説明

不透過性ゴム層の製造方法

【課題】薄いが不透過性を損なわない気体不透過性膜の製造法を提供する。
【解決手段】架橋可能なポリマー基材と、下記の分子式(I)(RCONRCHRCOO)nXn+(I)(式中のRはC〜C23の脂肪族基、RはH又はC〜Cの脂肪族基、RはH又はC〜Cの脂肪族基もしくは芳香族基、Xは金属カチオン、好ましくはアルカリ性カチオン、nは1〜3の整数である)の界面活性剤とを少なくとも含む水性エマルジョンを製造する工程と、前記水性エマルジョンを表面に堆積させる工程と、を含む不透過性ゴム層の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不透過性ゴム層の製造方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は水性エマルジョンから製造されるインナーライナーに関し、以下の記載は単に例として該インナーライナーに言及するものである。
【背景技術】
【0003】
既知のように、多くの工業用途において、薄いが不透過性を損なわない不透過性層の需要が高まっている。
【0004】
タイヤ産業において、インナーライナーとして知られるより薄い不透過性層は、使用する材料の量を減らすこととなり、生産高、タイヤ重量、車の総燃料消費量、そして転がり抵抗の観点から明らかな利点を有する。
【0005】
インナーライナーのような不透過性層製造用の混合物は、通常いわゆるバンバリーミキサー中で製造され、該製法には少なくとも二つの混合工程が含まれる。即ち、主混合物を調製し、カーボンブラック、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、酸化防止剤等の成分をポリマー基材に添加し混合する長時間の高温第一混合工程と、主混合物を完成させ、第一工程から得られた混合物に、硫黄のような硬化剤や、硬化促進剤及び/又は硬化遅延剤を添加するより低温の第二混合工程である。混合物を二つの工程で製造する理由は、十分に低い温度での硬化剤の分散を確かなものとし、混合物の時期尚早な硬化を避けることにある。次いで、得られた混合物を、押し出し又は薄く平滑にし、所望の形状とする。
【0006】
高不透過性ゴム製品は通常、ブチルゴムマトリックスを用いて製造する。
【0007】
既知のように、充填剤を用いてゴムを不透過性とすることもでき、適切に混合されると、不透過性を大幅に高める立体的な塊を形成する。即ち、クレイ、カオリン、マイカ等のような充填剤は、ポリマー基材と混合すると、最終生成物中で、該生成物を通る空気の流れを妨げ、不透過性を改善する障害を形成する。
【0008】
また、充填剤の異方性が、ゴムの不透過性を際立たせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ポリマー材料の、気体又は低分子量物質に対する不透過性は、ガラス転移温度(T)の上昇に伴い向上することが知られている。典型的な例はPETであり、食品業界において一般的に食べ物や飲み物の包装に使用されている。あいにく、従来の方法を使用すると、PETのような高Tポリマーとゴムの機械的な混合はしばしば困難である。
【0010】
上記の技術は、ゴム製品の不透過性の向上、及び厚みの減少を達成する一方で、様々な問題を引き起こす。従来のバンバリー方法を用いると、クレイ含有ポリマー基材の混合は極端にエネルギーを消費し、そして全ての混合成分を常に効果的に混合及び/又は親和できるとは限らない。充填剤とその他のゴムマトリックスの混合及び/又は親和が不十分であると、最終生成物の機械的特性を損なうことになる。そして、ポリマー基材が高Tポリマーを含む場合、上記の問題はさらに悪化する。
