説明

不要波抑圧装置

【課題】回転するアンテナを備えた場合であっても、小さい演算規模で不要波を抑圧し、メインローブの乱れを低減することができる不要波抑圧装置を提供する。
【解決手段】素子またはサブアレイ型アダプティブ処理を行う不要波抑圧装置において、回転するアンテナの回転角情報に基づき該アンテナの回転方向と逆方向にビームを向ける補正位相ウェイトを算出する補正位相ウェイト演算部5と、最初のPRI(Pulse Repetition Interval)で算出したアダプティブウェイトを初期ウェイトとし、該初期ウェイトに補正位相ウェイト演算部からの補正位相ウェイトを乗算して補正後ウェイトを算出し、該補正後ウェイトに基づきアダプティブ処理を行う処理部2〜4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置または受信装置などに適用されて不要波を抑圧する不要波抑圧装置に関し、特に回転するアンテナに対してアダプティブ処理またはSTAP(Space Time Adaptive Processing)処理を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダ装置または受信装置に適用される不要波抑圧装置において、アダプティブ処理またはSTAP処理を実施することにより、妨害波の到来方向のアンテナ利得を小さくしてヌル点を形成し、妨害波を抑圧するアダプティブヌルステアリングの技術が知られている。なお、アダプティブ処理およびSTAP処理の詳細は、例えば、非特許文献1〜4および非特許文献5に記載されている。
【0003】
図11は、このような不要波抑圧装置の一例として、アダプティブヌルステアリングのシステムであるサイドローブキャンセラ(SLC;Side lobe Canceller)を説明するための図である。
【0004】
SLC処理部は、図11(a)に示すように、主アンテナからの信号と補助アンテナからの信号とを処理することにより妨害波の到来方向のアンテナ利得を小さくして妨害波を抑圧する。
【0005】
具体的には、図11(b)に示すように、SLC処理のフィードバックループにより、主アンテナのサイドローブと補助アンテナのレベルを一致させるようにウェイトを変化させ、図11(c)に示すように、主アンテナパターンにヌル点を形成する。これにより、妨害波の到来方向に対する感度を低下させ、妨害波を抑圧する。
【非特許文献1】菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.35-37,98-99
【非特許文献2】菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.67-86
【非特許文献3】菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.17-21
【非特許文献4】菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.43-46、76-78
【非特許文献5】Richard Klemm,”SPACE−TIME ADAPTIVE PROCESSING”,IEE RADAR,SONAR,NAVIGATION AND AVIONICS 9,pp.110-118(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、回転するアンテナを備えたレーダ装置または受信装置において、アダプティブ処理またはSTAP処理を実施して、図12(a)に示すように、妨害波の到来方向にヌル点を形成するウェイトを算出し、そのウェイトを固定したままアンテナを回転させると、図12(b)に示すように、妨害波の到来方向に対するヌル点がずれるため、妨害残留電力が増加する。
【0007】
