説明

不織布の製造方法

【課題】 バインダーを使用していないにもかかわらず、繊維同士の結合力を高め、毛羽立ちにくく、形態安定性に優れる不織布の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の不織布の製造方法は、静電紡糸法により紡糸した繊維を直接捕集して形成した繊維ウエブに、前記繊維を溶解可能な溶媒Aと、前記繊維を溶解不可能で、前記溶媒Aと混合可能、かつ前記溶媒Aよりも沸点の低い溶媒Bとの混合溶媒を付与した後、加熱することによって、前記混合溶媒を除去する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不織布の製造方法に関する。より具体的には、静電紡糸法により製造した繊維を含む不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布を構成する繊維の繊維径が小さいと、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、担持性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れているため、不織布を構成する繊維の繊維径を小さくするのが好ましい。このような繊維径の小さい繊維からなる不織布の製造方法として、紡糸原液を紡糸空間へ供給するとともに、供給した紡糸原液に電界を作用させて紡糸原液を繊維化し、延伸して繊維径の小さい繊維とした後に直接捕集して不織布とする、いわゆる静電紡糸法が知られている。
【0003】
このような静電紡糸法によれば、平均繊維径が1μm以下の非常に細い繊維からなる不織布を製造することができるが、繊維同士の結合力が弱いため、取り扱い時に層間剥離するなど毛羽立ちやすく、また、液体中に浸漬した後に引き上げると、シート状の不織布が束状集合体になるなど形態安定性の悪いものであった。そのため、形態安定性を付与する一般的な方法として、バインダーにより繊維同士を接着する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特表2006−524739号公報(段落番号0055、0069、図13など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バインダーにより繊維同士を接着すると、バインダーが皮膜を形成してしまい、表面積が減ることによって液体保持性能、担持性能、払拭性能或いは通気性が悪くなり、静電紡糸不織布が本来有する性能を低下させてしまうという問題があった。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、バインダーを使用していないにもかかわらず、繊維同士の結合力を高め、毛羽立ちにくく、形態安定性に優れる不織布の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維ウエブに、前記繊維を溶解可能な溶媒Aと、前記繊維を溶解不可能で、前記溶媒Aと混合可能、かつ前記溶媒Aよりも沸点の低い溶媒Bとの混合溶媒を付与した後、加熱することによって、前記混合溶媒を除去することを特徴とする不織布の製造方法。」である。
【0008】
本発明の請求項2にかかる発明は、「静電紡糸法により紡糸した繊維を直接捕集して形成した繊維ウエブからなることを特徴とする、請求項1記載の不織布の製造方法。」である。
【0009】
本発明の請求項3にかかる発明は、「溶媒Aの濃度が1〜25mass%であることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の不織布の製造方法。」である。
【0010】
本発明の請求項4にかかる発明は、「混合溶媒の付与量が繊維ウエブの質量の3〜15倍量であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の不織布の製造方法。」である。
【0011】
本発明の請求項5にかかる発明は、「混合溶媒を除去した後に加圧することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の不織布の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1にかかる発明は、繊維を溶解可能な溶媒Aと、前記繊維を溶解不可能で、前記溶媒Aと混合可能、かつ前記溶媒Aよりも沸点の低い溶媒Bとの混合溶媒を付与し、加熱して混合溶媒を除去することによって、繊維を溶解させて消失させることなく、適度に繊維を溶解させて接着することができるため、バインダーを使用していないにもかかわらず、繊維同士が強固に結合し、毛羽立ちにくく、形態安定性に優れる不織布を製造することができる。
