説明

下水汚泥焼却灰からのリン回収方法

【課題】アルカリ源の添加量をアルミニウムが溶解しているアルカリ性反応液に対しても適切に管理し、過剰添加による費用の無駄や、添加不足によるリン抽出不良を防止できる下水汚泥焼却灰からのリン回収方法を提供する。
【解決手段】下水汚泥焼却灰とアルカリ性反応液とを反応槽内で混合して下水汚泥焼却灰に含まれるリンを液中に抽出したうえ、リン抽出液と処理灰とを固液分離し、このリン抽出液にカルシウム成分を加えてリン酸カルシウム結晶を取り出す下水汚泥焼却灰からのリン回収方法である。アルミニウムが溶解しているとpHによる管理が不能となるが、本発明ではバッチ操作においては供給反応液のPアルカリ度を、連続操作においては反応槽内液のPアルカリ度を測定し、Pアルカリ度が所定範囲に維持されるようにアルカリ源の添加量を制御しつつリン抽出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥焼却灰からリンを回収するとともに、有害成分の含有量の少ない清浄な処理灰を得ることができる下水汚泥焼却灰からのリン回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水処理場から毎日大量に発生する下水汚泥は、これまで主として焼却処分され、それに伴って発生する下水汚泥焼却灰は埋立処分されてきた。しかし埋立処分場を確保することは次第に困難となりつつある。そこで下水汚泥焼却灰を埋立処分するのではなく、例えばアスファルトフィラーのような道路舗装材や下層路盤材等として有効利用する試みがなされている。この場合には、下水汚泥焼却灰から有害成分が土壌中に溶出しないようにしなければならない。
【0003】
また下水汚泥焼却灰にはP2O5換算で10〜35質量%前後のリンが含有されているため、これを抽出して回収し、世界的に枯渇が危惧されているリン資源として活用することが検討されている。
【0004】
上記した要求に応えるために、特許文献1に示されるように、下水汚泥焼却灰と苛性ソーダ等のアルカリ性反応液とを反応槽内で混合して下水汚泥焼却灰に含まれるリンを液中に抽出したうえ、リン抽出液と処理灰とを固液分離し、処理灰を回収する一方、このリン抽出液にカルシウム成分を加えてリン酸カルシウム結晶を取り出す方法が提案されている。この方法によれば下水汚泥焼却灰に含まれる有害成分をアルカリ性反応液に溶出させて除去し、清浄な処理灰を得ることができ、またリンの回収も行うことができる。
【0005】
この特許文献1では、反応後の槽内液pHが12以上となる量の苛性ソーダを添加すると説明されており、苛性ソーダ添加量は反応後の槽内液pHにより管理している。しかし、この方法では反応開始時点において適正な苛性ソーダ供給量を決定することができない。また、苛性ソーダは焼却灰中のリンおよびアルミニウムとの反応により消費されるため、pHの変化がリンとの反応に起因するものか、アルミニウムとの反応に起因するものかの区別がつかず、アルミニウム含有量が高い焼却灰を処理した際には苛性ソーダが不足し、リン抽出率が低下する恐れがある。
【0006】
このために過剰量の苛性ソーダを添加したり、苛性ソーダの添加量が不足したりすることがあり、前者の場合には苛性ソーダの費用が無駄になり、後者の場合にはリン抽出が不十分になり、抽出液中のリン濃度が高まらないという問題があった。
【特許文献1】特開2004−203641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、苛性ソーダなどのアルカリ性反応液を適切に管理し、過剰添加による費用の無駄や、添加不足によるリン抽出不良を防止することができる下水汚泥焼却灰からのリン回収方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、下水汚泥焼却灰とアルカリ性反応液とを反応槽内で混合して下水汚泥焼却灰に含まれるリンを液中に抽出したうえ、リン抽出液と処理灰とを固液分離し、このリン抽出液にカルシウム成分を加えてリン酸カルシウム結晶を取り出す下水汚泥焼却灰からのリン回収方法において、反応槽内液のPアルカリ度を測定し、Pアルカリ度が所定範囲に維持されるようにアルカリ性反応液の添加量を制御しつつリン抽出を行うことを特徴とするものである。
