説明

中空糸膜複合ノズル及び複合中空糸膜の製造方法

【課題】複合中空糸膜の製造において、中空多孔質基材と製膜原液との複合部に気体が巻き込まれて生じる気体成長を抑止して膜欠陥部の発生を抑止することにより、安定した紡糸、膜品質を得ることが可能な中空糸膜複合ノズルを提供する。
【解決手段】中空多孔質基材の周面に多孔質膜の形成可能な製膜原液を複合紡糸して中空糸膜を得る環状構造の中空糸膜複合ノズルであって、前記製膜原液を吐出する環状の製膜原液吐出口と、同製膜原液吐出口の内側に形成されて前記中空多孔質基材を吐出する基材吐出口とが離間して配され、複合紡糸時に各吐出口から吐出した前記中空多孔質基材と前記製膜原液と、前記中空多孔質基材及び前記製膜原液の合流点との間の空間に向けて形成された開口を有し、同開口と大気解放部又は抜気源に接続する接続ポートとを連通する気体連通路が形成されてなることを特徴とする中空糸膜複合ノズル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合中空糸膜の製造工程において中空多孔質基材に製膜原液を紡糸して製膜する際に、高い紡糸安定性と安定した膜品質を得ることが可能な中空糸膜複合ノズル及び複合中空糸膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に対する関心の高まりと規制の強化により、分離の完全性やコンパクト性などに優れた濾過膜を用いた膜法による水処理が注目を集めている。このような水処理の用途において、濾過膜には分離特性や透過性能に優れているのみならず、これまで以上に高い機械物性が要求されている。
【0003】
こうした要求の中で、特開平5−7746号公報(特許文献1)では、耐圧的に優れた多孔質の濾過膜を製造する方法として、丸打ちの紐を液体浸漬浴に通過させて脱泡した後、この丸打ちの紐と相分離可能な膜形成性樹脂からなる紡糸原液とを2重環状ノズルから押し出して湿式または乾湿式紡糸法で紡糸することにより、ひも状多孔質膜を製造する製造方法が提案されている。
【0004】
また、国際公開第2004/43579号パンフレット(特許文献2)には、濾過性能だけでなく、多孔質膜と組紐との間の接着性に優れ、機械物性にも優れた複合多孔質膜を提供することを目的として、中空丸打ちの組紐と相分離可能な膜形成性樹脂からなる紡糸原液を用い、湿式または乾湿式紡糸法による複合紡糸によって、緻密層を有する多孔質層が膜の厚み方向に二層以上で組紐外表面に形成された複合多孔質膜が提案されている。
【0005】
このような二層以上の多孔質層が形成された複合多孔質膜であれば、例えば1層目として組紐外表面との接着性に優れた多孔質層を形成し、また2層目としてボイドが少なく、機械的強度に優れた多孔質層を形成することにより、多孔質層と組紐との接着性に優れ、また機械物性にも優れた複合多孔質膜となる。また、この複合多孔質膜は二層以上の各多孔質層が緻密層を有しているため、多孔質層の耐久性にも優れているとしている。
【0006】
更に、この特許文献2において、前記複合多孔質膜は二重環状ノズルを使用して製造されている。この二重環状ノズルでは、組紐外表面に形成する多孔質層間への隙間が発生することを防止するために、その内管吐出先端を外管吐出先端よりも内方へ配置することによって液シールが行なわれている。
【0007】
一方、特開2004−314059号公報(特許文献3)には、支持体となる中空糸膜にポリマー溶液(紡糸原液)をコーティングする際に、中空糸膜の外径形状に起因するコーティング不良や糸詰まりを軽減する方法について提案されている。具体的には、中空糸膜にポリマー溶液をコーティングするノズルにおいて、導出口の形成部材が弾性部材で構成されており、同ノズルを用いて複合中空糸膜を製造する際に、ノズルの導出口を中空糸膜の外径形状に追従させて変化させることにより、ポリマー溶液の塗布厚を均一にすることが可能となる。これにより、支持膜となる中空糸膜の外径形状が長さ方向に不均一であっても、ポリマー溶液のコーティング不良、さらには欠陥品の発生を防ぐことができ、また、糸詰まりを軽減することもできるとしている。
【特許文献1】特開平5−7746号公報
【特許文献2】国際公開第2004/43579号パンフレット
【特許文献3】特開2004−314059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、前記特許文献1に記載のひも状多孔質膜の製造方法によれば、丸打ちの紐(支持基材)の内部に存在する空気を除去するために、丸打ちの紐をポリプロピレングリコール等の液中へ浸漬して脱泡を行っている。しかし、特許文献1において、この脱泡された丸打ちの紐に膜形成性樹脂からなる紡糸原液を複合紡糸する際には、特別な配慮が何もなされてないことから、丸打ちの紐と紡糸原液との間に空気(気体)が巻き込まれることがあった。このように丸打ちの紐と紡糸原液との間に空気が巻き込まれたり、更に、口金吐出面への空気の成長が生じてしまうと、得られた複合中空糸膜の外径部に異常が発生したり、また多孔質膜の局所的な薄膜化が生じてしまい、安定した品質を有する製品が得られにくくなるといった問題があった。
【0009】
また、前記特許文献2の複合多孔質膜の製造方法によると、液シールにおけるシール圧の設定や中空丸打ちの組紐の形状如何によってはシール性が変化して、空気を巻き込む恐れがある。このため、中空丸打ちの組紐に形成した多孔質膜に欠陥が発生してしまうことがあった。
【0010】
一方、前記特許文献3に記載のコーティングノズルを用いた複合中空糸膜の製造方法では、導入される中空糸膜の形状や状態、ポリマー溶液の粘度等によっては、中空糸膜とポリマー溶液との接触時に両者間に空気が巻き込まれてしまい、複合中空糸膜に欠陥が発生する要因の一つとなる。しかし、特許文献3には、この空気の巻き込みを防ぐための特別な配慮は何ら払われておらず、前記特許文献1と同様の問題があった。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、複合中空糸膜の製造において、中空多孔質基材と製膜原液との複合部に気体が巻き込まれることを抑止し、気体の巻き込みに起因する異常外径部や局所的薄膜化による膜欠陥部の発生を防止することにより、安定した紡糸、膜品質を得ることが可能な中空糸膜複合ノズル、及び複合中空糸膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明により提供される中空糸膜複合ノズルは、基本的な構成として、中空多孔質基材の周面に多孔質膜の形成可能な製膜原液を複合紡糸して中空糸膜を得る環状構造の中空糸膜複合ノズルであって、前記製膜原液を吐出する環状の製膜原液吐出口と、同製膜原液吐出口の内側に形成されて前記中空多孔質基材を吐出する基材吐出口とが離間して配され、複合紡糸時に各吐出口から吐出した前記中空多孔質基材と前記製膜原液と、前記中空多孔質基材及び前記製膜原液の合流点との間の空間に向けて形成された開口を有し、同開口と大気解放部又は外部抜気源に接続する接続ポートとを連通する気体連通路が形成されていることを最も主要な特徴とするものである。
【0013】
また、前記製膜原液吐出口に隣接するノズル部の内側下端面と外側下端面とが同一平面上にあることが好ましい。
【0014】
更に、前記製膜原液吐出口と前記基材吐出口との間のノズル部に前記開口を有していることが好ましい。また、その他に、前記中空糸膜複合ノズルの前記中空多孔質基材が走行する走行路の断面積が、前記中空多孔質基材の断面積よりも大きく設定され、前記気体連通路が、前記走行路の内壁面と前記中空多孔質基材の外周面間の間隙であることが好ましい。
【0015】
