説明

両性荷電膜及びその製造方法

【課題】イオン性物質の選択的透過性に優れて中性物質の透過阻止率が高いほか、耐熱性及び寸法安定性に優れるだけでなく、塩透過性にも優れる両性荷電膜を、容易かつ安価に、しかもその塩透過性を変化させて製造することができる方法、及びこれらの特性を具備した両性荷電膜を提供すること。
【解決手段】(1)膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒及び無機イオン交換体を混合し、ポリマー溶液に無機イオン交換体を分散させて均一なポリマー分散液を調製する工程及び(2)前記ポリマー分散液を基材上に塗布及び延伸し、乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、洗浄する工程、を行うことを特徴とし、前記無機イオン交換体が、無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせか、又は無機両性イオン交換体である、両性荷電膜の製造方法、並びに該製造方法による両性荷電膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両性荷電膜及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、イオン性物質の選択的透過性に優れて中性物質の透過阻止率が高いほか、耐熱性及び寸法安定性に優れるだけでなく、塩透過性にも優れる両性荷電膜を、容易かつ安価に、しかもその塩透過性を変化させて製造することができる方法、及び該方法にて製造される、例えば圧透析用膜、拡散透析用膜、電気透析用膜等に好適に使用し得る両性荷電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
その構成高分子化合物に荷電基が導入されている荷電膜の中でも、膜内に正荷電基と負荷電基とが共存する両性荷電膜は、例えば圧透析や海水の淡水化、脱塩等の膜として利用されるほか、食品や医薬品の分野での応用も期待され、従来より開発が進められてきている。
【0003】
前記両性荷電膜の中でも、例えば、正荷電基及び負荷電基がイオン交換基として存在しており、膜の表裏を貫通し、かつ互いに隣接して存在しているイオンチャンネルを有するモザイク荷電膜等が、塩透過性やイオンに対する選択的透過性に優れることから、種々提案されている。
【0004】
例えばその代表例の1つとして、2種のイオン交換体が層状に存在したモザイク荷電膜及びその製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかるモザイク荷電膜は、陽イオン交換領域と陰イオン交換領域とが膜の厚さ方向に対して交互に層状に配列し、貫通している膜であり、陽イオン交換基を導入可能な高分子と陰イオン交換基を導入可能な高分子とイオン交換基を導入させない高分子とが連結した原多元ブロック共重合体、例えばスチレン、ブタジエン、4−ビニルベンジルジメチルアミンのブロックからなるブロック共重合体を合成し、スチレン部位をスルホン化、4−ビニルベンジルジメチルアミン部位を4級化、ブタジエン部位を架橋することによって製造することができる。
【0005】
前記のごとき方法にて得られるモザイク荷電膜は、確かに、その両面間に生じさせた塩の濃度差を駆動力として利用することができ、該モザイク荷電膜を用いて、有機化合物を含有した水溶液を効率よく脱塩することが可能である。しかしながら、前記製造方法では、ブロック共重合体の特定部位を変性させる等、非常に煩雑な操作かつ高度な技術が必要であり、しかも高コストであることから、目的とするモザイク荷電膜を簡易にかつ安価で得ることは困難であるといった問題がある。
【0006】
また前記のほかにも、2種のイオン交換体が無秩序に存在したモザイク荷電膜及びその製造方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。かかるモザイク荷電膜は、カチオン性重合成分、アニオン性重合成分及びマトリックス成分からなり、カチオン性重合成分及びアニオン性重合成分の少なくとも1成分が架橋した粒状重合体の膜であり、このように少なくともいずれか一方が架橋粒状重合体(平均粒子径が小さい架橋重合体微粒子:マイクロゲル)であるカチオン性重合成分及びアニオン性重合成分を、マトリックス成分の有機溶剤溶液に分散させた組成物を用いて製造することができる。
【0007】
前記のごとき方法にて得られるモザイク荷電膜も、イオンに対する良好な選択的透過性を有し、該モザイク荷電膜を用いて電解質の移動、分離、濃縮、吸着等を効率よく行うことが可能である。しかしながら、前記製造方法では、平均粒子径が小さい架橋重合体微粒子を調製しなければならず、高度な技術及び長時間を要するといった問題がある。しかも得られるモザイク荷電膜は、含水性の高いマイクロゲルで構成されているため、耐圧性が非常に低く、拡散透析用の膜としては使用可能であるものの、圧透析用の膜としての使用は困難であり、利用可能性が低いという欠点を有するものである。
【0008】
そこで、前記モザイク荷電膜の耐圧性を向上させる目的で、耐圧性を有する支持体の表面に該モザイク荷電膜を貼付する方法や、多孔性支持体の細孔内にイオン交換体を充填させてモザイク荷電膜を製造する方法も試みられている。しかしながら、これらの方法に用いる支持体と、貼付するモザイク荷電膜内の活性層や充填するイオン交換体とは、そもそも同質材料ではないため、支持体を用いたことによる耐圧性の向上はほとんど望めないにも係らず、コストが上昇してしまうといった問題がある。
【0009】
またその利用分野によっては、処理対象溶液の種類や使用条件等に応じて、例えば耐熱性や寸法安定性が要求されるようになってきており、前記のごときモザイク荷電膜に代表される両性荷電膜に対しても、より高い耐熱性や寸法安定性が要求されている。さらには、優れた塩透過性を有するだけでなく、その利用目的に応じて、かかる塩透過性の程度を変化させることができる両性荷電膜の製造方法の開発も待ち望まれている。
【特許文献1】特開昭59−203613号公報
【特許文献2】特開2000−70687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記背景技術に鑑みてなされたものであり、イオン性物質の選択的透過性に優れて中性物質の透過阻止率が高いほか、耐熱性及び寸法安定性に優れるだけでなく、塩透過性にも優れる両性荷電膜を、容易かつ安価に、しかもその塩透過性を変化させて製造することができる方法、及びこれらの特性を具備した両性荷電膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、
(A−1)両性荷電膜の製造方法であって、以下の工程(1)及び(2):
