説明

不整地用モーターサイクルタイヤ

【課題】操縦安定性及び耐久性に優れる不整地用モーターサイクルタイヤ20の提供。
【解決手段】このタイヤ20は、トレッド22と、一対のビード26と、カーカス28と、ベルト30とを備える。カーカス28のプライ56aは、ビード26に向かって延在する本体58aと、この本体58aから半径方向略外向きに延在する一対の折返し部60aとから構成される。ベルト30は、それぞれが半径方向において重なり合う第一層64a及び第二層64bを備える。軸方向において、第二層64bの端68bは第一層64aの端68aよりも内側に位置する。トレッド22は、多数のブロック42を有する。ショルダーブロック42aの半径方向内側において、折返し部60aの一部は第一層64aと重なり合い、折返し部60aの端62aが第二層64bの端68bに近接する。ビード26のエイペックス54の複素弾性率は、40MPa以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不整地用モーターサイクルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示されているのは、従来のモーターサイクルタイヤ2である。このタイヤ2は、山林、原野等のような不整地を走行する。このタイヤ2は、不整地用である。このタイヤ2は、トレッド4、サイドウォール6、ビード8、カーカス10及びベルト12を備えている。
【0003】
カーカス10は、第一プライ14a及び第二プライ14bからなる。第一プライ14a及び第二プライ14bは、両側のビード8の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール6の内側に沿っている。第一プライ14a及び第二プライ14bは、ビード8の周りを、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。
【0004】
図示されていないが、第一プライ14a及び第二プライ14bは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。各コードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、通常は65°から90°である。このカーカス10は、ラジアル構造を有する。
【0005】
ベルト12は、カーカス10の半径方向外側に位置している。ベルト12は、カーカス10と積層されている。ベルト12は、カーカス10を補強する。このタイヤ2では、トレッド4の部分の剛性が高く、サイドウォール6の部分の剛性は低い。
【0006】
このタイヤ2では、剛性の低いサイドウォール6の部分に負荷が集中し、この部分が熱を帯びやすいという問題がある。サイドウォール6の部分の剛性向上の観点から、カーカス10を構成する各プライ14の折り返し構造について検討されることがある。この検討の一例が、特開2007−131139公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−131139公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
不整地では、路面が起伏に富んでいる。不整地を走行する車両は、ジャンプと着地とを繰り返す。この車両に装着されたタイヤ2においては、上下方向に大きな機械的負荷がかかる上に、この負荷のかかる頻度が高い。このため、不整地走行では、一般公道の走行と比較して、タイヤ2のサイドウォール6の部分が熱を帯びやすい。このタイヤ2には、そのサイドウォール6の部分が早期に疲労し、性能が低下するという問題がある。
【0009】
サイドウォール6の部分の温度上昇を抑えるという観点から、サイドウォール6の外面にフィンが設けられることがある。しかし、このタイヤ2においては、十分な冷却効果が得られない。
【0010】
サイドウォール6の部分の剛性向上の観点から、第一プライ14a及び第二プライ14bが折り返され、それぞれの端16a、16bがベルト12の端18a、18bに近接する位置に配されることがある。この場合、剛性が過大となり、操縦安定性が低下してしまう。
【0011】
