不釣り合い修正方法、および、モータ
【課題】真円度誤差の増大を抑制しつつ回転体の不釣り合いを修正する。
【解決手段】ファンモータのモータ部に用いられる金属製薄肉円筒状の回転体であるロータホルダ32において、重心が偏る不釣り合いを修正するためにレーザ光を照射してロータホルダ32の一部が除去される際に、不釣り合い方向に第1除去領域3231が設定され、第1除去領域3231の周方向両側に第2除去領域3233が設定される。そして、第1除去領域3231における第1除去量m1(g)、および、第2除去領域3233における第2除去量m2(g)が不釣り合い量U(g・mm)に相当する除去量として設定され、これらの除去量が各除去領域から除去されることにより、真円度誤差の増大を抑制しつつ回転体の不釣り合いが修正される。
【解決手段】ファンモータのモータ部に用いられる金属製薄肉円筒状の回転体であるロータホルダ32において、重心が偏る不釣り合いを修正するためにレーザ光を照射してロータホルダ32の一部が除去される際に、不釣り合い方向に第1除去領域3231が設定され、第1除去領域3231の周方向両側に第2除去領域3233が設定される。そして、第1除去領域3231における第1除去量m1(g)、および、第2除去領域3233における第2除去量m2(g)が不釣り合い量U(g・mm)に相当する除去量として設定され、これらの除去量が各除去領域から除去されることにより、真円度誤差の増大を抑制しつつ回転体の不釣り合いが修正される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体における回転軸に対する重心の偏りを修正する不釣り合い修正方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
ファンモータの静圧−風量特性の向上等、昨今の様々な装置の改良においてモータの回転の高速化が要求されている。モータの回転を高速化するためにはロータ部における回転軸に対する重心の偏り(以下、「不釣り合い」という。)を小さくする必要があり、不釣り合いが大きい場合、回転時にロータ部の各部で発生する遠心力にばらつきが生じ、エネルギー損失が増大するとともに、ロータ部の振れによる振動や騒音が増大する。このような不釣り合いの修正方法の一つとして、レーザを用いてロータ部の一部を除去する方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される回転体に対するレーザ加工法では、レーザ光が回転体の周方向に所定角度毎に繰り返し照射される。周方向の照射回数が一定の数に達した後、レーザ光の照射位置が回転体の軸方向に所定距離だけずらされ、再度周方向に照射が繰り返されることにより回転体の修正領域全体にレーザ光が照射される。
【0004】
また、特許文献2では、回転体の軸方向における複数の位置に対して複数のレーザ光源から収束したレーザ光をパルス状にして照射することにより、回転体の一部を極少量だけ除去する不釣り合い調整装置が開示されている。
【特許文献1】特開昭59−050987号公報
【特許文献2】特開2004−82167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、モータのロータホルダのように加工対象である回転体が薄肉円筒状である場合、レーザ加工時の熱による膨張および収縮により円筒部に残留応力が発生して変形が生じる。特に、加工対象が有蓋円筒状の場合は開口側で変形が大きくなる。これにより、回転体を平面視した形状の理想的な円からの誤差(すなわち、真円度誤差)が増大してしまう。真円度誤差が増大すると、回転体を回転させたときの外側面の径方向の振れ幅も増大し、コギングトルク等のモータ特性の変動や振動、騒音等の原因となる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、真円度誤差の増大を抑制しつつ回転体の不釣り合いを修正することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、金属により形成された薄肉円筒状の回転体における回転軸に対する重心の偏りを修正する不釣り合い修正方法であって、a)前記回転軸に対する前記回転体の不釣り合い方向および不釣り合いの程度を示す不釣り合い量を測定する工程と、b)前記回転体の外側面上において、前記不釣り合い方向に中央が位置する第1除去領域を設定し、前記回転軸を中心として前記不釣り合い方向から両側に所定の角度だけ離れた角度位置に中央が位置する領域であって前記第1除去領域と離間または隣接する2つの第2除去領域を設定する工程と、c)前記第1除去領域における第1除去量、および、前記2つの第2除去領域のそれぞれにおける第2除去量を、前記不釣り合い方向における前記不釣り合い量に相当する除去量として求める工程と、d)レーザ光の照射により前記第1除去領域から前記第1除去量だけ前記回転体の一部を除去するとともに前記2つの第2除去領域のそれぞれから前記第2除去量だけ前記回転体の一部を除去する工程とを備える。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の不釣り合い修正方法であって、前記所定の角度をα、前記不釣り合い量をU、前記回転体の前記外側面の半径をRとして、正の係数βを用いて、前記第1除去量が、(1−2βcosα)U/Rとされ、前記第2除去量がβU/Rとされる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の不釣り合い修正方法であって、前記所定の角度が30度以上70度以下である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の不釣り合い修正方法であって、前記第1除去領域および前記2つの第2除去領域のそれぞれの前記回転軸を中心とする周方向の幅に対応する前記回転軸を中心とする角度が60度以下である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、金属により形成された薄肉円筒状の回転体における回転軸に対する重心の偏りを修正する不釣り合い修正方法であって、a)前記回転軸に対する前記回転体の不釣り合い方向および不釣り合いの程度を示す不釣り合い量を測定する工程と、b)前記回転体の外側面上において、前記不釣り合い方向に中央が位置する第1除去領域を設定し、前記第1除去領域と離間または隣接する複数の第2除去領域を前記回転軸を中心とする周方向に等間隔、かつ、いずれか2つの隣り合う第2除去領域の間の中央に前記第1除去領域が位置するように設定する工程と、c)レーザ光の照射により前記第1除去領域から前記不釣り合い量に相当する第1除去量だけ前記回転体の一部を除去し、前記複数の第2除去領域のそれぞれから一定の第2除去量だけ前記回転体の一部を除去する工程とを備える。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の不釣り合い修正方法であって、前記複数の第2除去領域の数が2ないし4のいずれかである。
【0013】
請求項7に記載の発明は、電動式のモータであって、請求項1ないし6のいずれかに記載された方法により不釣り合いが修正されたロータホルダを有するロータ部と、ステータ部と、前記ロータ部を前記ステータ部に対して中心軸を中心として回転可能に支持する軸受機構とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明では真円度誤差の増大を抑制しつつ回転体の不釣り合いを修正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の第1の実施の形態に係るファンモータ60を中心軸J1を含む平面で切断した縦断面図である。図1に示すように、ファンモータ60は、電動式のモータ部1、モータ部1に取り付けられて中心軸J1を中心として回転することによりエアの流れを発生するインペラ61、および、モータ部1およびインペラ61の周囲を覆うハウジング62を備える。
【0016】
インペラ61はモータ部1の後述するロータ部3に取り付けられた有蓋円筒状のインペラカップ611、および、インペラカップ611の外側面に複数(本実施の形態では9枚)の動翼612を有し、動翼612は中心軸J1を中心とする周方向(以下、単に「周方向」という。)に等間隔に配置され、樹脂によりインペラカップ611および動翼612は1つの部材として形成される。また、ハウジング62はモータ部1およびインペラ61の外周を覆う風洞部621、および、風洞部621の内側面下部から中心軸J1に向かって伸びてモータ部1のベース部21に接続される複数(本実施の形態では11枚)の静翼622を有し、風洞部621、静翼622およびベース部21は樹脂により1つの部材として形成される。
【0017】
モータ部1はステータ部2、ロータ部3、および、ロータ部3をステータ部2に対して中心軸J1を中心として回転可能に支持する軸受機構4を備える。以下の説明では、便宜上、中心軸J1に沿ってロータ部3側を上側、ステータ部2側を下側として説明するが、中心軸J1は必ずしも重力方向に一致する必要はない。
【0018】
ステータ部2はベース部21および環状のステータ22を有し、ベース部21から上方に突出する円筒状の軸受保持部211の外周がステータ22に圧入される。ロータ部3は略円柱状のシャフト31、シャフト31の上端に取り付けられた有蓋円筒状のロータホルダ32、および、ロータホルダ32の内側面に固定された界磁用磁石33を有し、ロータホルダ32にはインペラカップ611が圧入により固定される。軸受機構4はベース部21の軸受保持部211の内側において中心軸J1に沿う方向(以下、単に「軸方向」という。)の2箇所に取り付けられた玉軸受を有し、シャフト31が挿入される。
【0019】
ステータ22では薄板状の珪素鋼板を積層したコアにインシュレータ上から導線が巻回されてコイルが形成されており、導線はステータ22の下側に取り付けられた回路基板51に電気的に接続されて回路基板51によりステータ22に対する電流の供給および制御が行われる。ロータ部3の界磁用磁石33は多極着磁された略円筒状の永久磁石であり、ステータ22との間で中心軸J1を中心とする回転力(トルク)を発生する。すなわち、ステータ22、界磁用磁石33および回路基板51はロータ部3をステータ部2に対して中心軸J1を中心として回転させる駆動機構5として機能する。
【0020】
図2はロータ部3の正面図であり、図3はロータ部3の平面図である。ロータ部3のロータホルダ32は金属により形成された回転体であり、中心軸J1に垂直な方向に広がりシャフト31に取り付けられる蓋部321、および、蓋部321の外縁から下方に突出する薄肉円筒状の側部322を有する。
【0021】
ロータホルダ32の重心はロータホルダ32の回転中心である中心軸J1に一致することが望ましいが、通常、組立直後のロータホルダ32では組立誤差、偏肉、形状の非対称性等により質量分布が均一とはならず、中心軸J1と重心とは一致しない。このようなロータホルダ32がファンモータ60に使用された場合、ロータホルダ32の質量の不釣り合い(すなわち、回転軸に対する重心の偏り)により回転時に遠心力の偏りが生じ、振動や騒音が生じることがある。そこで、組立直後のロータホルダ32には重心を回転中心に近付けるための修正(以下、「不釣り合い修正」という。)が行われる。
【0022】
図4は不釣り合い修正装置7の概略を示す図である。不釣り合い修正装置7はロータホルダ32を上面に保持する位置決め機構71、ロータホルダ32にレーザ光を照射するレーザヘッド72、並びに、位置決め機構71およびレーザヘッド72を制御する制御部73を有し、ロータホルダ32の外側面323にレーザ光を照射してロータホルダ32の一部を蒸発により、または、溶融した部位へのガスの吹きつけもしくは遠心力等で飛散させることにより除去してロータホルダ32の質量分布の調整を行う。
【0023】
