説明

不透明膜形成用液状組成物、不透明膜及びこれを形成する方法

【課題】、顔料を必要とすることなく、透明度の低い不透明膜を容易に形成することが可能な液状組成物を提供すること。
【解決手段】カルボキシル基を有するカルボキシル化合物と、イソシアネート基又はブロックイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、を含有する、不透明膜形成用液状組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不透明膜形成用液状組成物、不透明膜及びこれを形成する方法に関する
【背景技術】
【0002】
白色膜等の不透明膜は、反射板及び拡散板等の光学部材を構成するために用いられることがある。白色膜を形成するためには、一般に、白色顔料を含有する分散系の塗料が用いられる場合が多い。例えば、インクジェット用白色インク組成物として、二酸化チタン顔料、中空粒子等の白色顔料が用いられている(特許文献1、2)。
【0003】
一方、微細な気泡を含有させることにより、包装用等に用いられるポリエステルフィルムを白色化することも提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−256726号公報
【特許文献2】特開2009−035672号公報
【特許文献3】特許第3180489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、酸化チタン粒子及び中空粒子等の白色顔料を用いると、顔料の沈降及び凝集等に起因する濃度ムラを十分に回避することは本質的に困難であった。顔料が沈降又は凝集すると、塗工装置の詰まりが生じるという問題もある。特許文献3に開示される白色ポリエステルフィルムによれば、濃度ムラは生じ難いことが期待されるものの、これを所望の基板上に設ける白色膜として用いるためには、白色ポリエステルフィルムを接着剤等により基板に接着する必要があり、汎用性の高いものではなかった。
【0006】
そこで本発明は、顔料を必要とすることなく、透明度の低い不透明膜を容易に形成することが可能な液状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カルボキシル基を有するカルボキシル化合物と、イソシアネート基又はブロックイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、を含有する、不透明膜形成用液状組成物に関する。この液状組成物は、カルボキシル化合物及びイソシアネート化合物が溶解している溶媒を更に含有することが好ましい。
【0008】
上記本発明に係る液状組成物によれば、カルボキシル基とイソシアネート基との反応にともなって発生するCOガスの微細な気泡により膜の透明性を低下させることから、顔料を必要とすることなく、不透明膜を容易に形成することができる。
【0009】
カルボキシル化合物は、カルボキシル基を有する重合体であることが好ましい。カルボキシル化合物が重合体であることにより、液状組成物の粘度が適正化されて、良好な塗工性で安定して液状組成物を成膜することが可能である。
【0010】
カルボキシル化合物の酸価は220mgKOH/g以上であることが好ましい。これにより、特に高いヘイズ値を有する不透明膜を容易に形成することができる。
【0011】
本発明はまた、本発明に係る不透明膜形成用液状組成物の膜を加熱することにより形成することのできる、不透明膜に関する。
【0012】
本発明に係る不透明膜によれば、顔料を必要とすることなく、膜の低い透明度を容易に達成することができる。この不透明膜は反射膜等の光学部材を構成するために好適に用いられる。
【0013】
別の側面において、本発明は、本発明に係る不透明膜形成用液状組成物の膜を形成する工程と、膜を加熱して不透明膜を形成する工程と、を備える、不透明膜を形成する方法に関する。
【0014】
本発明に係る方法によれば、顔料を必要とすることなく、透明度の低い不透明膜を容易に形成することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、顔料を必要とすることなく、透明度の低い不透明膜を容易に形成することが可能な液状組成物が提供される。本発明によれば、不透明化のための主な材料として顔料を用いる分散系の塗料と比較して、濃度ムラ及び塗工装置の目詰まりを容易に回避できる。
【0016】
中空粒子は、液状組成物の調製及び使用の際に割れたり溶剤に溶解したりし易く、取り扱いが困難であるが、本発明の液状組成物は取り扱い性の点でも有利である。また、顔料を用いる分散系の塗料の場合、艶のある不透明膜を形成することが困難であるが、本発明によれば、高い表面平滑性を有し、艶のある不透明膜を容易に形成することができる。本発明の液状組成物は、顔料を分散させる工程が必ずしも必要なく、効率的に調製することができる。
【0017】
本発明によれば、基板上に不透明膜を設けるためにフィルムの接着等の追加の工程を必要とせず、任意の基板に液状組成物を塗布して、基板を覆う不透明膜を簡易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】不透明膜を備える多層体の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、不透明膜を備える多層体の一実施形態を示す断面図である。図1に示す多層体10は、基板3と、基板3上に設けられた不透明膜1とから構成される。多層体10は、反射板、光拡散板等の光学部材として用いられ得る。
【0021】
不透明膜1は、光は透過させ得るが、光の散乱により透明度が低下した膜である。不透明膜1は、典型的には、白色膜又は白濁した膜として視認される。不透明膜1内には、微小な空隙が形成されている。この空隙の作用により膜が不透明化されている。不透明膜1は白色であるとは限らず、用途に応じて所望の色に着色されることもあり得る。
【0022】
不透明膜1のヘイズ値は、好ましくは2%以上、より好ましくは20%以上である。不透明膜1のヘイズ値の上限は、98%程度である。不透明膜1の全光線透過率は、好ましくは50%以上である。不透明膜1の厚さは、好ましくは10μm以下である。
【0023】
基板3は特に限定されず、用途等に応じて所望の基板が選択される。例えば、基板3はガラス基板等の透明基板であってもよい。
【0024】