(1)膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒及び無機イオン交換体を混合し、ポリマー溶液に無機イオン交換体を分散させて均一なポリマー分散液を調製する工程
(2)前記ポリマー分散液を基材上に塗布及び延伸し、乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、洗浄する工程
を行うことを特徴とし、
前記無機イオン交換体が、無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせか、又は無機両性イオン交換体である、両性荷電膜の製造方法、並びに
(A−2)前記製造方法にて得られる両性荷電膜
に関する。
【0012】
さらに本発明は、
(B−1)両性荷電膜の製造方法であって、以下の工程(I)及び(II):
(I)膜形成ポリマーを溶融させ、得られた溶融ポリマーに無機イオン交換体を混合して分散させ、均一なポリマー分散液を調製する工程
(II)前記ポリマー分散液を成形及び延伸し、得られた膜を洗浄する工程
を行うことを特徴とし、
前記無機イオン交換体が、無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせか、又は無機両性イオン交換体である、両性荷電膜の製造方法、並びに
(B−2)前記製造方法にて得られる両性荷電膜
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、イオン性物質の選択的透過性に優れて中性物質の透過阻止率が高いほか、耐熱性及び寸法安定性に優れるだけでなく、塩透過性にも優れる両性荷電膜を、極めて容易かつ安価に、しかもその塩透過性を変化させて製造することができる。また該製造方法にて製造される本発明の両性荷電膜は、これらの優れた特性を具備し、例えば圧透析用膜、拡散透析用膜、電気透析用膜等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る両性荷電膜の製造方法では、以下の工程(1)及び(2):
(1)膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒及び無機イオン交換体を混合し、ポリマー溶液に無機イオン交換体を分散させて均一なポリマー分散液を調製する工程
(2)前記ポリマー分散液を基材上に塗布及び延伸し、乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、洗浄する工程
が行われる。図1に、本実施形態1に係る製造方法を概略的に表したフローチャートを示す。かかる図1において、膜形成ポリマーを原料1、溶媒を原料2、無機イオン交換体を原料3として表す。
【0015】
まず工程(1)において、膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒及び無機イオン交換体を混合し、ポリマー溶液に無機イオン交換体を分散させて均一なポリマー分散液を調製する。
【0016】
本実施形態1の工程(1)では、溶媒に膜形成ポリマーが溶解したポリマー溶液に無機イオン交換体が分散した、均一なポリマー分散液が得られる限り、これら膜形成ポリマー、溶媒及び無機イオン交換体を添加する順序には限定がない。すなわち、例えば図2Aのフローチャートに示すように、膜形成ポリマーと溶媒とを混合して均一なポリマー溶液を調製した後、無機イオン交換体を該ポリマー溶液に添加し、無機イオン交換体を分散させて均一なポリマー分散液を調製することができる。また例えば図2Bのフローチャートに示すように、溶媒と無機イオン交換体とを混合し、無機イオン交換体を溶媒に分散させて分散液を調製した後、膜形成ポリマーを該分散液に添加して溶解させ、ポリマー溶液に無機イオン交換体が分散した均一なポリマー分散液を調製することもできる。
【0017】
本実施形態1に用いられる膜形成ポリマーは、両性荷電膜を形成する際に、例えば加熱乾燥等により皮膜を形成することができるものであればよく、形成される両性荷電膜に、耐薬品性、耐溶剤性、耐水性、耐久性等を付与し得るものが好ましい。かかる膜形成ポリマーとしては、例えばポリスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等があげられ、これらは単独で又は2種以上を同時に用いることができる。
【0018】
ポリスルホン系樹脂は、分子内にスルホニル結合(−SO2−)を有する重合体であり、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン等が例示される。
【0019】
ポリアリレート系樹脂は、分子内にエステル結合(−COO−)を有する重合体であり、例えば二価フェノールと芳香族ジカルボン酸とのポリエステル等が例示される。
【0020】
ポリアミド系樹脂は、分子内にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体であり、例えばジアミンと二塩基酸との重縮合、ラクタム開環重合、アミノカルボン酸の重縮合等によって得られる重合体が例示される。
【0021】
ポリイミド系樹脂は、分子内にイミド結合(−CONHCO−)を有する重合体であり、例えばビフェニルテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの縮重合等によって得られる重合体のほか、例えばポリエーテルイミド等も例示される。
【0022】
ポリアミドイミド系樹脂は、分子内にアミド結合とイミド結合とを併せ持つ重合体であり、例えば無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応や無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応によって得られる重合体が例示され、無水トリメリット酸とジフェニルアルキルジイソシアネート等との反応による芳香族ポリアミドイミドも含まれる。
【0023】
ポリウレタン系樹脂は、分子内にウレタン結合(−OCONH−)を有する重合体であり、例えば脂肪族ポリイソシアネート等のポリイソシアネートとテトラメチレングリコール等のポリオールとの反応によって得られる重合体のほか、ポリウレタン尿素樹脂も例示される。
【0024】
フッ素系樹脂は、例えばポリテトラフルオロエチレン等のアルキレン主鎖の水素原子がフッ素原子にて置換された重合体であり、ほかにも例えばそのスルホン化物等も例示される。
【0025】
シリコーン系樹脂は、分子内にシロキサン結合(−Si−O−Si−)を有する重合体であり、例えばポリメチルシロキサン等のポリアルキルシロキサン等が例示される。
【0026】
なお、本実施形態1に用いられる膜形成ポリマーの数平均分子量には特に限定がない。
