説明

不燃性ポリアミド粉末と、その溶融凝結法での使用

【課題】放射線を用いてポリアミド粉末を溶融・凝結してポリアミドからなる物体を製造する方法での不燃性ポリアミド粉末の使用。
【解決手段】上記粉末が98〜60重量%の少なくとも一種のポリアミドと、2〜40重量%の少なくとも一種の難燃化剤とから成り、この難燃化剤が少なくとも一種の金属の有機ホスフィン酸塩と少なくとも一種のポリリン酸アンモニウムの混合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不燃性(耐火性)ポリアミド粉末と、その溶融・凝結(agglomeration par fusion)法、例えばレーザー光のような放射線の作用による凝結法での使用に関するものである。
本発明はさらに、例えばレーザー光を用いた溶融・凝結法に適した不燃性粉末(例えばポリアミド11または12)をベースにした組成物に関するものである。
本発明の目的は、材料の他の性能や特性(目的用途に適した粘度/レオロジー/流動性、優れた機械特性)を犠牲にしない、放射線、特にレーザー光を用いた溶融・凝結法で成形可能な不燃性に優れた性能を有する材料を開発することにある。
【背景技術】
【0002】
レーザー光の照射下でポリアミド粉末を溶融・凝結させる方法は三次元物体(例えば、試作品やモデル)の製作に用いられている。この方法ではポリアミド粉末の結晶点CPと融点MPとの間の温度に維持された加熱チャンバ内でポリアミド粉末の薄い層を水平プレート上に堆積させ、物体に対応した幾何形状に従って上記粉体層の種々の異なる点に、例えば物体の形状を記憶しており、それをスライスの形で再構築するコンピュータを使用して、レーザーを照射して粉末粒子を凝結させる。
【0003】
次に、各粉体層の厚さに対応する値(例えば0.05〜2mm、一般には0.1mm程度)だけ水平プレートを下げ、新しい粉体層を堆積させる。レーザを用いて物体の幾何形状に対応した新しいスライス層の粉末粒子を凝結させる。この手順を完全な物体が製作されるまで繰り返す。物体の内部を表す粉末ブロックが得られる。凝結しなかった部分は粉末のままである。その後、全体を穏やかに冷却する。温度が結晶点CP以下まで下すと物体は固化する。完全に冷却した後に物体を粉末から分離する。粉末は次の製造時に再び利用できる。
【0004】
製造時の変形現象(特に「カーリング」)を避けるためにはMP−CPの差ができるだけ大きい粉末を用いることが推薦される。すなわち、レーザ光を当てた直後の時間t0でセンプルの温度は粉末の結晶点(CP)以上になるが、冷えた次ぎの粉体層を載せるとピースの温度がCP以下の温度に急速に低下し、変形の原因とする。
【0005】
また、製作すべきピースの幾何形状をより良く規定するためには、融解エンタルピー(ΔHf)はできるだけ高いことが必要である。すなわち、融解エンタルピーが低く過ぎる場合には、壁の近くの粉末粒子が伝導伝熱によってレーザのエネルギーで凝結してしまい、ピースの幾何形状の精度が悪くなる。
【0006】
レーザ光による上記のポリアミド粉末の凝結は凝結を起すことができる任意の放射線で有効であるということは明らかである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特定用途での使用では、得られた物体が難燃性、不燃性を有し且つ煙霧や有毒ガスを排出しないという基準を満たす必要がある。以下では簡単にするために用語「不燃性」「難燃性」「耐火性」は同じような意味で使用する。レーザ凝結法に適したものとしては金属の有機ホスフィン酸塩およびポリリン酸アンモニウムをベースにした有機リン添加剤が知られている。これらの化合物粉末をポリアミドと乾式混合するだけでよい。この混合方法は「ドライブレンド」ともよばれる。しかし、ポリアミド用の通常の不燃剤は全く不適当であることも分っている。例えばメラミンシアヌレートは不適当である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、放射線を用いてポリアミド粉末を溶融・凝結してポリアミドからなる物体を製造する方法での不燃性ポリアミド粉末の使用において、上記粉末が98〜60重量%の少なくとも一種のポリアミドと、2〜40重量%の少なくとも一種の難燃化剤とから成り、この難燃化剤が少なくとも一種の金属の有機ホスフィン酸塩と少なくとも一種のポリリン酸アンモニウムの混合物であることを特徴とする使用にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一つの実施例では、上記粉末が下記(1)〜(3)で構成される(全重量が100%):
