説明

上向流式の反応槽、該反応槽を用いた水処理方法、該反応槽を備える水処理装置

【課題】 上向流式の嫌気処理において、局所的に酸成分が高濃度で蓄積されること及び局所的なpHの低下を抑制することができ、反応槽の処理能力が低下するのを抑制することができる反応槽及び該反応槽を用いた水処理方法を提供すると共に、該反応槽を備える水処理装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 有機物を含有する被処理水と嫌気性細菌とを接触させて処理する内部空間を備え、該内部空間の下端部に前記被処理水が供給されると共に、内部空間の上端部から処理水が排出されるように構成された上向流式の反応槽であって、前記内部空間には、嫌気性細菌によって有機物が分解された際に発生したガス成分が気泡となって上昇する方向に対して交差するように傾斜板が備えられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物を含有する被処理水と嫌気性細菌とを接触させて処理する上向流式の反応槽及び該反応槽を用いた水処理方法に関し、また、該反応槽を備える水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機物を含有する被処理水(例えば、し尿廃水、下水、工場廃水(食品工場、化学工場、電子産業工場、パルプ工場等の工場からの廃水)等)を処理する方法として、嫌気性細菌を用いた嫌気処理が広く用いられている。該嫌気処理は、嫌気性細菌によって有機物が酸成分(例えば、酢酸などの有機酸や水素イオン)に分解される作用(酸生成反応)と、更に酸成分がガス成分(メタンガスや炭酸ガスなど)に分解される作用(ガス生成反応)とによるものであり、好気処理のようにエアレーションのための動力を必要としないため、好気処理よりも省エネルギーであると共に、発生するガス成分を燃料として利用できるという利点がある。また、好気処理と比較して汚泥の発生量が少ないため、汚泥処理コストを低減することができる。
【0003】
上記のような嫌気処理を行なう方法の一つとして、上向流式の処理方法が知られている。斯かる処理方法は、嫌気性細菌が充填された反応槽の下端部から被処理水を内部に供給し、被処理水と嫌気性細菌とを接触させて処理しつつ被処理水を上昇させ、反応槽の上端部から処理水を排出する方法である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−216784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような上向流式の処理方法は、嫌気性細菌が有機物を分解する過程において、まず酸成分が生成されるため、ガス生成反応によって酸成分が速やかに消費されない場合には、反応槽内に酸成分が蓄積され、且つ十分なアルカリ成分が存在しなければpHが低下することとなる。特に、反応槽の下端部(被処理水が供給される付近)では、有機物が高濃度で存在しているため、局所的に酸成分が高濃度で蓄積されると共に、局所的にpHが低下する虞がある。
【0006】
ところが、前記嫌気性細菌のうちメタン生成菌は、pHが中性付近の環境下において活性を示すものであると共に、pHとは無関係に高濃度の有機酸によっても処理能力が阻害されるため、pHが低い環境下や、中性付近に調整されている場合であっても有機酸が高濃度に蓄積した環境下では活性が低下することとなる。このような環境下では、メタン生成菌の活性低下により有機酸の消費が進まず、それによって更なるメタン生成菌の活性低下を引き起こすこととなる。このため、十分に有機物の分解を行なうことができず、反応槽の処理能力が低下してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、上向流式の嫌気処理において、局所的に酸成分が高濃度で蓄積されること及び局所的なpHの低下を抑制することができ、反応槽の処理能力が低下するのを抑制することができる反応槽及び該反応槽を用いた水処理方法を提供すると共に、該反応槽を備える水処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる反応槽は、有機物を含有する被処理水と嫌気性細菌とを接触させて処理する内部空間を備え、該内部空間の下端部に前記被処理水が供給されると共に、内部空間の上端部から処理水が排出されるように構成された上向流式の反応槽であって、前記内部空間には、嫌気性細菌によって有機物が分解された際に発生したガス成分が気泡となって上昇する方向に対して交差するように傾斜板が備えられていることを特徴とする。
【0009】
斯かる構成によれば、嫌気性細菌によって有機物が分解された際に発生したガス成分が気泡となって上昇する方向に対して交差するように傾斜板が前記内部空間に配置されていることで、傾斜板との接触によって合一して粗大化した気泡が上昇することにより、反応槽内の撹拌が促進され、局所的な酸成分の蓄積及び局所的なpHの低下を抑制することができる。
