズ、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、嚢胞性繊維症患者に由来する緑膿菌の特に耐性の強い菌株、B群連鎖球菌、及び、マイコバクテリウム・スメグマティスも含まれていた。薬剤耐性バクテリアとは、呼吸器感染症と創傷感染症の両方の原因となる多用な病原体を意味する。
【0056】
このような実験のために、懸濁液培地として生理食塩水が選択されたが、これは、生理食塩水なら殺菌性物質としての一酸化窒素ガスの直接効果を遮断することが決してないからであるが、十分に栄養補給された成長培地なら外部変種を導入してもよい(例えば、一酸化窒素ガスに緩衝する変種、または、一酸化窒素ガスと反応する変種等)。これ以外の培地は代謝産物を供与し、酸化損傷やニトロ還元損傷からバクテリア保護する酵素を生成する栄養分を補充することで、一酸化窒素ガスの効果を遮断する。更に、生理食塩水環境は、通例なら生体内でバクテリアが晒されているはずの敵対宿主環境をより現実的に再現していることも既に暗示した。生理食塩水中では、コロニーは変化はないが、生存には適している。これは、ウエバート(Webert)とジーン(Jean)が使用した動物モデルのアプローチに類似している。ウエバート・イー・ケーほか著(2000年刊)の「緑膿菌性肺炎のラットモデルにおける一酸化窒素の吸入効果(Effects of Inhaled Nitric Oxide in a Rat Model of Pseudomonas Aeruginosa Pneumonia)」(クリティカル・ケア・メディシン28巻7号:2397行−2405行)、ジーン・ディーほか著(2002年刊)の「肺のバクテリア浄化に一酸化窒素吸入が及ぼす有益な効果(Beneficial Effects of Nitric Oxide Inhalationon Pulmonary Bacterial Clearance)」(クリティカル・ケア・メディシン30巻2号:442行−447行)を参照のこと。
【0057】
図8は、対照実験の被爆微生物の生存曲線を表す四角形の点によってプロットされる線と、一酸化窒素被爆微生物の生存曲線を表す三角形の点によってプロットされる線で、上記のような実験の結果を例示している。このような研究が明らかにしたのは、200ppmの一酸化窒素ガスは試験対象となった微生物全部に完全な殺菌効果を及ぼしたということである。例外なく、200ppmの一酸化窒素ガスの耐性検査に付されたバクテリアは全部、1ミリリットルあたりのコロニー形成単位(cfu/ml)が少なくとも3log10の割合で低下し、試験は全てバクエリア全部が全く完全に細胞死するという結果に終わった。このような結果はまた、バクテリアが一酸化窒素ガス曝露によって影響されないことが明らかな場合の潜伏期間を特徴とする(表1を参照のこと)。潜伏期間の後には細胞全部の突然死が続いた。グラム陰性バクテリアとグラム陽性バクテリア、糖尿病耐性バクテリア菌株、酵母菌、及び、ミイコバクテリアは全て、200ppmの一酸化窒素ガスの影響を受けやすい。重要なことに、二剤耐性バクテリア菌株もまた影響を受けやすいことが観察された。従って、このような結果から明らかなのは、一酸化窒素ガスが多様な潜在的病原性の微生物に非特異的な致死効果を明快に示すということである。
【0058】
この研究はまた、上記以外の生物すべてと比較した場合、マイコバクテリアについては遅延期間にかなりの差があったことを示している。遅延期間が暗示しているのは、マイコバクテリアの持っているメカニズムは一酸化窒素ガスの細胞傷害性から細胞を保護する期間が他のバクテリアに比べて長いという点である。本件出願人は、細胞内には投与量や時間で決まる一酸化窒素ガスの閾値があって、この閾レベルに達すると迅速な細胞死が起こると考えた。バクテリアの正常な一酸化窒素解毒経路が転覆されると、このような閾値が生じることがある。このような研究で、超生理学的レベルの一酸化窒素(例えば、120ppm〜400ppmの外生一酸化窒素を配給することにより、外生的に供給される)は薬剤耐性バクテリアの代表的菌株に殺菌性を示し、その効果はこのようなバクテリアに突然、致死的かつ非特異的に発現することが示され、確認された。
【0059】
【表1】
【0060】
広範囲の微生物に致死効果を達成するために、200ppmの一酸化窒素ガスが創傷部位に少なくとも7時間に亘って、例えば、患者が夜間眠っている間に途切れることなく曝露されるのが好ましい。これより短い期間に、例えば400ppmといったようなより高濃度が適用されてもよい。数日間に亘る、より長期の治療という選択肢も与えられている。被検体次第で、或る治療から次の治療までの間の中断期間が配慮されてもよい。
【0061】
動物モデルについての生体内研究は、一酸化窒素ガスの有益な効果を更に明らかにしている。動物モデルでは、かなり深い皮膚創傷(セットA:8個の8.0mmパンチ生検を施した4匹のウサギ、セットB:2つの50×15mm創傷を施した4匹のウサギ)が背面中線の両側に作られ、被爆後経過0日に、どれも等量の黄色ブドウ球菌懸濁液で感染させられた。経過1日には、セットAとセットBの治療を受けたグループがそれぞれに200ppmと400ppmの一酸化窒素ガスに合計3日間に亘って被爆された。セットAは、特殊な制限被爆チャンバー内で4時間の期間を2回分、途中1時間の休憩で中断して曝露された。セットBの動物については、特異な創傷パッチのデザインにより24時間途切れなく続くガス配給モデルが利用された。対照検査グループは医療等級の空気に同じ流量で曝露されただけであった。4個のランダムなサンプルパンチ生検(8.0mm)が創傷後3日目に回収され、バクテリア含有量について解析された。創傷皮膚組織と正常な皮膚組織の両方に由来するまた別な4個のパンチ生検が回収されて、線維芽細胞の生存能力解析と一酸化窒素ガスの毒性効果を得た。
【0062】
図9は、200ppmの一酸化窒素ガスに途切れなく曝露された創傷のバクテリア含有量についての動物研究から得られたデータを、医療空気に曝露されただけの対照試験グループと比較して表している。治療後の創傷にはかなりのバクテリア低下が観察された。ウサギは治療中は快適かつ安楽にしているように見え、対照検査グループと比較しても、治療後の動物の皮膚に中毒効果も損傷も観察されなかった。二酸化窒素は研究中のどの時点でも、労働安全衛生庁によって設定された安全限界値(<4.3±0.3ppm)を超過していなかった。図10は図9に見られるのと同じような組のデータを例示しているが、ここでは、動物の創傷は400ppmの一酸化窒素ガスに被爆されて治療された。対照検査グループと治療グループの間で比較して、平均して、バクテリア含有量の10倍を超える低下(P<0.05)が観察された。
【0063】
図11は、200ppmの一酸化窒素ガスに間欠的に6日間に亘って曝露した後で、一酸化窒素代謝の最終生成物のうちの1つである窒素酸化物(NO2とNO3)が動物から回収された血清中で測定されたのを示している。一酸化窒素ガスに曝露したせいで窒素酸化物NOxの濃度レベルが上昇したことはどのサンプルからも明らかではなく、かなりの深さの創傷(直径8.0mm部位で8)を曝露しても動物の循環器系の一酸化窒素レベルを上昇させることがないという事実を示した。
【0064】
図12は、200ppmの一酸化窒素ガスに6日間に亘って間欠的に曝露した後の、動物に血中のメトヘモグロビン(MetHb)のレベルを示している。空気に曝露された対照実験グループと比較して、治療を受けたグループの動物にメトヘモグロビンレベルの上昇は見られなかった。これは、開いた創傷に一酸化窒素ガスを局所的に供与しても循環器系における一酸化窒素レベルの上昇に寄与しないという事実や、開いた創傷に約200ppmの一酸化窒素を局所的に供与しても、メトヘモグロビンの形成にそれほどの毒性を懸念する事態を引き起こすことはないという事実に対して、図11に提示されたデータが合致するという裏付けを与えている。
【0065】
図13は、治療を受けたグループと対照実験グループにおける動物に由来する創傷パンチ生検上に準備された組織塊の組織解析を提示している。対照実験グループに由来するサンプルは更に進んだ好中球浸潤と、そのため、より程度が進んだ炎症反応とを示した。一酸化窒素ガスで治療された創傷には、好中球濃度のレベル低下が見られた。一酸化窒素ガスで治療された創傷には創傷上を塞ぐ痂皮層ができたが、対照実験の創傷はもっと長期に亘って開いたままであった。全体的に、一酸化窒素ガスで治療された創傷では、より健康的な治癒プロセスが観察された。一酸化窒素ガスで治療されたグループには、中毒効果(アポプトーシスのせいである細胞残骸)は見られなかった。
【0066】
炎症反応は創傷治癒の一部であるが、常軌を逸した炎症反応が慢性創傷と過剰な滲出液の寄禍要因である。一酸化窒素は血小板の凝集を抑制し、血管の弾力性を維持するのを助け、マスト細胞の顆粒消失を抑制する。デレダン・エム(Delledonne, M)ほか著(2003年刊)の「一酸化窒素が介在する信号発信の諸機能と過敏反応中の遺伝子発現の変化(The Functions of Nitric Oxide-Mediated Signaling and Changes in Gene Expression during the Hypersensitive Response)」(抗酸化剤の酸化還元信号5:33-41)と、ヒッキー・エム・ジェイ(Hickey, M.J)著(2001年刊)の「白血球漸増の調節における誘導性一酸化窒素合成酵素の役割(Role of Inducible Nitric Oxide Synthase in the Regulation of Leukocyte Recruitment)」(クリン・セイ(ロンドン)、100:1-12)を参照のこと。
【0067】
内皮細胞によって構成性酵素により生成された一酸化窒素は継続中の抗炎症効果があることを示している。この原因の一部は血小板凝血に及ぼされる効果のせいである。iNOSは炎症反応中に誘導される。研究から明らかになったことであるが、iNOSが誘導された一酸化窒素も抗炎症特性を示すことがある。集合的に、血管の弾力性を維持し、血管形成を促進し、炎症を緩和し、更に、マスト細胞の顆粒消失を抑制することにより、一酸化窒素は滲出液管理のための重要な分子と見なすこともできる。従って、外生的に投与された一酸化窒素は複製され、内生一酸化窒素の作用を補うことで、局所炎症反応を緩和するばかりか、炎症細胞をもっと送るようにという、全身炎症反応システムが既に受け取っているメッセージを抑制する。最終的には、これが健康なレベルの滲出液生成をもたらす。
【0068】
図14は、高濃度の一酸化窒素ガス(200ppmレベル)に曝露する期間が延びるにつれて、コラゲナーゼmRNAの発現が増大されることを例示している。これが暗示しているのは、高濃度の一酸化窒素はコラーゲンの酵素分裂を引き起こすコラゲナーゼを誘導するということである。ウイッテ(Witte)ほかによる単独研究(2002年)で分かったのは、MMP−2活量も一酸化窒素ドナーによって誘導されるということである。ウイッテ・エム・ビーほか著(2002年刊)の「糖尿病において一酸化窒素は治験創傷治癒作用を高める(Nitric Oxide Enhances Investigational Wound Healing in Diabetes)」(Br J Surg、89:1594-1601)を参照のこと。従って、一酸化窒素はコラゲナーゼ(MMP−1)とゼラチナーゼ(MMP−2)の両方の発現を誘導することができ、このことは、組織を壊死組織から分離して清浄に保つのと同時に炎症段階が長引かないようにするのに重要となるかもしれないと本件出願人は考えた。
【0069】
壊死組織の酵素による創面清拭を目的として外生コラゲナーゼを供与するよりはむしろ、創傷を壊死組織と一緒に外生一酸化窒素に曝露して内生コラゲナーゼを誘導するほうが、より有益である場合がある。内生コラゲナーゼが細胞によって放出される時に、細胞は自動的にTIMP(メタロプロテイナーゼの組織抑制体)を放出する。これにより確実に、礎質分解が調整されて、膠原溶解活動の鮮明な幾何学的境界部を定めることができるようになるとともに、酵素の活動から結合組織の領域を保護することができるようになる。これと比べて、外生コラゲナーゼ物質を使用して創傷を創面清拭することで、創傷の特殊領域を保護することはできず、というのも、外生コラゲナーゼは、その効果が望ましいものであるか否かに関わらず、コラゲナーゼが接触する細胞の全てにおいて活性を示すからである。一酸化窒素が創傷の創面清拭を行う能力は、図14(図中の左側)で分かるように、創傷に付与された高濃度の外生一酸化窒素のおかげでコラーゲン発現を抑止することで更に確固たるものにすることができる。
【0070】
高濃度の一酸化窒素ガスに第1の治療期間(例えば、1日あたり5時間〜8時間)に亘って創傷を曝露した後で、壊死組織は容易に機械的に除去され、一酸化窒素ガスの濃度は第2の治療期間の間に減少されるのが好ましい。第2の治療期間に亘って配給された低濃度の一酸化窒素ガス(例えば、5ppm〜20ppmのレベル)は、新たなコラーゲンの合成を引き起こすコラーゲンmRNAの発現を誘導し、創傷が閉じるのを助けることができる。例えば、図22は、5ppmの一酸化窒素に曝露された線維芽細胞においてコラーゲンmRNAの発現が増大したのを例示している。第2の治療期間は1日あたり7時間〜16時間の期間である。更に、高濃度の一酸化窒素ガスと低濃度の一酸化窒素ガスを使った治療は数日間に亘って反復されてもよい。
【0071】
皮膚の治癒しない慢性潰瘍については、創傷の創面を整えてから、天然皮膚組織または合成人造皮膚組織を潰瘍に被せて移植することもできる。創傷床を整える処理は、微生物負荷の低減、創面清拭、及び、滲出液の管理などを含んでいる。
【0072】
傷に対する肉体の自然な反応は、一酸化窒素の量を増大させて傷病部位のバクテリア数を減らし、死んだ細胞を除去するのを助け、更に、治癒を促進することであると思われる。傷病部位が発信しているメッセージは一酸化窒素を生成している傷病部位の細胞が発するメッセージ以上のものであり、これは血流にのって体内のあちこちに一酸化窒素を循環させる。このような治癒準備の数日後に、肉体は自らが生成した一酸化窒素を、治癒を促進する新たなレベルまで低減する。創傷が治癒しない場合、または、感染症に罹った場合、肉体は循環一酸化窒素を高レベルに保ち、創傷は自らの治癒を妨げる恐れのある或る濃度の一酸化窒素に洗われる。こうして創傷の治癒過程における「コロンブスの卵のパラドックス」に陥る。高濃度の一酸化窒素ガス(例えば、120ppm〜400ppm)に傷病部位を浸漬することで、傷病部位には十分な一酸化窒素があるので、肉体は他の細胞による一酸化窒素の余剰生産を制止してもよいというメッセージを肉体に送る。これにより、局所部位は、治癒することができると同時に、適切な超生理学的濃度の一酸化窒素を得て、微生物の成長を抑止することができるようになる。
【0073】
〔その他の安全研究〕
動物モデルにおける開いた創傷に対して200ppmの一酸化窒素ガス生体内曝露しても毒性を示さない上記研究に加えて、一酸化窒素ガスに曝露された正常な宿主細胞の生存能力を確認する研究が線維芽細胞、内皮細胞、ケラチン生成細胞、肺胞上皮細胞、マクロファージ、単核細胞に関して実施されており、或る研究については平面プレート成長モデルと3次元成長モデルの両方で行われている。このような実験は適切なモデルにおける生存可能性、増殖、移動、吸着、発現、筋管細胞形成を観察するものである。
【0074】
選択的再生外科手術を受けている成人患者から得た線維芽細胞はダルベコ改変イーグル培地(DMEM: Dulbeco's Modified Eagle's Medium)で培養され、10%の牛胎児の血清(FBS)と抗生物質及び抗真菌物質の調合品が補給されてから、10個の25平方センチメートルの通気性のある培養フラスコ(COSTAR)に分割された。これらフラスコのうちの4個(治療を受けるグループ)は特殊な一酸化窒素培養器チャンバー内で摂氏37度で24時間と48時間とに亘って20ppm または200ppmの加湿一酸化窒素ガスに曝露された。この一酸化窒素曝露チャンバーは研究前に検証されて、外生変種を排除し、線維芽細胞成長の最適条件を確保した。また別な4個のフラスコ(対照実験グループ)が従来の培養装置内に設置され、雰囲気中の摂氏37度の加湿空気だけに曝露された。2個のフラスコは個別に摘出されて、ゼロ時間における細胞の数が計数される。治療の後で、線維芽細胞は摘出されて、組織、細胞数、増殖能力、及び、環境pHについての評価が行われた。このような実験による結果は、約200ppmの一酸化窒素に曝露しても線維芽細胞に有害な影響は及ばなかったことを示している。
