説明

中枢神経系への有効成分の鼻内投与

哺乳動物の中枢神経系へのポリペプチドの送達方法が提供される。該方法は、中枢神経系への送達のため、ポリペプチドを抗体若しくは抗体フラグメントに結合すること、および該融合ポリペプチドを鼻内投与することを必要とする。治療上有効な量の該組成物を哺乳動物の鼻腔に送達する処置方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記述される主題は、哺乳動物の中枢神経系への有効成分の鼻内投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系(CNS)への薬物の送達は、薬物送達の最近の進歩および脳への薬物の送達の機構の知識にもかかわらず手ごたえのある事柄として残っている。例えば、CNSの標的は、大部分のとりわけ極性の薬物の循環血から脳中への拡散に対する効率的な障壁を提供する血液脳関門(BBB)により、末梢循環から乏しく到達可能である。CNSに薬物を送達するためのBBBに伴う問題を回避するための試みは:1)親油性分子の設計(600Da未満の分子量をもつ脂溶性薬物は該障壁を通り容易に拡散するため);2)トランスフェリン、インスリン、IGF−1およびレプチンのような、飽和可能な輸送体系を介してBBBを横断する分子輸送体への薬物の結合;ならびに3)負に荷電した内皮表面に優先的に結合する正に荷電したタンパク質のようなポリカチオン分子への薬物の結合を包含する(例えば、非特許文献1およびその中の参考文献;非特許文献2;非特許文献3を参照されたい)。
【0003】
鼻内経路はCNSへの薬物の輸送のためのBBBの非侵襲的回避方法として探求されている。CNSへの鼻内送達は多数の小分子ならびに数種のペプチドおよびより小さいタンパク質について示されているとは言え、おそらく直接の鼻から脳への送達を妨げうる各巨大分子若しくは巨大分子類に特有のより大きな大きさおよび変動する物理化学特性により、鼻内経路を介してのCNSへのタンパク質巨大分子の送達を示す証拠はほとんどない。
【0004】
鼻内送達に対する主たる物理障壁は鼻の呼吸および嗅覚上皮である。身体の上皮の強固な結合の浸透性は変動可能でありかつ典型的には3.6A未満の流体力学半径をともなう分子に制限されることが示されており;浸透性は、15Aより大きい半径をもつ球状分子について無視できると考えられる(非特許文献4)。従って、投与されるべき分子の大きさは、巨大分子の中枢神経系への鼻内輸送の達成において重要な因子と考えられる。20kDのデキストラン分子量を有する直鎖状分子、フルオレセイン標識デキストランは、ラット鼻腔から脳脊髄液に送達され得るが、しかしながら40kDのデキストランはされ得ない(非特許文献5)。ウイルスのような感染生物体は鼻の嗅覚領域を通り脳に進入し得ることもまた報告されている(非特許文献6)。今日まで公表された送達研究において、CNSへの鼻内送達効率は非常に低く、また、抗体およびそれらのフラグメントのような大型球状巨大分子の送達は示されていない。それでもなお、抗体、抗体フラグメントおよび抗体融合分子は、CNSの標的を有する障害、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、卒中、癲癇、ならびに代謝および内分泌障害を処置するための潜在的に有用な治療であるため、これらの大型巨大分子のCNSへの非侵襲的送達方法を提供することが望ましい。
【0005】
関連技術の前述の例およびそれらと関連する限定は具体的説明でありかつ排他的でないことを意図している。関連技術の他の限定は、本明細書を読むことおよび図面の検討により当業者に明らかとなるであろう。
【非特許文献1】Illum、Eur.J.Pharm.Sci.11:1−18(2000)
【非特許文献2】W.M.Partridge.“Blood−brain barrier drug targeting:the future of brain drug development”、Mol Interv.3(2):90−105(2003)
【非特許文献3】W.M.Partridgeら、“Drug and gene targeting to the Brain with molecular Trojan horses”、Nature Reviews−Drug Discovery 1:131−139(2002)
【非特許文献4】B.R.Stevensonら、Mol.Cell.Biochem.83、129−145(1988)
【非特許文献5】Sakaneら、J.Pharm.Pharmacol.47、379−381(1995)
【非特許文献6】S.Perlmanら、Adv.Exp.Med.Biol.、380:73−78(1995)
【発明の開示】
【0006】
[発明の要約]
治療的ペプチド若しくはタンパク質に連結された抗体フラグメントのような球状タンパク質分子が、哺乳動物の中枢神経系に直接送達されてそれにより血液脳関門を迂回し得ることが発見された。従って、哺乳動物の中枢神経系への治療用組成物の送達方法が提供される。該方法は多様な疾患若しくは状態の処置において有利である。従って処置方法もまた提供される。
【0007】
第一の局面において、哺乳動物の中枢神経系への治療用組成物の送達方法が提供される。該方法は、哺乳動物に治療用組成物を鼻内投与することを包含し、ここで、治療用組成物は治療上有効な量の抗体フラグメントおよびポリペプチドから構成される。一態様において、抗体フラグメントはポリペプチドに連結されている。
【0008】
一態様において、鼻内投与は、嗅覚経路および/若しくは三叉神経路を介する治療用組成物の送達のために鼻上皮組織、例えば嗅覚上皮を横断する吸収を介する治療用組成物の取り込みを達成する。
【0009】
別の局面において、抗体若しくは抗体フラグメントにポリペプチドを結合して融合ポリペプチドを形成すること、および該融合ポリペプチドを鼻内投与することによる、CNSへのポリペプチドのターゲティング方法が提供される。一態様において、ポリペプチドは生物学的に活性でありかつ治療的利益を提供する。別の態様において、抗体若しくは生物学的に活性の抗体フラグメント、および細胞若しくは組織のような内在性標的に対する結合親和性を有することに加えて治療的利益を提供する。
【0010】
第三の局面において、治療用組成物の鼻内投与が治療的化合物に応答するか若しくはそのCNSへの送達を必要とする状態の処置のため提供される処置方法が提供される。
【0011】
これらおよび他の局面および態様は、記述、図面および本明細書の配列から明らかであろう。
【0012】
[発明の詳細な記述]
本明細書の主題の理解を促進するという目的上、今や好ましい態様に言及がなされ、そして特定の術語を使用してそれらを記述するであろう。にもかかわらず、それにより本発明の範囲を何ら限定することを意図するものではないと理解されるものであり、主題のこうした変更およびさらなる修正、ならびに本明細書に具体的に説明されるところの原理のこうしたさらなる応用は、主題が関連する当業者に通常思い浮かぶものとして企図している。
【0013】
非全身経路、例えば身体に全体として送達若しくは別の方法で影響を及ぼすもの以外の経路による哺乳動物の脳および脊髄を包含する中枢神経系への治療用組成物の送達方法が提供される。該送達方法は、従って、鼻通路を介する脳への治療用組成物の局在化されかつ標的を定められた送達を見込む。結果、該方法は、静脈内、筋肉内、経皮、腹腔内、若しくは組成物を例えば血液循環系により送達する類似の経路以外の経路による組成物の送達に関する。治療用ポリペプチドに複合若しくは別の方法で連結した抗体フラグメントを、該融合分子の鼻内投与により哺乳動物の脳および脊髄を包含する中枢神経系に送達しうることが発見された。
【0014】
本明細書で使用されるところの「ポリペプチド」という用語はアミノ酸のポリマーを意図しており、そして特定の長さのアミノ酸のポリマーを指さない。従って、例えばペプチド、オリゴペプチド、タンパク質および酵素という用語はポリペプチドの定義内に包含される。本用語はポリペプチドの発現後修飾、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化などもまた包含する。いくつかの場合には、タンパク質、ペプチドおよびポリペプチドという用語は互換性に使用される。
【0015】
該組成物は、該組成物が非全身経路によるような脳に直接輸送されることができるような鼻内に適用される。従って、哺乳動物の中枢神経系への治療用組成物の送達方法が本明細書で提供される。哺乳動物の中枢神経系への治療用組成物の適用による処置に応答する障害の処置方法もまた提供されかつ後述される。
【0016】
A.組成物の成分
鼻内送達のための治療用組成物は、ポリペプチドおよび抗体若しくは抗体フラグメントから構成される融合ポリペプチドである。一態様において、ポリペプチドは生物学的に活性であり、そして好ましくは治療効果のような特定の生物学的効果を引き起こすか若しくは別の方法でもたらす。ポリペプチドの多様な例を下に示す。ポリペプチドは、内因性の標的に向けられる抗体若しくは抗体フラグメントに連結される。該抗体若しくは抗体フラグメントは、細胞標的に対する結合親和性を有することに加え、治療効果を引き起こすように生物学的に活性でありうる。一緒に、該ポリペプチドおよび結合される抗体若しくは抗体フラグメントは、鼻内送達に望ましいとおり処方し得る治療的化合物若しくは治療的融合ポリペプチドを含んでなる。下に具体的に説明されるとおり、個々の成分に関して融合ポリペプチドの増大された大きさおよび/若しくは親水性は、中枢神経系への送達を可能にする一方で該ポリペプチドの血液生物学的利用率を低下させ、従って全身曝露および関連する副作用を低下させつつ薬物ターゲティングを改良する。
