説明

中空糸膜の製造方法

【課題】ワインおよびビール等の発酵液を処理するために好適に使用され得る、内径および膜厚が比較的大きな中空糸膜を安定して製造するための方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリマー、溶媒からなる紡糸原液をチューブインオリフィスノズルの外側環状部より吐出し、空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬して中空糸膜を形成する乾湿式紡糸法において、凝固浴中を走行する中空糸膜の走行軌道が複数の弛み防止ガイドからなるガイド群により構成される内接軌道に沿って走行することを特徴とする中空糸膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品分野、医薬分野、半導体分野、エネルギー分野および水処理分野における液体の処理に使用される高分子多孔性中空糸膜に関する。詳しくはワイン酵母液の濾過性能が高く、耐圧性の高い中空糸膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野、医薬分野、半導体分野、エネルギー分野および水処理分野における液体の処理に使用される中空糸膜は、精密濾過、限外濾過などの工業用途や、血液透析、血液濾過、血液透析濾過などの医療用途に広く利用されている。
【0003】
特に、食品分野における発酵液の処理においては、従来、発酵後のワイン、ビール中の酵母、固形物、コロイド等を除去するために珪藻土が利用されていたが、珪藻土自体の安全性や使用済みの珪藻土は焼却処分できず、また、大量に使用するため廃棄にかかるコスト高の問題があった。そこで、近年、装置の小型化に優れている中空糸形状の限外濾過膜や精密濾過膜による発酵液の処理が注目され始めている。
【0004】
ワインおよびビール等の発酵液を中空糸膜モジュールで処理する際には、一般的に中空糸膜の中空部に発酵液を高流量で流しながら1〜1.5bar程度の高い圧力をかけて行うクロスフロー濾過により中空糸膜の内表面側から外表面側へ濾過することで発酵液を清浄化する。この際、中空糸膜の単位膜面積当たり濾過性能が高く、中空糸端面の目詰まりが少なく、耐圧性の高い中空糸膜が必要である。
【0005】
濾過性能を高くするためには紡糸原液のポリマー濃度を低くし、芯液の溶媒濃度を高くする必要がある。一方、中空糸端面の目詰まりを少なくするためには内径を十分大きくする必要があるが、これにともない膜厚も十分大きくしないと耐圧性が弱くなり使用中に膜が破損して使用することができなくなる。
【0006】
しかし、ポリマー濃度を低くし芯液の溶媒濃度を高くした条件で、中空糸膜端面の目詰まりが発生しないように内径を十分大きくし、さらに使用中に膜が破損しないように膜厚を十分大きくすると二重管口金から空中走行部を経て凝固浴に浸漬して凝固した中空糸膜が凝固浴内で弛んでしまい紡糸ができなくなり、内径および膜厚を十分大きくすることができないという問題があった。
【0007】
凝固浴中の弛み防止ガイドで中空糸膜の進行方法を変える方法として、液中ローラーと凝固浴の引取りローラーとの距離を最短距離の長さの1.01〜1.5倍にして中空糸膜の真円度を向上させる方法がある(特許文献1参照)。しかし、この方法では紡糸原液の吐出量を増やしていくと、凝固浴槽内で中空糸膜が弛んでしまい紡糸ができなくなってしまう。
【0008】
また、中空形成材として気体を用いた乾湿式紡糸において凝固浴内の弛み防止ガイドによって中空糸膜の進行方向を変更させる際に、複数の弛み防止ガイドによって中空糸膜の進行方向を変更させて中空糸膜の真円度を向上させる方法がある(特許文献2参照)。しかし、この方法でも紡糸原液の吐出量を増やしていくと凝固浴槽内で中空糸膜が弛んで紡糸ができなくなってしまう。
【0009】
複数本の中空糸膜を同時に製造する際に、液中方向変換ガイドを設置し、凝固浴液面と弛み防止ガイドとの間で、複数本の中空糸膜を糸条毎に分繊させることで糸の融着を防ぎ、融着による糸切れ等を無くす方法がある(特許文献3)。しかし、この方法でも紡糸原液の吐出量を増やしていくと凝固浴槽内で中空糸膜が弛んでしまい紡糸ができなくなってしまう。
【0010】
特許文献4、5には、疎水性高分子と親水性高分子からなる中空糸膜の製造方法において、紡糸原液をノズルから下向きに吐出し、エアギャップ部分を経て凝固浴に導き、凝固浴内で進行方向を上向きに変更して凝固浴から引き上げる際に、膜構造の欠陥や破壊を防ぐために中空糸膜の方向転換を緩やかに行なう技術が開示されている。しかし、該技術は、凝固浴内を走行する中空糸膜が複数の方向転換用ガイドで構成される外接軌道上を走行するものであり、本願技術とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−239643号公報
【特許文献2】特開平7−39731号公報
【特許文献3】特開2006−239576号公報
【特許文献4】特開2008−284471号公報
【特許文献5】特開2009−6230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決することを目的とするものであって、詳しくは内径および膜厚が比較的大きな中空糸膜を安定して製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、次のような液体処理用の中空糸膜の製造方法を見出した。
(1)ポリマー、溶媒からなる紡糸原液をチューブインオリフィスノズルの外側環状部より吐出し、空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬して中空糸膜を形成する乾湿式紡糸法において、凝固浴中を走行する中空糸膜の走行軌道が複数の弛み防止ガイドからなるガイド群により構成される内接軌道に沿って走行させることを特徴とする中空糸膜の製造方法である。
(2)弛み防止ガイドの数を2〜7とすることを特徴とする中空糸膜の製造方法である。
(3)凝固浴中を走行する中空糸膜が最初に接触する弛み防止ガイドの接点がチューブインオリフィスノズルの鉛直線を基準にして1〜10cm凝固浴から中空糸膜を引き出す方向と反対側に位置することを特徴とする中空糸膜の製造方法である。
(4)凝固浴中を走行する中空糸膜が最初に接触する弛み防止ガイドの接点が凝固浴の液面より深さ10〜50cmの位置に設置されることを特徴とする中空糸膜の製造方法である。
