説明

中空糸膜の製造方法

【課題】
製造過程にある中空糸膜を連続的にシールすることで、膜の透過機構を利用して洗浄効率を上げる製造方法、及び洗浄部材を提供する。
【解決手段】
製造過程にある中空糸膜を減圧容器に誘導し、膜の透過機構を利用して芯液を吸引する中空糸膜の製造方法であって、減圧容器の中空糸膜の導入口と中空糸膜の導出口に弾性部材を装備し、前記中空糸膜を導入することでシールされる容器で達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限外ろ過膜、精密ろ過膜などの中空糸膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
限外ろ過、精密ろ過などの中空糸膜製造では、一般的にチューブインオリフィスを用いて溶剤を芯液とした溶液紡糸が行われている。チューブインオリフィスから芯液と共に溶液を同時に凝固槽(冷却槽)に紡出して固化させて引き出し、引き続き中空糸膜中に残存する芯液(溶剤)を除去する洗浄処理が行われ、必要に合わせてコーティングなどの膜処理が施される。主な中空糸膜の洗浄工程では、温水槽に中空糸膜を浸漬して膜中の溶剤を溶解(液)拡散により希釈して取り除くものである。
【0003】
しかしながら中空糸膜に高濃度の芯液を用いる場合、或いは膜壁の細孔が小さい場合など、溶解拡散に多大な時間を要することになり水洗工程が長くなることが多い。さらに洗浄不充分になると、その後の乾燥工程やコーティング工程などで種々の問題が発生することになる。このように充分に中空糸膜の芯液を除くことができない場合、紡糸終了後の中空糸膜を切断し加圧下に洗浄液を圧入する方法がある(特許文献1参照)。しかしながら、一旦切断した糸束を容器内に封入して空気圧力下に液切りで洗浄するものでプロセスが簡便であるが、連続処理を中空糸膜に施すプロセスなどに採用できない難点がある。
【特許文献1】特開平9−262445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明においては、製造中の中空糸膜の芯液および/または溶剤を効率的に抜き出して洗浄する中空糸膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
係る目的を達成するための本発明は、次にいずれかの構成を特徴とする。
(1) 溶剤を芯液とした溶液紡糸における中空糸膜の製造方法であって、芯液と共に溶液を同時に紡出して固化させる工程の後に、固化した中空糸膜を減圧容器に誘導させて、中空糸膜中に残存する芯液および/または溶剤を吸引する工程を有することを特徴とする中空糸膜の製造方法。
(2) オンラインで芯液を吸引する請求項1記載の中空糸膜の製造方法。
(3) 減圧容器を−5〜−85kPaの範囲に減圧して吸引する請求項1または2に記載の中空糸膜の製造方法。
(4) 減圧容器が少なくとも中空糸膜の導入口と中空糸膜の導出口と減圧用の吸引口を備え、中空糸膜の導入口と中空糸膜の導出口が弾性部材で構成され、該弾性部材によって減圧容器がシールされる特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の中空糸膜の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、製造過程にある中空糸膜を減圧容器内に導入して、容器の両端部で中空糸膜をシールし、容器を減圧にして中空糸膜の外壁側と内壁側の間に働く差圧を利用して、芯液を中空糸膜の外壁側に透過させて洗浄することができる。さらには高濃度の芯液を効率的に回収することが可能になる。このような減圧容器は、中空糸膜の導入口および中空糸膜の導出口に弾性部材を用いてシール機構を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に図面を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明が以下の実施態様に限定されるものではない。図1に本発明の中空糸膜の製造工程における概略洗浄フローの一例を示した。図1において、乾湿式の溶液紡糸法を用いて、チューブインオリフィスが装填された紡糸パック9より芯液と共に、紡糸溶液を中空糸状に凝固浴(冷却浴)10に押し出して固化させて、ロールによって中空糸膜7を引き出し、引き続き減圧容器1に誘導され、水洗浴11を経て巻き取る。このとき減圧容器1では、吸引ポンプ14につながる減圧ライン13を介して吸引される。
【0008】
本発明の減圧容器1は、図2が示すように中空糸膜7が中空糸膜の導入口2から中空糸膜の導出口3に架けて引き出されると、テーパー形状の弾性部材の中空糸膜の導入口2と中空糸膜の導出口3によってシールされ、減圧容器1内を減圧にすると、中空糸膜7の外壁面と内壁面の膜間に有効差圧を発生させることが可能になる。その結果、中空糸膜7の芯液8が膜壁を透過して減圧用の吸引口4から抜き出され、芯液が除去されると共に、凝固時に洗浄水が染み込んでいる場合は、洗浄水が透過することで膜壁が洗浄される。また気相中で中空糸膜を導入する場合、膜壁中に空気が流れ含水率を下げる除湿効果が期待できる。この様な減圧容器1を使った透過機構は、中空糸膜の製造にあってオンライン処理、或いはオフラインでバッチ処理を行うことができる。中でも、本発明は中空糸膜の連続処理に対応できることから、オンライン処理が好ましい。
【0009】
ここで芯液とは、溶液紡糸法や溶融紡糸法を用いて、製造過程の中空糸膜が形成する中空部分、及び膜壁に存在する液体、及び液体中に溶解する微粒子を云う。
【0010】
減圧範囲としては、−5〜−85kPaの範囲が好ましく、さらに−30〜−85kPaの範囲に減圧することが好ましい。なお耐圧性や吸引時間など考慮して、減圧容器1を多数(段)に配置して段階的に減圧することであっても構わない。
【0011】
