説明

中空構造を有する金属材料、金属粒子およびその製造方法

【課題】従来の中空構造を有する金属材料の製法としては、溶融時に増粘材と発泡核材を用いる鋳造法や金属粉末に高分子材料を混ぜ成型する粉末法があるが、セル形態の制御が不可能で空洞の大きさもミリオーダになる点や金属粉末の作成が困難かつ危険性を有する点などが問題とされている。本申請技術は前記問題を解決し、金属内部に中空構造を付与することを課題とする。
【解決手段】溶融状態にある金属に、中空構造を有する粒子を混錬・分散後、固化させることにより、中空構造を有した金属材料または金属粒子が生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空構造を有する粒子を使用して製造した中空構造を有する金属材料、金属粒子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部が気体の中空構造を有する金属材料は、中空構造を持たない材料に比べて密度が低く、熱や音の伝達を抑制する構造を持つため、自動車などのエネルギー削減につながる高強度・低比重の構造部材や、音響特性・伝熱特性を制御可能な構造部材などに用いられる。また内部に中空構造を含有する金属粒子は、中空構造を持たない材料にくらべて密度が低いため、粒子の沈降が問題となるMR(Magneto-Rheological)粒子やER(Electro−Rheological)粒子などに期待されている。本申請での金属粒子は外部体積の等価直径5mm以下の金属構造体と定義する。
【0003】
従来の中空構造を有する金属材料の製法としては、大きく分けて溶融時に増粘剤と発泡核剤を用いて溶融金属中に発泡核剤由来の中空構造を作る鋳造法(非特許文献1)、あるいは金属粉末に高分子材料を混ぜて成型する粉末焼結法(非特許文献2)がある。
【0004】
鋳造法としては、金属を加熱して溶融させた後、温度を下げて溶融金属に粘性を付与したあと発泡剤を添加して、発泡反応状態にある発泡溶融金属を成形する方法(特許文献1)、溶融金属に増粘剤を添加して攪拌し、これに発泡剤を添加し、鋳型内で発泡充満させてから急冷する方法(特許文献2)がある。
【0005】
粉末焼結法としては、金属粉末、バインダ、水溶性粉末および水溶性高分子材料を混練し、水によって水溶性粉末及び水溶性高分子材料を抽出、除去後、焼成することにより、金属多孔体を得る方法(特許文献3)、ポアの空間をスペーサー材料によって確保して、金属とスペーサーを圧縮成型したあと、スペーサーを除去することにより、ポーラス金属材料を製造する方法(特許文献4)、多孔質の有機高分子材料を分散剤含有水溶液と金属粉末を混合した液に含浸し、乾燥後非酸化性ガス雰囲気中で加熱することにより有機高分子材料を脱脂し更に原料粉末を焼結する方法(特許文献5)などがある。
【0006】
また、粒子を用いて多孔質材料を作り出す手法としては、水を内包するマイクロカプセルを金属アルコキシドと共存させ、加水分解反応により多孔質セラミックスを製造する方法などがある(特許文献6参照)。
【0007】
また、中空の粒子を作り出す手法としては、気泡の表面において液相中の物質同士を重合させて固体膜を生み出して中空粒子化する方法(特許文献7、非特許文献3)、有機材料のコア微粒子を金属化合物によって被覆した複合粒子を作成した後、空気または酸素存在下で加熱することにより、コア微粒子の有機材料を分解ガス化させて粒子内部に空孔をもたせる方法(特許文献8、9)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−233428号公報
【特許文献2】特開2002−371327号公報
【特許文献3】特開2000−17349号公報
【特許文献4】特開2004−292888号公報
【特許文献5】特開平5−287329号公報
【特許文献6】特開平6−293577号公報
【特許文献7】特開2007−196223号公報
【特許文献8】特開平6−7670号公報
【特許文献9】特開平7−136489号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Acta Materialia,vol.49,pp.1677−1686,2001.
【非特許文献2】Advanced Engineering Materials,vol.2,pp.168−174,2000.
