説明

不飽和炭化水素ガス検知素子および測定方法ならびに測定装置

【課題】エチレンなどの不飽和炭化水素ガスが容易に測定できるようにする。
【解決手段】検知素子103aには、モリブデン酸アンモニウム113(黒丸),硫酸パラジウム114(黒三角),および硫酸115(白丸)よりなる検知剤111が導入され、検知素子103aの多孔質の細孔122内に検知剤111が担持されているものとなる。検知素子103を構成している多孔体103には、複数の細孔122を備える。これら細孔122は、多孔体103の表面の開口部121から内部にまで連結した貫通細孔である。また、検知剤111は、検知素子103aが配置される雰囲気(大気)の湿度の存在により細孔122内に吸着する水分112を含み、細孔122の内壁に薄い水の膜を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和炭化水素ガスの測定を可能にする不飽和炭化水素ガス検知素子および測定方法ならびに測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレンガスは果物や野菜といった青果物の成熟に影響をあたえる植物ホルモンとして知られている(非特許文献1参照)。例えば、エチレンガスを用いることで、青果物を短時間で成熟させることが広く行われている。また、エチレンガスは青果物自体からも発生するため、逆に長期保存を行いたい場合には、換気やエチレン吸収剤による除去を行い、青果物の周辺のエチレンガス濃度を低く保つようにしている。
【0003】
このように、エチレンガスは青果物の熟成や保存に影響を与えるため、青果物を扱う環境では、エチレンガスの測定が重要となる。例えば、青果物を短時間で成熟させる場合には、青果物が適切な濃度のエチレンガスに暴露されている状態を測定することが重要となる。また、青果物を長期に保存する場合、エチレンガス濃度が高くなりすぎないように監視測定をすることが重要となる。また、青果物の保存状態をより正確に把握するためには、青果物が暴露したエチレンガス濃度の総量(蓄積量)を知ることも重要となる。
【0004】
現在、エチレンの測定技術としては検知管(例えばガステック社検知管No.172L)、エチレン検知フィルム(非特許文献2参照)、ガスクロマトグラフ、電気化学式定電位電解法の測定装置(例えば非特許文献3参照)などがある。
【0005】
青果物管理のためのエチレンガス濃度測定は、倉庫内や輸送時に行われることが想定される。したがって、エチレンガス濃度の測定器には、安価かつ小型で、青果物が暴露したエチレンガスの総量(蓄積暴露量)が測定できることが要求される。また、測定の手間がかからず、オゾンガス濃度が設定値になると警報などを発する機能があればなお良いものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3639123号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】漆崎末夫著、「農作物の鮮度保持 エチレン制御とその利用 」、筑波書房、pp.44-51、1997年。
【非特許文献2】金 鎮浩 他、「酸化還元反応のコントロールによるエチレン検知カラーチェンジフィルムの作製」、Polymer Preprints, Japan, Vol.54, No.1 ,p1598, 2005.
