説明

不凍剤濃縮物及び冷却剤組成物並びにその調製

改善された熱的安定性を有する不凍剤組成物を提供する。一実施形態において、不凍剤濃縮物組成物は、アルキレングリコール、グリコールモノエーテル、グリセリン、及びそれらの混合物の群から選択されるグリコール系凝固点降下剤50から99重量%;2−エチルヘキサン酸、イソノナン酸及び3,5,5−トリメチルヘキサン酸の少なくとも1種0.01から10重量%;並びに、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ネオデカン酸、安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、p−tertブチル安息香酸、及びそれらの混合物の少なくとも1種0.01から5重量%とを含む。一実施形態において、この組成物は、10から90重量%の水と混合される濃縮物として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、改善された熱的安定性を低温で示す不凍剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換システム中で、及び/又は氷結防止の用途に、不凍剤組成物を用いることが知られている。これらの用途において、不凍剤組成物は、熱交換系又は氷結防止されるべき系のいろいろな部分を形成する、様々な金属、合金、及び他の要素と接触する。不凍剤組成物と接触している部分及び要素を腐食から保護するための努力がなされてきた。先行技術の解決策には、様々な腐食防止剤の添加、及び/又は複合的な金属保護系のためのいろいろな有機酸の使用が挙げられる。
【0003】
腐食防止は、あらゆる温度範囲において重要である。しかし、低温では、スケール及び/又は堆積物の望まれない形成を含む、不凍剤組成物の性能にとって重要な他の要因がはたらくようになる。水は、不凍剤組成物を希釈するためにしばしば用いられる。水質は、地理的位置、人口、及び工業化の度合によって大きく異なる。硬水を用いる場合、アルカリ土類金属の炭酸塩及びリン酸塩の堆積物から、スケールが形成されることがある。これらの無機膜は、熱的伝達を妨げ、それにより系の熱伝達効率を低下させる傾向がある。硬水の使用の他に、特定の腐食防止剤の使用は、堆積物の形成、例えばケイ酸塩のゲル化の原因となる。冷却剤のための特定の添加剤パッケージ中で、ケイ酸塩/リン酸塩の腐食防止剤は、金属の冷却系部分の保護を助けるためにも、不凍剤のpHを制御する緩衝剤としても用いられる。ケイ酸塩/リン酸塩を含有する組成物を硬水と混合すると、大量の沈殿が短時間に生じる。これらの沈殿は冷却系を詰まらせて、不凍剤/冷却剤の流れを低下させ、エンジンの稼動温度を上昇させ、耐用期間をより短くさせる。堆積物の形成は、系の部分及び要素において用いられる柔軟な材料部分、例えば、水ポンプのシール、エンジンヘッドのシール、ホース等の物理的損傷につながることもある。
【0004】
ケイ酸塩堆積物の問題を軽減するために、ケイ酸塩安定化剤を不凍剤組成物に添加することができる。しかし、低い稼動温度、例えば氷点下で、いくつかの添加剤は可溶性ではないので、問題をさらに悪化させる。堆積物/可溶性材料の望まれない形成により、組成物の熱伝達特性が低下するので、理想的には、不凍剤組成物は稼動中に、透明で、不溶性材料を含まないままであるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不凍剤組成物、すなわち、塩/堆積物の形成が最少である、低温での改善された熱的安定性を有するグリコール系組成物が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態において、アルキレングリコール、グリコールモノエーテル、グリセリン、及びそれらの混合物の群から選択されるグリコール系凝固点降下剤(glycol−based freezing point depressant)50から99.8重量%;少なくとも1種の、分岐した有機酸(C〜C16)、又は分岐した有機酸(C〜C16)のアルカリ塩若しくはアミノ塩0.1から10重量%;及び、i)脂肪族一酸(C〜C12)、又は脂肪族一酸(C〜C12)のアルカリ塩若しくはアミノ塩;或いはii)芳香族有機酸(C〜C18)、又は芳香族有機酸(C〜C18)のアルカリ塩若しくはアミノ塩;iii)置換芳香族有機酸(C〜C18)、又は置換芳香族有機酸のアルカリ塩若しくはアミノ塩0.1から10重量%を含む不凍剤組成物(antifreeze composition)が提供される。一実施形態において、この組成物は、10から90重量%の水を含む不凍剤水溶液と混合される濃縮物として用いられる。
