三次元周期構造体および該三次元周期構造体を用いた導波路ならびに共振器
【課題】 インバース構造において、欠陥ボリュームが制御された欠陥が導入された三次元フォトニック結晶などのための微粒子構造体、構造体全体の繰り返しを乱すことなく、局所的に欠陥が導入された周期的な微粒子構造体、このような三次元周期構造体を用いた導波路ならびに共振器を提供すること。
【解決手段】 材質a中に大きさの等しい複数の球状空間が三次元的に規則的に配列されており、該複数の球状空間のうちの選択された1以上の球状空間に材質aとは異なる材質b(例えば、芯粒子の材質b1と外殻の材質b2)が満たされた構造を有する三次元周期構造体である。材質b1の芯粒子は球形状を有する。
【解決手段】 材質a中に大きさの等しい複数の球状空間が三次元的に規則的に配列されており、該複数の球状空間のうちの選択された1以上の球状空間に材質aとは異なる材質b(例えば、芯粒子の材質b1と外殻の材質b2)が満たされた構造を有する三次元周期構造体である。材質b1の芯粒子は球形状を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶として利用される微粒子構造体および該三次元周期構造体を用いた導波路ならびに共振器に関し、特に微粒子構造体への欠陥導入技術に関するものである。
【0002】
本発明は、フォトニック結晶の欠陥を利用した導波路デバイス、および、光共振器などの光回路の分野への応用に特に適する微粒子構造体に関するものであるが、さらに、フォトニック結晶に限らず、一般に、構造体が高度に規則配列した周期構造を有することによる特有の特性を発現し、かつ、この構造体中に全体の周期構造を壊すことなく、周期構造の欠陥(不規則性)を導入することにより、新たな特性を発現する材料およびデバイスに適用可能である。
【背景技術】
【0003】
従来の微粒子を用いた構造体やフォトニック結晶、およびその形成方法に関する公知文献として、例えば特許第2905712号(特許文献1)、特開2001−42144号公報(特許文献2)、特開2001−249234号公報(特許文献3)などがある。
【0004】
また、本発明の対象としているインバース構造(逆オパール構造)の形成に関わる公知文献としては、例えば特開2003−2687号公報(特許文献4)、特開2004−46224号公報(特許文献5)などがある。
【0005】
以下、これらの公知文献の要約をまとめておく。
a)特許第2905712号明細書(特許文献1)に開示された発明は、微粒子の最密充填構造を有したオパール様回折発色膜とその製造法に関するものである。
【0006】
b)特開2001−42144号公報(特許文献2)に開示された発明は、微粒子の結晶構造を利用したフォトニック結晶とその製造方法に関するものである。
c)特開2001−249234号公報(特許文献3)に開示された発明は、ポリマー媒質中で微粒子を配列させた後に、圧縮するフォトニック結晶の形成方法に関するものである。
【0007】
特開2003−2687号公報(特許文献4)に開示された発明は、焼成時に焼失可能な微粒子とこの微粒子よりも粒径の小さいナノサイズ粒子とが混じった懸濁溶液に浸漬して基板上に微粒子を配列させると同時に微粒子間にナノサイズ粒子を充填させて、基板上に微粒子とナノサイズ粒子との粒子膜を形成した後、この粒子膜を焼成することにより微粒子を焼失させてインバース構造を形成する方法に関するものである。
【0008】
特開2004−46224号公報(特許文献5)に開示された発明は、特開2003−2687号公報(特許文献1)の方法により形成したインバース構造に、光異性化を起こす化合物とネマチック液晶との混合物を充填することにより、所望波長の光の反射のON/OFFを光でスイッチングすることができるようにした光応答型液晶入りフォトニック結晶に関するものである。
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された発明では、結晶全体の構造を崩さずに、欠陥ボリュームが制御された欠陥が導入された微粒子構造体および微粒子によるフォトニック結晶については何ら言及していない。
【0010】
また、特許文献4,5に開示された発明では、インバース構造を形成する方法については開示されているものの、本発明が対象とする如き、結晶全体の構造を崩さずに、欠陥ボリュームを制御した欠陥が導入されたインバース構造体およびインバース構造によるフォトニック結晶については何ら開示されていない。
【0011】
【特許文献1】特許第2905712号明細書
【特許文献2】特開2001−42144号公報
【特許文献3】特開2001−249234号公報
【特許文献4】特開2003−2687号公報
【特許文献5】特開2004−46224号公報
【特許文献6】特開2000−233999号公報(後述)
【非特許文献1】ユリイ エー ヴラソフ(Yurii A.Vlasov)外3名著,“On-chip natural assembly of silicon photonic bandgap crystals”「ネ−チャ(Nature)」,2001年11月15日,Vol.414, p.289−293(後述)
【非特許文献2】クラシミール ピー ベリコフ(Krassimir P.Velikov)外2名著“Photonic crystal of core-shell colloidal particles”「アプライド フィズィックス レターズ(Applied Physics Letters)」,2002年1月7日,Vol.80,No.1, p.49−51 (後述)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
フォトニック結晶とは、屈折率の異なった二つ以上の材料(一方は空気でも可)が、空間的な対称性・規則性を有して配置された周期構造を有する材料である。フォトニック結晶では、この規則構造・周期構造を有することにより、従来の光学材料では得られなかった特性を発揮するようになる。
【0013】
そのもっとも特徴的なものは、フォトニックバンドギャップ(PBG)の発現である。フォトニック結晶では、PBGに対応した波長の光は完全に通さないが、その他の波長は透過させることができる。完全(無欠陥)なフォトニック結晶では、PBGの波長の光は完全に通さない。図17は、フォトニック結晶の光透過スペクトルを示す図(横軸;波長、縦軸;透過率)であり、101はPBG(フォトニックバンドギャップ)を示している。PBG101に対応した波長の光はフォトニック結晶中を通さない(透過率がゼロ)ことを示している。
【0014】
こうしたフォトニック結晶の利用の仕方にはいろいろあるが、フォトニック結晶の特性を活かした最も重要な使用方法は、フォトニック結晶中に欠陥を導入することにより、本来、光が存在しえないPBG中に局在化した準位(欠陥準位)を発生させて、欠陥が導入された領域にのみ光を局在させるというものである。
【0015】
図18は、光が存在しえないPBG中に欠陥により発生した局在化した準位(欠陥準位)102を示す図であり、光はこの局在化した準位(欠陥準位)102のみに局在するようになる。こうした光の局在化の特性を利用して導波路や共振器などを構成することが可能となる。
【0016】
こうした欠陥の導入が具体的にどのように行われているのかを、通常、行われている SOI(Silicon on Insulator)を利用したエアーブリッジ型の2次元フォトニック結晶を例にして説明する。
【0017】
図19は、無欠陥の2次元のエアーブリッジ型フォトニック結晶を示す図であり、同図(a)は上方から見た平面図を、同図(b)はその断面図を示している。
【0018】
図19に示す無欠陥の2次元のエアーブリッジ型フォトニック結晶では、シリコン結晶103中に一定の周期でエアーホール104が導入されていて、欠陥が全く存在しない状態を示している。同図において、105はシリコン基板、106は酸化シリコン、107は空隙を示している。
【0019】
図19に示す如き無欠陥の2次元のエアーブリッジ型フォトニック結晶への欠陥導入は、周期構造の繰り返しを乱すことによって行われる。
【0020】
具体的には、図20(a)に示すように、無欠陥の2次元エアーブリッジ型フォトニック結晶の場合に周期的に繰り返されるエアーホールのうち、欠陥108となる箇所にはエアーホールを入れないという方法(これを「ドナー型」という)と、図20(b)に示すように、無欠陥の2次元エアーブリッジ型フォトニック結晶の場合に周期的に繰り返されるエアーホール104のうち、欠陥109となる箇所には他のエアーホール104とは異なる大きさのエアーホールを入れてやる方法(これを「アクセプタ型」という)がある。こうしたドナー型およびアクセプタ型といった呼び方の由来は、通常の半導体材料への不純物ドーピングのアナロジーからきている。
【0021】
また、特にアクセプタ型では、欠陥となる位置のエアーホールの大きさを変えることにより、PBGに導入される準位のエネルギー(波長λ)を変えてやることができる。図21は、アクセプタ型欠陥の大きさと順位のエネルギー(周波数ω=hc/波長λ)の関係を示す図であり、アクセプタ型欠陥の大きさが大きくなるほど、PBGに導入される順位のエネルギーも大きくなることを示している。
【0022】
この関係を利用することにより、アクセプタ型欠陥の大きさによる波長チューニング性を付与させることができる。このように、欠陥の大きさを変えることにより、波長チューニング性を付与させることを、本発明では、“欠陥ボリュームを制御する”という言葉を用いて表現することにする。
【0023】
上記の例は、フォトニック結晶として2次元結晶を用いた場合の例であるが、光の局在化や閉じ込めが可能になるというフォトニック結晶の特性を考えると、フォトニック結晶として三次元結晶の形態で利用した方が有効と考えられる。その理由は、2次元結晶の場合には、上下方向に対して光の閉じ込め効果が働いていないため、どうしても上下方向に光が漏れてしまうからである。
