説明

上皮−間葉移行に関与するサイトカイン

【課題】癌、線維症およびCOPDの治療で有用なILEI阻害物質、特に抗ILEI抗体の作製のための基礎を提供する。
【解決手段】上皮/間葉移行の阻害因子を作製するための配列番号:1のポリヌクレオチド分子、または、配列番号:2のポリペプチドと少なくとも約80%同一性を有するポリペプチドをコードする変種、または前記のフラグメントまたは前記に対する相補物等およびこれらを含む医薬組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮/間葉移行を伴う疾患の治療に関し、特に癌の予防および治療並びに線維症性疾患および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
単純化すれば、癌は、白血球を誘引し活性化させることができる多くの前炎症性サイトカインの関与を原因とする慢性疾患ということができ、これらの関与は腫瘍というミクロの環境内での複合組織の再造形プロセスをもたらす(総説には文献(Coussens, 2002)を参照されたい)。腫瘍ストロマおよび浸潤細胞に支持されて、癌はただ1個の罹患細胞から局所腫瘍に、最終的には腫瘍患者の死亡の主要な要因となる転移へと進行する能力を有する。これまでのところ、腫瘍のイニシエーションおよびプログレッションについて種々のメカニズムが検出されてきた。これらのメカニズムは、腫瘍細胞の組織起源および腫瘍を形成する形質転換の起こり方(すなわち細胞が、通常は厳密に制御されるDNA修復、細胞増殖およびアポトーシスのメカニズムを凌駕する方法)に左右される(Hanahan et al., 2000)。腫瘍細胞の腫瘍形成性形質転換段階の後、腫瘍細胞の増殖およびプログレッションにはオートクリン性増殖因子の産生または外部刺激(例えばホルモンまたは増殖および分化因子)に反応する能力が必要である。上皮細胞起源の癌細胞によって分泌されるサイトカインには、形質転換増殖因子α(TGFα)、形質転換増殖因子β(TGFβ)、血小板由来増殖因子AおよびB、表皮増殖因子(EGF)並びに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)がある。これらのサイトカインはオートクリン的またはパラクリン的態様で作用して、腫瘍の成長を刺激する(Ellenrieder, 1999)。宿主生物の絶えることなく変化し続けるミクロ環境のために、癌の転移プロセスは腫瘍細胞と腫瘍の環境との間の多段的相互作用の後期ステージとして観察されえる。
【0003】
転移の発生における必須の段階は以下のとおりである:(i)増殖(腫瘍形成性形質転換)、血管形成およびアポトーシスからの保護;(ii)原発病巣からの腫瘍細胞の分離および局所ストロマの侵襲;(iii)腫瘍細胞または細胞凝集物による循環への塞栓形成;(iv)内皮下基底膜への腫瘍細胞の付着(血管外遊出);および(v)器官実質への侵襲。オートクリン及び/又はパラクリン性増殖因子に反応して、単一侵襲腫瘍細胞が増殖して血管形成を誘導し、二次的な腫瘍病巣を確立(転移)することができる(前記病巣はそれ自体さらに別の転移を形成することができる)。転移の病理発生は複雑であり、腫瘍細胞と宿主のミクロ環境との間の相互作用によって調節される多くの連続的な段階から成る。したがって、転移は、クローンとして不均一な原発腫瘍内に以前から存在する特定の腫瘍細胞の生存を促進する、高度に選択的な競争とみなすことができる(Fidler and Hart, 2002)。
転移のこの多段進行については、局所侵襲および転移に寄与する遺伝的及び/又は後成的変化の性状はこれまで比較的わずかしか決定されていない(Christofori and Semb, 1999;Hanahan and Weinberg, 2000;Ramaswamy et al., 2003)。過去5年間に、上皮から間葉への移行(EMT)は、組織侵襲および転移局面を含む後期腫瘍プログレッションのin vitroでの相関事象の代表であることを示す証拠が積重ねられてきた(Boyer et al., 2000;Peterson et al., 2003;Thiery, 2003)。上皮−間葉移行(EMT)は多くの癌プログレッションの特徴であり、侵襲性表現型の獲得とつながっている。
EMT時に、細胞は上皮性極性を喪失し、紡錘形の高度に運動性を有する線維芽細胞様表現型を獲得する。この表現型には、強固で粘着性の結合タンパク質の減少または再分布および基底膜を貫通する能力が含まれる(Hay, 1995a, b;Oft et al., 1996)。EMTは、パターンが進行的に複雑化するシグナル伝達系路によって調節され、さらにEMTは胚の発生中(Grunert et al., 2003;Hay, 1995a, b;Thiery, 2003)および種々の組織における線維症でも生じる(Plieth et al., 2002)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、EMTが関与する疾患および線維症の新規な治療法ならびにCOPDの治療法を提供するために(特に腫瘍細胞の転移性潜在能力を妨げるために)、このプロセスに必要な遺伝子を同定することによりEMTをさらに解明することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、配列番号:2または配列番号:4のそれぞれアミノ酸41位から44位から選択される箇所で開始し、227位で終了するアミノ酸配列を有する、単離された生物学的に活性なILEIポリペプチド、および少なくとも80%同一性を有するその変種である。
また、本発明は、マウスまたはヒトILEIの生物学的機能の阻害因子を作製することを目的とする下記a)−d)の使用である:
a)配列番号:1のヒトILEIポリヌクレオチド分子または配列番号:3のマウスILEI DNA分子、または配列番号:2のヒトILEIポリペプチド若しくは配列番号:4のマウスILEIポリペプチドと少なくとも約80%同一性を有するポリペプチドをコードする変種、または前記のフラグメントまたは前記に対する相補物;または
b)配列番号:2のヒトILEIポリペプチドまたは配列番号:4のマウスILEIポリペプチドまたは少なくとも約80%同一性を有する変種またはそのフラグメント;または
c)請求項1から4のいずれかの項のILEIポリペプチドまたはそのフラグメント;または
d)請求項5のポリヌクレオチド分子。
また、本発明は、天然に存在するILEIレセプターと結合するが前記レセプターを活性化せず、それによって前記天然に存在するILEIとそのレセプターとの結合を阻害して前記ILEIと拮抗することによってILEI阻害因子として作用する、ILEI変異体ポリペプチドまたはILEI変異体ポリペプチドフラグメントまたはそれらに由来するペプチド若しくは合成ペプチド模倣体でもある。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1a】ILEIの特徴解析:EMTおよび腫瘍プログレッション時の翻訳のアップレギュレーションおよび組換えILEIの生成を示す。
【図1b】ILEIの特徴解析:EMTおよび腫瘍プログレッション時の翻訳のアップレギュレーションおよび組換えILEIの生成を示す。
【図1c】ILEIの特徴解析:EMTおよび腫瘍プログレッション時の翻訳のアップレギュレーションおよび組換えILEIの生成を示す。
【図1d】ILEIの特徴解析:EMTおよび腫瘍プログレッション時の翻訳のアップレギュレーションおよび組換えILEIの生成を示す。
【図2a】STAT3α、P-ErKおよびP-Aktの活性化はILEIの安定な発現またはILEI発現細胞由来の上清によって誘導される。
【図2b】STAT3α、P-ErKおよびP-Aktの活性化はILEIの安定な発現またはILEI発現細胞由来の上清によって誘導される。
【図3a】ILEIの発現はEMTを誘導する。
【図3b】ILEIの発現はEMTを誘導する。
【図3c】ILEIの発現はEMTを誘導する。
【図3d】ILEIの発現はEMTを誘導する。
【図3e】ILEIの発現はEMTを誘導する。
【図3f】ILEIの発現はEMTを誘導する。
【図4a】組換えILEIは侵襲性表現型を誘導する。
【図4b】組換えILEIは侵襲性表現型を誘導する。
【図4c】組換えILEIは侵襲性表現型を誘導する。
【図5a】ILEIは腫瘍の増殖を誘導または強化する。
【図5b】ILEIは腫瘍の増殖を誘導または強化する。
【図5c】ILEIは腫瘍の増殖を誘導または強化する。
【図6a】ILEIは転移形成を誘導するが、一方、転移腫瘍細胞のILEIのノックダウンは転移を妨げる。
【図6b】ILEIは転移形成を誘導するが、一方、転移腫瘍細胞のILEIのノックダウンは転移を妨げる。
【図6c】ILEIは転移形成を誘導するが、一方、転移腫瘍細胞のILEIのノックダウンは転移を妨げる。
【図6d】ILEIは転移形成を誘導するが、一方、転移腫瘍細胞のILEIのノックダウンは転移を妨げる。
【図6e】ILEIは転移形成を誘導するが、一方、転移腫瘍細胞のILEIのノックダウンは転移を妨げる。
【図6f】ILEIは転移形成を誘導するが、一方、転移腫瘍細胞のILEIのノックダウンは転移を妨げる。
【図7】短鎖干渉性RNA分子の発現のためのベクター構築物の模式図を示す。
【図8】ヒトの腫瘍標本におけるILEIの免疫組織化学的検出を示す。
【図9】抗ILEI抗体血清はEpRas臓器型構造物の増殖に干渉する。
【図10a】タバコの煙に暴露されたラット肺におけるILEI陽性細胞数の増加を示す。
【図10b】タバコの煙に暴露されたラット肺におけるILEI陽性細胞数の増加を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の根幹にある問題を解決するために、マイクロアレー技術を用いた。前記技術は調節解除遺伝子についてゲノムの広範囲のスクリーニングを可能にすることが証明された(Gruvberger et al., 2003)。本方法は、例えば患者由来の腫瘍サンプルにおいて、またはin vitroで設計されたEMT細胞モデルにおいて大量の遺伝子の発現を並行して解明するために有用である。
本研究は、十分に性状が調べられた、クローンとして関連したマウス細胞対のポリソーム結合RNAを用いるマイクロアレーアプローチを基にした。前記細胞株は文献(Oft et al., 1996;Janda et al., 2002a)に詳細に記載されている。各細胞対は、対応する腫瘍ステージと相関性を有する上皮形成の特定のステージを表している。
本アプローチで用いられた基礎的細胞株は、自発的に不死化した上皮乳腺細胞株(EpH4)である。この細胞株を、Rasオンコジーンまたは変異V12Rasタンパク質を過剰発現するEpH4細胞とポリソームRNA発現レベルについて比較した。EMTに対するそれぞれの経路の関連性を見つけるために、各変異Rasは、広範囲のRas-シグナル伝達ネットワークのうち特定のシグナル伝達系路を活性化するように選択された。選択された細胞には、Ep_C40(変異V12RasC40、主としてPI3Kシグナル伝達)、Ep_S35(変異V12RasS35、主としてMAPKシグナル伝達)(Janda et al., 2002a, b)、およびEp_BCL2(アポトーシス防御)、Ep_FOS_ER(エストロゲン誘導性FOS)がある。翻訳されたRNAを、マウスの脂肪パッドに注射する前、およびBCL2発現前後の対応する腫瘍細胞(XT細胞)の単離および培養後、またはEp_FOS/ER細胞でのエストロゲン誘導FOS発現の誘導前後に比較した。
【0008】
上記の細胞モデルは上皮形成性の3つの段階を表している、すなわち:
a)完全に極性化された細胞、
b)極性化されていないが、なお上皮性マーカーを発現する分散細胞、および
c)EMTを経た間葉細胞(Grunert et al., 2003)。
上記の研究においてEMT誘導能力により同定されたタンパク質の1つは、ILEIと称されるタンパク質である(インターロイキン様EMT誘導因子)。
ヒトILEI(最初は“FAM3C”と称された、アクセッション番号:NM_014888)は、新規な遺伝子ファミリー(Fam3)のメンバーであると最近公表された。ヒトILEIのヌクレオチドおよびアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:1および配列番号:2に示されている。
Fam3ファミリーは、4-ヘリックス-束サイトカインを検索するための構造を基準にした方法を用いて同定された(Zhu et al., 2002)。ILEIは他のサイトカインまたは他の既知遺伝子と配列相同性を示さず、これまでのところ機能データは発表されていない。前記のファミリーメンバーの1つ、Fam3Bは、内分泌膵のランゲルハンス小島で特異的かつ強く発現されることが示された。その正確な生理学的役割はまだ不明であるが、FAM3Bはβ細胞機能の負の調節因子であると提唱されている。
ILEI(Fam3C)とFam3ファミリーの他のメンバーとの類似性は以下のとおり報告されている:ILEI-Fam3A:47.4%類似性;ILEI-Fam3B:32.5%類似性;ILEI-Fam3D:50.2%類似性。
【0009】
本発明の実験で、驚くべきことに、上皮−間葉移行(EMT)におけるILEIの寄与の証拠が集められた。ILEIの過剰発現は非腫瘍原性乳腺上皮細胞(EpH4)でEMTを誘発し、これらの細胞をヌードマウスで腫瘍形成性にすることが示された。関連する、ヌードマウスで腫瘍形成性であるが転移できない細胞株(EpRasC40、EMTを誘導しないRas変異体をもつ)では、尾静脈注射に際してILEIは強力に腫瘍の増殖を強化し、肺転移形成を促進する。ILEIはまた対応するアッセイで、安定的発現後および精製または部分精製組換えILEIタンパク質の細胞への添加後の両方において細胞の運動性強化および遊走を誘導した。ILEIは、STAT3チロシンリン酸化およびDNA結合を間接的に活性化するようである。
さらにまた、ILEIのRNA干渉(RNAi)をEMT後の細胞(Ras-XT、すなわち腫瘍から間葉細胞として単離されたRas形質転換EpH4細胞、尾静脈注射後しばしば転移を引き起こす)で、適切なレトロウイルス系ベクターによるsiRNA(小型(small)干渉性RNA)の発現によって実施した。Ras-XT細胞のILEIのノックダウンによって細胞は上皮性形態に復帰し、転移形成は強く低下した。総合すれば、これらのデータは、ILEIは腫瘍形成において役割を有することを示唆している。
【0010】
したがって、本発明はサイトカイン様タンパク質ILEIの機能的な特性決定を基にしている。ILEIの機能的な特性は、マウス乳腺細胞系でRas/TGFβにより誘導された上皮から間葉への移行後のポリソーム結合RNAレベルおよび分泌タンパク質レベルに対するそのアップレギュレーションにより本発明者らによって最初に明らかにされた。更なる研究によってILEIは腫瘍形成に必要であることが示された。
ILEIの下流シグナル伝達分子としてSTAT3が同定された。STAT3シグナル伝達は、多様な腫瘍関連機能(分裂、ES細胞の再生(Niwa et al., 1998)、EMT、遊走(Yamashita et al., 2002)およびアポトーシス防御(Bromberg, 2002)を含む)に関与している。
さらにまた、ILEI RNAはマウスの発生で7.5日目以降にPCRにより検出できることが示された。前記時点は、6.5−8.5日目の間のSTAT3ノックアウト胚の変性の時点と相関性を有する(Takeda et al., 1997)。既知のSTAT3アクチベーターのいずれもこの初期胚の機能を説明することができない。
安定なILEIの発現がEpH4、EpRasおよびEpS35でのEMTの誘導のために十分であることが示された。さらにまた、ヌードマウスを用いたin vivo分析で、低レベルのILEIタンパク質の安定的発現は自発的に不死化したEpH4マウス乳腺細胞で腫瘍形成性を誘導することが示された。この発見は極めて驚くべきことであった。なぜならば正常なEpH4細胞は、メスのヌードマウスの乳腺領域に注射されたとき、マウス細胞に被包化され、腫瘍を発達させることはこれまで示されたことがなかったからである。EpH4_ILEI細胞は、内在性マウス細胞によるこの防御に対してまだ知られていないメカニズムによって抵抗性を示すように思われる。EMTの誘導の他に、分泌されたILEIタンパク質は局所の組織の再造形を誘導し、前記再造形は、腫瘍細胞の各々がその改変されたミクロ環境で生存するチャンスを増やし、したがって腫瘍の増殖を大いに支援すると考えることができるかもしれない。
【0011】
ILEIの腫瘍促進機能に対するさらに別のin vivoの証拠は、分泌ILEIの安定的発現は、EpC40と比較してEpC40_ILEI細胞の腫瘍増殖を顕著に促進するという発見である。EpC40_ILEI細胞由来の腫瘍は、GFP陽性腫瘍細胞画分で間葉性形態を示した。次の段階では、GFP陰性細胞はILEI-IRES-GFP発現を喪失した腫瘍細胞であるか否か、またはそれらは宿主細胞、浸潤してきた線維芽細胞またはEpC40_ILEI細胞によるILEIの分泌によって誘導されたEMTを経た上皮細胞であるか否かが決定される。EpC40_ILEI腫瘍は、より小さいサイズをもつそれらの対応物と比較したときより不均一な形態を示した。なぜならば、これらの腫瘍内の別個の領域でその細胞表面上にE-カドヘリンを発現する上皮構造を有するGFP陰性細胞が示されたからである。おそらくこれらのマウス上皮細胞は腫瘍に浸潤し、その後GFP陽性細胞画分を含む中空構造物の並外れて大きな部分の機械的安定化が起こる。
驚くべきことに、ILEIの安定的発現は、非腫瘍原性および非転移性EpH4上皮細胞において転移潜在能力を誘導し、これらの細胞を尾静脈注射によって血流に注入したときヌードマウスで肺転移の形成能力を高めた。