【0017】
i.抗体若しくは抗体フラグメント
該治療的融合化合物中の抗体若しくは抗体フラグメントは、ターゲティング剤としてはたらくか、生物学的に望ましい効果を提供するか、もしくは双方のように選択しうる。抗体若しくは抗体フラグメントはポリクローナル若しくはモノクローナル抗体であることができ、そして例示的抗体およびフラグメント、それらの供給源および製造法を今や記述する。
【0018】
ポリクローナル抗体は、当該技術分野で十分に確立されているとおり、所望の抗原を被験体、典型的にはマウスのような動物に注入することにより得ることができる。抗原は処置されるべき障害に基づき選択する。例えば、アルツハイマー病の処置において、抗原はβ−アミロイドタンパク質若しくはそのペプチドでありうる。癌を標的とすることにおいて、抗原は、例えばインターロイキン−13受容体−α(Joshi,B.H.ら、Cancer Res.60:1168−1172(2000)に論考されるところの悪性星状細胞腫/多形神経膠芽腫について)、BF7/GE2(ミクロソームエポキシド加水分解酵素;mEH)(Kessler,R.ら、Cancer Res.60:1403−1409(2000)に論考されるところの異常なmEH発現を伴う腫瘍の処置のため)、チロシナーゼ関連タンパク質−2(TRP−2)(多形神経膠芽腫の処置のため)、MAGE−1、3、若しくは6(髄芽細胞腫のため)およびMAGE−2(多形神経膠芽腫のため)(双方ともScarcella,D.L.ら、Clin.Cancer Res.、5:331−341(1999)に論考されるところの)、ならびにスルビビン(Bodey,B.B、In Vivo 18(6)713−718(2004)に記述されるところの髄芽細胞腫のため)を包含する、当該技術分野に既知の多様なペプチドのような腫瘍関連抗原でありうる。脊髄の障害および急性脳傷害でのような炎症を抑制するための神経外傷の処置のためには、抗原はTNF−αおよびインターロイキン−1□を包含する多様なインターロイキンでありうる。フロイントの完全アジュバントのようなアジュバントと一緒の抗原を、皮下若しくは腹腔内に複数回被験体に注入しうる。
【0019】
抗原の免疫原性の別の増大方法は、抗体を産生することができる特定の種で免疫原性であるタンパク質に抗原を複合若しくは別の方法で連結することである。例えば、抗原は、マウスで合成ペプチドの免疫原性を増大させることが示されている天然の免疫調節物質タフトシンの合成ポリマー、ポリタフトシン(TKPR40)に複合しうる(Gokulan K.ら、DNA Cell Biol.18(8):623−630(1999))。該複合方法は、システイン残基による複合のためのマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル、リシン残基による複合のためのN−ヒドロキシスクシンイミド、グルタルアルデヒド若しくは無水コハク酸のような二官能性若しくは誘導体化剤の使用を必要としうる。
【0020】
例えば約1か月のような初期の注入後の十分な時間後に、動物を1/10量のようなペプチド抗原の元の量の小部分で追加免疫することができ、そしてその後、約7ないし14日後に採血することができ、そして、例えばプロテインA若しくはプロテインGセファロースを使用するアフィニティークロマトグラフィー;イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー若しくはゲル電気泳動を包含する当該技術分野に既知の標準的方法により、抗体を動物の血液から単離しうる。抗体精製手順は、例えばHarlow,D.とLane,E.、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Springs Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州ウッドベリー(1998);およびSubramanian,G.、Antibodies:Production and Purification、Kluwer Academic/Plenum Publishers、ニューヨーク州ニューヨーク(2004)に見出しうる。
【0021】
ヒト以外の抗体は多様な方法によりヒト化しうる。例えば、ヒト以外の抗体の超可変領域配列を、例えばJonesら、Nature321:522−525(1986);Reichmannら、Nature332:323−327(1998)およびVerhoeyenら、Science239:1534−1536(1988)に記述されるとおり、ヒト抗体の対応する配列で置換しうる。該抗体はヒト治療に意図しているため、抗体の抗原性を低下させるためにヒト化抗体の作成における指針のためヒト可変ドメインを選択することが好ましい。これを達成するため、ヒト以外の抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリーに対しスクリーニングしうる。動物のものに対する最も緊密な一致であるヒト可変ドメイン配列を同定し、そして、それ内のヒト枠組み領域を、例えばSimsら、J.Immunol.151:2296−2308(1993)およびChothiaら、J.Mol.Biol.196:901−917(1987)に記述されるとおりヒト抗体中で利用する。
【0022】
該抗体は完全長の抗体若しくはフラグメントでありうる。完全長の抗体若しくはフラグメントは、該抗体若しくはフラグメントの改良された安定性を見込むように、また、Fc受容体への結合のようなエフェクター機能を調節するように改変しうる。これは、例えば、エフェクター機能を喪失しかつそれでもなおIgG構造を維持するためのAla/Ala突然変異を伴うIgG4のようなヒト若しくはマウスアイソタイプまたはこうした分子のバリアントを利用することにより達成しうる。抗体フラグメントは単量体もしくは二量体であることができ、そしてFab、Fab’、F(ab’)2、Fc若しくはFvフラグメントを包含する。これらのフラグメントは例えば無傷の抗体のタンパク質分解性の分解により生じうる。例えば無傷の抗体のパパインでの消化は2個のFabフラグメントをもたらす。無傷の抗体のペプシンでの処理はF(ab’)2フラグメントを提供する。F(ab’)2フラグメントは、ジスルフィド結合によりVH−CH1に結合されるL鎖であるFabの二量体である。F(ab’)2は穏やかな条件下で還元してヒンジ領域のジスルフィド結合を破壊することができ、それにより(Fab’)2二量体をFab’単量体に転化する。Fab’単量体は、本質的に、ヒンジ領域の部分をもつFabフラグメントである(他の抗体フラグメントのより詳細な記述については、Fundamental Immunology、W.E.Paul編、Raven Press、ニューヨーク(1993)を参照されたい)。
【0023】
Fc部分を有するものを包含する多くのフラグメントは、当該技術分野に既知の組換えDNA技術の方法によってもまた製造し得る。
【0024】
多様な抗体を使用して、本明細書に記述される中枢神経系への鼻内送達のための組成物で利用される抗体フラグメントを得ることができる。例示的抗体はIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを包含する。これらの抗体のサブクラスもまた、抗体フラグメントを得るのに使用しうる。例示的サブクラスは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2を包含する。抗体フラグメントは、本明細書で以前に論考されたとおり製造しうる抗体のタンパク質分解性の分解により得ることができる。一態様において、抗体フラグメントを利用してポリペプチドの半減期を増大させ、また、抗体は、免疫化を伴わない被験体から単離することができ、そして本明細書に以前に記述された抗体単離手順により単離しうる。抗体フラグメントは、あるいは、キメラ若しくは融合ポリペプチドを製造するために、本明細書に以前に記述されたところの組換えDNA法により製造しうる。例えば、抗体フラグメントおよび治療用ポリペプチドを包含する融合分子は、ミメティボディ(mimetibody)を生成するためのそれぞれのタンパク質をコードするプラスミドを利用して製造しうる。
【0025】
抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド若しくはそれらの生物学的に活性の部分に連結された抗体フラグメントは、プロテインAカラムの使用を包含する親和性精製、および例えばSuperoseカラムを利用するサイズ排除クロマトグラフィーにより精製しうる。精製方法は当該技術分野で公知である。
【0026】
