説明

三次元ネットの縫製方法及び縫製装置

【課題】 三次元ネットを所定形状に裁断して精度良く縫製するためにかかる処理工数を低減し、更に、製品の歩留まり向上を図る。
【解決手段】 表側メッシュ層と裏側メッシュ層とが多数のパイルにより結合されて構成される三次元ネットの縫製装置10であって、三次元ネットの縫製処理される所定部位を構成するパイルの表側メッシュ層及び裏側メッシュ層に対する支持力を低下させるヒータコテ40と、ヒータコテ40により三次元ネットの厚み方向の剛性が低下した所定部位の表側メッシュ層及び裏側メッシュ層を縫合する縫い手段30と、を有し、縫い手段30は三次元ネットを厚み方向に押える押え部32を備え、押え部32により剛性が低下した三次元ネットの所定部位を構成する表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを厚み方向に圧縮し、圧縮した状態で三次元ネットの表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを縫合する構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元ネットの縫製方法及び縫製装置に関する。詳しくは、表側メッシュ層と裏側メッシュ層とが多数のパイルによって結合されて三次元構造として構成される三次元ネットの、表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを縫合する三次元ネットの縫製方法及び縫製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種シート等のクッション構造には、従前のウレタンパッドに代替して、いわゆる三次元構造を有するネット材(以下、三次元ネット)が採用されているものもある。この三次元ネットは、薄型でかつ軽量であり、三次元方向に高いクッション性(体圧分散特性及び反発弾性)を発揮させることができ、更に通気性にも優れている特徴がある。詳しくは、三次元ネットは、例えば熱可塑性樹脂の繊維が編み込まれて成る厚手の立体編みの布材であり、ネットの表裏面を構成する各メッシュ層と、これら各メッシュ層に結合された多数のパイルと、によって三次元構造を構成している。したがって、この三次元ネットをシートフレームに張設することにより、各メッシュ層による張り方向のクッション性や、パイルの剛性に伴なう厚み方向のクッション性を発揮させることができる。
ところで、上記した三次元ネットは、シートフレームに張設可能に形成するために、所定形状に裁断した後に、更に表皮材を重ね合わせるなどした状態で、その裁断面に沿った縁を縫製処理するようにしている。具体的には、先ず、上記した裁断面近傍部位を構成するパイルを、高周波ウェルダー等の加熱手段を備えるなどしたプレス装置により溶融しつつ圧縮・固化させる。これにより、上記加工部分を縫合可能な形状に仕上げることができる。すなわち、通常、三次元ネットを縫製する際に、上記処理を行わずにパイルの弾性に抗して各メッシュ層を圧縮する方向に負荷をかけると、パイルが弾性座屈することに伴なって、このパイルの剛性により各メッシュ層が位置ズレ(横ズレ)した状態で重ね合わされてしまう。したがって、上記したように三次元ネットを予め圧縮させた形状に仕上げておくことにより、前述した不具合を発生させることなく、縫製処理を精度良く行うことができる。
なお、この種の関連技術としては、例えば後記特許文献1が挙げられる。この開示では、上記の如く溶融処理した裁断面部分を、更にカバー部材によって被覆処理するようにしている。これにより、裁断面の見栄えやパイルのほつれ等による引っ掛かりを防止する機能の向上が図られている。
【特許文献1】特開2001−192956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の技術は、三次元ネットの裁断面に沿った縁を縫合可能な形状に仕上げるために多くの作業工数を必要とするものであり、作業コスト増大の要因となっていた。すなわち、三次元ネットを上記のように圧縮処理するためには、その都度、三次元ネットを別途のプレス装置の型に移送してセットしたり、処理後に離型して再び移送したりして行わなければならなかった。
