説明

不飽和ポリエステルを製造するための方法

本発明は、反応性不飽和としてイタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステル樹脂を製造する方法であって、少なくともイタコン酸および/またはイタコン酸無水物および少なくとも1種類のジオールをベンゾキノンおよび/またはアルキル置換ベンゾキノンの存在下で反応させる工程を含み、ベンゾキノンとアルキル置換ベンゾキノンの総量が少なくとも200ppmである、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、樹脂における反応性不飽和としてイタコン酸エステル単位を含む、構造部品の製造で使用するのに適している不飽和ポリエステル樹脂を製造する方法に関する。
【0002】
構造部品を得るために現在利用されている不飽和ポリエステル樹脂組成物は、共重合性反応性希釈剤としてかなりの量のスチレンを含有する場合が多い。スチレンが存在する結果、製造および硬化中だけでなく、予想されるその長期間の使用中にでさえも、スチレンが漏れることがあり、不快な臭気が生じ、毒性作用さえ生じる可能性がある。したがって、スチレンの放出を低減することが望まれる。不飽和ポリエステル樹脂が共重合性のみであるという事実のために、硬化組成物の特性に有害な影響を及ぼすことなく、スチレン含有樹脂中のスチレンの量をさらに減らすことができない。したがって、単独重合性不飽和ポリエステル樹脂が必要とされている。本明細書で使用される、イタコン酸エステル単位を反応性不飽和として含む不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ジカルボン酸構成単位の少なくとも25重量%が単独重合できる場合、すなわちイタコン酸構成単位である場合には、単独重合性であるとみなされる。
【0003】
しかしながら、単独重合性不飽和ポリエステル樹脂は、その製造中に、特に樹脂の原料すべてが高温で混合されて縮合される標準UP合成手順を適用した場合に、ゲル化する(つまり、重合する)傾向があることが判明した。
【0004】
構造部品の製造に使用される不飽和ポリエステルに関しては、反応性希釈剤で樹脂を希釈しておいた後に、不飽和ポリエステルがラジカル重合(つまり、硬化)できなければならない。これは、不飽和ポリエステル樹脂を製造する間、ゲル化を避ける必要があることを意味している。
【0005】
国際公開第A−9727253号パンフレットに、イタコン酸ベースの粉体塗料樹脂の合成が記載されている。この特許公開において、樹脂の原料すべてが高温で混合されて縮合される標準UP合成手順は適用されていない。ヒドロキシル官能性ポリマーまたはオリゴマーが第2工程においてイタコン酸で修飾され、低い酸価へと縮合される、プレポリマーアプローチを用いることによって、あるいはヒドロキシル官能性ポリマーがイタコン酸無水物で修飾され、高酸価樹脂が形成される、無水物アプローチを用いることによって、単独重合性イタコン酸ベースの不飽和ポリエステルが製造されている。
【0006】
仏国特許第A−1295841号明細書には、ヒドロキノンの存在下にて標準不飽和ポリエステル合成手順を適用する、反応性不飽和としてイタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステルの製造が開示されている。ヒドロキノンを使用する不利点の1つは、樹脂の硬化速度が影響を受けることである。抑制剤が、樹脂の硬化特性に影響を及ぼすことはよく知られている。したがって、樹脂の製造に適用することができる代替の抑制剤を有することが望まれる。さらに、樹脂合成で使用される抑制剤は、硬化樹脂の機械的性質に負の影響を有し得る。これを考慮して、樹脂の製造に適用することができる代替の抑制剤を有することが望まれる。したがって、イタコン酸エステル単位を有する不飽和ポリエステルの製造に使用することができる代替の抑制剤を有することが強く望まれる。
【0007】
本発明の目的は、反応性不飽和としてイタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステルを製造するための、標準不飽和ポリエステル合成手順において適用することができる代替の抑制剤を提供することであり、それにより、製造される樹脂の粘度は同等以下であり、硬化樹脂の機械的性質は同等以上である。
【0008】
驚くべきことに、方法が、少なくともイタコン酸および/またはイタコン酸無水物および少なくとも1種類のジオールをベンゾキノンおよび/またはアルキル置換ベンゾキノンの存在下にて反応させる工程を含み、ベンゾキノンおよびアルキル置換ベンゾキノンの総量が少なくとも200ppm(不飽和ポリエステルの製造に使用される原料の総量に対して)であるという点から、この目的が達成されている。
