説明

中性の暗状態をもつ液晶表示装置

偏光子(303、312)を、液晶分子をセルの平面内で切り替える液晶表示(LCD)セル(302)で使用する。LCDセルは、他の種類のLCDセルと異なる複屈折特性を有し、他の種類のLCDセルと違って、低複屈折偏光子をスイッチド面内(SIP)LCDセルで使用すると、画像コントラストが維持され、暗状態の色ずれがほとんどない。一実施形態において、吸収偏光子に含まれる層の総xz遅延は、20nm未満である。別の実施形態において、吸収偏光子の吸収極性層のxz複屈折は、0.0005未満である。偏光感度のよい吸収層とLCDとの間のよく使用される三酢酸セルロース層を省くことによって、低レベルの遅延及び複屈折を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学表示装置、より詳細には、偏光子を使用した改良された液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示(LCD)装置は、ラップトップコンピュータ、ハンドヘルド計算機及びデジタル腕時計などの装置で使用される光学表示装置である。典型的なLCDは、1対の吸収偏光子の間に配設されている、LCD層及び電極母材を含む。カラー表示装置の場合、LCDは通常、カラーフィルタも含む。LCDセルの部分の光学状態は、電極母材を用いて電界をかけることにより変更される。偏光子及び液晶の変更光学状態の組合せによって、前記液晶表示装置上の偏光の画素が出現して所望の画像を形成する。
【0003】
典型的な液晶表示装置は、見る人に近い偏光子と、見る人からLCDの反対側の後部偏光子とを含む。これらの偏光子は、直交偏光方向の光よりも強く一偏光方向の光を吸収する平面偏光子である。前部偏光子の透過軸は、液晶表示装置において後部偏光子の透過軸に対して通常交差している。
【0004】
フラットパネル表示装置、特に薄い小型フラットパネル表示装置の改良及び開発に商業上の大きな注意が向けられている。プラスチック製フラットパネル表示装置の構成において生じる問題は、プラスチック製表示装置材料を通り抜ける気体から液晶材料において泡の形成から生じる「黒斑(ブラックスポット)」の発生である。プラスチック製フラットパネル表示装置に伴う別の問題は、液晶表示装置セルの水分汚染である。これらの問題は、プラスチックの代わりに低透過性ガラス基板を使用することによって従来の液晶表示装置で回避されている。プラスチック製フラットパネル表示装置に関して、追加の気体及び水分バリヤー層を液晶表示装置構造体及び/又はプラスチック製基板に追加することによって、これらの問題に対処している。しかし、このような気体及び水分バリヤー層を追加すると、表示装置の厚さ、重量及びコストが増加する。
【0005】
合成偏光フィルムの形をした偏光子では、製造及び取り扱いが比較的容易である。一般に、吸収偏光フィルムは、吸収偏光状態と呼ばれる、1つの方向に沿って向けられた電気ベクトルを有する光を優先的に吸収し、透過偏光状態と呼ばれる吸収偏光状態と直交する偏光を透過させる。この特性は、二色性と呼ばれる。
【0006】
吸収偏光子は、H型(ヨウ素)偏光子及び染料偏光子を含む。H型偏光子は、例えば、ポリビニル・アルコール−ヨウ素合成物を含む合成二色性シート偏光子である。このような化学合成物は、発色団と呼ばれる。H型偏光子の基材は、水溶性高分子量の物質であり、得られるフィルムは、比較的低い防湿性及び耐熱性を有し、周囲大気条件にさらされると、カール、剥離又は反りが生じ易い。更に、H型偏光子は、本質的に不安定であり、通常の作業環境で前記偏光子の劣化を防止するために前記偏光子の両側に三酢酸セルロース(TAC)の保護クラッド層を必要とする。H型偏光子は、液晶表示装置でよく使用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
保護クラッド層を含むH型偏光子の要件では、液晶表示装置に厚さを追加する。場合によっては、クラッド層は、色つきになる表示装置の暗状態をもたらす望ましくない複屈折も示し、また表示装置の有効な視野角の減少も招く。従って、厚さを薄くして、暗状態の色をより中性にし、表示装置の広視野角を維持するように、あるLCD表示装置と使用される偏光子の種類を改良する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液晶分子をセルの平面内で切り替える(スイッチド面内switched−in−plane:SIP)液晶表示装置(LCD)セルと偏光子を併用することに関する。SIP LCDは、他の種類のLCDセルと異なる複屈折特性を有する。その結果、複屈折を発生させる吸収偏光子をIPS LCDと併用すると、画像コントラストが低下し、望ましくない色ずれが生じる。低複屈折偏光子をSIP LCDセルと併用すると、画像コントラストが維持され、色ずれが生じない。
