説明

不飽和ポリエステル、ラジカル硬化性ビニル化合物およびカーボンナノチューブに基づく反応樹脂

不飽和ポリエステル、1以上のビニル化合物およびラジカル的に硬化することができる炭化水素カーボンナノチューブに基づく反応樹脂不飽和ポリエステルが記載され、該炭化水素カーボンナノチューブは不飽和ポリエステルに共有結合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ(以下、省略のためCNTとも称する)で強化され、および少なくとも1つの不飽和ポリエステル樹脂(放射線省略のためUP樹脂と称する)および少なくとも1つのラジカル重合性ビニルモノマーを含み、該カーボンナノチューブが不飽和ポリエステル樹脂に共有結合している硬化性成形性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
UP樹脂はそれ自体既知である。UP樹脂は、これと混和性のビニルモノマーの重合において架橋成分として主に働き、従って樹脂の硬化に影響を与える重合性二重結合を多く有する(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、1992年 v.A21)。
【0003】
UP樹脂は、特に建築工業、建設工業および電気工業における種々の用途のための成形性組成物として広く用いることができる。用いる処理法の例は、圧縮成形法および射出成形法である。引き続きの硬化は、通常、その製造中にUP成形性組成物に添加される開始剤としての有機パーオキシドの作用により熱的に行われる。
【0004】
負荷下でのポリマー部品の機械安定性について継続して増えつつある要求を充足するために、成形性組成物は、従来法により強化剤(ガラス繊維、鉱物フィラー、例えば滑石および炭酸カルシウム等、炭素繊維および種々のカーボンブラック)が与えられる。ある材料特性(例えば強度)の向上は、1以上の他の特性(例えば破壊靱性)の顕著な向上と関連する。
【0005】
近年では、強度および破壊靱性に関する逆効果があまり強くないナノ粒子フィラーがますます知られている。カーボンナノチューブ(CNT)は、機械特性および物理特性の顕著な組み合わせを有し、この群において特別な位置を占める。完全結晶構造を有する既知のカーボンナノチューブは、ナノメートル範囲における直径を有し、および1mm以下の長さに達する。これらは、約1TPaまでの極めて高い弾性係数および50〜100GPaの強度を有する。さらに、これらは、優れた電導体および熱導体である。原理上、上記のナノチューブは、熱可塑性プラスチックおよび熱反応性ポリマー組成物に組み込まれる場合、その機械特性についての正の効果を有するだけでなく、物質的に電導性にすることもできることが予想される。このさらなる選択は、上記のUP樹脂に基づく複合材料がしばしば電気工業および電子工業に用いられることが多いので、UP樹脂の場合に特に重要である。
【0006】
近年、単壁カーボンナノチューブ(SWCNT)および多壁カーボンナノチューブ(MWCNT)を添加剤としてUP樹脂に用いる研究が知られ始めている。
【0007】
出願公開WO2005/108485A2には、種々のポリマー材料(とりわけ、PVC、PVCC、PVDF、PMMA、PC、PA、PE、PS、PVA、PVAc)中における未変性CNTの安定性分散体の可能性のある製造が記載されている。CNTは、酸基、アミノ基および無水物基の添加によりポリマーマトリックス中で安定化され、上記のポリマー中に可溶性である。CNTとポリマーの割合[m(CNT)/m(コポリマー)]は0.001重量%〜1.0重量%である。
【0008】
特許明細書EP1580219B1には、CNTで強化された複合材料の製造方法が記載されている。また、該方法には、親水性CNT、すなわち親水性基を有する親水性CNTが含まれる。CNTで強化された樹脂原料を得るために、CNTおよび完成ポリマーは、異なった溶媒中に分散され、2つの溶液は共に混合され、該溶媒は除去される。該親水性基は、紫外線での照射により、プラズマ処理によりおよび/または強力な酸化剤での湿潤処理によりCNT中に導入される。樹脂材料として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂および不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。CNTで強化された原料は、射出成形法および圧縮成形法によりさらに処理される。
【0009】
Ago等(Adv.Mater.2002、14、19、第1380〜1383頁)は、CNTおよび不飽和ポリエステルに基づく複合材料の磁場における製造が研究した。
