中性子線量計測素子の製造方法、中性子線量計測方法及び中性子線量計測システム
【課題】 所望の中性子線量のレンジにおいて有感であって、且つ即時測定が可能な中性子線量検出素子を製造する方法を提供する。
【解決手段】中性子の線量測定に用いられる中性子線量検出素子の製造方法であって、中性子線量検出素子となる、所定の方向に磁化された永久磁石を用意する工程と、前記永久磁石の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことによって、前記永久磁石の中性子線量検出の感度を調整する感度調整工程とを備えることを特徴とする中性子線量検出素子の製造方法が提供される。
【解決手段】中性子の線量測定に用いられる中性子線量検出素子の製造方法であって、中性子線量検出素子となる、所定の方向に磁化された永久磁石を用意する工程と、前記永久磁石の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことによって、前記永久磁石の中性子線量検出の感度を調整する感度調整工程とを備えることを特徴とする中性子線量検出素子の製造方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子の線量計測に用いる中性子線量計測素子の製造方法、中性子線量計測方法、及び、中性子線量計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉等を有する原子力関連施設(例えば原子力発電所等)、陽電子断層撮影(PET)のための放射性薬剤を合成するために用いられる医療用サイクロトロンのような荷電粒子加速器を有する加速器施設等においては、原子炉又は加速器を運転する際に不可避的に中性子が発生することが知られている。そこで、このような中性子が発生する施設においては、近隣施設への中性子漏れを防ぐ観点、及び、作業従事者の中性子による被曝を避ける観点などから、当該施設において発生する中性子の線量測定が行なわれている。
【0003】
中性子の線量を測定するための方法として、いくつかの方法が開発されてきたが、一般的には、放射化法を用いた中性子線量測定、及び、中性子に対して核反応断面積の大きい質量数3のヘリウム(3He)ガスを単一又は他のガスと混合して封入した中性子検出用ガスカウンタを用いた測定等が行われている。
【0004】
まず、放射化法について説明する。放射化法とは、中性子を照射された物体が放射能を有する放射性物質になることを利用して、物体に照射された中性子の線量を求める方法である。ここで、物体に中性子が照射された場合、物体を構成する元素の原子核の一部が中性子を捕獲する等の原子核反応を起こすことにより、放射性同位体となることが知られている。また、生成される放射性同位体の数は、物体に照射された中性子の線量及び物体を構成する元素と中性子との核反応断面積に依存することが知られている。生成された放射性同位体の数は、当該放射性同位体から放出される特有の放射線を計測することによって求めることができる。そのため、物体を構成する元素の中性子反応断面積があらかじめ実験などによってわかっている場合には、生成された放射性同位体の数を測定することによって、物体に照射された中性子の線量を求めることができる。
【0005】
放射化法による中性子線量の測定には、中性子を照射する照射体として金薄膜が用いられることが多い。天然の金は質量数197の金の同位体(197Au)のみを含んでおり、これが中性子を捕獲すると質量数198の金の同位体(198Au)が生成される。198Auは不安定であるため、ベータ線、ガンマ線などの放射線を放出しつつ、半減期約2.7日で安定な同位体である質量数198の水銀の同位体(198Hg)へと崩壊する。ここで、197Auの天然同位体存在比は100%であるため、金薄膜が中性子により放射化された場合に、198Au以外の放射性同位元素が生成されることはない。また、197Auの中性子吸収断面積は種々の実験により既知であるので、198Auが198Hgに崩壊する際に放出されるベータ線及び又はガンマ線を測定することによって、金薄膜に照射された中性子の線量を求めることができる。
【0006】
次に、中性子検出用ガスカウンタについて説明する。例えば、特許文献1に記載の中性子検出用ガスカウンタには、中性子との核反応断面積が大きい3Heガスが単一で、又は他のガスと混合されて封入されている。また、ガスカウンタには、ガスカウンタの内部で発生した電荷をガス増幅させつつ収集するための電極対が設けられており、これらの電極対には所定の電圧が印加されている。ここで、3Heに中性子が衝突した場合、3He+n→p+tで表される核反応が起こり、高速で飛翔するp、tが放出されることが知られている。ここで、n、p、tはそれぞれ、中性子、陽子、3重陽子(質量数3の水素)である。中性子は電荷を有していないため、たとえ中性子がガスカウンタの内部を飛翔したとしてもガスカウンタに封入されたガスがイオン化されることはなく、ガスカウンタの内部には電荷は発生しない。しかしながら、上述の核反応により、荷電粒子であるp、tが発生した場合には、これらがガスカウンタの内部を高速で飛翔する際に、ガスカウンタに封入されたガスをイオン化するため、ガスカウンタの内部には電荷が発生する。これらの電荷は、上述の電極対に印加された電圧に起因する電場に沿って電極対に向かって加速されつつ移動する。この際に、加速された電荷がさらにガスをイオン化して電荷を発生させるため、雪崩式に電荷が増幅される。このようにして増幅された電荷を電気信号として検出することにより、中性子を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−062360号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日立金属株式会社 NEOMAX(登録商標) MAGNET 製品カタログ P.3〜4 2009年4月
【非特許文献2】足立吟也編著、「希土類の科学」、化学同人、P.606
【非特許文献3】J. Alderman, P.K. Job, R.C. Martin, C.M. Simmons and G.D. Owen, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 481 (2002) 9
【非特許文献4】X.−M. Marechal, T. Bizen, Y. Asano and H. Kitamura, Proceedings of EPAC 2006, p. 3116 − 3118., Edinburgh, Scotland, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
放射化法を用いた中性子線量測定においては、金の薄膜などの照射体の大きさを比較的自由に設定することができる。そのため、例えば空間的に限られた領域における中性子線量を測定したい場合などには、その領域に応じて、適当な大きさの1又は複数の照射体を用意すればよい。しかしながら、放射化法を用いた中性子線量測定においては、中性子を照射体に一定時間照射し、その後、中性子の照射により生成された放射性同位元素の数を測定する必要があるため、中性子の線量をリアルタイムで測定することができない。そのため、例えば、中性子による被曝の可能性のある場所で作業する作業従事者が、その場所における現在の中性子の線量を測定したいと考えたとしても、放射化法を用いた中性子線量測定を用いて中性子線量を測定することはできない。これに対して、中性子検出用ガスカウンタを用いた測定では、リアルタイムで中性子線量を測定することが可能である。しかしながら、中性子線量を精度よく測定するためには、3Heガスを封入しているガスチャンバーのサイズを大きくする必要がある。さらに、中性子検出用ガスカウンタを用いた測定では、電極対に高電圧を印加するための高電圧電源、及び、電離された電荷による信号をノイズ信号と分離しつつ取り出すためのノイズフィルター、波高分別回路等の専用の電子回路が必要となる。このように、大型のガスチャンバーが必要であることに加えて、上述のような高圧電源や専用電子回路も必要となるため、中性子検出用ガスカウンタは必然的に大型の装置となり、携帯性、取り扱いの利便性等に問題がある。また、空間的に限られた領域における中性子線量の測定は、ガスチェンバーの大きさにより制限されることになる。
【0010】
これに対して、本発明者は、全く新しいアプローチとして、後述のような永久磁石を利用した中性子線量検出素子を用いた中性子線量の測定方法を提案しており、これに関連して、独自の中性子線量検出素子の感度調整方法を開発して本発明に至った。本発明の目的は、中性子線量をリアルタイムで検出できるとともに、任意の大きさの領域における中性子線量の測定が可能である中性子線量検出素子の製造方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、前記中性子線量計測方法、及び前記中性子線量計測システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様に従えば、中性子の線量測定に用いられる中性子線量検出素子の製造方法であって、
中性子線量検出素子となる、所定の方向に磁化された永久磁石を用意する工程と、
前記永久磁石の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことによって、前記永久磁石の中性子線量検出の感度を調整する感度調整工程とを備えることを特徴とする中性子線量検出素子の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の中性子線量検出素子の製造方法によれば、永久磁石の中性子有感レンジを、低中性子線量側にずらすように感度調整を行っているので、所望の中性子線量のレンジにおいて測定が可能な中性子線量検出素子を製造することができる。ここで、中性子有感レンジとは、照射された中性子線量に相関して永久磁石が減磁する中性子線量の範囲のことである。例えば、後述のように、感度調整がなされていないネオジム磁石では、1cm2あたり約1013〜1016個の中性子が照射された場合に、照射された中性子線量に相関して減磁する。この場合においては、この範囲の中性子線量が中性子有感レンジに相当する。
【0013】
本発明の中性子線量検出素子の製造方法では、前記感度調整工程において、前記永久磁石を室温(常温)よりも高く、前記永久磁石のキュリー点よりも低い所定の温度まで加熱してもよい。この場合には、永久磁石に加熱処理を行うことにより、中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことができる。これにより、所望の中性子線量において有感な中性子線量検出素子を製造することができる。
【0014】
本発明の中性子線量検出素子の製造方法では、前記感度調整工程において、前記永久磁石に含まれる元素のうち、少なくとも1つの元素について、天然同位体比と異なる割合となるように同位体比を調整してもよい。この場合には、ある元素の同位体の組成比を天然同位体比と異なるように調整することにより、中性子と当該元素の同位体とが核反応を起こす割合を調整することができる。これにより、中性子との核反応に伴って永久磁石の内部で発生する熱量を調整することが可能となり、所望の中性子線量において有感な中性子線量検出素子を製造することができる。
【0015】
本発明の中性子線量検出素子の製造方法において、前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であってもよく、前記感度調整工程において、ネオジム磁石を室温よりも高く、熱減磁開始温度以下の温度まで加熱してもよい。あるいは、前記感度調整工程において、ネオジム磁石を60℃〜115℃の温度まで加熱してもよい。また、前記感度調整工程において、質量数10のホウ素の同位対比が天然同位体比と異なる割合となるように調整してもよい。ここで、熱減磁開始温度とは、後述するように、ネオジム磁石などの永久磁石を加熱処理した際に、減磁が始まる温度である。なお、熱減磁開始温度以下の温度まで加熱してもよいという表現は、熱減磁開始温度前後の温度まで加熱してもよいという意味を含んでいる。
【0016】
本発明の第2の態様に従えば、中性子の線量を計測する方法であって、
永久磁石によって構成された中性子線量検出素子を所定の位置に配置する配置工程と、
中性子線量検出素子に中性子を照射する中性子照射工程と、
中性子線量検出素子の磁場強度を測定する磁場強度測定工程と、
磁場強度測定工程において測定された磁場強度に基づいて、中性子照射工程において前記中性子線量検出素子に照射された中性子線量を導出する中性子線量導出工程とを備えることを特徴とする中性子線量計測方法が提供される。
【0017】
本発明の第3の態様に従えば、中性子の線量を計測する中性子線量計測システムであって、
永久磁石により構成された中性子線量検出素子と、
前記中性子検出素子の磁場強度を測定する磁場測定機構と、
前記磁場測定機構により測定された磁場強度に基づいて、中性子線量検出素子に照射された中性子の線量を導出する中性子線量導出機構とを備えることを特徴とする中性子線量計測システムが提供される。
【0018】
いずれの場合にも、永久磁石によって構成された中性子線量検出素子の大きさを任意に調整できるため、所望の位置における中性子線量の計測が可能となる。また、中性子線量検出素子の磁場強度は、中性子線量検出素子に中性子を照射している間にも測定することができるため、中性子照射中の即時計測が可能となる。