ILEIの遊走機能は、上述のSTAT3の腫瘍促進機能の他に、腫瘍細胞を血流中へおよび血流中から逃避させるための機械的支援を与えることによって転移の拡大に対して重要な利点でありえる。“種子と土壌理論”(これにしたがえば、主として転移する細胞と上皮細胞との特定の相互作用によって転移は特定の器官の微小血管から外に出る)の他に、第二の理論は、血流からの転移のランダムなすり抜けを支持する。この理論にしたがえば、細胞の運動性は、血管の障壁を貫通する転移によって新しい器官の侵襲をより直接的にも強化することができる。この理論によって、宿主器官における後期選別段階による転移の器官特異性が説明される(Filder, 2003)。研究によって明らかにされたように、転移の確立は、多段プロセス(例えば腫瘍増殖、血管形成、腫瘍細胞の分離および細胞外マトリックスの侵襲)の最終的成果である。各段階は腫瘍細胞の生存および二次病巣の確立に必須であり、腫瘍細胞と宿主の微小環境との相互作用によって調節される。分子的メカニズムおよびこれらの各段階の調節を理解することは、診断および治療のためのより効果的な方法の開発に寄与しえる。
【0012】
本発明の発見は、転移の発達における遊走およびEMTに関するILEIタンパク質の重要性を示している。おそらく、ILEIの強力な転移支持能は、その強化された遊走能力および宿主器官における組織の再造形能力の組合せによるものであろう。ILEIは、主として腫瘍の境界部(種々の腫瘍において間葉細胞、例えば筋線維芽細胞が検出できる(De Wever, 2002;Martin, 1996))における組織の再造形のために、または腫瘍内の(血管形成のような)再造形プロセス時(Li et al., 2003)に重要でありえる。最も多く観察される腫瘍内部で、細胞は上皮表現型に復帰し、さらにそれらの遊走活性を失う(Oft et al., 1996)。この復帰は、EpH4_ILEI誘導体におけるILEIの構成的発現のためにILEI誘導腫瘍では阻止されたようである。したがって、間葉から上皮への移行(MET)は強く低下し、大半の細胞は腫瘍塊全体の内部で間葉性の形状を維持し海綿状構造を形成する。上述のように、大半のin vivo腫瘍細胞のごく小さな部分が間葉性である。
癌におけるILEIの役割は患者サンプルでILEIを免疫染色することによって確認された。線維症性疾患時の組織の再造形におけるILEIの役割は、線維症組織を分析することによって同様な態様で確認することができる。
本発明者らはまた、ILEIがCOPDに中心的に関与しえるか否かを解明した。長期喫煙はCOPDの発症の主要な因子であるので、本発明者らは、ラットに対するタバコの煙の暴露がILEIの発現に影響を与えるか否かを検査した。COPDにおけるILEIの役割を決定するために、ラットの肺に対するタバコの煙の作用を“喫煙”および非喫煙ラット由来の肺サンプルの比較によって分析した。煙の暴露から6週間後に、ILEI陽性細胞数の増加が検出された。
【0013】
本発明は、EMTが中心的に関与する疾患の治療で、特に癌および線維症並びにCOPDの治療でヒトILEIが標的分子であるという発見に基づいている。
さらにまた、本発明は、新規な生物学的に活性なILEIタンパク質の同定を基にしている。
公表されたILEIアミノ酸配列(それぞれ配列番号:2または4)のパターンまたはドメインについての解析によって、前記配列が分泌シグナルを含むことが明らかになった。バイオインフォマティクスプログラムによって予想されたように、切断部位はアミノ酸Ser24とGln25との間に存在すると予測されるであろう。本発明の実験では、予想されるN-末端を有するILEIは生物学的活性をもたなかった。生物学的に活性なILEIタンパク質は41位と44位の間のアミノ酸で開始することが見出された。
第一の特徴では、本発明は、配列番号:2または配列番号:4のそれぞれアミノ酸41位から44位から選択される箇所で開始し、227位で終了するアミノ酸配列を有する生物学的に活性なILEIポリペプチド、およびそのようなILEIポリペプチドをコードする配列を有するポリヌクレオチド分子、またはこれら配列と十分に同一である配列を有するポリペプチド若しくはポリヌクレオチド、並びにそれらの変種およびフラグメントに関する。
好ましい実施態様では、生物学的に活性なILEIポリペプチドは、配列番号:2または配列番号:4のアミノ酸配列のそれぞれ42位で開始する。
【0014】
本発明の目的では、ILEIに関して“生物学的に活性な”(または“機能的な”)という用語は、上皮細胞の運動性を強化するILEIの能力と定義される。前記能力は、ILEIが添加されたときの上皮細胞の種々のマトリックス(例えばコラーゲンマトリックス)への侵襲性について上皮細胞をアッセイすることによって、または継時的顕微鏡検査法によって、または上皮細胞をいわゆる“創傷閉鎖アッセイ”(例えば以下の文献に記載されている(Frey et al., 2004))に付することによって決定することができる。
細胞運動性を強化する能力(この能力はILEIが生物学的に活性であるとみなされるための最小限の要件である)の他に、本発明のILEIタンパク質は、好ましい実施態様では、上皮細胞に添加されたとき上皮細胞に分散した形態を誘導する能力、及び/又は上皮から間葉への移行(EMT)を誘導する能力を有する。分散表現型は、顕微鏡分析によって決定することができる。すなわち、分散形態を獲得した上皮細胞は線維芽細胞様形状をもつ細胞として出現する。あるいは、分散表現型は、E-カドヘリンのような上皮細胞マーカーの脱局在性をアッセイすることによっても決定することができる。EMTは、間葉性形態について細胞を顕微鏡で分析することによって、または非局在化と一緒に上皮細胞マーカーの消失またはダウンレギュレーションについて(ビメンチンのような間葉細胞マーカーについてのアッセイと併用しながら)アッセイすることによって決定することができる。
【0015】
“十分に同一”という用語は、第一および第二のアミノ酸またはヌクレオチド配列が共通の機能的活性をもつことができるように、第二のアミノ酸またはヌクレオチド配列に対して同一または等価である(例えば類似の側鎖を有する)アミノ酸残基またはヌクレオチドの十分な数または最小限の数を含む第一のアミノ酸またはヌクレオチド配列を指す。配列リストに示されるヌクレオチドおよびアミノ酸配列と実質的に同一の変種核酸分子およびポリペプチドは本発明に包含される。実質的に類似する配列は、アミノ酸レベルで好ましくは少なくとも80%同一性、より好ましくは少なくとも約90%同一性、もっとも好ましくは少なくとも95%同一性を有するか、またはそのような同一性を有するアミノ酸配列をコードする。
より具体的には、本発明は、配列番号:1または配列番号:3に示された配列をもつヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、さらに生物学的に活性なILEIポリペプチドをコードする配列を構成または含有するポリヌクレオチド、およびそのようなポリヌクレオチドによってコードされ、本明細書で定義されるILEIの生物学的活性を有するポリペプチドを包含する。
本明細書で用いられる“ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件”とは、50%ホルムアミド、5x SSC(1x SSC=150mMのNaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5xデンハルト溶液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mLの変性せん断サケ精子DNAを含む溶液中で42℃での一晩のインキュベーション、前記に続く0.1x SSCで約65℃でのフィルターの洗浄、または前記と等価の条件を意味する。
以下の記載では、“ILEI”という用語は上記で定義したILEI分子を包含し、前記分子には天然に存在するILEIの生物学的活性を有する新規なILEIタンパク質が含まれる。
フラグメントは、ILEIポリペプチド配列の少なくとも8アミノ酸を有するもの、または少なくとも8アミノ酸をコードするDNA分子と定義される。
【0016】
本発明の初期の実験では、組換えマウスILEIは、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系からILEI cDNAを発現させることによって得られた。利用される発現構築物は予想される切断部位を考慮に入れ、したがってGln25で開始する試験的成熟生成物を発現するように設計された。しかしながら、選択した発現系を用いて得られた組換えILEIは機能的アッセイで活性を示すことができなかった。この事実は、選択した実験条件(すなわち発現構築物および培養条件)で昆虫細胞のいて得られた組換えタンパク質は、天然の立体構造に折りたたまれなかったか、翻訳後改変の潜在能力を欠くか、または公表された配列から予想されたものとは異なる態様でプロセッシングされた可能性を発明者らに気づかせた。
したがって、ILEIを一過性に発現するCOS7細胞(材料と方法jを参照されたい)の上清が、生物学的に活性なILEIを得るためのアプローチにおいて機能的アッセイ(実施例4を参照されたい)で生物学的活性を示すことを考慮して、本発明者らは、組換えILEIを哺乳動物細胞(HEK293;ヒト胎児腎臓細胞)で発現させ、さらに前記を精製することによって組換えILEIを製造した。得られた精製組換えILEIは、機能的アッセイで上記に定義したような生物学的活性を示した。
得られた組換えILEIの分析によって、N-末端は、公表された配列から予想される切断部位とは異なることが明らかになった。前記タンパク質は、哺乳動物の細胞で発現されたときは41位と44位の間のアミノ酸で多くは42位のアミノ酸で開始することが見出されたが、一方、成熟ILEIの予想されたN-末端はアミノ酸25位にある。
【0017】
さらにまた、293細胞由来の精製ILEIの質量分析による分析で、本発明者らは、おそらくグリコシル化のためであろうと思われるピークパターンを観察した。
このパターンの詳細な分析によって、このタンパク質はN-アセチルノイラミン酸、N-アセチルヘキソサミンおよびヘキソースモジュールを含むオリゴ糖によって修飾されている可能性があることが示唆される。実施した分析によって、グリコシル化部位はThr51(O-グリコシル化)であることが強く提唱される。
したがって、哺乳動物細胞での本発明の実験で得られた、正確にプロセッシングされた組換え生成物の分析を基にして、ILEIの構造は、配列番号:2または4から予想されるものとは少なくとも2つの面で異なっている。相違はそれぞれ以下のとおりである:第一に、成熟タンパク質のN-末端は、予想された切断部位と比較してさらに17アミノ酸C-末端側にある。第二に、前記タンパク質はグリコシル化されている。
マウスILEIとヒトILEIとの間の高い相同性を考慮すると、マウスのILEIで見出される潜在的O-グリコシル化部位と同様に切断部位もまたヒトILEIに存在するであろう。
したがってさらに別の実施態様では、本発明は、配列番号:2または配列番号:4のアミノ酸41から44から選択される箇所で出発し、227位で終了するアミノ酸配列を有する、生物学的に活性なヒトおよびマウスILEIポリペプチド(前記はグリコシル化される)に関する。
【0018】
アミノ酸41および42の間の(またはこの切断部位の近傍での)切断は、予想されるILEIのジスルフィド形成に影響を与えないと推定される。しかしながら、この切断は予想されるαヘリックス(ヘリックス1)の部分を除去し、それはヘリックス1の形成を妨げるはずである。結果として、Zhuら(2002)によって提唱されたILEIの4-ヘリックス-束サイトカインファミリーへの分類は正しくないかもしれない。
抗ILEI IgGの機能的な遮断活性を強化するために、ウサギ血清を本発明の生物学的に活性なILEIタンパク質(その配列は、上述のように公表された配列から予想されるものとは異なっている)に対して作製した。
最初の免疫は、予想されるN-末端を持つタンパク質をコードするcDNAを昆虫細胞で発現させて得られたILEIタンパク質を用いて実施した。このタンパク質(Gln25で始まる)では、ILEIの重要なペプチドエピトープ(立体エピトープ)は、異なるN-末端による異なるタンパク質折りたたみのために失われているかまたは異なっている。関連するILEIエピトープに対する同様な影響は、ILEIの検出されたグリコシル化によるものと予想される。タンパク質のグリコシル化は哺乳動物細胞と昆虫細胞では同一ではないので、昆虫細胞で得られた組換えタンパク質による動物の免疫は、抗ILEI抗体の量の低下をもたらしえる。
【0019】
さらに別の実施態様では、本発明は生物学的に活性なILEIを製造する方法に関する。好ましくは、生物学的に活性なILEIは哺乳動物細胞での発現によって得られ、前記細胞では、分泌され正確にプロセッシングされたILEIが、工業的に日常的に用いられる確立された(例えばCOS7細胞、HEK293細胞またはCHO細胞のための)発現系を用いることによって得ることができる。
また別には、生物活性を有するILEIは、本発明にしたがって決定されたN-末端(例えばSer42、Arg41またはLeu44)で始まる構築物を含むベクターを発現させることによって、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系から得ることができる。また別には、成熟タンパク質の前に分泌シグナルをコードするベクターを用いることができる。生成物のグリコシル化は、(例えばChangら(2003)によって記載されたように)グリコシルトランスフェラーゼの同時発現によって制御することができる。プロテアーゼ切断部位(例えばTEV、トロンビン、第Xa因子、エンテロキナーゼなど)を含むまたは含まないN-末端またはC-末端精製タグを付加して精製を容易にすることができる。
細胞内にまたは培養液中への分泌を介して酵母(例えばサッカロミセス(Saccharomyces)またはピキア(Pichia)株)から成熟ILEI組換え体を得るために同様な戦略を用いることができる(培養液への分泌は、宿主のシグナルペプチダーゼによってプロセッシングされる適切な分泌シグナルを保有する前駆体タンパク質としてILEIを発現させることによって達成される)。
正確にプロセッシングされたILEIはまた、細胞内にまたは適切なターゲッティング配列により細胞周囲間隙に誘導することによって大腸菌(E. coli)でILEIを発現させることによって得ることができる。
【0020】
さらに別の特徴では、本発明は、マウスまたはヒトILEIの生物学的機能の阻害因子を作製するために以下のa)−d)を使用することに関する:
a)配列番号:1のヒトILEI DNA分子または配列番号:3のマウスILEI DNA分子、または配列番号:2のヒトILEIポリペプチド若しくは配列番号:4のマウスILEIポリペプチドと少なくとも約80%同一性を有するポリペプチドをコードする変種、またはそのフラグメントまたは前記に対する相補物;または
b)配列番号:2のヒトILEIポリペプチドまたは配列番号:4のマウスILEIポリペプチドまたは少なくとも約80%同一性を有する変種またはそのフラグメント;または
c)生物学的に活性なILEIポリペプチド;または
d)生物学的に活性なILEIポリペプチドをコードするDNA分子。
さらに別の実施態様では、本発明は、抗-ILEI抗体の作製のための免疫原として、上記に定義したILEIポリペプチド(またはそのフラグメント)または前記をコードするDNA分子を使用することに関する。
好ましい特徴では、本発明は、抗ILEI抗体、抗ILEI抗体フラグメントおよび抗ILEI抗体共役物に関する。抗体には、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、二重特異性およびヘテロ共役物抗体が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
ILEI若しくはILEIペプチドまた別にはILEI DNAを免疫原として用いて、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体調製のための標準的技術によって抗ILEI抗体を作製することができる。
好ましくは、完全長の本発明の生物学的に活性なILEI(配列番号:2または配列番号:4のアミノ酸41から44から選択される箇所で開始し227位で終了し、もっとも好ましくは42位で開始する)、またはその融合タンパク質、また別にはそれらに由来する抗原性ILEIペプチドフラグメントが免疫原として用いられる。
【0021】
また別には、ILEI(通常は配列番号:2または配列番号:4の完全長タンパク質)またはILEIペプチドをコードするDNA分子をDNA免疫の手段によって利用することができる。
抗原性ILEI由来ペプチドは、配列番号:2に示されたアミノ酸配列(好ましくは配列番号:2の42位から227位の配列)の少なくとも8、好ましくは10、15、20または30アミノ酸残基を含み、さらに前記ペプチドに対して生じた抗体がILEIと特異的な免疫複合体を形成することができるようにILEIのエピトープを包含する。例示すれば、アミノ酸189から211を含む(抗原性)ヒトILEIペプチドGIKTKSPFEQHIKNNKDTNKYEG(配列番号:10;下線箇所はマウスILEI配列との相違を示し、マウスILEI配列はこの箇所にEを有する)を用いることができる。
ILEIに由来するさらに別の免疫原性フラグメントおよびペプチドは、いわゆる予測アルゴリズム、例えば表面確率ブロット(Emini et al., 1985)、疎水性ブロット(Kyte and Doolittle, 1982)および抗原性インデックス(Jameson and Wolf, 1988)によって決定することができる。これらのアルゴリズムを基準にするコンピュータプログラムは容易に入手できる。
