説明

三つ葉状のペプチド2量体

【課題】その機能が未だ明確になっていない、疾患状態の胃腸管において発現が増大する、三つ葉状ペプチド2量体を提供する。
【解決手段】ラットおよびヒトで見いだされた、腸の三つ葉状因子および乳癌ペプチドからなる、1つの三つ葉状単量体をコードする、特定の塩基配列で形質転換された適当な宿主細胞、たとえば酵母細胞を、上記ペプチドの生産を許容する条件下で培養し、セファロース等のクロマトグラフィーで精製し回収することにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は三つ葉状の(trefoil) ペプチド2量体、三つ葉状のペプチドの2量体を調製する方法、三つ葉状のペプチド2量体を含む医薬組成物及びそれらの胃腸疾患の治療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
三つ葉状のペプチドは主に胃腸管と関連して見い出されるペプチドのファミリーを形成する。哺乳類の三つ葉状のペプチドは1またはそれよりも多い特徴的な三つ葉状のドメイン (Thim他、1989年)を含有し、その各々は、6つの半−シスチン残基が配置1−5,2−4及び3−6で結合している、38または39アミノ酸残基の配列からなり、したがって特徴的な三つ葉状の構造を形成している (Thim, 1989年) 。
【0003】
現在公知の哺乳類の三つ葉状のペプチドは1または2のいずれかの三つ葉状のドメインを含有するのに対し(復習のためにThim, 1994年;Poulson 及びWright, 1993年;Hoffmann及びHauser. 1993年) 、1(Hauser及びHoffmann, 1991年) 、2(Hauser他、1992年a) 、4(Hoffmann, 1998年) または6(Hauser及びHoffmann, 1993年b) 三つ葉状のドメインを含有する、かえる (Xenopus laevis) のペプチド及びタンパク質が記載された。1つのドメインを含有する哺乳類の三つ葉状のペプチドは、これまでヒト(Jakowlev他、1984年;Prud'homme他、1985年) 及びマウス (Lefebvre他、1993年)に公知の乳がんに関係するpS2ペプチド並びにこれまでヒト (Podolsky他、1993年;Hauser他、1993年) 及びラット(Suemori他、1991年、 Chinery他、1992年) に公知の腸の三つ葉状の因子である。2つの三つ葉状のドメインを含有する鎮痙性ポリペプチド(SP)はヒト(Tomasetto他、1990年) 、ブタ (Thim他、1982年) 及びマウス(Tomasetto他、1990年) について記載されている。ヒトでは3つの三つ葉状のペプチド、 hpS2、hITF及び hSPはすべて通常の状態で胃腸管中に、すなわち hSP及び hps2は胃の上皮粘膜層中に(Tomasetto他、1990年; Rio他、1988年) 並びにhITFは小腸及び結腸の上皮粘膜層中に(Podolsky 他、1993年) 発現されている。
【0004】
三つ葉状のペプチドの生理的機能は非常によくは分かっていない。胃腸管における三つ葉状のペプチドの増大した発現が粘膜損傷、たとえば炎症性の腸の病気(Rio他、1991年; Poulson他、1992年;Wright他、1993年) 及び胃及び十二指腸における潰瘍(Rio他、1991年; Hanby他、1993年;Wright他、1990年) を含むいくつかの状態で報告されている。結果的に、三つ葉状のペプチドの粘膜修復機能が示唆された (たとえば、Wright他、1993年) 。三つ葉状のペプチドが損傷後の粘膜の上皮の復旧を促進するという証拠は最近 Dignass他 (1994年) 、Playford他 (1994年) 及び Babyatsky他 (1994年) が示した。三つ葉状のペプチドがその修復機能を促進するメカニズムは、ムチン−糖タンパク質を交叉結合させて消化酵素耐性の粘弾性ゲル層を生成させることかもしれない (Thim, 1994年; Gajhede他、1993年) 。
【0005】
ラットとヒトの単一ドメインの腸の三つ葉状の因子のクローン化及び腸の三つ葉状の因子を胃腸の損傷の治療に用いることは国際特許出願公開第92/14837 号に記載されている。
【発明の開示】
【0006】
今や、唯一の三つ葉状のドメインを有し、興味深い薬理的性質を有する三つ葉状の因子の2量体の調製が可能であることを見い出した。
【0007】
従って、本発明は唯一の三つ葉状のドメインを含有する三つ葉状のペプチドであって、2量体の形になっていることを特徴とするペプチドに関する。
【0008】
上記のように、三つ葉状のペプチドは腸管の粘膜層を安定化することによって消化性潰瘍及び他の粘膜の損傷の治癒に貢献することは確かだと思われる。この安定化のメカニズムは現在分かってはいない。しかしながら、2つの三つ葉状のドメインを有するブタの膵臓の鎮痙性ポリペプチド(PSP) のX線構造(Gajhede他、1993年参照) は、大部分の保存された残基は、8〜10Å幅の裂け目を与え、各々の三つ葉状のドメインに見い出されることを示した。予備的な短かく切る実験はその裂け目はオリゴサッカリド鎖の一部、たとえばムチン糖タンパク質に結合した炭水化物に一致するだろうことを示した。もし、これが事実なら、2つの上記裂け目をもつ PSPはムチンを交叉結合して、粘膜上皮上に保護ゲルを形成するのを助けるだろう。現在では唯一の三つ葉状のドメイン (たとえば ITF及びpS2)をもつ三つ葉状のペプチドが生体内で2量体を形成して同様な機能を働かせるのか、またはそれが、異ったメカニズムの作用を有するのかは分かっていない。しかしながら、現在は、このような三つ葉状のペプチドの2量体は本当にムチンを交叉結合し、したがって、活性型のペプチドであると確信されている。
【0009】
本発明の他の面は唯一の三つ葉状のドメインを含有する三つ葉状のペプチドの2量体を調製する方法であって、そのペプチドの産生を可能とする条件下で1つの三つ葉状のドメインを含有する三つ葉状のペプチドをコードする DNA配列で形質転換された適当な宿主細胞を培養し、その培養から結果として生じる三つ葉状のペプチド2量体を回収することを含む方法に関する。
【0010】
本発明の更なる面は、医薬として許容し得る希釈剤または媒体と共に唯一の三つ葉状のドメインを含有する三つ葉状のペプチドの2量体を含む医薬組成物に関する。
【0011】
本発明のなお、更なる面は薬剤として用いるための1つの三つ葉状のドメインを含有する三つ葉状のペプチドの2量体及び胃腸疾患の予防または治療用の薬剤の調製のための1つの三つ葉状のドメインを含有する三つ葉状のペプチドの2量体の使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