本発明の目的は、操縦安定性を損なうこなく、耐久性の向上された不整地用モーターサイクルタイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る不整地用モーターサイクルタイヤは、その外面がトレッド面をなすトレッドと、一対のビードと、このトレッドの半径方向内側において一方のビードと他方のビードとの間に架け渡されたカーカスと、このトレッドとこのカーカスとの間に位置するベルトとを備えている。このカーカスは、それぞれのビードの周りで折り返されたカーカスプライを備えている。このカーカスプライは、赤道面からそれぞれのビードに向かって延在する本体と、この本体から半径方向略外向きに延在する一対の折返し部とから構成されている。このベルトは、それぞれが軸方向に延在し半径方向において重なり合う第一層及び第二層を備えている。軸方向において、この第二層の端はこの第一層の端よりも内側に位置している。このトレッドは、半径方向略外向きに延在する多数のブロックを有している。これらブロックのうち、軸方向において外側に位置するショルダーブロックの半径方向内側において、上記折返し部の一部は上記第一層と重なり合っており、この折返し部の端は上記第二層の端に近接している。このビードは、コア及びこのコアから半径方向外向きに延在するエイペックスを備えている。このエイペックスは、架橋されたゴム組成物からなる。このエイペックスの複素弾性率は、40MPa以下である。
【0013】
好ましくは、この不整地用モーターサイクルタイヤでは、上記エイペックスの損失正接は0.15以下である。
【0014】
好ましくは、この不整地用モーターサイクルタイヤでは、上記折返し部と上記第一層との重複長さは5mm以上20mm以下である。
【0015】
好ましくは、この不整地用モーターサイクルタイヤでは、上記折返し部の端から上記第二層の端までの距離は0.1mm以上5mm以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る不整地用モーターサイクルタイヤでは、ショルダーブロックの内側において、カーカスプライの折返し部の一部が、その端が第二層の端よりも軸方向内側にある第一層に近接するとともに、この第二層に重複している。このカーカスは、このタイヤの剛性向上に寄与しうる。不整地走行時における機械的な負荷の集中が防止されているので、このタイヤは耐久性に優れる。このタイヤでは、そのエイペックスが低い複素弾性率を有している。このエイペックスは、タイヤの剛性過大を抑制しうる。このタイヤでは、優れた操縦安定性が維持されている。このタイヤでは、操縦安定性が損なわれることなく、耐久性の向上が達成されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る不整地用モーターサイクルタイヤの一部が示された断面図である。
【図2】図2は、図1のタイヤのトレッド面の一部が示された展開図である。
【図3】図3は、図1のタイヤの一部が示された拡大断面図である。
【図4】図4は、従来の不整地用モーターサイクルタイヤの一部が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0019】
図1に示されたモーターサイクルタイヤ20は、山林、原野等のような不整地を走行する。このタイヤ20は、不整地用である。このタイヤ20は、トレッド22、サイドウォール24、ビード26、カーカス28、ベルト30及びチェーファー34を備えている。このタイヤ20は、チューブタイプである。なお、この図1において、上下方向が半径方向であり、左右方向が軸方向であり、紙面との垂直方向が周方向である。このタイヤ20は、図1中の一点鎖線CLを中心としたほぼ左右対称の形状を呈する。この一点鎖線CLは、タイヤ20の赤道面を表す。
【0020】
トレッド22は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド22は、トレッド面36を備えている。このトレッド面36は、路面と接地する。このトレッド22は、ベース38と、本体40とから構成される。ベース38は、架橋ゴムからなる。本体40は、半径方向において、このベース38の外側に位置している。この本体40は、架橋ゴムからなる。この本体40は、半径方向略外向きに延在する多数のブロック42を備えている。平滑な路面では、このブロック42の外面が主として路面と接触する。軟弱な地面においては、タイヤ20の一部が埋没してこのブロック42が泥を掻く。軟弱な地面において、このブロック42は牽引力に寄与する。これらブロック42のそれぞれは、6mmから16mmの高さを有している。
【0021】
図2に示されているのは、このタイヤ20のトレッド面36の展開図である。この図2において、上下方向が周方向であり、左右方向が軸方向である。符号TEは、軸方向における、トレッド面36の端を表している。両矢印W1は、このトレッド面36の展開幅を表している。この展開幅W1は、一方のトレッド面36の端TEから他方のトレッド面36の端TEまでの周長に等しい。両矢印W2は、ショルダー領域の展開幅を表している。このショルダー領域は、トレッド面36の端TEから赤道面に向かって拡がる領域である。このタイヤ20では、この展開幅W2の展開幅W1に対する比率は25%である。このショルダー領域にあるブロック42のうち、軸方向において外側に位置するブロック42aが、ショルダーブロックと称される。このショルダーブロック42aは、トレッド面36の端TEから半径方向略内向きに延在する側面44を備えている。図1には、この側面44の半径方向内側に位置する端が符号SEで示されている。