【0027】
本実施形態1に用いられる溶媒は、前記膜形成ポリマーを溶解し得るものである限り特に限定がなく、膜形成ポリマーの種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0028】
膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド,N,N−ジエチルアセトアミド等の含チッ素系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤等があげられる。これらのなかでも、例えば膜形成ポリマーとしてポリスルホン系樹脂を用いた場合には、その溶解性の点から含チッ素系有機溶剤を用いることが好ましく、特にN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0029】
本実施形態1において、無機イオン交換体として、無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせか、又は無機両性イオン交換体が用いられる。これらの無機イオン交換体としては、イオン交換性を有する無機物であればよく、特に限定はない。
【0030】
前記無機陽イオン交換体の代表例としては、例えば
(a)マンガン系無機陽イオン交換体
AMD−Erba(商品名、無水二酸化マンガン、Corlo Erba社製)、
HMD−Erba(商品名、含水二酸化マンガン、Corlo Erba社製)
(b)アンチモン系無機陽イオン交換体
IXE−300(商品名、結晶性アンチモン酸、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:4.0meq/g)、
HAP−Erba(商品名、含水五酸化アンチモン、Corlo Erba社製)
(c)ケイ酸塩系無機陽イオン交換体
Zerwat(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Dia−Prosim社製)、
Decalsco(F,Y)(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Permit Co.,Ltd.社製)、
Ionac C 100(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Ionac.Chem.Comp.社製)、
Ionac C 101(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Ionac.Chem.Comp.社製)、
Ionac C 102(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Ionac.Chem.Comp.社製)、
Allasion Z(商品名、合成アルミノケイ酸塩、Dia−Prosim社製)
(d)リン酸塩系無機陽イオン交換体
IXE−400(商品名、リン酸チタン、東亜合成化学工業(株)製)、
IXE−100(商品名、リン酸ジルコニウム、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:6.6meq/g)、
ZPH−Erba(商品名、リン酸ジルコニウム、Corlo Erba社製)、
Bio−Rad ZP−1(商品名、リン酸ジルコニウム、Bio−Rad.Laboratories社製)、
FC(FTC)(商品名、リン酸ジルコニウム)、
TDO−Erba(商品名、リン酸スズ(IV)、Corlo Erba社製)
等の他、例えば
Bio−Rad ZM−1(商品名、モリブデン酸ジルコニウム、Bio−Rad.Laboratories社製)、
Bio−Rad ZT−1(商品名、タングステン酸ジルコニウム、Bio−Rad.Laboratories社製)、
COX−Erba(商品名、シュウ酸セリウム(III)、Corlo Erba社製)、
Bio−Rad AMP(商品名、モリブドリン酸アンモニウム、Bio−Rad.Laboratories社製)、
Bio−Rad KCF−1(商品名、ヘキサシアノ鉄(III)コバルト(II)カリウム、Bio−Rad.Laboratories社製)、
Zeo−Dur(商品名、天然グリーンサンド、Permit Co.,Ltd.社製)、
Zerolite グリーンサンド(商品名、安定化グリーンサンド、Permit Co.,Ltd.社製)、
Ionac M−50(商品名、Mn2+型にしたグリーンサンド、Ionac.Chem.Comp.社製)
等があげられる。
【0031】
また無機陽イオン交換体のイオン交換容量等には特に限定がなく、目的とする両性荷電膜の用途等に応じて適宜選択すればよいが、例えばイオン交換容量が1〜8meq/g程度の無機陽イオン交換体を好適に用いることができる。
【0032】
前記無機陰イオン交換体の代表例としては、例えば
(a)ビスマス系無機陰イオン交換体
IXE−500(商品名、含水酸化ビスマス、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:3.9meq/g)、
IXE−530(商品名、含水酸化ビスマス、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:3.7meq/g)、
IXE−550(商品名、含水酸化ビスマス、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:4.1meq/g)
等の他、例えば
IXE−700F(商品名、マグネシウム・アルミニウム系、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:4.5meq/g)
IXE−800(商品名、ジルコニウム系、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:1.0meq/g)
IXE−1000(商品名、水酸化リン酸鉛、東亜合成化学工業(株)製)
等があげられる。
【0033】
また無機陰イオン交換体のイオン交換容量等には特に限定がなく、目的とする両性荷電膜の用途等に応じて適宜選択すればよいが、例えばイオン交換容量が0.5〜5meq/g程度の無機陰イオン交換体を好適に用いることができる。
【0034】
無機イオン交換体として、前記無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせを用いる場合、両者の組み合わせは、得られる両性荷電膜の使用目的に応じて、例えば処理対象溶液における透過させようとするイオンの種類に応じて適宜変更することが好ましい。またこれら無機イオン交換体の種類を考慮して、前記膜形成ポリマー及び溶媒を適宜選択することが好ましい。