三つ葉状の因子の2量体は特に腸の三つ葉状の因子(ITF) または乳がんに関係するペプチド (pS2)であり得る。
【0013】
特に、三つ葉状の因子はヒトの ITF単量体状アミノ酸配列であって、
ZEYVGLSANQCAVPAKDRVDCGYPHVTPKECNNRGCCFDSRIPGVPWCFKP
LQEAECTF (配列番号1)
(式中、ZはGlu, GlnまたはpyrGlu) もしくは2量体化可能で同様な活性を示すその同族体またはヒトのpS2単量体状アミノ酸配列であって、
ZAQTETCTVAPRERQNCGFPGVTPSQCANKGCCFDDTVRGVPWCFYPNTID
VPPEEECEF (配列番号2)
(式中、ZはGlu, GlnまたはpyrGlu) もしくは2量体化可能で同様な活性を示すその同族体である。
【0014】
ITF またはpS2の同族体は同じシステイン型及びジスルフィド配列(図1)を含み、ループ1,2及び3において特定の配列相同性(対応する位置での同一のアミノ酸または保存的置換のいずれかを意味する)を示す。ループ領域の配列相同性は1〜10までのアミノ酸残基を変更し、各ループ中のアミノ酸残基の数(システインは別にして)は7〜12、好ましくは9〜10まで変更し得る。
【0015】
ITF またはpS2の同族体は1以上のアミノ酸置換、欠失または付加を有し得る。これらの変化は好ましくは置換がそのタンパク質の折りたたみまたは活性に実質的に影響を与えないような性質のものである。小さな欠失は典型的にはループ領域の1〜約3アミノ酸並びにN−及びC−末端領域の1〜約10アミノ酸、1個のアミノ末端もしくはカルボキシ末端延長、たとえばアミノ末端メチオニン残基、約10残基までの小さいリンカーペプチドまたは精製を容易にさせる小さい延長、たとえばポリヒスチジン区域、抗原エピトープもしくは結合ドメインである。一般的にはFord他の「Protein Expression and Purification 」:第95〜107 頁(1991年)参照。保存的置換の例は塩基性アミノ酸(たとえばアルギニン、リシン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(たとえばグルタミン酸及びアスパルチン酸)、極性アミノ酸(たとえばグルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(たとえばロイシン、イソロイシン、バリン)、芳香族アミノ酸(たとえばフェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)及び小さいアミノ酸(たとえばグリシン、アラニン、セリン、トレオニン、メチオニン)の範囲内である。
【0016】
上記置換は分子の機能に決定的な領域以外の領域でなされ、なお活性なポリペプチドを生じることができることは当業者に明らかであろう。この三つ葉状のペプチドの活性に必須の、したがって、好ましくは置換を受けていないアミノ酸は、当業界で公知の方法、たとえば部位特異的変異誘発またはアラニン走査変異誘発に従って同定されるだろう (Cunningham及び Wells「Science 」244 、等1081〜1085頁、1989年) 。後者の技術では変異は分子中のすべての残基に導入され、結果的に生じた変異分子を生理的活性について試験し (たとえば、粘膜の治癒、粘膜の保護、胃潰瘍の治癒) 、分子の活性に決定的であるアミノ酸残基を同定する。
【0017】
同族体はアレレ変異体、すなわち、変異により生じた遺伝子の別の形または変異した遺伝子によりコードされた変更されたペプチドであるが本ペプチドと実質的に同じ活性を有するペプチドであってもよい。したがって、変異は無症状(コードされたペプチドに変化がない)であり得るか、または別のアミノ酸配列を有するペプチドをコードするかもしれない。
【0018】
三つ葉状のペプチドの同族体は相同の種、すなわち、他の種、たとえばマウス、ラット、ウサギ、ウシ、ブタまたはかえるから得る同様な活性をもつポリペプチドであってもよい。
【0019】
好ましい態様では、本発明の三つ葉状のペプチド2量体は約13000 の分子量を有している。その2量体は ITF様単量体の位置57またはpS2様単量体の位置58における2つのシステイン残基の間のジスルフィド結合によって結合された2つの三つ葉状のペプチド単量体からなる。
【0020】
三つ葉状のペプチド2量体は好ましくは組換えDNA 技術によって製造される。三つ葉状のペプチドをコードする DNA配列は、ゲノムまたはcDNAライブラリーを調製し、標準技術 (Sambrook他「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」 Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor、ニューヨーク州、1989年) に従って、合成オリゴヌクレオチドプローブを用いるハイブリダイズにより、ペプチドのすべてまたは一部をコードする DNA配列についてスクリーニングすることによって、最後には単離し得る。この目的のためには、そのペプチドをコードする DNA配列は好ましくはヒトからのもの、すなわち、ヒトゲノムDNA またはcDNAライブラリー由来のものである。
【0021】
その三つ葉状のペプチドをコードする DNA配列も、標準方法たとえばボケージ及びカルーサーズ (Beaucage及び Caruthers「Tetrahedron Letters 」22, 1981年、第1859〜1869頁によって記載されたホスホアミダイト法またはマッテス他 (Matthes et al,「EMBO Journal」,1984年、第 801〜805 頁) に記載された方法によって合成的に製造してもよい。ホスホアミダイト法に従って、オリゴヌクレオチドをたとえば自動 DNA合成機中で合成し、精製し、アニールし、結合させ、適当なベクター中でクローン化する。
【0022】
DNA 配列を特異的プライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応、たとえば米国特許第 4,683,202号、サイキ(saiki) 他の「Scennce 」239 , 1988年、第 487〜489 頁、またはサムブルック他の上記に記載されたような方法によっても製造し得る。
【0023】
三つ葉状のペプチドをコードする DNA配列は通常、適宜組換えDNA 方法を受け得るいかなるベクターであってもよい組換えベクターに挿入され、ベクターの選択はしばしば導入されるべき宿主細胞に依存するだろう。したがって、ベクターは自己複製ベクター、すなわち、染色体外の存在として存在し、その複製は染色体の複製とは独立であるベクター、たとえばプラスミドであり得る。代りに、ベクターは、宿主細胞に導入された時に宿主細胞ゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであり得る。