(5)凝固浴の最下部に位置する弛み防止ガイドと中空糸膜との接点と凝固浴液面との最短距離である最大浸漬長が0.2〜1mであることを特徴とする中空糸膜の製造方法である。
(6)(1)〜(5)いずれかに記載の方法にて製造されたことを特徴とする中空糸膜。
【発明の効果】
【0014】
本発明の中空糸膜の製造方法を適用することにより、可紡領域が大幅に向上するため容易に中空糸膜の内径と膜厚を十分大きくすることができる。すなわち、中空糸膜の太径化が可能となり、精密濾過、限外濾過などの工業用途や、血液透析、血液濾過、血液透析濾過などの医療用途に利用可能であり、特にワイン酵母液などの懸濁物質を大量に含む被処理液を処理した際にも、中空糸膜入口での目詰まりが少なく、耐圧性が高く、濾過性能を長時間維持することが可能な中空糸膜を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1(弛み防止ガイドを4本用いた場合)の製造方法の一例の工程模式図である。
【図2】実施例2(弛み防止ガイドを2本用いた場合)の製造方法の一例の工程模式図である。
【図3】比較例1および2の製造方法の一例の工程模式図である。
【図4】実施例1で得られた中空糸膜の内表面のSEM写真(×10000)である。
【図5】実施例2で得られた中空糸膜の内表面のSEM写真(×10000)である。
【図6】比較例1で得られた中空糸膜の内表面のSEM写真(×10000)である。
【図7】比較例2で得られた中空糸膜の内表面のSEM写真(×10000)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明は、紡糸原液をノズルの外側環状部からほぼ鉛直下方に吐出すると同時にノズルの中心孔から芯液を吐出し、次いで中空状の紡糸原液を空中走行部を経て、凝固浴に導いて凝固、相分離させる乾湿式紡糸法において、凝固浴中に複数の弛み防止ガイドおよび/または弛み防止ローラーを設置し、中空糸膜の進行方向を変更させる際に、複数の弛み防止ガイドおよび/または液中ローラーで構成される内接軌道に沿って中空糸膜を走行させることを特徴とする。
【0018】
本発明において、凝固浴中に設置する弛み防止ガイド、ローラーの素材は特に限定されないが、テフロン(登録商標)、ベークライト(登録商標)、ステンレス、またステンレスの表面をテフロン(登録商標)、シリコン、ハードクロム等でコートしたもの等が挙げられ、耐久性の点、摩擦抵抗低減の点からステンレスの丸棒ガイドの表面をハードクロムコートし梨地加工したものが好ましい。また、固定タイプ、フリータイプ何れのタイプでも良く、駆動タイプのローラー形状でも良い。
また、前記弛み防止ガイド方式とは異なり、凝固浴中に樋状のものを設置し、素麺流しのように走行させる方法も採用できる。本発明においては、紡糸原液のノズル吐出線速度や引取り速度、重力加速度、凝固浴中での走行抵抗などがバランスされているだけでなく、紡糸原液の比重が高いため、中空糸膜が浮き上がることなく、樋上を安定して走行させることが可能である。
【0019】
中空糸膜を(乾)湿式紡糸する際には、凝固浴中に設置された1つまたは複数の弛み防止ガイド(液中ガイド)の外側(より深い側)を回り込むように走行させるのが通常である(図3参照)。しかし、内径や膜厚を大きくするために、紡糸原液の吐出量を増やしていくと、凝固浴中を走行する中空糸膜に弛みが発生し、次第に弛みが大きくなっていく現象が生ずる。この弛みを取り除くために凝固浴中で延伸(ドラフト)をかけていくと、内径、膜厚が小さくなる問題が生ずるが、延伸(ドラフト)を大きくしていっても弛みを解消できない不可解な現象が生ずる。この現象の原因についてはよくわからないが、紡糸原液の吐出量、吐出線速度、重力(加速度)、凝固液による走行抵抗などが関係しているものと思われる。
【0020】
本発明者は、前記弛みを抑制するために鋭意検討した結果、凝固浴中での弛みの発生状況を観察した結果、ノズルから吐出された紡糸原液が空中走行部を経て凝固浴に侵入した後、ノズルドラフトをかけているにもかかわらず、一旦凝固浴出口方向とは反対方向(図1、2における左方向)に膨らむ特徴があることがわかった。その後重力に従い、凝固浴の底部に向かって沈んでいく。このような現象を観察した結果、凝固浴中を走行する中空糸膜にかかる凝固浴出口方向とは反対方向に膨らむ力と重力を抑えることによって、太径中空糸膜であっても安定して紡糸できるのではないかと考え、ついに本発明に到達した。
【0021】
ワインおよびビール等の発酵液を中空糸膜モジュールで処理する際には、一般的に中空糸膜の中空部に発酵液を高流量で流しながら1〜1.5bar程度の高い圧力をかけて行うクロスフロー濾過により中空糸膜の内側から外側へ濾過することで発酵液を清浄化する。この際、前記発酵液には比較的大きなサイズの懸濁物質が多く含まれており、このような被処理液を中空糸膜で処理する際には、後述するような比較的大口径の中空糸膜であって、単位膜面積当たり濾過性能が高く、中空糸膜入口部の目詰まりが少なく、耐圧性の高い中空糸膜が必要である。
【0022】
濾過性能を高くするためには、一般的に紡糸原液のポリマー濃度を低くし、芯液の溶媒濃度を高くする方法が採られる。一方、中空糸膜入口部の目詰まりを少なくするためには内径を十分大きくする必要があるが、そうすると中空率が低下してしまうので、膜厚も十分大きくしないと強度が弱くなってしまい使用中に膜が破損して使用することができなくなってしまう。
【0023】
しかし、所期の性能や品質を確保するために紡糸原液中のポリマー濃度を比較的低くし、芯液の溶媒濃度を比較的高くした条件で中空糸膜を紡糸しようとすると、凝固過程で紡糸原液が自重で伸びるためか、中空糸膜が凝固浴内で弛んでしまい紡糸ができなくなり、内径および膜厚を十分大きくすることができなかった。
【0024】
ノズルより吐出された紡糸原液が凝固浴内で弛みを生ずる原因としては、先述したように紡糸原液が凝固浴内で凝固した中空糸膜の自重によって下方に沈む。そして、下方への力が空中走行部で凝固が完了していない状態の紡糸原液に伝わるため、結果として空中走行部の紡糸原液が引き伸ばされてしまい、ドラフトをかけても凝固浴内での中空糸膜の弛みを抑えきれないためである。
