説明

三次元マトリクスに基づくヒアルロン酸誘導体

e)ヒアルロン酸誘導体に基づく三次元マトリクスと、任意でf)軟骨細胞、及び/又は軟骨細胞に完全若しくは部分的に分化した間葉細胞とを有する生物学的材料の、変性病態及び/又は炎症病態により障害を受けた関節軟骨に外科的に移植され、或いはこれらの病態を防御する移植片の調製への、使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性関節症、骨関節症、リューマチ病などの変性病態で障害を受けた関節軟骨の防御及び修復用の移植片の調製への、ヒアルロン酸誘導体を基礎とした三次元マトリクスを含む生物学的材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症(OA)は、骨棘の形成を伴う軟骨下骨の骨成分の再構築に関連した関節軟骨の摩耗を特徴とする病態である。
【0003】
この病態の主因は、全体としての関節に影響を与える機械的及び生化学的変化である。
【0004】
これらの機械的変化は、以下のような可能性のある複数の原因に起因した、関節系における不規則性により同定され得る。
【0005】
関節包の緩み
関節内の遊離した骨様物体の存在
半月板の損傷
関節の外傷
軟骨の加齢に起因した、関節包、靭帯、及び/又は半月板の摩耗及び/又は蓄積
関節系の炎症
【0006】
関節に対する過剰な、及び/又は不適切な荷重により、関節の変性を担う酵素の合成により発現する軟骨細胞の反応を惹起する可能性がある。
【0007】
関節変性に由来する生化学的変化は、マクロファージの動員(recruitment)を促し、従って、滑膜を包含する炎症をもたらし、炎症反応は、滑液を介して伝播する炎症性サイトカイン(IL−1など)の合成をしばしばもたらし、軟骨細胞にも、炎症性サイトカイン(IL−1、TNF、IL−6など)を産生するよう誘発する。
【0008】
IL−1の過剰発現は、OAの病態に不可欠である。
【0009】
事実、IL−1は、コラーゲンやプロテオグリカンなどで主して構成される関節マトリクスの変形を担う酵素である、軟骨細胞によるメタロプロテイナーゼの合成、分泌及び活性化を促進する。
【0010】
さらに、このサイトカインは、軟骨細胞の増殖を阻害し、メタロプロテイナーゼの天然の阻害剤(TIMPs)の産生を抑制し、軟骨細胞自体による一酸化窒素(NO)の高いレベルでの合成を刺激することが判明する一方、関節を構成するプロテオグリカンの主成分である、II型のコラーゲンやアグレカン(aggrecan)の合成を阻害する(非特許文献1参照。)
【0011】
関節軟骨におけるIL−1の効果は、上述のインターロイキンを関節に注入し、OAで観察される全ての観点と類似する組織学的障害を惹起するin vivo実験で得られた結果により、十分に立証されている(非特許文献2)。
【0012】
OAの過程における実験データの全ては、従って、IL−1(特にIL−1β)、及びおそらくTNFαが関節組織の破壊に関与する主要な代謝系を演じ、さらに上述の関節障害を担当する分子の内在源を構成し得るという仮説を強く支持するものである。
【0013】
事実、IL−1の産生及び/又は活性化を阻害すると、関節マトリクスの崩壊が阻止及び/又は軽減されることが示されている(非特許文献3)。
【0014】
リューマチ病(RA)及び乾癬性関節炎を罹患する患者の滑液には、高いレベルのIL−1が検出されている(非特許文献4)。
【0015】
ヒアルロン酸(HA)は、軟骨マトリクスを構成する主要な分子のひとつであるが、滑液における主要な非タンパク性成分でもある。
【0016】
ヒアルロン酸は、滑液に潤滑特性を補完する親水性で、粘弾性を有する分子である。従って、HAは、30年以上にわたってOAを処置するのに使用されてきており、特に、上述の状態を伴う疼痛の処置に使用されてきた(非特許文献5)。
【0017】
多糖類がIL−1で惹起される関節組織の分解をどのように減弱させるかを示すことにより、OAの病態過程における関節の全体性を維持するHAの防御的効果に関するデータが種々の実験により提供されている(非特許文献6)。
【0018】
十数年の間、OAなどの変性病態に対して適用可能ではなかったので、主として外傷による障害を受けた関節に対する組織適用に関連するにもかかわらず、新規の組織工学的技術が最も一般的になってきた現代においても、関節の障害を処置する技術として自家性の軟骨細胞を、障害を受けた関節組織に直接移植する技術が使用されてきた(非特許文献7)。
【0019】
特許文献1は、生物適合性ポリマーで構築された三次元マトリクス(例えば、コラーゲン、ゼラチン、PGA、合成ポリマーなど)を有するin vitroで調製した関節組織について、開示しており、ここでは、軟骨細胞や繊維芽細胞などの間質細胞が接着可能であり、且つ増殖可能である。
