説明

中空糸多孔膜および水処理方法

【課題】無機物および/または有機物を含有する液体の処理に好適な、低コストで、しかも膜に損傷を与えることなく、ファウリングを抑制し、高いろ過性能を達成できる中空糸多孔膜および水処理方法を提供すること。
【解決手段】外周部に、長手方向に連続した突起を有する中空糸多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸多孔膜および水処理方法に関する。本発明は、具体的には、外周部に突起を有する中空糸多孔膜、および該中空糸多孔膜を用いて無機物および/または有機物を含有する水を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、限外ろ過膜、精密ろ過膜などの多孔膜は、電着塗料の回収、超純水からの微粒子除去、パイロジェンフリー水の製造、酵素の濃縮、発酵液の除菌・清澄化、上水・下水・排水処理など、幅広い分野で用いられている。特に中空糸多孔膜は、単位体積あたりの膜充填密度が高く、処理装置をコンパクト化できることなどから、広く用いられている。
また、被処理液を中空糸多孔膜の外表面側から内表面側へろ過する外圧ろ過方式は、被処理液を中空糸多孔膜の内表面側から外表面側へろ過をする内圧ろ過方式に比べて、ろ過に寄与できる有効膜面積が大きく確保できるため、単位体積当たりの処理水量を多くすることができ、造水コストの縮減の要求が厳しい上水・下水・排水の処理に広く採用されている。
【0003】
中空糸多孔膜を用いて、各種被処理液をろ過する場合、該被処理液に含まれる無機物および/または有機物の一部は、膜細孔内もしくは膜表面に吸着、閉塞または堆積し、いわゆる濃度分極層やケーク層を形成する。その結果、いわゆるファウリング現象が生じ、中空糸多孔膜のろ過性能は、純水をろ過した場合の透過流束に比べて、数分の1から数十分の1まで低下する。この様なファウリング現象によりろ過性能が低下すると、より多くの膜面積が必要となり、膜ろ過設備が大きくなるため、建設コストおよび運転コストが上昇し、大きな問題となっている。
【0004】
この様なファウリング現象を抑制する方法として、特許文献1および2には、化学薬品を用いる方法が開示されている。
特許文献1には、酸化力の高いオゾン含有水を半透膜に供給する方法が開示されており、特許文献2には、逆流洗浄水に膜洗浄剤、酸化剤、酸、塩基性化合物および界面活性剤などの薬剤を添加する方法が開示されている。
また、特許文献3には、中空糸膜収納容器に空気を導入し、容器内の液体を振動させ、中空糸膜表面に付着した微粒子を除去する方法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献4〜7には、中空糸膜の形状をコントロールすることにより、ファウリング現象を抑制する方法が開示されている。
特許文献4には、中空糸に蛇行形状のクリンプを付与することにより、ファウリング現象を抑制する方法が開示されている。
特許文献5〜7には、中空糸膜の外周に突起を付与し、中空糸同士の接触による膜面積の減少や液の滞留による処理性能の低下を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57−194005号公報
【特許文献2】特開平8−1158号公報
【特許文献3】特開昭60−19002号公報
【特許文献4】特開昭57−194007号公報
【特許文献5】特開昭58−169510号公報
【特許文献6】特開昭63−21914号公報
【特許文献7】特開昭48−75481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に開示された化学薬品を用いたファウリング抑制方法は、化学薬品の購入および廃液処理に多額の費用を要し、またこれらの化学薬品が膜の劣化を引き起こし、膜寿命が短くなる問題がある。
特許文献3に開示されたファウリング抑制方法は、洗浄効果は高いものの、膜面に微粒子が付着した状態で膜同士が擦れあうため、膜表面の細孔がつぶれてろ過性能が低下する擦過の問題がある。