【非特許文献3】http://www.jmsystem.co.jp/products/is.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したエチレンガスの測定方法や装置では、要求されている特性・機能が満たされていないという問題がある。まず、検知管は安価であるが、一回使用毎の使い捨てとなる。また、測定時点での濃度はわかるものの、蓄積暴露量を知る用途には不向きである。
【0009】
次に、ガスクロマトグラフは、連続測定用の機能を利用することで連続測定が可能になり、蓄積暴露量も計算することができる。しかしながら、このような装置は大型かつ高価であり、青果物の管理用途には高コストとなる。このため、輸送時の測定などには不向きであり、また、コストの増大を招くため、上述したような要求には適していない。
【0010】
次に、電気化学式定電位電解法の測定装置は、連続測定が可能であり、ガスクロマトグラフと比較すれば安価で小型である。しかしながら、この装置であっても、数十万円と高価であり、一般の倉庫などにおけるエチレン濃度監視用としては適していない。
【0011】
次に、エチレン検知フィルムは、おおまかな蓄積暴露量が目視による色変化の判定および色差計による測定でわかる。しかしながら、測定開始時と終了時に人間が測定に関与する必要がある上、感度が50ppm〜と、高感度の測定に対応していない。青果物には、数百ppbでエチレンの影響を受けるものものあり、上述した感度では十分ではない。
【0012】
上述したように、青果物管理のためにエチレン濃度の測定要求が高いにもかかわらず、例えば、青果物を保管している倉庫であっても、検知管やガスクロマトグラフで月一回程度の頻度で濃度を測定するに留まっている。このように、従来では、コストの観点や測定の簡便性の観点、および測定精度の観点などから、高い頻度でエチレンガスの正確な測定を行うことが容易ではないという問題がある。
【0013】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、エチレンなどの不飽和炭化水素ガスが容易に測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る不飽和炭化水素ガス検知素子は、光透過性を有する多孔体と、この多孔体の孔内に配置されたモリブデン酸塩およびパラジウム化合物を含む検知剤とを備える。
【0015】
上記不飽和炭化水素ガス検知素子において、モリブデン酸塩は、モリブデン酸のアンモニウム塩であり、パラジウム化合物は、硫酸パラジウムであればよい。なお、不飽和炭化水素ガス検知素子は、検知剤が溶解した水溶液に多孔体を浸漬して水溶液を多孔体に含浸させ、かつ乾燥させることで形成されたものであればよい。
【0016】
また、本発明に係る不飽和炭化水素ガス測定方法は、光透過性を有する多孔体と、この多孔体の孔内に配置されたモリブデン酸塩およびパラジウム化合物を含む検知剤とを備える検知素子における不飽和炭化水素ガスに晒されていない状態の初期吸光度を、不飽和炭化水素ガスと反応した検知剤が吸収する測定波長で測定する第1ステップと、不飽和炭化水素ガスに晒された検知素子の検出後吸光度を測定波長で測定する第2ステップと、初期吸光度と検出後吸光度との差により不飽和炭化水素ガスの濃度を求める第3ステップとを少なくとも備える。
【0017】
また、本発明に係る不飽和炭化水素ガス測定装置は、光透過性を有する多孔体と、この多孔体の孔内に配置されたモリブデン酸塩およびパラジウム化合物を含む検知剤とを備える検知素子と、この検知素子に対して所定の波長の光を放出する発光部と、この発光部より放出されて検知素子を透過した透過光を受光し、この受光した光量に応じた電気信号を出力する光検出部と、光検出部が出力した電気信号の状態を測る電気計器とを少なくとも備える。
【0018】
