説明

不溶性結晶セルロース添加米及びその製造方法

【課題】 現代病として進行しつつある糖尿病が問題となっており、潜在患者を含めて日本では1600万人がその対象と言われている。この対策としては血糖値を下げることにあり、糖尿病患者が食事前に腹にインシュリンの注射をする光景はさほど珍しい現象ではなくなっている。
【解決手段】 一つの対策の方法として糖尿病食などが開発されているが、これらは患者の満腹感、満足感を必ずしも満たすものとはなっていない。ここで、米に水に対して不溶性の結晶セルロースをコーティング、あるいは添加して食することによって従前と同様の食事をしながら血糖値を低下させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
結晶セルロースとは、一般には不溶性食物繊維として知られているもので、その構造はβ−グルコース分子がグリコシド結合によって直鎖状に重合したものであり、化学的に非常に安定でなおかつ安全な物質であって冷水、熱水や汎用の有機溶剤にも溶けないという性質を持っている。
【0002】
最近の日本人の健康を考えた場合に問題になってきている事として糖尿病がある。
【0003】
厚生労働省の平成14年度の報告によれば、実際に治療を受けている患者総数は230万人、潜在患者を考慮すると1600万人以上が糖尿病に関わっていると考えることができ、日本人の6人に1人が関連するという報告となっており、大きな社会的な問題であるとともに、今後の対策が必要という認識が強まっている。
【0004】
最近では、大手食品メーカーからも糖尿病食という形での患者、潜在患者への提供が開始されており、また、各種の糖尿病に有効である、あるいは血糖値を下げるという記述のある食品が数多く販売されている実態がある。特に難消化性デキストリンなどの水溶性食物繊維を添加する食品が多く販売されている。
【0005】
しかしながらこれらの製品は、ほとんどが糖分の摂取を抑制するために、糖分を含む食材を使用しない、あるいは数量を低く抑制するというものとなっている。
【0006】
そのために、食事がつまらない、あるいは満腹感が得られないという声が多くよせられており、糖尿病食を継続的に摂取することが困難な場合が多く、その結果として糖尿病の予防や改善の中断につながる。現在糖尿病患者が増加しているため、その予防や改善の中断は医療費の高騰を招くため、国家的損失と言える。
【背景技術】
【0007】
図1にあるように糖尿病の予防や改善の効果を期待できるものとして結晶セルロースが挙げられる。
【0008】
血糖値は主に腸壁での糖の吸収速度に依存し、栄養素の消化率には大きく影響を受けない。図1にあるように結晶セルロースの効果は、消化後の食物の粘度を高め、腸壁に到達を遅らせることによって吸収を緩和して、食後血糖値の上昇を緩和することである。さらに、この効果は急性的、すなわち一食分の食事で効果があるが、持続的に摂取してもその効果は失われない。そのため、血糖値コントロールする期間を簡便に調節可能である。
【0009】
糖尿病は血糖値の異常な高値が問題の一つであるが、同時に尿へのエネルギー損失も問題になるため、糖尿病患者にとっては血糖値をコントロールすることと並んで、栄養素の消化率を減らさないことが求められている。
【0010】
血糖値をコントロールのためには、糖の摂取方法が重要であるが、食事において最も多い糖は米であることから、米の摂取方法を改善する必要性が提案されていた。同時に食事の満足感を損ねないことは、糖尿病の予防ならびに改善の継続性に直接関わることから食の満足感を失わないことも重要であった。
【0011】
本発明は以上のような従来の問題点に着目してなされたものであって、その目的とするところは、米の摂取方法を改善することで血糖値をコントロールし、なおかつ栄養素の消化率を低下させずに、さらに食事の満足感も損なわずに持続可能に摂取できる糖尿病予防および改善に有効な米を提供することである。
【0012】
また、本発明の他の目的は、結晶セルロース添加には栄養素含量を相対的に減らす効果、いわゆる希釈効果があることから、エネルギーの摂取量を減少させる効果が期待でき、ダイエットに寄与する米を提供することでもある。
【0013】
前述した目的を達成するための本研究の要旨とするところは次の各項の発明にある。
〔1〕不溶性の結晶セルロースを無洗米にコーティングあるいは添加する米。
【0014】
〔2〕コーティング剤の主原料として難消化性デキストリンを、安定剤あるいは乳化剤としてビタミンE、コラーゲン、メチルセルロース、ショ糖脂肪酸エステルを採用し、それを結晶セルロースと混合させて無洗米に噴霧し、同時に米を撹拌することで製造する結晶セルロースコーティング米の製造方法。