【0019】
本発明の中性子線量計測システムにおいて、前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であって、且つ、5mm角の立方体よりも小さくてもよく、前記中性子線量検出素子は、前記ネオジム磁石を覆うカプセルを含んでもよい。この場合には、例えば後述するBNCTにおいて、腫瘍の位置における中性子照射線量を即時測定するために、腫瘍位置に中性子線量検出素子を配置することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、所望の中性子線量のレンジにおいて中性子に対して有感でありながら、γ線、X線などの電磁波に対しては不感な中性子線量検出素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は中性子線量計測装置1の概略図である。
【図2】図2(a)はネオジム磁石の結晶構造を示す図であり、図2(b)はネオジム原子及び鉄原子の磁気モーメントの整列の様子を示す図であり、図2(c)及び図2(d)は、それぞれ、軽い希土類イオンと重い希土類イオンにおける希土類イオンと遷移金属イオンとの相互作用を示す図である。なお、図2(a)は非特許文献1からの抜粋であり、図2(b)はhttp://www.spring8.or.jp/ext/ja/iuss/htm/text/06file/adv_mag_mat−2/suzuki.pdfの第17ページ目からの抜粋であり、図2(c)及び図2(d)は非特許文献2からの抜粋である。
【図3】図3は各種永久磁石の磁場強度を表す図である(非特許文献1より抜粋)。
【図4】図4は、中性子照射線量に対するネオジム磁石及びサマリウムコバルト磁石の減磁の割合を示すグラフである(非特許文献4より抜粋)。
【図5】図5は、検証実験のセットアップの様子を示す図である。
【図6】図6は、検証実験の結果を示すグラフであって、各設定温度における中性子フルエンス(1cm2あたりの中性子数)と中性子線量検出素子10の減磁の割合との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、第2の検証実験における加熱処理後の磁場強度測定結果を示すグラフである。
【図8】図8は、第2の検証実験を行った重水施設の概略見取り図である。
【図9】図9は、第2の検証実験の測定結果であり、横軸は中性子フルエンス(1cm2あたりの中性子の個数)を表し、縦軸は減磁量(kG)を表す。
【図10】図10(a)は本発明にかかる中性子線量測定方法を示すフローチャートであり、図10(b)は本発明にかかる中性子線量検出素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図11】図11は、10Bの中性反応断面積を示すグラフである。
【図12】図12は、BNCTの概要を説明する図である。
【図13】図13は、リミットスイッチ300の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<中性子線量計測装置1>
本発明に係る中性子線量計測システムとして、中性子線量計測装置1を例に挙げて説明する。図1に中性子線量計測装置1の概略図を示す。中性子線量計測装置1は、中性子線量をリアルタイムで計測するための装置であり、ネオジム系希土類永久磁石により構成された中性子線量検出素子10と、中性子線量検出素子10の磁力の強さを検出する磁場検出ユニット20と、磁場検出ユニット20を制御するコントローラ30と、磁場検出ユニット20の出力を処理して中性子線量を導出するコンピュータ40とを主に備える。磁場検出ユニット20は、ピックアップコイル21と、モータ22と、モータ22に連結されてピックアップコイル21にモータ22の駆動力を伝達してピックアップコイル21を所定の方向に往復移動させる駆動機構23とを有する。後述のように、あるしきい値以上の中性子が中性子線量検出素子10に照射されると、照射された中性子の線量に応じて中性子線量検出素子10が減磁する。このときの中性子線量検出素子10の磁力の強さをピックアップコイル21により検出する。具体的には、駆動機構23により、ピックアップコイル21は中性子検出装置10に近づく向き及び遠ざかる向きに往復移動させる。このピックアップコイル21の往復移動に伴って、ピックアップコイル21を通過する磁束密度が時間的に変化するため、ピックアップコイル21には誘導起電力が発生する。この誘導起電力の大きさは、ピックアップコイル21を横切る磁束密度の、単位時間あたりの変化量に依存している。そのため、中性子線量検出素子10の磁場の強さが一定である間は、ピックアップコイル21に発生する誘導起電力の大きさも一定であるが、中性子線量検出素子10が減磁すれば、ピックアップコイル21に発生する誘導起電力の大きさが小さくなる。このようにして、ピックアップコイル21を所定方向に移動させつつ、発生する誘導起電力の大きさを測定することによって、中性子線量検出素子10の磁場の強さを測定することができる。
【0023】
<中性子線量検出素子10>
次に、中性子線量検出素子10について説明する。中性子線量検出素子10は、NEOMAX(登録商標)等のネオジム系希土類永久磁石(以下、ネオジム磁石と呼ぶ)により構成されている。ネオジム磁石は、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ボロン(B)を主成分とする、ネオジム・鉄・ボロン系焼結磁石である。その主相はNd2Fe14Bであり、図2(a)に示されるような結晶構造を有している。また、図3に示されるように、ネオジム磁石は、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石などの他の永久磁石と比べて、格段に強い磁力を有していることが知られている。
【0024】
良い永久磁石は大きな一軸異方性を持つ必要があるが、ネオジム磁石では磁化の主な担い手であるFeの3d電子のスピンの向きがNdの4f電子によって決定されることで達成されると理解されている。まず、ネオジム磁石の主層であるNd2Fe14B相の単位格子は図2(a)のような4分子からなる正方晶系であり、NdとBからなる層とFeからなる層がc軸方向へ交互に積み上がっているような構造である。Nd原子の4f電子は周囲の電荷分布を反映してc軸方向に固定された分布を持ち、電子殻全体の合成軌道角運動量Lと合成スピン角運動量Sで指定されるLS多重項に分裂し、フントの規則にしたがって最大のSとそのSのもとで取りえる最大のLを基底状態とする。さらにスピン軌道相互作用により、全角運動量J(=S+L)を良い量子数とする2J+1の状態に分裂する。図2(b)、(c)に示されるように、Ndのような軽い希土類元素ではJ=|L−S|、すなわちLとSが反平行の状態が基底状態となる。このようにしてNd原子のJはc軸方向を向きLとSが反平行の状態ができる。Nd原子の外殻にある5d、6s電子はフントの規則によりSの方向を向き、交換相互作用によりFeの3d電子のスピンがLの方向を向くこととなる。このためネオジム磁石は結晶のc軸方向に大きな磁気異方性を持つこととなる。
【0025】
ネオジム磁石は他の永久磁石に比べて強い磁力を有している反面、保磁力の温度依存性が大きく、その耐用温度はサマリウムコバルト磁石等の他の永久磁石の耐用温度と比べて低いという欠点がある。ネオジム磁石においては、上述のようにc軸方向への大きな磁気異方性をもつが、熱エネルギーが加わる事によるスピンのゆらぎが発生し、この異方性が崩れるためであるが、実用に供されているネオジム磁石では結晶粒界表面に局所的に存在する異方性の低い部分により理論的に期待される保磁力の数分の1程度しか達成されておらず、これが保磁力を高める上での障害になっているとも考えられている。このため、実用的なネオジム磁石では、ジスプロシウム(Dy)を添加して耐熱性を高めている事が多い。DyはNdの置換位置に入り、Ndよりも大きなc軸方向への異方性を示すため、保磁力を増強することができる。しかし、Dyは重い希土類元素であり、LとSが平行の状態で基底状態を作ってしまう。その結果、図2(d)に示されるように、Feの3d電子のスピンがLと反対の方向を向くこととなる。そのため、Dyを増やすほど磁石自体の磁力が落ちるという欠点がある。
【0026】
このように、ネオジム磁石が熱により減磁しやすいことは、ネオジム磁石が発明された当初からよく知られていたことであるが、最近になって、ネオジム磁石が著しく多量の中性子が照射された場合にも減磁することが明らかになってきた。例えば、電子シンクロトロン加速器から高強度の放射光を取り出すために電子ビームの軌道を蛇行させることが行われているが、この用途に用いられるアンジュレータと呼ばれる装置にも、ネオジム磁石が用いられている。上述のように、電子シンクロトロン加速器の運転に伴っても、中性子が発生することが知られている。そして、アンジュレータなどに用いられているネオジム磁石は、あるしきい値までは中性子が照射されても減磁することはないが、しきい値を超えて著しく大量の中性子が照射された場合に減磁することが明らかになってきた。具体的には、図4に示すように、1cm2あたり約1013〜1016個のあたりを境にして、それ以上の中性子が照射されると、ネオジム磁石は減磁し始める(図4の領域A参照)。1cm2あたり約1016〜1017個の中性子が照射されると、ネオジム磁石はほぼ完全に磁力を失ってしまう。なお、図4において、グラフによってバラツキがあるのは、それぞれわずかに組成の異なるネオジム磁石についての測定が行われているためである。また、ネオジム磁石の減磁は、中性子の照射によって引き起こされることは確認されているが、X線、γ線などの電磁波に対しての耐性は非常に強いことが確認されている。具体的には、Aldermanらの報告(非特許文献3)によれば、280Mrad(=2.8MGy)のX線照射、あるいは、700Mrad(=7MGy)の60Coのγ線照射によっては、測定誤差以上の有意な減磁がみられなかった。そのため、ネオジム磁石の減磁は放射線全般の照射によって引き起こされるわけではなく、特に中性子の過剰照射によって引き起こされると考えられる。そのため、中性子の発生を伴う施設においては、ネオジム磁石に対して必要以上の中性子が照射されることがないように、例えば、必要に応じて中性子の遮蔽を施すなどの工夫がなされてきた。
【0027】
このように、当業者はこれまで、ネオジム磁石に過剰に中性子が照射されないようにして、ネオジム磁石の減磁を防ぐことに専心していた。これに対して、本発明者は、逆に、欠点とされてきた中性子照射によるネオジム磁石の減磁を積極的に利用して、ネオジム磁石の減磁の程度から当該ネオジム磁石に照射された中性子線量を測定することに想到した。
【0028】
具体的には、図4に示されるように、1cm2あたり約1013〜1016個の中性子が照射されるとき、ネオジム磁石に照射された1cm2あたりの中性子の個数に相関して、減磁量が直線的に増加する。そこで、中性子線量検出素子10として用いているネオジム磁石と同一の組成を有するネオジム磁石について、あらかじめ図4のような中性子線量に対する減磁量の関係を調べておけば、中性子線量検出素子10の磁場の強度がどれだけ下がったかを磁場検出ユニット20を用いて測定し、コンピュータ40により磁場検出ユニット20の測定結果を解析することによって、中性子線量検出素子10としてのネオジム磁石に照射された中性子の量を求めることができる。本実施例では、ネオジム磁石のこのような特性に着目して、ネオジム磁石の小片を中性子線量検出素子10として用いている。
【0029】
ここで、ネオジム磁石が中性子線量検出素子10として機能するのは、図4に示される領域Aのように、照射された中性子の量に相関してネオジム磁石が減磁する領域である。以下の説明において、このように照射された中性子線量に相関してネオジム磁石が減磁する中性子線量の範囲のことを中性子有感レンジと呼ぶ。測定対象となる中性子線量が、この中性子有感レンジ内にある場合には、ネオジム磁石をそのまま中性子線量検出素子10として利用することができる。しかしながら、後述するホウ素中性子捕捉療法(BNCT)等においては、1cm2あたり1013個以下における中性子線量の測定が求められている。このように、所望のレンジの中性子線量を測定するためには、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして、中性子線量検出素子10の感度を向上させる必要がある。そこで本発明者は、中性子線量検出素子10の感度を向上させるために鋭意検討を重ねた結果、以下に示すような中性子線量検出素子10の感度調整方法を確立するに至った。
【0030】
ここで、まず、中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石に上述のしきい値を超える量の中性子が照射された場合に、ネオジム磁石が減磁し始めるメカニズムについて考察する。このメカニズムについては未だ明らかではないが、中性子による減磁が発生した場合、再着磁すればもとの磁場強度に復帰することがわかっている。このことから考えると、中性子の照射によって、ネオジム磁石の結晶構造が大きく変化しているわけではないと考えられる。そこで、中性子の照射に伴って、ネオジム磁石内で中性子捕獲反応などの核反応が起こり、その核反応によって解放されたエネルギーが局所的な発熱(スポットヒーティング)を引き起こして、Nd原子の磁気モーメントの整列を崩しているのではないかという説が唱えられている。このようにスポットヒーティングにより減磁が生じるとすると、ネオジム磁石の結晶構造そのものには大きな変化はなく、単にネオジム磁石の内部の磁気モーメントの整列が崩れているだけであると考えられる。そのため、再着磁により磁場強度を復帰させることができると考えられる。
