上肢運動機能複合診断装置
【課題】1台で簡便に、短時間で上肢運動機能複合診断を、客観的に、かつ、数値として定量的に機能別解析検査を行なえる上肢運動機能複合診断装置を提供すること。
【解決手段】複数のボタンが配置されている入力装置と、入力装置からの出力を受け付ける情報処理装置と、情報処理装置の出力を表示する表示装置と、を有し、情報処理装置は、表示装置に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行なう指示表示部と、入力装置のボタンの押打に基づく出力を、ボタン押打データとして記録するボタン押打データ記録部と、ボタン押打基準データを予め記録してなるデータベース部と、ボタン押打データ記録部に記録されたボタン押打データと、データベース部に記録されたボタン押打基準データとを比較処理する比較処理部と、比較処理部の結果を表示装置に表示する結果表示部と、を有する上肢運動機能複合診断装置とする。
【解決手段】複数のボタンが配置されている入力装置と、入力装置からの出力を受け付ける情報処理装置と、情報処理装置の出力を表示する表示装置と、を有し、情報処理装置は、表示装置に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行なう指示表示部と、入力装置のボタンの押打に基づく出力を、ボタン押打データとして記録するボタン押打データ記録部と、ボタン押打基準データを予め記録してなるデータベース部と、ボタン押打データ記録部に記録されたボタン押打データと、データベース部に記録されたボタン押打基準データとを比較処理する比較処理部と、比較処理部の結果を表示装置に表示する結果表示部と、を有する上肢運動機能複合診断装置とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上肢運動機能複合診断装置に関し、より詳細には、上肢の複数の運動機能を客観的に定量的に数値として短時間で診断することができる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上肢運動機能の診断は、例えば現在における被験者の脳機能の状態を把握し、リハビリテーションを行なうために非常に重要なことである。通常、上肢運動機能の診断は、医師が診断対象者(被験者)に対し様々な動作をさせることで評価するのが一般的である。しかしながら、実際の医療の現場では一人に割ける評価時間には限度があり、時間と場所がおおいに制限される。
【0003】
一般に、運動機能を迅速に行なうための技術として、例えば、下記特許文献1乃至3に記載がある。
【0004】
【特許文献1】特開2003−052770号公報
【特許文献2】特開2004−057357号公報
【特許文献3】特開2005−054597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1乃至3に記載の技術では、複数の装置を必要し、短時間で特定の機能単位すなわち反復交互運動機能、リズム形成機能、推尺機能等を評価することができないといった課題がある。これらの機能を短時間に判別して評価するにはこれまでの装置では実現されていなかった。
【0006】
以上、本発明は上記課題を鑑み、1台で簡便に、短時間で上肢運動機能複合診断を、客観的に、かつ、数値として定量的に機能別解析検査を行なえる上肢運動機能複合診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の観点に係る上肢運動機能複合診断装置は、複数のボタンが配置されている入力装置と、入力装置からの出力を受け付ける情報処理装置と、情報処理装置の出力を表示する表示装置と、を有し、情報処理装置は、表示装置に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行なわせる指示表示部と、入力装置のボタンの押打に基づく出力を、ボタン押打データとして記録するボタン押打データ記録部と、基準となるボタン押打基準データを予め記録してなるデータベース部と、押打ボタンデータ記録部に記録されたボタン押打データと前記データベース部に記録されたボタン押打基準データとを比較処理する比較処理部と、比較処理部の結果を表示装置に表示する結果表示部と、を有する。
【0008】
また、本観点において、限定されるわけではないが、指示表示部は、入力装置における一のボタンを連続して押打させる表示、近い位置にある二つのボタンを連続して交互に押打させる表示、及び、遠い位置にある二つのボタンを連続して交互に押打させる表示を順次行なわせることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
以上、この簡便な装置により、空間的にも現行の医療スペースで実行可能となり、時間的にも短時間、例えば1分程度で実行可能で利用可能な医療検査が提供できる。また定量的診断のみならず治療効果判定や経過観察を客観的に行なうことができ、医療の地域差や医師の専門能力差に大きく左右されず、より良い医療の提供に寄与することができる。すなわち1台で簡便に、短時間で上肢運動機能複合診断を、客観的に、かつ、数値として定量的に機能別解析検査を行なえる上肢運動機能複合診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る上肢運動機能複合診断装置の概略図である。
【図2】実施形態に係る情報処理装置の構成概略図である。
【図3】実施形態に係る情報処理装置の機能ブロック図である。
【図4】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図5】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図6】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図7】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図8】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図9】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図10】実施形態に係る上肢運動機能複合診断プログラムのフローを示す図である。
【図11】実施例に係る第一のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【図12】実施例に係る第二のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【図13】実施例に係る第三のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【図14】実施例に係る第四のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【図15】実施例に係る第五のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【図16】実施例に係る第六のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の記載にのみ限定されることがないことはいうまでもない。