【0010】
TanogluおよびSchubertによる研究(European Polymer Journal、2007年、43、2、第374〜379頁)は、非官能基化CNTおよびアミノ基を含有するCNTで強化された不飽和ポリエステルが、純粋ポリマーより高い引張歪みを有することを示す。これにより、得られる材料の引張伸びが、CNTの量が複合材料中で増える場合に増加することを確立することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2005/108485号パンフレット
【特許文献2】欧州特許第1580219号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry」、1992年 v.A21
【非特許文献2】Ago、「Adv.Mater.2002」、第14巻、第19号、第1380〜1383頁
【非特許文献3】TanogluおよびSchubert、「European Polymer Journal」、2007年、第43巻、第2号、第374〜379頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、可能な限り低い総濃度のCNTを用いるにも拘わらず、さらなる実質的改良を、得られる成形体の機械特性にもたらす不飽和ポリエステルを含む樹脂中でCNTを用いるための可能性を見出すことであった。
【0014】
今日まで行われた全ての研究は、共通した1つの点を有する:添加剤として用いるSWCNTまたはMWCNTを、ポリマーマトリックスと共に物理的混合物として存在させる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
意外にも、CNTを、特に0.001〜1.0重量%の量で、CNTが不飽和ポリエステル樹脂に共有結合するような方法でUP樹脂成形性組成物中に導入する場合には、少なくとも15N/mmの水準、場合によっては25/mmの水準への複合材料の引張歪み強度の実質的増加が得られることを見出した。
【0016】
比較試験は、上記の値が、CNTを有さない試料の引張強度を少なくとも300%越えることを見出した。得られた強化は、非共有結合CNTを用いた場合に得られる強化よりも著しく大きい。
【0017】
本発明は、不飽和ポリエステル、1以上のラジカル硬化性ビニル化合物およびカーボンナノチューブに基づき、該カーボンナノチューブが不飽和ポリエステルに共有結合していることを特徴とする反応樹脂を提供する。
【0018】
本発明はまた、少なくとも1つのCNT粒子と少なくとも1つの共有結合し、ポリエステル樹脂の製造のための基本成分として該形態で用いることができる不飽和ポリエステルを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好ましいのは、不飽和ポリエステルが、
a) α,β−不飽和酸成分、
b) 1以上の多価アルコール、および
c) 1以上のカルボン酸またはアルコール基を有する変性カーボンナノチューブ
の単位から構成されることを特徴とする反応樹脂である。
【0020】
本発明の範囲内の不飽和ポリエステルは、エステル基(−COO−)および炭素−炭素二重結合をポリマー骨格中に有する縮合生成物を意味すると理解される。このような生成物は通常、エステルのような態様で多価、特に2価のアルコールに結合する、多価、特に2価のカルボン酸およびそのエステル化誘導体、特にその無水物またはアルキルエステルから溶融縮合または共沸縮合により製造され、必要に応じてさらなる1価カルボン酸または1価アルコールを含有し、用いる少なくとも幾つかの物質はエチレン性不飽和共重合性基を有する。
【0021】
また、用いる物質は、縮合に用いる他の物質と少なくとも1つエステル結合することができる少なくとも1つの化学的配置を有するように変性されるカーボンナノチューブを含み、エステル結合は、カーボンナノチューブをポリマー骨格に結合する。
【0022】
好ましいのは、反応樹脂が20〜90重量%、好ましくは30〜80重量%、特に好ましくは50〜75重量%の共有結合したカーボンナノチューブを有する不飽和歩玲エステルを含有することを特徴とする反応樹脂である。
【0023】
炭素−炭素二重結合のキャリアとして、特にα,β−不飽和ジカルボン酸または不飽和ジオールが挙げられ、α,β−不飽和ジカルボン酸が好ましい。
【0024】
