上路式吊床版橋の構築方法
【課題】たわみが生じたケーブルに沿って支持されるコンクリート板に支柱を立設し、その上に上路桁を支持する上路式吊床版橋の構築中において、ケーブルで支持したプレキャストコンクリート板の横方向の傾斜を低減し、安定した状態で上路桁を架設する。
【解決手段】プレキャストコンクリート板21をケーブル12aに沿って端部ブロック3,4間に支持し、このプレキャストコンクリート板の幅方向に水を貯留した二つの容器30,31を載置する。プレキャストコンクリート板上に支柱8を立設し、上路桁9を形成する工程において、プレキャストコンクリート板に偏載荷重が作用して横方向に傾斜や回転変位が生じたとき、容器内の水量を調整して傾斜等を解消する。水量の調整は、幅方向に配列した容器間での水の移動、一方の容器内への水の注入又は一方容器からの水の排出等により行う。また、容器はプレキャストコンクリート板の下方に吊り支持してもよい。
【解決手段】プレキャストコンクリート板21をケーブル12aに沿って端部ブロック3,4間に支持し、このプレキャストコンクリート板の幅方向に水を貯留した二つの容器30,31を載置する。プレキャストコンクリート板上に支柱8を立設し、上路桁9を形成する工程において、プレキャストコンクリート板に偏載荷重が作用して横方向に傾斜や回転変位が生じたとき、容器内の水量を調整して傾斜等を解消する。水量の調整は、幅方向に配列した容器間での水の移動、一方の容器内への水の注入又は一方容器からの水の排出等により行う。また、容器はプレキャストコンクリート板の下方に吊り支持してもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、橋梁の一形式である上路式吊床版橋、すなわち張架されたケーブルによって支持される薄いコンクリートの板状部材(吊床版)に支柱を立設し、その上に路面を形成するための上路桁を支持する上路式吊床版橋の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上路式吊床版橋は、橋脚間、橋台間又は橋脚と橋台との間に高張力のケーブルを張架し、このケーブルに沿ってたわみ(サグ)を生じた状態で薄いコンクリートの板状部材(吊床版)を支持させる。そして、板状部材である吊床版の上に支柱を立設し、この上に上路桁を構築するものである。
吊床版の上面が路面となる吊床版橋では吊床版のサグによって路面に勾配が生じるが、上記のような上路式吊床版橋では吊床版のたわみに関係なく路面の縦断勾配を任意に設定することができる。また、吊床版の両端部を上路桁と連結し、吊床版に作用する引張力を上路桁に伝達して上路桁に圧縮力として作用させる、いわゆる自碇式吊床版橋とすることもできる。これにより橋台又は橋脚に作用する水平方向の反力が低減され、完成系における橋台等の安定性を向上させることができる。
【0003】
このような上路式吊床版橋の構築方法として、例えば特許文献1に記載されているものがある。
この構築方法は、吊床版となるプレキャストコンクリート板と、この上に斜めに立ち上げられた二つの支柱とで構成された構造ユニットを、2つの橋台間に張架したケーブルに支持させる。そして、このケーブルに沿って移動して橋台に隣接した位置から順次に配列する。続いて、構造ユニットの支柱上に上路桁となるプレキャストコンクリートのセグメントを支持し、一方の橋台に隣接する位置から橋の軸線方向に順次に配列する。その後、ケーブルに沿って配列されたプレキャストコンクリート板間及びその上方に配列されたプレキャストコンクリートのセグメント間にコンクリートを打設し、これらのプレキャストコンクリート板及びセグメントを橋の軸線方向に連続する吊床版及び上路桁とするものである。なお、吊床版となるプレキャストコンクリート板は、上路桁を架設する前にそれぞれの板間にコンクリートを打設して連続した吊床版としておく場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−182016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような上路式吊床版橋の構築には次のような問題点が生じる場合がある。
上路式吊床版橋は、たわみが生じた状態で張架されたケーブルにプレキャストコンクリート板を支持させ、この上に上路桁を構築するものであるため、構築中における部材の支持が不安定になり易い。特に、プレキャストコンクリート板の上に支柱を立設した状態、及びこれらの支柱に上路桁を構築するための荷重が作用した状態では構築中の構造部材の重心が高くなり、さらに不安定な構造となる。
一方、上路式吊床版橋の構築中において、上路桁が完成する前の状態では剛性が小さく、わずかの偏載荷重が作用したときにも、ケーブルで吊り支持したプレキャストコンクリート板又はケーブルの軸線方向に連続した吊床版が、軸線と直角方向に傾く。また、施工誤差等によってもプレキャストコンクリート板の傾斜が生じ易く、ケーブルで支持した構築中の部材が不安定になり易い。
【0006】
本願発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ケーブルの軸線と直角方向つまり横方向への転倒に対する安定性が改善された上路式吊床版橋の構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に係る発明は、 二つの対峙する橋台又は橋脚間に張架されたケーブルに沿って形成された薄いコンクリートの板状部材である吊床版と、この吊床版上に立設された支柱と、この支柱上に支持された上路桁とを有する上路式吊床版橋の構築方法であって、 橋台又は橋脚間にケーブルを張架する工程と、 前記吊床版を構成する複数のプレキャストコンクリート板を前記ケーブルに沿って配列し、該ケーブルに支持させる工程と、 すべての前記プレキャストコンクリート板又は選択された複数のプレキャストコンクリート板から立設された支柱上に前記上路桁を構築する工程と、 前記プレキャストコンクリート板間にコンクリートを打設して連続する前記吊床版を形成する工程と、を含むものであり、 前記上路桁を構築する工程の全部又は一部は、すべての前記プレキャストコンクリート板又は選択された複数の前記プレキャストコンクリート板に水を貯留した容器を支持させ、前記ケーブルに支持されるプレキャストコンクリート板及びこのプレキャストコンクリート板に支持される部材の重心の位置を調整して行うことを特徴とする上路式吊床版橋の構築方法を提供する。
【0008】
上記上路式吊床版橋の構築方法において、橋台又は橋脚間に張架されたケーブルは、橋台と橋台との間、橋脚と橋脚との間及び橋台と橋脚との間に張架されるもののいずれであっても良い。そして、これらのケーブルは上路式吊床版橋の完成時においても橋台又は橋脚に両端が定着されているものであっても良いし、吊床版と上路桁とが形成された後に、ケーブルの両端の定着位置を橋台又は橋脚上の上路桁の端部に変更するものであってもよい。
また、プレキャストコンクリート板から立設された支柱は、プレキャストコンクリート板がケーブルに支持され、所定の位置に配列された後に立設するものであっても良いし、プレキャストコンクリート板に予め取り付けておき、このプレキャストコンクリート板を支柱とともにケーブルに支持させ、所定の位置に配列するものであっても良い。
一方、プレキャストコンクリート板間にコンクリートを打設して複数のプレキャストコンクリート板が連続した吊床版を形成する工程は、上路桁を構築する工程の前に行っても良いし、上路桁を構築する工程と同時に行っても良い。また、上路桁を構築する工程の一部が完了したとき又は上路桁の構築が完了したときに行っても良い。
【0009】
この上路式吊床版橋の構築方法では、容器内に貯留された水によってケーブルに支持されている部材の重心の位置が下がり、横方向への安定性が向上する。また、容器内の水量を調整することにより、工事の進捗状況に応じて重心の位置を調整することができる。したがって、プレキャストコンクリート板に立設された支柱に上路桁を構築する作業が容易となる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記容器は、前記プレキャストコンクリート板の前記ケーブルの軸線に対する幅方向に複数を配置し、 前記プレキャストコンクリート板の前記ケーブルの軸線と直角方向の傾斜を低減するように、幅方向に複数が配置された前記容器間の水量差を調整するものとする。
【0011】
この上路式吊床版橋の構築方法では、プレキャストコンクリート板の幅方向に配列した容器内の水量に差を設けることにより、プレキャストコンクリート板は水量が多い容器が載置された側の端縁が下降するように変位する。これにより、偏載荷重等によって生じた幅方向の変位差を低減することができる。したがって、プレキャストコンクリート板が幅方向に傾斜するのを是正し、安定した状態で上路式吊床版橋の構築が可能となる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記水量差を調整し、前記プレキャストコンクリート板又は前記上路桁を幅方向にほぼ水平とした状態で、前記プレキャストコンクリート板間にコンクリートを打設して連続する吊床版を形成する工程又は前記上路桁を前記吊床版の両端部間で連続する状態とする工程を行うものとする。
【0013】
この上路式吊床版橋の構築方法では、上記水量の調整により、プレキャストコンクリート板又は上路桁が幅方向にほぼ水平となった状態で連結され、剛性が増大する。これによりプレキャストコンクリート板が連結された吊床版又は上路桁が正確な形状に形成される。その後に載荷される荷重に対しては、剛性が増大して幅方向に傾斜する変位は小さく抑えられる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項2又は請求項3に記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記水量差の調整は、前記プレキャストコンクリート板の幅方向における変位差又は傾斜を検知するセンサーを設置し、該センサーの検知結果に基づいて制御されるポンプを用いて行うものとする。
【0015】
この上路式吊床版橋の構築方法では、新たに作用した荷重等によってプレキャストコンクリート板に幅方向の傾斜が生じたときに、センサーがこれを検知して迅速にこれを是正するように水量の調整が可能となる。これにより、水量を調整する作業を効率よく行うことが可能になるとともに、不安定な状態が長く続くことを回避することができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記容器は、前記プレキャストコンクリート板より下方に吊り支持するものとする。
【0017】
この上路式吊床版橋の構築方法では、水が貯留された容器をプレキャストコンクリート板より下方で支持することにより、プレキャストコンクリート板及びこれに支持される部材の重心を低くすることができる。これにより、プレキャストコンクリート板を安定した状態で支持し、吊床版の横方向の傾斜や転倒を回避することが容易となる。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記プレキャストコンクリート板には、上下方向に貫通する孔を設けておき、 前記容器は、柔軟に変形する材料で形成されたものを用い、 前記プレキャストコンクリート板の上から前記孔を通過させて該プレキャストコンクリート板の下方に支持し、 その後に、前記容器内に注水するものとする。
【0019】
この上路式吊床版橋の構築方法では、プレキャストコンクリート板がケーブルに沿って支持された後においても、プレキャストコンクリート板上の作業によって容器をプレキャストコンクリート板より下方に支持して水を貯留することが、容易に可能となる。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項1に記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記容器は、前記プレキャストコンクリート板の幅方向における両端縁付近に接