【0020】
特許文献2は、合成の生物分解性を有するポリマー(また、任意で第二の非生物分解性のポリマーと組み合わせたもの)で構築された、in vivoにおいて移植される関節調製用の、三次元構造について、開示しており、ここでは、軟骨細胞が増殖可能である。
【0021】
特許文献3は、ヒアルロン酸誘導体で主として構築されたスポンジで形成された、細胞(例えば、軟骨細胞など)の成長用の基質を開示する。
【0022】
特許文献4は、ヒアルロン酸誘導体とゼラチンとで構築された複合的な多孔性マトリクスを開示しており、組織工学的関節を形成するように軟骨細胞とともに負荷されるものである。
【0023】
特許文献5は、in vivoで移植されるキトサンで構築されたマトリクスの調製について、開示する。
【0024】
ヒアルロン酸エステルが完全に生物適合性を有し且つ生物分解性を有するポリマーであることが、多くの化学的研究で十分に示されており(非特許文献8)、in vitroで前もって膨張させる前で、細胞性成分である一方で新規の細胞外マトリクスを有する新規の関節のin vitroにおける産生用に上述の誘導体で形成される三次元マトリクスに負荷される前に、誘導可能であり、且つ接着、増殖及びヒトの関節軟骨細胞に再分化可能である(非特許文献9及び10)。
【0025】
特許文献6は、軟骨細胞などの間質細胞の接着及び増殖用に、血漿蛋白(フィブリンなど)で主として形成された多孔性マトリクス(スポンジ)について、開示する。
【0026】
また、不織布で製造される際、皮膚学領域で使用される三次元マトリクス(細胞成分を有さないもの)を構築する繊維状のヒアルロン酸誘導体を使用することも知られており(特許文献7)、この三次元構造は、間葉細胞を負荷されてもよく、増殖や、特定の栄養素で処理された軟骨細胞に分化することを含む部分的な分化に必要である限りの期間の間、in vitroで保持されてもよい(特許文献8)。
【0027】
特許文献9は、関節鏡検査法により移植に適した移植片の調製用に、ヒアルロン酸誘導体と、天然、合成及び半合成のポリマーから選択されたその他のポリマーとで形成された三次元骨格上に支持された細胞を有する生物学的材料の使用について、開示する。
【0028】
今日まで、生物材料(天然、半合成、又は合成ポリマーで構築されたもの)を用いた組織工学的技術によりin vitroで得た関節組織の全ては、変形性関節症などの変性性で炎症性の病態に結合しない軟骨病変を修復する移植用にのみ有用であることが証明されてきた。
【0029】
事実、変形性関節症病変において、上述などの装具(device)の移植に対する主な障害は、組織工学的関節が、高い可能性と確率とで炎症性サイトカインが豊富な関節包に挿入されることであって、このサイトカインは、緩徐な変性病態の開始を不可避に決定付け、導入される関節組織から新規に合成されたマトリクス分子に緩徐な分解を伴わせる新規の組織に対する急速な影響をもたらすこととなる。
【0030】
この仮説は、ウシ由来の軟骨細胞を負荷したPGAで構築された骨格を用いて、in vitroにおいて、既に証明されている(非特許文献1)。
【特許文献1】米国特許第5,902,741号明細書
【特許文献2】米国特許第5,736,372号明細書
【特許文献3】欧州特許第0907721号明細書
【特許文献4】欧州特許第1144459号明細書
【特許文献5】欧州特許第1232203号明細書
【特許文献6】国際公開第03/07873号パンフレット
【特許文献7】欧州特許第0618817B1号明細書
【特許文献8】欧州特許第0863776B1号明細書
【特許文献9】国際公開第02/053201号パンフレット
【特許文献10】欧州特許第0138572B1号明細書
【特許文献11】欧州特許第0716688B1号明細書
【特許文献12】欧州特許第0216453B1号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第1095064号明細書
【特許文献14】欧州特許第0702699B1号明細書
【特許文献15】欧州特許第0341745B1号明細書
【特許文献16】欧州特許出願公開第1313772号明細書
【特許文献17】欧州特許出願公開第1339753号明細書
【非特許文献1】Kafienah W.ら著、Arthritis Rheum.、2003年、48巻、p.709〜718
【非特許文献2】van Beuningen H.M.ら著、Arthiritis Rhuem.、1991年、34巻、p.606〜615
【非特許文献3】Caron J.P.ら著、Arthritis Rheum.、1996年、39巻、p.1535〜1544
【非特許文献4】Arend W.P.ら著、Arthritis Rheum.、1995年、38巻、p.151〜160