【0031】
ここで、中性子の照射に伴って発生するスポットヒーティングが減磁を引き起こす主要な要因であるとしても、それだけでは、中性子の照射量があるしきい値を超えたときに急に減磁が始まることを説明できない。そこで、本発明者は、スポットヒーティングによる影響、すなわち、Nd原子及びその周囲のFe原子の磁気モーメントの整列の局所的な乱れがネオジム磁石の内部に徐々に蓄積されていき、それがあるしきい値を超えると、ネオジム磁石内部のマクロな磁気モーメントの整列が大きく崩れるのではないかと考えた。
【0032】
さらに本発明者は、Nd原子及びその周囲のFe原子の磁気モーメントの整列の局所的な乱れがネオジム磁石の内部に徐々に蓄積されていくのであれば、このような磁気モーメントの整列の局所的な乱れをあらかじめ人為的に引き起こすことができれば、そこからさらにわずかな量の中性子を照射しただけでネオジム磁石の減磁を引き起こせるのではないかと考えた。
【0033】
<検証実験>
そして、本発明者は鋭意検討の結果、中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石の内部の、磁気モーメントの整列の局所的な乱れをあらかじめ引き起こすための手段の1つとして、中性子線量検出素子10を事前に加熱処理しておくことに想到した。そして、中性子線量検出素子10にあらかじめ加熱処理を行なうことによって、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして中性子線量検出素子10の感度を向上させることができるかどうかについて検証するために、以下のような実験を行った。以下、この検証実験について説明する。
【0034】
図5に検証実験のセットアップの様子を示す。図5に示されるような、中性子照射ブロック100を用意し、これに中性子の照射を行った。中性子照射ブロック100は、縦4mm、横4mm、厚さ2mmの角型のネオジム磁石により構成される中性子線量検出素子10と、中性子線量検出素子10を固定するとともにこれを加熱するヒータ40と、中性子線量検出素子10の温度を測定する熱電対41とを備える。熱電対41は、ヒータ40に通電する不図示の電源ユニットに接続される。電源ユニットは、公知のフィードバック制御により、中性子線量検出素子10の温度が設定温度に保たれるようにヒータ40に通電を行う。なお、本検証実験では、一部の測定において前述のピックアップコイル21等を備えた磁場検出ユニット20に代えて、ホールプローブ26(図5参照)を用いている。
【0035】
上述の中性子照射ブロック100を、不図示の中性子照射ポートに固定して、中性子の照射を行った。検証実験は2回に分けて行われた。1回目の検証実験では、中性子線量検出素子10の温度を60℃に保った状態で、京都大学原子炉実験所にある電子線形加速器(KUR−LINAC)を用いて発生させた熱〜熱外中性子を中性子線量検出素子10に照射した。2回目の検証実験では、中性子線量検出素子10の温度を70℃に保った状態で、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターにあるサイクロトロン加速器(930型サイクロトロン)を用いて発生させた単色の中性子(中性子エネルギー65MeV)を中性子線量検出素子10に照射した。これらの検証実験の結果を図6に示す。図6に示されたグラフは、各設定温度における中性子照射量(1cm2あたりの中性子数)と中性子線量検出素子10の減磁の割合との関係を示している。図6に示されたグラフから、中性子線量検出素子10の温度を60℃、70℃のいずれに設定した場合であっても、1cm2あたり約109〜1010個の中性子が照射されると、減磁が始まっていることが確認できた。
【0036】
図4に示されるように、全く加熱処理をしていない場合には、1cm2あたり約1013〜1016個の中性子を照射しないと減磁し始めなかった。このことと比較すると、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして中性子線量検出素子10の感度を向上させることができたことが分かった。また、熱〜熱外中性子を照射した場合と、エネルギー65MeVの単色中性子を照射した場合で、顕著な差が認められないことから、中性子線量検出素子10は、幅広いエネルギー領域にわたって中性子線量の検出が可能であることも分かった。
【0037】
<第2の検証実験>
このような検証実験から、一定の温度(例えば60℃)に加熱した状態で中性子線量検出素子10に中性子を照射した場合には、1cm2あたり約109〜1010個の中性子が照射されると、減磁が始まることがわかった。しかしながら、中性子線量検出素子10を後に説明するBNCTに応用する際に、中性子線量検出素子10を人体の内部に配置することも考えられるところ、人体の内部で中性子線量検出素子10を前述のように60℃以上の温度に加熱することはできない。そこで本発明者は、事前に中性子線量検出素子10に適当な加熱処理を行なったあと、中性子線量検出素子10が常温に戻った状態で中性子を照射した場合にも、中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことができるかどうかについて確認するために、以下に示す第2の検証実験を行った。
【0038】
第1の検証実験で用いた中性子線量検出素子10と同様サイズの、縦4mm、横4mm、厚さ2mmの角型のネオジム磁石により構成される中性子線量検出素子10を30個用意した。これらを10個ずつ、3つのグループに分けた。第1のグループの中性子線量検出素子10に対しては、83℃で加熱処理を行った。第2のグループの中性子線量検出素子10に対しては、115℃で加熱処理を行った。また、第3のグループの中性子線量検出素子10に対しては、加熱処理を行わなかった。ここで、第1、第2のグループの中性子線量検出素子10に対しては、各設定温度に調整された電気炉に数時間入れておくことにより加熱処理を行った。
【0039】
まず、第1、第2のグループの中性子線量検出素子10に関して、熱処理によりどの程度減磁しているかについての測定を行った。図7に測定結果を示す。図7に示すグラフにおいて、横軸は中性子線量検出素子10の表面における初期の磁場強度を表し、縦軸は、加熱処理後にどの程度減磁したかについての割合を表している。これによると、83℃で熱処理を行った場合には、約2割程度減磁し、115℃で加熱処理を行った場合には、約3割程度減磁したことが分かった。なお、このようにデータがばらついているのは、各中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石として、市販のネオジム磁石を用いているため、各ネオジム磁石間の個体差が大きいためであると考えられる。
【0040】
次に、第1、第2、第3グループの中性子線量検出素子10に熱〜熱外中性子の照射を行った。中性子の照射は、京都大学原子炉実験所の重水施設(BNCT治療施設)で行われた。図8に、重水施設の概略見取り図を示す。中性子は図8の左端の照射ポート201から照射される。照射ポート201から遠ざかる方向にそって、等間隔に10個の照射ポイント(図中黒丸で示された位置)を設定した。各照射ポイントに、それぞれ第1、第2、第3グループの中性子線量検出素子10と、放射化法により照射中性子線量を評価するための金箔とを配置した。
【0041】
図9に測定の結果を示す。図9に示されるグラフの横軸は1cm2あたりの中性子の個数を表し、縦軸は減磁量(kG)を表す。図9に示されるグラフから、加熱処理を行っていない第3グループに関しては、1cm2あたり約1013個以上の中性子が照射されないと減磁が始まらないことがわかる。言い換えると、加熱処理を行っていない第3グループの中性子線量検出素子10は、1cm2あたり約1013個より少ない中性子線量については不感であることが分かる。この結果は、図4に示される中性子線量と減磁量との関係と矛盾するものではない。これに対して、83℃で加熱処理を行った第1グループの中性子線量検出素子10と115℃で加熱処理を行った第2グループの中性子線量検出素子10とは、1cm2あたり約1013個より少ない中性子線量においても減磁が始まっていることがわかった。これにより、事前に加熱処理を行った後、常温に戻した場合であっても、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことができ、これによって、中性子線量検出素子10の感度を向上できることが分かった。
【0042】
以上をまとめると、本発明にかかる中性子線量測定法は、図10(a)に示されるように、ネオジム磁石により構成された中性子線量検出素子10を所定の位置に配置すること(S701)と、所定の位置に配置された中性子線量検出素子10に中性子を照射すること(S702)と、中性子照射中又は中性子照射後に、中性子線量検出素子10の磁場強度を測定すること(S703)と、測定された中性子線量検出素子10の磁場強度の変化から照射された中性子線量を求めること(S704)とを備えている。ここで、中性子線量検出素子10の感度を調整するために、中性子を照射する前に事前に加熱処理を行ってもよく、加熱処理を行いつつ中性子を照射してもよい。また、本発明にかかる中性子線量測定素子の製造方法は、図10(b)に示されるように、所定の方向に磁化された永久磁石を用意すること(S705)と、永久磁石の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことによって、永久磁石の中性子線量検出の感度を調整すること(S706)とを備える。なお、永久磁石の中性子線量検出の感度を調整することは、中性子を照射する前、あるいは、中性子を照射している間に、中性子線量検出素子10を適当な温度(例えば、室温より高く熱減磁開始温度以下の温度(例えば約60℃〜約115℃))に加熱処理することを含んでもよい。これにより、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことができ、中性子線量検出素子10の感度を向上させることができる。ここで、熱減磁開始温度とは、ネオジム磁石などの永久磁石を加熱処理した際に、減磁が始まる温度である。
【0043】
<BNCTへの応用>
上述したように、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして、1cm2あたり約1013個より少ない中性子線量においても中性子線量の測定ができることがわかった。これにより、本発明にかかる中性子検出素子10及びこれを用いた中性子線量計測装置1を、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に対して応用することができると考えられる。以下、本発明の好適な応用例の一例として、BNCTにおける中性子線量の計測について説明する。
【0044】
BNCTとはBoron−Neutron Capture Therapyの略である。BNCTは、腫瘍細胞に取り込まれた質量数10のボロン(10B)と中性子との核反応(10B+n→α+7Li)により発生する高速の粒子線(α線、7Li粒子)によって腫瘍細胞だけを選択的に破壊する治療法である。現在、脳腫瘍、特に悪性神経膠腫や皮膚悪性黒色腫に対して有効な治療法であるとして、研究が進められている。具体的には、10Bを含む化合物を腫瘍細胞に取り込ませた状態で、中性子を照射する。図11に示すように、10Bは熱〜熱外中性子との反応断面積が非常に高く、中性子を捕獲して上述の核反応により高速のα線及び7Li粒子を放出する。これらのα線及び7Li粒子の生体組織内での飛程は、それぞれ約9μm及び約5μmであり、これらの飛程は腫瘍細胞の1個分の大きさに相当する。そのため、腫瘍細胞に取り込まれた10Bに中性子を照射して上記核反応を引き起こすことができれば、上記核反応によって発生する高速のα線及び7Li粒子によって腫瘍細胞を選択的に破壊することができる(図12参照)。
【0045】
従来、BNCTにおいて、患者に対する適切な照射量を確保しつつ不必要な被曝を避けるため、照射する中性子の線量をオンラインでモニターすることが望まれてきた。特に、腫瘍の位置における中性子線量をオンラインでモニターすることが望まれてきた。しかしながら、上述のように、放射化法を用いた中性子線量計測は原理的にオンラインで行うことができず、中性子検出用ガスカウンタを用いた測定では、限られた小さな領域における中性子線量を測定することができないため、腫瘍位置における中性子線量をモニターすることはできなかった。そのため、次善の策として、水又はアクリル製のファントムを作成し、その表面及び内部に金箔などを配置して放射化法により、体外及び体内に相当する位置の中性子線量を測定していた。そして、この結果を基に、実際に患者に中性子を照射した場合に、腫瘍位置にどの程度の中性子が照射されるかを予め検討し、その検討結果に基づいて決定された照射条件に従って中性子の照射を行っていた。そして、実際に患者に中性子を照射する際には、体外線量を金箔などを用いた放射化法により測定し、実際に照射された中性子線量を求めていた。