【非特許文献3】Journal of Physical Chemistry B,vol.111,pp.8879−8884,2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記の背景技術において、溶融時に増粘剤と発泡核材を用いる方法は、溶融金属の粘度向上のために添加元素を加えるため、セル形態が制御できないこと、中空構造のサイズも数ミリオーダーと大きくなってしまうことが問題である。
【0011】
前記の背景技術における金属粉末に高分子材料を混ぜ成型する方法は、金属粉末作成が困難・危険であること、大型成型品の作製が困難であることが問題である。
【0012】
前記の背景技術におけるマイクロカプセルを利用した多孔質セラミックスの製造方法は、内部に水が入った中実構造のマイクロカプセルを用いており、直接中空構造を生み出せないこととセラミックスを対象としており金属での作成例がないことが問題である。
【0013】
前記の背景技術におけるコア微粒子の有機材料を分解ガス化させて粒子内部に空孔をもたせる方法は、気化した樹脂を除去する行程が必要となり工程が複雑化する上、独立した中空構造ができにくいことが問題である。
【0014】
また、前記の背景技術における気泡の表面において液相中の物質同士を重合させて固体膜を生み出して中空粒子化する方法は、十分な耐熱性および耐久性を有しておらず、中空構造が容易に破損してしまうことが問題である。
【0015】
本発明は、中空構造を有する固体粒子を用いることで、前記の従来の中空構造を有する金属あるいは金属粒子が有する問題を解決することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明における中空構造を有する粒子を使用して製造した中空構造を有する金属材料、金属粒子およびその製造方法では、溶融状態にある金属に、中空構造を有する粒子を混錬・分散後、固化させることにより、中空構造を有した金属材料または金属粒子が生成する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る中空構造を有する粒子を使用して製造した中空構造を有する金属材料、金属粒子およびその製造方法によって以下の効果を得ることができる。
(1)中空構造を有し金属の融点以上もしくは同等の融点を持つ粒子を添加すれば混錬工程のみで、簡便に金属材料または金属粒子中に中空構造を付与することができる。
(2)分級操作などにより中空構造を有する粒子の径や比重を制御することで、金属材料または金属粒子の中空構造の径、形状、比重を容易に変えることができる。
(3)金属中に中空構造を付与することができるため、音や熱の伝達を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の構成を示した図である。
【図2】本発明で得られる金属粒子の生成過程で生じる2次粒子を示した図である。
【図3】実施例1で得られた中空構造を有する金属材料の断面の光学顕微鏡画像である。
【図4】実施例2で得られた中空構造を有する金属材料の断面の光学顕微鏡画像である。
【図5】実施例3で得られた中空構造を有する金属粒子の光学顕微鏡画像である。
【図6】実施例4で得られた中空構造を有する金属材料の断面の光学顕微鏡画像である。
【図7】実施例4で生成した金属にパルスレーザによって広帯域の超音波を誘起して超音波伝播特性を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明における中空構造を有する金属材料または金属粒子の製造方法では、溶融状態の金属中に中空構造を有する粒子を添加して混錬後、固化させることによって中空構造を有する金属材料または金属粒子が生成する。以下、本発明を実施するための最良の形態について図1を参照して説明する。
【0020】
本発明を実施するための最良の形態では、容器1に金属2と中空構造を有する粒子3をいれ、加熱手段4によって金属2を溶融させたあと、混錬手段5によって、中空構造を有する粒子3は金属2の溶融体中に分散される。中空構造を有する粒子3の分散後、冷却手段6によって溶融状態の金属2を固化させることによって、中空構造を有する金属材料または金属粒子7が生成する。
【0021】
前記容器1については、溶融させる金属2の融点以上で安定に形状を保持できるものであれば特に限定されるものではないが、アルミナ、石英、フッ素樹脂、ニッケル、ステンレス製のるつぼなどが例示される。
【0022】
