説明

両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置

【課題】 簡単な構成で両面発光を実現し、十分な封止効果を得ることが可能な両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置を提供する。
【解決手段】 透明基板22上に有機発光部6が膜封止された状態で形成され、透明基板2を通して光照射が行われる一対の有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bを備え、これら一対の有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bが、透明基板2が外側となるように互いに貼り合わされている。有機エレクトロルミネッセンス素子基板Aの有機発光部6と有機エレクトロルミネッセンス素子基板Bの有機発光部6は直列に接続されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚の有機エレクトロルミネッセンス素子基板を貼り合わせることで両面発光を可能にした両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の観点から、二酸化炭素等の温室効果ガスの削減が急務となっており、例えば蛍光灯等に代わる低消費電力光源の普及が不可欠となっている。蛍光灯には、水銀も含まれているため、この点からもこれに代わる照明の開発が望まれる。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と称する。)は、自発光型の光源であり、消費電力が小さく、大型化やフレキシブル化等が比較的容易であるため、照明装置における面光源としての応用が期待されている。
【0004】
有機EL素子の構成としては、例えば透明基板上に第1電極(例えば透明電極)、有機発光層を含む有機化合物多層膜、及び第2電極をこの順に積層することにより素子部を形成し、有機化合物多層膜に電流を流すことにより有機発光層で発生した光を前記透明基板側から取り出すようにしたものが一般的である。
【0005】
ところで、前述の有機EL素子においては、素子の厚さが非常に薄いという特徴を有しており、この特徴を活かして、いわゆる両面発光型の有機EL素子とすることが検討されている。例えば、薄い板状の照明装置において、両面発光可能であれば、これまでにない新規な照明効果を得ることができ、有機EL照明装置の商品価値を大きく高めることができるものと考えられる。
【0006】
両面発光型の有機EL素子としては、種々の構造のものが提案されているが、照明装置に関するものは少なく、その多くが表示装置に関するものである。例えば、特許文献1には、各々基板、第1電極、発光層、及び第2電極を備えると共に単一方向に画面表示する第1有機ELパネルと第2有機ELパネルとを結合し、両方向に画面表示するように構成される有機EL素子が開示されている。特許文献1記載の発明では、両方向に対して異なる画面表示が可能な有機EL素子を実現している。
【0007】
同じく、特許文献2には、非透湿性透明基板の一方の表面に、該透明基板の側から、少なくとも透明電極層、有機発光材料層、そして光遮蔽性電極層が順に積層された構成を有する有機エレクトロルミネッセンス発光性積層体を少なくとも一個配置してなる板状発光体の一対を、各々の板状発光体の光遮蔽性電極層が互いに非接触に対向するように配置して、各々の基板を、その周縁もしくはその近傍にて非透湿的に接合してなる両面発光表示装置が開示されている。特許文献2記載の発明も、記号、文字、図形、静止画もしくは動画等の情報を表示する装置であって、その両面のそれぞれに情報を表示する両面発光表示装置に関する。
【0008】
両面発光型の照明装置としては、例えば特許文献3に記載されるELシートや特許文献4に記載される発光装置等があるが、いずれも1枚の透明基板上に2つの発光層を積層そた構造を有する。
【0009】
例えば、特許文献3に記載されるELシートは、透明基板上に、第1の透明電極と、第1発光層と、第1の絶縁層と、背面電極層とが順次積層されたELシートであって、背面電極層上に、第2の絶縁層と、第2の発光層と、第2の透明電極層とが順次積層され、第1の発光層の外周端面より内側において、透明層または貫通孔のみで構成される採光部を有することを特徴とするものである。
【0010】
特許文献4には、第1の陽極と第1の陰極との間に発光性の有機化合物を含む第1の発光層を有する第1の発光素子と、第2陽極と第2陰極との間に発光性の有機化合物を含む第2の発光層を有する第2の発光素子とが直列に積層された発光素子であって、第1の陰極と第2の陽極は接しており、第1の発光素子または第2の発光素子のいずれか一方は、少なくとも2つのピークを有する第1の発光スペクトルを示し、他方は前記2つのピークとは異なる位置にピークを有する第2の発光スペクトルを示し、第1の発光スペクトルと第2の発光スペクトルを合わせた発光スペクトルを示す発光素子が開示されている。そして、特許文献4の図4(b)には、第1の陽極側及び第2の陰極側の両方から発光を取り出す構成とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−166672号公報
【特許文献2】特開2004−71246号公報
【特許文献3】特開2005−93102号公報
