説明

不織布の製造方法

【課題】溶融電界紡糸法によってフッ素樹脂からなる高品質の不織布を製造できる方法を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂の線条体12を帯電させる帯電用電極16と帯電用電極16に対向配置されたコレクタ18との間に、帯電用電極16が負極となるように電圧を印加しながら、帯電用電極16によって負に帯電させられたフッ素樹脂の線条体12の先端部にレーザ光源26からレーザ光線24を照射し、フッ素樹脂を加熱溶融することによって、溶融状態にあるフッ素樹脂を微細な繊維とし、該繊維をコレクタ18に集積して不織布を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融電界紡糸法によるフッ素樹脂からなる不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂の不織布は、耐熱性、耐薬品性、非粘着性、クリーン性に優れる点から、固体分子形燃料電池用電解質膜の補強材、フィルタ(半導体分野における空気清浄超高性能フィルタ、薬液フィルタ、バグフィルタ等)、電池(ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池等)のセパレータ等として用いられている。
【0003】
フッ素樹脂の不織布を製造する方法としては、たとえば、下記の溶液電界紡糸法による方法が提案されている(特許文献1、2)。
溶媒に溶解可能なフッ素樹脂および溶媒を含む紡糸原液を吐出するノズルと該ノズルに対向配置されたコレクタとの間に電圧を印加することによって、ノズルから吐出された紡糸原液を微細化しつつ、溶媒を蒸発させて繊維化し、該繊維をコレクタに集積して不織布を製造する方法。
【0004】
しかし、溶液電界紡糸法には、下記の問題がある。
・フッ素樹脂が、溶媒に溶解可能なフッ素樹脂(主鎖に脂肪族環構造を有する含フッ素重合体または特定のフルオロオレフィン系含フッ素重合体)に限定される。
・蒸発した溶媒を回収するための設備が必要となる。
【0005】
ところで、溶媒を用いない電界紡糸法による不織布の製造方法としては、下記の溶融電界紡糸法による方法が知られている(特許文献3〜5)。
少なくとも一部が溶融状態にある熱可塑性樹脂を帯電させる帯電用電極と該帯電用電極に対向配置されたコレクタとの間に電圧を印加することによって、溶融状態にある熱可塑性樹脂を繊維化し、該繊維をコレクタに集積して不織布を製造する方法。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−243419号公報
【特許文献2】特開2008−243420号公報
【特許文献3】特許第4238119号公報
【特許文献4】特開2007−239114号公報
【特許文献5】特開2007−321246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶融電界紡糸法においては、気体中の導電に寄与する移動度の値がマイナスイオンよりもプラスイオンの方が大きく、火花放電が起こりにくいことから、帯電用電極が正極となるように帯電用電極とコレクタとの間に電圧を印加し、熱可塑性樹脂を正に帯電させることが、常識とされている(特許文献4の段落[0044]、特許文献5の請求項1)。
【0008】
しかし、従来の溶融電界紡糸法において、熱可塑性樹脂としてフッ素樹脂を用いた場合、下記の問題が生じることが本発明者らによって明らかとなった。
・フッ素樹脂がペルフルオロポリマー(主鎖に脂肪族環構造を有するペルフルオロポリマー、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、PFAと記す。)等)の場合、繊維化できない。
・フッ素樹脂が部分フッ素樹脂の場合(エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(以下、ETFEと記す。)、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと記す。)等)の場合、繊維化できるが、部分フッ素樹脂が熱分解して生じた低分子量化合物が不織布に付着し、不織布の品質が低下する。
【0009】