【0007】
別の態様において、アルキレングリコール、グリコールモノエーテル、グリセリン、及びそれらの混合物の群から選択されるグリコール凝固点降下剤85から99.8重量%;2−エチルヘキサン酸、イソノナン酸及び3,5,5−トリメチルヘキサン酸の少なくとも1種0.1から10重量%;並びに、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ネオデカン酸、安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、及びそれらの混合物の少なくとも1種0.1から10重量%を含む不凍剤組成物が提供される。
【0008】
a)少なくとも1種の、分岐した有機酸(C〜C16)、又は分岐した有機酸(C〜C16)のアルカリ塩若しくはアミノ塩0.1から10重量%;及び、b)i)脂肪族一酸(C〜C12)、又は脂肪族一酸(C〜C12)のアルカリ塩若しくはアミノ塩;或いはii)芳香族有機酸(C〜C18)、又は芳香族有機酸(C〜C18)のアルカリ塩若しくはアミノ塩;iii)置換芳香族有機酸(C〜C18)、又は置換芳香族有機酸のアルカリ塩若しくはアミノ塩0.1から10重量%を含む腐食防止剤系(corrosion inhibitor system)を、不凍剤濃縮物のグリコール凝固点降下剤マトリックスにブレンドすることを含む、不凍剤組成物の熱的安定性を改善する方法も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のさらなる理解を促すために、ここで以下の用語についての定義を示す。
【0010】
「不凍剤」(antifreeze)の用語は、水溶液の凝固点を低下させる、又は水に対して低下された凝固点をもつ水溶液である組成物、例えば、凝固点降下剤を含む組成物を指す。
【0011】
「冷却剤」(coolant)の用語は、エンジンが、凝固、沸騰又は腐食がなく効果的に機能することを可能にする特性を有する液体不凍剤組成物の種類を指す。エンジンの冷却剤の性能は、米国材料試験協会(A.S.T.M)及び自動車技術者協会(S.A.E)により定められた基準を満たす又は超えなければならない。
【0012】
「熱伝達流体」(heat transfer fluid)の用語は、系が過熱することを防ぐために系を通して流れ、系内で生成された熱を、熱を利用する又は散逸させることができる他の系又はデバイスに伝達する流体を指す。
【0013】
「氷結防止」(de−icing)流体の用語は、系、デバイス若しくは部分が氷を含まないようにする、若しくは含まないように保つ流体、又は氷を溶融させる流体を指す。
【0014】
本明細書において用いられる場合、「不凍剤」組成物(又は流体又は濃縮物)の用語は、「熱伝達」、「冷却剤」又は「氷結防止」の流体(組成物又は濃縮物)と互換的に用いることができる。
【0015】
本明細書において用いられる場合、「グリコール系」(glycol−based)には、グリコール、グリセリン及びグリコールエーテルが挙げられる。
【0016】
本発明の一実施形態において、優れた熱的安定性の特性をもつ不凍剤組成物が提供される。この組成物は、(目視で観察され得る)堆積物の形成が最少であり、比較的清澄なままである。この組成物は、グリコール系凝固点降下剤の中に腐食防止剤の組み合わせを含む。
【0017】
グリコール系凝固点降下剤マトリックス:不凍剤/冷却剤の濃縮物組成物のマトリックスとして用いられる凝固点降下剤成分は、最終的な濃縮物組成物の全重量の50から99.8重量%の量のグリコール又はグリコールエーテルである。一実施形態において、不凍剤/冷却剤の組成物は、10から90重量%の水を含む不凍剤水溶液と混合されている。例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ヘキサプロピレングリコール、及びそれらの混合物等のアルキレングリコール;グリセリン;並びに、エチレングリコールのメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル、及びそれらの混合物等のグリコールモノエーテルとが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0018】
一実施形態において、マトリックスは、液体アルコール凝固点降下剤成分としてエチレングリコールを含む。
【0019】
