説明

上昇した血中尿素濃度を低減させるオリゴペプチド

本発明は、対象の血清中の尿素濃度を低減させる方法を含む。そのような方法は、対象(例えばヒト等の哺乳類)に対し、マウスの腎臓再かん流テストに基づき、対象の血清中の尿素濃度を低減させる活性を有する1種又は複数種のオリゴペプチドを含む組成物を投与することを含む。その場合、そのオリゴペプチドは、配列QGV又はMTRV(配列番号1)を含む(例えば、AQGV(配列番号2)又はMTRV(配列番号1))。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、バイオテクノロジーに関し、より具体的には、免疫調節活性を有する組成物であって、その化合物にヒトの絨毛性ゴナドトロピン(hCG)由来の特定のオリゴペプチドを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
その全体的な内容がこの引用により本願に組み込まれるヘロン(Herron)に対する米国特許5,380,668(1995年1月10日、特許文献1)は、とりわけ、hCGの抗原性結合活性を有する様々な化合物を開示している。その中で開示されているオリゴペプチドは、概して診断用として開示されている。
【0003】
ガロら(Gallo et al.)の様々な特許及び特許出願(例えば、米国特許5,677,275(WO96/04008 A1に対応、特許文献2)、米国特許5,877,148(同じくWO96/04008 A1に対応、特許文献3)、WO97/49721 A1(特許文献4)、米国特許6,319,504(WO97/49373に対応、特許文献5)、米国特許出願2003/0049273 A1(同じくWO97/49373に対応、特許文献6)、米国特許5,968,513(WO97/49418に対応、特許文献7)、米国特許5,997,871(WO97/49432に対応、特許文献8)、米国特許6,620,416(特許文献9)、米国特許6,596,668(特許文献10)、WO01/11048 A2(特許文献11)、WO01/10907 A2(特許文献12)及び米国特許6,583,109(特許文献13))は、様々なオリゴペプチド、及び、とりわけ、「HIV感染阻害」、「HIV感染の治療又は予防」、「ガンの治療又は予防」、「体細胞量の損失を特徴とする症状の治療又は予防」、「病的血管新生に関連する症状の治療又は予防」、「造血欠損症の治療又は予防」、「ex vivo遺伝子療法」、「in vivo血液細胞膨張」及び/又は「対象に対する血液細胞の供給」におけるそれらの使用に関する。
【特許文献1】米国特許第5,380,668号明細書
【特許文献2】米国特許第5,677,275号明細書(WO96/04008 A1に対応)
【特許文献3】米国特許第5,877,148号明細書(WO96/04008 A1に対応)
【特許文献4】国際公開第97/49721 A1号パンフレット
【特許文献5】米国特許第6,319,504号明細書(WO97/49373に対応)
【特許文献6】米国出願公開第2003/0049273 A1号(WO97/49773に対応)
【特許文献7】米国特許第5,968,513号明細書(WO97/49418に対応)
【特許文献8】米国特許第5,997,871号明細書(WO97/49932に対応)
【特許文献9】米国特許第6,690,416号明細書
【特許文献10】米国特許第6,596,118号明細書
【特許文献11】国際公開第01/11048 A2号パンフレット
【特許文献12】国際公開第01/10907 A2号パンフレット
【特許文献13】米国特許第6,583,109号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この引用によりその内容が本願に組み込まれるPCT国際公開番号WO03/029292 A2(公開日:2003年4月10日)、PCT国際公開番号WO01/72831 A2(公開日:2001年10月4日)並びに米国特許出願公開20020064501 A1(公開日:2002年5月30日)、20030119720 A1(公開日:2003年6月26日)、20030113733 A1(公開日:2003年6月19日)及び20030166556 A1(公開日:2003年9月4日)に記載したように、ここに記載されたオリゴペプチドの幾つかを含有する組成物は、例えば敗血症及びその他の疾病状態や症状の治療に有効な免疫調節活性を有する。
【0005】
本発明は、対象(subject)の血清中の血中尿素窒素(BUN)濃度(ここでは尿素濃度とも呼ぶ)を低減させる方法を含む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その方法は、対象(subject)(例えばヒト等の哺乳類)に対して対象の血清中の尿素濃度を低減させる活性を有する1種又は複数種のオリゴペプチドを含む組成物が投与する方法であって、マウスの腎臓再かん流テストに基づくものである。その場合、オリゴペプチドは、配列QGV又はMTRV(配列番号1)を含み、例えば、AQGV(配列番号2)又はMTRV(配列番号1)である。それ以外でその活性を有すると考えられるオリゴペプチドはLQGV(配列番号3)である。