更に、三次元ネットを上記したプレス装置にて精度良く圧縮するために、予め、三次元ネットを狙いとする裁断形状よりも大きく(例えば10mm程度大きく)裁断して圧縮代を形成しておく必要があった。したがって、上記三次元ネットの圧縮処理を行った後には、この余計な圧縮代がスクラップとして切り捨てられていたため、製品の歩留まり向上が課題とされてきた。
【0004】
本発明は、上記した問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、三次元ネットを所定形状に裁断して精度良く縫製するためにかかる処理工数を低減し、更に、製品の歩留まり向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の三次元ネットの縫製方法及び縫製装置は次の手段をとる。
先ず、本発明の第1の発明は、表側メッシュ層と裏側メッシュ層とが多数のパイルにより結合されて構成される三次元ネットの縫製方法であって、三次元ネットの縫製処理される所定部位を構成するパイルの表側メッシュ層及び裏側メッシュ層に対する支持力を低下させて、所定部位の厚み方向の剛性を低下させる軟化工程と、所定部位の厚み方向の剛性が低下した状態で、三次元ネットを縫製処理する縫い手段の押え部により、所定部位を構成する表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを所定部位の厚み方向に圧縮する圧縮工程と、押え部により圧縮された状態の表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを縫い手段により縫合する縫合工程と、を有するものである。
ここで、三次元ネットの縫製処理される所定部位としては、所定形状に裁断された周縁部位であるのが一般的である。また、例えば三次元ネットが車両用シートとして使用される場合には、三次元ネットの表面に表皮材が配設されて一緒に縫合されることが多い。
この第1の発明によれば、軟化工程で、三次元ネットの所定部位を構成するパイルの表側メッシュ層及び裏側メッシュ層に対する支持力を低下させることにより、所定部位の厚み方向の剛性を低下させる。次に、圧縮工程で、上記所定部位を、三次元ネットを縫製処理する縫い手段の押えとして機能する押え部によって厚み方向に圧縮する。このとき、三次元ネットは、パイルの剛性による影響を受け難いかまたは受けないため、表側メッシュ層と裏側メッシュ層とが位置ズレすることなく厚み方向に圧縮され、所定部位が縫合可能な形状として形成される。そして、縫合工程で、上記押え部により圧縮された状態の表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを縫合する。すなわち、縫い手段の押え部を用いた圧縮工程によって、三次元ネットを別途のプレス機等の圧縮装置に移送したり、この別途の装置により所定部位を圧縮したり、圧縮された三次元ネットを縫い手段に移送したりする工程が省略される。
【0006】
次に、本発明の第2の発明は、上述した第1の発明において、軟化工程では、所定部位を構成するパイルを切断することによって所定部位の厚み方向の剛性を低下させるものである。
ここで、パイルを切断する方法としては、例えば、パイルを加熱昇温することにより溶融して切断する方法や、ハサミやナイフ等の刃物を用いてパイルを切断する方法が挙げられる。
この第2の発明によれば、パイルを切断することにより、三次元ネットの所定部位の厚み方向の剛性を低下させる。したがって、より好ましくは、パイルを所定部位の厚み方向に広く切断すると良い。すなわち、切断されて立ち上がり方向を向くパイルの先端が、所定部位を厚み方向に圧縮した際に表側メッシュ層または裏側メッシュ層に当接して再び剛性が高められることを防止するためである。
【0007】
次に、本発明の第3の発明は、上述した第1または第2の発明において、少なくともパイルは熱可塑性樹脂より成っており、軟化工程のパイルの支持力を低下させる処理は、パイルを加熱昇温することにより行うものである。
ここで、パイルを加熱昇温する手段としては、例えば、パイルへの直接接触により加熱を行うヒータコテや、パイルに熱風を吹き付けて加熱を行う熱風ガンなどのものが挙げられる。
この第3の発明によれば、熱可塑性樹脂より成るパイルを加熱昇温することにより、三次元ネットの所定部位の厚み方向の剛性を低下させる。すなわち、熱可塑性樹脂より成るパイルを加熱昇温することにより、パイルを軟化したり、溶融したり、あるいは切断したりする。これにより、パイルの表側メッシュ層及び裏側メッシュ層に対する支持力が低下する。