【特許文献4】特開2006−12793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、有機EL素子では、有機EL素子を構成する有機化合物多層膜等が極めて不安定な有機材料から構成されるため、酸素や水分等の影響を受けて容易に劣化するという大きな欠点がある。特に、面積の大きな有機EL照明装置では、酸素や水分の侵入を如何にして抑えるかが、大きな課題となっている。このことは、両面発光型の有機EL照明装置においても同様である。
【0013】
このような観点から見た場合、特許文献1に記載されるように、ただ単に第1電極や発光層、2電極等が積層形成された第1有機ELパネルと第2有機ELパネルとを結合しただけでは、十分な封止状態を得ることはできない。特許文献2に記載されるような構成を採用した場合、いわゆる缶封止と同様の構造となるため、構造上のデメリットが多い。例えば、缶封止を行う場合、封止缶の周囲をシール剤で封止する必要があるが、シール剤が封止缶の内部にも入り込む可能性があり、これを防ぐためには工程が煩雑になる等の問題がある。また、缶封止構造を採用した場合には、素子の大型化は難しく、大面積が必要な照明装置に適用することは難しい。さらに、減圧により封止缶が反ってしまったり、素子全体の厚さが厚くなる等の問題もある。
【0014】
一方、特許文献3に記載されるELシートや特許文献4に記載される発光素子の場合には、積層数が多く、構造、製造が煩雑である他、封止構造に関しても実用的とは言い難い。例えば、特許文献3記載のELシートでは、基板の一方の面に2つの発光層を含む多数の層を積層してELシートを作製した後、中間膜を介してガラスに挟み込む構造とすることが開示されているが、ELシート自体の作製が煩雑である上、中間膜やガラスで挟み込む工程も必要である。また、中間膜やガラスで挟み込む際には、水分等が侵入しないように細心の注意を払う必要がある。なお、特許文献4に記載される発光素子では、封止に関して何ら考慮されていない。
【0015】
本発明は、前述のような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、簡単な構成でありながら両面発光を実現することができ、しかも十分な封止効果を得ることが可能な両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述の目的を達成するために、本発明の両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置は、透明基板上に有機発光部が膜封止された状態で形成され、前記透明基板を通して光照射が行われる一対の有機エレクトロルミネッセンス素子基板を備え、これら一対の有機エレクトロルミネッセンス素子基板が、前記透明基板が外側となるように互いに貼り合わされていることを特徴とする。
【0017】
本発明の両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置は、膜封止構造を有する一対の有機エレクトロルミネッセンス素子基板が貼り合わされた構造を有しており、前記貼り合わせにより、一方の有機エレクトロルミネッセンス素子基板の透明基板が他方の有機エレクトロルミネッセンス素子基板を封止する形になる。したがって、各有機エレクトロルミネッセンス素子基板が膜封止されていることに加えて、互いに相補的に封止する構造となり、水分や酸素の侵入が確実に抑えられる。
【0018】
また、本発明の両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置は、2枚の有機エレクトロルミネッセンス素子基板を貼り合わせることで簡単に構築することができ、個々の有機エレクトロルミネッセンス素子基板は、通常の有機エレクトロルミネッセンス素子基板と同様の構成とすればよいことから、作製も容易である。
【0019】
なお、両面発光エレクトロルミネッセンス照明装置においては、輝度ムラの解消も大きな課題となる。請求項4記載の発明は、このような課題を解消するものであり、第1の有機エレクトロルミネッセンス素子基板の有機発光部と第2の有機エレクトロルミネッセンス素子基板の有機発光部を一方の基板端縁側において直列に接続するとともに、これら有機エレクトロルミネッセンス素子基板が、前記基板端縁とは反対側の基板端縁側において支持する構造とすることで、前述の利点に加えて、輝度ムラの解消を実現可能としている。
【0020】
前記構造とすることで、各有機エレクトロルミネッセンス素子基板の有機発光部における電流分布が均一化され、例えば補助電極を設けなくとも輝度ムラが抑制される。また、特に1辺支持構造とすることで、例えば2辺支持の場合に比べてデッドスペースを削減することができる。さらに、前記補助電極の省略やデッドスペースの削減は、各有機エレクトロルミネッセンス素子基板において開口率の向上に繋がるという利点も有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡単な構造でありながら、優れた封止構造を有し、水分や酸素の侵入を確実に防止し得る両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置を提供することが可能である。また、本発明の両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置は、ガラス板等で挟み込んだり缶封止構造を採用する必要がなく、例えば透明基板に厚さの薄いシート状の基板を用いることで、シートの両面が面状に発光し、これまでにない照明効果を得ることができる新規な照明装置を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用した両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置の概略断面図である。
