説明

下水管きょ工事計画の策定方法、下水管きょ工事計画策定システム

【課題】自治体の公共下水道の下水管きょ工事の策定の適正化を図る。
【解決手段】所定の管きょを管更生工法及び開削工法により際の建設条件を入力する建設条件入力部111と、建設条件入力部111に入力された建設条件に基づいて、当該所定の管きょを管更生工法及び開削工法により建設する建設コストを導出する建設コスト導出部151と、当該所定の管きょの建設が外部周辺環境に与える環境影響因子に関する情報を入力する環境影響因子情報入力部112と、環境影響因子情報入力部112に入力された情報に基づいて、環境影響因子を管更生工法及び開削工法の各工法毎にコスト換算した環境コストを導出する環境コスト導出部152と、建設コストと環境コストを加算するトータルコスト導出部153と、トータルコスト導出部153にて導出したトータルコストを出力する出力部170とを備える構成とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自治体の公共下水道の下水管きょ工事に係る工事計画を策定する、下水管きょ工事計画の策定技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、自治体の公共下水道の下水管きょは、昭和30年代から整備された経年管が増えていく傾向にあり、当該経年管が順次更新時期を迎える状況下にある。そこで、このような経年管としての下水管きょは、下記特許文献1に記載のような開削工法や、下記特許文献2に記載の更生工法を用いて更新する下水管きょ工事が必要とされる。また、この下水管きょ工事に関しては、下水道工事予算が減少している現状を踏まえた場合、水管きょ工事に係る建設コストを削減するのに有効な工法の選定が要請される。一方、近年、環境問題への関心が高まるなか、水管きょ工事が外部周辺環境に与える影響を適正に把握することが必要とされる。そこで、この種の下水管きょ工事に係る工事計画を策定する際には、工事自体に直接必要となる建設コストのようなイニシャルコストに基づいて適正な工法を選定するのみならず、工事に伴って付加的に生じる環境面での影響を考慮し、当該下水管きょ工事の総合的な評価を行なう要請が高い。
【特許文献1】特開平7−48837号公報
【特許文献2】特開2003−266539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、自治体の公共下水道の下水管きょ工事の策定の適正化を図り、以って下水管きょ工事運営の健全化対策に資することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、各請求項記載の発明が構成される。なお、本発明は、自治体の公共下水道における各種の下水管きょ工事に対し適用され得る。
【0005】
本発明に係る下水管きょ工事計画の策定方法は、公共下水道の下水管きょ工事に係る工事計画を策定する方法であって、以下に示す第1〜第3のステップを少なくとも含む。なお、ここでいう「下水管きょ工事」には、既存の下水管きょを更生ないし改築する工事、既存の下水管きょを付設代え或いは更新する工事等が広く包含される。
【0006】
第1のステップは、所定の管きょを管更生工法及び開削工法のそれぞれを用いて建設する際に要する建設コストを導出するステップとされる。ここでいう「建設コスト」に関しては、直接工事費のほか、共通仮設費、現場管理費及び一般管理費を含むコストとして規定される。また、ここでいう管更生工法は、開削工法に対する非開削工法として分類されるものであり、典型的には反転工法、形成工法、製管工法が挙げられる。反転工法は、硬化性樹脂を含浸した長い袋状のシート(ライナー材)を水圧或いは空気圧により既設管きょ内に反転挿入し、光或いは熱硬化させて管内に密着した樹脂パルプを形成させる工法として規定される。形成工法は、管更生の対象管の形状に合わせて予め製作した管きょ或いはライナー材を既存管きょ内に牽引挿入して、管内面に新管を形成する工法として規定される。製管工法は、既設管内で新管を製管し、既設管と空隙がある場合は裏込材を充填することで、複合管として更生する工法として規定される。この第1のステップでは、これら反転工法、形成工法、製管工法のうちのうちの少なくとも1つを選択するのが好ましい。開削工法は、地面を直接掘削して既設管きょを新設管きょに布設替えする工法として規定される。
【0007】
