説明

中性エンドペプチダーゼ阻害剤

【課題】新規な中性エンドペプチダーゼ阻害剤を提供する。
【解決手段】ヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物を有効成分として含有する中性エンドペプチダーゼ阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性エンドペプチダーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
中性エンドペプチダーゼは、エンケファリンなどのオピオイドペプチド、サブスタンスP、ブラジキニンなどの神経ペプチド、心房性ナトリウム利尿ペプチドなどの血管作動性ペプチドを分解する酵素として知られている。そのため、中性エンドペプチダーゼの活性を阻害する作用を持った物質は、モルヒネ系物質の代謝物質、すなわち鎮痛剤(非特許文献1参照)として、あるいは降圧剤(非特許文献2参照)として有用であることが報告されている。
このように、中性エンドペプチダーゼ活性を阻害することで得られる効果は多岐にわたるが、従来知られている中性エンドペプチダーゼ阻害剤は安全性に問題があるものが多く、また、阻害効果が十分とはいえない等の問題点を有していた。そのため、新たな中性エンドペプチダーゼ阻害剤の探索が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Malfroy B,Swerts JP,Guyon A,Roques BP,Schwartz JC.(1978)Nature,276,523-526.
【非特許文献2】Kubota E,Dean RG,Balding LC,Burrell LM.(2002)Essays Biochem.,38,129-139.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高い阻害効果を有する新規な中性エンドペプチダーゼ阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、ヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物が中性エンドペプチダーゼ活性を阻害する作用を有することを見い出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0006】
本発明は、ヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物を有効成分として含有する中性エンドペプチダーゼ阻害剤に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、阻害活性の高い中性エンドペプチダーゼ阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について、その好ましい実施態様の基づき詳細に説明する。
本発明の中性エンドペプチダーゼ阻害剤は、ヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物を有効成分として含有する。
【0009】
本発明に用いられるヤマモモ属(Myrica属)に属する植物としては、ヤマモモ、シロコヤマモモ、ヤチヤナギ、セイヨウヤチヤナギ、ナガバヤマモモなどが挙げられる。なかでも、本発明ではヤマモモ、シロコヤマモモを用いることが好ましい。
ヤマモモは、ヤマモモ科ヤマモモ属に属する植物で、学名はMyrica rubra Sieb.et Zucc.である。ヤマモモにはタンニンが豊富に含まれ、止瀉作用や整腸作用があることが知られている。
シロコヤマモモは、ヤマモモ科ヤマモモ属に属する植物で、学名Myrica ceriferaである。シロコヤマモモには、収斂作用、抗菌作用があることが知られている。
ヤチヤナギは、ヤマモモ科ヤマモモ属に属する植物で、学名はMyrica gale L.var.tomentosaである。
セイヨウヤチヤナギは、ヤマモモ科ヤマモモ属に属する植物で、学名はMyrica gale L.var.galeである。
ナガバヤマモモは、ヤマモモ科ヤマモモ属に属する植物で、学名はMyrica rubra var.acuminataである。
ヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物が中性エンドペプチダーゼ活性阻害効果を有することについては全く知られていなかった。
【0010】
本発明のヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物を得るためには、上記植物の全ての任意の部分、例えば、全草、葉、樹皮、枝、果実または根などが使用可能である。中でも、ヤマモモについては樹皮を、シロコヤマモモについては根皮を用いるのが好ましい。
本発明において、ヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物の調製に、上記植物の各部位をそのまま、又は乾燥粉砕して用いることもできるが、その水蒸気蒸留物又は圧搾物を用いることもでき、これらは精油等より精製したものを用いることもでき、また市販品を利用することもできる。上記植物の部位又はその水蒸気蒸留物若しくは圧搾物は、いずれかを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本発明に用いるヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物は、上述の植物2種以上から得られた混合物であってもよい。
【0011】
本発明に用いるヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物を得る方法は特に限定されず、適当な溶媒を用いた常法の抽出方法によって調製することができる。
抽出に用いる溶媒としては、通常植物成分の抽出に用いられるもの、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;及びピリジン類等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。本発明において、抽出溶媒としては、水性アルコールが好ましく、95質量%エタノールを用いることが特に好ましい。