【0009】
ヒドロキノン100ppmを適用した場合にはゲル化は起こらず、ベンゾキノンまたはアルキル置換ベンゾキノン100ppmを適用すると、樹脂のゲル化が起こることから、これはさらに驚くべきことである。
【0010】
本発明の方法の他の利点は、本発明による方法を用いて製造された樹脂をベースとする硬化物の機械的性質、特にHDTが改善されることである。
【0011】
本発明の方法は好ましくは:
(i)イタコン酸および/またはイタコン酸無水物、任意に他のジカルボン酸、少なくとも1種類のジオールおよび抑制剤を反応器に装入する工程、
(ii)酸価が60未満になるまで、温度180〜200℃まで加熱する工程、
(iii)樹脂を好ましくは20〜120℃に冷却する工程、
(iv)任意に、反応性希釈剤で樹脂を希釈する工程
を含み、
(v)抑制剤がベンゾキノンおよび/またはアルキル置換ベンゾキノンであり、ベンゾキノンおよびアルキル置換ベンゾキノンの総量が少なくとも200ppmである。本明細書で使用される、「少なくとも」とは、それより高いまたはそれに等しいこと意味する。
【0012】
好ましくは、ベンゾキノンおよびアルキル置換ベンゾキノン抑制剤の総量は、少なくとも300ppmであり、さらに好ましくは、ベンゾキノンおよびアルキル置換ベンゾキノン抑制剤の量は少なくとも400ppmである。更なる抑制剤の存在下で方法を行ってもよい。本発明の方法は好ましくは、最大で2000ppm、さらに好ましくは最大で750ppmの抑制剤の存在下で行われる。
【0013】
好ましい実施形態において、アルキル置換ベンゾキノンの存在下で方法が行われ、この結果、ベンゾキノンを使用した場合と比較して、製造された樹脂の粘度が低くなる。
【0014】
他の好ましい実施形態において、ベンゾキノンおよびアルキル置換ベンゾキノンの存在下で方法が行われる。この好ましい実施形態において、方法は好ましくは、少なくとも200ppmのアルキル置換ベンゾキノンの存在下および少なくとも200ppmのベンゾキノンの存在下で行われる。ベンゾキノンとアルキル置換ベンゾキノンの組み合わせを用いることによって、硬化樹脂の熱安定性が維持されると同時に、製造された樹脂の粘度の減少に対して相乗効果がもたらされることが判明した。
【0015】
アルキル置換ベンゾキノンの非制限的な例は、2−メチルベンゾキノン、2,3−ジメチルベンゾキノン、2,5−ジメチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、トリメチルベンゾキノン、テトラメチルベンゾキノン、2−t−ブチルベンゾキノン、2−t−ブチル6−メチルベンゾキノンである。好ましいアルキル置換ベンゾキノンは、2−メチルベンゾキノンである。
【0016】
本発明による不飽和ポリエステルは、以下の構造式:
【化1】



を有する構成単位として、イタコン酸エステル単位を含む。
【0017】
イタコン酸エステル単位(イタコン酸構成単位とも呼ばれる)は、不飽和ポリエステルがその中で希釈される、共重合性モノマーと共重合することができるエチレン性不飽和を含有する。本発明による不飽和ポリエステルは、不飽和ジカルボン酸として少なくとも1種類のジオールおよびイタコン酸もしくはイタコン酸無水物を重縮合することによって製造することができる。反応性不飽和を含有する他のジカルボン酸、例えばマレイン酸もしくはマレイン酸無水物およびフマル酸の存在下にて、かつ/または飽和脂肪族ジカルボン酸もしくは無水物、例えばシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸の存在下にて、かつ/または芳香族飽和ジカルボン酸もしくは無水物、例えばフタル酸もしくは無水物およびイソフタル酸の存在下で重縮合を行うこともできる。この重合において、例えば1,2−プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、水素化ビスフェノールAまたはエトキシ化/プロポキシル化ビスフェノールAなどのジオールがさらに使用される。
【0018】
好ましい実施形態に従って、不飽和ポリエステル樹脂におけるジオールの分子量は、60〜250ダルトンの範囲である。好ましい実施形態において、ジオールの少なくとも一部は、イソソルビドまたは1,3−プロパンジオールまたはその両方から選択され、好ましくは、例えばトウモロコシなどの非化石資源から誘導される。
【0019】