特に好ましいα,β−不飽和酸成分は、シトラコン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸およびマレイン酸およびその無水物またはアルキルエステル、好ましくはメチルエステルであり、フマル酸、マレイン酸およびその無水物が極めて特に好ましい。
【0025】
さらなる酸成分として、脂肪族、脂環式および/または芳香族モノ−、ジ−および/またはポリカルボン酸、例えばセバシン酸、ドデカン二酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸およびプロメリット酸等を、本発明に関連する縮合反応にさらに用いることができる。上記の酸成分は、完全または部分的に無水物またはアルキルエステル、好ましくはメチルエステルの形態で存在させてよい。
【0026】
さらなる成分として、少なくとも1つのカーボンナノチューブ1個あたり1個のカルボキシル基を有する変性カーボンナノチューブを用いる。上記のカーボンナノチューブは、特に単壁カーボンナノチューブ(SWCNT)および多壁カーボンナノチューブ(MWCNT)、好ましくは多壁カーボンナノチューブ(MWCNT)であると理解され、これらは、強力な酸化剤、例えば発煙硝酸等で、カルボン酸基を粒子の末端およびカーボンナノチューブの表面上の欠陥部位で形成することができるように処理される。カルボン酸基を有する上記の変性カーボンナノチューブおよびその製造方法は、原理上それ自体既知である(H.Hu、R.C.Haddon、Chem.Phys.Let.2001年、304、25)。
【0027】
カーボンナノチューブの機能化に用いる酸化剤は、好ましくは以下の群からの酸化剤である:硝酸、過酸化水素、オゾン、過マンガン酸カリウムおよび硫酸またはこれらの剤の可能な混合物。硝酸、または硝酸および硫酸の混合物は、好ましく用いられ、硝酸が特に好ましく用いられる。
【0028】
好ましいのは、カーボンナノチューブが、ポリエステルとの共有結合に少なくとも部分的に含まれる基−OHおよび酸−COOHからの酸素含有基で官能基化されていることを特徴とする反応樹脂である。
【0029】
特に好ましいのは、カーボンナノチューブの官能基−OHおよび/または−COOHの割合が少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%である反応樹脂である。
【0030】
本発明の範囲内のカーボンナノチューブは、円筒型、スクロール型の、またはオニオン型構造を有する全ての単壁カーボンナノチューブまたは多壁カーボンナノチューブである。好ましくは、円筒型、スクロール型またはこれらの混合物の多壁カーボンナノチューブを用いる。
【0031】
カーボンナノチューブを、完成化合物中に、特に、ポリマーおよびカーボンナノチューブの混合物を基準として0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の量で用いる。マスターバッチ中では、カーボンナノチューブの濃度は必要に応じてより高い。
【0032】
特に好ましくは、外径に対する長さの比が5より大きい、特に好ましくは100より大きいカーボンナノチューブを用いる。
【0033】
カーボンナノチューブは、特に好ましくは凝集体の形態で用い、該凝集体は特に、0.05〜5mm、好ましくは0.1〜2mm、特に好ましくは0.2〜1mmの範囲の平均直径を有する。
【0034】
1個の連続的または破壊したグラフェン層のみを有する始めに記載のスクロール型の既知のCNTに対して、幾つかのグラフェン層からなるCNT構造が近年発見され、これらは組み合わさって堆積し、ロールアップ形態(マルチスクロール型)で存在する。これらのカーボンナノチューブおよびそのカーボンナノチューブ凝集体は、例えば、公式ファイル参照102007044031.8を有する未公開独国特許出願により提供される。CNTおよびその製造について、その内容を本出願の開示にここに組み込む。単純スクロール型のカーボンナノチューブに関連するCNT構造の挙動は、単壁円筒カーボンナノチューブ(円筒SWNT)の構造に比べて多壁円筒モノカーボンナノチューブ(円筒MWNT)の構造の挙動に匹敵する。
【0035】
オニオン型構造とは異なって、これらのカーボンナノチューブにおける個々のグラフェンまたはグラファイト層は、断面から見た場合、CNTの中央から中断することなく外側に連続的に明確に続く。これは、より開放した端が、単純スクロール構造を有するCNT(Carbon 34、1996年、第1301〜3頁)またはオニオン型構造を有するCNT(Science 263、1994年、第1744〜7頁)と比べて挿入のための入り口帯域として利用できるので、物質の向上した、より急速な挿入をチューブ構造において可能とする。