前記金属2の種類については、加熱手段によって溶融状態に相変化する材料であれば特に限定されるものではないが、中空構造を有する粒子4の添加および混錬による分散を容易に行うために、融点800℃以下の金属が好ましく、SnSbCu合金、SnPb合金、SnPbCd合金、SnBiCd合金、SnBi合金、より具体的には、ホワイトメタル(SnSbCu合金)やUアロイ(SnBi合金)が例示される。
【0023】
前記中空構造を有する粒子3については、中空構造を有し、溶融した金属2中に添加するまで粒子形状を維持できる粒子であれば、特に限定されるものではないが、混錬の容易性や中空構造の優位性の観点から、直径は5mm以下、粒子の体積に対して10%以上の中空構造を有する粒子が好ましい。また、中空構造を有する粒子3が形状を保つことができる耐熱温度については、金属2の溶融体中に微細な気泡を分散できれば溶融金属中に中空構造が形成されるため、瞬時に粒子が溶解しなければ特に限定されるものではないが、金属2中で1秒以上形状を保持できることが好ましく、より好ましくは粒子の融点が金属2の融点以上であることが望ましい。具体的な中空構造を有する粒子としてはメラミン中空マイクロカプセル(特許文献7)、シリカ中空粒子(Glassbubbles、スリーエム)、などが例示される。また、本手法で生成される中空構造を有する金属粒子を、中空構造を有する金属材料を生み出す粒子として使用することも好適な例として挙げられる。
【0024】
本発明における容器1に入れる金属2に対する中空構造を有する粒子3の体積比が大きい場合、図2に示すような金属2の溶融体の外部および内部に中空構造を有する粒子3が付着した2次粒子が形成する。前記2次粒子中の金属2の溶融体が混錬中の環境温度あるいは冷却手段6によって固化させることによって、中空構造を有する金属粒子が生成する。中空構造を生み出す際の前記金属2に対する中空構造を有する粒子3の体積比については、中空構造を有する粒子3が金属2の液滴に少なくとも一部が付着あるいは内包されればよく、特に指定されるものではないが、中空構造を有する金属粒子を生み出す際には、金属2の体積に対し50%以上、より好ましくは300%以上の体積の中空構造を有する粒子3を入れることが望ましい。また、本手法によって形成する中空構造を有する粒子の最小径については、中空構造を有する粒子3の大きさに依存して小さくなるため、中空構造を有する粒子3の大きさは直径1mm以下、より好ましくは100μm以下であることが望ましい。
【0025】
前記加熱手段4については、金属の溶融に用いられる既知の加熱手段を用いれば特に限定されず、好ましくは、電気加熱炉、オイルバス、ホットプレートスターラーなどが例示される。
【0026】
前記混錬手段5については、金属2の溶融体中に中空構造を有する粒子3を分散させることができれば、特に限定されるものではないが、攪拌棒、ホモジナイザー、押出混錬による混錬などが例示される。また、混錬を行う際に、金属が溶融状態を保つことができれば、混錬中の加熱手段4の使用は必須ではない。
【0027】
前記冷却手段6については、溶融状態にある金属2を融点以下に下げることができれば特に制限はないが、速やかに冷却する際には、水による冷却、低温恒温器による冷却が例示される。また、常温・常圧で金属が固化する場合には、冷却手段は必須ではない。
【0028】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
ホワイトメタル25mlを30mlのアルミナるつぼにいれ、400℃に設定した電気炉によって十分加熱し、ホワイトメタルを溶融状態にする。前記溶融金属に水ガラスでコーティングした平均径100μmで内部がほぼ空洞(膜厚1μm以下)のメラミン中空マイクロカプセル(特許文献7)を5ml添加し、ステンレス製の攪拌棒によって約60rpmで15分間混錬する。攪拌棒を引き抜き、室温で静置すると溶融状態のホワイトメタルが固化し、内部に中空構造を有する金属が生成する。実施例1によって生成した金属の断面の光学顕微鏡画像を図3に示す。図3に示すように金属内部に大きさ100〜500μm程度の空洞が確認できることから、メラミン中空マイクロカプセルの空洞に由来する中空構造を有する金属の作成が確認された。
【実施例2】
【0030】