(1)2〜40重量%の少なくとも一種の金属の有機ホスフィン酸塩と少なくとも一種のポリリン酸アンモニウムの混合物である少なくとも一種の難燃化剤、
(2)98〜60重量%の少なくとも一種のポリアミド、
(3)紫外線安定剤、抗酸化剤、染料、顔料、殺菌剤および流動性兆節試剤から成る群の中から選択される少なくとも一種の試剤。
【0010】
本発明の一つの実施例では、使用する有機ホスフィン酸塩が下記式(I)の亜燐酸塩および式(II)のジホスフィン酸塩ノ中から選択される請求項1または2に記載の使用:
【0011】
【化3】

【化4】

【0012】
(ここで、R1およびR2は直鎖または分岐鎖を有するC1〜C6アルキル基および/またはアリール基で、互いに同一でも異なっていてもよく、R3は直鎖または分岐鎖を有するC2〜C10アルキレン基、C6〜C10アリーレン基、C6〜C10アルキルアリーレン基またはC6〜C10アリールアルキレン基であり、Mはカルシウム、アルミニウムおよび/または亜鉛イオンであり、mは2または3、nは1または3、xは1または2である)
【0013】
本発明の一つの実施例ではポリアミドがPA11、PA12、6〜12の炭素原子を有する脂肪族ジアミンと9〜18の炭素原子を有する脂肪族二酸との縮合で得られる脂肪族ポリアミドおよび11単位が90重量%以上か12単位が90重量%以上であるコポリアミド11/12の中から選択される。
【0014】
本発明はさらに、2〜40重量%の少なくとも一種の難燃化剤と、98〜60重量%の少なくとも一種のポリアミドとを含み、上記難燃化剤が少なくとも一種の金属の有機ホスフィン酸塩と少なくとも一種のポリリン酸アンモニウムの混合物である、不燃性を有するポリアミド粉末を、放射線を用いて溶融・凝結して得られる物品に関するものである。
【0015】
本発明はさらに、ポリアミド粉末を、放射線を用いて溶融・凝結して物品を得る方法において、上記ポリアミド粉末が98〜60重量%の少なくとも一種のポリアミドと2〜40重量%の少なくとも一種の難燃化剤とを含み、上記難燃化剤が少なくとも一種の金属の有機ホスフィン酸塩と少なくとも一種のポリリン酸アンモニウムの混合物であることを特徴とする方法に関するものである。
本発明の一つの実施例では、放射線はレーザー光である。
本発明粉末は各成分を単に乾式混合して調製でき、これが本発明の好ましい実施例である。
また、混合装置で融解したポリアミド中に難燃化剤を添加して粉末の形で得られる化合物の量を減らすこともできるが、この場合には融解エンタルピーが低下し、従って、凝結法で粉末成形する際に上記の欠点が生じる危険がある。
【0016】
ポリアミドはホモポリアミドでもコポリアミドでもよい。また、ポリアミドと少なくとも一種の他のポリマーとの混合物でもよい。この場合、マトリックスはポリアミドで、他のポリマーはマトリックス中に分散する分散相を形成する。
放射線の例としてはレーザ光が挙げられる(このプロセスは「レーザー凝結法」といわれる)。また、粉体層と放射線源との間にマスクを位置させて、マスクによって放射線から保護された粉末粒子が凝結しないようにすることもできる。
【0017】
「ポリアミド」とは下記の縮合生成物を意味する:
(1)一種以上のアミノ酸、例えばアミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸および12-アミノデカン酸または一種以上のラクタム、例えばカプロラクタム、エナントラクタムおよびラウリルラクタム、