【0035】
無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との使用割合は、各々が有するイオン交換容量に応じて適宜調整すればよいが、通常無機陽イオン交換体/無機陰イオン交換体(重量比)が40/60以上、さらには45/55以上、また60/40以下、さらには55/45以下であることが好ましい。
【0036】
前記無機両性イオン交換体の代表例としては、例えば
(a)ジルコニウム系無機両性イオン交換体
OC(商品名、酸化ジルコニウム)、
Bio−Rad HZO−1(商品名、含水酸化ジルコニウム、Bio−Rad.Laboratories社製)
(b)チタン系無機両性イオン交換体
Bio−Rad HTO−1(商品名、含水酸化チタン、Bio−Rad.Laboratories社製)
(c)アンチモン−ビスマス系無機両性イオン交換体
IXE−600(商品名、アンチモン酸+含水酸化ビスマス、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:2.0meq/g(陽イオン交換基)及び2.0meq/g(陰イオン交換基))、
IXE−633(商品名、アンチモン酸+含水酸化ビスマス、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:1.3meq/g(陽イオン交換基)及び2.8meq/g(陰イオン交換基))
等があげられる。
【0037】
また無機両性イオン交換体のイオン交換容量等には特に限定がなく、目的とする両性荷電膜の用途等に応じて適宜選択すればよいが、例えばイオン交換容量が各々1〜5meq/g程度の無機両性イオン交換体を好適に用いることができる。
【0038】
分散させる無機イオン交換体の量T1は、用いる膜形成ポリマーの量T2も考慮して決定することが好ましい。該無機イオン交換体の量T1があまりにも多い場合には、逆に膜形成ポリマーの量T2が少なくなり、両性荷電膜を製造する際の製膜性が低下する恐れがあるので、無機イオン交換体の量T1の、該T1と膜形成ポリマーの量T2との総量Tに対する割合(無機イオン交換体の含有量)
(T1/T)×100
は、90重量%以下、さらには85重量%以下、特に80重量%以下であることが好ましい。また無機イオン交換体の量T1があまりにも少ない場合には、特に得られる両性荷電膜の塩透過性が低下する恐れがあるので、無機イオン交換体の量T1の、該T1と膜形成ポリマーの量T2との総量Tに対する割合は、50重量%以上、さらには60重量%以上、特に70重量%以上であることが好ましい。このように、本実施形態1においては、例えば前記範囲にて無機イオン交換体の含有量を変更することにより、得られる両性荷電膜の塩透過性を変化させることができる。
【0039】
また無機イオン交換体の量T1と膜形成ポリマーの量T2との総量Tと、溶媒の量Vとの割合は、ポリマー分散液を調製する際の無機イオン交換体の分散性、作業性や、両性荷電膜を製造する際の製膜性、目的とする両性荷電膜の特性等を考慮して決定することが好ましい。該総量Tがあまりにも少ない場合には、両性荷電膜を製造する際の製膜性や目的とする両性荷電膜の特性が低下する恐れがあるので、総量Tの、溶媒の量Vに対する割合
T/V
は、0.2g/mL以上、さらには0.3g/mL以上、特に0.4g/mL以上であることが好ましい。また総量Tがあまりにも多い場合には、ポリマー分散液を調製する際の無機イオン交換体の分散性や作業性が低下する恐れがあるので、総量Tの、溶媒の量Vに対する割合は、1.4g/mL以下、さらには0.8g/mL以下、特に0.7g/mL以下であることが好ましい。
【0040】
本実施形態1において、溶媒や、無機イオン交換体が溶媒に分散した分散液に膜形成ポリマーを溶解させる際の、溶解温度、攪拌時間といった条件は、これら膜形成ポリマー、溶媒及び無機イオン交換体の種類に応じ、膜形成ポリマーが充分に溶解するように適宜変更すればよいが、例えば通常50〜70℃程度に加熱することが好ましい。
【0041】
また無機イオン交換体をポリマー溶液や溶媒に分散させるには、適宜両者を混合、攪拌すればよいが、この際の系の温度、攪拌時間といった条件は、これら無機イオン交換体、膜形成ポリマー及び溶媒の種類に応じ、無機イオン交換体がポリマー溶液に充分に分散した均一なポリマー分散液となるように適宜変更することが好ましい。例えば膜形成ポリマー及び溶媒を加熱攪拌してポリマー溶液を得た場合には、引き続きこのポリマー溶液に無機イオン交換体を添加し、そのままの温度で、又は適宜温度を調整して攪拌混合してもよい。また溶媒及び無機イオン交換体を加熱攪拌して分散液を得た場合には、引き続きこの分散液に膜形成ポリマーを添加し、そのままの温度で、又は適宜温度を調整して攪拌混合してもよい。
【0042】
さらに本実施形態1では、工程(1)において、前記無機イオン交換体とともに、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との組み合わせ、両性イオン交換樹脂、陽イオン交換繊維と陰イオン交換繊維との組み合わせ、及び両性イオン交換繊維の少なくとも1種を用い、ポリマー分散液を調製することも可能である。この場合、イオン交換樹脂が有する分散性と、イオン交換繊維が有する高いイオン交換効率とを併せ持つ両性荷電膜を調製することができるという利点がある。
【0043】
前記陽イオン交換樹脂としては、分子中に例えば、スルホン酸基(−SO3H)、カルボン酸基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO32、−PO4H)、フェノール基(−C64OH)、スルホエチル基(−(CH22SO2OH)、ホスホメチル基(−CH2PO(OH)2)、カルボキシメチル基(−OCH2COOH)、イミノ二酢酸基(−N=C(CH2COOH)2)、イミノ二酢酸エステル基(−N=C(CH2COOR)2)等を有する酸性樹脂があげられる。該陽イオン交換樹脂の代表例としては、例えば
Amberlite IR−120B(商品名、オルガノ(株)製、イオン交換容量:1.9meq/mL)
等のスルホン酸基含有陽イオン交換樹脂等があげられる。
【0044】
前記陰イオン交換樹脂としては、分子中に例えば、第4級アンモニウム基(−NR3)、第3級アミノ基(−NR2)、第2級アミノ基(−NHR)、第1級アミノ基(−NH2)、2−ヒドロキシプロピルアミノ基(−OC24N(C25)CH2CH(OH)CH3)、トリエチルアミノ基(−(CH22N(C253)、ポリエチレンイミノ基(−(CH2CH2NH)xCH2CH2NH2)、ジエチルアミノエチル基(−(CH22N(C252)、p−アミノベンジル基(−CH2−C64−NH2)、N−メチルグルカミン基(−CH2−N(CH3)−CH2−(C(OH)H)4−CH2OH)等を有する塩基性樹脂があげられる。該陰イオン交換樹脂の代表例としては、例えば