好ましくは、二酸の総量は、20〜80モル%の範囲であり、ジオールの総量は、20〜80モル%の範囲である(100モル%がジオールと二酸の合計である)。
【0020】
本発明による不飽和ポリエステル樹脂において、好ましくは、ジカルボン酸構成単位の少なくとも25重量%がイタコン酸構成単位である。さらに好ましくは、本発明による不飽和ポリエステルにおけるジカルボン酸構成単位の少なくとも55重量%がイタコン酸構成単位である。
【0021】
本発明による不飽和ポリエステルは好ましくは、単独重合性である。不飽和ジカルボン酸構成単位の好ましくは少なくとも25重量%、さらに好ましくは少なくとも55重量%がイタコン酸構成単位である。
【0022】
好ましい実施形態において、イタコン酸またはイタコン酸無水物の少なくとも一部が、非化石資源、例えばトウモロコシから誘導される。
【0023】
反応性不飽和としてイタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステルは好ましくは、グリコールモノマー33〜66モル%、イタコン酸モノマー10〜66モル%、不飽和二酸モノマー(イタコン酸モノマー以外、例えばフマル酸およびマレイン酸モノマーなど)0〜65モル%、および不飽和二酸モノマー以外の二酸0〜65モル%、好ましくは不飽和二酸モノマー以外の二酸0〜50モル%で構成される。
【0024】
イタコネート含有不飽和ポリエステル樹脂の酸価は好ましくは、30〜100mgKOH/g(樹脂)、さらに好ましくは35〜75mgKOH/g(樹脂)の範囲である。本明細書で使用される、樹脂の酸価は、ISO 2114−2000に従って滴定により決定される。
【0025】
一実施形態において、本発明による不飽和ポリエステル樹脂におけるヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基のモル比は、0.33〜0.9の範囲である。他の実施形態において、本発明による不飽和ポリエステル樹脂におけるヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基のモル比は、1.1〜3の範囲である。
【0026】
イタコネート含有不飽和ポリエステル樹脂のヒドロキシル価は、好ましくは25mgKOH/g(樹脂)を超え、さらに好ましくは40mgKOH/g(樹脂)を超える。本明細書で使用される、イタコネート含有ポリエステルのヒドロキシル価は、ISO 4629−1996に従って決定される。
【0027】
好ましくは、反応性不飽和としてイタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステルの分子量は、少なくとも300ダルトン、好ましくは少なくとも500ダルトン、さらに好ましくは少なくとも750ダルトンである。好ましくは、反応性不飽和としてイタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステルの分子量Mnは、最大で10,000ダルトン、さらに好ましくは最大で5000ダルトンである。分子量(Mn)は、ポリスチレン標準物質および分子量の決定用に設計された適切なカラムを用いて、ISO 13885−1に従ってGPCによってテトラヒドロフラン中で決定される。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、分子量Mnは、750〜5000ダルトンの範囲である。
【0029】
不飽和ポリエステルのガラス転移温度Tは、好ましくは少なくとも−70℃、最大で100℃である。不飽和ポリエステルが建築用途に適用される場合には、本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tは、好ましくは少なくとも−70℃、さらに好ましくは少なくとも−50℃、またさらに好ましくは少なくとも−30℃である。本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tは、好ましくは最大で70℃、さらに好ましくは最大で50℃、またさらに好ましくは最大で30℃である。本明細書で用いられる、Tは、DSC(加熱速度5℃/分)を用いて決定される。
【0030】
