説明

中空糸膜モジュール及び評価方法

【課題】 製造法に由来する部品の破損が防止された中空糸膜モジュールの提供。
【解決手段】 ハウジング11及びハウジング11内に充填された所要本数の中空糸膜からなる中空糸膜束15を含む中空糸膜モジュール10であり、ハウジング11及び中空糸膜束15、並びに中空糸膜束を形成する中空糸膜同士が熱硬化性接着剤で一体に固定されており、熱硬化性接着剤の硬化終了後における接着層16の歪応力が抑制された中空糸膜モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種水処理に用いられる中空糸膜モジュール、及びその接着層強度の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に中空糸型膜モジュールは、一定容積内の濾過膜面積が大きくとれ、装置を小型化できるため、種々の膜分離用途に利用されている。中空糸型膜モジュールは、通常複数の中空糸膜からなる中空糸膜束をハウジングに収容し、中空糸膜相互間とハウジングとを樹脂などにより接着封止させ、中空糸膜の少なくとも片端部面を開口させることで製造される。
【特許文献1】特開平5−269354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の中空糸膜モジュールでは、ケースハウジング及び中空糸膜束を熱硬化性接着剤で一体化するが、熱硬化性接着剤の硬化終了後においては、熱硬化性接着剤の硬化反応に起因する歪応力が接着層内に残留しており、これが原因となり、接着層にひび割れ等が生じて強度を低下させるおそれがある。
【0004】
本発明は、ハウジング、及び中空糸膜束を熱硬化性接着剤で接着一体化した後(熱硬化性接着剤の熱硬化反応が終了した後)における歪応力が抑制され、接着層の破損による性能の低下が防止された中空糸膜モジュール、並びに接着層強度の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、課題の解決手段として、ハウジング及びハウジング内に充填された所要本数の中空糸膜からなる中空糸膜束を含む中空糸膜モジュールであり、
ハウジング及び中空糸膜束、並びに中空糸膜束を形成する中空糸膜同士が熱硬化性接着剤で一体に固定されており、熱硬化性接着剤の硬化終了後における接着層の歪応力が抑制された中空糸膜モジュールを提供する。
【0006】
本発明は、課題の他の解決手段として、接着層のうち、最初に硬化する部分の歪応力が抑制されている、請求項1記載の中空糸膜モジュールを提供する。
【0007】
また本発明は、他の課題の解決手段として、中空糸膜モジュールのハウジング及び中空糸膜束の間、並びに中空糸膜同士が熱硬化性接着剤で一体に固定された接着層の一部を切り取り、その歪応力を測定する接着層強度の評価方法を提供する。
【0008】
本発明における「接着層」は、ハウジング及び中空糸膜束(中空糸膜)が熱硬化性接着剤で一体化された層(熱硬化性接着剤の硬化終了後の層)をいい、ハウジング及び中空糸膜束(中空糸膜)の端部から一定厚さ(中空糸膜モジュールにより異なる)部分が該当する。
【0009】
本発明における歪応力は、下記一般式(1)から求められるものであり、歪応力の具体的な測定方法は実施例に記載する。
【0010】
歪応力=位相差/(光弾性常数×光の通路長) (1)
(式中、光弾性常数は、接着剤として使用した熱硬化性樹脂のものである。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の中空糸膜モジュールは、ハウジング及び中空糸膜束を熱硬化性接着剤で接着固定するという必須工程を経て製造されたものであるが、熱硬化性接着剤の硬化反応に由来する歪応力が抑制されているので、前記硬化反応終了後における接着層の破損が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<中空糸膜モジュール>
図面により説明する。図1は、中空糸膜モジュールの外観を示す図、図2は、図1に示す中空糸膜モジュールの内部構造を説明するための図、図3は、測定用サンプルの斜視図である。図2は、内部構造を説明するため、ハウジングの一部を切り欠いている。
【0013】
図1に示すとおり、中空糸膜モジュール10は、ハウジング11の周面に2つの液出入口12a、12bを有している。これらの液出入口12a、12bは、原水入口、透過液出口等の所望の液出入口になるものであり、液通路となるパイプが連結されている。液出入り口の数及び設置部位は特に限定されない。
【0014】
ハウジング11の両端面には、それぞれキャップ13a、13bが被せられており、これらのキャップも液出入口14a、14bを有している。これらの液出入口14a、14bは、濃縮液出口、逆圧洗浄水出入口等の所望の液出入口になるものであり、液通路となるパイプが連結されている。
【0015】
図2に示すとおり、中空糸膜モジュール10は、ハウジング11内に、プラスチック製ネットからなり、平面形状が扇形の保護筒21a、21b、21c、21d(図2参照)が装入されている。
【0016】
そして、ハウジング11の内壁面、中空糸膜束15、4つの保護筒21a等は、熱硬化性接着剤の硬化物からなる接着剤層16により一体化されている。なお、中空糸膜束15を形成する個々の中空糸膜同士も熱硬化性接着剤(接着剤層16)により一体化されている。
【0017】
中空糸膜は、通常使用されているものでよく、材質にも特に制限はない。例えば、酢酸セルロース系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリルニトリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、フッ素系含有樹脂等を挙げることができる。
【0018】
中空糸膜束15の大きさには特に制限はない。一般的には、各中空糸膜の外径にも依存するが、100〜100,000本程度の中空糸膜から構成されることが好ましい。また、中空糸膜束の長さは10〜200cmが好ましい。
【0019】
