説明

三味線

【課題】本発明は、三味線胴部の開口部が猫や犬の皮の代わりに和紙材で覆われ、前記胴部の底部が木材板などからなる、安価で、メンテナンスが容易で、量産可能な三味線の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の三味線は、胴部が、底部と4つの側壁を有し上部が開口した木製の箱体からなり、前記胴部の開口部が和紙材で覆われ、前記胴部の底部が木材板、合成樹脂板、猫の皮または犬の皮のいずれかからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新しい三味線に関する。さらに詳しくは、三味線の胴部の開口部が和紙材で覆われた三味線に関する。
【背景技術】
【0002】
図1および図2を参照して説明すると、三味線1は、胴部3と、該胴部3の一側壁から伸びた棹部2と、該棹部2の先端部近傍に設けられた糸巻部R1〜3と、前記一側壁と対向する側壁の外面に設けられた根緒5との間に張設される3本の絃TH1〜3を主要部として構成され、前記絃TH1〜3を演奏者がバチで弾いて演奏する日本の伝統的な楽器のうちの1つである。
【0003】
三味線の胴部3は、木材をほぼロの字状に組み立てた胴枠部からなり、前記胴枠部の両面にある開口した部分には、猫や犬の皮が用いられるのが常である。これにより、音が抜けすぎず重量感のある三味線特有の音色が得られる。
【0004】
一方、日本の伝統文化を後世に残すという見地から、教育現場において、三味線を教材として取り入れたいというニーズがある。また、三味線の利用は、現在、一部の愛好家に限られているが、広く一般に親しんでもらうことが望まれている。そのためには、安価で、メンテナンスが容易で、量産可能な三味線を提供する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記三味線に用いられる猫や犬の皮は外国から輸入するなど調達が容易でなく、材料コストが高いという問題がある。
【0006】
また、前記三味線に用いられる猫や犬の皮は、その耐用年数は2年程度であることから、定期的に皮を張り替える必要があるが、猫や犬の皮は品質、特に皮の厚さが不均一であることから、皮の張り替えは職人による高い技量を必要とする。そのため、その費用は高額であり、前記張り替え作業には日数を要し、さらには、三味線の量産を困難にしている。また、前記の事情は、三味線の一般への普及、特に教育現場における三味線の教材としての普及を妨げている。
【0007】
また、猫や犬の皮は、空気中の湿気の影響を受けやすく、湿度によって音質が左右されやすいという問題がある。
【0008】
さらに、前記より、三味線には猫や犬の皮が用いられるため、動物愛護の観点からも問題がある。
【0009】
そこで、本願の発明者は、猫や犬の皮の代わりに、安価で、張り替えが容易な和紙を用いることを思いついたが、三味線の胴枠部の両面の開口部に和紙を用いた場合、音が抜けすぎるため三味線特有の音色が得られないという問題に直面した。
【0010】
しかし、従来の三味線の胴枠部の開口部の一方に、音が抜けにくい木材板、合成樹脂板、猫の皮または犬の皮を用いることによって、音が抜けることを適度に調節し、ソフトで自然な音色が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであり、三味線胴部3の開口部が猫や犬の皮の代わりに和紙材4で覆われ、前記胴部3の底部8が木材板などからなる、安価で、メンテナンスが容易で、量産可能な三味線の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の三味線1は、胴部3が、底部8と4つの側壁を有し上部が開口した木製の箱体からなり、前記胴部3の開口部が和紙材4で覆われ、前記胴部3の底部8が木材板、合成樹脂板、猫の皮または犬の皮のいずれかからなることを特徴とする。
【0013】
また、前記和紙材4が和紙層および膠またはゼラチン層が積層された重合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の三味線1は、猫や犬の皮の代わりに和紙材4を用いることにより、表皮の材料コストを少なくとも20分の1に抑えることができるため、三味線の製造コストの抑えることができる。
【0015】
和紙材4についても、猫や犬の皮と同様に定期的に張り替える必要があるが、膠またはゼラチンを混入することにより一定の強度を得た和紙材4の耐用年数は猫や犬の皮よりも長く、和紙材の張り替え頻度を低減することができる。また、和紙材4の張り替えは、猫や犬の皮の場合のような職人的技量を必要としないため、その費用は安価であり、三味線の維持費用の負担を軽減することができる。また、和紙材4の張り替え作業は比較的容易であるため、猫や犬の皮の場合のような日数も必要としない。
【0016】
前記膠またはゼラチンを混入した和紙材4は、猫や犬の皮と比較して、湿気に左右されにくいため、和紙材4を用いた三味線1は、天候や湿度の影響をあまり受けず安定した音質が得られる。また、前記膠またはゼラチンを混入した和紙材4を用いることにより、音が抜けることを低減し、三味線の音色に重量感を与える。
【0017】
猫や犬の皮の代わりに前記和紙材4を用いた三味線1は、動物愛護の観点から望ましい。
【0018】
また、前記胴部3の底部8が木材板、合成樹脂板、猫の皮または犬の皮からなり、前記胴部3の開口部が和紙材4で覆われている三味線は、音が抜けすぎず、猫や犬の皮を用いた場合と比較して遜色のない、ソフトで自然な音色を奏でる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の三味線を説明するための斜視図であり、図2は、本発明の三味線の一実施の態様にかかわる胴部の断面図であり、図2(a)は、胴部の上部が開口した木製の箱体からなり、箱体は底部と4つの側壁とから構成されている。また、図2(b)は、前記底部に、木材板の代わりに合成樹脂板、猫の皮または犬の皮が用いられている。図3は、本発明の三味線に用いられる和紙材の構造を説明するための概念図である。