このような状態を回避するためには、レンジセル単位または数レンジセル単位でウェイトを更新する必要があるが、アンテナが回転する都度、ウェイト演算を実施すると演算規模が大きくなり、規定時間内で処理することが困難になるという問題がある。また、アダプティブ処理によってメインローブが乱れ、アンテナ回転時に目標信号により、さらにメインローブが崩れるという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、回転するアンテナを備えた場合であっても、小さい演算規模で不要波を抑圧し、メインローブの乱れを低減することができる不要波抑圧装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、素子またはサブアレイ型アダプティブ処理を行う不要波抑圧装置において、回転するアンテナの回転角情報に基づき該アンテナの回転方向と逆方向にビームを向ける補正位相ウェイトを算出する補正位相ウェイト演算部と、最初のPRI(Pulse Repetition Interval)で算出したアダプティブウェイトを初期ウェイトとし、該初期ウェイトに補正位相ウェイト演算部からの補正位相ウェイトを乗算して補正後ウェイトを算出し、該補正後ウェイトに基づきアダプティブ処理を行う処理部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、SLC(Side lobe Canceller)型アダプティブ処理を行う不要波抑圧装置において、回転するアンテナの回転角情報に基づき該アンテナの回転方向と逆方向にビームを向けるための主チャンネル用の補正位相ウェイトおよび補助チャンネル用の補正位相ウェイトを算出する補正位相ウェイト演算部と、補正位相ウェイト演算部からの主チャンネル用および補助チャンネル用の補正位相ウェイトを、主チャンネル信号および補助チャンネル信号の最初のPRIで算出した初期アダプティブウェイトにそれぞれ乗算して補正後ウェイトを算出し、該補正後ウェイトに基づきアダプティブ処理を行う処理部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3記載の発明は、素子またはサブアレイ型STAP(Space Time Adaptive Processing)処理を行う不要波抑圧装置において、回転するアンテナの回転角情報に基づき該アンテナの回転方向と逆方向にビームを向ける補正位相ウェイトを算出する補正位相ウェイト演算部と、CPIの各PRIのレンジセルデータより算出したアダプティブウェイトを初期ウェイトとし、該初期ウェイトに補正位相ウェイト演算部からの補正位相ウェイトを乗算して補正後ウェイトを算出し、該補正後ウェイトに基づきSTAP処理を行う処理部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4記載の発明は、SLC(Side lobe Canceller)型STAP(Space Time Adaptive Processing)処理を行う不要波抑圧装置において、回転するアンテナの回転角情報に基づき該アンテナの回転方向と逆方向にビームを向けるための主チャンネル用の補正位相ウェイトおよび補助チャンネル用の補正位相ウェイトを算出する補正位相ウェイト演算部と、補正位相ウェイト演算部からの主チャンネル用および補助チャンネル用の補正位相ウェイトを、主チャンネル信号および補助チャンネル信号のCPIの各PRIのレンジセルデータより算出した初期ウェイトにそれぞれ乗算して補正後ウェイトを算出し、該補正後ウェイトに基づきSTAP処理を行う処理部とを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の発明において、処理部は、リカーシブ法により補正後ウェイトを算出する際に、反復回数に制限を与え、メインローブの乱れを抑えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、最初のPRIで算出したアダプティブウェイトを初期ウェイトとし、これにアンテナの回転角に応じた補正位相ウェイトを乗算してウェイト(補正後ウェイト)を得るので、アンテナが回転した場合のウェイトを簡易に算出できる。その結果、回転するアンテナを備えた場合であっても、少ない演算量で不要波を抑圧し、メインローブの乱れを低減することができる。
