三相整流装置
【課題】力率を向上させつつ、入力電流に重畳する高周波スイッチングノイズを低減できる三相整流装置を提供する。
【解決手段】整流回路における各直列回路の両ダイオードの相互接続点と同整流回路の負側出力端との間を、三相交流電源からの入力電流が正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する。整流回路における各直列回路の両ダイオードの相互接続点と同整流回路の正側出力端との間を、三相交流電源からの入力電流が負レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する。そして、回数N1,N2の比率N1/N2を入力電力に応じて切換える。
【解決手段】整流回路における各直列回路の両ダイオードの相互接続点と同整流回路の負側出力端との間を、三相交流電源からの入力電流が正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する。整流回路における各直列回路の両ダイオードの相互接続点と同整流回路の正側出力端との間を、三相交流電源からの入力電流が負レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する。そして、回数N1,N2の比率N1/N2を入力電力に応じて切換える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、三相交流電源の電圧を整流して直流電圧に変換する三相整流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な三相交流電源の電圧を整流して直流電圧に変換する整流回路は、一対のダイオードを直列接続してなる3つの直列回路を有し、これら直列回路の各ダイオードの相互接続点が三相交流電源の各相に接続される。そして、この整流回路の出力端に平滑コンデンサが接続され、その平滑コンデンサに負荷が接続される。
【0003】
三相交流電圧は位相が互いに120°異なる3つの相電圧からなり、これら相電圧により、各直列回路のそれぞれ正側ダイオードを通って平滑コンデンサに電流が流れ、その平滑コンデンサから各直列回路のそれぞれ負側ダイオードを通って電流が流れる。
【0004】
このような整流回路では、力率を改善するため、また入力電流に含まれる高調波成分を抑制するため、入力側にリアクトルを設けるとともに、これらリアクトルに対する短絡路形成用の複数のスイッチを接続し、これらスイッチの高周波スイッチングにより、入力電流波形を正弦波に追従させる三相アクティブフィルタが採用される(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3675336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の高周波スイッチングにより入力電流波形を正弦波に追従させることができても、高周波スイッチングに伴うノイズが入力電流に重畳してしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明の実施形態の目的は、力率を向上させつつ、入力電流に重畳する高周波スイッチングノイズを低減できる三相整流装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の三相整流装置は、一対のダイオードを直列接続し、その両ダイオードの相互接続点が三相交流電源のU相に接続されるU相用直列回路、一対のダイオードを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が上記三相交流電源のV相に接続されるV相用直列回路、一対のダイオードを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が上記三相交流電源のW相に接続されるW相用直列回路を有し、上記三相交流電源の電圧を直流電圧に変換して出力する整流回路と、この整流回路の各ダイオードを短絡する複数のスイッチング素子と、上記三相交流電源の各相と上記整流回路の各直列回路との接続間にそれぞれ設けた複数のリアクトルと、上記三相交流電源からの入力電力を検出する検出手段と、上記各直列回路の両ダイオードの相互接続点と上記整流回路の負側出力端との間を前記スイッチング素子を制御して、上記三相交流電源からの入力電流が正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡し、上記各直列回路の両ダイオードの相互接続点と上記整流回路の正側出力端との間を前記スイッチング素子を制御して、上記三相交流電源からの入力電流が負レベルとなる位相の前縁側で上記回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で上記回数N2だけ断続的に短絡するとともに、上記回数N1,N2をN1>N2とし、その比率N1/N2を上記検出手段の検出結果に応じて切換える制御手段と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】一実施形態の制御部の制御を示すフローチャート。
【図3】一実施形態のスイッチングデータ切換え条件を示す図。
【図4】一実施形態の低入力用の前縁側スイッチングデータを示す図。
【図5】一実施形態の低入力用の後縁側スイッチングデータを示す図。
【図6】一実施形態の低入力時の入力電流波形およびMOSFETの断続的なオンを示す図。
【図7】低入力時に高入力用のスイッチングデータを用いた場合の入力電流波形およびMOSFETの断続的なオンを参考として示す図。
【図8】一実施形態の高入力用の前縁側スイッチングデータを示す図。
【図9】一実施形態の高入力用の後縁側スイッチングデータを示す図。
【図10】一実施形態の高入力時の入力電流波形およびMOSFETの断続的なオンを示す図。
【図11】高入力時に低入力用のスイッチングデータを用いた場合の入力電流波形およびMOSFETの断続的なオンを参考として示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、三相交流電源1のU,V,W相に三相整流装置10を接続し、その三相整流装置10の出力電圧(後述の平滑コンデンサ14に生じ電圧)を負荷2に供給する。負荷2は、例えば、モータ駆動用のインバータ装置が用いられ、その消費電力が変動する。三相整流装置10は、三相交流電源1との接続ラインに設けた高調波低減用のリアクトル21,22,23、これらリアクトル21,22,23を介して三相交流電源1につながる整流回路30、三相交流電源1とリアクトル21,22,23との間の接続ラインに設けた電流センサ41,42,43、これら電流センサ41,42,43を介して三相交流電源1からの入力電流(以下、相電流という)Iu,Iv,Iwを検出する電流検出回路50を有する。
【0011】