本発明は、イタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステル、ベンゾキノンおよび/またはアルキル置換ベンゾキノンを含む樹脂組成物にも関する。好ましい実施形態において、樹脂組成物は、イタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステルおよびアルキル置換ベンゾキノンを含む。さらに好ましい実施形態において、樹脂組成物は、イタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステルおよび、ベンゾキノンおよびアルキル置換ベンゾキノンを含む。好ましくは、アルキル置換ベンゾキノンは2−メチルベンゾキノンである。好ましくは、樹脂組成物は、ベンゾキノンおよびアルキル置換ベンゾキノンを含み、ベンゾキノンとアルキル置換ベンゾキノンの総量は、少なくとも200ppm、さらに好ましくは少なくとも300ppm(樹脂組成物全体に対して)である。一般に、ベンゾキノンとアルキル置換ベンゾキノンの量は、最大で2000ppm、さらに好ましくは最大で750ppmである。樹脂組成物は好ましくは、反応性希釈剤を含む。
【0031】
一実施形態において、本発明による不飽和ポリエステル樹脂は、粉体塗料樹脂として塗布することができる。粉体塗料組成物の製造は、参照により本明細書に組み込まれる、「Powder Coatings,Chemistry and Technology」(pp.224〜300;1991,John Wiley)にMisevによって記載されている。したがって、本発明は、本発明による方法を用いて製造される不飽和ポリエステルを含む粉体塗料組成物にも関する。本発明による不飽和ポリエステルが粉体塗料組成物で使用される場合、不飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tは、好ましくは少なくとも20℃、さらに好ましくは少なくとも25℃、またさらに好ましくは少なくとも30℃、最大で100℃、さらに好ましくは最大で80℃、またさらに好ましくは最大で60℃である。
【0032】
粉体塗料組成物を製造する一般的な方法は、計量した成分をプレミキサーで別々に混合し、得られたプレミックスを例えばニーダー、好ましくは押出機において加熱して、押出し物を得て、得られた押出し物をそれが固化するまで冷却し、顆粒またはフレークに粉砕し、それをさらに粉砕して粒径を低減し、続いて適切に分級して、適切な粒径の粉体塗料組成物を得る方法である。したがって、本発明は、
a.粉体塗料組成物の成分を混合して、プレミックスを得る工程、
b.得られたプレミックスを好ましくは押出機において加熱し、押出し物を得る工程、
c.得られた押出し物を冷却し、固化押出し物を得る工程、
d.得られた固化押出し物を小さな粒子に粉砕し、粉体塗料組成物を得る工程、
を含み、好ましくは、このように製造された粉末粒子をふるいにより分級し、粒径90μm未満のふるい分級物を収集する更なる工程を含む、本発明による粉体塗料組成物を製造する方法にも関する。
【0033】
本発明の粉体塗料組成物は任意に、例えば充填剤/顔料、脱ガス剤、流れ調整剤、または(光)安定剤などの通常の添加剤を含有する。流れ調整剤の例としては、Byk361Nが挙げられる。適切な充填剤/顔料の例としては、金属酸化物、ケイ酸塩、炭酸塩または硫酸塩が挙げられる。適切な安定剤の例としては、例えば、ホスホナイト、チオエーテルまたはHALS(ヒンダードアミン光安定剤)などの紫外線安定剤が挙げられる。脱ガス剤の例としては、ベンゾインおよびシクロヘキサンメタノールジビスベンゾアートが挙げられる。摩擦帯電性を改善する添加剤などの他の添加剤も添加することができる。
【0034】
他の態様において、本発明は、以下の工程:
1)基材がコーティングで一部または完全にコーティングされるように、本発明による粉体塗料組成物を基材に塗布する工程;
2)そのコーティングが少なくとも一部硬化するような時間、かつ温度に、一部または完全にコーティングされた得られた基材を加熱する工程;
を含む、基材をコーティングする方法に関する。
【0035】
本発明の粉体塗料組成物は、当業者に公知の技術を用いて、例えば静電吹付けまたは静電流動床を用いて塗布することができる。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、本発明による方法はさらに、イタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステル樹脂を1種または複数種の反応性希釈剤で希釈して、建築用途に適用するのに適した樹脂組成物を得る工程を含む。好ましい実施形態において、イタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステルは、スチレン、イタコン酸ジメチルおよび/またはメタクリレート中で希釈される。