本発明は、溶融電界紡糸法によってフッ素樹脂からなる高品質の不織布を製造できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の不織布の製造方法は、少なくとも一部が溶融状態にある樹脂を帯電させる帯電用電極と該帯電用電極に対向配置されたコレクタとの間に電圧を印加することによって、溶融状態にある前記樹脂を繊維化し、該繊維をコレクタに集積して不織布を製造する方法において、前記樹脂が、フッ素樹脂であり、前記帯電用電極が負極となるように、前記帯電用電極と前記コレクタとの間に電圧を印加することを特徴とする。
【0011】
本発明の不織布の製造方法は、前記フッ素樹脂がペルフルオロポリマーである場合に特に有用である。
本発明の不織布の製造方法においては、前記帯電用電極によって負に帯電させられた前記フッ素樹脂の一部をレーザ照射によって加熱溶融することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の不織布の製造方法によれば、溶融電界紡糸法によってフッ素樹脂からなる高品質の不織布を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】溶融電界紡糸法による不織布製造装置の一例を示す構成図である。
【図2】例1の不織布の電子顕微鏡像である。
【図3】例3の不織布の電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、ペルフルオロポリマーとは、炭素原子に結合した水素原子および炭素原子に結合したフッ素原子の合計数に対する炭素原子に結合したフッ素原子の数の割合が100%であるフッ素樹脂を意味する。
また、本明細書において、部分フッ素樹脂とは、炭素原子に結合した水素原子および炭素原子に結合したフッ素原子の合計数に対する炭素原子に結合したフッ素原子の数の割合が0%超100%未満であるフッ素樹脂を意味する。
【0015】
<不織布の製造方法>
本発明の不織布の製造方法は、少なくとも一部が溶融状態にある樹脂を帯電させる帯電用電極と該帯電用電極に対向配置されたコレクタとの間に電圧を印加することによって、溶融状態にある前記樹脂を繊維化し、該繊維をコレクタに集積して不織布を製造する方法、すなわち溶融電界紡糸法によって不織布を製造する方法である。
従来の溶融電界紡糸法による不織布の製造方法と異なる点は、樹脂としてフッ素樹脂を用いる点、帯電用電極が負極となるように、帯電用電極とコレクタとの間に電圧を印加する点である。
【0016】
溶融電界紡糸法としては、たとえば、下記の方法(α)、方法(β)等が挙げられ、極細の繊維を高いエネルギ効率で生産性よく形成できる点から、方法(α)が好ましい。
【0017】
(α)フッ素樹脂を帯電させる帯電用電極と該帯電用電極に対向配置されたコレクタとの間に、帯電用電極が負極となるように電圧を印加しながら、帯電用電極によって負に帯電させられたフッ素樹脂の一部をレーザ照射によって加熱溶融することによって、溶融状態にあるフッ素樹脂を微細な繊維とし、該繊維をコレクタに集積して不織布を製造する方法。
【0018】
(β)押出機等から押し出された溶融状態にあるフッ素樹脂を吐出する溶融紡糸ノズル(帯電用電極)と該溶融紡糸ノズルに対向配置されたコレクタとの間に、溶融紡糸ノズルが負極となるように電圧を印加することによって、溶融紡糸ノズルから吐出された溶融状態にあるフッ素樹脂を微細な繊維とし、該繊維をコレクタに集積して不織布を製造する方法。
【0019】
以下、方法(α)を例にとり、本発明の不織布の製造方法を詳しく説明する。
【0020】
(製造装置)
図1は、方法(α)の溶融電界紡糸法による不織布製造装置の一例を示す構成図である。不織布製造装置10は、フッ素樹脂の線条体12が挿通される挿通孔14を有する帯電用電極16と;帯電用電極16の下方に対向設置されたコレクタ18と;帯電用電極16とコレクタ18との間に電圧を印加する高電圧電源20と;帯電用電極16の上方に位置し、フッ素樹脂の線条体12を帯電用電極16の挿通孔14に供給し、挿通孔14から帯電用電極16の下方に向かって突出させるフィード手段22と;帯電用電極16の挿通孔14から突出した線条体12の先端部にレーザ光線24を照射するレーザ光源26とを具備する。
【0021】
帯電用電極16の形状としては、平板状、円盤状、棒状等が挙げられる。
帯電用電極16の材料としては、銅、銀、アルミニウム、ステンレス、クロム、白金、亜鉛、これらの合金、酸化物等が挙げられる。
