説明

中空糸膜モジュールの製造方法

【課題】
中空糸膜モジュールの筒状ケースと隔壁との材質の選定にあたっては、両者相互の接着性を配慮しなければならない制約があった。特に隔壁を切断して中空糸膜を開口させる工程で、筒状ケースと隔壁とが剥離して、リークを発生する問題を解消する。
【解決手段】
筒状ケースと、筒状ケースに挿入した中空糸膜束と、筒状ケースに中空糸膜束を固定する隔壁からなる中空糸膜モジュールの製造方法であって、隔壁を切断して中空糸膜を開口せしめる工程において、固定具を隔壁に当接させて刃により切断することを特徴とする。これにより、筒状ケースと隔壁との相互接着性が低い材質であっても、切断抵抗による接着面における筒状ケースと隔壁との剥離を回避し、中空糸膜モジュールのリーク問題を無くすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールの製造方法に関するものであり、特に血液浄化、水濾過および血漿分離などに好適な中空糸膜モジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、中空糸膜モジュールは、水処理などの工業分野、血液処理などの医療分野等多岐に渡り利用され、特に浄水器、人工腎臓、人工肺などではその利用が主流となっている。
【0003】
中空糸膜モジュールの製造方法は、一般的には次の通りである。
【0004】
複数本の中空糸膜を束ねた中空糸膜束を、筒状ケース内に収納した後、樹脂を注入し隔壁を形成する。この隔壁を形成する工程をポッティングと称する。一般的に、ポッティング前の中空糸膜束は筒状ケースよりも長いため、樹脂を注入するキャップを筒状ケースの両端に被せる。ポッティングによって隔壁が形成され、中空糸膜束の端部が筒状ケース内に固定されるが、前述のキャップの深さと略同じ長さだけ隔壁は筒状ケースよりも突出している。そこで、筒状ケース端から突出した隔壁の少なくともどちらか一方を切断して、中空糸膜の端部を開口状態とさせる。
【0005】
このような製造方法において、筒状ケース端から突出した隔壁の少なくともどちらか一方を切断する工程を行う際は、隔壁に対して切断抵抗や摩擦抵抗による負荷が発生する。一定以上の負荷が発生すると、隔壁と隔壁が接着された筒状ケースとの間に剥離が生じる。また、切断時の負荷によって隔壁が変形したり、ひいては隔壁に切断方向に引っ張り出される力が生じるといった不具合が生じる。この結果、隔壁に固定されている中空糸膜束の中空糸膜に折れまたは切断といった破損個所を生ずることとなり、被処理液が中空糸膜によってろ過されない現象(以下、リークと称する)が発生する。また、切断時に、隔壁の被切断部の変形、もしくは、隔壁が所望の切断位置から動くことによる切断面の湾曲の発生という問題がある。
【0006】
また、上記リークを避けるためには、上述の通り中空糸膜を破損させない他、隔壁と筒状ケースとが液密に固定されていることが要求される。
【0007】
これら要件を満たすために、筒状ケースの材質としては、隔壁と高い親和性を持ち、充分な接着力が得られる材質を選定する必要がある。筒状ケースの材質としては、一般的にはポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリルブタジエンスチレン樹脂等が好ましく使用されており、隔壁に用いる樹脂としてはポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが好適に用いられている。
一方、筒状ケースの材質としては、より安価な樹脂を用いて中空糸膜モジュールのコストダウンを図りたいという要求が従来からある。例えば、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂は、樹脂コストが前述の筒状ケースの材質と比べて安価である。さらに、筒状ケースを大量かつ安価に製造するには射出成形法を用いることが好適である。射出成形による製造において、ポリオレフィン樹脂は溶融樹脂流動性が高く、射出成形金型内の樹脂流動空間が狭くてもよいので、筒状ケースの厚みを薄くし、樹脂量を減らして製品コストも下げることが可能であり、しかも、使用時や廃棄時の生物学的安全性にも優れるという利点がある。
しかしながら、これらポリオレフィン樹脂はその化学構造に起因して、ポリウレタン樹脂等の隔壁形成用の樹脂との接着力が極めて小さい。その結果、ポリオレフィン樹脂からなる筒状ケースを用いて中空糸膜モジュールを製造しようとしても、隔壁の切断工程において、筒状ケースと隔壁との剥離を回避出来ず、上述したような隔壁の変形や、隔壁が筒状ケースから引っ張り出されるといった不良を引き起こすという問題を有していた。
このような隔壁の切断工程における問題による、中空糸膜モジュールのリーク発生を防止する手段として、筒状ケースにおける隔壁との接着部の構造を工夫した製品がある(特許文献1)。しかしこの場合、射出成形で製造するときは、金型における筒状ケースの隔壁との接着部の形状を非常に複雑にせざるを得ず、また、非常に高難度な成形技術を必要とするため、製造コストをさらに安価にすることは難しい。
また、その他の手段として、特許文献2には、筒状ケースにおける隔壁との接着部に予め親水化処理を行い、筒状ケースと隔壁との接着力を向上させる手段が開示されている。しかしながら、この方法は、製造工程の増加により、製造コストが高くなるという問題がある。
以上述べたとおり、中空糸膜モジュールを製造するにあたって、特に筒状ケースと隔壁を形成する樹脂との接着性が低い場合においても、筒状ケースの隔壁との接着部を複雑な形状とする必要がなく、かつ、筒状ケースに隔壁との接着性を向上させる特別な処理を施す必要もなくケースから突出した隔壁を切断するための製造方法は今まで知られていなかった。
【特許文献1】特開2004−154772号公報
