説明

中空糸膜ユニット、水処理装置および水処理方法

【課題】中空糸膜により原水を膜分離する際に該中空糸膜の表面を広く有効に活用し、水処理効率を向上させることが可能な中空糸膜ユニット、水処理装置、及び水処理方法を提供する。
【解決手段】容器内部に中空糸膜を有し、前記容器の長手方向一端部に原水入口部、他端部に原水出口部が形成されており、前記原水入口部から前記容器内部に加圧されながら供給された原水が前記容器内部を前記原水出口部へと前記中空糸膜の長手方向に沿って流れて前記原水出口部から排出されるように構成され、且つ、前記容器内部を流れる原水が前記中空糸膜によって膜分離され、かかる膜分離によって前記中空糸膜を内側へと透過した透過水が原水の流れ方向と同方向に流れて前記中空糸膜から排出されるように構成された中空糸膜ユニットであって、前記容器内部を流れる原水の前記流れ方向上流側端部の静圧に対する下流側端部の静圧の差が3kPa以下であるように構成されたことを特徴とする中空糸膜ユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜ユニット、水処理装置および水処理方法に関し、詳しくは、中空糸膜によって原水が膜分離されるように構成されてなる中空糸膜ユニット、該中空糸膜ユニットを備えてなる水処理装置、及び該中空糸膜ユニットを用いて原水を膜分離する水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の水処理装置は、例えば、工場(鉄鋼、食品、電力、電子、医薬、自動車等の工場)の廃水、生活廃水、ゴミ浸出水等の廃水、工業用水等の用水、河川水、湖沼水、及び海水等の原水を膜分離することによって透過水たる処理水を得るのに用いられている。
【0003】
かかる水処理装置は、具体的には、中空糸膜ユニットを備え、更に、該中空糸膜ユニットに原水を圧送する加圧供給ポンプを備えてなる。中空糸膜ユニットでは、原水が加圧されながら容器内部を通過する間に中空糸膜によって膜分離され、かかる膜分離によって中空糸膜内部の中空部分へと透過した水(透過水)は、該中空部分を原水の流れ方向に沿って下流側に移動し、該下流側において中空糸膜から排出されるようになっている。
【0004】
図7に示すように、従来の中空糸膜ユニット10は、容器11と、該容器11内に設けられた中空糸膜12と、を備えている。容器11は、容器11内部における原水流路15の横断面積が長手方向に一定である円筒の両端が壁部によって塞がれた形状から形成されており、容器11の長手方向に沿って中空糸膜12が配置されている。容器11の周面における長手方向一端部(図7の左側)には、原水が供給される原水入口部13が形成され、他端部(図7の右側)には、容器11内部で中空糸膜12を透過しなかった原水が排出される原水出口部14が形成されており、原水入口部13から供給された原水は、容器11内部において中空糸膜12が存在しない領域から形成される原水流路15を、中空糸膜12の長手方向に沿って原水出口部14に向かって流れた後、原水出口部14から排出されるようになっている。
【0005】
かかる容器11内部において、中空糸膜12の原水入口部13側の端部(図7の左側)は、第1保持板16に、該第1保持板16を貫通することなく保持され、これにより該端部は塞がれている。一方、中空糸膜12の原水出口部14側(図7の右側)の端部は、第2保持板17に、該第2保持板17を貫通した状態で保持されている。第2保持板17と、容器2における原水出口部14側の端壁と、の間には、隙間から成る集水室18が形成されている。かかる集水室18は中空糸膜12と連通しており、中空糸膜12を透過した透過水は集水室18に導入されるようになっている。また、上記端壁には、集水室18に導入された透過水を排出するための透過水出口部19が設けられている。
【0006】
そして、加圧された原水が原水入口部13から容器11内部に供給され、原水流路15を原水出口部14に向かって流れる際、原水が中空糸膜12によって膜分離されることにより、中空糸膜12を外側から内側の中空部分に向かって透過した水(透過水)が得られる。かかる透過水は、中空糸膜12の中空部分を原水の流れ方向(図7及び図8の左側から右側に向かう方向)と同方向に流れて、透過水出口部19から排出される。
【0007】