【0010】
具体的には、内部空間の下端部には未処理の被処理水が供給されるため、有機物濃度が高い被処理水と嫌気性細菌とが接触することとなる。このため、内部空間の下端部では、酸成分が大量に生成し、メタン生成反応でこれが十分に消費されない場合には、局所的に酸成分が蓄積されると共に、局所的なpHの低下が生じやすくなる。一方、被処理水中に生じた酸成分は、内部空間の上端側に向かうに従ってメタン生成反応により消費されるため、内部空間の上端側の領域ほど、酸成分の濃度が減少すると共に、pHが中性に近い状態となる。
【0011】
ここで、内部空間に傾斜板を備えることで、傾斜板よりも下方で発生した気泡は、上昇する途中で傾斜板に接触し、気泡同士が合一して粗大化する。これにより、粗大化する前の気泡よりも槽内を撹拌する力が増大し、広範囲の被処理水が粗大気泡との接触によって撹拌される。これにより、傾斜板よりも上方の被処理水の撹拌を促進することができる。
更に、傾斜板の下方側の面に沿って粗大気泡が上昇することにより、傾斜板の下端部近傍において、傾斜板よりも上方側の被処理水が傾斜板の下方側に引き込まれることとなる。これにより、傾斜板を境に上下の被処理水が混合されるため、被処理水の撹拌を促進することができる。
【0012】
また、内部空間の気泡は、自身が上昇することによって上方に向かう運動成分を被処理水に付与するため、粗大気泡が上昇することによって被処理水に従来よりも大きな上方に向かう運動成分を付与することができる。これにより、内部空間の下端部(局所的な酸成分の蓄積及びpHの低下が生じる領域)に位置する被処理水を速やかに上方に拡散させることができる。
【0013】
以上のように、大量に生成した酸成分が内部空間の下端部で過度に滞留することなく上昇し、傾斜板よりも上方で粗大気泡によって効果的に撹拌されるため、傾斜板がない場合に比べて、局所的な(反応槽の下端部で)酸成分の蓄積が抑制されると共に、局所的なpHの低下を抑制することができ、局所的にメタン生成菌の活性が低下して反応槽の処理能力が低下してしまうのを抑制することができる。
【0014】
また、本発明にかかる反応槽は、嫌気性細菌からなるグラニュール状の汚泥によって形成された汚泥床が前記内部空間に形成されており、斯かる汚泥床内の下端側に前記傾斜板が配置されていることが好ましい。
【0015】
斯かる構成によれば、嫌気性細菌からなるグラニュール状の汚泥によって形成された汚泥床が前記内部空間に形成されており、斯かる汚泥床内の下端側に前記傾斜板が配置されていることで、汚泥床内の被処理水を効果的に撹拌することができ、局所的な酸成分の蓄積及び局所的なpHの低下を抑制することができる。
【0016】
具体的には、被処理水は、前記汚泥床内を下方から上方へ移動する過程で酸生成反応とそれに続くメタン生成反応とで処理されるため、特に高負荷処理においては、汚泥床内の下端側でメタン生成反応が酸生成反応に追い付かず、有機酸の蓄積やpHの低下が進みやすい傾向がある。しかしながら、傾斜板が汚泥床内に配置されていることで、上述したような粗大気泡の作用によって酸成分の拡散が促進されると共に、グラニュール状の汚泥と粗大気泡との衝突によっても槽内の撹拌効果を高めることができる。これにより、メタン生成菌の活性が局所的に低下するのを抑制することができる。
【0017】
本発明にかかる水処理装置は、上記何れかの反応槽と、該反応槽で処理された一次処理水をさらに嫌気処理する内部空間を備えた上向流式の仕上げ処理槽とを備えることを特徴とする。
【0018】
斯かる構成によれば、上記何れか1つの反応槽と、該反応槽で処理された一次処理水をさらに嫌気処理する内部空間を備えた上向流式の仕上げ処理槽とを備えることで、反応槽での処理に加えて仕上げ処理槽での処理を行なうことができるため、より効果的に被処理水の処理を行なうことができる。
【0019】
例えば、反応槽では、粗大気泡の作用によって、反応槽の下端側の被処理水が十分に処理されないまま気泡の上昇に同伴して、反応槽の上端部に達することがあるため、十分に処理されない被処理水が一次処理水として反応槽の上端部から排出される場合がある。しかしながら、仕上げ処理槽によってそのような一次処理水を処理することができるため、被処理水の有機物を十分に処理することができる。また、仕上げ処理槽を上向流式とすることで、一次処理水に汚泥が混入した場合であっても効果的に汚泥を分離することができる。
【0020】