制御部73からの信号により、位置決め機構71は中心軸J1に沿ってロータホルダ32を上下に移動するとともに、周方向にロータホルダ32を回転する。また、レーザヘッド72の位置および向きは固定されており、位置決め機構71により決定されたロータホルダ32の外側面323上の所定の位置にレーザ光が照射される。さらに、制御部73によりレーザヘッド72が照射するレーザ光のピッチ、パルスの数、ショット電流および電圧等が制御されることにより、ロータホルダ32の所定の位置における除去量が調整される。
【0024】
不釣り合い修正が行われる前のロータホルダ32の不釣り合いを、理想的な釣り合い状態(ロータホルダ32の重心が回転中心である中心軸J1上に位置する状態)にあるロータホルダ32の中心軸J1から一定の偏重心距離r(mm)だけ離れた位置に質量m(g)の仮想的な錘が付加された状態と捉えた場合、本実施の形態では質量m(g)と偏重心距離r(mm)との積としてロータホルダ32における不釣り合いの程度を示す不釣り合い量U(g・mm)が定義されるものとする。なお、錘が配置されている方向を不釣り合い方向として図3中に直線L1にて示し、図2では不釣り合い方向を正面としてロータホルダ32を示している。
【0025】
図5はロータホルダ32の不釣り合い修正の流れを示す図である。ロータホルダ32の不釣り合い修正では、まず、図示省略の不釣り合い測定装置により、ロータホルダ32の回転時に生じる遠心力に基づいて、ロータホルダ32の中心軸J1に対する不釣り合い方向および不釣り合い量U(g・mm)が測定される(ステップS11)。
【0026】
次に、図2および図3に示すように、ロータホルダ32の外側面323上において蓋部321に近い軸方向位置(図2における上部)に、不釣り合い修正装置7によりレーザ光が照射される予定の領域3231が設定される(ステップS12)。領域3231は直線L1にて示す不釣り合い方向に設定された中央位置3232を中央として各辺が軸方向または周方向に平行となる略矩形とされ、周方向の幅に対応する中心軸J1を中心とする角度を図3中にθ1にて示している。
【0027】
外側面323上にはレーザ光を照射するための2つの領域3233が領域3231の両側かつ同じ高さにさらに設定される(ステップS13)。図3に示すように、各領域3233の中央である中央位置3234は、中心軸J1を中心として不釣り合い方向から両側に所定の角度(αを付して示す。)だけ離れた角度位置に設定される。領域3233は各辺が軸方向または周方向に平行となる略矩形とされ、周方向の幅に対応する中心軸J1を中心とする角度を図3中にθ2にて示している。
【0028】
以下では、領域3231を「第1除去領域」、中央位置3232を「第1中央位置」と呼び、2つの領域3233をそれぞれ「第2除去領域」、中央位置3234を「第2中央位置」と呼ぶ。
【0029】
第1除去領域3231および第2除去領域3233が設定されると、不釣り合い量U(g・mm)に相当し、第1除去領域3231から除去される質量である第1除去量m1(g)、および、各第2除去領域3233から除去される質量である第2除去量m2(g)が後述する処理により求められる(ステップS14)。また、既述のように制御部73により位置決め機構71およびレーザヘッド72が制御される。具体的には、図2に示すように、一回毎に一定の出力にてレーザ光を照射することにより照射部位が除去されてレーザ痕3235が形成され、第1除去領域3231全体に照射が行われるまで順次ロータホルダ32の回転および軸方向への移動が行われる。これにより、第1除去領域3231からの除去量が第1除去量m1(g)にほぼ等しくなるようにロータホルダ32の一部が除去される(ステップS15)。また、同様の処理により2つの第2除去領域3233のそれぞれからの除去量が第2除去量m2(g)にほぼ等しくなるようにロータホルダ32の一部が除去される(ステップS16)。
【0030】
なお、仮に、大きさを有さない第1中央位置3232および第2中央位置3234のみにおいて不釣り合いの修正が可能であるものとし(すなわち、一点に集中して除去を行うことができると仮定し)、この条件にて求められる第1除去量m1および第2除去量m2を、大きさを有する第1除去領域3231および第2除去領域3233から均一に除去すると、除去による修正される不釣り合い量は望ましい不釣り合い量Uから僅かにずれてしまう。例えば、第1除去量m1が角度θ1(rad)の幅を有する第1除去領域3231から均一に除去されると、実際には、第1中央位置3232にて数1にて示す質量が除去された場合と同様の修正効果しか得られない。
【0031】
【数1】
【0032】
このように、一点に集中して除去が可能であると仮定して除去量を求める場合は、第1除去領域3231および第2除去領域3233の面積(正確には、領域の幅に対応する中心軸J1を中心とする角度)が小さいほど理論的な不釣り合い修正の算出誤差は小さくなり、かつ、修正除去時間も短くなる。しかし、レーザ光を集中して照射することによる側部322での加工誤差の増大および強度の低下を抑制するために第1除去領域3231および第2除去領域3233は適宜広げられて設定される。また、角度θ1が60度の場合に、一点に集中して第1除去量m1の約95%の除去を行った場合と同様の効果が得られることが数1から判るため、角度θ1および角度θ2はそれぞれ60度以下とされるのであれば、一点に集中して除去が可能であると仮定して除去量が求められてよい。なお、角度θ1および角度θ2の最小値は、不釣り合い修正装置7の能力に依存するが、除去量が少ない場合は、理論上、1つのレーザ痕3235の幅に相当する角度とすることができる。
【0033】
もちろん、第1除去領域3231および第2除去領域3233の大きさを考慮して正確に計算上の除去量が求められてもよく、さらに、加工穴の大きさや深さのばらつきといった加工誤差や測定誤差等の他の誤差を考慮して第1除去量m1および第2除去量m2が求められてもよい。
【0034】
次に、図5のステップS14において、ロータホルダ32の側部322を大きく変形させることなく不釣り合いを解消するために最適な第1除去量m1(g)および第2除去量m2(g)を求める方法について説明する。以下の説明では、第1中央位置3232および第2中央位置3234にて一点に集中して第1除去量m1および第2除去量m2の除去が可能であると仮定して演算を簡略化している。
【0035】
既述のように、図3に示す直線L1上の第1中央位置3232の角度位置と中心軸J1および図3における上側の第2中央位置3234を通る直線L2の角度位置との差はαであり、中心軸J1および図3における下側の第2中央位置3234を通る直線L3の角度位置との差もαとなっており、αは((θ1+θ2)/2)以上とされ、第1除去領域3231に対して第2除去領域3233は離間または隣接し、重なり合うことはない。
【0036】
不釣り合い量U(g・mm)に対する修正量のうち、第1除去量m1(g)が寄与する方向(すなわち、第1中央位置3232の方向)での修正量を第1修正量U1(g・mm)とすると、第1修正量U1(g・mm)と第1除去量m1(g)との関係は外側面323の半径R(mm)(本実施の形態では22.4mm)を用いて数2にて示される。
【0037】
【数2】
【0038】
同様に、不釣り合い量U(g・mm)に対する修正量のうち、第2除去量m2(g)が寄与する2方向(すなわち、第2中央位置3234の方向)での修正量をそれぞれ第2修正量U2(g・mm)とすると、第2修正量U2(g・mm)と第2除去量m2(g)との関係は数3にて示される。
【0039】
【数3】
【0040】
第1修正量U1(g・mm)を中心軸J1から第1中央位置3232に向かうベクトル、第2修正量U2(g・mm)を中心軸J1から2つの第2中央位置3234に向かう2つのベクトルと捉えた場合、第1修正量U1(g・mm)および2つの第2修正量U2(g・mm)の不釣り合い方向に垂直な方向の成分の合計は2つの第2修正量U2(g・mm)の対称性により0であり、不釣り合い方向に平行な成分の合計は数4に示すように不釣り合い量U(g・mm)に等しくされる必要がある。
【0041】
【数4】
【0042】
正の係数βを用いて第2修正量U2(g・mm)をβUと表すと、数4は数5にて表される。
【0043】
【数5】
【0044】
また、数5を変形することにより、第1修正量U1(g・mm)をUを用いて数6にて表現することができる。
【0045】
【数6】
【0046】
これにより、角度α、係数βをパラメータとして、第1修正量U1(g・mm)および第2修正量U2(g・mm)が不釣り合い方向における不釣り合い量U(g・mm)に対応する修正量として求められる。数6にてUを用いて示される第1修正量U1(g・mm)およびβUである第2修正量U2(g・mm)と数2および数3とを比較すると、第1除去量m1(g)を数7、第2除去量m2(g)を数8にて表すことができる。
【0047】
【数7】
【0048】
【数8】
【0049】
以上のように、角度αおよび係数βを決定することにより第1修正量U1(g・mm)、第2修正量U2(g・mm)、第1除去量m1(g)および第2除去量m2(g)を決定することができる。
【0050】
図6は所定の不釣り合い量U(g・mm)に相当する除去量(U/R)(g)が第1除去領域3231のみにおいてレーザ加工により除去された場合のロータホルダ32の側部322(図2参照)の形状の変化を示す図であり、中心軸J1の位置を原点として、各角度位置における中心軸J1からの距離と、ロータホルダ32の設計上の理想的な内側面の半径(半径に対応する円を点線にて示す。)との差を示すグラフである。側部322の形状の変化は外側面の径方向の振れ幅(以下、「周方向振れ」という。)により示されており、ロータホルダ32を回転させて所定の軸方向位置にて内側面の周方向の各点における測定器との間の径方向の距離を測定することにより取得される。
【0051】
図6では原点から右に向かう方向が直線L1にて示す不釣り合い方向であり、直線L1と外側面との交点である第1中央位置3232を矢印にて示す。なお、この修正では第1除去領域3231の高さは約3mm、周方向の幅は約11.5mmであり、除去量は約20mgである。
【0052】
なお、図6は、ロータホルダ32から界磁用磁石33が外された状態でレーザ加工および周方向振れの測定を行った結果を示しているが、実際のレーザ加工および周方向振れの測定、並びに、不釣り合い量の測定およびレーザ加工の際にはロータホルダ32には界磁用磁石33(図1参照)が取り付けられた状態とされ、以下の説明は、ロータホルダ32に界磁用磁石33がついている場合においても同様に成り立つ(他の実施の形態においても同様)。したがって、図5に示す実際の修正作業では、界磁用磁石33の装着により発生する不釣り合いも含めて不釣り合いの修正が行われる。
【0053】
図6に示すように、第1除去領域3231にてレーザ光の照射によりロータホルダ32の一部が除去されると、側部322には熱膨張収縮と金属除去により残留応力分布が大きく変化して変形が生じる。レーザ光が照射された第1除去領域3231の反対側(図6の左側)では大きな変形は生じないが、第1除去領域3231およびその近傍の領域では径方向位置が理想の円よりも内側に移動し(すなわち、側部322は径方向外側から見て凹状となり)、第1除去領域3231の周方向両側では側部322は外側に向かって凸状となる。その結果、側部322の径の最大値と最小値との差が拡大し、不釣り合い修正前に比べて周方向振れが増大する。また、周方向振れの増大に伴って、ロータホルダ32を平面視した形状の理想的な円からの誤差(すなわち、ロータホルダ32の外側面を2つの同心円の間に位置するように設定した場合の2つの同心円の半径の差の最小値であり、以下、「真円度誤差」という。)も増大する。
【0054】
図7は2箇所の第2除去領域3233のみにレーザ加工を行った場合に予測される(図6の場合と同じ軸方向位置における)ロータホルダ32の周方向振れを示す図である。図7に示す例では、図6の形状(以下、「基準周方向振れ」と呼ぶ。)において側部322が凸状となる位置(第1中央位置3232の周方向両側)を考慮して、角度αが60度とされて図7中に矢印にて示す2箇所の第2中央位置3234が定められる。
【0055】