【図2】有機エレクトロルミネッセンス素子基板の貼り合わせ状態を示す概略断面図である。
【図3】両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置の支持構造の一例を示す概略斜視図である。
【図4】(a)は有機エレクトロルミネッセンス素子基板A.Bを並列接続した状態を模式的に示す図であり、(b)はその時の電流の流れの様子を模式的に示す図である。
【図5】(a)は有機エレクトロルミネッセンス素子基板A.Bを直列接続した状態を模式的に示す図であり、(b)はその時の電流の流れの様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用した両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
本発明の両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置は、ある程度の面積を有し面状に発光(例えば白色発光)する照明装置であり、しかも両面で発光が行われる照明装置である。
【0025】
具体的な構造としては、図1に示すように、2枚の有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bを貼り合わせることにより両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置1とされている。
【0026】
各有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bは、それぞれ膜封止構造を有しており、いずれも図2に示すように、透明基板2上に陽極3、1種類以上の有機材料により多層成膜される有機層4及び陰極5をこの順に積層してなる有機発光部6を有しており、この有機発光部6が各種シート(膜)によって封止され、大気(酸素)や水分の侵入を防ぐ構造とされている。具体的には、有機発光部6の表面が平坦化層7によって被覆され、さらに平坦化層7上にシールド層8が積層されている。
【0027】
各有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bにおいては、有機発光部6中の有機発光層からの発光を、透明基板2側から取り出すようにしており、したがって、透明基板2としては、光透過性に優れた基板を用いることが好ましい。また、透明基板2に厚さの薄いシート状の基板を用いれば、両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置1全体をシート状の形態とすることもできる。
【0028】
また、前記透明基板2は、有機発光部6を支持する支持体として機能する他、水分、酸素等の有機発光部6への侵入を阻止するバリア層としても機能する。したがって、前記光透過性の他、バリア性も要求され、例えばガラスやプラスチック等を用いることが好ましい。特に、ガラスは、水分や酸素等のバリア性にも優れることから、好ましい材料である。プラスチックを用いる場合には、前記バリア性が不足する場合があるので、その場合には、表面にバリア層を形成することが好ましい。
【0029】
透明基板2上に形成される有機発光部6は、例えば陽極3、有機層4及び陰極5をこの順に積層することにより構成される。ここで、陽極3は、ITO(インジウム錫酸化物)やインジウム亜鉛酸化物等の光透過性を有する導電材料が例えばスパッタ等により成膜されて構成される。陽極3上に重ねられる有機層4は、例えば陽極3側から、正孔注入層、発光層及び電子注入層等が順次積層されたものである。また、有機層4は、発光層と正孔注入層との間に正孔輸送層が存在する構成や、発光層と電子注入層との間に電子輸送層が存在する構成、さらには単層でもよい。さらに、有機層4としては前述の構造に限定されず、種々の構造をとることが可能である。有機層4上に重ねられる陰極5は、例えばアルミニウム等の金属や合金等がスパッタや蒸着等により成膜されて構成される。
【0030】
有機発光部6を覆う平坦化層7は、その上に形成されるシールド層8の膜質を良好にしてシールド層8のバリア性を高める観点から、有機発光部6の表面の段差や凹凸、ピンホール等を均一に被覆する平滑性が要求される。それとともに、平坦化層7には、有機発光部6を酸素や水分等から保護するためのガスバリア性、有機発光部6から発生した熱を速やかに外部に伝達ための高い熱伝導性、及びシールド層8を成膜する時に発生する素子のダメージを軽減させる機能を有することが好ましい。これらの観点から、キシリレン系高分子化合物、ポリイミド系高分子化合物、アクリル系高分子化合物、エポキシ系高分子化合物、ポリ尿素系高分子化合物等の有機絶縁材料を、プラズマCVD等のCVD法や抵抗加熱蒸着等のPVD法などの気相法(ドライプロセス)により成膜して平坦化層7を形成することが好ましい。あるいは、トリフェニルアミン化合物、トリアリールアミン化合物、トリス(アリールアミン)ベンゼン化合物等を真空蒸着法等で成膜することにより平坦化層7を形成することも可能である。例えば、塗布等のウェットプロセスにより平坦化層を形成する方法もあるが、平坦化層7を形成する材料を溶かすために使用する溶媒及びその溶媒に含まれる水分等が有機発光部6に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0031】