合した2つの吊り材により前記吊床版の幅方向のほぼ中央に吊り支持するものとする。
【0021】
この上路式吊床版橋の構築方法では、プレキャストコンクリート板とこれに支持される部材の重心を低くすることができるとともに、プレキャストコンクリート板が傾斜したときに、容器に貯留する水の重量が幅方向の傾斜を是正するように作用する。例えば、プレキャストコンクリート板の一方側が下になるように傾斜したときには、この下方に変位した側の端縁付近に接合された吊り材の引張力が減少し、プレキャストコンクリート板の他方側の端縁付近に接合された吊り材の引張力が増大する。これにより、プレキャストコンクリート板の傾斜を元に戻そうとする復元力が作用し、幅方向に複数の容器を設けることなくプレキャストコンクリート板の幅方向の変位差を低減し、水平に近い状態を維持することが可能となる。
【0022】
請求項8に係る発明は、請求項1から請求項7までのいずれかに記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記プレキャストコンクリート板に予め前記支柱を立設し、 該プレキャストコンクリート板を前記ケーブルに支持させるとともに、水が貯留された前記容器を該プレキャストコンクリート板に支持させ、 該プレキャストコンクリート板を前記ケーブルに沿って移動して所定の位置に配列するものとする。
【0023】
この上路式吊床版橋の構築方法では、支柱が立設されたプレキャストコンクリート板をケーブルに沿って配列するので、工期を短縮することができる。
また、支柱を備えたプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート板のみの場合と比較すると、支柱を備えていることにより重心が高くなり不安定となるが、水を貯留した容器を支持することによって重心が低くなり、安定した状態でケーブルに沿って移動し、配列することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本願発明に係る上路式吊床版橋の構築方法では、ケーブルによって部材を吊り支持したとき重心の位置を低くし、安定した構築ができる。また、構築時に幅方向に配列した複数の容器内の水量を調整することによって、吊り支持されたプレキャストコンクリート板の幅方向の傾斜を抑制して構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本願発明に係る方法によって構築された上路式吊床版橋の一例を示す概略側面図である。
【図2】図1に示す上路式吊床版橋の断面図である。
【図3】図1に示す上路式吊床版橋の端部を拡大して示す側面図である。
【図4】図1に示す上路式吊床版橋を構築する工程を示す概略図である。
【図5】図1に示す上路式吊床版橋を構築する工程を示す概略図である。
【図6】図1に示す上路式吊床版橋を構築する工程を示す概略図である。
【図7】図1に示す上路式吊床版橋を構築する工程を示す概略図である。
【図8】架設中におけるケーブルの定着状態を示す断面図である。
【図9】プレキャストコンクリート板を第1のケーブルによって吊り支持した状態を示す概略断面図である。
【図10】プレキャストコンクリート板上に容器を載置した状態を示す概略断面図である。
【図11】プレキャストコンクリート板が幅方向に傾斜したときにおける容器内の水量の調整について説明する概略図である。
【図12】プレキャストコンクリート板に容器を支持させる形態の他の例を示す概略断面図である。
【図13】プレキャストコンクリート板に容器を支持させる形態の他の例を示す概略断面図である。
【図14】プレキャストコンクリート板に容器を支持させる形態の他の例を示す概略断面図である。
【図15】プレキャストコンクリート板に容器を支持させる形態の他の例を示す概略断面図である。
【図16】プレキャストコンクリート板に容器を他の形態で支持させる工程を示す概略断面図である。
【図17】プレキャストコンクリート板に容器を他の形態で支持させる工程を示す概略断面図である。
【図18】吊床版橋の構築に水を収容した容器を使用する技術の応用例を示す概略断面図である。
【図19】吊床版橋の構築に水を収容した容器を使用する技術の他の応用例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本願発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本願発明に係る方法によって構築することができる上路式吊床版橋の概略側面図である。また、図2はこの上路式吊床版橋の断面図である。
この上路式吊床版橋は、二つの橋台1,2間に架設されたものであり、沓5,6を介して橋台1,2上に支持されたコンクリートの端部ブロック3,4と、これらの端部ブロック3,4間に張架された吊床版7と、この吊床版7上に立設された複数の支柱8と、上記端部ブロック3,4間で連続するように形成され、支柱8によって吊床版7上に支持される上路桁9と、で主要部が構成されている。
【0027】
上記橋台1,2は、橋を架設する位置の強固な地盤20上に鉄筋コンクリートによって構築され、架設時にはアースアンカー10,11によって地盤20又は岩盤に強固に固定される。吊床版7および上路桁9が完成した後は、上記アースアンカー10,11は不要となり撤去することもできるが、そのまま残してもよい。
【0028】
上記沓5,6は、ゴム沓、鋳造された沓等を用いることができる。これらの沓5,6は、橋の軸線と直角となる水平な軸線回りに回転が可能に桁を支持するものである。そして、桁の両端部を支持する沓5,6のうち、一方は橋の軸線方向の水平移動を拘束し、他方は移動を許容するものとなっている。橋の軸線と直角の方向への水平移動は、双方の沓5,6とも拘束するものである。
【0029】
上記端部ブロック3,4は、現場打ちコンクリートで形成してもよいし、工場等であらかじめ製作されたプレキャストコンクリートとしてもよい。これらの端部ブロック3,4の鉛直面の上部には、双方の端部ブロック3,4間で連続する上路桁9が接合されており、下部には吊床版7が接合されている。そして、吊床版7を支持するケーブル12(図1中には表示しない)の両端部は、これらの端部ブロック3,4にそれぞれ定着されている。
【0030】
上記吊床版7は、コンクリートの薄い板状部材が二つの端部ブロック3,4間で連続するように形成されたものであり、たわみが生じた状態でケーブル12の引張力によって支持されている。この吊床版7は、工場又は現場近くの製作ヤードで作成された複数のプレキャストコンクリート板21と、これらの間及びこれらのプレキャストコンクリート板21と端部ブロック3,4との間を連結するように打設された現場打ちコンクリートとで形成されている。
【0031】
上記ケーブル12は、複数の第1のケーブル12aと複数の第2のケーブル12bとを含むものであり、第1のケーブル12aは、図2に示すように、吊床版7を形成するプレキャストコンクリート板21の上側に形成された溝21a内に収容され、これらの第1のケーブル12aの上側に架け渡してプレキャストコンクリート板21に固定された鋼棒22を介して該プレキャストコンクリート板21を支持するものとなっている。そして、この溝21aにはコンクリートが打設されて第1のケーブル21aが埋め込まれている。これらの第1のケーブル12aは、図3に示すように、端部にナット17aを螺合してコンクリートの端部ブロック3,4に定着することができるものである。
第2のケーブル12bは、吊床版7のコンクリート中に埋め込まれたシース18内に挿通され、両端はやはり端部ブロック3,4に定着されている。
【0032】
上記支柱8は鋼からなり、図1に示すように、吊床版7の上面から斜め上方に立ち上げられ、上路桁9を支持するように構成されている。そして、橋軸方向の互いに反対側となる方向へ傾斜する支柱8a,8bが吊床版7上の隣接した位置から立ち上げられ、これらの支柱8は吊床版7と上路桁9とともにワレントラスを形成している。これらの支柱8は、図2に示すように吊床版7の両側縁付近から立ち上げられ、これらの上端部は横連結部材19によって互いに連結されている。
なお、支柱8は繊維補強モルタル又は合成樹脂等からなるものを用いることもできる。
また、本実施の形態では、支柱8は吊床版7から斜め上方に立ち上げて形成されているが、吊床版7からほぼ鉛直に立ち上げたものであってもよい。つまり、支柱と吊床版と上路桁とがトラス構造とならないものであってもよい。
【0033】
上記上路桁9は、支柱8の頂部に支持されたプレキャストコンクリートからなるセグメントと、これらのセグメント間を連続させる場所打ちコンクリートとで構成されている。そして、自重や活荷重による曲げモーメント及びせん断力に充分に耐えられるように鉄筋による補強がなされている。
なお、上路桁9は、吊床版7上に支保工を組み立て、コンクリートを現場で打設して形成することもできる。
【0034】
次に、本願に係る発明の一実施形態であって、上記上路式吊床版橋を構築する方法について説明する。
まず、図4に示すように、上路式吊床版橋を架設する位置の両側にそれぞれ橋台1,2を構築する。この橋台1,2は、大きな水平方向の力に抵抗できるように、アースアンカー10,11によって地盤20又は岩盤に強固に固着する。そして、これらの橋台1,2上に沓5,6を介して端部ブロック3,4を支持し、これらを橋台1,2に仮固定する。
【0035】
その後、二つの端部ブロック3,4間に第1のケーブル12aを張架する。ここで張架するケーブルは、第1のケーブル12aのみであり、図8に示すように、端部ブロック3に埋め込まれたシース内に挿通し、延長ケーブル14を接続して橋台1,2に定着する。延長ケーブル14は、第1のケーブル12aの両端部に圧着された定着体15にカプラー13で接続することができる。これにより架設中に第1のケーブル12aから作用する反力を橋台1に負担させ、端部ブロック3には反力が作用しないようにしている。上記定着体15にはナット17aを螺合しておき、完成系において端部ブロック3,4に反力を負担させてケーブル12aを定着する。
なお、橋台1の後部は、上記延長ケーブル14からの反力が作用したときに、橋台1の後部断面に過度の引張応力が生じないように、鉛直方向のPC鋼材16によって補強している。
【0036】
次に、吊床版を形成するプレキャストコンクリート板21を第1のケーブル12aに吊り支持させる。第1のケーブル12aへの支持は、図9に示すように、プレキャストコンクリート板21の上側に設けられた溝21aにケーブル12aが納まるようにプレキャストコンクリート板21を吊り上げ、ケーブル12aの上側で短い鋼棒22をプレキャストコンクリート板21に係止することによって行う。プレキャストコンクリート板21は、上記のようにケーブル12aに係止した状態で該ケーブルに沿って移動し、一方の端部ブロック4と隣りあう位置から順に配置する。
なお、吊床版の軸線方向における上記プレキャストコンクリート板21の両端面からは、これらのプレキャストコンクリート板を互いに接合するための鉄筋(図示せず)を突出させておく。
【0037】
プレキャストコンクリート板21が端部ブロック3,4間のほぼ全領域に配列されると、図5に示すように水を貯留するため容器30,31を空の状態でプレキャストコンクリート板21上に載置する。これらの容器30,31は、図10に示すように、それぞれのプレキャストコンクリート板21上において幅方向に二つを並べ、吊床版橋の中心線の両側にそれぞれ載置する。そして、これらの容器内に予め定められた量の水を注ぎ込む。上記容器30,31は全部のプレキャストコンクリート板上に載置することもできるし、選択された複数のプレキャストコンクリート板上に載置してもよい。また、上記容器30,31は、合成樹脂からなるもの、ドラム缶、防水処理が施された布の袋状部材を枠体で支持するもの等、様々なものを使用することができるが軽量のものが望ましい。また、上部が広く開放されてポンプ等によって水の注入や排出が容易に行うことができるものがよい。