【0022】
図示されているように、隣接するブロック42同士は、溝46によって隔てられている。ブロック42の外面のうち、凹み48以外の部分は、ランド50と称される。このタイヤ20のトレッド面36は、ランド50、溝46及び凹み48で構成されている。この展開図における、溝46の面積に対するランド50の面積の比率は、ランド/シー比率と称される。このタイヤ20では、耐久性及びグリップ性の観点から、このランド/シー比率は10%以上30%以下が好ましい。
【0023】
サイドウォール24は、トレッド22の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール24は、架橋ゴムからなる。サイドウォール24は、撓みによって路面からの衝撃を吸収する。さらにサイドウォール24は、カーカス28の外傷を防止する。
【0024】
ビード26は、サイドウォール24よりも半径方向略内側に位置している。ビード26は、コア52と、このコア52から半径方向外向きに延びるエイペックス54とを備えている。コア52は、リング状である。コア52は、非伸縮性ワイヤーが巻かれてなる。典型的には、コア52にスチール製ワイヤーが用いられる。エイペックス54は、半径方向外向きに先細りである。
【0025】
カーカス28は、第一プライ56a及び第二プライ56bからなる。第一プライ56a及び第二プライ56bは、両側のビード26の間に架け渡されており、トレッド22及びサイドウォール24の内側に沿っている。第一プライ56aは、インナーライナー32に積層されている。この第一プライ56aは、コア52の周りを、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この第一プライ56aは、赤道面からそれぞれのビード26に向かって延在する第一本体58aと、この第一本体58aから半径方向略外向きに延在する一対の第一折返し部60aとから構成されている。第二プライ56bは、第一プライ56aに積層されている。この第二プライ56bは、コア52の周りを、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この第二プライ56bは、赤道面からそれぞれのビード26に向かって延在する第二本体58bと、この第二本体58bから半径方向略外向きに延在する一対の第二折返し部60bとから構成されている。この第二本体58bは、第一本体58aの外側に位置している。第二折返し部60bは、軸方向において、第一折返し部60aの内側に位置している。このタイヤ20では、半径方向において、第二折返し部60bの端62bは第一折返し部60aの端62aよりも内側に位置している。この第二折返し部60bの端62bが半径方向においてこの第一折返し部60aの端62aよりも外側に位置するように、このカーカス28が構成されてもよい。
【0026】
図示されていないが、第一プライ56a及び第二プライ56bは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。各コードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、通常は65°から90°である。換言すれば、このカーカス28はラジアル構造を有する。なお、この傾斜角度の絶対値が90°未満である場合、第一プライ56aのコードの傾斜方向は、第二プライ56bのコードの傾斜方向とは逆とされる。
【0027】
このタイヤ20では、各プライのコードは、通常は有機繊維からなる。好ましい有機繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0028】
ベルト30は、カーカス28の半径方向外側に位置している。ベルト30は、カーカス28と積層されている。ベルト30は、カーカス28を補強する。ベルト30は、内側層64a及び外側層64bからなる。この内側層64a及び外側層64bは、軸方向に延在している。この内側層64a及び外側層64bは、半径方向において重なり合っている。内側層64aは、カーカス28の半径方向外側に積層されている。外側層64bは、この内側層64aの半径方向外側に積層されている。
【0029】