【0009】
一実施形態において、本発明は、スイッチド面内(SIP)液晶表示装置(LCD)セルを含む液晶表示装置に関する。第1の吸収偏光子は、LCDセルの第1の側に配設されている。第1の吸収偏光子は、偏光感度のよい吸収材料の層を含み、偏光感度のよい吸収材料の層とLCDセルとの間の材料層には三酢酸セルロース(TAC)が無い。
【0010】
本発明の別の実施形態は、スイッチド面内(SIP)液晶表示装置(LCD)セルと、そのLCDセルの第1の側に配設された第1の吸収偏光子とを含む液晶表示装置に関する。第1の吸収偏光子は、少なくとも吸収偏光層を含む1つ以上の層を有する。第1の吸収偏光子及びLCDセルは各々、直交するx軸及びy軸で定義されるxy平面と平行である。z軸は、x軸及びy軸の両方と直交している。第1の吸収偏光子は、第1の吸収偏光子を透過される光に対して透過偏光方向を規定する。透過偏光方向は、x軸と平行である。xz遅延係数bxz totalは、第1の吸収偏光子に対して下記のように定義される。
【0011】
xz total=Σ(nxi−nzi)li
【0012】
ここで、nxiは第1の吸収偏光子のi番目の層においてx軸と平行な偏光に対する屈折率であり、nziは第1の吸収偏光子のi番目の層においてz軸と平行な偏光に対する屈折率であり、liはz方向における第1の吸収偏光子のi番目の層の厚さであり、iは第1の吸収偏光子の異なる層を識別する整数である。bxz total=Σ(nxi−nzi)liの絶対値は、20nm未満である。
【0013】
本発明の別の実施形態は、スイッチド面内(SIP)液晶表示装置(LCD)セルと、そのLCDセルの第1の側に配設された第1の吸収偏光子とを含む液晶表示装置に関する。第1の吸収偏光子は、吸収偏光層を有する。第1の吸収偏光子及びLCDセルは各々、直交するx軸及びy軸で定義されるxy平面と平行であり、z軸はx軸及びy軸の両方と直交している。第1の吸収偏光子は、第1の吸収偏光子を透過される光に対して透過偏光方向を規定する。透過偏光方向は、x軸と平行である。吸収偏光層においてx軸と平行な偏光に対する屈折率はnxであり、吸収偏光層においてz軸と平行な偏光に対する屈折率はnzである。Δnxz=nx−nzの絶対値は、0.0005未満である。
【0014】
上記した本発明の概要では、本発明の各例示実施形態又はあらゆる実装例を説明するつもりではない。下記の図面及び詳細な説明は、これらの実施形態をより詳しく例示するものである。
【0015】
本発明は、添付図面と関連させた、本発明の種々の実施形態についての下記の詳細な説明を考慮してより完全に理解できるであろう。
【0016】
本発明は、種々の修正及び代替形態に適用できるけれども、その特例は図面に例として示されており、説明される。しかし、本発明は、説明された特定の実施形態に制限されないものとする。逆に、本発明は、添付の特許請求の範囲で規定されるような本発明の精神と範囲内にあるすべての修正、均等物、及び代替物を含むものとして理解されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、液晶表示装置(LCD)に適用でき、液晶分子を表示装置の平面内で切り替えるLCDに特に適用できる。複屈折を減少させる吸収偏光子の使用によって、TAC層を有する吸収偏光子を使用するLCDと比べて、視野角が向上し、暗状態で色の中性が維持される。
【0018】
H型偏光子を使用する従来の液晶表示装置(LCD)スタック100を、図1に概略的に示す。液晶表示装置セル102は通常、2枚のガラス板の間に挟まれた液晶(LC)層から形成されている。LCDセル102の上下面には、液晶表示装置セルの各面に偏光子構造体108及び110を固定する接着剤(例えば、感圧接着剤)の層104、106が設けられている。H型偏光子108及び110は各々、ヨウ素含有吸収偏光子層109、111を含み、吸収偏光子層109及び111の両面に被覆又は積層された保護クラッドとして三酢酸セルロース(TAC)の層112、114、116、118も含む。液晶表示装置スタック100は、液晶表示装置の輝度及びコントラストを向上させるトランスフレクタ(transflector)又は反射体120を含むこともできる。トランスフレクタ又は反射体120を接着層122(例えば、感圧接着剤)によって表示装置の裏側に取り付けることもでき、トランスフレクタ又は反射体は液晶表示装置の輝度及びコントラストを向上させるように機能する。各吸収偏光子層109及び111は通常、約20ミクロンの厚さを有すると共に、TAC層112、114、116、118の各々は通常、約80ミクロンの厚さであり、感圧接着層122は通常、約25ミクロンの厚さを有する。