第2のステップは、所定の管きょの建設工事が外部周辺環境に与える影響をコスト換算した環境コストを、管更生工法及び開削工法の各工法毎に導出するステップとされる。ここでいう外部周辺環境に与える影響として、典型的には、当該工事によって生じる大気汚染、交通渋滞、騒音、建設副産物、振動、水質汚濁、動植物の保全、景観等が挙げられ、これらのうち各工法において発生するものを適宜選択することが可能である。
【0008】
第3のステップは、第1のステップによって導出した各工法による建設コストと、第2のステップによって導出した各工法による環境コストに基づいて、これら建設コスト及び環境コストが加算された各工法によるトータルコストを導出するステップとされる。ここでいう「建設コスト及び環境コストの加算」に関しては、これら建設コスト及び環境コストの値をそのまま加える形態であってもよいし、或いは建設コスト及び環境コストの値を予め設定した所定の按分比率で加える形態であってもよい。すなわち、第1のステップによって導出した建設コストと第2ステップによって導出した環境コストのそれぞれの重み付けを適宜設定したうえで両コストを加算してもよい。
【0009】
上記の第1〜第3のステップを遂行することによって、自治体の公共下水道の下水管きょ工事に関し、工事自体に直接必要となる建設コストのみならず、当該工事が外部周辺環境に与える環境影響因子を環境コストとしてコスト換算し、これら建設コスト及び環境コストを合わせたトータルコストを導出することが可能となる。これにより、建設コストのみでは評価されにくい環境面での影響を勘案したコスト評価を行なうことができるともに、各工法毎のトータルコストの比較によって下水管きょ工事の策定の適正化を図ることが可能とされ、以って下水管きょ工事運営の健全化対策が図られる。
なお、トータルコストに導出に際しては、これら第1〜第3のステップの実施順序は必要に応じて適宜設定可能であり、またこれら第1〜第3のステップのうちの複数を組み合わせて1つのステップとすることもできる。また、これら第1〜第3のステップに対し、更なる別のステップを加えることもできる。
【0010】
また、本発明に係る更なる形態の下水管きょ工事計画の策定方法では、第2のステップにおいて、外部周辺環境に与える環境影響因子として、建設機械の使用によって発生する大気汚染、交通規制等によって発生する交通渋滞、建設機械の使用によって発生する騒音、掘削や舗装によって発生する建設副産物の処置、典型的には建設発生土及びアスファルト混合物等の埋立て、建設機械の使用によって発生する振動、工事排水による水質汚濁、工事に際し行なわれる動植物の保全や景観等が挙げられる。上記の環境影響因子の中から特に大気汚染、交通渋滞、騒音及び建設副産物の処置を選択するのが好ましい。これらの環境影響因子は、管きょ工事を行う際の影響が比較的大きいものであると想定されるため、環境コストを適正に把握するのに有効とされる。
【0011】
外部周辺環境に与える環境影響因子としての「排気ガス」の選択は、開削工事や非開削工事を行なう際に使用する建設機械等により、発生する排気ガスが周辺住民や地球環境に影響を及ぼしているという考えに基づいている。ここでいう排気ガスとして、典型的にはNOx、COが挙げられる。従って、工事の際に建設機械等から発生するこれらの排気ガスをコスト換算することによって、排気ガスに関する外部コストを算出することが可能である。具体的には、建設機械のNOx排出量(kg/時)、稼動時間(時)、及びNOxの原単位(円/kg)の積と、建設機械のCO排出量(kg/時)、稼動時間(時)、及びCOの原単位(円/kg)の積を用いることによって、排気ガスに関する外部コストを導出することが可能となる。
【0012】
外部周辺環境に与える環境影響因子としての「交通渋滞」の選択は、例えば開削工事の際に供用中の道路の一部を占有する必要があり、それに伴って車線数の減少や片側交互通行等の交通規制によって、社会的に影響を与える交通渋滞が発生するという考えに基づいている。この場合、交通渋滞による走行時間の遅れをコスト換算することによって、交通渋滞に関する外部コストを算出することが可能である。具体的には、渋滞による走行時間遅れ(分)、車種別延べ台数(台)、及び車種別の原単位(円/台・分)の積によって、交通渋滞に関する外部コストを導出することが可能となる。
【0013】
