説明

三元混合エステル

本発明は、水性懸濁液中での表面膨潤が低く、高い相対高剪断粘度を有し、そして水中での熱フロキュレーション点が高い、革新的なセルロース誘導体、およびまた建材系におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性懸濁液中での表面膨潤が低く、高い相対高−剪断粘度を有し、そして水中での熱フロキュレーション(軟凝集)点が高い、革新的なセルロース誘導体、およびまた分散結合された建材系における、好ましくは分散結合された塗料における、その使用に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース誘導体は、これらの特性およびこれらの生理学的安全性が際立っているという理由で、多様な用途において、例えば増粘剤、接着剤、バインダー、分散剤、保水剤、保護コロイドおよび安定剤として、また懸濁化剤、乳化剤およびフィルム形成剤としても用いられている。
【0003】
セルロース誘導体のための用途の1つの分野は、エマルション塗料におけるこれらの増粘剤としての使用である。エマルション塗料の粘度は、一般的に、剪断速度に左右され、粘度は剪断速度が上がるに従って低下する。種々のセルロース誘導体を比較する場合、一般的な観測は、セルロース鎖の平均鎖長の値がより大きくなると、これらを用いて増粘されたエマルション塗料における剪断速度依存性粘度の低下がより大きくなることである。従って、長鎖セルロース増粘剤を用いる場合、高剪断速度での粘度(高−剪断粘度)は、一般的に、より短いセルロース鎖長の場合よりも低い。
【0004】
エマルション塗料用の増粘剤としての使用は、特にヒドロキシエチルセルロース(HEC)のエマルション塗料においてなされるが、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)またはメチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)のエマルション塗料においてもなされる。
【0005】
置換度の好適な選択を前提に、MHECおよびMHPCは高温水中で不溶であり、従って、これらの調製の過程で高温水での洗浄によって精製して、塩および他の水溶性副生成物を除去できる。これに対し、HECは、高温水中で可溶であり、従って、高温水を用いて精製して塩および他の水溶性副生成物を除去することはできない。
【0006】
これらのセルロース誘導体を用いる場合、しばしば使用者によって採用される手順は、まずセルロース誘導体の水中懸濁液を調製し、これを次いで塗料配合のさらなる構成成分とブレンドする。この目的のために、セルロース誘導体の分散体は、撹拌可能かつポンプ送り可能でなければならない。
【0007】
セルロース誘導体は、水との接触時に自然発生的な増粘効果を有さないように、これらは一般的に、エマルション塗料における使用のために抑制された溶解によって調製する。
【0008】
この抑制された溶解は、一般的に、ジアルデヒド(例えばグリオキサル等)との一時的な架橋によってもたらされる。架橋の結果として、セルロース誘導体は、まず初めに水不溶性であるが、懸濁液の温度およびpHの関数で水中に溶解し、そして次いで増粘効果を有する。
【0009】
抑制された溶解に加えて、セルロース誘導体の水吸収は、セルロース誘導体懸濁液の撹拌可能性およびポンプ送り可能性に影響する。この文脈において、セルロース誘導体は溶液になることなくセルロース誘導体は表面膨潤するが、水はセルロース誘導体によって物理的に結合する。セルロース誘導体の表面膨潤が高ければ、懸濁液の水の総量が結合する場合があり(特定の場合)、そしてセルロース誘導体懸濁液の撹拌可能性およびポンプ送り可能性は失われる。
【0010】
一般的なMHECは、溶解が抑制された形で与えられるが、それにも関わらずこれらは水性懸濁液中で強度に膨潤する。続いて、MHEC懸濁液の撹拌可能性およびポンプ送り可能性は、このような短時間の後で損なわれる。エマルション塗料において用いるHECは、水性懸濁液における抑制された溶解および低表面膨潤に関する要求に合致するが、他の不都合(例えば前記の高温水中での溶解性)、およびさらに、以下で説明する不都合を有する。
【0011】
MHECの表面膨潤は、添加剤処理ステップによって後続で影響する可能性があるのが事実である。よって、例えばJP48−34961は、60〜130℃で、4〜15時間に亘っての、50〜200rpmで閉鎖混合容器内での生成物の熱機械的処理を記載する。しかし、従って、この処理操作は高い余分な装置のコストおよび複雑性に関係し、そしてまた多くの余分な時間およびエネルギーを含む。