【0019】
例えば、LCD−TV及びデスクトップモニタにおける用途の大表示パネルに対するLCD表示装置セルの現在の傾向は、広視野角の要件を取り入れる。これは、スタンダードツイステッドネマティック(TN)又はスーパーツイステッドネマティック(STN)LCDセルと異なるLCDの採用につながっている。1種類のLCDは、ここでスイッチド面内(SIP)LCDと呼ばれる。SIP LCDセルは、図2を参照してここで説明されるように、多くの重要な方法で他の種類のLCDセルと異なる。SIP LCDセル200は、2つのカバー204及び206(通常、ガラス板)の間に配設された液晶(LC)分子202の層で形成されている。吸収偏光子205は通常、ガラス板204及び206の外側に取り付けられている。電極208は、ガラス板204のうちの1枚に取り付けられている。例えば、相補形電極を2枚の異なるガラス板に取り付けるTN又はSTN表示装置の電極と違って、電極208は互いに同じ平面内にある。
【0020】
LC分子のコラム210は、電極208a及び208bの間が無電圧で未切換状態に対して示されている。分子210は、図面の面外の方向にガラス板204及び206と平行な長軸で配向されている。ガラス板204及び206のうち少なくとも1枚が、例えばセル200の内部の整列層(アライメント層)の使用によってこの方向に分子を受動的に整列させるので、LC分子のこの配向が生じる。
【0021】
1対の電極、例えば電極208c及び208dの間に電圧を印加すると、電界が電極間に生じる。電界線214は、電極208c及び208dの間の電界の方向を示すのに概略的に与えられている。LC分子の長軸は、LC分子のコラム212に対して示すように図面の平面と平行及びガラス板の平面と平行な方向で電界線214の方向に向いている。TN LCDと違って、SIP LCD内のLC分子は、下部板204に固定されていないので、自由であり、電極対の間に電圧を印加した場合、90°回転する。LC分子は、ガラス板204及び206と平行のままでありながら、加電界に分子自体を整列させる。
【0022】
この挙動は、例えば、LC分子鎖の一端がガラス板のうちの1枚に固定され、他方のLC分子がガラス板と直角にガラス板間に加えられた電界に分子自体を整列させようとするTN LCDの挙動と異なる。TN LCDを介して異なる位置で得られるLC分子配向によって、TN LCDの光学特性が視野角とともに変わる。他方、SIP LCDでは、LC分子がガラス板の平面と平行である状態で、SIP LCDを貫く深さの変化とともにLC分子の配向の変化はほとんどない。その結果、SIP LCDの光学特性は、TN LCD表示装置を用いた場合よりもはるかに広い視野角にわたって実質的に一定である。SIP LCDの視野角は、全方向に160°以上もあることがある。
【0023】
上記したようなスイッチド面内(SIP)LCDという用語は、図2を参照して説明されるような原理の下で動作する横電界方式(IPS)LCD、超IPS LCD、フリンジ・フィールド・スイッチング(FFS)LCD、FFS超LCD、強誘電性LCD及び反強誘電性LCD(ここで、これらのLCDに限定されない)などのよく使用される用語で知られている種々のLCDを含むものとする。
【0024】
偏光子の中には、偏光子シート自体を形成するのに使用される基材の固有化学構造体との光の相互作用に基づくものもある。これらは、固有偏光子と呼ばれる。この挙動は、偏光子シートの母材に二色性添加剤を使用することを必要とする、染料偏光子などの他の吸収偏光子及びH型偏光子の挙動と対照をなす。また、固有偏光子は通常、薄くて耐久性がある。
【0025】
1種類の固有偏光子は、光吸収発色団の平衡濃度を有する分子配向ポリビニルアルコール(PVA)シート又はフィルムに基づいて合成二色性平面偏光子を通常含むK型偏光子である。K型偏光子は、染料添加剤、ステイン、又は浮遊結晶材料の光吸収特性からではなく、その母材の光吸収特性からその二色性を得る。従って、K型偏光子は、優れた偏光効率と優れた耐熱性及び防湿性の両方を有することができる。また、K型偏光子は、色に対して非常に中性であることもできる。
【0026】
KE偏光子と呼ばれる改良K型偏光子は、マサチューセッツ州ノーウッド(Norwood)のスリーエム・カンパニー(3M Company)によって製造されている。KE偏光子では、高温及び高湿などの厳しい環境条件の下で偏光子安定性が向上している。光吸収特性がPVAと三ヨウ化物イオンとの間の発色団の形成によっているH型偏光子と対照的に、KE偏光子は、酸触媒加熱脱水反応でPVAを化学的に反応させることによって形成される。得られる発色団はポリビニレンを含み、得られる重合体をビニルアルコール及びビニレンのブロック共重合体と呼ぶこともできる。