外部周辺環境に与える環境影響因子としての「騒音」の選択は、掘削工事や舗装復旧時に発生する建設機械等による騒音が周辺住民に影響を与えているという考えに基づいている。従って、工事の際に建設機械等から発生する騒音をコスト換算することによって、騒音に関する外部コストを算出することが可能である。具体的には、(土工事騒音(dB)−55(dB))、影響住居地面積(m)、工事日数(日)、及び原単位(円/dB・m・日)の積によって、騒音に関する外部コストを導出することが可能となる。
【0014】
外部周辺環境に与える環境影響因子としての「建設副産物の処置」の選択は、工事の際に発生する建設発生土及びアスファルト混合物等は、埋立地において処分されるため、社会コストが発生するという考えに基づいている。従って、工事の際に発生する建設副産物の埋立てをコスト換算することによって、建設副産物に関する外部コストを算出することが可能である。具体的には、建設副産物の発生量(t)と埋め立てに要する原単位(円/t)の積によって、建設副産物に関する外部コストを導出することが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る更なる形態の下水管きょ工事計画の策定方法では、更に第4のステップを有するのが好ましい。この第4のステップは、第3のステップによって導出したトータルコストに基づいて、所定の管きょの工事の実施に関する評価を行なうステップとされる。ここでいう「所定の管きょの工事の実施に関する評価」には、所定の管きょの工事を実際に行なうべきか否かの評価や、所定の管きょの工事を他の管きょの工事に優先させるか否かの評価、また所定の管きょの工事実施に際し管更生工法及び開削工法の中から実施工法を選定する評価、更には各工法を用いた場合の環境コストのうち特に影響の大きい環境影響因子を特定する評価等が広く包含される。この評価においては、典型的にはトータルコストに関し予め設定された基準値(しきい値)を用いることができる。この第4のステップを遂行することによって、自治体の公共下水道の下水管きょ工事に関し、建設コスト及び環境コストを考慮した包括的な評価を行なうことが可能となる。
【0016】
本発明に係る下水管きょ工事計画策定システムは、公共下水道の下水管きょ工事に係る工事計画を策定するシステムとされ、建設条件入力部、建設コスト導出部、環境影響因子情報入力部、環境コスト導出部及びトータルコスト導出部を少なくとも備える。建設条件入力部は、所定の管きょを管更生工法及び開削工法のそれぞれを用いて建設する際の建設条件を入力する入力部分として構成される。ここでいう「建設条件」として、典型的には管きょPの管種、管径、人孔間距離、人孔種別、管体延長、土被り、対象道路、舗装構成等の情報が用いられる。建設コスト導出部は、建設条件入力部に入力された建設条件に基づいて、当該所定の管きょを管更生工法及び開削工法のそれぞれを用いて建設する建設コストを導出する導出部分として構成される。環境影響因子情報入力部は、当該所定の管きょの建設が外部周辺環境に与える環境影響因子に関する情報を入力する入力部分として構成される。ここでいう「環境影響因子に関する情報」として、典型的には管きょに係る環境影響因子毎の原単位を用いることができる。環境コスト導出部は、環境影響因子情報入力部に入力された情報に基づいて、環境影響因子を前記管更生工法及び開削工法の各工法毎にコスト換算した環境コストを導出する導出部分として構成される。トータルコスト導出部は、建設コスト導出部にて導出した建設コストと、環境コスト導出部にて導出した環境コストを加算したトータルコストを導出する導出部分として構成される。ここでいう「建設コストと環境コストの加算」に関しては、これら建設コスト及び環境コストの値をそのまま加える形態であってもよいし、或いは建設コスト及び環境コストの値を予め設定した所定の按分比率で加える形態であってもよい。出力部は、トータルコスト導出部にて導出したトータルコストを出力する出力部分として構成される。ここでいう「出力」とは、視認可能な表示部に対する表示出力、印字出力、音声出力、更にはメモリ等の記憶部に対するデータ出力等が広く包含される。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、公共下水道の下水管きょ工事に係る工事計画を策定するに際し、建設コストのみでは評価されにくい環境面での影響を勘案したコスト評価を行なうことができるともに、各工法毎のトータルコストの比較によって下水管きょ工事の策定の適正化を図ることが可能とされ、以って下水管きょ工事運営の健全化対策が図られることとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明における「下水管きょ工事計画の策定方法」及び「下水管きょ工事計画策定システム」の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。本実施の形態の方法では、下水管きょ工事の一例として、管種が鉄筋コンクリート管(HP管)の管きょPに係るトータルコストを、管更生工法(反転工法、形成工法、製管工法)及び開削工法各工法毎に導出した上で工事計画を策定する場合について記載する。