【非特許文献5】Ghosh P.ら著、Semin. Arthritis Rheum.、2002年、32巻、p.10〜37
【非特許文献6】Stove J.ら著、Journal of Orthopaedic Research、2002年、20巻、p.551〜555
【非特許文献7】Freed L.E.ら著、J. Biomed. Mater. Res.、1993年、27巻、p.11〜23
【非特許文献8】Capoccia D.ら著、Biomaterials、1998年、19巻、p.2101〜2127
【非特許文献9】Brun P.ら著、J. Biomed. Mater. Res.、1999年、46巻、p.337〜346
【非特許文献10】Aigner J.ら著、J. Biomed. Mater. Res.、1998年、42巻、p.172〜181
【非特許文献11】Hollander A.P.ら著、J. Clin. Invest.、1994年、93巻、p.1722〜1732
【非特許文献12】Handley C.J.ら著、Methods Enzymol.、1995年、248巻、p.47〜48
【非特許文献13】Kozaci L.D.ら著、Arthritis & Rheumatism、1997年、40巻、p.164〜174
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本願出願人は、ヒアルロン酸誘導体で構築された三次元マトリクスが生物学的材料に製造され、自家性又は同種の軟骨細胞を好ましくは負荷されたものが、in vitro、及び移植された後のin vivoの両方で形成される新規の軟骨組織を、メタロプロテイナーゼなどのタンパク質分解酵素の(軟骨細胞自身による)産生を刺激する炎症性サイトカインによる、マトリクスを形成する分子の分解から、どのように防御するかを示す。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、生物学的材料の使用に関するものであって、この生物学的材料は:
a)ヒアルロン酸誘導体に基づく三次元マトリクスと;任意で
b)軟骨細胞、及び/又は軟骨細胞に部分的若しくは完全に分化した間葉細胞と;
を有し、変形性関節症、骨関節症、リューマチ病及び乾癬性関節炎などの変性及び/又は炎症病態に障害を受け、或いはこれらを防御するため、関節軟骨に外科的に移植される移植片の調製用に関するものである。
【0033】
より好ましくは、生物学的材料が上述の細胞成分(b)を有する場合、上述の移植片は、細胞外軟骨マトリクスの分解を構築する上述の変性病態の一つにおいて炎症性の関節包の内部にin vivoで外科的に移植されるin vitroの軟骨組織である。
【0034】
この場合、上述のin vitroにおける軟骨組織は、上述の軟骨細胞、又は軟骨細胞に部分的若しくは完全に分化した間葉細胞により産生された細胞外マトリクスを有し、この細胞外マトリクスは、上述のin vitroの軟骨組織であり、且つひとたびin vivoに外科的に移植されると、上述の変性病態のひとつに影響を与える関節軟骨の内部に配置されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明は、従って、以下の新規の治療として、関節軟骨に外科的に移植される移植片の調製用の、三次元マトリクスの使用に関する。
【0036】
上述の変性疾患の一つにおける初期の段階、特に変形性関節症の、軟骨の細胞外マトリクスを構築する分子の変性過程の初期におけるもの;及び
適度、及び/又は重度に障害を受けた軟骨の領域が観察されるような上述の病態の終期の段階
【0037】
事実、上述の変性病態のひとつの初期段階で外科的に移植された移植片は、プロテオグリカン及びコラーゲンの分解を遅延可能であり、また、上述の病態の終期に進行的に分解される関節包に新規の組織工学的な軟骨として外科的に移植される際、ヒアルロン酸誘導体によりIL−1の浸食作用が防御されるので、上述のマトリクスが種々のさらなる変性を伴わないように、前段階で生じた軟骨病変を覆うことが可能であり、且つ浸食された細胞外マトリクスを新規の軟骨組織として置換することが可能であることがわかる。
【0038】
HAは、D−グルクロン酸とN−アセチル−D−グルコサミンとが交互に残基として構成されるヘテロ多糖類である。HAは、HAが得られる源、及び調製に使用される方法に依存して、50,000〜13×10Daの分子量を有する直鎖のポリマーである。HAは、細胞周囲のゲルに本来存在しており、脊椎動物(この主成分である)の結合組織の基本物質であり、関節の滑液に存在し、硝子体液に存在し、臍帯に存在する。
【0039】
HAは、従って、生物学的有機体において主要な役割を演じ、特に、皮膚、腱、筋肉及び軟骨などの種々の細胞の機械的支持物として、機能する。
【0040】