図7に示す周方向振れは、基準周方向振れを元にして、各第2除去領域3233の変形量が第2修正量βU(g・mm)の係数βに比例するものとして計算されたものであり、2箇所の第2除去領域3233におけるレーザ加工に起因する側部322の変形を合成したものとなっている。したがって、図7に示す周方向振れは、各第2除去領域3233の高さが約3mm、周方向の幅が約11.5mmとされ、第2除去領域3233内にて第2修正量βUに対応する第2除去量m2(g)として(βU/R)(g)だけ除去が行われたものに対応する。レーザ光が照射された各第2除去領域3233およびその近傍の領域は点線にて示す理想的な円よりも径方向内側に位置し、外側から見て凹状となっており、第2除去領域3233の周方向両側では側部322は理想的な円から外側へと凸状となる。図7では(修正が行われていない)第1除去領域3231は2つの第2除去領域3233の中間に位置するため、両方の第2除去領域3233からの影響で凸状に膨らんでいる。
【0056】
図8は図6および図7に示す両方の変形を合成した周方向振れを実線にて示す図であり、第1除去領域3231および第2除去領域3233における修正により得られると予測される形状を示す。ただし、第1除去領域3231では数6にて表される第1修正量U1(g・mm)だけ修正が行われたものとし、それに合わせて図6の変形量がU1/Uに比例して変換されてから図7の形状と合成されている。また、比較のためにロータホルダ32の側部322における理想的な円を点線にて示し、図6に示す第1除去領域3231のみにおいて修正をした場合の変形例を一点鎖線にて示している。図8に示すように、合成により第1除去領域3231および第2除去領域3233における修正による変形が互いの凹凸を打ち消し合い、周方向振れおよび真円度誤差が低減されて側部322の形状は理想的な円に近くなっている。
【0057】
図9は係数βと真円度誤差との関係を示す図であり、図9に示すグラフの横軸は係数βを示し、縦軸は、第1除去領域3231および第2除去領域3233にて不釣り合いを修正した後の真円度誤差と、第1除去領域3231のみにて修正した後の真円度誤差(図6に示す形状における真円度誤差)との比(以下、「真円度誤差改善比」という。)を示している。また、図9は角度αが60度に固定された状態で複数の係数βについて真円度誤差を求めた結果を示しており、係数βを変更することにより第1修正量U1(g・mm)および第2修正量U2(g・mm)が変化し、その結果、ロータホルダ32の変形も異なったものとなる。図9に示す結果では、係数βが0.4のときにロータホルダ32の真円度誤差が最小となる(すなわち、最も理想的な円に近づく)。なお、角度αは真円度誤差を低減することができるのであれば他の値とされてもよく、図6に示す凸状を低減するために好ましくは角度αは30度以上70度以下とされる。
【0058】
さらに、複数の角度αについて図9の場合と同様に係数βに対する真円度誤差を計算することにより、最も真円度誤差を低減することができる角度αおよび係数βの組み合わせが決定されてもよい。本実施の形態では、角度αを60度として係数βを0.4とした場合に真円度誤差改善比が0.28となって真円度誤差が最小となり、第1修正量U1(g・mm)が0.6U(第1除去量m1(g)は(0.6U/R))、第2修正量U2(g・mm)が0.4U(第2除去量m2(g)は(0.4U/R))とされ、3箇所での総修正量は1.4U(g・mm)となる。
【0059】
また、第1除去領域3231および第2除去領域3233の大きさは上記説明にて示したものには限定されず、第1修正量U1(g・mm)および第2修正量U2(g・mm)に合わせて高さおよび周方向の幅は適宜変更されてよい。
【0060】
以上に説明したように、角度αおよび係数βを用いて図5に示すステップS12以降の不釣り合い修正を実行することにより、ロータホルダ32の真円度誤差の増大を抑制しつつロータホルダ32の不釣り合いを修正することができる。
【0061】
図10は本発明の第2の実施の形態に係る不釣り合い修正の流れを示す図であり、図11は不釣り合いが修正されるロータ部3の平面図である。本実施の形態では、図5に示す不釣り合い修正の流れと比較して、不釣り合い修正と真円度誤差に対する修正とが独立して行われる点で異なり、ファンモータ60や不釣り合い修正装置7等の他の構成は同様とされる。
【0062】
図10に示す不釣り合い修正では、図5の場合と同様に、まず、図示省略の不釣り合い測定装置を用いてロータホルダ32の中心軸J1に対する不釣り合い方向および不釣り合い量U(g・mm)が測定される(ステップS21)。
【0063】
次に、図11に示すように、直線L1にて示される不釣り合い方向上に位置する第1中央位置3232を中央としてロータホルダ32の外側面323上に第1除去領域3231が設定される(ステップS22)。第1除去領域3231は図2に示すものと同様の略矩形であり、周方向の幅に対応する中心軸J1を中心とする角度を図11中にθ1にて示している。さらに、外側面323上において、直線L1にて示す不釣り合い方向から中心軸J1を中心として周方向両側に90度離れた角度位置に第2中央位置3234aが設定され、2箇所の第2中央位置3234aのそれぞれを中心として第2除去領域3233aが設定される(ステップS23)。第2除去領域3233aは図2に示すものと同様の略矩形であり、図10では、周方向の幅に対応する中心軸J1を中心とする角度をθ2にて示している。
【0064】
除去領域が設定されると、図4に示す不釣り合い修正装置7のレーザヘッド72によりレーザ光が照射されて不釣り合い量U(g・mm)に相当する第1除去量として質量(U/R)(g)(Rはロータホルダ32の外側面の半径)だけ第1除去領域3231からロータホルダ32の一部が除去される(ステップS24)。このとき、レーザ光の照射に伴い発生する熱によりロータホルダ32には変形が生じ、第1除去領域3231の近傍ではロータホルダ32の側部322(図11参照)が理想的な円から径方向内側に向かって凹状となり、凹状となった部位の周方向両側は径方向外側に向かって凸状となる(図6参照)。その後、図示省略の測定装置により周方向振れが測定される(ステップS25)。
【0065】
周方向振れが測定されると、測定結果に基づいて、2箇所の第2除去領域3233aに対して後述の方法により一定の(すなわち、同一の)第2除去量m2(g)が求められる(ステップS26)。さらに、不釣り合い修正装置7にてレーザ光を照射することにより2つの第2除去領域3233aのそれぞれから第2除去量m2(g)だけロータホルダ32の一部の除去が行われる(ステップS27)。なお、レーザ光の照射による加工を局所的に行うことによるロータホルダ32の強度の低下を防止するために、第1除去領域3231および第2除去領域3233aは適宜広げられて設定される。ただし、不釣り合い修正の誤差を小さく保つために角度θ1および角度θ2は好ましくはそれぞれ60度以下とされる。また、角度θ1および角度θ2の設定可能な最小幅は1つのレーザ痕の幅に等しい。
【0066】
次に、ステップS26において第2除去量m2(g)を求める処理について説明する。既述のように、第2除去領域3233aは中心軸J1を中心として周方向に180度間隔に配置されており、2つの第2除去領域3233aの間の中央に第1除去領域3231が位置する。したがって、各第2除去領域3233aにて除去が等量行われても、不釣り合いが修正されたロータホルダ32の重心位置が影響を受けることはない。
【0067】
図12は第2除去領域3233aのみにおいてレーザによる除去が行われた場合の周方向振れを予想して示す図である。以下では、1つの第2除去領域3233aのみから第2除去量m2(g)だけ除去が行われた場合に生じるロータホルダ32の不釣り合い量をそれぞれ第1の実施の形態に倣って「第2修正量U2(g・mm)」と呼ぶ。また、第2修正量U2(g・mm)と第2除去量m2(g)との関係は数3で表され、第2修正量U2(g・mm)を不釣り合い量U(g・mm)に正の係数γを用いてγUにて表す。図12では、ステップS25で測定された周方向振れ(ただし、図12では図6に示すものがステップS25にて取得されたものと仮定している。)を元にして、各第2除去領域3233aの変形量が第2修正量U2(すなわち、γU)(g・mm)の係数γに比例するものとして計算され、2箇所の第2除去領域3233aに起因する変形が合成されている。レーザ光が照射された各第2除去領域3233aおよびその近傍の領域は点線にて示す理想的な円から径方向内側に位置し、外側から見て凹状となっており、第2除去領域3233a以外の領域は理想的な円から僅かに外側に位置している。
【0068】
図13はステップS25にて測定された変形と図12に示す変形とが合成された周方向振れを実線にて示す図であり、第1除去領域3231における不釣り合い修正、および、第2除去領域3233aにおける除去(真円度誤差を低減する加工であることから、以下、「真円度誤差修正」という。)により得られると予測される形状を示す。また、比較のためにロータホルダ32の理想的な側部322を示す円を点線にて示し、第1除去領域3231のみにて不釣り合い修正をした場合の変形例を一点鎖線にて示している。図13に示す周方向振れは、第1除去領域3231近傍の変形および2つの第2除去領域3233a近傍の変形が共に現れた形状となっている。
【0069】
図14は係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図であり、図14に示すグラフの横軸は係数γであり、縦軸は第1除去領域3231および第2除去領域3233aにて除去を行った後の真円度誤差と、第1除去領域3231のみにて不釣り合い修正をした後の真円度誤差(図6に示す形状における真円度誤差)との真円度誤差改善比である。図14に示すように、係数γを変更することにより第2修正量U2(g・mm)が変化し、その結果、ロータホルダ32の変形も異なったものとなる。
【0070】
図14に示す結果では、係数γが1.4のとき真円度誤差改善比が0.92であり、ロータホルダ32の真円度誤差が最小となる。ステップS27ではこの結果に基づいて決定された第2除去量m2(g)を用いて修正が行われる。係数γは他の条件から決定されてもよく、例えば、全修正量(すなわち、全除去量および修正コストに対応する。)を最小とするものが選択されてもよい。
【0071】
図10の不釣り合い修正の流れでは、ステップS24の第1除去領域3231にて除去を行う工程の前にステップS26の第2除去量m2(g)の設定が行われてもよい。この場合、図6に例示するように予め取得されている基準周方向振れに基づいて係数γが決定され、ステップS24の第1除去領域3231における不釣り合い修正およびステップS27の第2除去領域3233aにおける真円度誤差修正が連続して行われる。
【0072】
また、予め第2除去量m2(g)を求めておき、第2除去領域3233aにおける除去が先に行われてもよい。この場合、第2除去領域3233aにおける除去によりロータホルダ32の重心位置がずれることを考慮しつつ不釣り合い修正が最後に行われる方法が採用されてもよい。すなわち、まず、不釣り合いを測定して各第2除去領域3233aにおける除去量が予め決定されて第2除去領域3233aでの除去が先に行われ、その後、ロータホルダ32の不釣り合いが再び測定され、第1除去領域3231における不釣り合い修正が行われてもよい。
【0073】
図15は第2の実施の形態に係る不釣り合い修正方法の他の例により不釣り合いが修正されるロータ部3を示す平面図である。図15に示すロータホルダ32は、図11に示すものと比較して、第2除去領域が3箇所に設けられる点で異なり、他は同様とされる。
【0074】
図15に示す第2除去領域3233bは、中心軸J1を中心として周方向に120度ずつ等間隔に配置された第2中央位置3234bを中心として設定され、2つの第2中央位置3234bの間の中央に第1除去領域3231が位置する。すなわち、3つの第2中央位置3234bのうちの1つは不釣り合い方向(第1中央位置3232)に対し正反対に位置し、他の2つは不釣り合い方向から対称に60度ずつ離れて位置している。したがって、図15に示す例においても、第2除去領域3233bにおける真円度誤差修正によりロータホルダ32の重心位置が影響を受けることはない。