抗ILEI抗体の製造に関しては、以下のとおり多くの方法を利用することができる:
ポリクローナル抗ILEI抗体は、ILEI免疫原で適切な動物(例えばウサギ、ヤギ、マウスまたは他の哺乳動物)を免疫することによって調製できる。免疫された対象動物の抗体力価は、標準的な技術によって、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)でモニターすることができる。ポリクローナル抗ILEI抗体は、抗腫瘍作用、例えば抗分裂活性若しくはアポトーシス促進活性による直接作用または抗体依存性細胞障害(ADCC)または補体依存性細胞障害(CDC)による間接的作用(膜結合ILEIの遮断の場合)を示す実験の実施に特に有用である。
モノクローナル抗体はただ1つの抗原部位(エピトープ)に向けられていることによって高度に特異的である。ポリクローナル抗体調製物は種々のエピトープに向けられた種々の抗体を含むが、モノクローナル抗体はただ1つのエピトープに向けられている。
モノクローナル抗ILEI抗体は、抗体が作製された具体的な個々の方法に関係なく、実質的に均一な抗体集団から得られた抗体である。例えば、抗ILEIモノクローナル抗体は、最初Koehler and Milstein(1975)によって記載されたハイブリドーマ法によって得るか、または組換えDNAによる方法(例えばUS4,816,567に記載されている)によって作製することができる。モノクローナル抗ILEI抗体はまた、組換え免疫グロブリンコンビナトリアルライブラリー(例えば抗体のファージディスプレーライブラリー)をILEIタンパク質を用いてスクリーニングし、ILEIタンパク質と結合する分子を単離することによって得ることもできる(前記は例えばMcCaffertyら(1990)に記載されている)。ファージディスプレーライブラリーの作製およびスクリーニング用キットは、例えばファルマシア(Pharmacia)およびストラタジーン(Stratagene)から市販されている。
【0022】
上述のように、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術、例えばKoehler and Milstein(1975)およびGoding(1986)によって初めて記載された方法を用いて製造することができる。
簡単に記せば、ハイブリドーマ法では、適切な宿主動物(例えばマウス)を免疫して、免疫原と結合する抗体を産生するリンパ球を誘導する。
前記宿主動物から得たリンパ球(またはin vitroで免疫することによって得られるリンパ球)を続いて不死化細胞株と融合させてハイブリドーマ細胞を形成する。不死化細胞株は通常は形質転換された哺乳動物細胞、特にミエローマ細胞(例えばラット、マウスまたはヒトミエローマ細胞株)である。続いてこのハイブリドーマ細胞を非融合不死化細胞の増殖または生存を阻害する適切な培養液で培養する。続いて抗ILEIモノクローナル抗体の存在について、確立された方法にしたがって培養液を検査する。
得られたクローンは、標準的方法によってサブクローニングおよび増殖させることができる。モノクローナル抗体は、通常の免疫グロブリン精製方法によって培養液から単離または精製することができる。
抗ILEIモノクローナル抗体はまた、組換えDNAによる方法、例えばUS4,816,567に記載された方法によって作製することができる。抗ILEIモノクローナル抗体をコードするDNAは、日常的に用いられている方法、例えばマウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする配列と結合するオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって単離および配列決定することができる。そのようなDNAの供給源として、ハイブリドーマを用いることができる。続いて単離したDNAを発現ベクターに挿入し、前記を宿主細胞(例えばCOS細胞またはCHO細胞)にトランスフェクトし、組換え宿主細胞でモノクローナル抗体を得る。前記DNAは、US4,816,567に記載されたように、例えばマウスの配列の重鎖および軽鎖の定常ドメインをコードする配列を対応するヒトの配列で置き換えることによって改変してもよい。
【0023】
また別の実施態様では、抗ILEI抗体は一価抗体でもよい。一価抗体を製造する方法は当業界で周知であり、例えば前記方法は免疫グロブリン軽鎖および改変重鎖の発現である。重鎖は、Fc領域の任意の箇所で切り縮め、重鎖の架橋を防止することができる。また別には、システイン残基を欠失させるか、または他のアミノ酸残基で置換することができる。
抗体フラグメント、例えばFabフラグメントを得るために、日常的な技術(例えばパパインの使用)によって消化を実施することができる。パパイン消化の例はWO94/29348およびUS4,342,566に記載されている。抗体のパパイン消化によって典型的には2つの同一の抗原結合フラグメント(いわゆるFabフラグメント、各々がただ1つの抗原結合部位を有する)および残りのFcフラグメントが生成される。ペプシン処理はF(ab')2フラグメントを生じ、前記は2つの抗原結合部位を有し、なお抗原を架橋することができる。
抗体の消化によって得られるFabフラグメントはまた、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第一の定常ドメイン(CH1)を含む。Fab'フラグメントは、それらは重鎖のCH1ドメインのカルボキシ末端にさらに別の残基(抗体のヒンジ領域に由来する1つまたは2つ以上のシステインを含む)を含むという点でFabフラグメントと異なる。Fab'-SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を保持しているFab'の本明細書での名称である。F(ab')2抗体フラグメントは最初Fab'フラグメント対として生成された(前記はそれらの間にヒンジシステインを有している)。
【0024】
別の特徴では、本発明は例えばヒト部分および非ヒト部分の両方を含んでいるキメラおよびヒト化モノクローナル抗体のような組換え抗ILEI抗体に関する。
非ヒト(例えばマウス)抗体のヒト化型はキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはそのフラグメント(例えばFv、Fab、Fab'、 F(ab')2または抗体の他の抗原結合部分配列)であり、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含んでいる。ヒト化抗体はヒトの免疫グロブリン(レシピエント抗体)を含み、この場合レシピエントの相補性決定領域(CDR)は、所望の特異性、親和性および性能を有する非ヒト種(例えばマウス、ラットまたはウサギ)(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置換されている。ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は対応する非ヒト残基によって置換される。
ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体にも移入されるCDR若しくはフレームワーク配列にも見出されない残基を含むことができる。一般的には、ヒト化抗体は少なくとも1つ、通常は2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、前記においてCDR領域の全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列のFR領域である。
キメラおよびヒト化モノクローナル抗ILEI抗体は、当業界で公知の組換えDNA技術、例えば以下の文献に記載された方法を用いて製造することができる:WO86/101533;WO87/02671;EP184,187;EP171,496;EP125,023;EP173,494;US4,816,567;US5,225,539;EP125,023;Better et al. (1988);Liu et al. (1987);Sun et al. (1987);Nishimura et al. (1987);Wood et al. (1985);Shaw et al. (1988);Morrison (1985);Oi et al. (1986);Jones et al. (1986);Verhoeyan et al. (1988);およびBeidler et al. (1988)。
【0025】
また別の実施態様では、本発明は完全にヒトの抗ILEI抗体を提供し、前記は特にヒトの患者の治療的処置に所望される。そのような抗体は、内因性免疫グロブリン重鎖および軽鎖遺伝子を発現することができないが、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを用いて製造することができる。前記は例えば以下に記載されている:Lonberg and Huszar (1995);US5,625,126;US5,633,425;US5,569,825;US5,661,016;およびUS5,545,806。選択されたエピトープを認識する完全にヒトの交代はまた“ガイド選別”と称される技術を用いて作製することができる。前記技術は、繊維状ファージでのヒト抗体フラグメントレパートリーのディスプレーおよび抗原とファージの結合による選別を基にしている。このアプローチでは、選別された非ヒトモノクローナル抗体(例えばマウス抗体)は、同じエピトープを認識する完全なヒト抗体の選別の指標として用いられる。この技術は、例えばJespersら(1994)およびFiginiら(1998)によって記載された。彼らは、多くのヒト卵巣癌で過剰発現される細胞表面抗原に対するヒト抗体を作製した。指標鋳型は、ファージ上にディスプレーされたヒト重鎖レパートリーと対を形成したマウスモノクローナル抗体の軽鎖によって提供された。
全てのサブクラスに由来する抗体を用いることができるが、好ましい抗ILEI抗体はIgGサブクラスに属し、好ましくは、抗ILEI抗体はIgG1またはIgG4抗体である。
【0026】
さらに別の特徴では、本発明は抗ILEI抗体(またはそのフラグメント)および治療用部分または放射性金属イオンの共役物に関する。治療用成分(例えば細胞毒性若しくは抗有糸分裂性薬剤または代謝拮抗物質または抗生物質)の例は、タキサン、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミスラマイシン、メトトレキセート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシル、デカルバジン、メクロレタミン、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロトスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、cis-ジクロロジアミン白金(II)(DDP)、シスプラチン、ダウノルビシンおよびドキソルビシン、ブレオマイシン、ミスラマイシン、アントラマイシン(AMC)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メイタンシン、およびそれらの類似体または同族体である。
治療用部分を抗ILEI抗体と共役させる技術は周知であり、例えば以下を参照されたい:Arnon et al. (1985);Hellstrom et al. (1987);Thorpe (1985);Pinchera et al. (1985);およびThorpe et al. (1982)。また別に、抗ILEI抗体は第二の抗体、例えば抗CD3抗体(抗体をT細胞へ誘導するため)と共役体を形成させ、US4,676,980(Segal)に記載されているように抗体ヘテロ共役物を形成することができる。
抗ILEI抗体共役物は、本明細書で定義したようにヒトの疾患の治療のために、特に癌の治療のために有用でありえる(この場合、ILEIは腫瘍細胞膜と結合する)。ILEIの膜結合形の証拠は、実施例11、図8A)に記載された免疫組織化学実験から得られる。
【0027】
さらに別の特徴では、本発明は、活性成分としてILEIの生物学的機能の阻害因子(“ILEI阻害因子”)を含む医薬組成物に関する。
好ましい特徴では、ILEIの生物学的機能の阻害物質は抗ILEI抗体(フラグメント)または抗ILEI抗体共役物である。
ILEIの阻害因子、特にILEIおよびILEIフラグメントと選択的に結合する抗ILEI抗体、フラグメントおよび複合物を含む本発明の医薬組成物は、ILEIがEMTの誘導物質及び/又は促進物質として必要とされる疾患の治療のために、特に癌の治療のために(例えば転移を治療および予防することによって)および線維症性疾患とともにCOPDの治療のために有用である。実質的にいずれのタイプの抗体も用いることができるが、ただしそれらがILEIと結合し、さらに所望の治療作用、例えば上述のように抗腫瘍作用を表すことを条件とする。
ILEI阻害因子(例えば抗ILEI抗体)の抗増殖活性は、標準的な方法、例えばヨウ化プロピジウムによるDNA染色後のFACS分析によって処理細胞のDNA含有量を決定することによって判定することができる。アポトーシス促進活性は、アポトーシスマーカーの測定(例えばCaspGLOW(商標)フルオレセインアクティブカスパーゼ染色キット)およびそれに続くFACS分析により判定することができる。
【0028】
補体活性化及び/又はADCCによって(例えば膜結合ILEIの場合に)個々の抗ILEI抗体が腫瘍細胞の溶解を仲介する能力はまた、以下のように標準的な方法によって判定することができる:腫瘍細胞を増殖させin vivoで標識し、抗体を腫瘍細胞培養に血清補体または抗原抗体複合体によって活性化されえる免疫細胞のどちらかと組み合わせて添加する。標的腫瘍細胞の溶解は溶解細胞からの標識遊離によって検出される。
例えばin vitro試験で抗増殖活性若しくはアポトーシス促進活性を介して、または補体を活性化することによって、またはADCCを仲介することによって抗腫瘍活性を示す抗体は続いて治療に用いることができる。
さらにまた、本発明の医薬組成物は線維症(例えば肺および腎線維症)の治療またはCOPDで有用である。
初期発達時には、EMT様プロセスはいくつかの病期で発生し、それらはTGFβまたは関連する因子(例えば骨形態発生タンパク質(BMP))とRTKとの共同作用を必要とする(Duband et al., 1995;Beddington et al., 1999;Ciruna and Rossant, 2001;Vicovac and Aplin, 1996;Sun et al., 1998)。重要なことには、TGFβおよびレセプターチロシンキナーゼシグナル伝達もまた、コラーゲンの堆積および筋線維芽細胞の増殖をもたらす(Yang and Liu, 2002;Zhang et al., 1996)慢性炎症性疾患、例えば肺および腎線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および慢性喘息で協調して作用するようである(Goumenos et al., 2002;Holgate et al., 2000;Bauer and Schuppan, 2001)。線維症性変化は、(異常な)線維芽細胞分化を示すだけでなく、上皮細胞の筋線維芽細胞への分化転換(transdifferentiation)、例えば肺胞または気管支の前駆上皮細胞の筋線維芽細胞様細胞への遷移分化を示しえる。線維症において上皮形成性の強力な誘発物質(例えばTGFβおよび上皮増殖因子(EGF)または血小板由来増殖因子(PDGF))が必要であることが、肺線維症およびCOPDの動物モデルで示された(Cocker et al., 2001;McCormick et al., 1999;Wang et al., 1999)。EMTプロセスは種々の組織の線維症進行時に検出された(Plieth et al., 2002)。
【0029】
EMTは慢性炎症性の肺、肝および腎疾患(前記は線維症による器官の徐々に進行する破壊、すなわち大量のコラーゲンマトリックスの蓄積およびいわゆる筋線維芽細胞の増殖を含む)で必須の役割を演じることを示す証拠が増加しているので、ILEIの阻害因子、特に抗ILEI抗体(EMTの阻害物質である)はそのような疾患の治療、および慢性閉塞性肺疾患(COPD)または慢性喘息の治療に有用である。
線維症性疾患およびCOPDにおけるILEIの役割、したがってそのような疾患におけるILEI阻害因子、例えば抗ILEI抗体の有用性を確認するために、肺線維症およびCOPDの動物モデル線維症病巣における細胞のタイプおよび細胞の構成を分析することができる。この目的のために、例えば正常および罹患肺の凍結切片をin situハイブリダイゼーション及び/又は上皮細胞マーカーについての免疫蛍光染色(前記マーカーは例えば脱分化/EMT後に上皮性細胞に存続する基底層サイトケラチン(サイトケラチン8および18)である)に付し、併せてビメンチンのような間葉性マーカー、またはコラーゲンVIα1型の分析を実施した。線維症病巣における二重陽性細胞の出現は線維症性細胞の上皮性起源を強く主張するであろう。この二重陽性細胞はまた、平滑筋のα-アクチン(α-SMA)についての染色によって筋線維芽細胞表現型に関して分析し、さらに重要なことにはILEIの発現について分析することができる。同様な実験を皮膚の線維症モデル(ブレオマイシンの皮下注射を必要とする)で実施し、皮膚の線維症性細胞のいくつかまたは全てがケラチノサイト前駆細胞起源(皮膚癌の進行でもそのとおりであるように思われる)であるか否かを見出すことができる。
