説明

中華食品材料用の品質改良材及び中華食品材料の製造方法

【課題】 カルシウム成分の異味を感じさせない保存性に優れた中華食品材料を製造できる品質改良材及びそれを用いる中華食品材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 水が加えられた小麦粉を混練することを含む中華食品材料の製造中に、その混練において小麦粉と混ぜて用いられる中華食品材料用の品質改良材として、天然のカルシウム素材焼成物が水に溶解している水溶液を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中華麺、焼きそば又はワンタンの皮のような中華食品材料の製造において、水が加えられて小麦粉を混練する際に、この小麦粉と混捏して用いられる中華食品材料用の品質改良材及び中華食品材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、麺類は小麦粉と食塩水を基本的な原料として製造され、中華麺の場合には、これらの小麦粉及び食塩水に更に桿水(カンスイ)又は重合リン酸塩等のアルカリ性の物質が加えられて製造される。
【0003】
中華麺を製造する場合の桿水は、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムを主成分として含むアルカリの溶液で、小麦粉中に含まれるグルテンを収斂させるとともに、同じく小麦粉中に含まれる酵素のS−アルキルシステインラーゼやグルタミン酸脱水素酵素の作用を高めて、中華麺の中に網目構造を形成させて、中華麺に独特の食感と風味を生じさせ、更に、この桿水は、同じく小麦粉中に含まれるフラボノイド系の物質を黄色の色素に変えて、その中華麺を黄色に着色させるという作用を与えるために使用されている。
【0004】
このような桿水は、中華麺が我が国で製造されるようになった当初の頃から暫くの間は専ら中国から輸入されていたが、最近では次第に使われなくなってきており、その輸入される桿水の代わりに、アルカリ性を示す卵殻や貝殻を焼成し、そして粉末にしたものが、中華麺の製造に次第に使われるようになってきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の卵殻や貝殻を焼成したものは、それが粉末状に粉砕されていても、それらが固体であり、しかも水に不溶であるために、中華麺の製造で小麦粉に混合された場合には、小麦粉中に、したがって中華麺の中に均一に分散されないで局部的に偏在してしまう結果、これらの卵殻及び貝殻に独特の好ましくない異味が感じられるという問題があり、この問題を解決するために、現在では澱粉やグルテンなどと混合して上記の分散の均一性を図っているが、このような手段によっても、卵殻及び貝殻は固体であるため、依然としてそれらの異味が残るという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記のような課題に鑑みて種々研究を重ねた結果、
(1)水が加えられた小麦粉を混練することを含む中華食品材料の製造中に、その混練において、貝殻、珊瑚、真珠層、卵殻、獣、又は魚の骨のような天然のカルシウム素材焼成物を水に溶解させた水溶液を、中華食品材料用の品質改良材として、前記の桿水又は粉末状の卵殻や貝殻の焼成物の代わりに用いると、中華麺の中に、焼成された卵殻や貝殻が均一に分散されないという問題も回避されて、桿水と同様な効果が得られるとともに、中華麺のような中華食品を食する場合に前記の異味が感じられなくなり、更に、この中華食品が生である場合には、その生の中華食品の品質劣化が抑制されて、それの保存性が向上すること、及び
【0007】
(2)上記の水溶液が、ショ糖とともに、又はショ糖及びiotaカラギーナンとともに、平均粒径1〜60μmの粒度を有する微粉末状の天然のカルシウム素材焼成物を水に溶解させることによって調製されると、上記の(1)に記載された水溶液として用いることができる水溶液が好都合に得られること、を見い出した。
【0008】
本発明は、このような知見に基づいて発明されたもので、
〈1〉水が加えられた小麦粉を混練することを含む中華食品材料の製造中に、その混練において小麦粉と混捏して用いられる中華食品材料用の品質改良材であって、この品質改良材が、天然のカルシウム素材焼成物が水に溶解している水溶液であることを特徴とする、前記中華食品材料用の品質改良材、