【0046】
しかしながら、このような方法では、腫瘍位置における実照射量を即時測定することができないという問題があった。例えば、放射化法によって、実際に照射された中性子線量を算出した場合に、予定よりも多くの中性子を照射していたり、予定よりも少ない中性子を照射していたことが分かったとしても、すでに患者に対する照射は終了したあとであるため、この測定結果を患者に対する中性子照射に反映させることはできなかった。また、放射化法によって測定されるのは体外位置における中性子照射量であり、腫瘍位置における実照射量を正確に把握することはできなかった。
【0047】
このような問題を克服するために、腫瘍位置に小型の中性子線量検出素子を配置でき、人体の外側からその中性子線量検出素子からの出力を計測でき、さらに、中性子を照射している間に、オンラインで中性子線量を測定できる中性子線量検出素子の開発が望まれてきた。また、BNCTにおいて患者に照射される中性子線量は、1cm2あたり約1013個以下であるため、このレンジで中性子線量を測定できることが望まれていた。本発明にかかる中性子線量検出素子10は、これらの要請を全て満たしている。つまり、本発明にかかる中性子線量検出素子10は、ネオジム磁石により構成されており、ネオジム磁石の大きさを任意に設定できる。また、中性子線量検出素子10は、電池や高圧電源などを必要としない。そのため、例えば、中性子線量検出素子10の大きさを、5mm角の立方体よりも小さく設定することにより、これを例えば小型のカプセルに封入して、容易に体内の腫瘍の位置に配置することも可能となる。また、中性子線量検出素子10を体内に配置した場合であっても、中性子線量検出素子10からの出力(磁場強度)を、磁場検出ユニット20等を用いて体外から検出することができる。さらに、患者に中性子を照射している間に、オンラインで中性子線量をモニターすることも可能である。また、前述のように、事前に熱処理を施すことによって、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして、1cm2あたり約1013個より少ない中性子線量においても中性子線量の測定ができる。さらに、中性子線量検出素子10は、γ線、X線などの電磁波には不感であるため、中性子線量のみを測定できるという利点も挙げられる。
【0048】
<他の応用例>
次に、本発明にかかる中性子線量検出素子10の他の応用例について検討する。上述のように、中性子線量検出素子10は、任意の大きさ、形状に加工することが可能であり、電源等も必要としない。そのため、中性子線量検出素子10を中性子の発生が予想される施設内で作業に従事する作業従事者が携帯する携帯型中性子線量計として用いることが可能である。この場合において、中性子線量検出素子10に熱処理を加えていない場合、前述のように中性子有感レンジは比較的高線量側(1cm2あたり約1013〜1016個)に位置しており、作業従事者の被曝の観点から妥当でない。そのため、中性子線量検出素子10に予め上述のような熱処理を加えることによって、中性子有感レンジを低線量側にずらしておくことが望ましい。また、携帯型中性子線量計は、例えば小型のホールプローブのような磁場測定素子と組み合わせることによって、リアルタイムで中性子線量を計測できるように構成されていてもよい。あるいは、作業者が携帯する携帯型中性子線量計には、中性子線量検出素子10が組み込まれ、磁場の強度を検出する磁場検出ユニットは携帯型中性子線量計と独立に設けられていてもよい。
【0049】
また、本発明にかかる中性子線量検出素子10は、所定のしきい値を越える線量の中性子が照射されると、減磁するものであるので、この性質をリミットスイッチに応用することもできる。図13に示すように、リミットスイッチ300は、中性子線量検出素子10と、中性子線量検出素子10に対向して配置された鉄片301と、鉄片301に対して中性子線量検出素子10から引き離す方向に力を加えるコイルバネ302と、鉄片301が中性子線量検出素子10の表面に位置しているか、表面から外れているかに応じて開閉するスイッチ303とを主に備える。ここで、コイルバネ302は、中性子線量検出素子10の磁力がある下限値を下回って減磁した場合には、鉄片301を中性子線量検出装置10から引き離すことができる程度の強さに調整されている。この場合において、照射された中性子線量が所定のしきい値よりも少ない場合には、中性子線量検出素子10は減磁しないため、鉄片301は中性子線量検出装置10に引き寄せられた状態で維持される。しかしながら、所定のしきい値を越える中性子線量が照射された場合には、中性子線量検出素子10は減磁しはじめ、その磁力が所定の下限値を下回った場合には、コイルバネ302が中性子線量検出素子10の磁力に打ち勝って鉄片301を中性子線量検出素子10から引き離す。これに連動して、スイッチ303が開状態から閉状態(あるいは閉状態から開状態)に移行する。このように、本発明にかかる中性子線量検出素子10を中性子線量に応じて開閉するリミットスイッチに応用することができる。
【0050】
上述の説明において、中性子線量検出素子10の感度を調整するために、中性子線量検出素子10に対して予め加熱処理を行うこと、又は中性子照射中に加熱処理を行うことが示されてきた。しかしながら、本発明はこれには限られず、他の方法により中性子線量検出素子10の感度を調整することができる。例えば、中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石は、前述のようにボロンを含有している。天然に存在するボロンには、質量数11のボロン(11B)と10Bとが含まれる。10Bの天然同位体存在比は約20%程度であるため、ネオジム磁石を構成するボロンのうち、約20%は10Bであると考えられる。ここで、11Bは中性子とほとんど反応しないが、上述のように、10Bは熱〜熱外中性子の捕獲断面積が非常に大きく、中性子を捕獲することにより、高速のα線及び7Li粒子を放出する。これらのα線及び7Li粒子は周囲にエネルギーを与えつつ静止するため、上述のスポットヒーティングの大きな原因となっていると考えられる。発明者の知見によれば、中性子線量検出素子10に加熱処理を行うことに代えて、あるいは、加熱処理に加えて、中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石に含有されるボロンにおける10Bを天然同位体比と異なる割合になるように調整することによっても、中性子線量検出素子10の感度を調整することができると考えられる。この場合において、中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石に含有されるボロンにおける10Bの割合を高くすることによって、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして、中性子線量検出素子10の感度を向上させることができると考えられる。
【0051】
なお、本発明は、ネオジム磁石中の10Bを天然同位体比と異なる割合になるように調整することに限られず、中性子線量検出素子10を構成する元素の少なくとも1つの元素について、天然同位体比と異なる割合となるように同位体比を調整してもよい。また、中性子線量検出素子10の感度を調整するために、中性子線量検出素子10に対して予め又は中性子照射中に加熱処理を行うことと、中性子線量検出素子10を構成する元素の少なくとも1つの元素について、天然同位体比と異なる割合となるように同位体比を調整することとを組み合わせて実施してもよい。
【0052】
なお、上述の説明において、中性子線量検出素子10として、角型のネオジム磁石を例に挙げてきたが、本発明はこれには限られず、任意の形状のネオジム磁石を用いることができる。また、中性子線量検出素子10の磁場強度を計測するための磁場測定装置は上述の例に限られず、任意の磁場測定装置を用いることができる。また、中性子線量検出素子10の用途として、BNCTにおける実線量の即時測定のための線量計、携帯型中性子線量計及びリミットスイッチを挙げてきたが、本発明の中性子線量検出素子の用途はこれに限られず、種々の用途に用いることが可能である。また、上述の説明において、中性子線量検出素子10に対して、室温より高く熱減磁開始温度以下の温度範囲(例えば、約60℃〜約115℃)で加熱処理を行っていたが、本発明はこれには限られず、室温よりも高い温度であって、完全に減磁してしまわない範囲の温度(少なくともキュリー点(約310℃)以下の温度)であれば加熱処理を行うことが可能である。
【0053】
また、上述の説明において、中性子線量検出素子10として、ネオジム磁石を例に挙げてきたが、本発明は必ずしもネオジム磁石に限られるものではない。図4に示されるように、サマリウムコバルト磁石も比較的高い線量の中性子(1cm2あたり約1019〜1020個)が照射されると減磁することがわかっている。そのため、本発明の本旨に従って、サマリウムコバルト磁石を中性子線量検出素子として応用することもできる。また、その他の永久磁石も中性子の照射によって減磁する場合には、本発明の本旨に従ってこれを中性子線量検出素子として応用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、小型のネオジム磁石を用いた中性子線量検出素子であって、1cm2あたり1013個以下における中性子線量の測定が可能な中性子線量検出素子を製造することができる。これをBNCTに応用すれば、腫瘍位置における実照射線量を即時計測することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 中性子線量計測装置
10 中性子線量検出素子
20 磁場検出ユニット
23 駆動機構
30 コントローラー
40 コンピュータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子の線量計測に用いる中性子線量計測素子の製造方法、中性子線量計測方法、及び、中性子線量計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉等を有する原子力関連施設(例えば原子力発電所等)、陽電子断層撮影(PET)のための放射性薬剤を合成するために用いられる医療用サイクロトロンのような荷電粒子加速器を有する加速器施設等においては、原子炉又は加速器を運転する際に不可避的に中性子が発生することが知られている。そこで、このような中性子が発生する施設においては、近隣施設への中性子漏れを防ぐ観点、及び、作業従事者の中性子による被曝を避ける観点などから、当該施設において発生する中性子の線量測定が行なわれている。
【0003】
中性子の線量を測定するための方法として、いくつかの方法が開発されてきたが、一般的には、放射化法を用いた中性子線量測定、及び、中性子に対して核反応断面積の大きい質量数3のヘリウム(3He)ガスを単一又は他のガスと混合して封入した中性子検出用ガスカウンタを用いた測定等が行われている。
【0004】
まず、放射化法について説明する。放射化法とは、中性子を照射された物体が放射能を有する放射性物質になることを利用して、物体に照射された中性子の線量を求める方法である。ここで、物体に中性子が照射された場合、物体を構成する元素の原子核の一部が中性子を捕獲する等の原子核反応を起こすことにより、放射性同位体となることが知られている。また、生成される放射性同位体の数は、物体に照射された中性子の線量及び物体を構成する元素と中性子との核反応断面積に依存することが知られている。生成された放射性同位体の数は、当該放射性同位体から放出される特有の放射線を計測することによって求めることができる。そのため、物体を構成する元素の中性子反応断面積があらかじめ実験などによってわかっている場合には、生成された放射性同位体の数を測定することによって、物体に照射された中性子の線量を求めることができる。
【0005】
放射化法による中性子線量の測定には、中性子を照射する照射体として金薄膜が用いられることが多い。天然の金は質量数197の金の同位体(197Au)のみを含んでおり、これが中性子を捕獲すると質量数198の金の同位体(198Au)が生成される。198Auは不安定であるため、ベータ線、ガンマ線などの放射線を放出しつつ、半減期約2.7日で安定な同位体である質量数198の水銀の同位体(198Hg)へと崩壊する。ここで、197Auの天然同位体存在比は100%であるため、金薄膜が中性子により放射化された場合に、198Au以外の放射性同位元素が生成されることはない。また、197Auの中性子吸収断面積は種々の実験により既知であるので、198Auが198Hgに崩壊する際に放出されるベータ線及び又はガンマ線を測定することによって、金薄膜に照射された中性子の線量を求めることができる。
【0006】