また本発明においては、前記中空糸膜複合ノズルの上部に、前記中空多孔質基材を導入する導入口と、前記中空多孔質基材の周面に膜形成補助液を供給する補助液供給口と、前記膜形成補助液が付与された前記中空多孔質基材を送り出す導出口とを備える合流プレートを有していることが好ましい。
【0016】
更に、前記中空糸膜複合ノズルの上部に、前記中空多孔質基材の走行位置を位置決めする導入プレートを有していることが好ましい。
【0017】
次に、本発明に係る複合中空糸膜の製造方法は、前述のような構成を備えた中空糸膜複合ノズルを用いて、前記中空多孔質基材と前記製膜原液とを合流一体化させ、同一体化した中空多孔質基材及び製膜原液を凝固液に浸漬し、同凝固液中で前記製膜原液を相分離して凝固させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る中空糸膜複合ノズルは、製膜原液を吐出する環状の製膜原液吐出口と、同製膜原液吐出口の内側に形成されて中空多孔質基材を吐出する基材吐出口とが離間して配されており、中空多孔質基材と、製膜原液と、中空多孔質基材及び製膜原液の合流点との間の空間に向けて形成された開口を有し、同開口と大気解放部又は外部抜気源に接続する接続ポートとを連通する気体連通路が形成されている。
【0019】
これにより、中空多孔質基材に随伴している気体は、ノズルから吐出されると前記空間へ移動し、その後、前記気体連通路を介して接続ポートから速やかに外部に排出できるため、複合紡糸時に中空多孔質基材と製膜原液との間への気体の介在や、気体の成長を抑止することができる。
【0020】
従って、本発明の中空糸膜複合ノズルによれば、上述のように中空多孔質基材と製膜原液間への気体の巻き込みを抑止できるため、長時間の安定した紡糸が可能となる。その上、複合紡糸された複合中空糸膜は、気体の巻き込みを主要因とする膜欠陥部が発生してなく、良好な品質を安定して有している。
【0021】
なお、本発明において、「環状構造」とは、中空糸膜複合ノズルの吐出口から見て、製膜原液の吐出口形状が接することのない内側の閉じた線分と外側の閉じた線分で構成された二重線状であり、吐出口近傍の奥行き方向には二重線状に平行で断面積が変化しない筒状の形状を有する構造をいう。
【0022】
また、本発明の中空糸膜複合ノズルは、製膜原液吐出口に隣接するノズル部の内側下端面と外側下端面とが、製膜原液の吐出方向に垂直な同一平面上に存在する。このため、製膜原液の流路を構成する内外の流動抵抗部から製膜原液を同時に解放させて、製膜原液を所定の吐出線速度で筒状に安定して吐出することができる。これにより、製膜原液は中空多孔質基材への追従性が高く、安定した膜形状を得ることができる。
【0023】
更に、本発明の中空糸膜複合ノズルは、前記製膜原液吐出口と前記基材吐出口との間のノズル部に前記開口を有し、同開口と前記接続ポートとが前記気体連通路で連通されている。これにより、複合紡糸時に中空多孔質基材と製膜原液との間に形成される空間に介在する気体を、気体連通路を介して接続ポートから容易に排出することができる。
【0024】
また、本発明では、中空糸膜複合ノズルの中空多孔質基材が走行する走行路の断面積が、中空多孔質基材の断面積よりも大きく設定されており、走行路の内壁面と中空多孔質基材の外周面間の間隙が気体連通路となる。このような構成を有する中空糸膜複合ノズルは、中空糸膜複合ノズルの加工性、経済性(コスト)、及び操作性に優れており、また、吐出後の中空多孔質基材と製膜原液との間に形成される空間に加え、中空多孔質基材の走行路に形成された間隙も同様の空間とみなせることから、中空多孔質基材に随伴している気体をより効果的に外部に排出できる。このため、複合紡糸時に中空多孔質基材と製膜原液との間への気体の介在や、気体の成長をより確実に抑止し、高品質の複合中空糸膜を製造することができる。
【0025】
更にまた、本発明においては、中空糸膜複合ノズルの上部に、中空多孔質基材の周面に膜形成補助液を付与することが可能な合流プレートを有している。これにより、例えば中空多孔質基材に事前に製膜を行った上に再び製膜するような多層構造紡糸を行う場合や、中空多孔質基材の前処理等を事前に行う場合において、製膜原液を中空多孔質基材に複合する前に膜形成補助液を中空多孔質基材へ安定して付与することができる。
【0026】
また、本発明では、中空糸膜複合ノズルの上部に、中空多孔質基材の走行位置を位置決めする導入プレートを有している。これにより、中空多孔質基材の走行位置を所定の位置に定めて紡糸を安定して行うことが可能となり、中空多孔質基材の芯ずれが生じることを防いで、良好な品質の複合中空糸膜を得ることができる。
【0027】
更に、本発明の複合中空糸膜の製造方法は、前記中空糸膜複合ノズルを用いて、ノズルから中空多孔質基材を吐出させるとともに同中空多孔質基材の全周を囲むように製膜原液を所定の吐出線速度で筒状に吐出させ、中空多孔質基材と製膜原液とを合流一体化させる。その後、この一体化した中空多孔質基材及び製膜原液を凝固液に浸漬し、同凝固液中で製膜原液を相分離して凝固させることによって複合中空糸膜を製造する。これにより、ノズルから中空多孔質基材を吐出させた際に、中空多孔質基材に随伴している気体も吐出口から吐出され、その後、ノズルに形成した気体連通路を介して接続ポートから速やかに外部に排出することができる。従って、中空多孔質基材と製膜原液との間への気体の巻き込みや、同気体の巻き込みにより生じる気体成長を抑止して複合中空糸膜を安定して製造することができ、異常外径部や局所的薄膜化による膜欠陥部が発生してなく、膜厚が均一で良好な膜品質を有する複合中空糸膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、本発明において、中空多孔質基材は、基材の長手方向に直角な断面において、長手方向に連通した中空部が一つ以上存在し、流体が基材の外周面から中空部へ移動し、更に長手方向へ移動することが可能であればどのようなものでもよく、中空部の断面形状や基材の断面外周形状は円形、異形等どのような形状でもよい。また、中空部と基材の断面形状が同じであっても異なっていても良いが、耐圧性、賦形性等を考慮した場合、基材の外周が円形状であるものが好適に使用される。
【0029】
このような中空多孔質基材の例としては、溶融紡糸延伸多孔質中空糸膜や、各種の繊維で編まれた中空状の組紐、更には、これらの基材に製膜したものや膜形成補助液を浸漬、塗布したもの等が挙げられる。
【0030】
中空多孔質基材の外径は特に限定されないが、例えば0.3mm〜5mm程度のものが好適に使用される。中空多孔質基材の外形変動は特に紡糸安定性や膜厚等の品質に影響を与えるため、極力変動が小さいものを用いることが好ましい。例えば、中空多孔質基材の外観が円形で、その外径が0.3mm〜5mm程度の場合、外径の変動幅は±0.3mm以下となるようにすれば良い。
【0031】
一方、製膜原液は、湿式または乾湿式紡糸法により、多孔質膜の形成が可能な膜形成性樹脂を単体あるいは複数で溶媒に溶解した溶液、又はこれに相分離を制御するための添加剤等を添加した溶液であり、原料は特に限定されず、紡糸可能であれば良い。
【0032】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係る中空糸膜複合ノズルについて説明する。ここで、図1の(a)は、第1の実施形態に係る中空糸膜複合ノズルの断面を模式的に示す模式断面図であり、(b)は、(a)に示したI−I線に沿った矢視断面図である。
【0033】
図1に示した中空糸膜複合ノズル1は、第1構成部11と、第1構成部11に隣接して設けられる第2構成部12とから構成されている。第1構成部11は、略円盤形状の本体部13と、同本体部13から第2構成部12側に向けて突出する突出管状部14とを有しており、その断面形状が概略T字状に構成されている。
【0034】