特異的モノクローナル抗体は、KohlerとMilstein、Eur.J.Immunol.:511−519(1976)の技術、ならびにその改良および改変により製造しうる。簡潔には、こうした方法は所望の抗体を産生することが可能な不死細胞株の製造を包含する。該不死細胞株は、最適な抗原をマウスのような動物に注入すること、該動物の脾からB細胞を収集すること、および該細胞を骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマを形成することにより製造しうる。所望のエピトープに対する高親和性抗体を分泌するそれらの能力について、当該技術分野で慣例の手順によりコロニーを選択かつ試験しうる。選択手順の後に、モノクローナル抗体は、本明細書に以前に記述された手順を包含する当該技術分野に既知の抗体精製手順により、培地若しくは血清から分離しうる。
【0027】
あるいは、抗体は当該技術分野で既知の多様な方法により発現ライブラリーから組換え製造しうる。例えば、リンパ球、好ましくはBリンパ球、および好ましくは所望の抗原を注入した動物から単離したリボ核酸(RNA)からcDNAを製造しうる。多様な免疫グロブリン遺伝子をコードするもののようなcDNAをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅することができ、そしてファージディスプレイベクターのような適切なベクターにクローン化しうる。こうしたベクターを、細菌懸濁液、好ましくは大腸菌(E.coli)を包含するものに添加することができ、そしてファージ粒子の表面に連結された対応する抗体フラグメントを表示するバクテリオファージ若しくはファージ粒子を産生しうる。例えばパニングのような親和性精製技術を包含する当該技術分野に既知の方法により所望の抗体を包含するファージ粒子についてスクリーニングすることにより、下位ライブラリーを構築しうる。該下位ライブラリーをその後、細菌細胞、酵母細胞若しくは哺乳動物細胞のような所望の細胞型から抗体を単離するのに利用しうる。本明細書に記述されるところの組換え抗体の製造方法およびそれらの改変は、例えば、Griffiths,W.G.ら、Ann.Rev.Immunol.12:433−455(1994);Marks,J.D.ら、J.Mol.Biol.222:581−597(1991);Winter,G.とMilstein,C.、Nature349:293−299(1991);およびHoogenboom,H.R.とWinter,G.、J.Mol.Biol.227(2):381−388(1992)に見出しうる。
【0028】
ヒト抗体はトランスジェニック動物でもまた産生させうる。例えば、キメラおよび生殖系列変異体マウス中の抗体H鎖結合領域(J)遺伝子のホモ接合性の欠失は、こうした変異体マウスへのヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移入が抗原で免疫した場合にヒト抗体の産生をもたらすような内因性抗体産生の完全な阻害をもたらす。例えば、Jakobovitsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:2551−2551(1993);Jakobovitsら、Nature362:255−258(1993);米国特許第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,591,669号;同第5,545,807号およびPCT公開第WO 97/17852号明細書を参照されたい。
【0029】
ii.ポリペプチド
上に示されたとおり、抗体若しくは抗体フラグメントはポリペプチドに連結される。好ましくは、該ポリペプチドは中枢神経系の一領域に結合しうるものである。該ポリペプチドは、さらに好ましくは中枢神経系に対する有益な効果を有するものであり、そして治療目的上のような哺乳動物の中枢神経系により調節される機能に対する有益な効果を有するものを包含する。該ポリペプチドは、例えば脳の多様な領域の細胞受容体に結合することによりその効果を発揮しうる。一例として、α−メラノサイト刺激ホルモン(α−MSH)が体重減少におけるその効果を発揮するために、それは視床下部のニューロンのメラノコルチン4受容体(MCR−4)に結合する。さらなる一例として、エリスロポエチン(EPO)、活性のEPOフラグメント若しくはEPOアナログが卒中若しくは急性脳傷害後に神経学的機能を改善するために、それは例えば海馬細胞、星状細胞若しくは類似の細胞の神経細胞受容体に結合しなければならない。
【0030】
多様なタンパク質若しくはペプチドを利用しうる。ポリペプチドは約200ダルトンないし約200,000ダルトンの分子量を有しうるが、しかし典型的には約300ダルトンないし約100,000ダルトンである。
【0031】
一態様において、該ポリペプチドおよび抗体若しくは抗体フラグメントは、結合後に、約25kDa以上、より好ましくは約30kDa以上、なおより好ましくは約40kDa以上の複合分子量を有する。
【0032】
別の態様において、ポリペプチドは約25kDa未満の分子量を有しかつ疎水性である。
【0033】
多様な治療的タンパク質若しくはその生物学的に活性の部分を、本明細書に記述される方法で使用しうる抗体フラグメントに連結若しくは別の方法で結合しうる。該タンパク質は好ましくはペプチドの形態にある。選択される特定の治療的ペプチドは、処置されるべき疾患若しくは状態(集合的に「障害」と称される)に依存することができる。例えばアルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病のような神経変性障害、または運動若しくは記憶のような認知機能の喪失を伴う他の疾患には、神経保護若しくは神経栄養剤が好ましい。神経保護若しくは神経栄養剤は、神経細胞の生存を促進し、神経発生および/若しくはシナプス形成を刺激し、β−アミロイド誘発性の神経毒性から海馬ニューロンを救出し、かつ/またはτリン酸化を低下させるものでありうる。こうした神経変性障害および神経学的障害を処置するのに適する剤の例は、黄体形成ホルモン放出(LHRH)およびデスロレリンのようなLHRHのアゴニスト;神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3およびニューロトロフィン−4/5を包含するニューロトロフィンファミリーからのもののような神経栄養因子;酸性線維芽細胞増殖因子および塩基性線維芽細胞増殖因子を包含する線維芽細胞増殖因子ファミリー(FGF);繊毛様神経栄養因子、白血病阻害因子およびカルジオトロフィン−1を包含するニューロカインファミリー;トランスフォーミング増殖因子−β―1〜3(TGF−β)、骨形成タンパク質(BMP)、増殖分化因子5ないし15、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、アルテミン、アクチビンおよびパーセフィンのような増殖/分化因子を包含するトランスフォーミング増殖因子−βファミリー;上皮増殖因子、トランスフォーミング増殖因子−αおよびニューレグリンを包含する上皮増殖因子ファミリー;インスリン様増殖因子−1(IGF−1)およびインスリン様増殖因子−2(IGF−2)を包含するインスリン様増殖因子ファミリー;PACAP−27、PACAP−38、グルカゴン、GLP−1およびGLP−2のようなグルカゴン様ペプチド、成長ホルモン放出因子、血管作用性小腸ペプチド(VIP)、ペプチドヒスチジンメチオニン、分泌型およびグルコース依存型インスリン分泌性ポリペプチドを包含する脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)/グルカゴンスーパーファミリー;ならびに活性依存型神経栄養因子および血小板由来増殖因子(PDGF)を包含する他の神経栄養因子を包含する。こうした剤は、急性脳傷害、慢性脳障害(神経生成)およびうつのような神経心理学的障害を処置するのにもまた適する。
【0034】
卒中処置の場合、治療薬は、皮質ニューロンを一酸化窒素媒介性の神経毒性から保護し、神経細胞の生存を促進し、神経生成および/若しくはシナプス形成を刺激し、かつ/またはグルコース枯渇からニューロンを救出するものでありうる。こうした剤の例は、本明細書に以前に記述された神経栄養因子、それらの活性フラグメント、ならびに、エリスロポエチン(EPO)、カルバミル化EPOのようなEPOのアナログ、およびEPOの活性フラグメントを包含する。使用しうるEPOアナログの例は、当業者に公知でありかつ例えば米国特許第5,955,422号および同第5,856,298号明細書に記述されるものを包含する。例えば本発明で有用なEPO、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびトロンボポエチンのペプチド増殖因子模倣物およびそれらに対するアンタゴニストは、K.Kaushansky、Ann.NY Acad.Sci.、938:131−138(2001)により総説されるとおり、およびWrightonら、Science273(5274):458−450(1996)によりEPO模倣物ペプチドリガンドについて記述されたとおり、スクリーニングし得る。ペプチド増殖因子に対する模倣物、アゴニストおよびアンタゴニスト、または本明細書に記述される他のペプチド若しくはタンパク質は、該ペプチド増殖因子、または該模倣物、アゴニスト若しくはアンタゴニストが基づく他のポリペプチドより長さが短くてもよい。
【0035】