【0015】
また、請求項2記載の発明によれば、SLC型アダプティブ処理を行う不要波抑圧装置において、主チャンネルと補助チャンネルのウェイトに対して、アンテナの回転角に応じた補正位相ウェイトを乗算してウェイト(補正後ウェイト)を得るので、アンテナが回転した場合のウェイトを簡易に算出できる。その結果、回転するアンテナを備えた場合であっても、少ない演算量で不要波を抑圧し、メインローブの乱れを低減することができる。
【0016】
また、請求項3記載の発明によれば、素子またはサブアレイ型STAP処理を行う不要波抑圧装置において、請求項1記載の発明と同様の構成を備えたので、アンテナが回転した場合のウェイトを簡易に算出できる。その結果、回転するアンテナを備えた場合であっても、少ない演算量で不要波を抑圧し、メインローブの乱れを低減することができる。
【0017】
また、請求項4記載の発明によれば、SLC型STAP処理を行う不要波抑圧装置において、請求項2記載の発明と同様の構成を備えたので、アンテナが回転した場合のウェイトを簡易に算出できる。その結果、回転するアンテナを備えた場合であっても、少ない演算量で不要波を抑圧し、メインローブの乱れを低減することができる。
【0018】
また、請求項5記載の発明によれば、リカーシブ法の反復回数に制限を与えることにより、アダプティブ処理によるメインローブの乱れを抑えることができ、補正後ウェイトの設定後も位相ウェイトのみの変更であり、目標信号によるメインローブの変化を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の原理を説明するための図である。今、図1(a)に示す状態から図1(b)に示す状態にアンテナが回転すると、妨害波の到来方向が変わるので、本発明では、その妨害波の到来方向にヌルを向けるべく、アンテナの回転方向に対して逆の方向に、ビーム全体を走査する。すなわち、位相ウェイトによるバックスキャンを行い、ヌル点を保持するようにしたものである。
【0021】
これをレーダ装置に適用された不要波抑圧装置の場合を例に挙げて、時系列で表現すると、図2に示すようになる。まず、図2(a)に示すように、CPI(Coherent Processing Interval;コヒーレント処理周期)の最初のPRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰り返し間隔)においてウェイト演算が実施され、アダプティブウェイト(初期ウェイト)が算出される。このアダプティブウェイトの演算は、妨害信号を抑圧するアダプティブ処理では、クラッタが含まれると、抑圧度の高いウェイトを算出することができないので、クラッタの少ないできるだけ遠方に対応するPRIの後半で行われる。
【0022】
なお、タイム・マネージメントに余裕がある場合は、図3(a)に示すように、最初の送信パルスの前に受信期間を設けて、クラッタが存在しない状態で、アダプティブウェイトを演算するように構成することもできる。
【0023】
このようにして算出されたアダプティブウェイトはメモリに記憶され、図2(b)に示すように、CPIの最初のPRIで初期ウェイトとして設定される。この初期ウェイトに対して、アンテナの回転角に応じて、レンジセル毎または数レンジセル(間引きしたレンジセル)毎にバックスキャンする補正位相ウェイトが乗算され、この乗算結果が補正後ウェイトとして設定される。
【0024】
アダプティブウェイトの演算および補正後ウェイトを定式化すると以下の通りである。まず、アダプティブウェイトWoptは、SMI方式(詳細は、非特許文献1参照)で演算する場合は、次式となる。
【数1】