【0007】
前記組成物のオリゴペプチドは、一般的に、長さ3〜12個のアミノ酸から構成される。前記組成物がオリゴペプチドAQGV(配列番号2)のみを含む場合、その組成物を経口投与してもよい。そのオリゴペプチドが、合成起源(synthetic origin)であること(例えば、メリフィールド合成により生成されること)が好ましい。前記組成物が、非経口的に対象に投与される場合、一般的にその組成物は、オリゴペプチド及びPBSを主成分(例えば、量にして対象の体重に対し約0.25〜約10mg/kg)とすることができる。
【0008】
本発明は、例えば、対象が急性腎不全を患っている場合、特に、対象が持続性減尿症(persistent oliguria)を患い、対象の体重1キログラム当たり1時間に1/2mlを超える尿が生産されないとき及び/又は血清カリウムレベルが血清1リットル当たり6.5mmolを超えている場合に有効と考えられる。
【0009】
好ましい実施態様では、本発明において、AQGT(配列番号2)からなる精製、合成、若しくは分離されたペプチド、又は、その酸付加塩が投与される。
【0010】
本発明は、また、本発明の組成物の使用であって、例えば急性腎不全といった疾患を治療する医薬組成物若しくは薬剤を調製するための使用を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ここで、「精製、合成又は分離された」ペプチドとは、天然若しくは生物工学的原料から精製されたものであるか、又は、より好ましくは、ここに記載されるような方法で合成されたものである。
【0012】
ここで用いられている「組成物」とは、オリゴペプチドを含有する、又は、オリゴペプチドからなる化合物を意味する。オリゴペプチドは、組成物に包含させる前に分離されることが好ましい。オリゴペプチドは、3〜6個のアミノ酸からなることが最も好ましい。
【0013】
例えば、1実施態様において、上記の好ましい化合物は、
NT A Q G V CT
であっても差し支えない。ここで、N末端のNTは、H−、CH3−、アシル基、又は通常の保護基から選択され、C末端のCTは、小型(例えばアミノ酸が1〜5個の)ペプチド、−OH、−OR1、−NH2、−NHR1、−NR12、又は、−N(CH2)16NR12の基から選択される。ここでR1及びR2が存在する場合は、これらR1とR2は、H、アルキル、アリール、(アル)アルキルから独立して選択され、またR1及びR2が互いに環状となるように結合されてもよい。
【0014】
ここで用いられる「アルキル」とは、好ましくは、例えば、メチル、エチル及びイソプロピルなどといった、炭素原子を1〜6個有する飽和分枝又は直鎖炭化水素である。
【0015】
ここで用いられる「アリール」とは、芳香族炭化水素基であり、好ましくは、炭素原子を6〜10個有し、例えば、フェニル又はナフチルなどである。
【0016】
ここで用いられる「(アル)アルキル」とは、アレーン基(脂肪族部分と芳香族部分の双方を有するもの)であり、好ましくは、炭素原子を7〜13個有し、例えば、ベンジル、エチルベンジル、n−プロピルベンジル及びイソブチルベンジルなどである。
【0017】
ここで用いられる「オリゴペプチド」とは、ペプチド結合により連結されたアミノ酸を3〜12個有するペプチドである。オリゴペプチドの同等物(equivalent)は、あるオリゴペプチド中で用いられる特定のアミノ酸と同一又は同等の側鎖を有し、そのペプチドと実質的に同じ順序で配置される化合物であって、その結合が、非ペプチド結合、例えばケト等配電子体(isostere;イソステア)、ヒドロキシイソステア、ジケトイソステア又はケト−ジフルオロメチレンイソステアといった等配電子(イソステア)結合(isosteric linkage)によって結合される化合物である。
【0018】
「組成物」はまた、例えば、そのオリゴペプチドの許容できる塩又は標識オリゴペプチドを含む。ここで用いられる「許容できる塩」とは、オリゴペプチド又はその同等化合物の所望の活性を保持するものであって、好ましくは、そのオリゴヌクレオチド又はそのオリゴペプチドが使用される系の他の成分の活性に悪影響を与えないものをいう。そのような塩の例として挙げられるのは、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸といった無機酸から形成された酸付加塩である。また、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸といった有機酸から塩を形成してもよい。亜鉛、カルシウム、ビスマス、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、銅、コバルト、ニッケル等の多価金属カチオン、若しくは、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン又はエチレンジアミンなどから形成される有機カチオンから形成される塩でもよく、又は、それらの組み合わせ(例えば、亜鉛タンニン酸塩)でもよい。