【0027】
H型偏光子と違って、KE偏光子などのK型偏光子は、TACのシート間に挟まれる必要がない。発色団は高分子に固有であるので、KE偏光子のポリビニレン発色団は極めて安定した化学物質である。この発色団は、広範囲の溶剤及び化学薬品からの攻撃に対して耐性があるだけでなく、耐熱性もある。
【0028】
KE偏光子などのK型偏光子は、H型偏光子に対して更に幾つかの利点を有する。K型偏光子は、より薄く、可変透過レベルで設計することもできる。最も目立つのは、長時間高温及び高湿、例えば、85℃及び相対湿度85%を含む厳しい環境条件の下で高性能を必要とする用途においてKE偏光子などのK型偏光子を使用することができる。このような厳しい環境条件の下で、H型偏光子の安定性は大幅に減少し、従って、厳しい環境条件の下で使用されるフラットパネル表示装置においてH型偏光子の有用性は制限される。
【0029】
K型偏光子の固有化学的安定性のために、感圧接着剤を含む幅広い種類の接着剤組成物をK型偏光子に直接塗布することができる。更に、片面プラスチック支持体は、K型偏光子に対する物理的な支持を与えるのに適しており、この支持体を液晶表示装置モジュールの光路の外側に設置できるので、それは光学的等方性を有する必要はなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの低コスト基板が許容可能な代替物である。更に、片面積層物を構成できることによって、光学構造体を薄くでき、フラットパネル表示素子の製造及び設計における柔軟性を更に考慮できる。その上、H型偏光子と通常併用されるTACクラッド層は、複屈折を発生させる。他方、K型偏光子は、TAC層の使用を必要としないので、表示システムに複屈折を発生させない。
【0030】
図3は、本発明の原理に従ったLCDユニット300の具体的な一実施形態を示す。2つのカバー層302bの間に配設されたLC層302aを含むSIP LCDセル302には、偏光子構造体を液晶表示装置セル302に固定する接着剤(例えば、ポラテクノ(Polatechno)AD−20などの感圧接着剤)の層304及び306を塗布することもできる。吸収偏光子308、例えばK型又はKE偏光子シートなどの固有偏光子は、LCDスタック300の見る側に配設されている。接着剤層306を介して吸収偏光子308をLCDセル302に取り付けることもできる。吸収偏光子308は、TAC層を含まない。K型偏光子シートは通常、約20ミクロンの厚さを有する。接着剤層304などのLCDと偏光感度のよい吸収材料の層との間の材料層の複屈折を低減させることは重要である。しかし、LCDカバー層302bと偏光感度のよい吸収材料の層との間のスペースの外側で生じる遅延は、このスペースの内側で生じる遅延よりも重要でないので、偏光子308の外側にTAC層があってもよい。
【0031】
また、K型偏光子に加えて、他の種類の吸収偏光子を使用することもできる。例えば、吸収偏光子は、LCDカバー層と偏光感度のよい吸収偏光子層の層との間にTAC層を有しないH型偏光子であってもよい。また、吸収偏光子は、被覆偏光子、例えば、カリフォルニア州サウスサンフランシスコ(South San Francisco)のオプディバ株式会社(Optiva Inc.)によってTCF(登録商標)という製品ラベルで製造されている被覆LC偏光子層であってもよい。使用できる他の種類の吸収偏光子には、せん断偏光子及び染料偏光子がある。
【0032】
また、偏光子308は、LCDユニット300の見る側に面するポリエチレンテレフタレート(PET)支持層310の形態をした支持基板を含むこともできる。PET支持層310は通常、約25〜180ミクロンの厚さを有し、表示装置用の外カバーとして使用可能である。しかし、ユニット300は、PET支持層310などの支持基板を必要としない。例えば、KE偏光子シート自体を表示装置に取り付けることもできる。
【0033】
第2の吸収偏光子312、例えばK型又はKE偏光子シートなどの固有偏光子、又は上述の他の種類の偏光子は、LCDセル302の他方の側に配設されている。また、第2の吸収偏光子312には、少なくともLCDセル302と偏光感度のよい吸収材料の層との間にTAC層が無くてもよく、接着剤層304を用いて第2の吸収偏光子312をLCDセル302に取り付けてもよい。また、固有偏光子312は通常、約20ミクロンの厚さを有する。液晶表示装置の輝度及びコントラストを向上させるために、トランスフレクタ又は反射体314を固有偏光子312の裏側に配設することもできる。