図示されていないが、内側層64a及び外側層64bのそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。各コードは、赤道面に対して傾斜している。傾斜角度の絶対値は、10°以上35°以下である。内側層64aのコードの傾斜方向は、外側層64bのコードの傾斜方向とは逆である。このコードには、有機繊維からなるコードが用いられるのが好ましい。このコードの材質が、スチールとされてもよい。
【0030】
チェーファー34は、ビード26の近傍に位置している。タイヤ20がリムに組み込まれると、このチェーファー34がリムと当接する。この当接により、ビード26の近傍が保護される。チェーファー34は、通常は布とこの布に含浸したゴムとからなる。ゴム単体からなるチェーファー34が用いられてもよい。
【0031】
図1において、実線BBLはビードベースラインを表している。このビードベースラインは、タイヤ20が装着されるリムのリム径(JATMA参照)を規定する線である。両矢印h0は、ビードベースラインから赤道66までの半径方向高さを表している。この高さh0は、タイヤ断面高さである。両矢印h1は、ビードベースラインからトレッド面36の端TEまでの半径方向高さを表している。両矢印h2は、ビードベースラインからカーカス28の一部をなす第一折返し部60aの端62aまでの半径方向高さを表している。両矢印h3は、ビードベースラインからショルダーブロック42aの側面44の端SEまでの半径方向高さを表している。両矢印h4は、ビードベースラインからカーカス28の他の一部をなす第二折返し部60bの端62bまでの半径方向高さを表している。両矢印h5は、ビードベースラインからベルト30の一部をなす内側層64aの端68aまでの半径方向高さを表している。両矢印h6は、ビードベースラインからベルト30の他の一部をなす外側層64bの端68bまでの半径方向高さを表している。
【0032】
本発明では、タイヤ20の各部材の寸法及び角度は、タイヤ20が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ20に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ20には荷重がかけられない。本明細書において正規リムとは、タイヤ20が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤ20が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0033】
このタイヤ20では、外側層64bの端68bは軸方向において内側層64aの端68aの内側に位置している。この外側層64bは、軸方向において内側層64aの幅よりも小さな幅を有している。このタイヤ20では、そのトレッド22の部分が外向きに凸な形状を呈しているので、高さh6は高さh5よりも大きい。なお、この外側層64bが軸方向において内側層64aの幅よりも大きな幅をを有するように、このベルト30が構成されてもよい。この場合、高さh6は高さh5よりも小さくなる。
【0034】
このタイヤ20では、高さh6は高さh1よりも小さく高さh3よりも大きい。換言すれば、外側層64bの端68bはショルダーブロック42aの半径方向内側に位置している。このタイヤ20では、高さh5も高さh1よりも小さく高さh3よりも大きい。換言すれば、内側層64aの端68aも、ショルダーブロック42aの半径方向内側に位置している。
【0035】
このタイヤ20では、高さh2は高さh1よりも小さく高さh3よりも大きい。換言すれば、第一折返し部60aの端62aはショルダーブロック42aの半径方向内側に位置している。この第一折返し部60aは、ビード26のコア52の近傍から半径方向略外向きにサイドウォール24に沿って延在している。この第一折返し部60aは、このタイヤ20のサイドウォール24の部分の剛性に寄与しうる。このタイヤ20は、耐久性に優れる。
【0036】
このタイヤ20では、高さh4は高さh1よりも小さく高さh3よりも大きい。換言すれば、第二折返し部60bの端62bはショルダーブロック42aの半径方向内側に位置している。この第二折返し部60bは、コア52の近傍から半径方向略外向きにサイドウォール24に沿って延在している。この第二折返し部60bは、このタイヤ20のサイドウォール24の部分の剛性に寄与しうる。このタイヤ20は、耐久性に優れる。
【0037】
このタイヤ20では、半径方向において、第一折返し部60aの端62aは第二折返し部60bの端62bよりも外側に位置している。したがって、高さh4は高さh2よりも小さい。このタイヤ20では、第一折返し部60aの一部が第二折返し部60bの端62bから突出している。なお、このカーカス28が、第二折返し部60bの一部が第一折返し部60aの端62aから突出するように構成されてもよい。
【0038】
