説明

中・高炭素鋼板の製造法

【課題】中・高炭素鋼の熱延鋼板をHv130以下に軟質化した鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.1〜0.8%、Si:0.15〜0.40%、Mn:0.3〜1.0%を含有し、Pを0.03%以下、Sを0.01%以下、T.Alを0.1%以下の含有量に制限した亜共析鋼の熱延鋼板に20%以上30%以下の軽圧下冷間圧延を施し、次いで、Ac1−50℃〜Ac1未満の温度範囲で0.5時間以上(ただし均熱6時間以上を除く)保持する1段目の加熱を行った後、Ac1〜Ac1+100℃の温度範囲で0.5〜20時間保持する2段目の加熱およびAr1−50℃〜Ar1の温度範囲で2〜20時間保持する3段目の加熱を連続して行い、かつ、2段目の保持温度から3段目の保持温度への冷却速度を5〜30℃/hとする3段階焼鈍を施す軟質化された中・高炭素鋼板の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中・高炭素亜共析鋼からなる軟質化された鋼板の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼中のC含有量が概ね0.2〜0.8質量%の、いわゆる中・高炭素鋼は、焼入れ強化が可能であると共に、焼入れ前の焼鈍状態ではある程度の加工性も有している。このため、その熱延鋼板は自動車部品をはじめ各種機械部品や軸受け部品の素材として広く使用されている。部品の製造にあたっては、一般的には打抜加工や曲げ成形が施され、さらに比較的軽度な絞り加工、伸びフランジ成形が施されることもある。また、部品形状が複雑な場合は、二ないし三部品を溶接して製造される場合も多い。ところが、近年部品の製造コストを低減すべく、部品の一体成形や、加工工程の簡略化が進められている。このことは素材側から見ればより加工率の高い(=塑性変形量の大きい)加工に耐えなくてはならないことを意味する。つまり、加工技術の高度化に伴い、素材である中・高炭素鋼板自体にもより高い延性が要求されるようになってきた。
【0003】
鋼材に高い延性を付与するためには、より一層の「軟質化」を図ることが基本となる。従来より中・高炭素鋼材の軟質化には炭化物の球状化が有効であることが知られており、そのためには例えば次のような熱処理方法が採用されている。
[1]A1変態点直下に長時間保持する方法。この方法は冷間加工後の球状化に適する。
[2]A1変態点とA3変態点の間の温度で一定時間保持した後、A1変態点直下まで徐冷する方法。この方法はパーライト組織の球状化に適し、短時間で球状化が完了するという利点がある。
[3]A1変態点を挟んで、A1変態点直下の温度での加熱と、A1変態点とA3変態点の間の温度での加熱を繰り返し実施する方法。この方法は炭化物粒径の均一化に適し、球状化も短時間で完了するという利点がある反面、厳密な温度管理が要求され、コスト面から工業化には必ずしも適さない。また一般的に、冷間加工を加えた鋼材に熱処理を施せば、冷間加工を加えずに熱処理した場合に比べ、鋼材はより一層軟質になることが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平09−087736号公報
【特許文献2】特開昭52−062118号公報
【特許文献3】特開平01−234519号公報
【特許文献4】特開平10−204539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、中・高炭素鋼の熱延鋼板を高度の一体成形加工のような、加工度の大きい加工に供するためには、上記[1]〜[3]の熱処理では十分な軟質化が達成できない。冷間加工と上記[1]〜[3]の熱処理を組み合わせた場合であっても未だ満足できる軟質化のレベルには届かない。そこで本発明は、従来から広く用いられている中・高炭素鋼の熱延鋼板を、その焼入れ性を維持しながら、加工度の高い一体成形加工にも十分供し得るように軟質化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、熱延鋼板に対して軽圧下の冷間圧延と、A1変態点を挟んだ特定条件での3段階焼鈍を施すことによって達成される。