【0036】
カーボンナノチューブの製造のために今日知られている方法としては、アーク放電法、レーザーアブレーション法および触媒法が挙げられる。これらの方法の多くは、カーボンブラック、非晶質炭素および大きな直径を有する繊維が副生成物として形成される。触媒法の場合には、担持触媒粒子上の堆積物とナノメーター範囲の直径を有するインサイチュで形成される金属中心上の堆積物との間に区別がなされ得る(いわゆる流れ法)。反応条件下でガス状である炭化水素からの炭素の触媒的堆積による製造の場合(以下、CCVD;触媒的炭素蒸着)、アセチレン、メタン、エタン、エチレン、ブタン、ブテン、ブタジエン、ベンゼンおよびさらなる炭素含有出発物質が可能性のある炭素供与体として挙げられる。従って、触媒法から得られるCNTは好ましく用いられる。
【0037】
一般に、触媒は、金属、金属酸化物または分解性もしくは還元性金属成分を含む。例えば、Fe、Mo、Ni、V、Mn、Sn、Co、Cuおよび他の亜群金属が触媒のための金属として先行技術に挙げられている。ほとんどの個々の金属は、カーボンナノチューブの形成を補助する傾向を有するが、高収率および非晶質炭素の低含量が先行技術に従って、上記金属の組合せに基づく金属触媒により有利に達成される。その結果、混合触媒を用いて得られるCNTは、好ましく用いられる。
【0038】
CNTの調製のための特に有利な触媒系は、群Fe、Co、Mn、MoおよびNiからの2以上の元素を含有する金属または金属化合物の組み合わせに基づく。
【0039】
経験から、カーボンナノチューブの形成および形成されたチューブの特性は、複雑な様式で、触媒として用いられる金属成分または複数の金属成分の組合せ、必要に応じて用いられる触媒担体材料、および触媒と担体との間の相互作用、出発物質ガスおよび分圧、水素またはさらなるガスの添加、反応温度および滞留時間または使用される反応器に依存することが示された。
【0040】
カーボンナノチューブの製造に用いるべき特に好ましい方法は、WO2006/050903A2から既知である。
【0041】
種々の触媒系を用いるこれまでに記載の種々の方法は、種々の構造のカーボンナノチューブを生成し、これは、大部分はカーボンナノチューブパウダーの形態で工程から取り出すことができる。
【0042】
本発明により好適なカーボンナノチューブは、原理上、以下の文献参照に記載された方法により得られる。
【0043】
100nm未満の直径を有するナノチューブの製造は、EP205556B1に初めて記載されている。この製造のために、軽質(すなわち、短鎖および中鎖脂肪族または単核または二核芳香族)炭化水素および鉄系触媒(この触媒によって炭素担体化合物は800℃超〜900℃の温度にて分解される)が用いられる。
【0044】
WO86/03455A1には、3.5〜70nmの一定直径、100を越えるアスペクト比(長さと直径の比)およびコア領域を有する円筒構造を有するカーボンフィラメントの製造が記載されている。これらのフィブリルは、多くの規則的な炭素原子の連続層からなり、これらはフィブリルの円筒軸の周りに同心円上に配置されている。これらの円筒状ナノチューブは、CVD法によって炭素含有化合物から金属含有粒子を用いて850℃〜1200℃の温度で製造された。
【0045】
WO2007/093337A2には、円筒構造を有する通常のカーボンナノチューブの製造に適している触媒の製造方法が開示されている。この触媒を固定床において用いる場合、5〜30nmの範囲での直径を有する比較的高い収率の円筒形カーボンナノチューブが得られる。
【0046】
円筒カーボンナノチューブの完全に異なった製造方法は、Oberlin、EndoおよびKoyamによって記載されている(Carbon 14、1976年、第133頁)。この方法では、芳香族炭化水素、例えばベンゼンを、金属触媒により反応させる。得られるカーボンナノチューブは、さらなるより少ないグラファイト的に配置された炭素が見出される、ほぼ触媒粒子の直径を有する明確なグラファイト中空コアを示す。カーボンチューブ全体は、高温(2500℃〜3000℃)での処理によってグラファイト化することができる。
【0047】
現在、上記の方法(アーク放電、噴霧熱分解またはCVD)のほとんどは、カーボンナノチューブの製造に用いられる。しかしながら、単壁円筒カーボンナノチューブの製造は、装置について極めて費用がかかり、既知の方法により、極めて低い形成速度で、しばしば多くの二次反応を伴って進行し、これは、高い割合の望ましくない不純物を生じさせ、すなわち、このような方法の収率は比較的低い。このため、このようなカーボンナノチューブの製造は今日でも未だ極めて技術的に複雑であり、これらは少量で非常に特定の用途に用いられる。しかしながら、本発明のためのその使用は考えられるが、円筒またはスクロール型の多壁CNTの使用より好ましくない。