腐食防止剤系:不凍剤組成物は、a)第1の成分として、1種又は複数の、分岐した有機酸(C〜C16)、又はその分岐した有機酸のアルカリ塩若しくはアミノ塩0.1から10重量%;及び、b)第2の成分として、1種若しくは複数の、脂肪族一酸(C〜C12)、芳香族有機酸(C〜C18)、若しくは置換芳香族有機酸(C〜C18)、又は上記の酸のアルカリ塩若しくはアミノ塩0.1から10重量%の組み合わせをさらに含む。この組み合わせは、脂肪族有機酸又は置換芳香族酸のみを含有する先行技術の組成物に比べて、不凍剤組成物の熱的安定性を改善する。
【0020】
一実施形態において、第1の成分は、分岐した有機酸、分岐した有機酸の塩、及びそれらの混合物の少なくとも1種を含む。例として、以下の分岐したC〜C18のカルボン酸、及びその塩、すなわち、イソブタン酸、2−エチルヘキサン酸、イソノナン酸及び3,5,5−トリメチルヘキサン酸が挙げられるが、それらに限定されるものではない。一実施形態において、分岐した有機の第1の成分は、2−エチルヘキサン酸又は3,5,5−トリメチルヘキサン酸である。
【0021】
一実施形態において、第2の成分は、脂肪族一酸;芳香族有機酸;置換芳香族有機酸;上記の酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩又はアミン塩;及びそれらの混合物の群から選択される。
【0022】
一実施形態において、脂肪族一酸成分には、少なくとも、C〜C12の脂肪族一塩基酸、又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩若しくはアミン塩が挙げられる。酸又は異性体の例には、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸及びドデカン酸、並びにそれらの混合物が挙げられるが、それらに限定されるものではない。任意のアルカリ金属、アンモニウム又はアミンを用いて、一塩基酸塩を形成することができる。一実施形態において、第2の成分は、少なくとも脂肪族一酸のアルカリ金属を含み、一塩基酸塩を形成する際に用いられるアルカリ金属として、ナトリウム及びカリウムが採用される。第3の実施形態において、オクタン酸は、第2の成分として用いられる。
【0023】
芳香族有機酸及びヒドロキシル置換芳香族有機酸の例には、安息香酸、C〜Cのアルキル安息香酸/その塩、例えば、o−、m−及びp−メチル安息香酸又はp−tert−ブチル安息香酸、C〜Cのアルコキシ安息香酸、例えば、o−、m−及びp−メトキシ安息香酸、ヒドロキシル含有芳香族モノカルボン酸、例えば、o−、m−又はp−ヒドロキシ安息香酸、o−、m−及びp−(ヒドロキシメチル)安息香酸、ハロ安息香酸、例えば、o−、m−又はp−フルオロ安息香酸が挙げられるが、それらに限定されるものではない。一実施形態において、芳香族有機酸は、2−ヒドロキシ安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、マンデル酸及びホモフタル酸、並びにそれらの塩から選択される。
【0024】
一実施形態において、言及したカルボン酸は、アルカリ金属塩、例えば、ナトリウム塩若しくはカリウム塩として、又は例えば、アンモニア、トリアルキルアミン若しくはトリアルカノールアミンを含む、アンモニウム塩若しくは置換アンモニウム塩(アミン塩)として存在する。
【0025】
一実施形態において、(グリコール凝固点降下剤の存在量に基づく)腐食防止剤パッケージのおよその割合は、約0.1から15.0重量%の第1の成分、及び約0.1から15.0重量%の第2の成分である。第2の実施形態において、第1又は第2のいずれかの成分の量は、0.1から10重量%の範囲内である。第3の実施形態において、いずれかの成分は、0.5から3重量%の量で存在する。第4の実施形態において、系は、1〜3重量%の第1の成分、及び1〜3重量%の第2の成分を含み、第1の成分と第2の成分との比は、3:1から1:3の範囲内である。
【0026】
一実施形態において、水で希釈した後、不凍剤組成物は、モノエチレングリコール(MEG)及びモノプロピレングリコール(MPG)の少なくとも1種50〜60重量%(希釈された組成物の最終的な重量に基づく)のマトリックス中に、2−エチルヘキサン酸及び3,5,5−トリメチルヘキサン酸から選択される分岐した酸1から3重量%;安息香酸、オクタン酸、p−tertブチル安息香酸、及びそれらの混合物の少なくとも1種1から3重量%を含む。なお別の実施形態において、希釈された組成物は、MEG又はMPGのマトリックス約53〜57重量%と、安息香酸1〜2重量%及び2−エチルヘキサン酸1〜2重量%を含む腐食防止剤系とを含む。第3の実施形態において、腐食防止剤系は、3,5,5−トリメチルヘキサン酸1〜2重量%、及びp−tertブチル安息香酸1〜2重量%を含む。