帯電用電極16が挿通孔14を有することによって、挿通孔14に挿通されるフッ素樹脂の線条体12を効率よく帯電させることができる。挿通孔14の形状は、線条体12の断面形状に応じて適宜決定すればよい。
【0022】
挿通孔14は、図示例では1つのみ形成されているが、複数の同種または異種のフッ素樹脂の線条体12を挿通できるように、複数形成されていてもよい。
挿通孔14の内周面には、フッ素樹脂の線条体12を効率よく帯電させる点から、金属線が配設されていることが好ましく、内周面の全面にわたってコイル状に金属線が配設されていることがより好ましい。金属線の材料としては、銅、銀、アルミニウム、ステンレス、これらの合金等が挙げられる。
【0023】
コレクタ18の形態としては、平板、金属メッシュ、回転ディスク、回転ドラム、ベルトコンベア等が挙げられる。
コレクタ18の材料としては、銅、銀、アルミニウム、ステンレス、これらの合金等が挙げられる。
コレクタ18は、不織布の取り扱い性の点から、接地(アース)することが好ましい。
【0024】
フィード手段22は、通常、電気的な駆動力(モータの回転等)を利用して、フッ素樹脂の線条体12を一定速度で送出可能な機構(モータの回転運動を直線運動に変換する機構)を有する装置である。フッ素樹脂の線条体12を固定可能な保持部(チャック)を有する装置であってもよい。
【0025】
レーザ光源26としては、YAGレーザ光源、炭酸ガス(CO)レーザ光源、アルゴンレーザ光源、エキシマレーザ光源、ヘリウム−カドミウムレーザ光源等が挙げられ、電源効率が高く、フッ素樹脂の溶融性が高い点から、炭酸ガスレーザ光源が好ましい。
【0026】
(製造方法)
不織布製造装置10を用いた不織布の製造は、下記のように行われる。
フィード手段22を作動させ、フッ素樹脂の線条体12を帯電用電極16の挿通孔14に連続的に供給し、挿通孔14から帯電用電極16の下方に向かって突出させる。同時に、帯電用電極16の挿通孔14から突出した線条体12の先端部にレーザ光源26からレーザ光線24を照射し、フッ素樹脂を瞬時に加熱溶融する。また同時に、高電圧電源20によって帯電用電極16とコレクタ18との間に、帯電用電極16が負極となるように高電圧を印加する。
【0027】
帯電用電極16とコレクタ18との間に高電圧を印加し、フッ素樹脂の線条体12を負に帯電させた際、静電的な引力が線条体12の先端部の溶融フッ素樹脂の表面張力を超えると、溶融フッ素樹脂が線条体12の先端部においてTaylor coneと呼ばれる円錐状に変形し、さらに該coneの先端は引き伸ばされる。引き伸ばされた溶融フッ素樹脂は、負に帯電した溶融フッ素樹脂の静電反発により微細化する。微細化した溶融フッ素樹脂が瞬時に冷却され、極細の繊維が形成される。負に帯電した繊維は、正に帯電したコレクタ18に付着する。該繊維がコレクタ18上にしだいに堆積することにより、コレクタ18上に連続繊維で構成される不織布が形成される。
【0028】
不織布製造装置10を用いた不織布の製造においては、フィード手段22によって連続的にフッ素樹脂の線条体12を供給することによって、連続した長繊維からなる不織布を得ることができる。
線条体12の供給速度は、0.1〜500mm/分が好ましく、1〜50mm/分が特に好ましい。
【0029】
線条体12は、固体状で供給してもよく、あらかじめ溶融して半固体状で供給してもよく、簡便性および作業性の点から、固体状で供給することが好ましい。
線条体12は、挿通孔14の内周面に接触させてもよく、挿通孔14の内周面からわずかに離間させてもよい。
線条体12は、図示例では1本のみ供給されているが、複数本の同種または異種のフッ素樹脂の線条体12を供給してもよい。
【0030】
不織布製造装置10を用いた不織布の製造においては、線条体12の先端部にレーザ光線24を照射することによって、フッ素樹脂を局所的かつ瞬時に溶融できるため、高温の溶融フッ素樹脂を長時間保持する必要がない。その結果、方法(β)のような溶融紡糸ノズルを用いる溶融電界紡糸法とは異なり、生じる熱エネルギの拡散やフッ素樹脂の熱分解を抑制でき、また、放電に対する特別な工夫を必要とせず、溶融電界紡糸が可能である。さらに、融点の高いフッ素樹脂の電界紡糸が可能になり、高融点フッ素樹脂で構成された不織布が得られる。
【0031】