【0048】
現在、多壁カーボンナノチューブは、互いにネスト化されたシームレス円筒形ナノチューブの形態またはスクロール型またはオニオン型の形態で、商業的に大部分は触媒法を用いて比較的多くの量で製造されている。これらの方法は、通常、上記のアーク放電法および他の方法よりも高い収率を示し、現在、kg規模(世界的に1日あたり数百キロ)で通常行われている。このようにして製造される多壁カーボンナノチューブは、概して、単壁ナノチューブよりもいくぶん高価でなく、従って、他の物質中で、例えば性能強化添加剤として用いられる。
【0049】
好ましいアルコール成分は、次の群からの多価アルコールである:直鎖および/または分枝状の脂肪族および/または脂環式および/または芳香族ジオールおよび/またはポリオール、例えばエチレングリコール、1,2−および/または1,3−プロパンジオール、1,2−および/または1,4−ブタンジオール、1,3−ブチルエチルプロパンジオール、1,3−メチルプロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレン、トリエチレン、テトラエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ビスフェノールA、B、C、F、ネオボルニレングリコール、1,4−ベンジルジメタノールおよび1,4−ベンジルジエタノール、特に好ましくはブタンジオール。
【0050】
アルコール成分は、特に、カーボンナノチューブを含む酸成分の合計に対して0.8〜1.5:1のモル比で用いられる。アルコール成分と酸成分の合計との比は、好ましくは0.9〜1.1:1である。
【0051】
不飽和ポリエステルは、先行技術から原理上既知の方法により、溶融縮合または80℃〜220℃の温度での共沸条件下での縮合により、上記の出発成分から連続法またはバッチ法により製造される。
【0052】
硬化性成形性組成物を製造するために、少なくとも1つの重合成ビニルモノマーは通常、不飽和ポリエステルと混合する。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、メチルメタクリレート、酢酸ビニル、ジアリルフタレートおよびジアリルイソフタレートを添加する。スチレンが特に好ましい。
【0053】
添加ビニルモノマーの重量は、好ましくは全成形性組成物の5〜70%である。30〜60重量%の添加ビニルモノマーの重量は特に好ましい。
【0054】
硬化性成形性組成物(反応樹脂)のさらなる構成物質は、特に0.1〜4重量%、好ましくは0.2〜2重量%であり、重合開始剤である。50℃を超えてラジカルに分解する従来法によるパーオキシド、例えばジアシル過酸化物、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーケタール、ヒドロキシパーオキシド、ケトパーオキシドおよびジアルキルパーオキシドは、開始剤として用いることができる。典型的なアゾ開始剤も適当である
【0055】
新規な反応樹脂に、次の群からのさらなる成分を添加することができる:充填剤、顔料、分散剤、安定剤、滑剤および防炎加工剤、液体添加剤
特に水または油および/またはガス状充填剤、特に空気、窒素または二酸化炭素。
【0056】
さらなる充填剤として、0〜300重量%の着色剤および顔料チョーク、水晶粉末、滑石、カオリンを添加することができる。液体添加剤、例えば水または油、および/またはガス状充填剤、たとえば空気、窒素、二酸化炭素等を必要に応じて用いることもできる。
【0057】
収縮低減剤または可塑剤として熱可塑性ポリマー、例えばポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステルおよび熱可塑性ポリウレタン等を、5〜50重量%(全UP樹脂を基準)の量で好ましく添加する。
【0058】
マグネシウム、亜鉛またはカルシウムの酸化物および水酸化物は、必要に応じて、増粘剤として成形性組成物に添加することができる。イソシアネートは、必要に応じてアミンと組み合わせて増粘剤として用いることができる。
【0059】
成形性組成物に添加することができるさらなる物質は、抑制剤、滑剤、促進剤、離型剤および防炎加工剤である。
【0060】