【0027】
追加/任意選択の成分:一実施形態において、不凍剤組成物は、上述の成分と組み合わせて、(凝固点降下剤マトリックスの重量に基づいて)0.01から10.0重量%の濃度で、1種又は複数の追加的な従来の腐食防止剤をさらに含む。任意選択の従来の腐食防止剤の例には、アルカリ金属ホウ酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ金属安息香酸塩、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ金属モリブデン酸塩及びヒドロカルビルチアゾールが挙げられる。一実施形態において、追加的な腐食防止剤は、ヒドロカルビルトリアゾール、ヒドロカルビルチアゾール、メタケイ酸ナトリウム5水和物、有機シラン安定化剤、及びそれらの混合物から選択される。適切なヒドロカルビルトリアゾールには、0.01〜0.5重量%の濃度の、芳香族トリアゾール又はアルキル置換芳香族トリアゾール、例えば、ベンゾトリアゾール又はトリルトリアゾールが挙げられる。なお別の実施形態において、不凍剤組成物は、追加的な腐食防止剤として、0.2から5重量%の、亜硫酸塩、又は亜硫酸のアルカリ金属塩を含む。
【0028】
一実施形態において、添加剤が、低温で、可溶で熱的に安定である場合、不凍剤組成物は、抗酸化剤、磨耗防止剤、界面活性剤、消泡剤、酸塩基指示薬、及び色素等の他の添加剤を、(凝固点降下剤マトリックスの重量に基づいて)0.05から約0.1重量%の量でさらに含有する。
【0029】
使用される消泡剤の例には、約1000から約4000の分子量を有するポリアルキレンオキシド;ジメチルポリシロザン等のケイ素油;及び、ケイ酸ジエチル等の有機ケイ素化合物が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0030】
抗酸化剤の例には、2,6−ジ−t−ブチルメチルフェノール及び4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等のフェノール;p,p−ジオクチルフェニルアミン、モノオクチルジフェニルアミン、フェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、アルキルフェニル−1−ナフタタルアミン、アルキル−フェニル−2−ナフタル−アミン等の芳香族アミン、並びにベンゾチアゾール、ジアルキルジチオリン酸錫及びジアリールジチオリン酸亜鉛等の硫黄含有化合物、例えば、ジチオリン酸塩、亜リン酸塩、硫化物及びジチオ金属塩が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0031】
磨耗防止剤の例には、チオジプロピオン酸エステル、ジアルキル硫化物、ジアルキルポリ硫化物、アルキルメルカプタン、ジベンゾチオフェン及び2,2’−ジチオビス(ベンゾチアゾール)等の、リン酸塩、リン酸エステル、亜リン酸塩、チオ亜リン酸塩、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛、リン酸トリクレシル、塩素化ワックス、硫化脂肪及びオレフィン;有機鉛化合物、脂肪酸、二硫化モリブデン等のモリブデン錯体、ハロゲン置換有機ケイ素化合物、有機ケイ素化合物、ホウ酸塩、及びハロゲン置換リン化合物とが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0032】
界面活性剤の例には、スルホン酸塩、長鎖を有するアルキルで置換された芳香族スルホン酸、ホスホン酸塩、チオホスホン酸塩、フェノラート、アルキルフェノールの金属塩、及びアルキル硫化物が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0033】
一実施形態において、十分な量の少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物、例えば、NaOH又はKOHを組成物に添加して、配合物のpHを6.5から11の間に変更する。なお別の実施形態においては、十分な量のNaOHを組成物に添加して、pHを7から9の間にする。
【0034】