【0019】
本発明はまた、マウスの腎臓再かん流テストに基づく、対象の血清中の尿素濃度を低減させる活性を有するオリゴペプチドの使用であって、対象、とりわけ急性腎不全を患う対象の血清中の尿素濃度を低減させる医薬組成物の製造における使用を提供する。前記オリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列QGV又はMTRV(配列番号1)を含む。医薬組成物の製造に用いられるそのオリゴペプチドが、AQGV(配列番号2)からなることが好ましい。
【0020】
そのような医薬組成物は、対象に対し非経口的又は経口的に投与してもよい。そのような医薬組成物は、オリゴペプチド及びPBSを主成分とするものであってもよい。前記オリゴペプチドは、合成起源であることが好ましい。適切な治療は、例えば、量にして対象の体重の約0.25〜約10mg/kgとなるように医薬組成物中のオリゴペプチドを静脈から患者に投与することを含む。その医薬組成物は1〜3種のオリゴペプチドを主成分とするのが有効であろう。
【0021】
そのような治療は、対象が持続性減尿症を患っている場合、例えば、対象の腎臓が対象の体重1キログラム当たり1時間に1/2mlを超える尿を生産しない場合又は対象の血清カリウムレベルが血清1リットル当たり6.5mmolを超える場合に特に好ましい。
【0022】
そのようにして形成された化学成分(chemical entity)は、全身的に又は局所的(topically/locally)にインビボで投与及び導入できる。前記ペプチド又はその修飾体若しくは誘導体は、それ自体そのものを投与してもよく、又は、薬学的に許容できる酸若しくは塩基付加塩として投与してもよい。前記酸付加塩は、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸、及び、リン酸)又は、有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、及び、フマル酸)との反応により形成してもよく、前記塩基付加塩は、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム)又は、有機塩基(例えば、モノ−、ジ−、トリアルキル及びアリールアミン並びに置換エタノールアミン)との反応により形成してもよい。選択したペプチド及びその任意の誘導体そのものは、糖、脂質、その他のポリペプチド、核酸、及び、PNAと複合体化してもよく、複合体としてin situで機能させてもよく、又は、標的組織若しくは器官に到達させた後、局所的に放出させてもよい。
【0023】
様々なアミノ酸に関する「置換」とは、一般的に、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ又は低級アルキルといった基を通常芳香環上に存在する水素と置換することを指す。置換は、芳香部をペプチド骨格鎖に結合しているアルキル鎖上で、例えば、低級アルキル基を水素と置換することにより行ってもよい。これ以外の置換も、アミノ酸のαポジションにおいて同様にアルキル基を用いて行うことができる。
【0024】
好ましい置換としては、例えば、ハロゲンとしてフッ素又は塩素を、そしてアルコキシ基としてメトキシを使用する。アルキル及び低級アルキルに関しては、通常、炭素原子数がより少ない(1〜3個の)アルキル基が好ましい。
【0025】
前記一般式による化合物は、そのような化合物について従来行われてきた方法で生成してもよい。そのためには、適切にNαが保護された(及び、反応性側鎖が存在するのであれば側鎖が保護された)アミノ酸誘導体又はペプチドは、活性化され、適宜カルボキシル基が保護されたアミノ酸又はペプチド誘導体と、溶液中又は固形支持体上で結合される。αアミノ官能基の保護は、通常、ウレタン官能基によりもたらされる。前記ウレタン官能基としては、例えば、酸に不安定な三級ブチルオキシカルボニル基(「Boc」)、ベンジルオキシカルボニル(「Z」)基及び置換アナログ、又は、塩基に不安定な9−フルオレミル−メチルオキシカルボニル(「Fmoc」)基が挙げられる。前記Z基は、また、触媒水素化によって除去可能である。その他の適切な保護基の例としては、Nps、Bmv、Bpoc、Aloc、MSC等が挙げられる。アミノ保護基の総括的な説明は、“The peptides, Analysis, Synthesis, Biology, Vol.3E. Gross and J.Meienhofer, eds.” (Academic Press, New York, 1981) で教示される。カルボキシル基の保護は、エステル形成によって行うことができ、前記エステル形成としては、例えば、メチル若しくはエチルのような塩基に不安定なエステル、三級ブチルのような酸に不安定なエステル、置換ベンジルエステル、又は、水素化分解が挙げられる。