【0021】
本発明の三味線1は、図1に示されるように、棹部2および胴部3から構成されている。棹部2は、胴部3に胴部3の一側壁を貫通して嵌合されている。棹部2は、紅木、花梨、または紫檀により形成される。
【0022】
棹部2の先端部近傍には、絃TH1〜3を張力可変に固定するための糸巻きR1〜R3が設けられている。絃TH1〜3は、それぞれがほぼ平行になるように張られている。一の絃TH1、二の絃TH2、三の絃TH3がそれぞれ一の糸巻きR1、二の糸巻きR2、三の糸巻きR3に巻回されており、絃TH1〜3の他端は、前記一側壁と対向する側壁の外面に設けられた根緒5に結束して固定されている。
【0023】
胴部3は、上部が開口した木製の箱体からなり、前記箱体には、外側に出る年輪がきれいで、重さも三味線にちょうど良いという理由で花梨が用いられる。
【0024】
前記箱体の開口部は、和紙材4で覆われている。和紙材4を用いることにより、製造コストを抑えることができ、三味線の維持が容易になり、ソフトで自然な音色が得られる。前記和紙材4は、寒梅粉(もち米を原料とした糊粉)を水で練ったものを接着剤として、胴部3に貼り付けられるが、前記接着剤は、特に寒梅粉に限定されるものではない。
【0025】
和紙材4と絃TH1〜3の間には、演奏時、和紙材4と絃TH1〜3を離間するために、取り外し可能に、駒6が設けられる。駒6は絃の振動を皮に伝えるためのものである。
【0026】
また、胴部3には、舟形のカバーである胴掛け7が掛けられる。胴掛け7は、右腕をのせるためのものである。
【0027】
図2(a)に示すように、胴部3は、上部が開口した木製の箱体からなり、前記箱体は底部8と4つの側壁とから構成されている。前記胴部の開口部は和紙材4で覆われている。
【0028】
底部8には、音が抜けることを適度に調整するため、木材板が用いられるが、木材板の種類は特に限定されるものではない。胴部3と底部8とは膠で接着されるが、接着材は膠に限定されるものではない。
【0029】
図2(b)に示すように、前記底部8には、木材板の代わりに合成樹脂板、猫の皮または犬の皮を用いてもよい。
【0030】
図3(a)〜(g)に示すように、胴部3の開口部に覆われる和紙材4は、和紙層4aと、膠またはゼラチン層4bが積層された重合体である。三味線の表皮として和紙のみを用いた場合、和紙自体は破れやすいため強度が低く、空気中の湿気の影響を受けやすいため音質が安定せず、また、猫や犬の皮を用いた場合と比べて、音が抜けすぎたり、音が軽すぎるといった問題が生じるが、和紙に膠またはゼラチンを積層されるように混入することにより、猫の皮と比較して遜色のない強度が得られ、音が抜けることが低減され、さらには、重量感のある音色を得ることができる。
【0031】
和紙材4は、例えば、図3(a)に示すように、2枚の和紙4aのうち1枚の和紙4aの片側面に膠またはゼラチンが塗られることにより膠またはゼラチン層4bが形成されている。前記和紙材4は、前記膠またはゼラチン層4bを2枚の和紙で挟み込むように、和紙4aを重ね合わせることにより製造される。例えば、膠またはゼラチンの和紙への積層は、刷毛またはブラシで塗布したり、膠またはゼラチン液中に和紙を浸すことにより行うことができる。膠またはゼラチン層4bは、和紙の強度を高め、和紙を湿気から守る役割を果たし、音が抜けることを適度に軽減し、音に重量感を与える役割を持つ。
【0032】
前記膠またはゼラチン層4bを2枚の和紙層4aで挟むように構成された図3(a)で示した和紙材4を基本として、図3(b)に示すように、前記和紙材4の上側の和紙層4aの表面のみに膠またはゼラチン層4bを形成したり、図3(c)に示すように、前記和紙材4の下側の和紙層4aの表面のみに膠またはゼラチン層4bを形成したり、あるいは図3(d)に示すように、前記和紙材4の両側の和紙層4aの表面に膠またはゼラチン層4bを形成してもよい。これにより、和紙材4の強度、音色および音量を調整することができる。
【0033】
また、図3(e)、(f)、(g)にそれぞれ示すように、和紙材4は、1枚の和紙層4aの上側のみに膠またはゼラチン層4bを形成したり、1枚の和紙層4aの下側のみに膠またはゼラチン層4bを形成したり、または1枚の和紙層4aの両側に膠またはゼラチン層4bを形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の三味線を説明するための斜視図である。
【図2】本発明の三味線の一実施の態様にかかわる胴部の断面図である。
【図3】本発明の三味線に用いられる和紙材の構造を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0035】
1 三味線
2 棹部
3 胴部
4 和紙材
4a 和紙層
4b 膠またはゼラチン層
5 根緒
6 駒
7 胴掛け
8 底部
R1、R2、R3 糸巻き
TH1、TH2、TH3 絃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部が、底部と4つの側壁を有し上部が開口した木製の箱体からなり、
前記胴部の開口部が和紙材で覆われ、
前記胴部の底部が木材板、合成樹脂板、猫の皮または犬の皮のいずれかからなる三味線。
【請求項2】
前記和紙材が和紙層および膠またはゼラチン層が積層された重合体である請求項1記載の三味線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−42392(P2009−42392A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205731(P2007−205731)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(307005841)
【Fターム(参考)】