第1構成部11の本体部13及び突出管状部14における中心部には、第1中空部15が形成されており、この第1中空部15は、中空糸膜複合ノズル1において中空多孔質基材2が走行する走行路となる。本第1実施形態において、第1中空部15の断面積は、そこに走行させる中空多孔質基材2の断面積よりも大きく設定されている。これにより、中空多孔質基材2を第1中空部15に走行させた際には、第1中空部15の内壁面と中空多孔質基材2の外周面との間に所定の大きさの間隙が長手方向に沿って形成される。この間隙は、下記で詳述する気体連通路16の一部として利用することができる。この場合、第1中空部15の内径は、中空多孔質基材2の外径の1.25倍程度以上に設定することが好ましく、特に1.25〜3倍程度に設定すること更にが好ましい。
【0035】
また、第1構成部11は、前記第1中空部15とは別に、上面から下面まで貫通する貫通孔17と、第1構成部11の下面において貫通孔17から内側に延び、更に前記突出管状部14の周りに環状に形成された第1溝部18とを有している。
【0036】
更に、第1構成部11は、その上面に、外周面から第1中空部に向けて延び、更に第1中空部15の周りに環状に形成された第2溝部19を有している。この第2溝部19は、以下で説明する導入プレート3を中空糸膜複合ノズル1の上部に隣接して設けたときに、気体連通路16の一部となる。また、導入プレート3を設置したときに形成される気体連通路16の排出側開口端(即ち、第2溝部19の外周面側端部)は接続ポート20となり、この接続ポート20には例えば大気解放部や空気ポンプ等の抜気源(不図示)が接続される。なお、前記大気解放部は、接続ポートを外部大気と連通させ、接続ポートと外部大気との間で気体の出入りを可能な状態にさせるものである。
【0037】
また、第2溝部19は、気体の排出が可能であればどのような形状・寸法であっても良い。また、気体をどの方向へ排出しても良く、例えば原料の吐出方向や、中空多孔質基材の走行上流方向や直交方向に気体を排出することも可能である。更に、中空糸膜複合ノズル1の外周面に形成される接続ポート20の個数も特に限定されず、1つであっても複数であっても良い。
【0038】
前記第2構成部12は、第1構成部11の下面側に位置する略円盤形状の部材であり、その中央部分には第1構成部11の突出管状部14を挿入可能な第2中空部が形成されている。この第2中空部の内径は、前記第1構成部の突出管状部14の外径よりも大きく形成されており、第2中空部に突出管状部14を挿入したときに、第2中空部の内周面と突出管状部14の外周面との間に所定の間隔が得られるように構成されている。
【0039】
これら第1構成部11と第2構成部12とが、第1構成部11の突出管状部14を第2構成部12の第2中空部に挿入して同心状に重ねられて一体化されることによって、中空糸膜複合ノズル1が構成される。この場合、中空糸膜複合ノズル1には、第1構成部11に形成した貫通孔17と、第1溝部18と、突出管状部14の外周面及び第2構成部の内周面間に形成される前記所定の間隔とにより、製膜原液流通路22を形成する。
【0040】
また、この中空糸膜複合ノズル1において、製膜原液流通路22の下面側開口が製膜原液を吐出する環状の製膜原液吐出口6を形成している。この製膜原液吐出口6を構成する内側の閉じた線分で囲まれた部分の内部には、第1中空部15の下面側開口により形成される中空多孔質基材の基材吐出口7が設けられている。
【0041】
従って、中空糸膜複合ノズル1は、これら製膜原液吐出口6と基材吐出口7とが突出管状部14の先端部を間に挟んで互いに離間して配されている。また、製膜原液吐出口6は、内側の閉じた線分と外側の閉じた線分で構成された二重線状で形成されており、第1構成部11の突出管状部14と第2構成部12とによって環状構造が形成されている。
【0042】
本第1実施形態における中空糸膜複合ノズル1は、この環状構造を構成する部位が一体に形成されて、実質的に分解不能に構成されている。即ち、第1構成部11の突出管状部14と第2構成部12とにより形成される環状構造において、製膜原液吐出口6の内外の線分間距離は組立精度に依存し、例えば組立て時に第1構成部11の中心位置と第2構成部12の中心位置がずれて、製膜原液吐出口6の線分間距離がその周方向で不均一である場合、その周方向で不均一な線分間距離が製膜原液の吐出厚みに反映されて、製膜の厚み斑を引き起こす原因になる。
【0043】
従って、例えばこのような第1及び第2構成部11,12を組立てて一体化する場合、組立て時にずれが生じることを防ぐために、位置決めピンの使用や、組立てのための特殊ジグを用いる方法等があるが、この一体化された第1及び第2構成部11,12が分解可能に構成されていると、ノズルの加工や使用後の洗浄が容易である反面、取り扱い時に第1構成部11を変形させるリスクが高く、ノズルの寿命低下を招く一要因となる。このため、第1及び第2構成部11,12を例えばノズル加工の段階で分解不能に一体化することが好ましく、これにより、より高精度な位置合わせが可能となり、更にノズルの分解に伴う前記リスクを避けることができる。
【0044】
なお、中空糸膜複合ノズル1の環状構造を構成する部位を一体に形成するには、例えば、中空糸膜複合ノズル1を単一部材から放電加工といった各種機械加工によって削り出す方法等を用いることができるが、加工容易性等を考慮すると、図1に示したように第1構成部11と第2構成部12とを別個に作製し、得られた第1及び第2構成部11,12を組立加工や、圧入、ロウ付け、拡散接合などの各種接合や接着等によって一体化することが好ましい。特に、第1構成部11と第2構成部12とを一体に形成する際には、組立加工を必要としない加工方法を用いることが更に好ましい。
【0045】
また例えば、円筒状で周方向に一様な膜厚を有する多孔質膜を中空多孔質基材の周面に形成する場合は、製膜原液吐出口6における内外の閉じた線分はいずれも円形かつ同心とすることが好ましい。製膜原液吐出口6における内外の閉じた線分の何れか又は両方が楕円などの形状を有する場合や、偏心している場合は、製膜原液吐出口6から製膜原液を吐出したときに製膜原液の吐出形状にそのまま反映されてしまい、膜厚が周方向に不均一となり易い。
【0046】
更に、中空糸膜複合ノズル1において、製膜原液吐出口6から奥行き方向に延びた二重線状の平行な円筒状部の長さは、製膜原液8を所定の形状で吐出させるための整流作用や、周方向への均一吐出のための流動抵抗付与を適切に得るために、製膜原液8の吐出最外径をdo(mm)とし、円筒状部の長さをLi(mm)としたときに、「Li/do」の値が0.2以上となるように設定されることが好ましく、特に0.5以上3.0以下となるように設定されることがより好ましい。また、製膜原液8を周方向に均一に吐出するために、例えば円筒状部の上流に環状のスリットを設けても良い。
【0047】
本第1実施形態の中空糸膜複合ノズル1においては、製膜原液吐出口6に隣接するノズル部の内側下端面(即ち、突出管状部14の下端面)と、外側下端面(即ち、第2構成部の下端面)とが、製膜原液の吐出方向に対して垂直な同一の平面上に存在している。
【0048】
例えば、中空糸膜複合ノズルの製膜原液吐出口に隣接する内外の下端面が同一平面に存在しない場合は、その製膜原液吐出口から製膜原液を吐出させる際に、製膜原液が内外のいずれか一方の長い壁面と接触して流動抵抗が生じ、一方反対側(短い方の側)には拘束される壁面が存在せずに解放状態となる。従って、内外の下端面の位置が異なる環状の製膜原液吐出口から製膜原液を吐出させた場合、前述のような内外間の流動抵抗差により製膜原液は意図した吐出線速度を確保し難くなり、周方向、長手方向のいずれの方向においても膜厚の均一性に欠けるといった問題がある。
【0049】