【0012】
図1は本実施形態に係る上肢運動機能複合診断装置(以下「本装置」と呼ぶことがある。)1の概略図である。図1で示されるように、本装置1は、複数のボタンが配置されている入力装置2と、入力装置2からの出力を受け付ける情報処理装置3と、情報処理装置3の出力を表示する表示装置4と、印刷装置5と、を有し、情報処理装置3は、表示装置4に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行なわせる指示表示部31と、入力装置のボタンの押打に基づく出力をボタン押打データとして記録するボタン押打データ記録部32と、ボタン押打基準データを予め記録してなるデータベース部33と、ボタン押打データとデータ押打基準データとを比較処理する比較処理部34と、比較処理部34の結果を表示装置に表示する結果表示部35と、を有する。
【0013】
本実施形態において、入力装置2は、情報処理装置3に対し、各種の情報を出力することのできるものであり、複数のボタンを配置した装置専用の装置を採用することができるが、いわゆるキーボードやマウス等に機能を兼ねさせることもできる。また入力装置においては、上記専用装置、キーボード、マウスの他、タッチパネル等のタッチセンサー、加速度センサー、トルクセンター、位置センサーなどを単独又は併用して用いることもできる。このようにすることでボタンの押打時間だけでなく、そのときにおける加速度、トルク等を計測することが可能となる。
【0014】
本装置における情報処理装置3は、入力装置により入力された結果に対し処理を行い、その結果を出力することのできるものである。図2に、情報処理装置3の装置構成の概略を示しておく。本図で示されるとおり、情報処理装置3は、入力装置等の周辺機器からの信号を授受するためのI/Oポート301と、RAM等のメモリ302と、中央演算装置であるCPU303と、ハードディスク等の記録媒体304と、を有しており、それらがバス305を介して接続されている。
【0015】
表示装置4は、情報処理装置3に接続され、情報処理装置3が行なった処理の結果を表示し、更には、情報処理装置3が被験者に対して診断のために必要な動作を行なわせるための指示を表示するために用いることができるものであり、限定はされないが、例えば液晶ディスプレイ等の一般的な表示装置を挙げることができる。
【0016】
印字装置5は、情報処理装置3に接続されており、診断の結果を紙などの媒体に印刷して表示を行うことができるものである。この印字装置としては市販されているプリンタが広く適用可能である。また、印字装置5は、表示装置4による表示のみで十分と判断されるような場合には構成要件として省略可能である。
【0017】
次に、本装置の動作について説明する。図3は、本装置における情報処理装置3の機能ブロックを示す図である。
【0018】
本図で示すように、情報処理装置3は、機能ブロックとして、表示装置4に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行なわせる指示表示部31と、入力装置のボタンの押打に基づく出力をボタン押打データとして記録するボタン押打データ記録部32と、ボタン押打基準データを予め記録してなるデータベース部33と、ボタン押打データとボタン押打基準データを比較処理する比較処理部34と、この比較処理の結果を表示装置に表示させるための結果表示部35、を有する。なお本情報処理装置3は、上記の限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、ハードディスクなどの記録媒体に、プログラムを格納し、このプログラムを実行して、上記各機能を有する部として実現させることができる。
【0019】
本実施形態において指示表示部31は、被験者に入力装置のボタンの押打を促す表示を表示装置に行なわせることのできる部である。この表示については特に限定されるわけではないが、同一のボタン(キー)を一定時間できる限り早く押打させる指示表示、比較的近い位置の(好ましくは隣接する)二つのボタンを一定時間できる限り早く押打させる指示表示、比較的遠い位置の二つのキーを一定時間できる限り早く押打させる指示表示、を行なわせることが好ましい。このように複数の異なるボタンを配置し、交互に押打させることで上肢運動機能複合診断を行うことができ、特に後述の実施例から明らかなようにパーキンソン病に罹患しているか否かについても判定を行うことができる。なお本指示表示部31には、表示と同時に音声のガイドを行う音声ガイド機能を備えさせることも望ましい。本実施形態では、反復交互運動検査であるアジアドコキネシスを採用し、客観的に数値として、定量測定することができるようになる。
【0020】
なお、この指示表示に先立ち、被験者の氏名、性別、年齢、病名といった属性情報の入力を行なわせるよう、属性入力指示表示を行い、被験者の属性データを記録する属性記録部を設けておくことも好ましい。このようにすることで、より細やかな診断、判定が可能となる。この入力は、例えばキーボード等の入力装置を用いて行なわせることが可能である。
【0021】
ボタン押打データ記録部32は、上述の通り入力装置のボタンの押打に基づく出力をボタン押打データとして記録する部であり、より具体的には、一定の期間におけるボタンの押打数(押打頻度)を押打数データとして記録する、又は、一のボタンを押打した後に次のボタンを押打するまでの時間を測定し、押打間隔データとして時系列的に記録する。例えば、被験者に10秒間所定のボタンを押打させ、1秒毎におけるボタンの平均押打回数を押打データとすることもできるし、更には、ボタン押打間の時間の平均、標準偏差、変動係数、その分布等をデータとして用いることもできる。
【0022】
また、本実施形態においてデータベース部33は、ボタン押打基準データを予め記録している。ここで「ボタン押打基準データ」とは、後述の比較処理部における処理の基準となるボタン押打データであって、例えば多数の健常者の上記ボタン押打データの集合、その平均値、更にはこれらに基づき作成される回帰直線、標準偏差、変動係数等を採用することができる。またボタン押打基準データは、健常者のボタン押打データ及びそれに基づき得られるデータだけでなく、特定の疾患が疑われる被験者のボタン押打データ及びそれに基づき得られる各種データとすることも可能であるし、これらをそれぞれ年齢別、世代別、男女別にさらにグループとして分けておくことも好ましい。なお簡便な方法の一例としては、年齢に対し、健常者の1秒あたりのボタン押打数(押打頻度)をボタン押打データとした場合に作成できる回帰直線のデータをボタン押打基準データとしておくことがあげられ、また、年齢に対し、健常者のボタン押打間の時間の変動係数をボタン押打基準データとしておくこともできる。一度の診断処理に用いられるボタン押打基準データは、一つである必要はなく、複数用いることが診断の精度をより向上させる上で好ましい。