成形体をさらに強化するために、ガラスの無機および/または有機ファイバー、セルロース、ポリエチレン、ポリアミドまたは炭素繊維を短いまたは長い繊維、シート、織物またはマットの形態で成形性組成物(反応樹脂)に添加または加工中に組み込むことができる。
【0061】
既成の成形性組成物(反応樹脂)は、充填、圧縮または射出により鋳型に導入し、60〜200℃の温度で硬化させる。
【0062】
同様に、既成の反応樹脂の成形性組成物を、被覆物、充填組成物、接着組成物としてまたはフォームとして適用し、硬化することができる。
【0063】
本発明は、共有結合したカーボンナノチューブを含む不飽和ポリエステル樹脂(UP樹脂)を含む本発明の硬化性成形組成物の製造方法をさらに提供する。
【0064】
新規な反応樹脂の新規な製造方法は、カーボンナノチューブが酸化により1以上のカルボン酸基またはアルコール基により官能基化され、該官能基化カーボンナノチューブを、酸成分、特にマレイン酸、フマル酸または無水マレイン酸と混合した1以上の多価アルコール、特にジオール中に分散し、不飽和ポリエステルに凝縮し、該官能基化カーボンナノチューブを共有結合し、該ポリエステルに、以下の群:スチレン、α−メチルスチレン、メチルメタクリレート、ビニルトルエン、酢酸ビニル、ジアリルフタレートおよびジアリルイソフタレートから選択された1以上のビニルモノマー、ならびにラジカル開始剤を添加することを特徴とする。
【0065】
特に、新規な方法は、特に、以下に記載の以下の工程から構成される:
【0066】
粒子の表面にカルボン酸基をもたらす働きをする、カーボンナノチューブの化学変性(工程1)。カーボンナノチューブの変性を、高温で、例えば硫酸または発熱硝酸のような酸性化酸中で行う。成功した反応は、FT−IR検出器を用いて検出することができる。1684cm−1の波長で、芳香族カルボン酸中のカルボニルバランス振動に起因する広帯域が生ずる。化学変性は、CNTの分散挙動を向上させ、分散体の著しい安定性を生じさせる。
【0067】
ジオール中に分散した、工程1において変性したCNT、および不飽和カルボン酸またはその無水物からなる、反応混合物(工程2)の縮合反応による不飽和ポリエステルの製造(これは、カーボンナノチューブを不飽和ポリエステルに共有的に結合する働きをする)。このような結合は、成形性組成物中でCNTのより良好な分布をもたらし、硬化成形体のポリマーネットワーク中にCNTの しっかりした結合をもたらす。これらは、成形体の機械特性において実質的な向上を得るための最良の条件である。
【0068】
反応混合物の全重量を基準として、0.001〜1重量%の量で変性工程1において変性したCNTを、ジオール中に、例えば超音波粉砕機(例えばBranson製)を用いて極めて微細に懸濁する。超音波への暴露を特にいくつかの工程において行い、この粉砕は分散体を冷却する働きをする。超音波に暴露する間、分散体の連続的な冷却をさらに確保する。 不十分な量、特に5%の不十分な量の不飽和二価カルボン酸の無水物を、得られる安定性懸濁液に添加し、これは窒素で特に80℃にてフラッシュする。次いで、例えば100℃での16時間までの予備縮合後、懸濁液を、水分離器を用いて特に数時間、高温で、例えば5時間、190℃で撹拌する。
【0069】
このようにして形成されたナノチューブポリエステル反応生成物を特に140℃に冷却し、ビニルモノマーを特に1:2〜2:1の重量比で添加する(工程3)。成分を完全に混合することを確保するために、反応混合物を、特に1分間140℃で撹拌し、次いで室温に冷却する。次いで、過酸化物開始剤を、反応樹脂を形成するために成形性組成物に添加し、成形性組成物を必要に応じて鋳型に注入する。樹脂の架橋を、高温で、例えば80℃で行うことができる。
【0070】
以下の実施例では、未変性CNTを含有するまたは全くCNTを含まない比較試料を、基本的には同一の手段により製造した。
【0071】
本発明のさらに特に好ましい形態は、共有結合したカーボンナノチューブを有する不飽和ポリエステルおよびこれから得られる硬化性成形性組成物であり、これは以下の成分から上記の方法により製造され、
Bayer MaterialScience AGからのBaytubes C150Pをカーボンナノチューブとして用い、
無水マレイン酸を酸成分として用い、
1,4−ブタンジオールを多価アルコールとして用い、
スチレンをビニルモノマーとして用い、および
ジベンゾイル過酸化物(DBPO)を開始剤として用いる。
【0072】
これにより得られた硬化成形体および皮膜を以下の実施例において試験した。
【0073】
本発明を詳細に以下、実施例により説明するが、これは本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0074】