【0019】
なお、本実施の形態において管更生工法の1つとしての反転工法は、硬化性樹脂を含浸した長い袋状のシート(ライナー材)を水圧或いは空気圧により既設管きょ内に反転挿入し、光或いは熱硬化させて管内に密着した樹脂パルプを形成させる工法とされる。また、管更生工法の1つとしての形成工法は、管更生の対象管の形状に合わせて予め製作した管きょ或いはライナー材を既存管きょ内に牽引挿入して、管内面に新管を形成する工法とされる。また、管更生工法の1つとしての製管工法は、既設管内で新管を製管し、既設管と空隙がある場合は裏込材を充填することで、複合管として更生する工法とされる。また、本実施の形態の開削工法は、地面を直接掘削して既設管きょを新設管きょに布設替えする工法とされる。
【0020】
本実施の形態の下水管きょ工事計画策定システム100のシステム構成が図1に示される。図1に示すように、下水管きょ工事計画策定システム100は、管きょPの工事計画を策定するのに用いるシステムであって、入力部110、記憶部130、演算部150及び出力部170に大別される。
【0021】
入力部110は、建設条件入力部111及び環境影響因子情報入力部112を備える。建設条件入力部111は、管きょPを管更生工法及び開削工法のそれぞれを用いて建設する際の建設条件を入力する入力部分として構成される。ここで、図2には本実施の形態の管きょPの建設条件が示されている。図2に示すように、管きょPの建設条件として、典型的には管きょPの管種、管径、人孔間距離、人孔種別、管体延長、土被り、対象道路、舗装構成等の情報を用いることができる。環境影響因子情報入力部112は、管きょPの建設が外部周辺環境に与える環境影響因子に関する情報を入力する入力部分として構成される。ここで、環境影響因子に関する情報に関しては図3及び図4が参照される。図3には、本実施の形態の管きょPに係る環境影響因子毎の原単位が示され、図4には、本実施の形態の管きょPに係る環境影響因子のうち交通渋滞に関する環境コストの算出条件が示されている。本実施の形態の建設条件入力部111及び環境影響因子情報入力部112における情報入力は、典型的には作業者による入力手段への入力操作や、予め情報が入力されたデータベースからのデータ抽出操作によって遂行され得る。入力手段への入力操作として典型的には、パソコン等のキーボード(入力部分)や、マイク(音声入力部分)等への入力操作を用いることができる。ここでいう建設条件入力部111及び環境影響因子情報入力部112がそれぞれ、本発明における「建設条件入力部」及び「環境影響因子情報入力部」に相当する。なお、建設条件入力部111及び環境影響因子情報入力部112は、各々が別個の入力部分として構成されてもよいし、或いは両入力部の機能を兼ね備えた単一の入力部分として構成されてもよい。
【0022】
記憶部130は、建設条件データベース131及び環境影響因子データベース132を備える。この記憶部130として典型的にはパソコン等の記憶処理部(ROM、RAM)等を用いることができる。建設条件データベース131は、建設条件入力部111に入力された建設条件を記憶するデータベースとして構成される。環境影響因子データベース132は、環境影響因子情報入力部112に入力された環境影響因子情報を記憶するデータベースとして構成される。これにより、建設条件入力部111に入力された建設条件や、環境影響因子情報入力部112に入力された環境影響因子情報は、建設条件データベース131或いは環境影響因子データベース132にて一時的に記憶される。なお、必要に応じてはこれら建設条件データベース131及び環境影響因子データベース132を省略し、建設条件入力部111や環境影響因子情報入力部112に入力された情報が、そのまま演算部150にて演算処理されるように構成することもできる。
【0023】