〈2〉前記品質改良材が、ショ糖とともに、平均粒径1〜60μmの粒度を有する微粉末状の天然のカルシウム素材焼成物を水に溶解させることによって調製された水溶液であることを特徴とする上記〈1〉に記載の中華食品材料用の品質改良材、
〈3〉前記品質改良材が、ショ糖及びiotaカラギーナンとともに、平均粒径1〜60μmの粒度を有する微粉末状の天然のカルシウム素材焼成物を水に溶解させることによって調製された水溶液であることを特徴とする上記〈1〉に記載の中華食品材料用の品質改良材、
〈4〉前記中華食品材料が、中華麺、焼きそば又はワンタンの皮のいずれかである、上記〈1〉〜〈3〉のいずれかに1項に記載の中華食品材料用の品質改良材。
〈5〉水が加えられた小麦粉を混練することを含む中華食品材料の製造中に、小麦粉と上記〈1〉〜〈4〉のいずれか1項に記載の天然のカルシウム素材焼成物が水に溶解している水溶液を混捏してて製麺することを特徴とする中華食品材料の製造方法、及び
〈6〉水が加えられた小麦粉を混練することを含む中華食品材料の製造中に、小麦粉と上記〈1〉〜〈4〉のいずれか1項に記載の天然のカルシウム素材焼成物が水に溶解している水溶液を混ぜて、小麦粉100重量部に対して水溶液中の固形物換算で天然のカルシウム素材焼成物0.02〜0.025重量部を添加した状態で混捏して製麺することを特徴とする中華食品材料の製造方法、
に係るものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カルシウム成分の異味を感じることがなく、しかも品質の劣化が抑制されて、その保存性が改善された中華食品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において使われる天然のカルシウム素材とは、一般に、ホタテ貝、牡蠣、アコヤ貝もしくはホッキ貝などの貝の貝殻、珊瑚、真珠層、卵殻、牛もしくは豚などの獣、種々の魚の骨などの天然に産する、炭酸カルシウム又は種々の燐酸カルシウムのような水に不溶性のカルシウム化合物に富んで、飲食品として摂取するのに差し支えない材料を指しており、本発明では、このような素材を焼成することによって前記の炭酸カルシウム又は燐酸カルシウムが主として酸化カルシウムに変化した焼成物が使用される。
【0011】
本発明で使用される焼成物は、従来利用されている焼成方法のうちの適当な方法で、例えば、電気炉で上記のような天然素材を約900℃程度の温度で焼成することによって得ることができる。
【0012】
上記の焼成物は、カッターミル、ハンマーミル、ローラルミル又はクラッシャなどの粗砕機、平均粒径100〜500μmの粒度に粉砕するロータリーカッタなどの中砕機及びボールミル、ジェットミル又はサイクロンミルなどの微粉砕機が必要に応じて適宜の順で用いられることによって、平均粒径1〜60μmの粒度を有する微粉末状に粉砕するのが、前記の水溶液を用意する上で、好都合である。
【0013】
上記のようにして製造された微粉末状の天然のカルシウム素材焼成物を水に溶解して、それの水溶液を調製する場合には、この微粉末状の天然のカルシウム素材焼成物とともに、ショ糖、又はショ糖及びiotaカラギーナンを水に加えると、微粉末状の天然のカルシウム素材焼成物が比較的高い濃度で水中に溶解している水溶液又は水性懸濁液を製造することができるので、本発明では、上記の水溶液を調製する場合、このような方法を採用するのが通常有利となる。
【0014】
上記のようにして製造された水溶液又は水性懸濁液は、これらに含まれる微粉末状の天然のカルシウム素材焼成物の濃度に応じて、そのまま、あるいはこれらの水溶液又は水性懸濁液を適宜の希釈度により水で希釈することによって、中華食品材料用として使用することができる。
【0015】
上記のようにショ糖及びiotaカラギーナンを用いて本発明に係る中華食品材料用の水溶液を製造するに当たっては、本発明者の発明に係る特願2007−266655の明細書に記載された内容を参考にすることができ、したがって、この内容全体も本願の明細書の中に記載されているものとする。
【0016】
また、微粉末状の天然のカルシウム素材焼成物とともに、ショ糖を用いて中華食品材料用の水溶液を調製する場合にも、上記のiotaカラギーナンも併せて用いる方法に準じて、このショ糖のみが併用される水溶液を調製することができる。