【0024】
ベクターは、好ましくは三つ葉状のペプチドをコードする DNA配列が DNAの転写に必要な付加的なセグメントに作用可能に結合された発現ベクターである。一般に発現ベクターはプラスミドまたはウイルス性DNA から得るか、または両方の要素を含有してもよい。用語「作用可能に結合された」は、そのセグメントが、それらがそれらの意図された目的のために協力して作用するように、たとえば転写がプロモーター中で開始し、ポリペプチドをコードする DNA配列を通って進行するように配置されていることを表わす。
【0025】
プロモーターは選択された宿主細胞中で転写活性を示すいかなる DNA配列であってもよく、宿主細胞に相同または異種性のいずれかであるタンパク質をコードする遺伝子から得ることができる。
【0026】
哺乳類細胞中で三つ葉状のペプチドをコードする DNAの転写を指示するための適当なプロモーターの例はSV40プロモーター(Subraman他「Mol. Cell Biol. 」 (1981年) 第 854〜864 頁) 、MT−1(メタロチオネイン遺伝子)プロモーター(Palmiter他「Science」222 (1983年) 第 809〜814 頁) またはアデノウイルス2主要後期プロモーターである。
【0027】
昆虫の細胞で用いるための適当なプロモーターの例は多角体(polyhedrin) プロモーター (米国特許第 4,745,051号明細書、 Vasuvedan他「FEBS Lett. 311 第7〜11頁)、P10プロモーター(J. M. Vlak他「J. Gen. Virology」69,1988年、第 765〜776 頁) 、オートグラファ カリホルニカ 多面体(Autographa californicapolyhedrosis)ウイルス性塩基性タンパク質プロモーター(欧州特許第397485号) 、バキュロウイルス即時初期遺伝子1プロモーター(米国特許第 5,155,037号、米国特許第 5,162,222号) またはバキュロウイルス遅延された初期遺伝子プロモーター (米国特許第 5,155,037号、米国特許第 5,162,222号) である。
【0028】
酵母宿主細胞において用いる適当なプロモーターの例は、解糖遺伝子 (Hitzeman他「J. Biol. Chem.」255 (1980年) 第 12073〜12080 頁、 Alber及びKawasaki「J. Mol. Appl. Gen.」 (1982年)第 419〜434 頁) もしくはアルコール脱水素酵素遺伝子(Young他「Genetic Engineering of Microorganisms for Chemicals(Hollaender他編) 」中に、Plenum Press、ニューヨーク州、1982年) からのプロモーターまたはTPI 1 (米国特許第 4,599,311号) もしくは ADH2−4c(Russell他「Nature」304 (1983年) 第 652〜654 頁)プロモーターを含む。
【0029】
糸状菌宿主細胞に用いるのに適当なプロモーターの例は、たとえばADH 3プロモーター (McKnight他「The EMBO J. 」(1985年)第2093〜2099頁)またはtpiAプロモーターである。他の有用なプロモーターの例は、A.オリザエTAKAアミラーゼ、リゾムコル ミエヘイ(Rhizomucor miehei) アスパルチン プロテイナーゼ、A.ニガー(niger) 中性α−アミラーゼ、A.ニガー酸安定α−アミラーゼ、A.ニガーもしくはA.アワモリグルコアミラーゼ(gluA) 、リゾムコル ミエヘイ リパーゼ、A.オリザエ アルカリ性プロテアーゼ、A.オリザエ トリオースホスフェートイソメラーゼまたはA.ニドラン(nidulans) アセタミダーゼから得たものである。TAKA−アミラーゼとgluAプロモーターが好ましい。適当なプロモーターはたとえば欧州特許第238023号及び欧州特許第383779号に記載されている。
【0030】
三つ葉状のペプチドをコードする DNA配列は適当なターミネーター、たとえばヒト成長ホルモンターミネーター (Palmiter他「Science 」222 , 1983年、第 809〜814 頁) または (真菌宿主のために)TPI1(Alber 及びKawasaki「J. Mol. Appl. Gen.」, 1982年、第 419〜434 頁)もしくはADH 3(McKnight他「The EMBO J. 」,1985年、第2093〜2099頁)ターミネーター、にも必要ならば作用可能に結合してもよい。
【0031】
ベクターは、更に要素、たとえばポリアデニル化シグナル(たとえばSV40またはアデノウイルスの5Elb 領域) 、転写エンハンサー配列(たとえばSV40エンハンサー) 及び翻訳エンハンサー配列(たとえばアデノウイルスVA RNAをコードするもの)を含み得る。
【0032】
組換えベクターは更にベクターを問題の宿主細胞中に複製できるようにする DNA配列を含み得る。そのような配列の例は(宿主細胞が哺乳類細胞のとき)、SV40複製開始点である。
【0033】
宿主細胞が酵母細胞のとき、ベクターを複製できるようにする適当な配列は酵母プラスミド2μ複製遺伝子 REP1−3及び複製開始点である。
【0034】
ベクターは選択マーカー、たとえば、その産生物が宿主細胞の欠損を捕捉する遺伝子、たとえばジヒドロホレート レダクターゼ(DHFR) またはシゾサッカロミセス ポンベ (Schizosaccharomycespombe) TPI遺伝子(P. R. Russellによって、「Gene」40, 1985年、第 125〜130 頁に記載されている) または薬物、たとえば、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン、ヒグロマイシンもしくはメトトレキサートに対する耐性を与える遺伝子も含み得る。糸状菌については、選択マーカーはamdS, pyrG, argB, niaDまたはsCを含む。
【0035】
本発明の三つ葉状のペプチドを宿主細胞の分泌経路に向けるために、分泌シグナル配列 (リーダー配列、プレプロ配列またはプレ配列としても知られている)を組換えベクター中に提供し得る。分泌シグナル配列を、正しいリーディグフレーム中に三つ葉状のペプチドをコードする DNA配列に結合する。分泌シグナル配列は一般にペプチドをコードする DNA配列に対し5′に位置する。分泌シグナル配列は普通にはペプチドと関連する配列であるか、他の分泌されたタンパク質をコードする遺伝子からであり得る。
