説明

上着

【課題】 腕や肩が動かし易く、更に、肩上面部に対する保温性低下が抑制された上着を提供する。
【解決手段】 本発明は、キルティング布部材によって構成され、該キルティング布部材は表生地と裏生地と該表生地及び裏生地の間に介在された芯材とを有し且つ該芯材の移動を規制するステッチが設けられてなる上着であって、前記キルティング布部材には、着用者の肩上面部を被覆する肩上面被覆部の外側周縁に沿って弧状の曲線をなし且つ略水平に延びるように、ステッチが設けられてなることを特徴とする上着を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表生地と裏生地と該表生地及び裏生地の間に介在された芯材とを有し該芯材の移動を規制するステッチが設けられたキルティング布部材によって構成されてなる上着に関し、特に、芯材として、ダウンやフェザーが用いられたダウンジャケット等の上着に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の上着としては、例えば図4に示すものが知られている。
即ち、芯材としてダウン及びフェザーを介在させたキルティング布部材が用いられて、それぞれ上着本体51及び該本体51に縫着された袖スリーブ52が形成されてなるものである。
斯かる従来の上着は、通常、着用者の腕付け根から手先側のみを被覆するような(即ち肩上面部を被覆しないような)筒状形状とされたセットインタイプの袖スリーブ52が、上着本体51の袖ぐりに縫着されてなる所謂セットイン袖仕立てとされてなり、適宜、上着本体51には略水平となるようにステッチ55が設けられ、また、袖スリーブ52には、軸方向に略直交するように、ステッチ55が設けられてなる(例えば、下記特許文献1)。
【0003】
しかしながら、上記従来の上着に於いては、着用していると芯材が肩上面部を被覆する肩上面被覆部56の前後両側から下方に落下して、腕の付け根や脇を被覆する部位等で溜まってしまうこととなる。
従って、上記従来の上着は、芯材の移動によって腕や肩が動かし難くなったり、また、肩上面部に対する保温性が低下したりするという問題を有している。
【0004】
また、図5に示すように、袖スリーブ62として着用者の肩上面部を被覆する肩上面被覆部66を有するラグランタイプのスリーブが用いられて、ラグラン袖仕立てとされてなる上着も知られている。
斯かるラグラン袖仕立ての上着は、見た目には腕や肩の動かしやすいような印象を与えがちである。
しかしながら、このような上着であっても、前記セットイン袖仕立てのものと同様に、芯材の下方への移動及び蓄積が生じており、場合によっては、肩上面被覆部66から側方へ向けて芯材が移動しうることから、前記セットイン袖仕立てのものよりもより芯材が下方に移動及び蓄積し易いものとなる。
従って、斯かるラグラン袖仕立てのスリーブ62は、セットイン袖仕立てのものと同様に、場合によってはそれ以上に、腕や肩が動かし難くなり且つ肩上面部に対する保温性が低下するという問題を有している。
【0005】
【特許文献1】特開2004−169211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の問題点に鑑み、本発明の課題は、腕や肩が動かし易く、更に、肩上面部に対する保温性低下が抑制された上着を提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明は、キルティング布部材によって構成され、該キルティング布部材は表生地と裏生地と該表生地及び裏生地の間に介在された芯材とを有し且つ該芯材の移動を規制するステッチが設けられてなる上着であって、前記キルティング布部材には、着用者の肩上面部を被覆する肩上面被覆部の外側周縁に沿って弧状の曲線をなし且つ略水平に延びるように、ステッチが設けられてなることを特徴とする上着を提供する。
斯かる上着によれば、ステッチが肩上面被覆部の外側周縁に沿って設けられてなるので、芯材の大半は、肩上面被覆部に維持されることとなる。また、略水平に延びるように設けられてなるので、芯材の一部がステッチ近傍に移動しても、ステッチに沿って一方向にのみ移動することが抑制され、一カ所に芯材が集中することも抑制される。
更に、弧状の曲線をなすように設けられてなるので、ステッチの屈折部分である角部分を少なくすることができ、芯材が角部分に集中的に溜まってしまうということが抑制される。
従って、比較的腕や肩が動かし易く、肩上面部に対する保温性低下が抑制されることとなる。