【0037】
本発明による樹脂組成物中のかかる反応性希釈剤の量は通常、5〜75重量%、好ましくは20〜60重量%の範囲、最も好ましくは30〜50重量%の範囲(樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルと反応性希釈剤の総量に対して)である。希釈剤は例えば、より容易にそれを取り扱うことができるようにするために、樹脂組成物の粘度を下げるため、適用される。明確にするために、反応性希釈剤は、不飽和ポリエステル樹脂と共重合することができる希釈剤である。エチレン性不飽和化合物を反応性希釈剤として有利に使用することができる。好ましくは、スチレン、イタコン酸ジメチルおよび/またはメタクリレート含有化合物は、反応性希釈剤として使用される。本発明の一実施形態において、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、(メタ)アクリレート含有化合物、N−ビニルピロリドンおよび/またはN−ビニルカプロラクタムが、反応性希釈剤として使用される。この実施形態において、スチレンおよび/または(メタ)アクリレート含有化合物が好ましくは、反応性希釈剤として使用され、さらに好ましくは、(メタ)アクリレート含有化合物が反応性希釈剤として使用される。他の実施形態において、イタコン酸またはイタコン酸のエステルが反応性希釈剤として使用される。さらに好ましい実施形態において、反応性希釈剤は、イタコン酸のエステルおよび少なくとももう1つのエチレン性不飽和化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドンおよび/またはN−ビニルカプロラクタムなどを含む。この実施形態において、樹脂組成物は好ましくは、反応性希釈剤としてのイタコン酸のエステルおよび反応性希釈剤としてのスチレンまたは反応性希釈剤としてのメタクリレート含有化合物を含む。好ましいイタコン酸のエステルはイタコン酸ジメチルである。
【0038】
樹脂組成物は好ましくは、樹脂組成物をラジカル硬化するための共開始剤を0.00001〜10重量%(不飽和ポリエステルと反応性希釈剤の総量に対する)の量でさらに含む。好ましい共開始剤は、アミンまたは遷移金属化合物である。
【0039】
組成物中に存在するアミン共開始剤は好ましくは、芳香族アミン、さらに好ましくは第3級芳香族アミンである。適切な促進剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン;トルイジンおよびキシリジン、例えばN,N−ジイソプロパノール−パラ−トルイジン;N,N−ジメチル−p−トルイジン;N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)キシリジンおよび−トルイジンが挙げられる。樹脂組成物中のアミンの量(不飽和ポリエステルと反応性希釈剤の総量に対する)は、一般に少なくとも0.00001重量%、好ましくは少なくとも0.01重量%、さらに好ましくは少なくとも0.1重量%である。一般に、樹脂組成物中のアミンの量は、最大で10重量%、好ましくは最大で5重量%である。
【0040】
共開始剤としての適切な遷移金属化合物の例は、範囲22〜29の原子番号または範囲38〜49の原子番号、または範囲57〜79の原子番号を有する遷移金属の化合物、バナジウム、鉄、マンガン、銅、ニッケル、モリブデン、タングステン、コバルト、クロム化合物などである。好ましい遷移金属はV、Cu、Co、MnおよびFeである。
【0041】
本発明による不飽和ポリエステルを反応性希釈剤で希釈した後に、更なるラジカル抑制剤が添加される。これらのラジカル抑制剤は好ましくは、フェノール化合物、ベンゾキノン、ヒドロキノン、カテコール、安定性ラジカルおよび/またはフェノチアジンの群から選択される。添加することができるラジカル抑制剤の量は、かなり広い範囲内で変動し、達成が望まれるとおりに、ゲル化時間の第1の指標として選択される。
【0042】