上記不飽和炭化水素ガス測定装置において、発光部は発光ダイオードから構成され、光検出部はフォトトランジスタから構成され、加えて、発光ダイオードおよびフォトトランジスタに電源を供給する電池と、発光ダイオードおよびフォトトランジスタに電池からの電源の供給をオンオフするスイッチと、フォトトランジスタと電池との間に接続された電気計器としての電圧計と、発光ダイオード,フォトトランジスタ,電池,スイッチ,および,電圧計の各々を結線するための端子を備える端子板と、発光ダイオード,フォトトランジスタ,電池,スイッチ,電圧計,および,端子板を配置した基板とを備えるようにすればよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、光透過性を有する多孔体の孔内に、モリブデン酸塩およびパラジウム化合物を含む検知剤を配置して検知素子としたので、エチレンなどの不飽和炭化水素ガスが容易に測定できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における不飽和炭化水素ガス検知素子の作製方法および測定方法を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態における不飽和炭化水素ガス検知素子の一部構成を概略的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における不飽和炭化水素ガス検知素子の吸光度測定結果を示す特性図である。
【図4】本発明の実施の形態における不飽和炭化水素ガス測定装置の構成例を示す構成図である。
【図5】本発明の実施の形態における不飽和炭化水素ガス測定装置の構成例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。はじめに、本発明の実施の形態における不飽和炭化水素ガス検知素子について、検知素子の作製方法とともに説明する。まず、不飽和炭化水素ガス検知素子の作製方法について説明すると、図1(a)に示すように、モリブデン酸アンモニウムおよび硫酸パラジウムを純水に溶解した検知剤溶液101を容器102に作製する。検知剤溶液101における各濃度は、モリブデン酸アンモニウムは10g/リットル、硫酸パラジウムは0.2g/リットルとする。また、pH約1.5となるように、検知剤溶液101に硫酸を加えて調整する。
【0022】
次に、図1(b)に示すように、検知剤溶液101に、平均孔径4nmの多孔質ガラスである多孔体103を浸漬する。多孔体103は、例えば、コーニング社製のバイコール#7930である。バイコール#7930は平均孔径4nmの複数の細孔を有する多孔体である。また、多孔体103は、例えば、8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。なお、多孔体103は、平均孔径が20nm以下であるとよい。また、ここでは検知素子103aを板状としたが、これに限るものではなく、ファイバ状に形成するようにしても良い。
【0023】
多孔体103をガラス(硼珪酸ガラス)から構成した場合、この平均孔径を20nm以下とすることで、可視UV波長領域(波長200〜2000nm)での透過スペクトルの測定において、可視光領域(350〜800nm)では光が透過する。しかし、平均孔径が20nmを越えて大きくなると、可視領域で急激な透過率の減少が観測されることが判明している(特許文献1参照)。このことにより、多孔体は、平均孔径が20nm以下とした方がよい。本実施の形態における多孔体103の比表面積は1g当たり100m2以上である。なお、多孔体103は、多孔質ガラスに限らず、シリカゲルなど、担持する検知剤(検知溶液)と反応しない透明な(透光性を有する)材料から構成されていてもよい。
【0024】
上述した多孔体103を検知剤溶液101に60分間浸漬し、多孔体103の孔内に検知剤溶液を含浸させた後、検知剤が含浸した多孔体103を風乾し、図1(c)に示すように、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、検知素子(不飽和炭化水素ガス検知素子)103aを作製する。
【0025】
従って、検知素子103aには、図2に示すように、モリブデン酸アンモニウム113(黒丸),硫酸パラジウム114(黒三角),および硫酸115(白丸)よりなる検知剤111が導入され、検知素子103aの多孔質の細孔122内に検知剤111が担持されているものとなる。検知素子103を構成している多孔体103には、複数の細孔122を備える。これら細孔122は、多孔体103の表面の開口部121から内部にまで連結した貫通細孔である。また、検知剤111は、検知素子103aが配置される雰囲気(大気)の湿度の存在により細孔122内に吸着する水分112を含み、細孔122の内壁に薄い水の膜を形成している。
【0026】
なお、担持とは、モリブデン酸アンモニウム,硫酸パラジウム,および硫酸などの各物質が、化学的,物理的,又は電気的に担体(基材)と結合している状態を示し、例えば、多孔体の孔内に上述した構成の検知剤が滲入し、孔内の壁面が検知剤で被覆され、および/または、孔内の側壁に検知剤が被着したような状態を示す。