図示されているように、第一折返し部60aの一部が内側層64aと重なり合っている。このタイヤ20では、高さh2は高さh5よりも大きい。これにより、不整地走行における機械的負荷の集中が防止されている。このタイヤ20は、耐久性に優れる。なお、このタイヤ20が、第二折返し部60bの一部が外側層64bと重なり合うように構成されてもよい。
【0039】
前述したように、第一折返し部60aの端62a及び内側層64aの端68aは、ショルダーブロック42aの半径方向内側に位置している。したがって、このタイヤ20では、この第一折返し部60aと内側層64aとの重複部分は、ショルダーブロック42aの半径方向内側に位置している。
【0040】
このタイヤ20では、ショルダーブロック42aは高い剛性を有している。このショルダーブロック42aは、第一折返し部60aの端62a又は内側層64aの端68aへの機械的負荷の集中を抑制しうる。このショルダーブロック42aは、耐久性の向上に寄与しうる。このタイヤ20では、重複部分をショルダーブロック42aの半径方向内側に配置させることにより、耐久性の更なる向上が達成されている。
【0041】
このタイヤ20では、第一折返し部60aの端62aが外側層64bの端68bに近接している。このタイヤ20では、第一折返し部60aの一部は外側層64bとは重複していない。このタイヤ20では、第一折返し部60aと外側層64bとの境界部分における剛性過大が防止されている。この境界部分は特異でない。この境界部分は、機械的負荷の集中を抑制しうる。この境界部分は、耐久性の向上に寄与しうる。このタイヤ20では、第一折返し部60aの端62aを外側層64bの端68bに近接させることにより、耐久性の更なる向上が達成されている。
【0042】
このタイヤ20では、第二折返し部60bの端62bが内側層64aの端68aに近接している。このタイヤ20では、第二折返し部60bの一部は内側層64aとは重複していない。このタイヤ20では、第二折返し部60bと内側層64aとの境界部分における剛性過大が防止されている。この境界部分は特異でない。この境界部分は、機械的負荷の集中を抑制しうる。この境界部分は、耐久性の向上に寄与しうる。このタイヤ20では、第二折返し部60bの端62bを内側層64aの端68aに近接させることにより、耐久性の更なる向上が達成されている。
【0043】
このタイヤ20では、ビード26を構成するエイペックス54は架橋されたゴム組成物からなる。このタイヤ20では、このエイペックス54の複素弾性率E*は40MPa以下である。このエイペックス54の複素弾性率E*は、従来の不整地用モーターサイクルタイヤのエイペックスの複素弾性率E*よりも低い。このエイペックス54は、このタイヤ20のサイドウォール24の部分の剛性過大を抑制しうる。このタイヤ20では、優れた操縦安定性が維持されている。このタイヤ20では、操縦安定性が損なわれることなく、耐久性の向上が達成されている。適度な剛性付与の観点から、このエイペックス54の複素弾性率E*は20MPa以上が好ましい。
【0044】
本発明では、エイペックス54の複素弾性率E1*及び後述するこのエイペックス54の損失正接(tanδ)は、「JIS K 6394」の規定に準拠して、粘弾性スペクトロメーター(岩本製作所社製)を用いて、下記に示される条件で計測される。
初期歪み:10%
振幅:±2.0%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
【0045】
前述したように、このタイヤ20には低複素弾性率E*のエイペックス54が採用されている。このタイヤ20では、このエイペックス54の部分において、走行中、機械的負荷による変形が繰り返される。このため、繰り返し変形に伴う発熱抑制の観点から、このエイペックス54は、低い損失正接を有する架橋ゴムから構成されるのが好ましい。これにより、このタイヤ20では、優れた操縦安定性が維持されるとともに、このエイペックス54の繰り返し変形に伴う耐久性低下が防止される。このタイヤ20では、エイペックス54の損失正接は0.15以下が好ましく、0.10以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましい。
【0046】