すなわち、本発明では、亜共析鋼の熱延鋼板に20%以上30%以下の軽圧下冷間圧延を施し、次いで、Ac1−50℃〜Ac1未満の温度範囲で0.5時間以上(ただし均熱6時間以上を除く)保持する1段目の加熱を行った後、Ac1〜Ac1+100℃の温度範囲で0.5〜20時間保持する2段目の加熱およびAr1−50℃〜Ar1の温度範囲で2〜20時間保持する3段目の加熱を連続して行い、かつ、2段目の保持温度から3段目の保持温度への冷却速度を5〜30℃/hとする3段階焼鈍を施す、軟質化された中・高炭素鋼板の製造法が提供される。
【0007】
ここで、Ac1は昇温過程における鋼のA1変態点(℃)、Ar1は降温過程におけるA1変態点(℃)を意味する。
T.Alとは鋼中のトータルAl量を意味する。
【0008】
上記の亜共析鋼としては例えば以下のi)〜iii)に示す組成のものが採用できる。
i) 質量%で、C:0.1〜0.8%、Si:0.15〜0.40%、Mn:0.3〜1.0%を含有し、Pを0.03%以下、Sを0.01%以下、T.Alを0.1%以下の含有量に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる亜共析鋼。
ii) 質量%で、C:0.1〜0.8%、Si:0.15〜0.40%、Mn:0.3〜1.0%、Cr:0.2%以下を含有し、Pを0.03%以下、Sを0.01%以下、T.Alを0.1%以下の含有量に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる亜共析鋼。
iii) 質量%で、C:0.1〜0.8%、Si:0.15〜0.40%、Mn:0.3〜1.0%、Cu:0.3%以下、Ni:0.25%以下、Cr:0.2%以下を含有し、Pを0.03%以下、Sを0.01%以下、T.Alを0.1%以下の含有量に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる亜共析鋼。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、中・高炭素鋼の熱延鋼板の硬さを従来と比べ著しく低下させることが可能になり、中・高炭素鋼でありながらHv130以下のものも製造できるようになった。その結果、従来普通鋼にしか適用できなかった高度の加工が中・高炭素鋼の熱延鋼板にも適用できるようになり、例えば一体成形加工で複雑形状の部品を低コストで生産することが可能になった。しかも、部品加工後の焼入れ性は従来どおり維持される。さらに、本発明では軽圧下冷間圧延を付与するので、本発明に係る鋼板は良好な表面肌や板形状が要求される用途にも好適に使用できる。したがって、本発明は中・高炭素鋼の用途拡大および製造コストの低減に寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らの研究によれば、中・高炭素鋼の熱延鋼板に対して特定圧下率範囲での「軽圧下冷間圧延」を施し、次いで鋼のA1点を挟んだ特定条件下での「3段階焼鈍」を施したところ、中・高炭素鋼が本来有している焼入れ性を損なわずに従来実現し難かった極軟質化を図ることができた。以下、本発明を特定するための事項について説明する。
【0011】
本発明では、C:0.1〜0.8質量%を含有する亜共析鋼を対象とする。Cは炭素鋼においては最も基本となる合金元素であり、その含有量によって焼入れ硬さおよび炭化物量が大きく変動する。C含有量が0.1質量%以下の亜共析鋼では、各種機械構造用部品に適用するうえで十分な焼入れ硬さが得られない。一方、C含有量が0.8質量%を超えると、熱間圧延後の靭性が低下して鋼帯の製造性・取扱い性が悪くなるとともに、焼鈍後においても十分な延性が得られないため、加工度の高い部品への適用が困難になる。したがって、本発明では適度な焼入れ硬さと加工性を兼ね備えた素材鋼板を提供する観点から、C含有量が0.1〜0.8質量%の範囲の鋼を対象とする。
【0012】