本発明による樹脂組成物で使用することができるラジカル抑制剤の適切な例は、例えば、2−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリメチル−フェノール、2,4,6−トリス−ジメチルアミノメチルフェノール、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、6,6’−ジ−t−ブチル−2,2’−メチレンジ−p−クレゾール、ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,6−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,6−ジメチルヒドロキノン、2,3,5−トリメチルヒドロキノン、カテコール、4−t−ブチルカテコール、4,6−ジ−t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン、メチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、ナフトキノン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール(TEMPOLとも呼ばれる化合物)、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オン(TEMPONとも呼ばれる化合物)、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチル−4−カルボキシル−ピペリジン(4−カルボキシ−TEMPOとも呼ばれる化合物)、1−オキシル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン、1−オキシル−2,2,5,5−テトラメチル−3−カルボキシルピロリジン(3−カルボキシ−PROXYLとも呼ばれる)、ガルビノキシル、アルミニウム−N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、フェノチアジンおよび/またはこれらの化合物のいずれかの誘導体または組み合わせである。
【0043】
有利なことに、本発明による樹脂組成物中のラジカル抑制剤の量は、0.0001〜10重量%の範囲である(不飽和ポリエステルと反応性希釈剤の総量に対して)。さらに好ましくは、樹脂組成物中の抑制剤の量は、0.001〜1重量%の範囲である。当業者であれば、本発明に従って、選択される抑制剤の種類に応じて、良い結果をもたらすその量をかなり容易に推定することができる。
【0044】
本発明はさらに、本発明による樹脂組成物をラジカル硬化する方法であって、その硬化が、上述のように開始剤を樹脂組成物に添加することによって行われる方法に関する。好ましくは、硬化は、範囲−20〜+200℃、好ましくは範囲−20〜+100℃、最も好ましくは範囲−10〜+60℃の温度で行われる(いわゆる低温硬化)。開始剤は光開始剤、熱開始剤および/または酸化還元開始剤である。
【0045】
本明細書で意味される、光開始剤は、照射されると硬化を開始することができる。光開始は、適切な波長の光の照射(光照射)を用いて硬化することであると理解される。これは、光硬化とも呼ばれる。
【0046】
光開始システムは、光開始剤自体からなるか、または光開始剤と増感剤の組み合わせであるか、または任意に1種または複数種の増感剤と組み合わせられた光開始剤の混合物であることができる。
【0047】
本発明の文脈で用いられる光開始システムは、当業者に公知の光開始システムの大きな群から選択することができる。膨大な数の適切な光開始システムが、例えば、K.DietlikerおよびJ.V.Crivelloによる「Chemistry and Technology of UV and EB Formulations」,2nd Edition(SITA Technology,London;1998)の第3巻に記載されている。
【0048】
熱開始剤は、例えばアゾイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ化合物、例えばベンゾピナコールなどのC−C不安定性化合物、過酸化物およびその混合物から選択することができる。熱開始剤は好ましくは、1種類の有機過酸化物、または2種類以上の有機過酸化物の組み合わせである。
【0049】
酸化還元開始剤は好ましくは、上記の共開始剤のうちの少なくとも1つと組み合わされた有機過酸化物である。適切な過酸化物の例は、例えば、ヒドロペルオキシド、ペルオキシカーボネート(式−OC(O)OO−)、ペルオキシエステル(式−C(O)OO−)、ジアシルペルオキシド(式−C(O)OOC(O)−)、ジアルキルペルオキシド(式−OO−)等である。
【0050】
本発明はさらに、上述のように開始剤を用いて硬化することにより、かかる不飽和ポリエステル樹脂から製造される物および部品、または上述のように不飽和ポリエステル樹脂組成物から製造される物および構造部品にも関する。本明細書で使用される、構造樹脂組成物は、構造部品を提供することができる。一般に、かかる樹脂組成物は非水性システムである。それらは、主に樹脂製造中の反応から生じる水を最大で5重量%含有する。本明細書で意味される、構造部品は、少なくとも0.5mmの厚さおよび適切な機械的性質を有すると考えられる。本発明による樹脂組成物が塗布される最後のセグメントは、例えば自動車部品、ボート、化学的定着、屋根ふき材、構造物、容器、裏装、パイプ、タンク、床張り材、風車のブレードである。