作製方法:腐食防止剤の組み合わせ、及び任意選択の添加剤を、個々に、又は様々な副次的組み合わせで、グリコール凝固点降下剤マトリックスと混合して、不凍剤組成物を配合することができる。使用される凝固点降下剤の量に応じて、組成物は、そのまま、又はさらに希釈して用いることができる「濃縮物」の形であることができる。一実施形態において、濃縮物は、冷却系中で、又は不凍/氷結防止の流体として用いられる前に、約10〜90体積%の水で希釈される。第2の実施形態において、不凍剤組成物は、25から60体積%の水で希釈される。第3の実施形態において、添加される水の量は、30%から50重量%の間である。第4の実施形態において、腐食防止剤の組み合わせは、10重量%から90重量%の水と、エチレングリコール凝固点降下剤と、組成物のpHを約6.5から9.5の範囲に調整するために用いられる少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物とを含む不凍剤/冷却剤の水溶液と混合して用いられる。
【0035】
特性:この組成物は、金属の腐食に対して優れた保護を示すことを特徴とする。この組成物は、さらに、熱的に安定であることを特徴とする。
【0036】
本明細書において用いられる場合、「熱的に安定」は、不凍剤組成物の試料が0℃で少なくとも24時間冷却されたときに形成される沈殿が、2%未満であることを意味する。別の実施形態において、「熱的に安定」は、−15℃で少なくとも24時間冷却されたときに、組成物の2%未満が沈殿することを意味する。なお別の実施形態において、この用語は、組成物が、−15℃で少なくとも24時間冷却された後に、(目視で観察したときに)比較的沈殿を含まないことを意味する。第3の実施形態において、この用語は、組成物が、−15℃で少なくとも24時間冷却されたときに、形成される沈殿が1重量%未満であることを意味する。第4の実施形態においては、組成物が、−25℃で少なくとも24時間冷却されたときに、形成される沈殿が1重量%未満である。本明細書において用いられる場合、「沈殿」(precipitates)は、不凍剤組成物中に懸濁、堆積、又は沈むことがある、不溶物、凝固剤、凝集剤、固体及び/若しくは微粒子、(結晶化からの)針状晶、結晶、ゲル、コロイド形成、凝集塊若しくは沈殿塊、クラスター、又は顆粒が挙げられることを広く意味する。
【0037】
一実施形態において、この組成物は、先行技術の組成物に比べて、改善された熱的に安定な特性を示し、この組成物は、凍結温度、及び氷点下の温度で、少なくとも24時間後に、不溶物/沈殿を比較的含まないままである。一実施形態において、この組成物は、0℃未満の温度で少なくとも24時間後に、比較的透明なままである。別の実施形態において、この組成物は、−5℃未満の温度で熱的に安定なままである。第3の実施形態において、この組成物は、−10℃未満の温度で熱的に安定なままである。第4の実施形態において、この組成物は、−20℃未満の温度で熱的に安定なままである。
【0038】
用途:腐食防止剤系によりもたらされる、改善された熱的安定性の特性と、優れた保護とのために、この不凍剤組成物は、使用されると、流体の切り替え、又は流体の変更が最小限となる長い耐用期間を提供することが望ましい用途において特に有用である。一実施形態において、この不凍剤組成物は、石油材料の流動性を改善し粘度を低減させるために、寒冷気候の中で掘削又は輸送される石油材料に熱を供給するべき用途において用いられる。別の実施形態において、この組成物は、工業エンジン中の冷却剤等の熱伝達流体のための従来の用途においても有用である。
【0039】
以下の実施例は、本発明の態様の非限定的な例示として示される。
【実施例】
【0040】
別に明記しなければ、この組成物は、表2に示される量で成分を混合することにより調製される。実施例において用いられる成分と、表中の対応する「記号」を以下に記載する。すべての成分は、いくつかの供給元から市販されている。
オクタン酸:C8
2−エチルヘキサン酸:2−eha
3,5,5−トリメチルヘキサン酸(セカン酸):TMHA
安息香酸:BA
p−tertブチル安息香酸:PTBA
モノエチレングリコール(MEG)及びモノプロピレングリコール(MPG):実施例において用いられるグリコール系凝固点降下剤
【0041】
この不凍剤組成物を、ガラスバイアルに入れ、表1に明示する温度に維持された人工気候室中に置いた。24時間後に、このガラスバイアルを取り出し、目視で評価した。実施例における液体試料についての(表2に示すような)観察を、以下の表1の指針に従って行った。
表1
【表1】

【0042】
液体が、わずかに霞んでいる(hazy)ことが観察された場合、「TH」の記号を用いる。液体が、微量の沈殿を含み非常に霞んでいるときは、「SH+TP」を用いる。液体が、清澄であるが、針状晶が中に観察される(ごく少量を上回る)ときは、記号「MN」を用いる。液体が、わずかに霞んでおり、多量のゲルがガラス壁にあり、微量の凝集があるときは、「TH+SG+TF」の記号を用いる。液体が清澄である(不安定でない)場合、「OK」の記号を用いる。