なお、図5は容器30,31内に貯留されている水を示すために容器30,31については断面で示している。
【0038】
プレキャストコンクリート板21の幅方向に配置された容器に注入する水の量は、プレキャストコンクリート板21を第1のケーブル12aに沿って配列した状態、つまり支柱8及び上路桁9が形成される前には、二つの容器30,31に対してほぼ同量とするのが望ましい。ただし、容器を配置する位置の誤差等によりプレキャストコンクリート板21が幅方向に傾斜する場合には、2つの容器間で貯留する水の量に差を設け、傾斜を是正する。また、第1のケーブル12aの軸線方向における複数の位置に配置した容器30,31には、2つの容器内に貯留された水量の合計がほぼ同じか、又は第1のケーブル12aの軸線方向に隣り合う位置で水の貯留量に大きな差が生じないように設定するのがよい。
また、プレキャストコンクリート板21の幅方向に載置された2つの容器30,31に貯留される合計水量は、その後の支柱8を立ち上げる工程及び上路桁9を形成する工程において当該容器が配置される位置付近に作用する荷重以上であることが望ましい。つまり、プレキャストコンクリート板21上に立設される支柱8及びプレキャストコンクリート板21の上方に架設される上路桁9の荷重相当以上の水を容器30,31内に分配して注入するのがよい。
【0039】
上記のように容器30,31を配置し、これらの容器30,31内に水を貯留した状態で、複数のプレキャストコンクリート板21上に支柱8を立設する。
上記支柱8は、図2に示すように、プレキャストコンクリート板21上から立ち上げる。そして、図6に示すように上路式吊床版橋の軸線方向に傾斜させ、下端部が他の支柱と隣接し、上端部では下端部で隣接する支柱とは異なる支柱と隣接させる。これらの支柱8の上端部は連結部材25によって橋の軸線方向に連結する。また、これらの支柱8は、隣接する他の支柱と上端部又は下端部で力が伝達されるように互いに接合するのが望ましい。一方、支柱8の下端とプレキャストコンクリート板21との接合は、プレキャストコンクリート板21の表面から突出したアンカー(図示しない)に支柱8を連結するとともに、支柱8の下端とプレキャストコンクリート板21との間にコンクリート又はモルタル等を充填する。このコンクリート又はモルタルの硬化によりプレキャストコンクリート板21と支柱8とは一体となり、相互間で力が伝達されるものとなる。
【0040】
続いて、図7に示すように、支柱8の頂部間に架け渡すように上路桁9となるプレキャストコンクリートのセグメント23を配置する。このセグメント23の配置は、支柱8の頂部間を連結する連結部材25をレールとして、又はこの連結部材25の上にレールを敷設し、この上を走行させて、図7に示すようにセグメント23を端部ブロック4に隣接した位置から順次に配列する。
なお、図7においても容器30,31内に貯留されている水を示すために容器30,31を断面で示している。
【0041】
上記支柱8を立設する工程及び上路桁9を形成する工程において、支柱8や上路桁9を形成する部材等がプレキャストコンクリート板21の幅方向において偏載荷されることがある。このように荷重が偏載荷されると当該荷重が作用する位置付近においてプレキャストコンクリート板21の幅方向における両端縁で上下方向の変位差が生じ、幅方向に傾斜する。このような場合、プレキャストコンクリート板21上に載置された二つの容器30,31内の水量差を調整して、プレキャストコンクリート板21の幅方向の傾斜を是正する。
【0042】
例えば、図11(a)に示すように、プレキャストコンクリート板21の幅方向における一方の端部21Rで大きなたわみが生じ、プレキャストコンクリート板21が傾斜した場合、プレキャストコンクリート板21の下方への撓みが大きい端部側に載置された容器31内の水の一部を排出し、この排出した水を反対側つまりたわみが小さく上方にある容器30に注入する。これにより、図11(b)に示すように、水量が増加した容器30が載置された側のたわみが増大し、水量が減少した容器31が載置された側のたわみが減少する。したがって、2つの容器30,31間で水を移動して水量差を調整することにより、プレキャストコンクリート板21の幅方向の変位差が解消され、水平に近づく。
なお、2つの容器30,31間の水量差は、上記のように2つの容器30,31間における水の移動によって調整するのが望ましいが、これに限定されず、たわみが少なく傾斜した上方側にある容器30に注水を行うことによって調整しても良いし、たわみが大きく生じて傾斜した下方側にある容器31内の水を排出することによって調整しても良い。
【0043】
また、水量差の調整は、作業者がプレキャストコンクリート板21の傾きの状態を見ながらポンプ等(図示せず)を操作して行うこともできるが、プレキャストコンクリート板21の両側縁の変位差又は傾斜を検知するセンサー32をプレキャストコンクリート板21に設置しておき、この検知結果に基づき、コンピュータ等の制御装置によってポンプ等を制御することもできる。
なお、上記センサー32は、プレキャストコンクリート板21の幅方向の変位差又は傾斜を検出できる公知のものを使用することができ、例えば電子式水準計等を用いることができる。
【0044】
一方、セグメント23を順次に配置して上路桁9を形成する工程では、当該セグメント23の荷重が下方に位置するプレキャストコンクリート板21に作用し、第1のケーブル12aの軸線方向においても隣り合うプレキャストコンクリート板21間に上下方向の大きな相対的変位を生じることがある。つまり第1のケーブル12aの軸線方向における限定された範囲に荷重が作用することによって、第1のケーブル12aの軸線方向において偏った変形が生じ、たわみが生じた第1のケーブル12aで支持する複数のプレキャストコンクリート板21の側方から見た配列形状が大きく変動することがある。このようなプレキャストコンクリート板21間の相対的な変位を抑制するように、第1のケーブル12aの軸線方向に沿って配列した容器30,31内の水量の分布を調整する。
【0045】
この水量の調整は、例えば次のように行うことができる。
1つのセグメント23を送り出して支柱8の上に支持すると、このセグメント23の下方に位置するプレキャストコンクリート板21、つまり配置されたセグメント23の荷重が作用する位置付近に載置されている容器30,31から、このセグメント23の重量に相当する量の水を排出する。このようにして、セグメント23を順次に配置するともに、セグメント23を配置した位置付近のプレキャストコンクリート板21上に載置された容器30,31から水の排出を行い、セグメント23を端部ブロック3,4間に配列する。
なお、上記容器30,31内には排出後も所定量の水が残るものとし、プレキャストコンクリート板の幅方向に傾斜が生じたときには、これらの水によって二つの容器間の水量差を設け、傾斜を低減することができる。
【0046】
上記のように荷重が載荷されるのに対応して水を排出することにより、荷重が新たに載荷されることによる影響が低減される。つまり、新たに載荷されるセグメント23の重量に相当する量の水が排出されると、第1のケーブル12aに作用する荷重の総量はほとんど変化しない。また、載荷される位置付近の容器30,31から水を排出することによって第1のケーブル12aに作用する荷重の分布も大きく変動することはない。したがって、第1のケーブル12aのたわみの形状は大きく変化しない。
なお、排出する水の量は、必ずしも新たに載荷される荷重に相当する量にする必要はなく、多少異なるものであっても、たわみの形状が大きく変化するのを抑制することができる。
【0047】
また、第1のケーブル12aのたわみ形状が大きく変化するのを抑制する方法としては、新たに載荷される荷重に対応して容器30,31内の水を排出するものに限定されることはなく、容器30,31内の水を他の方法で調整することもできる。例えば、荷重が載荷される位置付近の容器から排出した水を、他の容器に分配するものであっても良いし、荷重が載荷された位置付近におけるたわみが過大となるのを抑制するように、他の容器に注水するものであっても良い。
【0048】
上記のように容器30,31内の水の調整及び排出を行いながら上路桁9を構成するセグメント23を配列した後、セグメント23間及び端部ブロック3,4と隣り合うセグメント23と端部ブロック3,4との間にコンクリートを打設して端部ブロック3,4間で連続する上路桁9を形成する。また、第1のケーブル12aに沿って支持されたプレキャストコンクリート板21の間及び端部ブロック3,4と隣り合うプレキャストコンクリート板21と端部ブロック3,4との間にコンクリートを打設して二つの端部ブロック3,4間で連続する吊床版7を形成する。
【0049】
このように、上路桁9及び吊床版7が端部ブロック3,4間で連続すると、プレキャストコンクリート板21に埋め込まれたシース18に挿通した第2のケーブル12bを緊張して吊床版7に軸線方向のプレストレスを導入する。そして、この第2のケーブル12bを端部ブロック3,4に定着する。
また、第1のケーブル12aに接続された延長ケーブル14を橋台1,2に係止していたナット17bを緩め、第1のケーブル12aの端部の定着体15に螺合されたナット17aによって第1のケーブル12aの引張力を端部ブロック3,4に負担させる。そして、端部ブロック3,4の仮固定を解放すると、第1のケーブル12aの反力は、端部ブロック3,4から上路桁9に軸力として伝達される。これにより、図1に示すような両端部が単純支持された構造となる。つまり、吊床版7に作用する引張力と上路桁9に作用する圧縮力とが相殺され、橋台1,2には水平力が作用しない、いわゆる自碇化された構造系となる。
【0050】
上記のように、吊床版7が端部ブロック3,4間で連続し、第1のケーブル12aの定着位置が変更されて構造系が橋台1,2から独立したものとなると、容器30に残留している水を排出する。これによって吊床版7のサグが減少し、吊床版7にはさらにプレストレスが導入される。
【0051】
このような上路式吊床版橋の架設方法では、第1のケーブル12aで支持したプレキャストコンクリート板21上には、該吊床版橋の軸線方向に設定した中心線の両側に二つの容器30を配列し、プレキャストコンクリート板25の幅方向に変位差が生じたときに、両側に配置された容器30,31内の水量差を調整することによって、プレキャストコンクリート板25の傾斜が抑制される。また、第1のケーブル12aの軸線方向に配列された容器30,31に貯留された水の量を調整しながら新たな荷重を負荷することにより、荷重の負荷によるたわみの変動が低減される。したがって、安定した状態で上路桁9の形成が可能となる。また、隣り合うプレキャストコンクリート板21間の相対的な変位、上路桁9を構成するセグメント23間の相対的な変位を小さく抑えることができ、これらを連結するための鉄筋等が干渉したり、鉄筋の干渉によってプレキャストコンクリート板21が損傷したりするのが防止される。
【0052】
なお、上記実施の形態では、容器30,31をプレキャストコンクリート板21上に載置しているが、図12に示すようにプレキャストコンクリート板21から容器40,41を吊り支持するものであっても良い。また、図13に示すように吊り材として曲げ剛性が大きい部材、例えば形鋼等を用いてプレキャストコンクリート板21に傾斜が生じたときに、図13中に仮想線で示すように吊り材42もプレキャストコンクリート板21の傾斜とともに角度変化を生じるものとしてもよい。このように容器40,41を支持することによって容器40,41及びこれに貯留される水の重量がプレキャストコンクリート板21の傾斜を抑制する力として作用する。したがって、中心線の両側の容器40,41間の水量差によって傾斜を抑制する操作が容易となる。
【0053】
以上に説明した実施の形態では、第1のケーブル12aの軸線方向に設定した吊床版橋の中心線の両側に二つの容器30,31,40,41を配置したが、2以上の容器を配列するものであっても良い。また、中心線上に一つの容器を支持するものであってもよい。一つの容器を支持する場合には水量の調整によって幅方向の傾斜を是正することはできないが、容器内に貯留する水の重量によってケーブルに支持させる部材の重心を低くして安定性を向上させることができる。