本発明にかかる水処理方法は、有機物を含有する被処理水と嫌気性細菌とを上向流式の反応槽内で接触させて処理する水処理方法であって、嫌気性細菌によって有機物が分解された際に発生したガス成分が気泡となって上昇する方向に対して交差するように反応槽内に傾斜板を配置して処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、上向流式の嫌気処理において、反応槽内で局所的に酸成分が高濃度で蓄積されるのを抑制することができると共に、反応槽内のpHの局所的な低下を抑制することができ、これにより、反応槽の処理能力が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る水処理装置を示した概略図。
【図2】他の実施形態に係る水処理装置を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図1を参照しながら説明する。
【0024】
本実施形態にかかる反応槽1は、有機物を含有する被処理水Aを嫌気処理するための水処理装置10を構成するものである。該水処理装置10は、前記反応槽1の他に、反応槽1から排出される処理水(一次処理水B)を更に嫌気処理する仕上げ処理槽2と、反応槽1及び仕上げ処理槽2で発生したガス成分を回収するガス回収部3とを備えて構成されている。
【0025】
前記反応槽1は、被処理水Aと嫌気性細菌とを接触させて処理する内部空間1Rを備え、反応槽1の下端部には、内部空間1Rの下端部に被処理水Aを供給するための被処理水供給路10aが連結されている。
【0026】
また、内部空間1Rには、嫌気性細菌がグラニュール状に成長した汚泥が充填されており、斯かる汚泥によって内部空間1Rには汚泥床1Sが形成されている。なお、汚泥床1Sを形成するグラニュール状の汚泥は、沈降速度が速いため、汚泥床1Sの上方には上澄み液の層が形成されている。
【0027】
また、反応槽1は、前記上澄み液が内部空間1Rの上端部から一次処理水Bとして排出されるように構成されている。具体的には、反応槽1は、上澄み液が内部空間1Rの上端部から一次処理水Bとしてオーバーフローするように構成されている。より詳しくは、反応槽1の上端部には、上方に向かって開放する開口部が形成され、反応槽1の下端部に供給された被処理水Aが上方に向かって移動しつつ処理されて前記開口部からオーバーフローするように構成されている。また、前記開口部からは、内部空間1Rで発生したガス成分が放散されるように構成されている。
【0028】
前記反応槽1は、上端部からオーバーフローした一次処理水Bを一次的に集水する集水部1aを備えている。該集水部1aは、前記開口部の外周に沿って一体的に形成されている。また、集水部1aは、反応槽1の開口部と、後述する仕上げ処理槽2の開口部との間の高さ位置に備えられ、上方に向かって開放するように構成されている。そして、反応槽1の上端部からオーバーフローして流れ落ちる一次処理水Bを集水すると共に、速やかに仕上げ処理槽2に供給するように構成されている。
【0029】
具体的には、集水部1aには、一次処理水Bを仕上げ処理槽2に供給するための一次処理水供給路10bが連結され、仕上げ処理槽2の内部空間2Rの下端部に一次処理水Bが供給されるように構成されている。また、集水部1aは、上方に向かって開放するように構成され、開放する部分から一次処理水Bが集水部1aの内部に流入すると共に、集水された一次処理水B中の気泡(ガス成分)が放散されるように構成されている。
【0030】
前記内部空間1Rには、嫌気性細菌によって有機物が分解されて生成したガス成分が気泡となって上昇する方向に対して交差するように傾斜板1bが備えられている。具体的には、該傾斜板1bは、一枚の板状の形状を有し、上下方向に対して所定の角度で交差するように配置されている。本実施形態では、傾斜板1bは、内部空間1Rに複数備えられており、互いに平行するように間隔を空けて配置されている。また、各傾斜板1bの高さ位置は、全て同一となるように備えられている。具体的には、傾斜板1bは、前記汚泥床1S内の下端側に備えられている。より詳しくは、傾斜板1bは、被処理水供給路10aと反応槽1との連結部分よりも上側で、且つ汚泥床1S内の下端側に位置するように備えられている。
【0031】
前記仕上げ処理槽2は、一次処理水Bと嫌気性細菌とを接触させて処理する内部空間2Rを備え、仕上げ処理槽2の下端部には、内部空間2Rの下端部に一次処理水Bを供給するための一次処理水供給路10bが連結されている。
【0032】
また、仕上げ処理槽2は、内部空間2Rが内部空間1Rよりも容積が小さくなるように構成されている。そして、内部空間2Rには、嫌気性細菌がグラニュール状に成長した汚泥が充填されており、斯かる汚泥によって内部空間2Rには汚泥床2Sが形成されている。なお、汚泥床2Sを形成するグラニュール状の汚泥は、沈降速度が速いため、汚泥床2Sの上方には上澄み液の層が形成されている。また、一次処理水B中の有機物の残存量が被処理水Aよりも少ないため、内部空間2Rでの酸成分の蓄積の虞は、内部空間1Rよりも少なくなる。このため、本実施形態では、内部空間1Rと異なり、内部空間2Rには、傾斜板1bが備えられていない。