【0034】
バックライトモードで使用する場合、光源320を使用して表示ユニット300に光を供給することもできる。光導波路322を介して光源320からの光を前記SIP LCDセル302に向けることもできる。光導波路322の側面を出る光は、トランスフレクタ314に入射する前に1つ以上の任意の光管理層(light management layer)324を通過することもできる。光管理層の例は、ミネソタ州セントポール(St.Paul)のスリーエム・カンパニー(3M Company)から入手できるBEF(登録商標)及びDBEF(登録商標)フィルムなどの輝度向上層を含む。制御装置326をLCDセル302に接続して、LCDセル302を通過する光に与えられる画像を制御することもできる。
【0035】
液晶表示装置スタックにおける固有偏光子の使用によって、偏光子の保護クラッドの必要が無くなる。他の種類の偏光子、例えばH型偏光子に使用されるクラッドは、偏光子の各側に配設されるTACの層を含む。TACクラッド層の使用を回避すると、液晶表示装置スタックの厚さが大幅に薄くなる。例えば、PET支持層310及びトランスフレクタ又は反射体314を含む、図3に例示されるLCDユニット300は、TAC層を使用する図1の対応する液晶表示装置スタック100よりも約300ミクロン薄いこともできる。
【0036】
KE偏光子などの偏光子をSIP LCDと併用すると、他の重要な利点が生じる。これらの利点は、画像光の色ずれ及び視覚において生じる。これについて、材料の層402を示す図4を参照してここで説明する。層402は、xy平面と平行である。層402の厚さは、z平面における寸法として定義される。x、y及びz平面と平行な電気ベクトルを有する光用屈折率はそれぞれ、nx、ny及びnzとして定義される。材料は、等方性(ここで、nx=ny=nz)がある。換言すれば、材料層の中を伝搬する光は、入射角及び光の偏光状態に関係なく、同じ屈折率を示す。屈折率の絶対値は、等方性があるように正確に同じである必要はなく、屈折率間に小さい差があることもある。
【0037】
遅延係数bは、屈折率のうちの2つの間の差と層厚との積として定義される。例えば、屈折率nx及びnzの間に差Δnxzがある場合、xz遅延係数bxzは、下記のように与えられる。
【0038】
xz=(nx−nz)l= Δnxzl (1)
【0039】
ここで、Δnxzはxz複屈折であり、lは層402の厚さである。
【0040】
TACは複屈折性があり、TACから成る場合、層402は、陰性C板として働く。換言すれば、x軸と平行な偏光に対する屈折率はnxであり、y軸と平行な偏光に対する屈折率はnyである(ここで、nx=ny)。しかし、z軸と平行な偏光は、屈折率nz≠nx、nyを示す。従って、TAC層402は、層402に垂直に入射する光の場合のみ等方性があると見られる。TAC層402に垂直に入射しない光の場合、屈折率nzを示す光の成分がある。従って、TAC層402は、TAC層402に垂直に入射しない光に対して複屈折性があり、垂直でない光に遅延を生じる。TACの1つの具体例に対するxz複屈折は、Δnxz=nx−nz=1.4923−1.4915=0.0008によって与えられる。
【0041】
複屈折の値は、nx及びnzの相対的な大きさによって正又は負であってもよい。ここに記載の複屈折及び遅延の値は、それらの値が正又は負であるかに関係なく大きさの絶対値として定義される。従って、0.0008として与えられた複屈折値は、nx−nz=0.0008とnz−nx=0.0008の両方を記述している。
【0042】
吸収偏光子の一方の側上のTAC層の厚さは約50μmであるので、上記式(1)を用いて計算されるTAC層の遅延係数は40nmである。一部のLCDセルの場合、このような高いxz複屈折は、LCDセル自体において軸外残存複屈折を補償するのに有用である。しかし、SIP LCDセルの場合、xy平面と平行なLC層の平面内にLC分子が含まれているので、無視できる軸外残存複屈折がある。従って、TAC層のxz複屈折は、TAC層がコントラストを増加するのではなくTAC層を通過する光の偏光状態を混合するので、SIP LCDセルのコントラストを低減するのに役立つ。
【0043】
従って、SIP LCDセルを使用する場合、画像のコントラストを維持するために、TAC層を有するH型偏光子で通常受けるよりも小さいxz遅延係数を有することが好ましい。これは、特に広い視野角で当てはまる。LC層と吸収偏光子との間の任意の複屈折性材料の厚さ及び吸収偏光層の厚さを薄くすることによって、低遅延係数を実現することができる。よって、xz遅延係数を低減するために、TAC層の厚さを薄くすることができる。
【0044】