一つの容器をプレキャストコンクリート板の幅方向における中央部に支持するときには、プレキャストコンクリート板の上に容器を載置しても良いし、プレキャストコンクリート板の幅方向における中央部に、図12に示す例で用いた吊り金具と同様の吊り金具を設けて容器を吊り支持しても良い。
【0054】
幅方向に一つの容器を設置するときには、図14に示すようにプレキャストコンクリート板21の両側縁付近に係止した2本の吊り材43a,43bを用いて吊り支持するのが望ましい。つまり、プレキャストコンクリート板21の両側縁付近に一端を結合した2本の吊り材43a,43bをプレキャストコンクリート板21の幅方向における中央に向かって斜め下方に張架し、幅方向の中央部でこれらの吊り材により容器を吊り支持する。このように容器42が吊支持され、容器42に水が貯留されていると、図14中の仮想線で示すように、第1のケーブル12aで吊り支持されているプレキャストコンクリート板21が偏載荷等によって幅方向に傾斜したときに、吊り材43a,43bの張力が変化する。つまり、傾斜して上方となった端縁付近21Lに結合された吊り材43aの張力が増加するとともに下方となった端縁付近21Rに結合された吊り材43bの張力が減少する。これにより、吊り材43a,43bの張力の差がプレキャストコンクリート板21の傾斜を是正するように作用し、支柱8等が立ち上げられたプレキャストコンクリート板21の横方向の安定性が向上する。
【0055】
容器をプレキャストコンクリート板より下方に吊り支持するときには、第1のケーブル12aに沿って配置する前のプレキャストコンクリート板21に予め支持させておくこともできるし、例えば図15、図16及び図17に示すように、プレキャストコンクリート板21を第1のケーブル12aに沿って配置した後に容器を支持させることができる。
図15に示す例では、容器として柔軟に変形する布で形成された貯水バッグ44を用いる。プレキャストコンクリート板21の中央部には予め孔21bを設けておき、この孔から水を収容していない状態で貯水バッグ44をプレキャストコンクリート板21より下方に降下させる。この貯水バッグ44にはホース45を挿入しておき、ポンプ46を用いて水を貯水バッグ内に注入する。
【0056】
図16及び図17に示す例では、プレキャストコンクリート板の両側縁付近に、それぞれ孔21c,21dを設けておく。そして、図16(a)に示すように、これらの孔に一本のワイヤ47を挿通して環状に連結する。この環状となったワイヤ47の一箇所には、図16(b)に示すようにプレキャストコンクリート板21上で貯水バッグ48を取り付ける。この貯水バッグ48は、図15に示す例で使用したものと同様のものを用いることができる。ワイヤ47に貯水バッグ48が取り付けられると、ワイヤ47を周方向に移動し、図17(a)に示すように、貯水バッグ48を一方の孔21dからプレキャストコンクリート板21の下側に送り出す。そして、ワイヤ47をさらに周方向に移動して貯水バッグ48をプレキャストコンクリート板21の下方で幅方向におけるほぼ中央に支持する。この位置で、図17(b)に示すように貯水バッグ48内に挿入したホース49を用い、ポンプ50によって水を貯水バッグ48内に注入する。また、ワイヤ47は周方向に移動しないようにプレキャストコンクリート板21に対して固定する。このように貯水バッグ48を支持することにより、図14に示す例と同様に、プレキャストコンクリート板21が傾斜したときに、これを復元しようとする力が作用するものとなる。
【0057】
以上のように、容器をプレキャストコンクリート板21に設置する時期は、プレキャストコンクリート板21上に支柱8が立設される前であっても良いし、プレキャストコンクリート板21上に支柱が立設された後であってもよい。
また、支柱8は、プレキャストコンクリート板21に予め立設されていてもよく、プレキャストコンクリート板21と支柱8とからなるユニットを第1のケーブル12aに支持させ、これを第1のケーブル12aに沿って移動して配列することもできる。この場合、ユニットに水が貯留された容器30,31,40,41,42又は貯水バッグ44,48を支持した状態で第1のケーブル12aに沿って移動してもよい。プレキャストコンクリート板21のみを配列する場合と比較して、支柱8が設けられたユニットは重心が高くなっており、第1のケーブル12aでプレキャストコンクリート板21を支持した状態は不安定になりやすいが、水を貯留する容器30,31,40,41,42又は貯水バッグ44,48を支持することにより重心を下げ、安定した移動及び配列が可能となる。
【0058】
上記実施形態において、上路桁9はプレキャストコンクリートのセグメント23を順次に配列して架設したが、コンクリートを現場で打設することにより架設することもできる。現場打ちコンクリートの場合も、打設したコンクリートの荷重が作用するのにともなってプレキャストコンクリート板21が幅方向に傾斜したときに、中心線の両側に設置した容器30,31,40,41の水量差を調整する。また、第1のケーブル12aの軸線方向に配列して支持された容器30,31,40,41,42内の水量又は貯水バッグ44,48内の水量を調整する。これにより、第1のケーブル12aの軸線方向の荷重分布を調整して、側方からみたときのプレキャストコンクリート板21の配列形状が変動するのを抑制することができる。
【0059】
また、上記実施形態では、自碇式吊床版橋の構築方法について主に説明したので、水の排出及び容器の撤去は、吊床版7と上路桁9とが端部ブロック3,4間で連続した後に行って吊床版7にプレストレスを導入している。これに対し、吊床版が橋台に直接吊支持され、この上に上路桁が支持される吊床版橋の場合は、ケーブルが定着された橋台等の間で吊床版が連続するように形成された後に水の排出及び容器の撤去を行う。これにより吊床版のたわみ量が減少し、吊床版にプレストレスを導入することができる。
なお、本願発明の上路式吊床版橋の構築方法は、この他にも本願発明の範囲内で様々な態様で実施することができ、以上に説明した実施の形態に限定されるものではない。
【0060】
一方、吊床版橋の構築において、ケーブルで支持されたプレキャストコンクリート板に水を収容した容器を支持させる技術は、次のような場合にも応用することができる。
例えば、吊床版及び上路桁の幅が広く、図18に示すように幅の広いコンクリート板51がケーブル54によって支持された上に、上路桁52を幅方向に分割して形成する場合に、幅方向の荷重のつり合いを維持するために用いることができる。つまり、上路桁52を吊床版橋の中心線で分割して一方の端縁側に形成するときに、他方の端縁側に容器53を載置し、水を収容して中心線の両側の荷重のつり合いを維持する。これにより、プレキャストコンクリート板51をほぼ水平に支持して上路桁52の構築が可能となる。
【0061】
また、吊床版の幅が広く、吊床版の中心線に沿った分割線で吊床版を分割して二つの並列した吊床版を形成し、これらの間にコンクリートを現場打設して連結する方法では、分割して形成された吊床版のそれぞれに作用している荷重の違いによるたわみ差を、水を収容した容器によって調整することができる。つまり、図19(a)に示すように、二つの吊床版61,62を並列するように形成した後、これらを連結して一つの幅の広い吊床版とするときに、連結前のそれぞれの吊床版61,62に作用している荷重が相違するとたわみに差が生じる。これに対し、荷重が小さい吊床版62に容器63を載置して水を収容することにより、図19(b)に示すように二つの吊床版のたわみをほぼ同じに揃えることができる。この状態で二つの吊り床版61,62の間にコンクリート64を打設し、連結することによって幅の広い吊床版を形成することができる。また、連結後に荷重が小さい吊床版62上に上路桁等を形成する工程が行われて荷重が増加するのにともない、容器63内の水を排出して幅の広い吊床版をほぼ水平に維持することができる。
【符号の説明】
【0062】
1,2:橋台、 3,4:端部ブロック、 5,6:沓、 7:吊床版、 8:支柱、 9:上路桁、 10,11:アースアンカー、 12a:第1のケーブル、 12b:第2のケーブル、 13:カプラー、 14:延長ケーブル、 15:定着体、 16:PC鋼材、 17:ナット、 18:プレキャストコンクリート板に埋設されたシース、 19:横連結部材、
20:地盤、
21:プレキャストコンクリート板、 22:鋼棒、 23:セグメント、 25:連結部材、
30,31:容器、 32:センサー、
40,41:容器、 42:容器, 43:吊り材、 44:貯水バッグ、 45:ホース、 46:ポンプ、 47:ワイヤ、 48:貯水バッグ、 49:ホース、 50:ポンプ
【技術分野】
【0001】
本願発明は、橋梁の一形式である上路式吊床版橋、すなわち張架されたケーブルによって支持される薄いコンクリートの板状部材(吊床版)に支柱を立設し、その上に路面を形成するための上路桁を支持する上路式吊床版橋の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上路式吊床版橋は、橋脚間、橋台間又は橋脚と橋台との間に高張力のケーブルを張架し、このケーブルに沿ってたわみ(サグ)を生じた状態で薄いコンクリートの板状部材(吊床版)を支持させる。そして、板状部材である吊床版の上に支柱を立設し、この上に上路桁を構築するものである。
吊床版の上面が路面となる吊床版橋では吊床版のサグによって路面に勾配が生じるが、上記のような上路式吊床版橋では吊床版のたわみに関係なく路面の縦断勾配を任意に設定することができる。また、吊床版の両端部を上路桁と連結し、吊床版に作用する引張力を上路桁に伝達して上路桁に圧縮力として作用させる、いわゆる自碇式吊床版橋とすることもできる。これにより橋台又は橋脚に作用する水平方向の反力が低減され、完成系における橋台等の安定性を向上させることができる。
【0003】
このような上路式吊床版橋の構築方法として、例えば特許文献1に記載されているものがある。
この構築方法は、吊床版となるプレキャストコンクリート板と、この上に斜めに立ち上げられた二つの支柱とで構成された構造ユニットを、2つの橋台間に張架したケーブルに支持させる。そして、このケーブルに沿って移動して橋台に隣接した位置から順次に配列する。続いて、構造ユニットの支柱上に上路桁となるプレキャストコンクリートのセグメントを支持し、一方の橋台に隣接する位置から橋の軸線方向に順次に配列する。その後、ケーブルに沿って配列されたプレキャストコンクリート板間及びその上方に配列されたプレキャストコンクリートのセグメント間にコンクリートを打設し、これらのプレキャストコンクリート板及びセグメントを橋の軸線方向に連続する吊床版及び上路桁とするものである。なお、吊床版となるプレキャストコンクリート板は、上路桁を架設する前にそれぞれの板間にコンクリートを打設して連続した吊床版としておく場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−182016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような上路式吊床版橋の構築には次のような問題点が生じる場合がある。
上路式吊床版橋は、たわみが生じた状態で張架されたケーブルにプレキャストコンクリート板を支持させ、この上に上路桁を構築するものであるため、構築中における部材の支持が不安定になり易い。特に、プレキャストコンクリート板の上に支柱を立設した状態、及びこれらの支柱に上路桁を構築するための荷重が作用した状態では構築中の構造部材の重心が高くなり、さらに不安定な構造となる。
一方、上路式吊床版橋の構築中において、上路桁が完成する前の状態では剛性が小さく、わずかの偏載荷重が作用したときにも、ケーブルで吊り支持したプレキャストコンクリート板又はケーブルの軸線方向に連続した吊床版が、軸線と直角方向に傾く。また、施工誤差等によってもプレキャストコンクリート板の傾斜が生じ易く、ケーブルで支持した構築中の部材が不安定になり易い。