Sは、MnS系介在物を形成する元素である。この介在物の量が多くなると局部延性が劣化するので、特に伸びフランジ加工等に供する用途では鋼中のS含有量は0.01質量%以下に低減するのがよい。局部延性はSの他、C含有量にも左右され、C含有量が多いほど局部延性は悪くなる。C含有量が0.8質量%近くまで高くなった場合でも良好な局部延性を維持するためには、S含有量はさらに0.005質量%以下にまで低減することが望ましい。
【0013】
Pは、延性や靭性を劣化させるので、その含有量は0.03質量%以下とすることが望ましい。
【0014】
Alは、溶鋼の脱酸剤として添加されるが、鋼中のT.Al量が0.1質量%を超えると鋼の清浄度が損なわれて表面疵が発生し易くなり、鋼板の表面品質を低下させる。したがって、T.Alは0.1質量%以下とすることが望ましい。
【0015】
Siは、溶鋼の脱酸のためには0.15質量%以上の含有が望ましい。しかし、Siは固溶強化作用によってフェライトを硬化させ、また多量の含有により鋼板表面にスケール疵の発生を招く。さらに靭性低下の原因にもなる。そこで、Siは0.15〜0.40質量%の範囲で含有させることが望ましい。
【0016】
Mnは、鋼板の焼入れ性を高め、強靭化にも有効な添加元素である。十分な焼入れ性を得るためには0.3質量%以上の含有が望ましい。しかし、1.0質量%を超えて多量に含有させるとフェライトが硬化し、加工性が劣化するようになる。そこで、Mnは0.3〜1.0質量%の範囲で含有させることが望ましい。
【0017】
また本発明では必要に応じてCu、Ni、Cr、Mo等の元素を添加して各特性の改善を図った鋼に適用できる。
Cuは、熱延中に生成する酸化スケールの剥離性を向上させるので、鋼板の表面性状の改善に有効である。しかし、0.3質量%以上含有させると溶融金属脆化により鋼板表面に微細なクラックが生じやすくなるので、Cuは0.3質量%以下の範囲で添加できる。Cu含有量の好ましい範囲は0.10〜0.15質量%である。
【0018】
Niは、焼入れ性を改善するとともに低温脆性を防止する合金成分である。またNiは、Cu添加によって問題となる溶融金属脆化の悪影響を打ち消す作用を示すので、特にCuを約0.2%以上添加する場合にはCu添加量と同程度のNiを添加することが極めて効果的である。しかし、多量のNiが含まれると3段階焼鈍を施して軟質化を図っても焼入れ前のプレス成形性や加工性が劣化するようになる。Niを添加する場合は0.25質量%以下の範囲とする。
【0019】
Crは、焼入れ性を改善するとともに焼戻し軟化抵抗を大きくする元素である。しかし、多量のCrが含まれると3段階焼鈍を施して軟質化を図っても焼入れ前のプレス成形性や加工性が劣化するようになる。したがってCrを添加する場合は0.2質量%以下の範囲とする。
【0020】
Moは、少量の添加でCrと同様に焼入れ性・焼戻し軟化抵抗の改善に寄与する。しかし、多量のMoが含まれると3段階焼鈍を施して軟質化を図っても焼入れ前のプレス成形性や加工性が劣化するようになる。したがってMoを添加する場合は0.3質量%以下の範囲で行うことが望ましい。
【0021】
本発明では、A1点を挟んだ3段階焼鈍に先だって熱延鋼板に軽圧下冷間圧延を施す点に特徴がある。一般的に、焼鈍前に冷間加工を施した鋼では、導入された加工歪みによって焼鈍時に再結晶化が促進され、その結果冷間加工を施さなかった場合に比較して軟質なものが得られる。しかし、本発明で対象とするような中・高炭素鋼は強度が高いだけに、一般的な冷間加工と焼鈍を組み合わせて得られる軟質化の程度では、普通鋼に対してなされているような加工度の大きい一体成形加工に供するには不十分であった。ところが、本発明で規定する3段階焼鈍を施す場合に限っては、予め特定範囲の圧下率で軽圧下冷間圧延を施すことによって、焼鈍後の硬さをさらに顕著に低減することができたのである。
【0022】