【0075】
図15は生存可能性研究に基づく線維芽細胞の組織を例示しているが、ここでは、培養された人間の線維芽細胞が200ppm未満の多様な一酸化窒素ガス濃度に48時間に亘って曝露された。48時間の期間経過後の対照実験の皮膚線維芽細胞と治療を受けた皮膚線維芽細胞の組織発現と吸着能力は極めて似ていた。一酸化窒素ガスに晒された細胞は健康で、培養プレートに吸着した。一酸化窒素ガスに曝露したせいである毒性効果は観察されなかった。
【0076】
図16は、線維芽細胞に対する毒性が無いことに加えて、200ppmの一酸化窒素に曝露することで、創傷の治癒過程を更に助けることができる線維芽細胞の増殖を増大させるポジティブな効果があることを例示している。
【0077】
図17は、160ppmの一酸化窒素に曝露された線維芽細胞に由来する細胞吸着能力から得られた結果を例示している。指定時間期限のうちに培養プレートに細胞を再吸着する能力は、培養中の細胞の生存能力の指針として広く利用される。対照実験グループと治療を受けたグループの両方が1時間の培養時間内に70%の吸着能力を示した。細胞組織と細胞数に関連するこのような結果は、少なくとも100ppm〜200ppmの間の範囲の一酸化窒素ガスを哺乳類の皮膚組織に局所投与することについて、一酸化窒素ガス治療の安全性を裏付けるものである。
【0078】
図18は、3次元礎質で成長させられてから200ppmの一酸化窒素ガスに1日あたり8時間の曝露が3日間に亘って施された線維芽細胞の移動量を、空気中または従来の培養器内の対照実験の細胞と比較して例示している。この結果から分かるように、一酸化窒素がこのような条件下で線維芽細胞の移動に影響を及ぼすことはない(すなわち、もっと詳細に述べると、阻害しない)。
【0079】
図19は、3次元礎質で成長させられてから200ppmの一酸化窒素に1日あたり8時間の曝露が3日間に亘って施された線維芽細胞の増殖量を、空気中または従来の培養器内の対照実験の細胞と比較して例示している。ここでもまた、一酸化窒素はこのような条件下で線維芽細胞の増殖を阻害しない。
【0080】
図20は、マトリゲル(登録商標:Matrigel)で成長させられてから空気(図中の上段)または200ppmの一酸化窒素(図中の下段)に8時間(図中の左側)または24時間(図中の右側)に亘って曝露された人間の内皮細胞における筋管形成を例示している。ここでもまた、空気に曝露したものと200ppmの一酸化窒素に曝露したものとの間にそれほどの差異は見られなかった。
【0081】
〔人間検体の事例研究〕
この事例研究は、深刻な疾患と軽度の疾患の両方を併せ持ち、深刻な血栓静脈炎に関係する酷い静脈疾患に罹って、30年の病歴を持つ55歳男性に関するものである。最初、患者は、20代の時に、治癒しない両側性脚部静脈潰瘍を発症したが、これを外科手術で治療した。外科手術部位は治癒したが、潰瘍は引き続き再発した。まず、患者は左足首の内側踝の真下に小さな潰瘍があるのを見せた。寸法は拡大していなかったが、この潰瘍は2年間の標準治療では完全に治癒していなかった。
【0082】
大抵の場合、創傷床はバイオフィルム、粘性のある黄色のゲル状物質で覆われていた。段階状圧迫包帯式長靴下を使うことにより、水腫管理を維持していた。マヌカウの花蜂蜜、ヨード澱粉調合剤(ロドソーブ(商標:lodosorb)、米国フロリダ州ラルゴ、スミス・アンド・ネフュー(Smith & Nephew))、及び、コロイド銀(米国ニュージャージー州プリンストン、コンバテクのアクアセル株式会社(Aquacel AG))を浸潤させた抗菌性包帯を試した。男性患者の創傷を頻繁に創面清拭し、バイオフィルムを物理的に除去した。これは概ね効果が無かったが、それは、次の来院時にはバイオフィルムが再度できているのが分かることが多かったからである。20%の過酸化ベンゾイルローションを数日おきに塗布し、肉芽組織の発現を誘発したが、これも同様に効果が無かった。時には改善が見られたが、それは、潰瘍が新しい皮膚で覆われた状態になったからであるが、数週間後には皮膚は破れて終わった。適切な水分バランス、創傷床の調整、及び、下層部疾患の治療に取組んだ創傷ケアにもかかわらず、傷口を完全に塞ぐことができないこのような哀れな経過が認められた。
【0083】
男性患者の創傷を上述のように塞ぎ損なったことで、患者の生活の質は相当な打撃を受けた。男性患者は丸2年の間、1月に少なくとも1度は病院の医師を訪ねさせられた。治療費用は、医師の時間手当てと治療材料費を含め(数千ドル)、健康保険システムを圧迫したのみならず、治療のために数時間かけて通院しなければならない患者にも負担となった。それまでの治療が効果なしであることが証明されたので、患者はこの実験的研究に参加するように招かれた。実験治療と潜在的危険を説明した後で、インフォームドコンセントが得られた。
【0084】
患者には病院で面会し、そこで創傷を評価し、写真を撮影した(図22)。治療の養生法を説明し、CidaNOx配給システムと長靴の使用のデモンストレーションを行った。後日、患者の自宅で面会する手配を行い、機器を組み立て、男性患者に治療システムの使用訓練を繰り返させた。訓練にはシステムを使ってみることの他に、ガス機器を使用する際の安全情報が含まれていた。
【0085】
研究用に特にデザインされた(カナダ、アルベルタ、エドモントンのパルモノクス・メディカル・インコーポレーティッド)ガス希釈配給システム(CidaNOx配給システム)を使用しながら、下肢に一酸化窒素ガス(ViaNOx−H、米国カリフォルニア州ヨルバリンダのヴァイアシスヘルスケア社(VIASYS Healthcare))が供与された。このCidaNOx配給システムは一酸化窒素ガスを希釈するための内部空気ポンプと流量制御回路とを備えており、一酸化窒素源の円筒容器中の1,000,000 ppmあたり800を希釈して200ppmの治療レベルまで低下させる。システムからの総流量は1分あたり1.0リットル(1.0L/min)で、1分あたり4分の1リットル(250mL/min)の一酸化窒素ガスを含んでいた。複数の内圧センサーが、希釈流が流動中であることが確認し、システムを監視する。一酸化窒素の流量は、機械設定式の圧力調整装置と、患者が変更を行える外部制御部を備えていない機械流量計によって、250mL/minに制限された。配給される一酸化窒素の濃度はCidaNOx出力を測定することにより確認されたが、これと一緒に、人間患者の吸入した一酸化窒素を監視するよう改良された較正一酸化窒素アナライザ(AeroNox(登録商標)、パルモノクス・メディカル・インコーポレーティッド(Pulmonox Medical Inc.))が利用された。
【0086】
下肢を覆う可塑材の長靴を使用する1人の患者に向けCidaNOx配給システムから200ppmの一酸化窒素ガスが流出させられた。長靴には頂端付近に膨張可能な折返しカフスが設けられており、このカフスが低圧シールを設けていた。CidaNOxから流出する二次空気はカフスの膨張を制御した。カフスが膨張するまで患者がポンプ出口をカフスコネクタに接続し、それから、コネクタはクランプでシール状態に閉じられた。一酸化窒素ガス流は長靴のつま先部付近の入口コネクタに接続され、帰還用ラインが長靴のつま先付近のコネクタに接続された。帰還用ラインはCidaNOx装置の中を通ってから、一酸化窒素を吸収する炭と過マンガン酸ナトリウムを含んでいる殺菌剤を通って外に出された。CidaNOx配給システムには2個のトグル位置があったが、一方は一酸化窒素ガス配給用であり、他方は空気配給専用であった。治療期間の最後には、患者は配給流を空気専用に切換えて、長靴を脱ぐ前に残留する一酸化窒素ガスを長靴から排出させた。
【0087】
患者にサポート長靴下を継続して着用するように指示を与えるとともに、一酸化窒素ガス投与を受けていない時には、創傷にハイドロファイバーの包帯(アクアセル(登録商標:Aquacel)、コンヴァテック社(Convatec))を巻くように指示した。一酸化窒素治療中は、男性患者はサポート長靴下を脱いでとアクアセル包帯を多孔性低粘性包帯(イー・ティー・イー(商品名:ETE)、スエーデンのモンリッキ・ヘルスケア社(Molnlycke Health Care))と取り替えたが、この包帯は先に例示されているのであるが、その中を通して一酸化窒素ガスを拡散させることができる(データは図示せず)。
【0088】
創傷床を整えて長期使用で創傷の治癒が早まる潜在的可能性を調査するために、3日間を越える治療養生法を選んだが、この養生法を14日で中断して、短期の効果を評価し、短期の効果が長期の成果を向上させる可能性を探った。患者を励まして、24時間ずっと可能な限り頻繁に一酸化窒素ガス長靴を装着するように促した。昼間、患者が働いている間は長靴を装着して、夜間に床に就いている間だけ一酸化窒素ガス治療を受けるのが最も実際的であると判断した。患者はデータシートに日付と、時間と、各回ごとの治療期間と、創傷、治療、または、機器に関する重要な観察を書き留めた。創傷の寸法(平方センチメートル)は、デジタル写真や濃度計技術(サイアン・イメージ−4.02(Scion Image -4.02)、米国メリーランド州フレデリックのサイアン・コーポレーション)を利用して測定された。
【0089】
患者は連続14夜に亘って治療を自己投与した。夜間治療期間は1回の治療あたり6.5時間〜9.75時間の間で変動した。14回の治療期間中に200ppmの一酸化窒素ガスに創傷を曝露した累積時間は105.25時間であった。創傷の評価と写真撮影は、治療開始から0日経過後(図22Aの予備治療)、3日経過後(図22B、累積24時間の一酸化窒素曝露の後)、及び、14日経過後(図22C)に行われた。創傷の評価と写真撮影は、14回の治療を完了してから10日経過後(図22D)と、治療を完了してから6週目と26週目(図22Eと図22F)にも行われた。
【0090】
活発な治療期間中は、被験者はCidaNOxシステムの使用に関して評価を行った。被験者は固定位置ではシステムの使用が容易であると思い、バッグの適用も快適であると思い、使用に伴う痛みは全く報告していない。男性患者は出血したという話も残していない。図23Aは、一酸化窒素ガスを使用する前の潰瘍の初期的な図を例示している。創傷床はバイオフィルムによって覆われており、健康な肉芽組織はほとんど存在しておらず、創傷の縁から新しい皮膚が成長した証拠は無かった。創傷は悪臭を放っていた。
【0091】
24時間に亘って一酸化窒素に曝露した(1日あたり8時間の治療を3日に亘って行った)後で、初めて、潰瘍床に健康な肉芽組織が認められた。創傷の縁から新しい皮膚が成長する早期証拠は観察されなかった。悪臭もなかった。これと一致して、バイオフィルムも前ほど存在していなかった(図22B)。治療経過後14日で(図22C)、潰瘍の寸法が小さくなったのが明らかになった。その時までに、潰瘍は完全に上皮で覆われた。一酸化窒素ガス治療の3日目には既にかなりの創傷寸法低下が観察され(p=0.014)、14日が経過した一酸化窒素ガス治療の終わりまでに、創傷領域は約75%低減した(図23)。一酸化窒素ガス治療の終了から10日経過して、創傷を更に評価した(図22D)。この時は傷の悪化は見られなかったが、潰瘍の治癒は不完全であると判断された。一酸化窒素ガス治療の最終日(図23)と比較して、創傷寸法にそれほどの低下は観察されなかった。6週間後、創傷は、創傷寸法の低下も上皮の成長も無いものの、創傷は約90%治癒したと判定された(図22Eと図23)。一酸化窒素の投与を中断してから26週で、潰瘍は完全に治癒したうえに、上皮が再生したと認められた(図22F)。治療後の全期間にわたり、包帯養生法に何の変更も行わず、また、抗菌剤や抗生剤も全く使用しなかった。
【0092】
静脈鬱血性疾患が原因で起こる潰瘍が最適治療の下で治癒するのに要する平均期間の範囲は12週〜16週である。本件出願人らの患者は、2年以上に亘って治療効果が無い潰瘍を患っていたが、一酸化窒素ガスに短期間曝露する処理に対しては肯定的な反応を示した。男性患者の創傷の寸法は低減し、肉芽基部が定まり、悪臭はこの2週間のうちに根絶された。バイオフィルムを除去してから曝露時間を長くしたり濃度を変えたりしていたら、病変部を塞ぐにあたって違いが出たかどうかについては、これ以上の研究とランダムに行う統制追跡調査で解答を得ることができるだろう。
【0093】
本発明の実施形態を図示して説明したが、本発明の範囲から逸脱せずに多様な修正を行うことができる。例えば、本件で説明した方法を採用して治療することができるような傷を受ける可能性のある組織の種類には、無制限に、皮膚、筋肉、腱、靭帯、粘膜、骨、軟骨、角膜、露出した内部器官などが含まれる。組織は外科切開術、外傷(機械的、化学的、ウイルス、バクテリア、自然な発熱など)、または、これら以外の内因性の病気プロセスによって損傷を受けることがある。よって、本発明は、添付の特許請求の範囲の各請求項とその均等物を除いて、限定されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の一側面による一酸化窒素配給装置を例示した概略図である。
【図2】患者の足を浸漬装置が包囲しているのを例示した図である。
【図3】患者の手を浸漬装置が包囲しているのを例示した図である。
【図4】浸漬装置の中に攪拌装置が設置されているのを例示した図である。
【図5】一酸化窒素ガス(gNO)が哺乳類の細胞培養に及ぼす影響と最適な成長条件下にある微生物細胞に及ぼす影響を生体内で研究を遂行するように特殊な一酸化窒素ガス(gNO)培養室が設計されているのを例示した図である。
【図6】一酸化窒素ガス(gNO)に晒した黄色ブドウ球菌適用量曲線と、固形培養地上のバクテリア成長との関係を例示したグラフであり、50、80、120及び160ppmの一酸化窒素における黄色ブドウ球菌コロニー形成単位(cfu)成長の相対百分率を、医療用空気(100%)中における黄色ブドウ球菌コロニー形成単位(cfu)の成長と比較して例示したグラフである。
【図7】一酸化窒素ガスに晒した緑膿菌適用量曲線と、固形培養地上のバクテリア成長との関係を例示したグラフであり、50、80、120及び160ppmの一酸化窒素における緑膿菌コロニー形成単位(cfu)成長の相対百分率を、医療用空気(100%)中における緑膿菌のコロニー形成単位(cfu)成長と比較して例示したグラフである。