また、製膜原液吐出口に隣接する内側下端面が、外側下端面よりもノズルの内方に位置している中空糸膜複合ノズルでは、複合ノズル内で製膜原液が中空多孔質基材に合流することになる。このとき、中空多孔質基材と製膜原液との合流部で空気を巻き込んだり、中空多孔質基材と環状ノズル壁面との流動抵抗差により製膜原液にズリが生じてしまうため、安定した製膜が困難となる。その上、ノズルの基材吐出口には中空多孔質基材の走行位置を規制するものがないため、中空多孔質基材の芯ずれがそのまま膜厚の斑となるといった不具合があった。また、剛性の低い中空多孔質基材を用いた場合には、製膜原液の吐出圧力により中空多孔質基材は変形してしまうこともある。
【0050】
一方、製膜原液吐出口に隣接する内側下端面が突出し、製膜原液の内周に流動抵抗部が存在する場合、つまり第2構成部12の下面よりも突出管状部14の下端面が突出している場合、製膜原液は流動抵抗部を通過した後に中空多孔質基材に接触、複合するが、製膜原液は突出した突出管状部14の壁面による流動抵抗により滞留して外周の吐出面方向に成長することとなり、中空多孔質基材の芯ずれの影響は受けないものの、安定製膜が困難となる恐れがあるといった問題があった。
【0051】
特に、内側の突出管状部が長く突出している場合、製膜原液の外周側は拘束する部分がないため、製膜原液は内側の壁面との流動抵抗により、外側の吐出口から吐出面(第2構成部の下面)へと平面方向に広がり、膜厚が周方向及び長手方向において不均一となりやすい。
【0052】
従って、本第1実施形態のように、製膜原液吐出口6に隣接する内側及び外側下端面が、製膜原液の吐出方向に対して垂直な同一平面上に存在していれば、製膜原液8を吐出させる際に、製膜原液8の流路を構成する内外の流動抵抗部から製膜原液8を同時に解放させて、所定の吐出線速度で均一に吐出させることができる。また、剛性の低い中空多孔質基材2を用いたとしても、中空多孔質基材2と製膜原液8とを各吐出口7,6から吐出させた後に所定の空間を通過させて接触、複合させるため、中空多孔質基材2が製膜原液8の吐出圧力によって変形することを防ぐこともできる。
【0053】
なお、本発明において、製膜原液吐出口6に隣接する内側及び外側下端面は、外側下端面を基準に、内側下端面の突出側を+側とすると、+0.5mm〜−5mmの範囲で、より好ましくは+0.3mm〜−0.3mmの範囲で、更に好ましくは0mm〜−0.1mmの範囲内にあれば同一平面上に存在するものとする。
【0054】
また、製膜原液吐出口6に隣接する内側及び外側下端面を同一平面とするためには、例えば、第1及び第2構成部11,12を一体化した後に、製膜原液吐出口6の吐出面、即ち内側及び外側下端面に同時に研磨加工等を施すことが好ましい。
【0055】
更に、本第1実施形態の中空糸膜複合ノズル1は、図1に示したように、その上部に導入プレート3を有している。この導入プレート3は、中空糸膜複合ノズル1の走行路15を走行させる中空多孔質基材2の走行位置を所定の位置に位置決めしている。
【0056】
即ち、本第1実施形態の中空糸膜複合ノズル1においては、前述のように走行路(第1中空部)15の断面積を中空多孔質基材2の断面積よりも大きくすることにより気体連通路16を形成しているため、中空多孔質基材2の走行位置を規制する手段が中空糸膜複合ノズル1には設けられていない。このため、複合中空糸膜を製造する際に、中空多孔質基材2の走行位置が変化して芯ずれを生じる恐れがあり、また例えば以下で説明するような膜形成補助液が中空多孔質基材表面に付与される場合等では、走行路15の壁面接触により液ダレが生じ、製膜の安定性が損なわれる可能性がある。
【0057】
そこで、本第1実施形態では、中空糸膜複合ノズル1の直上に導入プレート3を配している。これにより、中空糸膜複合ノズル1の走行路15の内壁面と中空多孔質基材2の外周面との間に間隙を設ける場合であっても、中空多孔質基材2を所定の位置で安定して走行させることができるので、芯ずれが生じることなく安定した製膜を行うことが可能となる。
【0058】
この導入プレート3は、例えば図1に示したように、略円盤形状部材の中心部に、中空多孔質基材2を挿通して同基材の位置決めを適切に行うことが可能な基材挿通孔21を有している。しかし、本発明はこれに限定されず、中空多孔質基材の走行位置を規制することが可能であればどのような形状でもよく、必要な賦形条件に応じて適宜選定してやればよい。また、導入プレート3は、中空多孔質基材2の走行抵抗が小さく、特に中空多孔質基材2に膜形成補助液を付与した場合に、同膜形成補助液が中空多孔質基材からしごき取られないような形状を有していることが好ましい。
【0059】
また、導入プレート3の基材挿通孔21は、挿通させる中空多孔質基材2との関係において、例えば中空多孔質基材2の外観が数ミリ程度の円形の場合に、基材挿通孔21の最小内径部における内周面と中空多孔質基材2の外周面との間のクリアランスを0.05mm以上1mm以下程度となるように設定することが好ましい。基材挿通孔21と中空多孔質基材2とのクリアランスを前記範囲内の値に設定することにより、中空多孔質基材2は、大きな走行抵抗を受けることなく、所定の位置で安定して走行することができる。
【0060】
更に、導入プレート3における基材導入口は、中空多孔質基材2の走行時に支障とならなければどのような形状であっても良く、例えば、導入口の端面にR加工や面取り加工を施したり、走行方向に向けて内径が漸減するようなテーパ加工を施したり、またこれらを組み合せた加工を施すことも可能である。また、導入プレート3には流通孔部23が形成されており、中空糸膜複合ノズル1の上面に導入プレート3を重ねた際に、前記第1構成部11の貫通孔17及び第1溝部18とともに製膜原液流通路22を構成する。
【0061】
導入プレート3は、例えば中空多孔質基材2の走行位置を安定させるために、略円盤形状部材の中央部から第1構成部11側に所定の長さで突出したパイプ状の突出部を形成することも可能であるが、例えば加工性や操作性を考慮した際に、このようなパイプ状突出部を設けない方が有利な場合は、略円盤形状の部材に前記基材挿通孔21が単に加工された導入プレート3が好適に使用される。
【0062】
更に、導入プレート3における基材挿通孔21の導出側端部は、例えば中空多孔質基材2に膜形成補助液を付与した場合等に、導入プレート3からの膜形成補助液の離型性を考慮して、極力エッジを落とさない構造を有することが好ましい。また、導入プレート3における基材挿通孔21の導出側端部の口径は、中空糸膜複合ノズル1の走行路よりも小径となる。このため、例えば膜形成補助液が低粘性液の場合には、導入プレート3の下面に膜形成補助液が成長することを抑止するため、導入プレート3の下面に環状の逃げ溝加工24(図4等を参照)を施しても良い。
【0063】
この逃げ溝加工は、基材挿通孔21の導出口近傍の下面を極力残さないようにして凹部を設けることが好ましく、例えば導出口の口径が数ミリ程度の場合には、下面に形成する凹部の半径方向における長さが0.2mm〜1mm程度となるように逃げ溝加工が施されていることが好ましい。
【0064】
上述のような本第1実施形態に係る中空糸膜複合ノズル1を用いて複合中空糸膜を製造する場合、先ず、導入プレート3を介して、中空糸膜複合ノズル1の走行路15に中空多孔質基材2を挿入して走行させる。これにより、導入プレート3で中空多孔質基材2の走行位置が定められ、中空糸膜複合ノズル1の走行路15の略中心位置で中空多孔質基材2を走行させて、同中空多孔質基材2を基材吐出口7から連続的に吐出させることができる。このとき、中空糸膜複合ノズル1における走行路15の内壁面と、中空多孔質基材2の外周面との間には所定の間隙が中空多孔質基材2の走行方向に沿って形成されており、気体連通路16となる。
【0065】