【0013】
本発明の請求項2にかかる発明は、静電紡糸法により紡糸した繊維を直接捕集して形成した繊維ウエブは連続繊維から構成されているため、更に毛羽立ちにくく、形態安定性に優れる不織布を製造することができる。
【0014】
本発明の請求項3にかかる発明は、溶媒Aの濃度が1〜25mass%であることによって、繊維を溶解させ過ぎることなく繊維を溶解させて結合し、毛羽立ちにくく、形態安定性に優れる不織布を製造しやすい。
【0015】
本発明の請求項4にかかる発明は、混合溶媒の付与量が繊維ウエブの質量の3〜15倍量であることによって、繊維を溶解させ過ぎることなく繊維を溶解させて結合し、毛羽立ちにくく、形態安定性に優れる不織布を製造しやすい。
【0016】
本発明の請求項5にかかる発明は、混合溶媒を除去した後に加圧しているため、更に毛羽立ちにくく、形態安定性に優れており、しかも平滑な表面をもつ不織布を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の不織布の製造方法においては、まず、静電紡糸法により紡糸した繊維(以下、「静電紡糸繊維」と表記することがある)を含む繊維ウエブを形成する。このように、本発明の繊維ウエブは静電紡糸法により紡糸した細い繊維を含むため、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、担持性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れる不織布を製造することができる。そのため、静電紡糸繊維を50mass%以上含んでいるのが好ましく、70mass%以上含んでいるのがより好ましく、90mass%以上含んでいるのが更に好ましく、静電紡糸繊維のみからなるのが最も好ましい。なお、繊維ウエブを構成できる静電紡糸繊維以外の繊維としては、特に限定するものではなく、従来公知の再生繊維、半合成繊維、合成繊維、無機繊維、植物繊維、或いは動物繊維を挙げることができ、後述の溶媒Aに溶解可能であっても、溶解不可能であっても良い。溶媒Aに溶解可能であれば、静電紡糸繊維と一緒に若干溶解して、結合作用を奏する。
【0018】
この繊維ウエブを構成する静電紡糸繊維は不織布の使用用途等によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンなどの有機材料を挙げることができる。
【0019】
この静電紡糸法による紡糸方法は従来から公知の方法であり、ノズル等の紡糸原液供給部から紡糸空間へ供給した紡糸原液に対して電界を作用させることにより、紡糸原液を延伸し、繊維化する方法である。
【0020】
なお、紡糸原液は静電紡糸繊維構成材料を溶媒に溶解させたものである。静電紡糸繊維構成材料は前述の通りであり、溶媒は静電紡糸繊維構成材料によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、ピリジン、トリクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトニトリルなどを挙げることができる。これら例示以外の溶媒も使用可能であり、例示以外の溶媒も含めて、2種以上の溶媒を用いた混合溶媒も使用することができる。
【0021】
このような静電紡糸法によれば、平均繊維径が1μm以下、好ましくは0.8μm以下、より好ましくは0.6μm以下、更に好ましくは0.4μm以下、更に好ましくは0.3μm以下の繊維を紡糸することができる。なお、平均繊維径の下限値は特に限定するものではないが、0.01μm以上であるのが好ましい。この「平均繊維径」は50本の繊維の繊維径の算術平均値をいい、「繊維径」は繊維の電子顕微鏡写真を基に計測して得られる値をいう。また、静電紡糸法により得られる繊維は通常、連続繊維であるが、紡糸後に切断したり、間欠的に紡糸原液を紡糸空間へ供給することによって、不連続繊維とすることもできる。これらの中でも連続繊維であると、繊維の自由度が低く、毛羽立ちにくい不織布を製造しやすいため、より好ましい。
【0022】
本発明の繊維ウエブは上述のような静電紡糸繊維を含むものであるが、例えば、静電紡糸した繊維を直接捕集することによって形成できるし、不連続である静電紡糸繊維を抄紙することによっても形成できる。これらの中でも、静電紡糸した繊維を直接捕集することによって形成した繊維ウエブは連続繊維から構成されており、既にある程度繊維同士が結合した状態にあり、不織布製造工程上、取り扱いやすいため、好適である。