【0008】
次に、本発明の第4の発明は、表側メッシュ層と裏側メッシュ層とが多数のパイルにより結合されて構成される三次元ネットの縫製装置であって、三次元ネットの縫製処理される所定部位を構成するパイルの表側メッシュ層及び裏側メッシュ層に対する支持力を低下させる軟化手段と、軟化手段により三次元ネットの厚み方向の剛性が低下した所定部位の表側メッシュ層及び裏側メッシュ層を縫合する縫い手段と、を有し、縫い手段は三次元ネットを厚み方向に押える押え部を備え、押え部により剛性が低下した三次元ネットの所定部位を構成する表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを厚み方向に圧縮し、圧縮した状態で三次元ネットの表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを縫合する構成となっているものである。
ここで、三次元ネットの縫製処理される所定部位としては、所定形状に裁断された周縁部位であるのが一般的である。また、例えば三次元ネットが車両用シートとして使用される場合には、三次元ネットの表面に表皮材が配設されて一緒に縫合されることが多い。
この第4の発明によれば、軟化手段によって、三次元ネットの所定部位を構成するパイルの表側メッシュ層及び裏側メッシュ層に対する支持力を低下させる。これにより、所定部位の厚み方向の剛性を低下させる。そして、三次元ネットを縫製処理する縫い手段の押え部によって、上記所定部位を厚み方向に圧縮する。このとき、三次元ネットは、パイルの剛性による影響を受け難いかまたは受けないため、表側メッシュ層と裏側メッシュ層とが位置ズレすることなく厚み方向に圧縮され、所定部位が縫合可能な形状として形成される。そして、縫い手段によって、上記押え部により圧縮された状態の表側メッシュ層と裏側メッシュ層とが縫合される。すなわち、縫い手段の押え部を用いた圧縮手段によって、三次元ネットを別途のプレス機等の圧縮装置に移送したり、この別途の装置により所定部位を圧縮したり、圧縮された三次元ネットを縫い手段に移送したりする工程が省略される。
【0009】
次に、本発明の第5の発明は、上述した第4の発明において、少なくともパイルは熱可塑性樹脂より成っており、軟化手段は、パイルを加熱昇温してパイルの支持力を低下させる加熱手段であるものである。
ここで、加熱手段としては、例えば、パイルへの直接接触により加熱を行うヒータコテや、パイルに熱風を吹き付けて加熱を行う熱風ガンなどのものが挙げられる。
この第5の発明によれば、加熱手段によって熱可塑性樹脂より成るパイルを加熱昇温することにより、三次元ネットの所定部位の厚み方向の剛性を低下させる。すなわち、熱可塑性樹脂より成るパイルを加熱昇温することにより、パイルを軟化したり、溶融したり、あるいは切断したりする。これにより、パイルの表側メッシュ層及び裏側メッシュ層に対する支持力が低下する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述した手段をとることにより、次の効果を得ることができる。
先ず、本発明の第1の発明によれば、三次元ネットを所定形状に裁断して精度良く縫製するためにかかる処理工数を低減することができる。また、縫製処理される所定部位の厚み方向の剛性を予め低下させた状態で圧縮処理するため、圧縮した際に表側メッシュ層と裏側メッシュ層とが位置ズレ(横ズレ)を伴なわなくなる。したがって、三次元ネットを、前もって狙いとする所定形状よりも大きく形成して圧縮代を形成しておくことが不要となる。すなわち、スクラップとして切り捨てられる量を低減することができ、製品の歩留まり向上を図ることができる。
更に、本発明の第2の発明によれば、三次元ネットのパイルを切断することにより、所定部位の厚み方向の剛性を良好に低下させることができる。
更に、本発明の第3の発明によれば、パイルを加熱昇温することにより、所定部位の厚み方向の剛性を良好に低下させることが、より簡便に行える。