【0024】
しかしながら、上記で説明した技術は、フォトリソグラフィなどによる微細加工技術をベースにしているため、三次元フォトニック結晶へ適用させることは難しい。
【0025】
三次元フォトニック形成に有利な微粒子を用いた方法では、フォトニック結晶に欠陥を導入したり、ドーピングしたりする場合には、従来、フォトニック結晶の基本構造を構成する微粒子とは大きさの異なる微粒子を結晶の一部に入れていた(例えば、ユリイ エー ヴラソフ(Yurii A.Vlasov)外3名著,“On-chip natural assembly of silicon photonic bandgap crystals”「ネーチャ(Nature)」,2001年11月15日,Vol.414, p.289−293参照;非特許文献1)
【0026】
しかしながら、この方法では、フォトニック結晶全体の周期構造を乱さずに導入できる欠陥は、基本構造を構成する微粒子間の間隙にちょうど入り込める微粒子の使用しか許されない。これよりも大きな微粒子を使用すると、フォトニック結晶全体の周期構造を乱してしまう。したがって、この方法では、導入した欠陥の欠陥ボリュームを制御することはできない。
【0027】
以上のように、三次元フォトニック結晶に欠陥を導入し、かつ、結晶全体の周期構造を壊さずに自在にその欠陥ボリュームが制御する方法は、従来、全く提示されていなかった。
【0028】
以上のような課題を鑑みて、本願出願人は、先に、微粒子が規則配列した微粒子構造体において、微粒子構造体の全体の規則性を乱すことなく、欠陥ボリュームが制御された欠陥の導入された微粒子構造体に関する発明を、特願2003−026771として既に出願している。
【0029】
しかしながら、微粒子構造体は屈折率変調が弱いために、光閉じ込め効果が充分に得られるフォトニック結晶としては、必ずしも適してはいない。そこで、微粒子110からなる微粒子構造体(図22(a))を型として用い、該微粒子構造体に大きな屈折率材料を充填させた後、微粒子110を焼失させ、微粒子110部分を空隙112にした反転構造(インバース構造:図22(b))を形成して、光閉じ込めをするのに有利な構造体に転換をすることが、従来、行われてきている(例えば、特開2000−233999号公報(特許文献6))。
【0030】
以上のようなインバース構造において、従来、導入された欠陥の欠陥ボリュームを自在に制御する技術は存在していなかった。
【0031】
そこで、本発明の目的は、上記問題点を解消し、インバース構造において、欠陥ボリュームが制御された欠陥が導入された三次元フォトニック結晶などのための微粒子構造体を提供すること、また、フォトニック結晶と同様に、構造体が規則的な繰り返し構造(周期構造)を有することにより特有の特性を発現し、この周期構造体中に欠陥を導入することにより新たな特性が付与される場合において、構造体全体の繰り返しを乱すことなく、局所的に欠陥が導入された周期的な微粒子構造体を提供すること、およびこのような三次元周期構造体を用いた導波路ならびに共振器を提供することにある。
【0032】
各請求項のより具体的な目的は以下のようなものである。
【0033】
イ)請求項1、請求項2および請求項3記載の発明の目的は、周期構造体の規則性を乱すことなく欠陥を導入し、欠陥ボリュームを制御することである。
【0034】
ロ)請求項4および請求項5記載の発明の目的は、欠陥ボリュームの異なる二つ以上の欠陥を全体の規則性を乱すことなく、同時に周期構造体中に導入することである。
【0035】
ハ)請求項6記載の発明の目的は、周期構造体に導入された、欠陥ボリュームの制御された欠陥を導波路や共振器などに利用することである。
【0036】
ニ)請求項7記載の発明の目的は、周期構造体の基本構造が有する周期長よりも長周期の周期構造を周期構造体に導入し、長周期構造により引き起こされる効果・特性を利用することである。
【0037】
ホ)請求項8および9記載の発明の目的は、全体の構造を壊したり、乱したりせずに欠陥を導入した三次元周期構造体を用いた導波路および共振器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0038】
a)請求項1記載の発明は、材質a中に大きさの等しい複数の球状空間が三次元的に規則的に配列されてなる三次元周期構造体であって、前記複数の球状空間のうちの選択された1以上の球状空間に材質aとは異なる材質bが満たされていることを特徴としている。
【0039】
b)請求項2記載の発明は、請求項1に記載の三次元周期構造体において、材質bが、少なくとも2つ以上の異なる材質部分からなることを特徴としている。
【0040】
c)請求項3記載の発明は、請求項2に記載の三次元周期構造体において、前記材質bが、芯粒子の材質b1と該芯粒子を皮状に包んでいる外殻の材質b2とから構成され、且つ、前記材質b1の芯粒子は球形状であることを特徴としている。
【0041】
d)請求項4記載の発明は、請求項3に記載の三次元周期構造体において、前記球状空間に材質bが充填されている箇所が複数箇所あり、且つ、該複数箇所のいずれかの間において前記材質bにおける材質b1の芯粒子の大きさが異なっていることを特徴としている。
【0042】
e)請求項5記載の発明は、請求項3に記載の三次元周期構造体において、前記球状空間に材質bが充填されている箇所が複数箇所あり、且つ、該複数箇所のいずれかの間において芯粒子の材質が異なっているか、皮の材質が異なっていることを特徴としている。
【0043】
f)請求項6記載の発明は、請求項1、請求項2、請求項4または請求項5のいずれかに記載の三次元周期構造体において、前記球状空間に材質bが充填されている箇所の配置位置が微粒子構造体中で、二次元的もしくは三次元的な任意のパターンとなっていることを特徴としている。
【0044】
g)請求項7記載の発明は、請求項6に記載の三次元周期構造体において、前記球状空間に材質bが充填されている微粒子構造体中のパターンが空間的な対称構造を有していることを特徴としている。
【0045】
h)請求項8および9記載の発明は、請求項1から7のいずれかに記載の三次元周期構造体を用いたことを特徴とする導波路および共振器である。
【発明の効果】
【0046】
a)請求項1記載の発明の効果
請求項1に記載の三次元周期構造体によれば、材質a中に存在している任意の球状空間に材質aとは異なる材質bが満たされているので、欠陥が導入された三次元周期構造体でも全体の構造を壊したり、乱したりすることがない。
【0047】
b)請求項2記載の発明の効果
請求項2に記載の三次元周期構造体によれば、少なくとも2つ以上の異なる材質から材質bが構成されているため、三次元周期構造全体からみた材質bの箇所の実効的な屈折率を自在に制御できることになり、導入する欠陥の欠陥ボリュームを実効的に変化・制御することが可能となる。
【0048】
c)請求項3記載の発明の効果
請求項3に記載の三次元周期構造体によれば、材質bが、材質b1からなる球形状の芯粒子と芯粒子を皮状に包んでいる外殻の材質b2から構成されていることにより、三次元周期構造の規則性を乱すことなく、導入する欠陥の欠陥ボリュームを実効的に変化・制御することが可能となる。
【0049】
d)請求項4記載の発明の効果
請求項4に記載の三次元周期構造体によれば、材質b1からなる球形状芯粒子の大きさが任意の箇所において異なっていることにより、三次元周期構造体中に欠陥ボリュームの異なる複数の欠陥が導入されている。以上のような三次元周期構造体は、フォトニック結晶として利用する場合に、異なった波長の利用が可能となり、欠陥が複数種あることを利用したデバイスへの利用が可能となる。
【0050】
e)請求項5記載の発明の効果
請求項5に記載の三次元周期構造体によれば、任意の材質bの箇所間における芯粒子の材質が異なっているか、あるいは皮の材質が異なっていることにより、三次元周期構造体中に欠陥ボリュームの異なる複数の欠陥が導入されている。以上のような三次元周期構造体は、フォトニック結晶として利用する場合に、異なった波長の利用が可能となり、欠陥が複数種あることを利用したデバイスへの利用が可能となる。
【0051】
f)請求項6記載の発明の効果
請求項6に記載の三次元周期構造体によれば、材質bが充填されている箇所の配置位置が、三次元周期構造体中で、二次元的もしくは三次元的な、任意のパターンとなっていることにより、導入された欠陥を利用して、導波路や共振器などのデバイスを構成することができる。
【0052】
g)請求項7記載の発明の効果
請求項7に記載の三次元周期構造体によれば、材質bの三次元周期構造体中での配置パターンが空間的な対称構造を有していることにより、対称構造による共鳴効果利用したデバイスや共振器のモード低減など、空間対称構造による効果を利用したデバイスの構成が可能となる。
【0053】
h)請求項8および9記載の発明の効果
請求項8および9に記載の導波路および共振器によれば、請求項1〜7に記載の三次元周期構造体中に導入された欠陥を利用した導波路および共振器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
本発明の基本構成を、図1を用いて説明する。
図1に示すように、本発明の三次元周期構造体は、材質a中に大きさの等しい複数の球状空間cが最密充填構造で配列しており(インバース構造)、且つ、任意の選択された1以上の球状空間cには、材質b1の球状芯粒子と材質b2の外殻からなる材質bが充填されている。すなわち材質bの箇所は、材質b1と材質b2の多重構造の粒子となっている。
【0055】
材質bの箇所は、周囲の球状空間と同一径、且つ、同一形状であるため、材質bが充填されていても、三次元周期構造体全体の周期性を乱すことはないが、フォトニック結晶のように特性の決定に誘電率が支配している場合を例にすると、材質bが充填されたことにより、三次元周期構造体中に球状空間とは異なる誘電率が部分的に導入されるため、フォトニック結晶としては、欠陥が導入されたことになる。