【0017】
本発明の品質改良材が用いられて中華麺、焼きそば用の麺又はワンタンの皮のような中華食品材料を製造する場合に、水が加えられた小麦粉とともに混練されるその品質改良材は、その中に含まれる天然カルシウム素材焼成物が、それぞれの材料に応じて適当な濃度となるように、適宜調節すればよい。この品質改良材となる水溶液を調製する場合に、前記のショ糖、又はショ糖及びiotaカラギーナンが用いられると、一般に、天然カルシウム素材焼成物を高濃度で含む水溶液を得ることができるので、この天然カルシウム素材焼成物を高濃度で含む水溶液を適当な濃度に希釈して使用すればよい。
【0018】
品質改良材中に含まれる天然カルシウム素材焼成物の添加量としては、例えば、小麦粉100重量部に対して前記焼成物の水溶液中の固体換算で、0.001〜0.05重量部、好ましくは0.02〜0.025重量部の添加が採用される。
【実施例】
【0019】
ついで、実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明は勿論この実施例に限定されない。
【0020】
炭酸カルシウムを主成分とするホタテ貝殻について、形状、色、臭気、大きさを受入れ検査した後、このホタテ貝殻を電気炉に装入して約900℃で1時間程度焼成し、ハンマーミルで粗粉砕し、そしてジェットミルで微粉砕することによって、ホタテ貝殻を平均粒径15μm(400メッシュパス95%以上の粒径)を有する微粉末とし、ついで、その微粉末5gにショ糖1gとiotaカラギーナン2gを配合させた混合物に、全体で100mlとなるような量の蒸留水を加えることによって、上記の焼成されたホタテ貝殻微粉末を5重量%の濃度で含む水溶液を本発明の品質改良材1として、以下の試験を実施した。
【0021】
実施例1
準強力小麦粉(日本製粉:寿)10kg、水2.6〜2.8kg及び食塩1kgに対し、本発明品質改良材1(天然カルシウム素材焼成物の5%水溶液)をそれぞれ400g〜500g添加混合攪拌して、いずれも総加水量を3.3kgとしたものをそれぞれ本発明中華麺1及び2を製造するための混合物とし、そしてこれらの混合物を真空ミキサーで10分間混練した。ついで、これらの混練物をそれぞれ麺帯に加工して、約2時間熟成させた後、22番角の切歯で麺帯を切断し、この切断された麺線が互いに付着するのを防止するために馬鈴薯澱粉を散布して、そのそれぞれの麺線を上記の本発明中華麺1及び2を製造し、そしてこれらの本発明中華麺1及び2をポリエチレンの袋の中に入れた。
【0022】
別に、上記の準強力小麦粉10kg、水3.1kg及び食塩1kgに対し、桿粉(カンプン)1.2kgを混合攪拌して、その総加水量を3.3kgとし、この混合物を真空ミキサーで10分間混練した。ついで、この混練物を麺帯に加工して、約2時間熟成させた後、22番角の切歯で麺帯を切断し、この切断された麺線が互いに付着するのを防止するために馬鈴薯澱粉を散布して、この麺線を比較用中華麺とし、そして比較用中華麺1をポリエチレンの袋の中に入れた。
【0023】
ついで、これらの試験用の生の中華麺を約20℃の室温で保存し、製造直後、製造時から3日経過後、7日経過後及び14日経過後に、それぞれの中華麺について、pH及び生菌の数を調査し、また、カビの発生状況を観察して保存性試験を実施したところ、表1に示されるような結果が得られた。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示される結果によれば、生の中華麺を製造する場合にアルコールを添加しなくても、2週間の保存期間中に、本発明中華麺1及び2は、比較用中華麺1に比べて保存性に優れていること、したがって、本発明品質改良材1の優れた保存性向上効果が確認された。
【0026】
上記の保存性試験と並行して、ハンディ型色差計を用いて、本発明中華麺1及び2、並びに比較用中華麺1について色の鮮やかさを調べ、その結果をL* a*b* 表示系で示される符号で表2に示した。
【0027】
【表2】

【0028】
表2の結果から、上記の保存期間中に、本発明中華麺1及び2は、比較用中華麺1に比べて黄色の色が強くて、色の鮮やかさを示すこと、したがって、本発明品質改良材1が色の鮮やかさを維持する効果を発揮することが確認された。
【0029】
実施例2