レーザ光線24としては、YAGレーザ、炭酸ガス(CO)レーザ、アルゴンレーザ、エキシマレーザ、ヘリウム−カドミウムレーザ等が挙げられ、電源効率が高く、フッ素樹脂の溶融性が高い点から、炭酸ガスレーザが好ましい。
レーザ光線24の波長は、200nm〜20μmが好ましく、500nm〜18μmがより好ましく、1〜16μmがさらに好ましく、5〜15μmが特に好ましい。
【0032】
レーザ光線24の照射方法としては、線条体12の先端部に局所的に照射できる点から、スポット状にレーザ光線を照射する方法が好ましい。スポット状のレーザ光線24のビーム径は、線条体12の断面の平均径よりも大きいことが好ましい。ビーム径は、0.5〜30mmが好ましく、1〜20mmがより好ましく、2〜15mmがさらに好ましく、3〜10mmが特に好ましい。ビーム径は、線条体12の断面の平均径に対して、1〜100倍が好ましく、2〜50倍がより好ましく、3〜30倍がさらに好ましく、5〜20倍が特に好ましい。
【0033】
レーザ光線24の出力は、線条体12の先端部がフッ素樹脂の融点以上かつフッ素樹脂の発火点未満の温度となる範囲に制御すればよく、極細繊維を製造する点から、できるだけ大きい方が好ましい。レーザ光線24の出力は、フッ素樹脂の物性(融点、限界酸素指数)、線条体12の形状、供給速度等に応じて適宜選択され、0.1〜50Wが好ましく、1〜35Wがより好ましく、5〜30Wがさらに好ましく、10〜25Wが特に好ましい。
【0034】
レーザ光線24は、一方向から照射してもよく、複数の方向から照射してもよく、フッ素樹脂を均一かつ充分に溶融できる点から、線条体12の先端部に複数の方向から照射することが好ましい。照射方向は、2方向以上が好ましく、2〜6方向がより好ましく、3〜5方向がさらに好ましい。
【0035】
複数方向からのレーザ照射は、複数のレーザ光源を用いて照射してもよく、単独のレーザ光源から照射されたレーザ光線を、反射鏡を用いて複数の方向から照射してもよく、効率よくフッ素樹脂を溶融できる点から、単独のレーザ光源から照射されたレーザ光線を、反射鏡を用いて複数の方向から照射する方法が好ましい。
【0036】
不織布製造装置10を用いた不織布の製造においては、簡便に装置を作製できる点、レーザ光線24を有効に熱エネルギに変換できる点、レーザ光線24の反射方向を容易に制御でき、安全性が高い点等から、レーザ光線24が照射される線条体12の先端部を、帯電用電極16よりも下流側に位置させることが好ましい。
【0037】
帯電用電極16の挿通孔14の下側開口部から線条体12の先端部までの距離は、フッ素樹脂の導電率、熱伝導率、ガラス転移点、レーザ光線24の照射量等に応じて適宜選択すればよい。該距離は、レーザ光線24が照射される線条体12の先端部におけるフッ素樹脂の分子運動性が高まり、溶融フッ素樹脂に充分な電荷を付与でき、電界紡糸法による不織布の生産性を向上できる点から、0.5〜10mmが好ましく、1〜8mmがより好ましく、1.5〜7mmがさらに好ましく、2〜5mmが特に好ましい。
【0038】
帯電用電極16とコレクタ18との間に印加する電圧は、放電しない範囲で高電圧であるのが好ましく、要求される繊維径、帯電用電極16とコレクタ18との距離、レーザ光線24の照射量などに応じて適宜選択できる。電圧は、5〜45kVが好ましく、15〜45kVがより好ましく、20〜45kVがさらに好ましく、25〜40kVが特に好ましい。
【0039】
帯電用電極16とコレクタ18との距離は、効率よく極細繊維を製造する点から、10〜300mmが好ましく、15〜200mmがより好ましく、20〜130mmがさらに好ましく、30〜100mmが特に好ましい。
【0040】
帯電用電極16とコレクタ18との間の雰囲気は、繊維の発火を抑制でき、レーザ光線の出力を高めることができる点から、不活性ガス雰囲気であってもよい。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、炭酸ガス等が挙げられ、窒素ガスが好ましい。不活性ガスの供給方法としては、帯電用電極16に不活性ガスを供給するための流路を設け、挿通孔14と合流させることによって不活性ガスを供給する方法等が挙げられる。
【0041】