熱硬化性接着剤(常温硬化型又は加熱硬化型を含む)としては、尿素樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、フェノール樹脂接着剤、レソルシノール樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリウレタン接着剤、ビニルウレタン接着剤を挙げることができ、これらの中でもポリウレタン接着剤が好ましい。
【0020】
熱硬化性接着剤による接着法としては、公知の遠心接着法(遠心成型法)(特開昭51−93788号公報、特開昭52−38797号公報、特開昭61−171503号公報、特開昭61−171504号公報等)を適用して接着することができる。
【0021】
熱硬化性接着剤の硬化後、接着剤で封止された中空糸膜束15の端部を接着剤層16と共に切断して、開口させる。なお、開口のための切断方法は、スライサーのような刃物、エンドミルによる削り取り、回転盤による切断等を適用できる。
【0022】
このような中空糸膜モジュール10は、熱硬化性接着剤の硬化終了後における歪応力が抑制されたものである。
【0023】
ガラス材料、プラスチック材料等の透明物体については、成形加工の工程において管理すべき項目として成形歪(歪応力)による成形品強度の低下防止が挙げられる。即ち、成形後のプラスチック材料中に残留する成形歪(歪応力)が大きいと、経時的に接着層(接着剤と被接着物からなる層)が劣化して強度が低下してしまう。
【0024】
中空糸膜モジュールにおいては、接着剤により、膜束端部とハウジング内面との間や、中空糸膜同士を接着して一体化することが多いが、この接着により形成される接着層に大きな成形歪が残っていると、使用中に接着層が割れたりして、製品として機能しなくなっていまう。
【0025】
しかし、本発明では、熱硬化性接着剤の硬化終了後における歪応力が抑制されているため、中空糸膜モジュール10の使用中に接着層がひび割れ等を生じるおそれがなく、中空糸膜モジュール10の設計強度が維持される。
【0026】
具体的な製造方法としては、後で説明する接着層強度の評価方法を用いて、ある条件で得られたモジュールの接着層強度を評価し、その歪応力の値が高い場合は接着条件を改良して、より低い歪応力の接着層が得られるようにする。
【0027】
また、歪応力の値がいくら以下になればよいかは、接着層の歪応力を測定すると共に、同じ膜モジュールを従来の評価方法(例えば、圧ショック耐久試験)で評価し、両評価の結果の相関を調べることにより、判断することができる。
【0028】
本発明の中空糸型膜モジュールは、河川水、湖水の濾過、原子力発電、火力発電用水の濾過、復水の濾過、水の除菌、廃液の濾過回収、食品製造過程における濾過、有機溶剤の濾過や分離、液体の脱ガス、液液抽出等の用途に利用できる。これらの中では、膜の洗浄や、殺菌を定期的に行う必要のある用途、例えば河川水や湖水の濾過、水の除菌等に特に適している。
【0029】
<接着層強度の評価方法>
本発明の接着層強度の評価方法は、接着層の成形歪(歪み応力)を測定することで、接着層強度(即ち中空糸膜モジュールの強度)を評価して、高い濾過性能を有する中空糸膜モジュールを安定供給するための有用な手段である。また、本評価方法を用いることで、従来の評価方法に比べてより迅速に製品品質の検査を行うことができる。
【0030】
中空糸膜モジュールの強度とは、通常運転において、数年程度にわたる濾過運転に耐えられるかどうか意味するものであり、接着層にひび割れ等の損傷がある場合は強度が不十分となり、ひび割れ等の損傷がない場合は強度が十分となる。
【0031】
接着層強度の評価方法の手順を挙げると、次のとおりである。
(i)中空糸膜モジュールの接着層の一部を切り取りサンプルとする。
(ii)次に、偏光板により、その偏光軸方向に振動する直線偏光となった入射光を通過させる。
(iii)直線偏光は、互いに直角の方向に振動する2つの成分の合成とみなされるが、接着層に歪応力が残っていると、接着層内部で2つの成分の速度に差が生じ、接着層を通過した後に、一方が他方よりある距離だけ遅れ、位相差(光路差)が生じるので、この位相差を計測する。
(iv)この位相差を用い、下記の式(1)から歪応力を求める。
【0032】
歪応力が大きいほど、接着層が損傷を受けている(ひび割れ等が生じている)ことを意味するもので、それは、接着層強度(中空糸膜モジュール強度)が小さく、耐久性が劣ることを意味する。
【0033】
歪応力=位相差/(光弾性常数×光の通路長) (1)
(式中、光弾性常数は、接着剤として使用した熱硬化性樹脂のものである。)
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】中空糸膜モジュールの外観形状を示す正面図。
【図2】中空糸型膜モジュールの内部構造を示す斜視図。
【図3】歪応力の測定方法の説明図。
【符号の説明】
【0035】
10 中空糸型膜モジュール
11 ハウジング
15 中空糸膜束
16 接着層
21a〜21d 保護筒






【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング及びハウジング内に充填された所要本数の中空糸膜からなる中空糸膜束を含む中空糸膜モジュールであり、
ハウジング及び中空糸膜束、並びに中空糸膜束を形成する中空糸膜同士が熱硬化性接着剤で一体に固定されており、熱硬化性接着剤の硬化終了後における接着層の歪応力が抑制された中空糸膜モジュール。
【請求項2】
接着層のうち、最初に硬化する部分の歪応力が抑制されている、請求項1記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
中空糸膜モジュールのハウジング及び中空糸膜束の間、並びに中空糸膜同士が熱硬化性接着剤で一体に固定された接着層の一部を切り取り、その歪応力を測定する接着層強度の評価方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−142222(P2006−142222A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336929(P2004−336929)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(594152620)ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社 (104)
【Fターム(参考)】