体重減少(食思不振)および体重増加(肥満)の予防のためのような摂食障害の処置のための治療用ポリペプチドは、メラノコルチン受容体(MCR)アゴニストおよびアンタゴニストを包含する。適するMCRアゴニストは、α−メラノサイト刺激ホルモン(α−MSH)、ならびに、βおよびγ−MSH、ならびに、ヒトα−MSHのアミノ酸1ないし13(配列番号1 SYSMEHFRWGKPV)およびとりわけ副腎皮質刺激ホルモンの受容体結合アミノ酸配列4−10(MSH/ACTH4−10)を包含するそれらの誘導体、メラノタンII(MTII)のようなメラノコルチン受容体3(MCR3)若しくはメラノコルチン受容体4(MCR4)アゴニスト、強力な非選択的MCRアゴニストMRLOB−0001ならびに該ペプチドおよび/若しくはタンパク質の活性フラグメントを包含する。肥満処置のための他のペプチドは、ホルモンペプチドYY(PYY)、とりわけ該ペプチドのアミノ酸3ないし36、レプチンおよびグレリン、繊毛様神経栄養因子若しくはそのアナログ、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、インスリン模倣物および/若しくは感作物質、レプチン、レプチンアナログおよび/若しくは感作物質、ならびにドーパミン作動性、ノルアドレナリン作動性およびセロトニン作動性の剤を包含する。
【0036】
体重の恒常性を調節する対応するMCRアンタゴニストは、エンドカンナビノイド受容体アンタゴニスト、脂肪酸合成受容体阻害剤、グレリンアンタゴニスト、メラニン濃縮ホルモン受容体アンタゴニスト、PYY受容体アンタゴニストおよびチロシンホスファターゼ−1B阻害剤(J.Kronerら、J.Clin.Invest.111:565−570(2003))を包含する。内因性MCR3およびMCR4アンタゴニストであるアグーチシグナル伝達タンパク質(ASIP)およびアグーチ関連タンパク質(AGRP)のようなMCRアンタゴニスト、ならびにそれらのペプトイドバリアントおよび模倣物を、体重の恒常性を制御するためおよび食思不振のような摂食障害を処置するために使用しうる(YK Yangら、Neuropeptides、37(6):338−344(2003);DA Thompsonら、Bioorg Med Chem Lett.13:1409−1413(2003);およびC.Chenら、J.Med.Chem.47(27):6821−30(2004))。
【0037】
メラノコルチン受容体(MCR)に結合する以前に挙げられたペプチドホルモンおよびそれらのアナログもまた、炎症を制御しかつ男性および女性の性的機能不全を改善するのに有用でありうる(A.Cataniaら、Pharmacol Rev56(1):1−29(2004))。
【0038】
糖尿病のような内分泌障害の処置のための治療的タンパク質は、例えば、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1);脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、血管作用性小腸ペプチド(VIP)、エキセンジン−3およびエキセンジン−4を包含するGLP−1ファミリーからのペプチド;ならびにインスリン様増殖因子(IGF−1)、IGF結合タンパク質3(IGFBP3)およびインスリン、ならびにそれらの活性フラグメントを包含する。
【0039】
不眠のような睡眠障害の処置のための治療用ポリペプチドは、成長ホルモン放出因子、バソプレシン、ならびにデスモプレシン、グリプレシン、オルニプレシンおよびテルニプレシンを包含するバソプレシンの誘導体を包含し;同一/類似若しくは反対いずれかの生物学的応答をもたらす同一の受容体標的に結合するペプチドバリアントおよび模倣ペプチドリガンドを包含する。多発性硬化症のような自己免疫障害の処置のための治療的タンパク質は、β−インターフェロンを包含するインターフェロン、およびトランスフォーミング増殖因子βを包含する。
【0040】
統合失調症のような精神障害の処置のための治療用ポリペプチドは、ニューレグリン−1、EPO、カルバミル化EPOのようなEPOのアナログ、およびEPOの活性フラグメント、ならびに本明細書に以前に記述されたところのEPO模倣物を包含する。脳由来神経栄養因子(BDGF)およびインスリンのような多様な神経栄養因子および調節ペプチドホルモンを、うつならびに精神内分泌および代謝障害を処置するのに使用しうる。
【0041】
脳のリソソーム貯蔵障害の処置のための治療用ポリペプチドは、例えばリソソーム酵素を包含する。
【0042】
食思不振のような摂食障害の処置のための治療用ポリペプチドは、例えば、アグーチシグナル伝達タンパク質(ASIP)およびアグーチ関連タンパク質(AGRP)のようなメラノコルチン受容体(MCR)アンタゴニストを包含する。
【0043】
治療用ポリペプチドはヒトポリペプチドでありうるとは言え、該ポリペプチドは他の種からであってもよいか、または合成若しくは組換えで製造してもよい。元のアミノ酸配列は、改良された効力若しくは改良された特異性(例えば複数の受容体への結合を排除する)および安定性のためのように改変若しくは再工作もまたしうる。
【0044】
本明細書で利用される治療用ポリペプチドは、同一の受容体に結合するがしかし内因性ヒトペプチドに相同でないアミノ酸配列を有する分子のような模倣物でもまたありうる。例えば、メラノコルチン受容体、成長ホルモン放出因子受容体、バソプレシン受容体、ホルモンペプチドYY受容体、ニューロペプチドY受容体若しくはエリスロポエチン受容体のアゴニストおよびアンタゴニストを包含するアゴニストおよびアンタゴニストは、L−アミノ酸のような天然のアミノ酸若しくはD−アミノ酸のような非天然のアミノ酸を包含しうる。ポリペプチド中のアミノ酸は、ペプチド結合により、若しくはペプチド模倣物を包含する改変されたペプチド中では非ペプチド結合により連結されうる(J.Zhangら、Org.Lett.(17):3115−8(2003))。
【0045】
ペプチド模倣物ならびに受容体アゴニストおよびアンタゴニストは、特定の生物学的機能および受容体結合について当該技術分野に既知のハイスループットスクリーニングを利用して選択かつ製造し得る。こうした方法の利用可能性は、さらなる開発のためのリード化合物を同定するための何百万もの無作為に製造された有機化合物およびペプチドの迅速なスクリーニングを可能にする。小分子およびペプチドのライブラリーをスクリーニングするのに使用される戦略、ならびに例えばEPO、GCSFおよびトロンボポエチンに対する模倣物およびアンタゴニストを見出すことにおける成功は、K.Kaushansky、Ann.NY Acad.Sci.938:131−138(2001)により総説される。
【0046】
アミノ酸を連結するアミド結合に対する多様な改変を本明細書に記述されるアゴニストおよびアンタゴニストに行うことができ、そしてこうした改変は当該技術分野で公知である。例えば、こうした改変は、Freidinger,R.M.“Design and Synthesis of Novel Bioactive Peptides and Peptidomimetics”J.Med.Chem.46:5553(2003)、およびRipka,A.S.、Rich,D.H.“Peptidomimetic Design”Curr.Opin.Chem.Biol.:441(1998)中を包含する全般的総説で論考されている。改変の多くは、コンホメーションの柔軟性を制限することによりペプチドの効力を増大させるよう設計されている。
【0047】
例えば、アゴニストおよびアンタゴニストは、Zuckermanらのペプトイド戦略、および例えばGoodman,M.ら(Pure Appl.Chem.68:1303(1996))のα改変のような、アミド結合の窒素若しくはα炭素上に付加的なアルキル基を包含することにより改変しうる。アミドの窒素およびα炭素は付加的な制約を提供するように一緒に連結しうる(Scottら、Org.Letts.:1629−1632(2004))。
【0048】
iii.結合
ポリペプチドは、送達のための治療的化合物を形成するように抗体若しくは抗体フラグメントに連結される。該抗体若しくは抗体フラグメントは、一態様において、ポリペプチドの安定性を増大させ、それにより哺乳動物の鼻腔および中枢神経系を包含するin vivoでのその半減期を増大させる。結合されたポリペプチド−抗体フラグメント化合物は本明細書で「ミメティボディ」ともまた称される。本節では、該2部分を連結するためのアプローチを記述する。
【0049】
抗体フラグメントおよびポリペプチドは、当該技術分野に既知の方法、および典型的には共有結合により相互に連結しうる。連結若しくは複合方法は、グリシンおよびセリンの使用を包含するアミノ酸リンカーの使用を包含しうる。フラグメントおよびポリペプチドは、当該技術分野に既知かつ例えばWong,S.S.、Chemistry of Protein Conjugation and Cross−Linking、CRC Press、フロリダ州ボカレイトン(1991)に論考される、架橋若しくは他の連結手順により複合若しくは別の方法で連結しうる。例えば、ポリペプチドは、当該技術分野に既知のホモ二官能性および/若しくはヘテロ二官能性または多官能性架橋剤を利用して複合しうる。架橋剤の例は、EDC(1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩)のようなカルボジイミド;イミドエステル、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、マレイミド、ピリジルジスルフィド、ヒドラジドおよびアリールアジドを包含する。抗体フラグメントのC末端へのペプチドのN末端の連結を包含する、有効成分ポリペプチドと抗体フラグメントの間のいくつかの結合点が予見される。ポリペプチドは、あるいはそのC末端で抗体フラグメントのN末端に結合しうる。複合はさらに、抗体のシステイン若しくは他のアミノ酸残基または炭水化物官能性部分を介しうる。