【0006】
本願発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ケーブルの軸線と直角方向つまり横方向への転倒に対する安定性が改善された上路式吊床版橋の構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に係る発明は、 二つの対峙する橋台又は橋脚間に張架されたケーブルに沿って形成された薄いコンクリートの板状部材である吊床版と、この吊床版上に立設された支柱と、この支柱上に支持された上路桁とを有する上路式吊床版橋の構築方法であって、 橋台又は橋脚間にケーブルを張架する工程と、 前記吊床版を構成する複数のプレキャストコンクリート板を前記ケーブルに沿って配列し、該ケーブルに支持させる工程と、 すべての前記プレキャストコンクリート板又は選択された複数のプレキャストコンクリート板から立設された支柱上に前記上路桁を構築する工程と、 前記プレキャストコンクリート板間にコンクリートを打設して連続する前記吊床版を形成する工程と、を含むものであり、 前記上路桁を構築する工程の全部又は一部は、すべての前記プレキャストコンクリート板又は選択された複数の前記プレキャストコンクリート板に水を貯留した容器を支持させ、前記ケーブルに支持されるプレキャストコンクリート板及びこのプレキャストコンクリート板に支持される部材の重心の位置を調整して行うことを特徴とする上路式吊床版橋の構築方法を提供する。
【0008】
上記上路式吊床版橋の構築方法において、橋台又は橋脚間に張架されたケーブルは、橋台と橋台との間、橋脚と橋脚との間及び橋台と橋脚との間に張架されるもののいずれであっても良い。そして、これらのケーブルは上路式吊床版橋の完成時においても橋台又は橋脚に両端が定着されているものであっても良いし、吊床版と上路桁とが形成された後に、ケーブルの両端の定着位置を橋台又は橋脚上の上路桁の端部に変更するものであってもよい。
また、プレキャストコンクリート板から立設された支柱は、プレキャストコンクリート板がケーブルに支持され、所定の位置に配列された後に立設するものであっても良いし、プレキャストコンクリート板に予め取り付けておき、このプレキャストコンクリート板を支柱とともにケーブルに支持させ、所定の位置に配列するものであっても良い。
一方、プレキャストコンクリート板間にコンクリートを打設して複数のプレキャストコンクリート板が連続した吊床版を形成する工程は、上路桁を構築する工程の前に行っても良いし、上路桁を構築する工程と同時に行っても良い。また、上路桁を構築する工程の一部が完了したとき又は上路桁の構築が完了したときに行っても良い。
【0009】
この上路式吊床版橋の構築方法では、容器内に貯留された水によってケーブルに支持されている部材の重心の位置が下がり、横方向への安定性が向上する。また、容器内の水量を調整することにより、工事の進捗状況に応じて重心の位置を調整することができる。したがって、プレキャストコンクリート板に立設された支柱に上路桁を構築する作業が容易となる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記容器は、前記プレキャストコンクリート板の前記ケーブルの軸線に対する幅方向に複数を配置し、 前記プレキャストコンクリート板の前記ケーブルの軸線と直角方向の傾斜を低減するように、幅方向に複数が配置された前記容器間の水量差を調整するものとする。
【0011】
この上路式吊床版橋の構築方法では、プレキャストコンクリート板の幅方向に配列した容器内の水量に差を設けることにより、プレキャストコンクリート板は水量が多い容器が載置された側の端縁が下降するように変位する。これにより、偏載荷重等によって生じた幅方向の変位差を低減することができる。したがって、プレキャストコンクリート板が幅方向に傾斜するのを是正し、安定した状態で上路式吊床版橋の構築が可能となる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記水量差を調整し、前記プレキャストコンクリート板又は前記上路桁を幅方向にほぼ水平とした状態で、前記プレキャストコンクリート板間にコンクリートを打設して連続する吊床版を形成する工程又は前記上路桁を前記吊床版の両端部間で連続する状態とする工程を行うものとする。
【0013】
この上路式吊床版橋の構築方法では、上記水量の調整により、プレキャストコンクリート板又は上路桁が幅方向にほぼ水平となった状態で連結され、剛性が増大する。これによりプレキャストコンクリート板が連結された吊床版又は上路桁が正確な形状に形成される。その後に載荷される荷重に対しては、剛性が増大して幅方向に傾斜する変位は小さく抑えられる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項2又は請求項3に記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記水量差の調整は、前記プレキャストコンクリート板の幅方向における変位差又は傾斜を検知するセンサーを設置し、該センサーの検知結果に基づいて制御されるポンプを用いて行うものとする。
【0015】
この上路式吊床版橋の構築方法では、新たに作用した荷重等によってプレキャストコンクリート板に幅方向の傾斜が生じたときに、センサーがこれを検知して迅速にこれを是正するように水量の調整が可能となる。これにより、水量を調整する作業を効率よく行うことが可能になるとともに、不安定な状態が長く続くことを回避することができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記容器は、前記プレキャストコンクリート板より下方に吊り支持するものとする。
【0017】
この上路式吊床版橋の構築方法では、水が貯留された容器をプレキャストコンクリート板より下方で支持することにより、プレキャストコンクリート板及びこれに支持される部材の重心を低くすることができる。これにより、プレキャストコンクリート板を安定した状態で支持し、吊床版の横方向の傾斜や転倒を回避することが容易となる。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記プレキャストコンクリート板には、上下方向に貫通する孔を設けておき、 前記容器は、柔軟に変形する材料で形成されたものを用い、 前記プレキャストコンクリート板の上から前記孔を通過させて該プレキャストコンクリート板の下方に支持し、 その後に、前記容器内に注水するものとする。
【0019】
この上路式吊床版橋の構築方法では、プレキャストコンクリート板がケーブルに沿って支持された後においても、プレキャストコンクリート板上の作業によって容器をプレキャストコンクリート板より下方に支持して水を貯留することが、容易に可能となる。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項1に記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記容器は、前記プレキャストコンクリート板の幅方向における両端縁付近に接
合した2つの吊り材により前記吊床版の幅方向のほぼ中央に吊り支持するものとする。
【0021】
この上路式吊床版橋の構築方法では、プレキャストコンクリート板とこれに支持される部材の重心を低くすることができるとともに、プレキャストコンクリート板が傾斜したときに、容器に貯留する水の重量が幅方向の傾斜を是正するように作用する。例えば、プレキャストコンクリート板の一方側が下になるように傾斜したときには、この下方に変位した側の端縁付近に接合された吊り材の引張力が減少し、プレキャストコンクリート板の他方側の端縁付近に接合された吊り材の引張力が増大する。これにより、プレキャストコンクリート板の傾斜を元に戻そうとする復元力が作用し、幅方向に複数の容器を設けることなくプレキャストコンクリート板の幅方向の変位差を低減し、水平に近い状態を維持することが可能となる。
【0022】
請求項8に係る発明は、請求項1から請求項7までのいずれかに記載の上路式吊床版橋の構築方法において、 前記プレキャストコンクリート板に予め前記支柱を立設し、 該プレキャストコンクリート板を前記ケーブルに支持させるとともに、水が貯留された前記容器を該プレキャストコンクリート板に支持させ、 該プレキャストコンクリート板を前記ケーブルに沿って移動して所定の位置に配列するものとする。
【0023】
この上路式吊床版橋の構築方法では、支柱が立設されたプレキャストコンクリート板をケーブルに沿って配列するので、工期を短縮することができる。
また、支柱を備えたプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート板のみの場合と比較すると、支柱を備えていることにより重心が高くなり不安定となるが、水を貯留した容器を支持することによって重心が低くなり、安定した状態でケーブルに沿って移動し、配列することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本願発明に係る上路式吊床版橋の構築方法では、ケーブルによって部材を吊り支持したとき重心の位置を低くし、安定した構築ができる。また、構築時に幅方向に配列した複数の容器内の水量を調整することによって、吊り支持されたプレキャストコンクリート板の幅方向の傾斜を抑制して構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本願発明に係る方法によって構築された上路式吊床版橋の一例を示す概略側面図である。
【図2】図1に示す上路式吊床版橋の断面図である。
【図3】図1に示す上路式吊床版橋の端部を拡大して示す側面図である。
【図4】図1に示す上路式吊床版橋を構築する工程を示す概略図である。
【図5】図1に示す上路式吊床版橋を構築する工程を示す概略図である。
【図6】図1に示す上路式吊床版橋を構築する工程を示す概略図である。
【図7】図1に示す上路式吊床版橋を構築する工程を示す概略図である。
【図8】架設中におけるケーブルの定着状態を示す断面図である。
【図9】プレキャストコンクリート板を第1のケーブルによって吊り支持した状態を示す概略断面図である。
【図10】プレキャストコンクリート板上に容器を載置した状態を示す概略断面図である。
【図11】プレキャストコンクリート板が幅方向に傾斜したときにおける容器内の水量の調整について説明する概略図である。
【図12】プレキャストコンクリート板に容器を支持させる形態の他の例を示す概略断面図である。
【図13】プレキャストコンクリート板に容器を支持させる形態の他の例を示す概略断面図である。
【図14】プレキャストコンクリート板に容器を支持させる形態の他の例を示す概略断面図である。
【図15】プレキャストコンクリート板に容器を支持させる形態の他の例を示す概略断面図である。
【図16】プレキャストコンクリート板に容器を他の形態で支持させる工程を示す概略断面図である。
【図17】プレキャストコンクリート板に容器を他の形態で支持させる工程を示す概略断面図である。
【図18】吊床版橋の構築に水を収容した容器を使用する技術の応用例を示す概略断面図である。
【図19】吊床版橋の構築に水を収容した容器を使用する技術の他の応用例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本願発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本願発明に係る方法によって構築することができる上路式吊床版橋の概略側面図である。また、図2はこの上路式吊床版橋の断面図である。
この上路式吊床版橋は、二つの橋台1,2間に架設されたものであり、沓5,6を介して橋台1,2上に支持されたコンクリートの端部ブロック3,4と、これらの端部ブロック3,4間に張架された吊床版7と、この吊床版7上に立設された複数の支柱8と、上記端部ブロック3,4間で連続するように形成され、支柱8によって吊床版7上に支持される上路桁9と、で主要部が構成されている。