さらに、HAは、膜受容体であるCD44として、細胞増殖、遊離、分化及び血管新生などの細胞生理的及び生物学的に相対した種々の異なる工程を調節することが知られ、且つ組織の水分補給や関節潤滑性などの他の機能も有することが知られている。
【0041】
本発明に使用されるHAは、種々のものに由来していてもよく、例えば、ルースターコンブ(rooster comb)から抽出したものであっても(特許文献10)、発酵で得たものであっても(特許文献11)、種々の技術的手段で得たものであってもよく、分子量は、400〜3×10Da、特に1×10〜1×10Daであっても、200,000〜750,000Daであってもよい。
【0042】
本発明において、三次元マトリクスの製造に使用されるのに好ましく使用されるHA誘導体は、以下の通りである。
【0043】
A)有機塩基及び/又は無機塩基で加塩されたHA、特に好ましくは、塩基は、NaOHである、HA;
B)脂肪族、芳香族脂肪族、脂環族、芳香族、環状及びヘテロ環のアルコールでエステル化されたHAエステルであって、エステル化率は、使用するアルコールの種類及び長さに依存して種々のものであってもよく、好ましくは、50〜100%である一方で、残りのエステル化されていないHAは、有機塩基及び/又は無機塩基で加塩されていてもよく(特許文献12)、より好ましくは、水酸化ナトリウムで加塩されていてもよく;これらのエステルは、名称がHYAFF(登録商標)である市販のものを利用可能である;
C)脂肪族、芳香族脂肪族、脂環族、芳香族、環状及びヘテロ環のアミンを有するHAのアミンであって、アミド化率は、好ましくは0.1〜50%である一方、残りのアミン化されていないHAは、有機塩基及び/又は無機塩基で加塩されてもよく、好ましくは水酸化ナトリウムで加塩されてもよく(特許文献13)、これらのアミドは、名称がHyadd(登録商標)である市販ものを利用可能である;
D)HAのO−硫酸誘導体であって、単位糖当たり1〜4の−OSOH基を有するものが好ましい(特許文献14);
E)HAの内部エステル(inner ester)であって、エステル化率が20%を越えないもの、より好ましくはこれが0.05〜10%のものである一方、残りのエステル化されていないHAは、有機塩基及び/又は無機塩基で加塩されてもよく、好ましくは水酸化ナトリウムで加塩されてもよく(特許文献15)、これらのアミドは、名称がACP(登録商標)である市販のものを利用可能である;
F)N−アセチル−グルコサミンを脱アセチル化して得たHAの脱アセチル誘導体であって、脱アセチル化率が好ましくは0.1〜30%である一方、HAのカルボキシル基の全ては、有機塩基及び/又は無機塩基で加塩されてもよく、好ましくは水酸化ナトリウムで加塩されてもよい(特許文献16);
G)N−アセチル−グルコサミンユニットの第一水酸基を酸化して得たHAの過カルボキシル化誘導体であって、0.1〜100%の過カルボキシル化率、好ましくはこれが25〜75%のものである。HAのカルボキシル基の全ては、有機塩基及び/又は無機塩基で加塩されてもよく、好ましくは水酸化ナトリウムで加塩されてもよく(特許文献17)、これらのアミドは、名称がHyoxx(登録商標)である市販のものを利用可能である。
【0044】
本発明で使用される三次元マトリクスは、不織ティシュー、ティシュー、マイクロスフェア、又はスポンジの形態であることが好ましい。
【0045】
より好ましい実施例によると、三次元マトリクスは、ベンジルアルコールのヒアルロン酸エステルであって、エステル化率が75〜100%、好ましくはこれが100%(HYAFF(登録商標)11)であり、特許文献7に記載のように調製された不織ティシューの形態である。
【0046】
HYAFF(登録商標)−11が軟骨の細胞外マトリクスの主成分について特定の防御作用を有することについて関連事項で示すと、以下の実験を計画し、行った。
【0047】
ウシ由来の軟骨移植片の調製及びその培養等
ウシ由来の軟骨由来の軟骨細胞の培養物、及びin vitroにおける膨張物(expansion)の調製
in vitroにおいて膨張させる前のウシ軟骨細胞で負荷したHYAFF(登録商標)−11に基づく不織布で構築した三次元マトリクスの調製(in vitroにおいて調製した新規の組織工学的軟骨)
マトリクス分子及び酵素の合成に及ぼす炎症性サイトカインの効果を同定するため、移植片及び上記のマトリクス(軟骨細胞を負荷する前のもの)の両方のIL−1による処理
IL−1の作用により、移植片及び組織工学的マトリクスから遊離したII型コラーゲンの測定;
IL−1の作用により、移植片及び上述のマトリクスから遊離したプロテオグリカンの測定
IL−1による移植片及び組織工学的組織の処理後のプロテアーゼの酵素活性の測定
【0048】