また、前記中空多孔質基材2を中空糸膜複合ノズル1の基材吐出口7から吐出させるとともに、導入プレート3及び中空糸膜複合ノズル1に形成した製膜原液流通路22に製膜原液8を供給し、製膜原液8を製膜原液吐出口6から中空多孔質基材2の全周を囲むように筒状に吐出させる。このとき、製膜原液吐出口6は、前述のように内外に隣接する下端面が同一平面上に存在するため、内外の流動抵抗部から製膜原液8を同時に解放し、製膜原液8を周方向に均一に所定の吐出線速度で安定して吐出させることができる。これにより、製膜原液8は中空多孔質基材2への追従性が高くなり、中空多孔質基材2への多孔質膜の形成を安定して行うことができる。
【0066】
更に、製膜原液8を中空糸膜複合ノズル1から吐出させる際の吐出線速度Vq(m/min)は、中空多孔質基材2の走行速度をV(m/min)とすると、V/Vq≧1となるようにそれぞれの速度を制御することが好ましく、更に製膜原液8の曵糸性にもよるがV/Vqの値を1以上10以下程度に制御することがより好ましい。V/Vqの値が1未満の場合は、製膜原液8の吐出線速度が中空多孔質基材2の走行速度を越えるため、製膜原液8を中空多孔質基材2に複合させた際に製膜原液に斑が発生しやすくなる恐れがある。
【0067】
また、上述のようにして中空多孔質基材2及び製膜原液8を各吐出口7,6から吐出させることにより、吐出した中空多孔質基材2と、製膜原液8と、中空多孔質基材及び前記製膜原液の合流点との間には気体が介在する空間25が形成される。この空間25は、気体連通路16を介して、抜気源等に接続する接続ポート20と連通している。そして、各吐出口7,6から吐出させた中空多孔質基材2と製膜原液8とを、それらの間に形成された前記空間25を通過した後に合流させることによって、これらを互いに接触させて、複合一体化する。
【0068】
このとき、中空多孔質基材2と製膜原液8との間に形成される空間25は、接続ポート20を大気解放部に接続して大気解放とすることによって空間25と外部との圧力差がない状態となり、空間25の形態が自然な形で維持されることとなる。また、空間25の容積や形状は、製膜原液吐出口6の配置や吐出条件等によって可変となるが、接続ポート20を例えば加減圧装置に接続して気体の出入りを強制的に行うことで、その容積を任意に且つ一定の大きさに維持することもできる。この空間25は、鉛直方向の下方に向けて略円錐状の形態となり、中空多孔質基材2と製膜原液8とを所定の地点で合流させることができる。なお、中空多孔質基材2と製膜原液8とが合流する位置は特に限定されず、製膜条件等に応じて適宜選択することが可能である。
【0069】
上記のようにして中空多孔質基材2に製膜原液8を合流させることにより、以下のような効果を得ることができる。即ち、例えば製膜原液吐出口6が同一平面上に形成されている場合、中空多孔質基材2と製膜原液8との間に外部大気と連通する前記空間25が形成されていなければ、中空多孔質基材2とともに随伴、吐出された気体が中空多孔質基材2の内部へと移動困難なときに、中空多孔質基材2と製膜原液8との合流時に両者間に気体が噛み込むこととなる。特に、中空多孔質基材2に膜形成補助液が付与されているような場合では、気体の随伴が顕著となり、気体の量によっては、膜欠陥部を生成することとなる。
【0070】
そこで、本第1実施形態の中空糸膜複合ノズル1のように、各吐出口7,6から吐出させた中空多孔質基材2と製膜原液8との間に形成される空間25が気体連通路16を介して大気解放部又は抜気源に接続されていることにより、中空多孔質基材2とともに随伴、吐出された気体は、前記空間25へと移動した後、抜気源等によって外部に排出することができる。従って、中空多孔質基材2と製膜原液8間への気体の噛み込みを効果的に抑止することができ、中空多孔質基材2と製膜原液8との間に気体の介在や、気体の成長が生じるのを防いで、製膜原液8の複合紡糸を長時間安定して行うことが可能となる。
【0071】
次に、上述のようにして製膜原液8を複合した中空多孔質基材2は、空気中を所定距離で走行させた後に凝固液に浸漬させる。これにより、凝固液中で、製膜原液を相分離した状態で凝固させることができる。その後、例えば熱水中での延伸等の工程を経ることにより、複合中空糸膜を得ることができる。
【0072】
このように製造された複合中空糸膜は、上述のように中空多孔質基材2と製膜原液8とを合流させる際に気体の噛み込みを抑止することができるため、気体の巻き込みに起因する異常外径部や局所的薄膜化による膜欠陥部が発生していない多孔質膜が周方向及び長手方向に均一に形成された安定した膜品質を有する複合中空糸膜となる。
【0073】
なお、本第1実施形態において、中空多孔質基材2上に製膜原液8を複合紡糸する際に、例えば中空多孔質基材2に事前に製膜を行った上に再び製膜するような多層構造紡糸を行う場合や、中空多孔質基材2の前処理等を事前に行う場合では、膜形成補助液(例えば、グリセリン等の内部凝固液)を中空多孔質基材2へ供給するケースがある。
【0074】
このような場合、例えば図4〜6に示したように、膜形成補助液を供給するための合流プレート4を中空糸膜複合ノズル1の上部に配置する。合流プレート4は、中空多孔質基材2を導入する導入口26と、中空多孔質基材2の周面に膜形成補助液を供給する補助液供給口27と、膜形成補助液が付与された中空多孔質基材を送り出す導出口28とを有していればどのような形態であっても良く、特に中空多孔質基材2の走行を阻害しない形態を有していることが好ましい。
【0075】
また、このような合流プレート4は、中空糸膜紡糸ノズル1の上流に配設すれば、その配設位置は特に限定されるものではない。例えば、合流プレート4は、図4に示したように、中空糸膜紡糸ノズル1の直上に配設することが可能である。この場合、中空多孔質基材2の走行位置を安定させるために、合流プレート4は、導入プレート3としての機能を兼ねた構成を採用することができる。
【0076】
また、合流プレート4を例えば図5に示したように、中空糸膜紡糸ノズル1上に単数又は複数の中間プレート29等を介して配設することも可能である。この場合、中間プレート29には、気体を排気するための排気部31を設けることができ、中空多孔質基材2に随伴する気体を外部に排出することが可能である。
【0077】
更には、図6に示したように、中空糸膜紡糸ノズル1と合流プレート4との間に複数の中間プレート29等を介し、中空糸膜紡糸ノズル1から完全に分離した状態で合流プレート4を配設することも可能である。
【0078】
前記合流プレート4において、例えば、中空多孔質基材2が導入される導入口26の端面には、R加工や面取り加工を施したり、走行方向に向けて内径が小さくなるようなテーパ加工や、これらを組み合わせた加工を施すことが可能である。
【0079】
また、膜形成補助液の供給口27は、中空多孔質基材2の外周に膜形成補助液が供給できればどのような形状でも良いが、特に、周方向に供給斑が生じないように中空多孔質基材2の全周方向から供給可能であることが好ましい。例えば、膜形成補助液供給口27が中空多孔質基材2を囲む円形のスリット形状に開口していれば、このスリット形状の供給口から膜形成補助液を中空多孔質基材2の周面に均一に供給することができる。
【0080】
更に、合流プレート4において、中空多孔質基材2と膜形成補助液とを合流させる合流部30の形状や長さ等は、中空多孔質基材2と膜形成補助液の量や性状、役割によって、適宜選定してやればよい。例えば、合流部30を前記膜形成補助液供給口27の上流側及び下流側に設けておけば、この合流部30で中空多孔質基材2の外周面に膜形成補助液を合流させて塗布することができる。この合流部30は、基本的に供給口27の上流側及び下流側で分かれており、上流部及び下流部の形状は同じであっても異なっていても良く、また上流部及び下流部間でその内径や長さが同一であっても異なっていてもよく、適宜選定することができる。