【0051】
本発明は特に、本発明による樹脂組成物を、好ましくは過酸化物を含む開始剤で硬化することによって得られる硬化物または構造部品に関する。一実施形態に従って、硬化は好ましくは、成形によって行われ、さらに好ましくは、硬化は圧縮成形によって行われ、特にSMCまたはBMC部品が得られる。成形は好ましくは、少なくとも130℃の温度、さらに好ましくは少なくとも140℃の温度で;最大で170℃、さらに好ましくは最大で160℃の温度で行われる。
【0052】
本発明は、一連の実施例および比較例によって実証される。すべての実施例は、特許請求の範囲の支えとなる。しかしながら、本発明は、実施例で示される特定の実施形態に制限されない。
【0053】
[標準的な樹脂の合成]
充填カラム、温度測定器および不活性ガス入口を備えた容器に、ジオール、二酸および/または無水物、任意に抑制剤および触媒を装入した。通常の方法で混合物をゆっくりと200℃に加熱した。水の蒸留が止まるまで、混合物を200℃に維持した。充填カラムを除去し、酸価が50mgKOH/g(樹脂)未満の値に達するまで混合物を減圧下で維持した。次いで、真空を不活性ガスで開放し、混合物を130℃以下に冷却した。このようにして、固形UP樹脂が得られた。次に、固形樹脂を温度80℃未満の温度で反応性希釈剤に溶解した。
【0054】
[硬化のモニタリング]
標準ゲル化時間装置を用いて、硬化をモニターした。これは、示されるように過酸化物で樹脂を硬化する場合、ゲル化時間(TgelまたはT25−>35℃)とピーク時間(TpeakまたはT25−>peak)の両方が、DIN 16945の方法に従って発熱測定によって決定されたことを意味することが意図される。
【0055】
[機械的性質の決定]
機械的性質を決定するために、4mmの鋳型成型品を製造した。16時間後に、金型から鋳型成型品を取り出し、60℃で24時間に続いて80℃で24時間、後硬化した。
【0056】
ISO 527−2に従って、硬化物の機械的性質を決定した。ISO 75−Aに従って、加熱撓み温度(HDT)を測定した。
【0057】
溶解された樹脂の粘度を、物理量測定器を使用して23℃で決定した。純粋な樹脂の粘度を、コーン・プレート装置(Brookfield CAP200+ cone3)を使用して125℃で決定した。
【0058】
[比較実験A〜Kおよび実施例1〜2]
表1に示す成分および抑制剤を使用して、標準合成手順によって樹脂を製造した。
【0059】
【表1】



【0060】
実施例1および2と組み合わせられた比較実験AおよびBによって、100ppmを超える量のベンゾキノンおよびアルキル化ベンゾキノンは、イタコネート樹脂の製造においてうまく適用することができるが、100ppm以下の量を使用するとゲルが生じるという事実がはっきりと実証されている。他の抑制剤によって低い量および高い量の両方でゲルが生じる(比較実験G〜J)または低い量および高い量の両方で125℃にて液体樹脂が生じる(比較実験E〜F)という事実を考慮すると、これは驚くべきことである。さらに、実施例1および2を比較実験Fと比較すると、得られた樹脂は同様な粘度を有し、したがって、ベンゾキノンおよびアルキル置換ベンゾキノンはヒドロキノンの優れた代替物であることが示されている。
【0061】
[実施例3〜7および比較実験L]
表2に示す成分および抑制剤を使用して、標準合成手順によって樹脂を製造した。コバルト溶液(NL−49P)0.5重量%に続いて、過酸化物としてトリゴノックス(Trigonox)44B2重量%を使用して、樹脂を硬化させた。ゲル化時間装置を用いて、硬化をモニターした。
【0062】
【表2】



【0063】
この表から、硬化された樹脂の機械的性質が、本発明による抑制剤を用いることによって向上することは明らかである。実施例3または4を比較実験Lと比較すると、引張り強さ、引張弾性率、曲げ強さ、曲げ弾性率、バーコル硬さおよび特にHDTによって示される熱安定性に対するこの効果がはっきりと示されている。
【0064】