特許文献4に開示された中空糸にクリンプを付与する方法では、中空糸長手方向でのクリンプの周期が数mm〜数十mmと長いため、膜面全体に亘って液体の流れをコントロールすることができず、その結果、ファウリングに斑が生じ、十分に効果を得ることができない問題がある。
特許文献5〜7に開示された方法では、主として糸同士の密着を防止するためのスペーサーとして突起を付与しているため、膜面での水の流れを十分にはコントロールできず、ファウリングの抑制に十分な効果が得られない問題がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、無機物および/または有機物を含有する液体の処理に好適な、低コストで、しかも膜に損傷を与えることなく、ファウリングを抑制し、高いろ過性能を達成できる中空糸多孔膜および水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、中空糸多孔膜の外周に中空糸多孔膜の長手方向に連続した突起を付与することが、ファウリングを効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)外周部に、長手方向に連続した突起を有する中空糸多孔膜。
(2)突起の幅が50〜250μmであり、かつ突起の高さが20〜300μmである、(1)に記載の中空糸多孔膜。
(3)突起の数が8個以上250個以下である、(1)または(2)に記載の中空糸多孔膜。
(4)内径が50〜2000μmであり、かつ膜厚が50〜1000μmである、(1)から(3)のいずれか一項に記載の中空糸多孔膜。
(5)(1)から(4)のいずれか一項に記載の中空糸多孔膜を用いて、無機物および/または有機物を含有する被処理液を前記中空糸多孔膜の外表面側から内表面側へろ過する工程を含む、水処理方法。
(6)前記中空糸多孔膜の内表面側から前記外表面側へ、前記中空糸多孔膜を逆流洗浄する工程をさらに含む、(5)に記載の水処理方法。
(7)前記中空糸多孔膜の外表面側に空気を供給し、前記中空糸多孔膜を揺動して、空気洗浄する工程をさらに含む、(5)または(6)に記載の水処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、膜に損傷を与えることなく効果的にファウリングを抑制でき、低コストで水処理が可能となる中空糸多孔膜を提供することができる。
また、本発明によれば、無機物および/または有機物を含有する被処理液を、低コストで、高いろ過性能で処理する水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】中空糸多孔膜の膜長手方向に直交する断面の模式図を示す。
【図2】中空糸多孔膜のろ過性能を評価するための装置の概略図を示す。
【図3】中空糸多孔膜のろ過時間−透過流束保持率J/J0の測定結果のグラフを示す。
【図4】中空糸多孔膜の逆洗回数−逆流洗浄回復率nRFの測定結果のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施の形態という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して用いることができる。
【0013】
[中空糸多孔膜]
本実施の形態の中空糸多孔膜は、外周部に、長手方向に連続した突起を有する中空糸多孔膜である。
本実施の形態において、「外周部」とは、中空糸多孔膜の外表面部を意味する。
本実施の形態において、「長手方向」とは、中空糸膜の外周円に対し直行する方向を意味する。
本実施の形態において、「連続した突起を有する」とは、任意の箇所における、中空糸膜の長手方向と直行する外周円方向の断面が略同様の突起構造を有していることを意味する。
【0014】
本実施の形態の中空糸多孔膜は、膜表面に細孔を有する多孔膜である。
細孔径は、好ましくは1nm〜10μm、より好ましくは2nm〜1μmである。
細孔径が1nm以上であれば、膜のろ過抵抗が低く、十分な透水性能が得られ、また、10μm以下であれば、分離性能にも優れた膜が得られる。