【0081】
また、合流部30の内壁面が中空多孔質基材2の走行により汚染されるような場合では、例えば膜形成補助液を前記補助液供給口27から過剰に供給して、補助液供給口27の上流に設けられた導入口26から膜形成補助液をオーバーフローさせることによって、合流部30及び合流部30よりも上流側の内壁面を清浄することが可能となる。この場合、オーバーフローさせた膜形成補助液を排出するための補助液排出部32を設けておくことが好ましい。
【0082】
更に、合流部30を通過して膜形成補助液が付与された中空多孔質基材2を送り出す導出口28は、合流部30の走行方向に対して直角に開口している。この導出口28を構成する合流プレート4の下面側端部は、合流プレート4からの膜形成補助液の離型性を考慮し、極力エッジを落とさないようすることが好ましく、例えば膜形成補助液が低粘性液の場合では、吐出面への成長を抑止するために環状の逃げ溝加工24が施されていることが更に好ましい。
【0083】
逃げ溝加工24は、導入プレート3における吐出口と同様、合流プレート導出口28近傍の吐出面を極力残さないようにして凹部を設けることが好ましく、例えば合流プレート4の導出口径が数ミリ程度の場合には、導出面の半径方向における凹部の長さが0.2mm〜1mm程度となるような逃げ溝加工24が施されていることが好ましい。
【0084】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る中空糸膜複合ノズルについて説明する。ここで、図2の(a)は、第2の実施形態に係る中空糸膜複合ノズルの断面を模式的に示す模式断面図であり、(b)は、(a)に示したII−II線に沿った矢視断面図である。なお、本第2実施形態、及びその次に説明する第3の実施形態の説明において、前記第1の実施形態で説明した部材と実質的に同様の構成を有する部材については、同じ符号を用いることによってその説明を省略する。
【0085】
図2に示した中空糸膜複合ノズル41は、第1構成部11’と、第1構成部に隣接して組立てられる第2構成部12’とから構成されている。第1構成部11’は、略円盤形状の本体部13と、同本体部13の中央部には第2構成部12’側に向けて突出する突出管状部14とを有しており、その断面形状が概略T字状に構成されている。
【0086】
本第2実施形態において、第1構成部11’の中心には、中空多孔質基材2が走行する走行路となる第1中空部15’が形成されている。しかし、この第1中空部15’は、前記第1実施形態の中空糸膜複合ノズル1のように気体連通路16として利用することはない。また、この第1中空部15’は、中空多孔質基材2の走行位置を定めるために、第1中空部15’の内径は、第1中空部15’を走行させる中空多孔質基材2の外径の1.25倍以下程度に設定することが好ましい。また、第1中空部15’の内周面と中空多孔質基材2の外周面との間のクリアランスを0.05mm以上1mm以下程度となるように設定することが好ましい。
【0087】
また、第1中空部15’の基材挿入口は、中空多孔質基材を第1中空部に安定して挿入するために、例えば導入口の端面にR加工や面取り加工を施したり、走行方向に向けて内径が漸減するようなテーパ加工を施したり、またこれらを組み合せた加工を施すことも可能である。
【0088】
第1構成部11’と第2構成部12’とは、組立て時にずれが生じたり、またノズルが変形したりすることを防ぐために、ノズル加工の段階で圧入、ロウ付け、拡散接合などの各種接合や接着等によって分解不能に一体化して中空糸膜複合ノズル41を構成することが好ましい。また、このように一体に構成した中空糸膜複合ノズル41は、環状の製膜原液吐出口6に隣接する内側下端面と外側下端面とが、製膜原液8の吐出方向に対して垂直な同一の平面上に存在している。更に、環状の製膜原液吐出口6とその内側に離間して形成された基材吐出口7との間には、4つの長孔状の気体連通路42が前記第1中空部15’と平行に所定の長さで穿設されており、これら4つの気体連通路42は接続ポート20へ連通している。
【0089】
このような本第2実施形態の中空糸膜複合ノズル41を用いて複合中空糸膜を製造することによっても、前記第1実施形態のときと同様の効果を得ることができる。即ち、中空糸膜複合ノズル41の走行路(第1中空部)15’に中空多孔質基材2を走行させて、基材吐出口7から中空多孔質基材2を連続的に吐出させる。それとともに、中空糸膜複合ノズル41の製膜原液流通路22に製膜原液8を供給して、製膜原液吐出口6から製膜原液を中空多孔質基材2の全周を囲むように所定の吐出線速度で筒状に吐出させる。
【0090】
また、このようにして中空多孔質基材2及び製膜原液8を各吐出口7,6から吐出させることにより、吐出した中空多孔質基材2と製膜原液8と中空多孔質基材2及び製膜原液8の合流点との間には気体が介在する空間25が形成される。この空間25は、製膜原液吐出口6と基材吐出口7との間に形成した4つの気体連通路42を介して、接続ポート20に連通している。そして、各吐出口7,6から吐出させた中空多孔質基材2と製膜原液8とは、前記空間25を通過した後に所定の地点で合流一体化させる。
【0091】
これにより、中空多孔質基材2とともに随伴、吐出された気体は空間25へと移動した後に気体連通路42を介して、接続ポート20に接続された大気解放部又は抜気源により外部に排出することができる。このため、中空多孔質基材2と製膜原液8間への気体の噛み込みが抑止され、中空多孔質基材2と製膜原液8との間で気体の介在や、気体の成長が生じるのを防いで長時間の安定した紡糸が可能となる。
【0092】
次に、上述のように一体化した中空多孔質基材2及び製膜原液8を凝固液に浸漬して、凝固液中で製膜原液を相分離した状態で凝固させる。その後、例えば熱水中での延伸等の工程を経ることにより、複合中空糸膜を得ることができる。
【0093】
このように製造された複合中空糸膜は、前記第1実施形態と同様に、中空多孔質基材と製膜原液とを接触、複合させる際に気体の噛み込みを抑止することができるため、異常外径部や局所的薄膜化による膜欠陥部が発生していない安定した膜品質を有する多孔質膜が均一に形成された複合中空糸膜となる。
【0094】
なお、本第2実施形態の中空糸膜複合ノズル41は、前記第1実施形態と同様に、その上部に中空多孔質基材2の走行位置を定める導入プレート3や、中空多孔質基材2に膜形成補助液を付与する合流プレート4を配設することもできる。
【0095】
本第2実施形態の中空糸膜複合ノズル41は、導入プレート3を設けなくても、第1中空部15’で中空多孔質基材2の走行位置を位置決めすることができるが、中空糸膜複合ノズル41の上流に導入プレート3を更に設けることにより、中空多孔質基材2の走行位置を更に安定させることができ、中空多孔質基材2の芯ずれを確実に防止することもできる。
【0096】
また、中空糸膜複合ノズル41の上流に合流プレート4を配設することにより、中空多孔質基材2に製膜原液を複合させる前に、中空多孔質基材2の周面に膜形成補助液を均一に供給することができる。なお、導入プレート3及び/又は合流プレート4は、中空糸膜紡糸ノズル21の上部に設ければ、その配設位置は特に限定されるものではない。例えば導入プレートは、前記第1実施形態と同様に、中空糸膜複合ノズル41の直上に設けたり、又は中空糸膜複合ノズル41の上に中間プレート29等を挟んで設けることもできる。
【0097】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る中空糸膜複合ノズルについて説明する。ここで、図3の(a)は、第3の実施形態に係る中空糸膜複合ノズルの断面を模式的に示す模式断面図であり、(b)は、(a)に示したIII−III線に沿った矢視断面図である。
【0098】