表1から、100ppmのベンゾキノンまたはアルキル置換ベンゾキノンを使用すると、樹脂がゲル化するため(比較実験AおよびB)、ベンゾキノンおよびアルキル置換ベンゾキノンは、ヒドロキノンと比べて効率が低い抑制剤であることが示されていることから、これは驚くべきことである。ベンゾキノンとアルキル化ベンゾキノンの混合物を用いることができ、この組み合わせによって、熱安定性を維持しながら樹脂の粘度に対して相乗効果がもたらされることが実施例5で実証されている。アルキル化ベンゾキノンとヒドロキノンの混合物を用いることができ、実施例4と比較して曲げ強さの増加が得られることが実施例6で実証されている。実施例7に、様々なジオールを使用することができることが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性不飽和としてイタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステル樹脂を製造する方法であって、少なくともイタコン酸および/またはイタコン酸無水物および少なくとも1種類のジオールをベンゾキノンおよび/またはアルキル置換ベンゾキノンの存在下にて反応させる工程を含み、ベンゾキノンとアルキル置換ベンゾキノンの総量が少なくとも200ppmである、方法。
【請求項2】
ベンゾキノンとアルキル置換ベンゾキノンの前記総量が少なくとも300ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ベンゾキノンとアルキル置換ベンゾキノンの前記総量が少なくとも400ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アルキル置換ベンゾキノンの存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アルキル置換ベンゾキノンおよびベンゾキノンの存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも200ppmのアルキル置換ベンゾキノンと少なくとも200ppmのベンゾキノンの存在下にて行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アルキル置換ベンゾキノンが2−メチルベンゾキノンである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記樹脂を反応性希釈剤で希釈する工程をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記樹脂が、スチレン、イタコン酸ジメチルおよび/またはメタクリレート中で希釈される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
イタコン酸エステル単位を含む不飽和ポリエステル樹脂およびベンゾキノンおよび/またはアルキル置換ベンゾキノンを含む、樹脂組成物。
【請求項11】
ベンゾキノンおよび/またはアルキル置換ベンゾキノンを含み、ベンゾキノンとアルキル置換ベンゾキノンの総量が少なくとも200ppmである、請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記アルキル置換ベンゾキノンが2−メチルベンゾキノンである、請求項10または11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
反応性希釈剤をさらに含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
開始剤で硬化することによって、請求項10から13のいずれか一項に記載の樹脂組成物から得られる、硬化物または構造部品。
【請求項15】
前記開始剤が過酸化物を含む、請求項14に記載の硬化物または構造部品。
【請求項16】
自動車部品、ボート、化学的定着、屋根ふき材、構造物、容器、裏装、パイプ、タンク、床張り材、または風車のブレードにおける、請求項14または15に記載の硬化物または構造部品の使用。
【請求項17】
請求項10から13のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物を含む粉体塗料組成物。

【公表番号】特表2012−521471(P2012−521471A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501302(P2012−501302)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053853
【国際公開番号】WO2010/108968
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】