平坦化層7上には、シールド層8が積層されるが、当該シールド層8は、2枚の有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bを貼り合わせる際に使用される接着層9の硬化時に有機層4等の有機発光部6が悪影響を受けることがないように形成されるものである。したがって、前記シールド層8には、接着剤9の硬化時の悪影響を遮断する機能が要求される。
【0032】
例えば接着層9が光硬化性接着層である場合には、硬化の際に使用されるUV光や可視光等の光を吸収又は反射して遮断するように、シールド層8を形成することが好ましい。光を遮断する材料としては、アルミニウム、金、銀等の金属類、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セシウム等の金属酸化物類、硫酸バリウム等の金属硫酸化物類、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等から少なくとも1種を用いることができる。中でも、バリア性に優れることから、アルミニウム、金、銀等の金属類を用いることが好ましい。光硬化性接着層の硬化の際に、UV光等の光をシールド層8で遮断することで、接着層9の光硬化時に有機発光部6が保護され、貼り合わせの際に有機層4等が劣化するのを抑えることができる。
【0033】
また、接着層9が熱硬化性接着層である場合には、硬化時に熱硬化性樹脂から発生するアウトガスを遮断するようにシールド層8を形成することが好ましい。熱硬化性樹脂から発生するガスを遮断するガスバリア性を有する材料としては、前述の光硬化性接着層の硬化時に使用する光を遮断する材料や、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム等の金属フッ化物類、窒化アルミニウム等の金属窒化物類、二酸化けい素等のけい素酸化物類、窒化けい素等のけい素窒化物類等から少なくとも1種を用いることができる。中でも、バリア性に優れ、硬化時のアウトガスを防ぐ効果が高いことから、アルミニウム、金、銀等の金属類、二酸化けい素や酸化アルミニウム等の酸化物類、窒化けい素や窒化アルミニウム等の窒化物類等を用いることが好ましい。このように、熱硬化性接着層の硬化時に発生するアウトガスをシールド層8で遮断することで、接着層9の硬化時に発生するガスから有機発光部6が保護され、貼り合わせの際に有機層4等が劣化することを抑えることができる。
【0034】
前述の平坦化層7及びシールド層8の膜構成としては、基本的には1層の平坦化層7上に1層のシールド層8を積層すればよいが、これに限らず、平坦化層7やシールド層8のいずれか一方、あるいは双方を2層以上とすることも可能である。具体的には、シールド層8、平坦化層7、シールド層8の順に3層積層したり、平坦化層7、シールド層8、平坦化層7の順に3層積層する等の膜構成を挙げることができる。さらには、平坦化層7とシールド層8を1組として、これらを複数組繰り返し積層することも可能である。また、接着剤9の種類等によっては、シールド層8を省略することも可能である。
【0035】
次に、有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bの貼り合わせに使用される接着層9であるが、接着層9には、光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂材料、具体的には、アクリル系高分子化合物、エポキシ系高分子化合物等を用いることができる。これらの中では、熱硬化性接着剤を用いることが好ましく、特に、シート状とされた熱硬化性接着剤(いわゆるホットメルト接着剤)を用いることにより、例えば発光面積の大きな有機エレクトロルミネッセンス素子基板においても、均一な厚さの接着層9を形成することができ、また接着層9の形成に際して、液状接着剤を塗布する場合に発生するエアかみの問題を解消することができ、素子面積拡大に伴う塗布時間の増加を抑えることが可能である。
【0036】
前記シート状の熱硬化性接着剤は、加熱によって流動性を示し、接着性を発揮する。ここで、有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bでは、素子構造が薄膜の多段構成となっており、良好な被覆性を得るためには、高い流動性が必要となる。したがって、前記シート状の熱硬化性接着剤は、流動開始温度や粘度が低いことが必要である。一方で、有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bは、耐熱温度が110℃程度であり、これを超える温度での熱処理は、有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bの特性を劣化させる要因となる。これらの事項を加味すると、前記シート状の熱硬化性接着剤は、110℃以下の環境下で被覆に十分な流動性及び硬化性が得られることが必要であり、接着層9による貼り合わせに際しては、硬化温度を耐熱温度以下(110℃以下)とすることが好ましいことになる。
【0037】