整流回路30は、一対のダイオード31a,32aを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が三相交流電源1のU相に接続されるU相用直列回路、一対のダイオード33a,34aを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が三相交流電源1のV相に接続されるV相用直列回路、一対のダイオード35a,36aを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が三相交流電源1のW相に接続されるW相用直列回路を有し、三相交流電源1の三相交流電圧を直流電圧に変換して正側出力端子(+)および負側出力端子(−)から出力する。各ダイオードには、それぞれ各ダイオードを短絡する複数のスイッチング素子が並列接続されている。具体的には、スイッチング素子は、半導体スイッチたとえばMOSFET31,32,33,34,35,36であり、上記ダイオード31a,32a,33a,34a,35a,36aは、これらのMOSFET31〜36の寄生ダイオードである。すなわち、各ダイオード31a〜36aに対し、1つのMOSFET31〜36がそれぞれ逆並列接続された状態にある。これらのMOSFET31〜36がオンすれば、その素子に対して逆並列接続されているダイオード31a〜36aが短絡されることになる。
【0012】
また、三相整流装置10は、三相交流電源1からの入力電力を電流検出回路50で検出される相電流Iu,Iv,Iwに基づいて検出する入力電力検出部51、電流検出回路50で検出される相電流Iu,Iv,Iwの零クロス点をそれぞれ検出する零クロス点検出部52、MOSFET31,32,33,34,35,36に対し、零クロス点からの時間に基づき短絡(オン)及び短絡終了(オフ)動作を指示する各種スイッチングデータを記憶したメモリ53、電流検出回路50で検出される相電流Iu,Iv,Iw、入力電力検出部51で検出される入力電力、零クロス点検出部52で検出される零クロス点およびメモリ53内のスイッチングデータに基づいてMOSFET31〜36に対する駆動信号(短絡信号)を生成し出力する制御部60、この制御部60から出力される駆動信号に応じてMOSFET31〜36をオン,オフ駆動する駆動部54を有する。
【0013】
制御部60は、主要な機能として次の(1)〜(7)の手段を有する。
(1)U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の負側出力端(−)との間を、MOSFET32により、三相交流電源1からの相電流Iuが正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0014】
(2)U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の正側出力端(+)との間を、MOSFET31により、三相交流電源1からの相電流Iuが負レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0015】
(3)V相用直列回路のダイオード33a,34aの相互接続点と整流回路30の負側出力端(−)との間を、MOSFET34により、三相交流電源1からの相電流Ivが正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0016】
(4)V相用直列回路のダイオード33a,34aの相互接続点と整流回路30の正側出力端(+)との間を、MOSFET33により、三相交流電源1からの相電流Ivが負レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0017】
(5)W相用直列回路のダイオード35a,36aの相互接続点と整流回路30の負側出力端(−)との間を、MOSFET36により、三相交流電源1からの相電流Iwが正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0018】
(6)W相用直列回路のダイオード35a,36aの相互接続点と整流回路30の正側出力端(+)との間を、MOSFET35により、三相交流電源1からの相電流Iwが負レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0019】
(7)回数N1,N2をN1>N2とし、その回数比率N1/N2を入力電力検出部51の検出結果に応じて切換えるとともに、その切換え点を入力電力検出部51の検出結果の上昇時と下降時で異ならせ、かつその切換えを零クロス点検出部52で検出される零クロス点を基準に行う手段。
【0020】
なお、相電流の正・負の状態において前縁側は、相電流の零クロス点から零クロス点までの期間における前側、後縁側は、相電流の零クロス点から零0クロス点までの期間における後ろ側を意味する。以下の実施形態の説明においては、前縁側を、0クロスを基準とした電気角で表し、相電流の正・負のいずれの状態においても電気角で0°〜60°とし、後縁側を120°〜180°としている。ちなみに、これは、一般的な正弦波の1周期を基準にすると、相電流が正の状態においては、前縁側が電気角で0°〜60°、後縁側は120°〜180°で同じになるが、相電流が負の状態では、前縁側が電気角で180°〜240°、後縁側が300°〜360°で表されることになる。
【0021】
回数N1,N2の一例として、N1+N2の合計を、高入力時及び低入力時ともに同じ数である15回とし、回数N1,N2を入力電力が低い場合はN1=8,N2=7、入力電力が高い場合はN1=10,N2=5とする。さらに、回数N1,N2の比率N1/N2は、低入力時を“8/7、高入力時を“10/5”として、低入力時より高入力時のほうを大きくする。言い換えると、比率N2/N1は、低入力時を“7/8”、高入力時を“5/10”として、低入力時より高入力時のほうを小さくする。
【0022】
なお、高入力時、低入力時のN1,N2のスイッチング回数、零クロス点からの短絡動作するまでのタイミング(期間)は、すべてメモリ53に記憶され、これらのデータが適宜、制御部60から読み出され、駆動部54に所定のタイミングで各MOSFET31〜36に駆動/停止信号を供給するよう指示が出される。また、合計短絡回数N1+N2を、多くすると入力電流の正弦波への追従性が向上し、高調波を低減できるが、短絡するためのスイッチング回数が増加し、MOSFET31〜36のスイッチングによる高周波スイッチングノイズが増加するため、10回以上、30回以下が望ましい。
【0023】
つぎに、作用を説明する。
図2のフローチャートに示すように、三相交流電源1からの相電流Iu,Iv,Iwを検出する(ステップ101)。この相電流Iu,Iv,Iwに基づき、三相交流電源1からの入力電力を検出する(ステップ102)。そして、相電流Iu,Iv,Iwの零クロス点をそれぞれ検出する(ステップ103)。
【0024】
相電流Iuの零クロス点が到来したとき(ステップ104)、入力電力(入力電流)が図3のスイッチングデータ切換え条件における設定値80%より低い状態にあれば(ステップ105のYES)、メモリ53内の低入力用の前縁側スイッチングデータおよび後縁側スイッチングデータを選択する(ステップ106)。そして、選択した低入力用のスイッチングデータに基づき、MOSFET31,32をオン,オフ駆動(高周波スイッチング)する。ここで、入力電力の基準として、負荷2の最大消費電力を100%としている。また、図3のスイッチングデータ切換え条件は、ヒステリシスを有している。すなわち、前回の入力電流が低入力であれば、設定値80%を超える検出を行なうまでは低入力と判断し、設定値80%を超えた場合には高入力と判断する。一方、前回の入力電流が高入力であれば、設定値60%未満に低下したことを検出するまでは高入力と判断し、設定値60%未満を検出した場合には低入力と判断する。
【0025】