【0036】
酵母細胞からの分泌について、分泌シグナル配列はその細胞の分泌経路への発現された三つ葉状のペプチドの効率的な指示を保証するどのようなシグナルペプチドをコードするものでよい。シグナルペプチドは天然のシグナルペプチドもしくはそれらの機能的な部分であるか、または合成ペプチドでもよい。適当なシグナルペプチドは、α−因子シグナルペプチド(米国特許第 4,870,008号参照) 、マウスの唾液のアミラーゼのシグナルペプチド (O. Hagenbuchle他「Nature」289 , 1981年、第 643〜646 頁参照) 、修飾されたカルボキシペプチダーゼシグナルペプチド (L. A. Vall他「Cell」48,1987年、第 887〜897 頁参照) 、酵母BAR 1シグナルペプチド(国際特許出願公開第87/02670 号参照) または酵母アスパルチン プロテアーゼ3(YAP3)シグナルペプチド(M. Egel−Mitani他「Yeast 」,1990年、第 127〜137 頁参照) であることを見い出した。
【0037】
酵母における効率的な分泌のために、リーダーペプチドをコードする配列をシグナル配列の下流及び三つ葉状のペプチドをコードする DNA配列の上流に挿入してもよい。リーダーペプチドの機能は発現されたペプチドを小泡体からゴルジ装置に、そして更に培地中への分泌のために分泌小泡へ誘導させること(すなわち、三つ葉状のペプチドを細胞壁を通して、または少くとも細胞膜を通して酵母細胞の細胞周辺腔へ運び出すこと)である。リーダーペプチドは酵母α−因子リーダー(それを用いることは、たとえば米国特許第 4,546,082号、米国特許第 4,870,008号、欧州特許第 16201号、欧州特許第123294号、欧州特許第123544号及び欧州特許第163529号に記載されている)であってもよい。代りに、リーダーペプチドは、合成リーダー(すなわち、天然にはないリーダーペプチド)であってもよい。合成リーダーペプチドは、たとえば国際特許出願公開第89/02463 号または国際特許出願第92/11378 号に記載されているように構築してもよい。
【0038】
糸状菌に用いるために、シグナルペプチドをアスペルギルス種アミラーゼもしくはグルコアミラーゼをコードする遺伝子、リゾムコル ミエヘイ リパーゼもしくはプロテアーゼまたはフミコーララヌギノサ リパーゼをコードする遺伝子から適宜得てもよい。シグナルペプチドは好ましくは、A.オリザエ TAKAアミラーゼ、A.ニガー中性α−アミラーゼ、A.ニガー酸安定アミラーゼまたはA.ニガー グルコアミラーゼをコードする遺伝子から得られる。適当なシグナルペプチドは、たとえば欧州特許第238023号及び欧州特許第215594号に記載されている。
【0039】
昆虫の細胞で用いるためには、シグナルペプチドは適宜昆虫の遺伝子(国際特許第90/05783 号)、たとえば鱗翅目のマンズカ セクスタ(Manduca sexta) 脂質動員ホルモン前駆体シグナルペプチド (米国特許第 5,023,328号) から得てもよい。
【0040】
三つ葉状のペプチドをコードする DNA配列、プロモーター及び任意にターミネーター及び/または分泌シグナル配列をそれぞれ結合し、複製のために必要な情報を含有する適当なベクターにそれらを挿入するのに用いられる方法は当業者によく知られている(たとえば、Sambrook他「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」Cold Spring Harbor、ニューヨーク州 (1989年) 参照) 。
【0041】
三つ葉状のペプチドをコードする DNA配列を導入する宿主細胞は、ペプチドを2量体の形で産生可能ないかなる細胞でもよく、酵母、真菌及びより高級な真核細胞を含む。
【0042】
適当な哺乳類細胞系の例は、COS(ATCC CRL 1650), BHK(ATCC CRL 1632, ATCC CCL 10), CHL(ATCC CCL 39) またはCHO(ATCC CCL 61)細胞系である。哺乳類細胞をトランスフェクトし、細胞内に導入された DNA配列を発現する方法は、たとえば、 Kaufman及び Sharpの「J. Mol. Biol. 」159 (1982年) 第 601〜621 頁、Southern及びBergの「J. Mol. Appl. Genet.」 (1982年) 第 327〜341 頁、Loyter他の「Proc. Nath. Acad. Sci. USA」79 (1982年) 第 422〜426 頁、Wigler他の「Cell」14 (1978年) 第 725頁、 Corsar 及びPeasonの「Somatic Cell Genetics 」 (1981年) 第 603頁、Graham及びvan der Ebの「Virology」52 (1973年) 第 456頁及び Neumann他の「EMBO J. 」 (1982年) 第 841〜845 頁に記載されている。
【0043】
適当な酵母細胞の例はサッカロミセス種またはシゾサッカロミセス種、特にサッカロミセス セレビシアエまたはサッカロミセスクルイベリの株である。酵母細胞を異種DNA で形質転換し、それから異種ポリペプチドを産生する方法は、たとえば、米国特許第 4,599,311号、米国特許第 4,931,373号、米国特許第 4,870,008号及び米国特許第 4,845,075号に記載されており、これらのすべては参照により本明細書に組み入れられる。形質転換された細胞は選択マーカー、一般に薬剤耐性または特定の栄養素、たとえばロイシンの不存在で増殖する能力によって決定される表現型により選択される。酵母で用いるのに好ましいベクターは、米国特許第 4,931,373号に記載されている POT1ベクターである。シグナル配列及び任意にリーダー配列(たとえば上記のような)は三つ葉状のペプチドをコードする DNA配列の先に立つ。更に適当な酵母細胞の例は、クルイベロミセスの株、たとえば、K.ラクチス (lactis) 、ハンセヌラ (Hansenula)、たとえば、H.ポリモルファ (polymorpha) またはピチア (Pichia) 、たとえばP.パストリス (pastoris) である(Gleeson他「J. Gen. Microbiol.」132 , 1986年、第3459〜3465頁、米国特許第 4,882,279号参照) 。
【0044】
他の真菌細胞の例は、糸状菌、たとえばアスペルギルス種、ニューロスポラ (Neurospora) 種、フサリウム (Fusarium) 種またはトリコデルマ(Trichoderma) 種、特にA.オリザエ、A.ニドランまたはA.ニガーの細胞である。タンパク質の発現のためにアスペルギルス種を用いることは、たとえば欧州特許第272277号、欧州特許第184438号に記載されている。F.オキシスポルム(oxysporum) の形質転換は、たとえば、 Malardier他 (「Gene」78, 1989年、第 147〜156 頁) により記載されているように実施する。トリコデルマ種の形質転換は、たとえば欧州特許第244234号に記載されているように実施し得る。