【0043】
実施例1〜16において、それぞれの不凍剤組成物には、MEG56重量%(組成物についての最終的な重量に基づいて)と、表に明記したような重量%での有機酸含有率と、試料のpHを6.8から7.2の間にする十分な量のKOHと、残余の水とが用いられる。実施例17〜30において、それぞれの実施例には、MPG57重量%(組成物についての最終的な重量に基づいて)と、明記された有機酸含有率と、試料のpHを5.8から6.2の間にする十分な量のKOHと、水とが用いられる。
【0044】
この明細書、及び添付した特許請求の範囲の目的のために、別に示さなければ、量、百分率又は比率、及び他の数値を表すすべての数は、すべての場合において、「約」の用語により修飾されるものとして理解すべきである。したがって、逆に示されなければ、記載された数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。本明細書において用いられる場合、単数形「a」、「an」及び「the」には、明確且つ明白に1つの指示対象に限定されない限り、複数の指示対象が挙げられることを特記する。本明細書において用いられる場合、「挙げる」の用語、及びその文法上の変形は、リスト中の項目の列挙が、記載された項目を置換する、又は記載された項目に加えることができる他の同様な項目を排除しないように、非限定的であることを意図されたものである。
【0045】
表2
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アルキレングリコール、グリコールモノエーテル、グリセリン、及びそれらの混合物の群から選択される、少なくとも1種のグリコール系凝固点降下剤50から99.8重量%;
b)少なくとも1種の、分岐した有機酸(C〜C16)、又は分岐した有機酸(C〜C16)のアルカリ塩若しくはアミノ塩0.1から10重量%;並びに
c)i)脂肪族一酸(C〜C12);ii)脂肪族一酸(C〜C12)のアルカリ塩;iii)脂肪族一酸(C〜C12)のアミノ塩;iv)芳香族有機酸(C〜C18);v)芳香族有機酸(C〜C18)のアルカリ塩;vi)芳香族有機酸(C〜C18)のアミノ塩;vii)置換芳香族有機酸(C〜C18);viii)置換芳香族有機酸のアルカリ塩;ix)置換芳香族有機酸のアミノ塩;及びx)それらの混合物の少なくとも1種0.1から10重量%
を含む不凍剤組成物。
【請求項2】
グリコール系凝固点降下剤が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ヘキサプロピレングリコール;グリセリン;モノエチレングリコール、モノプロピレングリコール;及びそれらの混合物の群から選択され、組成物が、組成物の全重量に基づいて10から90重量%の水と混合される濃縮物として用いられる、請求項1に記載の不凍剤組成物。
【請求項3】
ヒドロカルボニルトリアゾール0.1から0.5重量%をさらに含む、請求項1又は2に記載の不凍剤組成物。
【請求項4】
脂肪族一酸(C〜C12)又は塩が、0.5〜3重量%の濃度範囲内で存在するC〜C12の脂肪族一塩基酸、又は前記酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩若しくはアミン塩である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の不凍剤組成物。
【請求項5】
脂肪族一酸(C〜C12)又は塩が、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸及びネオデカン酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の不凍剤組成物。
【請求項6】
分岐した有機酸(C〜C16)又は塩が、イソブタン酸、2−エチルヘキサン酸、イソノナン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から5までのいずれか一項に記載の不凍剤組成物。
【請求項7】
芳香族有機酸若しくは置換芳香族有機酸(C〜C18)又は塩が、安息香酸、C〜Cのアルキル安息香酸、C〜Cのアルコキシ安息香酸、ヒドロキシル含有芳香族モノカルボン酸、ハロ安息香酸、ニトロ安息香酸、マンデル酸、ホモフタル酸、及びそれらの混合物の群から選択される、請求項1から6までのいずれか一項に記載の不凍剤組成物。
【請求項8】
芳香族有機酸若しくは置換芳香族有機酸(C〜C18)又は塩が、