以下、上述の実験を行うことにより得た結果について、示すことを目的として限定することを目的とせず、以下に示す。
【0049】
(例1)
(ウシ軟骨の移植片の調製、及びその培養)
5匹の成動物からウシ軟骨の断片を採取し、25mm×3mm×10mmの部位に切断した。
【0050】
この部位を、次に、ペニシリンG及びストレプトマイシンの抗生物質並びにフンジゾン及びアムフォテリシンの抗カビ剤を有するリン酸緩衝液(PBS)中で洗浄した。
【0051】
このようにして得た部位を、グルタミン(2mM)、ペニシリンG(200U/mL)、ストレプトマイシン(0.1mg/mL)及びHEPES(10mM)を有しウシ胎仔血清を有さない400μLのDMEM培地を有する培養ウェルに載置し、インキュベーター中で37℃、5%COで4週間、培養した。
【0052】
(例2)
(ウシ軟骨由来の軟骨細胞の培養物、及びin vitroでの膨張物の調製)
5匹の成動物から採取し小さい部位に切断したウシ軟骨の断片を、37℃で15分間、ヒアルロニダーゼ(1mg/mL)で酵素消化を行い、37℃でさらに30分間、トリプシン(0.25%)で処理し、室温で一昼夜連続して攪拌しながらバクテリアルコラゲナーゼ(2mg/mL)で最後に処理した。上述の酵素は、いずれも、10%ウシ胎仔血清(FCS)含有DMEMに添加して調製した。
【0053】
このようにして得た軟骨細胞を、PBSで洗浄し、遠心分離し、FGF(1μL/mL)とFCSとを有するDMEM培地に再度懸濁した。
【0054】
このようにして得た細胞を、細胞培養ディッシュ上に播種し、37℃、5%COのインキュベーター内で、7日間、増殖させた。
【0055】
(例3)
(in vitroで前もって膨潤させたウシ軟骨細胞を負荷したHYAFF(登録商標)−11で形成された不織布で構成された新規の組織工学的軟骨のin vitroにおける調製)
単に示すことを目的とし、且つ限定する目的ではなく、以下、組織工学的組織のin vitroにおける調製の例について、述べる。
【0056】
HYAFF(登録商標)−11の不織布である三次元支持体を、最初に培地で水和し、その後、単位骨格当たり15×10個の軟骨細胞で負荷した。各骨格を、その後、FCS及びFGFを含有するDMEM培地で浸漬した、(上記のマトリクスの接着を促進し、及びディッシュ上で移動することを阻止するように)アガロース(1%)の薄層を形成した培養ディッシュに載置し、攪拌しながら、37℃で42日間、インキュベーターにセットした。栄養素であるFGFを、最初の4日の間、添加し、その後、培地を、インスリン(10μL/mL)及びアスコルビン酸(50μL/mL)を有するFCS含有の新鮮なDMEMに交換した。
【0057】
この培地を、2〜3日置きに交換した。42日間の培養の後、2つに分割し、このようにして得た全ての断片を、4週間、培養ウェルに移した。なお、この培養ウェルには、グルタミン(2mM)、ペニシリンG(200U/mL)、ストレプトマイシン(0.1mg/mL)及びHEPES(10mM)、並びにインスリン/トランスフェリン/セレンを有するFCS不含のDMEM培地が浸漬されている。上述と同様に、骨格について、IL−1の実験を行った。
【0058】
(例4)
(マトリクス分子、及びプロテアーゼ合成に及ぼす炎症性サイトカインの効果を同定するための、in vitroで調製した移植片及び軟骨のIL−1の処置)
軟骨移植片、及びウシ軟骨含有骨格(上述の通りin vitroで調製したもの)の半分の部位を、IL−1の実験に使用する一方、他の半分には、無処置のコントロールとして種々の処置を施さなかった。処置プロトコールは、以下の通りである:終濃度3nMとなるように培地にIL−1を添加した。この培地を2〜3日置きに交換し、常にIL−1の濃度を3nMとした。IL−1による処理時間は、2又は4週間である。除去した培地を各週毎に回収し、処置週毎に分割し、最終的な同定まで、−20℃で保存した。
【0059】
(例5)
(IL−1の作用により移植片、及び組織工学的マトリクスから放出されたII型コラーゲンの測定)
IL−1の処置の各週毎に回収した、移植片及び組織工学的マトリクスの培地に、この実験の終期で回収される残りの移植片及び組織とともに、プロテイナーゼK(1mg/mL)を用いた特定の酵素消化を、56℃で、15時間行った。
【0060】
特定のELISA(非特許文献11)を用いて、週毎に回収した培養サンプル(未処理のコントロールを含む)のII型コラーゲン量を測定するとともに、IL−1処理後の移植片及びHYAFF(登録商標)−11内に残存するコラーゲンを同定した。
【0061】
(例6)
(IL−1の作用により移植片及び組織工学的マトリクスから放出されたプロテオグリカンの測定)
コラーゲンを同定するために、IL−1で処置し各週毎に採取した移植片及び組織工学的マトリクスの培地に、この実験の終期で回収される残りの移植片及び組織とともに、上述したプロテイナーゼKを用いた特定の酵素消化を行った。