【0012】
セルロース誘導体の使用者の、エマルション塗料の増粘に対するさらなる要求は、高い高−剪断粘度である。エマルション塗料の粘度は一定ではないが、代わりに、剪断速度の関数として変化する。剪断速度が高くなるに従い、粘度は落ちる。実際には、静止状態において(例えば缶内での貯蔵中として)、高い粘度値はエマルション塗料の特性を表し、これにより、存在するフィラーおよび顔料の沈降に関する安定性を支持する、という事実においてこの効果が明示される。これに対し、ローラーまたはブラシでの比較的高剪断での加工中、顕著により低い粘度値は、エマルション塗料の特性を表し、迅速かつ容易な加工を可能にする。高剪断速度での粘度を、本明細書で、高−剪断粘度という。しかし、高−剪断粘度は低すぎてはならない。そうでないと、塗料の単独での適用が十分なコーティングフィルム厚みを生成しないからである。加えて、過度に低い高−剪断粘度の場合、塗料飛沫の形成の程度が増大する場合がある。
【0013】
エマルション塗料の粘度を、単に、増粘剤として用いる特定セルロース誘導体の量を変えることのみで設定する場合、使用者は、高−剪断粘度を、エマルション塗料の全体流動挙動で独立に設定する可能性を有さない。より高い量は高−剪断粘度を上げるが、全体的に、結果として、エマルション塗料は、粘稠になりすぎる場合があり、そしてもはや良好な加工特性を有さない。例えば、レベリング特性が乏しくなりすぎるために良好な表面がコーティングの上で得られないからである。
【0014】
先行技術において、エマルション塗料全体を粘稠にしすぎることなく高−剪断粘度を上げる種々の公知の手法が存在する。これらは、セルロース誘導体および合成の関連の増粘剤の組合せの使用、ならびに、関連の増粘させるセルロース誘導体の使用を含み、合成の関連の増粘剤および関連の増粘させるセルロース誘導体の活性は、エマルション塗料の他の構成成分(例えば界面活性剤等)によって大きく影響される。これは、塗料の粘度挙動の設定をより困難にし、そして粘度挙動に深刻な影響を有する配合に変わる。
【0015】
配合のより迅速な決定は、より多い量で比較的低鎖長のセルロース誘導体を使用することによって高−剪断粘度が具体的に上昇すれば、予測される。課題に対するこの解決は、しかし、コスト高である。これはより高量のセルロースエーテルを必要とするからである。
【0016】
エマルション塗料において用いるHECは、高い高−剪断粘度に関する要求に合致しない。一方、MHECは、使用者によって要求されるこの高い高−剪断粘度を与える。
【0017】
実施のためのさらなる関連の変数は、幾つかのセルロース誘導体の熱フロキュレーション点である。水中の熱フロキュレーション点の効果は、セルロース誘導体の典型的な温度より上では、セルロース誘導体は水中で不溶性になることである。製造操作において、または後続の輸送、貯蔵または使用の過程において、エマルション塗料は、最高65℃の温度にさらされる場合があるため、セルロース誘導体のフロキュレーション点は、少なくとも65℃超であることが重要である。これは、実施において典型的に直面する温度からの十分な隔たりを確保する。
【0018】
エマルション塗料において用いるHECおよびMHECは、この要求に合致する。HECは、水中での熱フロキュレーション点を有さない。エマルション塗料用のMHECの熱フロキュレーション点は、一般的に70℃超である。しかし、水中での熱フロキュレーション点を有する他のセルロース誘導体(例えばMHPC)は、市場での広い定着を実現できなかった。これらの熱フロキュレーション点は70℃未満であるからである。
【0019】
MHEHPCの使用はまた、当業者に公知である。US3,873,518は、メトキシ量6〜12.5質量%、ヒドロキシエトキシ量10〜22質量%およびヒドロキシプロポキシ量14〜32質量%のMHEHPC、ならびにその増粘剤としてのエマルション塗料中での使用を記載する。これらのフロキュレーション点は70℃超であるが、これらの生成物は、低い高−剪断粘度に関してHECと同じ不都合を有する。
【0020】
EP0 598 282は、ヒドロキシアルキル基による置換度が0.7未満、特に0.6未満、より特別には0.3未満、およびメチル基の置換度が1.6〜2.5、より特別には1.8〜2.4のMHEHPCを、ピクリング剤用の増粘剤として記載する。
【0021】
EP0 120 430は、メチル化度0.9〜2.1、ヒドロキシエチル化度0.2〜0.5、およびヒドロキシプロピル化度0.08〜0.4のMHEHPCを記載する。これらの生成物は、フロキュレーション点が70℃未満である。