【0023】
なお図4乃至図6は、ボタン押打基準データの一例を示す図である。図4は、60歳の健常者の男性の例であり、同じボタンを10秒連打した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものであり、図5は、隣接するボタンを10秒間交互に連打した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものであり、図6は、離れた距離にあるボタンを10秒間交互に連出した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものである。なお同じボタンを連打した場合において、平均押打間隔(以下「M」という。)は0.18秒、標準偏差値(以下「SD」という。)は0.02、変動係数(以下「CV」という。)は0.09であった。また隣接するボタン連打のMは0.19秒、SDは0.01、CVは0.06であった。また隣接するボタンを交互に連打した場合のMは0.51秒、SDは0.03、CVは0.05であった。また離れた距離にあるボタン連打のMは0.51秒、SDは0.03、CVは0.05であった。
【0024】
また同様に、73歳女性の健常者の他の一例を図7乃至図9に示しておく。図7は、同じボタンを10秒連打した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものであり、図8は、隣接するボタンを10秒間交互に連打した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものであり、図9は、離れた距離にあるボタンを10秒間交互に連出した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものである。なお同じボタンを連打した場合において、Mは0.21秒、SDは0.02、CVは0.10であった。一方隣接するボタン連打のMは0.28秒、SDは0.11、CVは0.41であった。離れたボタンを連打した場合のMは0.63、SDは0.05、CVは0.08であった。
【0025】
また、本実施形態において比較処理部34は、ボタン押打データ記録部に記録されたボタン押打データと、前記データベース部に記録されたボタン押打基準データとを比較処理する。例えば、被験者のボタン押打データが被験者の属するグループにおけるボタン押打基準データと比較し、著しく遅れている場合は上肢運動機能状態において問題が発生している可能性がある旨判断し、許容の範囲内であれば問題は発生していない旨判断することが挙げられる。上記の回帰直線の例では、この回帰直線から被験者のボタン押打データが所定の値以上離れている場合は問題が発生している可能性がある旨を、離れていない場合は問題ない旨をそれぞれ結果として出力することが例示できる。
【0026】
そして、結果表示部35は、上記比較処理部34の結果を表示装置に表示する。これにより被験者は自己の結果を確認することができ、後の治療に役立てることができるようになる。また結果表示部35は、比較処理終了後、印刷装置5に対し、この結果を紙などに印刷させる機能を有することが好ましい。このようにすることで後の診断、治療に有効に役立てることができるようになる。
【0027】
次に、実施形態に係る上肢運動機能複合診断装置を用いた測定について図10のフローを用いて説明する。このフローは、情報処理装置3の記憶装置304に格納されたプログラム(以下「本プログラム」という場合もある。)がメモリ302に読み込まれた後実行するステップの概略を示すものである。具体的には、(1)被験者の属性情報の入力を要求し、入力された属性情報を属性データとして記録するステップ、(2)表示装置に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行うステップ、(3)入力装置のボタンの押打に基づく出力を、ボタン押打データとして記録するステップ、(4)このボタン押打データと、予め記録されたボタン押打基準データとを比較処理するステップと、(5)比較処理の結果を表示装置に表示するステップ、を有する。
【0028】
本プログラムは、実行後、まず、(1)被験者の属性情報の入力を要求し、入力された属性情報を属性データとして記録する(S1)。なおここでの属性とは様々なデータが採用可能であるが例えば氏名、性別、年齢、病名等が該当する。受け付けた属性に関する情報は、属性データとしてメモリ302又は記憶装置304の一部領域に格納される。
【0029】
次に、(2)表示装置に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行う(S2)。この表示は、上述のように、特に限定されるわけではないが、同一のボタン(キー)を一定時間できる限り早く押打させる指示表示、比較的近い位置の二つのボタンを一定時間できる限り早く押打させる指示表示、比較的遠い位置の二つのキーを一定時間できる限り早く押打させる指示表示、を行なわせることが好ましい。なお、キーの押打において、右手、左手の入力それぞれを別々に要求する表示とすることも有用である。
【0030】
次に、(3)入力装置のボタンの押打に基づく出力を、ボタン押打データとして記録する(S3)。このステップの具体的な例としては、例えば、一定の期間におけるボタンの押打数を押打数データとして記録する、又は、一のボタンを押打した後に次のボタンを押打するまでの時間を測定し、押打間隔データとして記録する。例えば、被験者に10秒間所定のボタンを押打させ、1秒毎におけるボタンの平均押打回数を時系列的に記録したデータを押打データとして保持させることがあげられる。なおここにおいてボタン押打データは、メモリ302又は記憶装置304の一部領域に格納される。なおこのステップにおいて、右手及び左手のボタン押打データをそれぞれ別のデータとして格納することは有用である。
【0031】
次に、(4)ボタン押打データと、予め記録されたボタン押打基準データとを比較処理する(S4)。ここでボタン押打基準データは予めメモリ302又は記憶装置304の一部領域に格納しておく必要がある。そしてこの記録されたボタン押打データとの差異を比較し、その差異が所定の値を超えている場合には上肢運動機能に問題があるものと判定し、所定の値以内に抑えられている場合には上肢運動機能に問題がないものと判定する。なおこの結果は、メモリ302又は記憶装置304の一部領域に格納しておくことが有用である。
【0032】
そして、(5)比較処理の結果を表示装置に表示する(S5)。この結果、これにより被験者は自己の結果を確認することができ、後の治療に役立てることができるようになる。
【0033】
なお比較処理を行った後、表示装置4に診断結果を表示すると同時に、同時に印字装置5に印字出力させることも好ましい。なおこの処理では後日、再検査要と判断された項目について診断対象者が専門の医師による診断を受ける際役立つように当該項目の詳細な結果をプリンタに出力させることが有用である。