【0075】
次に、図10のステップS26において第2除去領域3233bにて除去される第2除去量m2(g)を設定する方法について説明する。図16は第2除去領域3233bのみにて除去が行われた場合の周方向振れを予想して示す図であり、周方向振れは図11に示すものと同様の計算により求められている。各第2除去領域3233bは外側から見て凹状となり、隣り合う第2除去領域3233bの間の領域は凸状となっている。
【0076】
図17はステップS25にて取得された周方向振れ(図6に示すものが取得されると仮定している。)と図16に示す周方向振れとを合成したものを実線にて示す図であり、不釣り合い修正および真円度誤差修正が行われた場合に予測されるロータホルダ32の周方向振れを示す。また、比較のためにロータホルダ32の理想的な側部322を示す円を点線にて示し、図6に示す第1除去領域3231のみにて不釣り合いを修正した場合の変形例を一点鎖線にて示している。図17に示す周方向振れは、第1除去領域3231およびその近傍の変形および3つの第2除去領域3233bおよびその近傍の変形が共に現れた形状となっている。
【0077】
図18は係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図であり、係数γを変更することにより第2除去量m2(g)に相当する第2修正量U2(g・mm)が変化し、その結果、真円度誤差改善比も変化する。図18に示す結果では、係数γが1.5のとき真円度誤差改善比が0.63となり、ロータホルダ32の真円度誤差が最小となる。ステップS27ではこの結果に基づいて決定された第2除去量m2(g)を用いて除去が行われる。
【0078】
図19は第2の実施の形態に係る不釣り合い修正方法のさらに他の例により不釣り合いが修正されるロータ部3を示す平面図である。図19に示すロータホルダ32は、図11に示すものと比較して、第2除去領域が4箇所に設けられる点で異なり、他は同様とされる。
【0079】
図19に示す第2除去領域3233cは、中心軸J1を中心として周方向に90度ずつ等間隔に離れて配置された第2中央位置3234cを中心として設定され、そのうちの2つの第2中央位置3234cの間の中央に第1除去領域3231が位置する。したがって、図19に示す例においても、第2除去領域3233cにおける真円度誤差修正によりロータホルダ32の重心位置が影響を受けることはない。
【0080】
次に、図10のステップS26において第2除去領域3233cにて除去される第2除去量m2(g)を設定する方法について説明する。図20は第2除去領域3233cのみにて除去が行われた場合の周方向振れを予想して示す図であり、図11に示すものと同様の計算により周方向振れが求められている。各第2除去領域3233cは外側から見て凹状となり、隣り合う第2除去領域3233cの間の領域は凸状となっている。
【0081】
図21はステップS25にて取得された周方向振れ(図6に示すものが取得されると仮定している。)と図20に示す周方向振れとを合成したものを実線にて示す図であり、不釣り合い修正および真円度誤差修正が行われた場合に予測されるロータホルダ32の周方向振れを示す。また、比較のためにロータホルダ32の理想的な側部322を示す円を点線にて示し、図6に示す第1除去領域3231のみにて修正をした場合の変形例を一点鎖線にて示している。図21に示す周方向振れは、第1除去領域3231およびその近傍の変形および4つの第2除去領域3233cおよびその近傍の変形が共に現れた形状となっている。
【0082】
図22は係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図であり、係数γを変更することにより、第2除去量m2(g)に相当する第2修正量U2(g・mm)が変化し、その結果、真円度誤差改善比も変化する。図22に示す結果では、係数γが1.3のとき真円度誤差改善比が0.74となり、ロータホルダ32の真円度誤差が最小となっている。ステップS27ではこの結果に基づいて決定された第2除去量m2(g)を用いて除去が行われる。
【0083】
以上に説明したように、第1除去領域3231にて不釣り合い修正を行った後、等間隔の複数箇所に配置された第2除去領域にて真円度誤差修正を行うことにより、ロータホルダ32の真円度誤差の増大を抑制しつつロータホルダ32の不釣り合いを修正することができる。複数の第2除去領域の数は2ないし4とされることが好ましいが、第2除去領域は5箇所以上に設けられてもよく、この場合においても、複数の第2除去領域は周方向に等間隔に配置され、いずれか2つの隣り合う第2除去領域の間の中央に第1除去領域3231が位置するとともに複数の第2除去領域が第1除去領域3231と離間または隣接する。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0085】
例えば、第1の実施の形態に係る不釣り合い修正方法における角度αおよび係数β、並びに、第2の実施の形態に係る不釣り合い修正方法における係数γを最適化する工程において、これらのパラメータを決定する方法は計算によるものには限定されない。ロータホルダ32に対して各パラメータを用いた加工が実際に行われ、加工後の周方向振れを測定することにより各パラメータの最適化が行われてもよい。また、予め取得された計算データまたは実測データによるデータベースを構築しておき、当該データベースが随時参照されて最適なパラメータが決定されてもよい。
【0086】
図2に示す各除去領域の軸方向位置は図2における上側(蓋部321側)の位置には限定されず、下側(開口側)や中間の位置等の他の軸方向位置とされてもよい。また、複数の軸方向位置にて不釣り合い修正が行われてもよい。さらに、各除去領域の形状は略矩形以外とされてもよく、例えば、周方向に並ぶ列ごとにレーザ痕の数が変更されて除去量の軸方向の分布が調整されてもよい。
【0087】
上記不釣り合い修正方法が適用される対象はロータホルダ32単体には限定されず、インペラカップ等の他の部品と組み合わされた状態のロータホルダ32であってもよい。上記不釣り合い修正方法はファンモータ60以外のモータにおけるロータ部に適用されてもよく、例えば、固定ディスク、光ディスク、光磁気ディスク等を回転させるディスク駆動装置やレーザプリンタに用いられるポリゴンミラー回転装置等に用いられるモータ部やエンコーダのロータ部に適用されてもよい。また、不釣り合い修正の対象は薄肉円筒状の回転体であればロータホルダ32以外のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】第1の実施の形態に係るファンモータの縦断面図である。
【図2】ロータ部の正面図である。
【図3】ロータ部の平面図である。
【図4】不釣り合い修正装置の概略を示す図である。
【図5】不釣り合い修正の流れを示す図である。
【図6】第1除去領域におけるレーザ光による除去後の周方向振れを示す図である。
【図7】第2除去領域のみにおける除去後の周方向振れを示す図である。
【図8】全除去領域における除去後の周方向振れを示す図である。
【図9】係数βと真円度誤差改善比との関係を示す図である。
【図10】第2の実施の形態に係る不釣り合い修正の流れを示す図である。
【図11】ロータ部の平面図である。
【図12】第2除去領域のみにおける除去後の周方向振れを示す図である。
【図13】全除去領域における除去後の周方向振れを示す図である。
【図14】係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図である。
【図15】他の例に係るロータ部の平面図である。
【図16】第2除去領域のみにおける除去後の周方向振れを示す図である。
【図17】全除去領域における除去後の周方向振れを示す図である。
【図18】係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図である。
【図19】さらに他の例に係るロータ部の平面図である。
【図20】第2除去領域のみにおける除去後の周方向振れを示す図である。
【図21】全除去領域における除去後の周方向振れを示す図である。
【図22】係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
1 モータ部
2 ステータ部
3 ロータ部
4 軸受機構
32 ロータホルダ
323 外側面
3231 第1除去領域
3232 第1中央位置
3233〜3233c 第2除去領域
3234〜3234c 第2中央位置
α (第1中央位置と第2中央位置との間の)角度
θ1 (第1除去領域の範囲を示す)角度
θ2 (第2除去領域の範囲を示す)角度
J1 中心軸
S11〜S16,S21〜S27 ステップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体における回転軸に対する重心の偏りを修正する不釣り合い修正方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
ファンモータの静圧−風量特性の向上等、昨今の様々な装置の改良においてモータの回転の高速化が要求されている。モータの回転を高速化するためにはロータ部における回転軸に対する重心の偏り(以下、「不釣り合い」という。)を小さくする必要があり、不釣り合いが大きい場合、回転時にロータ部の各部で発生する遠心力にばらつきが生じ、エネルギー損失が増大するとともに、ロータ部の振れによる振動や騒音が増大する。このような不釣り合いの修正方法の一つとして、レーザを用いてロータ部の一部を除去する方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される回転体に対するレーザ加工法では、レーザ光が回転体の周方向に所定角度毎に繰り返し照射される。周方向の照射回数が一定の数に達した後、レーザ光の照射位置が回転体の軸方向に所定距離だけずらされ、再度周方向に照射が繰り返されることにより回転体の修正領域全体にレーザ光が照射される。
【0004】
また、特許文献2では、回転体の軸方向における複数の位置に対して複数のレーザ光源から収束したレーザ光をパルス状にして照射することにより、回転体の一部を極少量だけ除去する不釣り合い調整装置が開示されている。
【特許文献1】特開昭59−050987号公報