このタイヤ20では、エイペックス54のゴム組成物は基材ゴムを含む。この基材ゴムとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、ポリブタジエン(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリイソプレン(IR)、イソブチレン−イソプレン共重合体(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、ポリクロロプレン(CR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体(SIBR)、スチレン−イソプレン共重合体及びイソプレン−ブタジエン共重合体が例示される。良好な引張強度と低発熱性との観点から、基材ゴムとしては天然ゴムが好ましい。耐久性向上の観点から、この基材ゴムとしてはブタジエンゴムが好ましい。耐老化性の観点から、この基材ゴムとしてはスチレンブタジエンゴムが好ましい。2種以上のゴムが併用されてもよい。このタイヤ20では、低発熱性、耐久性及び耐老化性の達成の観点から、天然ゴム、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムの併用が好ましい。この場合、天然ゴム、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムはそれぞれ同じ質量部数で配合されるのが好ましい。
【0047】
このタイヤ20では、基材ゴム100質量部に含まれる天然ゴムの配合量は、10質量部以上80質量部以下が好ましい。この配合量が10質量部以上に設定されることにより、エイペックス54の強度が適切に維持されるとともに、このエイペックス54の繰り返し変形による発熱が抑制される。この観点から、この配合量は15質量部以上がより好ましく、20質量部以上が特に好ましい。この配合量が80質量部以下に設定されることにより、エイペックス54の剛性が適切に維持される。このエイペックス54は操縦安定性に寄与しうる。この観点から、この配合量は60質量部以下がより好ましく、40質量部以下が特に好ましい。
【0048】
このタイヤ20では、基材ゴム100質量部に含まれるブタジエンゴムの配合量は、10質量部以上80質量部以下が好ましい。この配合量が10質量部以上に設定されることにより、耐屈曲亀裂特性に優れるエイペックス54が得られうる。このエイペックス54は、耐久性の向上に寄与しうる。この観点から、この配合量は15質量部以上がより好ましく、20質量部以上が特に好ましい。この配合量が80質量部以下に設定されることにより、加工性に優れるエイペックス54が得られうる。この観点から、この配合量は60質量部以下がより好ましく、40質量部以下が特に好ましい。
【0049】
このタイヤ20では、基材ゴム100質量部に含まれるスチレンブタジエンゴムの配合量は、10質量部以上80質量部以下が好ましい。この配合量が10質量部以上に設定されることにより、走行による発熱が抑制されるとももに、機械負荷によるエイペックス54の物性変化が防止されうる。この観点から、この配合量は15質量部以上がより好ましく、20質量部以上が特に好ましい。この配合量が80質量部以下に設定されることにより、走行による発熱が抑制される。この観点から、この配合量は60質量部以下がより好ましく、40質量部以下が特に好ましい。
【0050】
このタイヤ20では、エイペックス54のゴム組成物には、カーボンブラックを配合してもよい。これにより、ゴムの強度を向上させることができる。このカーボンブラックとしては、GPF、HAF、ISAF及びSAFが例示される。
【0051】
このタイヤ20では、カーボンブラックを使用する場合、このカーボンブラックのチッ素吸着比表面積は30m/g以上160m/g以下が好ましい。この比表面積が30m/g以上に設定されることにより、ゴムの補強性が向上する傾向がある。この観点から、この比表面積は40m/g以上がより好ましい。この比表面積が160m/g以下に設定されることにより、未加硫状態のゴム組成物が適度な粘度を有し、加工性が向上する。この観点から、この比表面積は150m/g以下がより好ましい。このカーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K 6217−2、3項のA法によって求められる。
【0052】
このタイヤ20では、カーボンブラックの配合量は、基材ゴム100質量部に対して40質量部以上120質量部以下が好ましい。この配合量が40質量部以上に設定されることにより、ゴムの補強性が向上する。この観点から、この配合量は45質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましい。この配合量が120質量部以下に設定されることにより、加工性が向上するとともに、エイペックス54の剛性過大が防止される。この観点から、この配合量は100質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましい。
【0053】