このような従来の中空糸膜ユニット10では、図8及び図9に示すように、一般に原水の流れ方向下流側(図9の右側)では透過水量が多いが(図9に破線矢印で示す)、上流側(図9の左側)に向かうほど透過水量が少なくなる。さらに、中空糸膜12が長過ぎると、上記流れ方向上流側端部では透過水が得られない場合も生じ得る。このように、中空糸膜12において原水の流れ方向上流側では下流側よりも透過水量が少なくなると、中空糸膜12において原水と接触する全表面積に対して実際に水の膜透過に寄与する有効な表面積が減少するため、中空糸膜12が有効に活用されておらず、水処理の効率が低下していた。
【0008】
一方、このような中空糸膜ユニットでは、水処理効率を上げるために中空糸膜を薄くすることによって膜の透過抵抗を小さくしているが、中空糸膜を薄くすると、中空糸膜が損傷した場合に、透過抵抗が小さいことと相俟って、損傷箇所を通して原水が中空糸膜の中空部分に漏出し、処理水たる透過水の水質が大きく低下するおそれがあった。
【0009】
そこで、水処理中の圧力上昇が少なく、損傷の少ない中空糸モジュール(中空糸膜ユニット)が提案されている(特許文献1参照)。かかる中空糸モジュールでは、中空糸膜の2つの接着固定部(保持板)のうち原水の流れ方向下流側端部の接着固定部(第2保持板)における容器の横断面積が、中空糸膜が接着固定されていない部分における容器の横断面積(原水流路の横断面積)よりも大きい構造とすることによって、洗浄時における中空糸膜の非接着部分の膜面速度を高く保ち、高い洗浄力を維持すると共に、中空糸膜根元部における膜面流速を抑え、膜の損傷を防止することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−84375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に示されるように、容器内部の原水流路を、該原水流路における原水の流れ方向下流側端部の横断面積が上流側端部の横断面積よりも大きくなるように形成しても、中空糸膜における上記流れ方向上流側の透過水量を増加させることは困難であり、従って、中空糸膜表面を広く有効に活用することは困難であった。
【0012】
また、中空糸膜の初期状態において該中空糸膜の表面を広く活用できない場合、中空糸膜の透過し易い部分ではファウリングや閉塞が進行し、中空糸膜の寿命が短くなる。また、中空糸膜において初期状態で水が透過し難い部分に水を透過させようとすれば、その分だけ容器内に供給される原水に大きな圧力を加える必要があるため、大きなエネルギーが必要となるばかりか、加圧供給ポンプや容器に大きな負荷がかかり、水処理装置の寿命が短くなるおそれもある。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑み、中空糸膜により原水を膜分離する際に該中空糸膜の表面を広く有効に活用し、水処理効率を向上させることが可能な中空糸膜ユニット、水処理装置、及び水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らが鋭意研究したところ、中空糸膜によって原水が膜分離されて得られる透過水量が原水の流れ方向下流側で大きく、上流側で小さくなる原因として、以下の要因を見出した。
【0015】
すなわち、上記した図7及び図8に示すような、原水流路の横断面積が長手方向に一定な円筒形状の容器11を有する従来の中空糸膜ユニット10においては、原水が該原水の流れ方向上流側から下流側に向かう間に、中空糸膜12によって順次膜分離されることにより、容器11内部を通過する原水の圧力損失が生じる。
【0016】
ここで、図9に示すように、中空糸膜12における上記流れ方向上流側(図9の左側)端部を原点とし、該原点から上記流れ方向下流側(図9の右側)に向かって離れた位置をXとすると、図10に示すように、原水に加えられた全圧Pは、圧力損失により、上記流れ方向上流側から下流側に向かうほど小さくなる。また、中空糸膜12の全圧Pは、静圧Paと動圧Pbの和(P=Pa+Pb)で表される。ここで、動圧Pbは、λを係数、ρを原水の密度、vを流速、Lを容器の長さ、Dを容器の直径として、Pb=(λ/2)×ρ×v2×L/Dで表されるため、動圧Pbは、原水の速度vの2乗に比例する。また、中空糸膜12に対する透過水量は、中空糸膜12の外側から内側に水を押し込む力、すなわち静圧Paに比例する。
【0017】