(2)ジアミン、例えばヘキサメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタである−キシリレンジアミン、bis-(p-アミノシクロヘキシル)メタンおよびトリメチルヘキサメチレンジアミンと、二酸、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、コルク酸、セバシン酸およびドデカンジカルボン酸やC14〜C18の二酸との一種以上の塩または混合物。
【0018】
ポリアミドの例としてはPA6、PA6−6、PA11、PA12、PA6−10、PA6−12およびPA6−14を挙げることができる。
【0019】
コポリアミドを使用することもできる。コポリアミドとしては少なくとも2種のα、ω−アミノカルボン酸または2種のラクタムの縮合または一種のラクタムと一種のα、ω−アミノカルボン酸の縮合で得られるコポリアミドを挙げることができる。また、少なくとも一種のα、ω−アミノカルボン酸(または一種のラクタム)、少なくとも一種のジアミンおよび少なくとも一種のジカルボン酸のコポリアミドの縮合で得られるコポリアミドも挙げられる。
【0020】
さらに、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族ジアミンと、上記以外の脂肪族二酸および上記以外の脂肪族ジアミンから選択される少なくとも一種の他のモノマーとの縮合で得られるコポリアミドでもよい。
【0021】
ラクタムの例としては主環上に3〜12の炭素原子を有するものを挙げることができ、置換されていてもよい。例としてはβ、β−ジメチルプロピオラクタム、α、α−ジメチルプロピオラクタム、アミロラクタム、カプロラクタム、カプリルラクタムおよびラウリルラクタムを挙げることができる。
【0022】
α、ω−アミノカルボン酸の例としてはアミノウンデカン酸およびアミノドデカン酸が挙げられる。ジカルボン酸の例としてはアジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、ブタン二酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウムまたはリチウム塩、ダイマー化された脂肪酸(ダイマー化された脂肪酸の二量体の含有量は少なくとも98%で、好ましくは水素化されている)およびドデカンジオン酸HOOC-(CH2)10-COOHを挙げることができる。
【0023】
ジアミンは6〜12の原子を有する脂肪族ジアミンにすることができ、芳香族および/または飽和環式ジアミンでもよい。例としてはヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、テトラメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、1,5-ジアミノヘキサン、2,2,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサン、ポリオールジアミン、イソホロンジアミン(IPD)、メチルペンタメチレンジアミン(MPDM)、ビス(アミノシクロヘキシル)メタン(BACM)、ビス(3- メチル-4-アミノ−シクロヘキシル)メタン(BMACM)を挙げることができる。
【0024】
コポリアミドの例としてはカプロラクタムとラウリルラクタムとのコポリマー(PA 6/12)、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとのコポリマー(PA 6/6-6)、カプロラクタム、ラウリルラクタム、アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンのコポリマー(PA 6/12/6-6)、カプロラクタム、ラウリルラクタム、11-アミノウンデカン酸、アゼライン酸およびヘキサメチレンジアミンのコポリマー(PA 6/6-9/11/12)、カプロラクタム、ラウリルラクタム、11-アミノウンデカン酸、アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンのコポリマー(PA 6/6-6/11/12)、ラウリルラクタム、アゼライン酸およびヘキサメチレンジアミンのコポリマー(PA 6-9/12)を挙げることができる。