【0023】
この好適である静電紡糸した繊維を直接捕集して繊維ウエブを形成する場合、繊維分散ムラが小さいように、また、ある程度の幅と長さをもった不織布を製造できるように、特開2006−112023号公報に開示の方法により行うのが好ましい。つまり、ノズル等の紡糸原液供給部を捕集体の幅方向に直線的に移動(特には長円状に移動)させながら、紡糸原液を供給するのが好ましい。このように直線的に移動させると、紡糸原液供給部の移動速度を一定にできるため、繊維分散ムラの小さい不織布を製造しやすい。
【0024】
次いで、前述のような繊維ウエブに、静電紡糸繊維を溶解可能な溶媒Aと、静電紡糸繊維を溶解不可能で、前記溶媒Aと混合可能、かつ前記溶媒Aよりも沸点の低い溶媒Bとの混合溶媒を付与する。この混合溶媒における溶媒Aは静電紡糸繊維を若干溶解させて繊維同士を結合させる作用を奏し、溶媒Bは静電紡糸繊維を溶解させて消滅させてしまわないように静電紡糸繊維を溶解不可能であり、溶媒Aを繊維ウエブ全体に均一に付与できるように溶媒Aと混合可能であり、しかも溶媒Aによる結合作用を発揮できるように、溶媒Aよりも沸点の低いものである。好ましくは、溶媒Aによる結合作用が生じやすいように、溶媒Bの沸点は溶媒Aの沸点よりも10℃以上低いのが好ましく、30℃以上低いのがより好ましい。なお、溶媒Bの沸点の下限は特に限定するものではないが、室温では容易に揮発しないように、50℃以上であるのが好ましい。
【0025】
なお、「静電紡糸繊維を溶解可能」とは、静電紡糸繊維又は静電紡糸繊維構成材料を室温下、溶媒に浸漬し、1mass%以上の濃度の溶解液を作製できることを意味し、「静電紡糸繊維を溶解不可能」とは、静電紡糸繊維又は静電紡糸繊維構成材料を室温下、1時間溶媒に浸漬した時の質量減少率が1mass%未満であることを意味し、「溶媒Aと混合可能」とは、溶媒Aと溶媒Bとを任意の比率で攪拌混合した混合溶媒を放置しても2層に分離しないことを意味し、「沸点」はJIS K5601−2−3により得られる値をいう。
【0026】
本発明における混合溶媒は静電紡糸繊維によって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、静電紡糸繊維がポリアクリロニトリルからなる場合には、溶媒Aと溶媒Bの組み合わせがN,N−ジメチルホルムアミドと水の混合溶媒、静電紡糸繊維がポリエーテルスルホンからなる場合には、溶媒Aと溶媒Bの組み合わせがN,N−ジメチルホルムアミドとイソプロピルアルコールの混合溶媒、静電紡糸繊維がポリビニルアルコールからなる場合には、溶媒Aと溶媒Bの組み合わせが水とイソプロピルアルコールの混合溶媒、を挙げることができる。
【0027】
なお、この混合溶媒においては、溶媒Aの濃度が1〜25mass%であるのが好ましい。溶媒Aの濃度が1mass%未満では静電紡糸繊維を若干溶解させて繊維同士を結合させることが困難になる傾向があるためで、3mass%以上であるのが好ましく、5mass%以上であるのがより好ましい。他方、25mass%を超えると、溶媒Aによって静電紡糸繊維を溶解させ過ぎてしまい、静電紡糸繊維を消失させてしまう傾向があり、また、溶媒Aの揮発と溶媒Bの揮発の時間差が大きくなり、結合ムラが発生しやすくなる傾向があるためで、22mass%以下であるのが好ましく、20mass%以下であるのがより好ましい。
【0028】
このような混合溶媒を繊維ウエブに付与するが、その付与量は繊維ウエブの質量の3〜15倍量であるのが好ましい。3倍量よりも少ないと、繊維ウエブに対して混合溶媒を均一に付与するのが困難になり、結合ムラが発生しやすくなる傾向があるためで、4倍量以上であるのが好ましく、5倍量以上であるのがより好ましい。他方、15倍量よりも多いと、繊維ウエブを加熱して混合溶媒を除去する際に、均一に乾燥させることが困難となり、結合ムラが生じやすい傾向があるためで、12倍量以下であるのが好ましく、10倍量以下であるのがより好ましい。
【0029】
なお、混合溶媒の繊維ウエブへの付与方法は特に限定するものではないが、例えば、混合溶媒浴中に繊維ウエブを浸漬する方法、混合溶媒を繊維ウエブに散布する方法、混合溶媒を繊維ウエブに塗布する方法、などを挙げることができる。これらの中でも、繊維ウエブ全体に対して混合溶媒を均一に付与できる、浸漬する方法により付与するのが好ましい。なお、静電紡糸繊維によっては、混合溶媒を繊維ウエブに付与した時に、溶媒Aが静電紡糸繊維内部に浸透し、付与時に静電紡糸繊維が変形したり、後述の加熱時に溶解しやすいため、付与に要する時間(例えば、浸漬時間)は1分以内であるのが好ましい。