【0050】
iv.治療用ポリペプチド抗体化合物の製剤
治療用組成物中の有効成分ポリペプチドは、製薬学的に許容できる担体若しくは他のベヒクルと混合しうる。担体は、例えば点鼻薬若しくは鼻スプレーとしての投与に適する液体であることができ、そして、水、生理的食塩水、または他の水性若しくは有機および好ましくは滅菌の溶液を包含する。担体は、粉末、ゲル若しくは軟膏のような固体であることができ、そして、カオリン、ベントナイト、酸化亜鉛および酸化チタンのような無機増量剤;粘度改変剤、抗酸化剤、pH調節剤、溶解保護剤、およびショ糖を包含する他の安定性増強賦形剤、抗酸化剤、キレート剤;グリセロールおよびプロピレングリコールのような保湿剤;ならびに必要かつ/若しくは所望のとおり組み込みうる他の添加物を包含しうる。
【0051】
治療的化合物をゲル若しくは軟膏として投与する場合、担体は、例えば、ヒアルロン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、トウモロコシデンプン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、デキストリン、カルボキシメチルデンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、メトキシエチレン無水マレイン酸コポリマー、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドンのような天然若しくは合成のポリマー;ミツロウ、オリーブ油、カカオバター、ゴマ油、ダイズ油、ツバキ油、ラッカセイ油、牛脂、豚脂およびラノリンのような脂肪および油;白色ワセリン;パラフィン;炭化水素ゲル軟膏;ステアリン酸のような脂肪酸;セチルアルコールおよびステアリルアルコールのようなアルコール;ポリエチレングリコール;ならびに水を包含するこうした担体での使用に既知の製薬学的に許容できる基材物質のような適する固体を包含しうる。
【0052】
治療的化合物を粉末として投与する場合、担体は、オキシエチレン無水マレイン酸コポリマー、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドンポリビニルアルコール;ポリアクリル酸ナトリウム、カリウム若しくはアンモニウムを包含するポリアクリレート;ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、酢酸ポリビニル、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール;セルロース、結晶セルロース、およびα−セルロースを包含するセルロース;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびエチルヒドロキシエチルセルロースを包含するセルロース誘導体;α−、β−若しくはγ−シクロデキストリン、ジメチル−β−シクロデキストリンを包含するデキストリン;ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルデンプンを包含するデンプン;デキストラン、デキストリンおよびアルギン酸を包含する多糖;ヒアルロン酸;ペクチン酸;マンニトール、ブドウ糖、乳糖、果糖、ショ糖およびアミロースのような炭水化物;カゼイン、ゼラチン、キチンおよびキトサンを包含するタンパク質;アラビアゴム、キサンタンガム、トラガカントガムおよびグルコマンナンのようなガム;リン脂質、ならびにそれらの組合せのような適する固体でありうる。
【0053】
粉末の粒子径は、適切に大きさを決められたメッシュを通る篩過(screening)若しくは篩過(sieving)を包含する当該技術の標準的方法により決定しうる。粒子径が大きすぎる場合は、細断、切断、破砕、粉砕、微粉砕および微粉化を包含する標準的方法により大きさを調節し得る。粉末の粒子径は、典型的には約0.05μmから約100μmまでの範囲にわたる。粒子は好ましくは約400μmより大きくない。
【0054】
該組成物は、組成物の粘膜付着性、鼻寛容性若しくは流動特性を改良する剤すなわち粘膜付着剤、吸収増強剤、着臭剤、保湿剤および保存剤をさらに包含しうる。水性担体中の場合に該組成物の流動特性を増大させる適する剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒアルロン酸、ゼラチン、アルギン、カラギーナン、カーボマー、ガラクトマンナン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルデキストランナトリウムおよびキサンタンガムを包含する。適する吸収増強剤は、胆汁酸塩、リン脂質、グリチルレチン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、酒石酸アンモニウム、γアミノレブリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸およびオキザロ酢酸を包含する。水性組成物の適する保湿剤は例えばグリセリン、多糖およびポリエチレングリコールを包含する。適する粘膜付着剤は例えばポリビニルピロリドンポリマーを包含する。
【0055】
B.鼻送達
ポリペプチドに連結した抗体若しくは抗体フラグメントから構成される治療用組成物は多様な方法により投与することができ、そしていくつかの例示的方法を下に提供する。鼻腔に一旦導入された融合ポリペプチドの吸収は、鼻腔の上部1/3に見出される嗅覚上皮を横断する吸収を介して起こりうる。吸収は、鼻腔の下部2/3で三叉神経を支配している鼻呼吸上皮を横断してもまた起こりうる。三叉神経は、結膜、口腔粘膜、ならびに顔面および頭部の真皮のある領域もまた支配し、そして融合ポリペプチドの鼻内投与後のこれらの領域からの吸収もまた起こりうる。
【0056】
融合ポリペプチドの鼻内送達のための一例示的製剤は、鼻腔への液滴としての適用に適する液体製剤、好ましくは水に基づく製剤である。例えば、点鼻薬は頭を後方へ十分に傾けることにより鼻腔に注入し得、また、鼻孔に液滴を適用し得る。液滴は鼻に吸い込んでもまたよい。
【0057】
あるいは、液体製剤は、鼻腔を通る吸入のためそれがエアゾル化されうるように適切な装置に入れうる。例えば該治療薬はプラスチック製瓶噴霧器に入れうる。一態様において、噴霧器は、実質的な量のスプレーが鼻腔の上部1/3の領域若しくは部分に向けられることを可能にするよう有利に構成される。あるいは、スプレーは、実質的な量のスプレーが鼻腔の上部1/3の領域若しくは部分に向けられることを可能にするような方法で噴霧器から投与される。「実質的な量のスプレー」により、スプレーの最低約50%、さらに最低約70%、しかし好ましくは最低約80%若しくはそれ以上が鼻腔の上部1/3の部分に向けられることを本明細書で意味している。
【0058】
加えて、液体製剤は、定量噴霧吸入器のような吸入器を介してエアゾル化かつ適用しうる。好ましい装置の一例はDjupeslandへの米国特許第6,715,485号明細書に開示されかつ二方向送達の概念を伴うものである。該装置の使用において、封止ノズルを有する該装置の端部を一方の鼻孔に挿入し、そして患者若しくは被験体はマウスピースに息を吹き込む。呼気の間に軟口蓋が陽圧により閉鎖し、それにより鼻腔および口腔を分離する。閉鎖された軟口蓋と封止ノズルの組合せが気流を創製し、その中で薬物粒子が放出されて一方の鼻孔に進入し、連絡通路を通って180度曲がり、そして他方の鼻孔を通って出、かように二方向流を達成する。
【0059】
該融合ポリペプチドは当該技術分野で既知であるところの乾燥粉末の形態でもまた送達し得る。適する装置の一例は、名称DirectHalerTMで販売されかつPCT公開第96/222802号明細書に開示されている乾燥粉末鼻送達装置である。本装置は用量送達の間の鼻腔と口腔の間の通路の閉鎖もまた可能にする。乾燥製剤の送達のための別の装置は、商業的呼称OptiNoseTMで販売される装置である。
【0060】
C.処置の方法
なお別の局面において処置方法が提供される。該処置方法は、脳および/若しくは脊髄のような中枢神経系への治療薬の投与による処置の影響を受けやすい哺乳動物における障害を処置するのに有利に利用しうる。すなわち、該障害は、症状が低下若しくは別の方法で除外され、該障害の進行の速度が低下し、かつ/または中枢神経系に作用する剤により障害が除外されるものである。
【0061】
一態様において、方法は、ポリペプチドに連結若しくは別の方法で複合された抗体フラグメントの治療上有効な量を、上鼻甲介により占有される哺乳動物の鼻腔の領域若しくは部分の細胞および/若しくは組織のような哺乳動物の鼻腔に投与することを包含する。