【0045】
糸状菌を宿主細胞として用いる時は、適宜 DNA構成物を宿主の染色体に組み込み、組換え宿主細胞を得ることにより、本発明の DNA構成物で形質転換し得る。この組込みは、 DNA配列が細胞中により安定に維持されるようであるので、一般に利点と考えられている。 DNA構成物の宿主染色体への組込みは慣用の方法、たとえば相同の、または異種性の組換えによって実施し得る。
【0046】
昆虫細胞の形質転換及びその中での異種ポリペプチドの産生は、米国特許第 4,745,051号、米国特許第 4,879,236号、米国特許第 5,155,037号、米国特許第 5,162,222号及び欧州特許第 397,485号 (参照によりすべてが本明細書に組み入れられる)に記載されているように実施する。宿主として用いられる昆虫細胞系は適切には、レピドプテラ(Lepidoptera) 細胞系、たとえばスポドプテラ フルギペルダ(Spodoptera frugiperda) 細胞、またはトリコプルシア ニ(Trichoplusia ni) 細胞 (米国特許第 5,077,214号) であり得る。培養条件は適切には、たとえば国際出願公開第89/01029 号もしくは国際出願公開第89/01028 号または前述の参照文献に記載されているものでよい。
【0047】
上記形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞を、次いで三つ葉状のペプチドの発現を許容する条件下で適当な栄養培地中で培養し、その後生じたペプチドのすべてまたは一部を2量体の形で培養から回収し得る。細胞を培養するのに用いられる条件は、宿主細胞を増殖させるのに適当ないかなる慣用の培地、たとえば、適当な補足を含有する最小培地または複合培地である。適当な培地は営利供給者から得られるか、または出版された処方箋(たとえば、American Type Culture Collection中の) にしたがって調製し得る。細胞により産生された三つ葉状のペプチドを、次いで遠心分離またはろ過による培地からの宿主細胞の分離上清またはろ液のタンパク質成分の塩、たとえば硫酸アンモニウムの手段による沈殿、種々のクロマトグラフ手段、問題のポリペプチドの型に依存して、たとえばイオン交換クロマトグラフ、ゲルろ過クロマトグラフ、アフィニティークロマトグラフまたはその他同様なものによる精製を含む慣用の方法により培地から回収し得る。
【0048】
本発明の医薬組成物では、三つ葉状のペプチド2量体を医薬組成物を処方する任意の確立された方法、たとえば「Remington's Pharmaceutical sciences 」 (1985年) に記載されたように処方し得る。その組成物は全身注射または点滴に適する形でよく、それ自体、滅菌水または等張塩類液またはグルコース溶液で処方し得る。組成物は当業界で良く知られた慣用の殺菌技術により殺菌し得る。生じる水溶液を使用のために包装するか、または無菌条件下でろ過し、凍結乾燥してもよく、凍結乾燥された調製物は殺菌された水溶液と投与の前に結合させる。組成物は医薬として許容し得る、およその生理的条件に必要な補助物質、たとえば緩衝剤、張性調整剤及び同様なもの、たとえば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等を含有し得る。
【0049】
本発明の医薬組成物は経鼻、経皮または経腸投与にも用い得る。前記組成物に用い得る医薬として許容し得る担体または希釈剤は、いかなる慣用の固体担体でもよい。固体担体の例は、ラクトース、白土、ショ糖、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸である。同様に、担体または希釈剤は当業界で公知の任意の持続性放出物質、たとえばモノステアリン酸グリセロールまたはジステアリン酸グリセロール (単独でまたはワックスと混合して) を包含し得る。固体担体の量は非常に大きく変化するが、通常、約25mg〜約1gであろう。
【0050】
組成物中の三つ葉状のペプチドの濃度は広く、すなわち、約5%〜約 100重量%に変化し得る。好ましい濃度は50〜100 重量%の範囲である。組成物の単位投薬量は典型的には約1mg〜約 200mg、好ましくは約25mg〜約75mg、特に約50mgのペプチドを含有し得る。
【0051】
上記のように、本発明の三つ葉状の2量体は前記ペプチドの活性型であると確信された。それ自体胃腸疾患の予防または治療のために用いることは有利であると考える。より詳細には、胃もしくは消化性潰瘍、炎症性の腸の病気、クローン病または放射線療法、細菌もしくは他の感染により生じた腸管の損傷等の治療に用いることが考えられる。患者に投与されるポリペプチドの用量は治療される状態の型及び重症度により広く変化するだろうが、一般に 0.1〜1.0mg /kg体重の範囲である。
【0052】
本発明を添付した図面と関連して例においてさらに詳細に記載する。

物質及び方法
ラットのITF(rITF) 及びヒトのITF(hITF) のクローン化
ラット及びヒトの ITFのクローン化を国際特許出願公開第92/14837 号に記載されたように及び Suemori他 (1991年) 及び Chinery他 (1992年)(ラットのITF)並びにPodolsky他 (1993年) 及びHauser他 (1993年)(ヒトのITF)により記載されたように実施した。
rITF及びhITF発現プラスミドの構築
ラットの ITFの分泌のための発現プラスミドpHW756及びヒトの ITFの分泌のための発現プラスミド pHW1066を図7〜9に概説したように構築した。酵母発現ベクターpKFN1003 (国際特許出願公開90/10075 号に記載されている)はプラスミドCPOT(Kawasaki, G「International Conference on Yeast Genetics and Molecular Biology」1984年9月17日〜24日、エジンバラ・スコットランド要約第15頁)の誘導体である。それは選択マーカーとしてのシゾサッカロミセス ポンベ TPI遺伝子(POT) (Russell, P.R.「Gene」40 (1985 年) 第 125〜130 頁) 及び発現の調節のためにS.セレビシアエトリホースホスフェート イソメラーゼ(TPI) プロモーター及びターミネーターを有している (Alber, T及びKawasaki, G.「J. Mol. Appl. Genet.」 (1982年) 第 419〜434 頁) 。