【0056】
その結果として、光学特性としては、局在化された準位が形成される。フォトニック結晶としては、材質b全体の平均化された誘電率が問題となるわけで、材質b1と材質b2とを異なった材質を用いることにより、材質bの平均化された誘電率の値を制御することが可能になる。
【0057】
材質bの平均化された誘電率を制御する方法としては、材質b1および材質b2の選択や材質b1の球状芯粒子の大きさを調整することにより行う方法がある。
【0058】
材質bを材質b1と材質b2の多重構成にするのは、材質bの平均屈折率を制御するためなので、材質b1が材質aと同一、あるいは、材質b2が材質aと同一になる場合があっても差し支えない。
【0059】
本発明で用いている多重構造の粒子を形成する方法には既にいろいろな方法が開発されており、こうした多重構造の粒子を使ってフォトニック結晶に利用するという研究は既に開示されている(クラシミール ピー ベリコフ(Krassimir P.Velikov)外2名著“Photonic crystal of core-shell colloidal particles”「アプライド フィズィックス レターズ(Applied Physics Letters)」,2002年1月7日,Vol.80,No.1, p.49−51(非特許文献2))。
【0060】
しかしながら、インバース構造内部の球状空間と同一の大きさ・球状の多重粒子を用いることにより、結晶の乱れを防止しつつ、欠陥ボリュームを制御できることについては従来報告されていない。
【0061】
以上の説明で、材質の誘電率について述べているのは、フォトニック結晶が誘電率の空間的周期構造によって、その特性を発現するからである。本発明の本旨は、全体の周期構造が乱されることなく、且つ、制御された欠陥が導入されている三次元周期構造体である。
【0062】
したがって、誘電率ではない他の物性値の空間周期構造により特有の特性を発現させる周期構造体の場合には、特性を発現する元となっている物性値に着目して、その物性値が異なるように材質a、材質b1、および、材質b2を選択するようにしてもよい。
【0063】
本発明では、導入する欠陥の箇所が多重構造(図1の場合は2重構造)を有していることにより、その箇所の平均の物性値(フォトニック結晶の場合には、誘電率)を制御している。このようなやり方は、微細加工によるトップダウン的な形成方法では難しい。本発明に係る三次元周期構造体は、ボトムアップ(自己組織化現象の利用)により、全体の周期構造を乱さずに、制御された欠陥を導入する。以下、実施例を用いて、詳しく説明を行う。
【実施例1】
【0064】
実施例1を、図面を用いて説明する。本実施例は、請求項1、請求項2および請求項3に係る発明を説明するためのものである。
【0065】
本実施例1では、図2に示すように、粒径360nmの球形状単分散シリカ粒子(微粒子1)と粒径300nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2)を用意する。
【0066】
次に、粒子1をエタノール分散媒中に4wt%で分散させた原料液20を調整する。次に、図3に示すように、酸化膜つきSiウェハにTiイオンを照射した基板21と、酸化膜つきSiウェハの基板22の間に、ギャップ材23を用いて、厚さ10μmの空間を作る。ここで、基板にTiイオンを照射した基板21を用いる理由は、後の工程で、基板21と基板22の間の形成された微粒子構造体を剥がし取る際に、基板21の上に選択的に微粒子構造体24を残すためである。
【0067】
以上のような基板21と基板22による構成物の下端を、図3に示すように、原料液容器19に入れた原料液20につける。基板21と基板22による構成物の上端からは、分散媒が蒸発するため、原料液20は、基板21と基板22による作られる間隙中を、図3中の上方へ向かって供給され、基板21と基板22による構成物の上端に微粒子構造体24が集積される。なお、図中、25は、原料液容器19からの分散媒蒸散防止のためのカバーである。
【0068】
集積後、分散媒を充分蒸発させた後、基板22を剥がすことにより、基板21上に微粒子1の微粒子構造体24が得られる。
【0069】
この後、微粒子構造体24を500℃で1時間炉中アニールを行った後、球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアがコートされた微粒子2をマイクロピンセットにより、微粒子構造体表面の任意の位置に配置する。この後、再び、微粒子構造体を500℃で1時間炉中アニールを行う。
【0070】
この後、上記如くして得られた基板上に微粒子構造体が形成された基板21と基板22(基板22とは別の基板22’でも可)で、厚さ20μmのギャップ材23’(図3のギャップ材23を厚さ20μmのギャップ材23’に置き換える)を用いて、厚さ20μmの空間を作り、基板21と基板22による構成物の下端を、図3と同様に、微粒子1による原料液につけて、微粒子1の微粒子構造体を集積させる。微粒子構造体を集積した後、基板22を剥がし、500℃で1時間炉中アニールを行う。
【0071】
以上までの工程により、球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアがコートされた微粒子2による欠陥層が、球形状単分散シリカ粒子である微粒子1の微粒子構造体によりサンドイッチされた微粒子構造体が得られる。この微粒子構造体の欠陥層を上方から見ると、図4に示すように微粒子2が導入されている。
【0072】
この後、基板21上で形成された微粒子構造体を新たな基板22aで挟んだものの下端を、図5に示すように、平均粒径2nmのチタニア粒子水分散液(濃度:10wt%)につけて、微粒子構造体の粒子間にチタニア粒子を充填させる。
【0073】
チタニア粒子が充填された後、基板22aを剥がし、500℃で1時間炉中アニールを行う。この後、チタニア粒子が充填された微粒子構造体24aを2%HF水溶液につけて、シリカの部分を溶解除去した後、水によりリンスを行い、乾燥させることにより、目的とする三次元周期構造体を得ることができる。
【0074】
この三次元周期構造体は、チタニアのインバース構造中に、球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアがコートされた微粒子2による欠陥層が導入されている。この三次元周期構造体の欠陥層を上方から見ると、図6に示すように、球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアがコートされた微粒子2が導入されている。
【0075】
ここで、述べるマイクロピンセットとは、原子間力顕微鏡やトンネル顕微鏡などに用いられているマイクロプローブを微小物質のハンドリングに用いたもので、これを用いて、微粒子を1個ごと、あるいは、複数の微粒子からなるブロックを狙った位置にもっていき、配置する。
【実施例2】
【0076】
次に、実施例2を、図面を用いて説明する。本実施例は、請求項1、請求項2、請求項3および請求項4に係る発明を説明するためのものである。
【0077】
図7は、実施例2で使用する微粒子を説明するための図である。実施例2では、図7に示すような3種類の微粒子を用意する。
【0078】
同図(a)は、粒径360nmの球形状単分散シリカ粒子(微粒子1)を示し、同図(b)は、粒径300nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−1)を示し、同図(c)は、粒径300nmの球形状単分散チタニア粒子の表面にアルミナをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−2)を示している。
【0079】
まず、図3に示すように、実施例1と同様の方法にて、微粒子1を酸化膜つきSiウェハにTiイオンを照射した基板21上に集積させる。
【0080】
この後、微粒子構造体を500℃で1時間炉中アニールを行った後、マイクロピンセットにより、微粒子2−1と微粒子2−2をそれぞれ微粒子構造体表面の任意の位置に配置する。
【0081】
微粒子2−1と微粒子2−2を配置した微粒子構造体は、厚さ20μmのギャップ材(23’)を用いて、新たな酸化膜つきSiウェハ基板22で挟み、図3に示すように、この下端を微粒子1の原料液につけて、微粒子1の微粒子構造体を集積させる。微粒子構造体を集積した後、基板22を剥がし、500℃で1時間炉中アニールを行う。
【0082】
以上までの工程により、微粒子2−1および微粒子2−2による欠陥層が微粒子1の微粒子構造体によりサンドイッチされた微粒子構造体が得られる。この微粒子構造体の欠陥層を上方から見ると、図8に示すように、微粒子2−1および微粒子2−2が導入されている。
【0083】
この後、基板21上で形成された微粒子構造体を新たな基板22(または別の基板22’でもよい)で挟んだものの下端を、図5に示すように、平均粒径2nmのチタニア粒子水分散液(濃度:10wt%)につけて、微粒子構造体の微粒子間にチタニア粒子を充填させる。
【0084】
チタニア粒子が充填された後、基板22を剥がし、500℃で1時間炉中アニールを行う。この後、チタニア粒子が充填された微粒子構造体を2%HF水溶液につけて、シリカの部分を溶解除去した後、水によりリンスを行い、乾燥させることにより、目的とする三次元周期構造体を得ることができる。
【0085】
この三次元周期構造体は、チタニアのインバース構造中に、微粒子2−1(図7(b)参照)および微粒子2−2(図7(c)参照)による欠陥層が導入されている。この三次元周期構造体の欠陥層を上方から見ると、図9に示すように、微粒子2−1および微粒子2−2が導入されている。
【実施例3】
【0086】
次に、実施例3を、図面を用いて説明する。本実施例は、請求項1、請求項2、請求項3および請求項5に係る発明を説明するためのものである。
【0087】