このタイヤ20では、エイペックス54のゴム組成物には、基材ゴム及びカーボンブラック以外に、通常ゴム工業で使用される薬品、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、鉱物油、ワックス、脂肪族系石油樹脂、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0054】
図3において、両矢印LLは第一折返し部60aと内側層64aとの重複長さを表している。この重複長さは、第一折返し部60aと内側層64aとの境界に沿って計測される。距離D1は、外側層64bの端68bから第一折返し部60aの端62aまでの距離を表している。距離D2は、内側層64aの端68aから第二折返し部60bの端62bまでの距離を表している。
【0055】
このタイヤ20では、重複長さLLは5mm以上20mm以下が好ましい。この重複長さLLが5mm以上に設定されることにより、機械的負荷の集中が抑えられる。このタイヤ20は、耐久性に優れる。この観点から、この重複長さLLは7mm以上がより好ましい。この重複長さLLが20mm以下に設定されることにより、タイヤ20の剛性が適切に維持される。このタイヤ20は、操縦安定性に優れる。この観点から、この重複長さLLは18mm以下が好ましい。
【0056】
このタイヤ20では、距離D1は5mm以下が好ましい。この距離D1が5mm以下に設定されることにより、第一折返し部60aと外側層64bとの境界部分における、機械的負荷の集中が抑制されている。この境界部分は、耐久性の向上に寄与しうる。この観点から、この距離D1は3mm以下が好ましい。第一折返し部60aと外側層64bとの重複が防止され、この境界部分における剛性が適切に維持されるとの観点から、この距離D1は0.1mm以上が好ましい。
【0057】
このタイヤ20では、距離D2は5mm以下が好ましい。この距離D2が5mm以下に設定されることにより、第一折返し部60aと外側層64bとの境界部分における、機械的負荷の集中が抑制されている。この境界部分は、耐久性の向上に寄与しうる。この観点から、この距離D2は3mm以下が好ましい。第一折返し部60aと外側層64bとの重複が防止され、この境界部分における剛性が適切に維持されるとの観点から、この距離D2は0.1mm以上が好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0059】
[実施例1]
100/3質量部の天然ゴム(「RSS#3」)、100/3質量部のブタジエンゴム(宇部興産社製の商品名「BR150B」)、100/3質量部のスチレンブタジエンゴム(JSR社製の商品名「SBR1502」)、73質量部のカーボンブラック(キャボットジャパン社製の商品名「ショウブラックN550」)、20質量部の炭酸カルシウム(白石カルシウム社製の商品名「SL700」)、9質量部の酸化亜鉛(ハクスイテック社製の商品名「酸化亜鉛2種」)、6.7質量部の硫黄(鶴見化学社製の商品名「粉末硫黄」)、2.2質量部の鉱物油(出光興産社製の商品名「AH−24」)及び2.2質量部のステアリン酸(日本油脂社製の商品名「ステアリン酸」)を混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物を押し出して成形されたエイペックスを他のゴム部材とアッセンブリーすることにより、ローカバーを得た。このローカバーをモールドに投入し、このモールド内で加圧及び加熱した。これにより、図1に示された基本構成を備え、下記表4に示された仕様を備えた不整地用モーターサイクルタイヤ(リアタイヤ)を得た。このリアタイヤのサイズは、120/80−19 MX71である。エイペックスの複素弾性率E*は26MPaとされ、損失正接(tanδ)は0.10とされた。カーカスは、2枚のプライからなる。各プライに含まれるコードの赤道面に対してなす角度の絶対値は、65°とされた。ベルトは、内側層及び外側層からなる。各層に含まれるコードの赤道面に対してなす角度の絶対値は、25°とされた。
【0060】
この実施例1では、タイヤ断面高さh0は102mmとされた。ビードベースラインからトレッド面の端TEまでの半径方向高さh1は、67mmとされた。ビードベースラインからカーカスの一部をなす第一折返し部の端までの半径方向高さh2は、60mmとされた。ビードベースラインからショルダーブロックの側面の端SEまでの半径方向高さh3は、43mmとされた。ビードベースラインからカーカスの他の一部をなす第二折返し部の端までの半径方向高さh4は、54mmとされた。ビードベースラインからベルトの一部をなす内側層の端までの半径方向高さh5は、55mmとされた。ビードベースラインからベルトの他の一部をなす外側層の端までの半径方向高さh6は、61mmとされた。これにより、重複長さLLが15mm、距離D1が1mmそして距離D2が1mmとされた。
【0061】