【図8a】200ppmの一酸化窒素ガスが黄色ブドウ球菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8b】200ppmの一酸化窒素ガスが緑膿菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8c】200ppmの一酸化窒素ガスが黄色ブドウ球菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8d】200ppmの一酸化窒素ガスがセラチア属マルセセン変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8e】200ppmの一酸化窒素ガスがクレブシエラ属肺炎桿菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8f】200ppmの一酸化窒素ガスがステノトロフォモナス属ブドウ糖非発酵桿菌マルトフィリア変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8g】200ppmの一酸化窒素ガスがエンテロバクター属腸内桿菌ガス産生変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8h】200ppmの一酸化窒素ガスがアキネトバクター属非発酵陰性桿菌バーマニー変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8i】200ppmの一酸化窒素ガスが黄色ブドウ球菌(MRSA)に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8j】200ppmの一酸化窒素ガスがカンジダ属深在性真菌アルビカンズ変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8k】200ppmの一酸化窒素ガスがマイコバクテリウム属抗酸菌スメグマティス恥垢菌変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8l】200ppmの一酸化窒素ガスがエスケリチアグラム陰性桿菌属大腸菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8m】200ppmの一酸化窒素ガスがB群連鎖球菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図9】ウサギのかなりの深度まで感染した創傷モデルにおいて200ppmの一酸化窒素ガスを局所的に供給した後の創傷のバクテリア含有量を例示したグラフである。
【図10】ウサギのかなりの深度まで感染した創傷モデルにおいて400ppmの一酸化窒素ガスを局所的に供給した後の創傷のバクテリア含有量を例示したグラフである。
【図11】400ppmの一酸化窒素ガスを局所的に供給した後のウサギの血清中の窒素酸化物NOx(NO2とNO3)のレベルを例示したグラフである。
【図12】かなりの深度まで感染した創傷モデルに400ppmの一酸化窒素ガスを局所的に供給した後のウサギの血中メトヘモグロビンのレベルを例示したグラフである。
【図13】200ppmの一酸化窒素ガスに24時間に亘って曝露された、かなりの深度まで感染した創傷の組織解析を例示したグラフである。
【図14】200ppmの一酸化窒素ガスに24時間と48時間の期間に亘って曝露した後のコラーゲン及びコラゲナーゼに対するmRNA発現を例示したグラフである。
【図15】一酸化窒素ガスチャンバー内で200ppm未満の一酸化窒素ガスに曝露した線維芽細胞の組織と、従来の組織培養器内の対照(コントロール)線維芽細胞グループとを対比させたものを例示した図である。
【図16】200ppmの一酸化窒素に曝露した後の線維芽細胞増殖の上昇を、対照(コントロール)と対比させたものを例示したグラフである。
【図17】160ppmの一酸化窒素ガスに曝露した後の人間の線維芽細胞の細胞吸着能力を例示したグラフである。
【図18】200ppmの一酸化窒素に1日あたり8時間の割合で3日間に亘って曝露された線維芽細胞の3次元成長の結果と、空気中または従来の培養器内の対照(コントロール)細胞群とを対比させて例示したグラフである。
【図19】200ppmの一酸化窒素に1日あたり8時間の割合で3日間に亘って曝露された線維芽細胞の3次元成長の増殖量と、空気中または従来の培養器内の対照(コントロール)細胞群とを対比させて例示したグラフである。
【図20】空気(図中、上の2枚)と200ppmの一酸化窒素(図中、下の2枚)に曝露された、マトリゲル(登録商標:Matrigel)で培養された人間の内皮細胞内における筋管細胞形成の量を例示した図であり、曝露期間が8時間である場合(図中、左側の2枚)と曝露期間が24時間である場合(図中、右側の2枚)とを例示した図である。
【図21】5ppmの一酸化窒素に曝露された線維芽細胞においてコラーゲンmRNAの発現が増大したのを例示した図である。
【図22】人間の治癒していない脚の潰瘍における一酸化窒素ガスを使った治療の多様な段階における多様な写真である。
【図23】図22の人間の治癒していない脚の潰瘍を一酸化窒素ガス治療した後に創傷寸法が低減したのを例示するグラフであり、3日間と14日間に亘って一酸化窒素ガスを創傷に供給した後、かなりの創傷面積減少が観察され(治療経過日数0日に対して*p=0.019、経過日数3日に対して**p=0.014)、治療撤退後は創傷状態は悪化せず(経過日数14日の矢印)、26週間の後に創傷は完全に治癒し(経過日数186日、経過日数3日後以降***P<0.01)、これらの数値は平均値と標準偏差値であるグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は傷や感染症の治療をする装置及びその方法に関するものであり、より詳細に述べると、一酸化窒素を使った傷及び感染症の治療に関連している。
【背景技術】
【0002】
患者の感染症に罹った体表病変部または体表下病変部の治療には、通例、患者に抗感染薬の局所投与または全身投与を行う。抗生物質は、感染した膿瘍、病変部、瘡傷などを治療するのに広く使用される抗感染薬の1種である。残念ながら、従来の抗生物質治療に対して薬剤耐性を持つようになったバクテリアのような感染原である病原体の数が増えつつある。実際、医療界が抗生物質を多用するのに比例して、従来の抗バクテリア剤に対しても、また、新たに開発された抗バクテリア剤に対してすら効き目がない、薬剤耐性を有するバクテリア菌株が増大してきている。
【0003】
例えば、ブドウ球菌は心内膜炎、肺炎、敗血症、中毒性ショック症などの酷い感染症を人間に引き起こす重要な病原体であることが分かっている。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、目下、世界中で院内感染の極めてよくある原因の1つであり、ブドウ球菌感染全体の89.5%までがこの菌株によるものである。MRSAが街中で大発生することもいよいよ頻繁になってきている。このような感染症の主要な治療はグリコペプチド(バンコマイシンやテイコプラニン)の投与である。MRSAは、ここ20年の間、報告があったのだが、グリコペプチド系薬剤耐性黄色ブドウ球菌、すなわち、グリコペプチド系抗菌薬中度耐性黄色ブドウ球菌(GISA)の出現が報告されたのは1997年が初めてである。グリコペプチドは注射でしか投与できず、多数の中毒性副作用を有している。近年、米国内の患者から最初の臨床バンコマイシン耐性ブドウ球菌株(VRSA)を分離培養したことで、増大する新しい病原体が深刻かつ危急の問題であるとの意識が高まっている。新しい抗感染薬が開発されたとしても、このような薬は極めて高価であり、限られた数の患者しか利用することができない。
【0004】
緑膿菌はもう1つの厄介な病原体であり、この菌が治療困難であるのは抗生剤耐性があるからである。この菌は院内で感染して酷い気道感染症の原因となることが多い。緑膿菌は、嚢胞性繊維症に罹っている患者、酷い火傷を負った患者、更に、免疫反応が抑制されているエイズ患者については高い致死率につながる。この病原体に付随する臨床的問題は多数あり、菌外膜のリポポリサッカリド(LPS)によって設けられた透過性障壁のおかげで抗生剤に対する耐性があるとの悪評どおりである。緑膿菌がバイオフィルムという顕型で体表に群生する傾向のせいで、細胞は治療濃度の抗生剤を受け付けなくなる。
【0005】
従来の感染防止薬に関する別な問題は、患者のなかには、当人の感染症を治療するのに必要な薬剤組成に対するアレルギー症の人がいる点である。このような患者については、感染症を治療するのに利用できる薬剤はほんの数種類に限られる。患者が代替治療をうまく受け付けない或るバクテリア菌株に感染している場合、患者の命が危機に瀕する可能性がある。
【0006】
体表感染または体表下感染の従来の治療法に関連するまた別な問題は、病原体が感染領域内の血液の循環を阻害する点である。病原体は感染領域の毛細血管やそれ以外の小血管の狭窄の原因となる場合があるが、そのような狭窄により血流が減少する。血流が減少すると、感染領域に配給される抗感染薬の量が減る。更に、感染領域への血流が制限されると、感染症は治癒するのに遥かに長い時間を要する恐れがある。これにより、患者に投与されるべき薬剤の総量が増え、そのため、そのような薬剤を使用する経費が増大する。局所薬剤が感染領域に投与されることもある。しかし、局所抗感染薬は、バクテリアの相当な部分が群生していることが多い皮膚の内側の深部まで浸透しない。抗感染薬の全身投与(すなわち、経口投与)と比較して、抗感染薬の局所治療すなわち非経口治療は感染症を排撃する効果が小さいことが多い。
【0007】
更に、慢性創傷の治療の近年の進歩にも関わらず、下肢潰瘍の大半が治癒しない。下肢の慢性潰瘍は深刻な公衆衛生上の問題である。下肢潰瘍治療を目的したヘルスケアシステムに投じられている多額の財政負担にも関わらず、下肢潰瘍は多大な被害を生じて人間の疫禍となっている。住民が高齢化するにつれて、また、北米地域においては現在の肥満化の危機に付随して、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫性潰瘍がこれまで以上に起りやすくなる恐れがある。合衆国内で約400万人(人口の1%)が慢性下肢潰瘍を発症しており、その大半は糖尿病性脚部潰瘍または静脈性脚部潰瘍であると分類されているが、この数は高齢(80歳未満)の患者層では4%〜5%上昇する。
【0008】
感染症とは別に、多様な要因が慢性潰瘍の創傷治癒に潜在的に影響する場合がある。このような要因としては、高齢化、糖尿病、ステロイド投与などの慢性的諸症状に加えて、過剰滲出液、壊死組織、お粗末な組織の処置、損傷組織の灌流培養などが挙げられる。
【0009】
滲出液は澄んだ麦藁色の液体であり、組織損傷に反応して肉体によって生成される。滲出液は主成分が水であるが、細胞成分、抗体、栄養分、酸素なども含有している。傷を受けると直ちに反応して、肉体によって滲出液が生成されて、その部位から体外由来の物質を洗い流す。その場合、滲出液は多形核球と単核細胞の担体でもあるため、バクテリアや各種の屑を受け入れる。滲出液はこのような食細胞が創傷内で運動できるようにすることで、創傷表面を横断して上皮細胞が移動できるようにするのに加えて、創傷を洗浄するのを助けることができる。
【0010】
滲出液は創傷治癒の重要な要素であるが、慢性的炎症に反応して滲出量が過剰になると創傷を悪化させることがあるが、これは液中酵素が健康な組織まで攻撃してしまうからである。これにより、塞ぐべき創傷の障害を悪化させる恐れがあるばかりか、患者に余分な心理的圧迫を与えてしまうことがある。慢性的な創傷は、通常は慢性感染症に付随して滲出液が過剰に出ることがよくあり、かつ/または、肉体の炎症細胞の数が増える方に調整してしまっているバイオフィルムを生じることがよくある。これは局所的反応であることもあれば、炎症指標や循環サイトカインを全身で増大させる反応を含んでいることもある。
【0011】
慢性創傷はまた、壊死組織の形成をもたらし、それが延いては細菌を成長させてしまう。壊死組織の切除清拭は、創傷床を整えて創傷治癒を成功させるための重要な準備であると考えられる。油断ない外科手術による創面清拭で壊死組織を迅速に除去し、バクテリアによる負荷を緩和するが、存命できる組織に損傷を与える危険が極めて高いうえに、高度な技術的熟練を要する。化学切除、機械切除、自己分解による清拭はより安全な選択肢であると見なされることも頻繁にあるが、創傷の合併症を発症するという、患者のリスクも高くなる。
【0012】
これに加えて、メタロプロテイナーゼ(MMP)のコラゲナーゼ群は本人由来のコラーゲンを破片に分裂させることができる酵素の一分類である。このような破片が自発的にゼラチンに変性することがある。ゼラチンペプチドはMMP−2のようなゼラチナーゼによって更に分裂させられる。皮膚の乾燥重量の組成の70%〜80%はコラーゲンであるので、また、壊死組織はコラーゲン繊維によって創傷床に固着しているので、コラーゲンを分裂させる酵素は有用であり、この組織の創面清拭を助けることがある。しかし、慢性的に治癒しない創傷では、コラゲナーゼのレベルと活性度は壊死組織を除去するには不十分である。ノール株式会社(Knoll AG)のユング・カー(Jung, K)著の「臨床手術におけるクロストリジウムコラゲナーゼの使用についての考察(Considerations for the Use of Clastridial Collagenase in Clinical Practice)」クリン・ドラッグ・インベスト社1998年刊の15頁245〜252行を参照のこと。また、例えば、糖尿病由来の創傷体液がMMP−2活性度を低減してしまっている場合がある。更に、外性のコラゲナーゼ供与が提案されているが、外生コラゲナーゼの供与は選択的ではないという欠点に遭遇し、壊死組織に加えて健康な細胞固着するコラーゲンを分裂させてしまうという危険を冒すことになる。
【0013】
1980年代には、研究者らによって発見されたのは、人体の内皮組織は一酸化窒素(NO)を生成しており、一酸化窒素は内生血管拡張物質である、すなわち、血管の内径を広げる媒体であるということであった。一酸化窒素は有機体酸化の副産物として生成される環境汚染物質として極めて広く知られている。例えば100ppmに満たない低濃度でも、吸入された一酸化窒素を使って患者の多用な肺疾患を治療することができることを研究者たちは看破している。例えば、一酸化窒素は、肺気腫、慢性気管支炎、喘息、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの結果として気道抵抗が上昇した患者の治療を目的として調査されてきた。
【0014】
一酸化窒素は或る医学的応用例に関しては見込みがあると分かっているが、配給方法と配給装置は気体一酸化窒素の配給について内在する或る問題に対処しなければならない。まず、高濃度の一酸化窒素に晒されるのは有害となることがあり、特に、1000ppmを越える濃度の一酸化窒素に晒されるのは有害である。しかし、それより低いレベルの一酸化窒素でさえ、曝露時間が比較的長い場合には有害となることがある。例えば、労働安全衛生庁(OSHA: Occupational Safety and Health Administration)は作業現場における一酸化窒素についての曝露制限を8時間の時間加重平均にして25ppmに設定している。一酸化窒素を配給する装置またはシステムが一酸化窒素が周囲環境に漏出するのを防止する機能を備えている。かかる装置が病室や自宅などの閉鎖空間内で使用される場合、危険なまでに高濃度の一酸化窒素が短期間に蓄積される。一酸化窒素中毒についての1つの興味ある事柄は、吸気などによって循環器系に吸収されると、一酸化窒素がヘモグロビンと結合し、これがメトヘモグロビンを生じることである。
【0015】
一酸化窒素の配給についてのまた別な問題は、一酸化窒素は酸素が存在していると迅速に酸化されて、低レベルでも中毒性が高い二酸化窒素を形成する点である。配給装置が漏出する場合、容認し難い高レベルの二酸化窒素が発生する可能性がある。これに加えて、一酸化窒素が酸化により二酸化窒素を形成する限り、所望の治療効果を達成するのに利用できる一酸化窒素の量が少なくなる。一酸化窒素が酸化により二酸化窒素になる速度は多数の要因で決まるが、例えば、一酸化窒素の濃度、酸素の濃度、反応に要する時間などがその例である。一酸化窒素は空気中の酸素と反応して二酸化窒素に変換されるので、一酸化窒素ガスと外部環境との接触は最小限に抑えるのが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、一酸化窒素を局所供給することにより体表感染、体表創傷、体表下感染、体表下創傷を治療する装置及び方法の要望がある。かかる装置は、一酸化窒素濃度と二酸化窒素濃度を危険なまで蓄積するのを回避することができるように、最大まで漏出防止性があるのが好ましい。更に、かかる装置は、患者の感染領域に一酸化窒素を配給しながら、尚且つ、一酸化窒素と反応して二酸化窒素を生成する空気を導入しないようにすることができるものでなければならない。一酸化窒素を感染領域に供与することで、病原体レベルを低下させることにより感染領域を治癒するのに要する時間を短縮するのが好ましい。かかる装置は一酸化窒素または二酸化窒素の吸収装置または浄化装置を備えており、この装置が配給装置から空気を排出する前に一酸化窒素と二酸化窒素を除去し、或いは、化学的に変化させるのが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一酸化窒素(NO)は生体内で発生するバクテリアの成長を阻害し、または、そのようなバクテリアを殺傷することが看破されており、殺菌剤として一酸化窒素を使用する研究が行われてきた。本願の名指しされた発明者のうちの1人によって発明された、2000年6月2日公開の国際特許出願PCT/CA99/01123号は、一酸化窒素吸入によって呼吸器感染症を治療する方法及び装置を開示している。