【0025】
ポリアミドの混合物を使用することもでき、例えば脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドとの混合物、脂肪族ポリアミドと脂環式ポリアミドとの混合物にすることができる。
【0026】
例としては下記文献に記載の下記(1)〜(6)の構成を有する組成物を挙げることができる(全体で100重量%):
【特許文献1】欧州特許第EP 1 227 131号公報
【0027】
(1)下記(a)〜(d)の縮合で得られる非晶質ポリアミド(B)5〜40%:
(a)脂環式ジアミンおよび脂肪族ジアミンの中から選択される少なくとも一種のジアミンと、脂環式二酸および脂肪族二酸の中から選択される少なくとも一種の二酸との縮合(ただし、上記ジアミンまたは二酸単位の少なくとも一つは脂環式である)、
(b)脂環式のα、ω−アミノカルボン酸の縮合、
(c)上記2つの可能な組合せ、
(d)必要な場合には、α、ω−アミノカルボン酸または対応する可能なラクタム、脂肪族二酸および脂肪族ジアミンの中から選択される少なくとも一種のモノマーをさらに縮合させることができる、
(2)ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを有するコポリマーおよびコポリアミドから選択される可撓性ポリアミド(C) 0〜40%、
(3)(A)と(B)の相溶化剤(D) 0〜20%、
(4)可撓性改良剤(M) 0〜40%、
(5)(C)+(D)+(M)は0〜50%、
(6)100重量%の残りは半結晶ポリアミド(A)である。
【0028】
また、下記文献に記載の下記(1)〜(6)の構成を有する組成物を挙げることができる(全体で100重量%):
【特許文献2】欧州特許第EP 1 227 132号公報
【0029】
(1)脂環式でもよい少なくとも一種のジアミンと、少なくとも一種の芳香剤二酸と、必要に応じて用いられるα、ω−アミノカルボン酸、脂肪族二酸および脂肪族ジアミンの中から選択される少なくとも一種のモノマーとの縮合で得られる非晶質リアミド(B) 5〜40%:
(2)ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを有するコポリマーおよびコポリアミドの中から選択される可撓性ポリアミド(C) 0〜40%、
(3)(A)と(B)の相溶化剤(D) 0〜20%、
(4)(C)+(D)は2〜50%、(5)(B)+(C)+(D)は30%以下ではならず、
(6)100重量%の残りは半結晶ポリアミド(A)である。
【0030】
ポリアミドの一部をポリアミドブロックとポリエーテルブロックとから成るコポリマーに代えても、すなわち、上記ポリアミドの少なくとも一種とポリアミドブロックとポリエーテルブロックとから成る少なくとも一種のコポリマーとの混合物を使用しても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0031】
ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを有するコポリマーは反応性末端を有するポリエーテル単位と反応性末端を有するポリアミド単位との共重縮合で得られ、例としては特に下記の縮合を挙げることができる:
1)ジアミン鎖末端を有するポリアミド単位とジカルボキシル鎖末端を有するポリオキシアルキレン単位、
2)ジカルボキシル鎖末端を有するポリアミドと、ポリエーテルジオールとよばれる脂肪族α、ω−ジヒドロキシ化されたポリオキシアルキレン単位のシアノエチル化および水素化で得られるジアミン鎖末端を有するポリオキシアルキレン単位、
3)ジカルボキシル鎖末端を有するポリアミド単位と、ポリエーテルジオール(この特殊な場合の生成物をポリエーテルエステルアミドという)
【0032】
ジカルボキシル鎖末端を有するポリアミド単位は例えば連鎖制限剤のジカルボン酸の存在下でのα、ω−アミノカルボン酸、ラクタムまたはジカルボン酸およびジアミンの縮合で得られる。