【0034】
(実施例)
以下、上記実施形態に係る上肢運動機能複合診断装置について実際に作製し、その効果を確認した。以下に詳細に説明する。
【0035】
まず、小脳機能障害患者(73歳女性)の指に、加速度センサーを装着させ、この加速度センサーを装着した指を用い、診断処理を行った。
【0036】
まず、表示装置としての液晶モニタに、キーボードの一つ「O」キーをできるだけ速く正確に10秒間押打するよう表示し、被験者に同動作を行わせ、この期間における押打数の1秒あたりの平均値を第一のボタン押打データD1、ボタン押打間の時間の変動係数を第二のボタン押打データD2として記録した。次に、隣接した2つのキー「P」キーと「O」キーを、交互にできるだけ速く正確に10秒間押打してもらい、この期間における押打数の1秒あたりの平均を第三のボタン押打データD3、ボタン押打間の時間の変動係数を第四のボタン押打データD4、として記録した。そして、最後に、離れた2つのキー「Q」キーと「O」キーを交互にできるだけ速く正確に10秒間押打してもらい、この期間における押打数の1秒あたりの平均を第五のボタン押打データD5、ボタン押打間の時間の変動係数を第六のボタン押打データD6として記録した。なお、この動作は左手、右手それぞれ同じ様に行った。
【0037】
なお、本実施例では、上肢運動機能複合診断に先立ち、13〜88歳の男性14名と女性11名の健常者25名(平均年齢51歳±26.1)に対し、上記と同様の表示及び指示を行い、第一乃至第六のボタン押打基準データを作成した。ここで第一のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第一のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とし、第二のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第二のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とし、第三のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第三のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とした。また第四のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第四のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とし、第五のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第五のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とし、第六のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第六のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とした。なお、第一乃至第六のボタン押打基準データは、右手、左手それぞれに対し別々に作成した。なお、第一のボタン押打基準データの概略を図11に、第二のボタン押打基準データの概略を図12に、第三のボタン押打基準データの概略を図13に、第四のボタン押打基準データの概略を図14に、第五のボタン押打基準データの概略を図15に、第六のボタン押打基準データの概略を図16に、それぞれ示しておく。なお各図中、○印は被験者の右手又は左手のボタン押打データを示す。
【0038】
そして、上記第一乃至第六のボタン押打基準データと被験者のボタン押打基準データとを比較したところ、被験者の第一乃至第六のボタン押打データは、いずれも、ボタン押打基準データに対し優位に健常者の信頼区間外を示していることが確認でき、表示装置にその旨表示させた。
【0039】
次に、パーキンソン患者(78歳男性)の指に、加速度センサーを装着させ、この加速度センサーを装着した指を用い、上記小脳機能障害患者と同様の診断処理を行った。なおここでボタン押打基準データは、上記小脳機能障害患者と同様のデータを用いた。なお上記図11乃至16における△印が本被験者のボタン押打データである。
【0040】
そして、上記第一乃至第六のボタン押打基準データと被験者のボタン押打基準データとを比較したところ、被験者の第一のボタン押打データのうち左手のデータは健常者の95%信頼区間内であったが、右手のデータは健常者の信頼区間外であった。また、第二のボタン押打データは右手及び左手のいずれも健常者の信頼区間外であった。また被験者の第三のボタン押打データのうち左手のデータは健常者の95%信頼区間内であったが、右手のデータは健常者の信頼区間外であった。また被験者の第四のボタン押打データのうち左手のデータは健常者の95%信頼区間内であったが、右手のデータは健常者の信頼区間外であった。また被験者の第五のボタン押打データのうち左手のデータは健常者の95%信頼区間内であったが、右手のデータは健常者の信頼区間外であった。また被験者の第六のボタン押打データのうち右手のデータは健常者の95%信頼区間内であったが、左手のデータは健常者の信頼区間外であった。
【0041】
この結果、上肢運動機能複合診断を行うことができる旨確認することができた。特に、一部のボタン押打データでは信頼区間内であったとしても、他のボタン押打データを測定した場合に信頼区間外にある場合もあり、一の診断処理において複数のボタン押打データを測定し、判定材料とすることは信頼性を高める上でより好ましいことが確認できた。
【0042】
なお、本実施例において、押打するキーボードのキーは便宜上「O」「P」「Q」と選択しているが、距離が異なる限りにおいて限定されず、他のキー例えばキーボードの場合「K」「L」「A」の組み合わせであってもよいし、「K」「M」「Q」のように一直線上に並んでなくてもよい。
【0043】
以上、本実施例によりと、上肢運動機能複合診断装置は、客観的に数値として定量的に上肢運動機能を複合的に診断できる上肢運動機能複合診断装置を提供することが可能となることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、例えば情報処理装置を用いて実現される上肢運動機能複合診断装置として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0045】
1…上肢運動機能複合診断装置、2…入力装置、3…情報処理装置、4…表示装置、5…印字装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、上肢運動機能複合診断装置に関し、より詳細には、上肢の複数の運動機能を客観的に定量的に数値として短時間で診断することができる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上肢運動機能の診断は、例えば現在における被験者の脳機能の状態を把握し、リハビリテーションを行なうために非常に重要なことである。通常、上肢運動機能の診断は、医師が診断対象者(被験者)に対し様々な動作をさせることで評価するのが一般的である。しかしながら、実際の医療の現場では一人に割ける評価時間には限度があり、時間と場所がおおいに制限される。