多層体10は、例えば、不透明膜形成用液状組成物の膜を基板1上に形成する工程と、膜を加熱して不透明膜1を形成する工程と、を備える方法により、製造することができる。
【0025】
不透明膜1を形成するために用いられる液状組成物は、カルボキシル基を有するカルボキシル化合物と、イソシアネート基又はブロックイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、イソシアネート化合物及びカルボキシル化合物が溶解している溶媒とを含有する透明な単一相の液体である。不透明膜1の強度等の観点から、カルボキシル化合物が2個以上のカルボキシル基を有すること、及び、イソシアネート化合物が2個以上のイソシアネート基又はブロックイソシアネート基を有することが好ましい。液状組成物は、カルボキシル化合物及びイソシアネート化合物を含有する単一の液から構成される一液型であってもよいし、カルボキシル化合物を含有する液と、イソシアネート化合物を含有する液とから構成される二液型であってもよい。
【0026】
カルボキシル化合物は、カルボキシル基を有する重合体であることが好ましい。より具体的には、カルボキシル基を有するアクリル樹脂、カルボキシル基を有するセルロース、カルボキシル基を有するポリエステル、及びカルボキシル基を有するノボラック樹脂が挙げられる。これらの中でも、酸価、粘度及び硬さ等を容易に調整できる点から、カルボキシル基を有するアクリル樹脂が好ましい。このアクリル樹脂は、メタクリル酸メチル等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルと、アクリル酸等のカルボキシル基を有するアクリルモノマーと、場合によりその他のモノマーとをモノマー単位として含む共重合体である。
【0027】
カルボキシル化合物の酸価は、好ましくは220mgKOH/g以上である。また、カルボキシル化合物の酸価は、好ましくは778mgKOH/g以下である。この酸価は、試料1g中に含まれる酸基を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数であり、JIS−K2501等に定められる方法により測定することができる。カルボキシル化合物の酸価は、例えばカルボキシル基を有するアクリル樹脂の場合、アクリル酸の共重合比等を調節することにより制御することができる。所望の酸価を有するアクリル樹脂を市販品として入手することも可能である。
【0028】
カルボキシル化合物として、上記重合体に代えて、又は上記重合体と共に、低分子化合物を用いることもできる。1個のカルボキシル基を有するカルボキシル化合物としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸及びシクロヘキサン酸等が挙げられる。2個のカルボキシル基を有するカルボキシル化合物としては、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸及びアイコサン二酸等が挙げられる。3個以上のカルボキシル基を有するカルボキシル化合物としては、トリメリット酸、水添トリメリット酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸、トリカルバリル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0029】
イソシアネート化合物は、1個のイソシアネート基を有する単官能イソシアネート化合物、又は2個以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネートであり得る。単官能イソシアネート化合物としては、メチルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート及びオクチルイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート及び4−メチルシクロヘキシルイソシアネート等の環状脂肪族イソシアネート、並びに、フェニルイソシアネート、ベンジルイシアネート及びナフチルイソシアネート等の芳香族イソシアネートが挙げられる。多官能イソシアネート化合物としては、リジンイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びトリメチルヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は2,6)−ジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)及び1,3−(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族ジイソシアネート、並びに、リジントリイソシアネート等の3官能以上のイソシアネートが挙げられる。イソシアネート化合物の多量体であるイソシアヌレート及びビウレット型付加物、さらにはイソシアネート化合物を多価アルコール又は低分子量ポリエステル樹脂に付加したものをイソシアネート化合物として用いることもできる。
【0030】
以上挙げたイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部又は全部が保護基によりブロックされて、ブロックイソシアネート基が形成されていてもよい。例えば、アルコール系、フェノール系、ラクタム系、オキシム系、及び活性メチレン系などの活性水素化合物によってイソシアネート基がブロックされてブロックイソシアネート基が形成される。特に液状組成物が一液型である場合、長い可使時間を確保するために、ブロックイソシアネート基を有するイソシアネート化合物が好ましい。
【0031】
カルボキシル化合物とイソシアネート化合物との比率は、イソシアネート基/カルボキシル基(モル比)が0.1〜1.0となるような範囲内にあることが好ましい。イソシアネート基/カルボキシル基(モル比)が低いと、不透明膜のヘイズ値が低下する傾向があり、高いと未反応のイソシアネート基が残存して膜の物性が低下する傾向がある。
【0032】
イソシアネート化合物及びカルボキシル化合物が溶解する溶媒は、好ましくは、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種である。
【0033】