接着層9には、高い熱伝導性を有するフィラー、ガス吸着性を有するフィラー、吸湿性を有するフィラー等のフィラーが分散されていてもよい。接着層9にフィラーを含有させることで、フィラーの種類に応じて、有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bの放熱性、酸素や水分等に対するバリア性等をさらに高めることができる。
【0038】
前述の接着剤9を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bを透明基板2が外側となるように貼り合わせるが、この貼り合わせにより、有機エレクトロルミネッセンス素子基板Aの透明基板2上の有機発光部6は、有機エレクトロルミネッセンス素子基板Bの透明基板2や平坦化層7、シールド層8等によっても封止される形になる。有機エレクトロルミネッセンス素子基板Bにおいても同様であり、有機エレクトロルミネッセンス素子基板Aの透明基板2や平坦化層7、シールド層8等によって封止される形になる。
【0039】
各有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bは、それぞれ膜封止構造を有するが、これに加えて前記封止構造を採ることで、より確実に水分や酸素の侵入を防止することができる。また、一般的な構成を有する片面発光タイプの有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bを貼り合わせるだけで信頼性の高い両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置を簡単に作製することが可能である。
【0040】
ところで、2枚の有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bを貼り合わせた構造の両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置1においては、例えば図3に示すように、支持部材10により矩形の両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置1の一辺を支持した片持ちタイプの照明装置とすることで、これまでにない独特の照明効果が得られるものと考えられる。
【0041】
この場合、各有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bの電極を前記支持される一辺側から取り出す必要があり、各有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bに形成された有機発光部6を並列に接続すればよいものと考えられる。例えば図4(a)に模式的に示すように、有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bの有機発光部6のそれぞれについて、陽極3及び陰極5にぞれぞれ取り出し電極3a,5aを設け、電源の+(プラス)と−(マイナス)を接続する形とすれば、両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置1の一辺から電極接続を図ることが可能である。
【0042】
ただし、この場合には、各有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bにおいて、輝度ムラが生ずるおそれがある。面状光源として比較的大きな面積で発光する有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bにおいては、一般に、陽極3及び陰極5の電気抵抗等に起因して、取出し電極から離れた位置と近い位置とで発光層に流れる電流が異なり、図4(b)に示すように、取出し電極3a,5aから離れた位置では電流が流れ難く(すなわち、輝度が低く)、取り出し電極3a,5aに近い領域Nに電流が集中する(すなわち輝度が高くなる)。前述のように有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bの有機発光部6を並列接続した場合、いずれも取り出し電極から近い領域Nの輝度が高くなるとともに、前記一辺から離れた領域で輝度が低くなり、照明装置全体で見た時に輝度ムラが発生し易くなる。
【0043】
これを回避するためには、有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bに形成された有機発光部6を直列に接続することが好ましい。例えば、図5(a)に模式的に示すように、有機エレクトロルミネッセンス素子基板Aの陰極5と有機エレクトロルミネッセンス素子基板Bの陽極3とを前記支持される一辺(基端側)とは反対側の辺側(先端側)で電気的に接続し、有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bの有機発光部6を直列接続する。そして、有機エレクトロルミネッセンス素子基板Aの陽極3の取り出し電極3a及び有機エレクトロルミネッセンス素子基板Bの陰極5の取り出し電極5aを、前記基端側に設ける。
【0044】
このような接続構造を採用した場合、図5(b)に示すように、有機エレクトロルミネッセンス素子基板Aの有機発光部6では、基端側に設けられた陽極3の取り出し電極から、先端側に設けられた陰極5の他方の有機エレクトロルミネッセンス素子基板Bの陽極3との接続部分に向かって(基端側から先端側に向かって)電流が流れる。同様に、有機エレクトロルミネッセンス素子基板Bの有機発光部6では、先端側に設けられた陽極3の他方の有機エレクトロルミネッセンス素子基板Aの陰極5との接続部分から、基端側に設けられた陰極5の取り出し電極に向かって(先端側から基端側に向かって)電流が流れる。