次に、中性子検出用ガスカウンタについて説明する。例えば、特許文献1に記載の中性子検出用ガスカウンタには、中性子との核反応断面積が大きい3Heガスが単一で、又は他のガスと混合されて封入されている。また、ガスカウンタには、ガスカウンタの内部で発生した電荷をガス増幅させつつ収集するための電極対が設けられており、これらの電極対には所定の電圧が印加されている。ここで、3Heに中性子が衝突した場合、3He+n→p+tで表される核反応が起こり、高速で飛翔するp、tが放出されることが知られている。ここで、n、p、tはそれぞれ、中性子、陽子、3重陽子(質量数3の水素)である。中性子は電荷を有していないため、たとえ中性子がガスカウンタの内部を飛翔したとしてもガスカウンタに封入されたガスがイオン化されることはなく、ガスカウンタの内部には電荷は発生しない。しかしながら、上述の核反応により、荷電粒子であるp、tが発生した場合には、これらがガスカウンタの内部を高速で飛翔する際に、ガスカウンタに封入されたガスをイオン化するため、ガスカウンタの内部には電荷が発生する。これらの電荷は、上述の電極対に印加された電圧に起因する電場に沿って電極対に向かって加速されつつ移動する。この際に、加速された電荷がさらにガスをイオン化して電荷を発生させるため、雪崩式に電荷が増幅される。このようにして増幅された電荷を電気信号として検出することにより、中性子を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−062360号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日立金属株式会社 NEOMAX(登録商標) MAGNET 製品カタログ P.3〜4 2009年4月
【非特許文献2】足立吟也編著、「希土類の科学」、化学同人、P.606
【非特許文献3】J. Alderman, P.K. Job, R.C. Martin, C.M. Simmons and G.D. Owen, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 481 (2002) 9
【非特許文献4】X.−M. Marechal, T. Bizen, Y. Asano and H. Kitamura, Proceedings of EPAC 2006, p. 3116 − 3118., Edinburgh, Scotland, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
放射化法を用いた中性子線量測定においては、金の薄膜などの照射体の大きさを比較的自由に設定することができる。そのため、例えば空間的に限られた領域における中性子線量を測定したい場合などには、その領域に応じて、適当な大きさの1又は複数の照射体を用意すればよい。しかしながら、放射化法を用いた中性子線量測定においては、中性子を照射体に一定時間照射し、その後、中性子の照射により生成された放射性同位元素の数を測定する必要があるため、中性子の線量をリアルタイムで測定することができない。そのため、例えば、中性子による被曝の可能性のある場所で作業する作業従事者が、その場所における現在の中性子の線量を測定したいと考えたとしても、放射化法を用いた中性子線量測定を用いて中性子線量を測定することはできない。これに対して、中性子検出用ガスカウンタを用いた測定では、リアルタイムで中性子線量を測定することが可能である。しかしながら、中性子線量を精度よく測定するためには、3Heガスを封入しているガスチャンバーのサイズを大きくする必要がある。さらに、中性子検出用ガスカウンタを用いた測定では、電極対に高電圧を印加するための高電圧電源、及び、電離された電荷による信号をノイズ信号と分離しつつ取り出すためのノイズフィルター、波高分別回路等の専用の電子回路が必要となる。このように、大型のガスチャンバーが必要であることに加えて、上述のような高圧電源や専用電子回路も必要となるため、中性子検出用ガスカウンタは必然的に大型の装置となり、携帯性、取り扱いの利便性等に問題がある。また、空間的に限られた領域における中性子線量の測定は、ガスチェンバーの大きさにより制限されることになる。
【0010】
これに対して、本発明者は、全く新しいアプローチとして、後述のような永久磁石を利用した中性子線量検出素子を用いた中性子線量の測定方法を提案しており、これに関連して、独自の中性子線量検出素子の感度調整方法を開発して本発明に至った。本発明の目的は、中性子線量をリアルタイムで検出できるとともに、任意の大きさの領域における中性子線量の測定が可能である中性子線量検出素子の製造方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、前記中性子線量計測方法、及び前記中性子線量計測システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様に従えば、中性子の線量測定に用いられる中性子線量検出素子の製造方法であって、
中性子線量検出素子となる、所定の方向に磁化された永久磁石を用意する工程と、
前記永久磁石の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことによって、前記永久磁石の中性子線量検出の感度を調整する感度調整工程とを備えることを特徴とする中性子線量検出素子の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の中性子線量検出素子の製造方法によれば、永久磁石の中性子有感レンジを、低中性子線量側にずらすように感度調整を行っているので、所望の中性子線量のレンジにおいて測定が可能な中性子線量検出素子を製造することができる。ここで、中性子有感レンジとは、照射された中性子線量に相関して永久磁石が減磁する中性子線量の範囲のことである。例えば、後述のように、感度調整がなされていないネオジム磁石では、1cm2あたり約1013〜1016個の中性子が照射された場合に、照射された中性子線量に相関して減磁する。この場合においては、この範囲の中性子線量が中性子有感レンジに相当する。
【0013】
本発明の中性子線量検出素子の製造方法では、前記感度調整工程において、前記永久磁石を室温(常温)よりも高く、前記永久磁石のキュリー点よりも低い所定の温度まで加熱してもよい。この場合には、永久磁石に加熱処理を行うことにより、中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことができる。これにより、所望の中性子線量において有感な中性子線量検出素子を製造することができる。
【0014】
本発明の中性子線量検出素子の製造方法では、前記感度調整工程において、前記永久磁石に含まれる元素のうち、少なくとも1つの元素について、天然同位体比と異なる割合となるように同位体比を調整してもよい。この場合には、ある元素の同位体の組成比を天然同位体比と異なるように調整することにより、中性子と当該元素の同位体とが核反応を起こす割合を調整することができる。これにより、中性子との核反応に伴って永久磁石の内部で発生する熱量を調整することが可能となり、所望の中性子線量において有感な中性子線量検出素子を製造することができる。
【0015】
本発明の中性子線量検出素子の製造方法において、前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であってもよく、前記感度調整工程において、ネオジム磁石を室温よりも高く、熱減磁開始温度以下の温度まで加熱してもよい。あるいは、前記感度調整工程において、ネオジム磁石を60℃〜115℃の温度まで加熱してもよい。また、前記感度調整工程において、質量数10のホウ素の同位対比が天然同位体比と異なる割合となるように調整してもよい。ここで、熱減磁開始温度とは、後述するように、ネオジム磁石などの永久磁石を加熱処理した際に、減磁が始まる温度である。なお、熱減磁開始温度以下の温度まで加熱してもよいという表現は、熱減磁開始温度前後の温度まで加熱してもよいという意味を含んでいる。
【0016】
本発明の第2の態様に従えば、中性子の線量を計測する方法であって、
永久磁石によって構成された中性子線量検出素子を所定の位置に配置する配置工程と、
中性子線量検出素子に中性子を照射する中性子照射工程と、
中性子線量検出素子の磁場強度を測定する磁場強度測定工程と、
磁場強度測定工程において測定された磁場強度に基づいて、中性子照射工程において前記中性子線量検出素子に照射された中性子線量を導出する中性子線量導出工程とを備えることを特徴とする中性子線量計測方法が提供される。
【0017】
本発明の第3の態様に従えば、中性子の線量を計測する中性子線量計測システムであって、
永久磁石により構成された中性子線量検出素子と、
前記中性子検出素子の磁場強度を測定する磁場測定機構と、
前記磁場測定機構により測定された磁場強度に基づいて、中性子線量検出素子に照射された中性子の線量を導出する中性子線量導出機構とを備えることを特徴とする中性子線量計測システムが提供される。
【0018】
いずれの場合にも、永久磁石によって構成された中性子線量検出素子の大きさを任意に調整できるため、所望の位置における中性子線量の計測が可能となる。また、中性子線量検出素子の磁場強度は、中性子線量検出素子に中性子を照射している間にも測定することができるため、中性子照射中の即時計測が可能となる。
【0019】
本発明の中性子線量計測システムにおいて、前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であって、且つ、5mm角の立方体よりも小さくてもよく、前記中性子線量検出素子は、前記ネオジム磁石を覆うカプセルを含んでもよい。この場合には、例えば後述するBNCTにおいて、腫瘍の位置における中性子照射線量を即時測定するために、腫瘍位置に中性子線量検出素子を配置することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、所望の中性子線量のレンジにおいて中性子に対して有感でありながら、γ線、X線などの電磁波に対しては不感な中性子線量検出素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は中性子線量計測装置1の概略図である。
【図2】図2(a)はネオジム磁石の結晶構造を示す図であり、図2(b)はネオジム原子及び鉄原子の磁気モーメントの整列の様子を示す図であり、図2(c)及び図2(d)は、それぞれ、軽い希土類イオンと重い希土類イオンにおける希土類イオンと遷移金属イオンとの相互作用を示す図である。なお、図2(a)は非特許文献1からの抜粋であり、図2(b)はhttp://www.spring8.or.jp/ext/ja/iuss/htm/text/06file/adv_mag_mat−2/suzuki.pdfの第17ページ目からの抜粋であり、図2(c)及び図2(d)は非特許文献2からの抜粋である。
【図3】図3は各種永久磁石の磁場強度を表す図である(非特許文献1より抜粋)。
【図4】図4は、中性子照射線量に対するネオジム磁石及びサマリウムコバルト磁石の減磁の割合を示すグラフである(非特許文献4より抜粋)。
【図5】図5は、検証実験のセットアップの様子を示す図である。
【図6】図6は、検証実験の結果を示すグラフであって、各設定温度における中性子フルエンス(1cm2あたりの中性子数)と中性子線量検出素子10の減磁の割合との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、第2の検証実験における加熱処理後の磁場強度測定結果を示すグラフである。
【図8】図8は、第2の検証実験を行った重水施設の概略見取り図である。
【図9】図9は、第2の検証実験の測定結果であり、横軸は中性子フルエンス(1cm2あたりの中性子の個数)を表し、縦軸は減磁量(kG)を表す。
【図10】図10(a)は本発明にかかる中性子線量測定方法を示すフローチャートであり、図10(b)は本発明にかかる中性子線量検出素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図11】図11は、10Bの中性反応断面積を示すグラフである。
【図12】図12は、BNCTの概要を説明する図である。
【図13】図13は、リミットスイッチ300の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<中性子線量計測装置1>
本発明に係る中性子線量計測システムとして、中性子線量計測装置1を例に挙げて説明する。図1に中性子線量計測装置1の概略図を示す。中性子線量計測装置1は、中性子線量をリアルタイムで計測するための装置であり、ネオジム系希土類永久磁石により構成された中性子線量検出素子10と、中性子線量検出素子10の磁力の強さを検出する磁場検出ユニット20と、磁場検出ユニット20を制御するコントローラ30と、磁場検出ユニット20の出力を処理して中性子線量を導出するコンピュータ40とを主に備える。磁場検出ユニット20は、ピックアップコイル21と、モータ22と、モータ22に連結されてピックアップコイル21にモータ22の駆動力を伝達してピックアップコイル21を所定の方向に往復移動させる駆動機構23とを有する。後述のように、あるしきい値以上の中性子が中性子線量検出素子10に照射されると、照射された中性子の線量に応じて中性子線量検出素子10が減磁する。このときの中性子線量検出素子10の磁力の強さをピックアップコイル21により検出する。具体的には、駆動機構23により、ピックアップコイル21は中性子検出装置10に近づく向き及び遠ざかる向きに往復移動させる。このピックアップコイル21の往復移動に伴って、ピックアップコイル21を通過する磁束密度が時間的に変化するため、ピックアップコイル21には誘導起電力が発生する。この誘導起電力の大きさは、ピックアップコイル21を横切る磁束密度の、単位時間あたりの変化量に依存している。そのため、中性子線量検出素子10の磁場の強さが一定である間は、ピックアップコイル21に発生する誘導起電力の大きさも一定であるが、中性子線量検出素子10が減磁すれば、ピックアップコイル21に発生する誘導起電力の大きさが小さくなる。このようにして、ピックアップコイル21を所定方向に移動させつつ、発生する誘導起電力の大きさを測定することによって、中性子線量検出素子10の磁場の強さを測定することができる。