【特許文献2】特開2004−82167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、モータのロータホルダのように加工対象である回転体が薄肉円筒状である場合、レーザ加工時の熱による膨張および収縮により円筒部に残留応力が発生して変形が生じる。特に、加工対象が有蓋円筒状の場合は開口側で変形が大きくなる。これにより、回転体を平面視した形状の理想的な円からの誤差(すなわち、真円度誤差)が増大してしまう。真円度誤差が増大すると、回転体を回転させたときの外側面の径方向の振れ幅も増大し、コギングトルク等のモータ特性の変動や振動、騒音等の原因となる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、真円度誤差の増大を抑制しつつ回転体の不釣り合いを修正することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、金属により形成された薄肉円筒状の回転体における回転軸に対する重心の偏りを修正する不釣り合い修正方法であって、a)前記回転軸に対する前記回転体の不釣り合い方向および不釣り合いの程度を示す不釣り合い量を測定する工程と、b)前記回転体の外側面上において、前記不釣り合い方向に中央が位置する第1除去領域を設定し、前記回転軸を中心として前記不釣り合い方向から両側に所定の角度だけ離れた角度位置に中央が位置する領域であって前記第1除去領域と離間または隣接する2つの第2除去領域を設定する工程と、c)前記第1除去領域における第1除去量、および、前記2つの第2除去領域のそれぞれにおける第2除去量を、前記不釣り合い方向における前記不釣り合い量に相当する除去量として求める工程と、d)レーザ光の照射により前記第1除去領域から前記第1除去量だけ前記回転体の一部を除去するとともに前記2つの第2除去領域のそれぞれから前記第2除去量だけ前記回転体の一部を除去する工程とを備える。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の不釣り合い修正方法であって、前記所定の角度をα、前記不釣り合い量をU、前記回転体の前記外側面の半径をRとして、正の係数βを用いて、前記第1除去量が、(1−2βcosα)U/Rとされ、前記第2除去量がβU/Rとされる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の不釣り合い修正方法であって、前記所定の角度が30度以上70度以下である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の不釣り合い修正方法であって、前記第1除去領域および前記2つの第2除去領域のそれぞれの前記回転軸を中心とする周方向の幅に対応する前記回転軸を中心とする角度が60度以下である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、金属により形成された薄肉円筒状の回転体における回転軸に対する重心の偏りを修正する不釣り合い修正方法であって、a)前記回転軸に対する前記回転体の不釣り合い方向および不釣り合いの程度を示す不釣り合い量を測定する工程と、b)前記回転体の外側面上において、前記不釣り合い方向に中央が位置する第1除去領域を設定し、前記第1除去領域と離間または隣接する複数の第2除去領域を前記回転軸を中心とする周方向に等間隔、かつ、いずれか2つの隣り合う第2除去領域の間の中央に前記第1除去領域が位置するように設定する工程と、c)レーザ光の照射により前記第1除去領域から前記不釣り合い量に相当する第1除去量だけ前記回転体の一部を除去し、前記複数の第2除去領域のそれぞれから一定の第2除去量だけ前記回転体の一部を除去する工程とを備える。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の不釣り合い修正方法であって、前記複数の第2除去領域の数が2ないし4のいずれかである。
【0013】
請求項7に記載の発明は、電動式のモータであって、請求項1ないし6のいずれかに記載された方法により不釣り合いが修正されたロータホルダを有するロータ部と、ステータ部と、前記ロータ部を前記ステータ部に対して中心軸を中心として回転可能に支持する軸受機構とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明では真円度誤差の増大を抑制しつつ回転体の不釣り合いを修正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の第1の実施の形態に係るファンモータ60を中心軸J1を含む平面で切断した縦断面図である。図1に示すように、ファンモータ60は、電動式のモータ部1、モータ部1に取り付けられて中心軸J1を中心として回転することによりエアの流れを発生するインペラ61、および、モータ部1およびインペラ61の周囲を覆うハウジング62を備える。
【0016】
インペラ61はモータ部1の後述するロータ部3に取り付けられた有蓋円筒状のインペラカップ611、および、インペラカップ611の外側面に複数(本実施の形態では9枚)の動翼612を有し、動翼612は中心軸J1を中心とする周方向(以下、単に「周方向」という。)に等間隔に配置され、樹脂によりインペラカップ611および動翼612は1つの部材として形成される。また、ハウジング62はモータ部1およびインペラ61の外周を覆う風洞部621、および、風洞部621の内側面下部から中心軸J1に向かって伸びてモータ部1のベース部21に接続される複数(本実施の形態では11枚)の静翼622を有し、風洞部621、静翼622およびベース部21は樹脂により1つの部材として形成される。
【0017】
モータ部1はステータ部2、ロータ部3、および、ロータ部3をステータ部2に対して中心軸J1を中心として回転可能に支持する軸受機構4を備える。以下の説明では、便宜上、中心軸J1に沿ってロータ部3側を上側、ステータ部2側を下側として説明するが、中心軸J1は必ずしも重力方向に一致する必要はない。
【0018】
ステータ部2はベース部21および環状のステータ22を有し、ベース部21から上方に突出する円筒状の軸受保持部211の外周がステータ22に圧入される。ロータ部3は略円柱状のシャフト31、シャフト31の上端に取り付けられた有蓋円筒状のロータホルダ32、および、ロータホルダ32の内側面に固定された界磁用磁石33を有し、ロータホルダ32にはインペラカップ611が圧入により固定される。軸受機構4はベース部21の軸受保持部211の内側において中心軸J1に沿う方向(以下、単に「軸方向」という。)の2箇所に取り付けられた玉軸受を有し、シャフト31が挿入される。
【0019】
ステータ22では薄板状の珪素鋼板を積層したコアにインシュレータ上から導線が巻回されてコイルが形成されており、導線はステータ22の下側に取り付けられた回路基板51に電気的に接続されて回路基板51によりステータ22に対する電流の供給および制御が行われる。ロータ部3の界磁用磁石33は多極着磁された略円筒状の永久磁石であり、ステータ22との間で中心軸J1を中心とする回転力(トルク)を発生する。すなわち、ステータ22、界磁用磁石33および回路基板51はロータ部3をステータ部2に対して中心軸J1を中心として回転させる駆動機構5として機能する。
【0020】
図2はロータ部3の正面図であり、図3はロータ部3の平面図である。ロータ部3のロータホルダ32は金属により形成された回転体であり、中心軸J1に垂直な方向に広がりシャフト31に取り付けられる蓋部321、および、蓋部321の外縁から下方に突出する薄肉円筒状の側部322を有する。
【0021】
ロータホルダ32の重心はロータホルダ32の回転中心である中心軸J1に一致することが望ましいが、通常、組立直後のロータホルダ32では組立誤差、偏肉、形状の非対称性等により質量分布が均一とはならず、中心軸J1と重心とは一致しない。このようなロータホルダ32がファンモータ60に使用された場合、ロータホルダ32の質量の不釣り合い(すなわち、回転軸に対する重心の偏り)により回転時に遠心力の偏りが生じ、振動や騒音が生じることがある。そこで、組立直後のロータホルダ32には重心を回転中心に近付けるための修正(以下、「不釣り合い修正」という。)が行われる。
【0022】
図4は不釣り合い修正装置7の概略を示す図である。不釣り合い修正装置7はロータホルダ32を上面に保持する位置決め機構71、ロータホルダ32にレーザ光を照射するレーザヘッド72、並びに、位置決め機構71およびレーザヘッド72を制御する制御部73を有し、ロータホルダ32の外側面323にレーザ光を照射してロータホルダ32の一部を蒸発により、または、溶融した部位へのガスの吹きつけもしくは遠心力等で飛散させることにより除去してロータホルダ32の質量分布の調整を行う。
【0023】
制御部73からの信号により、位置決め機構71は中心軸J1に沿ってロータホルダ32を上下に移動するとともに、周方向にロータホルダ32を回転する。また、レーザヘッド72の位置および向きは固定されており、位置決め機構71により決定されたロータホルダ32の外側面323上の所定の位置にレーザ光が照射される。さらに、制御部73によりレーザヘッド72が照射するレーザ光のピッチ、パルスの数、ショット電流および電圧等が制御されることにより、ロータホルダ32の所定の位置における除去量が調整される。
【0024】
不釣り合い修正が行われる前のロータホルダ32の不釣り合いを、理想的な釣り合い状態(ロータホルダ32の重心が回転中心である中心軸J1上に位置する状態)にあるロータホルダ32の中心軸J1から一定の偏重心距離r(mm)だけ離れた位置に質量m(g)の仮想的な錘が付加された状態と捉えた場合、本実施の形態では質量m(g)と偏重心距離r(mm)との積としてロータホルダ32における不釣り合いの程度を示す不釣り合い量U(g・mm)が定義されるものとする。なお、錘が配置されている方向を不釣り合い方向として図3中に直線L1にて示し、図2では不釣り合い方向を正面としてロータホルダ32を示している。
【0025】
図5はロータホルダ32の不釣り合い修正の流れを示す図である。ロータホルダ32の不釣り合い修正では、まず、図示省略の不釣り合い測定装置により、ロータホルダ32の回転時に生じる遠心力に基づいて、ロータホルダ32の中心軸J1に対する不釣り合い方向および不釣り合い量U(g・mm)が測定される(ステップS11)。
【0026】
次に、図2および図3に示すように、ロータホルダ32の外側面323上において蓋部321に近い軸方向位置(図2における上部)に、不釣り合い修正装置7によりレーザ光が照射される予定の領域3231が設定される(ステップS12)。領域3231は直線L1にて示す不釣り合い方向に設定された中央位置3232を中央として各辺が軸方向または周方向に平行となる略矩形とされ、周方向の幅に対応する中心軸J1を中心とする角度を図3中にθ1にて示している。
【0027】
外側面323上にはレーザ光を照射するための2つの領域3233が領域3231の両側かつ同じ高さにさらに設定される(ステップS13)。図3に示すように、各領域3233の中央である中央位置3234は、中心軸J1を中心として不釣り合い方向から両側に所定の角度(αを付して示す。)だけ離れた角度位置に設定される。領域3233は各辺が軸方向または周方向に平行となる略矩形とされ、周方向の幅に対応する中心軸J1を中心とする角度を図3中にθ2にて示している。
【0028】
以下では、領域3231を「第1除去領域」、中央位置3232を「第1中央位置」と呼び、2つの領域3233をそれぞれ「第2除去領域」、中央位置3234を「第2中央位置」と呼ぶ。
【0029】
第1除去領域3231および第2除去領域3233が設定されると、不釣り合い量U(g・mm)に相当し、第1除去領域3231から除去される質量である第1除去量m1(g)、および、各第2除去領域3233から除去される質量である第2除去量m2(g)が後述する処理により求められる(ステップS14)。また、既述のように制御部73により位置決め機構71およびレーザヘッド72が制御される。具体的には、図2に示すように、一回毎に一定の出力にてレーザ光を照射することにより照射部位が除去されてレーザ痕3235が形成され、第1除去領域3231全体に照射が行われるまで順次ロータホルダ32の回転および軸方向への移動が行われる。これにより、第1除去領域3231からの除去量が第1除去量m1(g)にほぼ等しくなるようにロータホルダ32の一部が除去される(ステップS15)。また、同様の処理により2つの第2除去領域3233のそれぞれからの除去量が第2除去量m2(g)にほぼ等しくなるようにロータホルダ32の一部が除去される(ステップS16)。
【0030】
なお、仮に、大きさを有さない第1中央位置3232および第2中央位置3234のみにおいて不釣り合いの修正が可能であるものとし(すなわち、一点に集中して除去を行うことができると仮定し)、この条件にて求められる第1除去量m1および第2除去量m2を、大きさを有する第1除去領域3231および第2除去領域3233から均一に除去すると、除去による修正される不釣り合い量は望ましい不釣り合い量Uから僅かにずれてしまう。例えば、第1除去量m1が角度θ1(rad)の幅を有する第1除去領域3231から均一に除去されると、実際には、第1中央位置3232にて数1にて示す質量が除去された場合と同様の修正効果しか得られない。
【0031】
【数1】
【0032】