【0027】
上記橋台1,2は、橋を架設する位置の強固な地盤20上に鉄筋コンクリートによって構築され、架設時にはアースアンカー10,11によって地盤20又は岩盤に強固に固定される。吊床版7および上路桁9が完成した後は、上記アースアンカー10,11は不要となり撤去することもできるが、そのまま残してもよい。
【0028】
上記沓5,6は、ゴム沓、鋳造された沓等を用いることができる。これらの沓5,6は、橋の軸線と直角となる水平な軸線回りに回転が可能に桁を支持するものである。そして、桁の両端部を支持する沓5,6のうち、一方は橋の軸線方向の水平移動を拘束し、他方は移動を許容するものとなっている。橋の軸線と直角の方向への水平移動は、双方の沓5,6とも拘束するものである。
【0029】
上記端部ブロック3,4は、現場打ちコンクリートで形成してもよいし、工場等であらかじめ製作されたプレキャストコンクリートとしてもよい。これらの端部ブロック3,4の鉛直面の上部には、双方の端部ブロック3,4間で連続する上路桁9が接合されており、下部には吊床版7が接合されている。そして、吊床版7を支持するケーブル12(図1中には表示しない)の両端部は、これらの端部ブロック3,4にそれぞれ定着されている。
【0030】
上記吊床版7は、コンクリートの薄い板状部材が二つの端部ブロック3,4間で連続するように形成されたものであり、たわみが生じた状態でケーブル12の引張力によって支持されている。この吊床版7は、工場又は現場近くの製作ヤードで作成された複数のプレキャストコンクリート板21と、これらの間及びこれらのプレキャストコンクリート板21と端部ブロック3,4との間を連結するように打設された現場打ちコンクリートとで形成されている。
【0031】
上記ケーブル12は、複数の第1のケーブル12aと複数の第2のケーブル12bとを含むものであり、第1のケーブル12aは、図2に示すように、吊床版7を形成するプレキャストコンクリート板21の上側に形成された溝21a内に収容され、これらの第1のケーブル12aの上側に架け渡してプレキャストコンクリート板21に固定された鋼棒22を介して該プレキャストコンクリート板21を支持するものとなっている。そして、この溝21aにはコンクリートが打設されて第1のケーブル21aが埋め込まれている。これらの第1のケーブル12aは、図3に示すように、端部にナット17aを螺合してコンクリートの端部ブロック3,4に定着することができるものである。
第2のケーブル12bは、吊床版7のコンクリート中に埋め込まれたシース18内に挿通され、両端はやはり端部ブロック3,4に定着されている。
【0032】
上記支柱8は鋼からなり、図1に示すように、吊床版7の上面から斜め上方に立ち上げられ、上路桁9を支持するように構成されている。そして、橋軸方向の互いに反対側となる方向へ傾斜する支柱8a,8bが吊床版7上の隣接した位置から立ち上げられ、これらの支柱8は吊床版7と上路桁9とともにワレントラスを形成している。これらの支柱8は、図2に示すように吊床版7の両側縁付近から立ち上げられ、これらの上端部は横連結部材19によって互いに連結されている。
なお、支柱8は繊維補強モルタル又は合成樹脂等からなるものを用いることもできる。
また、本実施の形態では、支柱8は吊床版7から斜め上方に立ち上げて形成されているが、吊床版7からほぼ鉛直に立ち上げたものであってもよい。つまり、支柱と吊床版と上路桁とがトラス構造とならないものであってもよい。
【0033】
上記上路桁9は、支柱8の頂部に支持されたプレキャストコンクリートからなるセグメントと、これらのセグメント間を連続させる場所打ちコンクリートとで構成されている。そして、自重や活荷重による曲げモーメント及びせん断力に充分に耐えられるように鉄筋による補強がなされている。
なお、上路桁9は、吊床版7上に支保工を組み立て、コンクリートを現場で打設して形成することもできる。
【0034】
次に、本願に係る発明の一実施形態であって、上記上路式吊床版橋を構築する方法について説明する。
まず、図4に示すように、上路式吊床版橋を架設する位置の両側にそれぞれ橋台1,2を構築する。この橋台1,2は、大きな水平方向の力に抵抗できるように、アースアンカー10,11によって地盤20又は岩盤に強固に固着する。そして、これらの橋台1,2上に沓5,6を介して端部ブロック3,4を支持し、これらを橋台1,2に仮固定する。
【0035】
その後、二つの端部ブロック3,4間に第1のケーブル12aを張架する。ここで張架するケーブルは、第1のケーブル12aのみであり、図8に示すように、端部ブロック3に埋め込まれたシース内に挿通し、延長ケーブル14を接続して橋台1,2に定着する。延長ケーブル14は、第1のケーブル12aの両端部に圧着された定着体15にカプラー13で接続することができる。これにより架設中に第1のケーブル12aから作用する反力を橋台1に負担させ、端部ブロック3には反力が作用しないようにしている。上記定着体15にはナット17aを螺合しておき、完成系において端部ブロック3,4に反力を負担させてケーブル12aを定着する。
なお、橋台1の後部は、上記延長ケーブル14からの反力が作用したときに、橋台1の後部断面に過度の引張応力が生じないように、鉛直方向のPC鋼材16によって補強している。
【0036】
次に、吊床版を形成するプレキャストコンクリート板21を第1のケーブル12aに吊り支持させる。第1のケーブル12aへの支持は、図9に示すように、プレキャストコンクリート板21の上側に設けられた溝21aにケーブル12aが納まるようにプレキャストコンクリート板21を吊り上げ、ケーブル12aの上側で短い鋼棒22をプレキャストコンクリート板21に係止することによって行う。プレキャストコンクリート板21は、上記のようにケーブル12aに係止した状態で該ケーブルに沿って移動し、一方の端部ブロック4と隣りあう位置から順に配置する。
なお、吊床版の軸線方向における上記プレキャストコンクリート板21の両端面からは、これらのプレキャストコンクリート板を互いに接合するための鉄筋(図示せず)を突出させておく。
【0037】
プレキャストコンクリート板21が端部ブロック3,4間のほぼ全領域に配列されると、図5に示すように水を貯留するため容器30,31を空の状態でプレキャストコンクリート板21上に載置する。これらの容器30,31は、図10に示すように、それぞれのプレキャストコンクリート板21上において幅方向に二つを並べ、吊床版橋の中心線の両側にそれぞれ載置する。そして、これらの容器内に予め定められた量の水を注ぎ込む。上記容器30,31は全部のプレキャストコンクリート板上に載置することもできるし、選択された複数のプレキャストコンクリート板上に載置してもよい。また、上記容器30,31は、合成樹脂からなるもの、ドラム缶、防水処理が施された布の袋状部材を枠体で支持するもの等、様々なものを使用することができるが軽量のものが望ましい。また、上部が広く開放されてポンプ等によって水の注入や排出が容易に行うことができるものがよい。
なお、図5は容器30,31内に貯留されている水を示すために容器30,31については断面で示している。
【0038】
プレキャストコンクリート板21の幅方向に配置された容器に注入する水の量は、プレキャストコンクリート板21を第1のケーブル12aに沿って配列した状態、つまり支柱8及び上路桁9が形成される前には、二つの容器30,31に対してほぼ同量とするのが望ましい。ただし、容器を配置する位置の誤差等によりプレキャストコンクリート板21が幅方向に傾斜する場合には、2つの容器間で貯留する水の量に差を設け、傾斜を是正する。また、第1のケーブル12aの軸線方向における複数の位置に配置した容器30,31には、2つの容器内に貯留された水量の合計がほぼ同じか、又は第1のケーブル12aの軸線方向に隣り合う位置で水の貯留量に大きな差が生じないように設定するのがよい。
また、プレキャストコンクリート板21の幅方向に載置された2つの容器30,31に貯留される合計水量は、その後の支柱8を立ち上げる工程及び上路桁9を形成する工程において当該容器が配置される位置付近に作用する荷重以上であることが望ましい。つまり、プレキャストコンクリート板21上に立設される支柱8及びプレキャストコンクリート板21の上方に架設される上路桁9の荷重相当以上の水を容器30,31内に分配して注入するのがよい。
【0039】
上記のように容器30,31を配置し、これらの容器30,31内に水を貯留した状態で、複数のプレキャストコンクリート板21上に支柱8を立設する。
上記支柱8は、図2に示すように、プレキャストコンクリート板21上から立ち上げる。そして、図6に示すように上路式吊床版橋の軸線方向に傾斜させ、下端部が他の支柱と隣接し、上端部では下端部で隣接する支柱とは異なる支柱と隣接させる。これらの支柱8の上端部は連結部材25によって橋の軸線方向に連結する。また、これらの支柱8は、隣接する他の支柱と上端部又は下端部で力が伝達されるように互いに接合するのが望ましい。一方、支柱8の下端とプレキャストコンクリート板21との接合は、プレキャストコンクリート板21の表面から突出したアンカー(図示しない)に支柱8を連結するとともに、支柱8の下端とプレキャストコンクリート板21との間にコンクリート又はモルタル等を充填する。このコンクリート又はモルタルの硬化によりプレキャストコンクリート板21と支柱8とは一体となり、相互間で力が伝達されるものとなる。
【0040】
続いて、図7に示すように、支柱8の頂部間に架け渡すように上路桁9となるプレキャストコンクリートのセグメント23を配置する。このセグメント23の配置は、支柱8の頂部間を連結する連結部材25をレールとして、又はこの連結部材25の上にレールを敷設し、この上を走行させて、図7に示すようにセグメント23を端部ブロック4に隣接した位置から順次に配列する。
なお、図7においても容器30,31内に貯留されている水を示すために容器30,31を断面で示している。
【0041】
上記支柱8を立設する工程及び上路桁9を形成する工程において、支柱8や上路桁9を形成する部材等がプレキャストコンクリート板21の幅方向において偏載荷されることがある。このように荷重が偏載荷されると当該荷重が作用する位置付近においてプレキャストコンクリート板21の幅方向における両端縁で上下方向の変位差が生じ、幅方向に傾斜する。このような場合、プレキャストコンクリート板21上に載置された二つの容器30,31内の水量差を調整して、プレキャストコンクリート板21の幅方向の傾斜を是正する。
【0042】
例えば、図11(a)に示すように、プレキャストコンクリート板21の幅方向における一方の端部21Rで大きなたわみが生じ、プレキャストコンクリート板21が傾斜した場合、プレキャストコンクリート板21の下方への撓みが大きい端部側に載置された容器31内の水の一部を排出し、この排出した水を反対側つまりたわみが小さく上方にある容器30に注入する。これにより、図11(b)に示すように、水量が増加した容器30が載置された側のたわみが増大し、水量が減少した容器31が載置された側のたわみが減少する。したがって、2つの容器30,31間で水を移動して水量差を調整することにより、プレキャストコンクリート板21の幅方向の変位差が解消され、水平に近づく。
なお、2つの容器30,31間の水量差は、上記のように2つの容器30,31間における水の移動によって調整するのが望ましいが、これに限定されず、たわみが少なく傾斜した上方側にある容器30に注水を行うことによって調整しても良いし、たわみが大きく生じて傾斜した下方側にある容器31内の水を排出することによって調整しても良い。
【0043】
また、水量差の調整は、作業者がプレキャストコンクリート板21の傾きの状態を見ながらポンプ等(図示せず)を操作して行うこともできるが、プレキャストコンクリート板21の両側縁の変位差又は傾斜を検知するセンサー32をプレキャストコンクリート板21に設置しておき、この検知結果に基づき、コンピュータ等の制御装置によってポンプ等を制御することもできる。