Amberlite IRA−410J(商品名、オルガノ(株)製、イオン交換容量:1.4meq/mL)
等の第4級アンモニウム基含有陰イオン交換樹脂等があげられる。
【0045】
前記両性イオン交換樹脂としては、分子中に例えば、スルホン酸基(−SO3H)、カルボン酸基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO32、−PO4H)、フェノール基(−C64OH)、スルホエチル基(−(CH22SO2OH)、ホスホメチル基(−CH2PO(OH)2)、カルボキシメチル基(−OCH2COOH)、イミノ二酢酸基(−N=C(CH2COOH)2)、イミノ二酢酸エステル基(−N=C(CH2COOR)2)等の陽イオン交換基と、第4級アンモニウム基(−NR3)、第3級アミノ基(−NR2)、第2級アミノ基(−NHR)、第1級アミノ基(−NH2)、2−ヒドロキシプロピルアミノ基(−OC24N(C25)CH2CH(OH)CH3)、トリエチルアミノ基(−(CH22N(C253)、ポリエチレンイミノ基(−(CH2CH2NH)xCH2CH2NH2)、ジエチルアミノエチル基(−(CH22N(C252)、p−アミノベンジル基(−CH2−C64−NH2)、N−メチルグルカミン基(−CH2−N(CH3)−CH2−(C(OH)H)4−CH2OH)等の陰イオン交換基とを両方有する樹脂があげられる。該両性イオン交換樹脂の代表例としては、例えば
Diaion AMP01(商品名、三菱化学(株)製、イオン交換容量:0.9meq/mL)
等の第4級アンモニウム基及びカルボン酸基含有両性イオン交換樹脂等があげられる。
【0046】
前記陽イオン交換繊維としては、分子中に例えばスルホン酸基(−SO3H)、カルボン酸基(−COOH)、イミノジ酢酸基(−N=C(CH2COOH)2)、アミノリン酸基(−C(NH2)POH)等を有するイオン交換繊維が例示される。
【0047】
陽イオン交換繊維の代表例としては、例えば
IONEX TIN−100(商品名(IONEX:登録商標)、東レ・ファインケミカル(株)製、イオン交換容量:>3.0meq/g、繊維径:40μm、繊維長:0.5mm)
IEF−SC(商品名、(株)ニチビ製、イオン交換容量:>2.0meq/g、繊維径:35μm、繊維長:>1.0mm)
等のスルホン酸基を有するイオン交換繊維;
N−20CE(商品名、日本エクスラン工業(株)製、イオン交換容量:>3.2meq/g、繊維径:20μm、繊維長:50mm)
N−20CH(商品名、日本エクスラン工業(株)製、イオン交換容量:>4.2meq/g、繊維径:30μm、繊維長:40mm)
IEF−WC(商品名、(株)ニチビ製、イオン交換容量:>4.0meq/g、繊維径:40×15μm、繊維長:>1.0mm)
等のカルボン酸基を有するイオン交換繊維の他、例えば
IONEX TIN−600(商品名(IONEX:登録商標)、東レ・ファインケミカル(株)製、イオン交換容量:>1.5meq/g、繊維径:40μm、繊維長:0.5mm)等のイミノジ酢酸基を有するものや、
ポリビニルアルコールを骨格とし、アミノリン酸基を有するもの((株)ニチビ製)
等のキレート系のイオン交換繊維も、陽イオン交換繊維として例示することができる。
【0048】
前記陰イオン交換繊維としては、分子中に例えば第4級アンモニウム基(−NR3)、第3級アミノ基(−NR2)、第2級アミノ基(−NHR)、第1級アミノ基(−NH2)、クロルメチル化基(−CH2Cl)、アミノメチル化基(−CH2NH2)等を有するイオン交換繊維が例示される。
【0049】
陰イオン交換繊維の代表例としては、例えば
IONEX TIN−200(商品名(IONEX:登録商標)、東レ・ファインケミカル(株)製、イオン交換容量:>2.0meq/g、繊維径:40μm、繊維長:0.5mm)
IEF−SA(商品名、(株)ニチビ製、イオン交換容量:>4.0meq/g、繊維径:55×15μm、繊維長:>1.0mm)
等の第4級アンモニウム基を有するイオン交換繊維;
IEF−WA(商品名、(株)ニチビ製、イオン交換容量:>3.0meq/g、繊維径:55×15μm、繊維長:>1.0mm)
等の第1級〜第3級アミノ基を有するイオン交換繊維;
IONEX TIN−400(商品名(IONEX:登録商標)、東レ・ファインケミカル(株)製、イオン交換容量:>2.5meq/g、繊維径:40μm、繊維長:0.5mm)
等のクロルメチル化基を有するイオン交換繊維;
IONEX TIN−500(商品名(IONEX:登録商標)、東レ・ファインケミカル(株)製、イオン交換容量:>2.5meq/g、繊維径:40μm、繊維長:0.5mm)
等のアミノメチル化基を有するイオン交換繊維
等があげられる。
【0050】
前記両性イオン交換繊維としては、分子中に例えば、スルホン酸基(−SO3H)、カルボン酸基(−COOH)、イミノジ酢酸基(−N=C(CH2COOH)2)、アミノリン酸基(−C(NH2)HPOH)等の陽イオン交換基と、第4級アンモニウム基(−NR3)、第3級アミノ基(−NR2)、第2級アミノ基(−NHR)、第1級アミノ基(−NH2)、クロルメチル化基(−CH2Cl)、アミノメチル化基(−CH2NH2)等の陰イオン交換基とを両方有するイオン交換繊維が例示される。
【0051】
両性イオン交換繊維の代表例としては、例えば、
ポリビニルアルコールを骨格とし、スルホン酸基と、第4級アンモニウム基及び第1級〜第3級アミノ基とを有するもの((株)ニチビ製、イオン交換容量:1.4meq/g(陽イオン交換基)及び1.1meq/g(陰イオン交換基)、繊維長:>1.0mm)
等があげられる。
【0052】
なお、無機イオン交換体とともに、前記陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との組み合わせや、陽イオン交換繊維と陰イオン交換繊維との組み合わせを用いる場合、各々の組み合わせにおける両者の種類や使用割合は、得られる両性荷電膜の使用目的に応じ、適宜選択、調整することが好ましい。
【0053】
次に工程(2)において、工程(1)で得られたポリマー分散液を基材上に塗布及び延伸し、乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、洗浄して両性荷電膜を得る。なお本実施形態1において、ポリマー分散液を基材上に塗布する前に、目的とする両性荷電膜の均質性を向上させるために、例えば減圧脱泡法、超音波脱泡法、静置脱泡法等にてポリマー分散液に脱泡処理を施すことが好ましい。
【0054】