タバコの煙に暴露されたラット肺(Gonzalez-Rothi and Harris, 1986)または線維症の動物モデルにおけるILEI機能の影響を解明するために、またはILEI阻害因子の有効性を判定するために、機能阻害性抗ILEI抗体または他のILEI阻害性分子を、凍結乾燥抗体または阻害性ペプチドの気管内/鼻内適用によって動物に投与し、前記阻害因子の作用を調べることができる。
【0030】
癌の治療で用いられるときは、本発明の抗ILEI抗体(または抗体フラグメント若しくは複合物)は、患者の腫瘍/転移の負担を排除または軽減する治療的有効量で患者に投与される。それらは通常は非経口的に、好ましくは静脈内または皮下に投与されるであろう。用量および投与スケジュールは、癌の性質(原発または転移)、抗体が誘導される部位、個々のイムノトキシンの性状(抗体複合物が用いられる場合)、例えばその治療インデックス、患者および患者の病歴に左右されるであろう。投与される抗体量は、典型的には患者の体重1kg当たり約0.1から約30mgであろう。
非経口投与の場合、抗ILEI抗体(またはフラグメント若しくは複合物)は注射可能なユニット剤形(溶液、懸濁液、乳濁液)として医薬的に許容できる非経口用賦形剤と結合させて製剤化することができる。そのような賦形剤は固有の性質として毒性を持たず、非治療薬である。そのような賦形剤の例は、水、食塩水、リンゲル溶液、デキストロース溶液および5%ヒト血清アルブミンである。非水性賦形剤、例えば固定油およびオレイン酸エチルもまた用いることができる。リポソームは担体として用いることができる。賦形剤は微量の添加物、例えば等張性および化学的安定性を高める物質(例えば緩衝物質および保存料)を含むことができる。抗体は典型的には前記のような賦形剤中で約1mg/mLから10mg/mLの濃度で製剤化することができる。
【0031】
ILEIの機能を遮断し、したがってILEIの腫瘍促進機能を遮断するその能力について、さらにヒトの治療で有効である抗ILEIを選別するために、ヌードマウスへのヒト腫瘍の異種移植を用いることができる。そのような実験は、標準的な方法にしたがって、例えばヒト腫瘍細胞(前記は細胞株由来でも原発腫瘍由来でもよい)を免疫不全マウス(例えばSCIDまたはヌードマウス)の静脈内に移植することによって実施することができる。
癌に関しては、ILEI阻害性分子は、特に上皮性腫瘍、例えば肺、乳房、前立腺、結腸、食道または胃の腺癌の治療に、またはHNSCC(頭部および頸部扁平上皮癌)のような扁平上皮癌、食道、肺および子宮頸部の腫瘍の治療に特に有用である(ただしこれに限定されない)。
線維症またはCOPDのような肺の疾患をもつ患者の治療のためには、ILEI阻害性物質はもっぱら経口適用または鼻内スプレーまたは吸入用粉末製剤もしくはエーロゾルによって投与することができる。患者の投与経路(デリバリー)には以下の1つまたは2つ以上が含まれる(ただしこれらに限定されない):経口(例えば錠剤、カプセルまたは経口摂取用溶液)、局所、粘膜(例えば鼻内スプレーまたは吸入用粉末若しくはエーロゾルとして)、鼻、非経口(例えば注射可能形によって)、胃腸、脊髄内、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮内、気管内、脳心室内、脳内、皮下、眼内(硝子体内または眼房内を含む)、経皮、直腸、頬、膣、硬膜外、舌下。ILEI阻害性分子は好ましくは経口適用または鼻内スプレーまたは吸入用粉末製剤若しくはエーロゾルによってデリバーされる。
また別の実施態様では、医薬組成物は活性成分として2つ以上のILEI阻害因子を含む。この場合、活性成分の全てが同時または同じ経路で投与される必要はないということは理解されよう。同様に、組成物が2つ以上の活性なILEI阻害因子を含む場合、これらの阻害因子は異なるルートで投与することができる。
【0032】
治療での利用とは別に、抗ILEI抗体は診断的に、例えば臨床検査の一部として血中または組織のILEIレベルのモニターするため、例えば与えられた治療計画の有効性を決定するために用いることができる。検出は、抗ILEI抗体を検出可能な物質とカップリングさせることによって容易にすることができる。検出可能な物質の例には種々の酵素、補欠分子団、蛍光物質、化学発光物質、生物発光物質および放射性物質が含まれる。適切な酵素の例にはセイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが含まれる。適切な補欠分子団複合体にはストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが含まれ、適切な蛍光物質の例にはウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリドまたはフィコエリスリンが含まれ、化学発光物質の例にはルミノールが含まれ、生物発光物質の例にはルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびエクォリンが含まれる。適切な放射性標識の例には125I、131I、35Sまたは3Hが含まれる。
さらにまた、ILEIタンパク質の豊富さおよびその発現パターンを評価するために、例えば種々のヒト/マウスの腫瘍および正常組織内の前記タンパク質の存在場所を決定して内在性ILEIの腫瘍形成における相関性を決定するために、抗ILEI抗体を用いて、(例えば細胞溶解物または細胞上清中の)ILEIタンパク質を検出することができる。
さらにまた、抗ILEI抗体(例えばモノクローナル抗体)は、(例えばアフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈澱による)ILEIタンパク質の単離に有用である。抗ILEI抗体は、天然のILEIおよび組換えにより生成されたILEIの精製を容易にすることができる。
【0033】
さらに別の特徴では、ILEI阻害因子はILEIアンチセンス分子である。したがって本発明は、ILEIアンチセンス核酸分子、すなわちILEIをコードするセンス核酸と相補的な分子、例えば二本鎖ILEI cDNA分子(配列番号:1または配列番号:3)のコード鎖に相補的、またはILEI mRNAと相補的な分子を包含する。アンチセンス核酸はILEIコード鎖全体と相補的であるか、または好ましくはその一部分とのみ相補的であることができ、例えばILEIコード領域(または開放読み枠)の全てまたは一部分と相補的であることができる。
ILEIタンパク質をコードするコード鎖配列(配列番号:1または配列番号:3)が与えられるならば、本発明のアンチセンス核酸はワトソンとクリックの塩基対形成のルールにしたがって設計することができる。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドはILEI mRNAの翻訳開始部位を取り囲む領域と相補的であることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば長さが約5、10、15、20、25、30、35、40、45または50ヌクレオチドでありえる。本発明のアンチセンス核酸は、当業界で公知の化学的合成および酵素結合方法を用いて構築することができる。
通常は、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、天然に存在するヌクレオチド、または分子の安定性増強のため若しくはアンチセンスおよびセンス核酸との間で形成された二重鎖の物理的安定性増強のために改変されたヌクレオチド(例えばホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチド)を用いて化学的に合成される。あるいは、アンチセンス核酸は、核酸がアンチセンス方向でサブクローニングされた発現ベクターを用いて製造することもできる(したがって挿入された核酸から転写されたRNAはILEI核酸に対してアンチセンス方向にある)。
【0034】
本発明のアンチセンス核酸分子は、それらが細胞のmRNA及び/又はILEIタンパク質をコードするゲノムDNAとハイブリダイズまたは結合し、それによって(例えば転写及び/又は翻訳を阻害することにより)ILEIの発現を阻害することができるように、典型的には対象に投与されるかまたはin situで生成される。本発明のアンチセンス核酸分子の投与経路の例には組織部位への直接注射が含まれる。また別には、アンチセンス核酸分子は選択された細胞へ誘導するために改変し、続いて全身的に投与することもできる。アンチセンス核酸分子はまたベクターを用いて細胞にデリバーすることができる。アンチセンス分子の十分な細胞内濃度を達成するために、アンチセンス核酸分子が強力なpol IIまたはpol IIIプロモーターの制御下に配置されているベクター構築物が有用である。
ILEIアンチセンス分子、ILEI機能の阻害物質としてのそれらの使用、特に人間の治療を目的とする医薬組成物の活性な成分としてのそれらの使用に関しては、抗ILEI抗体について上記で述べた基準が適用される。
【0035】
さらに別の特徴では、本発明はまたILEI阻害因子としてILEIリボザイムを包含する。リボザイムは、一本鎖核酸(例えばmRNA)を切断することができるリボヌクレアーゼ活性を有する触媒性RNA分子である(mRNAに対してそれら分子は相補性領域を有する)。リボザイム(例えばHaselhoff and Gerlach (1988)が記載したハンマーヘッドリボザイム)を用いてILEIのmRNA転写物を触媒的に切断し、それによってILEI mRNAの翻訳を阻害することができる。US4,987,071およびUS5,116,742に記載されたように、ILEI cDNAのヌクレオチド配列(配列番号:1または3)を基にしてILEIコード核酸に対して特異性を有するリボザイムを設計することができる。あるいは、ILEI mRNAを用いて、RNA分子プールから特異的なリボヌクレアーゼ活性を有する触媒性RNAを選別することができる。(例えば以下を参照されたい:Bartel and Szostak 1993)。ILEIリボザイムの投与は、アンチセンス分子について上記に記載したように実施することができる。
ILEIリボザイム、ILEI機能の阻害物質としてのそれらの使用、特に人間の治療を目的とする医薬組成物の活性な成分としてのそれらの使用に関しては、抗ILEI抗体について上記で述べた基準が適用される。
【0036】
さらに別の特徴では、本発明はまたILEI阻害因子として、ILEI遺伝子の発現をRNA干渉(“ILEI siRNA”)によってダウンレギュレートする短鎖干渉性RNA(siRNA)分子を包含する。
RNA干渉は、短鎖干渉性RNA (siRNA)によって仲介される動物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングの過程を指す(Fire et al., 1998)。siRNA分子はダイサー(リボヌクレアーゼIII酵素)によるdsRNAのプロセッシングによって得られるdsRNAの短い断片である(Bernstein et al., 2001)。ダイサー活性に由来する短鎖干渉性RNAは、典型的には長さが約21−23ヌクレオチドであり、約19塩基対二重鎖を含む。dsRNAを哺乳動物細胞に直接トランスフェクトすると、それらはインターフェロン系を活性化し、非特異的な遺伝子抑制および細胞障害性反応を刺激する。siRNAは、インターフェロン反応を全く惹起させることなく特異的な遺伝子発現のサイレンシングで有効であることが証明された。
本発明のsiRNA分子は、マウスILEI siRNA(ILEIの機能を分析する研究で有用である)およびヒトsiRNA(人間の治療、例えば癌療法のために用いることができる)を包含する。
ヒトまたはマウスのILEIのRNA配列を基にして、ILEI活性をノックダウンする能力を有するILEI siRNA分子を、化学合成によってまたはヘアピンsiRNA発現ベクター(Yuら(2002)によって記載された)によって得ることができるし、またはそれらは市販のダイサーsiRNA生成キット(Dicer siRNA Generation Kit;Gene Therapy Systems、前記キットは大量のsiRNAを完全長の標的遺伝子から生成することを可能にする)によって個別設計してもよい。ダイサーsiRNA生成キットは、組換えヒトダイサー酵素を用いることによって天然のRNA干渉過程を模倣し、in vitroで転写されたdsRNAを22bpのsiRNAのプールに切断する。
与えられたRNA配列を基にして個別設計のsiRNAの供給を提供する他の多くの会社、例えばアンビオン(Ambion)、イムジネックス(Imgenex)、ダルマコン(Dharmacon)がある。
【0037】
本発明のILEI siRNAは、US20030143732に記載されたように、ホスホロチオエートヌクレオチド間結合、2'-O-メチルリボヌクレオチド、2'-デオキシ-2'-フルオロリボヌクレオチド、“ユニバーサル塩基”ヌクレオチド、5-C-メチルヌクレオチドおよび逆位デオキシア無塩基(deoxyabasic)残基の取り込みによって化学的に改変することができる。
さらに別の実施態様では、本発明は、少なくとも1つにILEI siRNA分子コードする核酸配列を前記核酸分子の発現を可能にする態様で含む発現ベクター、およびそのようなベクターを含む細胞に関する。適切な発現ベクターはDNAプラスミドまたはウイルスベクター(例えば、US20030143732に記載されたようにアデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアルファウイルスを基にする)でありえる。
本発明のILEI siRNA分子は、例えばUS20030143732に記載されたように公知の遺伝子デリバリー方法によってデリバーすることができる。前記方法は、裸のsiRNA、陽イオン脂質製剤、リポソーム製剤(pH感受性リポソームおよびイムノリポソームを含む)、および生物複合物(フゾジェニックペプチドと複合物を形成したsiRNAを含む)の使用を含む。siRNA発現ベクターのデリバリーは、全身的に、例えば静脈内若しくは筋肉内投与または所望の標的細胞への導入を可能にする他の任意の手段によって実施することができる(US20030143732を参照されたい)。
短鎖干渉性RNA分子、ILEI機能の阻害因子としてのそれらの使用、特に人間の治療を目的とする医薬組成物の活性な成分としてのそれらの使用に関しては、抗ILEI抗体について上記で述べた基準が適用される。
【0038】
さらに別の特徴では、本発明はまた、ILEI阻害因子として、ILEI変異体タンパク質またはILEI(変異体)タンパク質フラグメント若しくはペプチド(以下では“ILEI阻害性ペプチド”)またはそれらに由来するILEIアンタゴニストとして作用する合成ペプチド模倣体(すなわちILEIレセプターと結合するが前記レセプターを活性化せず、引き続いて本来のリガンドILEIの結合を阻害する分子)を包含する。(未だ知られていないILEIレセプターを同定するために、例えば溶解させた上皮細胞(EpH4)からレセプターを同時沈殿および単離するためにビオチン化ILEIを使用することによってILEIタンパク質を用いることができる)。
ILEI阻害性ペプチドは、例えば保存された構造エレメントを同定するバイオインフォマティクス分析を“ペプチドウォーキング”(Wang et al., 2002;Gili and Pick, 1995)と称される方法と併用することによって公知の方法にしたがって同定することができる。ペプチドウォーキングは、他のタンパク質、例えばレセプターと相互作用するタンパク質の一次配列中のドメインを同定するために有用である。ILEIの配列(配列番号:2および配列番号:4)を基にして本方法により、生物学的に活性なILEIタンパク質のアミノ酸配列全体にわたって、例えばいわゆるマルチピン合成方法(Valerio et al., 1991)によって、種々の長さおよび種々の程度のオーバーラップ並びに遊離または改変末端をもつ、オーバーラップする多数のILEIペプチドを調製することができる。このペプチドアプローチの前に、リガンドの組換えフラグメントを設計して発現させ、問題の領域を限定することができる。
【0039】
続いてILEIペプチドをそれらの潜在的抗ILEI作用について、例えば(例えば放射能または蛍光標識されてた)天然のILEIおよび腫瘍細胞の膜画分を用いる競合アッセイで検査する。そのような方法を用いて、その仮定的レセプターとのILEIの結合部位の幅を限定することができる。続いて同定されたペプチドを(場合によっては位置特異的変異誘導による改変後に)、上述のようにそれらの抗腫瘍作用について検査する。同定されたペプチドを基にして、ペプチドラボラトリー(Peptide Laboratory, Jerini)によって提供される商業的サービスによってペプチド模倣体を個別設計することができる。
ILEI阻害性ペプチドおよびペプチド、ILEI機能の阻害物質としてのそれらの使用、特に人間の治療を目的とする医薬組成物の活性な成分としてのそれらの使用に関しては、抗ILEI抗体について上記で述べた基準が適用される。
適応症に応じて、抗ILEI抗体(または抗体フラグメント若しくは複合物)、アンチセンス、リボザイムおよびsiRNA分子、阻害性ペプチドおよびペプチド模倣体は他の薬剤、例えば抗癌剤、例えば抗体複合物に関して上記で述べた薬剤のような通常の化学療法剤、特にタキサン、アルキル化化合物、白金化合物、トポイソメラーゼ阻害剤または抗代謝剤、ホルモン若しくは抗ホルモン、またはヘルセプチンのような抗体及び/又は放射性療法と併用することができる。
【0040】
さらに別の特徴では、本発明は非ヒトトランスジェニック非ヒト哺乳動物に関する。そのような動物はILEI機能のin vivo研究のために有用である。