ポリエーテルはポリテトラメチレングリコール(PTMG)にすることができる。これはポリテトラヒドロフラン(PTHF)ともよばれる。
ポリアミド単位の数平均分子量は300〜15000、好ましくは600〜5000である。ポリエーテル単位の数平均分子量は100〜6000、好ましくは200〜3000である。
【0033】
ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを有するポリマーはランダムにブンプした単位をさらに含んでいてもよい。そうしたポリマーはポリエーテルとポリアミドブロックの先駆物質との同時反応で製造することができる。
例えば、ポリエーテルジオール、ラクタム(またはα、ω−アミノ酸)および連鎖制限剤の二酸を少量の水の存在下で反応させる。得られるポリマーは種々の長さを有するポリエーテルブロックおよびポリアミドブロックを有し、さらに、ランダムに反応した各種反応物がポリマー鎖に沿って統計学的に分布している。
【0034】
ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを有するこれらのポリマーは予め調製したポリアミド単位とポリエーテル単位との共重縮合で得た場合も、1段階反応で得た場合も、例えばショーアD硬度は20〜75、好ましくは30〜70であり、メタクレゾール中で0.8g/100mlの初期濃度で25℃で測定した固有粘度は0.8〜2.5である。MFI値は5〜50(1kgの荷重下、235℃)である。
【0035】
ポリエーテルジオールはそのまま使用して、カルボキシル末端を有するポリアミドブロックと共重縮合するか、アミン化してポリエーテルジアミンに変え、カルボキシル末端を有するポリアミドブロックと縮合する。また、ポリアミド先駆物質と連鎖制限剤と混合し、統計学的に分布した単位を有するポリアミドブロックとポリエーテルブロックを有するポリマーにする。
【0036】
ポリアミドブロックとポリエーテルブロックを有するポリマー下記文献に記載されている:
【0037】
【特許文献3】米国特許第US 4 331 786号明細書
【特許文献4】米国特許第US 4 115 475号明細書
【特許文献5】米国特許第US 4 195 015号明細書
【特許文献6】米国特許第US 4 839 441号明細書
【特許文献7】米国特許第US 4 864 014号明細書
【特許文献8】米国特許第US 4 230 838号明細書
【特許文献9】米国特許第US 4 332 920号明細書
【0038】
ポリアミドの量に対するポリアミドブロックとポリエーテルブロックを有するコポリマーの量の割合は1/99〜15/85にすることができる。
ポリアミドと少なくとも一種の他のポリマーとの混合物はポリアミドをマトリックスとし、他のポリマーがこのマトリックス中に分散した相を形成する。他のポリマーの例としてはポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、PPO(ポリフェニレンオキシド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)またはエラストマーを挙げることができる。
【0039】
本発明が特に有用なのはPA11、PA12から選択されるポリアミド、6〜12の炭素原子を有する脂肪族ジアミンと9〜18の炭素原子を有する脂肪族二酸との縮合で得られる脂肪族ポリアミドおよび11単位が90%を超えるか、12単位が90%を超えるコポリアミド11/12である。
【0040】
6〜12の炭素原子を有する脂肪族ジアミンと9〜18の炭素原子を有する脂肪族二酸との縮合で得られる脂肪族ポリアミドの例としては下記を挙げることができる:
1)ヘキサメチレンジアミンと1,12−ドデカンジオン酸との縮合で得られるPA6−12、
2)C9ジアミンと1,12−ドデカンジオン酸との縮合で得られるPA9−12、
3)C10ジアミンと1,10−セバシン酸との縮合で得られるPA10−10、
4)C9ジアミンと1,12−ドデカンジオン酸との縮合で得られるPA10−12。
【0041】