【0023】
<中性子線量検出素子10>
次に、中性子線量検出素子10について説明する。中性子線量検出素子10は、NEOMAX(登録商標)等のネオジム系希土類永久磁石(以下、ネオジム磁石と呼ぶ)により構成されている。ネオジム磁石は、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ボロン(B)を主成分とする、ネオジム・鉄・ボロン系焼結磁石である。その主相はNd2Fe14Bであり、図2(a)に示されるような結晶構造を有している。また、図3に示されるように、ネオジム磁石は、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石などの他の永久磁石と比べて、格段に強い磁力を有していることが知られている。
【0024】
良い永久磁石は大きな一軸異方性を持つ必要があるが、ネオジム磁石では磁化の主な担い手であるFeの3d電子のスピンの向きがNdの4f電子によって決定されることで達成されると理解されている。まず、ネオジム磁石の主層であるNd2Fe14B相の単位格子は図2(a)のような4分子からなる正方晶系であり、NdとBからなる層とFeからなる層がc軸方向へ交互に積み上がっているような構造である。Nd原子の4f電子は周囲の電荷分布を反映してc軸方向に固定された分布を持ち、電子殻全体の合成軌道角運動量Lと合成スピン角運動量Sで指定されるLS多重項に分裂し、フントの規則にしたがって最大のSとそのSのもとで取りえる最大のLを基底状態とする。さらにスピン軌道相互作用により、全角運動量J(=S+L)を良い量子数とする2J+1の状態に分裂する。図2(b)、(c)に示されるように、Ndのような軽い希土類元素ではJ=|L−S|、すなわちLとSが反平行の状態が基底状態となる。このようにしてNd原子のJはc軸方向を向きLとSが反平行の状態ができる。Nd原子の外殻にある5d、6s電子はフントの規則によりSの方向を向き、交換相互作用によりFeの3d電子のスピンがLの方向を向くこととなる。このためネオジム磁石は結晶のc軸方向に大きな磁気異方性を持つこととなる。
【0025】
ネオジム磁石は他の永久磁石に比べて強い磁力を有している反面、保磁力の温度依存性が大きく、その耐用温度はサマリウムコバルト磁石等の他の永久磁石の耐用温度と比べて低いという欠点がある。ネオジム磁石においては、上述のようにc軸方向への大きな磁気異方性をもつが、熱エネルギーが加わる事によるスピンのゆらぎが発生し、この異方性が崩れるためであるが、実用に供されているネオジム磁石では結晶粒界表面に局所的に存在する異方性の低い部分により理論的に期待される保磁力の数分の1程度しか達成されておらず、これが保磁力を高める上での障害になっているとも考えられている。このため、実用的なネオジム磁石では、ジスプロシウム(Dy)を添加して耐熱性を高めている事が多い。DyはNdの置換位置に入り、Ndよりも大きなc軸方向への異方性を示すため、保磁力を増強することができる。しかし、Dyは重い希土類元素であり、LとSが平行の状態で基底状態を作ってしまう。その結果、図2(d)に示されるように、Feの3d電子のスピンがLと反対の方向を向くこととなる。そのため、Dyを増やすほど磁石自体の磁力が落ちるという欠点がある。
【0026】
このように、ネオジム磁石が熱により減磁しやすいことは、ネオジム磁石が発明された当初からよく知られていたことであるが、最近になって、ネオジム磁石が著しく多量の中性子が照射された場合にも減磁することが明らかになってきた。例えば、電子シンクロトロン加速器から高強度の放射光を取り出すために電子ビームの軌道を蛇行させることが行われているが、この用途に用いられるアンジュレータと呼ばれる装置にも、ネオジム磁石が用いられている。上述のように、電子シンクロトロン加速器の運転に伴っても、中性子が発生することが知られている。そして、アンジュレータなどに用いられているネオジム磁石は、あるしきい値までは中性子が照射されても減磁することはないが、しきい値を超えて著しく大量の中性子が照射された場合に減磁することが明らかになってきた。具体的には、図4に示すように、1cm2あたり約1013〜1016個のあたりを境にして、それ以上の中性子が照射されると、ネオジム磁石は減磁し始める(図4の領域A参照)。1cm2あたり約1016〜1017個の中性子が照射されると、ネオジム磁石はほぼ完全に磁力を失ってしまう。なお、図4において、グラフによってバラツキがあるのは、それぞれわずかに組成の異なるネオジム磁石についての測定が行われているためである。また、ネオジム磁石の減磁は、中性子の照射によって引き起こされることは確認されているが、X線、γ線などの電磁波に対しての耐性は非常に強いことが確認されている。具体的には、Aldermanらの報告(非特許文献3)によれば、280Mrad(=2.8MGy)のX線照射、あるいは、700Mrad(=7MGy)の60Coのγ線照射によっては、測定誤差以上の有意な減磁がみられなかった。そのため、ネオジム磁石の減磁は放射線全般の照射によって引き起こされるわけではなく、特に中性子の過剰照射によって引き起こされると考えられる。そのため、中性子の発生を伴う施設においては、ネオジム磁石に対して必要以上の中性子が照射されることがないように、例えば、必要に応じて中性子の遮蔽を施すなどの工夫がなされてきた。
【0027】
このように、当業者はこれまで、ネオジム磁石に過剰に中性子が照射されないようにして、ネオジム磁石の減磁を防ぐことに専心していた。これに対して、本発明者は、逆に、欠点とされてきた中性子照射によるネオジム磁石の減磁を積極的に利用して、ネオジム磁石の減磁の程度から当該ネオジム磁石に照射された中性子線量を測定することに想到した。
【0028】
具体的には、図4に示されるように、1cm2あたり約1013〜1016個の中性子が照射されるとき、ネオジム磁石に照射された1cm2あたりの中性子の個数に相関して、減磁量が直線的に増加する。そこで、中性子線量検出素子10として用いているネオジム磁石と同一の組成を有するネオジム磁石について、あらかじめ図4のような中性子線量に対する減磁量の関係を調べておけば、中性子線量検出素子10の磁場の強度がどれだけ下がったかを磁場検出ユニット20を用いて測定し、コンピュータ40により磁場検出ユニット20の測定結果を解析することによって、中性子線量検出素子10としてのネオジム磁石に照射された中性子の量を求めることができる。本実施例では、ネオジム磁石のこのような特性に着目して、ネオジム磁石の小片を中性子線量検出素子10として用いている。
【0029】
ここで、ネオジム磁石が中性子線量検出素子10として機能するのは、図4に示される領域Aのように、照射された中性子の量に相関してネオジム磁石が減磁する領域である。以下の説明において、このように照射された中性子線量に相関してネオジム磁石が減磁する中性子線量の範囲のことを中性子有感レンジと呼ぶ。測定対象となる中性子線量が、この中性子有感レンジ内にある場合には、ネオジム磁石をそのまま中性子線量検出素子10として利用することができる。しかしながら、後述するホウ素中性子捕捉療法(BNCT)等においては、1cm2あたり1013個以下における中性子線量の測定が求められている。このように、所望のレンジの中性子線量を測定するためには、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして、中性子線量検出素子10の感度を向上させる必要がある。そこで本発明者は、中性子線量検出素子10の感度を向上させるために鋭意検討を重ねた結果、以下に示すような中性子線量検出素子10の感度調整方法を確立するに至った。
【0030】
ここで、まず、中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石に上述のしきい値を超える量の中性子が照射された場合に、ネオジム磁石が減磁し始めるメカニズムについて考察する。このメカニズムについては未だ明らかではないが、中性子による減磁が発生した場合、再着磁すればもとの磁場強度に復帰することがわかっている。このことから考えると、中性子の照射によって、ネオジム磁石の結晶構造が大きく変化しているわけではないと考えられる。そこで、中性子の照射に伴って、ネオジム磁石内で中性子捕獲反応などの核反応が起こり、その核反応によって解放されたエネルギーが局所的な発熱(スポットヒーティング)を引き起こして、Nd原子の磁気モーメントの整列を崩しているのではないかという説が唱えられている。このようにスポットヒーティングにより減磁が生じるとすると、ネオジム磁石の結晶構造そのものには大きな変化はなく、単にネオジム磁石の内部の磁気モーメントの整列が崩れているだけであると考えられる。そのため、再着磁により磁場強度を復帰させることができると考えられる。
【0031】
ここで、中性子の照射に伴って発生するスポットヒーティングが減磁を引き起こす主要な要因であるとしても、それだけでは、中性子の照射量があるしきい値を超えたときに急に減磁が始まることを説明できない。そこで、本発明者は、スポットヒーティングによる影響、すなわち、Nd原子及びその周囲のFe原子の磁気モーメントの整列の局所的な乱れがネオジム磁石の内部に徐々に蓄積されていき、それがあるしきい値を超えると、ネオジム磁石内部のマクロな磁気モーメントの整列が大きく崩れるのではないかと考えた。
【0032】
さらに本発明者は、Nd原子及びその周囲のFe原子の磁気モーメントの整列の局所的な乱れがネオジム磁石の内部に徐々に蓄積されていくのであれば、このような磁気モーメントの整列の局所的な乱れをあらかじめ人為的に引き起こすことができれば、そこからさらにわずかな量の中性子を照射しただけでネオジム磁石の減磁を引き起こせるのではないかと考えた。
【0033】
<検証実験>
そして、本発明者は鋭意検討の結果、中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石の内部の、磁気モーメントの整列の局所的な乱れをあらかじめ引き起こすための手段の1つとして、中性子線量検出素子10を事前に加熱処理しておくことに想到した。そして、中性子線量検出素子10にあらかじめ加熱処理を行なうことによって、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして中性子線量検出素子10の感度を向上させることができるかどうかについて検証するために、以下のような実験を行った。以下、この検証実験について説明する。
【0034】
図5に検証実験のセットアップの様子を示す。図5に示されるような、中性子照射ブロック100を用意し、これに中性子の照射を行った。中性子照射ブロック100は、縦4mm、横4mm、厚さ2mmの角型のネオジム磁石により構成される中性子線量検出素子10と、中性子線量検出素子10を固定するとともにこれを加熱するヒータ40と、中性子線量検出素子10の温度を測定する熱電対41とを備える。熱電対41は、ヒータ40に通電する不図示の電源ユニットに接続される。電源ユニットは、公知のフィードバック制御により、中性子線量検出素子10の温度が設定温度に保たれるようにヒータ40に通電を行う。なお、本検証実験では、一部の測定において前述のピックアップコイル21等を備えた磁場検出ユニット20に代えて、ホールプローブ26(図5参照)を用いている。
【0035】
上述の中性子照射ブロック100を、不図示の中性子照射ポートに固定して、中性子の照射を行った。検証実験は2回に分けて行われた。1回目の検証実験では、中性子線量検出素子10の温度を60℃に保った状態で、京都大学原子炉実験所にある電子線形加速器(KUR−LINAC)を用いて発生させた熱〜熱外中性子を中性子線量検出素子10に照射した。2回目の検証実験では、中性子線量検出素子10の温度を70℃に保った状態で、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターにあるサイクロトロン加速器(930型サイクロトロン)を用いて発生させた単色の中性子(中性子エネルギー65MeV)を中性子線量検出素子10に照射した。これらの検証実験の結果を図6に示す。図6に示されたグラフは、各設定温度における中性子照射量(1cm2あたりの中性子数)と中性子線量検出素子10の減磁の割合との関係を示している。図6に示されたグラフから、中性子線量検出素子10の温度を60℃、70℃のいずれに設定した場合であっても、1cm2あたり約109〜1010個の中性子が照射されると、減磁が始まっていることが確認できた。
【0036】