本発明の目的では、ILEIトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、生物学的に活性なILEIをコードするDNA配列を導入遺伝子として保有する動物である。
好ましい実施態様では、トランスジェニック動物は、配列番号:3またはその一部分のDNA配列を保有するマウスである。
マウスは収容および交配が容易であり比較的安価であるので、トランスジェニック動物モデルとして通常的に用いられる。しかしながら、他の非ヒトトランスジェニック哺乳動物もまた本発明にしたがって作製することができる。それらは、例えばサル、ヒツジ、ウサギおよびラットであるが、ただしこれらに限定されない。ILEIトランスジェニック動物はILEI導入遺伝子を保有する。すなわち、導入されたクローン化ILEI遺伝子は安定的に取り込まれ、後続世代に伝えられる。本発明では、マウスのILEI cDNAがクローン化され、マウスのゲノムに安定的に取り込まれる。また別には、ILEI遺伝子配列の変異させた部分を用いることができる。この態様では、治療方法の開発のために、また別の態様でスプライスされた遺伝子生成物の動物の発育中および悪性性の開始時の特異的機能を研究することができる。
ILEIトランスジェニック動物(例えばマウス)は、生物学的に関連する条件でのILEIの機能的相互作用の分析および解明を可能にし、ILEIを標的とする薬剤の有効性を評価するためのモデルとして役立つ。本発明のトランスジェニックマウスはまた、癌、線維症、肺線維症または慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、喘息のための種々の治療の開発(種々の治療的に活性な物質の同定および検査を含む)を可能にする。前記物質には抗体、他のタンパク質、ペプチド、ペプチド模倣薬、小分子薬、化学物質および核酸系薬剤が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
【0041】
ILEIのin vivo機能を解明するために、ILEIトランスジェニックマウスの種々の系統が作製される。これらのマウスを用いて、マウス組織におけるILEIレベルの上昇の病的作用を同定することができる。この目的のために、ILEIの普遍的発現またはマウスの種々の発育段階若しくは一生に及ぶ組織特異的若しくは誘導性発現を可能にするCre-Lox系を用いることができる。ILEIの過剰発現が、問題の疾患(特に癌、線維症性疾患またはCOPD)の局面、例えば組織の再造形または免疫細胞の浸潤の誘導に十分であるか否かが組織病理学的分析によって明らかにされる。
これらのマウスのいくらかがILEIの関与を示唆する症状を発したならば、これらの動物を用いてILEI阻害因子(例えば抗ILEI抗体(または抗体フラグメントもしくは複合物)、アンチセンス、リボザイムおよびsiRNA分子、阻害性ペプチド並びにペプチド模倣体)の治療効果を解明する。この動物モデルへのILEI阻害因子の投与では、他の治療薬剤、例えばシクロオキシゲナーゼ阻害剤のような通常の免疫抑制剤(例えばイブプロフェン、インドメタシン、ピロキシカム)、抗体共役物に関して上述した薬剤のような通常の化学療法剤(例えばタキサン、アルキル化化合物、白金化合物、トポイソメラーゼ阻害剤または抗代謝剤)、ホルモン若しくは抗ホルモン、またはハーセプチンのような抗体及び/又は放射性療法と併用することができる。
【0042】
本発明の実験では、特段の記載がなければ、以下の材料および方法が用いられる。
a)細胞および細胞培養
EpH4マウス乳腺上皮細胞およびそれらのHas-Ras-形質転換誘導体(V12-Ras-、S35-Ras-およびC40-Ras-発現)の起源並びに培養条件は以前に記載されている(Reichmann et al., 1992;Oft et al., 1996;Janda et al., 2002a)。EpH4細胞誘導体は、文献記載(J. Virology, Markowitz et al., 1988)のウイルスパッケージング細胞株GPE(マウス線維芽細胞、ATCC)の感染性上清を用いてレトロウイルス遺伝子伝達により作製された。
上皮細胞(EpH4および誘導体)の感染用GPE細胞の作製:60−70%コンフルエシーのGPE細胞をヒュージーン6(Fugene 6(Roche))およびレトロウイルスベクター構築物(pMSCV-IRES-GFP、前記はPaulusら(1996)が記載した方法に従って調製した)を用いてトランスフェクトした。このベクターに“ゲートウェイカセットA”を平滑末端連結によって挿入した。ILEI cDNAをゲートウェイ適合ベクター(下記参照)を用いてEpRas ex-腫瘍 cDNA(cDNAクローニングキット、Roche)から増幅した。感染の前に、コンフルエントに近いGPE培養の培養液を交換し24時間後に上清(感染性レトロウイルスを含む)を採集した。ポリブレン(Sigma)を最終濃度5μg/mLに添加し、ろ過滅菌した(0.45μmフィルター)6mLの上清を、各々10cmの培養皿の対応する上皮細胞(60−70%コンフルエンシー)に添加した。トランスフェクション/感染後5日してからILEI_IRES_GFP RNAを発現している細胞をFACS-ソートによって濃縮した。FACSソートを1−2回繰り返して高レベルのGFP陽性細胞、典型的には70%を超えるGFP陽性細胞を得た。感染した単一上皮細胞をFACS選別によって単離した。
Ex-腫瘍細胞の培養: 10xトリプシン(Gibco, BRL)で30分消化した後で、細切したマウスの腫瘍からマウス腫瘍細胞を再培養した。分散させた細胞を15%FCSを加えたイーグル培養液に播種し、マイコプラズマ感染を防ぐために30mg/mLのシプロフロキサシン(Roche)中で選別し、さらに2日毎に1:3の割合でサブ培養した。
【0043】
b)マウスにおける腫瘍および転移の誘発
腫瘍形成性について種々の細胞タイプを検査するために、各実験で各々の細胞タイプについて3から8群の無胸腺Balb/Cヌードマウス(nu/nu;5−9週齢;Charles River Wiga, GmbH(Sulzfeld, Germany)より入手)を用いた。前の日に分割したコンフルエントな細胞をトリプシン処理し、PBSで3回洗浄し、2x106細胞/mLの最終濃度に希釈した。20μLを麻酔したマウスの3番目および4番目の乳腺対に注射した(アベルチン2.5%(0.15mL/10g体重)、乳首領域に浅部注射)。腫瘍単離後に全腫瘍の直径の合計を注射部位の数で割って平均腫瘍径を算出した。
実験的転移アッセイのために、100μLのPBSに懸濁させた50,000細胞をnu/nuマウスの尾静脈に注射した。肺転位による死亡率を毎日判定した。最初のマウスの死亡後、他の全てのマウスを殺し、主要器官への転移について調べ、組織病理学的分析のために処理した。この分析のために、肺を250mLのHEPES(pH7.3)中の4%PFAで24時間固定し、250mLのHEPES中の20%シュクロースとともに24時間インキュベートし、ティシュ-Tek(Tissue-Tek;Secura, Netherlands)に包埋した。切片を12−20μm幅で切断し、標準的プロトコルにしたがってヘマトキシリンおよびエオジン」で染色した。
【0044】
c)ウェスタンブロット分析
セリン-リン酸化タンパク質または総ErkおよびRasタンパク質のどちらかのウェスタンブロット分析のために用いた細胞は70%コンフルエンシーであり、4%FCSで培養するか、または48時間飢餓処理した(ホスホ-Aktおよび総Aktの場合)。プレートをPBSで洗浄し、細胞を氷上でキナーゼ緩衝液を用いて溶解し、12000gで10分間4℃で遠心した。(キナーゼ緩衝液:10mMトリス、pH7.6、50mMのNaCl、1mMのEGTA、1%トリトンX-100、50mMのNaF、30mMピロリン酸ナトリウム、10mMのNa3VO4およびプロテアーゼ阻害剤カクテルコンプリート(Complete(商標))、両者ともにRochより入手)。上清またはペレットをゲルに装荷した。新しく調製した溶解物を8−12%のSDS-PAGEによって分析し、記載(Yu and Sato(1999))にしたがってイムノブロットを実施した。ILEI発現は、上記のように12%SDS-PAGE、続いてウェスタンブロット分析により分析した。
d)コラーゲンゲル培養
EpH4細胞、EpRas細胞およびそれらの誘導体の無血清三次元培養を以前に記載(Oft et al., 1996, 1998)されたように実施した。コラーゲン構造の共焦点分析をライカTCS-NT共焦点顕微鏡を用いて実施した(コヒーレント-ヴィテッセパルスによるNIRレーザー(Coherent-Vitesse pulsed NIR laser)を用いた2-光子励起顕微鏡法によりDAPIは可視化された)。
e)多孔質支持体上で増殖させた細胞の免疫蛍光染色
細胞を多孔質支持体(細胞培養インサート、ポアサイズは0.4μm;Becton Dickinson)上で2−7日間培養し、70%コンフルエンシーで、または完全にコンフルエントな十分に極性化した上皮シートとして固定した。フィルターをグルコース含有ハンクス溶液またはPBSで2回洗浄し、アセトン/メタノール(1:1)で5分間-20℃で固定し、乾燥させ、PBSで洗浄し、さらに、非免疫ヤギまたはウシIgG(20μg/mL)および0.05%トゥイーンを含むPBS中の0.2%ゼラチン中で1時間ブロックした。フィルターを続いて第一の抗体(非免疫IgGを欠くブロッキング溶液で希釈)と1時間インキュベートし、0.05%トゥイーンを含むPBSで5回洗浄し、同様に調製した二次抗体の希釈物で30分処理し、再び上記のように洗浄した(最初の洗浄はDAPI(1mg/mLのストック、最終希釈は1:10,000)を含む)。ウサギまたはマウスIgGに対するアレキサ(Alexa)結合二次抗体(Molecular Probes, Inc.)は1:1,000に希釈し、一方、Cy3-結合ヤギ抗ウサギまたは抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratory)は1:300に希釈した。
腫瘍のスライドを前記プロトコルと同じように染色した(ブロッキング工程で始める)。コラーゲンゲルの染色は文献(Janda et al., 2000a)に記載されたように実施した。
【0045】
f)分泌TGFβの検出
3x105細胞を6ウェルプレート(NUNC)に播種し、24時間培養した。培養液を取り除き、細胞をPBS(3回)および血清非含有培養液(3回)で十二分に洗浄した。1mLの無血清培養液を細胞に添加し、16時間後に上清を遠心した。分泌TGFβ1をTGFβ1 Emaxイムノアッセイ系(Promega, Madison)を用いて検出した。
g)細胞増殖アッセイ
細胞の増殖は、細胞増殖キット(MTT系、Roche)を用いて測定した。この測定のために、500−1000細胞を96ウェルプレートの各ウェルに播種した。最高の増殖を示す細胞のコンフルエンシーが60%を超えたときに、全ての細胞をトリプシン処理し、再播種前に1:10に分割した。
h)遊出アッセイ
12ウェルプレートの各ウェルに対して、100,000細胞をフィルターインレット(Greiner、ポアサイズ3μm)上に播種し、36時間培養した。上清を取り除き、0.75mLの10xトリプシンを満たした新しい12ウェルプレート中で37℃、5分間フィルターをインキュベートすることによって移動細胞を選別した。フィルターの底を10%FCS含有培養液の2mLで洗浄した。遊出細胞を光学顕微鏡下で数えた。
i)創傷閉鎖アッセイ
細胞を10cmのプラスチック皿に播種し、コンフルエントになるまで培養した。培養液を除去し、細胞をPBSで5回洗浄し、無血清培養液で20時間培養した。細胞単層培養にスクラッチ(1.3mm−2.9mm)を形成した後、細胞をPBSで5回洗浄し、血清非含有培養液で創傷が閉じるまで培養した。創傷閉鎖は、15の顕微鏡領域(各々は3mmの創傷を示す)の平均閉鎖面積によって定量した。
j)C-末端タグ付加ILEIの製造および精製
哺乳動物での発現のために、ILEI cDNAは、C-末端タグ付加融合タンパク質を得るために終止コドンが欠失されているという点を除いて記載のとおりに作製した。増幅されたILEI cDNAは組換え(GATEWAY)によってpCDNA-V5-Hisベクター(Invitrogen)に挿入した。
ILEIを、pCDNA-ILEI-V5-Hisベクター(Invitrogen)のトランスフェクション後にCOS7細胞(ATCC)によって一過性に発現させた。したがって、細胞をFUGENE6(Roche)をカスタマープロトコルにしたがってトランスフェクトした。20時間後、上清を交換し、さらに24時間後にPBSで3回洗浄した。48時間後に上清を採集し、セントリプレップ-10(Centriprep-10;Amicon)で濃縮するか、またはプラスチックカラム(BioRad)を用いキアゲンNi-キラート(Qiagen Ni-Chelat;Quiagen)によりカスタマープロトコルにしたがって精製した。緩衝液:洗浄緩衝液(300mMのNaCl、20mMイミダゾール、50mMのNaH2PO4)、溶出緩衝液(300mMのNaCl、50mMのNaH2PO4緩衝液中の300mMイミダゾール)。溶出タンパク質は1xのPBSおよび1xのDMEM培養液で各々24時間透析した(スペクトラポルメンブレン(Spectra Por Membrane)MWCO15000、Spectrumlabs)。タンパク質の定量および品質は、モノクローナルマウス抗V5 Tag(Invitrogen)またはILEIペプチドに対するポリクローナルウサギ血清を用いてウェスタンブロット分析によって検出した。
【0046】
k)組換えILEIによる上皮細胞の刺激
ILEIを過剰発現しているEpH4細胞の未希釈上清またはILEI過剰発現COS細胞の濃縮上清を1:3に希釈し、15−30%コンフルエンシーに増殖させた細胞に添加した。培養液は48時間毎に交換した。上清中のILEIの相対量をウェスタンブロット分析によって検出した。ILEIの下流のシグナル伝達の解明のために、EpH4細胞をEpH4 ILEI細胞の上清と30、60および120分インキュベートし、EpH4細胞と比較した。細胞溶解物を採集し、別の箇所で記載したようにウェスタンブロット分析およびゲルシフト分析のために調製した。
l)間葉性表現型への復帰
細胞を10−20%コンフルエンシーで播種し、30%上清中で16時間培養した。培養液で3回洗浄した後、10%FCSを含む新しい培養液で細胞を培養し、一方コントロール細胞はEpH4_ILEI細胞の30%上清を含む培養液で培養した。
m)マウスILEIオープンリーディングフレームの増幅用プライマー
配列番号:5(pcr_ILEI_s):
gggg aca agt ttg tac aaa aaa gca ggc tAA ATG AGGGTAGCAGGAGCT
配列番号:6(pcr_ILEI_as):
ggggaccactttgtacaagaaagctgggtGTCAGTCTTGCTT CTGGGGGATAC
配列番号:7(pcr_ILEI_as_for_C-fus):
ggggaccactttgtacaagaaagctgggtGGTCTTGCTTCTGGGGGATAC
【0047】
増幅された配列(マウスILEI cDNA、配列番号:3)
aaatgagggtagcaggagctgcaaagttggtagtggccgtggcagtattcttactgaccttctatgttatttctcaagtatttgaaattaaaatggatgcaagtttaggaaatctatttgctcgatccgcgctggactcagccattcgttctacgaaacctccgaggtacaagtgtgggatctcaaaggcgtgcccagagaagcattttgcttttaagatggctagtggagcagccaatgtcgtgggacccaagatctgcctggaggacaatgttttgatgagtggtgtgaagaataatgtcggaagaggaatcaatattgccttggtaaatgggaaaacaggggaagtaatagacaccaaattttttgacatgtggggaggagatgtggcaccattcattgagtttttgaagaccatacaagacggaacagtagtgctaatggctacatacgatgatggagcaaccaaactcacggatgaggcacggcggctcattgctgaactgggcagcacttcgatcaccagtcttggtttccgagataactgggtcttctgtggtgggaagggcattaagacaaagagtccctttgaacagcacataaagaacaataaggaaacgaacaagtacgagggatggcctgaggtggtggagatggaaggatgtatcccccagaagcaagactgac
【0048】
n)抗体
マウス抗E-カドヘリン(C20820;Transduction Laboratories);マウス抗ビメンチン、Vim-13.4(V-2258;Sigma-Aldrich)
ホスホ-特異的ウサギ抗ホスホ-Erkおよび抗ホスホ-Akt抗体、並びに総Erk1/2およびAktを検出する抗体はニューイングランドバイオラブ(New England Biolabs)より入手した(それぞれ9100および9270)。
マウスILEIタンパク質に対するウサギポリクローナル血清は、以下のプロトコルにしたがいグラムシュラボラトリー(Gramsch Laboratories, Germany)によって作製された:ウサギ1匹につき1.5mgの対応するペプチド(配列は下記に記載)により6回免疫(2−3週間毎に注射)、続いて各々20mLの採血容積でウサギ1匹につき5回の採血、採血は2回目の免疫後2日で開始し、更なるペプチド注射後に繰り返された。