【0011】
また、高いエネルギー消費量により、環境への影響及び製造プロセスのコストが増大する程度も考慮する必要がある。
【0012】
現行の手法を用いると、減らしうる層の厚みに限界がある。実際、不透過性層を形成するための混合物押し出し工程及び/又は薄く平滑にする工程において、めったに0.5mm未満の厚みのしきい値を課すことはない。
【0013】
しかしながら出願人は、驚くべきことに、当該分野の既知の状態の欠点を克服する、不透過性層用の混合物を製造する方法を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、
架橋可能なポリマー基材と、下記の分子式(I):
(RCONRCHRCOO)nXn+ (I)
(式中のRはC〜C23の脂肪族基、RはH又はC〜Cの脂肪族基、RはH又はC〜Cの脂肪族基もしくは芳香族基、Xは金属カチオン、好ましくはアルカリ性カチオン、nは1〜3の整数である)の界面活性剤とを少なくとも含む水性エマルジョンを製造する工程と、
前記水性エマルジョンを表面に堆積させる工程と、
を含むことを特徴とする不透過性ゴム層の製造方法が提供される。
【0015】
脂肪族基Rは、二重結合を含むのが好ましい。
【0016】
n+はNaであるのが好ましい。
【0017】
界面活性剤は、
CH(CH)CHCH(CH)CONHCHCOO
と、
CHCH(CH)CONHCHCOO
とを含む群の分子式を有するのが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下は、本発明のより明確な理解のための単なる非限定的な実施例である。
【実施例】
【0019】
以下は、本発明に従って製造し、ブチルゴムに加えて高Tポリマーを含むポリマー基材を使用することで、及び/又は、クレイを使用することで、達成される低い透過性指数を特徴とする混合物についての説明である。
【0020】
様々な混合物成分を水中に分散させ混合させることでそれぞれの水性エマルジョンを調製し、各混合物を製造した。その後水性エマルジョンの一部を基板上に噴霧又はブラシがけし、エマルジョン中の水分を蒸発させた。
【0021】
以下の実施例において、式(I)のクラスに属する二つの異なる界面活性剤(a、b)を用いた。
−界面活性剤(a)
分子式 CH(CH)CHCH(CH)CONHCHCOONa
−界面活性剤(b)
分子式 CHCH(CH)CONHCHCOONa
【0022】
より具体的には、エマルジョンは、表Iの全成分を均質なエマルジョンを得るのに十分な量の水中に同時に分散させることで製造した。得られた水溶液を、30分間機械的に攪拌し、その後15分間超音波処理を施し水性エマルジョンを得た。
【0023】
上述の水性エマルジョンを製造する方法は、決して本発明の方法を限定するものではない。
【0024】
表Iに、本発明に従って各エマルジョンから製造した四種類の混合物A〜Dの組成をphrで示し、それぞれのポリマー基材のTの値、計算した相対透過性指数を示す。混合物A〜Dにおいては、徐々に高いTのポリマーを配合することでポリマー基材の組成を変化させた。
【0025】
透過性の値は、1mm厚の支持層の上に噴霧又はブラシがけした0.3mm厚の混合物フィルムに基づき、相対湿度0%、30℃の条件下、MOCON OX−TRA(2/20型)のような従来からの装置を用いて決定した。
【0026】
透過性の値は、混合物Aを基準とした。
【0027】
【表1】