【0003】
一般に、運動機能を迅速に行なうための技術として、例えば、下記特許文献1乃至3に記載がある。
【0004】
【特許文献1】特開2003−052770号公報
【特許文献2】特開2004−057357号公報
【特許文献3】特開2005−054597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1乃至3に記載の技術では、複数の装置を必要し、短時間で特定の機能単位すなわち反復交互運動機能、リズム形成機能、推尺機能等を評価することができないといった課題がある。これらの機能を短時間に判別して評価するにはこれまでの装置では実現されていなかった。
【0006】
以上、本発明は上記課題を鑑み、1台で簡便に、短時間で上肢運動機能複合診断を、客観的に、かつ、数値として定量的に機能別解析検査を行なえる上肢運動機能複合診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の観点に係る上肢運動機能複合診断装置は、複数のボタンが配置されている入力装置と、入力装置からの出力を受け付ける情報処理装置と、情報処理装置の出力を表示する表示装置と、を有し、情報処理装置は、表示装置に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行なわせる指示表示部と、入力装置のボタンの押打に基づく出力を、ボタン押打データとして記録するボタン押打データ記録部と、基準となるボタン押打基準データを予め記録してなるデータベース部と、押打ボタンデータ記録部に記録されたボタン押打データと前記データベース部に記録されたボタン押打基準データとを比較処理する比較処理部と、比較処理部の結果を表示装置に表示する結果表示部と、を有する。
【0008】
また、本観点において、限定されるわけではないが、指示表示部は、入力装置における一のボタンを連続して押打させる表示、近い位置にある二つのボタンを連続して交互に押打させる表示、及び、遠い位置にある二つのボタンを連続して交互に押打させる表示を順次行なわせることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
以上、この簡便な装置により、空間的にも現行の医療スペースで実行可能となり、時間的にも短時間、例えば1分程度で実行可能で利用可能な医療検査が提供できる。また定量的診断のみならず治療効果判定や経過観察を客観的に行なうことができ、医療の地域差や医師の専門能力差に大きく左右されず、より良い医療の提供に寄与することができる。すなわち1台で簡便に、短時間で上肢運動機能複合診断を、客観的に、かつ、数値として定量的に機能別解析検査を行なえる上肢運動機能複合診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る上肢運動機能複合診断装置の概略図である。
【図2】実施形態に係る情報処理装置の構成概略図である。
【図3】実施形態に係る情報処理装置の機能ブロック図である。
【図4】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図5】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図6】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図7】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図8】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図9】実施形態の一例である健常者のボタン押打データの一例を示す図である。
【図10】実施形態に係る上肢運動機能複合診断プログラムのフローを示す図である。
【図11】実施例に係る第一のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【図12】実施例に係る第二のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【図13】実施例に係る第三のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【図14】実施例に係る第四のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【図15】実施例に係る第五のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【図16】実施例に係る第六のボタン押打基準データの概略を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の記載にのみ限定されることがないことはいうまでもない。
【0012】
図1は本実施形態に係る上肢運動機能複合診断装置(以下「本装置」と呼ぶことがある。)1の概略図である。図1で示されるように、本装置1は、複数のボタンが配置されている入力装置2と、入力装置2からの出力を受け付ける情報処理装置3と、情報処理装置3の出力を表示する表示装置4と、印刷装置5と、を有し、情報処理装置3は、表示装置4に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行なわせる指示表示部31と、入力装置のボタンの押打に基づく出力をボタン押打データとして記録するボタン押打データ記録部32と、ボタン押打基準データを予め記録してなるデータベース部33と、ボタン押打データとデータ押打基準データとを比較処理する比較処理部34と、比較処理部34の結果を表示装置に表示する結果表示部35と、を有する。
【0013】
本実施形態において、入力装置2は、情報処理装置3に対し、各種の情報を出力することのできるものであり、複数のボタンを配置した装置専用の装置を採用することができるが、いわゆるキーボードやマウス等に機能を兼ねさせることもできる。また入力装置においては、上記専用装置、キーボード、マウスの他、タッチパネル等のタッチセンサー、加速度センサー、トルクセンター、位置センサーなどを単独又は併用して用いることもできる。このようにすることでボタンの押打時間だけでなく、そのときにおける加速度、トルク等を計測することが可能となる。
【0014】
本装置における情報処理装置3は、入力装置により入力された結果に対し処理を行い、その結果を出力することのできるものである。図2に、情報処理装置3の装置構成の概略を示しておく。本図で示されるとおり、情報処理装置3は、入力装置等の周辺機器からの信号を授受するためのI/Oポート301と、RAM等のメモリ302と、中央演算装置であるCPU303と、ハードディスク等の記録媒体304と、を有しており、それらがバス305を介して接続されている。