更に、本発明の第4の発明によれば、三次元ネットを所定形状に裁断して精度良く縫製するためにかかる処理工数を低減することができる。また、三次元ネットの圧縮処理に必要な装置を縫い手段の押え部に兼用させることができるため、設備全体の簡略化を図ることができる。また、押え部による圧縮処理は、所定部位の厚み方向の剛性を予め低下させた状態で行うため、圧縮した際に表側メッシュ層と裏側メッシュ層とが位置ズレ(横ズレ)を伴なわなくなる。したがって、三次元ネットを、前もって狙いとする所定形状よりも大きく形成して圧縮代を形成しておくことが不要となる。すなわち、スクラップとして切り捨てられる量を低減することができ、製品の歩留まり向上を図ることができる。
更に、本発明の第5の発明によれば、加熱手段によってパイルを加熱昇温することにより、パイルを軟化したり、溶融したり、あるいは切断したりすることが簡便に行える。したがって、所定部位の厚み方向の剛性を良好に低下させることが簡便に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための最良の形態の実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
始めに、本発明の実施例1としての三次元ネット90の縫製方法及び縫製装置10について、図1〜図3を用いて説明する。図1は本実施例の縫製装置10を示す概略斜視図、図2は図1の縫製装置10により三次元ネット90を縫製処理する際の各処理工程を示す工程図、図3は図2における三次元ネット90の断面状態を示した図である。以下、各構成についての詳細を説明する。
【0013】
先ず、本実施例での縫製対象物となる三次元ネット90は、例えば自動車用シートのシートフレームに張設されてクッション材として使用されるものである。詳しくは、三次元ネット90は、図2及び図3に良く示されるように、表側メッシュ層91、裏側メッシュ層92、及びこれら両メッシュ層91,92を結合する多数のパイル93によって、三次元構造を有するシート形状として形成されている。より詳しくは、上記の両メッシュ層91,92及びパイル93は熱可塑性樹脂より成る繊維が連続的に編み込まれた構成とされており、シートフレームに張設された状態では、両メッシュ層91,92による張り方向のクッション性や、パイル93の剛性に伴なう三次元ネット90の厚み方向のクッション性を発揮させることができる。また、上記の三次元ネット90は、シートフレームに張設可能に形成するために、狙いとする形状に裁断した後に、更に、表側メッシュ層91の表面に表皮材60を重ね合わせた状態で裁断面に沿った縁が縫製処理される。これにより、三次元ネット90と表皮材60とを一体的に縫合する。
なお、上記の熱可塑性樹脂の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルや、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリアクリロニトリルやこれらを含む共重合体を用いることができ、これら一種あるいは二種以上の混合体を用いることもできる。
また、三次元ネット90の縫製処理では、上記したように表皮材60を重ね合わせて一緒に縫合する場合の他に、例えば、意匠等の目的で三次元ネット90を単体で縫製処理して単に縫い線を付与する場合、あるいは、三次元ネット90を2層以上に重ね合わせて一緒に縫合する場合などが挙げられる。
【0014】
次に、本実施例の三次元ネット90の縫製装置10は、図1に良く示されるように、三次元ネット90を縫製処理するための縫い部本体20と、後に詳述する軟化工程において三次元ネット90のパイル93を加熱昇温するためのヒータコテ40及びこの発熱制御を行う発熱制御装置50と、を有して構成されている。ここで、ヒータコテ40が本発明の加熱手段に相当する。
詳しくは、縫い部本体20は、図1に良く示されるように、いわゆるミシンであって、ベース21及びアーム22を備えている。前者のベース21は平板状に形成されており、後者のアーム22はベース21の上部に配設されて一端側がベース21に片持ち支持された構成とされている。また、アーム22の他端側には、その下方に位置するベース21に臨む縫い針31や押え部32が設けられている。更に、ベース21の上記押え部32に対向する位置には、送り爪33が設けられている。これら縫い針31、押え部32、及び送り爪33が三次元ネット90を縫製処理するための縫い手段30を構成している。