リジンやグルタミン酸又はアスパラギン酸の場合のような側鎖官能基の保護は、上記の基を使用すれば実行可能である。チオール基の保護、及び、常に必要というわけではないが、グアニジノ、アルコール及びイミダゾル基の保護は、上記“The peptides, Analysis, Synthesis, Biology”又は“Pure and Applied Chemistry, 59(3)、331-334(1987)”に記載されているような様々な試薬を用いて行うことができる。適切に保護されたアミノ酸又はペプチドのカルボキシル基の活性化は、アジ化物、混成無水物、活性エステル、又は、カルボジイミドを用いる方法、特に、1−N−N−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシスシン−イミド、3−ヒドロキシ−4−オキソ−3,4−ジヒドロ−1,2,3−ベンゾトリアジン、N−ヒドロキシ−5ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミドのような触媒作用がありラセミ化を抑制する化合物を添加する方法により実施可能である。また、リン系の酸の無水物も使用可能である。例として、上記The peptides, Analysis, Synthesis, Biology及びPure and Applied Chemistry, 59(3), 331-344 (1987)を参照。
【0026】
前記化合物をメリフィールドの固相法により調製することも可能である。異なる固体担体や異なるストラテジが知られている。例として、Barany and Merrifield in The Peptides, Analysis, Synthesis, Biology Vol.2, E. Gross and J. Meienhofer, eds. (Acad. Press, New York, 1980)、及び、Kneib-Cordonier and Mullen Int. J. Peptide Protein Res., 30, 705-739 (1987) and Fields and Noble Int. J. Peptide Protein Res., 35, 161214 (1990)を参照。ペプチド結合をイソステアで置き換える化合物の合成は、通常、上記のような保護基及び活性化処置を用いて実施することができる。修飾したイソステア、例えば、−CH2−NH−イソステア、及び、−CO−CH2−イソステアなどを合成する手順は、文献に記載がある。
【0027】
前記保護基の除去、及び、固相ペプチド合成の場合にはその固形支持体からの開裂は、これらの保護基の性質及び固形支持体に対するリンカーの種類に依存して、異なる方法で実施してもよい。通常、脱保護は、酸性条件下かつスキャベンジャー存在下で行われる。上記“The Peptides, Analysis, Synthesis, Biology”シリーズの第3、5、及び9巻他を参照。
【0028】
また、そのような化合物の合成に酵素を適用することも可能である。例として、H. D. Jakubke in The Peptides, Analysis, Synthesis, Biology, Vol.9, S. Udenfriend and J. Meienhofer, eds. (Acad. Press, New York, 1987)を参照。
【0029】
経済上の観点からは望ましいとは言いがたいが、本発明によるオリゴペプチドを、組み換えDNA法に従って作成しても差し支えない。そのような方法の一例は、宿主として適切な微生物中において、問題となっているオリゴペプチドを1以上コードする組み換えポリヌクレオチドを発現させることで所望のオリゴペプチドを調製することを含む。一般的に前記手順は、特定の単数又は複数のオリゴペプチドをコードするDNA配列をクローニングビヒクル(例えば、プラスミド、ファージDNA、又は宿主細胞で複製可能なその他のDNA配列)中に導入すること、前記クローニングビヒクルを適当な真核生物又は原核生物の宿主細胞に導入すること、及び、そのようにトランスフォームされた宿主細胞を培養することを含む。真核生物の宿主細胞を用いる場合、前記化合物は、糖タンパク質部分を含んでいてもよい。
【0030】