液状組成物は、必要に応じて、他の成分を更に含むことができる。例えば、紫外線硬化樹脂、光開始剤等を液状組成物が含んでいてもよい。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、液状組成物が顔料等の分散物を含んでいてもよい。
【0034】
不透明膜形成用液状組成物の膜を形成する方法は特に限定されない。好ましくは、液状組成物を基板に塗布する方法により液状組成物が成膜される。
【0035】
成膜された液状組成物を加熱することにより、溶媒が除去されるとともに、カルボキシル基とイソシアネート基との反応が進行して、発生した気泡により膜内に空隙が形成されて、膜が不透明化する。また、カルボキシル基とイソシアネート基との反応により高分子量体、好ましくは架橋体が形成されて、不透明膜としての硬化膜が形成される。反応を効率的に進行させるために、加熱の温度は好ましくは80〜120℃であり、加熱時間は通常1〜5分程度である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
液状組成物の調製
下記原料を表1又は表2に示す配合比(質量部)で混合して、各実施例及び比較例の塗料(液状組成物)を調製した。樹脂1〜6のプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液(固形分30質量%)を準備し、これを液状組成物塗料の調製に用いた。表に示す配合比のうちPGMEA及びDMM以外の数値は、それぞれの成分の固形分(溶媒を除いた質量)の比率を示す。
(1)カルボキシル化合物
樹脂1〜5:カルボキシル基を有するアクリル樹脂
(2)イソシアネート化合物
NCO1:ヘキサメチレンジイソシアネート系ブロックイソシアネート化合物(固形分60質量%、NCO%=6.5%、旭化成ケミカルズ(株)製、デュラネートMF−K60B)
NCO2:ヘキサメチレンジイソシアネート系ブロックイソシアネート化合物(固形分60質量%、NCO%=10.1%、旭化成ケミカルズ(株)製、デュラネートSBN−K70D)
NCO3:トリレンジイソシアネート(固形分75質量%、NCO%=12.7〜13.7%、日本ポリウレタン工業(株)製、コロネートL)
(3)溶媒
PGMEA:プロピレングリコールメチルエーテルアセテート
DMM:ジプロピレングリコールジメチルエーテル:プログライドDMM(ダウケミカル社製)
(4)顔料
酸化チタン粒子:ルチル型酸化チタン(1級、和光純薬製)
シリカ粒子:アエロジルRX50(日本アエロジル(株)製)
(5)その他
樹脂6:カルボキシル基を有しないアクリル樹脂
重合性化合物:東亞合成(株)製、アロニックスM−400(固形分100質量%)
開始剤:Irgacure 184(BASF社製)
【0038】
液状組成物の観察
調製された液状組成物の状態を目視により確認したところ、各実施例の液状組成物は無色透明の均一相溶液であり、成分の分離及び沈降は認められなかった。酸化チタン粒子又はシリカ粒子を顔料として含む比較例の液状組成物では、顔料の沈降が認められた。特に酸化チタンの沈降が激しかった。
【0039】
不透明膜の作製
液状組成物をバーコーター#6によりガラス基板に塗布し、60秒後、95℃の対流式乾燥機内で塗膜を3分間の加熱により硬化して、不透明膜を形成させた。形成された不透明膜の全光線透過率Tt及びヘイズ値を測定した。測定結果を表1、2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
各実施例の液状組成物は、塗布前に成分の分離及び沈降を生じることもなく、良好な塗工性で濃度ムラのない均一な塗膜を形成することができた。これら液状組成物から形成された不透明膜は、全光線透過率を高く維持しながら、高いヘイズ値のものであった。
【0043】
一方、酸化チタン粒子を白色顔料として含む分散系の比較例1〜3の液状組成物は、酸化チタン粒子の沈降が激しく生じ、これらを用いてムラ無く均一な不透明膜を形成するのは困難であった。酸化チタン粒子の配合量を多くすればヘイズ値が高くなるものの、全光線透過率が低下するため、光を透過させることが必要な光拡散板等の用途への適用に際しては制限がある。シリカ粒子を不均一系の白色顔料として含む分散系の比較例4の液状組成物は、ヘイズ値が低かった。シリカ粒子の配合量を多くすればヘイズ値の高い不透明膜が形成され得るが、そうすると液状組成物が高粘度化するため、塗工性が著しく損なわれて、均一な塗膜を形成することが困難になる。
【符号の説明】
【0044】
1…不透明膜、3…基板、多層体…10。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有するカルボキシル化合物と、
イソシアネート基又はブロックイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、
を含有する、不透明膜形成用液状組成物。
【請求項2】
前記イソシアネート化合物及び前記カルボキシル化合物が溶解している溶媒を更に含有する、請求項1に記載の不透明膜形成用液状組成物。
【請求項3】
前記カルボキシル化合物が、カルボキシル基を有する重合体である、請求項1又は2に記載の不透明膜形成用液状組成物。
【請求項4】
前記カルボキシル化合物の酸価が220mgKOH/g以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の不透明膜形成用液状組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の不透明膜形成用液状組成物の膜を加熱することにより形成することのできる、不透明膜。
【請求項6】
請求項5に記載の不透明膜を備える、反射板。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の不透明膜形成用液状組成物の膜を形成する工程と、
前記膜を加熱して不透明膜を形成する工程と、
を備える、不透明膜を形成する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−149150(P2012−149150A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8215(P2011−8215)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(392007566)ナトコ株式会社 (42)
【Fターム(参考)】