【特許文献2】特開2005−230222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、中空糸膜モジュールの製造工程のうちの、隔壁における筒状ケース端からの突出部の少なくともどちらか一方を切断する工程において、筒状ケースの材質と隔壁を形成する樹脂との接着力が低い組合せであっても、筒状ケースと隔壁との剥離や隔壁自身の変形、隔壁が筒状ケースから引っ張り出されるといった問題を生じることなく、中空糸膜のリークを防ぎ、所望の形状の隔壁切断面を得ることができる、中空糸膜モジュールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、以下の方法を提供する。すなわち、
1.複数本の中空糸膜からなる中空糸膜束を筒状ケースに収納した後、樹脂による隔壁を形成することで前記中空糸膜束の端部を前記筒状ケース内に固定し、次いで前記筒状ケースから突出した隔壁の少なくとも一端を切断することにより、中空糸膜の少なくとも一端を開口させる工程を含む中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記筒状ケースから突出した前記隔壁の切断工程において、前記筒状ケースの内側に形成された前記隔壁に固定具を当接させつつ前記隔壁を切断することを特徴とする、中空糸膜モジュールの製造方法。
2.前記隔壁の切断が中空糸膜モジュールの長手方向における前記固定具の外側で行われることを特徴とする、前記1に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
3.前記隔壁および前記筒状ケースの両方に前記固定具を当接させつつ前記隔壁を切断することを特徴とする、前記1または2に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
4.前記筒状ケースの材質がポリオレフィン樹脂であることを特徴とする、前記1〜3のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、筒状ケースの材質に隔壁との接着性の低い樹脂を選択した場合でも、隔壁を切断する際に、隔壁に直接固定具を当接させているので、隔壁の変形および変位を防ぎ、切断時に中空糸膜にダメージを与えることなく、所望の切断面を得ることができる。その結果、筒状ケースの金型を複雑化することなく、また筒状ケースの隔壁との接着部に接着力を上げるための特別な処理を施す必要が無い。これによって、筒状ケースの材質には、低コストで扱いやすく、さらに環境にも配慮されたポリオレフィン樹脂を用いることが可能になり、中空糸膜モジュールを安価に製造することができる。さらには、ポリオレフィン樹脂が有する特性によって、安全性に優れた中空糸膜モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明の中空糸膜モジュールの隔壁切断前の一態様を説明するが、下記好ましい様態、例示はこの場合に限定されるものではない。
【0012】
図1は、ポッティングの後にポッティング樹脂を注入するキャップ(図示せず)を外した中空糸膜モジュールの様態を示す部分断面図である。中空糸膜モジュール10は、液体ポート11を備えた筒状ケース12と複数本の中空糸膜13を束ねた中空糸膜束14、およびこの中空糸膜束14が筒状ケース12端部において隔壁15で固定されたものからなっている。
【0013】
筒状ケース12の材質は、特に限定はされないが、後述する隔壁15との接着力の高いポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリルブタジエンスチレン樹脂等が用いられ、接着力の低いポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等に代表されるポリオレフィン樹脂は、前述のポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂等に比べて安価であることから好適に用いられる。
【0014】
中空糸膜13の材質としては、例えば、セルロース、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリプロピレンおよびポリスルホンなどがあげられる。
【0015】
隔壁15の材質としては、ポリウレタン、シリコーン、またはエポキシ等の高分子材料、好ましくはこれら2液混合硬化型の高分子接着剤があげられ、遠心成形法などによるポッティングによって隔壁15を形成することができる。
【0016】
図2は筒状ケース12の端部から突出した隔壁15に固定具17に当接させた様態を示す模式図である。筒状ケース12と隔壁15とは、接着面16において液密に接着している。固定具17は隔壁15に当接させており、刃18は固定具17よりも中空糸膜モジュール10の長手方向外側に位置する。
【0017】
図3は、刃18によって隔壁15を切断する工程を示した模式図である。刃18が上方から隔壁15に切り込み、下方に移動しながら隔壁15の外端を切断する過程を示している。切断前から固定具17で隔壁15を直接的に押えているため、刃18による切断抵抗等の負荷が接着面16におよぶことが無い。すなわち筒状ケース12と隔壁15との接着面16を液密な状態に保ったまま、隔壁15を切断することができる。すなわち、隔壁15を固定具17で直接的に押さえて切断する方法により、筒状ケース11と隔壁15には、接着力の弱い材質同士を選択することが可能になる。
固定具17の形状としては、隔壁15の少なくとも一箇所以上、特に刃18が隔壁15に切り込む位置の直近に当接させることが可能な形状であればよいが、切断抵抗などの負荷を分散させるためにも、広い範囲に当接可能であることが好ましい。
【0018】