実施例1
標準製造手順
共有結合変性MWCNTで強化され、およびスチレンで架橋した不飽和ポリエステルの標準製造方法は以下の通りである:
【0075】
カーボンナノチューブ(型Baytubes C 150 P、製造業者Bayer MaterialScience AG)を18時間発煙硝酸中で沸騰させることにより製造し、蒸留水で数回洗浄した。カルボン酸基で変性されたカーボンナノチューブを、1重量%までの特定量でブタンジオール中に懸濁した。懸濁液を、冷却しながら超音波に、5回2分間、Branson Sonifier W−450 D(先端の含浸の深さ:1〜1.5cm)を用いて暴露した。このようにして形成した懸濁液を、隔膜、磁気撹拌棒、水分離基、還流冷却器および気泡カウンターを有する2口フラスコにできる限り完全に移した。そこに、懸濁液の量を基準として、5%モル不足の無水物成分、ここでは無水マレイン酸を添加した。懸濁液を80℃に撹拌しながら加熱した。懸濁液を3時間該温度で撹拌した。この時間中に、窒素を1時間懸濁液へ通過させた。次いで、該混合物を100℃に加熱し、18時間撹拌した。次いで、190℃に加熱し、さらに6時間加熱した。この時間中に、1〜1.2mlの水を水分離器中で分離した。次いで、該懸濁液を冷却した。これを冷凍室中で貯蔵することが望ましい。
【0076】
さらなる処理のために、該ポリエステルを140℃に加熱した。その温度で、蒸留スチレン(無水物成分に対して1:1のモル比)を、強撹拌しながら添加した。該混合物を、1分間その温度で撹拌し、次いで、室温にできる限り急速に冷却した。この場合、該分散体は、さらに加工するのに充分に液体であった。ビニル成分を含む懸濁液の全量を基準として4重量%のジベンゾイル過酸化物を添加し、撹拌を短時間行い、該混合物をテフロン鋳型に試験試料を製造するために注入した。鋳型を乾燥機中に設置し、これを、密閉中に、窒素で3分間フラッシュし、次いで16時間80℃で乾燥棚中に設置した。完成試験試料をヘラを用いて注意深く持ち上げ、テフロン鋳型から取り出した。
【0077】
【表1】

【0078】
実施例2(比較試験)
実施例1と同様に、組み込んだ未変性カーボンナノチューブBaytubes C 150 Pを含有する試料を製造した。該組成物を表2に見ることができる。
【0079】
【表2】

【0080】
実施例3
引張歪み強度を、IN53504に従って、Zwick製引張歪み機(力変換器500N、変位センサー:横断、温度:室温、ノギスを用いて皮膜寸法を決定)を用いて試験した。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
樹脂添加剤として未変性CNT(実施例5)を含有する不飽和ポリエステル樹脂と比べて、変性CNTを含有する不飽和ポリエステル樹脂は、著しくより高い引張強度を標準試験において示す。
【0083】
実施例4
試料の破壊挙動を、3点曲げ試験においてInstron 5566装置上で調査した。試験速度は、5mm/分であった。支持体間隔は20mmであった。支持体/ハンマーの頭の直径は10mmおよび5mmであった。結果を表4に要約した。
【0084】
【表4】

【0085】
曲げ試験は、未変性CNTを添加剤として含有する不飽和ポリエステル樹脂と比較して、変性CNTを添加剤として含有する不飽和ポリエステル樹脂の比較的著しくより高い曲げ強度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル、1以上のラジカル硬化性ビニル化合物、重合開始剤およびカーボンナノチューブに基づく反応樹脂であって、該カーボンナノチューブが該不飽和ポリエステルに共有結合していることを特徴とする、反応樹脂。
【請求項2】
不飽和ポリエステルは、
a)α,β−不飽和酸成分、
b)1以上の多価アルコール、および
c)1以上のカルボン酸基またはアルコール基を有する変性カーボンナノチューブ
の単位から構成されることを特徴とする、請求項1に記載の反応樹脂。
【請求項3】
ラジカル硬化性ビニル化合物は、群:スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、メチルメタクリレート、酢酸ビニル、ジアリルフタレートおよび/またはジアリルイソフタレートから選択される少なくとも1つの化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の反応樹脂。
【請求項4】
樹脂は、5〜70重量%、好ましくは30〜60重量%のラジカル硬化性ビニル化合物を含有することを特徴とする、請求項3に記載の反応樹脂。