【0030】
そして、前述の混合溶媒を付与した繊維ウエブを加熱し、混合溶媒を除去することによって、不織布を製造することができる。このように加熱すると、まず、混合溶媒中の沸点のより低い溶媒Bが蒸発する。この溶媒Bの蒸発に伴って、溶媒Aは繊維ウエブを構成する静電紡糸繊維同士の交差点に凝集しやすくなる。そのため、溶媒Aによって静電紡糸繊維が若干溶解するのと同時に溶媒Aが蒸発するため、過度に静電紡糸繊維を溶解させることなく、若干溶解した静電紡糸繊維構成材料によって、繊維同士の交差点が結合する。そのため、毛羽立ちにくく、形態安定性に優れる不織布を製造することができる。また、繊維同士の交差点が結合することによって、引張り強さが強くなり、伸度も小さくなるなど、各種機械的特性が向上する。
【0031】
このように不織布を製造するには、混合溶媒を付与した繊維ウエブを溶媒Aの沸点よりも高い温度で加熱すれば良い。例えば、溶媒Bの沸点よりも低い温度から連続的に又は段階的に溶媒Aの沸点よりも高い温度まで昇温させることができるし、直接溶媒Aの沸点よりも高い温度で加熱することもできる。連続的な昇温による加熱は、例えば、オーブンにより実施することができ、段階的な昇温による加熱は、例えば、温度の異なる2本以上の加熱ロールと接触させることにより実施することができ、直接溶媒Aの沸点よりも高い温度での加熱は、例えば、オーブン、加熱ロールにより実施することができる。
【0032】
なお、前述の通り、静電紡糸繊維によっては、溶媒Aが静電紡糸繊維内部に浸透し、加熱時に溶解しやすいため、混合溶媒の繊維ウエブへの付与開始から加熱による混合溶媒の除去完了までに要する時間は、25分以内であるのが好ましい。
【0033】
以上のように、混合溶媒を除去することによって、毛羽立ちにくく、形態安定性に優れる不織布を製造できるが、続いて、加圧することによって、更に毛羽立ちにくく、形態安定性に優れており、しかも平滑な表面をもつ不織布を製造できる。また、不織布の空隙率(見掛密度)を調節することができる。この加圧は、例えば、油圧プレス機や、片側に樹脂ロールを使用したカレンダーを用いて実施することができる。なお、加圧は不織布の目付、厚さ、所望空隙率、静電紡糸繊維の種類等によって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、カレンダーを用いて加圧する場合には、1000N/cm以下の線圧であるのが好ましい。また、加圧時に加熱しても良いし、加熱しなくても良く、特に限定するものではない。
【0034】
このようにして製造される不織布はバインダーを使用していないため、静電紡糸繊維を含んでいることによる各種性能を発揮できる、毛羽立ちにくく、形態安定性に優れる後加工しやすいものであり、しかも引張り強さや伸度などの各種機械的特性が改善されたものである。そのため、各種用途に適合する不織布を製造できる。例えば、液体、気体、又はマスク用濾過材、電気化学素子用セパレータ(例えば、アルカリ電池用セパレータ、リチウム電池用セパレータ、電気二重層キャパシタ用セパレータ、電解コンデンサ用セパレータなど)、ワイパー、電解質膜用材料、人工皮膚用材料、ナノカプセル用材料などに使用できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、「引張り強さ」及び「伸度」はインストロン型引っ張り試験機を用い、幅15mmに切断した静電紡糸不織布をチャック間距離50mm、引張り速度50mm/minの条件下で測定した、たて方向における最大点での値である。
【0036】
(実施例1a〜1e)
(1)紡糸原液の調製;
重量平均分子量50万のポリアクリロニトリルを、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に濃度10.5mass%となるように溶解させた紡糸原液(粘度:1200mPa・s)を用意した。
【0037】
(2)繊維ウエブの製造装置の準備;
図1〜図3に示すような製造装置を用意した。つまり、17本のノズル群2〜217(それぞれ内径が0.4mmのステンレススチール製針状ノズル)をピッチ50mmで、チェーン状支持体6cにそれぞれ固定し、この支持体6cを第1スプロケット6aと第2スプロケット6bとの間に橋渡し、ノズル群2〜217を長円状(長径:500mm、短径:100mm)に配置した。更に、第1スプロケット6aに駆動モーター6を取り付けた。
【0038】