低入力用の前縁側スイッチングデータは、図4に示すように、零クロス点を基準とした時間経過に沿って順に並ぶ個数N1たとえば8個のオンデータP1,P2…P8からなる。これらオンデータP1,P2…P8は、それぞれオン期間t1,t2…t8を有する。低入力用の後縁側スイッチングデータは、図5に示すように、零クロス点を基準とした時間経過に沿って順に並ぶ個数N2たとえば7個のオンデータP9,P10…P15からなる。これらオンデータP9,P10…P15は、それぞれオン期間t9,t10…t15を有する。図4、5及び後述する図8、9では、三相交流電源の周波数が、50Hzの場合の例を示しており、これらのオンデータ(オンタイミングとオン期間)P9,P10…P15は、時間を基準としているため、当然ながら電源周波数が異なれば、異なるタイミング、異なるオン期間が、メモリ53から読み出される。
【0026】
すなわち、図6に示すように、入力電力が30%と低く、相電流Iuが正レベルとなる半サイクルの位相では、U相用直列回路の負側に位置するMOSFET32を、前縁側の0°〜60°期間において回数N1である8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間において回数N2である7回だけ断続的にオンする。MOSFET32がオンすると、U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の負側出力端(−)との間が短絡する。これにより、相電流Iuの正側の半サイクルを実線のような正弦波に追従させることができる。実際の相電流Iuは鋸歯状となるが、これはMOSFET32のオン,オフに伴って発生する電流変化を示している。この鋸歯状の電流変化が高周波スイッチングノイズの原因となるため、短絡回数を増加させると発生する高周波スイッチングノイズが増加することになる。なお、前縁側および後縁側を除く中間期間(60°〜120°区間)においても鋸歯状の短絡による電流変化が現れているが、これは相電流Iv,Iwを正弦波に追従させるための他の相のMOSFETのオン,オフによって生じるものである。ここで、本実施形態では、短絡回数を少なく設定しているため、高周波スイッチングノイズの発生を抑えることができる。
【0027】
仮に、前縁側のオン回数N1をたとえば10回に設定し、後縁側のオン回数N2をたとえば5回に設定した場合に、相電流Iuがどうなるかを確かめたのが図7である。この図7と図6において、電流波形の正弦波への追従性を比較すると、前縁側の電流と正弦波との差の大きさはあまり変わらないが、後縁側の電流と正弦波との差の大きさについては図6の方が小さくなっており、図6の方が正弦波への追従性が高く、力率が高いことが分かる。
【0028】
同じく入力電力が低く、相電流Iuが負レベルとなる半サイクルの位相では、U相用直列回路の正側に位置するMOSFET31が、前縁側の0°〜60°期間において8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間において7回だけ断続的にオンする。MOSFET31がオンすると、U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の正側出力端(+)との間が短絡する。これにより、相電流Iuの負側の半サイクルを正弦波に追従させることができる。
【0029】
一方、相電流Iuの零クロス点が到来したとき(ステップ104)、入力電力が図3のスイッチングデータ切換え条件における設定値80%以上の状態にあれば(ステップ105のNO)、メモリ53内の高入力用の前縁側スイッチングデータおよび後縁側スイッチングデータを選択する(ステップ108)。そして、選択した高入力用のスイッチングデータに基づき、MOSFET31,32をオン,オフ駆動(高周波スイッチング)する。
【0030】
高入力用の前縁側スイッチングデータは、図8に示すように、零クロス点を基準とした時間経過に沿って順に並ぶ個数N1たとえば10個のオンデータP1,P2…P10からなる。これらオンデータP1,P2…P10は、それぞれオン期間t1,t2…t10を有する。高入力用の後縁側スイッチングデータは、図9に示すように、零クロス点を基準とした時間経過に沿って順に並ぶ個数N2たとえば5個のオンデータP11,P12…P15からなる。これらオンデータP11,P12…P15は、それぞれオン期間t11,t12…t15を有する。
【0031】
すなわち、図10に示すように、入力電力が100%と高く、相電流Iuが正レベルとなる位相の半サイクルでは、U相用直列回路の負側に位置するMOSFET32を、前縁側の0°〜60°期間において回数N1である10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間において回数N2である5回だけ断続的にオンする。MOSFET32がオンすると、U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の負側出力端(−)とが短絡する。これにより、相電流Iuの正側の半サイクルを実線のような正弦波に追従させることができ、力率が向上できる。
【0032】
仮に、前縁側のオン回数N1を低入力時と同じ8回に設定し、後縁側のオン回数N2を低入力時と同じ7回に設定した場合に、相電流Iuがどうなるかを確かめたのが図11である。この図11と図10において、電流波形の正弦波への追従性を比較すると、前縁側の電流と正弦波との差の大きさはあまり変わらないが、後縁側の電流と正弦波との差の大きさは図10の方が小さくなり、図10の方が正弦波への追従性が高く、力率を向上させ、高調波の抑制効果が高いことが分かる。
【0033】
すなわち、回数N1,N2の比率N1/N2の設定を、低入力時より高入力時のほうを大きくすることで、それぞれの入力状態に対して、正弦波への追従性が良くなり、力率を向上させ、高調波を低減することができる。
【0034】
同じく入力電力が高く、相電流Iuが負レベルとなる半サイクルの位相では、U相用直列回路の正側に位置するMOSFET31が、前縁側の0°〜60°期間において10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間において5回だけ断続的にオンする。MOSFET31がオンすると、U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の正側出力端(+)との間が短絡する。これにより、相電流Iuの負側の半サイクルを正弦波に追従させることができる。
【0035】
ここまで相電流Iuについて述べたが、相電流Iv,Iwについても同様の制御を行う。
すなわち、相電流Ivについては、入力電力が低く、正レベルとなる半サイクルの位相では、V相用直列回路の負側に位置するMOSFET34を、前縁側の0°〜60°期間で8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で7回だけ断続的にオンする。同じく入力電力が低く、負レベルとなる半サイクルの位相では、V相用直列回路の正側に位置するMOSFET33を、前縁側の0°〜60°期間で8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で7回だけ断続的にオンする。入力電力が高く、正レベルとなる半サイクルの位相では、V相用直列回路の負側に位置するMOSFET34を、前縁側の0°〜60°期間で10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で5回だけ断続的にオンする。同じく入力電力が高く、負レベルとなる半サイクルの位相では、V相用直列回路の正側に位置するMOSFET33を、前縁側の0°〜60°期間で10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で5回だけ断続的にオンする。