演算部150は、建設コスト導出部151、環境コスト導出部152及びトータルコスト導出部153を備える。この演算部150として典型的にはパソコン等の演算処理部(CPU)を用いることができる。建設コスト導出部151は、建設条件入力部111に入力され建設条件データベース131に記憶された建設条件に基づいて、管きょPを管更生工法及び開削工法のそれぞれを用いて建設する建設コストAを導出(演算)する演算部分として構成とされる。すなわち、この建設コスト導出部151には、建設コストAを導出するために演算式が格納されている。環境コスト導出部152は、環境影響因子情報入力部112に入力され環境影響因子データベース132に記憶された情報に基づいて、環境影響因子を管更生工法及び開削工法の各工法毎にコスト換算した環境コストBを導出(演算)する演算部分として構成とされる。すなわち、この環境コスト導出部152には、環境コストBを導出するために演算式が格納されている。トータルコスト導出部153は、建設コスト導出部151にて導出した建設コストAと、環境コスト導出部152にて導出した環境コストBを加算したトータルコストCを導出(演算)する演算部分として構成とされる。すなわち、この環境コスト導出部152には、トータルコストCを導出するために演算式が格納されている。ここでいう建設コストA、環境コストB及びトータルコストCがそれぞれ、本発明における「建設コスト」、「環境コスト」及び「トータルコスト」に相当する。また、ここでいう建設コスト導出部151、環境コスト導出部152及びトータルコスト導出部153がそれぞれ、本発明における「建設コスト導出部」、「環境コスト導出部」及び「トータルコスト導出部」に相当する。なお、建設コスト導出部151、環境コスト導出部152及びトータルコスト導出部153は、各々が別個の導出部分として構成されてもよいし、或いは3つの導出部のうちの複数が単一の導出部分として構成されてもよい。
【0024】
出力部170は、トータルコスト導出部153にて導出したトータルコストCを少なくとも出力する構成とされる。この出力部170は、トータルコストCに加えて、建設コストAや環境コストBを出力する構成であってもよい。この出力部170における出力態様として、視認可能な表示部()に対する表示出力(例えばパソコン等のモニター)、印字出力(プリンター)、音声出力(スピーカー)、更にはメモリ等の記憶部に対するデータ出力のうちの複数を用いることができる。メモリ等の記憶部に出力されたデータは、本実施の形態の記憶部130、或いは記憶部130とは別個の記憶部において適宜記憶され得る。ここでいう出力部170が、本発明における「出力部」に相当する。
【0025】
また、本実施の形態の下水管きょ工事計画の策定方法は、前述の下水管きょ工事計画策定システム100を用い、下記の第1のステップS1〜第4のステップS4を順次遂行することによって達成される。
【0026】
(第1のステップ)
第1のステップS1は、管きょPを管更生工法(反転工法、形成工法、製管工法)及び開削工法のそれぞれを用いて建設する際に要する建設コストAを導出するステップとされる。ここでいう第1のステップS1が、本発明における「第1のステップ」に相当する。この第1のステップS1における建設コストAの導出は、前述の建設コスト導出部151が、国土交通省及び社団法人日本下水道協会の積算要項、積算基準ならびに各管きょ更生工法協会の積算資料に基づいて、図2中の管きょPの建設条件を演算処理することによって行なわれる。
【0027】
そこで、図2中の管きょPの建設条件を前提とし、また管更生工法の工期を反転工法が3日、形成工法及び製管工法が2日とした場合の建設コストを具体的に導出すると、反転工法による建設コストA1が7,297[千円]、形成工法による建設コストA2が6,994[千円]、製管工法による建設コストA3が6,518[千円]となった。これら建設コストA1〜A3には、管更生工法を用いて管きょの建設工事を実施する際の更生材料費、直接工事費、内面被覆工及び仮設備工に要するコストが包含されている。同様にして、図1示す導出条件を前提とし、また開削工法の工期を28日とした場合の建設コストを具体的に導出すると、開削工法による建設コストA4が16,463[千円]となった。この建設コストA4には、開削工法を用いて管きょの建設工事を実施する際の材料費、直接工事費、管布設工及び付帯工に要するコストが包含されている。
【0028】
(第2のステップ)