次いで、ポリエチレン製容器1にマイクロポンプ3(マイクロポンプ社製;マイクロポンプFC−513 ポンプヘッド:188 1rpm=0.017mLタイプ;コントローラ部=株式会社中央理化製)を接続するとともに、パーフルオロアルコキシ樹脂製チューブ1aを接続し、このチューブ1aをノズル2にロータリージョイントを介して接続した。次いで、このノズル2と隣接するノズル2とを前記と同様のチューブ1aで接続し、紡糸原液がノズル2を介してノズル2へ供給できるようにした。同様に、ノズル2とノズル2、ノズル2とノズル2と順番にチューブ1aで接続して、ノズル217まで紡糸原液を供給することができるようにした。
【0039】
次いで、ガラスクロスにポリテトラフルオロエチレン及び導電性粒子を含浸し、焼成したベルト状捕集体5(幅:800mm)をアースして、前記ノズル群2〜217の直下に設置した。次いで、マイクロポンプ3のギアポンプヘッドに高電圧電源4を接続するとともに、前記ノズル群2〜217の先端が、上方から下方に向かってベルト状捕集体5の方向に向いており、しかもノズル群2〜217のエンドレス軌道の長径方向がベルト状捕集体5の幅方向(移動方向に対する直交方向)と一致するように、ノズル群2〜217を配置した。なお、ノズル群2〜217のノズルの先端とベルト状捕集体5の捕集表面との距離は40mmとした。
【0040】
次に、前記ノズル群2〜217及びベルト状捕集体5を塩化ビニル製直方体紡糸容器8(幅:1200mm、高さ:2000mm、奥行き:2400mm)の中央部に配置した。なお、直方体紡糸容器8の内側には、上壁面から800mm下方側の位置に整流板9aを上壁面と平行に配置した。また、ベルト状捕集体5の移動方向端部に、ベルト状捕集体5に従動して繊維ウエブを巻き取ることができるように、紙管7(直径:80mm、長さ:800mm)を設置した。
【0041】
そして、直方体紡糸容器8の上壁面に温湿度調整機能を備えた送風機9(PAU−1400HDR、(株)アピステ)を接続するとともに、直方体紡糸容器8の下壁面に排気ファン10を接続した。
【0042】
(3)静電紡糸不織布の製造;
前記紡糸原液を前記容器1に入れ、前記マイクロポンプを用いて紡糸原液を、ノズル2を介してノズル群2〜217へ供給し、ノズル群2〜217を180mm/sec.の一定速度で移動させながら、各ノズルから紡糸原液を吐出(1本あたりの吐出量:1g/時間)し、また、前記ベルト状捕集体5を一定速度(表面速度:3cm/分)で移動させながら、前記高電圧電源4から紡糸原液に+7kVの電圧を印加して、吐出した紡糸原液に電界を作用させて繊維化し、前記ベルト状捕集体5上に集積させて、連続繊維からなる繊維ウエブを製造し、紙管7で巻き取った。なお、繊維ウエブを製造する際には、送風機9から温度26℃、相対湿度23%の調湿エアを5m/分で供給するとともに、排気口から出てくる気体を排気ファン10で排気した。
【0043】
次に、紙管7から繊維ウエブを巻出し、長さ40cm、幅30cmのアルミニウム製フレームに貼り付け、温度160℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行うことにより、静電紡糸繊維中に残留する溶媒を除去し、目付10g/mの繊維ウエブを形成した。
【0044】
次に、溶媒AとしてN,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)、溶媒Bとして水(沸点:100℃)を使用し、溶媒Aの濃度が10mass%の混合溶媒を調製した。
【0045】
そして、この混合溶媒浴中に前記フレームで固定した繊維ウエブを5秒間浸漬した後に引き上げ、一対のロールで混合溶媒を絞ることによって、繊維ウエブ質量の3倍量(実施例1a)、5倍量(実施例1b)、7倍量(実施例1c)、10倍量(実施例1d)、15倍量(実施例1e)の混合溶媒を前記繊維ウエブに付与した。続いて、この混合溶媒含有繊維ウエブを温度160℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行い(混合溶媒浴への浸漬開始から熱処理完了までの時間:13分)、フレームを外して、不織布を製造した。これら不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0046】
【表1】

#1:不織布を指で軽く擦った時の繊維の脱落及び/又は層間剥離の有無
#2:不織布を水浴中に浸漬し、引き上げた時の皺の発生の有無
#3:目視による不織布の結合ムラの有無(結合の程度の違いによる透明度のムラを観察)