【0036】
相電流Iwについては、入力電力が低く、正レベルとなる半サイクルの位相において、W相用直列回路の負側に位置するMOSFET36を、前縁側の0°〜60°期間で8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で7回だけ断続的にオンする。同じく入力電力が低く、負レベルとなる半サイクルの位相において、W相用直列回路の正側に位置するMOSFET35を、前縁側の0°〜60°期間で8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で7回だけ断続的にオンする。入力電力が高く、正レベルとなる半サイクルの位相では、W相用直列回路の負側に位置するMOSFET36を、前縁側の0°〜60°期間で10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で5回だけ断続的にオンする。同じく入力電力が高く、負レベルとなる半サイクルの位相では、W相用直列回路の正側に位置するMOSFET35を、前縁側の0°〜60°期間で10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で5回だけ断続的にオンする。
【0037】
以上のように、相電流の半サイクルにおける前縁側および後縁側の短絡回数N1,N2をN1>N2とし、その回数比率N1/N2を、低入力時よりも高入力時のほうが小さくなるように切換えることにより、リアクトル21,22,23を設けていることによる高調波低減効果を得ながら、低入力時および高入力時のいずれにおいても力率を向上させて、相電流Iu,Iv,Iwにおける高周波スイッチングノイズを低減できる。ひいては、リアクトル21,22,23として小形で電流・インダクタンス容量が大きいリアクトルを採用した三相アクティブフィルタを構成できる。リアクトル21,22,23が小形になれば、三相整流装置10が搭載される機器の小型化が図れる。
【0038】
しかも、図3のスイッチングデータ切換え条件は、回数比率N1/N2の切換え点を、入力電力の上昇時は設定値80%とし、入力電力の下降時は設定値60%として異ならせるヒステリシス特性を有する。このヒステリシス特性の採用により、回数比率N1/N2が入力電力の変化に伴って頻繁に切換わる不具合を防ぐことができる。なお、図4、5は、低入力時のデータであり、入力電力80%以上の領域は、過渡的な状態で発生する可能性があるため、図示しているが、現実的にこの領域のデータが制御に用いられることはほとんどない。同様に図8、9は、高入力時のデータであり、入力電力60%未満の領域のデータが制御に用いられることはほとんどない。
【0039】
MOSFETがオン,オフする0°〜60°期間および120°〜180°期間は、1つの相のオン,オフ制御が他の2つの相の電流波形に及ぼす影響が少ない期間である。この期間を選定していることにより、高周波スイッチングノイズの低減効果および高調波の低減効果が大きくなる。
【0040】
また、本実施形態においては、入力電力検出部51は、三相交流電源1の電圧が安定していることを前提として、その入力電力を電流検出回路50で検出される相電流Iu,Iv,Iwにて検出したが、さらに正確電力を検出する必要があれば、三相交流電源1の各相の電圧を検出して、この電圧と電流によって入力電力を算出しても良い。
【0041】
さらに、本実施形態においては、各相の零クロス点を、電流検出回路50で検出した相電流Iu,Iv,Iwの零クロス点で検出したが、相電流と相電圧の位相はほぼ一致するため、各相の電圧を検出する電圧検出手段を設け、この電圧検出手段によって検出される相電圧の零クロス点としても良い。
【0042】
なお、上記実施形態では、整流用のダイオードとしてMOSFETの寄生ダイオードを用い、そのMOSFETをそのまま短絡用のスイッチとして用いたが、その構成に限定はなく、種々変形可能である。その他、上記実施形態およびその変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態や変形は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1…三相交流電源、2…負荷、10…三相整流装置、21,22,23…リアクトル、24…平滑コンデンサ、30…整流回路、31,32,33,34,35,36…MOSFET(スイッチ)、31a,32a,33a,34a,35a,36a…ダイオード、41,42,43…電流センサ、50…電流検出回路、51…入力電力検出部、52…零クロス点検出部、53…メモリ、54…駆動部、60…制御部
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、三相交流電源の電圧を整流して直流電圧に変換する三相整流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な三相交流電源の電圧を整流して直流電圧に変換する整流回路は、一対のダイオードを直列接続してなる3つの直列回路を有し、これら直列回路の各ダイオードの相互接続点が三相交流電源の各相に接続される。そして、この整流回路の出力端に平滑コンデンサが接続され、その平滑コンデンサに負荷が接続される。
【0003】
三相交流電圧は位相が互いに120°異なる3つの相電圧からなり、これら相電圧により、各直列回路のそれぞれ正側ダイオードを通って平滑コンデンサに電流が流れ、その平滑コンデンサから各直列回路のそれぞれ負側ダイオードを通って電流が流れる。
【0004】
このような整流回路では、力率を改善するため、また入力電流に含まれる高調波成分を抑制するため、入力側にリアクトルを設けるとともに、これらリアクトルに対する短絡路形成用の複数のスイッチを接続し、これらスイッチの高周波スイッチングにより、入力電流波形を正弦波に追従させる三相アクティブフィルタが採用される(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3675336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の高周波スイッチングにより入力電流波形を正弦波に追従させることができても、高周波スイッチングに伴うノイズが入力電流に重畳してしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明の実施形態の目的は、力率を向上させつつ、入力電流に重畳する高周波スイッチングノイズを低減できる三相整流装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の三相整流装置は、一対のダイオードを直列接続し、その両ダイオードの相互接続点が三相交流電源のU相に接続されるU相用直列回路、一対のダイオードを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が上記三相交流電源のV相に接続されるV相用直列回路、一対のダイオードを