o−、m−及びp−メチル安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、o−、m−及びp−メトキシ安息香酸、o−、m−又はp−ヒドロキシ安息香酸、o−、m−又はp−フルオロ安息香酸、o−、m−又はp−ニトロ安息香酸、並びにそれらの混合物
から選択される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の不凍剤組成物。
【請求項9】
芳香族有機酸若しくは置換芳香族有機酸(C〜C18)又は塩が、2−ヒドロキシ安息香酸及びp−tertブチル安息香酸から選択される、請求項1から8までのいずれか一項に記載の不凍剤組成物。
【請求項10】
アルカリ金属ホウ酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ金属安息香酸塩、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ金属モリブデン酸塩、アルカリ金属クロム酸塩、アルカリ金属リン酸塩、ヒドロカルビルチアゾール、及びそれらの混合物の少なくとも1種0.1から1重量%をさらに含む、請求項1から9までのいずれか一項に記載の不凍剤濃縮物組成物。
【請求項11】
アルカリ金属水酸化物が、組成物のpHを約6.5から11の範囲に調整するために添加される、請求項1から10までのいずれか一項に記載の不凍剤濃縮物組成物。
【請求項12】
アルキレングリコール、グリコールモノエーテル、グリセリン、及びそれらの混合物の群から選択されるグリコール凝固点降下剤50から99重量%;2−エチルヘキサン酸、イソノナン酸及び3,5,5−トリメチルヘキサン酸の少なくとも1種0.1から5重量%;並びに、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ネオデカン酸、安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、p−tertブチル安息香酸、及びそれらの混合物の少なくとも1種0.1から5重量%を含み、−0℃で少なくとも24時間冷却すると2重量%未満が沈殿する不凍剤組成物。
【請求項13】
−15℃で少なくとも24時間冷却すると2重量%未満が沈殿する、請求項12に記載の不凍剤組成物。
【請求項14】
−0℃で少なくとも24時間冷却すると1重量%未満が沈殿する、請求項12に記載の不凍剤組成物。
【請求項15】
a)少なくとも1種の、分岐した有機酸(C〜C16)、又は分岐した有機酸(C〜C16)のアルカリ塩若しくはアミノ塩0.1から5重量%;及び、b)i)脂肪族一酸(C〜C12)、又は脂肪族一酸(C〜C12)のアルカリ塩若しくはアミノ塩;或いはii)芳香族有機酸(C〜C18)、又は芳香族有機酸(C〜C18)のアルカリ塩若しくはアミノ塩;iii)置換芳香族有機酸(C〜C18)、又は置換芳香族有機酸のアルカリ塩若しくはアミノ塩0.1から5重量%を含む腐食防止剤系を、グリコール系凝固点降下剤マトリックスに添加するステップを含み、
上記の分岐した有機酸(C〜C16)又は塩が、イソブタン酸、2−エチルヘキサン酸、イソノナン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、及びそれらの混合物からなる群から選択され、
上記の芳香族有機酸若しくは置換芳香族有機酸(C〜C18)又は塩が、o−、m−及びp−メチル安息香酸;p−tert−ブチル安息香酸;o−、m−及びp−メトキシ安息香酸;o−、m−又はp−ヒドロキシ安息香酸;o−、m−又はp−フルオロ安息香酸、o−、m−又はp−ニトロ安息香酸、並びにそれらの混合物から選択され、
上記の脂肪族一酸(C〜C12)又は塩が、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ネオデカン酸、及びそれらの混合物からなる群から選択され、
上記のグリコール系凝固点降下剤が、アルキレングリコール、グリコールモノエーテル、グリセリン、及びそれらの混合物の群から選択される、
不凍剤組成物の熱的安定性を増大させる方法。

【公表番号】特表2010−531919(P2010−531919A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514999(P2010−514999)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/067701
【国際公開番号】WO2009/035741
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】