【0022】
EP0 598 282の生成物のみならず、EP0 120 430の生成物も、高い表面膨潤を有し、そして得られる生成物はフロキュレーション点<70℃である。
【0023】
セルロースエーテルは、一般的にいって、セルロースを水性アルカリ金属水酸化物溶液でアルカリ化し、アルカリ化されたセルロースを1種以上のアルキレンオキサイドと、および/または1種以上のハロゲン化アルキルと反応させ、そして得られるセルロースエーテルを反応混合物から分離し、適切な場合、これを洗浄し、そしてこれを乾燥させ、そしてこれを粉砕に供することによって得ることができる。
【0024】
述べたように、抑制された溶解を伴うセルロースエーテルは、例えばUllmann’s Encyclopaedia of Technical Chemistry,Volume A5,pp.472−473でそれ自体が公知である。
【0025】
抑制された溶解を伴うセルロースエーテルは、例えば、グリオキサルを反応混合物から分離および精製されたセルロースエーテルに添加することによって、先行技術に従って製造され、該添加を粉砕および乾燥の前に行い、そして架橋を実施する。EP1 316 563は、溶解を抑制するためのこの種の方法を記載する。
【0026】
混合セルロースエーテルを製造するためのエーテル化プロセスは、一般的に先行技術であり、そして例えばEP1 180 526およびEP1 279 680に記載されている。
【0027】
現在までに公知のセルロース誘導体のいずれも、上記で特定した要求の全てに合致するものではないため、
・粉末生成物への追加の後続の処理ステップなしで水性分散体中で低い表面膨潤を示す;
・高い高−剪断粘度を水性溶液として示す;そして
・水中で少なくとも65℃超の熱フロキュレーション点を有する;
セルロース誘導体の提供に対する緊急の要求が引き続き存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0028】
ここで驚くべきことに、この目的は、三元セルロース誘導体:メチルヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロース(MHEHPC)(ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基およびメチル基について特定の置換を有するもの)を用いることにより実現可能になった。
【0029】
セルロースエーテル化学において、一般的に、アルキル置換はDSにより示される。DSは、無水グルコース単位当たりの置換されたOH基の平均数である。メチル置換は、例えばDS(メチル)またはDS(M)と表される。
【0030】
典型的には、ヒドロキシアルキル置換は、MSにより示される。MSは、無水グルコース単位のモル当たりのエーテル式で結合しているエーテル化試薬のモルの平均数である。エーテル化試薬エチレンオキサイドによるエーテル化は、例えば、MS(ヒドロキシエチル)またはMS(HE)として報告する。エーテル化試薬プロピレンオキサイドによるエーテル化は、従って、MS(ヒドロキシプロピル)またはMS(HP)という。
【0031】
側基の決定(すなわちMSおよびDSの値で)は、Zeisel法(文献:G.BartelmusおよびR.Ketterer,Z.Anal.Chem.286(1977)161−190)に基づいてなされる。
【0032】
本発明は、第1に、下記のMHEHPCを提供する。
【0033】
本発明のMHEHPCは、MS(HE)0.10〜0.70、好ましくは0.15〜0.70、より好ましくは0.20〜0.65;MS(HP)0.30〜1.00、好ましくは0.30〜0.90、より好ましくは0.35〜0.80;およびDS(M)1.15〜1.80、好ましくは1.20〜1.75を有する。
【0034】
特に好ましくは、本発明のMHEHPCは、MS(HE)0.24〜0.60、より好ましくは0.27〜0.55、MS(HP)0.41〜0.75、より好ましくは0.42〜0.70、およびDS(M)1.22〜1.70、より好ましくは1.25〜1.65を有する。
【0035】
特に好ましくは、本発明のMHEHPCは、MS(HE)0.29〜0.50およびMS(HP)0.44〜0.65およびDS(M)1.30〜1.60を有する。
【0036】
本発明のMHEHPCの総ヒドロキシアルキル化度MS(HA)(MS(HS)とMS(HP)との和に等しい)は、一般的には0.45〜1.60、好ましくは0.55〜1.5、より好ましくは0.65〜1.4、特に好ましくは0.70〜1.30である。