【0015】
無洗米の製造過程において水溶性食物繊維を米の表面にコーティングするというものがあり、社団法人日本精米工業会などから特許出願されているが、無洗米にコーティングすることで保存性を高める効果や血圧降下作用を謳っており、米で血糖値コントロールを目的とした商品は存在していない。
【0016】
参考資料
公開番号 特許公開2003−169611
「被膜無洗米とその製造方法および製造装置」
【0017】
従来より無洗米のコーティングは行われてきており、コーティング剤としては糖液や油脂、水溶性食物繊維、タルクなどがあった。しかし、不溶性食物繊維を用いたコーティング技術はない。
【0018】
本発明は、水溶性食物繊維を用いたコーティング無洗米と異なり、保存性や血圧降下作用ではなく糖尿病予防と改善あるいはダイエット効果と不溶性の結晶セルロースを用いて無洗米にコーティングする米の製造方法についてである。
【解決すべき課題】
【0019】
このように食事を制約することなく、糖分摂取を抑制するという方法は、糖尿病患者あるいは発症の可能性を持つ者にとっては抵抗なく導入可能な方法であり、これに即した食材提供は非常に期待される領域であると考えることができる。
【0020】
これまでに、糖尿病の予防や改善を目的とした米は存在していないが、血糖値上昇を緩和し、なおかつ栄養素の消化率を減少させずに十分な栄養素を体内に取り込むことができるような米が求められている。
【0021】
特に、日本人の主食である米に対しては満腹感、満足感が要求されるので、米を十分に摂れるような方法が求められており、前記公開特許もその方向での開発であると考えることができる。
【課題を解決する方法】
【0022】
水に不溶な結晶セルロースをラットの餌に混入させることによって食後の血糖値の変化を測定した結果を図1に示す。
【0023】
この図で、対照と称しているものは、結晶セルロースを含まないもの、結晶セルロース添加と称しているものは10%の結晶セルロースを餌に添加したものであって、等量の糖量になるようにラットに1回与えて血糖値の時間変化を測定したものである。
【0024】
この図から明らかなように、結晶セルロースを添加した場合は明らかに食後の血糖値の上昇緩和作用が見られる。
【0025】
このことから次のような知見が得られる。
【0026】
不溶性の結晶セルロースの添加によって血糖値上昇が緩和できることである。この効果は摂食した後の消化管内の消化物の粘度に影響することが推測できるが、結晶セルロースの添加量が増加すれば、粘度上昇するため、結晶セルロース濃度を増加させると血糖値上昇緩和作用も増加することが予測される。
【0027】
水に不溶な結晶セルロースを米に添加あるいはコーティングさせることによってヒトの食後の血糖値の変化を測定した結果を図2に示す。
【0028】
この図で、対照米と称しているものは無洗米のみのもの、結晶セルロース添加米と称しているものは5%の結晶セルロースを無洗米に炊飯直前に添加したもの、難消化性デキストリン米と称しているものは、無洗米に5%の難消化性デキストリンをコーティングしたもの、結晶セルローステイング米と称しているものは、無洗米に5%の不溶性デキストリンと5%の結晶セルロースをコーティングしたものであって、食事としては、等量のデンプン量になるように1回与えて血糖値の時間変化を測定したものである。
【0029】
この図から明らかなように、無洗米のみの場合と難消化性デキストリン添加の場合とでは明確な差が見られないのに対して、結晶セルロースを添加した場合や結晶セルロースをコーティングした場合には明らかに血糖値の上昇緩和作用が見られる。さらに、食品として多く販売され、食後血糖値コントロールのために用いられている難消化性デキストリンの効果と比べて、結晶セルロースを付与した場合の方が血糖値上昇緩和作用が高いことが分かる。
【0030】
このことから次のような知見が得られる。
【0031】
一つは、不溶性の結晶セルロースの添加によって血糖値上昇が緩和できること、その効果は従来使用されてきた難消化性デキストリンなどの水溶性食物繊維よりも効果が大きいことを示している。
【0032】
図1に示した結果は5%の添加の場合であり、血糖値のピーク値の差が16mg/100mlとなっているが、10%添加の場合にはその差は20mg/100mlであり、わずかながら向上する。
【0033】
しかしながら、10%添加では食事時に違和感を生じ始めるので実用的には10%を越えない添加濃度であることが望ましい。
【0034】