ここで用いられるペプチドの「機能的アナログ」又は「誘導体」は、そのペプチドの機能特性が実質的に同じであるが量的には必ずしも同じでないアミノ酸配列又はその他の配列モノマーが含まれる。アナログ又は誘導体は、例えば、「保存的アミノ酸置換」といった多くの方法により提供可能である。また、ペプチド模倣化合物は、出発原料として採用したオリジナルのペプチドに機能的又は構造的に類似するが、例えば天然に生じないアミノ酸やポリアミドで構成されるように設計することも可能である。「保存的なアミノ酸置換」では、全体的な機能が深刻な影響を受ける恐れがないように、あるアミノ酸残基を、概して類似した特性(寸法、疎水性)を備えた別の残基で置換する。しかしながら多くの場合、特定の機能を向上させる方がより一層望ましい。誘導体は、あるアミノ酸配列の少なくとも1つの所望の特性を体系的に向上させることによっても得られる。これは、アラ・スキャン(Ala−scan)及び/又は置換ネットマッピング法等により実施可能である。このような方法により、オリジナルのアミノ酸配列に基づきながらもそれぞれが少なくとも1つのアミノ酸残基の置換物を含有する、多くの異なるペプチドが生成される。アミノ酸残基は、アラニン(アラ・スキャン)又は任意のその他のアミノ酸残基(置換ネットマッピング)で置き換えることができる。このようにして、オリジナルのアミノ酸配列の多くの位置的バリアント(positional variant)が合成される。位置的バリアントはそれぞれ、特定の活性によりスクリーニングされる。そうして生成されたデータは、所定のアミノ酸配列の優れたペプチド誘導体を設定するのに用いられる。
【0031】
誘導体又はアナログは、例えば、L−アミノ酸残基をD−アミノ酸残基で置換することによっても生成できる。この置換は、天然に生じないペプチドをもたらすことにより、アミノ酸配列の特性を向上させることができる。例えば、周知の活性のペプチド配列に全てのD−アミノ酸をレトロインヴァージョン形式(retro inversion format)で与え、それにより活性を維持し半減期値を増加することは、有用である。オリジナルのアミノ酸配列の多くの位置的バリアントを作成し、特定の活性についてスクリーニングすることにより、そのようなD−アミノ酸を含む優れたペプチド誘導体を、さらに優れた特性を持つよう設定することができる。
【0032】
当業者であれば、アミノ酸配列のアナログ化合物(analogous compounds)を生成することは十分に可能である。これは、例えば、ペプチドライブラリのスクリーニングを通じて実行可能である。そのようなアナログは、種類については実質的にその配列と同じ機能特性を有するが、量については必ずしもそうではない。また、ペプチド又はアナログは、例えば、(末端の)システインを付与して環状化し、例えば、リジン若しくはシステイン又はその他の化合物を結合若しくは多量体化を可能とする側鎖と結合してダイマー化又は多量体化し、タンデム又は繰り返しの配置を導入し、又は、解離可能な不安定な結合であれば従来公知のキャリアと複合体化又はその他の方法で結合させてもよい。
【0033】
上記のようなこれらのオリゴペプチドの合成物、及びこれらの分解産物の機能的アナログ又は誘導体は、ここでは、BUN濃度を下げるため、及び、病気治療法で用いるために提供される。
【0034】
ここで用いられる「医薬組成物」という語は、本発明の活性組成物そのもの、又は、薬学的に許容できるキャリア、希釈剤又は賦形剤と共に本発明の組成物を含有する組成物の双方をカバーすることを意図する。発明の詳細に説明されているオリゴペプチドの許容できる希釈剤は、例えば、生理食塩溶液又はリン酸緩衝食塩水である。一実施態様では、有効濃度のシグナル分子を、例えば、静脈、筋肉内又は腹腔内投与により、動物又はヒトに対し全身投与する。その他の投与方法では、本発明によるシグナル分子を含むかん流液を用いて、in vivo又はex vivoで器官又は組織をかん流する。投与は、単回投与として行ってもよく、投与量を変化させて断続的に行ってもよく、又は、遺伝子発現を実質的に修正するのに十分な期間連続的に行ってもよい。連続投与の場合、投与期間は、当業者であれば容易に理解できる数多くの要因次第で変更してもよい。
【0035】
活性分子の投与量は、相当広い範囲内で変更可能である。投与可能な活性分子の濃度は、下限は効力によって、そして上限は化合物の溶解度により制限されるであろう。特定の患者に対する最適な一回又は複数回の投与量は、患者の状態、体重及び年齢といった公知の関連性のある要素を考慮に入れた上で、医師又は医療専門家により判断されるべきでありまたそれが可能である。
【0036】
活性分子は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)又はアルコール若しくはDMSOの溶液といった適切なビヒクルで直接投与してもよい。しかしながら、本発明の好ましい実施態様によれば、その活性分子は薬剤送達システム(DDS)を通じて単回投与送達で投与される。適切な薬剤送達システムは、薬理学的に不活性、又は、少なくとも許容できるものである。それは、好ましくは、免疫原性でなくまた炎症反応を起こさないものであり、また、所望の期間を通して活性分子の有効レベルを維持できるような活性分子の放出を可能にするものである。持続的な放出目的に適したものとして、いくつかの代替物が当業者間で周知であり、また本発明の範囲として予期される。適切な送達ビヒクルの例としては、限定されるべきではないが以下のものが挙げられる。すなわち、マイクロカプセル又はミクロスフィア、リポゾーム及びその他の脂質系放出システム、粘性滴注液(viscous instillates)、吸収性及び/又は生体分解性機械的バリア及びインプラント、ならびに高分子送達物質(例えばポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー、ポリエステル、架橋ポリビニルアルコール、ポリ無水物、ポリメタクリレート及びポリメタクルアミドヒドロゲル、陰イオン性炭水化物ポリマー等)である。有効な送達システムは当業者間で周知である。