このとき、各位置Xにおいて圧力損失後の全圧Pが一定であるとすると、容器11内部を上記流れ方向上流側から下流側まで通過する原水の流速vが一定であれば、全ての位置Xにおいて動圧Pbが一定となるため、上記流れ方向下流側では全圧Pの低下に伴って静圧Paのみが低下し、中空糸膜12に対する透過水量が減少することになる。
【0018】
しかし、中空糸膜12を透過した透過水は該中空糸膜12における上記流れ方向下流側端部から排出されるため、中空糸膜12の該下流側では中空糸膜12内部の圧力が減少する。これにより、該下流側では、中空糸膜12の外部と内部との圧力差(膜間差圧)が大きくなって、中空糸膜12の透過水量が増加する。また、かかる透過水量の増加に伴い、中空糸膜12の該下流側表面を通過する原水の速度vが減少する。
【0019】
一方、中空糸膜12内部の中空部分は長手方向に細長い領域を形成しており、該中空部分における上記流れ方向上流側での透過水は下流側へと移動し難くなるため、該上流側では、中空糸膜12の内部の圧力が減少し難い。これにより、該上流側では、中空糸膜12の膜間差圧が小さく、中空糸膜12の透過水量の増加が困難となる。また、このように透過水量が増加しないため、中空糸膜12の該上流側表面を通過する原水の速度vは減少しない。
【0020】
従って、図10に示すように、容器11内部において上記流れ方向下流側では、上流側よりも原水の流速vが低下するため、かかる流速vの低下によって該下流側端部における原水の動圧Pb1が減少し、かかる動圧Pb1の減少に伴って該下流側端部における原水の静圧Pa1が増加する。そして、かかる動圧Pb1の減少によって生じる静圧Pa1の増加が、全圧Pの低下によって生じる静圧Pa1の減少を上回ることによって、全体として静圧Pa1が増加する。
【0021】
一方、上記流れ方向上流側では、圧力損失が小さいため全圧Pは大きく減少しない。しかし、該上流側では、原水の流速vが大きいため、該上流側端部における動圧Pb2が増加し、これに伴って該上流側端部の静圧Pa2が減少する。このように、全圧Pの減少の程度は小さいものの、動圧Pb2の増加によって静圧Pa2が減少するため、全体として静圧Pa2が減少する。
【0022】
そして、上記流れ方向における上流側端部の静圧Pa2の方が、下流側端部の静圧Pa1よりも小さくなることから、中空糸膜12に対する透過水量が下流側では増加するのに対し、上流側では減少する。このように、原水の流れ方向上流側端部の静圧Pa2が、下流側端部の静圧Pa1よりも減少することにより、中空糸膜12における該下流側端部の透過水量に対して上流側端部の透過水量が減少することが判明した。
【0023】
そこで、本発明者らは、容器内部において原水の流れ方向上流側端部の静圧Pa2を大きくし、該上流側端部Pa2に対する下流側端部Pa1の差(Pa1−Pa2)を小さくすることにより、該上流側端部の透過水量と下流側端部の透過水量との差を小さくすることができ、これにより、中空糸膜の表面をより広く有効に活用できることを見出し、本発明を完成した。
【0024】
すなわち、本発明は、容器内部に中空糸膜を有し、前記容器の長手方向一端部に原水入口部、他端部に原水出口部が形成されており、前記原水入口部から前記容器内部に加圧されながら供給された原水が前記容器内部を前記原水出口部へと前記中空糸膜の長手方向に沿って流れて前記原水出口部から排出されるように構成され、且つ、前記容器内部を流れる原水が前記中空糸膜によって膜分離され、かかる膜分離によって前記中空糸膜を内側へと透過した透過水が原水の流れ方向と同方向に流れて前記中空糸膜から排出されるように構成された中空糸膜ユニットであって、前記容器内部を流れる原水の前記流れ方向上流側端部の静圧に対する下流側端部の静圧の差が3kPa以下であるように構成されたことを特徴とする中空糸膜ユニットである。
【0025】
本発明によれば、容器内部を流れる原水における該原水の流れ方向上流側端部の静圧と下流側端部の静圧との差を小さくすることにより、中空糸膜における上記流れ方向上流側端部での透過水量と下流側端部での透過水量との差を小さくすることができるため、中空糸膜により原水を膜分離する際に該中空糸膜の表面を広く有効に活用することができ、処理効率を向上させることができる。
【0026】
また、本発明は、前記中空糸膜ユニットを備えてなる水処理装置である。
【0027】