【0018】
治癒しない慢性化した傷などの創傷を一酸化窒素ガスに局所的に曝露することが、創傷の治癒を促進し、創傷床を更に治療して回復させる準備をするのに有効である。一酸化窒素ガスを使って、例えば、微生物感染や創傷に加わる負荷を緩和し、炎症を緩和することにより滲出液の分泌を管理し、創傷を局所的に創面清拭するのに内生コラゲナーゼ発現を誘導し、コラーゲンの形成を調整することができる。
【0019】
本発明の第1の側面では、皮膚の感染領域に一酸化窒素ガスを局所配給する装置は、一酸化窒素ガス源、浸漬装置、流量制御弁、真空装置などを備えている。浸漬装置は一酸化窒素ガス源と流体連絡状態にあって、感染した皮膚の領域を包囲するようになっているとともに、皮膚表層で実質的に気密シールを形成するようになっている。流量制御弁は一酸化窒素源の下流側と浸漬装置の上流側に設置されて、浸漬装置に配給される一酸化窒素ガスの量を制御するように図っている。真空装置は浸漬装置の下流側に設置されて、浸漬装置からガスを引出すように図っている。
【0020】
本発明の第2の側面では、本発明の第1の側面による装置は、流量制御弁と真空装置の動作を制御する制御装置を備えている。
【0021】
本発明の第3の側面では、本発明の第1の側面による装置は希釈剤ガス源とガス混合装置を備えている。希釈剤ガスと一酸化窒素ガスはガス混合装置によって混合される。この装置はまた、真空装置の上流側に設置される酸化ガス吸収装置を備えている。この装置はまた、流量制御弁と真空装置の動作を制御する制御装置を備えている。
【0022】
本発明の第4の側面では、皮膚の感染領域に有効量の一酸化窒素を配給する方法は、皮膚の感染領域の周囲に浸漬装置を設ける工程を含んでおり、浸漬装置は皮膚と一緒に実質的に気密なシールを形成する。その後、一酸化窒素を含有するガスが浸漬装置に輸送し、皮膚の感染領域を一酸化窒素ガスで浸漬する。最後に、一酸化窒素ガスの少なくとも一部が浸漬装置から排出される。
【0023】
本発明の第5の側面では、感染した組織を局所的に一酸化窒素に曝露することで治療する方法は、一酸化窒素含有ガス源を設ける工程と、一酸化窒素含有ガスを感染組織含有皮膚表層に配給し、感染組織を一酸化窒素で浸漬する工程とを含んでいる。
【0024】
本発明の第6の側面では、局所的に一酸化窒素に創傷を曝露することで治療する方法は、一酸化窒素含有ガス源を設ける工程と、一酸化窒素含有ガスを創傷に配給して、創傷を一酸化窒素で浸漬する工程とを含んでいる。この治療方法は、創傷を十分に高濃度の一酸化窒素ガスに或る期間に亘り継続的に晒し、この期間が創傷部位の微生物を殺傷する、すなわち、微生物の数を2log10〜3log10低減するのに十分な長さであるようにし、尚且つ、治療を受けている被検体または被検体の宿主細胞に酷い中毒を起こさないようにする工程を含んでいるのが好ましい。例えば、高濃度の一酸化窒素ガスの範囲は約120ppm〜約400ppmであればよく、約200ppm〜250ppmの範囲であればより好ましい。一酸化窒素ガスに曝露する期間は約5時間〜96時間の範囲であればよいが、最適曝露期間と最適濃度は、医者によって処方されるような被検体の個別的症状に基づいて判断される。また別な実施形態では、この治療方法には、高濃度の一酸化窒素ガスを使った第1の期間に続く第2の期間があり、この第2の期間中は、創傷は前より低濃度の一酸化窒素ガスを使って治療される。より低濃度の一酸化窒素ガスの範囲は1ppm〜80ppmであるのが好ましいが、約5ppm〜20ppmの範囲であるのがより好ましい。第2の治療期間の曝露時間の範囲も約5時間〜96時間であり、これは、治療を受けている被検体の個別的な症状で決まる。また別な実施形態では、創傷は200ppmの一酸化窒素ガスに約7時間〜8時間に亘って晒されるが、患者が夜眠っている最中であるのが好ましく、また、一酸化窒素に曝露する治療は日中は控えるか、或いは、低濃度(例えば、約5ppm〜20ppm)で約5時間〜16時間曝露するとよい。
【0025】
本発明の第7の側面では、一酸化窒素に曝露することで創傷の滲出液分泌を管理する方法は、過剰滲出液を除去する工程と、創傷を気体透過性の外傷用医薬材で包帯する工程と、一酸化窒素含有ガス源を設ける工程と、一酸化窒素含有ガスを創傷に配給し、創傷部位を一酸化窒素で浸漬する工程とを含んでいる。
【0026】
本発明の第8の側面では、一酸化窒素で局所的に創傷を曝露することで創面清拭する方法は、一酸化窒素含有ガス源を設ける工程と、一酸化窒素含有ガスを創傷に配給して、治療を受けている被験者の創傷部位に局所的に存在する宿主細胞によってコラゲナーゼやゼラチナーゼなどの内生酵素の発現を誘導する工程とを含んでいる。この治療方法は、高濃度の一酸化窒素ガスに或る期間に亘って創傷を晒し、この濃度と期間は内生コラゲナーゼの発現を誘導するのに十分なレベルであるようにし、尚且つ、治療を受けている被検体の宿主細胞に深刻な中毒性を示さないようにする工程を含んでいるのが好ましい。例えば、高濃度の一酸化窒素ガスの範囲は120ppm〜400ppmであればよいが、約200ppm〜250ppmの範囲であるのがより好ましい。一酸化窒素に曝露する期間の範囲も約5時間〜72時間の範囲であればよいが、最適曝露時間と最適濃度は、医者が処方するような被検体の個別的症状に基づいて判断される。宿主細胞におけるコラゲナーゼの発現は、生検材料を採取してコラゲナーゼmRNAまたは蛋白質の発現を解析することにより監視するのが好ましいが、このような解析は、ノーザンブロット法、RT−PCR法、定量RT−PCR法、免疫系細胞染色法、免疫系細胞沈殿法、エライサ(ELISA)などのような当該技術で利用できる多様な技術によって実施される。これに加えて、高濃度の一酸化窒素ガスを使った治療期間の後で、創傷は第2の治療期間に亘って前より低い濃度の一酸化窒素ガスに晒されて、コラゲナーゼ発現を低下させるとともに、コラーゲン発現を増大させるようにしてもよい。
【0027】
本発明の第9の側面では、一酸化窒素に局所的に曝露することで創傷床を整える方法は、一酸化窒素ガス源を設ける工程と、一酸化窒素含有ガスを創傷に配給する工程とを含んでいる。
【0028】
本発明の第10の側面では、一酸化窒素に局所的に創傷を曝露する治癒過程で傷跡を低減する方法は、一酸化窒素ガス源を設ける工程と、創傷を高濃度の外生一酸化窒素ガスに或る治療期間に亘って晒し、尚かつ、被験者や創傷の周囲の健康な細胞に対して中毒を誘発することがないようにする工程と、先の工程よりも低い濃度の外生一酸化窒素ガスに第2の期間に亘って創傷を晒し、この第2の期間がコラーゲンmRNAの発現を増大させるのに十分な期間であるようにする工程と、第3の濃度の外生一酸化窒素ガスに第3の期間に亘って創傷を晒し、第3の濃度が前述の高濃度のレベルとそれよりも低い濃度のレベルとの間のレベルになるようにする工程とを含んでいる。高濃度の範囲は約200ppm〜400ppmであるのが好ましく、これよりも低い濃度の範囲が約5ppm〜20ppmであるのが好ましく、第3の濃度の範囲は約20ppm〜200ppmである。また、第1の治療期間は1日あたり少なくとも7時間であるのが好ましく、第2の治療期間及び第3の治療期間は各々が1日あたりの範囲が約5時間〜12時間であるのが好ましい。上記3工程段階の治療には数日間が充当されてもよく、少なくとも3日〜14日に亘るのが好ましい。
【0029】
本発明の目的は、皮膚表層または皮膚表層下の露出した創傷や、目などの露出した体表面の創傷や、体内の露出器官の創傷に一酸化窒素含有ガスを局所的に配給する配給装置を提供することである。本発明の装置のまた別な目的は、一酸化窒素含有ガスが配給装置から漏出するのを阻止することである。有効量の一酸化窒素ガスを感染領域または創傷領域に配給する方法は、バクテリアやその他の病原体を殺傷し、治癒過程を促進する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
ここで図1を参照すると、一酸化窒素配給装置2が患者4に接続されているのが例示されている。極めて一般的に、一酸化窒素配給装置2は、一酸化窒素ガス源8に流体接続されている浸漬装置6と、流量制御弁22と、真空装置10とを備えている。図1は本発明の好ましい実施形態を例示している。
【0031】
図1では、一酸化窒素ガス源8は加圧円筒容器に入った一酸化窒素ガスである。加圧円筒容器を使用するのが一酸化窒素含有ガス源8を貯蔵する好ましい方法であるが、これ以外の貯蔵配給手段で、例えば、専用供給ライン(ウオールサプライ)を利用してもよい。通例、一酸化窒素ガス源8はN2とNOの混合物である。N2は加圧円筒容器内のNOの濃度を希釈するために利用されるのが典型例であるが、不活性ガスを利用してもよい。一酸化窒素ガス源8が加圧容器内に貯蔵されている場合には、加圧円筒容器内のNOの濃度は約800ppm〜約2500ppmの範囲に入るのが好ましい。通例、商業用の窒素酸化物製造業者が医療用途に製造する窒素酸化物混合物の濃度範囲は1000ppm近辺である。極度に高濃度の一酸化窒素は望ましくないが、これは一酸化窒素ガスが偶発的に漏出した場合の危険度を増すうえに、一酸化窒素の高い分圧により一酸化窒素が自発的に分解して窒素になる傾向があるせいである。本件に開示されている装置と方法によれば、加圧円筒容器に入った低濃度の一酸化窒素(例えば、100ppm未満の一酸化窒素)も使用することができる。勿論、使用される一酸化窒素の濃度が低いほど、加圧円筒容器の取替え頻度を増やす必要が生じる。
【0032】
図1はまた、一酸化窒素濃度を希釈するために使用される一酸化窒素配給装置2の一部として機能する希釈剤ガス源14を例示している。希釈剤ガス源14はN2、O2、空気、不活性ガス、これら気体の混合物などを保管する。N2または不活性ガスなどの気体を利用して一酸化窒素濃度を希釈するのが好ましく、それは、これらの気体がO2や空気とは異なり、NOを酸化してNO2に変性することがないせいである。希釈剤ガス源14は加圧円筒容器内に貯蔵されているものとして例示されている。加圧円筒容器の使用は図1では希釈剤ガス源14を貯蔵する手段として例示されているが、これ以外の貯蔵配給手段で、例えば、専用の供給ライン(ウオールサプライ)が利用されてもよい。
【0033】
一酸化窒素ガス源8からの一酸化窒素ガスと希釈剤ガス源14からの希釈剤ガスは、一酸化窒素配給装置2に入ることを許された気体の圧力を低下させるために、圧力調節装置16を通過するのが好ましい。それぞれのガス流は管18を通して任意のガス混合装置20に送られる。ガス混合装置20は一酸化窒素ガスと希釈剤ガスを混合して、前より低い濃度の一酸化窒素を含む、一酸化窒素含有ガスを生成する。ガス混合装置20から排出される一酸化窒素含有ガスの濃度は、約400ppmより低いのが好ましいが、約200ppmであるのがより好ましい。特殊な応用例に必要となる濃度次第では、ガス混合装置20から排出される一酸化窒素含有ガスの濃度を必要に応じて調節して、約100ppm未満や約40ppm未満にしてもよい。
【0034】
ガス混合装置20から排出される一酸化窒素含有ガスは管18を通って流量制御弁22まで移動する。流量制御弁22は、例えば、比例制御弁を備えており、これが開くと徐々に流量が増大する(閉じると、徐々に流量が減少する)態様を取るようにしてもよい。また別な具体例として、流量制御弁22は質量流量制御装置を備えていてもよい。流量制御弁22は、浸漬装置6に給送される一酸化窒素含有ガスの流量を制御する。一酸化窒素含有ガスは可撓性の管24を通って流量制御弁22を出る。可撓性の管24は浸漬装置6の入口26に取付けられている。入口26は任意で逆止弁64(図3を参照のこと)を備えており、この逆止弁64は気体が管24の中に逆流するのを防止する。
【0035】
更に図1を参照すると、浸漬装置6が患者4の皮膚表面に押圧されてシール状態になっているのが例示されている。膿瘍、病変、創傷などの感染領域30が浸漬装置6の中に封入される。浸漬装置6にはシール部32が設けられて、患者4の皮膚と一緒に実質的に気密シールを形成するのが好ましいが、皮膚以外の肉体の露出表面(例えば、目など)や治療を受けるのが望ましい露出した体内器官などと気密シールを形成するようにしてもよい。「気密」という表現で実質的に伝えようとしていることは、おびただしい量の一酸化窒素含有ガスが浸漬装置6から漏出することが無い(すなわち、漏出しても浸漬装置6に配給される一酸化窒素含有ガスのせいぜい約5%程度だけ)という意味である。シール部32は膨張可能なシール部61を備えており、これは例えば図2及び図3に例示されているようなシール部であればよく、或いはこれに代わる例として、シール部32は可撓性の垂れ部材などを備えており、かかる部材で患者4の体表との付着を堅固にしてもよい。シール部32には、患者4の皮膚表面に付着する粘着部が設けられていてもよい。これ以外に想起される実施形態では、シール部32は、浸漬装置6と患者4の皮膚表面との界面を設けるだけであってもよい。
【0036】
浸漬装置6は、意図した用途次第で、多様な無限の形状及び素材から作成することができる。浸漬装置6は剛性構造体として形成され、例えば、図1に例示されているもののように、感染領域30を覆って設置されるようにしてもよい。これに代わる例として、浸漬装置6は可撓性の嚢状部材であって、感染領域30を覆ったまま膨張することができるように形成されていてもよい。図2は、患者4の足を覆って設置される長靴状の構造を例示している。図3は、また別な膨張可能な浸漬装置6が患者4の手を覆って装着されるミトンすなわち手袋の形状に形成されているのを例示している。
【0037】
本発明の好ましい実施形態では、浸漬装置6はその内部の一酸化窒素ガスの濃度を測定する一酸化窒素センサー34を備えている。一酸化窒素センサー34は、信号ライン38により制御装置36に測定濃度情報を報知するのが好ましい。任意で、二酸化窒素センサー40が浸漬装置6の内部に設けられていてもよい。二酸化窒素センサー40は、信号ライン42により制御装置36に二酸化窒素濃度を報知するのが好ましい。センサー40、42は化学ルミネセンス型センサー、電気化学セル型センサー、分光測光型センサー等であればよい。
【0038】
浸漬装置6には出口44が設けられて、浸漬装置6からガスを排除するのに使用されるようにしてもよい。出口44はガス入口26から離れた位置に設置されて、一酸化窒素ガスが浸漬装置6に急速に出入りすることがないようにするのが好ましい。入口26と出口44は浸漬装置6の領域に配置されて、一酸化窒素ガスに比較的長い滞在時間を与えるようにするのが好ましい。可撓性の管46は出口44に接続されるとともに、浸漬装置6からガスを除去するための導管の機能を有する。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、可撓性の管46は吸収装置48と流体連絡状態にある。吸収装置48は、浸漬装置6から排出されたガス流から一酸化窒素を吸収するか、または、一酸化窒素を奪取するのが好ましい。浸漬装置6から排出されたガス流から吸収装置48が二酸化窒素を吸収または奪取するのも好ましい。このようなガスは濃度レベルが高いと毒性があり、これらの成分が配給装置2から除去された後で、ガスが大気中に排出されるようにするのが好ましい。更に、これらのガスは真空装置10の内部成分と反応して、配給装置2の動作を阻害する可能性がある。
【0040】