例えば前記のごとく脱泡処理を施したポリマー分散液を、表面が平滑な基材上に、例えばバーコート法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法等によって塗布及び延伸させる。かかる基材としては、所望の膜質及び均一な厚さを有する膜が形成され得る限り特に限定がなく、例えばガラスプレート、ステンレススチールプレート、アルミニウムプレートのほか、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の高分子フィルムやシート等を好適に使用することができる。
【0055】
基材上に形成させる膜の厚さにも特に限定がないが、後述する乾燥処理後、最終的に得られる目的とする両性荷電膜の厚さを考慮すると、通常0.05〜1mm程度、好ましくは0.1〜0.5mm程度であることが望ましい。
【0056】
かくして基材上に形成した膜を、所望の温度及び時間にて乾燥させる。かかる乾燥処理の温度等の条件にも特に限定がなく、膜が充分に凝固するように適宜調整すればよいが、通常室温〜60℃程度であることが好ましい。なお本実施形態1にて得られる両性荷電膜は、例えば圧透析用膜、拡散透析用膜、電気透析用膜等として用いることができるが、これら用途に応じた両性荷電膜は、乾燥時間を適宜調整することによって容易に得ることができる。例えば乾燥時間を1〜50時間程度とした場合には、拡散透析用や電気透析用としては勿論のこと、圧透析用として好適に使用し得る耐圧性に特に優れた両性荷電膜を製造することができる。一方、乾燥時間を1〜2分間程度と短くすることによって、拡散透析用として好適に使用し得る両性荷電膜を製造することもできる。
【0057】
前記のごとく乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、例えば蒸留水等にて洗浄処理を行って、目的とする両性荷電膜を得ることができる。かかる両性荷電膜の膜厚(乾燥)は、その使用目的に応じて適宜変更すればよいが、通常0.02〜0.8mm程度、好ましくは0.05〜0.5mm程度であることが望ましい。また両性荷電膜の含水率(乾燥重量に対する含まれる水の重量比)にも特に限定がなく、やはりその使用目的に応じて適宜調整すればよいが、通常0.02〜0.8程度であることが望ましい。
【0058】
このように、本実施形態1の製造方法では、無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせか、又は無機両性イオン交換体である無機イオン交換体が用いられており、得られる両性荷電膜は、イオン性物質の選択的透過性に優れ、中性物質の透過を高い割合で阻止することができるほか、無機イオン交換体は無機物であるので耐熱性に優れ、膨潤や収縮が極めて少なく、寸法安定性にも優れる。それだけでなく、本実施形態1の製造方法によれば、塩透過性にも優れる両性荷電膜を、無機イオン交換体の含有量を変更することによって、その塩透過性を変化させ、任意の大きさで、極めて容易かつ安価に製造することができる。
【0059】
なお本実施形態1において、得られた両性荷電膜には、前記のごとき各種優れた特性に加え、さらにイオン選択性(イオン価数の差異に基づく選択性)を付与することも可能である。両性荷電膜にイオン選択性を付与しようとする場合には、例えば、イオン選択性を有する層を両性荷電膜の片面に設ける等すればよい。かかるイオン選択性を有する層とは、例えば、処理の対象となる溶液中の、選択性を付与しようとするイオンの種類に応じた、任意の荷電性ポリマー、すなわち正の荷電性ポリマー又は負の荷電性ポリマーを含有した層である。
【0060】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係る両性荷電膜の製造方法では、以下の工程(I)及び(II):
(I)膜形成ポリマーを溶融させ、得られた溶融ポリマーに無機イオン交換体を混合して分散させ、均一なポリマー分散液を調製する工程
(II)前記ポリマー分散液を成形及び延伸し、得られた膜を洗浄する工程
が行われる。図3に、本実施形態2に係る製造方法を概略的に表したフローチャートを示す。かかる図3において、膜形成ポリマーを原料1、無機イオン交換体を原料2として表す。
【0061】
まず工程(I)において、膜形成ポリマーを加熱溶融させ、得られた溶融ポリマーに無機イオン交換体を混合し、溶融ポリマーに無機イオン交換体を分散させて均一なポリマー分散液を調製する。
【0062】
本実施形態2の工程(I)では、前記実施形態1の工程(1)とは異なり、膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒を用いずに、無機イオン交換体の高い耐熱性を利用して、膜形成ポリマーを加熱して溶融させた溶融ポリマーに、直接無機イオン交換体を混合、分散させることができる。
【0063】
実施形態2に用いられる膜形成ポリマーは、両性荷電膜を形成する際に、例えば加熱乾燥等により皮膜を形成することができるものであればよく、形成される両性荷電膜に、耐薬品性、耐溶剤性、耐水性、耐久性等を付与し得るものが好ましい。かかる膜形成ポリマーとしては、例えば前記実施形態1で例示された樹脂等があげられ、これらは単独で又は2種以上を同時に用いることができる。
【0064】
実施形態2において、無機イオン交換体として、無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせか、又は無機両性イオン交換体が用いられる。これらの無機イオン交換体としては、イオン交換性を有する無機物であればよく、特に限定はない。かかる無機イオン交換体の代表例としては、例えば前記実施形態1で例示されたイオン交換体等があげられる。
【0065】
また無機イオン交換体のイオン交換容量等には特に限定がなく、目的とする両性荷電膜の用途等に応じて適宜選択すればよく、無機陽イオン交換体、無機陰イオン交換体及び無機両性イオン交換体いずれも、前記実施形態1と同程度であればよい。
【0066】
無機イオン交換体として、前記無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせを用いる場合、両者の組み合わせは、得られる両性荷電膜の使用目的に応じて、例えば処理対象溶液における透過させようとするイオンの種類に応じて適宜変更することが好ましい。またこれら無機イオン交換体の種類を考慮して、前記膜形成ポリマーを適宜選択することが好ましい。
【0067】
無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との使用割合は、各々が有するイオン交換容量に応じて適宜調整すればよいが、通常無機陽イオン交換体/無機陰イオン交換体(重量比)が40/60以上、さらには45/55以上、また60/40以下、さらには55/45以下であることが好ましい。
【0068】