【0027】
このように構成された検知素子103aによれば、孔内にエチレンガスが浸入することで、後述するように検知剤111の光吸収の状態が変化する。孔内にエチレンガスが浸入すると、孔内に配置された硫酸パラジウム114が浸入したエチレンガスと反応する。この反応では、硫酸115が存在している状態で、硫酸パラジウム114とエチレンガスとの反応により、パラジウムイオンが生成される。このパラジウムイオンによりモリブデン酸アンモニウム113が還元され、青色(モリブデンブルー)を呈するようになるものと考えることができる。よく知られているように、モリブデン酸アンモニウムは、還元すると青色を呈するようになる。
【0028】
ここで、上述した細孔122内における反応においては、パラジウム化合物の存在が重要であり、例えば、エチレンと硫酸パラジウム114とによる上述した反応により生成されるパラジウムイオンが、モリブデン酸アンモニウムを還元させる。また、この反応においては、上述したように酸の存在が必要となる。前述したように検知剤溶液101を多孔体103に含浸させ、これを乾燥させることで検知素子103aとしているため、塩酸などではなく、硫酸など不揮発性の酸であることが重要となる。
【0029】
また、上述したことより、エチレンに限らず、共役ジエンなどの二重結合を2つもつなど、エチレン列炭化水素(オレフィン)であれば、パラジウム化合物との反応が起こるものと考えられる。従って、本実施の形態の不飽和炭化水素ガス検知素子によれば、エチレン列炭化水素ガスであれば、測定可能なものと考えられる。
【0030】
また、上述では硫酸パラジウムを用いるようにしたが、これに限るものではない。酸性の状態で不飽和炭化水素ガスと反応してパラジウムイオンが生成されるパラジウム化合物であればよく、例えば、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、水酸化パラジウム、酸化パラジウムなどを用いることが可能である。
【0031】
また、上述では、モリブデン酸アンモニウム((NH46Mo724・4H2O)を用いるようにしたが、これに限るものではない。パラジウムイオンの存在により還元されて、いわゆるモリブデンブルーの状態が得られるモリブデン酸塩であればよく、例えば、メタモリブデン酸アンモニウム((NH42Mo413)および三モリブデン酸ジアンモニウム((NH42Mo310)などのモリブデン酸のアンモニウム塩であってもよい。
【0032】
次に、検知素子103aを用いたエチレンガスの検出方法について説明すると、まず、検知素子103aの厚さ方向の吸光度を測定する。例えば、図1(d)に示すように、光強度I0の入射光を透過させた透過光の強度Iを測定し、これらより吸光度(=log10(I0/I))を求める(第1ステップ)。
【0033】
次に、図1(e)に示すように、例えば、300ppbの濃度のエチレンガスが存在する測定対象の空気104中に、検知素子103aを例えば1時間暴露する。この暴露は、室温(約20℃)の状態で行う。この後、測定後の検知素子103bを測定対象の空気104中より取り出し、図1(f)に示すように、測定後の検知素子103bの厚さ方向の吸光度を再び測定する(第2ステップ)。この後、暴露前の吸光度(初期吸光度)と暴露後の吸光度(検出後吸光度)との差により、エチレンガス(不飽和炭化水素ガス)の濃度を求めることができる(第3ステップ)。
【0034】
上述した2回の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を図3に示す。なお透過光測定波長350nm以下の吸収は、検知素子を構成する多孔質ガラス(バイコール#7930)自体の吸収である。図3では、測定対象の空気(エチレンガス300ppb)に暴露する(晒す)前の吸光度の測定結果を実線で示し、30分間暴露した後の吸光度の測定結果を点線で示し、60分間暴露した後の吸光度の測定結果を破線で示し、120分間暴露した後の吸光度の測定結果を一点鎖線で示している。また、リンゴが1個収容されたアクリルケース(30cm×30cm×30cm)に、本実施の形態における不飽和炭化水素ガス検知素子を週間配置した後の吸光度の測定結果を2点鎖線で示している。
【0035】