【0053】
ラットの ITF遺伝子は最初にBluescript II KS (−)(Stratagene) 中にクローン化され、それから図8に従って増殖させる。有用なクローン化部位を提供するヘルパーベクターpSX54 は pUC18及びpDN1050 から成る (Diderichsen, B;Poulsen, G. B., Jorgensen, S. T.「Plasmid 」30 (1993年) 第 312〜315 頁) 。合成DNA リンカーNco 1−PflMI は次の式を有する。
1858: 5′-CATGGCTGAAAGATTGGAAAAGAGACAAGAGTTCGTTGGTTTGT
CTCCATCCCAATGT-3′58bp (配列番号3)
1862: 5 ′-TTGGGATGGAGACAAACCAACGAACTCTTGTCTCTTTTCCAAT
CTTTCAGC- 3′ 51bp (配列番号4)
前記リンカーはコドンの選択にいくつかの変化を有するThim, L., Norris, K., Nielsen, P.F., Bjorn, S., Christensen, M., Petersen J.の「FEBS Lett.」318 (1993年) 第 345〜352 頁に記載されたリーダー配列のC−末端8−アミノ酸及びラットの ITF遺伝子N−末端部、すなわち QEFVGLSPSQCをコードしている。シグナル及びリーダーのアミノ酸配列は同所に記載されている。
【0054】
MKAVFLVLSLIGFCWAQPVTGDESSVEIPEESLIIAENTTLANVAMAERLEKR. (配列番号5)
ヒトの ITF遺伝子を PUC19中にクローン化し、図9に記載したように増殖させた。合成DNA リンカーNcol1−BsaAl は次の配列を有している。
2292: 5′-CATGGCTGAAAGATTGGAAAAGAGAGAAGAATAC-3′ 34bp (配列番号6)
2287: 5′-GTATTCTTCTCTCTTTTCCAATCTTTCAGC-3′ 30bp (配列番号7)
前記リンカーはrITF構築について記載されたC−末端8−アミノ酸のリーダー及びhITF遺伝子のN−末端3アミノ酸: EEYをコードする。シグナル及びリーダーは上記と同じである。
【0055】
唯一の炭素源としてのグルコースでの増殖についての選択により、発現プラスミドをS.セレビシアエ株MT663(E2−7B X E11 −36a/α, Δtpi /Δtpi, pep4−3/pep 4−3)に形質転換した。
【0056】
ラットの ITF及びヒトの ITFを発現する酵母形質転換体をそれぞれ HW756及びHW1067と名づけた。
発酵
上記形質転換体を追加の酵母抽出物 (60g/L)を補足した酵母ペプトンデキストロース(YPD) 培地(Sherman他、1981年) 中で30℃で72時間培養した。発酵の終りに 660nmでのOD価はHW756(rITF) 及びHW1066 (hITF) について、それぞれ、 153及び 232に達した。発酵の終りにpHを1Mリン酸で 2.5に調整し、酵母細胞を 3000rpm、15分間の遠心分離により除去した。
組換えrITFの精製
酵母発酵肉汁培地及び精製の間に得られた分画におけるrITFの濃度を分析的HPLCにより測定した。30℃で平衡化されたVydac214TP54逆相C4 HPLC カラム (0.46×25cm) にアリコート (通常50〜200 μL) を15%(v/v)のアセトニトリル中の 0.1% (v/v)の TFAと共に流量 1.5mL/分で注入した。10分間の定組成溶離の後、溶離溶媒中のアセトニトリルの濃度は40分にわたって55%に上昇した。吸収は 214nmで測定した。26.5分、27.3分及び28.2分で溶離する3つのピーク(図2)はrITFの2量体型を表わすことを見い出した。計算された hSP標準 (Thim他、1993年) を用いて、そのペプチドの量を測った。
【0057】
本酵素系中の組換えラットITF の発現レベルは 113mg/Lであった。
【0058】
10Lの発酵槽から、遠心分離により 8.7Lの発酵肉汁培地を分離した。上清を14.8Lの蒸留水で希釈し伝導率を下げた。その試料をFast Flow S-Sepharose (Pharmacia) カラム (5×42cm) に流量 600mL/時間でポンプで注入した。適用の前にカラムを50mMの50mMのNaClを含有する、ギ酸緩衝液、 pH3.7中で平衡化させた。 600mL/時間の流量で 100mLの分画を収集し、rITFの量について分析した。rITFを含有する前の段階の分画を貯留し(2.3L) 、Amberchrome(G−71)カラム(5×10cm) にポンプで注入した。適用の前に、10mM酢酸アンモニウム緩衝液 pH4.8で流量 0.5L/時間でカラムを平衡化した。適用後、カラムを 0.5Lの平衡緩衝液で洗浄し、60% (v/v)のエタノールを含有する。pH4.8 の10mM酢酸アンモニウムで、流量 0.1L/時間で溶離させた。10mLの分画を収集し、rITFの量に従って貯留した。貯留中のエタノール濃度は2容積のエタノール(99.9%、v/v)を加えることによって60%(v/v)から87%(v/v)に増加し、結果として生じた混合物を−25℃に16時間冷却することによりrITFは沈殿した。
【0059】
沈殿物を10,000gで、−25℃で1時間の遠心分離により収集し、室温で 130mLの20mMギ酸 pH3.0に再溶解した。試料を Fast Flow SP-Sepharose (Pharmacia) カラム(5×20cm) に流量50mL/時間でポンプで注入した。適用の前にカラムを20mMギ酸 pH3.0で平衡化した。 1.5Lの50mMぎ酸 pH3.0及び 0.5M NaClを含有する 1.5Lのギ酸 pH3.0の間の直線グラジエントによりペプチドをカラムから溶離した。分画 (10mL) を流量80mL/時間で収集し、 280nmで吸収を測定した。分画はrITFの量について分析した。rITFに相当する分画を貯留した。ラットの ITFをさらに予備的HPLCで精製した。貯留された分画(900mL) を 0.1%(v/v)TFAで平衡化した、Vydac214TP1022C4予備的HPLCカラム(2.2×25cm) にポンプで注入した。ペプチドを、MeCN/H2O /TFA(10:89.9:0.1 ,v/v/v)及びMeCN/H2O /TFA(65:34.9:0.1 ,v/v/v)から形成した直線グラジエント(540mL) を用いて、25℃で流量5mL/分で溶離した。UV吸収を 280nmで監視し、10mLに相当する分画を収集し、rITFの量について分析した。rITFを含有する分画を貯留し、真空遠心分離によって容積を30%に減少させた。生じた貯留から、rITFを凍結乾燥により単離した。 8.7Lの発酵培地からのrITFの全収量は 236mgであって、全精製収率24%に相当した。