【0025】
ここで、
Wopt:アダプティブウェイト(列ベクトル)
Y :アダプティブ出力
X :入力信号
Rxx :入力信号Xの相関行列
S :ステアリングベクトル
t :転置
ステアリングベクトルSは、次式で表される。
【数2】

【0026】
θb :ビーム指向方向
k :波数ベクトル 2π/λ
λ :波長
dn :入力(素子またはサブアレイ)nの位相中心の位置ベクトル(n=1〜N)
j :虚数単位
ウェイトは、一般に、タップドディレイライン(詳細は、非特許文献3参照)を用いて表現されるが、簡単のため、複素ウェイトで表現している。このアダプティブウェイトWoptに対して、回転角Δφを考慮すると、次式の補正位相ウェイトが必要である。
【数3】

【0027】
ここで、
ΔW :補正位相ウェイト
Δφ :回転量
この補正位相ウェイトを用いて、補正後ウェイトWcは、次式で算出できる。
【数4】

【0028】
図4は、本発明の実施例1に係る不要波抑圧装置(素子またはサブアレイ型アダプティブ)の構成を示すブロック図である。この不要波抑圧装置によって、上述した処理が実現される。この不要波抑圧装置は、図示しないアンテナ素子または複数のアンテナ素子が配列されて成るサブアレイから送られてくる複数の入力信号X1〜XN(Nは正の整数)をレンジセル単位でそれぞれ遅延させる複数のTDL(Taped Delay Line;タップドディレイライン)2と、TDL2の出力を加算し、アダプティブ出力Yとして出力する加算器3と、TDL2の各タップから出力される信号に乗算するウェイトを計算するアダプティブ処理部4と、図示しないアンテナの角度検出部から送られてくる回転角情報に基づき補正位相ウェイトを算出する補正位相ウェイト演算部5から構成されている。
【0029】
なお、TDL型のアダプティブアレイおよびSTAP処理の詳細は、非特許文献3および非特許文献5に記載されている。
【0030】
次に、この実施例1に係る不要波抑圧装置の動作を、図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。まず、アダプティブウェイトが演算される(ステップS1)。すなわち、CPIの最初のPRIにおいてアダプティブウェイトが算出さる。算出されたアダプティブウェイトは、初期ウェイトとして使用される。次いで、PRIがインクリメント(+1)される(ステップS2)。なお、PRIの初期値は「0」とする。
【0031】
次いで、初期ウェイトが設定される(ステップS3)。すなわち、ステップS1で算出された初期ウェイトが設定される。次いで、回転角に応じた補正後ウェイトが演算される(ステップS4)。すなわち、補正位相ウェイト演算部5は、回転するアンテナ(図示しない)からの回転角情報に基づき該アンテナの回転方向と逆方向にビームを向ける補正位相ウェイトを算出する。
【0032】
次いで、補正後ウェイトが設定される(ステップS5)。すなわち、ステップS4で算出された補正後ウェイトがアダプティブ処理部4の内部に設定され、アダプティブ処理に使用される。この場合、補正後ウェイトは、レンジセル毎または数レンジセル(間引きしたレンジセル)毎に設定される。
【0033】
次いで、1つのCPIに対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS6)。このステップS6において、1つのCPIに対する処理が終了していないことが判断されると、ステップS2に戻り、上述した処理が繰り返される。一方、1つのCPIに対する処理が終了したことが判断されると、次のCPIに対する処理に移る。
【0034】
なお、アダプティブウェイト(初期ウェイト)を演算する間隔は、アンテナの回転速度およびPRI等に応じて、CPI単位または数PRI単位と決定することができる。
【0035】
なお、ウェイト演算方式としては、リカーシブ・アルゴリズムのMSN(Maximum Signal to Noise Ratio)方式(詳細は、非特許文献2参照)等といった他の方式を用いることもできる。
【実施例2】
【0036】
図6は、本発明の実施例2に係る不要波抑圧装置(SLC型アダプティブ)の構成を示すブロック図であり、図7は、この不要波抑圧装置で使用される演算セルの構成を示す図である。なお、SLC型アダプティブの構成は周知であるので、以下では、本発明に直接関係する部分を中心に説明する。
【0037】
この不要波抑圧装置は、主アンテナ6を構成する複数のアンテナ素子にて送受信された信号は、主チャンネル(以下、「主CH」と略する)信号としてビーム合成回路7に送られる。
【0038】
なお、複数のアンテナ素子の代わりに、複数のサブアレイを用いることもできる。ビーム合成回路7は、補助位相ウェイト演算部10から送られてくる主CH用の補正位相ウェイトを用いてウェイト演算が行った後にビーム合成し、キャンセル処理回路12に送る。
【0039】
主アンテナ6を構成する複数のアンテナ素子またはサブアレイの一部または全部は補助アンテナとして共用される。この補助アンテナによって得られる補助チャンネル(以下、「補助CH」と略する)信号は、TDL8に送られる。
【0040】
TDL8は、SLC処理部9と相俟って、補助アンテナからの補助CH信号のレンジセル単位の信号を用いてアダプティブ処理を行うことにより、不要波を抑圧する。アダプティブ処理の最適ウェイトWoptとして、SMI(直接解法;Sampled Matrix Inversion)アルゴリズム演算(非特許文献1参照)を用いると、次式となる。
【数5】

【0041】
ここで、
Wopt:アダプティブウェイト(列ベクトル)
Y :アダプティブ出力
Xm :主CH信号
Xa :補助CH信号
Rxx :入力信号Xaの相関行列
rxd :補助CH信号XaとSLC出力Yの相関係数
Sm :主CH用ウェイト(ステアリングベクトル)
【数6】