このように、一点に集中して除去が可能であると仮定して除去量を求める場合は、第1除去領域3231および第2除去領域3233の面積(正確には、領域の幅に対応する中心軸J1を中心とする角度)が小さいほど理論的な不釣り合い修正の算出誤差は小さくなり、かつ、修正除去時間も短くなる。しかし、レーザ光を集中して照射することによる側部322での加工誤差の増大および強度の低下を抑制するために第1除去領域3231および第2除去領域3233は適宜広げられて設定される。また、角度θ1が60度の場合に、一点に集中して第1除去量m1の約95%の除去を行った場合と同様の効果が得られることが数1から判るため、角度θ1および角度θ2はそれぞれ60度以下とされるのであれば、一点に集中して除去が可能であると仮定して除去量が求められてよい。なお、角度θ1および角度θ2の最小値は、不釣り合い修正装置7の能力に依存するが、除去量が少ない場合は、理論上、1つのレーザ痕3235の幅に相当する角度とすることができる。
【0033】
もちろん、第1除去領域3231および第2除去領域3233の大きさを考慮して正確に計算上の除去量が求められてもよく、さらに、加工穴の大きさや深さのばらつきといった加工誤差や測定誤差等の他の誤差を考慮して第1除去量m1および第2除去量m2が求められてもよい。
【0034】
次に、図5のステップS14において、ロータホルダ32の側部322を大きく変形させることなく不釣り合いを解消するために最適な第1除去量m1(g)および第2除去量m2(g)を求める方法について説明する。以下の説明では、第1中央位置3232および第2中央位置3234にて一点に集中して第1除去量m1および第2除去量m2の除去が可能であると仮定して演算を簡略化している。
【0035】
既述のように、図3に示す直線L1上の第1中央位置3232の角度位置と中心軸J1および図3における上側の第2中央位置3234を通る直線L2の角度位置との差はαであり、中心軸J1および図3における下側の第2中央位置3234を通る直線L3の角度位置との差もαとなっており、αは((θ1+θ2)/2)以上とされ、第1除去領域3231に対して第2除去領域3233は離間または隣接し、重なり合うことはない。
【0036】
不釣り合い量U(g・mm)に対する修正量のうち、第1除去量m1(g)が寄与する方向(すなわち、第1中央位置3232の方向)での修正量を第1修正量U1(g・mm)とすると、第1修正量U1(g・mm)と第1除去量m1(g)との関係は外側面323の半径R(mm)(本実施の形態では22.4mm)を用いて数2にて示される。
【0037】
【数2】
【0038】
同様に、不釣り合い量U(g・mm)に対する修正量のうち、第2除去量m2(g)が寄与する2方向(すなわち、第2中央位置3234の方向)での修正量をそれぞれ第2修正量U2(g・mm)とすると、第2修正量U2(g・mm)と第2除去量m2(g)との関係は数3にて示される。
【0039】
【数3】
【0040】
第1修正量U1(g・mm)を中心軸J1から第1中央位置3232に向かうベクトル、第2修正量U2(g・mm)を中心軸J1から2つの第2中央位置3234に向かう2つのベクトルと捉えた場合、第1修正量U1(g・mm)および2つの第2修正量U2(g・mm)の不釣り合い方向に垂直な方向の成分の合計は2つの第2修正量U2(g・mm)の対称性により0であり、不釣り合い方向に平行な成分の合計は数4に示すように不釣り合い量U(g・mm)に等しくされる必要がある。
【0041】
【数4】
【0042】
正の係数βを用いて第2修正量U2(g・mm)をβUと表すと、数4は数5にて表される。
【0043】
【数5】
【0044】
また、数5を変形することにより、第1修正量U1(g・mm)をUを用いて数6にて表現することができる。
【0045】
【数6】
【0046】
これにより、角度α、係数βをパラメータとして、第1修正量U1(g・mm)および第2修正量U2(g・mm)が不釣り合い方向における不釣り合い量U(g・mm)に対応する修正量として求められる。数6にてUを用いて示される第1修正量U1(g・mm)およびβUである第2修正量U2(g・mm)と数2および数3とを比較すると、第1除去量m1(g)を数7、第2除去量m2(g)を数8にて表すことができる。
【0047】
【数7】
【0048】
【数8】
【0049】
以上のように、角度αおよび係数βを決定することにより第1修正量U1(g・mm)、第2修正量U2(g・mm)、第1除去量m1(g)および第2除去量m2(g)を決定することができる。
【0050】
図6は所定の不釣り合い量U(g・mm)に相当する除去量(U/R)(g)が第1除去領域3231のみにおいてレーザ加工により除去された場合のロータホルダ32の側部322(図2参照)の形状の変化を示す図であり、中心軸J1の位置を原点として、各角度位置における中心軸J1からの距離と、ロータホルダ32の設計上の理想的な内側面の半径(半径に対応する円を点線にて示す。)との差を示すグラフである。側部322の形状の変化は外側面の径方向の振れ幅(以下、「周方向振れ」という。)により示されており、ロータホルダ32を回転させて所定の軸方向位置にて内側面の周方向の各点における測定器との間の径方向の距離を測定することにより取得される。
【0051】
図6では原点から右に向かう方向が直線L1にて示す不釣り合い方向であり、直線L1と外側面との交点である第1中央位置3232を矢印にて示す。なお、この修正では第1除去領域3231の高さは約3mm、周方向の幅は約11.5mmであり、除去量は約20mgである。
【0052】
なお、図6は、ロータホルダ32から界磁用磁石33が外された状態でレーザ加工および周方向振れの測定を行った結果を示しているが、実際のレーザ加工および周方向振れの測定、並びに、不釣り合い量の測定およびレーザ加工の際にはロータホルダ32には界磁用磁石33(図1参照)が取り付けられた状態とされ、以下の説明は、ロータホルダ32に界磁用磁石33がついている場合においても同様に成り立つ(他の実施の形態においても同様)。したがって、図5に示す実際の修正作業では、界磁用磁石33の装着により発生する不釣り合いも含めて不釣り合いの修正が行われる。
【0053】
図6に示すように、第1除去領域3231にてレーザ光の照射によりロータホルダ32の一部が除去されると、側部322には熱膨張収縮と金属除去により残留応力分布が大きく変化して変形が生じる。レーザ光が照射された第1除去領域3231の反対側(図6の左側)では大きな変形は生じないが、第1除去領域3231およびその近傍の領域では径方向位置が理想の円よりも内側に移動し(すなわち、側部322は径方向外側から見て凹状となり)、第1除去領域3231の周方向両側では側部322は外側に向かって凸状となる。その結果、側部322の径の最大値と最小値との差が拡大し、不釣り合い修正前に比べて周方向振れが増大する。また、周方向振れの増大に伴って、ロータホルダ32を平面視した形状の理想的な円からの誤差(すなわち、ロータホルダ32の外側面を2つの同心円の間に位置するように設定した場合の2つの同心円の半径の差の最小値であり、以下、「真円度誤差」という。)も増大する。
【0054】
図7は2箇所の第2除去領域3233のみにレーザ加工を行った場合に予測される(図6の場合と同じ軸方向位置における)ロータホルダ32の周方向振れを示す図である。図7に示す例では、図6の形状(以下、「基準周方向振れ」と呼ぶ。)において側部322が凸状となる位置(第1中央位置3232の周方向両側)を考慮して、角度αが60度とされて図7中に矢印にて示す2箇所の第2中央位置3234が定められる。
【0055】
図7に示す周方向振れは、基準周方向振れを元にして、各第2除去領域3233の変形量が第2修正量βU(g・mm)の係数βに比例するものとして計算されたものであり、2箇所の第2除去領域3233におけるレーザ加工に起因する側部322の変形を合成したものとなっている。したがって、図7に示す周方向振れは、各第2除去領域3233の高さが約3mm、周方向の幅が約11.5mmとされ、第2除去領域3233内にて第2修正量βUに対応する第2除去量m2(g)として(βU/R)(g)だけ除去が行われたものに対応する。レーザ光が照射された各第2除去領域3233およびその近傍の領域は点線にて示す理想的な円よりも径方向内側に位置し、外側から見て凹状となっており、第2除去領域3233の周方向両側では側部322は理想的な円から外側へと凸状となる。図7では(修正が行われていない)第1除去領域3231は2つの第2除去領域3233の中間に位置するため、両方の第2除去領域3233からの影響で凸状に膨らんでいる。
【0056】
図8は図6および図7に示す両方の変形を合成した周方向振れを実線にて示す図であり、第1除去領域3231および第2除去領域3233における修正により得られると予測される形状を示す。ただし、第1除去領域3231では数6にて表される第1修正量U1(g・mm)だけ修正が行われたものとし、それに合わせて図6の変形量がU1/Uに比例して変換されてから図7の形状と合成されている。また、比較のためにロータホルダ32の側部322における理想的な円を点線にて示し、図6に示す第1除去領域3231のみにおいて修正をした場合の変形例を一点鎖線にて示している。図8に示すように、合成により第1除去領域3231および第2除去領域3233における修正による変形が互いの凹凸を打ち消し合い、周方向振れおよび真円度誤差が低減されて側部322の形状は理想的な円に近くなっている。
【0057】
図9は係数βと真円度誤差との関係を示す図であり、図9に示すグラフの横軸は係数βを示し、縦軸は、第1除去領域3231および第2除去領域3233にて不釣り合いを修正した後の真円度誤差と、第1除去領域3231のみにて修正した後の真円度誤差(図6に示す形状における真円度誤差)との比(以下、「真円度誤差改善比」という。)を示している。また、図9は角度αが60度に固定された状態で複数の係数βについて真円度誤差を求めた結果を示しており、係数βを変更することにより第1修正量U1(g・mm)および第2修正量U2(g・mm)が変化し、その結果、ロータホルダ32の変形も異なったものとなる。図9に示す結果では、係数βが0.4のときにロータホルダ32の真円度誤差が最小となる(すなわち、最も理想的な円に近づく)。なお、角度αは真円度誤差を低減することができるのであれば他の値とされてもよく、図6に示す凸状を低減するために好ましくは角度αは30度以上70度以下とされる。
【0058】
さらに、複数の角度αについて図9の場合と同様に係数βに対する真円度誤差を計算することにより、最も真円度誤差を低減することができる角度αおよび係数βの組み合わせが決定されてもよい。本実施の形態では、角度αを60度として係数βを0.4とした場合に真円度誤差改善比が0.28となって真円度誤差が最小となり、第1修正量U1(g・mm)が0.6U(第1除去量m1(g)は(0.6U/R))、第2修正量U2(g・mm)が0.4U(第2除去量m2(g)は(0.4U/R))とされ、3箇所での総修正量は1.4U(g・mm)となる。
【0059】
また、第1除去領域3231および第2除去領域3233の大きさは上記説明にて示したものには限定されず、第1修正量U1(g・mm)および第2修正量U2(g・mm)に合わせて高さおよび周方向の幅は適宜変更されてよい。
【0060】
以上に説明したように、角度αおよび係数βを用いて図5に示すステップS12以降の不釣り合い修正を実行することにより、ロータホルダ32の真円度誤差の増大を抑制しつつロータホルダ32の不釣り合いを修正することができる。
【0061】
図10は本発明の第2の実施の形態に係る不釣り合い修正の流れを示す図であり、図11は不釣り合いが修正されるロータ部3の平面図である。本実施の形態では、図5に示す不釣り合い修正の流れと比較して、不釣り合い修正と真円度誤差に対する修正とが独立して行われる点で異なり、ファンモータ60や不釣り合い修正装置7等の他の構成は同様とされる。
【0062】
図10に示す不釣り合い修正では、図5の場合と同様に、まず、図示省略の不釣り合い測定装置を用いてロータホルダ32の中心軸J1に対する不釣り合い方向および不釣り合い量U(g・mm)が測定される(ステップS21)。