【0028】
Cl−IIRはクロロブチルゴムを表し30℃のTを有し、PMAはポリメタクリレートを表し10℃のTを有し、PEMAはポリエチルメタクリレートを表し60℃のTを有し、そしてABSはアクリロニトリルブタジエンスチレンサーモポリマーを表し110℃のTを有する。
【0029】
混合物A〜Dはそれぞれ、上記各成分を水中で混合することにより得た水性エマルジョンを塗布し、その後、水分を蒸発させることで製造する。各水性エマルジョンの製造は、約20kWh消費すると計算された。
【0030】
表Iに明確に示されているように、本発明の方法は、使用するポリマーのTの値が高いほど不透過性を向上させる一方、エネルギー消費は増加しない。
【0031】
表IIに、本発明に従って各エマルジョンから製造した四種類の混合物E〜Hの組成をphrで示し、それぞれの計算した透過性指数の値を示す。混合物E〜Hにおいては、クレイを、その量を徐々に増加させて配合した。
【0032】
透過性の値は、混合物Eを基準とし、表Iと同じ手法で決定した。
【0033】
【表2】

【0034】
混合物E〜Hはそれぞれ、上記各成分を水中で混合することにより得た水性エマルジョンを塗布し、その後、水分を蒸発させることで製造する。各水性エマルジョンの製造は、約20kWh消費すると計算された。
【0035】
表IIに明確に示されているように、本発明の方法は、使用するクレイの量が多いほど、不透過性を向上させる一方、エネルギー消費は増加しない。
【0036】
本発明における不透過性層に使用する充填剤は、直径が0.2〜20μm、アスペクト比が5〜30、好ましくは8〜20の鉱物系粒子を含むことが好ましく、また、カオリン、クレイ、マイカ、長石、シリカ、グラファイト、ベントナイト、及びアルミナを含む群に属することが好ましい。
【0037】
当該分野の既知の状態に対する、本発明に係る不透過性層の主な利点は、より薄く作製することができ、より不透過性であり、より少ないエネルギーの使用で作製できることにある。
【0038】
実際、分子式(I)の界面活性剤を含む水性エマルジョンを使用することで、成分、特には、従来の方法を用いて混合することが困難であったものの、効果的かつ低コストでの分散が可能となり、同様に、非常に薄い層が製造可能となり、これは該層が、被適用表面に直接形成され、その後塗布したエマルジョン中の水分を蒸発させることで形成されるからである。
【0039】
最後に、本発明に係る不透過性層は、塗った瞬間に形成されるという利点を有し、ゴムの劣化をもたらす、長期間又は短期間の保管も必要としない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋可能なポリマー基材と、下記の分子式(I):
(RCONRCHRCOO)nXn+ (I)
(式中のRはC〜C23の脂肪族基、RはH又はC〜Cの脂肪族基、RはH又はC〜Cの脂肪族基もしくは芳香族基、Xは金属カチオン、好ましくはアルカリ性カチオン、nは1〜3の整数である)の界面活性剤とを少なくとも含む水性エマルジョンを製造する工程と、
前記水性エマルジョンを表面に堆積させる工程と、
を含むことを特徴とする不透過性ゴム層の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族基Rが二重結合を含むことを特徴とする請求項1に記載の不透過性ゴム層の製造方法。
【請求項3】
前記Xn+がNaであることを特徴とする請求項1又は2に記載の不透過性ゴム層の製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が、
CH(CH)CHCH(CH)CONHCHCOO
と、
CHCH(CH)CONHCHCOO
とを含む群の分子式を有することを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の不透過性ゴム層の製造方法。
【請求項5】
前記水性エマルジョンは、直径が0.2〜2μmで且つアスペクト比が5〜30の粒子を含有する鉱物系充填剤を含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の不透過性ゴム層の製造方法。
【請求項6】
前記鉱物系充填剤は、アスペクト比が8〜20の粒子を含有することを特徴とする請求項5に記載の不透過性ゴム層の製造方法。
【請求項7】
前記鉱物系充填剤が、カオリン、クレイ、マイカ、長石、シリカ、グラファイト、ベントナイト、及びアルミナを含む群に属することを特徴とする請求項5又は6に記載の不透過性ゴム層の製造方法。
【請求項8】
前記架橋可能なポリマー基材がT>0℃であるポリマーを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の不透過性ゴム層の製造方法。
【請求項9】
前記請求項のいずれか一項に記載の方法を用いて製造したことを特徴とする不透過性ゴム層。
【請求項10】
請求項9に記載の不透過性ゴム層から製造したことを特徴とするインナーライナー。
【請求項11】
請求項10に記載のインナーライナーを具えることを特徴とするタイヤ。

【公開番号】特開2012−246493(P2012−246493A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−174338(P2012−174338)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【分割の表示】特願2012−542633(P2012−542633)の分割
【原出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】