【0042】
θb :ビーム指向方向
dn :主CHの入力(素子またはサブアレイ)の位相中心の位置ベクトル(n=1〜N)
このウェイトWoptに対して、回転角Δφを考慮すると、次式の補正位相ウェイトが必要である。
【数7】

【0043】
ここで、
ΔS :補正位相ウェイト
Δφ :回転量
N :主CHの素子数(n=1〜N)
また、補助CHも同様に、次式となる。
【数8】

【0044】
ここで、
Na :補助CHの素子数
dna :補助CHの入力(素子またはサブアレイ)の位相中心の位置ベクトル(na=1〜Na)
この補正位相ウェイトを用いて、補正後ウェイトは次式で算出できる。
【数9】

【0045】
ここで、
Sc :主CHの補正後ウェイト
Wc :補助CHの補正後ウェイト
以上の処理は、図5のフローチャートに示した実施例1に係る不要波抑圧装置における処理により実現できる。なお、補正後ウェイトは、レンジセル毎または数レンジセル(間引きしたレンジセル)毎に設定する。また、アダプティブウェイト(初期ウェイト)を演算する間隔は、アンテナの回転速度およびPRI等に応じて、CPI単位または数PRI単位と決定することができる。
【実施例3】
【0046】
上述した実施例1および実施例2に係る不要波抑圧装置においては、空間軸で信号処理を行うように構成したが、さらに時間軸(周波数軸)を加えると、空間−時間(周波数)軸上の多次元のSTAP処理(例えば、非特許文献5参照)が可能となる。図8は、本発明の実施例3に係る不要波抑圧装置(素子またはサブアレイ型STAP)の構成を示すブロック図である。なお、素子またはサブアレイ型STAPの構成は周知であるので、以下では、本発明に直接関係する部分を中心に説明する。
【0047】
この不要波抑圧装置で行われるSTAP処理の最適ウェイトWoptは、直接解法(非特許文献4参照)の場合は次式で表すことができる。
【数10】

【0048】
ここで、
Wopt :アダプティブウェイト(列ベクトル)
Y :STAP出力
X :入力信号(N×M個、N:補助アンテナ数、M:タップ数)
X=[X11・・・、XNM]
Rxx :入力信号Xの相関行列
S :ステアリングベクトル
【数11】

【0049】
上記は、リニアアレイの場合である。
【0050】
θb: ビーム指向方向
p :周波数バンク番号(p=1〜P)
m :タップ番号(m=1〜M)
このウェイトWoptに対して、回転角Δφを考慮すると、次式の補正位相が算出できる。
【数12】

【0051】
ここで、
ΔW :補正位相ウェイト
Δφ :回転量
この補正位相ウェイトを用いて、補正後ウェイトWcは次式で算出できる。
【数13】

【0052】
以上の処理は、図5のフローチャートに示した実施例1に係る不要波抑圧装置における処理により実現できる。なお、補正後ウェイトは、レンジセル毎または数レンジセル(間引きしたレンジセル)毎に設定する。また、アダプティブウェイト(初期ウェイト)を演算する間隔は、アンテナの回転速度およびPRI等に応じて、CPI単位または数PRI単位と決定することができる。
【0053】
なお、初期ウェイトを演算する際には、STAP処理の場合は、図9に示すように、CPIの各PRIのレンジセルデータによりウェイト演算を実施する。
【実施例4】
【0054】
上述した実施例3に係る不要波抑圧装置は、素子またはサブアレイ型STAP処理を行う構成であるが、SLC型STAP処理を行うように構成することができる。図10は、本発明の実施例4に係る不要波抑圧装置(SLC型STAP)の構成を示すブロック図である。なお、SLC型STAPの構成は周知であるので、以下では、本発明に直接関係する部分を中心に説明する。
【0055】
この不要波抑圧装置では、主アンテナ6からの主CH信号をビーム合成回路7でビーム合成した後、フーリエ変換回路12により、時空間でビーム形成される。STAP処理の最適ウェイトWoptとして、SMI(直接解法:Sampled Matrix Inversion)アルゴリズム演算を用いると、次式となる。
【数14】