【請求項5】
不飽和ポリエステルは、群:シトラコン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸およびマレイン酸またはこれらの無水物またはアルキルエステル、好ましくはフマル酸、マレイン酸および無水マレイン酸からの少なくとも1つのα,β−不飽和酸成分から構成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の反応樹脂。
【請求項6】
カーボンナノチューブの含量は、3重量%以下、好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.2重量%以下、さらに特に好ましくは0.05重量%以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の反応樹脂。
【請求項7】
多価アルコールは、群:直鎖および/または分枝状の脂肪族および/または脂環式および/または芳香族ジオールおよび/またはポリオール、特にエチレングリコール、1,2−および/または1,3−プロパンジオール、1,2−および/または1,4−ブタンジオール、1,3−ブチルエチルプロパンジオール、1,3−メチルプロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレン、トリエチレン、テトラエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールC、ビスフェノールF、ネオボルニレングリコール、1,4−ベンジルジメタノールおよび1,4−ベンジルジエタノール、特に好ましくはブタンジオールから選択されることを特徴とする、請求項2〜6のいずれかに記載の反応樹脂。
【請求項8】
カーボンナノチューブは、ポリエステルと少なくとも部分的に共有結合する、基−OHおよび−COOHからの酸素含有基で官能基化されていることを特徴とする、請求項2〜7のいずれかに記載の反応樹脂。
【請求項9】
カーボンナノチューブの官能基−OHおよび/または−COOHの割合は、少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の反応樹脂。
【請求項10】
樹脂は、0.1〜4重量%、好ましくは0.2〜2重量%の重合開始剤を含有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の反応樹脂。
【請求項11】
樹脂は、20〜90重量%、好ましくは30〜80重量%、特に好ましくは50〜75重量%の、共有結合カーボンナノチューブを含有する不飽和ポリエステルを含有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の反応樹脂。
【請求項12】
カーボンナノチューブが、1以上のカルボン酸基またはアルコール基により酸化によって官能基化され、該官能基化カーボンナノチューブを、不飽和酸成分、特にマレイン酸、フマル酸または無水マレイン酸と混合した1以上の多価アルコール、特にジオール中に分散し、不飽和ポリエステルに凝縮し、該官能基化カーボンナノチューブを該ポリエステル中に共有結合し、該ポリエステルに、以下の群:スチレン、メチルスチレン、メチルメタクリレート、酢酸ビニル、ジアリルフタレートおよびジアリルイソフタレートから選択された1以上のビニルモノマー、ならびにラジカル開始剤を添加することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の反応樹脂の製造方法。
【請求項14】
カーボンナノチューブの分散を超音波照射により補助し、縮合を水の除去により高温で行うことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
被覆物のための、フォームとしての、および充填組成物および接着組成物としての、成形体の製造における、請求項1〜11のいずれかに記載の反応樹脂の使用。

【公表番号】特表2011−519986(P2011−519986A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505400(P2011−505400)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002663
【国際公開番号】WO2009/129936
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】