第2のステップS2は、管きょPの建設工事に伴い当該建設工事が外部周辺環境に与える環境影響因子を、管更生工法及び開削工法の各工法毎にコスト換算した環境コストBを導出するステップとされる。ここでいう第2のステップS2が、本発明における「第2のステップ」に相当する。この第2のステップS2における環境コストBの導出は、前述の環境コスト導出部152が、図3及び図4に示す情報を演算処理することによって行なわれる。この第2のステップS2においては、外部周辺環境に与える環境影響因子として、特に管きょ工事を行う際の影響が比較的大きい因子である、工事の際の建設機械の使用によって発生する排気ガス、工事の際の交通規制等によって発生する交通渋滞、工事の際の建設機械の使用によって発生する騒音、工事の際の掘削や舗装によって発生する建設副産物の処置を選択している。従って、環境コストBは、排気ガスに関する外部コスト、交通渋滞に関する外部コスト、騒音に関する外部コスト及び建設副産物に関する外部コストを全て加算することによって導出される。また、排気ガスに関する外部コストは更に、NOxに関する外部コスト及びCOに関する外部コストを加算することによって導出される。
【0029】
具体的には、排気ガスに関する外部コストは、建設機械のNOx排出量(kg/時)、稼動時間(時)、及びNOxの原単位(円/kg)の積と、建設機械のCO排出量(kg/時)、稼動時間(時)、及びCOの原単位(円/kg)の積との加算によって導出可能である。また、交通渋滞に関する外部コストは、渋滞による走行時間遅れ(分)、車種別延べ台数(台)、及び車種別の原単位(円/台・分)の積として導出可能である。また、騒音に関する外部コストは、(土工事騒音(dB)−55(dB))、影響住居地面積(m)、工事日数(日)、及び原単位(円/dB・m・日)の積として導出可能である。また、建設副産物に関する外部コストは、建設副産物の発生量(t)と埋め立てに要する原単位(円/t)の積として導出可能である。
【0030】
そこで、図3及び図4示す条件を前提として環境コストを具体的に導出すると、反転工法による環境コストB1が13,75[千円]、形成工法による環境コストB2が917[千円]、製管工法による環境コストB3が914[千円]となった。一方、開削工法による環境コストB4が6,247[千円]となった。
【0031】
このとき、環境コストのうち排気ガスに関する外部コストの導出に際しては、排気ガスであるNOx、SOx及びCOのうちSOxに関しては環境基準達成率が高いことから当該SOxを評価対象から除外することとした。交通渋滞に関する外部コストの導出に際しては、交通量24,000台/日(大型車混入率18%)の2車線道路を対象とした。また、図3にも示されるように、交通規制時間を9時〜17時の8時間としこの間を片側通行とした。その際の信号現示を、青信号・赤信号時における通行可能台数等を考慮して25秒とし、規制区間の通過速度は、実際の徐行速度での通行は考えられないことから、法定速度に徐行速度を加算して半分に除した30km/時とした。通常時の通過速度は、法定速度である50km/時とした。規制区間長について、開削工事は、日進量4.0mを考慮するとともに工事車両・資材仮置き場等の余裕をみて50mとし、管更生工法は、それぞれの工法の一日の可能日進量が100mであるため、工事車両等の余裕をみていずれの工法も110mとした。騒音に関する外部コストの導出に際しては、管更生工法と開削工法のそれぞれの工事延長を110mと50m、沿道範囲を20mとし、住宅・商業占有率を60%とした。建設副産物に関する外部コストの導出に際しては、管きょの建設工事によって発生したアスファルト混合物及び発生土は、埋め戻し等に再利用されることなく埋立地にて埋設処理されることとした。
【0032】
(第3のステップ)
第3のステップS3は、第1のステップS1によって導出した各工法による建設コストAと、第2のステップS2によって導出した各工法による環境コストBに基づいて、これら建設コストA及び環境コストBが加算された各工法によるトータルコストCを導出するステップとされる。この第3のステップS3におけるトータルコストCの導出は、前述のトータルコスト導出部153が、建設コストA及び環境コストBを演算処理することによって行なわれる。ここでいう第3のステップS3が、本発明における「第3のステップ」に相当する。
【0033】
この第3のステップS3において、建設コストA及び環境コストBに関する上記の導出結果を用いた場合、反転工法によるトータルコストC1が8,672[千円]、形成工法によるトータルコストC2が7,911[千円]、製管工法によるトータルコストC3が7,432[千円]となった。一方、開削工法によるトータルコストC4が22,710[千円]となった。
【0034】
(第4のステップ)