【0009】
なお、バッチ操作においては供給反応液のPアルカリ度を、連続操作においては反応槽内液のPアルカリ度を40000〜100000mg-CaCO3/Lの範囲に維持することが好ましく、アルカリ性反応液として苛性ソーダの水溶液を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、バッチ操作においては供給反応液のPアルカリ度を、連続操作においては反応槽内液のPアルカリ度を測定し、Pアルカリ度が所定範囲に維持されるようにアルカリ源の添加量を制御しつつリン抽出を行う。これによりアルミニウムが溶解しているアルカリ性反応液に対してもアルカリ源の添加量を適切に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を説明するが、最初にPアルカリ度について説明する。
本発明において用いるアルカリ度とは水中に含まれているアルカリ成分、すなわち酸を消費する成分の量をCaCO3の量に換算して表示したものであり、水素イオン濃度を表わすpHとは異なる。アルカリ度の高い水は酸が添加されても中和してしまうためにpHの変化が生じにくくなり、この意味から水が持つ酸に対する緩衝能力と表現されることもある。
【0012】
公定法では、アルカリ度は測定対象液中に塩酸を用いた中和滴定により測定される。アルカリ度の測定方法には、試薬にメチルレッド−ブロムクレゾールグリーンを使用し、pHが4.8になるまでの塩酸量からアルカリ成分の量を求める方法と、試薬にフェノールフタレインを使用し、pHが8.3になるまでの塩酸量からアルカリ成分の量を求める方法とがあり、前者をMアルカリ度、後者をPアルカリ度と呼ぶ。Mアルカリ度は水中のアルカリ成分の総量に対応し、Pアルカリ度は水中のアルカリ成分のうち水酸イオン量に対応する。下水汚泥焼却灰からのリン抽出に寄与するのは水酸イオンであるから、本発明ではバッチ操作においては供給反応液のPアルカリ度を、連続操作においては反応槽内液のPアルカリ度を用いてアルカリ源の添加量を制御することとした。
【0013】
図1は本発明の工程を示すブロック図であり、下水汚泥焼却灰とアルカリ性反応液とを反応槽内で混合し、下水汚泥焼却灰に含まれるリンを液中に抽出させる。季節や処理場によっても変動するが、一般的には下水汚泥焼却灰中にはP2O5換算で10〜35質量%程度のリンが含まれており、アルカリ性反応液と接触させることによってリン酸イオンとして液側に抽出することができる。
【0014】
添加するアルカリ源の種類は特に限定されるものではないが、強アルカリであることとコスト面から、実用的には苛性ソーダの水溶液が用いられる。
【0015】
本発明ではバッチ操作においては供給反応液のPアルカリ度を、連続操作においては反応槽内液のPアルカリ度を測定し、アルカリ性反応液の濃度制御を行う。Pアルカリ度を用いれば強アルカリ成分の含有率をpHとは独立して測定することが可能である。しかも図2のグラフに示すように、冬季、春季、夏季のいずれの季節に行った実証試験の結果でも、供給反応液のアルミニウム濃度が0〜4210mg/Lまで変動しているにもかかわらず、抽出液中のリン濃度はPアルカリ度に比例することを示している。この図2のグラフでは横軸xにPアルカリ度〔mg-CaCO3/L〕を取り、縦軸yに抽出液中の全リン濃度〔mg/L〕を取った場合、両者の関係はy=0.136xの直線で表すことができる。
【0016】
またPアルカリ度=50000mg-CaCO3/Lが1規定の苛性ソーダ水溶液に相当し、pHが14の上限値に達してしまうが、それ以上の領域においても抽出液中のリン濃度がPアルカリ度に比例していることが分かる。
【0017】
そこでバッチ操作においては供給反応液のPアルカリ度を、連続操作においては反応槽内液のPアルカリ度を測定しながら、40000〜100000mg-CaCO3/Lの範囲を維持するように苛性ソーダの添加量を制御することにより、抽出液中のリン濃度を約5500〜13000mg/Lの範囲に維持することができる。Pアルカリ度が40000mg-CaCO3/Lよりも低くなると抽出液中のリン濃度が低下し、リン抽出が十分に行われない。逆にPアルカリ度が100000mg-CaCO3/Lを超えると、固液分離の際に処理灰とともに系外へ排出される未反応のNaOH量が無視できなくなるため、リン抽出の目的では40000〜100000mg-CaCO3/Lの範囲が適当である。