帯電用電極16とコレクタ18との間の雰囲気は、加熱してもよい。該雰囲気を加熱することによって、形成されつつある繊維の急激な温度低下を抑制して繊維の延伸を促進し、より極細な繊維が得られる。加熱方法としては、ヒータ(ハロゲンヒータ等)を用いる方法、レーザ光線を照射する方法等が挙げられる。加熱温度は、フッ素樹脂の融点に応じて、50℃以上の温度からフッ素樹脂の発火点未満までの温度範囲から選択でき、紡糸性の点から、フッ素樹脂の融点未満の温度が好ましい。
【0042】
(線条体)
線条体12は、フッ素樹脂を公知の成形法によってフィラメント状、ストランド状、ロッド状等に成形することによって得られる。
線条体12の断面形状としては、円形、多角形(三角形、四角形状等)、楕円形状、不定形等が挙げられ、通常、円形である。
【0043】
線条体12の断面の平均径は、フッ素樹脂を効率的に加熱溶融できる点から、照射するレーザ光線24のビーム径よりも小さいことが好ましい。線条体12の断面の平均径は、0.1〜2mmが好ましく、0.2〜1.5mmがより好ましく、0.3〜1.2mmがさらに好ましく、0.4〜1.0mmが特に好ましい。
線条体12の長さは、必要な繊維の量に応じて適宜選択すればよく、通常、10mm以上であり、30mm以上がより好ましく、50mm以上がさらに好ましい。
【0044】
フッ素樹脂としては、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体、PFA、ETFE、PVDF、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。本発明の不織布の製造方法は、従来の溶融電界紡糸法によって繊維化できなかったペルフルオロポリマー(主鎖に脂肪族環構造を有するペルフルオロポリマー、PFA等)を用いる場合に特に有用である。
【0045】
(主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体)
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体は、無定形または非結晶性の重合体である。
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するとは、重合体における含フッ素脂肪族環の環を構成する炭素原子の1個以上が重合体の主鎖を構成する炭素原子であることをいう。含フッ素脂肪族環の環を構成する原子は、炭素原子以外に酸素原子、窒素原子等を含んでいてもよい。含フッ素脂肪族環としては、1〜2個の酸素原子を有する含フッ素脂肪族環が好ましい。含フッ素脂肪族環を構成する原子の数は、4〜7個が好ましい。
【0046】
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を形成し得る含フッ素単量体を含む単量体成分を重合して得られる。該含フッ素単量体としては、炭素−炭素二重結合および含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ炭素−炭素二重結合を構成する少なくとも1つの炭素原子が含フッ素脂肪族環構造の一部を構成する環状単量体、炭素−炭素二重結合を2つ有する線状のジエン系単量体が挙げられる。
【0047】
主鎖を構成する炭素原子は、環状単量体を重合させて得た重合体である場合には炭素−炭素二重結合の炭素原子に由来し、ジエン系単量体を環化重合させて得た重合体である場合には2個の炭素−炭素二重結合の4個の炭素原子に由来する。
【0048】
環状単量体およびジエン系単量体において、炭素原子に結合した水素原子および炭素原子に結合したフッ素原子の合計数に対する炭素原子に結合したフッ素原子の数の割合は、それぞれ、80%以上が好ましく、100%が特に好ましい。すなわち、主鎖に脂肪族環構造を有する含フッ素重合体としては、主鎖に脂肪族環構造を有するペルフルオロポリマーが特に好ましい。
【0049】
環状単量体としては、化合物(1)または化合物(2)が好ましい
【0050】
【化1】

【0051】
ただし、Xは、フッ素原子または炭素原子数1〜3のペルフルオロアルコキシ基を示し、RおよびRは、それぞれフッ素原子または炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基を示し、XおよびXは、それぞれフッ素原子または炭素原子数1〜9のペルフルオロアルキル基を示す。
【0052】
化合物(1)の具体例としては、化合物(1−1)〜(1−3)が挙げられる。
【0053】
【化2】

【0054】