組換えhITFの精製
酵母発酵肉汁培地及び精製の間に得られた分画中のhITFの濃度をrITFについて記載したものと同一のHPLC系で測定した。この系においては、質量スペクトル及びシークエンス分析により、2つの溶離ピークが21.2分及び27.1分で見い出され、hITFの2量体型及び単量体型を表わす。この酵母系における組換えヒト ITFの発現レベルは90mg/Lであった。
【0060】
10Lの発酵槽から、 8.0Lの肉汁培地が遠心分離によって分離された。試料を40Lの10mMギ酸、 pH2.5に対して3回(各回24時間で)透析した。試料をSP-Sepharose Fast Flow (Pharmacia)カラム(5×40cm) にポンプで注入した (0.25L/時間)。カラムを5Lの20mMギ酸、 pH2.5で洗浄し、5Lの20mMギ酸、 pH2.5及び5Lの1MのNaClを含有するギ酸、 pH2.5で形成した直線グラジエントで溶離した。 100mLの分画を収集し、hITFの量について分析した(図3)。hITFの2つの型がカラムから溶離し、1つはhITFの単量体型(0.5MのNaClで溶離) を表わし、1つはhITFの2量体型(0.78MのNaClで溶離) を表わした。2つの型に相当する分画を別々に貯留した。
【0061】
各分画を3つの等しい分量(容積:約 700mL) に分割し、 0.1% (v/v)TFA中で平衡化したVydac214TP1022 C4 カラム(2.2×25cm) にポンプで注入した。ペプチドはMeCN/H2O /TFA(10:89.9:0.1 ,v/v/v)及びMeCN/H2O /TFA(65:34.9:0.1 ,v/v/v)の間の直線グラジエント(540mL) を用いて、流量4mL/分で溶離した。UV吸収を 280nmで監視し、10mLに相当する分画を収集し、hITFの量について分析した。
【0062】
hITF (単量体) 及びhITF(2量体)を含有する前段階からの分画を別々に貯留し、pHを 3.0に調整した。試料を別々に、40%(v/v)のエタノールを含有する20mMのギ酸 pH3.0で平衡化されたSP-Sepharose HiLoad 16/10(Pharmacia) カラム(1.6×10cm) に適用した。カラムを80mMの平衡緩衝液で洗浄し、 200mLの20mMギ酸、 pH3.0、40% (v/v)エタノール及び 200mLの40%(v/v)の1M NaClを含有する20mMギ酸、 pH3.0の間の直線グラジエントで、流量4mL/分で溶離した。分画(5mL)を収集し、hITFの量について分析した。
【0063】
hITF(単量体)及びhITF(2量体)をそれぞれ含有する分画を貯留し、エタノール濃度を90%(v/v)に調節し、混合物を−25℃で72時間冷却することによりペプチド含有量を沈殿させた。沈殿物を遠心分離によって収集し、凍結乾燥した。8Lの発酵肉汁培地からの総収量は226mg hITF(単量体)及び133mg hITF(2量体)で総精製収率は単量体型及び2量体型について、それぞれ50%及び65%であった。
組換えrITF及びhITFの特徴づけ
真空密封管内で6M HClで 110℃で24、48、96時間、加水分解後、試料 (50μg) をベックマン (Model 121 MB) 自動アミノ酸分析機で分析した。半−シスチンを、トリブチルホスフィンによるジスルフィド結合の還元(Rueegg及びRudinger、1974年) に続く4−ビニルピリジンを用いるカップリング (Friedman他、1970年) 後、S−β−(4−ピリジルエチル)誘導体として測定した。4−ビニルピリジン処理試料の加水分解を4Mメタンスルホン酸または3Mメルカプトエタンスルホン酸により、 110℃で24時間上記のように実施した。アミノ酸配列分析をApplied Biosystems Model 470A 気相シークエンサーを用いて自動化エドマン分解によって測定した (Thim他、1987年) 。
【0064】
質量スペクトル分析をAPI III LC/MS/MSシステム (Sciex, Thornhill, Ont., Canada) を用いて実施した。3つの部分からなる四極子器具は2400の質量対荷電(m/Z)範囲を有しており、空気補助電子スプレイ(イオンスプレイともいう)はインターフェースにはまっている(Bruins他、1987年; Covey他、1988年) 。試料の導入は液体流量 0.5〜1μL/分に固定された溶融毛細管(内径75μm)を通って、シリンジ注入ポンプ(Sage Instruments, Cambridge、マサチュセッツ州) によって行った。器具のm/Zの目盛は単位分析のもとにポリプロピレングリコール (PPGs) の単独に荷電したアンモニウム付加物イオンで目盛を決めた。質量測定の精度は一般に0.02%よりも良い。
【0065】
図4は精製rITF(図4A)及びhITF(図4B及び4C)について得られた分析的HPLCクロマトグラムを示す。組換えrITFは3つの密接に関連したペプチドの混合物を含有し、これらの型を分離する試みはなされなかった。電子スプレイ質量分析法により分析した時、13112.2, 13096.6及び 13078.8に相当する、3つの優位な分子量が見い出された(図5A)。 Cys−57が遊離SH基を含有する単量体型におけるラットの ITFの計算された分子量は6558.3である。2量体型 (たとえばS−S架橋が2つの Cys−57の間に確立されている)中のラットの ITFの計算された分子量は 13114.6である。組換えラットITF について見い出された分子量から、すべての3つのペプチドはrITFの2量体型を表わすことは明らかである。N−末端アミノ酸残基が Gln、たとえば PSPである他の三つ葉状のペプチドからは (Thim他、1985年及び Tomasetto他、1990年) 、この残基は環化してピロリドンカルボン酸 (pyrGlu) を形成する傾向がある。予想されたN−末端配列である、 Gln-Glu-Phe-Val-Glyを有するラットの ITFの場合、N−末端 Glnも環化してpyrGluを形成するだろうと仮定するのが合理的なようである。このような誘導体化はラットの ITF(2量体)の17(1つのpyrGlu) または34(2つのpyrGlu) 質量単位のそれぞれの分子量の減少を生ずるだろう。観察された分子量 13096.6及び 13078.8 (図5A)は、それぞれ1つ、2つのN−末端 Cln残基が環化された、ラットの ITFの2量体型に相当する。これらの型の計算分子量は 13097.6及び 13080.6であって、実験的に測定された値とよく一致している。このように、HPLC(図4A)及び質量分析(図5A)から、組換え体ラット ITFは3つの異った2量体型、すなわち、2つのN−末端 Glnを含有するもの、1つのN−末端 Glnと1つのN−末端pyrGluを含有するもの及び2つのN−末端pyrGluを含有するものからなると結論する。表Iはラットの ITFのアミノ酸組成を示し、予想値と良く一致している。