図10は、実施例3で使用する微粒子を説明するための図である。実施例3では、図10に示すような3種類の微粒子を用意する。
【0088】
図10(a)は、粒径360nmの球形状単分散シリカ粒子(微粒子1)を示し、図10(b)は、粒径280nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−1)を示し、図10(c)は、粒径320nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−2)を示している。
【0089】
実施例3は微粒子2が異なるだけで、形成方法は実施例2と同様である。
【0090】
本実施例の三次元周期構造体の欠陥層を上方から見ると、図11に示すように、微粒子2−1および微粒子2−2が導入されている。
【実施例4】
【0091】
次に、実施例4を、図面を用いて説明する。本実施例は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4および請求項6に係る発明を説明するためのものである。
【0092】
図12は、実施例4で使用する微粒子を説明するための図である。実施例4では、図12に示すような4種類の微粒子を用意する。
【0093】
図12(a)は、粒径360nmの球形状単分散シリカ粒子(微粒子1)を示し、図12(b)は、粒径320nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−1)を示し、図12(c)は、粒径280nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−2)を示し、図12(d)は、粒径240nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−3)を示している。
【0094】
三次元周期構造体の形成方法は、実施例1、実施例2および実施例3と同様であるが、微粒子2(微粒子2−1,微粒子2−2,微粒子2−3)をマイクロピンセットで配列させる際に、図13のように配列させた点が異なっている。
【0095】
すなわち、微粒子2(微粒子2−1,微粒子2−2,微粒子2−3)の配列の後、実施例3と同様に、微粒子1を再び集積させ、熱処理、チタニア粒子充填、熱処理、シリカ除去を行うことにより、目的とする三次元周期構造体を得る。この三次元周期構造体の欠陥層を上方から見ると、図14に示すように、微粒子2−1、微粒子2−2および微粒子2−3が導入されている。
【0096】
図14に示すように、パターニングされた欠陥が導入された三次元周期構造体は、微粒子2−2による波長λ1の局所準位を形成する欠陥と微粒子2−3による波長λ2の局所準位を形成する欠陥が、周期構造を乱すことなく同時に導入されているため、波長λ1と波長λ2が混合された光を図14のAから入れると、Bからは波長λ1の光を、Cからは波長λ2の光を取り出すことができ、導波路として利用できる。
【実施例5】
【0097】
次に、実施例5を、図面を用いて説明する。本実施例は、請求項1、請求項2、請求項3および請求項7に係る発明を説明するためのものである。
【0098】
実施例5では、図2に示すような2種類の微粒子、すなわち、粒径360nmの球形状単分散シリカ粒子(微粒子1)と、粒径300nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2)を用意する。
【0099】
三次元周期構造体の形成方法は、実施例1、実施例2、実施例3および実施例4と同様であるが、微粒子2をマイクロピンセットで配列させる際に、図15のように配列させる。
【0100】
微粒子2の配列の後、実施例3と同様に、微粒子1を再び集積させ、熱処理、チタニア粒子充填、熱処理、シリカ除去を行うことにより、目的とする三次元周期構造体を得る。
【0101】
この三次元周期構造体の欠陥層を上方から見ると、図16に示すように微粒子2が導入されている。
【0102】
図16に示す通り、本実施例は、六回対称と平進対称による繰り返し構造の場合の例である。本発明では、中間工程での微粒子構造体形成の際に、微粒子1と微粒子2の形状・大きさが同一であるため、微粒子構造体全体の規則性を壊すことがない。その結果、最終的に得られる三次元周期構造体の規則性も乱されることなく、空間対称構造を有した欠陥の導入が可能となっている。本実施例の三次元周期構造体によると、微粒子1、2のレベルの周期構造と、六回対称と平進対称による繰り返し周期構造を有するため、それぞれの特性が合成された特性を得ることができる。
【0103】
なお、実施例1から実施例5で用いた材料は、シリカ、チタニア、アルミナであるが、本発明は、これらの材料に限定するものではなく、シリカやチタニアなどの金属酸化物、他の無機誘電体材料、金属、半導体、有機物でもかまわない。周期構造効果を利用する物性値が、微粒子2の芯と外殻で異なっている点が重要である。
【0104】
上記実施例では、材質bの部分を材質b1、b2(あるいはさらに材質b3)などを用いて多重化することにより物性値(誘電率など)を制御を多様化し、制御しやすくしているが、必ずしも多重化する必要はなく材質bの部分を単一の材質で構成してもよい。この場合は、物性値(誘電率など)の制御の多様性は劣るが、製造は容易になる。
【0105】
また、実施例1〜5に係る微粒子構造体は、周期構造体における欠陥部となる材質bの部分に光を局在化させる特徴を有することを利用して導波路や共振器を構成する際に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の基本構成を説明するための図である。
【図2】実施例1に使用する微粒子を説明するための図である。
【図3】微粒子構造体の集積方法を説明するための図である。
【図4】実施例1プロセス中に形成される微粒子構造体の欠陥層を説明するための図である。
【図5】チタニア・ナノ粒子の充填方法を説明するための図である。
【図6】実施例1の三次元周期構造体を説明するための図である。
【図7】実施例2に使用する微粒子を説明するための図である。
【図8】実施例2プロセス中に形成される微粒子構造体の欠陥層を説明するための図である。
【図9】実施例2の三次元周期構造体を説明するための図である。
【図10】実施例3に使用する微粒子を説明するための図である。
【図11】実施例3の三次元周期構造体を説明するための図である。
【図12】実施例4に使用する微粒子を説明するための図である。
【図13】実施例4のプロセス中に形成される微粒子構造体の欠陥層を説明するための図である。
【図14】実施例4の三次元周期構造体を説明するための図である。
【図15】実施例5のプロセス中に形成される微粒子構造体の欠陥層を説明するための図である。
【図16】実施例5の三次元周期構造体を説明するための図である。
【図17】フォトニック結晶の光透過スペクトルを説明するための図である。
【図18】欠陥により発生する局在準位を説明するための図である。
【図19】エアーブリッジ型2次元フォトニック結晶を説明するための図である。
【図20】2次元フォトニック結晶への欠陥の導入を説明するための図である。
【図21】アクセプタ型欠陥の大きさと形成される準位の周波数を説明するための図である。
【図22】微粒子構造体とインバース構造を説明するための図である。
【符号の説明】
【0107】
19:原料液容器
20,20a:原料液
21,22,22a:基板
23:ギャップ材
24,24a:微粒子構造体
25:カバー
103:シリコン
104:エアーホール
105:シリコン基板
106:酸化シリコン
107:空隙
108,109:欠陥
110:微粒子
111:構造材
112:空隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶として利用される微粒子構造体および該三次元周期構造体を用いた導波路ならびに共振器に関し、特に微粒子構造体への欠陥導入技術に関するものである。
【0002】
本発明は、フォトニック結晶の欠陥を利用した導波路デバイス、および、光共振器などの光回路の分野への応用に特に適する微粒子構造体に関するものであるが、さらに、フォトニック結晶に限らず、一般に、構造体が高度に規則配列した周期構造を有することによる特有の特性を発現し、かつ、この構造体中に全体の周期構造を壊すことなく、周期構造の欠陥(不規則性)を導入することにより、新たな特性を発現する材料およびデバイスに適用可能である。
【背景技術】
【0003】
従来の微粒子を用いた構造体やフォトニック結晶、およびその形成方法に関する公知文献として、例えば特許第2905712号(特許文献1)、特開2001−42144号公報(特許文献2)、特開2001−249234号公報(特許文献3)などがある。
【0004】
また、本発明の対象としているインバース構造(逆オパール構造)の形成に関わる公知文献としては、例えば特開2003−2687号公報(特許文献4)、特開2004−46224号公報(特許文献5)などがある。
【0005】
以下、これらの公知文献の要約をまとめておく。
a)特許第2905712号明細書(特許文献1)に開示された発明は、微粒子の最密充填構造を有したオパール様回折発色膜とその製造法に関するものである。
【0006】
b)特開2001−42144号公報(特許文献2)に開示された発明は、微粒子の結晶構造を利用したフォトニック結晶とその製造方法に関するものである。
c)特開2001−249234号公報(特許文献3)に開示された発明は、ポリマー媒質中で微粒子を配列させた後に、圧縮するフォトニック結晶の形成方法に関するものである。
【0007】
特開2003−2687号公報(特許文献4)に開示された発明は、焼成時に焼失可能な微粒子とこの微粒子よりも粒径の小さいナノサイズ粒子とが混じった懸濁溶液に浸漬して基板上に微粒子を配列させると同時に微粒子間にナノサイズ粒子を充填させて、基板上に微粒子とナノサイズ粒子との粒子膜を形成した後、この粒子膜を焼成することにより微粒子を焼失させてインバース構造を形成する方法に関するものである。