化合物(2)の具体例としては、化合物(2−1)〜(2−2)が挙げられる。
【0055】
【化3】

【0056】
ジエン系単量体としては、化合物(3)が好ましい。
CF=CF−Q−CF=CF ・・・(3)。
ただし、Qは、炭素原子数1〜3のペルフルオロアルキレン基(エーテル性酸素原子を有していてもよい。)を示す。エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキレン基である場合、エーテル性酸素原子は該基の一方の末端に存在していてもよく、該基の両末端に存在していてもよく、該基の炭素原子の間に存在していてもよい。環化重合性の点からは、該基の一方の末端に存在しているのが好ましい。
【0057】
化合物(3)の環化重合により、下式(I)〜(III)のうちの1種以上の単量体単位を有する含フッ素重合体が得られる。
【0058】
【化4】

【0059】
化合物(3)の具体例としては、化合物(3−1)〜(3−9)が挙げられる。
CF=CFOCFCF=CF ・・・(3−1)、
CF=CFOCF(CF)CF=CF ・・・(3−2)、
CF=CFOCFCFCF=CF ・・・(3−3)、
CF=CFOCF(CF)CFCF=CF ・・・(3−4)、
CF=CFOCFCF(CF)CF=CF ・・・(3−5)、
CF=CFOCFOCF=CF ・・・(3−6)、
CF=CFOC(CFOCF=CF ・・・(3−7)、
CF=CFCFCF=CF ・・・(3−8)、
CF=CFCFCFCF=CF ・・・(3−9)。
【0060】
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体において、全単量体単位(100モル%)に対する含フッ素脂肪族環構造を有する単量体単位の割合は、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。含フッ素脂肪族環構造を有する単量体単位とは、環状単量体の重合により形成された単位、またはジエン系単量体の環化重合により形成された単位である。
【0061】
(PFA)
PFAにおけるペルフルオロアルキル基の炭素数は、1〜18が好ましい。
PFAにおける、テトラフルオロエチレン(以下、TFEと記す。)に基づく単位/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位のモル比は、90/10〜99.8/0.2(モル比)が好ましく、93/7〜99.5/0.5(モル比)が好ましく、95/5〜99/1がさらに好ましい。
【0062】
PFAは、TFEおよびペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)の他に、他の単量体に基づく単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、フルオロエチレン類(TFEを除く。)、フルオロプロピレン類、(ペルフルオロアルキル)エチレン類、オレフィン類等が挙げられる。
【0063】
他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
他の単量体に基づく単位の割合は、PFAの全単量体単位(100モル%)のうち、30モル%以下が好ましく、0.1〜15モル%が好ましく、0.2〜10モル%がさらに好ましい。
【0064】
(ETFE)
ETFEとしては、エチレン(以下、Eとも記す。)に基づく単位とTFEに基づく単位とのモル比(E/TFE)が、25/75〜45/55であるものが好ましく、40/60〜45/55であるものがより好ましい。該モル比(E/TFE)が極端に大きいと、ETFEの耐熱性、耐候性、耐薬品性、薬液透過防止性等が低下する場合がある。該モル比(E/TFE)が極端に小さいと、機械的強度、溶融成形性等が低下する場合がある。
【0065】
ETFEは、本質的な特性を損なわない範囲で、他の単量体に基づく単位の1種類以上を有していてもよい。
他の単量体としては、下記の化合物が挙げられる。
オレフィン類:プロピレン、ノルマルブテン、イソブテン等、
CH=CX(CFY(ただし、X、Yはそれぞれ水素原子またはフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。)で表される化合物(以下、FAEと記す。)、