【0008】
本発明に於いては、着用者の胴を被覆する上着本体に腕を被覆する袖スリーブが縫着されて構成されてなり、前記袖スリーブとして着用者の肩上面部を被覆するラグランタイプのスリーブが用いられ、ラグラン袖仕立てとされてなるものが好ましい。
ラグラン袖仕立ての上着は、肩上面被覆部と腕を被覆する部分とが袖スリーブの縫着線によって区画されておらず、芯材の移動範囲が広く、肩上面被覆部からより多くの芯材が移動し易い。従って、セットイン袖仕立てのものに比して、本発明の効果をより一層顕著に享受できる。
【0009】
更に、本発明に於いては、前記キルティング布部材の表生地の更に表側に、防水性布部材が積層されて、釣り用とされてなるものが好ましい。
釣りに於いては、シャクリ時やポンピング時等に腕や肩を大きく動かすことが多いことから、上着を釣り用とした場合には、本発明の効果をより一層顕著に享受できることとなる。
また、前記上着に於いては、防水性布部材が積層されてなることから、水しぶきを被ったり雨に打たれたりした場合に於いても、内部に水がしみ込んで保温性が低下することも抑制される。
【発明の効果】
【0010】
以上の通りであり、本発明の上着は、腕や肩が動かし易く、更に、肩上面部に対する保温性低下が抑制されたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態の釣り用の上着を示す前面図であり、図2は該上着を裏返しにした状態の前面図であり、図3は裏返し状態の該上着の斜め上方からの斜視図である。
図1、図2に示すように、本実施形態の上着は、着用者の胴を被覆しうるように前身頃及び後身頃が連結されて形成された上着本体1と、該上着本体1に取り付けられた腕を被覆する袖スリーブ20とを備えて構成されている。
尚、図1に於いては、表側の前面下部にポケット2、2が左右に1つずつ形成された状態が示されている。
【0012】
前記上着本体1及び袖スリーブ20は、キルティング布部材10及びその表側に積層された防水性布部材30によって構成されている。
前記防水性布部材30は、水滴を通さない布部材である。前記防水性布部材30としては、例えば、透湿防水加工が施されたナイロン織物等が用いられる。このような防水性布部材30として、具体的には、ナイロン織物の裏面側に、水滴は通さないが水蒸気は通す微細孔が設けられたフッ素樹脂シートが積層され且つ張り合わされるされることにより形成されてなるものが挙げられる。
【0013】
図2、図3に示すように、前記キルティング布部材10は、表生地と裏生地10aとそれらの間に介在された芯材とを有し且つ該芯材の移動を規制する複数本のステッチ15が設けられて構成されている(尚、図2、3に現れている表面は裏生地10a)。
前記芯材としては、通常、ダウン、フェザー等の羽毛、綿又は羊毛等が使用されうる。
本実施形態に於いては、軽量で保温性に優れる点から、芯材として羽毛が用いられている。
【0014】
前記表生地及び裏生地10aは、一般にジャケット等の裏生地として用いられている滑り性の良好な生地、例えば、ナイロンやポリエステル等の織物が使用されている。
前記ステッチ15は、芯材の移動を規制すべく、表生地及び裏生地10aの間に芯材が介在した状態で、ポリエステル糸又はポリエステル混紡糸等の縫い糸を用いて表生地及び裏生地10aを縫い合わして形成された縫い目線であり、ミシンを用いて形成されている。
【0015】
前記ステッチ15は、表生地と裏生地10aの間の空間を複数個に区画して、複数個の芯材用空間16を区画形成するように設けられてなり、各芯材用空間16に介在された芯材は、それぞれ移動範囲がその芯材用空間16内に規制されている。
そして、前記ステッチ15として、具体的には、上着本体1に胴の軸方向に対して傾斜するように設けられたステッチ15aや、袖スリーブ20に腕の軸方向に対して略垂直方向となるように設けられたステッチ15a等が備えられている。
【0016】
本実施形態の上着は、図1、図2、図3に示すように、筒状の袖スリーブ20が上着本体1に縫着されて形成されてなり、該袖スリーブ20として着用者の肩上面部を被覆する肩上面被覆部17をも備えたラグランタイプのスリーブ20が用いられ、ラグラン袖仕立てとされてなる。
このラグラン袖仕立ての上着に於いては、上着本体1の脇下部3から襟ぐりまで延びる斜線に沿って袖スリーブ20の基端縁が縫着されてなり、前面視で脇下部3から襟ぐりまで傾斜した縫着線5が延在している。