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が上記三相交流電源のW相に接続されるW相用直列回路を有し、上記三相交流電源の電圧を直流電圧に変換して出力する整流回路と、この整流回路の各ダイオードを短絡する複数のスイッチング素子と、上記三相交流電源の各相と上記整流回路の各直列回路との接続間にそれぞれ設けた複数のリアクトルと、上記三相交流電源からの入力電力を検出する検出手段と、上記各直列回路の両ダイオードの相互接続点と上記整流回路の負側出力端との間を前記スイッチング素子を制御して、上記三相交流電源からの入力電流が正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡し、上記各直列回路の両ダイオードの相互接続点と上記整流回路の正側出力端との間を前記スイッチング素子を制御して、上記三相交流電源からの入力電流が負レベルとなる位相の前縁側で上記回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で上記回数N2だけ断続的に短絡するとともに、上記回数N1,N2をN1>N2とし、その比率N1/N2を上記検出手段の検出結果に応じて切換える制御手段と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】一実施形態の制御部の制御を示すフローチャート。
【図3】一実施形態のスイッチングデータ切換え条件を示す図。
【図4】一実施形態の低入力用の前縁側スイッチングデータを示す図。
【図5】一実施形態の低入力用の後縁側スイッチングデータを示す図。
【図6】一実施形態の低入力時の入力電流波形およびMOSFETの断続的なオンを示す図。
【図7】低入力時に高入力用のスイッチングデータを用いた場合の入力電流波形およびMOSFETの断続的なオンを参考として示す図。
【図8】一実施形態の高入力用の前縁側スイッチングデータを示す図。
【図9】一実施形態の高入力用の後縁側スイッチングデータを示す図。
【図10】一実施形態の高入力時の入力電流波形およびMOSFETの断続的なオンを示す図。
【図11】高入力時に低入力用のスイッチングデータを用いた場合の入力電流波形およびMOSFETの断続的なオンを参考として示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、三相交流電源1のU,V,W相に三相整流装置10を接続し、その三相整流装置10の出力電圧(後述の平滑コンデンサ14に生じ電圧)を負荷2に供給する。負荷2は、例えば、モータ駆動用のインバータ装置が用いられ、その消費電力が変動する。三相整流装置10は、三相交流電源1との接続ラインに設けた高調波低減用のリアクトル21,22,23、これらリアクトル21,22,23を介して三相交流電源1につながる整流回路30、三相交流電源1とリアクトル21,22,23との間の接続ラインに設けた電流センサ41,42,43、これら電流センサ41,42,43を介して三相交流電源1からの入力電流(以下、相電流という)Iu,Iv,Iwを検出する電流検出回路50を有する。
【0011】
整流回路30は、一対のダイオード31a,32aを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が三相交流電源1のU相に接続されるU相用直列回路、一対のダイオード33a,34aを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が三相交流電源1のV相に接続されるV相用直列回路、一対のダイオード35a,36aを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が三相交流電源1のW相に接続されるW相用直列回路を有し、三相交流電源1の三相交流電圧を直流電圧に変換して正側出力端子(+)および負側出力端子(−)から出力する。各ダイオードには、それぞれ各ダイオードを短絡する複数のスイッチング素子が並列接続されている。具体的には、スイッチング素子は、半導体スイッチたとえばMOSFET31,32,33,34,35,36であり、上記ダイオード31a,32a,33a,34a,35a,36aは、これらのMOSFET31〜36の寄生ダイオードである。すなわち、各ダイオード31a〜36aに対し、1つのMOSFET31〜36がそれぞれ逆並列接続された状態にある。これらのMOSFET31〜36がオンすれば、その素子に対して逆並列接続されているダイオード31a〜36aが短絡されることになる。
【0012】
また、三相整流装置10は、三相交流電源1からの入力電力を電流検出回路50で検出される相電流Iu,Iv,Iwに基づいて検出する入力電力検出部51、電流検出回路50で検出される相電流Iu,Iv,Iwの零クロス点をそれぞれ検出する零クロス点検出部52、MOSFET31,32,33,34,35,36に対し、零クロス点からの時間に基づき短絡(オン)及び短絡終了(オフ)動作を指示する各種スイッチングデータを記憶したメモリ53、電流検出回路50で検出される相電流Iu,Iv,Iw、入力電力検出部51で検出される入力電力、零クロス点検出部52で検出される零クロス点およびメモリ53内のスイッチングデータに基づいてMOSFET31〜36に対する駆動信号(短絡信号)を生成し出力する制御部60、この制御部60から出力される駆動信号に応じてMOSFET31〜36をオン,オフ駆動する駆動部54を有する。
【0013】
制御部60は、主要な機能として次の(1)〜(7)の手段を有する。
(1)U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の負側出力端(−)との間を、MOSFET32により、三相交流電源1からの相電流Iuが正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0014】
(2)U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の正側出力端(+)との間を、MOSFET31により、三相交流電源1からの相電流Iuが負レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0015】
(3)V相用直列回路のダイオード33a,34aの相互接続点と整流回路30の負側出力端(−)との間を、MOSFET34により、三相交流電源1からの相電流Ivが正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0016】
(4)V相用直列回路のダイオード33a,34aの相互接続点と整流回路30の正側出力端(+)との間を、MOSFET33により、三相交流電源1からの相電流Ivが負レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0017】
(5)W相用直列回路のダイオード35a,36aの相互接続点と整流回路30の負側出力端(−)との間を、MOSFET36により、三相交流電源1からの相電流Iwが正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0018】
(6)W相用直列回路のダイオード35a,36aの相互接続点と整流回路30の正側出力端(+)との間を、MOSFET35により、三相交流電源1からの相電流Iwが負レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し、同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡する手段。