本発明によれば、中空糸膜の表面を広く有効に活用しつつ水処理を行うことができるため、水処理効率を向上させることができる。
【0028】
また、本発明は、前記中空糸膜ユニットを用いて原水を膜分離する水処理方法である。
【0029】
本発明によれば、中空糸膜の表面を広く有効に活用しつつ水処理を行うことができるため、水処理効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明によれば、中空糸膜により原水を膜分離する際に該中空糸膜の表面を広く有効に活用し、水処理効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】一実施形態に係る中空糸膜ユニットの概略側面断面図
【図2】一実施形態に係る中空糸膜ユニットの概略側面断面図
【図3】一実施形態に係る中空糸膜ユニットを簡略化して示す図であって、中空糸膜が1本だけ設けられた構成の中空糸膜ユニットを模式的に示す概略側面断面図
【図4】図3のピトー管周辺を示す拡大概略図
【図5】一実施形態に係る水処理装置の概略図
【図6】実験装置の概略図
【図7】従来の中空糸膜ユニットの概略側面断面図
【図8】従来の中空糸膜ユニットを簡略化して示す図であって、中空糸膜が1本だけ設けられた構成の中空糸膜ユニットを模式的に示す概略側面断面図
【図9】従来の中空糸膜ユニットにおける中空糸膜周辺の概略拡大側面断面図
【図10】従来の中空糸膜ユニットにおいて中空糸膜における長手方向の位置と原水の圧力との関係を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。なお、図1〜図6において、図7〜図9と共通する部分には共通する符号を付して説明を省略する。
【0033】
まず、本実施形態の中空糸膜ユニットについて説明する。
【0034】
本実施形態の中空糸膜ユニットは、容器内部に中空糸膜を有し、前記容器の長手方向一端部に原水入口部、他端部に原水出口部が形成されており、前記原水入口部から前記容器内部に加圧されながら供給された原水が前記容器内部を前記原水出口部へと前記中空糸膜の長手方向に沿って流れて前記原水出口部から排出されるように構成され、且つ、前記容器内部を流れる原水が前記中空糸膜によって膜分離され、かかる膜分離によって前記中空糸膜を内側へと透過した透過水が原水の流れ方向と同方向に流れて前記中空糸膜から排出されるように構成された中空糸膜ユニットであって、前記容器内部を流れる原水の前記流れ方向上流側端部の静圧に対する下流側端部の静圧の差が3kPa以下であるように構成されている。
【0035】
図1に示すように、中空糸膜ユニット10は、容器11と、該容器11の内部に長手方向に沿って配置された中空糸膜12を備えており、容器内部の原水の流れ方向と、中空糸膜12を透過した透過水の流れ方向は、同方向になるように設定されている。以下、原水の流れ方向を、単に「流れ方向」という場合がある。
【0036】
また、図1に示すように、中空糸膜12は、一端が封止され他端から透過水が排出されるタイプのものであってもよく、図2に示すように、両端から透過水が排出されるタイプのものであってもよい。
【0037】
次に、中空糸膜12について説明する。
【0038】
容器11内部に設けられる中空糸膜12の素材としては、例えば、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリビニールアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0039】
中空糸膜12の内径は、好ましくは0.1〜2.0mm、より好ましくは0.3〜2.0mmである。
【0040】
中空糸膜12の長さは、中空糸膜12の内径や、後述する中空糸膜12による原水の膜分離状態(透過状態)等に応じて適宜設定することができる。ただし、中空糸膜12が長くなる程、中空糸膜12において流れ方向上流側で透過水が得られ難くなる傾向にあることに鑑みて、中空糸膜12の長さは、1m以上であることが好ましく、1.2m以上であることがより好ましい。中空糸膜12の長さを1m以上とすることにより、流れ方向上流側部分で膜分離がより生じ難いような中空糸膜12において、該中空糸膜12における流れ方向上流側での透過水量を増加させて、流れ方向下流側での透過水量に対する差を小さくすることができるため、より効果的である。