【0025】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、紡糸原液の自重による伸びや凝固液の抵抗による伸びを抑える工夫を施すことにより紡糸安定性を確保しながら、性能や品質を安定化させることができることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明においては、ノズル〜凝固浴にかかる前記紡糸原液(中空糸膜)の伸びを抑えるために、凝固浴中の要所に複数のガイドまたはローラーを設置するとか、樋状の治具を設置することにより、過度の延伸(ドラフト)をかけることなく、自重や抵抗による紡糸原液(中空糸膜)の伸びを防ぎながら中空糸膜を形成することができる。
【0026】
本発明において、紡糸原液(中空糸膜)が凝固浴中で最初に接触する弛み防止ガイドまたは液中ローラーの接点の位置は、ノズルの鉛直下方線よりも1〜10cm凝固浴から中空糸膜を引き出す方向と反対側に位置することが好ましく、2〜7cmがより好ましい。先述したように、凝固浴に進入した紡糸原液は凝固液の流れに逆らって一旦凝固浴から中空糸膜を引き出す方向とは反対方向に向かって弛み始めるが、紡糸原液の少なくとも表面が固まる前にガイド等に接触すると、中空糸膜表面に傷がつくとか、外表面形状の曲面の滑らかさが損なわれる(外表面が変形する)問題がある。すなわち、紡糸原液が凝固浴中をある程度走行し、表面が固まった後にガイド等に接触させる必要が生じるが、そうすると紡糸原液は凝固浴から中空糸膜を引き出す方向とは反対方向に若干弛みが生じているので、弛み防止ガイドの深さにもよるが、前記範囲に設置するのが好ましい。1cmより小さいと引取りローラーで引っ張られた中空糸膜が反対方向に行く力を支えることができず、10cmより大きいと凝固浴中の中空糸膜の自重によって下方に沈む力が空中走行部の凝固が完了していない状態の紡糸原液に伝わるため、空中走行部の紡糸原液が引き伸ばされて空中走行部での紡糸原液の揺れが大きくなり、可紡性や性能に影響を与えることがある。
紡糸原液が凝固浴中で最初に接触する弛み防止ガイドの凝固浴液面からの深さは、10〜30cmであることが好ましい。15〜25cmがより好ましい。
【0027】
本発明において、凝固浴最深部に位置する弛み防止ガイドと中空糸膜との接点とその接点から凝固浴液面までの最短距離である最大浸漬長は0.2〜1mであることが好ましく、0.3〜0.8mがより好ましく、0.4〜0.6mがさらに好ましい。0.2mより短いと紡糸原液の凝固が不完全であるため、未凝固の紡糸原液(中空糸膜)と弛み防止ガイドが接触した際に潰れが発生したり、外表面形状の変形、極端な場合には膜の断面で2層に剥離してしまうという現象が生ずることがある。1mより大きいと作業性が悪くなる問題がある。
また、凝固浴の最深部に位置するガイドと中空糸膜との接点は、ノズルの鉛直下方線よりも凝固浴の出口側(凝固浴から中空糸膜を引き出す方向)に位置するのが好ましく、鉛直下方線よりもおよそ30cm以内の位置にあるのがより好ましく、20cm以内にあるのがさらに好ましい。紡糸原液(中空糸膜)の走行速度にもよるが、30cmを超えると自重による弛みを解消しきれず、安定走行を維持できないことがある。
本発明においては、前記した2つのガイド設置が特に重要であり、他のガイドは走行状態を観察しながら安定走行できるように適宜、必要な位置に必要本数設置すればよい。
【0028】
本発明において、凝固浴中の複数の弛み防止ガイドは、全体が必ずしも凝固液に浸漬されている必要はなく、中空糸膜とガイドとの接触部が少なくとも凝固液に浸漬されていればよい。また、凝固浴内でのガイドの位置は特に限定されるものではなく、紡糸原液の凝固速度により、所望の各ガイド前後の中空糸膜の角度が得られるよう設置すればよい。
【0029】
本発明において、吐出線速度/凝固浴第一ローラー速度比(ドラフト比)は0.9〜1.8が好ましい範囲である。前記比が0.9未満では、引取り速度が遅すぎて本願発明を適用しても走行する中空糸膜の弛みを解消することができない。また、ドラフト比が1.8を超える場合には中空糸膜の細孔形状の変形をもたらすことがある。より好ましくは0.95〜1.7、さらに好ましくは1.0〜1.6、特に好ましくは1.05〜1.5である。ドラフト比をこの範囲に調整することにより、比較的太径の中空糸膜であっても安定に紡糸でき、細孔の変形や破壊を防ぐことができ、膜孔への被処理液中の夾雑物の目詰まりを防ぎ、経時的な性能安定性やシャープな分画特性を発現することが可能となる。
【0030】
本発明の中空糸膜の素材は特に限定されず、セルロース、セルロースアセテート、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン(PSf)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられるが、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホン等のポリスルホン系ポリマーはポリビニルピロリドン(PVP)等により容易に親水性を付与することができ、可紡性および十分な透過性能を得ることができるため特に好ましい。
【0031】
製膜溶液に使用される溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略記する)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMFと略記する)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下DMAcと略記する)、ジメチルスルホキシド(以下DMSOと略記する)、ε−カプロラクタムなど、使用される疎水性高分子、親水性高分子の良溶媒であれば広く使用することが可能であるが、疎水性高分子としてPSf、PESなどのポリスルホン系高分子を使用する場合には、NMP、DMF、DMAcなどの溶媒が好ましく、NMPが特に好ましい。
【0032】
また、紡糸原液には必要により高分子に対する非溶媒を添加することも可能である。使用される非溶媒としては、例えば、エチレングリコール(以下EGと略記する)、プロピレングリコール(以下PGと略記する)、ジエチレングリコール(以下DEGと略記する)、トリエチレングリコール(以下TEGと略記する)、ポリエチレングリコール(以下PEGと略記する)、グリセリン、水などが例示されるが、疎水性高分子としてPSf、PESなどのポリスルホン系高分子、親水性高分子としてPVPを使用する場合には、DEG、TEG、PEGなどのエーテルポリオールが好ましく、TEGがより好ましい。
【0033】