【0018】
このようにしてリン抽出を行ったうえ、反応槽内液は固液分離されて処理灰とリン抽出液となる。固液分離の方法は特に限定されるものではなく、脱水機を使用しても重力沈降法によってもよい。処理灰は水洗と脱水を複数回繰り返して付着しているアルカリ分やその他の有害成分を除去し、清浄な処理灰として回収される。この処理灰は土壌環境基準を満たしており、アスファルトフィラーのような道路舗装材や下層路盤材として有効利用することができる。
【0019】
一方、リン抽出液にはカルシウム成分を加えてリン酸カルシウム結晶を取り出す。カルシウム成分としては実用的には消石灰が用いられ、重力沈降法などにより固液分離してリン酸カルシウム結晶を得る。このリン酸カルシウム結晶は水洗浄して付着している有害物質を取り除いたうえ、リン酸肥料の原料として用いることができる。
【0020】
なお、リン酸カルシウム結晶を分離して取り出した後のリン抽出液は再び最初の反応槽に返送され、再使用することができる。
【実施例】
【0021】
焼却灰中P2O5 25.7〜29.8%の焼却灰30kgに対し、反応液を330L供給してリン抽出処理を実施した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0022】
実施例は、供給反応液Pアルカリ度 50600〜58300 mg-CaCO3/L、供給反応液Al 4〜4210mg/L、抽出液全リン 6090〜6360mg/Lで安定している。
比較例は特許文献1にならって抽出液pHに着目すると、抽出液pH 11.9〜12.0、抽出液全リン 4170〜5220 mg/L とばらつきが大きく、リン抽出量を制御できていない。
【0023】
以上に説明したように、本発明によれば、Pアルカリ度が所定範囲に維持されるようにアルカリ源の添加量を制御するので、アルミニウムが溶解しているアルカリ性反応液に対しても管理可能となり、アルカリの過剰添加による費用の無駄や、添加不足によるリン抽出不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の工程を示すブロック図である。
【図2】Pアルカリ度〔mg-CaCO3/L〕と抽出液中の全リン濃度〔mg/L〕との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥焼却灰とアルカリ性反応液とを反応槽内で混合して下水汚泥焼却灰に含まれるリンを液中に抽出したうえ、リン抽出液と処理灰とに固液分離し、このリン抽出液にカルシウム成分を加えてリン酸カルシウム結晶を取り出す下水汚泥焼却灰からのリン回収方法において、反応槽内液のPアルカリ度を測定し、Pアルカリ度が所定範囲に維持されるようにアルカリ源の添加量を制御しつつリン抽出を行うことを特徴とする下水汚泥焼却灰からのリン回収方法。
【請求項2】
バッチ操作においては供給反応液のPアルカリ度を、連続操作においては反応槽内液のPアルカリ度を40000〜100000mg-CaCO3/Lの範囲に維持することを特徴とする請求項1記載の下水汚泥焼却灰からのリン回収方法。
【請求項3】
アルカリ源としてNaOHの水溶液を用いることを特徴とする請求項1または2記載の下水汚泥焼却灰からのリン回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−230940(P2008−230940A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76297(P2007−76297)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【出願人】(591060289)岐阜市 (15)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
【Fターム(参考)】