この時点で清浄になったガスは管50により吸収装置48から真空装置10へ移動する。真空装置10は管50の内側に負圧を与え、ガスを浸漬装置6から引出す。真空装置10は、管50及び浸漬装置6に供与される真空レベルまたは吸引レベルに関して制御を行うことができるのが好ましい。この点で、流量制御弁22に関連して、浸漬装置6の内部の一酸化窒素ガスの量を調節することができる。真空装置10は信号ライン52により制御装置36と連結されるのが好ましい。制御装置36は、後で説明するように、真空装置10の出力レベルを制御するのが好ましい。この後、ガスは真空装置10を出て、大気に向けて開かれている換気装置54に送られる。
【0041】
吸収装置48は配給装置2の選択構成要素であるものと理解するべきである。一酸化窒素と二酸化窒素の局所レベルが重要になるのでなければ、一酸化窒素と二酸化窒素の負荷で重くなったガスはガス流から除去されなくてもよい。例えば、ガスは外部環境に排出させることができるが、この場合、高濃度の一酸化窒素と二酸化窒素が発生することはない。これに代わる例として、再循環システム(図示せず)を浸漬装置6と一緒に使って、一酸化窒素を再利用することもできる。
【0042】
更に図1を参照すると、配給装置2は、流量制御弁22と真空装置10を制御することができる制御装置36を備えているのが好ましい。制御装置36は、入力装置56に接続されているマイクロプロセッサを基礎利用した制御装置36であるのが好ましい。入力装置56はオペレータが使用することで、配給装置の多様なパラメータを調節することができるが、かかるパラメータの具体例として、一酸化窒素濃度、一酸化窒素の滞在時間すなわち一酸化窒素への曝露期間、浸漬装置6の内部の圧力などがある。任意の表示装置58が制御装置36に接続されて、測定されたパラメータや設定を表示することもできるが、かかるパラメータや設定の具体例として、一酸化窒素濃度の目標設定値、浸漬装置6の内部の一酸化窒素濃度、浸漬装置6の内部の二酸化窒素濃度、浸漬装置6に流入するガスの流量、浸漬装置6から流出するガスの流量、合計ガス配給時間などが挙げられる。
【0043】
上述のようなセンサー34、40が配給装置2に設けられているのであれば、制御装置36はガス濃度に関してセンサー34、40から信号を受信するのが好ましい。信号ライン60、52がそれぞれに制御弁22と真空装置10に接続されて、制御信号を送受信するように図っている。
【0044】
本発明のまた別な実施形態では、制御装置36は完全に撤去される。この点について、浸漬装置6に流入するガスの流量と浸漬装置6に流出するガスの流量は予備設定され、或いは、手動で調節される。例えば、オペレータは、流量制御弁22を介して浸漬装置6に配給されるガスの流量に実質的に等しい真空出力値に設定することができる。このような態様で、配給装置2に一酸化窒素ガスや二酸化窒素ガスを蓄積させることも、これらガスを配給装置2から漏出させてしまうことも無く、一酸化窒素ガスに感染領域30を浸漬させることができる。
【0045】
図2は、患者4の脚部に位置する感染領域30を治療するために使用される、長靴型の浸漬装置6を例示している。浸漬装置6は、脚部領域を封入する、膨張可能なシール部61を備えており、患者4の皮膚と一緒に実質的に気密なシール部を設けるようにしている。この実施形態は、浸漬装置6の入口26の付近に取付けられたノズル62を例示している。ノズル62は一酸化窒素ガスの噴射を感染領域30に向けて当てる。一酸化窒素ガスの噴射は感染領域30に一酸化窒素が透過して病原体を殺傷するのを助け、或いは、病原体の成長を阻害するのを助ける。図3は、ミトンすなわち手袋の形状の浸漬装置6のまた別な実施形態を例示している。浸漬装置6はまた膨張可能であり、患者4の皮膚の周囲に実質的に気密なシールを形成する膨張可能なシール部61が設けられている。図3は更に、任意の逆止弁64が入口26に配置されているのを例示している。図3及び図4で分かるように、入口26と出口44は互いから離れた位置に置かれており、治療領域の両側に設置されて、新たに配給されてきた一酸化窒素ガスが浸漬装置6から時期尚早に導出されてしまうことが無いようにするのが好ましい。
【0046】
感染領域30の治療を目的として、浸漬装置6は感染領域30を覆うように設置される。次いで、気密シール部が患者4の皮膚と浸漬装置6の間に形成される。浸漬装置6が膨張可能に構成されている場合、浸漬装置6をガスで膨張させなければならない。浸漬装置6は最初は希釈剤ガスのみで膨張させるのが好ましいが、これは、装置2から一酸化窒素と二酸化窒素が漏出しないようにするためである。気密シールが適切に確立されてから、装置のオペレータは一酸化窒素ガス源8から浸漬装置6に一酸化窒素を流入させ始める。上述のように、これは手動でまたは制御装置36を介在させて達成することができる。
【0047】
浸漬装置6に一酸化窒素ガスを充填し始めたら、真空装置10を始動させて適切な出力レベルに調節する。膨張可能な浸漬装置6については、真空装置10の出力レベル(すなわち、流量)は浸漬装置6に流入する一酸化窒素ガスの流量よりも少ないか、同量にして、浸漬装置6が収縮しないようにするべきである。浸漬装置6が剛性である装置の実施形態では、真空装置10は浸漬装置6の内部の一部を真空にするように設定することができる。この点について、部分真空は、患者4の皮膚と浸漬装置6の間に気密シール部を形成するのに役立つ。勿論、真空装置10は、浸漬装置6にガスが流入するのと実質的に等しい割合でガスを導出するように設定されてもよい。有効量の一酸化窒素が浸漬装置6に搬入されて、感染領域30の病原体を殺傷し、かつ/または、感染領域における病原体の成長率を低減する。病原体には、バクテリア、ウイルス、菌類などが含まれる。
【0048】
図4は本発明の別な実施形態を例示しており、ここでは、浸漬装置6には攪拌装置66が設けられており、浸漬装置6の内部に気体擾乱を起こすために使用される。攪拌装置66はファン型機構であるのが好ましいが、浸漬装置6の内部に気体擾乱を起こす手段としてまた別なものを設けることもできる。攪拌装置66は一酸化窒素ガスを新たに補給することで繰り返し感染領域30を浸すのを助ける。
【0049】
〔一酸化窒素適用例の実施形態〕
糖尿病による病変を患う患者などの治癒しない慢性的創傷では、多様な要因が潜在的に創傷の治癒に影響するが、例えば、感染、過剰な滲出液、壊死組織、お粗末な組織の処置、損傷組織の灌流培養などが挙げられる。一酸化窒素ガスを使って創傷の感染症や微生物負荷を緩和することができる。後で説明する具体例は皮膚に一酸化窒素を投与する例であるが、一酸化窒素は肉体のまた別な表層に局所的に投与することもでき、その具体例として、例えば、目や、或いは、それ以外に、切傷、裂傷、創傷などせいで露出した体表であって、筋肉、靭帯、腱、各種体内器官などがある。
【0050】
一酸化窒素ガスが潜在的病原体に及ぼす効果を研究するために、特に誂えたガス曝露培養器を設計し、温度、湿度、及び、ガス濃度を検証を行いながら、微生物培養装置の環境に匹敵する環境を提供すると同時に、厳密なガス濃度を管理しながら検体に曝露させることができるようにした。図5は、特殊な一酸化窒素ガス(gNO)培養器チャンバーが最適成長条件下で哺乳類の細胞培養物はもとより微生物細胞を一酸化窒素ガスに曝露した効果の生体内研究を遂行する目的で設計されたものを例示している。一酸化窒素チャンバーは次のような因子を生体内研究で管理して調節することができた。すなわち、一酸化窒素ガス投与量、総空気流量、二酸化窒素濃度レベル、酸素濃度レベル、二酸化炭素濃度レベル、温度、及び、湿度である。
【0051】
最初の予備研究については2種類の菌株のバクテリア病原体が選択されたが、その選択基準は、呼吸器感染症と局所投与のために提案された2件の臨床的な一酸化窒素ガス適用例であった。緑膿菌は主として肺疾患に関与しているが、酷い火傷などにおける皮膚感染症にも関与していることがある。黄色ブドウ球菌は体表創傷感染症に関与している。このようなマクロ生物が両方とも、予備研究のために選択された。
【0052】
バクテリアに一酸化窒素ガスが及ぼす直接効果を評価するプロセスにおける第1段階は、微生物に適切な致死濃度レベルがあるとすれば、その1回分投与量がどのくらいかを判定する簡単な研究のデザインをすることであった。最適投与量が推定されてしまってからは、時宜を得た研究が遂行された。このような初期研究について、緑膿菌懸濁液と黄色ブドウ球菌懸濁液の高密度の接種原(108cfu/ml)がそれぞれ寒天プレートの上に設置された。このようなプレートは曝露装置内で多様な濃度の一酸化窒素ガスに曝露されて、コロニー成長に及ぼす効果の評価が試みられた。
【0053】
図6及び図7は、120ppmよりも高い一酸化窒素ガス濃度レベルがバクテリアのコロニー形成を低下させた割合が90%を超えていたことを示している。これ以外の研究でも、このような効果を達成するのに要する時間が8時間〜12時間の間であったことが示された。このような結果で確証されたのは、一酸化窒素ガスが緑膿菌成長と黄色ブドウ球菌成長に抑止効果を有していたということである。これに加えて、上記のようなデータは、時間と投与量の関係に特定の傾向が存在し、一酸化窒素ガスの曝露時間と濃度の増加に伴って殺菌の活量が増大するという予備的証拠を提示している。すなわち、一酸化窒素ガスの濃度が上昇するにつれて、プレート上で成長するコロニーの数は減少する。
【0054】
一酸化窒素ガスが120ppmまで上昇するのに伴って、殺菌傾向は、5%〜10%の存命率に向かう下降線を辿るが、初期データはどれも100%の殺菌効果を示していない。バクテリアのうちの或るものは生き延びるが、その原因として、寒天内の素材と化学物質が一酸化窒素ガスと反応して、殺傷効果の妨げとなった可能性がある。重要なことに、バクテリアコロニーは、従来の培養器に移されてから24時間経過した後でも、寸法と数は同じままであったが、対照実験のコロニーの数と寸法は、数えることができないほどまで増大したことが観察された。これにより強く暗示されるのは、一酸化窒素ガスに曝露することでバクテリアの成長が阻害され、一酸化窒素に曝露している期間中に或る地点ではバクテリアを殺傷してしまった可能性があるという点である。従って、これに続く研究は、一酸化窒素ガスの殺菌効果を更に研究するようにデザインされた。
【0055】
投与量と時間が変動する研究の後で、一連の実験を実施して、投与量が変動する研究で使われた投与量を少しだけ上回る濃度の100万分の200の割合のレベルの一酸化窒素を利用して、臨床的感染症に関与している薬剤耐性のあるグラム陽性菌株とグラム陰性菌株のバクテリアの代表的な集団に殺菌効果を効果的に誘発するのに要する時間を判定した。殺菌効果があったという成功例の定義は、バクテリアが3log10cfu/mlを越える割合で減少した、とした。更に、酵母菌、多剤耐性バクテリア菌株、及び、放線菌が似たような反応を示すかどうか見るために、カンジダ・アルビカンズ、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、嚢胞性繊維症患者に由来する緑膿菌の特に耐性の強い菌株、B群連鎖球菌、及び、マイコバクテリウム・スメグマティスも含まれていた。薬剤耐性バクテリアとは、呼吸器感染症と創傷感染症の両方の原因となる多用な病原体を意味する。
【0056】
このような実験のために、懸濁液培地として生理食塩水が選択されたが、これは、生理食塩水なら殺菌性物質としての一酸化窒素ガスの直接効果を遮断することが決してないからであるが、十分に栄養補給された成長培地なら外部変種を導入してもよい(例えば、一酸化窒素ガスに緩衝する変種、または、一酸化窒素ガスと反応する変種等)。これ以外の培地は代謝産物を供与し、酸化損傷やニトロ還元損傷からバクテリア保護する酵素を生成する栄養分を補充することで、一酸化窒素ガスの効果を遮断する。更に、生理食塩水環境は、通例なら生体内でバクテリアが晒されているはずの敵対宿主環境をより現実的に再現していることも既に暗示した。生理食塩水中では、コロニーは変化はないが、生存には適している。これは、ウエバート(Webert)とジーン(Jean)が使用した動物モデルのアプローチに類似している。ウエバート・イー・ケーほか著(2000年刊)の「緑膿菌性肺炎のラットモデルにおける一酸化窒素の吸入効果(Effects of Inhaled Nitric Oxide in a Rat Model of Pseudomonas Aeruginosa Pneumonia)」(クリティカル・ケア・メディシン28巻7号:2397行−2405行)、ジーン・ディーほか著(2002年刊)の「肺のバクテリア浄化に一酸化窒素吸入が及ぼす有益な効果(Beneficial Effects of Nitric Oxide Inhalationon Pulmonary Bacterial Clearance)」(クリティカル・ケア・メディシン30巻2号:442行−447行)を参照のこと。
【0057】
図8は、対照実験の被爆微生物の生存曲線を表す四角形の点によってプロットされる線と、一酸化窒素被爆微生物の生存曲線を表す三角形の点によってプロットされる線で、上記のような実験の結果を例示している。このような研究が明らかにしたのは、200ppmの一酸化窒素ガスは試験対象となった微生物全部に完全な殺菌効果を及ぼしたということである。例外なく、200ppmの一酸化窒素ガスの耐性検査に付されたバクテリアは全部、1ミリリットルあたりのコロニー形成単位(cfu/ml)が少なくとも3log10の割合で低下し、試験は全てバクエリア全部が全く完全に細胞死するという結果に終わった。このような結果はまた、バクテリアが一酸化窒素ガス曝露によって影響されないことが明らかな場合の潜伏期間を特徴とする(表1を参照のこと)。潜伏期間の後には細胞全部の突然死が続いた。グラム陰性バクテリアとグラム陽性バクテリア、糖尿病耐性バクテリア菌株、酵母菌、及び、ミイコバクテリアは全て、200ppmの一酸化窒素ガスの影響を受けやすい。重要なことに、二剤耐性バクテリア菌株もまた影響を受けやすいことが観察された。従って、このような結果から明らかなのは、一酸化窒素ガスが多様な潜在的病原性の微生物に非特異的な致死効果を明快に示すということである。
【0058】
この研究はまた、上記以外の生物すべてと比較した場合、マイコバクテリアについては遅延期間にかなりの差があったことを示している。遅延期間が暗示しているのは、マイコバクテリアの持っているメカニズムは一酸化窒素ガスの細胞傷害性から細胞を保護する期間が他のバクテリアに比べて長いという点である。本件出願人は、細胞内には投与量や時間で決まる一酸化窒素ガスの閾値があって、この閾レベルに達すると迅速な細胞死が起こると考えた。バクテリアの正常な一酸化窒素解毒経路が転覆されると、このような閾値が生じることがある。このような研究で、超生理学的レベルの一酸化窒素(例えば、120ppm〜400ppmの外生一酸化窒素を配給することにより、外生的に供給される)は薬剤耐性バクテリアの代表的菌株に殺菌性を示し、その効果はこのようなバクテリアに突然、致死的かつ非特異的に発現することが示され、確認された。
【0059】
【表1】
【0060】
広範囲の微生物に致死効果を達成するために、200ppmの一酸化窒素ガスが創傷部位に少なくとも7時間に亘って、例えば、患者が夜間眠っている間に途切れることなく曝露されるのが好ましい。これより短い期間に、例えば400ppmといったようなより高濃度が適用されてもよい。数日間に亘る、より長期の治療という選択肢も与えられている。被検体次第で、或る治療から次の治療までの間の中断期間が配慮されてもよい。
【0061】
動物モデルについての生体内研究は、一酸化窒素ガスの有益な効果を更に明らかにしている。動物モデルでは、かなり深い皮膚創傷(セットA:8個の8.0mmパンチ生検を施した4匹のウサギ、セットB:2つの50×15mm創傷を施した4匹のウサギ)が背面中線の両側に作られ、被爆後経過0日に、どれも等量の黄色ブドウ球菌懸濁液で感染させられた。経過1日には、セットAとセットBの治療を受けたグループがそれぞれに200ppmと400ppmの一酸化窒素ガスに合計3日間に亘って被爆された。セットAは、特殊な制限被爆チャンバー内で4時間の期間を2回分、途中1時間の休憩で中断して曝露された。セットBの動物については、特異な創傷パッチのデザインにより24時間途切れなく続くガス配給モデルが利用された。対照検査グループは医療等級の空気に同じ流量で曝露されただけであった。4個のランダムなサンプルパンチ生検(8.0mm)が創傷後3日目に回収され、バクテリア含有量について解析された。創傷皮膚組織と正常な皮膚組織の両方に由来するまた別な4個のパンチ生検が回収されて、線維芽細胞の生存能力解析と一酸化窒素ガスの毒性効果を得た。