第4のステップS4は、第3のステップS3によって導出したトータルコストCに基づいて、管きょPの工事の実施に関する評価を行なうステップとされる。具体的には、管きょPの工事に実際に使用する実施工法の選定等を行なう。ここでいう第4のステップS4が、本発明における「第4のステップ」に相当する。この第4のステップS4に際しては、図5が参照される。図5には、本実施の形態の管きょPに係る建設コストA(A1〜A4)、環境コストB(B1〜B4)及びトータルコストC(C1〜C4)を各工法毎に導出した導出結果が示される。
【0035】
図5に示す導出結果においてステップトータルコストCを比較した場合、開削工法によるトータルコストC4が、管更生工法によるトータルコストC1〜C3の約2〜3倍であると評価することができる。具体的には、開削工法による建設コストA4が、管更生工法による建設コストA1〜A3の約4〜7倍とされ、また開削工法による環境コストB4が、管更生工法による環境コストB1〜B3の約2〜3倍とされる。従って、管更生工法は、開削工法に対しコスト面において優位性を示しており、管更生工法の中でも特に製管工法は、建設コスト及び環境コストのいずれに関してもコストメリットが高い。このことから、管きょPの工事実施に際し、建設コストを優先する場合や、環境コストを優先する場合のいずれにおいても、製管工法を選択するのが好ましいという評価を行なうことができる。また、この第4のステップS4では、このような評価以外に、管きょPの工事を実際に行なうべきか否かの評価や、管きょPの工事を他の管きょの工事に優先させるか否かの評価、各工法を用いた場合の環境コストのうち特に影響の大きい環境影響因子を特定する評価等を行なうこともできる。
【0036】
環境コストのうち特に影響の大きい環境影響因子を特定する評価に関しては、図6が参照される。図6には、本実施の形態の管きょPに係る環境コストB(B1〜B4)の内訳を各工法毎に導出した導出結果が示される。この導出結果によれば、管更生工法は、開削工法に比較して交通渋滞を引き起こす総時間が短く、交通渋滞に係る環境コストが開削工法を大幅に下回るという評価を行なうことができる。また、管更生工法の中でも特に形成工法及び製管工法は、交通渋滞に係る環境コストを抑えるのに効果的であると評価される。
【0037】
なお、図1に示す下水管きょ工事計画策定システム100において、入力部110、記憶部130、演算部150及び出力部170に対し、更に上記の第4のステップS4を行なう機能を有する評価部を設けることもできる。本構成においては、演算部150において導出された情報に基づいて、評価部が管きょPの工事の実施に関する評価を行なうことが可能となる。
【0038】
以上のように、本実施の形態の下水管きょ工事計画策定システム100を用いた方法によれば、各工法に関し建設コストA及び環境コストBを試算することで、建設コストのみでは評価されにくい環境面での影響を勘案したコスト評価を行なうことができるともに、各工法毎のトータルコストの比較によって下水管きょ工事の策定の適正化を図ることが可能とされ、以って下水管きょ工事運営の健全化対策が図られることとなる。
また、本実施の形態によれば、環境コストの試算に関し、環境影響因子の中から特に管きょ工事を行う際の影響が比較的大きい大気汚染、交通渋滞、騒音及び建設副産物の処置を選択したため、環境コストを適正に把握することが可能となる。
【0039】
(他の実施の形態)
本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0040】
上記実施の形態では、前述の第1のステップS1から第4のステップS4を順次遂行する場合について記載したが、第1のステップS1から第4のステップS4のうちの各ステップの遂行手順は必要に応じて適宜変更可能である。また、本発明では、少なくとも第3のステップによってトータルコストCを導出することで、本発明の目的である建設コストのみでは評価されにくい環境面での影響を勘案したコスト評価を達成することが可能である。従って、必要に応じては第4のステップS4を省略したり、第1のステップS1から第4のステップS4のステップに対し更なる別のステップを追加することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施の形態の下水管きょ工事計画策定システム100のシステム構成を示す図である。
【図2】本実施の形態の管きょPの建設条件を示す図である。