不飽和基に水素原子を有するフルオロオレフィン:フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン等、
不飽和基に水素原子を有さないフルオロオレフィン:ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等、
ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE):ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ペルフルオロ(ブチルビニルエーテル)等。
他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
他の単量体としては、FAEが好ましい。
FAEとしては、CH=CH(CFYで表される化合物が好ましく、nが2〜6の整数であるものがより好ましく、nが2〜4の整数であるものがさらに好ましい。
FAEは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
FAEに基づく単位の割合は、ETFEの全単量体単位のうち、0.4〜4モル%が好ましい。FAEに基づく単位の割合が該範囲であれば、強度および成形安定性に優れる。
【0067】
(他の成分)
フッ素樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線安定剤、架橋剤、滑剤、可塑剤、増粘剤、充填剤(フィラー)、強化剤、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤等の各種添加剤が挙げられる。他の成分の割合は、フッ素樹脂(100質量%)に対して、30質量%以下が好ましい。
【0068】
(不織布)
本発明の製造方法で得られる不織布としては、連続繊維で構成される不織布が好ましい。
連続繊維とは、アスペクト比が10000以上の繊維を意味する。繊維長は、20mm以上が好ましい。
連続繊維の平均繊維径は、0.01〜23μmが好ましく、0.01〜9μmがより好ましい。平均繊維径が0.01μm以上であれば、繊維1本あたりの引張強度が充分となり、ハンドリング性が良好となる。連続繊維の繊維径は、顕微鏡写真から測定する。
【0069】
不織布の厚さは、固体分子形燃料電池用電解質膜の補強材として用いる場合、固体高分子電解質膜の電気抵抗の点から、23μm以下が好ましく、19μm以下がより好ましく、14μm以下がさらに好ましく、9μm以下が特に好ましい。
【0070】
(作用効果)
以上説明した本発明の不織布の製造方法にあっては、帯電用電極が負極となるように帯電用電極とコレクタとの間に電圧を印加しているため、従来の溶融電界紡糸法では繊維化できない、または低分子量化合物が不織布に付着しやすかったフッ素樹脂を用いているにもかかわらず、高品質の不織布を製造できる。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
例1、3、4、6、8は実施例であり、例2、5、7、9は比較例である。
【0072】
(繊維の繊維径)
電子顕微鏡観察において、不織布を構成している繊維から任意に100本を選択し、それぞれの繊維径を測定し、平均値および偏差を求めた。
【0073】
(外観)
不織布の外観を目視にて観察し、下記の基準にて評価した。
○:レーザ照射によるフッ素樹脂の熱分解で生じた低分子量化合物の付着なし。
×:レーザ照射によるフッ素樹脂の熱分解で生じた低分子量化合物の付着あり。
【0074】
(フッ素樹脂)
PFA:テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体、旭硝子社製、Fluon(登録商標)PFA P−62XPT、融点:300℃。
Cytop:主鎖に脂肪族環構造を有するペルフルオロポリマー(前記化合物(3−3)の単独重合体)、旭硝子社製、サイトップ CTL−S、融点:なし、ガラス転移温度:108℃。
ETFE:旭硝子社製、Fluon(登録商標)ETFE C88AXMP、融点:260℃。
PVDF:アルドリッチ社製、ポリビニリデンフルオロライド(Mw180000)、融点:165℃。
【0075】
(線条体)