また、xz複屈折を低減することもできる。nyの値、偏光子に吸収される偏光状態での光に対する屈折率は、y偏光の殆どが吸収されるので、nx及びnzよりも重要でない。従って、nyの値は、nx及びnzと同じであってもよいが、これは必要条件ではなく、nx及びnzと異なっていてもよい。KE偏光子の1つの具体例では、nx=1.5078及びnz=1.5075であるので、Δnxz=0.0003である。従って、前記偏光子のxz複屈折は、0.0005未満であることもできる。
【0045】
xz複屈折及び複屈折層の厚さの両方を低減することによって、xz遅延係数を低減することもできる。例えば、KE偏光子の厚さは通常、約20μmであるので、上記式(1)から計算されるKE偏光子のxz遅延係数は6nmである。よって、典型的なKE偏光子に対する複屈折係数の値は、典型的なTAC層に対する遅延係数よりも小さい大きさのオーダーよりも大きい。より薄いKE偏光子層(約15μm)は、約4.5nmのxz遅延係数を有する。
【0046】
吸収偏光子層とLC層との間の各層のxz遅延係数は、表示装置内に伝搬する光によって受ける全複屈折の一因となる場合があることが分かる。例えば、図1に例示される表示装置において、層109、114及び104は各々、LCDセル102内のLC層と吸収偏光子層109との間を通過する光の遅延の一因となる場合がある。しかし、層104などの接着剤層は通常、等方性がある。従って、各層の遅延係数を単に総計することによって、多数の層から形成される偏光子に対して総xz遅延係数bxz totalを計算することができる。従って、下記のように、総xz遅延係数bxz totalを計算することができる。
【0047】
xz total=Σbxzi=Σ(nxi−nzi)li= ΣΔnxzii (2)
【0048】
ここで、添字iは、吸収偏光子のi番目の層を指す。従って、吸収偏光子が、64nmのxz遅延係数を各々有する2つのTAC層を含む場合、吸収偏光子に対する総xz遅延係数は少なくとも128nmである。
【0049】
より低いxz複屈折性を有する材料及びより薄い複屈折層を使用すると、総xz遅延係数を低減することができる。例えば、図3に例示される表示装置に戻って参照すると、LCDセル302内のLC層と吸収偏光子層308との間を伝搬する光に対する総xz遅延係数は、厚さが20μmのKE偏光子の具体例の場合に6nmである偏光子308のxz遅延係数と等しい。LCDセル302におけるガラス層及び接着剤層306は、両方とも等方性があり、従って、総xz遅延係数の一因とならない。
【0050】
従って、複屈折層をより薄くしてxz複屈折を低減する方法を単独に又は組み合わせて使用して、吸収偏光子に対する総xz遅延係数bxz totalを典型的なH型偏光子の総xz遅延係数よりも小さい値に低減することもできる。例えば、総xz遅延係数bxz totalは、20nm未満であることもでき、好ましくは10nm未満、更に好ましくは5nm未満であることもできる。
【0051】
偏光子複屈折の効果は、横電界方式(IPS;in−plane switched)LCDに対して計算されたデータを示す図5A及び図5Bに示す偏光鏡グラフを参照して更にはっきりと分かる。これらのグラフは、種々の角度で偏光子/LCDセルに入射した光に対してKE偏光子で交差したIPS LCDセルを通過する計算暗状態透過率を示す。照明光は、550nmであると仮定した。図5Aでは、LCDセルの何れの側にもTAC層がないと仮定した。1%等高線502、即ち、透過されるであろう光の99%が透過される角度を表す等高線は、約60°の最小角度値を有する。
【0052】
図5Bでは、各々が40nmの遅延を生じるTAC層がIPS LCDセルの何れかの側にあると仮定した。益々軸外の光の場合、複屈折性は光の偏光状態を混合し、その結果、1%等高線504は、約54°の最小角度値を有する。換言すれば、TAC層を有しないモデルにおけるよりも垂直の透過に近い方向に対して、図5Bでモデル化されたLCDセルの中を光は透過される。これによって、TAC層を含む場合、IPS LCD表示装置の有用な視野角が狭くなる。この挙動は、他の種類のSIP LCDにおいて定性的に同様である。
【0053】
また、TAC層などの複屈折層をSIP LCDセル内の偏光子と併用すると、暗状態の色の中性が低減する。図1で記載したようにTAC層を有するH型偏光子を製造されたように両側に有する日立(Hitachi)型番181SXW LCDモニターから取ったIPS LCDを用いて実験を行った。半分の画面上の偏光子を、厚さが20μmのKE偏光子と交換した。複屈折TAC層を有する画面の元の側を未修正側と呼び、KE偏光子を有する画面の他方の側を修正側と呼ぶ。従って、画面の修正側の構成は、図3に例示した構成と同様であった。