【0066】
図5A及び5Bは、分析的HPLCにより分析した時のhITF (単量体) 及びhITF(2量体)のそれぞれの純度を示す。2量体型(図5C)は、相対的に純粋にみえるが、単量体型(図5B)はペプチドの前に溶離する物質で汚染されているようである。しかしながら、主要なピークで溶離する物質の再クロマトグラフィーによると、同様なクロマトグラムが得られた(結果を示していない)。これは不純物よりもむしろ逆相カラムでのhITF(単量体)の異常行動を示すようである。我々は以前高度に純粋なブタの PSP並びに高度に純粋な組換え hSPの同様な行動を観察した (Thim他、1993年) 。
【0067】
hITF(単量体)の質量分析は主要なピークの分子量が 6694.0(図5B)に相当することを示す。アミノ酸配列(図1)から計算すると、分子量は Cys−57がSH型で存在すると仮定して、6574.4である。アミノ酸配列分析(表II)は、予想されたN−末端配列のGlu-Glu-Tyr-Val-Gly-を示す。アミノ酸組成分析(表I)は、7.3(8)システインの存在を除いて予想された値を示す。hITF単量体の Cys−57に結合する追加のシステインは質量分析法により測定した値(6694.0)に非常に近い、6694.7に分子量を増加させるだろう。したがって、hITF(単量体)では、 Cys−57は追加のシステインにジスルフィド結合していると思われる。質量スペクトル(図5B)における小さい分子量ピークは他の Cys−57誘導体を表わすか、調製物中の不純物であるかもしれない。
【0068】
2つの単量体が2つの Cys−57残基の間のジスルフィド結合によって結合している、hITF(2量体)の計算分子量は 13146.8である。これは質量分析法により測定された値(13147、図5C)と良く一致している。質量スペクトルにおける他のピーク(13169)はたぶんhITF (2量体) のNa+ 付加物を表わす。配列分析 (表I)並びにアミノ酸組成分析(表II)も予想された値と良く一致している。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1はヒトの腸の三つ葉状の因子ITF の提案された構造を示す。最初のアミノ酸配列はHauser他 (1993年) からとり、ジスルフィド結合を PSP及びpS2 (Thim, 1988年) に一致させて置いた。
【図2】図2はラットITF を発現している酵母株 HW756からの上清のVydac214TP54での逆相HPLCを示す。
【図3】図3は部分的に精製されたヒトITF の高速(Fast Flow) SP−セファロースカラム上のイオン交換クロマトグラフィを示す。hITF (単量体)及びhITF (2量体) の量を分析的HPLCにより測定した。棒は単量体及び2量体の形のさらなる精製のために貯留された分画を示す。点線は溶離液中のNaClの濃度を示す。
【図4】図4は精製されたラットのITF(2量体)(A)、ヒトのITF(単量体)(B) 及びヒトのITF(2量体)(C)の Vydac214TP54 C4カラムでの逆相HPLCを示す。
【図5】図5は精製されたラットのITF(2量体)(A)、ヒトのITF(単量体)(B) 及びヒトのITF(2量体)(C)の再構築された質量スペクトルを示す。
【図6】図6はヒトの ITFの2量体の型の構造を示す。
【図7】図7はプラスミド KFN1003の制限マップを示す。
【図8】図8はプラスミドpHW756の構築を示す。
【図9】図9はプラスミド pHW1066の構築を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が唯一の三つ葉状のドメインを含む2つの三つ葉状のペプチド単量体を含む三つ葉状のペプチドの2量体であって、前記単量体は2つのシステイン残基の間のジスルフィド結合によって結合されている前記2量体。
【請求項2】
前記三つ葉状のペプチド単量体が腸の三つ葉状の因子(ITF)及び乳がんに関係するペプチド(pS2)からなる群から選択されるものである請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
2つの ITF単量体の2量体である請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
前記 ITF単量体がヒトの ITF単量体である請求項3に記載のペプチド。
【請求項5】
分子量が約 13000である請求項3に記載のペプチド。
【請求項6】
前記 ITF2量体が、各単量体の位置57における2つのシステイン残基の間のジスルフィド結合によって結合されている請求項3に記載のペプチド。
【請求項7】
2つのpS2単量体の2量体である請求項2に記載のペプチド。
【請求項8】
前記pS2単量体がヒトのpS2単量体である請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
前記pS22量体が、各単量体の位置58における2つのシステイン残基の間のジスルフィド結合によって結合されている請求項7に記載のペプチド。
【請求項10】
各々が唯一の三つ葉状のドメインを含む2つの三つ葉状のペプチド単量体を含む三つ葉状のペプチドの2量体を製造する方法であって、1つの三つ葉状単量体をコードする DNA配列で形質転換された適当な宿主細胞をそのペプチドの生産を許容する条件下で培養し、その培養から結果として生ずる三つ葉状のペプチドを回収することを含む前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−161720(P2007−161720A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343522(P2006−343522)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【分割の表示】特願2001−363220(P2001−363220)の分割
【原出願日】平成7年8月25日(1995.8.25)
【出願人】(391032071)ノボ ノルディスク アクティーゼルスカブ (148)
【氏名又は名称原語表記】NOVO NORDISK AKTIE SELSXAB
【Fターム(参考)】