より詳しくは、押え部32は、図1及び図2に良く示されるように、アーム22の他端側からベース21に向かって伸びるロッド32aと、ロッド32aの下端に一体化された平板状の押え面32bと、を備えている。この押え面32bは、中央の平板形状が三次元ネット90に押し当てられる部分とされている。また、押え面32bの両端(送り爪33による三次元ネット90の搬送方向の両端)は、反り上がった形状とされており、三次元ネット90を押え部32とベース21との間に案内する部分とされている。更に、上記平板状部分の両端のうち、搬送方向手前側の端部は切欠き形状とされており、縫い針31がこの切欠き形状内を貫通して上下動できるようになっている。また、押え部32は、図示しない切替え手段によって、ベース21から離間してアーム22側に引き上げられた引上状態と、ベース21側に押し下げられた押下状態(図1参照)と、の間で切替え移動可能とされている。したがって、三次元ネット90をベース21上にセットした状態で押え部32を押下状態にすることにより、三次元ネット90を縫製処理可能な押え込み状態とすることができる。
次に、送り爪33は、図1に良く示されるように、駆動手段(図示しない)によって三次元ネット90を搬送可能に動作する構成とされている。詳しくは、送り爪33は、上面が凹凸形状に形成されており、駆動手段によって駆動されると、ベース21の上面から突出しない通常位置と、ベース21の上面から突出して図1の紙面手前側から奥側に向けて移動した突出位置と、の間での移動を繰り返す。したがって、三次元ネット90をベース21上にセットして押え部32により押え込んだ状態で、送り爪33を通常位置から突出位置へと移動させる動作を繰り返すことにより、三次元ネット90を図1の紙面手前側から奥側に向けて間欠的に搬送することができる。また、駆動手段は、縫い針31を上下動させる駆動手段(図示しない)と連動するようになっており、三次元ネット90を適宜搬送しながら縫製処理を行うことができるようになっている。なお、上記した駆動手段は、公知の駆動手段と同様に、返し縫いのために逆方向にも駆動可能とされているものであると、なお好ましい。
【0015】
次に、軟化工程において三次元ネット90のパイル93を加熱昇温するためのヒータコテ40は、図1に良く示されるように、発熱制御装置50の熱発源器51及び温度制御器52によって、上記した熱可塑性樹脂から成るパイル93を溶融可能な高温状態に保持されるようになっている。したがって、図3に良く示されるように、所定の高温状態に保持されたヒータコテ40をパイル93に接触させることにより、このパイル93の接触部分を加熱昇温して溶融状態にすることができる。これにより、パイル93を所望の分だけ溶融して切断することができる。
また、三次元ネット90は、上記のようにしてパイル93を溶融して切断することにより、厚み方向の剛性が低下する。すなわち、三次元ネット90の表側メッシュ層91と裏側メッシュ層92とを結合しているパイル93を切断することにより、パイル93の表側メッシュ層91及び裏側メッシュ層92に対する支持力が作用しないようにすることができる。したがって、好ましくは、図3に良く示されるように、パイル93を三次元ネット90の厚み方向に広く切断すると良い。すなわち、切断されて立ち上がり方向を向くパイル93の先端が、三次元ネット90を厚み方向に圧縮した際に、表側メッシュ層91または裏側メッシュ層92に当接して再び厚み方向の剛性が高められることを防止するためである。
したがって、上記したように、予め、三次元ネット90の厚み方向の剛性を低下させておくことにより、三次元ネット90を厚み方向に圧縮した際に、パイル93の剛性による影響を受けない。よって、表側メッシュ層91と裏側メッシュ層92とが位置ズレすることなく厚み方向に圧縮され、縫合可能な形状として形成される。すなわち、三次元ネット90を縫合可能な形状に仕上げるために、例えば、三次元ネット90を狙いとする形状よりも大きく裁断して圧縮代を形成しておくといったことが不要となる。
【0016】
続いて、本実施例の三次元ネット90の縫製方法について図1〜図3を用いて説明する。
先ず、三次元ネット90をシートフレームに張設可能に形成するために、狙いとする形状に裁断する。そして、その後に、表側メッシュ層91の表面に表皮材60を重ね合わせた状態とする。