ペプチド1:マウス96 C-VKNNVGRGINIALVNGKTGEVI 117 (配列番号:8)
ペプチド2:マウス 189 C-GIKTKSPFEQHIKNNKETNKYEG 211 (配列番号:9)
ヒト/マウス配列比較:95%同一性
マウス:189 GIKTKSPFEQHIKNNKETNKYEG 211 (配列番号:9)
ヒト:189 GIKTKSPFEQHIKNNKDTNKYEG 211 (配列番号:10)
【0049】
o)C-末端タグ付加ILEIの製造および精製
哺乳動物での発現のために、ILEI cDNAは、C-末端タグ付加融合タンパク質を得るために終止コドンが欠失されているという点を除いて記載のとおりに作製した。増幅されたILEI cDNAは組換え(GATEWAY)によってpCDNA-V5-Hisベクター(Invitrogen)に挿入した。
ILEIを、pCDNA-ILEI-V5-Hisベクター(Invitrogen)のトランスフェクション後にCOS7細胞(ATCC)によって一過性に発現させた。したがって、細胞をFUGENE6(Roche)をカスタマープロトコルにしたがってトランスフェクトさせた。20時間後、上清を交換し、さらに24時間後にPBSで3回洗浄した。48時間後に上清を採集し、セントリプレップ-10(Centriprep-10;Amicon)で濃縮するか、またはプラスチックカラム(BioRad)を用いキアゲンNi-キラート(Qiagen Ni-Chelat;Quiagen)によりカスタマープロトコルにしたがって精製した。緩衝液:洗浄緩衝液(300mMのNaCl、20mMイミダゾール、50mMのNaH2PO4)、溶出緩衝液(300mMのNaCl、50mMのNaH2PO4緩衝液中の300mMイミダゾール)。溶出タンパク質は1xのPBSおよび1xのDMEM培養液で各々24時間透析した(スペクトラポルメンブレン(Spectra Por Membrane)MWCO15000、Spectrumlabs)。タンパク質の定量および品質は、モノクローナルマウス抗V5 Tag(Invitrogen)またはILEIペプチドに対するポリクローナルウサギ血清を用いてウェスタンブロット分析によって検出した。
組換え(正常およびHis-タグ付加)ILEIの製造および結合特異性の性状は図1cに要約されている。一過性にトランスフェクトされたCos7細胞によって分泌された組換えV5-His(t)タグ付加ILEIおよびタグ無しの天然ILEI(n)と同様に、抗V5タグ抗体および抗ILEI抗体によってウェスタンブロットで検出された(c:Cos7擬似トランスフェクション上清;e:EpH4細胞の内在性ILEI)。抗V5またはILEIペプチド特異的抗体を検出に用いた;e+o:免疫に用いたオリゴペプチドで予め処理したILEI抗体。
p)ILEIタンパク質レベルのノックダウン
EpRas ex腫瘍細胞でILEIタンパク質レベルを安定的にノックダウンするために、以下の2つのオリゴヌクレオチド、
ILEIA_21_31A:TAA GAA TAC TGC CAC GGC CAC TAC CAA CGA AGC TTG GTT GGT AGT GGT CGT GGT AGT GTT CTT ATT GTT TTT T(配列番号:11)
および
ILEI_21_31B:TTA AAA AAA ACA ATA AGA ACA CTA CCA CGA CCA CTA CCA ACC AAG CTT CGT TGG TAG TGG CCG TGG CAG TAT TCT TACCGG(配列番号:12)を合成し、各オリゴの10μgを煮沸制限酵素反応緩衝液H(Roche Inc.)に添加することによってアニールさせた。混合物を1時間以内でゆっくりと室温に冷却した。オリゴヌクレオチドの配列を以下のプロトコル(ヘアピンプロトコルv2.1)にしたがって選別した(前記プロトコルはpSHAG-1のためのshRNA挿入物の設計のために開発された)。本実験で用いられるプロトコルの改変は、下記の11)および12)に記載されているようにオリゴILEI_21_31B(配列番号:12)に関する。(http://www.cshl.org/public/SCIENCE/hannon.html)。
ヘアピンプロトコルv2.1:任意の遺伝子のセンス、コード配列を用いる。(N1, N2, N30, N31は番号の示す位置である。)
1)5'-N1 NNNNN.......NNNNNNNNNN C N30 N31-3'を見つける。pol III(U6プロモーターの“G”で開始する)がアンチセンス鎖の最初の塩基で正確に開始することができるように、オリゴは“C”で終了する必要がある。
2)(1)の逆相補物を得る。
5'-N31' N30' G N'N'N'N'N''N'......N'N'N'N'N'N'N'N'N'N1'-3'
3)5'-G N'N'N'N'N''N'N'N'.......N'N'N'N'N'N'N'N1'-3'を得るためにN30' N31'を除去する。
4)5'-G N'N'N'N'N''N'N'N'N'......N'N'N'N'N'N''N1'GAAGCTTG-3'を得るために3'末端に5'-GAAGCTTG-3'を付加する。
5)オプション(連結前のDNAオリゴによるヘアピンの形成を減少させるため)。N2からN28の位置で(1)の3番目毎の塩基をAからGまたはCからTへ以下のA)−C)を満たすように変更する:A)隣接塩基は変更されない;B)5つ以上の塩基は変更されない;C)長さが6塩基を超えるホモポリマーは生成されない。
6)(4)の3'末端に(5)を付加して、5'-G N'N'N'N'N''N'N'N'N'......N'N'N'N'N'N''N1'GAAGCTTG N1 NNNNNNN......NNNNNNNN C N30 N31を得る。
7)pol IIIターミネーターTTTTTTを付加して、5'-G N'N'N'N'N''N'N'N'N'......N'N'N'N'N'N''N1'GAAGCTTG N1 NNNNNNN......NNNNNNNN C N30 N31 TTTTTTを得る。
8)Hind III部位の導入によってヘアピンを含むクローンの迅速な同定を可能にする。
9)Gを落として5'-N'N'N'N'N''N'N'N'N'......N'N'N'N'N'N''N1'GAAGCTTG N1 NNNNNNNN......NNNNNNN C N30 N31 TTTTTT=オリゴAを得る。
10)(9)の逆相補物を得る。
11)(10)にTTAAを5'末端に付加する。
12)(11)にCCGGを3'末端に付加する=オリゴB。
小ヘアピンRNA(shRNA)の発現のために下記の記載のように改変したApaI/EcoRI切断pMSCV-GFPベクターにアニールさせたオリゴを連結した:
shRNA発現に適したpMSCP-GFPベクターを作製するために、pSilencer1.0-U6 siRNA発現ベクター(Cat. No. 7207Ambion, Inc.)から以下の配列を増幅させた。ベクターマップの概覧のために図7を参照されたい(shRNA構築物のために増幅させた配列はBamHI部位1051に対してBamHI部位575を含む)。
【0050】
増幅された配列(ゲートウェイ組換え部位は含まれていない);
Gatccgacgccgccatctctaggcccgcgccggccccctcgcacagacttgtgggagaagctcggctactcccctgccccggttaatttgcatataatatttcctagtaactatagaggcttaatgtgcgataaaagacagataatctgttctttttaatactagctacattttacatgataggcttggatttctataagagatacaaatactaaattattattttaaaaaacagcacaaaaggaaactcaccctaactgtaaagtaattgtgtgttttgagactataaatatcccttggagaaaagccttgtttgggccccccctcgaggtcgacggtatcgataagcttgatatcgaattcctgcagcccgggggatcc (配列番号:13)
【0051】
以下のプライマーを用いて、ゲートウェイ適合組換え部位をこの配列にフランキングさせた:
プライマー1(フォワード):gggg aca agt ttg tac aaa aaa gca ggc tga tcc gac gcc gcc atctct(配列番号:14)
プライマー2(リバース):ggggaccactttgtacaagaaagctgggtggatcccccgggctgca(配列番号:15)
ゲートウェイ適合組換え部位の使用:増幅させた配列を組換えによってT3およびT7部位の間でゲートウェイ適合pMSCV-IRESに挿入した。得られた構築物は、ヒトU6プロモーターおよび上述のILEI shRNA構築物(=shRNAカセット)の挿入のためのクローニング部位を含んでいる。shRNAカセット全体は2つの組換え部位によってフランキングされ、これによって、配列をさらに別の“ゲートウェイ”適合ベクター(Invitrogen Inc.)にLRクロマトグラフィーナーゼ酵素を用いて移すことが可能になる。ゲートウェイ適合ベクターpMSCV_GFP(上述)を用いることによって、shRNA構築物を発現している細胞はまた独立したプロモーターによってGFPタンパク質を発現する。GFP陽性細胞をFACSソーター(蛍光活性化細胞ソーター、Beckton & Cickingson Inc.)によって選別し、さらに単一細胞を(a)に記載したように培養した。ILEIの細胞内発現をウェスタンブロット分析によってアッセイし、さらに設計したベクター構築物の機能性を、ILEIタンパク質の強力なダウンレギュレーションを示すウェスタンブロットによってアッセイした(前記はまた図3cに示されている)。
【0052】
q)ILEIに対して作製した抗体による細胞の処理
仮定的ILEI機能遮断性抗体の細胞に対する作用を解明するために、間葉性EpH4_ILEI細胞および上皮性EpH4細胞をウェル当たり1000細胞の密度で96ウェルプレートに播種した。ペプチド2(マウス189 C-giktkspfeqhiknnketnkyeg 211;配列番号:9)をウサギのペプチド血清のアフィニティー精製のために用いた(ペプチド血清の作製のため、“o”を参照されたい)。抗体の精製は、グルタチオンセファロース4B(製造元のプロトコルに従って使い捨てカラムに充填)(Amersham Inc. Cat No. 17-0757-01)を用いて実施した。カラムを10mLのPBSで洗浄した。抗体の精製は4℃で実施した。10mLのウサギ血清を前記アフィニティーカラムに添加し、フロースルーを前記カラムに2回添加した。カラムを10mLのカップリング緩衝液(0.1MのNaHCO3、0.5MのNaCl(pH8.0))および10mLの前溶出緩衝液(Na2HPO4/NaH2PO4緩衝液、pH6.8)で洗浄した。抗体を1mLのアリコットとして0.1Mのトリス-グリシン(pH2.7)を用いてカラムから溶出させ、直ちに2Mのトリス緩衝液(pH8)で中和した。最後にカラムを25mLのPBSで洗浄し、0.1%ナトリウムアシド(sodium acid)/1xPBS中で4℃で保存した。精製抗体(1mg/mL)を細胞に最終濃度20μg/mL(非必須アミノ酸および5%ウシ胎児血清を含む100μLの培養液(Gibco DMEM)当たり2μL)で添加した。抗体の特異的機能に対するコントロールとして、前記抗体の代わりに中和した溶出緩衝液および4mg/mLのペプチド2と30分間予備インキュベーションした抗体を細胞に添加した。細胞の生存活性は細胞増殖キット1(Roche Inc., Cat. No. 1465007)を製造元のプロトコルにしたがって使用し測定した。
【0053】
r)全RNAおよびポリソームRNAの単離並びに定量的RT-PCR
ILEI RNAの定量的検出のためのプライマー
Pcr ILEI s(配列番号:16):AAATGAGGGTAGCAGGAGCT
Pcr_ILEI_as(配列番号:17):AACATTGTCCTCCAGGCAG
ILEIポリソームRNAはシュクロースグラディエント分画によって単離した。
シュクロースグラディエント分画およびRNA分析
シュクロースグラディエント分画およびRNA分析は文献(Mikulits et al., 2000)にしたがって実施した。各シュクロース画分から、画分1−8(遊離mRNAおよびtRNAを含む)および画分11−20(ポリソーム結合RNAを含む)をプールした。RNAはRNイージー(RNeasy)キット(Qiagen)を用いて精製し、DNアーゼI(Qiagen)で処理し、ロシュのポリA+単離キットを用いてポリ(A+)mRNAを単離した。
全RNAはRNイージーミニキット(Cat. No. 74707;Qiagen Inc.)のための供給元の標準的プロトコルを用いて単離した。一容器RT-PCRは供給元の指示にしたがって実施した(Roche Inc., Cat. No. 1888382)。15または19サイクルのどちらかを実施した。
【0054】
s)免疫組織化学
免疫組織化学は以前に記載されたように実施した(Heider et al., 1993)。簡単に記せば、凍結組織切片(厚さ5μm)をアセトン中で固定し、その後室温で1時間一次抗体とインキュベートした。PBSで洗浄後、切片をビオチン化抗ウサギIgG二次抗体とインキュベートした。更なる洗浄工程の後に、切片をストレプトアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体(DAKO, Glostrup, Denmark)とともにインキュベートした。発色はアミノエチルカルバゾールで10分実施し、その後ヘマトキシリンで切片を対比染色した。水性のマウント媒体で包埋した後、スライドを光学顕微鏡下で判定した。
【実施例1】
【0055】
実施例1. ILEIポリソーム結合RNAおよび分泌タンパク質のレベルはTGFβ/Ras誘導EMTでアップレギュレートする
使用細胞株の腫瘍プログレッション段階の概要を提供するために、これら細胞のヌードマウスにおける腫瘍形成及び/又は転移形成能力を図1aに示す。in vivo転移/腫瘍アッセイは方法の(b)に記載されている。ILEI発現レベルが腫瘍プログレッション段階と相関性を有するか否かを決定するために、ILEI翻訳RNAおよびタンパク質レベルを、TGFβ誘導EMTプロセスにおいて、種々の腫瘍プログレッション段階を示す特徴が詳しく調べられた以下の細胞モデルで検出した:I)自発的に不死化したマウス乳腺上皮細胞株(EpH4)およびVrasまたは切端VRasIIを発現するクローンとして関連を有する誘導体。II)高度に転移性大腸癌細胞株CT26および腫瘍形成性が弱いその誘導体CKR2(ドミナントネガティブTGFβRIIを発現する)(Oft, 1998;Oft, 1996;Grunert, 2003)(図1a)。図1bで認められるように、ポリソーム結合ILEI-RNAのレベルは、全てのEpH4由来細胞株(前記は外因性TGFβによる刺激後EMTを受けることができる)で特異的にアップレギュレートされることが見出され、in vivoでのそれらの転移の誘発と相関性を示した。ポリソーム結合RNAの単離は方法の(r)に記載されている。転写および標識の手順は製造元のプロトコルに記載されている。RNAの精製はRNイージーミニキット(Qiagen Inc.)を用いて実施した。cDNA合成:SSII RTキット(Gibco Inc.)を使用し、5μgのRNAを第一鎖の合成のために用いた;cRNA合成はcRNA合成キット(IVT Inc.)を用いて実施した。cRNA濃度および長さの分布はアギレント(Agilent)バイオアナライザーで製造元(Agilent Inc.)のプロトコルにしたがって測定した。更なる工程は標準的なアフィメトリックス(Affymetrix)の標識およびハイブリダイゼーションプロトコル(Affymetrix Inc.)に記載されているように実施した。
ILEIポリソームRNAは、さらに第二の独立な細胞モデル(高度に転移性大腸癌細胞株CT26)においてもその上皮性誘導体CKR(ドミナントネガティブTGFβRIIを発現する)と比較してアップレギュレートされた。後者の細胞は弱い腫瘍形成性を有し、転移性ではない(Oft et al., 1998)。ILEI発現の調節はそれぞれ別個の3つのアッセイを用いて検出した:アフィメトリックスマイクロアレーチップハイブリダイゼーション、定量的PCR(方法の(r)を参照されたい)およびウェスタンブロッティング(方法の(c)参照)(図1b, d)。ポリソーム結合ILEI RNAのレベルおよび分泌されるILEIタンパク質はEMTの誘発後特異的にアップレギュレートされた。ILEIレベルは、アポトーシス保護されたEpH4_Bcl2細胞またはEp_C40細胞のTGFβ誘発分散で等しかった(図1b)。さらにまた、RasまたはBcl2による発癌性形質転換は、TGFβの刺激がないときILEIレベルに対して影響を示さなかった(図1b)。EMT時のILEIの誘導は翻訳レベルでのみ制御される。全RNA(t)およびポリソーム結合RNA(p)を用いたILEIのRT-PCR定量は図1dに示されている。
【実施例2】
【0056】
実施例2. ILEIタンパク質はEMTを誘導することができる
上皮細胞で安定的に発現された場合にILEIがEMTを促進することができるか否かを解明するために、IRES_GFP配列と結合させたレトロウイルスILEI cDNA構築物を用いてEpH4、EpH4Ras、EpC40およびEpS35細胞を感染させた。EpH4_ILEI、EpH4Ras_ILEI、EpC40Ras_ILEIは、更なる外因性刺激無しに線維芽細胞様表現型を示した(図3a)。ポリシストロン性ILEI_GFP mRNAは顕微鏡によるGFP検出によって証明され、さらに感染細胞におけるILEIタンパク質の分泌レベルの増強が培養液上清のウェスタンブロット分析によって測定された。