紡糸原液における疎水性高分子の濃度は、該原液からの製膜が可能であれば特に制限されないが、10〜35重量%が好ましく、15〜30重量%がより好ましい。高い透過性を得るには疎水性高分子の濃度は低いほうが好ましいが、過度に低いと強度の低下を招く可能性があるので、10〜25重量%が好ましい。
親水性高分子の添加量は、中空糸膜に親水性を付与し、水性流体処理時の非特異吸着を抑制するのに十分な量であれば特に制限されないが、疎水性高分子に対する親水性高分子の比率として10〜35重量%が好ましく、15〜25重量%がより好ましい。親水性高分子の添加量が少なすぎると膜への親水性付与が不十分となり、膜特性の保持性が低下する可能性がある。また、親水性高分子の添加量が多すぎると親水性付与効果が飽和してしまい効率がよくなく、また、紡糸原液の相分離(凝固)が過度に進行しやすくなり、本発明の好ましい膜構造を形成するのに不利となることがある。
【0034】
紡糸原液中における溶媒/非溶媒の比は、紡糸工程における相分離(凝固)の制御に重要な要因の1つである。具体的には、溶媒/非溶媒の含有量が重量比で35/65〜70/30であることが好ましく、40/60〜60/40であることがより好ましく、45/55〜50/50であることがさらに好ましい。溶媒の含有量が少なすぎると凝固が進行しやすくなり、膜構造が緻密化しすぎて透過性が低下することがある。また、溶媒含有量が多すぎると相分離の進行が過度に抑制され、細孔径が大きくなりすぎて、分画特性や強度の低下を招く可能性がある。
【0035】
中空糸膜の製膜時に使用される芯液の組成は、紡糸原液に使用するのと同じ溶媒、非溶媒、水との混合液を使用することが好ましい。この際、芯液中に含まれる溶媒と非溶媒の比率は、紡糸原液の溶媒/非溶媒比率と同一とするのが好ましい。紡糸原液に使用されるのと同一の溶媒および非溶媒を、紡糸原液中の比率と同一にして混合し、これに水を添加して希釈したものが好ましく用いられる。紡糸原液と芯液の溶媒/非溶媒組成を同一とすることにより、原料調達や製造コスト、取り扱いの煩雑さを低減することができる。
芯液中の水の含量は、好ましくは10〜20重量%、より好ましくは14〜18重量%である。水の含有量が多すぎると、凝固が進行しやすくなり、膜構造が緻密化しすぎて透過性が低下する可能性がある。また、水含有量が少なすぎると、相分離の進行が過度に抑
制され、孔径が大きくなりすぎて、分画特性や強度の低下を招く可能性があるとともに中空糸膜が凝固浴内で弛んでしまい、本発明の製造方法を用いても内径および膜厚を十分大きくすることができなくなる。
【0036】
外部凝固液の組成は、紡糸原液に使用するのと同じ溶媒、非溶媒、水の混合液を使用するのが好ましい。この際、芯液中に含まれる該溶媒と該非溶媒の比率は、紡糸原液の溶媒/非溶媒比率と同一とするのが好ましい。紡糸原液に使用されるのと同一の溶媒および非溶媒を、紡糸原液中の比率と同一にして混合し、これに水を添加して希釈したものが好ましく用いられる。紡糸原液、芯液、外部凝固液の溶媒/非溶媒組成を同一とすることにより、外部凝固液の組成変化を抑制することができ、製造コスト、管理の面より好ましい。
外部凝固液中の水の含量は、好ましくは30〜85重量%、より好ましくは40〜80重量%である。水の含有量が多すぎると凝固が進行しやすくなり、膜構造が緻密化して透過性が低下することがある。また、水含有量が少なすぎると相分離の進行が過度に抑制され、大孔径の空孔が生じやすくなり、分画特性や強度の低下を招く可能性がある。
また、外部凝固液の温度が低すぎると凝固が進行しやすくなり、膜構造が緻密化して透過性が低下する可能性がある。一方、高すぎると相分離の進行が過度に抑制され、大孔径の空孔が生じやすくなり、分画特性や強度の低下を招く可能性がある。したがって、外部凝固液の温度は30〜80℃が好ましく、より好ましくは40〜70℃である。
【0037】
本発明において、凝固浴中に設置する弛み防止ガイドの数は凝固浴を走行する中空糸膜の弛みを抑えることができれば特に制限は無いが、あまり多くしても中空糸膜の走行抵抗が大きくなるだけであるので2〜7とするのが適当である。より好ましくは2〜5である。
【0038】
本発明において、ノズル温度は、低すぎると凝固が進行しやすくなり、膜構造が緻密化しすぎて透過性が低下することがある。また、高すぎると紡糸原液の粘度が低くなり過ぎて空中走行部での安定性や、凝固浴中の中空糸膜の自重が伝わり空中走行部の未凝固の紡糸原液が引き伸ばされて紡糸できなくなることがある。さらに、相分離の進行が過度に抑制され、大孔径の空孔が生じやすくなり、分画特性や強度の低下を招く可能性がある。したがって、ノズル温度は40〜70℃が好ましく、より好ましくは45〜60℃である。
【0039】
本発明の中空糸膜の内径は、好ましくは700〜2000μmである。発酵液中には、最大で500μm程度の直径を有する微粒子が存在することがあり、内径が小さすぎると中空糸膜の中空部を閉塞させるおそれがあるため、中空糸膜の内径は800μm以上がより好ましい。900μm以上がさらに好ましく、1000μm以上がさらにより好ましい。また、内径が大きすぎる場合には、耐圧性を保つために膜厚も大きくして中空率を維持する必要があるが、膜厚を厚くすると発酵液を濾過する際に膜厚部分が抵抗になり、十分な濾過流量を得られなくなる可能性がある。また、ノズルから紡糸原液と内液とを一緒に吐出して、凝固浴で凝固させる際に、紡糸原液量が多いために凝固が不十分となってしまい、中空糸膜形状を維持できなくなってしまうことがある。さらに、内径が大きすぎるとクロスフロー濾過に必要な線速度を得るために発酵液を流すポンプの電気エネルギーが大きくなるためランニングコストが高くなる可能性がある。したがって、中空糸膜内径は1800μm以下がより好ましく、1700μm以下がさらに好ましく、1600μm以下がさらにより好ましい。
【0040】
中空糸膜の膜厚は、好ましくは200〜500μm、より好ましくは250〜350μmである。膜厚が薄すぎると、1.0〜1.5bar程度の圧力をかけて発酵液を濾過する際に、膜が破損する可能性がある。膜厚が厚すぎると、発酵液を濾過する際に十分な濾過流量を得られなくなる可能性がある。
【0041】
前記したような内径、膜厚を有する中空糸膜を製造するためのノズルとしては、チューブインオリフィス型のノズルを用いるのが好ましく、この場合ノズルスリット外径は1000〜3000μmが好ましく、1300〜2800μmがより好ましく、1500〜2500μmがさらに好ましい。また、ノズルスリット内径は800〜2000μmが好ましく、1000〜1700μmがより好ましい。また、スリット幅は所望する中空糸膜の膜厚にもよるが、500〜1000μmが好ましく、700〜900μmがより好ましい。スリット幅が過剰に大きなノズルを使用すると、所望の膜厚を得るためにノズルドラフトを大きくする必要が生じ、得られる中空糸膜の細孔構造に悪影響を与えることがある。