次に、三次元ネット90と表皮材60とを重ね合わせた状態のものを縫い部本体20のベース21上(図1参照)にセットする。詳しくは、三次元ネット90の縫製処理を行う裁断面に沿った縁を、押え部32とベース21との間位置に合わせるようにしてセットする。このとき、押え部32は、ベース21から離間してアーム22側に引き上げられた引上状態とされている。
次に、上記のようにセットされた三次元ネット90を押え部32によって圧縮する(押え込み状態にする)のに先立って、予め、圧縮される部分のパイル93をヒータコテ40に接触させて加熱昇温することにより溶融して切断し、三次元ネット90の厚み方向の剛性を低下させておく(本発明の軟化工程に相当する)。これにより、押え部32をアーム22側からベース21側に下して押下状態にした際に、表側メッシュ層91と裏側メッシュ層92とが位置ズレを伴なうことなく圧縮され重ね合わされる(本発明の圧縮工程に相当する)。すなわち、三次元ネット90が縫合可能な形状として形成される。
【0017】
次に、図2に良く示されるように、三次元ネット90及び表皮材60が押え部32(押下状態)及びベース21によって押え込まれた状態で、ヒータコテ40を縫い手段30よりも搬送方向上流側(図2の紙面手前側)に位置させて、先に切断したパイル93よりも上流側に位置するパイル93をヒータコテ40に接触させて切断する(本発明の軟化工程に相当する)。そして、この切断処理と共に縫い部本体20を稼動させる。すると、上記厚み方向の剛性が低下した状態の三次元ネット90及び表皮材60は、送り爪33によって下流側(図2の紙面奥側)に搬送される。そして、三次元ネット90及び表皮材60は、下流側に位置する押え部32の反り上がり形状によって、押え部32とベース21との間に案内され、位置ズレすることなく圧縮される(本発明の圧縮工程に相当する)。そして、圧縮されて縫合可能な形状とされた三次元ネット90の部分は、そのまま、縫い針31によって表皮材60と共に表側メッシュ層91と裏側メッシュ層92とが縫合処理される(本発明の縫合工程に相当する)。その後、上記のように縫合処理された三次元ネット90及び表皮材60は、送り爪33によって次々に下流側へと搬送される。以上の処理が連続的に繰返されて、三次元ネット90の縫製処理が行われる。
【0018】
このように、本実施例の三次元ネット90の縫製方法及び縫製装置10によれば、以下の効果を得ることができる。
すなわち、縫製装置10のヒータコテ40によって、狙いとする形状に裁断した三次元ネット90の厚み方向の剛性を予め低下させておくことができる。したがって、この状態で三次元ネット90の裁断面に沿った縁を厚み方向に圧縮することにより、表側メッシュ層91と裏側メッシュ層92とを位置ズレ(横ズレ)させることなく重ね合わせることができるため、縫製処理を精度良く行うことができる。これにより、三次元ネット90を、前もって狙いとする形状よりも大きく形成して圧縮代を形成しておくことが不要となる。よって、最終的にスクラップとして切り捨てられる量を低減することができ、製品の歩留まり向上を図ることができる。
更に、上記した三次元ネット90の厚み方向の圧縮処理は、三次元ネット90を縫製処理する縫い手段30の押え部32を用いることにより、縫製処理を行いながら圧縮処理を行うことができる。すなわち、押え部32に、圧縮機能と押え込み機能とを兼用させることができる。したがって、三次元ネット90を別途のプレス機等の圧縮装置に移送したり、この別途の装置により圧縮処理を行ったり、圧縮された三次元ネット90を縫い手段30に移送したりする工程を省略することができ、処理工数の低減を図ることができる。また、設備全体の簡略化を図ることもできる。
更に、上記した三次元ネット90の厚み方向の剛性を低下させる処理は、パイル93を切断することにより確実に行うことができる。更に、このパイル93の切断は、所定の高温状態に保持されたヒータコテ40をパイル93に接触させるという簡単な操作によって行うことができる。
【実施例2】
【0019】
続いて、本発明の実施例2の三次元ネット90の縫製方法及び縫製装置11について、図4及び図5を用いて説明する。図4は本実施例の縫製装置11により三次元ネット90を縫製処理する際の各処理工程を示す工程図、図5は図4における三次元ネット90の断面状態を示した図である。