図3aは、EpH4の上皮性細胞形態、並びにILEIを発現しているEpH4、EpRasおよびEpc40Ras細胞の扁平な間葉性形態を示している。
EpH4_ILEI誘導体の間葉性表現型の特徴をさらに調べるために、フィルター上で培養した細胞のウェスタンブロットおよび免疫染色を用いて上皮性および間葉性マーカータンパク質のレベルを調べた。
第一の実験の結果は図3bに示されている:安定なILEIの発現は、EpH4、EpS35およびEpRasでEMTを誘導するが、EpC40細胞では誘導しない。培養液由来の分泌されたILEI(最上部)、E-カドヘリン(上皮性マーカー)およびビメンチン(間葉性マーカー、細胞抽出物由来)をウェスタンブロットで分析し、Smad2/3をローディングコントロール(最下部)として用いた。これらの結果は、EpH4_ILEI、EpS35_ILEI、EpRas_ILEIでは上皮マーカーE-カドヘリン(タイトジャンクション関連トランスメンブレンタンパク質である)が陰性になったことを示している。これらの細胞では、E-カドヘリンタンパク質はほぼ完全にダウンレギュレートされた。他方でこれらの細胞は、細胞骨格関連タンパク質ビメンチンのような間葉性マーカーを獲得した。EpC40_ILEIは、細胞がコンフルエントになったときに上皮性の層を形成したので1つの例外であった。驚いたことに、これらの細胞は接触阻害を克服し、プラスチックプレート上に多層の領域を形成した。これは、クローンとして混成状態のEpC40_ILEI細胞について、または5つの選別したEpC40_ILEI単一細胞系列の各々について観察された。高レベルの過剰増殖を示すEpC40_ILEI細胞を含む培養では、E-カドヘリンは僅かにダウンレギュレートされたが、分解されたE-カドヘリンのフラグメントがウェスタンブロット分析で検出された。図3cは、ILEI-siRNAレトロウイルス構築物による感染後、siRNAがEpRasXT細胞で安定的に発現されたときにILEIタンパク質がダウンレギュレートされることを示す。
また別の実験では、単一細胞に由来する15のEpH4-GFPクローンおよび15のEpH4-ILEIクローンのいっそう感度の高い分析によって、E-カドヘリンは完全に消失しないが、そのレベルが低下するだけであることが明らかになった。E-カドヘリンのかなりの部分が膜から細胞質へ脱局在化することが示された(脱極性した上皮細胞の特徴である)。脱極性は、上皮層から上皮細胞が分離するために必要であり、より高い運動性をもたらす。間葉マーカービメンチンは、EpH4-ILEI細胞で検出できるが、EpH4-GFP細胞では以前に記載されたように検出できない。E-カドヘリンがEpH4_ILEIのほとんどのクローンでなお検出可能であるので、これらの細胞はEMTの移行期にあるのかもしれない。ほとんどのEpH4_ILEIクローンの部分的EMTは、最初の実験で用いられたクローンと比較して、ウェスタンブロット分析で検出されたようにILEIレベルが低いということによって説明できる。
図3dは、転移性EpRas-XT細胞のILEIノックダウンはEMTを逆転させることを示す。上段パネル:EpRas-XT細胞によって形成されたコラーゲンゲル構造物およびTGFβの存在下でILEI-sh-RNAレトロウイルス(EpRasXT-ILEIsiRNA)を発現するEpRas-XT細胞。コントロール:TGFβ無しEpRas細胞。下段:ビメンチンに対する抗体で染色したEpRas-XT細胞によって形成された構造物、EpRasXT-ILEIsiRNAによって形成された上皮性構造物およびEカドヘリンに対して陽性に染色されたコントロールEpRas細胞。(3e)フィルター上で培養されたEpH4およびEpH4_ILEI並びにEpRasXTおよびEpRasXT-siRNA-ILEI細胞におけるEカドヘリンまたはビメンチンタンパク質の免疫染色。前記免疫染色は上記に示したデータと完全に相関性を示す。すなわち、ILEIはビメンチンのアップレギュレーションによってEpH4細胞でEMTを誘導し、ILEIのノックダウンは、EpRas ex腫瘍細胞の間葉性表現型を元に戻し、これはEカドヘリンのアップレギュレーショによって示される。核酸はDAPI染色によって可視化される。
【実施例3】
【0057】
実施例3. 生物学的に活性なマウスILEIの発現および分析
a)発現
ある実験セットでは、完全長のマウスILEI cDNA(配列番号:3、ATGで開始しTGAで終了する)をpcDNA3.1ベクター(Invitrogen)にクローニングし、293フェクチン(293fectin;Invitrogen)によるトランスフェクションによって供給元の指示に従いながらフリースタイル(FreeStyle(商標))293-F細胞(Invitrogen)で発現させた。
また別の実験セットでは、マウスILEI cDNA(配列番号:3、ATGで始まりTGAで終る)+C-末端のTEV切断部位および精製タグをコードする配列をpcDNA3.1ベクター(Invitrogen)にクローニングし、293フェクチン(293fectin;Invitrogen)によるトランスフェクションによって供給元の指示に従いながらフリースタイル(FreeStyle(商標))293-F細胞(Invitrogen)で発現させた。(前記タンパク質は、タバコのEtchウイルス(TEV)の切断部位Glu-Asn-Leu-Tyr-Phe-Gln-Glyの後にC-末端精製タグ(SerHis6)を含んでいた)。
細胞培養上清を72時間後に採集し、分泌されたILEIをNi-NTA-スーパーフロー(Ni-NTA-Superflow;Invitrogen)でのクロマトグラフィーによって精製した。His-タグはTEVプロテアーゼ(Invitrogen)とのインキュベーションによって除去し、muILEIをさらにゲルろ過クロマトグラフィー(HiLoad Superdex S200、Amersham Bioscience)によって精製した。
b)分析
精製組換えmuILEI(両実験セットによって得られた)のN-末端をEdman配列決定で決定し(494cLC Procise、Applied Biosystems)、さらに逆相C18カラムで精製した後で質量分析に付した(Q-TOF Ultima, Micromass)。
1つのバッチを除いていずれにおいても、分泌されたmuILEIのN-末端アミノ酸は同一で42位のセリンであった(配列番号:4の番号付与にしたがい、スイスプロト(Swissprot)エントリーQ91VU0と一致する)。
1つのバッチでは、N-末端は不均一であることが判明した。材料の約1/3はアミノ酸42(Ser)で開始し、約1/3はアミノ酸41(Arg)で開始し、さらに約1/3はアミノ酸44(Leu)で開始した。
全てのバッチの組換え体材料は機能的アッセイ(実施例4を参照されたい)で生物学的に活性を有することが判明した。
Edman配列決定から得られた各PTH-アミノ酸の収量の比較によって、かなりの減少がThr51で観察された。これはおそらく翻訳後修飾によるためであろう。無傷のタンパク質の質量分析によって、DNA配列から誘導される理論的質量と比較してより大きな質量を有するアイソフォームであることが示された。さらに付加された成分の測定質量は、N-アセチルノイラミン酸、N-アセチルヘキソサミンおよびヘキソースモジュールを含むオリゴ糖の存在を示している。
【実施例4】
【0058】
実施例4. ILEIはオートクリンおよびパラクリンメカニズムを介してシグナル伝達することができる
a)ILEIは、未知のレセプターを介して細胞外からシグナル伝達するか否かを問うために、EpH4細胞を精製した組換えILEIタンパク質(材料と方法(j)で述べたように一過性発現によって得た)とともに培養するか、またはEpH4_ILEI細胞と同時培養した。両実験セットは、上皮性から間葉性/類線維芽細胞表現型への形態学的変換を示し、前記は対応する上清中の可溶性ILEIタンパク質のレベルに依存した。EpH4細胞をEpH4_ILEI細胞の上清とともにほぼ2週間培養したとき、それらのコロニーの形態は密な構造(上皮性)から類線維芽細胞の形状(間葉性)をもつ扁平な細胞の分散コロニーへシフトした。この表現型は、より初期、すなわち組換えILEIタンパク質を分泌するCos7細胞の上清中でEpH4細胞を培養して4−6日後に誘導された。擬似トランスフェクトCos7細胞の上清は細胞形態またはコロニー表現型の変化を誘導しなかった。ウェスタンブロット分析によるILEIタンパク質レベルの定量によって、この上皮から類線維芽細胞への切り替え時間の用量依存性減少が明らかにされた。EpH4およびEpH4_ILE_IRES_GFP細胞の同時培養によって、EpH4細胞画分はEMTを示した。このことは、コロニー形成が分散状になるのと同時に細胞膜からのE-カドヘリンの脱局在が生じることによって示される。E-カドヘリンは、50%のEpH4_ILEI細胞(E-カドヘリン陰性)および50%のEpH4細胞(E-カドヘリン陽性)を含む3週間の同時培養の後で完全に消失した。この培養物中の全ての細胞が類線維芽細胞の形状を獲得し、EpH4細胞で検出された間葉マーカービメンチンはまた、EpH4_ILEI細胞によってEMTプロセスが誘導されたことを示唆している。さらにまた、分散して播種されたEpH4_ILEI細胞の毎日の培養液交換により分泌ILEIタンパク質の激しい希釈によって2日以内で広い範囲にわたって極性細胞という上皮性表現型を回復させた。このことは、E-カドヘリンタンパク質のレベル上昇および細胞膜へのE-カドヘリンの再分布と相関性を示した。
b)EpH4またはEpRas細胞(100μLのコラーゲンゲルにつき2500細胞)の1.6μg/mLの組換え精製ILEI(実施例3で得られた)による2日毎の刺激によって、5日後に多細胞器官型構造の強い形態変化が現れた。ILEI刺激後の器官型細胞構造およびそれらの侵襲性表現型の例は図4a(EpH4)および図4b(EpRas)に示されている。上皮細胞構造は円形細胞凝集物および部分的中空構造を特徴とする(図4a, b, cの左パネルを参照されたい)。ILEI処理後、細胞は上皮性構造物から分離し、コラーゲンマトリックスに侵襲した。侵襲細胞は紡錘様細胞形態を特徴とし、細長い多細胞構造を生じた(図4a, b, cの右パネルを参照されたい)。
第二の組換えILEI生成物(精製組換えILEI、実施例3を参照されたい)によるEpRasXT_ILEIsiRNA(これらの細胞はほとんどILEIを発現せず、実施例2に記載されている)の刺激は、ILEI刺激(最終ILEI濃度4μg/mL)の8日後に上皮性クラスターから細胞が増殖するのを増強した。ILEIは2、4、6日目に添加した。非処理EpRasXT_ILEIsiRNAの代表的コラーゲン構造物は図4cの左パネルに示され、組換えILEIの添加後これらの構造物から外れた細胞は図4cの右パネルに矢印で印を付されている。
c)35mmプラスチック皿(Greiner Inc.)への播種2時間後の500個のEpH4細胞またはEpRas細胞の、1.6μg/mLの組換え精製ILEI(実施例3で得られた)による単一回刺激は、細胞の運動性の増加をもたらす。このILEI作用を、組換えILEIの機能の特徴決定、およびILEI機能阻止抗体(前記抗体は組換えILEIタンパク質と予めインキュベートしたときILEIの運動性作用を阻止する可能性がある)の特徴決定に用いることができる。細胞の運動性への作用は、経時的撮影または内皮細胞運動性のための細胞ベースアッセイ(例えばCellomics Inc.)によって調べることができよう。
【実施例5】
【0059】
実施例5. ILEIはわずかのTGFβ分泌を誘導する
本発明者らの研究室で以前に得られた結果では、TGFβがEMTを誘導した後、間葉性EpRas細胞におけるオートクリンTGFβおよびPDGFループが示され、これはILEIタンパク質レベルの増加と相関性を示した。間葉性EpH4_ILEI誘導体が同様なオートクリンTGFβループを誘導するか否かを調べるために、TGFβELISAを実施し、対応する細胞対の上清への分泌TGFβレベルを定量した。EpH4誘導体のいずれにおいても、ILEIの安定な過剰発現は、EpRas ex腫瘍細胞と比較して分泌TGFベータレベルの顕著な増加を誘導しなかった。EpH4_ILEI、EpC40_ILEI、EpS35およびEpRas_ILEIについては、それらの対応するコントロールと比較して、分泌TGFβレベルの極わずかな上昇が測定され、ILEIの過剰発現は存在しなかった。EpRas ex 腫瘍細胞と比較すると(前記はaa TGFβオートクリンループを特徴とする)、分泌TGFβレベルはEpH4_ILEIについて約20倍低く、EpRAS_ILEIおよびEpC40_ILEIについて約4倍低かった。EpH4および誘導体によって分泌されるTGFβ1のELISAによる定量は図3fに示されている。
【実施例6】
【0060】
実施例6. TGFβは、ILE投与中止によって生じるEpH4_ILEI細胞の増殖阻害を救済することができる
TGFβは血流および腫瘍領域に存在するので、EpH4およびEpH4_ILEIの増殖およびアポトーシス速度に対するTGFβの影響を調べた。したがって、EpH4およびEpH4_ILEIのそれぞれ500個の細胞を、培養後4−10日後に培養液(方法の(a)を参照)または0.2−10ngのTGFβを補充した培養液を用いて96ウェルプレート(Greiner Inc.)の各ウェルに播種した。
調査の最終時点で、細胞増殖をMTT増殖アッセイ(Roche Inc.)を用いて定量し、さらにアポトーシスはDNA-DAPI染色核画分(Dapi(1:10000)、Roche Inc.)を数えることによって算出した(DAPIは後期アポトーシスのマーカーである)。EpH4およびEpH4_ILEIで0.4ng/mLを超えるTGFβは細胞増殖を阻害し、アポトーシスを誘導した。このことは、ILEI発現は、EpHRas細胞の場合のように強力なアポトーシス保護を誘導しないことを示している。EpRas細胞は5−10ng/mLのTGFβレベルでさえもTGFβによって誘導されるアポトーシスから保護される。
EpH4細胞は10%FCS補充DMEM培養液中で良好に増殖し、それらの増殖速度は0.2ng/mLのTGFβの添加で顕著には増強されなかった。対照的に、TGFβの非存在下でのEpH4_ILEI細胞の増殖は低く、培養液に0.2ng/mLのTGFβが補充されたとき2倍増加っさせることができた。EpH4_ILEI増殖の阻止はまた、分泌されたILEIタンパク質を含むEpH4_ILEI条件付け培養液を30%添加することによって克服された。この結果は、低濃度のTGFβまたはILEIタンパク質による刺激はEpH4_ILEIの適切な増殖(EpH4細胞の増殖に匹敵する)のために十分であることを示した。低レベルのTGFβタンパク質のEpH4_ILEI細胞誘導体の分裂に対する重要性はまた三次元コラーゲンゲルアッセイにおいても検出された(前記アッセイはコラーゲン構造物によって腫瘍の“in vivo”状況を模倣し、無血清培養を可能にする)。EpRas細胞によって形成された典型的な上皮性中空構造(図3d)と比較して、コラーゲンゲルに播種された全てのEpH4_ILEI誘導体は細胞増殖の劇的な低下を示した。播種48時間後に、ゲルマトリックス中のEpH4_ILEI誘導体は、極めて顕著な紡錘形の細胞構造を形成した。
非常に遅い増殖速度が細胞の計測によって検出され、さらに細胞死の増加がGFP陽性細胞断片によって決定された(データ示さず)。播種後24時間または48時間に1−5ng/mLのTGFβを添加することによって、コラーゲン中のEpRAS_ILEI細胞は正常な細胞増殖および生存活性を回復させ、E-カドヘリン陰性およびビメンチン陽性間葉性構造の形成をもたらした(データは示されていない)。
【実施例7】
【0061】
実施例7. ILEIはSTAT3アルファを活性化し、細胞運動性を誘導する
ILEIの他のサイトカインとの構造的相同性により、本発明者らは、ILEIはJak/STAT経路(前記は一般的に活性化されるサイトカインのシグナル伝達系路である)を介してシグナル伝達するか否かについてさらに調べることとした。驚くべきことには、図2a、bに示したようにSTAT3はEpH4_ILEI細胞で活性を示した。さらにまた、活性なSTAT3レベルの強いアップレギュレーションが、EpH4_ILEIの上清によるEpH4細胞の刺激後30分以内に検出されたが、EpH4の上清では検出されなかった。活性なSTAT3レベルはゲル移動度シフトアッセイによって検出され、抗体のスーパーシフトアッセイで確認された(図2)。(このアッセイで用いられた方法は文献(Moriggl et al., 1998)に記載されている。)図2aは、EpH4_ILEI細胞上清またはIL6で刺激されたEpH4_ILEI細胞およびEpH4細胞は、ゲル移動度シフトアッセイで検出されたように活性なSTAT3αのレベル増加を示すことを示している。図2bは、EpH4_ILEI細胞におけるリン酸化STAT3、Akt、Erkのウェスタンブロットによる検出およびE-カドヘリンのダウンレギュレーションを示している。β-アクチンが同等なローディングコントロールのために用いられた。EpRasおよびEpRas_ILEI細胞のRNA比較から得られた遺伝子発現の予備的データによって、EpRas_ILEI細胞におけるSTAT3リン酸化を誘導することができるタンパク質(例えばプロスタグランジンEシンターゼ、プロシタグランジンEレセプター)のRNAレベルが増加することが明らかにされた。(発現プロフィル、ハイブリダイゼーションおよびスクリーニングは実施例1に記載したように実施した。)これらのデータは、STAT3はILEIによって直接的にではないが間接的に活性化されえることを示している。