【0042】
中空糸膜の内径の2乗を外径の2乗で除した中空率は、25〜55%が好ましく、より好ましくは30〜50%、さらに好ましくは30〜45%である。中空率が小さいと所定の膜面積を有するモジュールが大きくなってしまう。中空率が大きいと膜の強度が弱くなり使用に耐えることができなくなる。
【0043】
本発明の中空糸膜は、温度22℃、操作圧1barにおける中空糸膜の内側から中空糸膜の外側への純水の透過速度が好ましくは1000〜5000L/m2/h/bar、より好ましくは1500〜4500L/m2/h/bar、さらに好ましくは2000〜4000L/m2/h/barである。純水の透過速度が小さすぎると単位膜面積当たりの十分な発酵液の濾過流量を得ることができないことがある。純水の透過速度が大きすぎると膜が弱くなり耐圧性が低下する可能性がある。
【0044】
本発明の中空糸膜を純水に浸漬して測定した時のバースト圧は、6.0MPa以上、より好ましくは7.0MPa以上、さらに好ましくは8.0MPa以上、さらにより好ましくは9.0MPa以上である。発酵液を濾過する際に1.0〜1.5bar程度の圧力をかけて濾過するためバースト圧が低いと膜が破損する可能性がある。発酵液には10〜20%程度のアルコール分を含有するため純水で測定したバースト圧よりも数倍高いバースト圧が必要となる。また、バースト圧が低いと繰返し使用する際の耐久性が低下してしまう。
【0045】
本発明において、ろ過開始10分後のワインFlux(10)は、50L/m2/h/bar以上が好ましく、70L/m2/h/bar以上がより好ましく、100L/m2/h/bar以上がさらに好ましい。また、ろ過開始120分後のワインFlux(120)は、30L/m2/h/bar以上が好ましく、50L/m2/h/bar以上がより好ましい。ワインFlux(10)は、膜面にケーク層が顕著に形成され始める時点を示し、ワインFlux(120)はFluxがほぼ安定状態に達した状態を示す。すなわち、ろ過開始10分後のワインFlux(10)とろ過開始120分後のワインFlux(120)の比で示されるワインFlux保持率(%)は40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。
【0046】
本発明において、中空糸膜の内表面の1万倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真において極大孔が存在する必要がある。ワイン濾過のFluxを高くするためには中空糸膜内表面の開孔を大きくしてケーク層の形成を抑制する必要があるが、内表面に極大孔が無い場合ワインを濾過すると同時に内表面にケーク層が形成してワインFluxが低下してしまう。濾過による流体からの被除去物質の除去には、膜表面の孔径による表層効果と、膜厚部分による深層効果の双方による寄与がある。このうち主として深層効果に依存する分離は、分画特性の鋭敏化が期待でき、ある程度の厚みを利用しての分離であるため、目詰まりの影響が顕在化しにくい利点があり、このような中空糸膜を得る際に、本発明の方法は好適である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における評価方法は以下の通りである。
【0048】
1.ミニモジュールの作製
中空糸膜を約40cmの長さに切断し、両末端をビニールテープで束ねて中空糸膜束を作製した後、接着後に中空糸膜端部が開口するように予めペンチで端部を潰して中空部を閉塞させた。この中空糸膜束の両端をそれぞれパイプ(スリーブ)に挿入し、パイプにエポキシ接着剤を流し込んだ。エポキシ樹脂が固化した後に端部を切断して両末端が開口したミニモジュールを得た。中空糸膜の本数は、内面の表面積が50〜100cm2になるよう適宜設定した。
【0049】
2.ループ型ミニモジュールの作製
中空糸膜を約40cmの長さに切断し、ループ型にした後、末端をビニールテープで束ねて中空糸膜束を作製した。接着後に中空糸膜端部が開孔するように予めペンチで端部を潰した後、ループ型中空糸膜束の端部をパイプ(スリーブ)に挿入し、エポキシ樹脂剤をパイプに流し込んだ。エポキシ樹脂が固化した後に端部を切断して、端部が開孔したループ型ミニモジュールを得た。中空糸膜の本数は、内面の表面積が20〜50cm2になるよう設定した。
【0050】
3.膜面積の計算
モジュールの膜面積は中空糸膜の内径を基準として求めた。次式によってモジュールの膜面積が計算できる。
A=n×π×d×L
ここで、nは中空糸膜の本数、πは円周率、dは中空糸膜の内径[m]、Lはモジュールにおける中空糸膜の有効長[m]である。
【0051】
4.純水の透過速度(純水Fluxと略記する)の測定
ミニモジュールの両端のパイプ2箇所(それぞれ内面流入口、内面流出口と呼称する)に回路を接続し、モジュールへの純水の流入圧とモジュールからの純水の流出圧を測定できるようにした。内面流入口から純水をモジュールに導入し、内面流出口に接続した回路(圧力測定点よりも下流)を閉じて流れを止め、モジュールの内面流入口から入った純水を全濾過するようにした。22℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、ミニモジュールへ純水を送り、透析液流出口から流出した一定時間の濾液量を測定した。膜間圧力差(TMP)は
TMP=(Pi+Po)/2
とした。ここで、Piはモジュールの内面流入口側圧力、Poはモジュールの内面流出口側圧力である。中空糸膜の純水Fluxは膜面積とモジュールの透水率から算出した。
純水Flux[L/m2/h/bar]
=(1分あたりの純水の濾過量[L/min]×60/A/TMP[bar]
ここで純水Fluxは中空糸膜の透水率[L/m2/h/bar]、Aはモジュールの膜面積[m2]である。
【0052】
5.ワイン透過率(ワインFluxと略記する)の測定