【0045】
前述のように、直列接続にした場合、各有機エレクトロクロミック素子基板A.Bにおいて、基端側と先端側に取り出し電極が形成された形になり、各有機発光部6においては、基端側から先端側に向かって、あるいは先端側から基端側に向かって電流が流れるようになる。したがって、取り出し電極が形成された一辺側(基端側)のみ電流値が高くなることがなく、前述の輝度ムラが解消される。また、有機エレクトロクロミック素子基板Aでは基端側から先端側に向かって電流が流れることから基端側の輝度が若干高くなり、有機エレクトロクロミック素子基板Bでは先端側から基端側に向かって電流が流れることから先端側の輝度が若干高くなる傾向にあるが、互いに相殺されて照明装置全体では輝度ムラが抑えられる形になる。
【0046】
実際に図4(a)に示す構造の照明装置と図5(a)に示す照明装置を作製し、輝度ムラを比較したところ、図4(a)に示す構造の照明装置では、取り出し電極に近い部分の輝度を100とした時に、取り出し電極から離れた部分の輝度は約60であった。これに対して、図5(a)に示す構造の照明装置では、取り出し電極に近い部分の輝度を100とした時に、これとは反対側(先端側)の部分の輝度が80〜90であり、照明装置全体がほとんど同じ明るさとなった。
【0047】
有機エレクトロルミネッセンス素子基板A,Bの有機発光部6を直列に接続するには、貼り合わせの際に、先端側において有機エレクトロルミネッセンス素子基板Aの陰極5と有機エレクトロルミネッセンス素子基板Bの陽極3が貼り合わせ面に露出するようにし、貼り合わせによりこれら陰極5と陽極3とが電気的に導通するようにすればよい。また、有機エレクトロルミネッセンス素子基板Bの陽極3は、陰極5よりも下層に形成されていることから、有機エレクトロルミネッセンス素子基板Bの陰極5の先端側部分を他の部分とは分離して形成し、この分離形成された陰極5を介して前記陰極5と陽極3とを電気的に接続することも可能である。
【0048】
以上、本発明を適用した両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置の実施形態について説明したが、本発明の両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置の構成が前記実施形態のものに限られるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1 両面発光型有機エレクトロルミネッセンス照明装置、2 透明基板、3 陽極、3a 取り出し電極、4 有機層、5 陰極、5a 取り出し電極、6 有機発光部、7 平坦化層、8 シールド層、9 接着剤、10 支持部材、A,B 有機エレクトロルミネッセンス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に有機発光部が膜封止された状態で形成され、前記透明基板を通して光照射が行われる一対の有機エレクトロルミネッセンス素子基板を備え、
これら一対の有機エレクトロルミネッセンス素子基板が、前記透明基板が外側となるように互いに貼り合わされていることを特徴とする両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置。
【請求項2】
前記有機発光部が平坦化層で覆われ、一対の有機エレクトロルミネッセンス素子基板の平坦化層同士が接着層を介して貼り合わされていることを特徴とする請求項1記載の両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置。
【請求項3】
前記平坦化層と接着層の間にシールド層が形成されていることを特徴とする請求項2記載の両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置。
【請求項4】
第1の有機エレクトロルミネッセンス素子基板の有機発光部と第2の有機エレクトロルミネッセンス素子基板の有機発光部が一方の基板端縁側において直列に接続されており、
これら有機エレクトロルミネッセンス素子基板が、前記基板端縁とは反対側の基板端縁側において支持されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の両面発光有機エレクトロルミネッセンス照明装置。
【請求項5】
前記各有機エレクトロルミネッセンス素子基板の有機発光部においては、透明基板側から透明電極、有機発光層、金属電極の順に積層されており、
第1の有機エレクトロルミネッセンス素子基板の透明電極及び第2の有機エレクトロルミネッセンス素子基板の金属電極は、各透明基板の一方の端縁側に取り出し電極が形成されるとともに、
第1の有機エレクトロルミネッセンス素子基板の金属電極及び第2の有機エレクトロルミネッセンス素子基板の透明電極は、前記端縁とは反対側の端縁側で電気的に接続されていることを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−232099(P2010−232099A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80305(P2009−80305)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(508344062)有限会社 Q−Lights (3)
【Fターム(参考)】