【0056】
ここで、
Wopt:アダプティブウェイト(列ベクトル)
Y :アダプティブ出力
Xm :主CH信号
Xa :補助CH信号
(N×M個、N:補助アンテナ数、M:タップ数)
Xa=[X11・・・、XNM]
Rxx :入力信号Xaの相関行列
rxd :補助CHXaとSLC出力Yの相関係数
Sm :主CH用ウェイト(ステアリングベクトル)
【数15】

【0057】
p :周波数バンク番号(p=1〜P)
m :タップ番号(m=1〜M)
dn :主CHの入力(素子またはサブアレイ)の位相中心の位置ベクトル(n=1〜N)
この最適ウェイトをアダプティブ処理の演算セルに設定し、補助CHの信号を加算して、キャンセル処理の演算セルで主CH信号から減算する。
【0058】
このウェイトWoptに対して、回転角Δφを考慮すると、次式の補正位相ウェイトが必要である。
【数16】

【0059】
また、補助CHも同様に、次式となる。
【数17】

【0060】
ここで、
Na :補助CHの素子数
dna:補助CHの入力(素子またはサブアレイ)の位相中心の位置ベクトル(na=1〜Na)
この補正位相ウェイトを用いて、補正後ウェイトは次式で算出できる。
【数18】

【0061】
ここで、
Sc :主CHの補正後ウェイト
Wc :補助CHの補正後ウェイト
以上の処理は、図5のフローチャートに示した実施例1に係る不要波抑圧装置における処理により実現できる。なお、補正後ウェイトは、レンジセル毎または数レンジセル(間引きしたレンジセル)毎に設定する。また、アダプティブウェイト(初期ウェイト)を演算する間隔は、アンテナの回転速度およびPRI等に応じて、CPI単位または数PRI単位と決定することができる。
【0062】
なお、初期ウェイトを演算する際には、STAPの場合は、図9に示すようにCPIの各PRIのレンジセルデータによりウェイト演算を実施する。
【実施例5】
【0063】
実施例5に係る不要波抑圧装置は、処理部がリカーシブ法により補正後ウェイトを算出する際に、反復回数に制限を与えることにより、メインローブの乱れを抑えるものである。
【0064】
この実施例5に係る不要波抑圧装置は、リカーシブ法では反復しながらウェイトが逐次演算されるが、この反復回数に制限を与えて、制限回数を超えた場合にウェイト演算を中止するように構成したものである。
【0065】
これにより、不要波抑圧性能は若干劣化するものの、メインローブに影響を与えない範囲のウェイトを算出することができる。なお、リカーシブ法としては、MSN方式(非特許文献2参照)、RLS方式(非特許文献4参照)等といった種々の方式を用いることができる。
【0066】
なお、反復回数に制限を与えてメインローブの乱れを抑圧する方法は、反復回数がゼロになる固定の場合も含めて適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、回転するアンテナを備えたレーダ装置または受信装置などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の原理を説明するための図である。
【図2】本発明の実施例1に係る不要波抑圧装置において、送信タイミングで初期ウェイトを決定する動作を説明するための図である。
【図3】本発明の実施例1に係る不要波抑圧装置において、送信タイミングで初期ウェイトを決定する他の動作を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例1に係る不要波抑圧装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例1に係る不要波抑圧装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施例2に係る不要波抑圧装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例2に係る不要波抑圧装置で使用される演算セルの構成を示す図である。
【図8】本発明の実施例3に係る不要波抑圧装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施例3に係る不要波抑圧装置において、送信タイミングで初期ウェイトを決定する動作を説明するための図である。