なお、上記センサー32は、プレキャストコンクリート板21の幅方向の変位差又は傾斜を検出できる公知のものを使用することができ、例えば電子式水準計等を用いることができる。
【0044】
一方、セグメント23を順次に配置して上路桁9を形成する工程では、当該セグメント23の荷重が下方に位置するプレキャストコンクリート板21に作用し、第1のケーブル12aの軸線方向においても隣り合うプレキャストコンクリート板21間に上下方向の大きな相対的変位を生じることがある。つまり第1のケーブル12aの軸線方向における限定された範囲に荷重が作用することによって、第1のケーブル12aの軸線方向において偏った変形が生じ、たわみが生じた第1のケーブル12aで支持する複数のプレキャストコンクリート板21の側方から見た配列形状が大きく変動することがある。このようなプレキャストコンクリート板21間の相対的な変位を抑制するように、第1のケーブル12aの軸線方向に沿って配列した容器30,31内の水量の分布を調整する。
【0045】
この水量の調整は、例えば次のように行うことができる。
1つのセグメント23を送り出して支柱8の上に支持すると、このセグメント23の下方に位置するプレキャストコンクリート板21、つまり配置されたセグメント23の荷重が作用する位置付近に載置されている容器30,31から、このセグメント23の重量に相当する量の水を排出する。このようにして、セグメント23を順次に配置するともに、セグメント23を配置した位置付近のプレキャストコンクリート板21上に載置された容器30,31から水の排出を行い、セグメント23を端部ブロック3,4間に配列する。
なお、上記容器30,31内には排出後も所定量の水が残るものとし、プレキャストコンクリート板の幅方向に傾斜が生じたときには、これらの水によって二つの容器間の水量差を設け、傾斜を低減することができる。
【0046】
上記のように荷重が載荷されるのに対応して水を排出することにより、荷重が新たに載荷されることによる影響が低減される。つまり、新たに載荷されるセグメント23の重量に相当する量の水が排出されると、第1のケーブル12aに作用する荷重の総量はほとんど変化しない。また、載荷される位置付近の容器30,31から水を排出することによって第1のケーブル12aに作用する荷重の分布も大きく変動することはない。したがって、第1のケーブル12aのたわみの形状は大きく変化しない。
なお、排出する水の量は、必ずしも新たに載荷される荷重に相当する量にする必要はなく、多少異なるものであっても、たわみの形状が大きく変化するのを抑制することができる。
【0047】
また、第1のケーブル12aのたわみ形状が大きく変化するのを抑制する方法としては、新たに載荷される荷重に対応して容器30,31内の水を排出するものに限定されることはなく、容器30,31内の水を他の方法で調整することもできる。例えば、荷重が載荷される位置付近の容器から排出した水を、他の容器に分配するものであっても良いし、荷重が載荷された位置付近におけるたわみが過大となるのを抑制するように、他の容器に注水するものであっても良い。
【0048】
上記のように容器30,31内の水の調整及び排出を行いながら上路桁9を構成するセグメント23を配列した後、セグメント23間及び端部ブロック3,4と隣り合うセグメント23と端部ブロック3,4との間にコンクリートを打設して端部ブロック3,4間で連続する上路桁9を形成する。また、第1のケーブル12aに沿って支持されたプレキャストコンクリート板21の間及び端部ブロック3,4と隣り合うプレキャストコンクリート板21と端部ブロック3,4との間にコンクリートを打設して二つの端部ブロック3,4間で連続する吊床版7を形成する。
【0049】
このように、上路桁9及び吊床版7が端部ブロック3,4間で連続すると、プレキャストコンクリート板21に埋め込まれたシース18に挿通した第2のケーブル12bを緊張して吊床版7に軸線方向のプレストレスを導入する。そして、この第2のケーブル12bを端部ブロック3,4に定着する。
また、第1のケーブル12aに接続された延長ケーブル14を橋台1,2に係止していたナット17bを緩め、第1のケーブル12aの端部の定着体15に螺合されたナット17aによって第1のケーブル12aの引張力を端部ブロック3,4に負担させる。そして、端部ブロック3,4の仮固定を解放すると、第1のケーブル12aの反力は、端部ブロック3,4から上路桁9に軸力として伝達される。これにより、図1に示すような両端部が単純支持された構造となる。つまり、吊床版7に作用する引張力と上路桁9に作用する圧縮力とが相殺され、橋台1,2には水平力が作用しない、いわゆる自碇化された構造系となる。
【0050】
上記のように、吊床版7が端部ブロック3,4間で連続し、第1のケーブル12aの定着位置が変更されて構造系が橋台1,2から独立したものとなると、容器30に残留している水を排出する。これによって吊床版7のサグが減少し、吊床版7にはさらにプレストレスが導入される。
【0051】
このような上路式吊床版橋の架設方法では、第1のケーブル12aで支持したプレキャストコンクリート板21上には、該吊床版橋の軸線方向に設定した中心線の両側に二つの容器30を配列し、プレキャストコンクリート板25の幅方向に変位差が生じたときに、両側に配置された容器30,31内の水量差を調整することによって、プレキャストコンクリート板25の傾斜が抑制される。また、第1のケーブル12aの軸線方向に配列された容器30,31に貯留された水の量を調整しながら新たな荷重を負荷することにより、荷重の負荷によるたわみの変動が低減される。したがって、安定した状態で上路桁9の形成が可能となる。また、隣り合うプレキャストコンクリート板21間の相対的な変位、上路桁9を構成するセグメント23間の相対的な変位を小さく抑えることができ、これらを連結するための鉄筋等が干渉したり、鉄筋の干渉によってプレキャストコンクリート板21が損傷したりするのが防止される。
【0052】
なお、上記実施の形態では、容器30,31をプレキャストコンクリート板21上に載置しているが、図12に示すようにプレキャストコンクリート板21から容器40,41を吊り支持するものであっても良い。また、図13に示すように吊り材として曲げ剛性が大きい部材、例えば形鋼等を用いてプレキャストコンクリート板21に傾斜が生じたときに、図13中に仮想線で示すように吊り材42もプレキャストコンクリート板21の傾斜とともに角度変化を生じるものとしてもよい。このように容器40,41を支持することによって容器40,41及びこれに貯留される水の重量がプレキャストコンクリート板21の傾斜を抑制する力として作用する。したがって、中心線の両側の容器40,41間の水量差によって傾斜を抑制する操作が容易となる。
【0053】
以上に説明した実施の形態では、第1のケーブル12aの軸線方向に設定した吊床版橋の中心線の両側に二つの容器30,31,40,41を配置したが、2以上の容器を配列するものであっても良い。また、中心線上に一つの容器を支持するものであってもよい。一つの容器を支持する場合には水量の調整によって幅方向の傾斜を是正することはできないが、容器内に貯留する水の重量によってケーブルに支持させる部材の重心を低くして安定性を向上させることができる。
一つの容器をプレキャストコンクリート板の幅方向における中央部に支持するときには、プレキャストコンクリート板の上に容器を載置しても良いし、プレキャストコンクリート板の幅方向における中央部に、図12に示す例で用いた吊り金具と同様の吊り金具を設けて容器を吊り支持しても良い。
【0054】
幅方向に一つの容器を設置するときには、図14に示すようにプレキャストコンクリート板21の両側縁付近に係止した2本の吊り材43a,43bを用いて吊り支持するのが望ましい。つまり、プレキャストコンクリート板21の両側縁付近に一端を結合した2本の吊り材43a,43bをプレキャストコンクリート板21の幅方向における中央に向かって斜め下方に張架し、幅方向の中央部でこれらの吊り材により容器を吊り支持する。このように容器42が吊支持され、容器42に水が貯留されていると、図14中の仮想線で示すように、第1のケーブル12aで吊り支持されているプレキャストコンクリート板21が偏載荷等によって幅方向に傾斜したときに、吊り材43a,43bの張力が変化する。つまり、傾斜して上方となった端縁付近21Lに結合された吊り材43aの張力が増加するとともに下方となった端縁付近21Rに結合された吊り材43bの張力が減少する。これにより、吊り材43a,43bの張力の差がプレキャストコンクリート板21の傾斜を是正するように作用し、支柱8等が立ち上げられたプレキャストコンクリート板21の横方向の安定性が向上する。
【0055】
容器をプレキャストコンクリート板より下方に吊り支持するときには、第1のケーブル12aに沿って配置する前のプレキャストコンクリート板21に予め支持させておくこともできるし、例えば図15、図16及び図17に示すように、プレキャストコンクリート板21を第1のケーブル12aに沿って配置した後に容器を支持させることができる。
図15に示す例では、容器として柔軟に変形する布で形成された貯水バッグ44を用いる。プレキャストコンクリート板21の中央部には予め孔21bを設けておき、この孔から水を収容していない状態で貯水バッグ44をプレキャストコンクリート板21より下方に降下させる。この貯水バッグ44にはホース45を挿入しておき、ポンプ46を用いて水を貯水バッグ内に注入する。
【0056】
図16及び図17に示す例では、プレキャストコンクリート板の両側縁付近に、それぞれ孔21c,21dを設けておく。そして、図16(a)に示すように、これらの孔に一本のワイヤ47を挿通して環状に連結する。この環状となったワイヤ47の一箇所には、図16(b)に示すようにプレキャストコンクリート板21上で貯水バッグ48を取り付ける。この貯水バッグ48は、図15に示す例で使用したものと同様のものを用いることができる。ワイヤ47に貯水バッグ48が取り付けられると、ワイヤ47を周方向に移動し、図17(a)に示すように、貯水バッグ48を一方の孔21dからプレキャストコンクリート板21の下側に送り出す。そして、ワイヤ47をさらに周方向に移動して貯水バッグ48をプレキャストコンクリート板21の下方で幅方向におけるほぼ中央に支持する。この位置で、図17(b)に示すように貯水バッグ48内に挿入したホース49を用い、ポンプ50によって水を貯水バッグ48内に注入する。また、ワイヤ47は周方向に移動しないようにプレキャストコンクリート板21に対して固定する。このように貯水バッグ48を支持することにより、図14に示す例と同様に、プレキャストコンクリート板21が傾斜したときに、これを復元しようとする力が作用するものとなる。
【0057】
以上のように、容器をプレキャストコンクリート板21に設置する時期は、プレキャストコンクリート板21上に支柱8が立設される前であっても良いし、プレキャストコンクリート板21上に支柱が立設された後であってもよい。
また、支柱8は、プレキャストコンクリート板21に予め立設されていてもよく、プレキャストコンクリート板21と支柱8とからなるユニットを第1のケーブル12aに支持させ、これを第1のケーブル12aに沿って移動して配列することもできる。この場合、ユニットに水が貯留された容器30,31,40,41,42又は貯水バッグ44,48を支持した状態で第1のケーブル12aに沿って移動してもよい。プレキャストコンクリート板21のみを配列する場合と比較して、支柱8が設けられたユニットは重心が高くなっており、第1のケーブル12aでプレキャストコンクリート板21を支持した状態は不安定になりやすいが、水を貯留する容器30,31,40,41,42又は貯水バッグ44,48を支持することにより重心を下げ、安定した移動及び配列が可能となる。
【0058】