本実施の形態において、細孔径は、粒子径が既知の指標物質をろ過し、阻止率が90%以上である指標物質の大きさを細孔径とすることにより測定することができる。
具体的には、指標物質として、単分散ポリスチレン粒子を用いることにより、20〜30nm以上の細孔径を有する膜の測定を行うことができ、また、指標物質として、タンパク質を用いることにより、20〜30nm以下の細孔径を有する膜の測定を行うことができる。
【0015】
本実施の形態の中空糸多孔膜は、中空部を有する多孔膜である。
中空糸多孔膜の内径(中空部分に相当する。)は50μm〜2mmであることが好ましい。
内径が50μm以上であれば、ろ過水が中空部を流れる時に発生する圧力損失を低く抑えることが可能であり、また、2mm以下であれば、単位体積当たりの膜充填密度を高くすることができ、コンパクト化が可能である。
中空糸多孔膜の膜厚は50μm〜1mmであることが好ましい。
膜厚が50μm以上であれば、外圧ろ過式中空糸多孔膜に求められる十分な圧縮強度を得ることができ、また、1mm以下であれば、単位体積当たりの膜充填密度を高くすることができ、コンパクト化が可能である。
本実施の形態の中空糸多孔膜は、内径が50μm〜2mmであり、かつ膜厚が50μm〜1mmであることが好ましく、内径が100μm〜1mmであり、膜厚は100μm〜500μmであることがより好ましい。
本実施の形態において、中空糸多孔膜の内径および膜厚は、以下の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0016】
本実施の形態において、中空糸多孔膜の空隙率は、20%〜90%であることが好ましい。
空隙率が20%以上であれば、優れた透水性能を有し、また、90%以下であれば、実用的な強度特性を有する膜を得ることが可能である。
本実施の形態において、空隙率は、中空部を除いた細孔内に水を含浸した中空糸多孔膜の湿潤状態の質量と絶乾状態の質量との差分を、中空部を除く膜体積で除することで測定することができる。
【0017】
本実施の形態において、中空糸多孔膜は、高分子膜、無機膜のいずれの膜でもよいが、製膜の自由度が高く、かつ安価に製膜できることから高分子膜が好ましい。
高分子多孔膜は、二重環式の紡糸口金より高分子を吐出し、ついで、相分離法、延伸開孔法、およびトラックエッチング法などにより多孔膜とすることにより製造することができる。
例えば、相分離法としては、高分子を溶解できる溶媒に、高分子を溶かし、その後、二重環式の紡糸口金より中空材として水や溶媒と共に吐出し、非溶剤と接触させ、相分離を誘起する非溶剤誘起相分離法や、高分子を常温では溶解しないが高温で溶解する潜在溶媒に溶解し、二重環式紡糸口金より中空材として空気や溶媒と共に吐出し、空気や水と接触させることにより冷却し、相分離を誘起する熱誘起相分離法などが挙げられる。
延伸開孔法、およびトラックエッチング法としては、高分子を高温で融解し、高分子液を、二重環式の紡糸口金より中空材として吐出し、その後、延伸、またはエッチングすることにより開孔させる方法などが挙げられる。
【0018】
高分子膜の素材としては、特に限定されないが、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、セルロース、酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、およびポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0019】
本実施の形態において、突起の付与方法としては、例えば、紡糸口金の高分子溶液が吐出されるスリットの外周部に切欠を入れた紡糸口金を用いる方法などが挙げられる。
切欠を入れた紡糸口金を用いることにより、本実施の形態の外周部に、長手方向に連続的に突起を有する中空糸多孔膜を製造することができる。
【0020】
本実施の形態の中空糸多孔膜の例示として、図1に示すように、dは内径、tは膜厚、hは突起の高さ、wは突起の幅を示している。