上記の本発明中華麺1及び2並びに比較用中華麺1を茹でた場合にこれらの試験用の中華麺で生ずる茹で伸びについて、クリープメーターを用いて、次のように試験した。
【0030】
沸騰させた熱湯で、上記の3種の試験用の中華麺をそれぞれ3分間茹でて、予め用意しておいた中華麺用のスープに投入し、その投入した時点を0分として、それから1分、3分、5分、10分、15分及び30分経過した後に、これらのそれぞれの時点で麺の伸びをクリープメーターでそれぞれ3回ずつ測定した。
【0031】
上記の茹で伸びを比較するためのパラメーターとしては、破断荷重、破断歪率及びもろさ荷重が挙げられるが、ここでは、「もろさ荷重(N)」について測定し、その結果、表3に示される結果が得られた。
【0032】
この「もろさ荷重(N)」の値は、麺が茹でられたときに、その麺が内部まで切れるか、あるいは表面だけが切れるかが比較できる。この「もろさ荷重(N)」の値が大きいと、それが内部まで切れること、すなわち茹で伸びが少ないことを示している。
【0033】
【表3】

【0034】
表3に示される結果から、本発明中華麺1及び2は、比較用中華麺1に比べて茹で伸びし難いことしたがって、本発明品質改良材1が中華麺について茹で伸びを防止する作用を示すことが確認された。
【0035】
実施例3
次いで、カルシウム水溶液の添加量を変えて、カビの発生状況について、次のように試験した。
天然のホタテ貝殻から採取したカルシウムを焼成して微粉砕し、5%の水溶液にしたものを、小麦粉1000gに対し、食塩10gと、それぞれ30g、40g、50g、60g、80gの水溶液及び、桿粉12gを添加し、総加水量を330gに調整して混捏した。
その結果、表4に示される結果が得られた。
【0036】
【表4】

【0037】
表4に示される結果から、カルシウム水溶液(天然カルシウム素材焼成物の5%水溶液)の添加量は、小麦粉1kgに対して、40g以上、好ましくは40〜50g添加すると最もカビの発生を抑えることができ、優れた保存性向上効果が期待できることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水が加えられた小麦粉を混練することを含む中華食品材料の製造中に、その混練において小麦粉と混捏して用いられる中華食品材料用の品質改良材であって、この品質改良材が、天然のカルシウム素材焼成物が水に溶解している水溶液であることを特徴とする、前記中華食品材料用の品質改良材。
【請求項2】
前記品質改良材が、ショ糖とともに、平均粒径1〜60μmの粒度を有する微粉末状の天然のカルシウム素材焼成物を水に溶解させることによって調製された水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の中華食品材料用の品質改良材。
【請求項3】
前記品質改良材が、ショ糖及びiotaカラギーナンとともに、平均粒径1〜60μmの粒度を有する微粉末状の天然のカルシウム素材焼成物を水に溶解させることによって調製された水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の中華食品材料用の品質改良材。
【請求項4】
天然のカルシウム素材が貝殻、珊瑚、真珠層、卵殻、獣、又は魚の骨から選択された1又は2以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の中華食品材料用の品質改良材。
【請求項5】
前記中華食品材料が、中華麺、焼きそば又はワンタンの皮のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の中華食品材料用の品質改良材。
【請求項6】
水が加えられた小麦粉を混練することを含む中華食品材料の製造中に、小麦粉と請求項1〜4のいずれか1項に記載の天然のカルシウム素材焼成物が水に溶解している水溶液を混捏して製麺することを特徴とする中華食品材料の製造方法。
【請求項7】
水が加えられた小麦粉を混練することを含む中華食品材料の製造中に、小麦粉と請求項1〜4のいずれか1項に記載の天然のカルシウム素材焼成物が水に溶解している水溶液を混ぜて、小麦粉100重量部に対して水溶液中の固形物換算で天然のカルシウム素材焼成物0.02〜0.025重量部を添加した状態で混捏して製麺することを特徴とする中華食品材料の製造方法。