分散させる無機イオン交換体の量T1は、用いる膜形成ポリマーの量T2も考慮して決定することが好ましい。該無機イオン交換体の量T1があまりにも多い場合には、逆に膜形成ポリマーの量T2が少なくなり、両性荷電膜を製造する際の製膜性が低下する恐れがあるので、無機イオン交換体の量T1の、該T1と膜形成ポリマーの量T2との総量Tに対する割合(無機イオン交換体の含有量)
(T1/T)×100
は、90重量%以下、さらには85重量%以下、特に80重量%以下であることが好ましい。また無機イオン交換体の量T1があまりにも少ない場合には、特に得られる両性荷電膜の塩透過性が低下する恐れがあるので、無機イオン交換体の量T1の、該T1と膜形成ポリマーの量T2との総量Tに対する割合は、50重量%以上、さらには60重量%以上、特に70重量%以上であることが好ましい。このように、本実施形態2においては、例えば前記範囲にて無機イオン交換体の含有量を変更することにより、得られる両性荷電膜の塩透過性を変化させることができる。
【0069】
本実施形態2において、膜形成ポリマーを溶融させる際の加熱温度は、膜形成ポリマーの種類に応じて適宜調整すればよい。また無機イオン交換体を溶融ポリマーに分散させるには、適宜両者を混合、攪拌すればよいが、この際の系の温度、攪拌時間といった条件は、これら無機イオン交換体及び膜形成ポリマーの種類に応じ、無機イオン交換体が溶融ポリマーに充分に分散した均一なポリマー分散液となるように適宜変更することが好ましい。
【0070】
次に工程(II)において、工程(I)で得られたポリマー分散液を、例えば押出成形機、射出成形機等の成形機や延伸機等を用いて成形及び延伸し、得られた膜を洗浄して両性荷電膜を得る。かかる成形及び延伸を行う際の温度、時間、圧力等の条件は、所望の膜質及び均一な厚さを有する膜が形成され得る限り特に限定がなく、例えば膜形成ポリマーの種類等に応じて適宜調整することが好ましい。
【0071】
前記のごとく成形及び延伸して得られた膜に、例えば蒸留水等にて洗浄処理を行って、目的とする両性荷電膜を得ることができる。かかる両性荷電膜の膜厚は、その使用目的に応じて適宜変更すればよいが、通常0.02〜0.8mm程度、好ましくは0.05〜0.5mm程度であることが望ましい。また両性荷電膜の含水率(乾燥重量に対する含まれる水の重量比)にも特に限定がなく、やはりその使用目的に応じて適宜調整すればよいが、通常0.02〜0.8程度であることが望ましい。
【0072】
本実施形態2の製造方法では、無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせか、又は無機両性イオン交換体である無機イオン交換体が用いられており、得られる両性荷電膜は、イオン性物質の選択的透過性に優れ、中性物質の透過を高い割合で阻止することができるほか、無機イオン交換体は無機物であるので耐熱性に優れ、膨潤や収縮が極めて少なく、寸法安定性にも優れる。それだけでなく、本実施形態2の製造方法によれば、塩透過性にも優れる両性荷電膜を、無機イオン交換体の含有量を変更することによって、その塩透過性を変化させ、任意の大きさで、極めて容易かつ安価に製造することができる。
【0073】
このように、本実施形態2の製造方法は、従来の、例えばイオン交換能を有するマイクロゲルのような耐熱性が低い原料を用いた両性荷電膜の製造方法では不可能であった、溶融延伸法を利用した方法であり、前記膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒を使用せずに製膜することが可能であるので、前記実施形態1の製造方法よりもさらに、低コストにて両性荷電膜を製造することができるという利点がある。
【0074】
なお本実施形態2においても、得られた両性荷電膜には、前記のごとき各種優れた特性に加え、さらにイオン選択性(イオン価数の差異に基づく選択性)を付与することも可能である。両性荷電膜にイオン選択性を付与しようとする場合には、前記実施形態1と同様に、例えば、イオン選択性を有する層を両性荷電膜の片面に設ける等すればよい。
【0075】
本発明の両性荷電膜は、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化カルシウムといった低分子量電解質の脱塩や、ポリエチレングリコール、糖類といった中性物質の透過阻止等に好適に使用することができ、例えば飲料用水、工業用水、純水等の水処理工業における脱塩;化学工業、金属工業等の工業排水の脱塩や有害金属イオンの除去;海洋深層水におけるミネラル成分の分離;海水の濃縮製塩、淡水化;医薬・食品工業における脱塩、イオン成分の分離精製といった幅広い分野にて有用なものである。
【0076】
次に本発明の両性荷電膜及びその製造方法を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0077】
実施例1〜9(両性荷電膜の製造)
以下に示す原料1〜3を準備した。
・原料1(膜形成ポリマー):
ポリスルホン(アルドリッチ(Aldrich)社製、数平均分子量:約22000)
・原料2(溶媒):
N−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業(株)製)
・原料3(無機イオン交換体):
(a)無機陽イオン交換体(IXE−100(商品名)、リン酸ジルコニウム、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:6.6meq/g)
(b)無機陰イオン交換体(IXE−700F(商品名)、マグネシウム・アルミニウム系、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:4.5meq/g)
(c)無機両性イオン交換体(IXE−600(商品名)、アンチモン酸+含水酸化ビスマス、東亜合成化学工業(株)製、イオン交換容量:2.0meq/g(陽イオン交換基)及び2.0meq/g(陰イオン交換基))
【0078】
表1に原料1〜3の使用量を示す。
【表1】

【0079】
まず原料1及び原料2を、ヒーター付きスターラーを用いて約60℃で均一なポリマー溶液となるまで充分に加熱攪拌した。得られたポリマー溶液を60℃に保持したまま、原料3を添加し、原料3がポリマー溶液中に分散するまで充分に加熱攪拌して均一なポリマー分散液を得た。
【0080】
得られたポリマー分散液を液中に気泡がなくなるまで静置して脱泡した後、ガラスプレート上にキャストし、バーコート法にて均一な厚さとなるように延伸した。これを30℃で24時間乾燥させて凝固させた後、得られた膜から原料2である溶媒を除去し、蒸留水にて洗浄して両性荷電膜を得た。
【0081】
得られた両性荷電膜はひび割れ、欠け、キズ等がなく、良好な外観を有するものであった。その膜厚(乾燥)及び含水率(乾燥重量に対する含まれる水の重量比)を、併せて表1に示す。