【0047】
この表1から、混合溶媒の付与量が繊維ウエブの質量の3〜15倍量、特に5〜10倍量であると、繊維を溶解させて消失させることなく、適度に繊維を溶解させて接着することができるため、バインダーを使用していないにもかかわらず、繊維同士が強固に結合し、毛羽立ちにくく、形態安定性に優れる不織布を製造できることが分かった。
【0048】
(実施例2a〜2c、比較例1)
溶媒Aの濃度を0%(比較例1)、5mass%(実施例2a)、10mass%(実施例1b)、20mass%(実施例2b)、25mass%(実施例2c)とし、混合溶媒の付与量を5倍としたこと以外は、実施例1a〜1eと全く同様にして、不織布を製造した。これら不織布の物性は表2に示す通りであった。










【0049】
【表2】

#1:不織布を指で軽く擦った時の繊維の脱落及び/又は層間剥離の有無
#2:不織布を水浴中に浸漬し、引き上げた時の皺の発生の有無
#3:目視による不織布の結合ムラの有無(結合の程度の違いによる透明度のムラを観察)
【0050】
この表2から、混合溶媒における溶媒Aの濃度が1〜25mass%、特に5〜20mass%であると、繊維を溶解させて消失させることなく、適度に繊維を溶解させて接着することができるため、バインダーを使用していないにもかかわらず、繊維同士が強固に結合し、毛羽立ちにくく、形態安定性に優れる不織布を製造できることが分かった。
【0051】
(実施例3)
ポリエーテルスルホン樹脂を、N,N−ジメチルアセトアミド(沸点165℃)に濃度25mass%となるように溶解させた紡糸原液(粘度:1200mPa・s)を、実施例1a〜1eと同様の装置を用いて紡糸し、直接捕集して、静電紡糸連続繊維からなる繊維ウエブを作製した。
【0052】
次に、紙管7から繊維ウエブを巻出し、長さ40cm、幅30cmのアルミ製フレームに貼り付け、170℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行うことにより、静電紡糸連続繊維中に残留する溶媒を除去し、目付5g/mの繊維ウエブを形成した。
【0053】
次に、溶媒AとしてN,N−ジメチルホルムアミド、溶媒Bとしてイソプロピルアルコール(沸点:82.4℃)を使用し、溶媒Aの濃度が3mass%の混合溶媒を調製した。
【0054】
そして、この混合溶媒浴中に前記フレームで固定した繊維ウエブを5秒間浸漬した後に引き上げ、一対のロールで混合溶媒を絞ることによって、繊維ウエブ質量の5倍量の混合溶媒を前記繊維ウエブに付与した。続いて、この混合溶媒含有繊維ウエブを温度160℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行い(混合溶媒浴への浸漬開始から熱処理完了までの時間:13分)、フレームを外して、平均繊維径が0.4μmの静電紡糸連続繊維のみからなる不織布(目付:5g/m、厚さ:25μm、たて方向の引っ張り強さ:1.6N/15mm幅、たて方向の伸度:56%)を製造した。この不織布を指で軽く擦ったが、繊維の脱落・剥離は見られなかった。また、不織布をイソプロピルアルコール浴中に浸漬し、引き上げたが、束状集合体になるなど皺になることなく、取り扱うことが可能であった。
【0055】
(実施例4)
ポリビニルアルコール樹脂(完全けん化重合度1000)を、水(沸点:100℃)に濃度15mass%となるように溶解させた紡糸原液(粘度:1500mPa・s)を、実施例1a〜1eと同様の装置を用いて紡糸し、直接捕集して、静電紡糸連続繊維からなる繊維ウエブを作製した。
【0056】
次に、紙管7から繊維ウエブを巻出し、長さ40cm、幅30cmのアルミ製フレームに貼り付け、180℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行うことにより、静電紡糸連続繊維中に残留する溶媒を除去するとともに、結晶化を行い、目付3g/mの繊維ウエブを形成した。
【0057】
次に、溶媒Aとして水、溶媒Bとしてイソプロピルアルコール(沸点:82.4℃)を使用し、溶媒Aの濃度が2mass%の混合溶媒を調製した。
【0058】