上記実施形態において、上路桁9はプレキャストコンクリートのセグメント23を順次に配列して架設したが、コンクリートを現場で打設することにより架設することもできる。現場打ちコンクリートの場合も、打設したコンクリートの荷重が作用するのにともなってプレキャストコンクリート板21が幅方向に傾斜したときに、中心線の両側に設置した容器30,31,40,41の水量差を調整する。また、第1のケーブル12aの軸線方向に配列して支持された容器30,31,40,41,42内の水量又は貯水バッグ44,48内の水量を調整する。これにより、第1のケーブル12aの軸線方向の荷重分布を調整して、側方からみたときのプレキャストコンクリート板21の配列形状が変動するのを抑制することができる。
【0059】
また、上記実施形態では、自碇式吊床版橋の構築方法について主に説明したので、水の排出及び容器の撤去は、吊床版7と上路桁9とが端部ブロック3,4間で連続した後に行って吊床版7にプレストレスを導入している。これに対し、吊床版が橋台に直接吊支持され、この上に上路桁が支持される吊床版橋の場合は、ケーブルが定着された橋台等の間で吊床版が連続するように形成された後に水の排出及び容器の撤去を行う。これにより吊床版のたわみ量が減少し、吊床版にプレストレスを導入することができる。
なお、本願発明の上路式吊床版橋の構築方法は、この他にも本願発明の範囲内で様々な態様で実施することができ、以上に説明した実施の形態に限定されるものではない。
【0060】
一方、吊床版橋の構築において、ケーブルで支持されたプレキャストコンクリート板に水を収容した容器を支持させる技術は、次のような場合にも応用することができる。
例えば、吊床版及び上路桁の幅が広く、図18に示すように幅の広いコンクリート板51がケーブル54によって支持された上に、上路桁52を幅方向に分割して形成する場合に、幅方向の荷重のつり合いを維持するために用いることができる。つまり、上路桁52を吊床版橋の中心線で分割して一方の端縁側に形成するときに、他方の端縁側に容器53を載置し、水を収容して中心線の両側の荷重のつり合いを維持する。これにより、プレキャストコンクリート板51をほぼ水平に支持して上路桁52の構築が可能となる。
【0061】
また、吊床版の幅が広く、吊床版の中心線に沿った分割線で吊床版を分割して二つの並列した吊床版を形成し、これらの間にコンクリートを現場打設して連結する方法では、分割して形成された吊床版のそれぞれに作用している荷重の違いによるたわみ差を、水を収容した容器によって調整することができる。つまり、図19(a)に示すように、二つの吊床版61,62を並列するように形成した後、これらを連結して一つの幅の広い吊床版とするときに、連結前のそれぞれの吊床版61,62に作用している荷重が相違するとたわみに差が生じる。これに対し、荷重が小さい吊床版62に容器63を載置して水を収容することにより、図19(b)に示すように二つの吊床版のたわみをほぼ同じに揃えることができる。この状態で二つの吊り床版61,62の間にコンクリート64を打設し、連結することによって幅の広い吊床版を形成することができる。また、連結後に荷重が小さい吊床版62上に上路桁等を形成する工程が行われて荷重が増加するのにともない、容器63内の水を排出して幅の広い吊床版をほぼ水平に維持することができる。
【符号の説明】
【0062】
1,2:橋台、 3,4:端部ブロック、 5,6:沓、 7:吊床版、 8:支柱、 9:上路桁、 10,11:アースアンカー、 12a:第1のケーブル、 12b:第2のケーブル、 13:カプラー、 14:延長ケーブル、 15:定着体、 16:PC鋼材、 17:ナット、 18:プレキャストコンクリート板に埋設されたシース、 19:横連結部材、
20:地盤、
21:プレキャストコンクリート板、 22:鋼棒、 23:セグメント、 25:連結部材、
30,31:容器、 32:センサー、
40,41:容器、 42:容器, 43:吊り材、 44:貯水バッグ、 45:ホース、 46:ポンプ、 47:ワイヤ、 48:貯水バッグ、 49:ホース、 50:ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの対峙する橋台又は橋脚間に張架されたケーブルに沿って形成された薄いコンクリートの板状部材である吊床版と、この吊床版上に立設された支柱と、この支柱上に支持された上路桁とを有する上路式吊床版橋の構築方法であって、
橋台又は橋脚間にケーブルを張架する工程と、
前記吊床版を構成する複数のプレキャストコンクリート板を前記ケーブルに沿って配列し、該ケーブルに支持させる工程と、
すべての前記プレキャストコンクリート板又は選択された複数のプレキャストコンクリート板から立設された支柱上に前記上路桁を構築する工程と、
前記プレキャストコンクリート板間にコンクリートを打設して連続する前記吊床版を形成する工程と、を含むものであり、
前記上路桁を構築する工程の全部又は一部は、すべての前記プレキャストコンクリート板又は選択された複数の前記プレキャストコンクリート板に水を貯留した容器を支持させ、前記ケーブルに支持されるプレキャストコンクリート板及びこのプレキャストコンクリート板に支持される部材の重心の位置を調整して行うことを特徴とする上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項2】
前記容器は、前記プレキャストコンクリート板の前記ケーブルの軸線に対する幅方向に複数を配置し、
前記プレキャストコンクリート板の前記ケーブルの軸線と直角方向の傾斜を低減するように、幅方向に複数が配置された前記容器間の水量差を調整することを特徴とする請求項1に記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項3】
前記水量差を調整し、前記プレキャストコンクリート板又は前記上路桁を幅方向にほぼ水平とした状態で、前記プレキャストコンクリート板間にコンクリートを打設して連続する吊床版を形成する工程又は前記上路桁を前記吊床版の両端部間で連続する状態とする工程を行うことを特徴とする請求項2に記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項4】
前記水量差の調整は、前記プレキャストコンクリート板の幅方向における変位差又は傾斜を検知するセンサーを設置し、該センサーの検知結果に基づいて制御されるポンプを用いて行うことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項5】
前記容器は、前記プレキャストコンクリート板より下方に吊り支持することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項6】
前記プレキャストコンクリート板には、上下方向に貫通する孔を設けておき、
前記容器は、柔軟に変形する材料で形成されたものを用い、
前記プレキャストコンクリート板の上から前記孔を通過させて該プレキャストコンクリート板の下方に支持し、
その後に、前記容器内に注水することを特徴とする請求項5に記載の上路式吊床版橋の構築方法
【請求項7】
前記容器は、前記プレキャストコンクリート板の幅方向における両端縁付近に接合した2つの吊り材により前記吊床版の幅方向のほぼ中央に吊り支持することを特徴とする請求項1に記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項8】
前記プレキャストコンクリート板に予め前記支柱を立設し、
該プレキャストコンクリート板を前記ケーブルに支持させるとともに、水が貯留された前記容器を該プレキャストコンクリート板に支持させ、
該プレキャストコンクリート板を前記ケーブルに沿って移動して所定の位置に配列することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項1】
二つの対峙する橋台又は橋脚間に張架されたケーブルに沿って形成された薄いコンクリートの板状部材である吊床版と、この吊床版上に立設された支柱と、この支柱上に支持された上路桁とを有する上路式吊床版橋の構築方法であって、
橋台又は橋脚間にケーブルを張架する工程と、
前記吊床版を構成する複数のプレキャストコンクリート板を前記ケーブルに沿って配列し、該ケーブルに支持させる工程と、
すべての前記プレキャストコンクリート板又は選択された複数のプレキャストコンクリート板から立設された支柱上に前記上路桁を構築する工程と、
前記プレキャストコンクリート板間にコンクリートを打設して連続する前記吊床版を形成する工程と、を含むものであり、
前記上路桁を構築する工程の全部又は一部は、すべての前記プレキャストコンクリート板又は選択された複数の前記プレキャストコンクリート板に水を貯留した容器を支持させ、前記ケーブルに支持されるプレキャストコンクリート板及びこのプレキャストコンクリート板に支持される部材の重心の位置を調整して行うことを特徴とする上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項2】
前記容器は、前記プレキャストコンクリート板の前記ケーブルの軸線に対する幅方向に複数を配置し、
前記プレキャストコンクリート板の前記ケーブルの軸線と直角方向の傾斜を低減するように、幅方向に複数が配置された前記容器間の水量差を調整することを特徴とする請求項1に記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項3】
前記水量差を調整し、前記プレキャストコンクリート板又は前記上路桁を幅方向にほぼ水平とした状態で、前記プレキャストコンクリート板間にコンクリートを打設して連続する吊床版を形成する工程又は前記上路桁を前記吊床版の両端部間で連続する状態とする工程を行うことを特徴とする請求項2に記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項4】
前記水量差の調整は、前記プレキャストコンクリート板の幅方向における変位差又は傾斜を検知するセンサーを設置し、該センサーの検知結果に基づいて制御されるポンプを用いて行うことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項5】
前記容器は、前記プレキャストコンクリート板より下方に吊り支持することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項6】
前記プレキャストコンクリート板には、上下方向に貫通する孔を設けておき、
前記容器は、柔軟に変形する材料で形成されたものを用い、
前記プレキャストコンクリート板の上から前記孔を通過させて該プレキャストコンクリート板の下方に支持し、
その後に、前記容器内に注水することを特徴とする請求項5に記載の上路式吊床版橋の構築方法
【請求項7】
前記容器は、前記プレキャストコンクリート板の幅方向における両端縁付近に接合した2つの吊り材により前記吊床版の幅方向のほぼ中央に吊り支持することを特徴とする請求項1に記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【請求項8】
前記プレキャストコンクリート板に予め前記支柱を立設し、
該プレキャストコンクリート板を前記ケーブルに支持させるとともに、水が貯留された前記容器を該プレキャストコンクリート板に支持させ、
該プレキャストコンクリート板を前記ケーブルに沿って移動して所定の位置に配列することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の上路式吊床版橋の構築方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−255300(P2012−255300A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129153(P2011−129153)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】
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