具体的には、3段階焼鈍前に行う冷間圧延の圧下率が15%を超えると、焼鈍後の硬さは急激に低下するとともに従来の焼鈍方法(先述の[1]〜[3]の方法)を用いた場合との硬度差も顕著になる。つまり、圧下率が15%を超えるようになると3段階焼鈍の効果が顕著に現れるようになるのである。そして冷間圧延率が大きくなるにつれて炭化物の分断化が進み、20〜30%の冷間圧延率において3段階焼鈍後の硬さは最も低くなる。しかし冷間圧延率が30%を超えるようになると3段階焼鈍後の金属組織はフェライト結晶粒のサイズが不揃いの、いわゆる混粒組織を呈するようになり、硬度も少しずつ上昇するようになる。
【0023】
この圧下率が20〜30%の範囲においては、中・高炭素鋼でありながらHv130以下という非常に軟質なものを得ることができる。Hv値が130以下になれば、普通鋼の熱延鋼板に対して行われている一般的な一体成形加工のうち多くのものが適用できるようになる。つまり、従来普通鋼にしか適用できなかった比較的高度の加工が中・高炭素鋼板に対しても適用できるようになり、中・高炭素鋼の熱延鋼板における部品加工の設計自由度が大きく改善されることになるのである。
【0024】
次に、3段階焼鈍について述べる。本発明で対象とするような中・高炭素鋼においては単に再結晶化を促進させるだけでは十分に軟化を図ることはできず、焼鈍後における炭化物の分散形態をコントロールすることが重要となる。一般的に、鋼をAc1点以上の温度に加熱すると炭化物のうち微細なものはオーステナイト中に固溶し、その後Ar1点以下の温度に冷却すると再び炭化物として析出する。その際、Ac1点以上の温度域で未溶解炭化物をある程度多く残存させることができた場合には、冷却速度を遅くすると、オーステナイト中に固溶したCはパーライトを生成せずに未溶解炭化物を核として析出するので、焼鈍後の炭化物の球状化率は高くなる。またこの場合、Ac1点以上の加熱によって炭化物の数は焼鈍前より減少し、しかも冷却速度が遅いときは冷却時に新たに核生成しないので、結果的に焼鈍後の炭化物数は焼鈍前より減少する。炭化物数が減少することは、トータル炭素量は一定だから、粒径の大きい炭化物を含む金属組織が得られることを意味する。そして特に、核となる未溶解炭化物が場所的に均一に残存していたときには炭化物間距離も長くなる。このような金属組織が得られると鋼の延性は向上する。
【0025】
しかしAc1点以上の温度域は、平衡的には亜共析鋼の炭化物がすべて固溶する領域である。このため通常は、Ac1点以上の温度域に加熱すると未溶解炭化物の個数は少なくなり、その後Ar1点以下の温度への冷却過程でオーステナイト中に固溶したCはラメラ間隔の広い再生パーライトとして析出する。その結果、炭化物の球状化率は極めて低くなり、延性の高い鋼板は得られない。
【0026】
そこで、本発明者らは検討を重ねた結果、鋼板をAc1点以上へ加熱する前に、予めAc1点未満の特定温度域で一定時間以上加熱する処理を行えば、亜共析鋼であっても、Ac1点以上の温度域において未溶解炭化物を適切量残存させることが可能であることを知見した。加えて、Ar1点以下への冷却後に特定温度域で特定時間保持することによって、軟質化に最適な炭化物分散形態を得ることが可能になることもわかった。以下、本発明の3段階焼鈍の条件について説明する。
【0027】
〔1段目の加熱〕
1段目の加熱の目的は、Ac1点未満の温度に鋼板を保持し、熱間圧延で生成したパーライトを分断して、炭化物(セメンタイト)の球状化を図ることである。分断された炭化物は比較的細かいものの、球状化の進行より炭化物単位体積当たりの表面積が減少するので、結果的に2段目のAc1点以上の加熱時に、炭化物/オーステナイト界面面積の減少効果で炭化物の固溶を遅らせることができる。熱延パーライトの分断・球状化反応促進のためにはAc1点未満の範囲でなるべく高温が望ましい。Ac1−50℃より低温では球状化が十分に進まない。一方、Ac1点以上になると界面面積の大きい熱延パーライトは容易にオーステナイトに固溶してしまうので目的が達成できない。したがって1段目の加熱温度はAc1−50℃〜Ac1未満の温度範囲とした。また、その温度範囲での保持時間が0.5時間未満では球状化が十分に図れないので、1段目の加熱保持時間は0.5時間以上(ただし均熱6時間以上を除く)とした。