図3に示した中空糸膜複合ノズル51は、第1構成部11″と、第1構成部11″に隣接して組立てられる第2構成部12″とから構成されている。更に、第1構成部11″は、下部部材52と上部部材53で構成されており、下部部材52は、略円盤形状の本体部54と、第2構成部側に向けて突出する突出管状部55とを有しており、その断面形状が概略T字状に構成されている。更に、下部部材52の中心には、第3中空部が形成されており、また上面には、気体連通路56が設けられている。
【0099】
また、第1構成部11″を構成する上部部材53は、略円盤形状の本体部54’と、前記下部部材52の第3中空部に突出する突出管状部55’とを有しており、その断面形状が概略T字状に構成されている。また、上部部材53の中心には、中空多孔質基材2を走行させる第1中空部15’が形成されている。
【0100】
そして、上部部材53の突出管状部55’を下部部材52の第3中空部に挿入して同心状に一体化することにより第1構成部11″が構成されて、下部部材52の突出管状部55と上部部材53の突出管状部55’との間には、第1中空部15’と平行に所定の長さで延びる環状のスリットが気体連通路56として形成される。
【0101】
更に、この第1構成部11″の突出管状部55,55’を第2構成部12″の第2中空部に挿入して同心状に一体化することにより中空糸膜複合ノズル51となる。このとき、中空糸膜複合ノズル51には製膜原液流通路22が形成される。
【0102】
これらの上部部材53及び下部部材52からなる第1構成部11″と第2構成部12″とは、組立て時にずれが生じたり、またノズルが変形したりすることを防ぐために、ノズル加工の段階で圧入、ロウ付け、拡散接合などの各種接合や接着等によって分解不能に一体化することが好ましい。
【0103】
上述のようにして一体構成した本第3実施形態の中空糸膜複合ノズル51は、環状の製膜原液吐出口6に隣接する内側下端面と外側下端面とが、製膜原液8の吐出方向に対して垂直な同一の平面上に存在している。また、製膜原液吐出口6とその内側に離間して形成された基材吐出口7との間には、環状の気体連通路56が第1中空部15’と平行に所定の長さで形成され、この気体連通路56は接続ポート20に連通している。
【0104】
更に、本第3実施形態において、上部部材53の第1中空部15’の内径は、中空多孔質基材2の走行位置を安定させるために、中空多孔質基材2の外径の1.25倍以下程度に設定することが好ましく、また、第1中空部15’の内周面と中空多孔質基材2の外周面との間のクリアランスを0.05mm以上1mm以下程度となるように設定することが好ましい。更に、第1中空部15’の基材挿入口は、中空多孔質基材2を第1中空部15’に安定して挿入するために、例えば挿入口の端面にR加工や面取り加工を施したり、走行方向に向けて内径が漸減するようなテーパ加工を施したり、またこれらを組み合せた加工を施すことも可能である。
【0105】
このような本第3実施形態の中空糸膜複合ノズル51を用いて複合中空糸膜を製造することによっても、前記第1及び第2実施形態のときと同様の効果を得ることができる。即ち、中空糸膜複合ノズル51の基材吐出口7から中空多孔質基材2を連続的に吐出させるとともに、製膜原液吐出口6から製膜原液8を中空多孔質基材2の全周を囲むように筒状に所定の吐出線速度で吐出させて、中空多孔質基材2と製膜原液8とを所定の地点で合流させる。
【0106】
このとき、各吐出口から吐出させた中空多孔質基材2と製膜原液8と中空多孔質基材2及び製膜原液8の合流点との間には気体が介在する空間25が形成される。この空間25は、気体排出部56を介して接続ポート20に連通しているため、中空多孔質基材2とともに随伴、吐出された気体は、空間25から気体排出部56を通過し、大気解放部又は抜気源によって外部に排出することができる。従って、複合紡糸時に、中空多孔質基材2と製膜原液8間への気体の噛み込みが抑止され、中空多孔質基材2と製膜原液8との間で気体の介在や、気体の成長が生じるのを防いで長時間の安定した紡糸が可能となる。
【0107】
従って、このように製造された複合中空糸膜は、前記第1及び第2実施形態と同様に、異常外径部や局所的薄膜化による膜欠陥部が発生していない安定した膜品質を有する多孔質膜が均一に形成された複合中空糸膜となる。
【0108】
なお、本第3実施形態の中空糸膜複合ノズル51においても、その上流に中空多孔質基材2の走行位置を定める導入プレート3や、中空多孔質基材3に膜形成補助液を付与する合流プレート4を前記第1実施形態等と同様に配設することが可能である。
【実施例】
【0109】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げて、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施例及び比較例においては、中空多孔質基材に形成した多孔質膜の膜厚斑を以下の方法を用いて測定した。
【0110】
(多孔質膜の膜厚測定方法)
膜厚を測定するサンプルを任意の場所で約100mmに切断し、6本を一列に束ねて片端を粘着テープで止め、もう一端を片刃カミソリで切断して約60mmにした。1サンプルに付き、これを2つ用意した。ポリエチレン製のサンプル袋の上に幅5mmの両面テープを40mm間隔で2本平行に貼り、その上に束ねたサンプルを固定した。さらに、両面テープ上に固定されたサンプル束の両端を、粘着テープで束ねた側を25mm、もう片端を5mmのガムテープでポリエチレンのサンプル袋上に固定した。
【0111】
次にサンプルを固定するポリウレタン樹脂を調合した。ポリウレタン樹脂は、日本ポリウレタン工業(株)のコロネート4403とニッポラン4223を用い、コロネート/ニッッポランを52/42(質量%)で調合した。調合したポリウレタン樹脂を用いて、幅5mmのガムテープで固足した方を覆うように被せ、かつ中空部分にもポッティング樹脂が入るように、スパチュラーで押し込んだ。さらに、膜間にもポリウレタン樹脂が行き渡るように、かつポリウレタン樹脂中に生じた気泡を取り除きながら、サンプル束全体をポリウレタン樹脂で覆った。ポリウレタン樹脂を十分固まらせるため、12時間以上置いた。
【0112】
ポリウレタン樹脂が硬化した後、サンプルをポリエチレン製のサンプル袋から取り外した。サンプルの固定に用いた幅5mmのガムテープ部分をはさみで切断し、次いで片刃カミソリを用いて厚さ(膜の長手方向)約0.5mmの薄片を3つサンプリングした。同様に、もう一つ用意したサンプル束からも、3つの薄片をサンプリングした。
【0113】
サンプリングした3つの薄片を光学顕微鏡観察用のスライドガラス上に置き、3つの薄片中一番きれいにスライスされている薄片を一つ選んだ。同様に、もう一方のサンプル束の3つの薄片からも、1つの薄片を選んだ。
【0114】
次に、サンプリングした中空糸膜の断面を、投影機(ニコン製 PROFILE PROJECTOR V−12)を用い、対物レンズ100倍にて観察した。観察している中空糸膜断面の3時方向位置における2層目の膜厚外表面と内表面の位置にマーク(ライン)を併せて膜厚を読み取った。同様に、9時方向、12時方向、6時方向の順で膜厚を読み取った。なお、膜厚の計測は、2つのサンプル束から各々1つずつ選んだサンプル薄片のうち、片方の薄片から6つの断面、もう片方の薄片から4つの断面を読み取った。
【0115】
以上の方法により測定した合計10(n=10箇所)の断面における1断面あたり4箇所測定した膜厚において、Tmax:最大膜厚(μm)、Tmin:最小膜厚(μm)を用い、以下の計算式によって膜厚斑の平均値を求めた。
【0116】
【数1】

【0117】
(実施例1〜7及び比較例1〜3)