なお、本実施例では、実施例1の三次元ネット90の縫製方法及び縫製装置10と同様の構成及び作用を奏する箇所については同一の符号を付して説明を省略し、相異する構成については異なる符号を付して詳しく説明することにする。
【0020】
本実施例の三次元ネット90の縫製装置11は、図4に良く示されるように、三次元ネット90を縫製処理するための縫い部本体20と、軟化工程において三次元ネット90のパイル93を加熱昇温するための熱風ガン70及びこの発熱制御を行う発熱制御装置(図示しない)と、を有して構成されている。更に、図4に良く示されるように、上記した熱風ガン70より吹き出される熱風を所定の位置で遮断するためのエアガン80を具備している。ここで、熱風ガン70が本発明の加熱手段に相当する。
詳しくは、熱風ガン70は、図4に良く示されるように、発熱制御装置の熱発源器及び温度制御器によって、熱可塑性樹脂から成るパイル93を溶融可能な高温の熱風を吹き出せる状態とされている。したがって、図4に良く示されるように、上記した熱風ガン70をパイル93に接近させて、所定の高温状態の熱風をパイル93に吹き付けることにより、パイル93を加熱昇温して溶融状態にし、切断することができる。このとき、図5に良く示されるように、熱風ガン70から吹き出された熱風が必要以上にパイル93内に入り込むことを防止するために、必要な位置にエアガン80を配置して、三次元ネット90の厚み方向に向けてエアーを吹き出すようにする。これにより、吹き出されたエアーが熱風ガン70から吹き出される熱風の入り込みを防止可能なエアカーテンとして形成されるため、パイル93の溶融する量を必要な分に止めることができる。
【0021】
続いて、本実施例の三次元ネット90の縫製方法について図4及び図5を用いて説明する。
先ず、三次元ネット90を狙いとする形状に裁断し、表側メッシュ層91の表面に表皮材60を重ね合わせた状態のものを縫い部本体20のベース21上にセットする。
次に、図4に良く示されるように、三次元ネット90及び表皮材60が押え部32(押下状態)及びベース21によって押え込まれた状態で、熱風ガン70を縫い手段30よりも搬送方向上流側(図4の紙面手前側)に位置させて、先に切断したパイル93よりも上流側に位置するパイル93を、熱風ガン70より吹き出される熱風によって溶融し切断する(本発明の軟化工程に相当する)。このとき、図5に良く示されるように、エアガン80によって三次元ネット90の厚み方向に向けてエアーを吹き出すことにより、上記した熱風の入り込みを所定の位置までに止めるようにする。
そして、このパイル93の切断処理と共に縫い部本体20を稼動させることにより、三次元ネット90が位置ズレを伴なうことなく圧縮される(本発明の圧縮工程に相当する)。そして、圧縮されて縫合可能な形状とされた三次元ネット90の部分は、そのまま、縫い針31によって表皮材60と共に表側メッシュ層91と裏側メッシュ層92とが縫合処理される(本発明の縫合工程に相当する)。
【0022】
このように、本実施例の三次元ネット90の縫製方法及び縫製装置11によれば、熱風ガン70により吹き出される熱風によって、パイル93を溶融し切断することが簡単に行える。また、エアガン80によって上記した熱風の入り込み量を規制することができるため、パイル93を切断する量を必要な分に止めることができる。
【0023】
以上、本発明の実施形態を2つの実施例について説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施できるものである。
例えば、実施例1及び実施例2では、軟化工程として、パイル93を加熱昇温して溶融することにより切断したものを示したが、単に加熱昇温して溶融するようにしたものや、軟化するようにしただけのものであってもよい。この場合であっても、パイルの表側メッシュ層及び裏側メッシュ層に対する支持力を低下させることができる。但し、この場合には、パイルを切断した場合に比べると支持力を低下させる効果が低くなる点に留意する必要がある。
また、軟化工程として、パイル93を加熱昇温して切断することにより支持力を低下させるものを示したが、例えば、ハサミやナイフのような刃物によってパイルを切断するようにしたものであっても良い。この場合には、パイルの材質は熱可塑性樹脂に限定されず、熱硬化性のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1の三次元ネットの縫製装置を示す概略斜視図である。