【図3】本実施の形態の管きょPに係る環境影響因子毎の原単位を示す図である。
【図4】本実施の形態の管きょPに係る環境影響因子のうち交通渋滞に関する環境コストの算出条件を示す図である。
【図5】本実施の形態の管きょPに係る建設コストA(A1〜A4)、環境コストB(B1〜B4)及びトータルコストC(C1〜C4)を各工法毎に導出した導出結果を示す図である。
【図6】本実施の形態の管きょPに係る環境コストB(B1〜B4)の内訳を各工法毎に導出した導出結果を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
100…下水管きょ工事計画策定システム
110…入力部
111…建設条件入力部
112…環境影響因子情報入力部
130…記憶部
131…建設条件データベース
132…環境影響因子データベース
150…演算部
151…建設コスト導出部
152…環境コスト導出部
153…トータルコスト導出部
170…出力部
A,A1,A2,A3,A4…建設コスト
B,B1,B2,B3,B4…環境コスト
C,C1,C2,C3,C4…トータルコスト
P…管きょ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
公共下水道の下水管きょ工事に係る工事計画を策定する、下水管きょ工事計画の策定方法であって、
所定の管きょを管更生工法及び開削工法のそれぞれを用いて建設する建設コストを導出する第1のステップと、
前記所定の管きょの建設が外部周辺環境に与える環境影響因子を、前記管更生工法及び開削工法の各工法毎にコスト換算した環境コストを導出する第2のステップと、
前記第1のステップによって導出した各工法による前記建設コストと、前記第2のステップによって導出した各工法による前記環境コストに基づいて、これら建設コスト及び環境コストが加算された各工法によるトータルコストを導出する第3のステップと、
を有することを特徴とする、下水管きょ工事計画の策定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の下水管きょ工事計画の策定方法であって、
前記第2のステップにおいては、外部周辺環境に与える環境影響因子として、前記工事の際の建設機械の使用によって発生する排気ガス、前記工事の際の交通規制等によって発生する交通渋滞、前記工事の際の建設機械の使用によって発生する騒音、前記工事の際の掘削や舗装によって発生する建設副産物の処置のうちの少なくとも1つを選択することを特徴とする、下水管きょ工事計画の策定方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の下水管きょ工事計画の策定方法であって、
更に、前記第3のステップによって導出した前記トータルコストに基づいて、前記所定の管きょの工事の実施の関する評価を行なう第4のステップを有することを特徴とする、下水管きょ工事計画の策定方法。
【請求項4】
公共下水道の下水管きょ工事に係る工事計画を策定する、下水管きょ工事計画策定システムであって、
所定の管きょを管更生工法及び開削工法のそれぞれを用いて建設する際の建設条件を入力する建設条件入力部と、
前記建設条件入力部に入力された建設条件に基づいて、前記所定の管きょを管更生工法及び開削工法のそれぞれを用いて建設する建設コストを導出する建設コスト導出部と、
前記所定の管きょの建設が外部周辺環境に与える環境影響因子に関する情報を入力する環境影響因子情報入力部と、
前記環境影響因子情報入力部に入力された情報に基づいて、環境影響因子を前記管更生工法及び開削工法の各工法毎にコスト換算した環境コストを導出する環境コスト導出部と、
前記建設コスト導出部にて導出した建設コストと、前記環境コスト導出部にて導出した環境コストを加算したトータルコストを導出するトータルコスト導出部と、
前記トータルコスト導出部にて導出したトータルコストを出力する出力部と、
を備えることを特徴とする下水管きょ工事計画策定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−43434(P2010−43434A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206995(P2008−206995)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(502071296)株式会社 極東技工コンサルタント (5)
【Fターム(参考)】