【0062】
特定の色素であるDBM(メチレンブルー)と、特定の比色試験とを用いて、分析サンプルに存在するプロテオグリカンの濃度を同定した(非特許文献12)。
【0063】
(例7)
(移植片及び組織工学的組織をIL−1で処置した後のメタロプロテイナーゼの酵素活性の測定)
移植片及び組織工学的組織、並びに未処理のコントロールについて、各週毎に採取した培地のメタロプロテイナーゼ活性を同定した。
【0064】
酵素活性の同定には、蛍光基質(7−メトキシクマリン−4−アセチル(MCA)−Pro−Leu−Gli−Leu−(3−2,4−ジニトロフェニル)−L−2,3−di−アミノプロピオニル(Dpa)−Ala−Arg−NH)を用いた。この基質及び採取した全てのサンプルと、10mMCaCO及び0.2%(v/v)TritonX−100を有する、0.1MのTris−HCl緩衝液(pH7.5)に希釈した。
【0065】
各サンプルの酵素活性は、分析サンプルに基質を添加した後、2分間、蛍光を読みとって測定し、各サンプル当たりに含有するII型コラーゲンの全質量(μg)当たりの単位(U)として示した(従って、残渣に対してと培地に対してとについて、同定した)(非特許文献13参照)。
【0066】
(結果)
図1Aに明確に示すように、ウシコラーゲンの移植片は、IL−1での処理の4週間後において、完全に分解した一方、HYAFF(登録商標)−11からなる組織工学的軟骨では、4週間の処理後においても、肉眼での変化は観察されなかった。
【0067】
対応する未処理のコントロールの質量と比較した処理後の残渣の質量を同定することにより、上述の結果を確認した(図2A〜B)。
【0068】
IL−1処理の各週毎(処理の期間:2週間)の培養液中のプロテオグリカン分子の濃度を算出することにより、プロテオグリカンの分解率を同定し、残渣(つまり、移植片の残渣、又は組織光学的マトリクスの残渣)と、対応する培養液とに存在するプロテオグリカンの全濃度の百分率として、表示した。
【0069】
このようにして得た結果が示すように、IL−1は、処理済みの軟骨移植片において、処理1週間以内に86%の分解率と、有意なプロテオグリカンの分解を誘導した(図3A)。組織光学的マトリクスにおいても同様にIL−1のプロテオグリカン分解が起こったが、分解のレベルは、処理2週間においてのみ約70%に到達した(図3B)。
【0070】
IL−1処理の各週毎(処理期間:4週間)における培養液中のII型コラーゲンの濃度を算出することにより、II型コラーゲンの分解の程度を同定し、残渣(つまり、移植片の残渣、又は組織光学的マトリクスの残渣)と、対応する培養液とに存在するII型コラーゲンの全濃度の百分率として、表示した。このようにして得た結果が示すように、IL−1で処理した軟骨移植片では、4週間の処理で、コラーゲン全体の分解が起こった(図4A)一方、HYAFF(登録商標)−11を基礎とした組織におけるII型コラーゲンの分解の程度は、無視し得るものであって、4週間の処理の後で、20%程度であった(図4B)。
【0071】
軟骨移植片、及びin vitroで調製した組織工学的組織の両者においてIL−1の処理で産生したメタロプロテイナーゼ(MMP)の全酵素活性を、図5A〜Bの通り、定量した。
【0072】
IL−1は、IL−1処理(3週間及び4週間の処理)の軟骨においてメタロプロテイナーゼの強力に増加誘導したが、HYAFF(登録商標)−11を基礎とした組織工学的組織におけるメタロプロテイナーゼ活性では、増加は同定されなかった。上述の全ての結果により、ヒアルロン酸誘導体(特にベンジルエステルであるHYAFF(登録商標)−11)からなる生物学的材料を三次元マトリクス(好ましくは不織状)としたものでは、OA、リューマチ病及び乾癬性関節炎などの病態で過剰産生される炎症性サイトカインの浸食作用に曝露された際に細胞外軟骨マトリクスを構築する上述の分子に対して、強力な防御作用を発揮すると言える。
【0073】
本発明について、上記の通り述べてきたが、上述の方法は、種々の方法に改変可能である。斯かる改変は、本発明の精神及び目的から逸脱するものと考慮されるべきものではなく、当業者に明らかであろう種々の改変は、添付した特許請求の範囲に包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1A】IL−1で処理した軟骨移植片の肉眼像の写真である。
【図1B】IL−1で処理した後に、in vitroにおいてHYAFF(登録商標)−11で調製した組織工学的軟骨の肉眼像の写真である。
【図2】天然の軟骨(A)及び組織工学的軟骨(B)における湿重量(平均±標準誤差、n=5)に及ぼすIL−1の効果を示す。各実験において、軟骨には、3nMのIL−1β、又は培地のみ(コントロール)を4週間曝露した。統計学的分析は、両側マンホイットニーU検定で行った。