11単位が90%を超えるか、12単位が90%を超えるコポリアミド11/12は1-アミノウンデカン酸とラウリルラクタム(またはα、ω−C12アミノ酸)との縮合で得られる。
ポリアミドの混合物を使用しても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0042】
不燃化剤を混ぜる前に、下記文献に記載の方法でポリアミドに水または水蒸気で処理することができる。
【特許文献10】欧州特許第EP 1 413 595号公報
【0043】
この特許の方法では下記(1)と(2)の段階でポリアミドの(i)融点と(ii)融解エンタルピーΔHfの2つのパラメータの少なくとも一方を改良する:
(1)固体状態のポリアミドを結晶点CPの近くの温度で、結晶化を増進するのに十分な時間の間、水または水蒸気と接触させ、
(2)次いで、ポリアミドから水(または水蒸気)を分離し、ポリアミドを乾燥する。
【0044】
ポリアミドはホモポリアミドでもコポリアミドでもよい。ポリアミドと少なくとも一種の他のポリマーとの混合物でもよい。この場合、ポリアミドがマトリックスを形成し、他のポリマーは分散相を形成する。
ポリアミドは粉末または顆粒のような細かく分れた形をしている。処理後の顆粒は粉砕して粉末にすることができる。水または水蒸気での処理はポリアミド中に含まれるオリゴマーを抽出するための従来のメタノール処理の前に行うことができる。
本発明の他の実施例では、水または水蒸気にメタノールを含ませることができる。そうすることでオリゴマーまたは被処理ポリアミド中に含まれる不純物を同時に抽出することができる。この実施例の場合には乾燥前にポリアミドを洗浄して痕跡量のメタノールを除去することが勧められる。
【0045】
不燃化剤または難燃化剤の配合比率は98〜60重量%のポリアミドの重量に対して2〜40重量%、好ましくは95〜65重量%のポリアミドの重量に対して5〜35%にする。さらに好ましくは95〜70重量%のポリアミドに対して5〜30重量%にする。
【0046】
金属の有機のホスフィン酸塩およびポリリン酸アンモニウムに加えて、共力剤(synergisant)として硼酸亜鉛を加えることができる。硼酸亜鉛の配合比率は100〜90重量%の不燃化剤または難燃化に対して0〜10重量%にする。共力剤+不燃性試剤の合計を100重量%にする。
粉末は種々の寸法にすることができる。例えばレーザー凝結法で使用される粉末は350μm以下の寸法を有することができ、好ましくは10〜100マイクロメートルの寸法を有することができる。D50は60マイクロメートルである(粒子の50%が60マイクロメートル以下の寸法を有する)のが好ましい。
【0047】
本発明組成物は各成分を単に乾式混合して製造することができる。粉末化合物の通常の混合装置、例えばヘンシェル(登録商標)ミキサーを使用することができる。混合は標準状態で実行できる。混合時間は混合物が充分に均一になるまで行なわなければならない。この時間は2〜15分にすることができる。
【0048】
また、混合装置中で溶融したポリアミドに不燃化剤を加え、得られる生成物を粉末にすることもできる。混合時間は混合物が充分に均一になるまで行なわなければならない。例えば押出機を使うことができる。押出機の出口で得られる生成物を顆粒にし、ドライブレンド法で使用されるポリアミド粉末と同じ粒径まで粉砕する。
本発明粉末は種々の添加剤、例えば紫外線安定剤、抗酸化剤、染料、顔料または殺菌剤をさらに含むことができる。これらの添加剤は不燃化剤を添加する前にポリアミドに入れるのが好ましい。
本発明の具体例をさらに詳細に説明する。百分比は重量比である。
【実施例】
【0049】
1) 不燃性PA粉末の製造
高速ヘンシェルミクサーを用いてポリアミド粉末混合物を配合した。すなわち、フランス特許第2846333−A1号に記載の処理をした融点が201℃で、融解エンタルピーが105J/gで、D50が48μmのレーザ光凝結用PA11を高速ヘンシェルミクサーに入れ、それに下記に定義の配合比の難燃化剤を添加し、さらに、0.6%のフェノール抗酸化剤と0.1%の流動化剤としてのヒュームドシリカを添加した。混合時間は150秒である。得られた混合物を160μmの孔を有する篩にかけた。難燃化剤の種類、その配合比およびPAの配合比は実施例および比較例で説明する。