【0063】
次に、図11に示すように、直線L1にて示される不釣り合い方向上に位置する第1中央位置3232を中央としてロータホルダ32の外側面323上に第1除去領域3231が設定される(ステップS22)。第1除去領域3231は図2に示すものと同様の略矩形であり、周方向の幅に対応する中心軸J1を中心とする角度を図11中にθ1にて示している。さらに、外側面323上において、直線L1にて示す不釣り合い方向から中心軸J1を中心として周方向両側に90度離れた角度位置に第2中央位置3234aが設定され、2箇所の第2中央位置3234aのそれぞれを中心として第2除去領域3233aが設定される(ステップS23)。第2除去領域3233aは図2に示すものと同様の略矩形であり、図10では、周方向の幅に対応する中心軸J1を中心とする角度をθ2にて示している。
【0064】
除去領域が設定されると、図4に示す不釣り合い修正装置7のレーザヘッド72によりレーザ光が照射されて不釣り合い量U(g・mm)に相当する第1除去量として質量(U/R)(g)(Rはロータホルダ32の外側面の半径)だけ第1除去領域3231からロータホルダ32の一部が除去される(ステップS24)。このとき、レーザ光の照射に伴い発生する熱によりロータホルダ32には変形が生じ、第1除去領域3231の近傍ではロータホルダ32の側部322(図11参照)が理想的な円から径方向内側に向かって凹状となり、凹状となった部位の周方向両側は径方向外側に向かって凸状となる(図6参照)。その後、図示省略の測定装置により周方向振れが測定される(ステップS25)。
【0065】
周方向振れが測定されると、測定結果に基づいて、2箇所の第2除去領域3233aに対して後述の方法により一定の(すなわち、同一の)第2除去量m2(g)が求められる(ステップS26)。さらに、不釣り合い修正装置7にてレーザ光を照射することにより2つの第2除去領域3233aのそれぞれから第2除去量m2(g)だけロータホルダ32の一部の除去が行われる(ステップS27)。なお、レーザ光の照射による加工を局所的に行うことによるロータホルダ32の強度の低下を防止するために、第1除去領域3231および第2除去領域3233aは適宜広げられて設定される。ただし、不釣り合い修正の誤差を小さく保つために角度θ1および角度θ2は好ましくはそれぞれ60度以下とされる。また、角度θ1および角度θ2の設定可能な最小幅は1つのレーザ痕の幅に等しい。
【0066】
次に、ステップS26において第2除去量m2(g)を求める処理について説明する。既述のように、第2除去領域3233aは中心軸J1を中心として周方向に180度間隔に配置されており、2つの第2除去領域3233aの間の中央に第1除去領域3231が位置する。したがって、各第2除去領域3233aにて除去が等量行われても、不釣り合いが修正されたロータホルダ32の重心位置が影響を受けることはない。
【0067】
図12は第2除去領域3233aのみにおいてレーザによる除去が行われた場合の周方向振れを予想して示す図である。以下では、1つの第2除去領域3233aのみから第2除去量m2(g)だけ除去が行われた場合に生じるロータホルダ32の不釣り合い量をそれぞれ第1の実施の形態に倣って「第2修正量U2(g・mm)」と呼ぶ。また、第2修正量U2(g・mm)と第2除去量m2(g)との関係は数3で表され、第2修正量U2(g・mm)を不釣り合い量U(g・mm)に正の係数γを用いてγUにて表す。図12では、ステップS25で測定された周方向振れ(ただし、図12では図6に示すものがステップS25にて取得されたものと仮定している。)を元にして、各第2除去領域3233aの変形量が第2修正量U2(すなわち、γU)(g・mm)の係数γに比例するものとして計算され、2箇所の第2除去領域3233aに起因する変形が合成されている。レーザ光が照射された各第2除去領域3233aおよびその近傍の領域は点線にて示す理想的な円から径方向内側に位置し、外側から見て凹状となっており、第2除去領域3233a以外の領域は理想的な円から僅かに外側に位置している。
【0068】
図13はステップS25にて測定された変形と図12に示す変形とが合成された周方向振れを実線にて示す図であり、第1除去領域3231における不釣り合い修正、および、第2除去領域3233aにおける除去(真円度誤差を低減する加工であることから、以下、「真円度誤差修正」という。)により得られると予測される形状を示す。また、比較のためにロータホルダ32の理想的な側部322を示す円を点線にて示し、第1除去領域3231のみにて不釣り合い修正をした場合の変形例を一点鎖線にて示している。図13に示す周方向振れは、第1除去領域3231近傍の変形および2つの第2除去領域3233a近傍の変形が共に現れた形状となっている。
【0069】
図14は係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図であり、図14に示すグラフの横軸は係数γであり、縦軸は第1除去領域3231および第2除去領域3233aにて除去を行った後の真円度誤差と、第1除去領域3231のみにて不釣り合い修正をした後の真円度誤差(図6に示す形状における真円度誤差)との真円度誤差改善比である。図14に示すように、係数γを変更することにより第2修正量U2(g・mm)が変化し、その結果、ロータホルダ32の変形も異なったものとなる。
【0070】
図14に示す結果では、係数γが1.4のとき真円度誤差改善比が0.92であり、ロータホルダ32の真円度誤差が最小となる。ステップS27ではこの結果に基づいて決定された第2除去量m2(g)を用いて修正が行われる。係数γは他の条件から決定されてもよく、例えば、全修正量(すなわち、全除去量および修正コストに対応する。)を最小とするものが選択されてもよい。
【0071】
図10の不釣り合い修正の流れでは、ステップS24の第1除去領域3231にて除去を行う工程の前にステップS26の第2除去量m2(g)の設定が行われてもよい。この場合、図6に例示するように予め取得されている基準周方向振れに基づいて係数γが決定され、ステップS24の第1除去領域3231における不釣り合い修正およびステップS27の第2除去領域3233aにおける真円度誤差修正が連続して行われる。
【0072】
また、予め第2除去量m2(g)を求めておき、第2除去領域3233aにおける除去が先に行われてもよい。この場合、第2除去領域3233aにおける除去によりロータホルダ32の重心位置がずれることを考慮しつつ不釣り合い修正が最後に行われる方法が採用されてもよい。すなわち、まず、不釣り合いを測定して各第2除去領域3233aにおける除去量が予め決定されて第2除去領域3233aでの除去が先に行われ、その後、ロータホルダ32の不釣り合いが再び測定され、第1除去領域3231における不釣り合い修正が行われてもよい。
【0073】
図15は第2の実施の形態に係る不釣り合い修正方法の他の例により不釣り合いが修正されるロータ部3を示す平面図である。図15に示すロータホルダ32は、図11に示すものと比較して、第2除去領域が3箇所に設けられる点で異なり、他は同様とされる。
【0074】
図15に示す第2除去領域3233bは、中心軸J1を中心として周方向に120度ずつ等間隔に配置された第2中央位置3234bを中心として設定され、2つの第2中央位置3234bの間の中央に第1除去領域3231が位置する。すなわち、3つの第2中央位置3234bのうちの1つは不釣り合い方向(第1中央位置3232)に対し正反対に位置し、他の2つは不釣り合い方向から対称に60度ずつ離れて位置している。したがって、図15に示す例においても、第2除去領域3233bにおける真円度誤差修正によりロータホルダ32の重心位置が影響を受けることはない。
【0075】
次に、図10のステップS26において第2除去領域3233bにて除去される第2除去量m2(g)を設定する方法について説明する。図16は第2除去領域3233bのみにて除去が行われた場合の周方向振れを予想して示す図であり、周方向振れは図11に示すものと同様の計算により求められている。各第2除去領域3233bは外側から見て凹状となり、隣り合う第2除去領域3233bの間の領域は凸状となっている。
【0076】
図17はステップS25にて取得された周方向振れ(図6に示すものが取得されると仮定している。)と図16に示す周方向振れとを合成したものを実線にて示す図であり、不釣り合い修正および真円度誤差修正が行われた場合に予測されるロータホルダ32の周方向振れを示す。また、比較のためにロータホルダ32の理想的な側部322を示す円を点線にて示し、図6に示す第1除去領域3231のみにて不釣り合いを修正した場合の変形例を一点鎖線にて示している。図17に示す周方向振れは、第1除去領域3231およびその近傍の変形および3つの第2除去領域3233bおよびその近傍の変形が共に現れた形状となっている。
【0077】
図18は係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図であり、係数γを変更することにより第2除去量m2(g)に相当する第2修正量U2(g・mm)が変化し、その結果、真円度誤差改善比も変化する。図18に示す結果では、係数γが1.5のとき真円度誤差改善比が0.63となり、ロータホルダ32の真円度誤差が最小となる。ステップS27ではこの結果に基づいて決定された第2除去量m2(g)を用いて除去が行われる。
【0078】
図19は第2の実施の形態に係る不釣り合い修正方法のさらに他の例により不釣り合いが修正されるロータ部3を示す平面図である。図19に示すロータホルダ32は、図11に示すものと比較して、第2除去領域が4箇所に設けられる点で異なり、他は同様とされる。
【0079】
図19に示す第2除去領域3233cは、中心軸J1を中心として周方向に90度ずつ等間隔に離れて配置された第2中央位置3234cを中心として設定され、そのうちの2つの第2中央位置3234cの間の中央に第1除去領域3231が位置する。したがって、図19に示す例においても、第2除去領域3233cにおける真円度誤差修正によりロータホルダ32の重心位置が影響を受けることはない。
【0080】
次に、図10のステップS26において第2除去領域3233cにて除去される第2除去量m2(g)を設定する方法について説明する。図20は第2除去領域3233cのみにて除去が行われた場合の周方向振れを予想して示す図であり、図11に示すものと同様の計算により周方向振れが求められている。各第2除去領域3233cは外側から見て凹状となり、隣り合う第2除去領域3233cの間の領域は凸状となっている。
【0081】
図21はステップS25にて取得された周方向振れ(図6に示すものが取得されると仮定している。)と図20に示す周方向振れとを合成したものを実線にて示す図であり、不釣り合い修正および真円度誤差修正が行われた場合に予測されるロータホルダ32の周方向振れを示す。また、比較のためにロータホルダ32の理想的な側部322を示す円を点線にて示し、図6に示す第1除去領域3231のみにて修正をした場合の変形例を一点鎖線にて示している。図21に示す周方向振れは、第1除去領域3231およびその近傍の変形および4つの第2除去領域3233cおよびその近傍の変形が共に現れた形状となっている。
【0082】
図22は係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図であり、係数γを変更することにより、第2除去量m2(g)に相当する第2修正量U2(g・mm)が変化し、その結果、真円度誤差改善比も変化する。図22に示す結果では、係数γが1.3のとき真円度誤差改善比が0.74となり、ロータホルダ32の真円度誤差が最小となっている。ステップS27ではこの結果に基づいて決定された第2除去量m2(g)を用いて除去が行われる。
【0083】