【0008】
特開2004−46224号公報(特許文献5)に開示された発明は、特開2003−2687号公報(特許文献1)の方法により形成したインバース構造に、光異性化を起こす化合物とネマチック液晶との混合物を充填することにより、所望波長の光の反射のON/OFFを光でスイッチングすることができるようにした光応答型液晶入りフォトニック結晶に関するものである。
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された発明では、結晶全体の構造を崩さずに、欠陥ボリュームが制御された欠陥が導入された微粒子構造体および微粒子によるフォトニック結晶については何ら言及していない。
【0010】
また、特許文献4,5に開示された発明では、インバース構造を形成する方法については開示されているものの、本発明が対象とする如き、結晶全体の構造を崩さずに、欠陥ボリュームを制御した欠陥が導入されたインバース構造体およびインバース構造によるフォトニック結晶については何ら開示されていない。
【0011】
【特許文献1】特許第2905712号明細書
【特許文献2】特開2001−42144号公報
【特許文献3】特開2001−249234号公報
【特許文献4】特開2003−2687号公報
【特許文献5】特開2004−46224号公報
【特許文献6】特開2000−233999号公報(後述)
【非特許文献1】ユリイ エー ヴラソフ(Yurii A.Vlasov)外3名著,“On-chip natural assembly of silicon photonic bandgap crystals”「ネ−チャ(Nature)」,2001年11月15日,Vol.414, p.289−293(後述)
【非特許文献2】クラシミール ピー ベリコフ(Krassimir P.Velikov)外2名著“Photonic crystal of core-shell colloidal particles”「アプライド フィズィックス レターズ(Applied Physics Letters)」,2002年1月7日,Vol.80,No.1, p.49−51 (後述)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
フォトニック結晶とは、屈折率の異なった二つ以上の材料(一方は空気でも可)が、空間的な対称性・規則性を有して配置された周期構造を有する材料である。フォトニック結晶では、この規則構造・周期構造を有することにより、従来の光学材料では得られなかった特性を発揮するようになる。
【0013】
そのもっとも特徴的なものは、フォトニックバンドギャップ(PBG)の発現である。フォトニック結晶では、PBGに対応した波長の光は完全に通さないが、その他の波長は透過させることができる。完全(無欠陥)なフォトニック結晶では、PBGの波長の光は完全に通さない。図17は、フォトニック結晶の光透過スペクトルを示す図(横軸;波長、縦軸;透過率)であり、101はPBG(フォトニックバンドギャップ)を示している。PBG101に対応した波長の光はフォトニック結晶中を通さない(透過率がゼロ)ことを示している。
【0014】
こうしたフォトニック結晶の利用の仕方にはいろいろあるが、フォトニック結晶の特性を活かした最も重要な使用方法は、フォトニック結晶中に欠陥を導入することにより、本来、光が存在しえないPBG中に局在化した準位(欠陥準位)を発生させて、欠陥が導入された領域にのみ光を局在させるというものである。
【0015】
図18は、光が存在しえないPBG中に欠陥により発生した局在化した準位(欠陥準位)102を示す図であり、光はこの局在化した準位(欠陥準位)102のみに局在するようになる。こうした光の局在化の特性を利用して導波路や共振器などを構成することが可能となる。
【0016】
こうした欠陥の導入が具体的にどのように行われているのかを、通常、行われている SOI(Silicon on Insulator)を利用したエアーブリッジ型の2次元フォトニック結晶を例にして説明する。
【0017】
図19は、無欠陥の2次元のエアーブリッジ型フォトニック結晶を示す図であり、同図(a)は上方から見た平面図を、同図(b)はその断面図を示している。
【0018】
図19に示す無欠陥の2次元のエアーブリッジ型フォトニック結晶では、シリコン結晶103中に一定の周期でエアーホール104が導入されていて、欠陥が全く存在しない状態を示している。同図において、105はシリコン基板、106は酸化シリコン、107は空隙を示している。
【0019】
図19に示す如き無欠陥の2次元のエアーブリッジ型フォトニック結晶への欠陥導入は、周期構造の繰り返しを乱すことによって行われる。
【0020】
具体的には、図20(a)に示すように、無欠陥の2次元エアーブリッジ型フォトニック結晶の場合に周期的に繰り返されるエアーホールのうち、欠陥108となる箇所にはエアーホールを入れないという方法(これを「ドナー型」という)と、図20(b)に示すように、無欠陥の2次元エアーブリッジ型フォトニック結晶の場合に周期的に繰り返されるエアーホール104のうち、欠陥109となる箇所には他のエアーホール104とは異なる大きさのエアーホールを入れてやる方法(これを「アクセプタ型」という)がある。こうしたドナー型およびアクセプタ型といった呼び方の由来は、通常の半導体材料への不純物ドーピングのアナロジーからきている。
【0021】
また、特にアクセプタ型では、欠陥となる位置のエアーホールの大きさを変えることにより、PBGに導入される準位のエネルギー(波長λ)を変えてやることができる。図21は、アクセプタ型欠陥の大きさと順位のエネルギー(周波数ω=hc/波長λ)の関係を示す図であり、アクセプタ型欠陥の大きさが大きくなるほど、PBGに導入される順位のエネルギーも大きくなることを示している。
【0022】
この関係を利用することにより、アクセプタ型欠陥の大きさによる波長チューニング性を付与させることができる。このように、欠陥の大きさを変えることにより、波長チューニング性を付与させることを、本発明では、“欠陥ボリュームを制御する”という言葉を用いて表現することにする。
【0023】
上記の例は、フォトニック結晶として2次元結晶を用いた場合の例であるが、光の局在化や閉じ込めが可能になるというフォトニック結晶の特性を考えると、フォトニック結晶として三次元結晶の形態で利用した方が有効と考えられる。その理由は、2次元結晶の場合には、上下方向に対して光の閉じ込め効果が働いていないため、どうしても上下方向に光が漏れてしまうからである。
【0024】
しかしながら、上記で説明した技術は、フォトリソグラフィなどによる微細加工技術をベースにしているため、三次元フォトニック結晶へ適用させることは難しい。
【0025】
三次元フォトニック形成に有利な微粒子を用いた方法では、フォトニック結晶に欠陥を導入したり、ドーピングしたりする場合には、従来、フォトニック結晶の基本構造を構成する微粒子とは大きさの異なる微粒子を結晶の一部に入れていた(例えば、ユリイ エー ヴラソフ(Yurii A.Vlasov)外3名著,“On-chip natural assembly of silicon photonic bandgap crystals”「ネーチャ(Nature)」,2001年11月15日,Vol.414, p.289−293参照;非特許文献1)
【0026】
しかしながら、この方法では、フォトニック結晶全体の周期構造を乱さずに導入できる欠陥は、基本構造を構成する微粒子間の間隙にちょうど入り込める微粒子の使用しか許されない。これよりも大きな微粒子を使用すると、フォトニック結晶全体の周期構造を乱してしまう。したがって、この方法では、導入した欠陥の欠陥ボリュームを制御することはできない。
【0027】
以上のように、三次元フォトニック結晶に欠陥を導入し、かつ、結晶全体の周期構造を壊さずに自在にその欠陥ボリュームが制御する方法は、従来、全く提示されていなかった。
【0028】
以上のような課題を鑑みて、本願出願人は、先に、微粒子が規則配列した微粒子構造体において、微粒子構造体の全体の規則性を乱すことなく、欠陥ボリュームが制御された欠陥の導入された微粒子構造体に関する発明を、特願2003−026771として既に出願している。
【0029】
しかしながら、微粒子構造体は屈折率変調が弱いために、光閉じ込め効果が充分に得られるフォトニック結晶としては、必ずしも適してはいない。そこで、微粒子110からなる微粒子構造体(図22(a))を型として用い、該微粒子構造体に大きな屈折率材料を充填させた後、微粒子110を焼失させ、微粒子110部分を空隙112にした反転構造(インバース構造:図22(b))を形成して、光閉じ込めをするのに有利な構造体に転換をすることが、従来、行われてきている(例えば、特開2000−233999号公報(特許文献6))。
【0030】
以上のようなインバース構造において、従来、導入された欠陥の欠陥ボリュームを自在に制御する技術は存在していなかった。
【0031】
そこで、本発明の目的は、上記問題点を解消し、インバース構造において、欠陥ボリュームが制御された欠陥が導入された三次元フォトニック結晶などのための微粒子構造体を提供すること、また、フォトニック結晶と同様に、構造体が規則的な繰り返し構造(周期構造)を有することにより特有の特性を発現し、この周期構造体中に欠陥を導入することにより新たな特性が付与される場合において、構造体全体の繰り返しを乱すことなく、局所的に欠陥が導入された周期的な微粒子構造体を提供すること、およびこのような三次元周期構造体を用いた導波路ならびに共振器を提供することにある。
【0032】
各請求項のより具体的な目的は以下のようなものである。
【0033】
イ)請求項1、請求項2および請求項3記載の発明の目的は、周期構造体の規則性を乱すことなく欠陥を導入し、欠陥ボリュームを制御することである。
【0034】