【0041】
一方、中空糸膜12が長過ぎると、流れ方向上流側では中空糸膜12を透過させること自体が困難となるおそれがあるため、かかる観点に鑑みて、中空糸膜12の長さは、3m以下であることが好ましく、2m以下であることがより好ましい。なお、本発明において、中空糸膜12の長さは、中空糸膜12が、図1に示すように、一端が封止され他端から透過水が排出されるタイプのものである場合には、中空糸膜12において該中空糸膜12の表面が原水と接触可能な部分の長さをいい、かかる長さが原水流路15の長さに相当する。また、中空糸膜12が、図2に示すように、両端から透過水が排出されるタイプのものである場合には、中空糸膜12の長さは、該中空糸膜12の表面が原水と接触可能な部分の長さの1/2であり、かかる1/2の長さが原水流路15の長さに相当する。
【0042】
次に、容器11における中空糸膜12による膜分離について説明する。
【0043】
容器11の周面部の長手方向一端部(図1の左側)には、原水入口部13が形成され、他端部(図1の右側)には原水出口部14が形成されている。また、本実施形態の中空糸膜ユニット10は外圧式であり、原水入口部13は、加圧供給ポンプ20(図5参照)と接続されており、加圧供給ポンプ20によって加圧されながら送られた原水は、原水入口部13から容器11内部に供給され、容器11内部における中空糸膜12が存在しない領域から形成された原水流路15を、中空糸膜12の長手方向に沿って原水入口部13側から原水出口部14側に向かう方向(流れ方向、図1の左側から右側に向かう方向)に通過し、原水出口部14から排出される。
【0044】
加圧供給ポンプ20と原水入口部13との間に設けられた配管には、圧力計21(図5参照)が配置されており、原水入口部13に供給される原水の圧力を測定できるようになっている。加圧供給ポンプ20によって供給される原水の圧力及び流量は、後述するように、容器11内部における原水の流れ方向上流側端部の静圧Pa2に対する下流側端部の静圧Pa1の差ΔPaが3kPa以下となるように原水を加圧可能であれば、特に限定されるものではないが、例えば、原水入口部13に供給される原水の圧力は、フラックス(=流量/膜面積)が0.5〜1.5m/日となるように設定することができ、例えば、原水の圧力を5〜80kPa、流量を4.6×10-4〜8.7×10-43/sと設定することができる。
【0045】
また、加圧された原水が中空糸膜12に沿って原水流路15を通過する際、中空糸膜12によって膜分離され、原水の一部が中空糸膜12を外側から内側の中空部分に透過し、かかる透過水が集水室18を通って透過水排出部19から排出される。すなわち、処理水たる透過水は、中空糸膜12の中空部分を原水の流れ方向と同方向(図1の左側から右側に向かう方向)に移動して中空糸膜12から排出される。
【0046】
本実施形態では、容器11内部において原水の流れ方向上流側端部の静圧Pa2に対する下流側端部の静圧Pa1の差(静圧差)ΔPaは、3kPa以下(Pa1−Pa2≦3kPa)であるように構成されている。また、かかる静圧差ΔPaは、2kPa以下であることがより好ましく、1kPa以下であることがさらに好ましく、0kPaであることが一層好ましい。静圧差ΔPaが3kPa以下であることにより、流れ方向下流側端部の静圧Pa1と上流側端部の静圧Pa2との差が十分に小さくなるため、中空糸膜12における流れ方向下流側端部の透過水量に対する上流側端部の透過水量の差を小さくすることができる。これにより、中空糸膜12により原水を膜分離する際に該中空糸膜12の表面を広く有効に活用することができ、処理効率を向上させることができる。一方、上記した静圧差ΔPaは、−3kPa以上であることが好ましい。
【0047】
また、中空糸膜12によって得られる透過水量をより増加させるという観点に鑑みて、流れ方向下流側端部の静圧Pa1は、50kPa以上であることが好ましい。
【0048】