【0017】
本実施形態の上着に於いては、図2、図3に示すように、上記ステッチ15aに加えて、更に着用者の肩上面部を被覆する肩上面被覆部17の外側周縁に沿って弧状の曲線をなし且つ略水平に延びるように、ステッチ15bが袖スリーブ20の前記キルティング布部材10に設けられてなる。
具体的には、着用者の肩の上部であって、肩の稜線部分18及びその周辺部分、好ましくは、肩甲骨上端と鎖骨とに及ぶ部分を覆う肩上面被覆部17の外側(即ち、肩先側)の周縁に沿って、略円弧状をなすステッチ15bが設けられている。
より具体的には、肩上面被覆部17の肩先側の周縁に所定間隔を空けて沿うように、連続した略円弧状のステッチ15bが設けられてなる。即ち、該ステッチ15bが、前記肩上面被覆部17の肩先側をやや外側から包囲するように形成されている。
【0018】
前記ステッチ15bは、袖スリーブ20が袖ぐりに縫着されて、上着の前後両側に形成された袖ぐりの両縫着線5、5間に掛け渡されるように形成されている。
尚、前記袖ぐりの両縫着線5、5は、互いに下方にいくほど間隔が広がるテーパー状に形成されており、襟ぐりの縫着線5、袖ぐりの両縫着線5、5及び該ステッチ15bによって、これらに囲繞された略扇形の芯材収容空間16が形成されている。
【0019】
本実施形態の上着は、上記の如く、肩上面被覆部17の肩先側を外側から包囲するようにステッチ15bが形成されてなるので、芯材が下方にズレ落ちることが防止され、比較的腕や肩が動かし易く、肩上面部に対する保温性の良好なものとなり、冬場の釣りに極めて好適なものとなる。
【0020】
尚、本実施形態の上着は、上記の如く構成されてなるが、本発明の上着は、上記構成に限定されず適宜設計変更可能である。
【0021】
例えば、上記実施形態に於いては、キルティング布部材10の表側に、防水性布部材30が積層されて、キルティング布部材10に設けられたステッチ15は防水性布部材30に覆われて構成されたが、本発明に於いては、例えば、キルティング布部材10の表生地として防水性のものを用いること等によって、別途キルティング布部材10に防水性布部材30が積層されず、裏返しにしなくともキルティング布部材10が表側に露出するもの、即ち、ステッチ15が表側に露出する態様のものとして構成されていてもよい。
また、上記実施形態に於いては、ラグラン袖仕立てのものを採用したが、セットイン袖仕立てのものであっても本発明の意図する範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施形態の上着を示す正面図
【図2】同実施形態の上着の裏返し状態を示す正面図
【図3】同実施形態の上着の裏返し状態を示す斜視図
【図4】従来の上着を示す正面図
【図5】従来の上着を示す正面図
【符号の説明】
【0023】
1 ・・・上着本体
10a(10)・・・キルティング布部材
15b(15)・・・ステッチ
17・・・肩上面被覆部
20・・・袖スリーブ
30・・・防水性布部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キルティング布部材(10)によって構成され、該キルティング布部材(10)は表生地と裏生地と該表生地及び裏生地の間に介在された芯材とを有し且つ該芯材の移動を規制するステッチ(15)が設けられてなる上着であって、
前記キルティング布部材(10)には、着用者の肩上面部を被覆する肩上面被覆部(17)の外側周縁に沿って弧状の曲線をなし且つ略水平に延びるように、ステッチ(15b)が設けられてなることを特徴とする上着。
【請求項2】
着用者の胴を被覆する上着本体(1)に腕を被覆する袖スリーブ(20)が縫着されて構成されてなり、前記袖スリーブ(20)として着用者の肩上面部をも被覆するラグランタイプの袖スリーブ(20)が用いられ、ラグラン袖仕立てとされてなる請求項1記載の上着。
【請求項3】
キルティング布部材(10)の表生地の更に表側に、防水性布部材(30)が積層されて、釣り用とされてなる請求項1又は2記載の上着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−18900(P2010−18900A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179141(P2008−179141)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】