本実施例で使用した中空糸膜複合ノズルは図7に示す構造を有しており、前記図1に示した第1の実施形態に係る中空糸膜複合ノズル1の上流に、導入プレート3、排気部31を有する中間プレート29、及び合流プレート4が配設されている。実施例1〜7及び比較例1〜3で使用した各中空糸膜複合ノズルの寸法、及び中空糸膜を作製した際の多孔質膜の前記平均膜厚を測定した結果を下記表1に示す。
【0118】
本実施例及び比較例においては、複合中空糸膜を製造するにあたり、製膜原液として、ポリフッ化ビニリデンA(アトフィナジャパン製、商品名カイナー301F)、ポリフッ化ビニリデンB(アトフィナジャパン製、商品名カイナー9000HD)、ポリビニルピロリドン(ISP社製、商品名K−90)、N,N−ジメチルアセトアミドを用いて、下記表2に示す組成に調製したものを使用した。
【0119】
中空多孔質基材としては、ポリエステルマルチフィラメント単織中空状組紐( マルチフィラメント;トータルデシテックス830/96フィラメント、16打ち) に前記製膜原液を塗布し、乾湿式紡糸法にて相分離による機能層を形成させたものを使用した。この中空多孔質基材の外径は、おおよそ2.4〜2.5mm程度であった。
【0120】
更に、凝固浴として、N,N−ジメチルアセトアミド5質量部、水95質量部の溶液を80℃にして用いた。
【0121】
先ず、合流プレート4の導入口26より中空多孔質基材2を挿入して下方に走行させ、膜形成補助液として内部凝固液であるグリセリンと合流させた後、グリセリンを付与した中空多孔質基材2を中空糸膜複合ノズル1の基材吐出口7から吐出させた。また同時に、中空糸膜複合ノズル1の製膜原液吐出口6から製膜原液8を筒状に吐出させた。そして、各吐出口から吐出した中空多孔質基材2と製膜原液8とを空間25の通過後に合流一体化させた。続いて、この一体化した中空多孔質基材2及び製膜原液8を所定の距離で走行させた後に凝固液に浸漬した。その後、凝固液から引き上げ、毎分6mの引き取り速度となるよう一定速度で回転する紡糸ロールで引き取り、80〜100℃の熱水中で洗浄を行って中空糸膜を作製した。
【0122】
実施例1〜7で作製した各中空糸膜を対物レンズにて観察したところ、何れの中空糸膜においても気体のかみ込み、成長が見られなかった。また、各中空糸膜における多孔質膜について前記膜厚斑の平均値を求めた結果、55〜99μmの範囲にあった。一方、比較例1、2で作製した中空糸膜は、気体のかみ込みは見られないものの、前記膜厚斑の平均値がそれぞれ134μm,139μmであり、比較例1、2の中空糸膜に形成された多孔質膜の膜厚は、実施例1〜7の中空糸膜と比較して不均一であることが確認された。また、比較例3においては、中空多孔質基材に製膜原液を複合紡糸する際に、中空多孔質基材と製膜原液との間に気体のかみ込みが見られたので紡糸を中止した。
【0123】
【表1】

【0124】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】(a)は、第1の実施形態に係る中空糸膜複合ノズルの断面を模式的に示す模式断面図であり、(b)は、(a)に示したI−I線に沿った矢視断面図である。
【図2】(a)は、第2の実施形態に係る中空糸膜複合ノズルの断面を模式的に示す模式断面図であり、(b)は、(a)に示したI−I線に沿った矢視断面図である。
【図3】(a)は、第3の実施形態に係る中空糸膜複合ノズルの断面を模式的に示す模式断面図であり、(b)は、(a)に示したI−I線に沿った矢視断面図である。
【図4】導入プレートを兼ねた合流プレートを直上に配設した中空糸膜複合ノズルの断面を模式的に示す模式断面図である。
【図5】導入プレート、中間プレート、合流プレートを順番に配設した中空糸膜複合ノズルの断面を模式的に示す模式断面図である。
【図6】導入プレート、中間プレート、合流プレートを順番に配設し、中間プレートが上下に完全に分離した中空糸膜複合ノズルの断面を模式的に示す模式断面図である。
【図7】実施例で使用した中空糸膜複合ノズルの断面を模式的に示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0126】
1 中空糸膜複合ノズル
2 中空多孔質基材
3 導入プレート
4 合流プレート
6 製膜原液吐出口
7 基材吐出口
8 製膜原液
11,11’,11″ 第1構成部
12,12’,12″ 第2構成部
13 本体部
14 突出管状部
15,15’ 第1中空部(走行路)
16 気体連通路
17 貫通孔
18 第1溝部
19 第2溝部
20 接続ポート
21 基材挿通孔
22 製膜原液流通路
23 流通孔部
24 逃げ溝加工
25 空間
26 導入口
27 補助液供給口
28 導出口
29 中間プレート
30 合流部
31 排気部
32 補助液排出部
41 中空糸膜複合ノズル
42 気体連通路
51 中空糸膜複合ノズル
52 下部部材
53 上部部材
54,54’ 本体部
55,55’ 突出管状部
56 気体連通路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空多孔質基材の周面に多孔質膜の形成可能な製膜原液を複合紡糸して中空糸膜を得る環状構造の中空糸膜複合ノズルであって、
前記製膜原液を吐出する環状の製膜原液吐出口と、同製膜原液吐出口の内側に形成されて前記中空多孔質基材を吐出する基材吐出口とが離間して配され、
複合紡糸時に各吐出口から吐出した前記中空多孔質基材と前記製膜原液と、前記中空多孔質基材及び前記製膜原液の合流点との間の空間に向けて形成された開口を有し、同開口と大気解放部又は外部抜気源に接続する接続ポートとを連通する気体連通路が形成されてなる、
ことを特徴とする中空糸膜複合ノズル。
【請求項2】
前記製膜原液吐出口に隣接するノズル部の内側下端面と外側下端面とが同一平面上にあることを特徴とする請求項1記載の中空糸膜複合ノズル。
【請求項3】
前記製膜原液吐出口と前記基材吐出口との間のノズル部に前記開口を有してなることを特徴とする請求項1又は2記載の中空糸膜複合ノズル。
【請求項4】
前記中空糸膜複合ノズルの前記中空多孔質基材が走行する走行路の断面積が、前記中空多孔質基材の断面積よりも大きく設定され、
前記気体連通路が、前記走行路の内壁面と前記中空多孔質基材の外周面間の間隙である
ことを特徴とする請求項1又は2記載の中空糸膜複合ノズル。
【請求項5】
前記中空糸膜複合ノズルの上部に、
前記中空多孔質基材を導入する導入口と、
前記中空多孔質基材の周面に膜形成補助液を供給する補助液供給口と、
前記膜形成補助液が付与された前記中空多孔質基材を送り出す導出口と、
を備える合流プレートを有してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の中空糸膜複合ノズル。
【請求項6】
前記中空糸膜複合ノズルの上部に、前記中空多孔質基材の走行位置を位置決めする導入プレートを有してなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の中空糸膜複合ノズル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の中空糸膜複合ノズルを用いて、前記中空多孔質基材と前記製膜原液とを合流一体化させ、同一体化した中空多孔質基材及び製膜原液を凝固液に浸漬し、同凝固液中で前記製膜原液を相分離して凝固させることを特徴とする複合中空糸膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−126783(P2007−126783A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320352(P2005−320352)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】