減圧容器1は、弾性部材で構成される中空糸膜の導入口2と中空糸膜の導出口3が本体に装備され、中空糸膜7の変形などで中空糸膜の導入口2と中空糸膜の導出口3を通過する際に過大な外力が働くと、中空糸膜の導入口2及び中空糸膜の導出口3は変形し外力との平衡が保たれる。つまり中空糸膜7の外径変動が起こっても可逆的に変形して中空糸膜7の外表面を連続的にシールすることができる。さらに中空糸膜の導入口2、及び中空糸膜の導出口3が拡張することで中空糸膜の糸詰まりが軽減する。
【0012】
中空糸膜の導入口2と中空糸膜の導出口3に使用する弾性部材としては、耐溶剤性と機械的強度を兼備するスチレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、フロロシリコーンゴムなどを用いることが好ましい。
【0013】
中空糸膜の導入口2と中空糸膜の導出口3は、中空糸膜7の進行方向に向かって小さくなるように形成されることが好ましく、さらにテーパー形状であると中空糸膜の挿入(誘導)が容易になるので好ましい。容器本体内に装備する際に中空糸膜の導入口2の先端が変形する際に容器本体に拘束されないように装着されることがよい。中空糸膜の導入口2と中空糸膜の導出口3は、負荷(外力)がかからない状態において実質的に円形であることが好ましく、シール性を保持できる程度に楕円であっても何ら問題はない。
【0014】
また図3に示すように中空糸膜の導入口2、及び導出口3の先端部分は、シール性と変形外力とのバランスが保たれるように考慮することが好ましい。先端部分のランド長さ(L)と外径(D)の比が0.1〜10の範囲にあり、先端部の部材厚み(t)が0.1〜5mmの範囲にあるとシール性と中空糸膜の走行性がバランスするので好ましい。一方、減圧容器1の中空糸膜の導入口2と中空糸膜の導出口3以外の構成部分は、もちろん中空糸膜の導入口2と中空糸膜の導出口3と同一部材で構成されてもよいが、プラスチック、金属、セラミックスなどから耐溶剤性や機械的強度を考慮して選ぶれた材料であれば何ら構わない。
【0015】
ジメチルスルホキシド溶剤の濃度測定は、検量線を作成してアッベ式示差屈折計を用いて屈折率を測定した。
【実施例】
【0016】
以下に実施例をもって説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
【0017】
<実施例1>
極限粘度が3.1(dl/g)のアクリロニトリル単独重合体を、ジメチルスルホキシド溶媒に80℃で溶解させ、重合体濃度を13重量%にした製膜紡糸溶液を得た。この紡糸溶液を概略フロー図1に示すチューブインオリフィスが装填された紡糸パックより、芯液(85重量%のジメチルスルホキシド水溶液)を同時に中空糸状に、10℃の冷却液体である16重量%ジメチルスルホキシド水溶液を有する冷却浴槽に押し出して、冷却固化させた。引き続き、減圧容器1に中空糸膜を6m/分の速度で誘導し、減圧容器1につながる減圧ラインを−50kPaにて吸引した後、60℃の水洗浴11を介して巻き取った。なお減圧容器1は、シリコーンゴム製(先端形状がD=3.0mmφ、L=5.0mm、t=1.0mm)の中空糸膜の導入口2と中空糸膜の導出口3をステンレス鋼管本体に取り付けたもの使用した。紡糸から8時間後に水洗浴11の洗浄液をサンプリングして示差屈折計でジメチルスルホキシド濃度を測定した結果、ジメチルスルホキシド濃度は12%であった。
【0018】
<比較例1>
実施例1と同じ紡糸液を用いて、概略フロー図4で示すように実施例1の減圧容器1に代わって、中空糸膜の通過距離を同じ速度にして60℃の水洗浴12を設置して2段で水洗を行った。同じく紡糸から8時間後に水洗浴11の洗浄液を示差屈折計でジメチルスルホキシド濃度を測定した結果、ジメチルスルホキシド濃度は28%であった。実施例1と同じ中空糸膜の通過距離にしたが、洗浄濃度が約2倍程度高くなった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係わる中空糸膜の製造工程の一実施態様を示す概略フロー図である。
【図2】本発明に係わる減圧容器と中空糸膜の洗浄原理を示す模式側断面図である。
【図3】本発明に係わる減圧容器の先端部分を示す模式図である。
【図4】比較例を示す中空糸膜の製造工程の概略フロー図である。
【符号の説明】
【0020】
1:減圧容器
2:中空糸膜の導入口
3:中空糸膜の導出口
4:減圧用の吸引口
5:減圧容器の本体
6:中空糸膜の導入口及び中空糸膜の導出口の先端部分
7:中空糸膜
8:芯液(中空部)
9:紡糸パック
10:凝固浴(冷却浴)
11:水洗浴
12:水洗浴
13:減圧ライン
14:吸引ポンプ
15:ワインダー
A:吸引方向
B:中空糸膜の引き出し方向
L:5.0mm
D:3.0mmφ
t:1.0mm

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤を芯液とした溶液紡糸における中空糸膜の製造方法であって、芯液と共に溶液を同時に紡出して固化させる工程の後に、固化した中空糸膜を減圧容器に誘導させて、中空糸膜中に残存する芯液および/または溶剤を吸引する工程を有することを特徴とする中空糸膜の製造方法。
【請求項2】
オンラインで芯液を吸引する請求項1記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項3】
減圧容器を−5〜−85kPaの範囲に減圧して吸引する請求項1または2に記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項4】
減圧容器が少なくとも中空糸膜の導入口と中空糸膜の導出口と減圧用の吸引口を備え、中空糸膜の導入口と中空糸膜の導出口が弾性部材で構成され、該弾性部材によって減圧容器がシールされる請求項1〜3の何れかに記載の中空糸膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−207050(P2008−207050A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43376(P2007−43376)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】