STAT3活性化におけるILEIの関与および公知の特性であるSTAT3細胞運動性(前記は転移性細胞の特徴である)における関与を考慮して、本発明者らは、ILEIの発現がプラスチック層上の細胞の移動を促進することができるか否か、さらに多孔質フィルターを通した遊出が起こりえるか否かを調べた。創傷閉鎖アッセイでは、コンフルエントに増殖した細胞を血清枯渇させ、単層細胞に人工的に付けたスクラッチが閉じる時間を測定した。スクラッチの完全な閉鎖に要した時間は、Ep40細胞と比較してEpC40_ILEI細胞で顕著に減少した(EpC40は閉鎖までに5日であり、2日長い)。遊出アッセイでは、フィルターの孔から遊出したEpC40_ILEI細胞の数は、EpC40細胞と比較して2.5倍増加した。これらの結果はILEIタンパク質の遊走支持効果を示したものである。
【実施例8】
【0062】
実施例8. ILEIは腫瘍形成性を強化する
ILEIのin vivoにおける腫瘍プロモーション機能を決定するために、EpH4細胞およびそれらの誘導体EpH4_ILEI,Ep_C40(変異RasC40、主としてP13Kシグナル伝達)およびEpC40_ILEIを各ヌードマウス(方法の(b)を参照)の4つの乳腺脂肪体に注射した。EpH4細胞は5匹の注射マウスのいずれでも腫瘍を形成することができなかったが、EpH4_ILEI細胞は4匹の注射マウスのうち3匹で腫瘍を形成し、平均腫瘍質量は16週間後に1.1g/マウスであり、これはILEI発現がEpH4細胞で腫瘍形成性を誘導することを示したものである。さらにまた、EpC40_ILEI細胞の注射8週間後に、派生した腫瘍の質量は4.3g/マウスで、前記はEpC40(1.2g/マウス)と比較して腫瘍質量で3.6倍の増加であった(図5)。腫瘍を摘出し、腫瘍サイズおよび質量を定量した後、腫瘍細胞の小部分を培養した。注射細胞起源であることを顕微鏡下でGFP検出により同定した。EpC40_ILEIおよびEpH4_ILEI細胞から派生した切除腫瘍組織の薄層の組織学的調査によって、EpC40およびEpRas細胞由来腫瘍と比較して驚くべき形態的相違が明らかにされた。ILEIおよびGFPを過剰発現する細胞から発達した全ての腫瘍内の約70−90%の細胞が間葉性表現型を示し、ビメンチン陽性であったがE-カドヘリンは陰性であった。これらの細胞は、図5cに示すように多孔質で中空構造を腫瘍内に形成した。腫瘍内に第二の細胞画分、すなわちGFP陰性細胞が検出された。これら細胞はE-カドヘリン陽性であるがビメンチン陰性であり、さらに密な上皮性構造を形成した(EpC40またはEpRas由来腫瘍に典型的である)。上皮性細胞のこの画分が宿主生物に由来し腫瘍に浸潤してきたのか否か、またはこれらの細胞は、幾分ILEIおよびGFPタンパク質発現をサイレンシングさせたEpC40_ILEI細胞起源であるか否かは調べなかった。対照的に、EpC40から生じた腫瘍は、腫瘍の増殖および侵襲最前部でのみ間葉系の特徴を有する主として上皮性形態を示した。図5は、ILEIは腫瘍の増殖を誘導または増強し、腫瘍細胞にEMTを起こさせることを示している。(a)EpH4およびEpH4-ILEI細胞をEpC40V12Ras(EpC40R)およびEpC40R-ILEI細胞と同様にヌードマウスの乳腺領域に注射し(各注射部位当たり0.5x105細胞、4注射部位/マウス)、1匹のマウスの全ての注射部位から生じた腫瘍の合計質量をEpH4およびEpH4ILEIについて8週後または14週後に決定した。図5b:親のEpH4細胞によって誘発された小さな退縮結節(壊死した上皮細胞を含む(Oft et al., 1996))と比較して、注射後14週でEpH4-ILEI細胞によって誘導された大きな腫瘍。図5c:EpC40R-ILEI細胞によって誘導された腫瘍は、EpC40腫瘍よりも大きなサイズのより“海綿状”の外観およびより強い血管形成を示した。EpH4-ILEI誘導腫瘍細胞は、E-カドヘリンが存在せずビメンチンが存在することを示し、in vivoでのEMTを示唆した。EpC40R-ILEI腫瘍細胞は、腫瘍のほとんどの領域で間葉性、脱分化表現型およびE-カドヘリンの非発現を示し、一方、EpC40R誘発腫瘍はより分化しさらにE-カドヘリン(分布変化)を発現する(Janda et al., 2002a)。E-カドヘリンについて陽性であるEpC40R-ILEI腫瘍の領域はGFP発現が消失していることが示された。
【実施例9】
【0063】
実施例9. ILEIは転移を増強する
転移細胞の特徴のいくつかは間葉系表現型と連携しているので、本発明者らは、安定なILEI発現は転移を促進することができるか否かを調べた。この問題に答えるために、アポトーシスからは保護されているが転移性ではないEpC40細胞およびEpC40_ILEI細胞をヌードマウスの尾静脈に注射し、それらの肺への転移能力を定量した。仮説と一致して、EpC40_ILEI細胞を注射された7匹のマウスの全てが約30またはそれより多い肺転移を生じた(100%の動物)。対照的に、レトロウイルス発現構築物でGFPを発現しているEpC40細胞を8匹のマウスに注射した後、ただ1つの転移が検出された(12.5%の動物)(図6a)。再培養された腫瘍細胞は顕微鏡下でGFP陽性と検出された。これらの結果は、EpC40_ILEI細胞は、それらの本来の非転移性EpC40とは対照的に、血液循環中で生存し、これから逃れて、遠隔器官に定着する能力を獲得したにちがいないことを示している。図6は、ILEIは転移形成を誘導し、一方、転移性腫瘍細胞のILEIのノックダウンは転移を妨げることを示している。図6a:表示の細胞タイプの50000細胞をヌードマウスの静脈内に注射し、2.5−12週後に肺の連続切片で転移を数えることによって転移を判定した。10個の組織切片当たりの平均肺転移数が示されている。図6b:ILEI-siRNA発現レトロウイルス感染後、ILEIのノックダウンによる、EpRasXT細胞誘導転移のほぼ完全な抑制。図6c:コントロールマウスの正常な肺の血管と比較して、注射されたEpRasXT-siRNA-ILEI細胞は肺の血管中に蓄積されるように見える(矢印は多重層中の赤色蛍光タンパク質陽性細胞(左パネル))。図6d:EpH4-ILEI細胞を注射されたマウスの肺のヘマトキシリン/エオジン」(H&E)染色は、12週後のいくつかの血管周囲の小さなサイズの転移を示している。(e)2.5週後にEpRas-XTによって生じた大量の肺転移。EpH4細胞では注射後12週で肺に転移は検出されなかった。
【実施例10】
【0064】
実施例10. ILEIタンパク質ノックダウンは転移能力を低下させる
EpRas ex腫瘍細胞におけるILEIタンパク質レベルのノックダウン(ILEIのウェスタンブロット検出は図3cに示されている)は、コラーゲンゲル中でEMTを起こす能力(図3d)および尾静脈注射後のin vivo転移能(図6a,b)を顕著に低下させる。肺の予備的分析によって、これらの細胞のいくつかは血管内に蓄積されるが、血管壁から遊出することも宿主組織で生存することもできないことが示唆される(図6c)。
【実施例11】
【0065】
実施例11. 中和抗ILEI抗体は腫瘍細胞増殖を妨げることができる
a)第一の実験では、抗血清の精製方法および用いられた細胞処理方法は(q)に記載されている。得られた結果は、間葉性EpH4_ILEI細胞をアフィニティー精製抗ペプチド2(マウスの配列C-giktkspfeqhiknnketnkyeg)抗血清で48時間処理したとき、プラスチックプレートでの腫瘍細胞増殖が低下することを示している。この作用は間葉性細胞に特異的で、上皮性EpH4細胞については認められなかった。
b)更なる実験では、EpRas細胞をプラスチックプレートで4日間5ng/mLのTGFβで処理し、侵襲性表現型を誘導し、コラーゲンゲルに播種した(1.5%コラーゲンマトリックス100μLに2500細胞)。細胞をILEI免疫ウサギ血清のIgG画分で5日間処理したとき(総IgG濃度500μg/mL)、侵襲性表現型の部分的阻害および大きなサイズのコラーゲン構造物の数の減少が観察された。この作用は同じ濃度のコントロールIgG(非免疫ウサギの血清から作製)では観察されなかった。IgGの単離のために、血清を標準的プロトコルにしたがってセファロースAで精製した。図9では、抗ILEI IgG(左パネル)およびIgGコントロール(右パネル)で処理した後のコラーゲンゲル構造物の2つの写真が示されている。左パネルの矢印は、少数の細胞から成るより小さな細胞構造物によって検出できる抗ILEI作用を示している。これらの構造物は主として上皮性である。右側のパネルは、コラーゲンゲル中のTGFβ活性化された侵襲性EpRas細胞の構造を示している。この結果は、抗ILEI抗体によるILEI機能の遮断は、細胞侵襲という特徴を阻止し、EpRas細胞構造物のサイズ増加を抑制することができることを示している。
【実施例12】
【0066】
実施例12. ILEIはヒトの腫瘍組織で発現される
ヒト腫瘍サンプルでのILEIの発現を調べるために、種々の起源を有する癌腫パネルで免疫組織化学検査を実施した。ILEI検出の一次抗体として、アフィニティー精製ウサギポリクローナル血清を用いた(実施例11を参照)。このアフィニティー精製抗体は組換えヒトILEI(材料と方法(j)に記載したようにCos細胞の一過性発現によって得られた)とウェスタンブロット分析で反応することが示された。免疫組織化学検査のために、1μg/mLから10μg/mLの間の抗体濃度を用いた。検査した28の侵襲性腫瘍標本(乳房腺癌、大腸腺癌、肺扁平上皮癌)の全てでILEIの発現が検出された。ILEI発現は腫瘍細胞および周辺腫瘍間質で観察された。これらのデータは、ILEIはヒトの腫瘍でしばしば発現されることを示している。図8は、ヒトの腫瘍標本におけるILEIの免疫組織化学的検出を示す。肺扁平上皮癌(a)および侵襲性乳腺管癌腫(b)の例が示されている。ILEIはもっぱら腫瘍細胞で発現され、さらに腫瘍ストロマでも軽度に発現される。
【実施例13】
【0067】
実施例13. ILEIは喫煙ラット肺の単一細胞において発現される
ラットの肺におけるILEI発現に対するタバコの煙の影響を調べるために、オスのスプラーグドーリーラットを用いた。以下の研究のために、特殊設計のケージで、16本の紙巻タバコ“ロートハンデル(Rothandle)”(フィルター無し)の煙を4日間、および各週1日8本の紙巻タバコの煙をラットに吸入させた。
ラットを種々の期間タバコの煙で処理した。以下の時点で得られた肺をILEI発現細胞について調べた:4日間(1匹)、15日間(1匹)、5週間(1匹)、6週間(5匹)。煙で処理されなかった同じ数のコントロールラットを調べた。各時点および各個体におけるラット肺切片を上述のように免疫組織化学的検査によってILEIタンパク質発現について調べ、非喫煙ラット肺(4、15日目および5、6週)と比較した。
最初の分析によって、7匹のマウスのうち5匹で喫煙後5および6週でILEI発現細胞数の増加が示されたが、より短い喫煙期間後では数の増加は示されなかった。4および15日の非喫煙ラット肺(=4および15日コントロール)、並びに4、15日および6週間喫煙後のラット肺の1枚のスライドから得られた10枚の写真のILEI陽性細胞の平均数が図10aに示されている。両ラット肺(非喫煙(上段パネル)および6週喫煙)の2つの代表的な免疫組織染色が図10bに示されている。ILEI陽性細胞は下段のパネルで矢印を付されている。
【実施例14】
【0068】
実施例14. ILEI機能のin vivo解明のためのILEIトランスジェニックマウスの作製
Dingら(2002)が記載したように、Cre-lox系バイナリートランスジェニックアプローチlacZ/ニワトリβアクチンプロモーター(Z/AP)を用いてZ/AP-ILEI系統を作製した。このアプローチを用いると、beta.geoカセット(lacZ/ネオマイシン)切り出しが起こると、ILEI発現を検出することができた。
LacZ発現は、前記LacZ配列の切出しに先だってニワトリβアクチンプロモーターの活性の調査のために用いた。LacZの切り出しは続いて同じプロモーター配列によって駆動されるILEIの発現をもたらす。
ベクター構築物の作製のために、付加されたXhoIおよびBglII制限部位のオーバーハングをもつILEI cDNA(配列番号:3、ATGで開始する)の読み枠を標準的PCR技術で増幅した。これらの部位を用いてILEIコード配列をpCCALLベクター(XhoI/BglIIで開かれている、US6,689,937参照)に挿入した。
例えばUS6,689,937に記載されたように、標準的な卵母細胞マイクロインジェクション技術を用いてマウスの生殖細胞系列に前記構築物を挿入した。
作製された導入遺伝子マウスでのILEI発現が低い場合、YAC若しくは染色体フラグメントとして注入される完全なゲノム配列、天然若しくは異種プロモーターをもつcDNA、またはコード領域の全ておよび最適発現に必要であることが見出された他のエレメントを含むミニジーンのいずれかが上記の技術を用いてマウスゲノムに安定的に挿入される。
トランスジェニックマウスの分析は、マウス胎児または器官の標準的組織病理学的分析(例えばヘマトキシリン/エオジン)染色、免疫組織染色)によって、または種々の器官の初代細胞培養および標準的アッセイ(例えば分裂、移動、アポトーシス、細胞運動性を調べるためのアッセイ)によって実施される。
【0069】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮/間葉移行の阻害因子を作製するための下記a)−d)の使用:
a)配列番号:1のヒトポリヌクレオチド分子、または、配列番号:2のヒトポリペプチドと少なくとも約80%同一性を有するポリペプチドをコードする変種、または配列番号2のポリペプチドの少なくとも8アミノ酸を有する配列番号2のポリペプチドのフラグメントまたは配列番号2のポリペプチドの相補物;または
b)配列番号:2のヒトポリペプチドまたは前記ポリペプチドと少なくとも約80%同一性を有する変種または配列番号2のポリペプチドの少なくとも8アミノ酸を有する配列番号2のポリペプチドのフラグメント;または
c)配列番号2の位置42から開始する配列を有するポリペプチドまたは配列番号2のポリペプチドの少なくとも8アミノ酸を有する配列番号2のポリペプチドのフラグメント;または
d)c)のヒトポリペプチド由来の少なくとも20アミノ酸からなり、配列番号2の位置42から227の配列を有する抗原性ペプチド。
【請求項2】
請求項1のa)またはc)で定義されたポリペプチドまたはDNA分子またはd)で定義された抗原性ペプチドが上皮/間葉移行の阻害因子を作製するために免疫原として使用され、前記阻害因子が抗体または抗体断片である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項2記載の使用。
【請求項4】
請求項1のa)で定義されたDNA分子が上皮/間葉移行の阻害因子を作製するために使用され、前記阻害因子がアンチセンスオリゴヌクレオチド分子、短鎖干渉性RNA分子またはリボザイムである、請求項1記載の使用。
【請求項5】
活性成分として以下から選ばれる上皮/間葉移行の阻害因子を含む、上皮/間葉移行の阻害によって癌を治療するための医薬組成物:
a)請求項1記載の(ポリ)ペプチドまたはその断片と特異的に結合する抗体;
b)配列番号2のポリペプチドの発現を阻害するアンチセンス分子;
c)配列番号2のポリペプチドの発現を阻害するリボザイム;
d)配列番号2のポリペプチドの発現をRNA干渉によって阻害する短鎖干渉性RNA(siRNA)分子。
【請求項6】
転移治療用および予防用である、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
活性成分として以下から選ばれる上皮/間葉移行の阻害因子を含む、上皮/間葉移行の阻害によって慢性閉塞性肺疾患を治療するための医薬組成物:
a)請求項1記載の(ポリ)ペプチドまたはその断片と特異的に結合する抗体;
b)配列番号2のポリペプチドの発現を阻害するアンチセンス分子;
c)配列番号2のポリペプチドの発現を阻害するリボザイム;
d)配列番号2のポリペプチドの発現をRNA干渉によって阻害する短鎖干渉性RNA(siRNA)分子。
【請求項8】
活性成分として以下から選ばれる上皮/間葉移行の阻害因子を含む、上皮/間葉移行の阻害によって線維症病巣を伴う疾患を治療するための医薬組成物:
a)請求項1記載の(ポリ)ペプチドまたはその断片と特異的に結合する抗体;
b)配列番号2のポリペプチドの発現を阻害するアンチセンス分子;
c)配列番号2のポリペプチドの発現を阻害するリボザイム;
d)配列番号2のポリペプチドの発現をRNA干渉によって阻害する短鎖干渉性RNA(siRNA)分子。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図3f】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図6e】
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【図6f】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【公開番号】特開2011−201903(P2011−201903A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115784(P2011−115784)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【分割の表示】特願2006−525104(P2006−525104)の分割
【原出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】