【0050】
2) 不燃性PA粉末の成形
上記1)の製造プロセスに従って製造した粉末混合物を、3次元物体を製作するためのレーザー凝結装置に供給し、結晶点と融解点との間の温度の加熱チャンバ中に維持した水平板上に微細ポリアミド粉末の層を堆積させた。物体の形状を記憶し、スライス状の形でそれを再構成する3Dシステム、例えばバンガード(Vanguard、登録商標)を用いて物品に対応する幾何形状に従って粉末粒子をレーザ凝結させる。発火試験のために寸法12×3プス(pouces)、厚さ0.05プスの板を製造した(1プス(pouce)は約1インチ)。この板で燃焼時間(秒)と燃焼長さを測定する。燃焼長さが<6プスで、燃焼時間ができるだけ短い場合に発火性は満足される。
以下、本発明には不適当である複数の難燃化剤を混合したPA混合物の3つの比較例(Cp1〜Cp3)を示す。
【0051】
比較例1(Cp1)
メラミンシアヌレート
89.3%のPA11と、難燃化剤としての10%のメラミンシアヌレート(例えば、Melapur C25)と、0.6%のフェノール系抗酸化剤と、流動性改良剤としての0.1%のヒュームドシリカとの粉末混合物を1)の製造プロセスに従って製造した。しかし、2)に記載のプロセスの粉末成形中に、レーザ凝結法による製造中にピースの変形が観測された。
【0052】
比較例2(Cp2)
リン酸アンモニウム
89.3%のPA11と、難燃化剤としての10%のリン酸アンモニウム例えばExolit AP 752)と、0.6%のフェノール系抗酸化剤と、流動性改良剤としての0.1%のヒュームドシリカとの粉末混合物を1)の製造プロセスに従って製造した。しかし、2)に記載のプロセスの粉末成形中に上記化合物は製作チャンバ中での昇華し、レーザ光線を弱め、製作チャンバを汚染する傾向があるため、この組成物はパーツの製造には適していないことが分かる。さらに、燃焼時間が129秒であり、得られたパーツは満足な不燃性を示さなかった。
【0053】
比較例3(Cp3)
ポリリン酸アンモニウム
89.3%のPA11と、難燃化剤としての10%のポリリン酸アンモニウム(例えばExolit AP 423)と、0.6%のフェノール系抗酸化剤と、流動性改良剤としての0.1%のヒュームドシリカとの粉末混合物を1)の製造プロセスに従って製造した。しかし、2)に記載のプロセスの粉末成形中に製作チャンバ中に煙が生じ、レーザ光線を弱める傾向があるため、この組成物はパーツの製造には適していないことが分かる。さらに、目標物品の燃焼長さは<6プスでなければならず、燃焼時間は116秒でなければならないが、この燃焼長さは8.9プスで、得られるパーツは満足な耐火性を示さない、
【0054】
メラミンシアヌレート、リン酸アンモニウムおよびポリリン酸アンモニウムは単独では要求される使用に適した組成物を得ることができないということが分かる。
以下、本発明による難燃化剤とPAとの混合物の2つの実施例(Ex. 1とEx. 2)とを示す。
【0055】
実施例1(Ex. 1)
ホスフィン酸塩/ポリリン酸アンモニウム混合物10%
89.3%のPA11に、10%の難燃化剤としてのリンの化合物(Clariant社のExolit OP1311)と0.6%のフェノール系抗酸化剤と0.1%の流動性兆節剤としてのヒュームドシリカとからなる混合物を加えた粉末混合物を1)の製造プロセスに従って製造した。
得られた粉末を2)に記載の成形プロセスで成形した。製作されたピースの燃焼長さは3プスで、燃焼時間は36秒で、満足な耐火性を示した。破壊伸びは49%で、引張り強度は40MPa(ASTM 638)であった。
実施例2(Ex. 2)
ホスフィン酸塩/ポリリン酸アンモニウム混合物15%
84.3%のPA11に、15%の難燃化剤としてのリン化合物(Clariant社のExolit OP1311)と0.6%のフェノール系抗酸化剤と0.1%の流動性兆節剤としてのヒュームドシリカとからなる混合物を加えた粉末混合物を1)の製造プロセスに従って製造した。