【図2】図1の縫製装置により三次元ネットを縫製処理する際の各処理工程を示す工程図である。
【図3】図2における三次元ネットの断面状態を示した図である。
【図4】実施例2の縫製装置により三次元ネットを縫製処理する際の各処理工程を示す工程図である。
【図5】図4における三次元ネットの断面状態を示した図である。
【符号の説明】
【0025】
10,11 縫製装置
20 縫い部本体
21 ベース
22 アーム
30 縫い手段
31 縫い針
32 押え部
32a ロッド
32b 押え面
33 送り爪
40 ヒータコテ(加熱手段)
50 発熱制御装置
51 熱発源器
52 温度制御器
60 表皮材
70 熱風ガン(加熱手段)
80 エアガン
90 三次元ネット
91 表側メッシュ層
92 裏側メッシュ層
93 パイル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表側メッシュ層と裏側メッシュ層とが多数のパイルにより結合されて構成される三次元ネットの縫製方法であって、
前記三次元ネットの縫製処理される所定部位を構成するパイルの前記表側メッシュ層及び前記裏側メッシュ層に対する支持力を低下させて、該所定部位の厚み方向の剛性を低下させる軟化工程と、
前記所定部位の厚み方向の剛性が低下した状態で、前記三次元ネットを縫製処理する縫い手段の押え部により、前記所定部位を構成する表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを該所定部位の厚み方向に圧縮する圧縮工程と、
前記押え部により圧縮された状態の前記表側メッシュ層と前記裏側メッシュ層とを前記縫い手段により縫合する縫合工程と、
を有することを特徴とする三次元ネットの縫製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元ネットの縫製方法であって、
前記軟化工程では、前記所定部位を構成するパイルを切断することによって前記所定部位の厚み方向の剛性を低下させることを特徴とする三次元ネットの縫製方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の三次元ネットの縫製方法であって、
少なくとも前記パイルは熱可塑性樹脂より成っており、
前記軟化工程の前記パイルの支持力を低下させる処理は、該パイルを加熱昇温することにより行うことを特徴とする三次元ネットの縫製方法。
【請求項4】
表側メッシュ層と裏側メッシュ層とが多数のパイルにより結合されて構成される三次元ネットの縫製装置であって、
前記三次元ネットの縫製処理される所定部位を構成するパイルの前記表側メッシュ層及び前記裏側メッシュ層に対する支持力を低下させる軟化手段と、
前記軟化手段により前記三次元ネットの厚み方向の剛性が低下した所定部位の表側メッシュ層及び裏側メッシュ層を縫合する縫い手段と、
を有し、
該縫い手段は前記三次元ネットを厚み方向に押える押え部を備え、該押え部により前記剛性が低下した三次元ネットの所定部位を構成する表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを厚み方向に圧縮し、該圧縮した状態で三次元ネットの表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを縫合する構成となっていることを特徴とする三次元ネットの縫製装置。
【請求項5】
請求項4に記載の三次元ネットの縫製装置であって、
少なくとも前記パイルは熱可塑性樹脂より成っており、
前記軟化手段は、前記パイルを加熱昇温して前記パイルの支持力を低下させる加熱手段であることを特徴とする三次元ネットの縫製装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−81789(P2006−81789A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270921(P2004−270921)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000101639)アラコ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】