本実施の形態において、突起の高さとは、中空糸多孔膜の突起がない外周部から突起先端までの距離を意味し、また、突起の幅とは、突起の高さの1/2の位置における突起幅を意味する。
【0021】
中空糸多孔膜の外周部に付与される突起の幅および高さとしては、突起の幅が50μm〜250μmであり、かつ突起の高さが20μm〜300μmであることが好ましい。
突起の幅が50μm以上であれば外圧式のろ過を行った際の突起のつぶれを生じることがなく、また、250μm以下であれば、膜面近傍での流体の複雑な流れにより突起先端部に無機物および/または有機物の付着・堆積を効果的に抑制することが可能となる。
突起の高さが20μm以上であれば、膜面近傍に複雑な流れを生じさせることによる無機物および/または有機物の膜面への付着・堆積を効果的に抑制することが可能であり、また、300μm以下であれば、外圧ろ過方式のろ過により、突起がつぶれてしまうこともないので好ましい。
突起の幅および高さは、突起の幅が60μm〜200μmであり、かつ突起の高さが40μm〜200μmであることがより好ましい。
本実施の形態において、突起の幅および高さは、以下の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
本実施の形態において、突起の数は、中空糸多孔膜の内径および膜厚により、適宜選択することが可能であるが、8個〜250個であることが好ましい。
突起の数が、8個以上であれば、膜面近傍に複雑な流れを生じさせ、無機物および/または有機物の膜面への付着・堆積を防止することが可能であり、また、250個以下であれば、中空糸多孔膜の外周部に突起を精度良く、形成することが可能となる。
突起の数は10個〜120個であることがより好ましい。
【0023】
突起の形状としては、特に限定されず、例えば、凸型、凹型などの種々の形状が挙げられる。
中空糸多孔膜の外周部の突起は膜面近傍での複雑な流れを生じさせるため、膜面の長手方向全体に亘り連続して付与されていることが好ましい。
【0024】
[水処理方法]
本実施の形態の水処理方法は、上記中空糸多孔膜を用いて、無機物および/または有機物を含有する被処理液を、中空糸多孔膜の外表面側から内表面側へろ過する工程を含む水処理方法である。
本実施の形態の水処理方法によれば、理由は定かではないが、膜面近傍の複雑な流体の流れにより、無機物および/または有機物による膜面へのファウリングを効果的に抑制することが可能となる。
本実施の形態において、中空糸多孔膜の外表面側とは、中空糸多孔膜の突起を有する外周部側を意味し、内表面側とは、中空糸多孔膜の中空部側を意味する。
【0025】
中空糸多孔膜は、通常、数百本から数千本束ね、エポキシ樹脂やウレタン樹脂により両端部をケースなどに接着した膜モジュールとして使用される。
膜モジュールの型式としては、特に限定されず、例えば、中空糸多孔膜の束全体をケースで覆ったケーシングタイプ、および中空糸多孔膜の束の両端部など一部をケース等に収めたケーシングレスタイプの膜モジュールなどが挙げられる。
膜モジュールの型としては、特に限定されず、例えば、円筒型や矩形型などが挙げられる。
【0026】
本実施の形態の水処理方法の処理対象である、無機物および/または有機物を含有する被処理液(以下、単に被処理液と記載する場合がある。)は、膜分離法が適用できる液体であれば特に限定されず、例えば、河川水、地下水、湖沼水、ダム水、海水、下水、下水二次処理水、各種工場排水、プール水、浴槽水、発酵液、培養液などが挙げられる。
被処理液は、その用途に応じて、種々の大きさ、形状、濃度の無機物および/または有機物を含有する。
河川水等においては、有機物としては、例えば、低分子量や高分子量のフミン質、多糖類、タンパク質およびこれらのコロイド状物質が挙げられ、無機物としては、例えば、イオン状の鉄、マンガン、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、シリカやこれらのコロイド状物質、またはカオリン、ベントナイトなどの微粒子などが挙げられる。