【0019】
(7)回数N1,N2をN1>N2とし、その回数比率N1/N2を入力電力検出部51の検出結果に応じて切換えるとともに、その切換え点を入力電力検出部51の検出結果の上昇時と下降時で異ならせ、かつその切換えを零クロス点検出部52で検出される零クロス点を基準に行う手段。
【0020】
なお、相電流の正・負の状態において前縁側は、相電流の零クロス点から零クロス点までの期間における前側、後縁側は、相電流の零クロス点から零0クロス点までの期間における後ろ側を意味する。以下の実施形態の説明においては、前縁側を、0クロスを基準とした電気角で表し、相電流の正・負のいずれの状態においても電気角で0°〜60°とし、後縁側を120°〜180°としている。ちなみに、これは、一般的な正弦波の1周期を基準にすると、相電流が正の状態においては、前縁側が電気角で0°〜60°、後縁側は120°〜180°で同じになるが、相電流が負の状態では、前縁側が電気角で180°〜240°、後縁側が300°〜360°で表されることになる。
【0021】
回数N1,N2の一例として、N1+N2の合計を、高入力時及び低入力時ともに同じ数である15回とし、回数N1,N2を入力電力が低い場合はN1=8,N2=7、入力電力が高い場合はN1=10,N2=5とする。さらに、回数N1,N2の比率N1/N2は、低入力時を“8/7、高入力時を“10/5”として、低入力時より高入力時のほうを大きくする。言い換えると、比率N2/N1は、低入力時を“7/8”、高入力時を“5/10”として、低入力時より高入力時のほうを小さくする。
【0022】
なお、高入力時、低入力時のN1,N2のスイッチング回数、零クロス点からの短絡動作するまでのタイミング(期間)は、すべてメモリ53に記憶され、これらのデータが適宜、制御部60から読み出され、駆動部54に所定のタイミングで各MOSFET31〜36に駆動/停止信号を供給するよう指示が出される。また、合計短絡回数N1+N2を、多くすると入力電流の正弦波への追従性が向上し、高調波を低減できるが、短絡するためのスイッチング回数が増加し、MOSFET31〜36のスイッチングによる高周波スイッチングノイズが増加するため、10回以上、30回以下が望ましい。
【0023】
つぎに、作用を説明する。
図2のフローチャートに示すように、三相交流電源1からの相電流Iu,Iv,Iwを検出する(ステップ101)。この相電流Iu,Iv,Iwに基づき、三相交流電源1からの入力電力を検出する(ステップ102)。そして、相電流Iu,Iv,Iwの零クロス点をそれぞれ検出する(ステップ103)。
【0024】
相電流Iuの零クロス点が到来したとき(ステップ104)、入力電力(入力電流)が図3のスイッチングデータ切換え条件における設定値80%より低い状態にあれば(ステップ105のYES)、メモリ53内の低入力用の前縁側スイッチングデータおよび後縁側スイッチングデータを選択する(ステップ106)。そして、選択した低入力用のスイッチングデータに基づき、MOSFET31,32をオン,オフ駆動(高周波スイッチング)する。ここで、入力電力の基準として、負荷2の最大消費電力を100%としている。また、図3のスイッチングデータ切換え条件は、ヒステリシスを有している。すなわち、前回の入力電流が低入力であれば、設定値80%を超える検出を行なうまでは低入力と判断し、設定値80%を超えた場合には高入力と判断する。一方、前回の入力電流が高入力であれば、設定値60%未満に低下したことを検出するまでは高入力と判断し、設定値60%未満を検出した場合には低入力と判断する。
【0025】
低入力用の前縁側スイッチングデータは、図4に示すように、零クロス点を基準とした時間経過に沿って順に並ぶ個数N1たとえば8個のオンデータP1,P2…P8からなる。これらオンデータP1,P2…P8は、それぞれオン期間t1,t2…t8を有する。低入力用の後縁側スイッチングデータは、図5に示すように、零クロス点を基準とした時間経過に沿って順に並ぶ個数N2たとえば7個のオンデータP9,P10…P15からなる。これらオンデータP9,P10…P15は、それぞれオン期間t9,t10…t15を有する。図4、5及び後述する図8、9では、三相交流電源の周波数が、50Hzの場合の例を示しており、これらのオンデータ(オンタイミングとオン期間)P9,P10…P15は、時間を基準としているため、当然ながら電源周波数が異なれば、異なるタイミング、異なるオン期間が、メモリ53から読み出される。
【0026】
すなわち、図6に示すように、入力電力が30%と低く、相電流Iuが正レベルとなる半サイクルの位相では、U相用直列回路の負側に位置するMOSFET32を、前縁側の0°〜60°期間において回数N1である8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間において回数N2である7回だけ断続的にオンする。MOSFET32がオンすると、U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の負側出力端(−)との間が短絡する。これにより、相電流Iuの正側の半サイクルを実線のような正弦波に追従させることができる。実際の相電流Iuは鋸歯状となるが、これはMOSFET32のオン,オフに伴って発生する電流変化を示している。この鋸歯状の電流変化が高周波スイッチングノイズの原因となるため、短絡回数を増加させると発生する高周波スイッチングノイズが増加することになる。なお、前縁側および後縁側を除く中間期間(60°〜120°区間)においても鋸歯状の短絡による電流変化が現れているが、これは相電流Iv,Iwを正弦波に追従させるための他の相のMOSFETのオン,オフによって生じるものである。ここで、本実施形態では、短絡回数を少なく設定しているため、高周波スイッチングノイズの発生を抑えることができる。
【0027】
仮に、前縁側のオン回数N1をたとえば10回に設定し、後縁側のオン回数N2をたとえば5回に設定した場合に、相電流Iuがどうなるかを確かめたのが図7である。この図7と図6において、電流波形の正弦波への追従性を比較すると、前縁側の電流と正弦波との差の大きさはあまり変わらないが、後縁側の電流と正弦波との差の大きさについては図6の方が小さくなっており、図6の方が正弦波への追従性が高く、力率が高いことが分かる。
【0028】
同じく入力電力が低く、相電流Iuが負レベルとなる半サイクルの位相では、U相用直列回路の正側に位置するMOSFET31が、前縁側の0°〜60°期間において8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間において7回だけ断続的にオンする。MOSFET31がオンすると、U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の正側出力端(+)との間が短絡する。これにより、相電流Iuの負側の半サイクルを正弦波に追従させることができる。
【0029】
一方、相電流Iuの零クロス点が到来したとき(ステップ104)、入力電力が図3のスイッチングデータ切換え条件における設定値80%以上の状態にあれば(ステップ105のNO)、メモリ53内の高入力用の前縁側スイッチングデータおよび後縁側スイッチングデータを選択する(ステップ108)。そして、選択した高入力用のスイッチングデータに基づき、MOSFET31,32をオン,オフ駆動(高周波スイッチング)する。