【0062】
該方法は多様な障害を処置するのに治療しうる。適する障害は、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病のような神経学的および神経変性障害、ならびに多発性梗塞性痴呆、クロイツフェルト・ヤコブ秒、レヴィー小体病、正常圧水頭症およびHIV痴呆のような記憶喪失;または卒中、筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症およびデュシェーヌジストロフィーのような運動の喪失を引き起こす当該技術分野に既知の他の障害;肥満、糖尿病のような内分泌、代謝若しくはエネルギー均衡障害、ならびに不眠を包含する睡眠障害;多発性硬化症のような自己免疫障害;食思不振、ならびに卒中からの急性傷害若しくは脊髄の傷害の処置を包含する。
【0063】
一態様において、哺乳動物の中枢神経系への治療用組成物の送達方法は、哺乳動物に鼻内で、好ましくは上鼻甲介に位置する鼻腔の一領域の嗅覚および/若しくは三叉神経終末、細胞ならびに鼻上皮に該組成物を投与することを包含する。この領域(region)若しくは領域(area)は、典型的には、限定されるものでないが鼻腔の上部1/3の部分に位置する。
【0064】
該方法がその有利の結果を達成するいかなる理論にも制限されないとは言え、本明細書に記述される方法により鼻内適用される剤は、細胞外若しくは細胞内経路により直接脳に達しうる。例えば、Thorne,R.G.ら、Neuroscience127:481−496(2004)を参照されたい。細胞内経路は嗅覚ニューロンによる輸送を包含する。これは、例えば、嗅覚ニューロンへの吸収性若しくは受容体媒介性エンドサイトーシス、および嗅球糸球体へのその後の輸送を必要としうる。別の例として、こうした輸送は、該組成物が三叉神経節、および尾側亜核のような三叉神経脳幹核複合体(trigeminal brainstem nuclear complex)の一部に送達されるような三叉神経内の神経細胞内輸送を必要としうる。こうした細胞内経路では、治療薬は最初に鼻粘膜を通り輸送されうる。免疫グロブリンのFc部分(定常領域)を包含する抗体フラグメントは前述の経路の1つによってもまた送達されうるとは言え、送達経路の1つは、機構に依存して嗅覚上皮を横断する組成物の輸送を助長若しくは妨げうる新生児Fc受容体(FcRn)を有する鼻粘膜上皮中の細胞により取り込まれることを包含しうる。
【0065】
鼻腔を介する中枢神経系への組成物の進入の細胞外経路は、脳脊髄液への直接進入、鼻通路を嗅球および吻側脳領域と結合する系を包含する末梢嗅覚系のような嗅覚系と関連する通路、路若しくは区画を通るCNS実質中への進入;ならびに脳幹および脊髄と鼻通路を結合する系を包含する末梢三叉神経系のような三叉神経系と関連する通路、路若しくは区画を通るCNS実質への進入(Thorne,R.G.ら、Neuroscience 127:481−496(2004))を包含する。本明細書で使用されるところの直接輸送は、本明細書に記述される非全身経路の1種若しくはそれ以上を介する輸送を包含する。
【0066】
本明細書に記述される機構の1種若しくはそれ以上による直接中枢神経系への組成物の輸送は血液脳関門が迂回されることを可能にし、そして中枢神経系への剤の全身輸送を取り巻く関連する課題および欠点を克服する。加えて、本明細書に記述される方法により組成物を輸送することは、投与された用量のより大きな比率が中枢神経系の標的に達するため、使用されるべきより少ない組成物を可能にしうる。処置される被験体で内因性に産生される作用物質の投与の場合、該生理学的効果は該内因性作用物質に典型的に匹敵する。
【0067】
治療上有効な量の治療用組成物を提供する。本明細書で使用されるところの組成物の治療上有効な量は、特定の治療効果を達成するのに必要とされる組成物の量である。例えば、該量は、典型的には、障害の進行の減少、障害の症状の重症度の低下および/若しくは障害の除外のような明記された若しくは所望の臨床エンドポイントに達するのに必要とされるものである。この量は、当該技術分野で既知のところの、投与の時間、投与経路、処置の持続期間、使用される特定の組成物および患者の健康状態に依存して変動することができる。当業者は至適の投薬量を決定することが可能であろう。
【0068】
本明細書に記述される方法により組成物を鼻内投与することにより、静脈内、経口、筋肉内、腹腔内、経皮などを包含する全身投与に比較してより少量の組成物を投与しうることが実現される。本明細書に記述されるとおり鼻内投与される場合に所望の臨床エンドポイント若しくは治療効果を達成するのに必要とされる有効成分および/若しくは組成物の量は、全身投与に比較してより少ないことができる。加えて、本明細書に記述される送達および処置方法での鼻内への組成物の投与に際して、同一量の全身投与に比較して約5倍ないし約500倍、およびさらに約10倍ないし約100倍より少ない全身曝露が得られうる。さらに、同一量の全身投与に比較して最低約5倍、さらに最低約10倍、好ましくは最低約20倍、およびさらに最低約50倍より少ない全身曝露が得られうる。組成物の治療的有効性の決定において、特定の障害について当該技術分野に既知の臨床エンドポイントをモニターしうる。例えば、アルツハイマー病の適する臨床エンドポイントは、例えば、標準的方法により測定されるところの、記憶喪失、言語障害、混乱、情動不安および気分の揺れの低下;ならびに視覚情報を精神的に操作する改善された能力を包含する。
【0069】
ハンチントン病の適する臨床エンドポイントは、制御されない動きの低下、および知的能力の改善若しくはさらなる低下のないことを包含する。
【0070】
パーキンソン病の適する臨床エンドポイントは、例えば、とりわけ身体が休息している場合の四肢の特徴的振戦(震え(trembling)すなわち震え(shaking))の低下、(動作緩慢を克服するのを助けるための)動きの増加、(無動を克服するのを助けるための)改善された動く能力、より少なく硬直性の四肢、ひきずり歩行の改善、および改善された姿勢(特徴的な前傾姿勢の是正)を包含する。こうした臨床エンドポイントは標準的方法により観察されうる。他の適する臨床エンドポイントは、神経細胞変性の低下および/若しくは神経細胞変性のさらなる低下のないことを包含し、そして、例えば、コンピュータ支援断層撮影(CAT)走査、磁気共鳴画像化法、若しくは当該技術分野に既知の類似の方法を包含する脳画像化技術により観察しうる。
【0071】
肥満の適する臨床エンドポイントは、例えば体重、体脂肪、食物摂取量若しくはそれらの組合せの減少を包含する。
【0072】
不眠のような睡眠障害の適する臨床エンドポイントは、例えば、睡眠する能力の改善、およびとりわけ改善されたレム(REM)睡眠を包含する。
【0073】
多発性硬化症のような自己免疫障害の適する臨床エンドポイントは、例えば、脳傷害の数の減少、増大した四肢の強さ、または四肢の振戦若しくは麻痺の低下を包含する。脳傷害の数の減少は、本明細書に以前に記述された脳画像化技術により観察しうる。他の適する臨床エンドポイントは、例えば当該技術分野に既知の腰椎穿刺技術および脳脊髄液のその後の分析により決定されうる神経組織の炎症の低下を包含する。
【0074】
卒中を経験した個体において、適する臨床エンドポイントは、当該技術分野で既知かつ例えばNabavi,D.G.ら、Radiology 213:141−149(1999)に記述されるところのコンピュータ断層撮影法により決定されるところの冒された血管の血流の増大を包含する。さらなる臨床エンドポイントは、顔面、腕若しくは脚のしびれの低下;または卒中と関連する頭痛の強度の低下を包含する。なお別の臨床エンドポイントは、卒中による細胞、組織若しくは器官の損傷または死亡の減少を包含する。細胞若しくは組織の損傷のこうした減少は、本明細書に以前に記述された脳画像化技術若しくは当該技術分野に既知の類似の方法により評価しうる。
【0075】
統合失調症のような神経心理学的障害の適する臨床エンドポイントは、例えば異常行動の改善ならびに幻覚および/若しくは妄想の減少を包含する。
【0076】
本発明の方法により処置される患者若しくは被験体は、典型的には、こうした方法による処置の影響を受けやすい特定の1障害を有するものを包含する、こうした処置の必要なものである。患者若しくは被験体は、典型的にはヒトのような哺乳動物であるとは言え、他の哺乳動物もまた処置しうる。
{実施例}
【0077】
今や特定の具体的に説明する実施例に言及がなされる。該実施例は好ましい態様を具体的に説明するために提供されること、および範囲に対する制限をそれにより意図していないことが理解されるべきである。加えて、本明細書で引用される全部の文書は当業者の水準を暗示し、そしてここにそっくりそのまま引用することにより組み込まれる。
【実施例1】
【0078】
鼻内投与後のα−メラノサイト刺激ホルモンミメティボディの脳分布
本実施例は、α−メラノサイト刺激ホルモンミメティボディ(α−MSHミメティボディ)が本発明の方法により脳中の多様な領域に輸送され、そして、全身曝露を低下させる一方で鼻内投与約25分後に検出されたことを示す。本実施例は、脳に送達されたα−MSHミメティボディが送達後最低5時間までの間脳中に保持されることをさらに示す。
【0079】