【0062】
図9は、200ppmの一酸化窒素ガスに途切れなく曝露された創傷のバクテリア含有量についての動物研究から得られたデータを、医療空気に曝露されただけの対照試験グループと比較して表している。治療後の創傷にはかなりのバクテリア低下が観察された。ウサギは治療中は快適かつ安楽にしているように見え、対照検査グループと比較しても、治療後の動物の皮膚に中毒効果も損傷も観察されなかった。二酸化窒素は研究中のどの時点でも、労働安全衛生庁によって設定された安全限界値(<4.3±0.3ppm)を超過していなかった。図10は図9に見られるのと同じような組のデータを例示しているが、ここでは、動物の創傷は400ppmの一酸化窒素ガスに被爆されて治療された。対照検査グループと治療グループの間で比較して、平均して、バクテリア含有量の10倍を超える低下(P<0.05)が観察された。
【0063】
図11は、200ppmの一酸化窒素ガスに間欠的に6日間に亘って曝露した後で、一酸化窒素代謝の最終生成物のうちの1つである窒素酸化物(NO2とNO3)が動物から回収された血清中で測定されたのを示している。一酸化窒素ガスに曝露したせいで窒素酸化物NOxの濃度レベルが上昇したことはどのサンプルからも明らかではなく、かなりの深さの創傷(直径8.0mm部位で8)を曝露しても動物の循環器系の一酸化窒素レベルを上昇させることがないという事実を示した。
【0064】
図12は、200ppmの一酸化窒素ガスに6日間に亘って間欠的に曝露した後の、動物に血中のメトヘモグロビン(MetHb)のレベルを示している。空気に曝露された対照実験グループと比較して、治療を受けたグループの動物にメトヘモグロビンレベルの上昇は見られなかった。これは、開いた創傷に一酸化窒素ガスを局所的に供与しても循環器系における一酸化窒素レベルの上昇に寄与しないという事実や、開いた創傷に約200ppmの一酸化窒素を局所的に供与しても、メトヘモグロビンの形成にそれほどの毒性を懸念する事態を引き起こすことはないという事実に対して、図11に提示されたデータが合致するという裏付けを与えている。
【0065】
図13は、治療を受けたグループと対照実験グループにおける動物に由来する創傷パンチ生検上に準備された組織塊の組織解析を提示している。対照実験グループに由来するサンプルは更に進んだ好中球浸潤と、そのため、より程度が進んだ炎症反応とを示した。一酸化窒素ガスで治療された創傷には、好中球濃度のレベル低下が見られた。一酸化窒素ガスで治療された創傷には創傷上を塞ぐ痂皮層ができたが、対照実験の創傷はもっと長期に亘って開いたままであった。全体的に、一酸化窒素ガスで治療された創傷では、より健康的な治癒プロセスが観察された。一酸化窒素ガスで治療されたグループには、中毒効果(アポプトーシスのせいである細胞残骸)は見られなかった。
【0066】
炎症反応は創傷治癒の一部であるが、常軌を逸した炎症反応が慢性創傷と過剰な滲出液の寄禍要因である。一酸化窒素は血小板の凝集を抑制し、血管の弾力性を維持するのを助け、マスト細胞の顆粒消失を抑制する。デレダン・エム(Delledonne, M)ほか著(2003年刊)の「一酸化窒素が介在する信号発信の諸機能と過敏反応中の遺伝子発現の変化(The Functions of Nitric Oxide-Mediated Signaling and Changes in Gene Expression during the Hypersensitive Response)」(抗酸化剤の酸化還元信号5:33-41)と、ヒッキー・エム・ジェイ(Hickey, M.J)著(2001年刊)の「白血球漸増の調節における誘導性一酸化窒素合成酵素の役割(Role of Inducible Nitric Oxide Synthase in the Regulation of Leukocyte Recruitment)」(クリン・セイ(ロンドン)、100:1-12)を参照のこと。
【0067】
内皮細胞によって構成性酵素により生成された一酸化窒素は継続中の抗炎症効果があることを示している。この原因の一部は血小板凝血に及ぼされる効果のせいである。iNOSは炎症反応中に誘導される。研究から明らかになったことであるが、iNOSが誘導された一酸化窒素も抗炎症特性を示すことがある。集合的に、血管の弾力性を維持し、血管形成を促進し、炎症を緩和し、更に、マスト細胞の顆粒消失を抑制することにより、一酸化窒素は滲出液管理のための重要な分子と見なすこともできる。従って、外生的に投与された一酸化窒素は複製され、内生一酸化窒素の作用を補うことで、局所炎症反応を緩和するばかりか、炎症細胞をもっと送るようにという、全身炎症反応システムが既に受け取っているメッセージを抑制する。最終的には、これが健康なレベルの滲出液生成をもたらす。
【0068】
図14は、高濃度の一酸化窒素ガス(200ppmレベル)に曝露する期間が延びるにつれて、コラゲナーゼmRNAの発現が増大されることを例示している。これが暗示しているのは、高濃度の一酸化窒素はコラーゲンの酵素分裂を引き起こすコラゲナーゼを誘導するということである。ウイッテ(Witte)ほかによる単独研究(2002年)で分かったのは、MMP−2活量も一酸化窒素ドナーによって誘導されるということである。ウイッテ・エム・ビーほか著(2002年刊)の「糖尿病において一酸化窒素は治験創傷治癒作用を高める(Nitric Oxide Enhances Investigational Wound Healing in Diabetes)」(Br J Surg、89:1594-1601)を参照のこと。従って、一酸化窒素はコラゲナーゼ(MMP−1)とゼラチナーゼ(MMP−2)の両方の発現を誘導することができ、このことは、組織を壊死組織から分離して清浄に保つのと同時に炎症段階が長引かないようにするのに重要となるかもしれないと本件出願人は考えた。
【0069】
壊死組織の酵素による創面清拭を目的として外生コラゲナーゼを供与するよりはむしろ、創傷を壊死組織と一緒に外生一酸化窒素に曝露して内生コラゲナーゼを誘導するほうが、より有益である場合がある。内生コラゲナーゼが細胞によって放出される時に、細胞は自動的にTIMP(メタロプロテイナーゼの組織抑制体)を放出する。これにより確実に、礎質分解が調整されて、膠原溶解活動の鮮明な幾何学的境界部を定めることができるようになるとともに、酵素の活動から結合組織の領域を保護することができるようになる。これと比べて、外生コラゲナーゼ物質を使用して創傷を創面清拭することで、創傷の特殊領域を保護することはできず、というのも、外生コラゲナーゼは、その効果が望ましいものであるか否かに関わらず、コラゲナーゼが接触する細胞の全てにおいて活性を示すからである。一酸化窒素が創傷の創面清拭を行う能力は、図14(図中の左側)で分かるように、創傷に付与された高濃度の外生一酸化窒素のおかげでコラーゲン発現を抑止することで更に確固たるものにすることができる。
【0070】
高濃度の一酸化窒素ガスに第1の治療期間(例えば、1日あたり5時間〜8時間)に亘って創傷を曝露した後で、壊死組織は容易に機械的に除去され、一酸化窒素ガスの濃度は第2の治療期間の間に減少されるのが好ましい。第2の治療期間に亘って配給された低濃度の一酸化窒素ガス(例えば、5ppm〜20ppmのレベル)は、新たなコラーゲンの合成を引き起こすコラーゲンmRNAの発現を誘導し、創傷が閉じるのを助けることができる。例えば、図22は、5ppmの一酸化窒素に曝露された線維芽細胞においてコラーゲンmRNAの発現が増大したのを例示している。第2の治療期間は1日あたり7時間〜16時間の期間である。更に、高濃度の一酸化窒素ガスと低濃度の一酸化窒素ガスを使った治療は数日間に亘って反復されてもよい。
【0071】
皮膚の治癒しない慢性潰瘍については、創傷の創面を整えてから、天然皮膚組織または合成人造皮膚組織を潰瘍に被せて移植することもできる。創傷床を整える処理は、微生物負荷の低減、創面清拭、及び、滲出液の管理などを含んでいる。
【0072】
傷に対する肉体の自然な反応は、一酸化窒素の量を増大させて傷病部位のバクテリア数を減らし、死んだ細胞を除去するのを助け、更に、治癒を促進することであると思われる。傷病部位が発信しているメッセージは一酸化窒素を生成している傷病部位の細胞が発するメッセージ以上のものであり、これは血流にのって体内のあちこちに一酸化窒素を循環させる。このような治癒準備の数日後に、肉体は自らが生成した一酸化窒素を、治癒を促進する新たなレベルまで低減する。創傷が治癒しない場合、または、感染症に罹った場合、肉体は循環一酸化窒素を高レベルに保ち、創傷は自らの治癒を妨げる恐れのある或る濃度の一酸化窒素に洗われる。こうして創傷の治癒過程における「コロンブスの卵のパラドックス」に陥る。高濃度の一酸化窒素ガス(例えば、120ppm〜400ppm)に傷病部位を浸漬することで、傷病部位には十分な一酸化窒素があるので、肉体は他の細胞による一酸化窒素の余剰生産を制止してもよいというメッセージを肉体に送る。これにより、局所部位は、治癒することができると同時に、適切な超生理学的濃度の一酸化窒素を得て、微生物の成長を抑止することができるようになる。
【0073】
〔その他の安全研究〕
動物モデルにおける開いた創傷に対して200ppmの一酸化窒素ガス生体内曝露しても毒性を示さない上記研究に加えて、一酸化窒素ガスに曝露された正常な宿主細胞の生存能力を確認する研究が線維芽細胞、内皮細胞、ケラチン生成細胞、肺胞上皮細胞、マクロファージ、単核細胞に関して実施されており、或る研究については平面プレート成長モデルと3次元成長モデルの両方で行われている。このような実験は適切なモデルにおける生存可能性、増殖、移動、吸着、発現、筋管細胞形成を観察するものである。
【0074】
選択的再生外科手術を受けている成人患者から得た線維芽細胞はダルベコ改変イーグル培地(DMEM: Dulbeco's Modified Eagle's Medium)で培養され、10%の牛胎児の血清(FBS)と抗生物質及び抗真菌物質の調合品が補給されてから、10個の25平方センチメートルの通気性のある培養フラスコ(COSTAR)に分割された。これらフラスコのうちの4個(治療を受けるグループ)は特殊な一酸化窒素培養器チャンバー内で摂氏37度で24時間と48時間とに亘って20ppm または200ppmの加湿一酸化窒素ガスに曝露された。この一酸化窒素曝露チャンバーは研究前に検証されて、外生変種を排除し、線維芽細胞成長の最適条件を確保した。また別な4個のフラスコ(対照実験グループ)が従来の培養装置内に設置され、雰囲気中の摂氏37度の加湿空気だけに曝露された。2個のフラスコは個別に摘出されて、ゼロ時間における細胞の数が計数される。治療の後で、線維芽細胞は摘出されて、組織、細胞数、増殖能力、及び、環境pHについての評価が行われた。このような実験による結果は、約200ppmの一酸化窒素に曝露しても線維芽細胞に有害な影響は及ばなかったことを示している。
【0075】
図15は生存可能性研究に基づく線維芽細胞の組織を例示しているが、ここでは、培養された人間の線維芽細胞が200ppm未満の多様な一酸化窒素ガス濃度に48時間に亘って曝露された。48時間の期間経過後の対照実験の皮膚線維芽細胞と治療を受けた皮膚線維芽細胞の組織発現と吸着能力は極めて似ていた。一酸化窒素ガスに晒された細胞は健康で、培養プレートに吸着した。一酸化窒素ガスに曝露したせいである毒性効果は観察されなかった。
【0076】
図16は、線維芽細胞に対する毒性が無いことに加えて、200ppmの一酸化窒素に曝露することで、創傷の治癒過程を更に助けることができる線維芽細胞の増殖を増大させるポジティブな効果があることを例示している。
【0077】
図17は、160ppmの一酸化窒素に曝露された線維芽細胞に由来する細胞吸着能力から得られた結果を例示している。指定時間期限のうちに培養プレートに細胞を再吸着する能力は、培養中の細胞の生存能力の指針として広く利用される。対照実験グループと治療を受けたグループの両方が1時間の培養時間内に70%の吸着能力を示した。細胞組織と細胞数に関連するこのような結果は、少なくとも100ppm〜200ppmの間の範囲の一酸化窒素ガスを哺乳類の皮膚組織に局所投与することについて、一酸化窒素ガス治療の安全性を裏付けるものである。
【0078】
図18は、3次元礎質で成長させられてから200ppmの一酸化窒素ガスに1日あたり8時間の曝露が3日間に亘って施された線維芽細胞の移動量を、空気中または従来の培養器内の対照実験の細胞と比較して例示している。この結果から分かるように、一酸化窒素がこのような条件下で線維芽細胞の移動に影響を及ぼすことはない(すなわち、もっと詳細に述べると、阻害しない)。
【0079】
図19は、3次元礎質で成長させられてから200ppmの一酸化窒素に1日あたり8時間の曝露が3日間に亘って施された線維芽細胞の増殖量を、空気中または従来の培養器内の対照実験の細胞と比較して例示している。ここでもまた、一酸化窒素はこのような条件下で線維芽細胞の増殖を阻害しない。
【0080】
図20は、マトリゲル(登録商標:Matrigel)で成長させられてから空気(図中の上段)または200ppmの一酸化窒素(図中の下段)に8時間(図中の左側)または24時間(図中の右側)に亘って曝露された人間の内皮細胞における筋管形成を例示している。ここでもまた、空気に曝露したものと200ppmの一酸化窒素に曝露したものとの間にそれほどの差異は見られなかった。
【0081】
〔人間検体の事例研究〕
この事例研究は、深刻な疾患と軽度の疾患の両方を併せ持ち、深刻な血栓静脈炎に関係する酷い静脈疾患に罹って、30年の病歴を持つ55歳男性に関するものである。最初、患者は、20代の時に、治癒しない両側性脚部静脈潰瘍を発症したが、これを外科手術で治療した。外科手術部位は治癒したが、潰瘍は引き続き再発した。まず、患者は左足首の内側踝の真下に小さな潰瘍があるのを見せた。寸法は拡大していなかったが、この潰瘍は2年間の標準治療では完全に治癒していなかった。
【0082】
大抵の場合、創傷床はバイオフィルム、粘性のある黄色のゲル状物質で覆われていた。段階状圧迫包帯式長靴下を使うことにより、水腫管理を維持していた。マヌカウの花蜂蜜、ヨード澱粉調合剤(ロドソーブ(商標:lodosorb)、米国フロリダ州ラルゴ、スミス・アンド・ネフュー(Smith & Nephew))、及び、コロイド銀(米国ニュージャージー州プリンストン、コンバテクのアクアセル株式会社(Aquacel AG))を浸潤させた抗菌性包帯を試した。男性患者の創傷を頻繁に創面清拭し、バイオフィルムを物理的に除去した。これは概ね効果が無かったが、それは、次の来院時にはバイオフィルムが再度できているのが分かることが多かったからである。20%の過酸化ベンゾイルローションを数日おきに塗布し、肉芽組織の発現を誘発したが、これも同様に効果が無かった。時には改善が見られたが、それは、潰瘍が新しい皮膚で覆われた状態になったからであるが、数週間後には皮膚は破れて終わった。適切な水分バランス、創傷床の調整、及び、下層部疾患の治療に取組んだ創傷ケアにもかかわらず、傷口を完全に塞ぐことができないこのような哀れな経過が認められた。
【0083】
男性患者の創傷を上述のように塞ぎ損なったことで、患者の生活の質は相当な打撃を受けた。男性患者は丸2年の間、1月に少なくとも1度は病院の医師を訪ねさせられた。治療費用は、医師の時間手当てと治療材料費を含め(数千ドル)、健康保険システムを圧迫したのみならず、治療のために数時間かけて通院しなければならない患者にも負担となった。それまでの治療が効果なしであることが証明されたので、患者はこの実験的研究に参加するように招かれた。実験治療と潜在的危険を説明した後で、インフォームドコンセントが得られた。