ロ)請求項4および請求項5記載の発明の目的は、欠陥ボリュームの異なる二つ以上の欠陥を全体の規則性を乱すことなく、同時に周期構造体中に導入することである。
【0035】
ハ)請求項6記載の発明の目的は、周期構造体に導入された、欠陥ボリュームの制御された欠陥を導波路や共振器などに利用することである。
【0036】
ニ)請求項7記載の発明の目的は、周期構造体の基本構造が有する周期長よりも長周期の周期構造を周期構造体に導入し、長周期構造により引き起こされる効果・特性を利用することである。
【0037】
ホ)請求項8および9記載の発明の目的は、全体の構造を壊したり、乱したりせずに欠陥を導入した三次元周期構造体を用いた導波路および共振器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0038】
a)請求項1記載の発明は、材質a中に大きさの等しい複数の球状空間が三次元的に規則的に配列されてなる三次元周期構造体であって、前記複数の球状空間のうちの選択された1以上の球状空間に材質aとは異なる材質bが満たされていることを特徴としている。
【0039】
b)請求項2記載の発明は、請求項1に記載の三次元周期構造体において、材質bが、少なくとも2つ以上の異なる材質部分からなることを特徴としている。
【0040】
c)請求項3記載の発明は、請求項2に記載の三次元周期構造体において、前記材質bが、芯粒子の材質b1と該芯粒子を皮状に包んでいる外殻の材質b2とから構成され、且つ、前記材質b1の芯粒子は球形状であることを特徴としている。
【0041】
d)請求項4記載の発明は、請求項3に記載の三次元周期構造体において、前記球状空間に材質bが充填されている箇所が複数箇所あり、且つ、該複数箇所のいずれかの間において前記材質bにおける材質b1の芯粒子の大きさが異なっていることを特徴としている。
【0042】
e)請求項5記載の発明は、請求項3に記載の三次元周期構造体において、前記球状空間に材質bが充填されている箇所が複数箇所あり、且つ、該複数箇所のいずれかの間において芯粒子の材質が異なっているか、皮の材質が異なっていることを特徴としている。
【0043】
f)請求項6記載の発明は、請求項1、請求項2、請求項4または請求項5のいずれかに記載の三次元周期構造体において、前記球状空間に材質bが充填されている箇所の配置位置が微粒子構造体中で、二次元的もしくは三次元的な任意のパターンとなっていることを特徴としている。
【0044】
g)請求項7記載の発明は、請求項6に記載の三次元周期構造体において、前記球状空間に材質bが充填されている微粒子構造体中のパターンが空間的な対称構造を有していることを特徴としている。
【0045】
h)請求項8および9記載の発明は、請求項1から7のいずれかに記載の三次元周期構造体を用いたことを特徴とする導波路および共振器である。
【発明の効果】
【0046】
a)請求項1記載の発明の効果
請求項1に記載の三次元周期構造体によれば、材質a中に存在している任意の球状空間に材質aとは異なる材質bが満たされているので、欠陥が導入された三次元周期構造体でも全体の構造を壊したり、乱したりすることがない。
【0047】
b)請求項2記載の発明の効果
請求項2に記載の三次元周期構造体によれば、少なくとも2つ以上の異なる材質から材質bが構成されているため、三次元周期構造全体からみた材質bの箇所の実効的な屈折率を自在に制御できることになり、導入する欠陥の欠陥ボリュームを実効的に変化・制御することが可能となる。
【0048】
c)請求項3記載の発明の効果
請求項3に記載の三次元周期構造体によれば、材質bが、材質b1からなる球形状の芯粒子と芯粒子を皮状に包んでいる外殻の材質b2から構成されていることにより、三次元周期構造の規則性を乱すことなく、導入する欠陥の欠陥ボリュームを実効的に変化・制御することが可能となる。
【0049】
d)請求項4記載の発明の効果
請求項4に記載の三次元周期構造体によれば、材質b1からなる球形状芯粒子の大きさが任意の箇所において異なっていることにより、三次元周期構造体中に欠陥ボリュームの異なる複数の欠陥が導入されている。以上のような三次元周期構造体は、フォトニック結晶として利用する場合に、異なった波長の利用が可能となり、欠陥が複数種あることを利用したデバイスへの利用が可能となる。
【0050】
e)請求項5記載の発明の効果
請求項5に記載の三次元周期構造体によれば、任意の材質bの箇所間における芯粒子の材質が異なっているか、あるいは皮の材質が異なっていることにより、三次元周期構造体中に欠陥ボリュームの異なる複数の欠陥が導入されている。以上のような三次元周期構造体は、フォトニック結晶として利用する場合に、異なった波長の利用が可能となり、欠陥が複数種あることを利用したデバイスへの利用が可能となる。
【0051】
f)請求項6記載の発明の効果
請求項6に記載の三次元周期構造体によれば、材質bが充填されている箇所の配置位置が、三次元周期構造体中で、二次元的もしくは三次元的な、任意のパターンとなっていることにより、導入された欠陥を利用して、導波路や共振器などのデバイスを構成することができる。
【0052】
g)請求項7記載の発明の効果
請求項7に記載の三次元周期構造体によれば、材質bの三次元周期構造体中での配置パターンが空間的な対称構造を有していることにより、対称構造による共鳴効果利用したデバイスや共振器のモード低減など、空間対称構造による効果を利用したデバイスの構成が可能となる。
【0053】
h)請求項8および9記載の発明の効果
請求項8および9に記載の導波路および共振器によれば、請求項1〜7に記載の三次元周期構造体中に導入された欠陥を利用した導波路および共振器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
本発明の基本構成を、図1を用いて説明する。
図1に示すように、本発明の三次元周期構造体は、材質a中に大きさの等しい複数の球状空間cが最密充填構造で配列しており(インバース構造)、且つ、任意の選択された1以上の球状空間cには、材質b1の球状芯粒子と材質b2の外殻からなる材質bが充填されている。すなわち材質bの箇所は、材質b1と材質b2の多重構造の粒子となっている。
【0055】
材質bの箇所は、周囲の球状空間と同一径、且つ、同一形状であるため、材質bが充填されていても、三次元周期構造体全体の周期性を乱すことはないが、フォトニック結晶のように特性の決定に誘電率が支配している場合を例にすると、材質bが充填されたことにより、三次元周期構造体中に球状空間とは異なる誘電率が部分的に導入されるため、フォトニック結晶としては、欠陥が導入されたことになる。
【0056】
その結果として、光学特性としては、局在化された準位が形成される。フォトニック結晶としては、材質b全体の平均化された誘電率が問題となるわけで、材質b1と材質b2とを異なった材質を用いることにより、材質bの平均化された誘電率の値を制御することが可能になる。
【0057】
材質bの平均化された誘電率を制御する方法としては、材質b1および材質b2の選択や材質b1の球状芯粒子の大きさを調整することにより行う方法がある。
【0058】
材質bを材質b1と材質b2の多重構成にするのは、材質bの平均屈折率を制御するためなので、材質b1が材質aと同一、あるいは、材質b2が材質aと同一になる場合があっても差し支えない。
【0059】
本発明で用いている多重構造の粒子を形成する方法には既にいろいろな方法が開発されており、こうした多重構造の粒子を使ってフォトニック結晶に利用するという研究は既に開示されている(クラシミール ピー ベリコフ(Krassimir P.Velikov)外2名著“Photonic crystal of core-shell colloidal particles”「アプライド フィズィックス レターズ(Applied Physics Letters)」,2002年1月7日,Vol.80,No.1, p.49−51(非特許文献2))。
【0060】
しかしながら、インバース構造内部の球状空間と同一の大きさ・球状の多重粒子を用いることにより、結晶の乱れを防止しつつ、欠陥ボリュームを制御できることについては従来報告されていない。
【0061】
以上の説明で、材質の誘電率について述べているのは、フォトニック結晶が誘電率の空間的周期構造によって、その特性を発現するからである。本発明の本旨は、全体の周期構造が乱されることなく、且つ、制御された欠陥が導入されている三次元周期構造体である。
【0062】
したがって、誘電率ではない他の物性値の空間周期構造により特有の特性を発現させる周期構造体の場合には、特性を発現する元となっている物性値に着目して、その物性値が異なるように材質a、材質b1、および、材質b2を選択するようにしてもよい。
【0063】
本発明では、導入する欠陥の箇所が多重構造(図1の場合は2重構造)を有していることにより、その箇所の平均の物性値(フォトニック結晶の場合には、誘電率)を制御している。このようなやり方は、微細加工によるトップダウン的な形成方法では難しい。本発明に係る三次元周期構造体は、ボトムアップ(自己組織化現象の利用)により、全体の周期構造を乱さずに、制御された欠陥を導入する。以下、実施例を用いて、詳しく説明を行う。
【実施例1】
【0064】
実施例1を、図面を用いて説明する。本実施例は、請求項1、請求項2および請求項3に係る発明を説明するためのものである。
【0065】
本実施例1では、図2に示すように、粒径360nmの球形状単分散シリカ粒子(微粒子1)と粒径300nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2)を用意する。
【0066】
次に、粒子1をエタノール分散媒中に4wt%で分散させた原料液20を調整する。次に、図3に示すように、酸化膜つきSiウェハにTiイオンを照射した基板21と、酸化膜つきSiウェハの基板22の間に、ギャップ材23を用いて、厚さ10μmの空間を作る。ここで、基板にTiイオンを照射した基板21を用いる理由は、後の工程で、基板21と基板22の間の形成された微粒子構造体を剥がし取る際に、基板21の上に選択的に微粒子構造体24を残すためである。