丹波ワイン社から市販されている酵母を含有した濁りワイン「丹波新酒にごり2005」を1日以上静置後に採取した上澄みにメルシャン社から市販されている「ワインライフ[白]」で希釈し、濁度が10NTUになるよう調整した(以下評価用ワインと呼称する)。モジュールはRO水に1時間以上浸漬した後、評価用ワインで置換し、内外両面に評価用ワインを満たした。容器内に評価用ワインを満たし、22℃になるよう温度を制御した。この容器からポンプを介して評価用ワインがミニモジュールの内面を灌流して容器に戻ると同時に、中空糸膜によって濾過された評価用ワインも容器に戻るよう回路を組んだ。その際、モジュールへの評価用ワインの流入圧とモジュールからの評価用ワインの流出圧を測定できるようにした。中空糸膜の内腔を、評価用ワインが1.5m/secの流速で流れるように、内面流入口から評価用ワインを導入した。この際、TMPは約1.5barになるよう調整した。この状態で、中空糸膜内腔に評価用ワインを灌流、一部を濾過するクロスフロー濾過を継続して実施した。所定の時間が経過した時点で、一定時間に濾過されるワインの量を測定した(例えば、灌流開始後10〜11minの時点における濾過量、20〜21minの時点における濾過量)。ワインFluxを次式により算出した。
ワインFlux [L/m2/h/bar]
=(1分あたりのワイン濾過量[L/min]×60/A/TMP[bar]
ただし、Aはモジュールの膜面積[m2]である。
【0053】
6.中空糸膜の内径、膜厚の測定
中空糸膜を長さ方向に対して垂直に鋭利な剃刀でカットし、断面を20倍の顕微鏡で観察する、内径値と外径値をそれぞれn=10で測定し、平均値を算出する。
膜厚[μm]={(外径)−(内径)}/2
【0054】
7.バースト圧
ループ状ミニモジュールに回路を接続し、ミニモジュールを純水に5分間浸漬した後、空気ボンベで1分間に1barの速度で加圧していき、ミニモジュールが破裂する圧力を測定した。
【0055】
(実施例1)
PES(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)5200P)19.0重量部、BASF社製PVP(コリドン(登録商標)K30)5.0重量部、三菱化学社製NMP34.2重量部、三井化学社製TEG41.8重量部を80℃で3時間混合、溶解し均一な溶液を得た。得られた溶液を常圧−0.05MPaに減圧した後3時間放置して脱泡を行い、この溶液を紡糸原液とした。一方、NMP37.8重量部、TEG46.2重量部、RO水16.0重量部の混合液を調製し、この溶液を芯液とした。二重管ノズルの外側環状部から前記紡糸原液を19.1cc/min/錘で、中心部から前記芯液を11.7cc/min/錘で吐出し、15mmのエアギャップを経て、NMP13.5重量部、TEG16.5重量部、RO水70.0重量部の混合液からなる外部凝固液を満たした凝固浴に導いた。この際、ノズル温度は65℃、外部凝固液温度は55℃に設定した。用いたノズルは、スリット外径が2300μm、スリット内径が1500μmであった。凝固液内では半径12mmの弛み防止ガイドを4本使用して図1の様に弛み防止ガイドに中空糸膜が接触するように走行させ進行方向を変更した。このとき、各ガイドは表1に示す位置に設置した。なお表中、横方向位置とはノズルからの鉛直下方線からの距離を表し、凝固浴から中空糸膜を引き出す方向をプラス、それとは反対方向に位置する場合マイナスで表す。一方、縦方向位置とは凝固浴液面からの距離を表す。また、4本の弛み防止ガイドはステンレスの丸棒ガイドの表面をハードクロムコートし梨地加工したものを用いた。凝固浴内から中空糸膜を引き出し、水洗槽を通過させ、過剰の溶媒を除去した後、8.2m/minの紡速で綛に捲き上げた。綛に捲き上げた中空糸膜束は、所定の長さになるように切断してバンドルとし、バンドルを縦にして中空糸膜の中空部に含まれる液を除去した。バンドルは、85℃のRO水に60min浸漬して加熱処理を行った後、60℃で10hにわたり熱風乾燥した。得られた乾燥中空糸膜の内径は1210μm、膜厚は349μmであった。
【0056】
得られた中空糸膜の内表面には1万倍のSEM観察で極大孔が見られた。得られた中空糸膜からミニモジュールを作製し、ワインFluxを測定したところ、10分後に測定したワインFlux(10)、120分後に測定したワインFlux(120)からワインFlux(10)/ワインFlux(120)×100=保持率(%)を求めたところ、高いワインFlux性能を示していた。結果を表2にまとめる。
【0057】
(実施例2)
PES(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)4800P)19.0重量部、BASF社製PVP(コリドン(登録商標)K30)7.0重量部、三菱化学社製NMP33.3重量部、三井化学社製TEG40.7重量部を72℃で3時間混合、溶解し均一な溶液を得た。得られた溶液を常圧−0.05MPaに減圧した後3時間放置して脱泡を行い、この溶液を紡糸原液とし。一方、NMP37.8重量部、TEG46.2重量部、RO水16.0重量部の混合液を調製し、この溶液を芯液とした。二重管ノズルの環状部から前記紡糸原液を25.3cc/min/錘で、中心部から前記芯液を15.2cc/min/錘で吐出し、15mmのエアギャップを経て、NMP13.5重量部、TEG16.5重量部、RO水70.0重量部の混合液からなる外部凝固液を満たした凝固浴に導いた。この際、ノズル温度は60℃、外部凝固液温度は65℃に設定した。用いたノズルは、スリット外径が2300μm、スリット内径が1500μmであった。凝固液内では半径15mmの弛み防止ガイドを2本使用して図2の様に弛み防止ガイドに中空糸膜が接触するように走行させて進行方向を変更した。各ガイドの位置は表1に示す。また、2本の弛み防止ガイドはステンレスの丸棒ガイドを用いた。凝固浴内から中空糸膜を引き出し、水洗槽を通過させ、過剰の溶媒を除去した後、8.2m/minの紡速で綛に捲き上げた。綛に捲き上げた中空糸膜束は、所定の長さになるように切断してバンドルとし、バンドルを縦にして中空糸膜の中空部に含まれる液を除去した。バンドルは、80℃のRO水に60min浸漬して加熱処理を行った後、60℃で10hにわたり熱風乾燥した。得られた乾燥中空糸膜の内径は1985μm、膜厚は493μmであった。内表面には1万倍のSEM写真で極大孔が見られた。結果を表2に示す。
【0058】
(実施例3)