【0033】
前記仕上げ処理槽2は、前記上澄み液が内部空間2Rの上端部から最終処理水Cとして排出されるように構成されている。具体的には、仕上げ処理槽2の上端部には、内部空間2Rの上端部から上澄み液を引き抜くための引抜き路10cが連結され、内部空間2Rで汚泥から分離された上澄み液が最終処理水Cとして外部へ排出されるように構成されている。また、仕上げ処理槽2の上端部には、上方に向かって開放する開口部が形成されており、該開口部から内部空間2Rで発生したガス成分が放散されるように構成されている。
【0034】
前記ガス回収部3は、反応槽1及び仕上げ処理槽2の上方に備えられており、各槽の開口部から放散されるガス成分Dを回収する回収空間3Rを備えている。また、ガス回収部3には、回収空間3Rに回収されたガス成分Dをガス回収手段(図示せず)に搬送するためのガス搬送路10dが連結されている。
【0035】
次に、上記構成からなる水処理装置10を用いて被処理水Aを処理する際の流れについて説明する。まず始めに、被処理水供給路10aを通じて被処理水Aを反応槽1内、具体的には、内部空間1Rの下端部に供給する。この際、所定の流速で被処理水Aが供給され続けることで、内部空間1Rには下端部から上端部へ向かう被処理水Aの上向流が形成される。
【0036】
内部空間1Rの下端部に供給された被処理水Aは、内部空間1Rを上昇しつつ汚泥床1S(具体的には、嫌気性細菌)と接触し、含有する有機物が分解されて除去される。前記嫌気性細菌が有機物を除去する際には、有機物が酸成分(例えば、酢酸など有機酸や水素イオン)に分解され(酸生成反応)、更に該酸成分がガス成分(例えば、メタンガスや炭酸ガスなど)に分解される(ガス生成反応)。このため、内部空間1Rの下端部(具体的には、汚泥床1S内の下端部)では、有機物濃度が高い被処理水Aと嫌気性細菌(特には酸生成菌)とが接触して大量の酸成分(具体的には、有機酸など)が生成される。そして、メタン生成菌によるガス生成反応(メタン生成反応)が十分に行なわれない場合には、局所的に酸性分が高濃度で蓄積されると共に、局所的なpHの低下が生じやすくなる。一方、被処理水Aは、内部空間1Rの上端側に向かうに従って、酸成分がガス生成反応によって消費されるため、内部空間1Rの上端側ほど処理の度合が高くなる。このため、内部空間1Rの上端側の領域ほど酸成分が少なくなると共に、pHが中性に近い状態となる。
【0037】
発生したガス成分は、気泡となって内部空間1R内を上昇する。この際、傾斜板1bよりも下方で発生した気泡は、上昇する途中で傾斜板1bに接触し、気泡同士が合一して粗大化する。これにより、粗大化する前の気泡よりも槽内を撹拌する力が増大し、広範囲の被処理水Aが粗大気泡との接触によって撹拌されるため、傾斜板1bよりも上方の被処理水Aの撹拌を促進することができる。
更に、傾斜板1bの下方側の面に沿って粗大気泡が上昇することにより、傾斜板1bの下端部近傍において、傾斜板1bよりも上方側の被処理水Aが傾斜板1bの下方側に引き込まれることとなる。これにより、傾斜板1bを境に上下の被処理水Aが混合されるため、被処理水Aの撹拌を促進することができる。
【0038】
また、内部空間1R内の気泡は、自身が上昇することによって上方に向かう運動成分を被処理水Aに付与するため、粗大気泡が上昇することによって、従来よりも広範囲の被処理水Aに従来よりも大きな上方に向かう運動成分を付与することができる。これにより、内部空間1Rの下端部(局所的にpHが低下する領域)に位置する被処理水Aを速やかに上方に拡散させることができる。また、グラニュール状の汚泥と粗大気泡との衝突によっても槽内の撹拌効果を高めることができる。
【0039】
以上のように、大量に生成した酸成分が内部空間1Rの下端部で過度に滞留することなく上昇し、傾斜板1bよりも上方で粗大気泡によって効果的に撹拌されるため、傾斜板がない場合に比べて、局所的な(反応槽1の下端部での)酸成分の高濃度での蓄積及び局所的なpHの低下を抑制することができる。
【0040】
また、内部空間1Rでは、気泡が付着した汚泥が気泡の浮力によって沈殿せずに被処理水A中に浮遊し、一次処理水Bと汚泥との分離が困難となる虞があるが、傾斜板1bが備えられていることで、気泡と共に浮上した汚泥が傾斜板1bに接触し、気泡から分離されて再び沈降するため、被処理水Aと汚泥との分離を容易にすることができる。
【0041】
内部空間1Rで処理されて反応槽1の上端部からオーバーフローする処理水(一次処理水B)中には、反応槽1で処理しきれなかった有機物や酸成分が含有している場合がある。これは、反応槽1において完全には処理されていない被処理水Aが粗大気泡の上昇に伴って反応槽1の上端部に達し、オーバーフローする場合があるためである。本実施形態では、このような一次処理水Bは、集水部1aに一次的に集水され、一次処理水供給路10bを通じて仕上げ処理槽2に供給されて処理される。