図3に示すように、波長400〜700の範囲に吸収の差が見られ、特に、波長400〜500付近において、暴露前と暴露後とに大きな差が見られる。エチレンが存在する雰囲気に暴露することで、吸光度(吸収)が増加している。目視では、暴露前の検知素子103aは、透明であるが、暴露後の検知素子103bは、吸収スペクトルの変化を示すため色が変化する。エチレンガス1時間から2時間の暴露では目視では明確な色の変化がわかならないが、リンゴが1個収容されたアクリルケース(30cm×30cm×30cm)に、本実施の形態における不飽和炭化水素ガス検知素子を1週間配置したものは全体的にスペクトルが変化する中でも特に650nmから700nmに吸収ピークを示し、青色に着色する。
【0036】
従って、本実施の形態における不飽和炭化水素ガス検知素子における光吸収の変化の測定や、色の変化の観察により、エチレンガスなどの不飽和炭化水素ガスの測定および定量などの測定が可能となる。例えば、中心波長450nmの発光ダイオードからの光の透過率を測定することで上記光吸収の変化が検出可能である。
【0037】
図3に示す結果より、波長450nm付近において、300ppbのエチレンガス1時間暴露で吸光度の変化が0.06程度である。この波長において、蓄積暴露量(濃度×時間)と吸光度変化が比例関係にあり、かつ吸光度変化0.01程度が検出下限であると仮定すると、24時間暴露で検出できる濃度としてはエチレン50ppb付近が検出下限となると考えられる。
【0038】
ところで、上述した実施の形態における検知素子を用いることで、例えば、図4の構成図に示す測定装置が構成できる。この測定装置は、例えば、波長430〜450nmの光を発するLEDからなる発光部401からの発光光を、検知素子402に照射し、検知素子402の透過光を受光部403で受光する。この受光部403では、受光光を光電変換して信号電流を出力する。変換増幅部404では、受光部403より出力された信号電流を増幅して電流−電圧変換する。変換増幅部404で増幅された不飽和炭化水素ガスの検出濃度に対応する電圧信号は、A/D変換部405でデジタル信号に変換される。
【0039】
ここで、受光部403は、例えば、フォトダイオードである。このフォトダイオードとしては、例えば、190〜1000nmの波長に感度のあるものを用いればよい。また、発光部401と受光部403は、発光部分と受光部分とが対向して配置されている。また、発光部401,検知素子402,受光部403,変換増幅部404,A/D変換部405,出力検出部406は、電源となる二次電池とともに、12cm×6cm程度の面積を有する容器内に配置され、通気口が形成された板で蓋がされ、遮光された状態で測定環境に配置される。
【0040】
上記の測定装置は、例えば12cm×6cm程度の基板上内に、発光部として波長450nmの光を発するLEDと、このLEDの発光面に対向して受光面が配置されるように、受光部としてフォトダイオードを配置し、LEDとフォトダイオードの間にガス検知素子を配置し、LEDとフォトダイオードには、端子板を介して直列に接続配置した2つの単3の二次電池から電源が供給される構成とし、電源の供給は、スイッチによりオンオフできるように構成すればよい。また、端子板を備えれば、端子板の端子を利用して回路を組み立てることが容易にできるようになる。上記の構成において、フォトダイオードからの出力電流を電圧に変換した後、抵抗などを用いて出力電圧が、1桁(V)のオーダーとなるようにしてもよい。
【0041】
この装置についてより詳細に説明すると、図5に示すように、例えば12cm×6cm程度の基板501の上に、波長450nmの光を発するLED502と、LED502の発光面に対向して受光面が配置されるように、フォトトランジスタ503を配置する。フォトトランジスタ503は、400〜1100nmの波長域に光感度を持っている。これらLED502とフォトトランジスタ503には、端子板504を介して直列に接続配置した2つの単3の電池(乾電池)505から電源が供給される構成となっている。
【0042】
また、電池505からの電源の供給は、スイッチ506によりオンオフできるように構成されている。このように、本装置では、端子板504の端子を利用して回路を組み立てている。端子番号T1にフォトトランジスタ503の配線を、端子番号T2にスイッチ506の配線を、端子番号T3にLED502の配線を、端子番号T4にスイッチ506と電池505の配線を、端子番号T5に電池505とLED502とフォトトランジスタ503の配線を各々接続してある。また、本装置では、フォトトランジスタ503からの出力電圧が、1桁(V)のオーダとなるように、抵抗507,508を設けている。