以上に説明したように、第1除去領域3231にて不釣り合い修正を行った後、等間隔の複数箇所に配置された第2除去領域にて真円度誤差修正を行うことにより、ロータホルダ32の真円度誤差の増大を抑制しつつロータホルダ32の不釣り合いを修正することができる。複数の第2除去領域の数は2ないし4とされることが好ましいが、第2除去領域は5箇所以上に設けられてもよく、この場合においても、複数の第2除去領域は周方向に等間隔に配置され、いずれか2つの隣り合う第2除去領域の間の中央に第1除去領域3231が位置するとともに複数の第2除去領域が第1除去領域3231と離間または隣接する。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0085】
例えば、第1の実施の形態に係る不釣り合い修正方法における角度αおよび係数β、並びに、第2の実施の形態に係る不釣り合い修正方法における係数γを最適化する工程において、これらのパラメータを決定する方法は計算によるものには限定されない。ロータホルダ32に対して各パラメータを用いた加工が実際に行われ、加工後の周方向振れを測定することにより各パラメータの最適化が行われてもよい。また、予め取得された計算データまたは実測データによるデータベースを構築しておき、当該データベースが随時参照されて最適なパラメータが決定されてもよい。
【0086】
図2に示す各除去領域の軸方向位置は図2における上側(蓋部321側)の位置には限定されず、下側(開口側)や中間の位置等の他の軸方向位置とされてもよい。また、複数の軸方向位置にて不釣り合い修正が行われてもよい。さらに、各除去領域の形状は略矩形以外とされてもよく、例えば、周方向に並ぶ列ごとにレーザ痕の数が変更されて除去量の軸方向の分布が調整されてもよい。
【0087】
上記不釣り合い修正方法が適用される対象はロータホルダ32単体には限定されず、インペラカップ等の他の部品と組み合わされた状態のロータホルダ32であってもよい。上記不釣り合い修正方法はファンモータ60以外のモータにおけるロータ部に適用されてもよく、例えば、固定ディスク、光ディスク、光磁気ディスク等を回転させるディスク駆動装置やレーザプリンタに用いられるポリゴンミラー回転装置等に用いられるモータ部やエンコーダのロータ部に適用されてもよい。また、不釣り合い修正の対象は薄肉円筒状の回転体であればロータホルダ32以外のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】第1の実施の形態に係るファンモータの縦断面図である。
【図2】ロータ部の正面図である。
【図3】ロータ部の平面図である。
【図4】不釣り合い修正装置の概略を示す図である。
【図5】不釣り合い修正の流れを示す図である。
【図6】第1除去領域におけるレーザ光による除去後の周方向振れを示す図である。
【図7】第2除去領域のみにおける除去後の周方向振れを示す図である。
【図8】全除去領域における除去後の周方向振れを示す図である。
【図9】係数βと真円度誤差改善比との関係を示す図である。
【図10】第2の実施の形態に係る不釣り合い修正の流れを示す図である。
【図11】ロータ部の平面図である。
【図12】第2除去領域のみにおける除去後の周方向振れを示す図である。
【図13】全除去領域における除去後の周方向振れを示す図である。
【図14】係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図である。
【図15】他の例に係るロータ部の平面図である。
【図16】第2除去領域のみにおける除去後の周方向振れを示す図である。
【図17】全除去領域における除去後の周方向振れを示す図である。
【図18】係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図である。
【図19】さらに他の例に係るロータ部の平面図である。
【図20】第2除去領域のみにおける除去後の周方向振れを示す図である。
【図21】全除去領域における除去後の周方向振れを示す図である。
【図22】係数γと真円度誤差改善比との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
1 モータ部
2 ステータ部
3 ロータ部
4 軸受機構
32 ロータホルダ
323 外側面
3231 第1除去領域
3232 第1中央位置
3233〜3233c 第2除去領域
3234〜3234c 第2中央位置
α (第1中央位置と第2中央位置との間の)角度
θ1 (第1除去領域の範囲を示す)角度
θ2 (第2除去領域の範囲を示す)角度
J1 中心軸
S11〜S16,S21〜S27 ステップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属により形成された薄肉円筒状の回転体における回転軸に対する重心の偏りを修正する不釣り合い修正方法であって、
a)前記回転軸に対する前記回転体の不釣り合い方向および不釣り合いの程度を示す不釣り合い量を測定する工程と、
b)前記回転体の外側面上において、前記不釣り合い方向に中央が位置する第1除去領域を設定し、前記回転軸を中心として前記不釣り合い方向から両側に所定の角度だけ離れた角度位置に中央が位置する領域であって前記第1除去領域と離間または隣接する2つの第2除去領域を設定する工程と、
c)前記第1除去領域における第1除去量、および、前記2つの第2除去領域のそれぞれにおける第2除去量を、前記不釣り合い方向における前記不釣り合い量に相当する除去量として求める工程と、
d)レーザ光の照射により前記第1除去領域から前記第1除去量だけ前記回転体の一部を除去するとともに前記2つの第2除去領域のそれぞれから前記第2除去量だけ前記回転体の一部を除去する工程と、
を備えることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の不釣り合い修正方法であって、
前記所定の角度をα、前記不釣り合い量をU、前記回転体の前記外側面の半径をRとして、正の係数βを用いて、
前記第1除去量が、(1−2βcosα)U/Rとされ、前記第2除去量がβU/Rとされることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の不釣り合い修正方法であって、
前記所定の角度が30度以上70度以下であることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の不釣り合い修正方法であって、
前記第1除去領域および前記2つの第2除去領域のそれぞれの前記回転軸を中心とする周方向の幅に対応する前記回転軸を中心とする角度が60度以下であることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項5】
金属により形成された薄肉円筒状の回転体における回転軸に対する重心の偏りを修正する不釣り合い修正方法であって、
a)前記回転軸に対する前記回転体の不釣り合い方向および不釣り合いの程度を示す不釣り合い量を測定する工程と、
b)前記回転体の外側面上において、前記不釣り合い方向に中央が位置する第1除去領域を設定し、前記第1除去領域と離間または隣接する複数の第2除去領域を前記回転軸を中心とする周方向に等間隔、かつ、いずれか2つの隣り合う第2除去領域の間の中央に前記第1除去領域が位置するように設定する工程と、
c)レーザ光の照射により前記第1除去領域から前記不釣り合い量に相当する第1除去量だけ前記回転体の一部を除去し、前記複数の第2除去領域のそれぞれから一定の第2除去量だけ前記回転体の一部を除去する工程と、
を備えることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項6】
請求項5に記載の不釣り合い修正方法であって、
前記複数の第2除去領域の数が2ないし4のいずれかであることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項7】
電動式のモータであって、
請求項1ないし6のいずれかに記載された方法により不釣り合いが修正されたロータホルダを有するロータ部と、
ステータ部と、
前記ロータ部を前記ステータ部に対して中心軸を中心として回転可能に支持する軸受機構と、
を備えることを特徴とするモータ。
【請求項1】
金属により形成された薄肉円筒状の回転体における回転軸に対する重心の偏りを修正する不釣り合い修正方法であって、
a)前記回転軸に対する前記回転体の不釣り合い方向および不釣り合いの程度を示す不釣り合い量を測定する工程と、
b)前記回転体の外側面上において、前記不釣り合い方向に中央が位置する第1除去領域を設定し、前記回転軸を中心として前記不釣り合い方向から両側に所定の角度だけ離れた角度位置に中央が位置する領域であって前記第1除去領域と離間または隣接する2つの第2除去領域を設定する工程と、
c)前記第1除去領域における第1除去量、および、前記2つの第2除去領域のそれぞれにおける第2除去量を、前記不釣り合い方向における前記不釣り合い量に相当する除去量として求める工程と、
d)レーザ光の照射により前記第1除去領域から前記第1除去量だけ前記回転体の一部を除去するとともに前記2つの第2除去領域のそれぞれから前記第2除去量だけ前記回転体の一部を除去する工程と、
を備えることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の不釣り合い修正方法であって、
前記所定の角度をα、前記不釣り合い量をU、前記回転体の前記外側面の半径をRとして、正の係数βを用いて、
前記第1除去量が、(1−2βcosα)U/Rとされ、前記第2除去量がβU/Rとされることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の不釣り合い修正方法であって、
前記所定の角度が30度以上70度以下であることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の不釣り合い修正方法であって、
前記第1除去領域および前記2つの第2除去領域のそれぞれの前記回転軸を中心とする周方向の幅に対応する前記回転軸を中心とする角度が60度以下であることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項5】
金属により形成された薄肉円筒状の回転体における回転軸に対する重心の偏りを修正する不釣り合い修正方法であって、
a)前記回転軸に対する前記回転体の不釣り合い方向および不釣り合いの程度を示す不釣り合い量を測定する工程と、
b)前記回転体の外側面上において、前記不釣り合い方向に中央が位置する第1除去領域を設定し、前記第1除去領域と離間または隣接する複数の第2除去領域を前記回転軸を中心とする周方向に等間隔、かつ、いずれか2つの隣り合う第2除去領域の間の中央に前記第1除去領域が位置するように設定する工程と、
c)レーザ光の照射により前記第1除去領域から前記不釣り合い量に相当する第1除去量だけ前記回転体の一部を除去し、前記複数の第2除去領域のそれぞれから一定の第2除去量だけ前記回転体の一部を除去する工程と、
を備えることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項6】
請求項5に記載の不釣り合い修正方法であって、
前記複数の第2除去領域の数が2ないし4のいずれかであることを特徴とする不釣り合い修正方法。
【請求項7】
電動式のモータであって、
請求項1ないし6のいずれかに記載された方法により不釣り合いが修正されたロータホルダを有するロータ部と、
ステータ部と、
前記ロータ部を前記ステータ部に対して中心軸を中心として回転可能に支持する軸受機構と、
を備えることを特徴とするモータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2010−75973(P2010−75973A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247628(P2008−247628)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】
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