【0084】
患者には病院で面会し、そこで創傷を評価し、写真を撮影した(図22)。治療の養生法を説明し、CidaNOx配給システムと長靴の使用のデモンストレーションを行った。後日、患者の自宅で面会する手配を行い、機器を組み立て、男性患者に治療システムの使用訓練を繰り返させた。訓練にはシステムを使ってみることの他に、ガス機器を使用する際の安全情報が含まれていた。
【0085】
研究用に特にデザインされた(カナダ、アルベルタ、エドモントンのパルモノクス・メディカル・インコーポレーティッド)ガス希釈配給システム(CidaNOx配給システム)を使用しながら、下肢に一酸化窒素ガス(ViaNOx−H、米国カリフォルニア州ヨルバリンダのヴァイアシスヘルスケア社(VIASYS Healthcare))が供与された。このCidaNOx配給システムは一酸化窒素ガスを希釈するための内部空気ポンプと流量制御回路とを備えており、一酸化窒素源の円筒容器中の1,000,000 ppmあたり800を希釈して200ppmの治療レベルまで低下させる。システムからの総流量は1分あたり1.0リットル(1.0L/min)で、1分あたり4分の1リットル(250mL/min)の一酸化窒素ガスを含んでいた。複数の内圧センサーが、希釈流が流動中であることが確認し、システムを監視する。一酸化窒素の流量は、機械設定式の圧力調整装置と、患者が変更を行える外部制御部を備えていない機械流量計によって、250mL/minに制限された。配給される一酸化窒素の濃度はCidaNOx出力を測定することにより確認されたが、これと一緒に、人間患者の吸入した一酸化窒素を監視するよう改良された較正一酸化窒素アナライザ(AeroNox(登録商標)、パルモノクス・メディカル・インコーポレーティッド(Pulmonox Medical Inc.))が利用された。
【0086】
下肢を覆う可塑材の長靴を使用する1人の患者に向けCidaNOx配給システムから200ppmの一酸化窒素ガスが流出させられた。長靴には頂端付近に膨張可能な折返しカフスが設けられており、このカフスが低圧シールを設けていた。CidaNOxから流出する二次空気はカフスの膨張を制御した。カフスが膨張するまで患者がポンプ出口をカフスコネクタに接続し、それから、コネクタはクランプでシール状態に閉じられた。一酸化窒素ガス流は長靴のつま先部付近の入口コネクタに接続され、帰還用ラインが長靴のつま先付近のコネクタに接続された。帰還用ラインはCidaNOx装置の中を通ってから、一酸化窒素を吸収する炭と過マンガン酸ナトリウムを含んでいる殺菌剤を通って外に出された。CidaNOx配給システムには2個のトグル位置があったが、一方は一酸化窒素ガス配給用であり、他方は空気配給専用であった。治療期間の最後には、患者は配給流を空気専用に切換えて、長靴を脱ぐ前に残留する一酸化窒素ガスを長靴から排出させた。
【0087】
患者にサポート長靴下を継続して着用するように指示を与えるとともに、一酸化窒素ガス投与を受けていない時には、創傷にハイドロファイバーの包帯(アクアセル(登録商標:Aquacel)、コンヴァテック社(Convatec))を巻くように指示した。一酸化窒素治療中は、男性患者はサポート長靴下を脱いでとアクアセル包帯を多孔性低粘性包帯(イー・ティー・イー(商品名:ETE)、スエーデンのモンリッキ・ヘルスケア社(Molnlycke Health Care))と取り替えたが、この包帯は先に例示されているのであるが、その中を通して一酸化窒素ガスを拡散させることができる(データは図示せず)。
【0088】
創傷床を整えて長期使用で創傷の治癒が早まる潜在的可能性を調査するために、3日間を越える治療養生法を選んだが、この養生法を14日で中断して、短期の効果を評価し、短期の効果が長期の成果を向上させる可能性を探った。患者を励まして、24時間ずっと可能な限り頻繁に一酸化窒素ガス長靴を装着するように促した。昼間、患者が働いている間は長靴を装着して、夜間に床に就いている間だけ一酸化窒素ガス治療を受けるのが最も実際的であると判断した。患者はデータシートに日付と、時間と、各回ごとの治療期間と、創傷、治療、または、機器に関する重要な観察を書き留めた。創傷の寸法(平方センチメートル)は、デジタル写真や濃度計技術(サイアン・イメージ−4.02(Scion Image -4.02)、米国メリーランド州フレデリックのサイアン・コーポレーション)を利用して測定された。
【0089】
患者は連続14夜に亘って治療を自己投与した。夜間治療期間は1回の治療あたり6.5時間〜9.75時間の間で変動した。14回の治療期間中に200ppmの一酸化窒素ガスに創傷を曝露した累積時間は105.25時間であった。創傷の評価と写真撮影は、治療開始から0日経過後(図22Aの予備治療)、3日経過後(図22B、累積24時間の一酸化窒素曝露の後)、及び、14日経過後(図22C)に行われた。創傷の評価と写真撮影は、14回の治療を完了してから10日経過後(図22D)と、治療を完了してから6週目と26週目(図22Eと図22F)にも行われた。
【0090】
活発な治療期間中は、被験者はCidaNOxシステムの使用に関して評価を行った。被験者は固定位置ではシステムの使用が容易であると思い、バッグの適用も快適であると思い、使用に伴う痛みは全く報告していない。男性患者は出血したという話も残していない。図23Aは、一酸化窒素ガスを使用する前の潰瘍の初期的な図を例示している。創傷床はバイオフィルムによって覆われており、健康な肉芽組織はほとんど存在しておらず、創傷の縁から新しい皮膚が成長した証拠は無かった。創傷は悪臭を放っていた。
【0091】
24時間に亘って一酸化窒素に曝露した(1日あたり8時間の治療を3日に亘って行った)後で、初めて、潰瘍床に健康な肉芽組織が認められた。創傷の縁から新しい皮膚が成長する早期証拠は観察されなかった。悪臭もなかった。これと一致して、バイオフィルムも前ほど存在していなかった(図22B)。治療経過後14日で(図22C)、潰瘍の寸法が小さくなったのが明らかになった。その時までに、潰瘍は完全に上皮で覆われた。一酸化窒素ガス治療の3日目には既にかなりの創傷寸法低下が観察され(p=0.014)、14日が経過した一酸化窒素ガス治療の終わりまでに、創傷領域は約75%低減した(図23)。一酸化窒素ガス治療の終了から10日経過して、創傷を更に評価した(図22D)。この時は傷の悪化は見られなかったが、潰瘍の治癒は不完全であると判断された。一酸化窒素ガス治療の最終日(図23)と比較して、創傷寸法にそれほどの低下は観察されなかった。6週間後、創傷は、創傷寸法の低下も上皮の成長も無いものの、創傷は約90%治癒したと判定された(図22Eと図23)。一酸化窒素の投与を中断してから26週で、潰瘍は完全に治癒したうえに、上皮が再生したと認められた(図22F)。治療後の全期間にわたり、包帯養生法に何の変更も行わず、また、抗菌剤や抗生剤も全く使用しなかった。
【0092】
静脈鬱血性疾患が原因で起こる潰瘍が最適治療の下で治癒するのに要する平均期間の範囲は12週〜16週である。本件出願人らの患者は、2年以上に亘って治療効果が無い潰瘍を患っていたが、一酸化窒素ガスに短期間曝露する処理に対しては肯定的な反応を示した。男性患者の創傷の寸法は低減し、肉芽基部が定まり、悪臭はこの2週間のうちに根絶された。バイオフィルムを除去してから曝露時間を長くしたり濃度を変えたりしていたら、病変部を塞ぐにあたって違いが出たかどうかについては、これ以上の研究とランダムに行う統制追跡調査で解答を得ることができるだろう。
【0093】
本発明の実施形態を図示して説明したが、本発明の範囲から逸脱せずに多様な修正を行うことができる。例えば、本件で説明した方法を採用して治療することができるような傷を受ける可能性のある組織の種類には、無制限に、皮膚、筋肉、腱、靭帯、粘膜、骨、軟骨、角膜、露出した内部器官などが含まれる。組織は外科切開術、外傷(機械的、化学的、ウイルス、バクテリア、自然な発熱など)、または、これら以外の内因性の病気プロセスによって損傷を受けることがある。よって、本発明は、添付の特許請求の範囲の各請求項とその均等物を除いて、限定されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の一側面による一酸化窒素配給装置を例示した概略図である。
【図2】患者の足を浸漬装置が包囲しているのを例示した図である。
【図3】患者の手を浸漬装置が包囲しているのを例示した図である。
【図4】浸漬装置の中に攪拌装置が設置されているのを例示した図である。
【図5】一酸化窒素ガス(gNO)が哺乳類の細胞培養に及ぼす影響と最適な成長条件下にある微生物細胞に及ぼす影響を生体内で研究を遂行するように特殊な一酸化窒素ガス(gNO)培養室が設計されているのを例示した図である。
【図6】一酸化窒素ガス(gNO)に晒した黄色ブドウ球菌適用量曲線と、固形培養地上のバクテリア成長との関係を例示したグラフであり、50、80、120及び160ppmの一酸化窒素における黄色ブドウ球菌コロニー形成単位(cfu)成長の相対百分率を、医療用空気(100%)中における黄色ブドウ球菌コロニー形成単位(cfu)の成長と比較して例示したグラフである。
【図7】一酸化窒素ガスに晒した緑膿菌適用量曲線と、固形培養地上のバクテリア成長との関係を例示したグラフであり、50、80、120及び160ppmの一酸化窒素における緑膿菌コロニー形成単位(cfu)成長の相対百分率を、医療用空気(100%)中における緑膿菌のコロニー形成単位(cfu)成長と比較して例示したグラフである。
【図8a】200ppmの一酸化窒素ガスが黄色ブドウ球菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8b】200ppmの一酸化窒素ガスが緑膿菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8c】200ppmの一酸化窒素ガスが黄色ブドウ球菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8d】200ppmの一酸化窒素ガスがセラチア属マルセセン変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8e】200ppmの一酸化窒素ガスがクレブシエラ属肺炎桿菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8f】200ppmの一酸化窒素ガスがステノトロフォモナス属ブドウ糖非発酵桿菌マルトフィリア変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8g】200ppmの一酸化窒素ガスがエンテロバクター属腸内桿菌ガス産生変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8h】200ppmの一酸化窒素ガスがアキネトバクター属非発酵陰性桿菌バーマニー変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8i】200ppmの一酸化窒素ガスが黄色ブドウ球菌(MRSA)に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8j】200ppmの一酸化窒素ガスがカンジダ属深在性真菌アルビカンズ変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8k】200ppmの一酸化窒素ガスがマイコバクテリウム属抗酸菌スメグマティス恥垢菌変種に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8l】200ppmの一酸化窒素ガスがエスケリチアグラム陰性桿菌属大腸菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図8m】200ppmの一酸化窒素ガスがB群連鎖球菌に及ぼす殺菌効果を例示したグラフである。
【図9】ウサギのかなりの深度まで感染した創傷モデルにおいて200ppmの一酸化窒素ガスを局所的に供給した後の創傷のバクテリア含有量を例示したグラフである。
【図10】ウサギのかなりの深度まで感染した創傷モデルにおいて400ppmの一酸化窒素ガスを局所的に供給した後の創傷のバクテリア含有量を例示したグラフである。
【図11】400ppmの一酸化窒素ガスを局所的に供給した後のウサギの血清中の窒素酸化物NOx(NO2とNO3)のレベルを例示したグラフである。
【図12】かなりの深度まで感染した創傷モデルに400ppmの一酸化窒素ガスを局所的に供給した後のウサギの血中メトヘモグロビンのレベルを例示したグラフである。
【図13】200ppmの一酸化窒素ガスに24時間に亘って曝露された、かなりの深度まで感染した創傷の組織解析を例示したグラフである。
【図14】200ppmの一酸化窒素ガスに24時間と48時間の期間に亘って曝露した後のコラーゲン及びコラゲナーゼに対するmRNA発現を例示したグラフである。
【図15】一酸化窒素ガスチャンバー内で200ppm未満の一酸化窒素ガスに曝露した線維芽細胞の組織と、従来の組織培養器内の対照(コントロール)線維芽細胞グループとを対比させたものを例示した図である。
【図16】200ppmの一酸化窒素に曝露した後の線維芽細胞増殖の上昇を、対照(コントロール)と対比させたものを例示したグラフである。
【図17】160ppmの一酸化窒素ガスに曝露した後の人間の線維芽細胞の細胞吸着能力を例示したグラフである。
【図18】200ppmの一酸化窒素に1日あたり8時間の割合で3日間に亘って曝露された線維芽細胞の3次元成長の結果と、空気中または従来の培養器内の対照(コントロール)細胞群とを対比させて例示したグラフである。
【図19】200ppmの一酸化窒素に1日あたり8時間の割合で3日間に亘って曝露された線維芽細胞の3次元成長の増殖量と、空気中または従来の培養器内の対照(コントロール)細胞群とを対比させて例示したグラフである。
【図20】空気(図中、上の2枚)と200ppmの一酸化窒素(図中、下の2枚)に曝露された、マトリゲル(登録商標:Matrigel)で培養された人間の内皮細胞内における筋管細胞形成の量を例示した図であり、曝露期間が8時間である場合(図中、左側の2枚)と曝露期間が24時間である場合(図中、右側の2枚)とを例示した図である。
【図21】5ppmの一酸化窒素に曝露された線維芽細胞においてコラーゲンmRNAの発現が増大したのを例示した図である。
【図22】人間の治癒していない脚の潰瘍における一酸化窒素ガスを使った治療の多様な段階における多様な写真である。
【図23】図22の人間の治癒していない脚の潰瘍を一酸化窒素ガス治療した後に創傷寸法が低減したのを例示するグラフであり、3日間と14日間に亘って一酸化窒素ガスを創傷に供給した後、かなりの創傷面積減少が観察され(治療経過日数0日に対して*p=0.019、経過日数3日に対して**p=0.014)、治療撤退後は創傷状態は悪化せず(経過日数14日の矢印)、26週間の後に創傷は完全に治癒し(経過日数186日、経過日数3日後以降***P<0.01)、これらの数値は平均値と標準偏差値であるグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の創傷の治癒を促進する方法であって、
一酸化窒素ガスの流量制御源を設ける工程と、
高濃度の外生一酸化窒素ガスに第1の治療期間に亘って創傷を曝露して、尚且つ、被検体または創傷の周囲の健康な細胞に中毒を誘発することがないようにする工程と、
先の工程より低い濃度の外生一酸化窒素ガスに第2の治療期間に亘って創傷を曝露して、該第2の治療期間がコラーゲンmRNAの発現を増大させるのに十分な長さになるようにする工程とを含んでいる、方法。
【請求項2】
一酸化窒素ガスの濃度を監視する工程を更に含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
創傷の周囲の細胞によって生成されるコラゲナーゼのレベルを監視する工程を更に含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