【0037】
本発明のMHEHPCの水中の溶液の粘度は、2質量%(溶液基準)の量および剪断速度2.55 l/sについて、20℃で測定したときに、100〜200000mPa・sであることができる。好ましくは1000〜80000mPa・s、より好ましくは30000超〜80000mPa・s、特に好ましくは35000〜70000Pa・sの間の粘度を有するMHEHPCグレードを用いて与えられる。使用者に入手可能であった低い表面膨潤を有するHEC生成物の範囲は、これまで、3000〜30000mPa・sであった。本発明のMHEHPCによって、より高い粘度の範囲、30000〜80000mPa・s、より好ましくは35000〜70000mPa・sの間が、今やさらに開拓される。粘度は、水性溶液の、Haake Rotovisko VT 550(DIN 53019に従った測定用素子を有する)における20℃での上記で特定された濃度および特定された剪断速度での測定によって評価される。
【0038】
本発明のセルロースエーテルは、典型的には、粉末(その粒子サイズX50は、50〜500μmの間である)の形状で用いる。粒子サイズX50は、それにより適用する物質の50質量%がx未満であり50質量%が少なくともxである粒子サイズと定義する。好ましくは、全ての粒子が、300μm篩を通過し、各々の場合でDIN66165に従って篩分析によって決定される。
【0039】
本発明のセルロースエーテルは、他のセルロース系増粘剤または合成増粘剤との混合物または組合せとして使用できる。
【0040】
本発明のセルロースエーテルは、好ましくは、溶解抑制配合物として与えられる。これは、セルロースエーテルが、一時的に水不溶性(例えば可逆架橋によって)であることを意味する。水との接触の際、セルロースエーテル粒子は溶液にはならないが、代わりに、初期に若干分散できる。溶解が次いで誘発される(例えば、温度の増大またはpHの変化によって)。1つの好ましい抑制溶解用剤はグリオキサルであり、これは先行技術の方法によってセルロースエーテルに組み入れまたは表面に適用する。
【0041】
本発明の三元セルロースエーテルは、水性分散体中で低い表面膨潤を示す。表面膨潤は、セルロース誘導体が溶液になることなく、水がセルロース誘導体によって物理的に結合することを意味する。小粒子の場合、ここで、幾つかの場合において、粒子の表面膨潤と粒子全体としての膨潤との間の識別は不可能である。
【0042】
膨潤値によって表される、表面膨潤を評価する1つの特に実際的な方法は、セルロースエーテルの濃縮された弱酸性の懸濁液を準備し、次いで撹拌可能性を観測することである。スラリー濃度14g、好ましくは16gのセルロースエーテル/100mlの水、では、本発明に係る生成物は、少なくとも1分間なお撹拌可能である。該方法のために、水の物理的な結合が測定されることを確保することが必要である。これは、例えばグリオキサル架橋による溶解の十分な抑制によって実現できる。弱い酸性のpHの設定により、グリオキサル処理されたセルロースエーテルの溶解は妨げられる。膨潤値を評価する正確な方法は例において説明する。
【0043】
本発明のセルロースエーテルは、一般的に、高い高−剪断粘度を剪断速度500s-1で(V500)少なくとも270・x・mPa・s有する。ここで、xは、質量%(完成した溶液基準)単位での、剪断速度2.55s-1での粘度(V2.55(X))9500〜10500mPa・sを有する水性溶液の調製のために使用が必要であるセルロースエーテルの量である。条件V500≧270・x・mPa・sは、全範囲に亘ってV2.55(X)=9500〜10500mPa・sに当てはまることを必要としない。1つの値xについて、9500〜10500mPa・sの範囲内に入る粘度V2.55(X)が得られれば十分である。
【0044】
高−剪断粘度は、ここで、セルロース誘導体の水性溶液の粘度が、剪断速度500 l/sで評価されることを意味し、この溶液の2.55 l/sでの粘度は、適切な量に亘って10000mPa・s±500mPa・sに調整されたものである。エマルション塗料全体が粘稠になりすぎることなくエマルション塗料における高−剪断粘度を最大化することには価値がある。言い換えると、系の粘度は例えば9500〜10500mPa・sよりも高くないのがよい。
【0045】