【0015】
表示装置4は、情報処理装置3に接続され、情報処理装置3が行なった処理の結果を表示し、更には、情報処理装置3が被験者に対して診断のために必要な動作を行なわせるための指示を表示するために用いることができるものであり、限定はされないが、例えば液晶ディスプレイ等の一般的な表示装置を挙げることができる。
【0016】
印字装置5は、情報処理装置3に接続されており、診断の結果を紙などの媒体に印刷して表示を行うことができるものである。この印字装置としては市販されているプリンタが広く適用可能である。また、印字装置5は、表示装置4による表示のみで十分と判断されるような場合には構成要件として省略可能である。
【0017】
次に、本装置の動作について説明する。図3は、本装置における情報処理装置3の機能ブロックを示す図である。
【0018】
本図で示すように、情報処理装置3は、機能ブロックとして、表示装置4に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行なわせる指示表示部31と、入力装置のボタンの押打に基づく出力をボタン押打データとして記録するボタン押打データ記録部32と、ボタン押打基準データを予め記録してなるデータベース部33と、ボタン押打データとボタン押打基準データを比較処理する比較処理部34と、この比較処理の結果を表示装置に表示させるための結果表示部35、を有する。なお本情報処理装置3は、上記の限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、ハードディスクなどの記録媒体に、プログラムを格納し、このプログラムを実行して、上記各機能を有する部として実現させることができる。
【0019】
本実施形態において指示表示部31は、被験者に入力装置のボタンの押打を促す表示を表示装置に行なわせることのできる部である。この表示については特に限定されるわけではないが、同一のボタン(キー)を一定時間できる限り早く押打させる指示表示、比較的近い位置の(好ましくは隣接する)二つのボタンを一定時間できる限り早く押打させる指示表示、比較的遠い位置の二つのキーを一定時間できる限り早く押打させる指示表示、を行なわせることが好ましい。このように複数の異なるボタンを配置し、交互に押打させることで上肢運動機能複合診断を行うことができ、特に後述の実施例から明らかなようにパーキンソン病に罹患しているか否かについても判定を行うことができる。なお本指示表示部31には、表示と同時に音声のガイドを行う音声ガイド機能を備えさせることも望ましい。本実施形態では、反復交互運動検査であるアジアドコキネシスを採用し、客観的に数値として、定量測定することができるようになる。
【0020】
なお、この指示表示に先立ち、被験者の氏名、性別、年齢、病名といった属性情報の入力を行なわせるよう、属性入力指示表示を行い、被験者の属性データを記録する属性記録部を設けておくことも好ましい。このようにすることで、より細やかな診断、判定が可能となる。この入力は、例えばキーボード等の入力装置を用いて行なわせることが可能である。
【0021】
ボタン押打データ記録部32は、上述の通り入力装置のボタンの押打に基づく出力をボタン押打データとして記録する部であり、より具体的には、一定の期間におけるボタンの押打数(押打頻度)を押打数データとして記録する、又は、一のボタンを押打した後に次のボタンを押打するまでの時間を測定し、押打間隔データとして時系列的に記録する。例えば、被験者に10秒間所定のボタンを押打させ、1秒毎におけるボタンの平均押打回数を押打データとすることもできるし、更には、ボタン押打間の時間の平均、標準偏差、変動係数、その分布等をデータとして用いることもできる。
【0022】
また、本実施形態においてデータベース部33は、ボタン押打基準データを予め記録している。ここで「ボタン押打基準データ」とは、後述の比較処理部における処理の基準となるボタン押打データであって、例えば多数の健常者の上記ボタン押打データの集合、その平均値、更にはこれらに基づき作成される回帰直線、標準偏差、変動係数等を採用することができる。またボタン押打基準データは、健常者のボタン押打データ及びそれに基づき得られるデータだけでなく、特定の疾患が疑われる被験者のボタン押打データ及びそれに基づき得られる各種データとすることも可能であるし、これらをそれぞれ年齢別、世代別、男女別にさらにグループとして分けておくことも好ましい。なお簡便な方法の一例としては、年齢に対し、健常者の1秒あたりのボタン押打数(押打頻度)をボタン押打データとした場合に作成できる回帰直線のデータをボタン押打基準データとしておくことがあげられ、また、年齢に対し、健常者のボタン押打間の時間の変動係数をボタン押打基準データとしておくこともできる。一度の診断処理に用いられるボタン押打基準データは、一つである必要はなく、複数用いることが診断の精度をより向上させる上で好ましい。
【0023】
なお図4乃至図6は、ボタン押打基準データの一例を示す図である。図4は、60歳の健常者の男性の例であり、同じボタンを10秒連打した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものであり、図5は、隣接するボタンを10秒間交互に連打した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものであり、図6は、離れた距離にあるボタンを10秒間交互に連出した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものである。なお同じボタンを連打した場合において、平均押打間隔(以下「M」という。)は0.18秒、標準偏差値(以下「SD」という。)は0.02、変動係数(以下「CV」という。)は0.09であった。また隣接するボタン連打のMは0.19秒、SDは0.01、CVは0.06であった。また隣接するボタンを交互に連打した場合のMは0.51秒、SDは0.03、CVは0.05であった。また離れた距離にあるボタン連打のMは0.51秒、SDは0.03、CVは0.05であった。
【0024】
また同様に、73歳女性の健常者の他の一例を図7乃至図9に示しておく。図7は、同じボタンを10秒連打した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものであり、図8は、隣接するボタンを10秒間交互に連打した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものであり、図9は、離れた距離にあるボタンを10秒間交互に連出した場合におけるボタン押打の時間間隔を時系列的に表示したものである。なお同じボタンを連打した場合において、Mは0.21秒、SDは0.02、CVは0.10であった。一方隣接するボタン連打のMは0.28秒、SDは0.11、CVは0.41であった。離れたボタンを連打した場合のMは0.63、SDは0.05、CVは0.08であった。
【0025】