【図3】天然の軟骨(A)及び組織工学的軟骨(B)におけるプロテオグリカンの含量(平均±標準誤差、n=5)に及ぼすIL−1の効果を示す。各実験において、軟骨には、3nMのIL−1β(斜線のバー)、又は培地のみ(黒のバー)を4週間曝露した。各週に培地及び残る軟骨を回収し、実験の終期にプロテオグリカンの測定に用いた。統計学的分析は、両側マンホイットニーU検定で行った。
【図4】天然の軟骨(A)及び組織工学的軟骨(B)におけるII型コラーゲンの含量(平均±標準誤差、n=5)に及ぼすIL−1の効果を示す。各実験において、軟骨には、3nMのIL−1β(斜線のバー)、又は培地のみ(黒のバー)を4週間曝露した。各週に培地及び残る軟骨を回収し、実験の終期にII型コラーゲンの測定に用いた。統計学的分析は、両側マンホイットニーU検定で行った。
【図5】天然の軟骨(A)及び組織工学的軟骨(B)におけるMMP活性の放出(平均±標準誤差、n=5)に及ぼすIL−1の効果を示す。各実験において、軟骨には、3nMのIL−1β(斜線のバー)、又は培地のみ(黒のバー)を4週間曝露した。各週に培地及び残る軟骨を回収し、実験の終期に、MMP活性(培地)及びII型コラーゲン(培地及び軟骨)の測定に用いた。統計学的分析は、両側マンホイットニーU検定で行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
c)ヒアルロン酸誘導体を基礎とした三次元マトリクスと、
任意でd)軟骨細胞、又は軟骨細胞に部分的若しくは完全に分化した間葉細胞と、
を有する生物学的材料の使用であって、
変形性関節症及び/又は骨関節症、リューマチ病、並びに乾癬性関節炎から選択された変性病態及び/又は炎症性病態により障害を受けた関節軟骨に外科的に移植されるべき、又はこれらの病態から防御されるべき移植片を調製するための、生物学的材料の使用。
【請求項2】
前記生物学的材料は、上述の細胞成分(b)を有し、
前記移植片は、細胞外軟骨マトリクスの分解を伴った前記変性病態が構築されている炎症状態の関節包の内部にin vivoで外科的に移植されるin vitroの軟骨組織であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記のin vitroの軟骨組織は、前記軟骨細胞、又は軟骨細胞に部分的若しくは完全に分化した前記間葉細胞で産生された細胞外マトリクスをさらに有し、
該細胞外マトリクスは、前記のin vitroの軟骨組織と、ひとたびin vivoに移植された場合には、前記変性病態のひとつに影響を受けた前記関節軟骨の内部と、に存在することを特徴とする請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記移植片は、前記変性病態のひとつの初期段階における関節軟骨に外科的に移植されるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記移植片は、軟骨の細胞外マトリクスを構成する分子の分解工程の初期において外科的に移植されるものであることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記移植片は、軟骨が適度及び/又は重度に障害を受けている領域が観察される際、前記の病態の遅い時期に外科的に移植されるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記ヒアルロン酸誘導体におけるヒアルロン酸の平均分子量は、1×10Da以上1×10Da以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記ヒアルロン酸の平均分子量は、200,000以上750,000Da以下であることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記ヒアルロン酸は:
A)有機塩基及び/又は無機塩基で加塩されたHA;
B)脂肪族、芳香族脂肪族、脂環族、芳香族、環状及びヘテロ環のアルコールでエステル化されたHAエステル;
C)脂肪族、芳香族脂肪族、脂環族、芳香族、環状及びヘテロ環のアルコールでエステル化されたHAエステル;
D)HAのO−硫酸化誘導体;
E)20%未満のエステル化率を有するHAの内部エステル;
F)N−アセチル−グルコサミン画分の脱アセチル化で得たHAの脱アセチル化誘導体;並びに
G)N−アセチル−グルコサミン画分の第一水酸基を酸化して得た、0.1〜100%の過カルボキシル化率を有するHAの過カルボキシル化誘導体;