かかる容器11内部の原水流路15における流れ方向下流側端部の静圧Pa1及び上流側端部の静圧Pb2は、例えば、以下の方法により測定することができる。すなわち、図3及び図4に示すように、容器11の原水の流れ方向において下流側端部及び上流側端部にそれぞれピトー管24、25が、容器11を貫通して先端が原水流路15において上流側を向くように取り付けられている。ピトー管24は、内側の管24aと外側の管24bとの二重構造となっており、内側の管24aには先端に孔24aaが形成され、かかる孔24aaは原水の流れに正対するように配置されている。これにより、孔24aaには、静圧と原水の流れによる動圧とを合わせた全圧がかかるようになっている。一方、外側の管24bには側面に孔24baが形成され、かかる孔24baは、原水の流れと平行に配置されている。これにより、孔24baは原水の流れの影響を受けないため、孔24baには、静圧がかかるようになっている。
【0049】
また、ピトー管24は、容器11の外側において圧力計26と接続されており、かかる圧力計26は、ピトー管24のうち内側の管24aにかかる全圧と、外側の管24bにかかる静圧と、をそれぞれ測定することができるようになっている。これにより、下流側端部における静圧を測定することができるようになっている。
【0050】
ピトー管25も、ピトー管24と同様に、内側の管25aと外側の管25bとの二重構造となっており、容器11を貫通して原水流路15において先端が原水の上流側を向くように配置され、容器11の外側において圧力計27と接続されている。そして、内側の管25aの先端に形成された孔25aaによって原水の全圧が測定され、外側の管25bの側面に形成された孔25baによって原水の静圧が測定されるようになっており、これにより、上流側端部における静圧を測定することができるようになっている。
【0051】
また、圧力計26、27によって測定された原水の全圧と静圧との差から動圧を算出し、ベルヌーイの式を適用することによって、下流側端部及び上流側端部における原水の流速を算出することができるようになっている。また、下流側端部及び上流側端部においてこのように算出した流速から動圧を算出し、測定された全圧と算出された動圧とから静圧を測定することもできる。
【0052】
次に、容器11の形状について説明する。
【0053】
図1及び図3に示すように、容器11の内周面によって形成される原水流路15は、該原水流路15の横断面積が原水出口部14側から原水入口部13側に向かって大きくなるように傾斜したテーパ形状に形成されている。すなわち、該原水流路15における原水の流れ方向上流側端部の横断面積が下流側端部の横断面積よりも大きくなるように傾斜したテーパ形状に形成されている。ここで、原水流路15の横断面積は、容器11内部に中空糸膜12が設けられていないときの横断面積をいう。また、ここでは、原水流路15は、断面円形状に形成され、且つ、原水流路15の外周縁が側面視直線状となるように形成されている。すなわち、原水流路15は、円錐台形状となるように形成されている。これにより、原水流路15における流れ方向上流側端部の横断面積S2は、下流側端部の横断面積S1よりも大きくなっている。
【0054】
かかる横断面積S2を横断面積S1よりも大きくすることにより、容器11内部の流れ方向上流側で原水を滞留させることができるため、原水の流速vを小さくすることができる。これにより、原水の流れ方向上流側端部の動圧Pb2が小さくなるため、該上流側端部の静圧Pa2を大きくすることができる。従って、該上流側端部の静圧Pa2に対する下流側端部の静圧Pa1の差ΔPaが小さくなるため、かかる静圧差ΔPaを3kPa以下に設定し易くすることができ、中空糸膜12における該上流側の透過水量と下流側の透過水量との差を小さくすることができる。
【0055】
また、横断面積S1に対する横断面積S2の比(S2/S1)は、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。S2/S1が2以上であることにより、上記静圧差ΔPaを3kPa以下により設定し易くすることができる。
【0056】
本実施形態では、原水流路15の横断面が円形状であるため、上記した横断面積比S2/S1が得られるように、各横断面積S1及び横断面積S2の直径、すなわち容器11の内径を設定すればよい。また、中空糸膜の長さが2mである場合、例えば、中空糸膜12の本数に応じて、下流側の横断面積S1は、7.85×10-3〜1.77×10-22とすることができ、上流側の横断面積S2は、1.77×10-2〜3.14×10-22とすることができる。
【0057】