また抽出条件も通常の条件を適用でき、例えば上記植物を3〜100℃で数時間〜数週間浸漬又は加熱還流するのが好ましく、室温付近の温度で1日〜3週間浸漬するのが特に好ましい。
【0012】
上記ヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物は、そのまま本発明の中性エンドペプチダーゼ阻害剤の有効成分として使用できるが、さらに適当な分離手段、例えばゲル濾過、クロマトグラフィー、精密蒸留等により分画して用いることもできる。また、前記抽出物を希釈、濃縮または凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。本発明において、ヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物とは、前記のような抽出方法で得られた各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を含むものである。
【0013】
本発明において、前記ヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物はそのまま中性エンドペプチダーゼ阻害剤として用いてもよい。または、必要に応じて上記抽出物に、例えば精製水、アルコール、界面活性剤、油性物質、保湿剤、皮膚老化防止剤、美白剤、高分子化合物、防腐剤、増粘剤、乳化剤、薬効成分、紛体、紫外線吸収剤、色素、香料、乳化安定剤、pH調整剤等を適宜加えて用いてもよい。この場合、中性エンドペプチダーゼ阻害剤中の前記ヤマモモ属に属する植物の抽出物の量は特に制限されないが、前記抽出物が固形分換算で0.00001〜50重量%含まれるのが好ましく、0.001〜10重量%程度含まれるのが特に好ましい。
【0014】
本発明の中性エンドペプチダーゼ阻害剤は効果的に中性エンドペプチダーゼ活性を阻害することができ、その用途としては、抗しわ剤、発毛抑制剤、降圧剤、鎮痛剤等が挙げられる。
本発明の中性エンドペプチダーゼ阻害剤の形態は特に制限されないが、上記用途に応じて皮膚外用剤、経口剤、注射剤等とすることができる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
(製造例1)ヤマモモ抽出液の調製
ヤマモモ樹皮(楊梅皮(広東省)、新和物産製)40gに95%エタノール水溶液400mLを加え、常温で7日間浸漬した。これをろ過し、ヤマモモ抽出液を得た。このヤマモモ抽出液を濃縮したところ、その固形分は6.20gであった。抽出液の固形分濃度は1.55%であった。調製したヤマモモ抽出液0.1mLに95%エタノール水溶液0.244mLを加え、評価サンプルとした。
【0017】
(製造例2)シロコヤマモモ抽出液の調製
シロコヤマモモ根(樹皮)(Bayberry root bark powder(Moutain Rose Harbs))40gに95%エタノール水溶液400mLを加え、常温で7日間浸漬した。これをろ過し、シロコヤマモモ抽出液を得た。このシロコヤマモモ抽出液を濃縮したところ、その固形分は7.48gであった。抽出液の固形分濃度は2.30%であった。調製したシロコヤマモモ抽出液0.1mLに95%エタノール水溶液0.36mLを加え、評価サンプルとした。
【0018】
(実施例)培養ヒト線維芽細胞由来の中性エンドペプチダーゼ活性抑制試験
Cell System社より市販されている正常ヒト線維芽細胞を用いて、10%牛胎児血清を含むDME培地で継体培養し、以下の試験に供した。試験方法は、The Journal of Biological Chemistry, 266(34), 23041-23047(1991)に記載の方法を参照した。
ラバーポリスマンを用いてシャーレから剥がした細胞を、リン酸緩衝食塩水中に浮遊させ、低速の遠心分離器を使って細胞を集めた後、同生理食塩水で3回洗浄した。得られた細胞を0.1% Triton X-100/0.2M Tris-HClバッファー(pH8.0)に浮遊させ、超音波粉砕し、これをヒト線維芽細由来酵素液とした。酵素活性測定の基質には、10mMグルタリル−Ala−Ala−Phe−4−メトキシ−β−ナフチルアミンを用いた。酵素液100μLに対し、所定の濃度に希釈した前記植物抽出物(評価サンプル)を2μLまたは0.6μL、基質を2μL添加し、37℃で1時間反応させ、基質を分解した。その後、ホスホラミドン(Phosphoramidone)を最終濃度1μMとなるように添加して、基質分解反応を停止させた。この酵素分解反応により、ヒト線維芽細由来酵素液に含まれる中性エンドペプチダーゼ(NEP)が基質をAla−Phe間で切断、分解する。
コントロールとして、上記酵素反応系において、評価サンプル2μLまたは0.6μLのかわりに95%エタノール水溶液を同量加えた以外は上記と同様にした試料を作成した。
さらに、反応系にロイシンアミノペプチダーゼ(Leucine aminopeptidase)を最終濃度が0.50mU/mLとなるように添加し、37℃で1時間反応させた。これにより、NEP分解産物がロイシンアミノペプチダーゼによってさらに切断、分解され、4−メトキシ−2−ナフチルアミンを生じる。生成した4−メトキシ−2−ナフチルアミン量を、蛍光分光光度計で励起波長340nm、蛍光波長425nmにて蛍光強度を測定した。
得られた測定値をもとに、以下の式から植物抽出物(評価サンプル)の中性エンドペプチダーゼ活性阻害率を求めた。結果を表1に示す。

中性エンドペプチダーゼ活性阻害率(%)=100−{(評価サンプル添加時の4-メトキシ-2-ナフチルアミン量)/(コントロール添加時の4-メトキシ-2-ナフチルアミン量)}×100
【0019】
【表1】

【0020】
表1から明らかなように、ヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物が優れた中性エンドペプチダーゼ活性阻害効果を有することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤマモモ属(Myrica属)に属する植物の抽出物を有効成分として含有する中性エンドペプチダーゼ阻害剤。

【公開番号】特開2010−215548(P2010−215548A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62784(P2009−62784)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】