【0028】
なお、この1段目の加熱を行った後は、そのまま昇温して2段目の加熱を実施してもよいし、一旦常温まで冷却したのち改めて昇温して2段目の加熱に供してもよい。設備の都合等により1回の加熱で0.5時間以上の保持時間を確保できないときは、この1段目の加熱を複数回に分けて行ってもよい。その場合は上記温度範囲内での保持時間がトータル0.5時間以上となるようにする。
【0029】
〔2段目の加熱〕
2段目の加熱の目的は、1段目の加熱を経た鋼板をAc1点以上の温度に保持し、オーステナイト化した部分において微細な炭化物を固溶・消失させるとともに比較的大きな球状炭化物を未溶解のまま残すこと、および、フェライトが存在する場合にはその部分の炭化物をオストワルド成長させることである。つまり、3段目の加熱で炭化物析出の核となるべき未溶解炭化物の数および分散状態を決定付ける工程である。加熱温度がAc1点未満ではオーステナイトが生成しない。一方、Ac1+100℃の温度を超えると、1段目の加熱で炭化物が球状化されていても、その多くはオーステナイト中に固溶・消失し、未溶解炭化物の数が少なくなりすぎるか、または存在しなくなる。そうなると3段目への冷却過程で再生パーライトが生成し、十分に軟質化を図ることができない。加熱保持時間が0.5時間未満ではオーステナイト中への微細炭化物の固溶が不十分であり、20時間を超える長時間加熱ではより平衡状態に近づくため未溶解炭化物の数が減少しすぎる。したがって、2段目の加熱はAc1〜Ac1+100℃の温度範囲で0.5〜20時間保持することとした。
【0030】
〔3段目の加熱〕
3段目の加熱の目的は、1段目〜2段目の加熱を経た鋼板をAr1点以下の温度に保持し、2段目の温度からの冷却でオーステナイト→フェライト変態に伴ってオーステナイトから吐き出されるCを未溶解炭化物を核として析出させるとともに、これらの炭化物をオストワルド成長させることである。つまり、炭化物の数は2段目の加熱で残存させた未溶解炭化物の数をほぼそのまま維持し、かつ炭化物の球状化率を高める工程である。保持温度がAr1点以下でないとオーステナイト→フェライト変態が起こらない。また、保持温度がAr1−50℃より低温の場合や、保持時間が2時間未満では、オストワルド成長が十分進まない。ただし、保持時間が20時間を超えてもその効果が飽和し、工業的なメリットはない。したがって、3段目の加熱はAr1−50℃〜Ar1の温度範囲で2〜20時間保持することとした。
【0031】
〔2段目の保持温度から3段目の保持温度への冷却速度〕
この冷却速度が速いとオーステナイトの過冷度が大きくなり、再生パーライトが生成しやすくなる。再生パーライトの生成を十分抑制するためには冷却速度を30℃/h以下とする必要がある。一方、冷却速度を5℃/hより遅くしても再生パーライト抑制効果は飽和し、工業的メリットがない。したがって、当該冷却速度は5〜30℃/hに規定した。
【実施例】
【0032】
質量%で、C:0.35%、Si:0.22%、Mn:0.72%、P:0.012%、S:0.011%、Cu:0.1%、Ni:0.02%、T.Al:0.007%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を溶製し、板厚4mmの熱延鋼板を得た。この熱延ままの鋼板に対して種々の圧下率で冷間圧延を行い、それぞれ従来の焼鈍、および本発明に係る3段階焼鈍に供した。焼鈍条件は次のとおりである。
〔従来の焼鈍〕710℃×5hr保持→冷却速度10℃/hrで620℃まで冷却→空冷
〔3段階焼鈍〕690℃×4hr保持→730℃×4hr保持→冷却速度10℃/hrで690℃まで冷却→690℃×4hr保持→冷却速度10℃/hrで620℃まで冷却→空冷なお、この鋼のAc1点は727℃、Ar1点は738℃である。
【0033】