製造操作において、または後続の輸送、貯蔵または適用の過程で、エマルション塗料は、最高65℃の温度にさらされる場合があるため、セルロース誘導体のフロキュレーション点が少なくとも65℃超であることが高度に望ましい。これは、実施において典型的に直面する温度からの十分な隔たりを確保する。水中での熱フロキュレーション点は、水中の溶液中のセルロース誘導体が、セルロースエーテル溶液の温度が増大した場合に溶解の状態から離れることを意味する。この点で、セルロースエーテル/水系の特性における独特の変化が存在する。特性におけるこれらの変化は、例えばレオロジーでまたは光学的に測定できる。エマルション塗料系におけるレオロジー特性の変化は、例えば、これまでの安定な分散体の分解、従って塗料が不安定になること、を招来する場合がある。本発明のセルロースエーテルは、水中での熱フロキュレーション点(すなわちフロキュレーション温度)65℃超、好ましくは少なくとも70℃、より好ましくは少なくとも72℃を有する。フロキュレーション温度を評価する正確な方法は例において説明する。
【0046】
新たな三元セルロースエーテルを製造するための本発明の方法は、以下のステップを含む:
a)出発セルロースを、無水グルコース単位(AGU)当たり1.5〜5.5当量のアルカリ金属水酸化物(好ましくは水性アルキル金属水酸化物溶液の形で使用する)でアルカリ化すること、
b)ステップa)からのアルカリ化されたセルロースを、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドと温度65℃超で、ハロゲン化アルキルを、以下の式、A=[AGU当たりのアルカリ金属水酸化物の当量 マイナス1.4]から[AGU当たりのアルカリ金属水酸化物の当量 プラス0.8]に従って算出される量で含む懸濁媒体の存在下で反応させること、
c)次いで、更にハロゲン化アルキルを、少なくとも、既に計り入れたハロゲン化アルキルのAGU当たりの当量の量Aと、計り入れたアルカリ金属水酸化物のAGU当たりの量との差である量Bで計り入れ、この量Bが、AGU当たり0.2当量以上であること、
d)適切な場合には、更にアルカリ金属水酸化物を、65℃超で添加すること、そして
e)得られるアルキルヒドロキシアルキルセルロースを、反応生成物混合物から単離し、必要な場合には洗浄すること。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(原文に記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0048】
好適な出発物質は、メカニカルパルプまたはコットンリンターの形状のセルロースである。エーテル化生成物の溶液粘度は、出発セルロースの好適な選択を通じて幅広い範囲で変動できる。優先的に好適であるのは、グランド(ground)メカニカルパルプおよびグランドリンターセルロースまたはこれらの混合物である。
【0049】
ポリサッカライドは、無機塩基、好ましくはアルカリ金属水酸化物で、水性溶液(例えば水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム)中で、好ましくは35%〜60%濃度の水酸化ナトリウム溶液、より好ましくは48%〜52%濃度の水酸化ナトリウム溶液で、アルカリ化(活性化)する。
【0050】
懸濁媒体として、ジメチルエーテル(DME)、C5−C10アルカン,例えばシクロヘキサンまたはペンタン、芳香族化合物,例えばベンゼンまたはトルエン、アルコール,例えばイソプロパノールまたはtert−ブタノール、ケトン,例えばブタノンまたはペンタノン、開鎖または環状のエステル,例えばジメトキシエタンまたは1,4−ジオキサン等、およびまた列挙した懸濁媒体の種々の比率での混合物の使用が可能である。特に好ましい不活性懸濁液はジメチルエーテル(DME)である。
【0051】
方法の一般的な説明を、好ましい不活性懸濁媒体DMEを用いて、以下に与える:
用いるセルロースは、無水グルコース単位(AGU)当たり1.5〜5.5eqのNaOH、好ましくはAGU当たり1.8〜3.0eqのNaOH、より好ましくはAGU当たり2.0〜2.5eqのNaOHでアルカリ化する。一般的にいうと、アルカリ化は、温度15〜50℃、好ましくは40℃程度で、20〜80分間、好ましくは30〜60分間実施する。NaOHは、好ましくは35〜60質量パーセント濃度水性溶液の形、より好ましくは48%〜52%濃度水酸化ナトリウム溶液の形で用いる。
【0052】
続いて、得られるアルカリ金属セルロースを、DMEと第1の量の塩化メチル(MCL I)との混合物中に懸濁させる。MCL Iの量は以下のように特徴付けられ、単位「eq」は、用いるセルロースの無水グルコース単位(AGU)に対するそれぞれの含有成分のモル比を表す:
【0053】