【0067】
以上のような基板21と基板22による構成物の下端を、図3に示すように、原料液容器19に入れた原料液20につける。基板21と基板22による構成物の上端からは、分散媒が蒸発するため、原料液20は、基板21と基板22による作られる間隙中を、図3中の上方へ向かって供給され、基板21と基板22による構成物の上端に微粒子構造体24が集積される。なお、図中、25は、原料液容器19からの分散媒蒸散防止のためのカバーである。
【0068】
集積後、分散媒を充分蒸発させた後、基板22を剥がすことにより、基板21上に微粒子1の微粒子構造体24が得られる。
【0069】
この後、微粒子構造体24を500℃で1時間炉中アニールを行った後、球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアがコートされた微粒子2をマイクロピンセットにより、微粒子構造体表面の任意の位置に配置する。この後、再び、微粒子構造体を500℃で1時間炉中アニールを行う。
【0070】
この後、上記如くして得られた基板上に微粒子構造体が形成された基板21と基板22(基板22とは別の基板22’でも可)で、厚さ20μmのギャップ材23’(図3のギャップ材23を厚さ20μmのギャップ材23’に置き換える)を用いて、厚さ20μmの空間を作り、基板21と基板22による構成物の下端を、図3と同様に、微粒子1による原料液につけて、微粒子1の微粒子構造体を集積させる。微粒子構造体を集積した後、基板22を剥がし、500℃で1時間炉中アニールを行う。
【0071】
以上までの工程により、球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアがコートされた微粒子2による欠陥層が、球形状単分散シリカ粒子である微粒子1の微粒子構造体によりサンドイッチされた微粒子構造体が得られる。この微粒子構造体の欠陥層を上方から見ると、図4に示すように微粒子2が導入されている。
【0072】
この後、基板21上で形成された微粒子構造体を新たな基板22aで挟んだものの下端を、図5に示すように、平均粒径2nmのチタニア粒子水分散液(濃度:10wt%)につけて、微粒子構造体の粒子間にチタニア粒子を充填させる。
【0073】
チタニア粒子が充填された後、基板22aを剥がし、500℃で1時間炉中アニールを行う。この後、チタニア粒子が充填された微粒子構造体24aを2%HF水溶液につけて、シリカの部分を溶解除去した後、水によりリンスを行い、乾燥させることにより、目的とする三次元周期構造体を得ることができる。
【0074】
この三次元周期構造体は、チタニアのインバース構造中に、球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアがコートされた微粒子2による欠陥層が導入されている。この三次元周期構造体の欠陥層を上方から見ると、図6に示すように、球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアがコートされた微粒子2が導入されている。
【0075】
ここで、述べるマイクロピンセットとは、原子間力顕微鏡やトンネル顕微鏡などに用いられているマイクロプローブを微小物質のハンドリングに用いたもので、これを用いて、微粒子を1個ごと、あるいは、複数の微粒子からなるブロックを狙った位置にもっていき、配置する。
【実施例2】
【0076】
次に、実施例2を、図面を用いて説明する。本実施例は、請求項1、請求項2、請求項3および請求項4に係る発明を説明するためのものである。
【0077】
図7は、実施例2で使用する微粒子を説明するための図である。実施例2では、図7に示すような3種類の微粒子を用意する。
【0078】
同図(a)は、粒径360nmの球形状単分散シリカ粒子(微粒子1)を示し、同図(b)は、粒径300nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−1)を示し、同図(c)は、粒径300nmの球形状単分散チタニア粒子の表面にアルミナをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−2)を示している。
【0079】
まず、図3に示すように、実施例1と同様の方法にて、微粒子1を酸化膜つきSiウェハにTiイオンを照射した基板21上に集積させる。
【0080】
この後、微粒子構造体を500℃で1時間炉中アニールを行った後、マイクロピンセットにより、微粒子2−1と微粒子2−2をそれぞれ微粒子構造体表面の任意の位置に配置する。
【0081】
微粒子2−1と微粒子2−2を配置した微粒子構造体は、厚さ20μmのギャップ材(23’)を用いて、新たな酸化膜つきSiウェハ基板22で挟み、図3に示すように、この下端を微粒子1の原料液につけて、微粒子1の微粒子構造体を集積させる。微粒子構造体を集積した後、基板22を剥がし、500℃で1時間炉中アニールを行う。
【0082】
以上までの工程により、微粒子2−1および微粒子2−2による欠陥層が微粒子1の微粒子構造体によりサンドイッチされた微粒子構造体が得られる。この微粒子構造体の欠陥層を上方から見ると、図8に示すように、微粒子2−1および微粒子2−2が導入されている。
【0083】
この後、基板21上で形成された微粒子構造体を新たな基板22(または別の基板22’でもよい)で挟んだものの下端を、図5に示すように、平均粒径2nmのチタニア粒子水分散液(濃度:10wt%)につけて、微粒子構造体の微粒子間にチタニア粒子を充填させる。
【0084】
チタニア粒子が充填された後、基板22を剥がし、500℃で1時間炉中アニールを行う。この後、チタニア粒子が充填された微粒子構造体を2%HF水溶液につけて、シリカの部分を溶解除去した後、水によりリンスを行い、乾燥させることにより、目的とする三次元周期構造体を得ることができる。
【0085】
この三次元周期構造体は、チタニアのインバース構造中に、微粒子2−1(図7(b)参照)および微粒子2−2(図7(c)参照)による欠陥層が導入されている。この三次元周期構造体の欠陥層を上方から見ると、図9に示すように、微粒子2−1および微粒子2−2が導入されている。
【実施例3】
【0086】
次に、実施例3を、図面を用いて説明する。本実施例は、請求項1、請求項2、請求項3および請求項5に係る発明を説明するためのものである。
【0087】
図10は、実施例3で使用する微粒子を説明するための図である。実施例3では、図10に示すような3種類の微粒子を用意する。
【0088】
図10(a)は、粒径360nmの球形状単分散シリカ粒子(微粒子1)を示し、図10(b)は、粒径280nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−1)を示し、図10(c)は、粒径320nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−2)を示している。
【0089】
実施例3は微粒子2が異なるだけで、形成方法は実施例2と同様である。
【0090】
本実施例の三次元周期構造体の欠陥層を上方から見ると、図11に示すように、微粒子2−1および微粒子2−2が導入されている。
【実施例4】
【0091】
次に、実施例4を、図面を用いて説明する。本実施例は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4および請求項6に係る発明を説明するためのものである。
【0092】
図12は、実施例4で使用する微粒子を説明するための図である。実施例4では、図12に示すような4種類の微粒子を用意する。
【0093】
図12(a)は、粒径360nmの球形状単分散シリカ粒子(微粒子1)を示し、図12(b)は、粒径320nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−1)を示し、図12(c)は、粒径280nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−2)を示し、図12(d)は、粒径240nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2−3)を示している。
【0094】
三次元周期構造体の形成方法は、実施例1、実施例2および実施例3と同様であるが、微粒子2(微粒子2−1,微粒子2−2,微粒子2−3)をマイクロピンセットで配列させる際に、図13のように配列させた点が異なっている。
【0095】
すなわち、微粒子2(微粒子2−1,微粒子2−2,微粒子2−3)の配列の後、実施例3と同様に、微粒子1を再び集積させ、熱処理、チタニア粒子充填、熱処理、シリカ除去を行うことにより、目的とする三次元周期構造体を得る。この三次元周期構造体の欠陥層を上方から見ると、図14に示すように、微粒子2−1、微粒子2−2および微粒子2−3が導入されている。
【0096】
図14に示すように、パターニングされた欠陥が導入された三次元周期構造体は、微粒子2−2による波長λ1の局所準位を形成する欠陥と微粒子2−3による波長λ2の局所準位を形成する欠陥が、周期構造を乱すことなく同時に導入されているため、波長λ1と波長λ2が混合された光を図14のAから入れると、Bからは波長λ1の光を、Cからは波長λ2の光を取り出すことができ、導波路として利用できる。
【実施例5】
【0097】
次に、実施例5を、図面を用いて説明する。本実施例は、請求項1、請求項2、請求項3および請求項7に係る発明を説明するためのものである。
【0098】
実施例5では、図2に示すような2種類の微粒子、すなわち、粒径360nmの球形状単分散シリカ粒子(微粒子1)と、粒径300nmの球形状単分散アルミナ粒子の表面にチタニアをコートして、粒径360nmとした球形状単分散粒子(微粒子2)を用意する。