図4に示されるように、全く加熱処理をしていない場合には、1cm2あたり約1013〜1016個の中性子を照射しないと減磁し始めなかった。このことと比較すると、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして中性子線量検出素子10の感度を向上させることができたことが分かった。また、熱〜熱外中性子を照射した場合と、エネルギー65MeVの単色中性子を照射した場合で、顕著な差が認められないことから、中性子線量検出素子10は、幅広いエネルギー領域にわたって中性子線量の検出が可能であることも分かった。
【0037】
<第2の検証実験>
このような検証実験から、一定の温度(例えば60℃)に加熱した状態で中性子線量検出素子10に中性子を照射した場合には、1cm2あたり約109〜1010個の中性子が照射されると、減磁が始まることがわかった。しかしながら、中性子線量検出素子10を後に説明するBNCTに応用する際に、中性子線量検出素子10を人体の内部に配置することも考えられるところ、人体の内部で中性子線量検出素子10を前述のように60℃以上の温度に加熱することはできない。そこで本発明者は、事前に中性子線量検出素子10に適当な加熱処理を行なったあと、中性子線量検出素子10が常温に戻った状態で中性子を照射した場合にも、中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことができるかどうかについて確認するために、以下に示す第2の検証実験を行った。
【0038】
第1の検証実験で用いた中性子線量検出素子10と同様サイズの、縦4mm、横4mm、厚さ2mmの角型のネオジム磁石により構成される中性子線量検出素子10を30個用意した。これらを10個ずつ、3つのグループに分けた。第1のグループの中性子線量検出素子10に対しては、83℃で加熱処理を行った。第2のグループの中性子線量検出素子10に対しては、115℃で加熱処理を行った。また、第3のグループの中性子線量検出素子10に対しては、加熱処理を行わなかった。ここで、第1、第2のグループの中性子線量検出素子10に対しては、各設定温度に調整された電気炉に数時間入れておくことにより加熱処理を行った。
【0039】
まず、第1、第2のグループの中性子線量検出素子10に関して、熱処理によりどの程度減磁しているかについての測定を行った。図7に測定結果を示す。図7に示すグラフにおいて、横軸は中性子線量検出素子10の表面における初期の磁場強度を表し、縦軸は、加熱処理後にどの程度減磁したかについての割合を表している。これによると、83℃で熱処理を行った場合には、約2割程度減磁し、115℃で加熱処理を行った場合には、約3割程度減磁したことが分かった。なお、このようにデータがばらついているのは、各中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石として、市販のネオジム磁石を用いているため、各ネオジム磁石間の個体差が大きいためであると考えられる。
【0040】
次に、第1、第2、第3グループの中性子線量検出素子10に熱〜熱外中性子の照射を行った。中性子の照射は、京都大学原子炉実験所の重水施設(BNCT治療施設)で行われた。図8に、重水施設の概略見取り図を示す。中性子は図8の左端の照射ポート201から照射される。照射ポート201から遠ざかる方向にそって、等間隔に10個の照射ポイント(図中黒丸で示された位置)を設定した。各照射ポイントに、それぞれ第1、第2、第3グループの中性子線量検出素子10と、放射化法により照射中性子線量を評価するための金箔とを配置した。
【0041】
図9に測定の結果を示す。図9に示されるグラフの横軸は1cm2あたりの中性子の個数を表し、縦軸は減磁量(kG)を表す。図9に示されるグラフから、加熱処理を行っていない第3グループに関しては、1cm2あたり約1013個以上の中性子が照射されないと減磁が始まらないことがわかる。言い換えると、加熱処理を行っていない第3グループの中性子線量検出素子10は、1cm2あたり約1013個より少ない中性子線量については不感であることが分かる。この結果は、図4に示される中性子線量と減磁量との関係と矛盾するものではない。これに対して、83℃で加熱処理を行った第1グループの中性子線量検出素子10と115℃で加熱処理を行った第2グループの中性子線量検出素子10とは、1cm2あたり約1013個より少ない中性子線量においても減磁が始まっていることがわかった。これにより、事前に加熱処理を行った後、常温に戻した場合であっても、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことができ、これによって、中性子線量検出素子10の感度を向上できることが分かった。
【0042】
以上をまとめると、本発明にかかる中性子線量測定法は、図10(a)に示されるように、ネオジム磁石により構成された中性子線量検出素子10を所定の位置に配置すること(S701)と、所定の位置に配置された中性子線量検出素子10に中性子を照射すること(S702)と、中性子照射中又は中性子照射後に、中性子線量検出素子10の磁場強度を測定すること(S703)と、測定された中性子線量検出素子10の磁場強度の変化から照射された中性子線量を求めること(S704)とを備えている。ここで、中性子線量検出素子10の感度を調整するために、中性子を照射する前に事前に加熱処理を行ってもよく、加熱処理を行いつつ中性子を照射してもよい。また、本発明にかかる中性子線量測定素子の製造方法は、図10(b)に示されるように、所定の方向に磁化された永久磁石を用意すること(S705)と、永久磁石の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことによって、永久磁石の中性子線量検出の感度を調整すること(S706)とを備える。なお、永久磁石の中性子線量検出の感度を調整することは、中性子を照射する前、あるいは、中性子を照射している間に、中性子線量検出素子10を適当な温度(例えば、室温より高く熱減磁開始温度以下の温度(例えば約60℃〜約115℃))に加熱処理することを含んでもよい。これにより、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことができ、中性子線量検出素子10の感度を向上させることができる。ここで、熱減磁開始温度とは、ネオジム磁石などの永久磁石を加熱処理した際に、減磁が始まる温度である。
【0043】
<BNCTへの応用>
上述したように、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして、1cm2あたり約1013個より少ない中性子線量においても中性子線量の測定ができることがわかった。これにより、本発明にかかる中性子検出素子10及びこれを用いた中性子線量計測装置1を、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に対して応用することができると考えられる。以下、本発明の好適な応用例の一例として、BNCTにおける中性子線量の計測について説明する。
【0044】
BNCTとはBoron−Neutron Capture Therapyの略である。BNCTは、腫瘍細胞に取り込まれた質量数10のボロン(10B)と中性子との核反応(10B+n→α+7Li)により発生する高速の粒子線(α線、7Li粒子)によって腫瘍細胞だけを選択的に破壊する治療法である。現在、脳腫瘍、特に悪性神経膠腫や皮膚悪性黒色腫に対して有効な治療法であるとして、研究が進められている。具体的には、10Bを含む化合物を腫瘍細胞に取り込ませた状態で、中性子を照射する。図11に示すように、10Bは熱〜熱外中性子との反応断面積が非常に高く、中性子を捕獲して上述の核反応により高速のα線及び7Li粒子を放出する。これらのα線及び7Li粒子の生体組織内での飛程は、それぞれ約9μm及び約5μmであり、これらの飛程は腫瘍細胞の1個分の大きさに相当する。そのため、腫瘍細胞に取り込まれた10Bに中性子を照射して上記核反応を引き起こすことができれば、上記核反応によって発生する高速のα線及び7Li粒子によって腫瘍細胞を選択的に破壊することができる(図12参照)。
【0045】
従来、BNCTにおいて、患者に対する適切な照射量を確保しつつ不必要な被曝を避けるため、照射する中性子の線量をオンラインでモニターすることが望まれてきた。特に、腫瘍の位置における中性子線量をオンラインでモニターすることが望まれてきた。しかしながら、上述のように、放射化法を用いた中性子線量計測は原理的にオンラインで行うことができず、中性子検出用ガスカウンタを用いた測定では、限られた小さな領域における中性子線量を測定することができないため、腫瘍位置における中性子線量をモニターすることはできなかった。そのため、次善の策として、水又はアクリル製のファントムを作成し、その表面及び内部に金箔などを配置して放射化法により、体外及び体内に相当する位置の中性子線量を測定していた。そして、この結果を基に、実際に患者に中性子を照射した場合に、腫瘍位置にどの程度の中性子が照射されるかを予め検討し、その検討結果に基づいて決定された照射条件に従って中性子の照射を行っていた。そして、実際に患者に中性子を照射する際には、体外線量を金箔などを用いた放射化法により測定し、実際に照射された中性子線量を求めていた。
【0046】
しかしながら、このような方法では、腫瘍位置における実照射量を即時測定することができないという問題があった。例えば、放射化法によって、実際に照射された中性子線量を算出した場合に、予定よりも多くの中性子を照射していたり、予定よりも少ない中性子を照射していたことが分かったとしても、すでに患者に対する照射は終了したあとであるため、この測定結果を患者に対する中性子照射に反映させることはできなかった。また、放射化法によって測定されるのは体外位置における中性子照射量であり、腫瘍位置における実照射量を正確に把握することはできなかった。
【0047】
このような問題を克服するために、腫瘍位置に小型の中性子線量検出素子を配置でき、人体の外側からその中性子線量検出素子からの出力を計測でき、さらに、中性子を照射している間に、オンラインで中性子線量を測定できる中性子線量検出素子の開発が望まれてきた。また、BNCTにおいて患者に照射される中性子線量は、1cm2あたり約1013個以下であるため、このレンジで中性子線量を測定できることが望まれていた。本発明にかかる中性子線量検出素子10は、これらの要請を全て満たしている。つまり、本発明にかかる中性子線量検出素子10は、ネオジム磁石により構成されており、ネオジム磁石の大きさを任意に設定できる。また、中性子線量検出素子10は、電池や高圧電源などを必要としない。そのため、例えば、中性子線量検出素子10の大きさを、5mm角の立方体よりも小さく設定することにより、これを例えば小型のカプセルに封入して、容易に体内の腫瘍の位置に配置することも可能となる。また、中性子線量検出素子10を体内に配置した場合であっても、中性子線量検出素子10からの出力(磁場強度)を、磁場検出ユニット20等を用いて体外から検出することができる。さらに、患者に中性子を照射している間に、オンラインで中性子線量をモニターすることも可能である。また、前述のように、事前に熱処理を施すことによって、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして、1cm2あたり約1013個より少ない中性子線量においても中性子線量の測定ができる。さらに、中性子線量検出素子10は、γ線、X線などの電磁波には不感であるため、中性子線量のみを測定できるという利点も挙げられる。
【0048】
<他の応用例>
次に、本発明にかかる中性子線量検出素子10の他の応用例について検討する。上述のように、中性子線量検出素子10は、任意の大きさ、形状に加工することが可能であり、電源等も必要としない。そのため、中性子線量検出素子10を中性子の発生が予想される施設内で作業に従事する作業従事者が携帯する携帯型中性子線量計として用いることが可能である。この場合において、中性子線量検出素子10に熱処理を加えていない場合、前述のように中性子有感レンジは比較的高線量側(1cm2あたり約1013〜1016個)に位置しており、作業従事者の被曝の観点から妥当でない。そのため、中性子線量検出素子10に予め上述のような熱処理を加えることによって、中性子有感レンジを低線量側にずらしておくことが望ましい。また、携帯型中性子線量計は、例えば小型のホールプローブのような磁場測定素子と組み合わせることによって、リアルタイムで中性子線量を計測できるように構成されていてもよい。あるいは、作業者が携帯する携帯型中性子線量計には、中性子線量検出素子10が組み込まれ、磁場の強度を検出する磁場検出ユニットは携帯型中性子線量計と独立に設けられていてもよい。
【0049】
また、本発明にかかる中性子線量検出素子10は、所定のしきい値を越える線量の中性子が照射されると、減磁するものであるので、この性質をリミットスイッチに応用することもできる。図13に示すように、リミットスイッチ300は、中性子線量検出素子10と、中性子線量検出素子10に対向して配置された鉄片301と、鉄片301に対して中性子線量検出素子10から引き離す方向に力を加えるコイルバネ302と、鉄片301が中性子線量検出素子10の表面に位置しているか、表面から外れているかに応じて開閉するスイッチ303とを主に備える。ここで、コイルバネ302は、中性子線量検出素子10の磁力がある下限値を下回って減磁した場合には、鉄片301を中性子線量検出装置10から引き離すことができる程度の強さに調整されている。この場合において、照射された中性子線量が所定のしきい値よりも少ない場合には、中性子線量検出素子10は減磁しないため、鉄片301は中性子線量検出装置10に引き寄せられた状態で維持される。しかしながら、所定のしきい値を越える中性子線量が照射された場合には、中性子線量検出素子10は減磁しはじめ、その磁力が所定の下限値を下回った場合には、コイルバネ302が中性子線量検出素子10の磁力に打ち勝って鉄片301を中性子線量検出素子10から引き離す。これに連動して、スイッチ303が開状態から閉状態(あるいは閉状態から開状態)に移行する。このように、本発明にかかる中性子線量検出素子10を中性子線量に応じて開閉するリミットスイッチに応用することができる。