本実施形態では、容器11における原水流路15の外周縁を側面視直線状としたが、かかる外周縁の、中空糸膜12の長手方向(図3の一点鎖線)に対する傾斜角度θは、0.029°以上であることが好ましく、1°以上であることがより好ましく、3°以上であることがさらに好ましく、5°以上であることが一層好ましい。傾斜角度θを0.029°以上とすることにより、上記静圧差ΔPaを3kPaに設定し易くすることができる。一方、傾斜角度θは、10°以下であることが好ましく、5°以下であることがより好ましい。傾斜角度を10°以下とすることにより、容器11内部における原水の剥離流れを抑制することができる。
【0058】
中空糸膜ユニット10に供給される原水としては、工場(鉄鋼、食品、電力、電子、医薬、自動車等の工場)の廃水、生活廃水、ゴミ浸出水等の廃水、工業用水等の用水、河川水、湖沼水、及び海水等が挙げられる。また、下水や各種工場廃水等を生物処理して生じた汚泥含有水等も挙げられる。
【0059】
本実施形態の中空糸膜ユニットは、上記の様に構成されてなるが、次に、本実施形態の水処理装置について説明する。
【0060】
図5に示すように、本実施形態の水処理装置1は、本実施形態の中空糸膜ユニット10を備え、更に、原水Aを加圧しながら中空糸膜ユニット10に供給する加圧供給ポンプ20を備えている。
【0061】
本実施形態の水処理装置1は、本実施形態の中空糸膜ユニット10によって原水Aが膜分離されて生成された処理水たる透過水Bが回収されるように構成されている。また、本実施形態では、中空糸膜ユニット10は、中空糸膜12が鉛直方向を向くように配置されているが、その他例えば、中空糸膜ユニット10を、中空糸膜12が水平方向を向くように配置することもできる。
【0062】
本実施形態の中空糸膜ユニット、及び水処理装置は、上記の様に構成されてなるが、次ぎに、本実施形態の水処理方法について説明する。
【0063】
本実施形態の水処理方法は、加圧供給ポンプ20により本実施形態の中空糸膜ユニット10の原水入口部13に原水を加圧しながら供給し、中空糸膜ユニット10によって原水Aを膜分離して透過水Bを生成し回収する。
【0064】
尚、本実施形態の中空糸膜ユニット、水処理装置、及び水処理方法は、上記構成により、上記利点を有するものであったが、本発明の中空糸膜ユニット、水処理装置、及び水処理方法は、上記構成に限定されず、適宜設計変更可能である。
【0065】
例えば、本実施形態の中空糸膜ユニット10では、容器11を、該容器11内部の原水流路15が円錐台形状となるように形成したが、容器11の形状は、上記実施形態に特に限定されるものではなく、例えばその他、原水流路15が、円形状の横断面を有し、流れ方向下流側から上流側に向かって横断面積が大きくなるように傾斜したテーパ形状であって、且つ、上記下流側から上流側に向かうほど中空糸膜12の長手方向に対する傾斜が大きくなるように湾曲した形状に形成することもできる。また、本実施形態では、容器11の内周面のみならず外周面も上記したテーパ形状に形成することによって上記した原水流路15を形成したが、その他例えば、内周面のみを上記したテーパ形状に形成することによって上記した原水流路15を形成することもできる。
【実施例】
【0066】
(参考例)
次に、参考例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0067】
中空糸膜として、外径が1.2mm、内径が0.6mm、長さが2mである中空糸膜を使用した。また、図6に示す装置を用いて実験を行った。すなわち、中空糸膜12のうち水の抜出し口の反対側(図6の左側)を針で塞ぎ、もう片側(図6の右側)は中空糸膜12の内径と同程度の外径を持つ注射針(透過水出口部)23を刺して固定してこれを試料とした。かかる中空糸膜12を円錐台形状のセル22に入れ、注射針23をセル22における水の抜出し口に接続することにより、中空糸膜12をセル22にセットし、セル22内部を原水としての水で満たした。次に、セル22の入口側に加圧供給ポンプ20をつないでセル22内部を加圧し、原水を透過させた。また、セル22に供給される原水の圧力を圧力計21で測定した。さらに、下流側端部の静圧Pa1及び上流側端部の静圧Pa2を測定するために、セル22の下流側端部及び上流側端部に、流れ方向と垂直方向に沿って一端が原水流路15に挿入されるようにノズル24、25を取り付け、他端にそれぞれ圧力計26、27を取り付けた。
【0068】