最小で、eq MCL I=eq NaOH 毎AGU マイナス1.4、好ましくはマイナス1.0、より好ましくはマイナス0.6、そして最大で、eq MCL I=eq NaOH 毎AGU プラス0.8、好ましくはプラス0.5、より好ましくはプラス0.3。
【0054】
MCL Iの好ましい量は、以下の通りである:最低で、eq MCL I=eq NaOH 毎AGU マイナス1.0、そしてまた最大で、eq MCL I=eq NaOH 毎AGU プラス0.3。
【0055】
MCL Iの特に好ましい量は、以下の通りである:最低で、eq MCL I=eq NaOH 毎AGU マイナス0.5、そしてまた最大で、eq MCL I=eq NaOH 毎AGU プラス0.1。
【0056】
MCL Iの最も好ましい量は、以下の通りである:最低で、eq MCL I=eq NaOH 毎AGU マイナス0.5、そしてまた最大で、eq MCL I=eq NaOH 毎AGU マイナス0.1。
【0057】
比DME/MCL Iは、一般的には90/10〜30/70質量部、好ましくは80/20〜45/55質量部、およびより好ましくは75/25〜60/40質量部である。
【0058】
アルカリ金属セルロースをDME/MCL混合物中に懸濁させた後、ヒドロキシアルキル化剤、エチレンオキサイド(EO)およびプロピレンオキサイド(PO)を計り入れ、そして加熱により熱的に反応させる。ヒドロキシアルキル化剤の添加はまた、加熱段階中に実施できる。ヒドロキシアルキル化剤およびMCL Iによる反応は60〜110℃、好ましくは70〜90℃、より好ましくは75〜85℃で行う。
【0059】
置換の目的レベルに応じて、使用すべきEOの量は0.20〜3.25eq毎AGU、好ましくは0.38〜1.85eq毎AGU、より好ましくは0.48〜1.30eq毎AGUである。EOは、反応系に、1つの計量ステップで、または2以上の計量ステップの分割量で、適切な場合には、計量すべきPOと同時にまたはこれとの混合物で、添加する。代替として、EOおよびPOの添加はまた相次いで行ってもよく、この場合、順番は変えてもよい。
【0060】
置換の目的レベルに応じ、使用すべきPOの量は0.44〜4.00eq毎AGU、好ましくは0.53〜2.35eq毎AGU、より好ましくは0.63〜1.50eq毎AGUである。POの反応系への添加は、1つの計量ステップで、または2以上の計量ステップの分割量で;好ましくは1ステップでの計量で、適切な場合には、計量すべきEOと同時にまたはこれとの混合物で、行うことができる。
【0061】
最大の性能は、EOとPOとの混合物の連続添加に与えられる。
【0062】
第1のエーテル化段階に続き、メチル基での所望の置換のために必要な第2の量の塩化メチル(MCL II)を、実質的な冷却なしで添加し、この第2の量は、以下のように特徴付けられる:最小で、eq MCL II=eq NaOH マイナスeq MCL I プラス0.3、または、最小で、eq MCL II=0.2eq MCL毎AGU(先の式によって算出されるMCL IIの量が0.2eqMCL毎AGU未満の場合)である。好ましくは、eq MCL II=1〜3.5eqMCL毎AGU、より好ましくはeq MCL II=1.5〜2.5eqMCL毎AGUを用いる。MCL IIの量は、温度65℃超、好ましくは75〜90℃、またはヒドロキシアルキル化段階の終点で使われる温度で添加する。
【0063】
続いて、高DS(M)を設定するために、任意に、さらなる量のアルカリ金属水酸化物を水性溶液として、実質的な冷却なしで計り入れる。NaOHは、35〜60質量パーセント濃度の水性溶液の形、より好ましくは48%〜52%濃度の水酸化ナトリウム溶液の形で用いることが好ましい。0.2〜1.9eqNaOHII毎AGUを後続の添加として用いることが好ましく;特に好ましくは、0.4〜1.5eqNaOHII毎AGUを後続の添加として用い;最も好ましくは、0.6〜1.1eqNaOHII毎AGUを後続の添加として用いる。
【0064】
第2のエーテル化段階の終了後、全ての揮発性構成成分を、蒸留により分離して除く。適切な場合には減圧を用いる。得られた生成物の精製、乾燥および粉砕は、セルロース誘導体技術において典型的な先行技術の方法に従って行う。
【0065】