溶融粘度測定試験装置(東洋精機社製、キャピログラフ)に、長さ:10mm、直径:1mmのオリフィスをセットし、各材料について下記に示す温度で溶融し、付属のピストンを2mm/分の速度でゆっくり押し出しながら、ロッド形状に溶融成形した。このとき重力以外の延伸力をロッドに加えることなく、空気中で冷却することにより、線条体(長さ:200mm)を得た。このときの線条体の直径は、ダイスウェロ効果により、オリフィスの直径とほぼ同じ1mmであった。
(PFA)
溶融温度:320℃。
(Cytop)
溶融温度:230℃。
(ETFE)
溶融温度:290℃。
(PVDF)
溶融温度:260℃。
【0076】
〔例1〕
下記の製造装置を用い、下記の製造条件にてPFAの線条体から溶融電界紡糸法によって不織布を製造した。不織布を構成する繊維の平均繊維径、繊維径偏差および不織布の外観を表1に示す。また、不織布の電子顕微鏡像を図2に示す。
【0077】
(製造装置)
構成:図1に示す不織布製造装置10。
帯電用電極16:内周面に銅線が配設された挿通孔14が中央に形成されたアルミニウム製の棒状電極。
コレクタ18:銅製の平板。
フィード手段22:線条体12がチャックによって固定された押出棒にモータの回転による直線運動を与えることによって、押出棒を下方に一定速度で移動させる装置。
レーザ光源26:炭酸ガスレーザ光源(鬼塚ガラス社製、PIN−20R、波長:10.6μm、出力:20W、ビーム径:6mm)。
【0078】
(製造条件)
線条体12の供給速度:5mm/分。
レーザ光源26の動作電流:10mA。
レーザ光線24の照射方向:レーザ光源26からのレーザ光線24を、反射鏡を利用して合計3方向から線条体12の先端部に照射した。
挿通孔14の下側開口部から線条体12の先端部までの距離:4mm。
帯電用電極16とコレクタ18との間に印加する電圧:40kV。
帯電用電極16の極性:負極。
帯電用電極16とコレクタ18との距離:60mm。
帯電用電極16とコレクタ18との間の雰囲気:大気。
【0079】
〔例2〜9〕
フッ素樹脂の種類、製造条件を表1に示すように変更した以外は、例1と同様にして、不織布を製造した。不織布を構成する繊維の平均繊維径、繊維径偏差および不織布の外観を表1に示す。また、例3の不織布の電子顕微鏡像を図3に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
例1〜5の結果から、フッ素樹脂がペルフルオロポリマー(PFA、Cytop)であっても、帯電用電極が負極となるように帯電用電極とコレクタとの間に電圧を印加することによって、溶融電界紡糸法にて繊維化可能であり、不織布が得られることがわかる。
例6〜9の結果から、フッ素樹脂が部分フッ素樹脂(ETFE、PVDF)の場合、帯電用電極が負極となるように帯電用電極とコレクタとの間に電圧を印加することによって、部分フッ素樹脂が熱分解して生じた低分子量化合物が不織布に付着せず、高品質の不織布が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の製造方法で得られた不織布は、固体分子形燃料電池用電解質膜の補強材、フィルタ、電池のセパレータ等として有用である。
【符号の説明】
【0083】
10 不織布製造装置
12 線条体
14 挿通孔
16 帯電用電極
18 コレクタ
20 高電圧電源
22 フィード手段
24 レーザ光線
26 レーザ光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が溶融状態にある樹脂を帯電させる帯電用電極と該帯電用電極に対向配置されたコレクタとの間に電圧を印加することによって、溶融状態にある前記樹脂を繊維化し、該繊維をコレクタに集積して不織布を製造する方法において、
前記樹脂が、フッ素樹脂であり、
前記帯電用電極が負極となるように、前記帯電用電極と前記コレクタとの間に電圧を印加することを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂が、ペルフルオロポリマーである、請求項1に記載の不織布の製造方法。
【請求項3】
前記帯電用電極によって負に帯電させられた前記フッ素樹脂の一部をレーザ照射によって加熱溶融する、請求項1または2に記載の不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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