また、本実施形態において比較処理部34は、ボタン押打データ記録部に記録されたボタン押打データと、前記データベース部に記録されたボタン押打基準データとを比較処理する。例えば、被験者のボタン押打データが被験者の属するグループにおけるボタン押打基準データと比較し、著しく遅れている場合は上肢運動機能状態において問題が発生している可能性がある旨判断し、許容の範囲内であれば問題は発生していない旨判断することが挙げられる。上記の回帰直線の例では、この回帰直線から被験者のボタン押打データが所定の値以上離れている場合は問題が発生している可能性がある旨を、離れていない場合は問題ない旨をそれぞれ結果として出力することが例示できる。
【0026】
そして、結果表示部35は、上記比較処理部34の結果を表示装置に表示する。これにより被験者は自己の結果を確認することができ、後の治療に役立てることができるようになる。また結果表示部35は、比較処理終了後、印刷装置5に対し、この結果を紙などに印刷させる機能を有することが好ましい。このようにすることで後の診断、治療に有効に役立てることができるようになる。
【0027】
次に、実施形態に係る上肢運動機能複合診断装置を用いた測定について図10のフローを用いて説明する。このフローは、情報処理装置3の記憶装置304に格納されたプログラム(以下「本プログラム」という場合もある。)がメモリ302に読み込まれた後実行するステップの概略を示すものである。具体的には、(1)被験者の属性情報の入力を要求し、入力された属性情報を属性データとして記録するステップ、(2)表示装置に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行うステップ、(3)入力装置のボタンの押打に基づく出力を、ボタン押打データとして記録するステップ、(4)このボタン押打データと、予め記録されたボタン押打基準データとを比較処理するステップと、(5)比較処理の結果を表示装置に表示するステップ、を有する。
【0028】
本プログラムは、実行後、まず、(1)被験者の属性情報の入力を要求し、入力された属性情報を属性データとして記録する(S1)。なおここでの属性とは様々なデータが採用可能であるが例えば氏名、性別、年齢、病名等が該当する。受け付けた属性に関する情報は、属性データとしてメモリ302又は記憶装置304の一部領域に格納される。
【0029】
次に、(2)表示装置に入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行う(S2)。この表示は、上述のように、特に限定されるわけではないが、同一のボタン(キー)を一定時間できる限り早く押打させる指示表示、比較的近い位置の二つのボタンを一定時間できる限り早く押打させる指示表示、比較的遠い位置の二つのキーを一定時間できる限り早く押打させる指示表示、を行なわせることが好ましい。なお、キーの押打において、右手、左手の入力それぞれを別々に要求する表示とすることも有用である。
【0030】
次に、(3)入力装置のボタンの押打に基づく出力を、ボタン押打データとして記録する(S3)。このステップの具体的な例としては、例えば、一定の期間におけるボタンの押打数を押打数データとして記録する、又は、一のボタンを押打した後に次のボタンを押打するまでの時間を測定し、押打間隔データとして記録する。例えば、被験者に10秒間所定のボタンを押打させ、1秒毎におけるボタンの平均押打回数を時系列的に記録したデータを押打データとして保持させることがあげられる。なおここにおいてボタン押打データは、メモリ302又は記憶装置304の一部領域に格納される。なおこのステップにおいて、右手及び左手のボタン押打データをそれぞれ別のデータとして格納することは有用である。
【0031】
次に、(4)ボタン押打データと、予め記録されたボタン押打基準データとを比較処理する(S4)。ここでボタン押打基準データは予めメモリ302又は記憶装置304の一部領域に格納しておく必要がある。そしてこの記録されたボタン押打データとの差異を比較し、その差異が所定の値を超えている場合には上肢運動機能に問題があるものと判定し、所定の値以内に抑えられている場合には上肢運動機能に問題がないものと判定する。なおこの結果は、メモリ302又は記憶装置304の一部領域に格納しておくことが有用である。
【0032】
そして、(5)比較処理の結果を表示装置に表示する(S5)。この結果、これにより被験者は自己の結果を確認することができ、後の治療に役立てることができるようになる。
【0033】
なお比較処理を行った後、表示装置4に診断結果を表示すると同時に、同時に印字装置5に印字出力させることも好ましい。なおこの処理では後日、再検査要と判断された項目について診断対象者が専門の医師による診断を受ける際役立つように当該項目の詳細な結果をプリンタに出力させることが有用である。
【0034】
(実施例)
以下、上記実施形態に係る上肢運動機能複合診断装置について実際に作製し、その効果を確認した。以下に詳細に説明する。
【0035】
まず、小脳機能障害患者(73歳女性)の指に、加速度センサーを装着させ、この加速度センサーを装着した指を用い、診断処理を行った。
【0036】
まず、表示装置としての液晶モニタに、キーボードの一つ「O」キーをできるだけ速く正確に10秒間押打するよう表示し、被験者に同動作を行わせ、この期間における押打数の1秒あたりの平均値を第一のボタン押打データD1、ボタン押打間の時間の変動係数を第二のボタン押打データD2として記録した。次に、隣接した2つのキー「P」キーと「O」キーを、交互にできるだけ速く正確に10秒間押打してもらい、この期間における押打数の1秒あたりの平均を第三のボタン押打データD3、ボタン押打間の時間の変動係数を第四のボタン押打データD4、として記録した。そして、最後に、離れた2つのキー「Q」キーと「O」キーを交互にできるだけ速く正確に10秒間押打してもらい、この期間における押打数の1秒あたりの平均を第五のボタン押打データD5、ボタン押打間の時間の変動係数を第六のボタン押打データD6として記録した。なお、この動作は左手、右手それぞれ同じ様に行った。
【0037】