焼鈍後の各鋼板について断面の硬さを測定した。その結果を図1に示す。本発明の3段階焼鈍を施したものは焼鈍前の冷間圧延率が15%を超えると急激に軟化が促進し、従来の焼鈍を施したものと比較すると軟化の程度が著しいことがわかる。また、本発明の3段階焼鈍によると、焼鈍前の冷間圧延率が20〜30%の範囲で硬さがHv130以下となり、従来の焼鈍によるものよりHv値で10以上もの顕著な軟化が見られた。これらHv値が130以下となった本発明による鋼板の金属組織は、フェライト結晶がFGS.No.:8〜8.5の整粒組織であり、炭化物は十分に球状化しており、パーライトの残留は認められなかった。また、本発明によって得られた鋼板はいずれも良好な焼入れ性を維持していた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】焼鈍前に行う冷間圧延の圧下率と焼鈍後の硬さの関係を表すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.1〜0.8%、Si:0.15〜0.40%、Mn:0.3〜1.0%を含有し、Pを0.03%以下、Sを0.01%以下、T.Alを0.1%以下の含有量に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる亜共析鋼の熱延鋼板に20%以上30%以下の軽圧下冷間圧延を施し、次いで、Ac1−50℃〜Ac1未満の温度範囲で0.5時間以上(ただし均熱6時間以上を除く)保持する1段目の加熱を行った後、Ac1〜Ac1+100℃の温度範囲で0.5〜20時間保持する2段目の加熱およびAr1−50℃〜Ar1の温度範囲で2〜20時間保持する3段目の加熱を連続して行い、かつ、2段目の保持温度から3段目の保持温度への冷却速度を5〜30℃/hとする3段階焼鈍を施す軟質化された中・高炭素鋼板の製造法。
【請求項2】
質量%で、C:0.1〜0.8%、Si:0.15〜0.40%、Mn:0.3〜1.0%、Cr:0.2%以下を含有し、Pを0.03%以下、Sを0.01%以下、T.Alを0.1%以下の含有量に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる亜共析鋼の熱延鋼板に20%以上30%以下の軽圧下冷間圧延を施し、次いで、Ac1−50℃〜Ac1未満の温度範囲で0.5時間以上(ただし均熱6時間以上を除く)保持する1段目の加熱を行った後、Ac1〜Ac1+100℃の温度範囲で0.5〜20時間保持する2段目の加熱およびAr1−50℃〜Ar1の温度範囲で2〜20時間保持する3段目の加熱を連続して行い、かつ、2段目の保持温度から3段目の保持温度への冷却速度を5〜30℃/hとする3段階焼鈍を施す軟質化された中・高炭素鋼板の製造法。
【請求項3】
質量%で、C:0.1〜0.8%、Si:0.15〜0.40%、Mn:0.3〜1.0%、Cu:0.3%以下、Ni:0.25%以下、Cr:0.2%以下を含有し、Pを0.03%以下、Sを0.01%以下、T.Alを0.1%以下の含有量に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる亜共析鋼の熱延鋼板に20%以上30%以下の軽圧下冷間圧延を施し、次いで、Ac1−50℃〜Ac1未満の温度範囲で0.5時間以上(ただし均熱6時間以上を除く)保持する1段目の加熱を行った後、Ac1〜Ac1+100℃の温度範囲で0.5〜20時間保持する2段目の加熱およびAr1−50℃〜Ar1の温度範囲で2〜20時間保持する3段目の加熱を連続して行い、かつ、2段目の保持温度から3段目の保持温度への冷却速度を5〜30℃/hとする3段階焼鈍を施す軟質化された中・高炭素鋼板の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−45679(P2006−45679A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255187(P2005−255187)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【分割の表示】特願平9−202663の分割
【原出願日】平成9年7月14日(1997.7.14)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】