そして、この混合溶媒浴中に前記フレームで固定した繊維ウエブを5秒間浸漬した後に引き上げ、一対のロールで混合溶媒を絞ることによって、繊維ウエブ質量の5倍量の混合溶媒を前記繊維ウエブに付与した。続いて、この混合溶媒含有繊維ウエブを温度80℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行った後、続いて180℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行い(混合溶媒浴への浸漬開始から熱処理完了までの時間:23分)、フレームを外して、平均繊維径が0.25μmの静電紡糸連続繊維のみからなる不織布(目付:3g/m、厚さ:13μm、たて方向の引っ張り強さ:1.6N/15mm幅、たて方向の伸度:51%)を製造した。この不織布を指で軽く擦ったが、繊維の脱落・剥離は見られなかった。また、不織布をイソプロピルアルコール浴中に浸漬し、引き上げたが、束状集合体になるなど皺になることなく、取り扱うことが可能であった。
【0059】
(比較例2)
実施例1a〜1eの温度160℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行い、静電紡糸繊維中に残留する溶媒を除去した繊維ウエブ(混合溶媒の付与なし、目付:10g/m、厚さ:52μm、たて方向の引っ張り強さ:6.3N/15mm幅、たて方向の伸度:43%)を不織布とした。この不織布を指で軽く擦ると、繊維の脱落・剥離が見られ、また、不織布を水浴中に浸漬し、引き上げたところ、不織布にハリがなく、束状集合体になるなど皺になり、取り扱うことが困難であった。
【0060】
(比較例3)
実施例3の温度170℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行い、静電紡糸繊維中に残留する溶媒を除去した繊維ウエブ(混合溶媒の付与なし、目付:5g/m、厚さ:31μm、たて方向の引っ張り強さ:0.7N/15mm幅、たて方向の伸度:46%)を不織布とした。この不織布を指で軽く擦ると、繊維の脱落・剥離が見られ、また、不織布をイソプロピルアルコール浴中に浸漬し、引き上げたところ、不織布にハリがなく、束状集合体になるなど皺になり、取り扱うことが困難であった。
【0061】
(比較例4)
溶媒Aの濃度を0mass%、つまり溶媒Bであるイソプロピルアルコールのみに浸漬したこと以外は、実施例3と全く同様にして、不織布(目付:5g/m、厚さ:29μm、たて方向の引っ張り強さ:0.8N/15mm幅、たて方向の伸度:44%)を製造した。この不織布を指で軽く擦ると、繊維の脱落・剥離が見られ、また、不織布を水浴中に浸漬し、引き上げたところ、不織布にハリがなく、束状集合体になるなど皺になり、取り扱うことが非常に困難であった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例における繊維ウエブ製造装置の模式的平面図
【図2】図1の製造装置を矢印Aの方向から見た模式的断面図
【図3】図1の製造装置を矢印Bの方向から見た模式的断面図
【符号の説明】
【0063】
1:容器
1a:チューブ
〜217:ノズル群
3:マイクロポンプ
4:高電圧電源
5:ベルト状捕集体
6:駆動モーター
6a:第1スプロケット
6b:第2スプロケット
6c:チェーン状支持体
7:紙管
8:直方体紡糸容器
9:送風機
9a:整流板
10:排気ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維ウエブに、前記繊維を溶解可能な溶媒Aと、前記繊維を溶解不可能で、前記溶媒Aと混合可能、かつ前記溶媒Aよりも沸点の低い溶媒Bとの混合溶媒を付与した後、加熱することによって、前記混合溶媒を除去することを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項2】
静電紡糸法により紡糸した繊維を直接捕集して形成した繊維ウエブからなることを特徴とする、請求項1記載の不織布の製造方法。
【請求項3】
溶媒Aの濃度が1〜25mass%であることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の不織布の製造方法。
【請求項4】
混合溶媒の付与量が繊維ウエブの質量の3〜15倍量であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【請求項5】
混合溶媒を除去した後に加圧することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−7687(P2009−7687A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168574(P2007−168574)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】