フロキュレーション温度は、以下のように評価する:水性試験溶液(0.1質量%(完成した溶液基準)のセルロースエーテルを含有する)を、95℃超まで、加熱速度2℃/分で撹拌(マグネチックスターラー)しながら加熱する。用いる装置は、サーキュレーションサーモスタット(温度プログラムセッター付き)、冷却アセンブリおよび熱交換手段(20〜130℃の温度のために)、そしてダブルジャケットの温度制御可能な撹拌容器であり、この容器はサーモスタットに取付けられている。セルロースエーテルのフロキュレーションによる曇りを、450nmでの光吸収によって、導波光度計662(Metrohm)を用いて測定し、そして、溶液の温度に対して記録する。温度を増大させるためのプロットの分岐は、一般的に、比較的シャープなキンクを有し、これは、フロキュレーション点および従ってフロキュレーション温度を記す。1つのタンジェントはベースラインに近接し、別のものは吸収温度カーブの変曲点を通る。タンジェントの変曲点において、フロキュレーション温度は、0.1℃と読み取られる。経験上、誤差範囲は約±0.3〜±0.5℃である。
【0066】
粘度は、水性溶液の、Haake Rotovisko VT 550(DIN 53019に従った測定用素子を有する)における、20℃での、各々の場合で記載する濃度および各々の場合で記載する剪断速度での測定によって評価する。
【0067】
膨潤値は、以下のように評価する:0.200gのNaH2PO4を、約3分間以内に、400mlガラスビーカー(高形状)内で、100.00gの水道水によって完全に溶解させる(目視の検査)。溶液を室温の20±0.5℃で、市販のマグネチックスターラー(例えば、IKAより:IKA RETベーシック、またはIKAMAG RET)を用いて、初期には500rpmで、市販のTeflon(登録商標)コートされたマグネチック撹拌棒(40×8mm)を用いて撹拌する。その後、時間t=0(ストップウォッチ)で、まず2.000gのグリオキサル処理したセルロースエーテル(開発中のもの)を、ガラスビーカー表面の中央に迅速に添加する。セルロースエーテルを、EP1316563A1の例5、第4〜5頁に係るプロセスに従ってグリオキサルで処理する。次いで、60秒毎に、さらに2.000gのセルロースエーテルを添加し、マグネチックスターラーの速度を調整する(すなわち増大させる)。試験は、懸濁液がもはや撹拌できなくなった時点で中止する。これは、セルロースエーテルが表面上に1分間を超えて残る場合(少なくとも幾つかの場合)である。分散可能な、すなわちなお撹拌可能であるセルロースエーテルの最大量は、段階的に添加したセルロースエーテルの量の合計に対応し、添加した最後の量以下でかつこれを含み、これは撹拌によって完全に組み入れられたものである。添加される割合量(これはまた分散したものであってもよい)(添加される量の残りはもはや撹拌によって組み入れることができないが)は、無視する。14g、好ましくは16gを添加した後、試験を終了させる。この場合、膨潤は十分に低い。
【0068】
フロキュレーション温度および膨潤に関する例
以下の発明例4〜9ならびに比較例1〜3および10〜12から、本発明のMHEHPCが十分に高いフロキュレーション温度のみでなく良好な膨潤値も有することが明らかである。
【0069】
【表1】

【0070】
同様に、良好な膨潤値は、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)およびエチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)によって実現される。これらはしかし、低い高−剪断粘度を有する。
【0071】
高−剪断粘度に関する例
図1において、HEC,hmHEC(疎水的に修飾されたHEC)、CMCおよびEHECが、MHECおよびMHPC、ならびにまた本発明のMHEHPCと比べてより低い高−剪断粘度の不都合を示すことが明らかである。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
比較例13は、US 3873518(Strangeら)に従い、そして本発明のMHEHPCは、以下の置換度を有する:
【0075】
【表4】

【0076】
製造例
400lのオートクレーブ内で、24.7kgのグランドメカニカルパルプおよび10.4kgのグランドコットンリンターを、窒素による排気および包囲によって不活性にする。続いて、57.4kgのジメチルエーテルと1.9mol eqのクロロメタンとの混合物を反応器内に計り入れる。次いで、2.2mol eqの水酸化ナトリウム(50質量%濃度の水性水酸化ナトリウム溶液の形)をセルロース上に、混合しながら、約10分間に亘ってスプレーする。反応段階全体を通じて、反応系を混合し続ける。アルカリ化をさらに35分間実施する。水酸化物溶液の計量および後続のアルカリ化は、温度を約25℃から約40℃に増大させて進める。次いで、0.60mol eqのエチレンオキサイドを反応器内に約30分間に亘って計り入れる。続いて、1.05mol eqのプロピレンオキサイドを反応器内に約35分間に亘って計り入れる。アルキレンオキサイドの計量添加の間、混合物をゆっくり約80℃に加熱する。混合をこの温度でさらに40分間実施した時点で、加熱を約85℃に15分間に亘って行い、そして次いで、2.20mol eqの塩化メチルを反応器内に10分間に亘って計り入れる。続いて反応をこの温度で50分間さらに続ける。その後、揮発性の構成成分を蒸留して除き、そして反応器から排出する。