【0030】
高入力用の前縁側スイッチングデータは、図8に示すように、零クロス点を基準とした時間経過に沿って順に並ぶ個数N1たとえば10個のオンデータP1,P2…P10からなる。これらオンデータP1,P2…P10は、それぞれオン期間t1,t2…t10を有する。高入力用の後縁側スイッチングデータは、図9に示すように、零クロス点を基準とした時間経過に沿って順に並ぶ個数N2たとえば5個のオンデータP11,P12…P15からなる。これらオンデータP11,P12…P15は、それぞれオン期間t11,t12…t15を有する。
【0031】
すなわち、図10に示すように、入力電力が100%と高く、相電流Iuが正レベルとなる位相の半サイクルでは、U相用直列回路の負側に位置するMOSFET32を、前縁側の0°〜60°期間において回数N1である10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間において回数N2である5回だけ断続的にオンする。MOSFET32がオンすると、U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の負側出力端(−)とが短絡する。これにより、相電流Iuの正側の半サイクルを実線のような正弦波に追従させることができ、力率が向上できる。
【0032】
仮に、前縁側のオン回数N1を低入力時と同じ8回に設定し、後縁側のオン回数N2を低入力時と同じ7回に設定した場合に、相電流Iuがどうなるかを確かめたのが図11である。この図11と図10において、電流波形の正弦波への追従性を比較すると、前縁側の電流と正弦波との差の大きさはあまり変わらないが、後縁側の電流と正弦波との差の大きさは図10の方が小さくなり、図10の方が正弦波への追従性が高く、力率を向上させ、高調波の抑制効果が高いことが分かる。
【0033】
すなわち、回数N1,N2の比率N1/N2の設定を、低入力時より高入力時のほうを大きくすることで、それぞれの入力状態に対して、正弦波への追従性が良くなり、力率を向上させ、高調波を低減することができる。
【0034】
同じく入力電力が高く、相電流Iuが負レベルとなる半サイクルの位相では、U相用直列回路の正側に位置するMOSFET31が、前縁側の0°〜60°期間において10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間において5回だけ断続的にオンする。MOSFET31がオンすると、U相用直列回路のダイオード31a,32aの相互接続点と整流回路30の正側出力端(+)との間が短絡する。これにより、相電流Iuの負側の半サイクルを正弦波に追従させることができる。
【0035】
ここまで相電流Iuについて述べたが、相電流Iv,Iwについても同様の制御を行う。
すなわち、相電流Ivについては、入力電力が低く、正レベルとなる半サイクルの位相では、V相用直列回路の負側に位置するMOSFET34を、前縁側の0°〜60°期間で8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で7回だけ断続的にオンする。同じく入力電力が低く、負レベルとなる半サイクルの位相では、V相用直列回路の正側に位置するMOSFET33を、前縁側の0°〜60°期間で8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で7回だけ断続的にオンする。入力電力が高く、正レベルとなる半サイクルの位相では、V相用直列回路の負側に位置するMOSFET34を、前縁側の0°〜60°期間で10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で5回だけ断続的にオンする。同じく入力電力が高く、負レベルとなる半サイクルの位相では、V相用直列回路の正側に位置するMOSFET33を、前縁側の0°〜60°期間で10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で5回だけ断続的にオンする。
【0036】
相電流Iwについては、入力電力が低く、正レベルとなる半サイクルの位相において、W相用直列回路の負側に位置するMOSFET36を、前縁側の0°〜60°期間で8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で7回だけ断続的にオンする。同じく入力電力が低く、負レベルとなる半サイクルの位相において、W相用直列回路の正側に位置するMOSFET35を、前縁側の0°〜60°期間で8回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で7回だけ断続的にオンする。入力電力が高く、正レベルとなる半サイクルの位相では、W相用直列回路の負側に位置するMOSFET36を、前縁側の0°〜60°期間で10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で5回だけ断続的にオンする。同じく入力電力が高く、負レベルとなる半サイクルの位相では、W相用直列回路の正側に位置するMOSFET35を、前縁側の0°〜60°期間で10回だけ断続的にオンし、後縁側の120°〜180°期間で5回だけ断続的にオンする。
【0037】
以上のように、相電流の半サイクルにおける前縁側および後縁側の短絡回数N1,N2をN1>N2とし、その回数比率N1/N2を、低入力時よりも高入力時のほうが小さくなるように切換えることにより、リアクトル21,22,23を設けていることによる高調波低減効果を得ながら、低入力時および高入力時のいずれにおいても力率を向上させて、相電流Iu,Iv,Iwにおける高周波スイッチングノイズを低減できる。ひいては、リアクトル21,22,23として小形で電流・インダクタンス容量が大きいリアクトルを採用した三相アクティブフィルタを構成できる。リアクトル21,22,23が小形になれば、三相整流装置10が搭載される機器の小型化が図れる。
【0038】
しかも、図3のスイッチングデータ切換え条件は、回数比率N1/N2の切換え点を、入力電力の上昇時は設定値80%とし、入力電力の下降時は設定値60%として異ならせるヒステリシス特性を有する。このヒステリシス特性の採用により、回数比率N1/N2が入力電力の変化に伴って頻繁に切換わる不具合を防ぐことができる。なお、図4、5は、低入力時のデータであり、入力電力80%以上の領域は、過渡的な状態で発生する可能性があるため、図示しているが、現実的にこの領域のデータが制御に用いられることはほとんどない。同様に図8、9は、高入力時のデータであり、入力電力60%未満の領域のデータが制御に用いられることはほとんどない。
【0039】
MOSFETがオン,オフする0°〜60°期間および120°〜180°期間は、1つの相のオン,オフ制御が他の2つの相の電流波形に及ぼす影響が少ない期間である。この期間を選定していることにより、高周波スイッチングノイズの低減効果および高調波の低減効果が大きくなる。
【0040】
また、本実施形態においては、入力電力検出部51は、三相交流電源1の電圧が安定していることを前提として、その入力電力を電流検出回路50で検出される相電流Iu,Iv,Iwにて検出したが、さらに正確電力を検出する必要があれば、三相交流電源1の各相の電圧を検出して、この電圧と電流によって入力電力を算出しても良い。