【0099】
三次元周期構造体の形成方法は、実施例1、実施例2、実施例3および実施例4と同様であるが、微粒子2をマイクロピンセットで配列させる際に、図15のように配列させる。
【0100】
微粒子2の配列の後、実施例3と同様に、微粒子1を再び集積させ、熱処理、チタニア粒子充填、熱処理、シリカ除去を行うことにより、目的とする三次元周期構造体を得る。
【0101】
この三次元周期構造体の欠陥層を上方から見ると、図16に示すように微粒子2が導入されている。
【0102】
図16に示す通り、本実施例は、六回対称と平進対称による繰り返し構造の場合の例である。本発明では、中間工程での微粒子構造体形成の際に、微粒子1と微粒子2の形状・大きさが同一であるため、微粒子構造体全体の規則性を壊すことがない。その結果、最終的に得られる三次元周期構造体の規則性も乱されることなく、空間対称構造を有した欠陥の導入が可能となっている。本実施例の三次元周期構造体によると、微粒子1、2のレベルの周期構造と、六回対称と平進対称による繰り返し周期構造を有するため、それぞれの特性が合成された特性を得ることができる。
【0103】
なお、実施例1から実施例5で用いた材料は、シリカ、チタニア、アルミナであるが、本発明は、これらの材料に限定するものではなく、シリカやチタニアなどの金属酸化物、他の無機誘電体材料、金属、半導体、有機物でもかまわない。周期構造効果を利用する物性値が、微粒子2の芯と外殻で異なっている点が重要である。
【0104】
上記実施例では、材質bの部分を材質b1、b2(あるいはさらに材質b3)などを用いて多重化することにより物性値(誘電率など)を制御を多様化し、制御しやすくしているが、必ずしも多重化する必要はなく材質bの部分を単一の材質で構成してもよい。この場合は、物性値(誘電率など)の制御の多様性は劣るが、製造は容易になる。
【0105】
また、実施例1〜5に係る微粒子構造体は、周期構造体における欠陥部となる材質bの部分に光を局在化させる特徴を有することを利用して導波路や共振器を構成する際に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の基本構成を説明するための図である。
【図2】実施例1に使用する微粒子を説明するための図である。
【図3】微粒子構造体の集積方法を説明するための図である。
【図4】実施例1プロセス中に形成される微粒子構造体の欠陥層を説明するための図である。
【図5】チタニア・ナノ粒子の充填方法を説明するための図である。
【図6】実施例1の三次元周期構造体を説明するための図である。
【図7】実施例2に使用する微粒子を説明するための図である。
【図8】実施例2プロセス中に形成される微粒子構造体の欠陥層を説明するための図である。
【図9】実施例2の三次元周期構造体を説明するための図である。
【図10】実施例3に使用する微粒子を説明するための図である。
【図11】実施例3の三次元周期構造体を説明するための図である。
【図12】実施例4に使用する微粒子を説明するための図である。
【図13】実施例4のプロセス中に形成される微粒子構造体の欠陥層を説明するための図である。
【図14】実施例4の三次元周期構造体を説明するための図である。
【図15】実施例5のプロセス中に形成される微粒子構造体の欠陥層を説明するための図である。
【図16】実施例5の三次元周期構造体を説明するための図である。
【図17】フォトニック結晶の光透過スペクトルを説明するための図である。
【図18】欠陥により発生する局在準位を説明するための図である。
【図19】エアーブリッジ型2次元フォトニック結晶を説明するための図である。
【図20】2次元フォトニック結晶への欠陥の導入を説明するための図である。
【図21】アクセプタ型欠陥の大きさと形成される準位の周波数を説明するための図である。
【図22】微粒子構造体とインバース構造を説明するための図である。
【符号の説明】
【0107】
19:原料液容器
20,20a:原料液
21,22,22a:基板
23:ギャップ材
24,24a:微粒子構造体
25:カバー
103:シリコン
104:エアーホール
105:シリコン基板
106:酸化シリコン
107:空隙
108,109:欠陥
110:微粒子
111:構造材
112:空隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材質a中に大きさの等しい複数の球状空間が三次元的に規則的に配列されてなる三次元周期構造体であって、
前記複数の球状空間のうちの選択された1以上の球状空間に材質aとは異なる材質bが満たされていることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元周期構造体において、
前記材質bは、少なくとも2つ以上の異なる材質部分からなることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の三次元周期構造体において、
前記材質bは、芯粒子の材質b1と該芯粒子を皮状に包んでいる外殻の材質b2とから構成され、且つ、前記材質b1の芯粒子は球形状であることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の三次元周期構造体において、
前記球状空間に材質bが充填されている箇所が複数箇所あり、且つ、該複数箇所のいずれかの間において前記材質bにおける材質b1の芯粒子の大きさが異なっていることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項5】
請求項3に記載の三次元周期構造体において、
前記球状空間に材質bが充填されている箇所が複数箇所あり、且つ、該複数箇所のいずれかの間において芯粒子の材質が異なっているか、皮の材質が異なっていることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項6】
請求項1、請求項2、請求項4または請求項5のいずれかに記載の三次元周期構造体において、
前記球状空間に材質bが充填されている箇所の配置位置が微粒子構造体中で、二次元的もしくは三次元的な任意のパターンとなっていることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項7】
請求項6に記載の三次元周期構造体において、
前記球状空間に材質bが充填されている微粒子構造体中のパターンが空間的な対称構造を有していることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の三次元周期構造体を用いたことを特徴とする導波路。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の三次元周期構造体を用いたことを特徴とする共振器。
【請求項1】
材質a中に大きさの等しい複数の球状空間が三次元的に規則的に配列されてなる三次元周期構造体であって、
前記複数の球状空間のうちの選択された1以上の球状空間に材質aとは異なる材質bが満たされていることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元周期構造体において、
前記材質bは、少なくとも2つ以上の異なる材質部分からなることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の三次元周期構造体において、
前記材質bは、芯粒子の材質b1と該芯粒子を皮状に包んでいる外殻の材質b2とから構成され、且つ、前記材質b1の芯粒子は球形状であることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の三次元周期構造体において、
前記球状空間に材質bが充填されている箇所が複数箇所あり、且つ、該複数箇所のいずれかの間において前記材質bにおける材質b1の芯粒子の大きさが異なっていることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項5】
請求項3に記載の三次元周期構造体において、
前記球状空間に材質bが充填されている箇所が複数箇所あり、且つ、該複数箇所のいずれかの間において芯粒子の材質が異なっているか、皮の材質が異なっていることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項6】
請求項1、請求項2、請求項4または請求項5のいずれかに記載の三次元周期構造体において、
前記球状空間に材質bが充填されている箇所の配置位置が微粒子構造体中で、二次元的もしくは三次元的な任意のパターンとなっていることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項7】
請求項6に記載の三次元周期構造体において、
前記球状空間に材質bが充填されている微粒子構造体中のパターンが空間的な対称構造を有していることを特徴とする三次元周期構造体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の三次元周期構造体を用いたことを特徴とする導波路。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の三次元周期構造体を用いたことを特徴とする共振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2006−162638(P2006−162638A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349304(P2004−349304)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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