そして、セル22への原水の圧力及び流入量、注射針23からの透過水の排出流量が、表1に示す値となるように設定して、原水をセル22に流入させ、セル22内を図6の左側から右側に通過させた。このとき、表1に示すように、セル22における流れ方向下流側端部の内径R1を一定にして上流側端部の内径R2を変化させると共に、セル22内部における原水流路15の外周縁の、中空糸膜12の長手方向に対する傾斜角度θを変化させたときの、流れ方向下流側端部の静圧Pa1、流れ方向上流側端部の静圧Pa2を測定し、CFDによって、原水の流れ方向における透過水の流量分布を算出した。解析にはFLUENT6.3(ANSYS社)を用い、計算モデルは2次元軸対称層流モデルを用いた。かかるCDFによる算出としては、新品の中空糸膜について予め算出した透過抵抗と膜の内径、外径を基に、膜の形状を維持したままセル22の形状を表1のように変化させたときの、原水の流れ方向における透過水の流量分布を算出し、かかる流量分布から下流側端部の透過水量V1及び上流側端部の透過水量V2を算出した。また、透過水量は、透過水量(m2/s)=(透過水の流量/中空糸膜の周長さ)として算出した。結果を表2に示す。
【表1】

【表2】

【0069】
表2に示すように、セル22内部の原水流路15を、該原水流路の流れ方向上流側端部の横断面積S2方が下流側端部の横断面積S1よりも大きくなるように、中空糸膜12の長手方向に対して傾斜させた実験例2及び3の方が、原水流路15を傾斜させない実験例1よりも、上流側端部の静圧Pa2に対する下流側端部の静圧Pa1の差ΔPaが小さくなり、傾斜角度が大きくなるほど、静圧差ΔPaが小さくなり、静圧差ΔPが小さくなると、透過水量比V1/V2が小さくなる傾向にあった。
【0070】
従って、上記モデル実験により、静圧差ΔPaを小さくすることによって、上流側端部と下流側端部とで透過水量を近づけることができ、中空糸膜により原水を膜分離する際に該中空糸膜の表面を広く有効に活用し、水処理効率を向上させ得ることがわかった。
【0071】
なお、上記参考例では、実験を簡略化するために、中空糸膜ユニットにおいて容器内に1本の中空糸膜を設けた実験装置を用いて数値計算を行ったが、上記実験結果から、容器内に複数の中空糸膜が設けられた中空糸膜ユニットを用いた場合であっても、上流側端部の透過水量と下流側端部の透過水量との差を小さくできることが推察される。
【符号の説明】
【0072】
1:水処理装置、10:中空糸膜ユニット、11:容器、12:中空糸膜、13:原水入口部、14:原水出口部、15:原水流路、16:第1保持板、17:第2保持板、18:集水室、19:透過水出口部、20:加圧供給ポンプ、21:圧力計、22:セル、23、注射針、A:原水、B:透過水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内部に中空糸膜を有し、前記容器の長手方向一端部に原水入口部、他端部に原水出口部が形成されており、前記原水入口部から前記容器内部に加圧されながら供給された原水が前記容器内部を前記原水出口部へと前記中空糸膜の長手方向に沿って流れて前記原水出口部から排出されるように構成され、且つ、前記容器内部を流れる原水が前記中空糸膜によって膜分離され、かかる膜分離によって前記中空糸膜を内側へと透過した透過水が原水の流れ方向と同方向に流れて前記中空糸膜から排出されるように構成された中空糸膜ユニットであって、
前記容器内部を流れる原水の前記流れ方向上流側端部の静圧に対する下流側端部の静圧の差が3kPa以下であるように構成されたことを特徴とする中空糸膜ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の中空糸膜ユニットを備えてなる水処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の中空糸膜ユニットを用いて原水を膜分離する水処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−76040(P2012−76040A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224878(P2010−224878)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】