生物処理と膜分離を組み合わせた膜分離活性汚泥法において処理される被処理液においては、生物処理に供される原水中に含まれる各種無機物および/または有機物に加え、有機物として、例えば、活性汚泥を形成する各種微生物およびこれらの死骸や代謝物などが挙げられる。
【0027】
本実施の形態において、被処理液をろ過する方法は、特に限定されず、例えば、外表面側からポンプ等により被処理液を加圧する加圧ろ過方式、内表面側から被処理液を吸引する吸引ろ過方式などの方法が挙げられる。
ろ過する際、中空糸多孔膜に供給する被処理液の全量をろ過する全量ろ過方式と供給する被処理液の一部をろ過し、残りの被処理液を循環させるクロスフローろ過方式のいずれの方式も用いることができる。また、被処理液は中空糸多孔膜でろ過する前に、適宜、凝集沈殿、加圧浮上ろ過、生物処理、薬剤の添加などの前処理を行ってもよい。
【0028】
本実施の形態の水処理方法は、中空糸多孔膜の内表面層から外表面層へ、中空糸多孔膜を逆流洗浄する工程をさらに含むことが好ましい。
膜ろ過水などを中空糸多孔膜の内表面側から外表面側へ通液して、中空糸多孔膜をいわゆる逆流洗浄する場合にも、膜面近傍に複雑な流れが生じること、および、堆積および付着した無機物および/または有機物からなるファウリング物質が膜表面に突起を起点として外表面側に付着、堆積した無機物および/または有機物からなるファウリング物質が分割され膜面から剥離し易くなるため、高い逆流洗浄の効果を得ることができる。
【0029】
本実施の形態において、逆流洗浄する方法は、特に限定されず、例えば、膜ろ過水等の清澄な液をポンプ、ヘッド差等により内表面側から外表面側へ加圧ろ過し、得られた洗浄排水をろ過システムの系外へ排出する方法が挙げられる。
【0030】
逆流洗浄に使用する液体は、中空糸多孔膜を汚染することがない液体であれば、特に限定されないが、通常、膜ろ過水を用い、また、必要に応じて次亜塩素酸ナトリウムなどのファウリングを防止する効果がある化学薬品を添加することも可能である。
逆流洗浄の頻度、圧力、水量は、使用する用途により適宜選定することができる。
【0031】
本実施の形態の水処理方法は、中空糸多孔膜の外表面側に空気を供給し、中空糸多孔膜を揺動して、空気洗浄する工程をさらに含むことが好ましい。
通常の中空糸多孔膜を用いて空気洗浄を実施すると、洗浄の効果は高いものの、無機物粒子などの硬い粒子が多数、膜面に付着・堆積しているため、膜同士が擦れた場合、膜面の細孔を潰してしまい、逆にろ過性能を低下させてしまう擦過現象が生じる。
本実施の形態の中空糸多孔膜を空気洗浄する場合には、膜表面に堆積する無機成分などの硬い成分も少なく、かつ突起を起点として膜面のファウリング物質が容易に剥離するので、膜同士が擦れても、膜面が潰される擦過現象も抑制され、かつ高い空気洗浄の効果が得られる。
本実施の形態の中空糸多孔膜を用いたろ過工程において、膜面近傍の複雑な液体の流れにより、ろ過中も無機物および/または有機物からなるファウリング物質の膜面への付着・堆積が抑制され、さらに、付着しても突起部を起点としてファウリング物質が分割されるため、容易に膜面から剥離するので、擦過を抑えつつ、空気洗浄時にも高い洗浄効果を得ることが可能となる。
また、本実施の形態において、中空糸多孔膜を空気洗浄する際に、膜面で空気と水の混合流体の複雑な流れが生じ、ファウリング物質が膜面から剥離し易くなる。
【0032】
空気洗浄の方法は、通常用いられる方法であれば特に限定されないが、例えば、膜モジュールがケーシングタイプであれば、膜モジュールの一次側に、直接または膜モジュールに至る配管のいずれかの位置から空気を導入する方法が挙げられる。
ケーシングレスタイプの膜モジュールの場合、膜モジュールを浸漬槽に浸漬し、膜モジュールの下部あるいは、浸漬槽底部に設置した配管から空気を供給する方法により、空気洗浄を行うことができる。
空気洗浄の頻度、圧力、空気量は、使用する用途により適宜選定することができる。さらに、空気以外にオゾンガスなどのファウリングを防止する効果があるガスを用いることも可能である。
【0033】