ホワイトメタル15ml、前記溶融金属に水ガラスでコーティングした平均径100μmで内部がほぼ空洞(膜厚1μm以下)のメラミン中空マイクロカプセル(特許文献7)15mlを30mlのアルミナるつぼにいれ、400℃に設定した電気炉によって十分加熱し、ホワイトメタルを溶融状態にする。溶融状態のホワイトメタルとメラミン中空マイクロカプセルが入ったるつぼをステンレス製の攪拌棒によって約60rpmで15分間混錬する。攪拌棒を引き抜き、室温で静置すると溶融状態のホワイトメタルが固化し、内部に中空構造を有する金属が生成する。実施例2によって生成した金属の断面の光学顕微鏡画像を図4に示す。図4に示すように金属内部に大きさ100〜500μm程度の空洞が確認できることから、メラミン中空マイクロカプセルの空洞に由来する中空構造を有する金属の作成が確認された。また、実施例1(図3)に比べて実施例2(図4)の金属断面中に見られる中空構造の頻度が大きいことから、中空構造を有する粒子の投入量によって、金属材料中に有する中空構造の量を変化させることが可能であることを確認した。
【実施例3】
【0031】
ホワイトメタル10ml、平均径16μmで内部に直径約14μmの空洞を持つシリカ中空粒子(Glassbubbles iM30K、スリーエム)20mlを30mlのアルミナるつぼにいれ、400℃に設定した電気炉によって十分加熱し、ホワイトメタルを溶融状態にする。溶融状態のホワイトメタルとシリカ中空粒子が入ったるつぼをステンレス製の攪拌棒によって約60rpmで15分間混錬する。本実施例では、シリカ中空粒子の量が多いため、溶融状態のホワイトメタルが中空粒子によって包まれたパウダー状の2次粒子が生成する。攪拌棒を引き抜き、室温で静置すると溶融状態のホワイトメタルが固化し、表面および内部に中空構造を有する直径20μmから5mmの金属粒子が生成する。実施例3によって生成した金属粒子の光学顕微鏡画像を図5に示す。図5に示すように金属表面に10〜20μmの中空粒子が付着した直径約500μmの粒子が確認できることから、金属表面にシリカ中空粒子内部の空洞に由来する中空構造を有する金属粒子の作成が確認された。
【実施例4】
【0032】
実施例3によって作成した中空構造を有する金属粒子20mlを30mlのアルミナるつぼにいれ、更にるつぼにホワイトメタルを10ml追加し再度400℃に設定した電気炉によって十分加熱する。追加したホワイトメタルが溶融状態になった後、溶融状態のホワイトメタルとシリカ中空粒子が入ったるつぼをステンレス製の攪拌棒によって約60rpmで15分間混錬する。攪拌棒を引き抜き、室温で静置すると溶融状態のホワイトメタルが固化し、内部に中空構造を有する金属が生成する。実施例4によって生成した金属の断面の光学顕微鏡画像を図6に示す。図6に示すように金属内部に環状で外形が約1mm程度の空洞が確認できることから、実施例3で生成した中空構造を有する金属微粒子の外周に付着したシリカ中空粒子の空洞に由来する中空構造を有する金属の作成が確認された。
【0033】
実施例4で生成した金属にパルスレーザによって広帯域の超音波を誘起して超音波伝播特性を測定した結果を図7に示す。図7では、比較対象の中空構造を持たない金属に比べて実施例4で生成した金属では、金属に伝わる振動の高周波成分が全てカットされていることを示しており、固有の特性を有していることが確認できる。
【0034】
なお、以上の説明は、例示したものであり、本発明は前記実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明で得られる中空構造を有する金属材料は高強度・軽量・高減衰特性素材であるため、衝撃緩衝部材や減衰材料などへの応用が期待される。また、本発明で得られる中空構造を有する金属粒子は金属材料でありながら付着あるいは内包する中空粒子の量に応じて、比重を調整することができるため、粒子の沈降が問題とされるMR(Magneto-Rheological)粒子やER(Electro−Rheological)粒子などへの応用が期待される。
【符号の説明】
【0036】
1 容器
2 金属
3 中空構造を有する粒子
4 加熱手段
5 混錬手段
6 冷却手段
7 中空構造を有する金属材料または金属粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の金属に中空構造を有する固体粒子を分散させた後で冷却固化させることを特徴とする中空構造を有する金属材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で製造した中空構造を有する金属材料。
【請求項3】
溶融状態の金属に中空構造を有する固体粒子を分散させた後で冷却固化させることを特徴とする中空構造を有する金属粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法で製造した中空構造を有する金属粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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