【0082】
試験例1(塩透過性)
図4の概略図に示す塩透過性測定装置を用い、実施例1〜9で得られた両性荷電膜(有効膜面積:12.56cm2)について塩透過性の性能評価を行った。かかる塩透過性測定装置において、容器21と容器22との間が両性荷電膜1で仕切られており、容器22内には電導度計3(型番:WM−50EG、東亜ディーケーケー(株)製)が備えられている。
【0083】
濃度が1.0mol/kgのNaCl水溶液100mLを容器21内に入れ、もう一方の容器22内に純水100mLを入れて(容器21、22内の液温:約25℃)10分間静置した後、純水中の電導度を電導度計3にて1分ごとに100分間測定した。得られた測定値から、単位時間における、単位膜面積あたりの塩透過量(mol・cm-2)を算出した。その結果を、経過時間に対する塩透過量の変化としてグラフに示す。図5に、実施例1及び2の両性荷電膜((T1/T)×100=50重量%)の結果を、図6に、実施例3〜9の両性荷電膜((T1/T)×100=60〜90重量%)の結果をそれぞれ示す。図5及び6において、各実施例と対応するグラフの種類は、それぞれ凡例に示す通りである。
【0084】
図5に示されるように、実施例1の両性荷電膜の方が、実施例2の両性荷電膜よりも塩透過量が多いことから、無機イオン交換体の含有量が同じ両性荷電膜では、無機イオン交換体として、無機両性イオン交換体よりも、無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせを用いた方が、塩透過性により優れることがわかる。
【0085】
また、図6に示されるように、無機イオン交換体として、同じ無機両性イオン交換体を用いた場合、その含有量が多い方が、塩透過性がさらに向上する傾向があることがわかる。
【0086】
さらに、実施例2〜9の結果を用い、無機両性イオン交換体の含有量に対する塩透過量の変化として、図7のグラフに示す。
【0087】
図7に示されるように、無機両性イオン交換体の含有量が70重量%付近で、塩透過量が大幅に増加する傾向があり、無機イオン交換体の含有量が70〜90重量%程度の場合、特に塩透過性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の製造方法により、両性荷電膜を製造する際の工程の簡素化、所要時間の短縮化及びコストの低減化が図られ、生産効率の向上が実現される。また本発明の両性荷電膜は、種々のイオンを含有した溶液の透析に使用が可能であり、例えば化学工業、金属工業、医薬・食品工業等の各種産業分野にて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施形態1に係る両性荷電膜の製造方法を概略的に示すフローチャート
【図2A】本発明の実施形態1に係る両性荷電膜の製造方法の一例を概略的に示すフローチャート
【図2B】本発明の実施形態1に係る両性荷電膜の製造方法の一例を概略的に示すフローチャート
【図3】本発明の実施形態2に係る両性荷電膜の製造方法を概略的に示すフローチャート
【図4】塩透過性試験に用いる塩透過性測定装置の概略図
【図5】実施例1及び2で得られた両性荷電膜についての塩透過性試験における、経過時間に対する塩透過量の変化を示すグラフ
【図6】実施例3〜9で得られた両性荷電膜についての塩透過性試験における、経過時間に対する塩透過量の変化を示すグラフ
【図7】実施例2〜9で得られた両性荷電膜についての塩透過性試験における、無機両性イオン交換体の含有量に対する塩透過量の変化を示すグラフ
【符号の説明】
【0090】
1 両性荷電膜
21、22 容器
3 電導度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両性荷電膜の製造方法であって、以下の工程(1)及び(2):
(1)膜形成ポリマー、該膜形成ポリマーを溶解し得る溶媒及び無機イオン交換体を混合し、ポリマー溶液に無機イオン交換体を分散させて均一なポリマー分散液を調製する工程
(2)前記ポリマー分散液を基材上に塗布及び延伸し、乾燥して凝固させた後、得られた膜から溶媒を除去し、洗浄する工程
を行うことを特徴とし、
前記無機イオン交換体が、無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせか、又は無機両性イオン交換体である、両性荷電膜の製造方法。
【請求項2】
無機イオン交換体の量T1の、該無機イオン交換体の量T1と膜形成ポリマーの量T2との総量Tに対する割合
(T1/T)×100
が、90重量%以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
無機イオン交換体の量T1と膜形成ポリマーの量T2との総量Tの、溶媒の量Vに対する割合
T/V
が、0.2〜1.4g/mLである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
無機イオン交換体とともに、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との組み合わせ、両性イオン交換樹脂、陽イオン交換繊維と陰イオン交換繊維との組み合わせ、及び両性イオン交換繊維の少なくとも1種を用いる、請求項1〜3いずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の製造方法にて得られる両性荷電膜。
【請求項6】
両性荷電膜の製造方法であって、以下の工程(I)及び(II):
(I)膜形成ポリマーを溶融させ、得られた溶融ポリマーに無機イオン交換体を混合して分散させ、均一なポリマー分散液を調製する工程
(II)前記ポリマー分散液を成形及び延伸し、得られた膜を洗浄する工程
を行うことを特徴とし、
前記無機イオン交換体が、無機陽イオン交換体と無機陰イオン交換体との組み合わせか、又は無機両性イオン交換体である、両性荷電膜の製造方法。
【請求項7】
無機イオン交換体の量T1の、該無機イオン交換体の量T1と膜形成ポリマーの量T2との総量Tに対する割合
(T1/T)×100
が、90重量%以下である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の製造方法にて得られる両性荷電膜。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−221101(P2008−221101A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61534(P2007−61534)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】