【0077】
粗生成物を、高温水での洗浄、次いで乾式での造粒および粉砕に供する。造粒ステップの間、1質量%のグリオキサル(乾燥MHEHPC質量基準)を組み入れる。
【0078】
得られるメチルヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロースの、メチル基による置換度(DS M)は、1.41であり、ヒドロキシエチル基による置換度(MS HE)は0.39であり、そしてヒドロキシプロピル基による置換度(MS HP)は0.43であった。
【0079】
このセルロースエーテルの水中の溶液の粘度は、使用量2質量%、剪断速度2.55 l/s、20℃での測定で、38200mPa・sであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MS(HE)が0.10〜0.70、MS(HP)が0.30〜1.00、およびDS(M)が1.15〜1.80であることを特徴とする、メチルヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロース(MHEHPC)。
【請求項2】
粘度が100〜200000mPa・sの範囲内である、請求項1に記載のMHEHPC。
【請求項3】
総ヒドロキシアルキル化度MS(HE)+MS(HP)が、0.45〜1.60である、請求項1または2に記載のMHEHPC。
【請求項4】
MHEHPCが、粒子サイズ50〜500μmの間の粉末形状で存在する、前掲の請求項のいずれかに記載のMHEHPC。
【請求項5】
膨潤値が少なくとも14gである、前掲の請求項のいずれかに記載のMHEHPC。
【請求項6】
フロキュレーション温度が65℃超である、前掲の請求項のいずれかに記載のMHEHPC。
【請求項7】
MHEHPCが高−剪断粘度V500≧270・x・mPa・sを有し、xが、剪断速度2.55s-1(V2.55(x))での粘度9500〜10500mPa・sを有する水性MHEHPC溶液を調製するのに必要なMHEHPCの量を、完成溶液基準の質量%基準で示す、請求項6に記載のMHEHPC。
【請求項8】
前掲の請求項のいずれかに記載のMHEHPCを製造する方法であって、
a)出発セルロースを、AGU当たり1.5〜5.5当量のアルカリ金属水酸化物でアルカリ化し、
b)ステップa)からのアルカリ化されたセルロースを、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドと温度65℃超で、ハロゲン化アルキルを、A=[AGU当たりのアルカリ金属水酸化物当量 マイナス1.4]から[AGU当たりのアルカリ金属水酸化物当量 プラス0.8]の量で含む懸濁媒体の存在下で反応させ、
c)次いで、更にハロゲン化アルキルを、少なくとも、既に計り入れたハロゲン化アルキルのAGU当たりの当量の量Aと、計り入れたアルカリ金属水酸化物のAGU当たりの量との差である量Bで計り入れ、この量Bが、AGU当たり0.2当量以上であり、
d)適切な場合には、更にアルカリ金属水酸化物を、65℃超で添加し、そして
e)得られるアルキルヒドロキシアルキルセルロースを、反応生成物混合物から単離し、必要な場合には洗浄する、
方法。
【請求項9】
分散−結合された建材系における、請求項1〜7のいずれかに記載のMHEHPCの使用。

【図1】
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【公表番号】特表2011−502197(P2011−502197A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531441(P2010−531441)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008709
【国際公開番号】WO2009/059686
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】