方法
特許請求される方法を具体的に説明するためのモデルおよび例示的治療化合物として供するため、α−MSHミメティボディを製造した。α−MSHミメティボディは、本明細書で配列番号1として同定される治療的α−MSHポリペプチドおよびヒト免疫グロブリンG1(IgG1)モノクローナル抗体のFc部分よりなるホモ二量体の融合分子である。工作された融合ポリペプチドは組換えDNA法を使用して製造した。
【0080】
α−MSHミメティボディを、クロラミンT法を使用して、Amersham Biosciencesのヨウ素125カスタム標識サービスによりヨウ化した。125I標識したα−MSHミメティボディを、コールドの担体としての未標識α−MSHミメティボディと一緒に、8匹の麻酔ラット(Sprague Dawley、200〜250g)に鼻内若しくは静脈内投与した。鼻内薬物投与はドラフト中、鉛含浸シールドの後ろで実施した。各ラットを37℃の直腸プローブを伴う加熱パッド上に仰向けに置き;ラットの頭部を巻いた4×4ガーゼによりわずかに上昇させた。PBSに溶解した未標識ミメティボディに39μCiの125I標識α−MSHミメティボディを添加した。およそ13nmolすなわち0.8mgのα−MSHミメティボディを含有する総容量100μlを、麻酔下かつ仰向けに寝かせた間の若齢雄性ラットに15〜20分にわたり2分ごとに交互の鼻孔に10μl点鼻で投与した。静脈内投与のために、125I標識α−MSHミメティボディを総容量0.5ml(生理的食塩水で希釈した)中で尾静脈によるボーラス注入として送達した。ラットに全用量(鼻内に同等)若しくは鼻内用量の1/10(39μCiを含有する0.08mgすなわち1.3nmol α−MSHミメティボディ)いずれかを投与した。血液サンプルを5分ごとに25分まで採取した。薬物投与開始後約27分若しくは5時間に、ラットを灌流して血液に運ばれる標識を除去しかつ固定した。
【0081】
CNSおよび末梢器官中の125I標識α−MSHミメティボディの分布を、ラットでの鼻内若しくは静脈内送達後に評価した。脳、器官および末梢組織からの組織片を慎重に摘出し、重量測定しかつγ計数した。α−MSHミメティボディの濃度は、γ計数(定量分析)若しくは冠状脳切片のオートラジオグラフィー(定性分析)いずれかを使用して評価した。各組織片および血液中のナノモル濃度を、組織重量あたりのカウントの量および放射標識タンパク質の比活性に基づき決定した。
【0082】
結果
図1に見られるとおり、125I標識α−MSHミメティボディは、若齢雄性ラットへの鼻内送達後、投与後25分以内に多様なCNS組織中で検出され得る。図1は、125I標識α−MSHミメティボディの大部分が鼻内送達後5時間に保持されていることをさらに示し、α−MSHミメティボディの半減期が5時間以上であることを示唆する。125I標識α−MSHミメティボディが、α−MSHペプチドの作用の標的部位である視床下部に達したことが、より具体的に見られる(視床下部ニューロンのMCR4への結合)。加えて、視床下部(3nMのミメティボディ)が鼻内送達で標的とされるとは言え、全脳領域、とりわけ脳髄質、橋および前頭皮質への有意の送達が存在する。
【0083】
表1は、鼻内および静脈内投与した125I標識α−MSHミメティボディの分布をさらに比較する。
【表1】

【0084】
静脈内送達もまた視床下部を標的とする。しかしながら、静脈内投与での13.5より多い血液曝露(AUC)(表1ならびに図1および2を参照されたい)にもかかわらず、鼻内投与はより大きなCNS送達をもたらす。視床下部、前頭皮質および脳髄質へのペプチドの送達は、鼻内で静脈内投与よりそれぞれ7.5、6.5および18倍より高かった。
【0085】
表2は、ポリペプチドの組織濃度の多様な比を比較することにより鼻内(i.n.)および静脈内(i.v.)送達の相対的有効性を示す。とりわけ、送達後25分の血中ポリペプチド濃度に対する視床下部のポリペプチド濃度の比を、鼻内および静脈内双方の送達について表2に示す。送達後25分の肝のポリペプチド濃度に対する視床下部のポリペプチド濃度の比もまた、鼻内および静脈内双方の送達について表2に示す。鼻内送達は、静脈内送達がそうであったよりも、視床下部にポリペプチドを送達するのに、48および75倍の比により明示されるとおり有意により効果的であった。
【0086】
【表2】

【0087】
表1および図2中のデータは、125I標識α−MSHミメティボディの全身曝露が鼻内投与した場合に低かったこともまた示す。静脈内の1/10量の鼻内用量は、血液AUC(静脈内)/AUC(鼻内)比に基づき13.5倍より低い全身曝露、および鼻内投与された場合の肝のタンパク質濃度に対する静脈内投与された場合の肝のタンパク質濃度の比に基づき10.5倍より低い曝露をもたらした。さらに、ミメティボディの一貫した蓄積(17.1±μM)が、14動物全体で嗅覚上皮で創製され(上の表1を参照されたい)、また、試験タンパク質の嗅覚経路および三叉神経路の濃度は鼻内投与に際して同様であり、該タンパク質が嗅覚経路および三叉神経路を介してCNSに移動することを示す。等しい鼻内および静脈内用量を比較すれば、全身曝露は、CNSおよび視床下部に送達されるほぼ等量のタンパク質で、血中AUC(i.v.)/AUC(i.n.)比に基づき約96倍より低かった。
【0088】
図3は、125I標識α−MSHミメティボディの中枢神経系への送達が血液により二次的あることがありそうにないことを示す。例えば、図3に示されるとおり、静脈内投与に比較して鼻内投与により10倍より高い投薬量の125I標識α−MSHミメティボディにラットが曝露される場合、鼻内投与により中枢神経系中の125I標識α−MSHミメティボディのより高い蓄積が存在した。
【0089】
図4A−4Dは、鼻内(図4A、4C)若しくは静脈内(図4B、4D)での125I標識α−MSHミメティボディの投与25分後のラット脳の冠状切片のコンピュータ生成オートラジオグラフィーを示す。オートラジオグラフ中の色の濃い領域は高画像強度の領域に対応し、融合ポリペプチド送達の領域と相関する。鼻内で処置した動物に対応する図4A、4Cで見られるとおり、最高の画像強度は嗅索、視床下部および前頭皮質で観察された。これらの画像は定量的測定からの知見を確認する。
【実施例2】
【0090】
α−MSHの鼻内投与後の正常ラットにおける累積食物摂取量の用量依存性の減少
本実施例は、N−アセチル化α−メラノサイト刺激ホルモン(Ac−Ser−Tyr−Ser−Met−Glu−His−Phe−Arg−Trp−Gly−Lys−Pro−Val−NH2、配列番号1、Phoenix Parmaceuticals, INCにより供給される)の単一用量の鼻内投与が、用量依存性の薬力学的応答;とりわけ、6〜7nmolの24時間のED50を伴い、累積食物摂取量の減少を達成するのに十分であったことを示す。
【0091】
方法
各9ラットの2群を集成した。交差デザインで、各週一方の群はリン酸緩衝生理的食塩水(PBS)ベヒクルを投与し、そして他方の群はα−MSHペプチドを投与し;次週は各群に投与する処置を反転させた。試験前に、2週の馴化期間内に光周期をゆっくりと反転させた。ラットを各実験前24時間絶食させ(水は常に利用可能であった)、そして暗周期(すなわち消灯期間)の開始30分前に麻酔を受領した。2.5から50nmolまでの範囲にわたる薬物の単回投与若しくはリン酸塩−生理的食塩水緩衝ベヒクル対照を、実施例1に示される手順に類似に、麻酔の間におよそ20分にわたり鼻内投与した。ラットを加熱パット上に仰向けに置き、そしてそれらが活動性になるまで監視し、そしてその後予め重量測定した量の食物を伴うそれらのケージに入れた。食物摂取量の測定を2、4、8、24、48および72時間に行った。水の摂取量および体重を投与後24および48時間に測定した。
【0092】
結果および結論
図5に見られるとおり、鼻内α−MSHペプチドは、6〜7nmolのED50で、24時間に2.5〜25nmolの間で用量依存性に累積食物摂取量を減少させる。
【0093】
図6に示されるとおり、25〜50nmolの単回投与は累積食物摂取量パーセントの低下において最大に有効であった。25nmol用量は、累積食物消費量を2時間で30%、8時間で18%、および24時間で9%減少させた。水消費量および体重は不変のままであった。本研究は、哺乳動物への鼻内投与後のポリペプチドの用量依存性の薬力学的効果を示す。
【実施例3】
【0094】
α−MSHミメティボディの鼻内投与後の正常ラットでの累積食物摂取量の減少
本実施例は、25nmol(5mg/kg)のα−MSHミメティボディの単一用量の鼻内投与が8および24時間に累積食物摂取量を有意に減少させるのに十分であることを示す。水消費量および体重は不変のままであった。
【0095】
方法
使用した試験プロトコルおよび方法は実施例2に記述されたと同一であった。ラットの総数は14であった。
【0096】
結果および結論
図7に見られるとおり、25nmolの鼻内送達されるα−MSHミメティボディの単回投与は、48および72時間での減少に向かう統計学的に有意でない傾向を伴い、8および24時間に累積食物摂取量の減少に対する有意の効果を有した。後の時間点での有意性は、該試験で使用した動物の比較的少数(n=14)により喪失されたことがありそうであった。該試験は、α−MSHミメティボディのような62kDの大型タンパク質が鼻投与経路を介してCNSに送達され得ることを示す。