【0041】
さらに、本実施形態においては、各相の零クロス点を、電流検出回路50で検出した相電流Iu,Iv,Iwの零クロス点で検出したが、相電流と相電圧の位相はほぼ一致するため、各相の電圧を検出する電圧検出手段を設け、この電圧検出手段によって検出される相電圧の零クロス点としても良い。
【0042】
なお、上記実施形態では、整流用のダイオードとしてMOSFETの寄生ダイオードを用い、そのMOSFETをそのまま短絡用のスイッチとして用いたが、その構成に限定はなく、種々変形可能である。その他、上記実施形態およびその変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態や変形は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1…三相交流電源、2…負荷、10…三相整流装置、21,22,23…リアクトル、24…平滑コンデンサ、30…整流回路、31,32,33,34,35,36…MOSFET(スイッチ)、31a,32a,33a,34a,35a,36a…ダイオード、41,42,43…電流センサ、50…電流検出回路、51…入力電力検出部、52…零クロス点検出部、53…メモリ、54…駆動部、60…制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のダイオードを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が三相交流電源のU相に接続されるU相用直列回路、一対のダイオードを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が前記三相交流電源のV相に接続されるV相用直列回路、一対のダイオードを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が前記三相交流電源のW相に接続されるW相用直列回路を有し、前記三相交流電源の電圧を直流電圧に変換して出力する整流回路と、
この整流回路の各ダイオードを短絡する複数のスイッチング素子と、
前記三相交流電源の各相と前記整流回路の各直列回路との接続間にそれぞれ設けた複数のリアクトルと、
前記三相交流電源からの入力電力を検出する検出手段と、
前記各直列回路の両ダイオードの相互接続点と前記整流回路の負側出力端との間を前記スイッチング素子を制御して、前記三相交流電源からの入力電流が正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡し、前記各直列回路の両ダイオードの相互接続点と前記整流回路の正側出力端との間を前記スイッチング素子を制御して、前記三相交流電源からの入力電流が負レベルとなる位相の前縁側で前記回数N1だけ断続的に短絡し同位相の後縁側で前記回数N2だけ断続的に短絡するとともに、前記回数N1,N2の比率N1/N2を前記検出手段の検出結果に応じて切換える制御手段と、
を備えることを特徴とする三相整流装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記検出手段の検出結果に応じた前記比率N1/N2の切換え点を前記検出手段の検出結果の上昇時と下降時で異ならせる、
ことを特徴とする請求項1記載の三相整流装置。
【請求項3】
さらに、三相電源の各相の零クロス点を検出する零クロス点検出手段を設け、
前記制御手段は、前記検出手段の検出結果に応じた前記比率N1/N2の切換えを前記零クロス点検出手段の検出した零クロス点を基準に行う、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の三相整流装置。
【請求項4】
前記前縁は前記各相の零クロス点を基準として、0°〜60°の期間、前記後縁は前記零クロス点を基準として、120°〜180°の期間とした、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載の三相整流装置。
【請求項1】
一対のダイオードを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が三相交流電源のU相に接続されるU相用直列回路、一対のダイオードを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が前記三相交流電源のV相に接続されるV相用直列回路、一対のダイオードを直列接続しその両ダイオードの相互接続点が前記三相交流電源のW相に接続されるW相用直列回路を有し、前記三相交流電源の電圧を直流電圧に変換して出力する整流回路と、
この整流回路の各ダイオードを短絡する複数のスイッチング素子と、
前記三相交流電源の各相と前記整流回路の各直列回路との接続間にそれぞれ設けた複数のリアクトルと、
前記三相交流電源からの入力電力を検出する検出手段と、
前記各直列回路の両ダイオードの相互接続点と前記整流回路の負側出力端との間を前記スイッチング素子を制御して、前記三相交流電源からの入力電流が正レベルとなる位相の前縁側で回数N1だけ断続的に短絡し同位相の後縁側で回数N2だけ断続的に短絡し、前記各直列回路の両ダイオードの相互接続点と前記整流回路の正側出力端との間を前記スイッチング素子を制御して、前記三相交流電源からの入力電流が負レベルとなる位相の前縁側で前記回数N1だけ断続的に短絡し同位相の後縁側で前記回数N2だけ断続的に短絡するとともに、前記回数N1,N2の比率N1/N2を前記検出手段の検出結果に応じて切換える制御手段と、
を備えることを特徴とする三相整流装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記検出手段の検出結果に応じた前記比率N1/N2の切換え点を前記検出手段の検出結果の上昇時と下降時で異ならせる、
ことを特徴とする請求項1記載の三相整流装置。
【請求項3】
さらに、三相電源の各相の零クロス点を検出する零クロス点検出手段を設け、
前記制御手段は、前記検出手段の検出結果に応じた前記比率N1/N2の切換えを前記零クロス点検出手段の検出した零クロス点を基準に行う、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の三相整流装置。
【請求項4】
前記前縁は前記各相の零クロス点を基準として、0°〜60°の期間、前記後縁は前記零クロス点を基準として、120°〜180°の期間とした、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載の三相整流装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−110785(P2013−110785A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251576(P2011−251576)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(505461072)東芝キヤリア株式会社 (477)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(505461072)東芝キヤリア株式会社 (477)
【Fターム(参考)】
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