PES(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)5200P)19.0重量部、BASF社製PVP(コリドン(登録商標)K30)5.0重量部、三菱化学社製NMP34.2重量部、三井化学社製TEG41.8重量部を80℃で3時間混合、溶解し均一な溶液を得た。得られた溶液を常圧−0.05MPaに減圧した後3時間放置して脱泡を行い、この溶液を紡糸原液とした。一方、NMP37.8重量部、TEG46.2重量部、RO水16.0重量部の混合液を調製し、この溶液を芯液とした。二重管ノズルの環状部から前記紡糸原液を16.4cc/min/錘で、中心部から前記芯液を11.7cc/min/錘で吐出し、15mmのエアギャップを経て、NMP13.5重量部、TEG16.5重量部、RO水70.0重量部の混合液からなる外部凝固液を満たした凝固浴に導いた。この際、ノズル温度は65℃、外部凝固液温度は55℃に設定した。用いたノズルは、スリット外径が2300μm、スリット内径が1500μmであった。凝固液内では半径12mmの弛み防止ガイドを4本使用して図1の様に弛み防止ガイドに中空糸膜が接触するように走行させ進行方向を変更した。各ガイドの位置は表1に示す。また、4本の弛み防止ガイドは表面が梨地加工されたものを用いた。凝固浴内から中空糸膜を引き出し、水洗槽を通過させ、過剰の溶媒を除去した後、8.2m/minの紡速で綛に捲き上げた。綛に捲き上げた中空糸膜束は、所定の長さになるように切断してバンドルとし、バンドルを縦にして中空糸膜の中空部に含まれる液を除去した。バンドルは、85℃のRO水に60min浸漬して加熱処理を行った後、60℃で10hにわたり熱風乾燥した。得られた乾燥中空糸膜の内径は1150μm、膜厚は206μmであった。内表面には1万倍のSEM写真で極大孔が見られた。結果を表2にまとめる。
【0059】
(実施例4)
PES(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)4800P)19.0重量部、BASF社製PVP(コリドン(登録商標)K30)7.0重量部、三菱化学社製NMP33.3重量部、三井化学社製TEG40.7重量部を72℃で3時間混合、溶解し均一な溶液を得た。得られた溶液を常圧−0.05MPaに減圧した後3時間放置して脱泡を行い、この溶液を紡糸原液とし。一方、NMP37.8重量部、TEG46.2重量部、RO水16.0重量部の混合液を調製し、この溶液を芯液とした。二重管ノズルの環状部から前記紡糸原液を18.5cc/min/錘で、中心部から前記芯液を7.3cc/min/錘で吐出し、15mmのエアギャップを経て、NMP13.5重量部、TEG16.5重量部、RO水70.0重量部の混合液からなる外部凝固液を満たした凝固浴に導いた。この際、ノズル温度は59.1℃、外部凝固液温度は63.7℃に設定した。用いたノズルは、スリット外径が1500μm、スリット内径が1000μmであった。凝固液内では半径15mmの弛み防止ガイドを2本使用して図2の様に弛み防止ガイドに中空糸膜が接触するように走行させ進行方向を変更した。各ガイドの位置は表1に示す。また、2本の弛み防止ガイドは表面が梨地加工されたものを用いた。凝固浴内から中空糸膜を引き出し、水洗槽を通過させ、過剰の溶媒を除去した後、8.2m/minの紡速で綛に捲き上げた。綛に捲き上げた中空糸膜束は、所定の長さになるように切断してバンドルとし、バンドルを縦にして中空糸膜の中空部に含まれる液を除去した。バンドルは、80℃のRO水に60min浸漬して加熱処理を行った後、60℃で10hにわたり熱風乾燥した。得られた乾燥中空糸膜の内径は703μm、膜厚は349μmであった。内表面には1万倍のSEM写真で極大孔が見られた。結果を表2に示す。
【0060】
(実施例5)
PES(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)5200P)19.0重量部、BASF社製PVP(コリドン(登録商標)K30)5.0重量部、三菱化学社製NMP34.2重量部、三井化学社製TEG41.8重量部を80℃で3時間混合、溶解し均一な溶液を得た。得られた溶液を常圧−0.05MPaに減圧した後3時間放置して脱泡を行い、この溶液を紡糸原液とした。一方、NMP37.8重量部、TEG46.2重量部、RO水16.0重量部の混合液を調製し、この溶液を芯液とした。二重管ノズルの環状部から前記紡糸原液を20.7cc/min/錘で、中心部から前記芯液を12.0cc/min/錘で吐出し、15mmのエアギャップを経て、NMP13.5重量部、TEG16.5重量部、RO水70.0重量部の混合液からなる外部凝固液を満たした凝固浴に導いた。この際、ノズル温度は65℃、外部凝固液温度は55℃に設定した。用いたノズルは、スリット外径が2300μm、スリット内径が1500μmであった。凝固液内では半径12mmの弛み防止ガイドを4本使用して図1の様に弛み防止ガイドに中空糸膜が接触するように走行させ進行方向を変更した。各ガイドの位置は表1に示す。また、4本の弛み防止ガイドは表面が梨地加工されたものを用いた。凝固浴内から中空糸膜を引き出し、水洗槽を通過させ、過剰の溶媒を除去した後、8.2m/minの紡速で綛に捲き上げた。綛に捲き上げた中空糸膜束は、所定の長さになるように切断してバンドルとし、バンドルを縦にして中空糸膜の中空部に含まれる液を除去した。バンドルは、85℃のRO水に60min浸漬して加熱処理を行った後、60℃で10hにわたり熱風乾燥した。得られた乾燥中空糸膜の内径は1230μm、膜厚は433μmであった。内表面には1万倍のSEM写真で極大孔が見られた。結果を表2にまとめる。
【0061】
(実施例6)
PES(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)4800P)19.0重量部、BASF社製PVP(コリドン(登録商標)K30)7.0重量部、三菱化学社製NMP33.3重量部、三井化学社製TEG40.7重量部を72℃で3時間混合、溶解し均一な溶液を得た。得られた溶液を常圧−0.05MPaに減圧した後3時間放置して脱泡を行い、この溶液を紡糸原液とした。一方、NMP37.8重量部、TEG46.2重量部、RO水16.0重量部の混合液を調製し、この溶液を芯液とした。二重管ノズルの環状部から前記紡糸原液を17.8cc/min/錘で、中心部から前記芯液を13.6cc/min/錘で吐出し、15mmのエアギャップを経て、NMP13.5重量部、TEG16.5重量部、RO水70.0重量部の混合液からなる外部凝固液を満たした凝固浴に導いた。この際、ノズル温度は59.1℃、外部凝固液温度は63.7℃に設定した。用いたノズルは、スリット外径が2500μm、スリット内径が1700μmであった。凝固液内では半径15mmの弛み防止ガイドを4本使用して図1の様に弛み防止ガイドに中空糸膜が接触するように走行させ進行方向を変更した。各ガイドの位置は表1に示す。また、4本の弛み防止ガイドは表面が梨地加工されたものを用いた。凝固浴内から中空糸膜を引き出し、水洗槽を通過させ、過剰の溶媒を除去した後、8.2m/minの紡速で綛に捲き上げた。綛に捲き上げた中空糸膜束は、所定の長さになるように切断してバンドルとし、バンドルを縦にして中空糸膜の中空部に含まれる液を除去した。バンドルは、80℃のRO水に60min浸漬して加熱処理を行った後、60℃で10hにわたり熱風乾燥した。得られた乾燥中空糸膜の内径は1533μm、膜厚は265μmであった。内表面には1万倍のSEM写真で極大孔が見られた。結果を表2に示す。