なお、本実施例では、上肢運動機能複合診断に先立ち、13〜88歳の男性14名と女性11名の健常者25名(平均年齢51歳±26.1)に対し、上記と同様の表示及び指示を行い、第一乃至第六のボタン押打基準データを作成した。ここで第一のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第一のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とし、第二のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第二のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とし、第三のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第三のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とした。また第四のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第四のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とし、第五のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第五のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とし、第六のボタン押打基準データは、年齢に対する上記第六のボタン押打データ及びそれに基づき得られる回帰直線とした。なお、第一乃至第六のボタン押打基準データは、右手、左手それぞれに対し別々に作成した。なお、第一のボタン押打基準データの概略を図11に、第二のボタン押打基準データの概略を図12に、第三のボタン押打基準データの概略を図13に、第四のボタン押打基準データの概略を図14に、第五のボタン押打基準データの概略を図15に、第六のボタン押打基準データの概略を図16に、それぞれ示しておく。なお各図中、○印は被験者の右手又は左手のボタン押打データを示す。
【0038】
そして、上記第一乃至第六のボタン押打基準データと被験者のボタン押打基準データとを比較したところ、被験者の第一乃至第六のボタン押打データは、いずれも、ボタン押打基準データに対し優位に健常者の信頼区間外を示していることが確認でき、表示装置にその旨表示させた。
【0039】
次に、パーキンソン患者(78歳男性)の指に、加速度センサーを装着させ、この加速度センサーを装着した指を用い、上記小脳機能障害患者と同様の診断処理を行った。なおここでボタン押打基準データは、上記小脳機能障害患者と同様のデータを用いた。なお上記図11乃至16における△印が本被験者のボタン押打データである。
【0040】
そして、上記第一乃至第六のボタン押打基準データと被験者のボタン押打基準データとを比較したところ、被験者の第一のボタン押打データのうち左手のデータは健常者の95%信頼区間内であったが、右手のデータは健常者の信頼区間外であった。また、第二のボタン押打データは右手及び左手のいずれも健常者の信頼区間外であった。また被験者の第三のボタン押打データのうち左手のデータは健常者の95%信頼区間内であったが、右手のデータは健常者の信頼区間外であった。また被験者の第四のボタン押打データのうち左手のデータは健常者の95%信頼区間内であったが、右手のデータは健常者の信頼区間外であった。また被験者の第五のボタン押打データのうち左手のデータは健常者の95%信頼区間内であったが、右手のデータは健常者の信頼区間外であった。また被験者の第六のボタン押打データのうち右手のデータは健常者の95%信頼区間内であったが、左手のデータは健常者の信頼区間外であった。
【0041】
この結果、上肢運動機能複合診断を行うことができる旨確認することができた。特に、一部のボタン押打データでは信頼区間内であったとしても、他のボタン押打データを測定した場合に信頼区間外にある場合もあり、一の診断処理において複数のボタン押打データを測定し、判定材料とすることは信頼性を高める上でより好ましいことが確認できた。
【0042】
なお、本実施例において、押打するキーボードのキーは便宜上「O」「P」「Q」と選択しているが、距離が異なる限りにおいて限定されず、他のキー例えばキーボードの場合「K」「L」「A」の組み合わせであってもよいし、「K」「M」「Q」のように一直線上に並んでなくてもよい。
【0043】
以上、本実施例によりと、上肢運動機能複合診断装置は、客観的に数値として定量的に上肢運動機能を複合的に診断できる上肢運動機能複合診断装置を提供することが可能となることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、例えば情報処理装置を用いて実現される上肢運動機能複合診断装置として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0045】
1…上肢運動機能複合診断装置、2…入力装置、3…情報処理装置、4…表示装置、5…印字装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のボタンが配置されている入力装置と、
前記入力装置からの出力を受け付ける情報処理装置と、
前記情報処理装置の出力を表示する表示装置と、を有し、
前記情報処理装置は、前記表示装置に前記入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行なう指示表示部と、
前記入力装置のボタンの押打に基づく出力を、ボタン押打データとして記録するボタン押打データ記録部と、
ボタン押打基準データを予め記録してなるデータベース部と、
前記ボタン押打データ記録部に記録された前記ボタン押打データと、前記データベース部に記録された前記ボタン押打基準データとを比較処理する比較処理部と、
前記比較処理部の結果を前記表示装置に表示する結果表示部と、を有する上肢運動機能複合診断装置。
【請求項2】
前記指示表示部は、前記入力装置における一のボタンを連続して押打させる表示、近い位置にある二つのボタンを連続して交互に押打させる表示、及び、遠い位置にある二つのボタンを連続して交互に押打させる表示を行なわせる請求項1記載の上肢運動機能複合診断装置。
【請求項1】
複数のボタンが配置されている入力装置と、
前記入力装置からの出力を受け付ける情報処理装置と、
前記情報処理装置の出力を表示する表示装置と、を有し、
前記情報処理装置は、前記表示装置に前記入力装置におけるボタンの押打を促す表示を行なう指示表示部と、
前記入力装置のボタンの押打に基づく出力を、ボタン押打データとして記録するボタン押打データ記録部と、
ボタン押打基準データを予め記録してなるデータベース部と、
前記ボタン押打データ記録部に記録された前記ボタン押打データと、前記データベース部に記録された前記ボタン押打基準データとを比較処理する比較処理部と、
前記比較処理部の結果を前記表示装置に表示する結果表示部と、を有する上肢運動機能複合診断装置。
【請求項2】
前記指示表示部は、前記入力装置における一のボタンを連続して押打させる表示、近い位置にある二つのボタンを連続して交互に押打させる表示、及び、遠い位置にある二つのボタンを連続して交互に押打させる表示を行なわせる請求項1記載の上肢運動機能複合診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−4840(P2011−4840A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149467(P2009−149467)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
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