中空糸多孔膜を用いて水処理を行うと、ファウリングを抑制できるため、高いろ過性能が達成できる。また、上記逆流洗浄または空気洗浄により、容易に中空糸多孔膜を洗浄することができるため、本実施の形態の水処理方法によれば、ファウリング抑制における従来技術の問題点を解決することができる。
本実施の形態の水処理方法によれば、化学薬品の使用量が抑えられるので、薬品の購入・廃液処理費用が低減され、さらに、化学薬品による中空糸多孔膜の劣化も抑制可能である。
また、空気洗浄による擦過現象も抑制されるため、中空糸多孔膜の寿命も長くなり、膜交換頻度の低減も可能となる。
【実施例】
【0034】
以下、本実施の形態を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施の形態に用いられる測定方法は以下のとおりである。以下の測定は全て25℃で行った。
【0035】
(1)内径および膜厚(μm)の測定
中空糸多孔膜を膜長手方向に垂直な向きにカミソリ等で薄く切り、顕微鏡を用いて断面の内径と膜厚を測定した。
【0036】
(2)突起の幅および高さ(μm)の測定
走査型電子顕微鏡により、中空糸多孔膜断面の外周部の突起の形状を明確に確認できる任意の倍率で撮影した写真を用いた。その写真上で、突起のない外周から突起先端までの長さを測定し、突起の高さとした。また、この突起の高さを2等分した位置において、突起幅を測定し、これを突起の幅とした。
【0037】
(3)純水透過流束(L/m2/hr)の測定
図2に中空糸多孔膜のろ過性能を評価するために使用した装置の概略図を示した。約10cm長の純水で湿潤させた中空糸多孔膜7を内径3mmのチューブ6にセットし、両端部をシリコンキャップ8で密栓した。次に、一方のシリコンキャップから端部を封止した注射針9を刺し中空糸多孔膜の中空部にセットした。また、他方のシリコンキャップから端部が開口した注射針10を刺し、中空糸多孔膜の中空部にセットした。その後、原液タンク1に充填された純水はポンプ3を用いて、配管2および4から中空糸多孔膜7がセットされたチューブ6へ送られ、一部の水は三方弁14を経て出口12から原液タンク1へ返送された。また、チューブ6へ送られた水の一部は中空糸多孔膜7でろ過された。注射針10から出てくるろ過された純水の透過水量を測定し、以下の式により純水透過流束を求めた。この時、チューブ6内の中空糸多孔膜7を除いた断面部分を流れる水の線速は0.1m/sであり、圧力計5および11の圧力の平均値は0.1MPaであった。
【数1】

上記式において、膜有効長とは、注射針が挿入されている部分を除いた、中空糸多孔膜の正味の膜長を指し、πは、円周率を指す。
【0038】
(4)透過流束保持率J/J0の測定
図2に示した装置にて、原液タンク1に50ppmのアルギン酸ナトリウム水溶液を充填した以外は、上記(3)の純水透過流束と同様の操作を実施した。
得られた膜ろ過水の透過流束Jと上記(3)で得られた純水透過流束J0を用いて、以下の式より、透過流束保持率J/J0を算出した。
【数2】

【0039】
(5)逆流洗浄回復率nRFの測定
図2に示した装置にて、原液タンク1に50ppmのアルギン酸ナトリウム水溶液を充填した以外は、上記(3)の純水透過流束と同様の操作を実施し、60分間のろ過を行ない、ポンプ3を停止した。この逆流洗浄直前のアルギン酸ナトリウム水溶液の透過流束をJbbとした。次に、注射針10から純水を中空糸多孔膜7の中空部に供給し、内表面側から外表面側へ透過した逆流洗浄排水を三方弁14の出口13から系外へ排出した。逆流洗浄後、再び、50ppmのアルギン酸ナトリウム水溶液のろ過を行った。この逆流洗浄直後のアルギン酸ナトリウム水溶液の透過流束をJabとした。純水透過流束J0、Jbb、Jabを用いて、以下の式により、逆流洗浄回復率nRFを算出した。
【数3】

【0040】
[実施例1]