【0054】
修正後、表示装置を駆動して異なる色を表示し、前記画面の各側の代表点に対して放射光の色を測定した。360°の方位にわたって直角から60°で見て色測定を行った。方位角の関数として画面の暗状態及び赤、青、緑の色度座標(CIE、1931)を測定するEldim EZContrast 160偏光鏡を用いて色測定を行った。
【0055】
実験結果を図6に示す。未修正画面に対して測定された点を灰色点として示し、修正画面に対して測定された点を黒色点として示す。第1の円602は、青色光で動作する修正及び未修正画面に対して測定された点を例示する。修正画面の青色が未修正画面の青色と同様であることを示す、灰色点と黒色点との間に実質的な重なりがある。同様に、第2の円604は、緑色光で動作する画面に対して測定された点を例示する。再度、修正画面の緑色が未修正画面の緑色と実質的に同じであることを示す、灰色点(未修正画面)と黒色点(修正画面)との間に実質的な重なりがある。第3の円606は、赤色光で動作する画面に対して測定された点を例示する。再度、修正画面の赤色が未修正画面の赤色と実質的に同じであることを示す、灰色点(未修正画面)と黒色点(修正画面)との間に実質的な重なりがある。灰色点と黒色点との重なりは、円602、604及び606において黒色点を灰色点と区別するのを困難にする。
【0056】
しかし、暗(黒)状態で動作する画面の色は、修正及び未修正画面に対して異なる。楕円608内の黒色点は、暗状態で動作する場合、未修正画面から放射された光の測定値を表す。分かるように、未修正偏光子の偏光子内のTAC層の複屈折性に起因する色ずれのために、暗状態点の色においてかなりの広がりがある。暗状態は、色度図の青色及び赤色領域まで広がっているので、暗状態は、異なる角度で見てかなりの色ずれを示す。
【0057】
灰色点に示す、修正画面に対応する結果を集めると、色図表上の広がりは非常に小さいことが分かる。これは、複屈折TAC層無しで動作するIPS LCDセルの暗状態が、暗状態で動作する場合に角度依存色ずれをほとんど示さないことを意味する。従って、より低い総xz遅延係数となる層で動作される場合、暗状態は、複屈折TAC層で動作される場合よりも中性色である。
【0058】
また、LCDスタックで使用されるK型偏光子などの固有偏光子は、液晶表示装置セル内の液晶表示材料に対して効果的な透気性及び透湿性バリヤーを与えることもできる。従って、所望の透過性規格を実現するためにLCDセルの何れかの側に配設されるK型偏光子で構成されるLCD構造体に追加のバリヤー層又はクラッドを必要としない。特に、水蒸気透過率(MVTR)、ASTMF1249の標準規格は、20gm/m2/日未満であり、酸素透過率(O2GTR)、ASTM D3985は、1ml/m2/日未満である。PET支持構造体を含むKE偏光子を用いて形成された液晶表示装置用の構造体は、4.6gm/m2/日以下のMVTR及び0.005ml/m2/日未満のO2GTR(20℃及び相対湿度90%で試験)を有することが示されている。
【0059】
SIP LCDは、同一権利者による米国特許第6,630,970B2号明細書に一部が更に記載されている多数の異なる構成体にK型又はKE型偏光子を含むこともできる。これらの異なる構成体は、硬質被膜、拡散体、拡散接着剤層、反射防止膜、1/4波長遅延剤層などを含むこともできる。
【0060】
本発明は、上述の具体的な実施例に制限されると考えるべきではなく、添付の特許請求の範囲に適正に記載されたような発明の全態様を含むものとする。本発明が適用可能な多くの構造体と共に種々の修正、均等な方法は、本明細書の再検討の際に本発明が狙いとする技術分野の当業者には容易に明らかであろう。特許請求の範囲は、このような修正及び工夫を含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】H型吸収偏光子を使用する先行技術の液晶表示装置(LCD)を模式的に示す断面図である。
【図2】スイッチド面内(SIP)LCDを示す模式図である。
【図3】本発明の原理に従って固有偏光子を使用するSIP LCDの実施形態を模式的に示す断面図である。
【図4】材料層における複屈折を概略的に示す模式図である。
【図5A】本発明の原理に従って固有偏光子を使用するIPS LCDを通過する種々の角度における光に対する計算透過率を示す模式図である。
【図5B】TAC層を有する偏光子を使用するIPS LCDを通過する種々の角度における光に対する計算透過率を示す模式図である。