無洗米の場合には、米の表面にコーティングを施してもいいが、単純に均一な混合状態になっていれば米の炊き上がりには何ら違いがないので、結果的にはそれらの2つの方法のどちらを採用しても問題は無い。
【0035】
水に不溶な結晶セルロースを添加させた餌を消化管迂回手術を行ったラットに4日間摂取させて小腸までの消化率を測定した結果を図1に示す。
【0036】
この図で、対照と称しているものは結晶セルロースを含まない群、10%結晶セルロース添加と称しているものは10%の結晶セルロースを餌に添加した群、15%結晶セルロース添加と称しているものは15%の結晶セルロースを餌に添加した群である。
【0037】
この図から明らかなように、結晶セルロースの添加量に栄養素の消化率は影響を受けない。
【0038】
このことから次のような知見が得られる。
【0039】
糖尿病はエネルギー貯蔵する能力が低下する疾病でもある。したがって、急激な栄養素の損失を防ぐために血糖値の上昇を緩和すると同時に、栄養素の消化率を減少させないことが重要である。結晶セルロースは濃度に関係なく消化率には影響を与えないことから、糖尿病の予防や改善に幅広い濃度の範囲で利用可能である。
【発明の効果】
【0040】
図1に示すように、結晶セルロースの米への添加によって、明確に血糖値の上昇緩和効果があることから、糖尿病対策に有効であり、食味を損なわないことから、この方法によって食事制限が緩和できることから満足感、満腹感が得られる食事を提供できる。
【0041】
また、付随的に結晶セルロース添加にはその他の栄養素含量を相対的に減らす効果、いわゆる希釈効果があることからダイエットにも効果があることになる。
【実施例1】
【0042】
このようにして作製した5%の結晶セルロースをコーティングした無洗米を提供しつづけた結果、従来の血糖値が170mg/100mlであった患者が、95mg/100mlに低下し、標準値になった。しかも、従来の食事量は従来通りそのままとしていたために不満が生じずに継続することができ、この場合には以降も継続できている。
【実施例2】
【0043】
実施例と同様の無洗米提供を行った。この場合には15%の結晶セルロースを添加して炊飯したものを、従来血糖値230mg/100mlの患者に提供したところ、100mg/100mlまで低下したものの4週間後にはその値が210mg/100mlまで上昇した。その理由を問うたところ、米がまずいという意見が出され、他の食物で空腹感を満たすという行動をとり、結果として継続性が無くなっていたことの原因があるということが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】 結晶セルロース摂取後のラット血糖値の時間変化
【図2】 結晶セルロースコーティング米あるいは結晶セルロース添加米摂取後のヒト血糖値の時間変化
【図3】 結晶セルロースがラットの小腸までの消化率に与える影響

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に対して不溶性の性質を持つ結晶セルロースを無洗米表面にコーティングしておき、これを炊飯、提供することにより一食分だけでも効果がある急性的な血糖値上昇緩和効果を具現することを特徴とする不溶性結晶セルロース添加米。
【請求項2】
水に対して不溶性の性質を持つ結晶セルロースを炊飯時に添加して炊飯、提供することにより一食分だけでも効果がある急性的な血糖値上昇緩和効果を具現することを特徴とする不溶性結晶セルロース添加米。
【請求項3】
請求項1および請求項2において、米の乾燥重量に対して1%から10%の不溶性結晶セルロースを添加あるいはコーティングすることを特徴とする不溶性結晶セルロース添加米。
【請求項4】
無洗米に結晶セルロースを添加あるいはコーティングすることにより希釈効果を発生させ、糖の摂取量を減少させるダイエット効果を有する結晶セルロース添加あるいはコーティング米。
【請求項5】
無洗米に結晶セルロースを添加あるいはコーティングすることにより、糖の吸収速度を遅らせ、血糖値の上昇を緩和して糖尿病の予防や改善に有効な結晶セルロース添加あるいはコーティング米。
【請求項6】
コーティング剤の主原料として難消化性デキストリンを、安定剤あるいは乳化剤としてビタミンE、コラーゲン、メチルセルロース、ショ糖脂肪酸エステルを採用し、それを結晶セルロースと混合させたものを無洗米に噴霧し、同時に噴霧した米を撹拌することで製造する結晶セルロースコーティング米およびその製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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