【0042】
仕上げ処理槽2に供給された一次処理水Bは、上向流となって内部空間2Rを上昇しつつ汚泥床2Sと接触して処理される。そして、最終処理水Cとして引抜き路10cを通じて外部へ引き抜かれ、所定の水質を満たせば下水道などに放流されたり、他の処理工程に導入されたりする。
【0043】
仕上げ処理槽2は、反応槽1と同様の上向流式の嫌気処理を行うものであるが、一次処理水Bの有機物濃度が被処理水Aよりも低いため、局所的な酸成分の蓄積及び局所的なpHの低下が生じ難い。このため、本実施形態では、内部空間2Rに傾斜板が備えられていない。また、気泡の発生量も反応槽1より少なくなるので、最終処理水Cを汚泥床2Sから分離するのが容易となっている。
【0044】
なお、反応槽1(内部空間1R、集水部1a)及び仕上げ処理槽2(内部空間2R)から放散されるガス成分D(メタンガスなど)は、ガス回収部3の回収空間3Rに放散され、ガス搬送路10dを通じてガス回収手段に回収されて燃料などとして利用される。
【0045】
以上のように、本発明にかかる反応槽によれば、内部空間に酸成分(有機酸など)が局所的に蓄積されてしまうのを抑制することができると共に、局所的なpHの低下を抑制することができ、嫌気性細菌(特にはメタン生成菌)の処理能力が阻害されてしまうのを抑制することができる。これにより、反応槽の処理能力が低下するのを抑制することができる。
【0046】
なお、本発明に係る反応槽は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0047】
例えば、上記実施形態では、複数の傾斜板1bが同一の高さ位置に備えられているが、これに限定されるものではなく、各傾斜板1bが異なる高さ位置に配置されてもよい。或いは、同一の高さに位置する複数の傾斜板1bのセットが上下方向に多段的に配置されてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、複数の傾斜板1bがそれぞれ平行するように配置されているが、これに限定されるものではなく、例えば図2に示すように、一対の傾斜板1bが断面視ハ字状となるように配置されてもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、水処理装置10は、1つの仕上げ処理槽2を備えているが、これに限定されるものではなく、反応槽1のみで所望の水質の処理水を得ることができるならば、仕上げ処理槽2を備えなくてもよい。或いは、仕上げ処理槽2の内部空間2Rにも傾斜板1bを備えてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…反応槽、1R,2R…内部空間、1S,2S…汚泥床、1a…集水部、1b…傾斜板、2…仕上げ処理槽、3…ガス回収部、3R…回収空間、10…水処理装置、10a…被処理水供給路、10b…一次処理水供給路、10c…引抜き路、10d…ガス搬送路、A…被処理水、B…一次処理水、C…最終処理水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含有する被処理水と嫌気性細菌とを接触させて処理する内部空間を備え、該内部空間の下端部に前記被処理水が供給されると共に、内部空間の上端部から処理水が排出されるように構成された上向流式の反応槽であって、
前記内部空間には、嫌気性細菌によって有機物が分解された際に発生したガス成分が気泡となって上昇する方向に対して交差するように傾斜板が備えられていることを特徴とする反応槽。
【請求項2】
嫌気性細菌からなるグラニュール状の汚泥によって形成された汚泥床が前記内部空間に形成されており、斯かる汚泥床内の下端側に前記傾斜板が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の反応槽。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の反応槽と、該反応槽で処理された一次処理水をさらに嫌気処理する内部空間を備えた上向流式の仕上げ処理槽とを備えることを特徴とする水処理装置。
【請求項4】
有機物を含有する被処理水と嫌気性細菌とを上向流式の反応槽内で接触させて処理する水処理方法であって、
嫌気性細菌によって有機物が分解された際に発生したガス成分が気泡となって上昇する方向に対して交差するように反応槽内に傾斜板を配置して処理することを特徴とする水処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−50910(P2012−50910A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194438(P2010−194438)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】