【0037】
活性分子放出を可能にするための製剤の1つとして、ポリ(dl−ラクチド)、ポリ(dl−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリグリコリド、ポリ乳酸−コ−グリコリド、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリエステル又はポリアセタール等の生体分解性ポリマーでできた注入用マイクロカプセル又はミクロスフィアが挙げられる。直径が約50〜約500マイクロメートルのマイクロカプセル又はミクロスフィアを含む注入システムは、他の送達システムと比べて幾つかの利点がある。例えば、そのようなシステムでは通常、活性分子の使用量が少なくて済み、医療補助員による投与でもよい。さらに、そのようなシステムは元来、マイクロカプセルやミクロスフィアの寸法、投与される薬剤の充填量や投与量を選択することにより、個別の薬剤が放出される持続時間や速度の設定を柔軟に行える。さらに、それらはガンマ線照射により首尾よく殺菌できる。
【0038】
マイクロカプセル及びミクロスフィアの設定、調製及び使用は、当業者間で十分周知の範囲内であり、これらのポイントについてのさらに詳細な情報は文献から得られる。生体分解性ポリマー(ラクチド、グリコリド、及びカプロラクトンポリマー等)は、マイクロカプセルやミクロスフィア以外の製剤でも使用可能である。例えば、前記活性分子を含有するこれらのポリマーのプリメイドフィルム及び吹き付けフィルムは、本発明による使用法に適しているといえよう。前記活性分子を含むファイバーやフィラメントも、本発明の範囲内として予期される。
【0039】
本発明の活性分子の単回投与送達に非常に適した製剤のもう1つ別の例としては、リポソームが挙げられる。リポソームや多重膜ベシクルへの活性分子のカプセル封入は、標的薬剤送達及び薬剤滞在の延長のための公知の技術である。薬剤充填リポソームの調製及び使用は、当業者間で周知の範囲内であり文献にも記載がある。
【0040】
本発明による活性分子の単回投与送達について別の適切なアプローチ例としては、粘性滴注液の使用が挙げられる。この技術では、高分子量キャリアが前記活性分子と混和して使用され、高粘度の溶液ができるような構造になる。適切な高分子量キャリアの例としては、本発明がそれに限定されるのではないが、以下の物質が挙げられる。すなわち、デキストラン及びシクロデキストラン、ヒドロゲル、(架橋)粘弾性成分を含む(架橋)粘性材料、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、及び硫酸コンドロイチンである。薬剤含有粘性滴注液の調製及び使用は、当業者間で公知である。
【0041】
さらに別のアプローチによれば、前記活性分子は、酸化再生セルロースのような吸収性機械的バリアと組み合わせて投与してもよい。活性分子は、そのようなバリアに共有結合又は非共有結合(イオン的結合)をしていてもよく、あるいは、単にその中に分散しているのであってもよい。
【0042】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0043】
6種のオリゴペプチド(すなわち、A:{LAGV(配列番号4)}、B:{AQGV(配列番号2)}、C:{LAG}、D:{AQG}、E:{MTR}、及びF{MTRV(配列番号1)}について、マウス腎虚血再かん流テストにおいて回復を助ける各ペプチドの相対能力を、動物を用いた二重盲検でテストし、PBS(コントロール)と比較した。この試験では、マウスに麻酔をかけてそれぞれ片方の腎臓を摘出した。もう一方の腎臓を25分間結紮して血清尿素レベルを上昇させた。腎臓を結紮する前後に、異なる種類のペプチドを30匹のマウスに投与(体重1kg当たり5mgのオリゴペプチドを静脈投与)して、その後、オリゴペプチドの種類別にマウスの死亡率、並びに、2時間、24時間及び72時間後のBUN濃度を調べた。結果を図1及び下記に示す。
【0044】
吸入麻酔下で、左腎臓を動脈及び静脈を付けて分離し、微小血管鉗子を用いて25分間閉塞させた。手術の最中、体温を37℃に維持するためにマウスをヒーティングパス上に置いた。鉗子を用いる5分前及び鉗子を外す5分前に、5mg/kgのペプチドを0.1mLの無菌食塩水に溶解したものを、静脈から投与した。左腎臓を再かん流した後に右腎臓を摘出した。鉗子使用前及び、再かん流から2時間、24時間そして72時間後の血中尿素窒素を測定することにより、腎機能を評価した。
【0045】
結果
【表1】

【0046】