からなるクラスから選択されたものであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記ヒアルロン酸誘導体は、前記のクラス(A)に属し、且つ水酸化ナトリウムでヒアルロン酸を処理して得たものであることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記ヒアルロン酸誘導体が前記のクラス(B)に属する場合、
該ヒアルロン酸誘導体は、50〜100%のエステル化率を有し、
エステル化されていないヒアルロン酸は、有機塩基又は無機塩基で加塩されていることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記の塩基は、水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記ヒアルロン酸誘導体が前記のクラス(C)に属する場合、
該ヒアルロン酸誘導体は、0.1〜50%のアミド化率を有し、
残りの部分は、有機塩基及び/又は無機塩基で加塩されていることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項14】
前記の塩基は、水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記ヒアルロン酸誘導体が前記のクラス(D)に属する場合、
該ヒアルロン酸誘導体は、単位糖当たり1〜4の−OSOH基を有することを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項16】
前記ヒアルロン酸誘導体が前記のクラス(E)に属する場合、
該ヒアルロン酸誘導体は、0.05〜10%のエステル化率を有し、
エステル化されていないヒアルロン酸は、有機塩基及び/又は無機塩基で加塩されていることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項17】
前記の塩基は、水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記ヒアルロン酸誘導体が前記のクラス(E)に属する場合、
該ヒアルロン酸誘導体は、0.1〜30%の脱アセチル化率を有し、
ヒアルロン酸のカルボキシル基の全てが、有機塩基及び/又は無機塩基で加塩されていることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項19】
前記の塩基は、水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記ヒアルロン酸誘導体が前記のクラス(G)に属する場合、
該ヒアルロン酸誘導体は、25〜75%の過カルボキシル化率を有し、
カルボキシル基の全てが、有機塩基及び/又は無機塩基で加塩されていることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項21】
前記の塩基は、水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記三次元マトリクスは、不織ティシュー、ティシュー、マイクロスフェア及びスポンジからなる群から選択された形態であることを特徴とする請求項1乃至21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
前記ヒアルロン酸誘導体は、前記のクラス(A)に属するヒアルロン酸エステルであることを特徴とする請求項1乃至22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記ヒアルロン酸エステルは、75〜100%のエステル化率を有するベンジルエステルであることを特徴とする請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記ベンジルエステルは、100%のエステル化率を有し、不織ティシューの形態であることを特徴とする請求項24に記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−524489(P2007−524489A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500225(P2007−500225)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【国際出願番号】PCT/EP2005/050817
【国際公開番号】WO2005/082433
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(503225869)フィディア アドヴァンスド バイオポリマーズ ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (2)
【Fターム(参考)】