[実施例2−18及び比較例2]
高さh2、高さh4、高さh5又は高さh6を変えて、重複長さLL、距離D1及びD2を下記の表1から4に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2−18及び比較例2のタイヤを得た。なお、実施例14では、第一折返し部が内側層だけでなく外側層とも重複している。比較例2では、内側層の端は第二折返し部の端と近接し、外側層の端は第一折返し部の端と近接しているが、この内側層と第一折返し部とは重複していない。
【0062】
[実施例19−23及び比較例3]
エイペックスのゴム組成物を変えて、複素弾性率E*及び損失正接(tanδ)を下記の表4及び5に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例19−23及び比較例3のタイヤを得た。
【0063】
[比較例1]
比較例1は、従来のタイヤである。
【0064】
[操縦安定性及び耐久性の評価]
試作タイヤを排気量が450ccである、モトクロス競技専用の二輪自動車(4ストローク)の後輪(リムサイズ:WM2.15)に装着し、その内圧が80kPaとなるように空気を充填した。前輪(リムサイズ:WM1.60)には、市販のタイヤ(サイズ:90/100−21 MX71F)を装着し、その内圧が80kPaとなるように空気を充填した。この二輪自動車を、モトクロスコースで走行させて、モトクロスライダーによる官能評価を行った。30分間の走行が、計4回実施された。1回目及び4回目の走行で得られた結果が、操縦安定性の指数値として下記の表1から表5に示されている。この数値が大きいほど、良好であることが示される。1回目の指数値と4回目の指数値との差が、耐久性の指数値として下記の表1から表5に示されている。この数値が小さいほど、良好であることが示される。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
表1から表5に示されるように、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明されたタイヤは、種々の二輪自動車にも適用されうる。
【符号の説明】
【0072】
2、20・・・タイヤ
4、22・・・トレッド
6、24・・・サイドウォール
8、26・・・ビード
10、28・・・カーカス
12、30・・・ベルト
14a、14b、56a、56b・・・プライ
30・・・ベルト
42、42a・・・ブロック
52・・・コア
54・・・エイペックス
58a、58b・・・本体
60a、60b・・・折返し部
62a、62b、68a、68b・・・端
64a、64b・・・層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その外面がトレッド面をなすトレッドと、一対のビードと、このトレッドの半径方向内側において一方のビードと他方のビードとの間に架け渡されたカーカスと、このトレッドとこのカーカスとの間に位置するベルトとを備えており、
このカーカスが、それぞれのビードの周りで折り返されたカーカスプライを備えており、
このカーカスプライが、赤道面からそれぞれのビードに向かって延在する本体と、この本体から半径方向略外向きに延在する一対の折返し部とから構成されており、
このベルトが、それぞれが軸方向に延在し半径方向において重なり合う第一層及び第二層を備えており、
軸方向において、この第二層の端がこの第一層の端よりも内側に位置しており、
このトレッドが、半径方向略外向きに延在する多数のブロックを有しており、
これらブロックのうち、軸方向において外側に位置するショルダーブロックの半径方向内側において、上記折返し部の一部が上記第一層と重なり合っており、この折返し部の端が上記第二層の端に近接しており、
このビードが、コア及びこのコアから半径方向外向きに延在するエイペックスを備えており、
このエイペックスが、架橋されたゴム組成物からなり、
このエイペックスの複素弾性率が、40MPa以下である、不整地用モーターサイクルタイヤ。
【請求項2】
上記エイペックスの損失正接が、0.15以下である請求項1に記載の不整地用モーターサイクルタイヤ。
【請求項3】
上記折返し部と上記第一層との重複長さが、5mm以上20mm以下である請求項1又は2に記載の不整地用モーターサイクルタイヤ。
【請求項4】
上記折返し部の端から上記第二層の端までの距離が、0.1mm以上5mm以下である請求項1から3のいずれかに記載の不整地用モーターサイクルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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