【0097】
多数の例示的局面および態様を上で論考した一方、当業者は、それらのある種の改変、置換および小結合を認識するであろう。従って、以下の付随する請求の範囲および今後導入される請求の範囲は、全部のこうした改変、置換、追加および小結合を、それらの真の技術思想および範囲内にあるように包含すると解釈されることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】実施例1により完全に記述されるところの、125I−α−メラノサイト刺激ホルモン(125I−α−MSH)ミメティボディの鼻内投与25分(白棒)および5時間(点棒)後のラットでの125I−α−MSHミメティボディの分布を示すグラフである。
【図2】実施例1により完全に記述されるところの、ラットへの125I−α−MSHミメティボディの鼻内(◆)若しくは静脈内(■)投与後の送達後時間(分)の関数としての125I−α−MSHミメティボディの血中濃度(nmol)を示すグラフである。
【図3】実施例1により完全に記述されるところの、125I−α−MSHミメティボディの鼻内(白棒)若しくは静脈内(点棒)いずれかの投与後のラットの中枢神経系および末梢組織中の125I−α−MSHミメティボディの分布を比較するグラフである。
【図4A−4D】実施例1により完全に記述されるところの、125I−α−MSHミメティボディの鼻内(図4A、4C)若しくは静脈内(図4B、4D)いずれかでの投与25分後のラット脳の冠状切片のコンピュータ生成したオートラジオグラフを示す。
【図5】変動する用量(nmol)のα−MSHミメティボディでの鼻内処置24時間後のラットでの累積食物摂取量の減少(グラム)を示すグラフである。
【図6】2.5nmol(◆)、6.25nmol(■)、25nmol(△)若しくは50nmol(○)の用量のα−MSHミメティボディでの鼻内処置後の時間(時間)の関数としてのラットでの累積食物摂取量の減少パーセントを示すグラフである。
【図7】鼻内投与したα−MSHミメティボディ(白棒)若しくは生理的食塩水(点棒)での処置後の示される時間でのラットでの累積食物摂取量(グラム)を示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用ポリペプチドおよび抗体フラグメントから構成される組成物の治療上有効な量を鼻内投与することを含んでなる、哺乳動物の中枢神経系への治療用組成物の送達方法。
【請求項2】
組成物が鼻上皮を横断して吸収される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリペプチドが、メラノコルチン受容体アゴニスト、成長ホルモン放出因子受容体アゴニスト、バソプレシン受容体アゴニスト、ホルモンペプチドYYアゴニスト、ニューロペプチドY受容体アゴニスト、およびエリスロポエチン受容体アゴニストから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ポリペプチドが、メラノコルチン受容体アンタゴニスト、成長ホルモン放出因子受容体アンタゴニスト、バソプレシン受容体アンタゴニスト、ホルモンペプチドYYアンタゴニスト、ニューロペプチドY受容体アンタゴニスト、若しくはエリスロポエチン受容体アンタゴニストから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
メラノコルチン受容体アゴニストがメラノサイト刺激ホルモンペプチドであり、かつ、治療用組成物が視床下部に輸送される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
ポリペプチドがメラノコルチン受容体アンタゴニストであり、かつ、治療用組成物が視床下部に輸送される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
抗体フラグメントが、IgGフラグメント、IgEフラグメント、IgMフラグメント、IgAフラグメントおよびIgDフラグメントよりなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
抗体フラグメントが、IgG、IgM、IgA、IgEおよびIgDよりなる群から選択される抗体の定常領域を含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ポリペプチドが抗体フラグメントに連結されている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ポリペプチドに抗体若しくは抗体フラグメントを結合して融合ポリペプチドを形成すること;および
該融合ポリペプチドを鼻内投与すること
を含んでなる、中枢神経系へのポリペプチドのターゲティング方法。
【請求項11】
ポリペプチドが治療用ポリペプチドである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
抗体若しくは抗体フラグメントが治療用抗体若しくは抗体フラグメントである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
ポリペプチドが疎水性でありかつ約25kDa未満の分子量を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
抗体フラグメントに連結されたポリペプチドから構成される組成物の治療上有効な量を哺乳動物に鼻内投与することを含んでなる処置方法。
【請求項15】
処置が、哺乳動物の中枢神経系に組成物を投与することにより処置されうる障害のためである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
障害が代謝若しくは内分泌障害である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
代謝若しくは内分泌障害が肥満若しくは食思不振である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
障害が記憶喪失若しくは運動喪失をもたらすものである、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
障害が神経変性障害である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
神経変性障害が、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
障害が睡眠障害であるか若しくは急性脳傷害による、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
睡眠障害が不眠であり、かつ、急性脳傷害が卒中からである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
組成物が鼻上皮組織中に吸収される、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
鼻内投与が、嗅覚経路若しくは三叉神経路による中枢神経系への組成物の送達を達成する、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
ポリペプチドが、メラノコルチン受容体アゴニスト、成長ホルモン放出因子受容体アゴニスト、バソプレシン受容体アゴニスト、ホルモンペプチドYYアゴニスト、ニューロペプチドY受容体アゴニスト、およびエリスロポエチン受容体アゴニストから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
ポリペプチドがメラノコルチン受容体アゴニストであり、かつ、該組成物が視床下部に輸送される、請求項14に記載の方法。
【請求項27】
抗体フラグメントが、IgGフラグメント、IgEフラグメント、IgMフラグメント、IgAフラグメントおよびIgDフラグメントよりなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項28】
抗体フラグメントが、IgG、IgE、IgM、IgAおよびIgDよりなる群から選択される抗体からの定常領域を含んでなる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
抗体若しくは抗体フラグメントの治療上有効な量を含んでなる治療用組成物を哺乳動物に鼻内投与することを含んでなる処置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A−4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−531560(P2008−531560A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557028(P2007−557028)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/003110
【国際公開番号】WO2006/091332
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】