また、刃18の形状、材質および刃先角、および切断手段、さらには切断条件については、切断する隔壁15の材質や硬度、および、切断する厚みに応じて適宜選択するとよい。切断手段についても、ギロチン方式や回転方式、引き切り方式などが好適に用いられる。
【0019】
図4は、固定具17を隔壁15と筒状ケース12との両方に同時に当接させた様態を示す模式図である。
【0020】
固定具17を隔壁15のみではなく、筒状ケース12にも直接的に押えさせることにより、中空糸膜モジュール10本体、ひいては筒状ケース12も刃18の近くで固定することが可能となり、さらに切断条件を広く選択することができ、製造を容易に行なうことができる。
【0021】
図5、6は、固定具17が隔壁15を押える方向の例を示した模式図である。図5は、中空糸膜モジュール10の長手方向と同方向の外側から固定具17を平行移動させて隔壁15を当接し得ることを示している。図6は、中空糸膜モジュール10の長手方向と直行する方向から固定具17を移動させて隔壁15を押えることを示した模式図である。
【0022】
図7は、本発明の中空糸膜モジュールの製造方法に供する固定具17のバリエーション形状を示す模式図である。中空糸膜モジュール10に当接させた固定具17を、中空糸膜モジュール10の長手方向外側から中央側に矢視している。以下、刃18が隔壁15に対して切り込む方向が、図7における上方から下方である場合について説明する。
【0023】
図7−11は、固定具17が長方形のバー形状である場合を示す。図8は、固定具17が切り欠き部を有し、隔壁15の水平方向まで当接する場合を示す。図9は図8の変形である。この態様では固定具17が半円形の切り欠き部を有し、隔壁15の略外形に沿って当接している。図10は、固定具17が円形の切り欠き部を有し、隔壁15に当接させる場合を示す。図11は、図9の半円形の切り欠き部を有する固定具17を2個用いて隔壁15に当接させる場合を示す。
【0024】
図12は、従来の切断方法を示す模式図である。隔壁15に固定具17を当接させていないため、刃18の隔壁15への切り込みによって、隔壁15を中空糸膜モジュール10の長手方向外側に引き出そうとする力が作用する。かかる力は接着面16に集中するため、筒状ケース12と隔壁15とが接着面16において剥離する懸念がある。または、隔壁15がかかる力を受けて塑性変形を引き起こし、結果、切断面が平坦にならないという不具合を残す。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明における中空糸膜モジュールは、中空糸膜型血液透析器、血漿分離器、血漿成分分離器、血液濾過器、血漿成分吸着器、人工肺およびエンドトキシン除去フィルターなどの医療用モジュールに好適に用いられる。またこれら医療用途に限定されるものではなく、水処理等のろ過装置用のモジュールにも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】隔壁切断前の中空糸膜モジュールの様態を示す部分断面図である。
【図2】隔壁に固定具を当接させた様態を示す模式図である。
【図3】刃によって隔壁を切断する工程を示した模式図である。
【図4】固定具を隔壁および筒状ケースに当接させた様態を示す模式図である。
【図5】固定具を隔壁に当接させる方向の例を示した模式図である。
【図6】固定具を隔壁に当接させる別の方向の例を示した模式図である。
【図7】固定具のバリエーション形状を示す模式図である。
【図8】固定具の別のバリエーション形状を示す模式図である。
【図9】固定具の別のバリエーション形状を示す模式図である。
【図10】固定具の別のバリエーション形状を示す模式図である。
【図11】固定具の別のバリエーション形状を示す模式図である。
【図12】従来の切断方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0027】
10 中空糸膜モジュール
11 液体ポート
12 筒状ケース
13 中空糸膜
14 中空糸膜束
15 隔壁
16 接着面
17 固定具
18 刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の中空糸膜からなる中空糸膜束を筒状ケースに収納した後、樹脂による隔壁を形成することで前記中空糸膜束の端部を前記筒状ケース内に固定し、次いで前記筒状ケースから突出した隔壁の少なくとも一端を切断することにより、中空糸膜の少なくとも一端を開口させる工程を含む中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記筒状ケースから突出した前記隔壁の切断工程において、前記筒状ケースの内側に形成された前記隔壁に固定具を当接させつつ前記隔壁を切断することを特徴とする、中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記隔壁の切断が中空糸膜モジュールの長手方向における前記固定具の外側で行われることを特徴とする、請求項1に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記隔壁および前記筒状ケースの両方に前記固定具を当接させつつ前記隔壁を切断することを特徴とする、請求項1または2に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記筒状ケースの材質がポリオレフィン樹脂であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−240900(P2009−240900A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89928(P2008−89928)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】