創傷の周囲の細胞によって生成されるコラーゲンのレベルを監視する工程を更に含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
創傷から過剰な滲出液を除去する工程を更に含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記高濃度の一酸化窒素ガスのレベルは約200ppmよりも高い、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記高濃度の一酸化窒素ガスのレベルは約200ppm〜400ppmである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記先の工程より低い濃度の一酸化窒素ガスのレベルは約5ppmである、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の治療期間は少なくとも約7時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記高濃度の一酸化窒素ガスに前記第1の期間に亘って曝露する工程は途切れることなく行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の治療期間は約7時間であり、前記第2の治療期間は少なくとも約7時間である、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
創傷床を整える方法であって、
被検体の創傷部位を診断する工程と、
一酸化窒素含有ガスの流量制御源を設ける工程と、
一酸化窒素含有ガスの流量制御源から供給されてくる高濃度の外生一酸化窒素ガスに或る治療期間に亘って創傷部位を曝露することにより、創傷部位に存在する壊死組織を創面清拭する工程とを含んでいる、方法。
【請求項13】
前記高濃度の外生一酸化窒素ガスは創傷部位における内生コラゲナーゼの発現を増大させるのに十分なレベルであり、尚且つ、創傷部位の周囲の健康な細胞に対して中毒を誘発することがないようにした、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
低濃度の外生一酸化窒素ガスに第2の治療期間に亘って創傷を曝露し、該第2の治療期間は新たなコラーゲンの発現を誘導するのに十分な長さであるようにする工程を更に含んでいる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
創傷の上に皮膚を移植する工程を更に含んでいる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
創傷から壊死組織を創面清拭する方法であって、該方法は、創傷部位の自然位においてコラゲナーゼの内生発現を誘導する工程を含んでいる、方法。
【請求項17】
誘導する前記工程は、或る濃度の外生一酸化窒素ガスに或る期間に亘って創傷を曝露し、該期間が自然位においてコラゲナーゼの発現を増大させるのに十分な長さであるようにする工程を含んでいる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
一酸化窒素ガスは高濃度で少なくとも7時間の期間に亘って創傷に曝露される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
一酸化窒素ガスは高濃度で少なくとも48時間の期間に亘って創傷に曝露される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
一酸化窒素ガスの前記濃度は約200ppmである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
創傷部位の滲出液を管理する方法であって、
創傷部位を洗浄する工程と、
創傷部位に気体透過性の外傷用医薬材料を当てる工程と、
一酸化窒素含有ガスの流量制御源を設ける工程と、
一酸化窒素含有ガスの流量制御源から供給されてくる外生一酸化窒素ガスで創傷部位を浸漬する工程とを含んでいる、方法。
【請求項22】
前記創傷部位は、創傷部位の炎症を緩和するのに十分な濃度の外生一酸化窒素ガスで浸漬され、尚且つ、創傷部位の周囲の健康な細胞に中毒を誘発することがないようにする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
外生一酸化窒素ガスの前記濃度の範囲は約160ppm〜400ppmである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
創傷部位は外生一酸化窒素ガスで少なくとも約7時間に亘って浸漬される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記創傷部位は途切れることなく浸漬される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
創傷の治癒過程で傷跡を低減する方法であって、
一酸化窒素ガスの流量制御源を設ける工程と、
第1の高濃度の外生一酸化窒素ガスに第1の治療期間に亘って創傷を曝露し、尚且つ、被検体または創傷の周囲の健康な細胞に中毒を誘発することがないようにする工程と、
先の工程より低い第2の濃度の外生一酸化窒素ガスに第2の治療期間に亘って創傷を曝露し、該第2の治療期間がコラーゲンmRNAの発現を増大させるのに十分な長さであるようにする工程と、
第3の濃度の外生一酸化窒素ガスに第3の期間に亘って創傷を曝露し、該第3の濃度が第1の高濃度とそれよりも低い第2の濃度との間のレベルであるようにする工程とを含んでいる、方法。
【請求項27】
前記第1の高濃度の一酸化窒素ガスの範囲は約200ppm〜400ppmであり、それよりも低い第2の濃度の範囲は約5ppm〜20ppmであり、第3の濃度の範囲は約20ppm〜200ppmである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の治療期間は1日のうちで少なくとも7時間であり、第2の治療期間の範囲は1日のうちで5時間〜12時間であり、第3の治療期間の範囲は1日のうちで約5時間〜12時間である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の治療期間、前記第2の治療期間、及び、前記第3の治療期間は2日以上の日数に及び、治療が繰り返される、請求項28に記載の方法。
【請求項1】
被検体の創傷の治癒を促進する方法であって、
一酸化窒素ガスの流量制御源を設ける工程と、
高濃度の外生一酸化窒素ガスに第1の治療期間に亘って創傷を曝露して、尚且つ、被検体または創傷の周囲の健康な細胞に中毒を誘発することがないようにする工程と、
先の工程より低い濃度の外生一酸化窒素ガスに第2の治療期間に亘って創傷を曝露して、該第2の治療期間がコラーゲンmRNAの発現を増大させるのに十分な長さになるようにする工程とを含んでいる、方法。
【請求項2】
一酸化窒素ガスの濃度を監視する工程を更に含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
創傷の周囲の細胞によって生成されるコラゲナーゼのレベルを監視する工程を更に含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
創傷の周囲の細胞によって生成されるコラーゲンのレベルを監視する工程を更に含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
創傷から過剰な滲出液を除去する工程を更に含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記高濃度の一酸化窒素ガスのレベルは約200ppmよりも高い、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記高濃度の一酸化窒素ガスのレベルは約200ppm〜400ppmである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記先の工程より低い濃度の一酸化窒素ガスのレベルは約5ppmである、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の治療期間は少なくとも約7時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記高濃度の一酸化窒素ガスに前記第1の期間に亘って曝露する工程は途切れることなく行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の治療期間は約7時間であり、前記第2の治療期間は少なくとも約7時間である、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
創傷床を整える方法であって、
被検体の創傷部位を診断する工程と、
一酸化窒素含有ガスの流量制御源を設ける工程と、
一酸化窒素含有ガスの流量制御源から供給されてくる高濃度の外生一酸化窒素ガスに或る治療期間に亘って創傷部位を曝露することにより、創傷部位に存在する壊死組織を創面清拭する工程とを含んでいる、方法。
【請求項13】
前記高濃度の外生一酸化窒素ガスは創傷部位における内生コラゲナーゼの発現を増大させるのに十分なレベルであり、尚且つ、創傷部位の周囲の健康な細胞に対して中毒を誘発することがないようにした、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
低濃度の外生一酸化窒素ガスに第2の治療期間に亘って創傷を曝露し、該第2の治療期間は新たなコラーゲンの発現を誘導するのに十分な長さであるようにする工程を更に含んでいる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
創傷の上に皮膚を移植する工程を更に含んでいる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
創傷から壊死組織を創面清拭する方法であって、該方法は、創傷部位の自然位においてコラゲナーゼの内生発現を誘導する工程を含んでいる、方法。
【請求項17】
誘導する前記工程は、或る濃度の外生一酸化窒素ガスに或る期間に亘って創傷を曝露し、該期間が自然位においてコラゲナーゼの発現を増大させるのに十分な長さであるようにする工程を含んでいる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
一酸化窒素ガスは高濃度で少なくとも7時間の期間に亘って創傷に曝露される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
一酸化窒素ガスは高濃度で少なくとも48時間の期間に亘って創傷に曝露される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
一酸化窒素ガスの前記濃度は約200ppmである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
創傷部位の滲出液を管理する方法であって、
創傷部位を洗浄する工程と、
創傷部位に気体透過性の外傷用医薬材料を当てる工程と、
一酸化窒素含有ガスの流量制御源を設ける工程と、
一酸化窒素含有ガスの流量制御源から供給されてくる外生一酸化窒素ガスで創傷部位を浸漬する工程とを含んでいる、方法。
【請求項22】
前記創傷部位は、創傷部位の炎症を緩和するのに十分な濃度の外生一酸化窒素ガスで浸漬され、尚且つ、創傷部位の周囲の健康な細胞に中毒を誘発することがないようにする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
外生一酸化窒素ガスの前記濃度の範囲は約160ppm〜400ppmである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
創傷部位は外生一酸化窒素ガスで少なくとも約7時間に亘って浸漬される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記創傷部位は途切れることなく浸漬される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
創傷の治癒過程で傷跡を低減する方法であって、
一酸化窒素ガスの流量制御源を設ける工程と、
第1の高濃度の外生一酸化窒素ガスに第1の治療期間に亘って創傷を曝露し、尚且つ、被検体または創傷の周囲の健康な細胞に中毒を誘発することがないようにする工程と、
先の工程より低い第2の濃度の外生一酸化窒素ガスに第2の治療期間に亘って創傷を曝露し、該第2の治療期間がコラーゲンmRNAの発現を増大させるのに十分な長さであるようにする工程と、
第3の濃度の外生一酸化窒素ガスに第3の期間に亘って創傷を曝露し、該第3の濃度が第1の高濃度とそれよりも低い第2の濃度との間のレベルであるようにする工程とを含んでいる、方法。
【請求項27】
前記第1の高濃度の一酸化窒素ガスの範囲は約200ppm〜400ppmであり、それよりも低い第2の濃度の範囲は約5ppm〜20ppmであり、第3の濃度の範囲は約20ppm〜200ppmである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の治療期間は1日のうちで少なくとも7時間であり、第2の治療期間の範囲は1日のうちで5時間〜12時間であり、第3の治療期間の範囲は1日のうちで約5時間〜12時間である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の治療期間、前記第2の治療期間、及び、前記第3の治療期間は2日以上の日数に及び、治療が繰り返される、請求項28に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図8e】
【図8f】
【図8g】
【図8h】
【図8i】
【図8j】
【図8k】
【図8l】
【図8m】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図8e】
【図8f】
【図8g】
【図8h】
【図8i】
【図8j】
【図8k】
【図8l】
【図8m】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公表番号】特表2008−525499(P2008−525499A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548598(P2007−548598)
【出願日】平成17年12月23日(2005.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/047319
【国際公開番号】WO2006/071957
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(507210454)センサーメディックス コーポレイション (1)
【出願人】(507210487)パルモノックス テクノロジーズ コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月23日(2005.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/047319
【国際公開番号】WO2006/071957
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(507210454)センサーメディックス コーポレイション (1)
【出願人】(507210487)パルモノックス テクノロジーズ コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】
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