【図10】本発明の実施例4に係る不要波抑圧装置の構成を示すブロック図である。
【図11】従来の不要波抑圧装置の一例として、アダプティブヌルステアリングのシステムであるSLCの原理を説明するための図である。
【図12】従来の不要波抑圧装置の問題を説明するための図である。
【符号の説明】
【0069】
2 TDL(レンジセル単位)
2a TDL(PRI単位)
3 加算器
4 アダプティブ処理部
4a STAP処理部
5、5a 補正位相ウェイト演算部
6 主アンテナ
7 ビーム合成回路
8 TDL(レンジセル単位)
8a TDL(PRI単位)
9 SLC処理部
9a STAP処理部
10、10a 補正位相ウェイト演算部
11、11a キャンセル処理回路
12 フーリエ変換回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子またはサブアレイ型アダプティブ処理を行う不要波抑圧装置において、
回転するアンテナの回転角情報に基づき該アンテナの回転方向と逆方向にビームを向ける補正位相ウェイトを算出する補正位相ウェイト演算部と、
最初のPRI(Pulse Repetition Interval)で算出したアダプティブウェイトを初期ウェイトとし、該初期ウェイトに前記補正位相ウェイト演算部からの補正位相ウェイトを乗算して補正後ウェイトを算出し、該補正後ウェイトに基づきアダプティブ処理を行う処理部と、
を備えたことを特徴とする不要波抑圧装置。
【請求項2】
SLC(Side lobe Canceller)型アダプティブ処理を行う不要波抑圧装置において、
回転するアンテナの回転角情報に基づき該アンテナの回転方向と逆方向にビームを向けるための主チャンネル用の補正位相ウェイトおよび補助チャンネル用の補正位相ウェイトを算出する補正位相ウェイト演算部と、
前記補正位相ウェイト演算部からの主チャンネル用および補助チャンネル用の補正位相ウェイトを、主チャンネル信号および補助チャンネル信号の最初のPRIで算出した初期アダプティブウェイトにそれぞれ乗算して補正後ウェイトを算出し、該補正後ウェイトに基づきアダプティブ処理を行う処理部と、
を備えたことを特徴とする不要波抑圧装置。
【請求項3】
素子またはサブアレイ型STAP(Space Time Adaptive Processing)処理を行う不要波抑圧装置において、
回転するアンテナの回転角情報に基づき該アンテナの回転方向と逆方向にビームを向ける補正位相ウェイトを算出する補正位相ウェイト演算部と、
CPIの各PRIのレンジセルデータより算出したアダプティブウェイトを初期ウェイトとし、該初期ウェイトに前記補正位相ウェイト演算部からの補正位相ウェイトを乗算して補正後ウェイトを算出し、該補正後ウェイトに基づきSTAP処理を行う処理部と、
を備えたことを特徴とする不要波抑圧装置。
【請求項4】
SLC(Side lobe Canceller)型STAP(Space Time Adaptive Processing)処理を行う不要波抑圧装置において、
回転するアンテナの回転角情報に基づき該アンテナの回転方向と逆方向にビームを向けるための主チャンネル用の補正位相ウェイトおよび補助チャンネル用の補正位相ウェイトを算出する補正位相ウェイト演算部と、
前記補正位相ウェイト演算部からの主チャンネル用および補助チャンネル用の補正位相ウェイトを、主チャンネル信号および補助チャンネル信号のCPIの各PRIのレンジセルデータより算出した初期ウェイトにそれぞれ乗算して補正後ウェイトを算出し、該補正後ウェイトに基づきSTAP処理を行う処理部と、
を備えたことを特徴とする不要波抑圧装置。
【請求項5】
前記処理部は、リカーシブ法により補正後ウェイトを算出する際に、反復回数に制限を与え、メインローブの乱れを抑えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の不要波抑圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−256449(P2008−256449A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97468(P2007−97468)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】