【0043】
上述したように構成した本装置において、LED502とフォトトランジスタ503との間に検知素子504を配置し、端子板504の端子番号T1と端子番号T2の間に電圧計を接続して電圧を測定することで、本装置で、検知素子504が晒された雰囲気の不飽和炭化水素ガスの測定を行う。検知素子504として、前述した実施の形態の不飽和炭化水素ガス検知素子を用い、これを、エチレン300ppbの雰囲気に2時間暴露すると、本装置より暴露前後で異なる出力が得られ、不飽和炭化水素ガス濃度の測定が容易に行えることがわかる。
【0044】
このように、本実施の形態における測定装置によれば、12cm×6cm程度の面積の中に、精度の良い不飽和炭化水素ガスの測定装置を構成できる。また、一般に市販されている電池を電源として構成できるので、より簡便に不飽和炭化水素ガスの検出ができるようになる。
【符号の説明】
【0045】
101…検知剤溶液、102…容器、103…多孔体、103a,103b…検知素子、111…検知剤、112…水分、113…モリブデン酸アンモニウム、114…硫酸パラジウム、115…硫酸、121…開口部、122…細孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する多孔体と、
この多孔体の孔内に配置されたモリブデン酸塩およびパラジウム化合物を含む検知剤と
を備えることを特徴とする不飽和炭化水素ガス検知素子。
【請求項2】
請求項1記載の不飽和炭化水素ガス検知素子において、
前記モリブデン酸塩は、モリブデン酸のアンモニウム塩であり、
前記パラジウム化合物は、硫酸パラジウムである
ことを特徴とする不飽和炭化水素ガス検知素子。
【請求項3】
請求項1または2記載の不飽和炭化水素ガス検知素子において、
前記不飽和炭化水素ガス検知素子は、
前記検知剤が溶解した水溶液に前記多孔体を浸漬して前記水溶液を前記多孔体に含浸させ、かつ乾燥させることで形成されたものである
ことを特徴とする不飽和炭化水素ガス検知素子。
【請求項4】
光透過性を有する多孔体と、この多孔体の孔内に配置されたモリブデン酸塩およびパラジウム化合物を含む検知剤とを備える検知素子における不飽和炭化水素ガスに晒されていない状態の初期吸光度を、前記不飽和炭化水素ガスと反応した検知剤が吸収する測定波長で測定する第1ステップと、
前記不飽和炭化水素ガスに晒された前記検知素子の検出後吸光度を前記測定波長で測定する第2ステップと、
前記初期吸光度と前記検出後吸光度との差により前記不飽和炭化水素ガスの濃度を求める第3ステップと
を少なくとも備えることを特徴とする不飽和炭化水素ガス測定方法。
【請求項5】
光透過性を有する多孔体と、この多孔体の孔内に配置されたモリブデン酸塩およびパラジウム化合物を含む検知剤とを備える検知素子と、
この検知素子に対して所定の波長の光を放出する発光部と、
この発光部より放出されて前記検知素子を透過した透過光を受光し、この受光した光量に応じた電気信号を出力する光検出部と、
前記光検出部が出力した電気信号の状態を測る電気計器と
を少なくとも備えることを特徴とする不飽和炭化水素ガス測定装置。
【請求項6】
請求項5記載の不飽和炭化水素ガス測定装置において、
前記発光部は発光ダイオードから構成され、
前記光検出部はフォトトランジスタから構成され、
加えて、
前記発光ダイオードおよびフォトトランジスタに電源を供給する電池と、
前記発光ダイオードおよびフォトトランジスタに前記電池からの電源の供給をオンオフするスイッチと、
前記フォトトランジスタと前記電池との間に接続された電気計器としての電圧計と、
前記発光ダイオード,前記フォトトランジスタ,前記電池,前記スイッチ,および,前記電圧計の各々を結線するための端子を備える端子板と、
前記発光ダイオード,前記フォトトランジスタ,前記電池,前記スイッチ,前記電圧計,および,前記端子板を配置した基板と
を備えることを特徴とする不飽和炭化水素ガス測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−243389(P2010−243389A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93768(P2009−93768)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】