ペプチドAは腎虚血再かん流テストで投与された最初のペプチドであった。実験を実施した担当者はペプチドAを扱いながら習熟曲線を詳しく調査した。下大静脈にペプチドを投与している最中に一部のマウスに注射位置から若干の失血があったが、残りのマウスでは失血はなかった。不注意により、手術後第一夜に、ケージ内に存在する水を飲まない状態でマウスをステーブルに戻してしまった。また、72時間後にマウスを殺処分する予定であったのが、誤って再かん流から48時間後に殺処分してしまった。このような問題はいずれも、ペプチドB〜Fの実験では起こらなかった。この点を合わせて考慮すると(taken together)、ペプチドAについて得られたデータは信用のおけるものではない恐れがあるため、ペプチドAの再試験が必要であると判断される。
【0047】
上記から明らかなように、オリゴペプチドMTRV(配列番号1)、及び特にAQGV(配列番号2)を投与されたマウスは、生存率が非常に向上し(PBSのコントロールグループに対し死亡率が激減)またコントロールグループ(PBS)あるいは他のオリゴペプチドを投与されたグループと比較してBUN濃度が低減したという点、すなわち、より多くのマウスが生存し血清尿素レベルが他のグループと比べ非常に低かったという点で、結果が非常に良好であった。しかしながら、BUN濃度について効果のなかったオリゴペプチドLAG、AQG及びMTRについてもそれぞれ、PBSコントロールと比べると死亡率が激減した。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、実施例の結果を示すグラフである。ペプチドA〜Fによる治療後又は治療なし(コントロール)の場合について、様々な時点でのBUN(尿素)値が示されている。
【図2】図2は、25分の腎虚血後の血清尿素値のグラフである。
【図3】図3は、ペプチドD及びBの尿素濃度のグラフである。
【配列表フリーテキスト】
【0049】
配列番号1〜4 ・・・合成ペプチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象(subject)の血清中の血中尿素窒素濃度を低減させる方法であって、
マウスの腎虚血再かん流(reperfusion)テストに基づいて対象の血清中の血中尿素窒素濃度を低減させる活性を有するオリゴペプチドを含む組成物を対象に投与することを含み、前記オリゴペプチドが、配列QGV又はMTRV(配列番号1)を含む方法。
【請求項2】
前記対象が、急性腎不全を患っている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
オリゴペプチドが、AQGV(配列番号2)からなる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
組成物が、対象に対して非経口投与される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
組成物が、対象に対して経口投与される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
組成物が、オリゴペプチド及びPBSを主成分とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
オリゴペプチドが、合成起源である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
対象の体重に対し量にして約0.25〜約10mg/kgの組成物のオリゴペプチドを静脈から患者に投与する請求項3に記載の方法。
【請求項9】
オリゴペプチドの長さが、3〜12個のアミノ酸である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
組成物が1〜3種のオリゴペプチドを主成分とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
対象が、持続性減尿症を患っている請求項1に記載の方法。
【請求項12】
対象の腎臓が、対象の体重1キログラム当たり1時間で1/2mlを超える尿を生産しない請求項1に記載の方法。
【請求項13】
対象の血清カリウムレベルが、血清1リットル当たり6.5mmolを超える請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−532510(P2007−532510A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506734(P2007−506734)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003707
【国際公開番号】WO2005/097163
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(505375573)バイオテンプト、ビー.ヴイ. (2)
【Fターム(参考)】