重量平均分子量65,000のセルロースアセテートプチレートポリマー20質量%とトリエチレングリコール80質量%を170℃で1時間攪拌し、その後、2時間静置し、均一な高分子ポリマー溶液を得た。次にこのポリマー溶液を吐出スリット外周部に200μmの切欠16個を有する二重環式紡糸口金を用い、内部凝固液として170℃のトリエチレングリコールを用いて、吐出線速度0.2m/s、温度170℃で吐出し、空走距離ゼロで、50℃の水槽中にて冷却固化し、0.2m/sの速度で巻き取った。巻き取った中空糸ポリマーは、水に浸漬し、溶媒であるトリエチレングリコールを除去し、中空糸多孔膜を得た。得られた膜の物性を表1に示した。また、透過流束保持率J/J0および逆流洗浄回復率nRFの測定結果をそれぞれ、図3および図4に示す。
【0041】
[実施例2]
ポリマー溶液を吐出するスリットの外周部に100μmの切欠64個を有する二重環式紡糸口金を用いた以外は、実施例1の方法で中空糸多孔膜を得た。得られた膜の物性を表1に示した。また、透過流束保持率J/J0および逆流洗浄回復率nRFの測定結果をそれぞれ、図3および図4に示す。
【0042】
[比較例1]
ポリマー溶液を吐出するスリットの外周部に切欠を有しない二重環式紡糸口金を用いた以外は、実施例1の方法で中空糸多孔膜を得た。得られた膜の物性を表1に示した。また、透過流束保持率J/J0および逆流洗浄回復率nRFの測定結果をそれぞれ、図3および図4に示す。
【0043】
表1に実施例および比較例で使用した中空糸多孔膜の特性を示す。
【表1】

【0044】
図3の結果から、実施例1および2においては、突起を有さない中空糸多孔膜を用いた比較例に比して、高い透過流速保持率を示し、効果的にファウリングを抑制できることが示された。
また、図3および図4の結果から、ろ過時間60分における逆流洗浄により、実施例1および2においては、非常に高い逆流洗浄回復率を示すともに、洗浄前を大きく上回る透過流速保持率を示し、高い洗浄効果が示された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、膜に損傷を与えることなく効果的にファウリングを抑制でき、低コストで水処理が可能となる中空糸多孔膜を提供することができる。
本発明は、水処理の分野において産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0046】
d 内径
t 膜厚
h 突起の高さ
w 突起の幅
1 原液タンク
2 配管
3 ポンプ
4 配管
5 圧力計
6 チューブ
7 中空糸多孔膜
8 シリコンキャップ
9 端部を封止した注射針
10 端部が開口した注射針
11 圧力計
12 出口
13 出口
14 三方弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に、長手方向に連続した突起を有する中空糸多孔膜。
【請求項2】
突起の幅が50〜250μmであり、かつ突起の高さが20〜300μmである、請求項1に記載の中空糸多孔膜。
【請求項3】
突起の数が8個以上250個以下である、請求項1または2に記載の中空糸多孔膜。
【請求項4】
内径が50〜2000μmであり、かつ膜厚が50〜1000μmである、請求項1から3のいずれか一項に記載の中空糸多孔膜。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の中空糸多孔膜を用いて、無機物および/または有機物を含有する被処理液を前記中空糸多孔膜の外表面側から内表面側へろ過する工程を含む、水処理方法。
【請求項6】
前記中空糸多孔膜の内表面側から前記外表面側へ、前記中空糸多孔膜を逆流洗浄する工程をさらに含む、請求項5に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記中空糸多孔膜の外表面側に空気を供給し、前記中空糸多孔膜を揺動して、空気洗浄する工程をさらに含む、請求項5または6に記載の水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−188253(P2010−188253A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33866(P2009−33866)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】