2)に記載の成形プロセスで成形したピースは満足な耐火性を示し、燃焼長さは3.6プス、燃焼時間は23秒であった。破壊伸びは32%で、引張り強度は36MPa(ASTM 638)であった。これに対して99.3%のPA11に0.6%のフェノール系抗酸化剤と0.1%の流動性兆節剤としてのヒュームドシリカとを加え、難燃化剤は0%にした場合の燃焼長さは10プス以上で、破壊伸びは52%、引張り強度は39MPa(ASTM 638)である。
従って、本発明組成物を用いて物品を凝結法で製作することで機械特性を低下させずに燃焼時間を著しく短くできる、ということが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を用いてポリアミド粉末を溶融・凝結してポリアミドからなる物体を製造する方法での不燃性ポリアミド粉末の使用において、
上記粉末が98〜60重量%の少なくとも一種のポリアミドと、2〜40重量%の少なくとも一種の難燃化剤とから成り、この難燃化剤が少なくとも一種の金属の有機ホスフィン酸塩と少なくとも一種のポリリン酸アンモニウムの混合物であることを特徴とする使用。
【請求項2】
使用する粉末が下記(1)〜(3)で構成される請求項1に記載の使用(全重量が100%):
(1)2〜40重量%の少なくとも一種の難燃化剤、この難燃化剤が少なくとも一種の金属の有機ホスフィン酸塩と少なくとも一種のポリリン酸アンモニウムの混合物である、
(2)98〜60重量%の少なくとも一種のポリアミド、
(3)紫外線安定剤、抗酸化剤、染料、顔料、殺菌剤および流動性兆節試剤から成る群の中から選択される少なくとも一種の試剤。
【請求項3】
使用する有機ホスフィン酸塩が下記式(I)の亜燐酸塩および式(II)のジホスフィン酸塩ノ中から選択される請求項1または2に記載の使用:
【化1】

【化2】

(ここで、R1およびR2は直鎖または分岐鎖を有するC1〜C6アルキル基および/またはアリール基で、互いに同一でも異なっていてもよく、R3は直鎖または分岐鎖を有するC2〜C10アルキレン基、C6〜C10アリーレン基、C6〜C10アルキルアリーレン基またはC6〜C10アリールアルキレン基であり、Mはカルシウム、アルミニウムおよび/または亜鉛イオンであり、mは2または3、nは1または3、xは1または2である)
【請求項4】
ポリアミドがPA11、PA12、6〜12の炭素原子を有する脂肪族ジアミンと9〜18の炭素原子を有する脂肪族二酸との縮合で得られる脂肪族ポリアミドおよび11単位が90重量%以上か12単位が90重量%以上であるコポリアミド11/12の中から選択される請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
2〜40重量%の少なくとも一種の難燃化剤と、98〜60重量%の少なくとも一種のポリアミドとを含み、上記難燃化剤が少なくとも一種の金属の有機ホスフィン酸塩と少なくとも一種のポリリン酸アンモニウムの混合物である、不燃性を有するポリアミド粉末を、放射線を用いて溶融・凝結して得られる物品。
【請求項6】
ポリアミド粉末を、放射線を用いて溶融・凝結して物品を得る方法において、上記ポリアミド粉末が98〜60重量%の少なくとも一種のポリアミドと2〜40重量%の少なくとも一種の難燃化剤とを含み、上記難燃化剤が少なくとも一種の金属の有機ホスフィン酸塩と少なくとも一種のポリリン酸アンモニウムの混合物であることを特徴とする方法。
【請求項7】
放射線がレーザー光である請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2008−505243(P2008−505243A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519847(P2007−519847)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001848
【国際公開番号】WO2006/018500
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】