【図6】種々の色に対してTAC層の有無の両方の場合の偏光子を有するIPS LCDに対して広がった色の実験結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチド面内(SIP)液晶表示(LCD)セルと、
前記LCDセルの第1の側に配設された第1の吸収偏光子であって、前記第1の吸収偏光子が偏光感度のある吸収材料の層を含み、偏光感度のある吸収材料の前記層と前記LCDセルとの間の材料層には三酢酸セルロース(TAC)が無い、第1の吸収偏光子と、
を含む、液晶表示装置。
【請求項2】
スイッチド面内(SIP)液晶表示(LCD)セルと、
前記LCDセルの第1の側に配設された、少なくとも吸収偏光層を含む1つ以上の層を含む第1の吸収偏光子であって、前記第1の吸収偏光子及び前記LCDセルが各々、直交するx軸及びy軸で定義されるxy平面と平行であり、z軸が前記x軸及び前記y軸の両方と直交しており、前記第1の吸収偏光子が前記第1の吸収偏光子を透過される光に対して透過偏光方向を規定し、前記透過偏光方向が前記x軸と平行であり、xz遅延係数bxz totalが前記第1の吸収偏光子に対して下記のように定義され、
xz total=Σ(nxi−nzi)li
ここで、nxiが前記第1の吸収偏光子のi番目の層において前記x軸と平行な偏光に対する屈折率であり、nziが前記第1の吸収偏光子のi番目の層において前記z軸と平行な偏光に対する屈折率であり、liがz方向における前記第1の吸収偏光子のi番目の層の厚さであり、iが前記第1の吸収偏光子の異なる層を識別する整数であり、bxz total=Σ(nxi−nzi)liが20nm未満である、第1の吸収偏光子と、
を含む、液晶表示装置。
【請求項3】
スイッチド面内(SIP)液晶表示(LCD)セルと、
前記LCDセルの第1の側に配設された、吸収偏光層を有する第1の吸収偏光子であって、前記第1の吸収偏光子及び前記LCDセルが各々、直交するx軸及びy軸で定義されるxy平面と平行であり、z軸が前記x軸及び前記y軸の両方と直交しており、前記第1の吸収偏光子が前記第1の吸収偏光子を透過される光に対して透過偏光方向を規定し、前記透過偏光方向が前記x軸と平行であり、nxが前記吸収偏光層において前記x軸と平行な偏光に対する屈折率であり、nzが前記吸収偏光層において前記z軸と平行な偏光に対する屈折率であり、Δnxz=nx−nzの絶対値が0.0005未満である、第1の吸収偏光子と、
を含む、液晶表示装置。
【請求項4】
前記第1の吸収偏光子が、K型又はKE型吸収偏光子であることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記第1の吸収偏光子が、前記LCDセルの見る側に配設されていることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
光源が、前記LCDセルの照明側に配設されていることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
光導波路、トランスフレクタ及び光管理層のうち少なくとも1つが、前記LCDセルと前記光源との間に配設されていることを特徴とする、請求項6に記載の液晶表示装置。
【請求項8】
制御装置が前記LCDセルに連結されて、前記LCDセルを通過する光に前記LCDセルによって与えられる画像を制御することを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の液晶表示装置。
【請求項9】
前記第1の吸収偏光子が、前記LCDセルに対して約4.6gm/m2/日未満の水蒸気透過率及び約0.005ml/m2/日未満の酸素透過率を与えることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の液晶表示装置。
【請求項10】
xz totalが10未満であることを特徴とする、請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項11】
前記第1の吸収偏光層の面内屈折率nxと前記第1の吸収偏光層の厚さ屈折率nzとの間の差の絶対値が0.0005未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−517259(P2007−517259A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547108(P2006−547108)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/041787
【国際公開番号】WO2005/066924
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】