【0062】
(比較例1)
図3の様に弛み防止ガイドを1本用いて中空糸膜を弛み防止ガイドの二重管口金と反対の外周方向を走行させた以外は実施例1と同じ条件で紡糸した。弛み防止ガイドは、ほぼノズルの鉛直下方線上の凝固浴液面からの深さ45cmの位置に設置した。内径を1200μmに維持しながら紡糸原液の吐出量を上げていったところ、約10cc/min/錘で凝固液中で中空糸膜が弛んでしまい、これ以上膜厚を厚くすることができなかった。得られた乾燥中空糸膜の内径は1252μm、膜厚は187μmであった。ワインFluxを測定したところ測定を開始してすぐ膜が破損してしまい測定を中止した。結果を表2に示す。
【0063】
(比較例2)
PES(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)4800P)19.0重量部、BASF社製PVP(コリドン(登録商標)K30)3.0重量部、三菱化学社製NMP35.1重量部、三井化学社製TEG42.9重量部を80℃で4時間混合、溶解し均一な溶液を得た。さらに、常圧−0.05MPaまで減圧した後、溶媒等が揮発して溶液組成が変化しないようにすぐに系内を密封して3時間放置して脱泡を行い、この溶液を紡糸原液とした。一方、NMP34.875重量部、TEG42.625重量部、RO水22.5重量部の混合液を調製し、この溶液を芯液とした。二重管ノズルの環状部から上記紡糸原液を、中心部から上記芯液を吐出し、20mmのエアギャップを経て、NMP13.5重量部、TEG16.5重量部、RO水70.0重量部の混合液からなる外部凝固液を満たした凝固浴に導いた。この際、ノズル温度は72℃、外部凝固液温度は55℃に設定した。用いたノズルは、スリット外径が1000μm、スリット内径が800μmであった。図3の様に弛み防止ガイド1本を用いて中空糸膜を弛み防止ガイドの外側(下側)を走行させた。さらに、凝固浴内から中空糸膜を引き出し、水洗槽を45秒通過させ過剰の溶媒を除去した後、8.2m/minの紡速で綛に捲き上げた。綛に捲き上げた中空糸膜束は、そのまま40分間放置した後、綛の両端をテープで留めテープの外側を中空糸膜の断面が潰れないようにカッターで切断後、バンドルを縦にして中空糸膜の中空部に含まれる液を除去した。中空糸膜束は、80℃のRO水に60min浸漬して加熱処理を行った後、60℃で10hにわたり熱風乾燥を実施し、内径561μm、膜厚84μmの中空糸膜を得た。
【0064】
内表面には1万倍のSEM写真で極大孔が観測されなかった。ワインFluxを測定したところ値が低く実際の濾過工程に用いることができなかった。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の高分子多孔質中空糸膜は、食品分野、医薬分野、半導体分野、エネルギー分野および水処理分野における液体の処理に使用される中空糸膜は、精密濾過、限外濾過などの工業用途や、血液透析、血液濾過、血液透析濾過などの医療用途に広く利用可能である。特に、食品分野において発酵液に使用される液体処理用の中空糸膜としてワイン、ビール中の酵母、固形物、コロイド等の除去に好適である。
【符号の説明】
【0068】
1 二重管口金
2−1 凝固浴中の弛み防止ガイドまたはローラー
2−2 凝固浴中の弛み防止ガイドまたはローラー
2−3 凝固浴中の弛み防止ガイドまたはローラー
2−4 凝固浴中の弛み防止ガイドまたはローラー
3 凝固浴
4 空中走行部
5 中空糸膜
6 引取りローラー
7 最下部に位置する弛み防止ガイドまたはタッチローラーと中空糸膜との接点と接点から最短の凝固浴液面との距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー、溶媒からなる紡糸原液をチューブインオリフィスノズルの外側環状部より吐出し、空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬して中空糸膜を形成する乾湿式紡糸法において、凝固浴中を走行する中空糸膜の走行軌道が複数の弛み防止ガイドからなるガイド群により構成される内接軌道に沿って走行させることを特徴とする中空糸膜の製造方法。
【請求項2】
弛み防止ガイドの数を2〜7とすることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項3】
凝固浴中を走行する中空糸膜が最初に接触する弛み防止ガイドの接点がチューブインオリフィスノズルの鉛直線を基準にして1〜10cm凝固浴から中空糸膜を引き出す方向と反対側に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項4】
凝固浴中を走行する中空糸膜が最初に接触する弛み防止ガイドの接点が凝固浴の液面より深さ10〜30cmの位置に設置されることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項5】
凝固浴の最下部に位置する弛み防止ガイドと中空糸膜との接点と凝固浴液面との最短距離である最大浸漬長が0.2〜1mであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の方法にて製造されたことを特徴とする中空糸膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−25222(P2011−25222A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258778(P2009−258778)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】