【0050】
上述の説明において、中性子線量検出素子10の感度を調整するために、中性子線量検出素子10に対して予め加熱処理を行うこと、又は中性子照射中に加熱処理を行うことが示されてきた。しかしながら、本発明はこれには限られず、他の方法により中性子線量検出素子10の感度を調整することができる。例えば、中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石は、前述のようにボロンを含有している。天然に存在するボロンには、質量数11のボロン(11B)と10Bとが含まれる。10Bの天然同位体存在比は約20%程度であるため、ネオジム磁石を構成するボロンのうち、約20%は10Bであると考えられる。ここで、11Bは中性子とほとんど反応しないが、上述のように、10Bは熱〜熱外中性子の捕獲断面積が非常に大きく、中性子を捕獲することにより、高速のα線及び7Li粒子を放出する。これらのα線及び7Li粒子は周囲にエネルギーを与えつつ静止するため、上述のスポットヒーティングの大きな原因となっていると考えられる。発明者の知見によれば、中性子線量検出素子10に加熱処理を行うことに代えて、あるいは、加熱処理に加えて、中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石に含有されるボロンにおける10Bを天然同位体比と異なる割合になるように調整することによっても、中性子線量検出素子10の感度を調整することができると考えられる。この場合において、中性子線量検出素子10を構成するネオジム磁石に含有されるボロンにおける10Bの割合を高くすることによって、中性子線量検出素子10の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらして、中性子線量検出素子10の感度を向上させることができると考えられる。
【0051】
なお、本発明は、ネオジム磁石中の10Bを天然同位体比と異なる割合になるように調整することに限られず、中性子線量検出素子10を構成する元素の少なくとも1つの元素について、天然同位体比と異なる割合となるように同位体比を調整してもよい。また、中性子線量検出素子10の感度を調整するために、中性子線量検出素子10に対して予め又は中性子照射中に加熱処理を行うことと、中性子線量検出素子10を構成する元素の少なくとも1つの元素について、天然同位体比と異なる割合となるように同位体比を調整することとを組み合わせて実施してもよい。
【0052】
なお、上述の説明において、中性子線量検出素子10として、角型のネオジム磁石を例に挙げてきたが、本発明はこれには限られず、任意の形状のネオジム磁石を用いることができる。また、中性子線量検出素子10の磁場強度を計測するための磁場測定装置は上述の例に限られず、任意の磁場測定装置を用いることができる。また、中性子線量検出素子10の用途として、BNCTにおける実線量の即時測定のための線量計、携帯型中性子線量計及びリミットスイッチを挙げてきたが、本発明の中性子線量検出素子の用途はこれに限られず、種々の用途に用いることが可能である。また、上述の説明において、中性子線量検出素子10に対して、室温より高く熱減磁開始温度以下の温度範囲(例えば、約60℃〜約115℃)で加熱処理を行っていたが、本発明はこれには限られず、室温よりも高い温度であって、完全に減磁してしまわない範囲の温度(少なくともキュリー点(約310℃)以下の温度)であれば加熱処理を行うことが可能である。
【0053】
また、上述の説明において、中性子線量検出素子10として、ネオジム磁石を例に挙げてきたが、本発明は必ずしもネオジム磁石に限られるものではない。図4に示されるように、サマリウムコバルト磁石も比較的高い線量の中性子(1cm2あたり約1019〜1020個)が照射されると減磁することがわかっている。そのため、本発明の本旨に従って、サマリウムコバルト磁石を中性子線量検出素子として応用することもできる。また、その他の永久磁石も中性子の照射によって減磁する場合には、本発明の本旨に従ってこれを中性子線量検出素子として応用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、小型のネオジム磁石を用いた中性子線量検出素子であって、1cm2あたり1013個以下における中性子線量の測定が可能な中性子線量検出素子を製造することができる。これをBNCTに応用すれば、腫瘍位置における実照射線量を即時計測することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 中性子線量計測装置
10 中性子線量検出素子
20 磁場検出ユニット
23 駆動機構
30 コントローラー
40 コンピュータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子の線量測定に用いられる中性子線量検出素子の製造方法であって、
中性子線量検出素子となる、所定の方向に磁化された永久磁石を用意する工程と、
前記永久磁石の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことによって、前記永久磁石の中性子線量検出の感度を調整する感度調整工程とを備えることを特徴とする中性子線量検出素子の製造方法。
【請求項2】
前記感度調整工程において、前記永久磁石を室温よりも高く、前記永久磁石のキュリー点よりも低い所定の温度まで加熱することを特徴とする請求項1に記載の中性子線量検出素子の製造方法。
【請求項3】
前記感度調整工程において、前記永久磁石に含まれる元素のうち、少なくとも1つの元素について、天然同位体比と異なる割合となるように同位体比を調整することを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載の中性子検出素子の製造方法。
【請求項4】
前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であることを特徴とする請求項1〜3に記載の中性子線量検出素子の製造方法。
【請求項5】
前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であって、
前記所定の温度は室温より高く熱減磁開始温度以下であることを特徴とする請求項2に記載の中性子線量検出素子の製造方法。
【請求項6】
前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であって、
前記感度調整工程において、質量数10のホウ素の同位対比が天然同位体比と異なる割合となるように調整することを特徴とする請求項3に記載の中性子線量検出素子の製造方法。
【請求項7】
中性子の線量を計測する方法であって、
永久磁石によって構成された中性子線量検出素子を所定の位置に配置する配置工程と、
中性子線量検出素子に中性子を照射する中性子照射工程と、
中性子線量検出素子の磁場強度を測定する磁場強度測定工程と、
磁場強度測定工程において測定された磁場強度に基づいて、中性子照射工程において前記中性子線量検出素子に照射された中性子線量を導出する中性子線量導出工程とを備えることを特徴とする中性子線量計測方法。
【請求項8】
さらに、中性子照射工程と同時に、又は中性子照射工程の前に、中性子線量検出素子を、常温よりも高く、前記永久磁石のキュリー点よりも低い所定の温度まで加熱する加熱工程を備えることを特徴とする請求項7に記載の中性子線量計測方法。
【請求項9】
前記永久磁石がネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であることを特徴とする請求項7又は8に記載の中性子線量計測方法。
【請求項10】
前記ネオジム磁石は、天然同位体比と異なる割合で質量数10のホウ素を含むことを特徴とする請求項9に記載の中性子線量計測方法。
【請求項11】
中性子の線量を計測する中性子線量計測システムであって、
永久磁石により構成された中性子線量検出素子と、
前記中性子検出素子の磁場強度を測定する磁場測定機構と、
前記磁場測定機構により測定された磁場強度に基づいて、中性子線量検出素子に照射された中性子の線量を導出する中性子線量導出機構とを備えることを特徴とする中性子線量計測システム。
【請求項12】
前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であって、且つ、5mm角の立方体よりも小さく、
前記中性子線量検出素子は、前記ネオジム磁石を覆うカプセルを含むことを特徴とする請求項11に記載の中性子線量計測システム。
【請求項1】
中性子の線量測定に用いられる中性子線量検出素子の製造方法であって、
中性子線量検出素子となる、所定の方向に磁化された永久磁石を用意する工程と、
前記永久磁石の中性子有感レンジを低中性子線量側にずらすことによって、前記永久磁石の中性子線量検出の感度を調整する感度調整工程とを備えることを特徴とする中性子線量検出素子の製造方法。
【請求項2】
前記感度調整工程において、前記永久磁石を室温よりも高く、前記永久磁石のキュリー点よりも低い所定の温度まで加熱することを特徴とする請求項1に記載の中性子線量検出素子の製造方法。
【請求項3】
前記感度調整工程において、前記永久磁石に含まれる元素のうち、少なくとも1つの元素について、天然同位体比と異なる割合となるように同位体比を調整することを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載の中性子検出素子の製造方法。
【請求項4】
前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であることを特徴とする請求項1〜3に記載の中性子線量検出素子の製造方法。
【請求項5】
前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であって、
前記所定の温度は室温より高く熱減磁開始温度以下であることを特徴とする請求項2に記載の中性子線量検出素子の製造方法。
【請求項6】
前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であって、
前記感度調整工程において、質量数10のホウ素の同位対比が天然同位体比と異なる割合となるように調整することを特徴とする請求項3に記載の中性子線量検出素子の製造方法。
【請求項7】
中性子の線量を計測する方法であって、
永久磁石によって構成された中性子線量検出素子を所定の位置に配置する配置工程と、
中性子線量検出素子に中性子を照射する中性子照射工程と、
中性子線量検出素子の磁場強度を測定する磁場強度測定工程と、
磁場強度測定工程において測定された磁場強度に基づいて、中性子照射工程において前記中性子線量検出素子に照射された中性子線量を導出する中性子線量導出工程とを備えることを特徴とする中性子線量計測方法。
【請求項8】
さらに、中性子照射工程と同時に、又は中性子照射工程の前に、中性子線量検出素子を、常温よりも高く、前記永久磁石のキュリー点よりも低い所定の温度まで加熱する加熱工程を備えることを特徴とする請求項7に記載の中性子線量計測方法。
【請求項9】
前記永久磁石がネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であることを特徴とする請求項7又は8に記載の中性子線量計測方法。
【請求項10】
前記ネオジム磁石は、天然同位体比と異なる割合で質量数10のホウ素を含むことを特徴とする請求項9に記載の中性子線量計測方法。
【請求項11】
中性子の線量を計測する中性子線量計測システムであって、
永久磁石により構成された中性子線量検出素子と、
前記中性子検出素子の磁場強度を測定する磁場測定機構と、
前記磁場測定機構により測定された磁場強度に基づいて、中性子線量検出素子に照射された中性子の線量を導出する中性子線量導出機構とを備えることを特徴とする中性子線量計測システム。
【請求項12】
前記永久磁石はネオジムと鉄とホウ素とを含むネオジム磁石であって、且つ、5mm角の立方体よりも小さく、
前記中性子線量検出素子は、前記ネオジム磁石を覆うカプセルを含むことを特徴とする請求項11に記載の中性子線量計測システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−194146(P2012−194146A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60236(P2011−60236)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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